説明

非水電解質電池用正極体及びその製造方法

【課題】 放電容量が大きく、サイクル特性及び高率放電特性に優れる非水電解質電池を作製するための正極体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 金属からなる多孔質集電体と、多孔質集電体の空隙部に担持される正極活物質相とを備える非水電解質電池用正極体であって、正極活物質相は、正極活物質の粒子群とこれら粒子群を固める固体電解質とを有し、かつ、隣接する前記粒子同士の輪郭線の一部が固体電解質を介して互いに沿い合っており、正極活物質相と接触している多孔質集電体の表面の酸素量が、3.1質量%以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質電池の正極層に利用される正極体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯情報端末、電動車両及び家庭用電力貯蔵装置などの電気機器の電源には、正極集電体と正極活物質層とを有する正極層、負極集電体と負極活物質層とを有する負極層、及びこれら電極層の間に配される電解質層を備える非水電解質電池が利用されている。非水電解質電池のなかでも、正負極間のリチウムイオンの移動により充放電を行うリチウムイオン電池は、特に、充放電特性に優れる。そのため、リチウムイオン電池は、活発に研究開発が進められている。
【0003】
例えば、特許文献1には、リチウム複合酸化物の焼結体を非水電解質電池の正極活物質層に利用する技術が開示されている。これにより、正極での導電性、活物質充填密度及び反応面積が大きくなり、電池の充放電効率が改善され、エネルギー密度が向上する効果が得られることが開示されている。
【0004】
ところで、正極層を構成する正極集電体には、アルミニウム箔を用いる場合が知られているほか、三次元的に多孔を有する多孔質金属体を用いる場合が知られている。その多孔質金属体としては、繊維状のアルミニウムを絡み合わせたアルミニウム不織布や、溶融したアルミニウム金属を発泡させることにより作られたアルミニウム発泡体が知られる。アルミニウム発泡体の例として、特許文献2には、アルミニウム金属を溶融させた状態で発泡剤及び増粘剤を加えて攪拌するというアルミニウム発泡体の製造方法が開示されている。このアルミニウム発泡体は、その製造方法の特質上、多数の独立気泡(閉気孔)を含んでいる。
【0005】
多孔質金属体としては、連通気孔を持ち、気孔率が90%以上もあるニッケル多孔体が広く知られている。ニッケル多孔体は、発泡ウレタン等の連通孔を有する発泡樹脂の骨格表面にニッケル層を形成した後、発泡樹脂を熱分解し、その後、熱分解で酸化しているニッケルを還元処理することによって製造されている。この製造方法において、発泡樹脂の骨格表面にニッケル層を形成する方法は、発泡樹脂の骨格表面にカーボン粉末等を塗布して導電化処理した後、電気めっきによってニッケルを析出させることにより行われている。しかし、このニッケル多孔体を、有機電解液系リチウムイオン電池の正極集電体に用いた場合、ニッケル多孔体の電位が貴になった際に、ニッケル多孔体の耐電解液性が劣るという問題が指摘されている。一方、正極集電体の材質がアルミニウムであれば、このような問題を生じない。
【0006】
そこで、ニッケル多孔体の製造方法を応用したアルミニウム多孔体の製造方法も開発されている。たとえば、特許文献3には、「三次元網目状構造を有する発泡樹脂の骨格に、メッキ法もしくは蒸着法、スパッタ法、CVD法などの気相法より、Alの融点以下で共晶合金を形成する金属による皮膜を形成した後、Al粉末と結着剤及び有機溶剤を主成分としたペーストを上記皮膜を形成した発泡樹脂に含浸塗着し、次いで非酸化性雰囲気において550℃以上750℃以下の温度で熱処理をする金属多孔体の製造方法」が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−180904号公報
【特許文献2】特開2002−371327号公報
【特許文献3】特開平8−170126号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、正極活物質層を焼結体で構成した非水電解質電池では、十分な放電容量を得られない虞がある。これは、正極活物質の粒界界面における電子伝導性とリチウムイオン伝導性が低いためである。また、電池の充放電に伴い、焼結体からなる正極活物質層が膨張・収縮を繰り返し、正極活物質層に割れなどの破損が生じたり、正極活物質層と正極集電体との接合が剥離したりすることがある。特に、電池を高率放電させる場合、上記不具合が顕著となる傾向にある。このような不具合が生じると、充放電サイクルに従い、電池の放電容量が低下し易い電池(いわゆる、サイクル特性の悪い電池)となってしまう。
【0009】
このようなサイクル特性の悪い電池とならないようにするための対策として、正極活物質層を三次元的に正極集電体で取り囲むことにより、割れや破損を防止することが試みられた。しかし、ニッケル多孔体を用いるとすれば前述のような耐電解液性に劣るという問題を生じるし、アルミニウムからなる多孔質集電体を採用しようとしても、さらに別の問題を生じることがわかった。
