説明

非水電解質二次電池

【課題】正極活物質としてオリビン型構造を有するリン酸鉄リチウムを用いた、高出力特性を有し、過充電時の安全性に優れていると共に、充放電サイクル特性に優れている非水電解質二次電池を提供すること。
【解決手段】正極活物質を有する正極と、負極活物質を有する負極と、セパレータと、非水電解液とを備え、正極活物質は、一般式LiFePO(式中、xは0<x<1.3である。)で表されるオリビン型構造を有するリン酸鉄リチウムからなり、負極活物質は、6mA/cmでの放電時に放電深度10〜30%の範囲の平均作動電位がリチウム基準で0.3V以下である炭素材料からなり、非水電解液は、0.1質量%〜5.0質量%の範囲内で、アルコキシベンゼン誘導体を含有している、非水電解質二次電池とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池に関し、特に正極活物質としてオリビン型構造を有するリン酸鉄リチウムを用いた、高出力特性を有し、過充電時の安全性に優れていると共に、充放電サイクル特性に優れている非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
今日の携帯電話機、携帯型パーソナルコンピューター、携帯型音楽プレイヤー等の携帯型電子機器の駆動電源として、更には、電動工具、ハイブリッド電気自動車(HEV)や電気自動車(EV)用の電源として、高エネルギー密度を有し、高容量であるリチウムイオン二次電池に代表される非水電解質二次電池が広く利用されている。中でも、負極活物質として黒鉛粒子を用いた非水電解質二次電池は、安全性が高く、かつ、高容量であるために広く用いられている。
【0003】
これらの非水電解質二次電池の正極活物質としては、リチウムイオンを可逆的に吸蔵・放出することが可能なリチウム遷移金属複合酸化物、すなわち、LiCoO、LiNiO、LiNixCo1−x(x=0.01〜0.99)、LiMnO、LiMn、LiCoMnNi(x+y+z=1)又はリン酸鉄リチウムなどが1種単独もしくは複数種を混合して用いられている。
【0004】
このうち、特に各種電池特性が他のものに対して優れていることから、リチウムコバルト複合酸化物が多く使用されている。しかしながら、コバルトは高価であると共に資源としての存在量が少なく、しかも、リチウムコバルト複合酸化物は過充電時に熱安定性が低下するという問題点が存在している。そのため、従来から非水電解質二次電池の過充電時の異常を抑制する目的で、非水電解液中に各種ベンゼン類化合物を添加することが行われている(下記特許文献1及び2参照)。
【0005】
一方、近年の電動工具、EVやHEV等の用途においては、大電流での充放電が要求されることから、リチウムコバルト複合酸化物よりも熱安定性が良好なオリビン型構造を有するリン酸鉄リチウムも使用されるようになってきている(下記特許文献3及び4参照)。このオリビン型構造を有するリン酸鉄リチウムは、一般式LiFePO(式中、xは0<x<1.3である。)で表わされる化合物であり、高出力特性を有し、しかも、資源的に豊富で安価な鉄や燐を構成材料としているため、リチウムコバルト複合酸化物よりも低コストであり、また、環境に与える影響も小さいという特徴を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平09−050822号公報
【特許文献2】特開平10−189044号公報
【特許文献3】特開2002−075364号公報
【特許文献4】特開2003−242974号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Journal of Power Sources,162(2006)1379-1394
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のように、非水電解質二次電池においては、熱安定性の向上と出力特性の向上を図るために種々の技術的改良がなされているが、近年の工具、HEV、EV等の市場においては一層の高安全化と高出力特性の向上が望まれている。かかる点は、高出力特性を有し、しかも、非常に高い熱安定性を有することが知られているリン酸鉄リチウムにおいても同様である。このリン酸鉄リチウムは、充電電位が従来のリチウム含有遷移金属酸化物系よりも低いため、従来の過充電添加剤の反応電位とマッチングしないという課題を有している。例えば、シクロヘキシルベンゼン誘導体は、従来のリチウム含有遷移金属酸化物を正極活物質として使用した非水電解質二次電池においては過充電保護剤として有効に機能するが、リン酸鉄リチウムを正極活物質とした非水電解質二次電池では、過充電時の分解のタイミングが非水電解液そのものの分解のタイミングとさほど変わらないため、過充電保護剤としての機能は不十分であった。
