説明

非水電解質二次電池

【課題】放電負荷特性に優れ、過充電時における安全性の向上を達成し得る非水電解質二次電池を提供すること。
【解決手段】本発明の非水電解質二次電池10は、負極活物質合剤層が負極芯体の表面に設けられた負極極板11と、正極活物質合剤層が正極芯体の表面に設けられた正極極板12と、前記負極極板11及び正極極板12がセパレータ13を介して互いに巻回又は積層された電極体14と、非水電解質とを備え、前記電極体14及び非水電解質が前記電池外装缶15内に挿入されていると共に、前記電池外装缶15の開口部が内圧上昇により作動する安全弁機構(図示せず)を備える封口板16により封止されており、前記電池外装缶15は、前記正極極板12と電気的に接続されているとともに、前記電池外装缶15の内側に炭酸リチウムと導電剤との混合物からなる層22が配置されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池に関し、特に、電池外装缶内に炭酸リチウムと炭素材料の混合物を配置することで、放電負荷特性に優れ、しかも過充電時における安全性の向上を達成し得る非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の携帯用機器の普及に伴い、これらの携帯用機器の電源として小型、軽量かつ高エネルギー密度の密閉型電池が求められている。密閉型電池の中でも、経済性の観点から、ニッケル水素蓄電池やリチウムイオン二次電池等の充放電が可能な二次電池が多く使用されるようになっている。特にリチウムイオン二次電池に代表される非水電解質二次電池は、他の二次電池よりも軽量かつ高エネルギー密度であるということから、多く使用されるようになっている。
【0003】
しかしながら、二次電池は、充電時に通常よりも長く電流が供給される過充電状態になったり、誤使用や使用する機器の故障などにより大電流が流れて短絡状態になったりすると、電解液が分解してガスが発生し、このガスの発生によって電池内圧が上昇してしまう。更に、このような過充電あるいは短絡状態が続くと、活物質の急速な分解や前記電解液の燃焼等による発熱により電池温度が急激に上昇し、密閉された二次電池が突然に爆発して使用している機器を破損してしまうことがある。そのため、特に非水電解質二次電池の場合には、従来から防爆用の安全弁を備えたものが使用されている(下記特許文献1〜3参照)。
【0004】
非水電解質二次電池の電池内圧の上昇による爆発を防止するためには、電池内圧が上昇した際に安全弁が正確に動作するようにすることが必要である。しかしながら、非水電解質二次電池では、電池内圧がそれほど上昇しないうちに、急激な温度上昇による発熱の結果として安全弁が作動する前に電池が爆発してしまうことがある。このような問題を解決するため、下記特許文献1〜3には、正極合剤中ないし電池外装缶内に炭酸リチウムを添加した非水電解質二次電池の発明が開示されている。下記特許文献1〜3に開示されている非水電解質二次電池においては、過充電時に高電位になった場合、炭酸リチウムが分解して炭酸ガスが発生することで、安全弁が作動するようにしたものである。
【0005】
このような正極での炭酸リチウムの分解による炭酸ガスの発生は、炭酸リチウムが電気化学的に分解されて炭酸ガスを発生することから、炭酸ガスが何等かの形で過充電中での異常反応を抑制し、また発生した炭酸ガスが安全弁を確実に作動させるために、急激な温度上昇を伴う発熱や比較的急速な破損を防止するものと考えられている(下記特許文献1の段落[0015]参照)。
【特許文献1】特開平04−328278号公報
【特許文献2】特開平09−180758号公報
【特許文献3】特開平09−306510号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記特許文献1に開示されている発明では、炭酸リチウムは電気抵抗が高いので正極の内部抵抗が上昇するため、電池としての負荷特性や低温特性が悪化するという問題点が存在する。加えて、正極極板は、正極活物質含有層の内部の電位分布にばらつきがあるため、炭酸リチウムの分解のタイミングにばらつきが生じ、結果として安全弁作動のタイミングがばらついてしまい、過充電の際に安全弁の作動が遅れた場合には、充電深度が大きくなり発火に至ることがある。
【0007】