【0010】
すなわち、多孔質集電体のうちアルミニウム発泡体は、閉気孔を有するので、集電体として採用するには適しない。その表面全てを有効に利用することができないからである。ニッケル多孔体の製造方法をアルミニウムに応用させたアルミニウム多孔体については、その製造方法において、アルミニウムを融点以上の温度に加熱する必要があるため、冷却するまでの間に、アルミニウムの酸化が進みやすく、表面に酸化皮膜ができやすい。したがって、このような従来のアルミニウム多孔体は、その表面の酸素量が多い。つまり、アルミニウム多孔体の表面に酸化物が形成されている。このように、酸化物が多いアルミニウム多孔体を正極集電体として利用した正極は、非水電解質電池に使用された場合に放電特性が劣るという問題があった。しかも、アルミニウムの融点以下で共晶合金を形成する金属が、アルミニウム多孔体に含まれざるを得ないという問題もあった。
【0011】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたもので、その目的は、放電容量が大きく、サイクル特性に優れた非水電解質電池、さらには高率放電特性に優れた非水電解質電池を作製するための正極体およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)本発明は、金属からなる多孔質集電体と、前記多孔質集電体の空孔部に担持される正極活物質相とを備える非水電解質電池用正極体であって、前記正極活物質相は、正極活物質の粒子群とこれら粒子群を固める固体電解質とを有し、かつ、隣接する粒子同士の輪郭線の一部が前記固体電解質を介して互いに沿い合っており、前記正極活物質相と接触している前記多孔質集電体の表面の酸素量が、3.1質量%以下であることを特徴とする。
【0013】
本発明正極体では、正極活物質相において、塑性変形した正極活物質粒子同士の隙間に配される固体電解質により、近接する活物質粒子間のリチウムイオンの伝導を確保することができる。もともと、接触し合う正極活物質粒子の界面におけるリチウムイオン伝導性は、粒子中におけるリチウムイオン伝導性に大きく劣るので、単に粒子同士を接触させるだけではリチウムイオン伝導性の低い正極体になってしまう。
【0014】
これに対して、本発明正極体のように、粒子間の隙間に固体電解質が配置されていれば、近接する粒子間でのリチウムイオンの遣り取りが円滑になるので、電池の放電容量を向上させることができる。なお、活物質粒子を焼結すると、粒界界面におけるリチウムイオン伝導性は、単に粒子同士を接触させるよりも高いが、本発明のように粒子間に固体電解質を介在させるよりも低い。
【0015】
また、本発明の構成では、正極活物質の膨張・収縮による応力を、正極活物質粒子の隙間に配される固体電解質で吸収することができるので、本発明正極体を非水電解質電池に利用したときに、電池のサイクル特性を向上させることができる。
【0016】
また、本発明の構成では、本発明正極体の正極活物質相において、活物質粒子が塑性変形することで粒子同士の輪郭線の一部が沿い合っているので、粒子間のリチウムイオン伝導性が向上する。固体電解質を介して沿い合っている結果、粒子間の距離も均一となっている。その結果、本発明正極体を非水電解質電池に利用したときに、電池の内部抵抗の増加を抑制することができ、電池の放電容量を向上させることができる。しかも、塑性変形により正極活物質粒子にクラックを生じさせ、このクラックにより電池の充放電に伴う粒子の膨張・収縮を吸収できる。
【0017】
また、本発明の構成によれば、多孔質集電体の空隙部に正極活物質相が形成されているため、正極活物質相に対して三次元的に集電体を接触させることができる。つまり、本発明の構成では、多孔質でない層状又は板状の集電体を使用するよりも集電面積を大きくできるので、電池の電流密度を向上させることができる。そして、多孔質集電体が骨格の役割をして、正極活物質相の膨張・収縮に起因する正極体の割れを押さえ込むので、電池のサイクル特性を向上させることができる。
【0018】
さらに、本発明の構成では、多孔体集電体の表面の酸素量が3.1質量%以下であることによって多孔質集電体の表面に金属酸化物が生成していないことになるので、電子の授受が迅速におこなわれる。そのため、本発明の非水電解質電池用正極は、放電特性に優れる。ここでいう酸素量は、多孔体集電体の表面を15kVの加速電圧でEDX分析することにより特定される。具体的な測定方法は、後述する。
【0019】
「多孔体集電体の表面の酸素量を3.1質量%以下」とするためには、後述(7)のように、多孔質集電体を製造する工程において「樹脂を溶融塩に浸漬した状態で、金属層をその金属の標準電極電位より卑な電位に保ちながら加熱分解する」ことによる必要がある。このような製造方法を経ることにより、多孔体集電体の表面の酸素量を、EDXの分解検出以下に抑えることができる。EDXの分解検出以下ということは、多孔体集電体の表面の酸素量が3.1質量%以下であることを意味する。