【0009】
また、上記非特許文献1には、アニソール化合物は過充電保護剤として用いることができること、アニソールは反応電位が低いために正極活物質としてリン酸鉄リチウムを用いた非水電解質二次電池用の過充電保護剤として適していること等が示唆されている。しかしながら、発明者等の実験結果によると、正極活物質としてオリビン型構造を有するリン酸鉄リチウムを用い、負極活物質として従来から普通に使用されている炭素材料を用い、過充電保護剤としてアニソールを用いると、過充電時にガス発生量が多くなりすぎ、不十分な結果しか得られなかった。
【0010】
発明者等は、このようなオリビン型構造を有するリン酸鉄リチウムを正極活物質とし、従来から普通に用いられている炭素材料を負極活物質とし、非水電解液中にアニソール等のアルコキシベンゼン誘導体を添加した場合の問題点につき種々検討を重ねた結果、過充電時には、負極の電位が低くなりすぎて、アニソール等のアルコキシベンゼン誘導体が正極の表面での酸化分解だけでなく負極の表面での還元分解によって分解されてしまうことが主原因であることを見出した。
【0011】
本発明は、上述のような従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、オリビン型構造を有するリン酸鉄リチウムを正極活物質とし、炭素材料を負極活物質として使用した非水電解質二次電池において、高出力特性を有し、過充電時の安全性に優れていると共に、充放電サイクル特性に優れた非水電解質二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明の非水電解質二次電池は、
正極活物質を有する正極と、負極活物質を有する負極と、セパレータと、非水電解液とを備える非水電解質二次電池において、
前記正極活物質は、一般式LiFePO(式中、xは0<x<1.3である。)で表されるオリビン型構造を有するリン酸鉄リチウムからなり、
前記負極活物質は、6mA/cmでの放電時に放電深度10〜30%の範囲の平均作動電位がリチウム基準(vs. Li/Li)で0.3V以下である炭素材料からなり、
前記非水電解液は、0.1質量%〜5.0質量%の範囲内で、アルコキシベンゼン誘導体を含有している、
ことを特徴とする。
【0013】
非水電解質二次電池の負極活物質として一般的に使用されている炭素質材料、たとえば合成黒鉛を用いた負極は、6mA/cmでの放電時に放電深度10〜30%の範囲の平均作動電位は0.3Vを超えている。なお、「6mA/cmでの放電時」という条件は、電動工具等の用途における大電流放電時の平均的な放電電流密度である。また、「放電深度10〜30%の範囲」という条件は、この範囲において、放電時の電位が安定しているため、容易に電位が測定できるからである。
【0014】
一般的な放電電流時の動作電位が0.3Vを超えている負極は、過電圧が大きいものであるので、充電時には電位が大きく低下してしまうため、過充電時には負極の電位が低下しすぎて過充電保護剤として添加されているアルコキシベンゼン誘導体が負極の表面で還元分解されてしまう。そのため、一般的な放電電流時の動作電位が0.3Vを超えている負極が上記一般式で表されるオリビン型構造を有するリン酸鉄リチウムからなる正極活物質と組合わせて使用されている非水電解質二次電池では、過充電時には、アルコキシベンゼン誘導体が負極の表面で還元分解されてしまうため、ガス発生量が多くなりすぎて、通常の非水電解質二次電池で用いられている電流遮断装置だけでなく安全弁も作動してしまう。
【0015】
それに対し、一般的な放電電流時の動作電位が0.3V以下の負極は、過電圧が小さく、充電時にも負極の電位低下が小さいので、過充電時にも過充電保護剤として添加されているアルコキシベンゼン誘導体が負極の表面で還元分解されてしまうことが抑制される。本発明の非水電解質二次電池においては、一般的な放電電流時の動作電位が0.3V以下の負極を上記一般式で表されるオリビン型構造を有するリン酸鉄リチウムからなる正極活物質と組合わせて使用しているので、過充電時には、アルコキシベンゼン誘導体は負極の表面で還元分解されずに正極の表面で酸化分解される。そのため、本発明の非水電解質二次電池によれば、過充電時のアルコキシベンゼン誘導体の分解が正極の表面における酸化分解が主となり、ガス発生のタイミング及び発生量が過充電保護用として最適になり、電流遮断装置のみを有効に作動させることができ、過充電時の安全性に優れた非水電解質二次電池が得られる。