また、上記特許文献2には、炭酸リチウムを正極以外の電池缶内に配置することが示されているが、その具体的な配置箇所は何も示されていない。同じく、上記特許文献3には各種炭酸塩を電池外装缶内の空きスペースや正極極板中に配置することが示されているが、上記特許文献3に開示されている発明においても、例えば炭酸リチウムは単体で用いられているため、上記特許文献1に開示されている発明の場合と同様の問題点を有している。
【0008】
本発明は上記のような従来技術の問題点を解決すべくなされたものであって、炭酸リチウムを使用したことによる内部抵抗の増大化を抑制して良好な放電負荷特性が得られるようにすると共に、過充電時における安全性の向上を達成することができる非水電解質二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の非水電解質二次電池は、負極活物質合剤層が負極芯体の表面に設けられた負極極板と、正極活物質合剤層が正極芯体の表面に設けられた正極極板と、前記負極極板及び正極極板がセパレータを介して互いに巻回又は積層された電極体と、非水電解質とを備え、前記電極体及び非水電解質が前記電池外装缶内に挿入されていると共に、前記電池外装缶の開口部が内圧上昇により作動する安全弁機構を備える封口板により封止されている非水電解質二次電池において、前記電池外装缶は、前記正極極板と電気的に接続されているとともに、前記電池外装缶の内側に炭酸リチウムと導電剤との混合物からなる層が形成されていることを特徴とする。
【0010】
従来技術のように正極極板に炭酸リチウムを添加すると内部抵抗が増加するが、本発明では電池外装缶の内側に炭酸リチウムと導電剤との混合物からなる層が形成されており、しかも、電池外装缶と正極極板とは別途直接電気的に接続されているので、炭酸リチウムと導電剤との混合物からなる層は導電経路とはならない。そのため、本発明の非水電解質二次電池によれば、炭酸リチウムと導電剤との混合物からなる層を正極極板の表面と電池外装缶の内表面との間に配置しても、炭酸リチウムと導電剤との混合物からなる層は内部抵抗には影響を与えないので、従来例のものよりも放電負荷特性に優れた非水電解質二次電池が得られる。なお、導電剤としては炭素材料、金属粉末を使用し得る。
【0011】
また、電池外装缶は正極極板よりも直接的に電圧が印加されるため、炭酸リチウムが早期に分解して炭酸ガスを発生するために安全弁作動までの時間が短くなり、結果として充電深度が浅くなるため安全性が向上する。また、電池外装缶に配置した炭酸リチウムは、導電剤が均一に混合されているため、均一に正極電位が印加されるので、炭酸リチウムの分解がばらつきなく瞬時に起こり、しかも、この炭酸ガスは過充電時の電池内部での異常反応を抑制する作用も有するので、電池の爆発や急激な温度上昇を伴う発熱や比較的急速な破損が防止され、安全性の高い非水電解質二次電池となる。
【0012】
なお、本発明の非水電解質二次電池においては、正極活物質として、リチウムイオンを可逆的に吸蔵・放出することが可能なLiMO(但し、MはCo、Ni、Mnの少なくとも1種である)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物、すなわち、LiCoO、LiNiO、LiNiCo1−y(y=0.01〜0.99)、LiMnO、LiMn、LiNiCoMn(x+y+z=1)、又はLiFePOなどの一種単独もしくは複数種を混合して使用することができる。なお、これらのリチウム遷移金属複合酸化物においては、遷移金属の一部が部分的にZr、Mg、Al、Ti等の異種元素で置換されているものであってもよい。
【0013】
また、本発明の非水電解質二次電池においては、負極活物質としては炭素質材料からなるものを用いることができる。負極活物質としての炭素材料は、デンドライトが成長することがないために安全性が高く、更に初期効率に優れ、電位平坦性も良好であり、また、密度も高いという優れた性質を有している。この負極活物質としての炭素材料は、非水電解質二次電池用として広く用いられている人造黒鉛、天然黒鉛等の黒鉛質材料が好ましい。
【0014】
また、本発明の非水電解質二次電池においては、非水溶媒系電解質を構成する非水溶媒(有機溶媒)としては、カーボネート類、ラクトン類、エーテル類、エステル類などを使用することができ、これら溶媒の2種類以上を混合して用いることもできる。これらの中ではカーボネート類が特に好ましい。
【0015】