【0020】
(2)本発明の非水電解質電池用正極体では、多孔質集電体がアルミニウムからなることを特徴とする。
【0021】
アルミニウムからなる多孔質集電体である場合には、さらに、本発明の非水電解質電池用正極体を有機電解液系の非水電解質電池に使用しその正極の電位を貴にしたとしても、多孔質集電体の耐電解液性に問題を生じない。
【0022】
(3)本発明の非水電解質電池では、多孔質集電体の骨格が中空糸状であることを特徴とする。
【0023】
本発明に使用される多孔質集電体については、後述(7)のような製造方法で製造されており、当初は樹脂であった部分が最終的に空洞状態となるため、多孔質集電体の骨格が中空糸状となる。この点で、本発明の非水電解質電池用正極に用いられる多孔質集電体は、従来の発泡体(たとえば、アルミニウム発泡体)とは異なる構造を備える。
【0024】
(4)本発明は、金属からなる多孔質集電体と、前記多孔質集電体の空孔部に担持される正極活物質相とを備える非水電解質電池用正極体であって、前記正極活物質相は、正極活物質の粒子群とこれら粒子群を固める固体電解質とを有し、かつ、隣接する粒子同士の輪郭線の一部が前記固体電解質を介して互いに沿い合っており、前記多孔質集電体が、連通孔を有し、閉気孔を有さず、前記多孔質集電体は、アルミニウムのみからなることを特徴とする。
【0025】
本発明正極体では、前述と同様に、正極活物質相において、塑性変形した正極活物質粒子同士の隙間に配される固体電解質により、近接する活物質粒子間のリチウムイオンの伝導を確保することができる。また、多孔質集電体が、連通孔を有する一方で閉気孔を有していないので、その表面のすべてが活物質との接触に利用され、効率が高い。さらに、多孔質集電体がアルミニウムのみからなるので、本発明正極体を有機電解液系の非水電解質電池に使用しその正極電位を貴にしたとしても、多孔質集電体の耐電解液性に問題を生じない。
【0026】
本発明において「多孔質集電体が連通孔を有し、閉気孔を有さず、また、多孔質集電体がアルミニウムのみからなる」ようにするためには、後述(7)のように、多孔質集電体を製造する工程において「樹脂を溶融塩に浸漬した状態で、金属層に対応するアルミニウム層をアルミニウムの標準電極電位より卑な電位に保ちながら加熱分解する」ことによる必要がある。
【0027】
なお、本発明における「アルミニウムのみからなる」という記載は、アルミニウム以外に不可避的に含まれざるを得ないような元素が混入した場合を、本発明の範囲から排除する趣旨ではない。
【0028】
(5)本発明正極体において、正極活物質相の任意断面に占める固体電解質の面積割合が20%以下であることが好ましい。
【0029】
正極活物質相に占める固体電解質の割合が上記範囲にあれば、正極活物質相において十分な量の活物質粒子を確保できる。活物質粒子の割合が高くなるほど、電池としたときの容量は向上するものの、粒子間のリチウムイオンの伝導を媒介する固体電解質も確保しなければならないため、固体電解質の面積割合は5%以上とすることが好ましい。
【0030】
(6)本発明正極体は、多孔質集電体における空孔部の占める割合である空孔率は、90〜98体積%であることが好ましい。
【0031】
上記空孔率の設定は、板状の正極集電体と正極活物質層を備える一般的な電池における両者の体積比を考慮して決定される。例えば、高出力用途の電池であれば、板状正極集電体の体積:正極活物質層の体積=1:7〜1:12であるので、この体積比を参考にして、本発明正極体を作製する際に、多孔質集電体の空孔率を90〜98体積%にすると、本発明正極体を高出力用途の電池に利用できる。空孔率が上記範囲であれば、正極体における活物質成分と集電成分のバランスが良い。そのため、この正極体を使用すれば高出力の電池を作製することができる。より好ましい空孔率は95〜98体積%である。
【0032】
(7)本発明正極体の製造方法は、非水電解質電池用正極体の製造方法であって、以下の工程を備えることを特徴とする。
【0033】
・縮重合することでリチウムイオン伝導性の固体電解質となる金属アルコキシド又は金属アルコキシドの加水分解物を溶媒に溶解したアルコキシド溶液を用意する工程。
・前記アルコキシド溶液に活物質粒子を混合して原料ゾルを作製する工程。
・連通孔を有する樹脂の表面に金属層を形成し、前記樹脂を溶融塩に浸漬した状態で、前記金属層をその金属の標準電極電位より卑な電位に保ちながら前記樹脂を加熱分解することによって金属からなる多孔質集電体を得る工程。
・前記多孔質集電体の空孔部に前記原料ゾルを充填する工程。
・熱処理により前記原料ゾルに含まれる金属アルコキシド又は金属アルコキシドの加水分解物を縮重合させて固体電解質とすることで、活物質粒子を固体電解質で固めた正極活物質相を前記空孔部に形成する工程。
・正極活物質相を加圧して、正極活物質相における隣接する粒子同士の輪郭線の一部が前記固体電解質を介して互いに沿い合うように各粒子を塑性変形させる工程。
【0034】