【0016】
なお、負極の放電電流密度と動作電位は、リチウム金属を使用した対極及び参照電極と共に単極セルを形成することにより容易に測定することができる。また、本発明で使用し得るアルコキシベンゼン誘導体としては、アニソール(C−OCH)、1,4−ジメトキシベンゼン(C−(OCH)、2−ブロモ−1,4−ジメトキシベンゼン((CBr−(OCH)等が挙げられるが、特にアニソールが好ましい。
【0017】
また、本発明で使用するアルコキシベンゼン誘導体の添加量は、非水電解液に対して0.1質量%〜5.0質量%の範囲内とすることが必要である。アルコキシベンゼン誘導体の添加量は、非水電解液に対して0.1質量%未満であると過充電保護剤としての性質が現れず、また、非水電解液に対して5.0質量%を超えると充放電サイクル特性が低下してしまうので、好ましくない。
【0018】
なお、本発明の非水電解質二次電池で使用し得る非水電解液を構成する非水溶媒(有機溶媒)としては、カーボネート類、ラクトン類、エーテル類、エステル類などを使用することができ、これら溶媒の2種類以上を混合して用いることもできる。これらの中では特に環状カーボネートと鎖状カーボネートを混合して用いることが好ましい。
【0019】
具体例としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、シクロペンタノン、スルホラン、3−メチルスルホラン、2,4−ジメチルスルホラン、3−メチル−1,3−オキサゾリジン−2−オン、ジメチルカーボネート(DMC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルプロピルカーボネート、メチルブチルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、エチルブチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、酢酸メチル、酢酸エチル、1,4−ジオキサンなどを挙げることができる。
【0020】
なお、本発明における非水電解液の溶質としては、非水電解質二次電池において一般に溶質として用いられるリチウム塩を用いることができる。このようなリチウム塩としては、LiPF、LiBF、LiCFSO、LiN(CFSO、LiN(CSO、LiN(CFSO)(CSO)、LiC(CFSO、LiC(CSO、LiAsF、LiClO、Li10Cl10、Li12Cl12など及びそれらの混合物が例示される。これらの中でも、LiPF(ヘキサフルオロリン酸リチウム)を用いることが好ましい。前記非水溶媒に対する溶質の溶解量は、0.5〜2.0mol/Lとするのが好ましい。
【0021】
また、本発明の非水電解質二次電池においては、前記負極活物質は、天然黒鉛又は非晶質炭素で被覆された人造黒鉛であることが好ましい。
【0022】
天然黒鉛の大部分は、6mA/cmでの放電時に放電深度10〜30%の範囲の平均作動電位がリチウム基準で0.3V以下であるので、本発明の非水電解質二次電池の負極活物質として使用することができる。また、人造黒鉛自体は6mA/cmでの放電時に放電深度10〜30%の範囲の平均作動電位がリチウム基準で0.3Vを超えているが、人造黒鉛の表面をピッチ等の非炭素質材料で被覆した後に熱処理することによって得られた非晶質炭素で被覆された人造黒鉛は、前記平均動作電位が0.3V以下となるので、本発明の非水電解質二次電池の負極活物質として使用することができる。
【0023】
また、本発明の非水電解質二次電池においては、充電終止電圧を3.5〜4.0Vとすることが好ましい。本発明の非水電解質二次電池は、正極活物質が上記一般式で表されるオリビン型構造を有するリン酸鉄リチウムであり、負極活物質が上述のような炭素質材料からなるものであるため、従来から一般的に使用されているリチウム含有遷移金属酸化物を正極活物質として使用した非水電解質二次電池のように、4.2Vの高電圧で充電した場合には、充放電サイクル特性が悪化してしまう。本発明の非水電解質二次電池では、充電終止電圧を3.5〜4.0Vに下げた場合には、充放電サイクル特性が悪化することなく、上述のような高出力であり、かつ過充電特性に優れた非水電解質二次電池を得ることができる。最も好ましい充電終止電圧は3.6〜3.8Vである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】各実施例及び比較例で用いた円筒形の非水電解質二次電池を縦方向に切断して示す斜視図である。