具体例としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)、シクロペンタノン、スルホラン、3−メチルスルホラン、2,4−ジメチルスルホラン、3−メチル−1,3オキサゾリジン−2−オン、ジメチルカーボネート(DMC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルプロピルカーボネート、メチルブチルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、エチルブチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、酢酸メチル、酢酸エチル、1,4−ジオキサンなどを挙げることができる。
【0016】
なお、本発明における非水電解質の溶質としては、非水電解質二次電池において一般に溶質として用いられるリチウム塩を用いることができる。このようなリチウム塩としては、LiPF、LiBF、LiCFSO、LiN(CFSO、LiN(CSO、LiN(CFSO)(CSO)、LiC(CFSO、LiC(CSO、LiAsF、LiClO、Li10Cl10、Li12Cl12など及びそれらの混合物が例示される。これらの中でも、LiPF(ヘキサフルオロリン酸リチウム)が特に好ましい。前記非水溶媒に対する溶質の溶解量は、0.5〜2.0mol/Lとするのが好ましい。
【0017】
また、本発明の非水電解質二次電池における電池外装缶の形状については、電池外装缶が正極電位となる構造であって安全弁機構を備える封口板により封止されているならば、角型、円筒形、コイン形などが使用できる。
【0018】
本発明の非水電解質二次電池においては、前記導電剤は、炭素材料からなることが好ましい。
【0019】
導電剤としての炭素材料は、例えば正極合剤中にも添加されているように、非水電解質二次電池では汎用的に使用されている導電剤である。従って、導電剤として炭素質材料を使用すると、特に電池反応に悪影響を及ぼすことなく炭酸リチウムの電気抵抗を低下させることができるようになる。なお、導電剤としての炭素材料としては、難黒鉛化性炭素、天然黒鉛、人造黒鉛、コークス、気相成長炭素、ガラス状炭素、カーボンブラック、活性炭、メソカーボンマイクロビーズ、メソフェースピッチ等、又はこれらの焼成体の一種或いは複数種を混合して使用することができる。
【0020】
また、発明の非水電解質二次電池においては、前記炭酸リチウム及び導電剤との混合物からなる層は、前記封口板の内側表面で、かつ前記正極極板と電気的に接続されている部分又は正極タブの表面に配置することができる。
【0021】
炭酸リチウムからの炭酸ガスの発生は電気化学的反応によるものであるため、炭酸リチウムが正極側に電気的に接続されていれば、過充電時に正極の電位が高くなった際に有効に炭酸ガスを発生させることができる。そのため、係る態様の非水電解質二次電池によれば、スペースを良好に利用しつつ上記効果を奏する非水電解質二次電池が得られる。
【0022】
また、発明の非水電解質二次電池においては、前記炭酸リチウム及び導電剤の混合物は、互いに均一に混合されているものが好ましい。
【0023】
炭酸リチウムと導電剤が均一に混合されていれば、電気抵抗がより小さくなるとともに、過充電時に正極電位が上昇した際に炭酸リチウムの反応が均一に生じるので、より安全性が向上した非水電解質二次電池が得られる。
【0024】
また、発明の非水電解質二次電池においては、前記炭酸リチウム及び導電剤の混合物は、前記炭酸リチウム粉末の表面が前記導電剤で被覆されたものとすることができる。
【0025】
炭酸リチウムの表面を導電剤で被覆するとより導電性が高くなるので、電気抵抗がより小さくなるとともに、過充電時に正極電位が上昇した際に反応が均一に生じるようになるので、より安全性が向上した非水電解質二次電池が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本願発明を実施するための最良の形態を実施例及び比較例を用いて詳細に説明する。ただし、以下に示す実施例は、本発明の技術思想を具体化するための非水電解質二次電池を例示するものであって、本発明をこの実施例に特定することを意図するものではなく、本発明は特許請求の範囲に示した技術思想を逸脱することなく種々の変更を行ったものにも均しく適用し得るものである。
【実施例1】
【0027】
実施例1の角形の非水電解質二次電池は、以下のようにして作成した。
[正極極板の作製]