以上の工程を備える製造方法によれば、放電容量が大きく、かつサイクル特性に優れた本発明正極体を製造することができる。
【0035】
ここで、本発明正極体の製造方法では、原料ゾルから正極活物質相を形成する構成であるため、原料ゾルに含まれる金属アルコキシドもしくはその加水分解物を固体電解質に変化させる過程で、原料ゾルに含まれる溶媒が揮発し、正極活物質相に空隙部が形成される。しかし、本発明正極体の製造方法では、上記空隙部は、正極体を加圧処理する際に潰されるので、空隙部に起因する正極体のリチウムイオン伝導性の低下などは殆ど生じない。
【0036】
また、本発明製造方法のように多孔質集電体を使用すれば、狭窄した空間である空隙部において正極活物質粒子の動きが拘束されるので、正極体を加圧した際に、加圧の応力が活物質粒子に作用し易く、また正極活物質相に生じた空隙部が潰れ易い。しかも、多孔質集電体の表面の酸素量が3.1質量%以下であるので、本発明製造方法により得られる正極体の高率放電特性は優れる。しかも、加圧処理後の正極体の形状を保形する骨格の役割をするため、正極活物質相において一旦潰した空隙部がまた形成されることも殆どない。
【0037】
本発明において使用する樹脂としては、多孔質集電体を構成する金属の融点以下の温度で熱分解する材質であれば、任意に選択すればよい。たとえば、ポリウレタン、ポリプロピレン、ポリエチレン等がある。なかでも、発泡ウレタンは、気孔率が高いし、熱分解しやすい素材であるので、発泡ウレタンが本発明の樹脂として好ましい。また、樹脂の気孔率は80%〜98%、気孔径は50μm〜500μm程度のものが好ましい。樹脂は、連通孔を有することが好ましい。これにより、閉気孔が無い多孔体集電体が得られる。
【0038】
(8)本発明正極体の製造方法において、加圧処理は、100〜1000MPaの範囲で行うことが好ましい。
【0039】
この圧力範囲で加圧を行えば、確実に活物質粒子を塑性変形させることができる。また、この圧力範囲で加圧することで、正極活物質相に形成される空隙部をほぼ全て潰すことができるので、緻密な正極活物質相、即ち体積あたりの放電容量が高い正極活物質相を形成できる。
【0040】
(9)本発明の非水電解質電池は、上記のような本発明の製造方法で製造された正極体を備える非水電解質電池であることを特徴とする。
【0041】
このような発明の製造方法で製造された正極体を備える非水電解質電池とすることによって、放電容量が大きく、サイクル特性及び高率放電特性に優れたものとすることができる。なお、ここでいう非水電解質電池とは、一次電池及び二次電池の双方を含む。いずれであっても、その放電特性は優れる。
【発明の効果】
【0042】
本発明正極体の製造方法により作製された本発明正極体を使用することで、放電容量が大きく、サイクル特性及び高率放電特性に優れる電池を作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の正極体を備えるリチウムイオン電池(非水電解質電池)の概略縦断面図である。
【図2】本発明の正極体に備わる正極活物質相のSEM写真を模式的に示す模式図である。
【図3】本発明の正極体に用いられる多孔体集電体34の製造工程を示した模式図である。(a)は、連通孔を有する樹脂31の断面の一部を示す。(b)は、樹脂31の表面に金属層32が形成された状態(金属層被覆樹脂33)を示す。(c)は、金属層被覆樹脂33から樹脂31が消失した後の多孔質集電体34を示す。
【図4】溶融塩41の中での金属層被覆樹脂33の分解工程を説明するための模式図である。
【図5】本発明の正極体に使用されるアルミニウムからなる多孔質集電体の断面SEM写真である。
【図6】本発明の正極体に使用されるアルミニウムからなる多孔質集電体のEDX分析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、非水電解質電池において本発明正極体を適用した例を詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるわけではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
<非水電解質電池の全体構成>
【0045】
図1は、リチウムイオン電池(非水電解質電池)の概略縦断面図である。このリチウムイオン電池100は、正極層10と、負極層20と、これら電極層10,20の間に配される電解質層30を備える。正極層10は、空孔部を有する多孔質の正極集電体(多孔質集電体)11と、その空隙部に形成される正極活物質相12とを備える。負極層20は、負極集電体21と負極活物質層22とを備える。
【0046】
そして、本発明正極体は、上記電池構成のうち、正極層10として利用されるものである。図1に示すような電池100において、正極層10(即ち、本発明正極体) 以外の構成は公知の構成を利用できる。従って、以降の説明では正極体を中心に説明する。
【0047】
<正極体の製造方法>
本発明正極体は、以下の[1]〜[6]の工程を備える方法により製造される。