【図2】単極セルの構造を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための形態を実施例及び比較例を用いて詳細に説明する。但し、以下に示す実施例は、本発明の技術思想を具体化するための非水電解質二次電池の一例を示すものであって、本発明をこの実施例に限定することを意図するものではなく、本発明は特許請求の範囲に示した技術思想を逸脱することなく種々の変更を行ったものにも均しく適用し得るものである。
【0026】
最初に、実施例1〜5及び比較例1〜5で使用する、非水電解質二次電池の具体的製造方法について説明する。
[正極の作製]
オリビン型構造を有するリン酸鉄リチウムとしては、一般式LiFePOで表される平均粒径100nmのものを作製して用いた。このリン酸鉄リチウムからなる正極活物質が85質量部、導電剤としての炭素粉末が10質量部、結着剤としてのポリフッ化ビニリデン粉末が5質量部となるよう混合し、これをN−メチル−2−ピロリドン(NMP)溶液と混合してスラリーを調製した。このスラリーを厚さ20μmのアルミニウム製の集電体の両面にドクターブレード法により塗布して正極活物質合剤層を形成した。その後、圧縮ローラーを用いて圧縮し、短辺の長さが55mm、長辺の長さが750mmの実施例1〜5及び比較例1〜5で使用する正極を作製した。
【0027】
[負極の作製]
負極活物質としては、天然黒鉛、人造黒鉛、及び、表面を非晶質炭素で被覆した人造黒鉛の3種類を用意し、各実施例及び比較例で使い分けた。表面を非晶質炭素で被覆した人造黒鉛は次のようにして作成した。まず、核となる炭素質材料として平均粒径が20μmの人造黒鉛の粉末を用意した。この核の表面を被覆して非晶質炭素となる炭素前駆体としての石油ピッチ(軟化点:250℃)を用意した。これらの人造黒鉛の粉末と石油ピッチを混合して、窒素ガス雰囲気下で加熱しながらよく混練し、1000℃で3時間保持した後、室温まで冷却して、人造黒鉛粒子の核の表面に非晶質炭素からなる被覆層が形成された複合炭素材を得た。なお、実施例2〜5で用いた表面を非晶質炭素で被覆した人造黒鉛からなる負極活物質は全て同一のものであり、また、比較例1〜3で用いた人造黒鉛からなる負極活物質は全て同一のものである。
【0028】
負極は次のようにして作製した。まず、負極活物質が98質量部と、結着剤としてのスチレンブタジエンゴムが1質量部、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロースが1質量部となるよう混合し、これを水と混合してスラリーを調製し、このスラリーを厚さ10μmの銅製の集電体の両面にドクターブレード法により塗布して負極活物質合剤層を形成した。その後、圧縮ローラーを用いて所定の密度まで圧縮し、短辺の長さが57mm、長辺の長さが800mmの負極を作製した。
【0029】
[非水電解液の作製]
エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとの等体積混合溶媒に、LiPFを1.6mol/L溶解して電解液とし、これを電池作製に供した。アルコキシベンゼン誘導体としてのアニソール(実施例1〜5及び比較例3〜5)ないしシクロヘキシルベンゼン(比較例2)については、電解液100質量部に対する比率で所定割合となるように混合し、実施例1〜5及び比較例1〜5に係る非水電解液を調製した。
【0030】
[電池の作製]
上記のようにして作製された正極、負極及び非水電解液を用いて、実施例1〜5及び比較例1〜5にかかる円筒形の非水電解質二次電池(高さ650mm、直径18mm)を作製した。なお、セパレータにはポリプロピレン製の微多孔膜を用いた。この円筒形の非水電解質二次電池の具体的構成は、図1に示したとおりである。なお、図1は実施例1〜5及び比較例1〜5で用いた円筒形の非水電解質二次電池を縦方向に切断して示す斜視図である。この非水電解質二次電池10は、正極11と負極12とがセパレータ13を介して巻回された巻回電極体14が用いられており、この巻回電極体14の上下にそれぞれ絶縁板15及び16が配置され、この巻回電極体14が負極端子を兼ねるスチール製の円筒形の電池外装缶17の内部に収容されている。
【0031】