正極活物質としてのコバルト酸リチウム(LiCoO)85質量部、導電剤としての炭素粉末が10質量部、結着剤としてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)粉末が5質量部となるよう混合し、これをN−メチルピロリドン(NMP)溶液と混合してスラリーを調製した。このスラリーを厚さ15μmのアルミニウム製の集電体の両面にドクターブレード法により塗布して、正極集電体の両面に活物質層を形成した。その後、圧縮ローラーを用いて圧縮し、短辺の長さが32mm、長辺の長さが450mmの正極極板を作製した。
【0028】
[負極極板の作製]
天然黒鉛粉末が95質量部と、PVdF粉末が5質量部となるように混合し、これをNMP溶液と混合してスラリーを調製し、このスラリーを厚さ15μmの銅製の集電体の両面にドクターブレード法により塗布して活物質層を形成した。その後、乾燥した後に圧縮ローラーを用いて圧縮し、短辺の長さが35mm、長辺の長さが480mmの負極を作製した。なお、充電時の黒鉛の電位はLi基準で0.1Vである。また、正極極板及び負極極板の活物質充填量は、設計基準となる正極活物質の電位において、正極と負極の充電容量比(負極充電容量/正極充電容量)が1.15となるように調製した。
【0029】
[巻回電極体の作製]
上記のようにして作製された正極極板と負極極板とをポリプロピレン製微多孔膜からなるセパレータを介して円筒状に巻回した後、押し潰すことによって偏平渦巻状の電極体を作製した。
[電解液の作製]
エチレンカーボネート(30vol%)とジエチルカーボネート(70vol%)との混合溶媒に、LiPFを1mol/Lとなるように溶解して非水電解液とし、これを電池作製に供した。
【0030】
[炭酸リチウムを配置した外装缶の作製]
炭酸リチウム粉末が90質量部、導電剤としてのカーボンブラック粉末が5質量部、結着剤としてのPVdF粉末が5質量部となるよう混合し、これをNMP溶液と混合してスラリーを調製した。このスラリーを金属製の角形の電池外装缶(厚さ5.5mm、幅35mm、高さ40mm)の正極電位に帯電する箇所の内壁に塗布し、本発明の導電剤が混合された炭酸リチウム層を形成した。その後、乾燥させ、炭酸リチウムを配置した電池外装缶を作製した。また、この時の炭酸リチウムの量は、正極活物質の質量を100質量部とした場合、1.0質量部に相当した。
[電池の作製]
上記のようにして作製した電極体を上記の外装缶に挿入し、上記の電解液を注液し、外装缶の開口部分を、内圧上昇により作動する安全弁機構を備える封口体を用いて封口することにより、図1に示した構成の実施例1に係る電池を作製した。なお、作製された実施例1に係る非水電解質二次電池の設計容量は700mAhである。
【0031】
ここで、実施例1で作製した角形の非水電解質二次電池の構成について図1を用いて説明する。なお、図1は実施例1の角形の非水電解質二次電池を縦方向に切断して示す斜視図である。この非水電解質二次電池10は、負極極板11と正極極板12とがセパレータ13を介して巻回された偏平状の巻回電極体14を、角形の電池外装缶15の内部に収容し、封口板16によって電池外装缶15を密閉したものである。巻回電極体14は、例えば負極極板11が最内周側に、正極極板12が最外周に位置して露出するように巻回されており、露出した正極芯体から延出した正極タブが外装缶と電気的に接続される。正極極板12は、正極端子を兼ねる電池外装缶15の内面に形成された炭酸リチウムと導電剤との混合物からなる層22を介して接触している。また、負極極板11は、封口板16の中央に形成され、絶縁体17を介して取り付けられた安全弁機構(図示省略)を備えた負極端子18に対して集電体19を介して電気的に接続されている。
【0032】
そして、電池外装缶15は、正極極板12と電気的に接続されているので、正極極板12と電池外装缶15との短絡を防止するために、巻回電極体14の上端と封口板16との間に絶縁スペーサ20を挿入することにより、正極極板12と電池外装缶15とを電気的に絶縁状態にしている。この角形の非水電解質二次電池10は、巻回電極体14を電池外装缶15内に挿入した後、封口板16を電池外装缶15の開口部にレーザ溶接し、その後電解液注液孔21から非水電解液を注液して、この電解液注液孔21を密閉することにより作製される。
【0033】
[比較例1]
比較例1の非水電解質二次電池は、実施例1の非水電解質二次電池10において、電池外装缶15の内面に炭酸リチウムと導電剤との混合物からなる層22を形成せず、その分の炭酸リチウム及び炭素粉末を正極極合剤層に混入した他ものを使用した。すなわち、正極活物質としてのLiCoO85質量部、導電剤としての炭素粉末が10質量部、結着剤としてのPVdF粉末が5質量部、更に炭酸リチウムを、正極活物質の質量を100質量部とした場合、炭酸リチウムが1.0質量部となるよう添加して混合したこと以外は、実施例1と同様にして比較例1に係る非水電解質二次電池を作製した。