[1]縮重合することでリチウムイオン伝導性の固体電解質となる金属アルコキシド又は金属アルコキシドの加水分解物を溶媒に溶解したアルコキシド溶液を用意する工程。
[2]前記アルコキシド溶液に活物質粒子を混合して原料ゾルを作製する工程。
[3]連通孔を有する樹脂の表面に金属層を形成し、前記樹脂を溶融塩に浸漬した状態で、前記金属層をその金属の標準電極電位より卑な電位に保ちながら前記樹脂を加熱分解することによって金属からなる多孔質集電体を得る工程。
[4]前記多孔質集電体の空孔部に前記原料ゾルを充填する工程。
[5]熱処理により原料ゾルに含まれる金属アルコキシド又は金属アルコキシドの加水分解物を縮重合させて固体電解質とすることで、活物質粒子を固体電解質で固めた正極活物質相を前記空孔部に形成する工程。
[6]正極活物質相を加圧して、正極活物質相における隣接する粒子同士の輪郭線の一部が前記固体電解質を介して互いに沿い合うように各粒子を塑性変形させる工程。
【0048】
≪工程1≫
リチウムイオン伝導性の固体電解質としては、例えば、LiNbOや、LiTiO12、LiTaOなどを挙げることができる。また、縮重合により最終的に上記のような固体電解質を生成する金属アルコキシドとしては、例えば、エトキシリチウム(LiOC)とペンタエトキシニオブ(Nb(OC))の組み合わせが好適であり、これらが加水分解・縮重合すればLiNbOが生成される。その他、LiTi12を生成するには、金属アルコキシドとして、例えば、LiOCとTi(OC)を利用できるし、LiTaOを生成するには、例えば、LiOCとTa(OC)とを利用できる。一方、金属アルコキシドの加水分解物としては、上記金属アルコキシドが加水分解したものを利用できる。
【0049】
アルコキシド溶液の溶媒としては、溶質が金属アルコキシドの場合、例えば、エチルアルコールや、メチルアルコールなどのアルコール溶媒を利用できる。また、溶質が金属アルコキシドの加水分解物の場合、水溶媒を利用することもできるし、アルコール溶媒と水溶媒の混合溶媒を利用することもできる。
【0050】
アルコキシド溶液における溶質の濃度は特に限定されないが、5〜30mol/mlとすることが好ましい。この範囲の濃度とする利点については、後述する工程2の説明の際に述べる。
【0051】
≪工程2≫
原料ゾルを作製するにあたりアルコキシド溶液に混合する正極活物質の粒子として、リチウム含有酸化物を利用できる。このリチウム含有酸化物として、化学式でLiαOやLiβで表すことができる物質が好適である(但し、αおよびβは、Co、Mn、Niの少なくとも1種を含む)。具体的には、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、コバルトニッケル酸リチウム(LiCo0.3Ni0.7)、マンガン酸リチウム(LiMn)などが上げられる。さらに、チタン酸リチウム(LiTi12)、リチウムマンガン酸化合物(LiMMn2−y;M=Cr、Co、Ni)、リチウム燐酸鉄およびその化合物(LiFePO、LiFe0.5Mn0.5PO)であるオリビン化合物等の遷移金属酸化物材料が挙げられる。また、TiS、V、FeS、FeS、LiMS(Mは、Mo、Ti、Cu、Fe、Ni等の遷移金属、又はSb、Sn、Pb)のような硫化物系カルコゲン化物、TiO、Cr、V、MnO等のような金属酸化物を骨格としたリチウム金属酸化物等が挙げられる。なお、原料ゾルは、アセチレンブラックなどの導電助剤を含んでも良い。
【0052】
アルコキシド溶液に正極活物質の粒子を混合した原料ゾルにおける正極活物質粒子の濃度は、作製する正極体における正極活物質の量や、上述したアルコキシド溶液における溶質(金属アルコキシドもしくはその加水分解物)の濃度により適宜選択すれば良いが、概ね5〜50g/mlの範囲とすることが好ましい。ここで、工程1におけるアルコキシド溶液における溶質の濃度を5〜30mol/mlとすると、アルコキシド溶液の粘度は概ね200〜500mPa・sとなる。その場合、本工程2において、アルコキシド溶液に活物質粒子を混合する際、活物質粒子を容易に原料ゾル中に均等に分散させることができる。
【0053】
≪工程3≫
工程3については、図3を参照しながら説明する。
【0054】
≪工程3−1≫
図3(a)は、連通孔を有する樹脂の断面の一部を示す拡大模式図であり、樹脂31を骨格として孔が形成されている様子を示している。ここで、連通孔を有する樹脂としては、発泡樹脂、又は繊維を絡めた不織布が用いられる。発泡樹脂の素材は、表面に形成する金属層を構成する金属の融点以下の温度で分解可能なものであれば、任意の樹脂を選択できる。たとえば、ポリウレタン、ポリプロピレン、ポリエチレン等がある。発泡樹脂の気孔率は、80%〜98%が好ましい。発泡樹脂の気孔径は、50μm〜500μmとするのが好ましい。発泡ウレタンは、気孔率が高く、気孔の連通性や孔径の均一性が高く、また、熱分解性にも優れる。そのため、発泡ウレタンを使用することが好ましい。
【0055】