そして、負極12の集電タブ12aが電池外装缶17の内側底部に溶接されているとともに、正極11の集電タブ11aが安全装置が組み込まれた電流遮断封口体18の底板部に溶接され、この電池外装缶17の開口部から所定の非水電解液が注入された後、安全弁と電流遮断装置を備えた封口体18によって電池外装缶17が密閉された構成を有している。得られた非水電解質二次電池の定格容量は1000mAhである。なお、実施例1〜5及び比較例1〜5のいずれの非水電解質二次電池においても、負極容量/正極容量=1.1となるようにした。
【0032】
[充放電サイクル特性の測定]
実施例1〜5及び比較例1〜4の各電池を、25℃において、1It=1000mAの定電流で電池電圧が3.6Vとなるまで充電し、電池電圧が3.6Vに達した後は3.6Vの定電圧で充電電流が20mAになるまで充電した。その後、10It=10000mAの定電流で電池電圧が2.0Vとなるまで放電した。この充放電を1サイクルとして300回繰り返し、1サイクル目の放電容量に対する300サイクル目の放電容量の割合(%)を、充放電サイクル特性として求めた。結果をまとめて表1に示した。
【0033】
[過充電特性の測定]
実施例1〜5及び比較例1〜4の各電池を、25℃において、電流遮断装置が作動するまで、3It=3000mA、4It=4000mA、5It=5000mAでそれぞれ定電流充電を行った。結果は、電流遮断装置のみが作動し、安全弁が作動しなかったものを「○」で、電流遮断装置及び安全弁の両方が作動したものを「△」で、電池が破裂・発火したものを「×」で表し、表1にまとめて示した。
【0034】
[単極セルの作製]
比較例3、実施例1及び実施例2の負極の片面を剥離したものを、負極活物質合剤層の面積が10cmとなるように切り出し、作用極として用い、図2に示す単極セル30を作製し、充放電試験を行った。対極及び参照極には金属リチウム板を用い、この金属リチウム板を上記負極材料に対して対向可能な寸法にて切り出し使用した。また、非水電解液としては、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとの等体積混合溶媒にLiPFを1.6mol/Lとなるように溶解し、更にアニソールを2質量%添加して用いた。なお、セパレータにはポリプロピレン製の微多孔膜を用いた。
【0035】
単極セル30は、図2に示すように、作用極31、対極32及びセパレータ33が配置される測定槽34と、参照極35が配置される参照極槽36とから構成されている。そして、参照極槽36から毛細管37が作用極31の表面近傍まで延長されており、また、測定槽34及び参照極槽36は何れも非水電解液38で満たされている。対極31及び参照極35は共にリチウム金属が使用されている。なお、以下において電位は全て参照極35のLiに対する電位を示す。
【0036】
最初に、25℃にて、それぞれの負極を用いて、1mA/cmでリチウム基準で0.0Vまで充電し、10分間休止し、その後1mA/cmでリチウム基準で1.0Vまで放電するサイクルを3回繰り返した。その後、1mA/cmでリチウム基準で0.0Vとなるまで充電した後に、6mA/cmで放電させたときの放電深度(DOD:Depth of Discharge)が10〜30%の範囲での平均作動電位を測定し、平均放電電位として求めた。結果をまとめて表1に示した。
【0037】
【表1】

【0038】
表1に示した結果から以下のことが分かる。まず、比較例3、実施例1及び実施例2の負極をそれぞれ用いた単極セルによる測定結果から、6mA/cmで放電させたときのDODが10〜30%の範囲での平均作動電位(リチウム基準)は、人造黒鉛自体(比較例3)は0.32Vであるが、表面を非晶質炭素で被覆した人造黒鉛(実施例2)は0.28Vと低下していた。なお、天然黒鉛の上記平均作動電位は0.27Vであった。なお、実施例3〜5、比較例1、2、4で用いた表面を非晶質炭素で被覆した人造黒鉛からなる負極活物質は全て実施例2のものと同一のものである。
【0039】