【0034】
[比較例2]
実施例1の非水電解質二次電池10において、炭酸リチウムと導電剤との混合物からなる層22に変えて、導電剤としての炭素粉末を含有しない層、すなわち、炭酸リチウムが90質量部、結着剤としてのポリフッ化ビニリデン粉末が10質量部となるよう混合した層を用いた他は、実施例1と同様にして比較例2に係る電池を作製した。また、この時の炭酸リチウムの量は、実施例1と同じ質量分とした。
【0035】
[放電負荷試験]
上述のようにして作製された実施例1及び比較例1の非水電解質二次電池の各5個ずつについて放電負荷特性を測定した。このときの充放電条件は次のとおりである。すなわち、各電池を、25℃の温度環境で、1It=700mAの定電流で電池電圧が4.2Vになるまで充電し、電池電圧が4.2Vに達した後は4.2Vの定電圧で電池電流が1/50It=14mAになるまで充電した。その後、1It=700mAの定電流で電池電圧が2.75Vになるまで放電し、このときの放電容量を1サイクル目の放電容量として求めた。次いで、1It=700mAの定電流で電池電圧が4.2Vになるまで充電し、電池電圧が4.2Vに達した後は4.2Vの定電圧で電池電流が1/50It=14mAになるまで充電した後、電流値3It=2100mAで電池電圧が2.75Vとなるまで放電した。このときの放電容量を2サイクル目の放電容量として求めた。そして、放電負荷特性(%)を1サイクル目の放電容量に対する2サイクル目の放電容量の比率(%)としてを求めた。結果を纏めて表1に示した。
【0036】
[過充電試験]
実施例1及び比較例1の各電池を放電状態から3It=2100mAの定電流で過充電した際、安全弁の作動時の充電深度と、電池の発煙・発火の有無についての測定を行った。安全弁作動時の充電深度は、1It=700mAの定電流で電池電圧が4.2Vになるまで充電し、電池電圧が4.2Vに達した後は4.2Vの定電圧で電池電流が1/50It=14mAになるまで充電した際の充電容量に対する、過充電試験の際の弁作動時の充電容量の比率(%)として求めた。結果を纏めて表1に示した。
【0037】
【表1】

【0038】
表1は炭酸リチウムの配置箇所を変化させた時の試験結果を示す。表1に示すように、放電負荷特性は実施例1の5個の非水電解質二次電池共に90%以上の結果が得られているが、比較例1の非水電解質二次電池では80〜84%の充電負荷特性しか得られていない。このように、電池外装缶の内壁に炭酸リチウムを導電剤である炭素粉末と混合して被覆することで、放電負荷特性が向上することがわかる。これは、電池の内部抵抗が減少したことによるものと推測される。
【0039】
また、表1の過充電試験の結果によると、比較例1の各非水電解質二次電池の安全弁差動時の充電深度が190〜204%であるのに対し、実施例1の各非水電解質二次電池の安全弁作動時の充電深度は179〜182%と小さくなっており、しかも、安全弁作動時の充電深度のバラツキも小さくなっていることが分かった。しかも、比較例1の非水電解質二次電池では、過充電試験時に1個/5個の電池が発火したが、実施例1の非水電解質二次電池では5個中1個も破裂ないし発火することがなかった。従って、実施例1の非水電解質二次電池は、比較例1の非水電解質二次電池よりも安全性が向上していることが分かる。これは、電池外装缶15が正極極板12よりも直接的に充電電圧が印加されるため、炭酸リチウムが早期に分解して安全弁作動までの時間が短くなるようにすると共に、炭酸リチウムに均一に正極電位が印加されるため、炭酸リチウムの分解がばらつきなく瞬時に起こるため、その結果、安全性が向上するものであると推測される。
【0040】
次に、炭酸リチウム粉末中に導電剤としての炭素粉末添加の有無による効果の差異を確認した。実施例2の非水電解質二次電池は、実施例1の非水電解質二次電池において電池外装缶の内面に形成されている炭酸リチウムと導電剤との混合物からなる層22に変えて、導電剤としての炭素粉末を含まない炭酸リチウムのみからなる層を用いたものである。この実施例2の非水電解質二次電池の5個について、上述の場合と同様にして過充電試験を行った。結果を実施例1の結果と纏めて表2に示した。
【0041】
【表2】