次に、連通孔を有する樹脂31の表面に金属層32を形成することにより、金属層で被覆した樹脂を得る(図3(b))。その後、金属層被覆樹脂33から、樹脂31を加熱分解して消失させると、金属層32のみが残った金属多孔体34が得られる(図3(c))。
【0056】
樹脂の表面に金属層を形成する方法としては、(i)真空蒸着法、スパッタリング法又はプラズマCVDなどに代表される気相法、(ii)めっき法、又は(iii)アルミニウムペースト塗布法を用いることが好ましい。
【0057】
(i)について:真空蒸着法では、金属を溶融・蒸発させて、これを連通孔を有する樹脂の表面に付着させることにより、金属層を形成させることができる。スパッタリング法では、ターゲットである金属にプラズマ照射して気化した金属を、連通孔を有する樹脂の表面に付着させることにより、金属層を形成させることができる。プラズマCVD法では、原料である金属に高周波を印加することによりプラズマ化させ、これを連通孔を有する樹脂の表面に付着させることにより、金属層を形成することができる。
【0058】
(ii)について:金属層としてアルミニウム層を形成する場合には、溶融塩中でアルミニウムをめっきする溶融塩電解めっきを行うことが好ましい。この場合において、樹脂の表面を導電化処理した後に、溶融塩中でアルミニウムをめっきすることが好ましい。ここで用いる溶融塩は、後述する工程3−2から工程3−3で用いる溶融塩41と同じであっても、異なっていても良い。たとえば、塩化カリウム、塩化アルミニウム、塩化ナトリウム等の溶融塩が好ましい。また、AlCl−XCl(X:アルカリ金属)の2成分系あるいは多成分系の塩を使用し、共晶溶融塩として使用してもよい。共晶溶融塩にした場合、溶融温度が低下するので好ましい。この溶融塩中には、少なくともアルミニウムイオンが含まれている必要がある。
【0059】
(iii)について:樹脂の表面に金属ペーストを塗布する場合において、その金属ペーストは、たとえば、金属粉末、結着剤(バインダー樹脂)及び有機溶剤が混合されたものである。具体的には、金属ペーストを樹脂の表面に塗布した後、加熱して有機溶剤及びバインダー樹脂を消失させるとともに、金属ペースト中に含まれていた金属を焼結させる。焼結時の加熱は、一段階でおこなっても複数回に分けておこなっても良い。例えば、金属ペーストを塗布した後に低温で加熱して有機溶剤を消失させた後、溶融塩中に浸漬して加熱することにより、発泡樹脂の分解と同時に金属ペーストの焼結を行っても良い。アルミニウムペーストの焼結は、非酸化性雰囲気下で行うことが好ましい。
【0060】
≪工程3−2≫
次に、図4に示すように、金属層被覆樹脂33と正極42とを、溶融塩41に浸漬し、金属層32をその金属の標準電極電位より卑な電位に保つ。これにより、金属層32の酸化が抑制される。金属層が保たれるべき電位は、その金属の標準電極電位より卑で、かつ溶融塩中のカチオンの還元電位より貴である。ここで、正極42は、溶融塩に不溶性を示せば適宜選択することができるが、たとえば、白金、チタンなどが用いられる。
【0061】
≪工程3−3≫
この状態で、樹脂31の分解温度以上に溶融塩41を加熱すると、金属層被覆樹脂33を構成している樹脂31のみが分解して消失する。その結果、多孔質金属体34が得られる。これを非水電解質電池の電極に用いて集電の機能を持たせる場合、多孔質集電体と呼ぶ。
【0062】
この場合において、金属の溶融を防ぐため、加熱温度はその金属の融点以下とする必要がある。たとえば、金属層としてアルミニウムを選択する場合には、アルミニウムの融点である660℃以下で加熱する。
【0063】
多孔質集電体における空孔率(集電体に占める全空孔の合算割合)の好ましい値は90〜98体積%、より好ましい値は95〜98体積%である。このような空孔率の集電体であれば、十分な集電面積を確保できると共に、高出力の電池に要求される量を含む原料ゾルを充填できる。
【0064】
≪工程4≫
工程4において、前記した工程2で用意した原料ゾルを多孔質集電体の空孔部に充填するには、例えば、真空容器内で原料ゾルに多孔質集電体を浸漬し、真空容器を真空引きすれば良い。このようにすれば、多孔質集電体の空孔部に余すところなく原料ゾルを含浸させることができる。
【0065】
そのほかにも、原料ゾルを多孔質集電体に充填するための方法としては、浸漬充填法、又は塗工法(たとえば、ロール塗工法、アプリケーター塗工法、静電塗工法、粉体塗工法、スプレー塗工法、スプレーコーター塗工法、バーコーター塗工法、ロールコーター塗工法、ディップコーター塗工法、ドクターブレード塗工法、ワイヤーバー塗工法、ナイフコーター塗工法、ブレード塗工法及びスクリーン印刷法など)が用いられる。
【0066】
≪工程5≫
金属アルコキシドを加水分解・縮重合させるか、あるいは金属アルコキシドの加水分解物を縮重合させて固体電解質とするには、熱処理を行えば良い。熱処理条件は、200〜300℃×0.5〜6hとすることが好ましい。この温度で固体電解質を生成すると、熱により正極集電体が軟化してその強度が低下したり、原料ゾルに含まれる正極活物質が分解したりすることがない。また、この条件の熱処理によれば、固体電解質が非晶質構造となり易い。固体電解質のなかでもLiNbOやLiTaOなどは、非晶質構造の方が、結晶質構造のときよりもリチウムイオン伝導性に優れる。