実施例1〜5に示すように、6mA/cmで放電させたときのDODが10〜30%の範囲での平均作動電位がリチウム基準で0.30V以下である炭素材料を負極活物質とする負極を用いて、かつ、アニソールが0.5〜5質量%の配合比において、優れた過充電特性を示すことが判明した。特に、負極活物質に非晶質炭素で被覆した黒鉛を用いた場合(実施例2〜5)では、天然黒鉛を用いた場合(実施例1)よりも優れた過充電特性を示した。比較例1〜3に示すように、6mA/cmで放電させたときのDODが10〜30%の範囲での平均作動電位がリチウム基準で0.3V以下である炭素負極と、アニソールの両方が備わっていない場合、過充電特性は実施例1〜5の場合と比すると、劣っていることが分かる。また、比較例4に示すように、アニソールが6質量%の配合比の場合、サイクル特性が低下することが判明した。このような現象が生じる理由は、アニソールの添加量が多くなりすぎたため、相対的に電解質濃度が減少するためではないかと推定される。
【0040】
以上の結果より、オリビン型構造を有するリン酸鉄リチウムを正極活物質とした正極と、6mA/cmで放電させたときのDODが10〜30%の範囲での平均作動電位がリチウム基準で0.30V以下である炭素材料を負極活物質とした負極と、アニソールが0.5〜5質量%の割合で配合されている非水電解液とを用いると、良好な過充電特性及び充放電サイクル特性が得られることが分かる。なお、実施例1〜5では、添加剤としてアニソールを使用した例を示したが、酸化還元電位が類似している1,4−ジメトキシベンゼン、2−ブロモ−1,4−ジメトキシベンゼン等のアルコキシベンゼン誘導体も等しく使用し得る。
【0041】
[充電電圧に対する試験]
以下では、比較例5として、充電電圧を変えた場合のサイクル特性にどのような影響を与えるかについて測定した。実施例2と同じ構成の非水電解質二次電池を用い、25℃において、1It=1000mAの定電流で電池電圧が4.2Vとなるまで充電し、電池電圧が4.2Vに達した後は4.2Vの定電圧で充電電流が20mAになるまで充電した。その後、10It=10000mAの定電流で電池電圧が2.0Vとなるまで放電した。この充放電を1サイクルとして300回繰り返し、1サイクル目の放電容量に対する300サイクル目の放電容量の割合(%)を、充放電サイクル特性として求めた。結果を実施例2の結果とまとめて表2に示した。
【0042】
【表2】

【0043】
比較例5に示すように、従来から一般的に使用されているリチウム含有遷移金属酸化物を正極活物質として使用した非水電解質二次電池のように、4.2Vの高電圧で充電した場合には、充電終止電圧が3.6Vである実施例2の結果と比すると、充放電サイクル特性が悪化してしまう。このことからアニソール等のアルコキシベンゼン誘導体の添加による充放電サイクル特性の向上効果は充電電圧の低いリン酸鉄リチウムとの組み合わせでのみ有効に発揮されることがわかる。このような現象が生じる理由は、充電電圧を高くすると、通常の充電時にもアルコキシベンゼン誘導体が正極の表面で酸化反応が起こるためと推定される。そのため、本発明の非水電解質二次電池では、充電終止電圧を3.5〜4.0、特に3.6〜3.8Vとすることが好ましいことがわかる。
【符号の説明】
【0044】
10:円筒形非水電解質二次電池、11:正極、11a:正極の集電タブ、12:負極、12a:負極の集電タブ、13:セパレータ、14:巻回電極体、17:電池外装缶、18:封口体 30:単極セル 31:作用極 32:対極 33:セパレータ 34:測定槽34 35:参照極 36:参照極槽 37:毛細管37 38:非水電解液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質を有する正極と、負極活物質を有する負極と、セパレータと、非水電解液とを備える非水電解質二次電池において、
前記正極活物質は、一般式LiFePO(式中、xは0<x<1.3である。)で表されるオリビン型構造を有するリン酸鉄リチウムからなり、
前記負極活物質は、6mA/cmでの放電時に放電深度10〜30%の範囲の平均作動電位がリチウム基準で0.3V以下である炭素材料からなり、
前記非水電解液は、0.1質量%〜5.0質量%の範囲内で、アルコキシベンゼン誘導体を含有している、
ことを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項2】
前記負極活物質は、天然黒鉛又は非晶質炭素で被覆された人造黒鉛であることを特徴とする請求項1に記載の非水電解質二次電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−231958(P2010−231958A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−76683(P2009−76683)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】