【0042】
表2に示すように、電池外装缶15の内面に炭酸リチウムに導電剤を混合せずに被覆した層を形成すると、安全弁作動時の充電深度が深くなり、また、安全弁作動時の充電深度がばらついてしまい、結果として、発火に至る場合が生じることが分かる。これは、炭酸リチウム単体の導電性が不十分であるため、炭酸リチウムの電気分解の時間が遅れたり、ばらついたりすることが原因であると推測される。このことから、炭酸リチウムの導電性を補うため、炭酸リチウムを導電剤と混合して使用することが必須であることが分かる。
【0043】
なお、炭酸リチウムの配置箇所については、電池反応に起因する箇所以外、つまり電極体以外の正極電位となる箇所であれば、電池外装缶の内壁だけでなく、正極タブ、封口体の内壁などに形成することが可能である。また、炭酸リチウムの導電性を補う観点からは、炭酸リチウムと導電剤とを混合する手法だけではなく、炭酸リチウムの表面にカーボンコート処理をしたもの等を用いることなども可能である。
【0044】
また、上記実施例1では、炭酸リチウムに混合する導電剤としてカーボンブラック粉末を使用した例を示したが、これに限らず、金属粉末、難黒鉛化性炭素、天然黒鉛、人造黒鉛、コークス、気相成長炭素、ガラス状炭素、活性炭、メソカーボンマイクロビーズ、メソフェースピッチ等、又はこれらの焼成体の一種或いは複数種を混合したものを使用することができる。また、上記実施例1では、角形の非水電解質二次電池の場合について述べたが、電池外装缶が正極電位にとなる構造であって安全弁機構を備える封口板により封止されているならば、円筒形、コイン形などの非水電解質二次電池に対しても適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】実施例1の角形の非水電解質二次電池を縦方向に切断して示す斜視図である。
【符号の説明】
【0046】
10:非水電解質二次電池、11:負極、12:正極、13:セパレータ、14:巻回電極体、15:電池外装缶、16:封口板、17:絶縁体17、18:正極端子、19:集電体、20:絶縁スペーサ、21:電解液注液孔 22:炭酸リチウムと導電剤との混合物からなる層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極活物質合剤層が負極芯体の表面に設けられた負極極板と、正極活物質合剤層が正極芯体の表面に設けられた正極極板と、前記負極極板及び正極極板がセパレータを介して互いに巻回又は積層された電極体と、非水電解質とを備え、前記電極体及び非水電解質が電池外装缶内に挿入されていると共に、前記電池外装缶の開口部が内圧上昇により作動する安全弁機構を備える封口板により封止されている非水電解質二次電池において、
前記電池外装缶は、前記正極極板と電気的に接続されているとともに、前記電池外装缶の内側に炭酸リチウムと導電剤との混合物からなる層が形成されていることを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項2】
前記導電剤は、炭素材料からなることを特徴とする請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【請求項3】
前記炭酸リチウム及び導電剤との混合物からなる層は、前記封口板の内側表面で、かつ前記正極極板と電気的に接続されている部分又は正極タブの表面に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【請求項4】
前記炭酸リチウム及び導電剤の混合物は、互いに均一に混合されていることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の非水電解質二次電池。
【請求項5】
前記炭酸リチウム及び導電剤の混合物は、前記炭酸リチウム粉末の表面が前記導電剤で被覆されたものからなることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の非水電解質二次電池。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2009−238387(P2009−238387A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−79161(P2008−79161)
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】