【0067】
この工程5により、多孔質集電体の空孔部を埋めるように正極活物質相が形成された正極体が作製される。工程5が終了した時点の正極活物質相における活物質粒子同士は所々点接触しているような状態であり、粒子間のリチウムイオン伝導性が低い。また、このような状態であるため、粒子間の隙間の平均距離が長い。粒子間の隙間にはリチウムイオン伝導性の固体電解質が配置されているので、リチウムイオンの伝導を確保することはできるものの、平均距離が長いと正極活物質相全体のリチウムイオン伝導性は低くなってしまう。しかも、正極活物質相には、原料ゾルの溶媒が揮発したことにより形成される空隙部が生じている。
【0068】
≪工程6≫
多孔質集電体の空孔部に正極活物質相を形成した正極体を加圧するには、正極体を両面から圧縮するようにすれば良い。具体的には、正極体の表面と裏面とが互いに近づく方向に圧力をかける。この加圧により、正極活物質相中の隣接する正極活物質粒子同士の一部が互いに沿い合うように塑性変形する。同時に、工程5で正極活物質相に生じた空隙部も潰されて無くなる。ここで、本発明正極体では、金属からなる多孔質集電体を使用しているため、この集電体が骨格の役割をして、加圧により変形した正極体の形状が保形される。
【0069】
加圧処理の圧力は、100〜 1000MPaの範囲とすることが好ましい。この範囲の圧力で加圧すれば、活物質粒子の種類によらず、粒子を塑性変形させることができるし、空隙部も殆ど無くすことができる。
【0070】
<正極体>
以上の工程を経て得られた正極体は、金属からなる正極集電体と、正極集電体の一面側に設けられる正極活物質相とを備える。また、正極活物質相は、正極活物質の粒子群と、これら粒子群を固める固体電解質とを有する。そして、本発明正極体の正極活物質相における粒子群の状態は、図2に示すようになっている。
【0071】
図2は、後述する実施例において、電池Aの正極体に備わる正極活物質相の断面を模式的に示す図である。この図2に示すように、正極活物質相12中に含まれる隣接する正極活物質粒子1の組み合わせのうち、互いの輪郭線の一部が沿い合っている組み合わせが存在する。より具体的には、隣接する一対の活物質粒子の互いに沿い合う長さが、これら一対の粒子のうち、少なくとも一方の粒子における輪郭線の全長の30%以上を占める粒子の組み合わせが存在する。さらに、このような互いの輪郭線の一部が沿い合っている粒子の組み合わせは、全ての組み合わせの30%以上を占めている。隣接する活物質粒子1同士の輪郭線の一部が互いに沿い合うのは、正極体を両側から挟み込むように圧縮することで粒子1が塑性変形したためである(上記製造方法における工程6を参照)。通常、用意した各粒子の外形はそれぞれ異なっているため、単に粒子を固体電解質で固めただけで加圧しなければ(あるいは加圧が弱ければ)、粒子同士の輪郭線のごく一部であっても互いに沿い合うことは殆どない。仮に、輪郭線の一部が沿い合うことがあっても、それは輪郭線の5%以下である。
【0072】
活物質粒子が塑性変形していることは、上記のように視覚的に確認することの他、特定の物理量を測定することで確認することもできる。例えば、X線回折を用いて、加圧した正極体における活物質粒子のピークが、原料となる活物質粒子のピークからズレていることを確認し、それによって活物質粒子に歪みが導入されたこと、即ち、活物質粒子が塑性変形したことを確認することができる。
【0073】
<正極層以外の電池構成>
≪負極層≫
負極層は、既に述べたように負極活物質層と負極集電体とを備える。負極活物質層は、LiやSi、Inあるいはこれらの合金などの負極活物質からなる層である。また、負極集電体は、AlやNi、Feなどの金属、あるいはこれらの合金からなる層である。但し、負極活物質の選択によっては、負極活物質層自身に集電体の役割を兼ねさせることができる。その場合、負極集電体は省略することができる。
【0074】
≪電解質層≫
電解質層は、LiS−Pなど硫化物固体電解質や、Li−P−O−Nなどの酸化物固体電解質とすることができる。硫化物系固体電解質は、リチウム、リン及び硫黄のみからなるものであっても良いし、さらに、O、Al、B、Si、Geなどの他の物質を含んでも良い。硫化物系固体電解質は、公知の方法により得ることができる。たとえば、原材料としての硫化リチウム(LiS)及び五硫化二燐(P)を、50:50〜80:20の割合で混合した後、これを溶融させて急冷させる(溶融急冷法)、又はこれをメカニカルミリング処理させる(MM処理)ことによって得ることができる。これらによって得られる硫化物系固体電解質は、非晶質である。この非晶質の状態のまま使用しても良いし、さらに、加熱処理して結晶性の硫化物系固体電解質にした後に使用しても良い。
【0075】
また、電解質層は、有機溶媒にLiPFなどのリチウムイオン伝導物質を溶解させた非水系有機電解液とすることもできる。有機電解液の場合、正極層と負極層との間に両者を絶縁するセパレータ(例えば、ポリプロピレンやポリエチレンなど)を配置する。
【0076】
≪その他≫
上記電解質層が硫化物系固体電解質である場合、電解質層と正極活物質相との界面で抵抗を生じる場合がある。そこで、固体の電解質層と正極活物質相との間に、界面抵抗の低減をするために緩衝層を設けることが好ましい。緩衝層としては、リチウム含有酸化物、(例えば、LiNbOなど)を利用することができる。
【実施例】
【0077】
本発明の実施例としては、最初に、固体電解質系リチウムイオン二次電池による電池A、電池B、電池C、電池D及び電池Eを用いて、本発明を評価した結果を示す。その後、電解液系リチウムイオン二次電池による電池F及び電池Gを用いて、本発明を評価した結果を示す。
【0078】
<電池A>
≪アルミニウム多孔体の製造≫ 多孔質金属体として、アルミニウム多孔体を製造した。樹脂として、気孔率97%、気孔径約300μmのポリウレタンフォームを準備した。これを20mm角に切断した。このポリウレタンフォームの表面に、真空蒸着法により、アルミニウム層を形成した。アルミニウム層の厚みをSEM観察した結果、その厚みは15μmであった。続いて、表面にアルミニウム層が形成されたポリウレタンフォームを、温度500℃のLiCl−KCl共晶溶融塩に浸漬し、さらに、アルミニウム層を、アルミニウムの標準電極電位に対して−1Vの電位となるように、30分間印加した。このとき、溶融塩中に気泡が発生した。これは、ポリウレタンの分解反応が起こっているものと推定される。得られたアルミニウム多孔体を大気中で室温まで冷却した後、水洗して溶融塩を除去した。以上により、電池Aに用いる多孔質集電体(アルミニウム多孔体)を得た。
【0079】
電池Aの多孔質集電体(アルミニウム多孔体)のSEM写真を図5に示す。図5より、アルミニウム多孔体が連通孔を有する一方で閉気孔を有していないこと、及びその気孔率が高いことがわかった。電池Aの多孔質集電体(アルミニウム多孔体)の表面について、15kVの加速電圧でEDX分析した。その結果を図6に示す。酸素のピークは、ほとんど観測されなかった。したがって、アルミニウム多孔体の酸素量は、EDXの検出限界(3.1質量%)以下であることが分かった。なお、この分析で用いられた装置は、EDAX社製の「EDAX Phonenix」であり、その型式はHIT22 136−2.5であった。
【0080】
≪正極体の作製≫ 炭酸コバルト(CoCO)粉末と炭酸リチウム(LiCO)粉末とを等モル量混合した後、900℃で6時間焼成してLiCoO粉末を得た。LiCoO粉末の平均粒径(50%粒径)は10μmであった。
【0081】
次に、エトキシリチウム(LiOC)とペンタエトキシニオブ(Nb(OC)の等モル混合物をエタノール溶媒に溶解したアルコキシド溶液を用意した。アルコキシド溶液における等モル混合物の含有割合は、15mol/mlであった。また、アルコキシド溶液の粘度は200mPa・sであった。作製したアルコキシド溶液6mlに対して、LiCoO粉末を100g混合することで原料ゾルを作製した。つまり、LiCoOの含有割合は、16.7g/mlであった。
【0082】
作製した原料ゾルに多孔質集電体(アルミニウム多孔体)を浸漬して真空容器に収納し、真空容器全体を50kPaに真空引きした。この浸漬と真空引きにより、多孔質集電体(アルミニウム多孔体)の空孔部内に原料ゾルを含浸させた。なお、この多孔質集電体の平均厚さは100μm、空孔率は95体積%であった。
【0083】
その後、原料ゾルが充填された多孔質集電体を、大気中にて75℃で1h加熱し、原料ゾルに含まれるエタノール溶媒を除去すると共に、エトキシリチウムとペンタエトキシニオブを加水分解・縮重合させてLiNbOに変化させた。これにより、正極活物質の粒子群が固体電解質中にほぼ均等に分散された状態で固定された正極活物質相を多孔質集電体の空孔部に備える正極体を形成した。
【0084】
最後に、正極体を両側から挟み込むようにして500MPaで加圧し、本発明正極体を完成させた。
【0085】
作製した正極体について、その断面を走査型電子顕微鏡で観察したところ、多孔質集電体の空孔部を埋めるように正極活物質相が形成されていることが観察された。
【0086】
図2は、上記条件で作製した正極体の正極活物質相の断面におけるSEM 写真を模式的に示すものである。図2に示す正極活物質相12における正極活物質粒子1の状態をより詳細に観察すると、活物質粒子1が塑性変形して、隣接する粒子1同士の輪郭線の一部が互いに沿い合っていた。また、正極活物質粒子1を固める固体電解質2は、実質的に粒界の無い均質な相であった。さらに、観察した視野においては、正極活物質相12に空隙部は確認されなかった。このような正極活物質相12の断面における固体電解質2の面積割合は、約3%であり、隣接する粒子1間の距離は500nm以下の部分が殆どであった。
【0087】
≪リチウムイオン電池の作製≫ 次に、作製した正極体を使用して、非水電解質電池としてのリチウムイオン電池を作製した。まず、作製した各正極体を基板として、その一面側にLiNbOからなる平均厚さ10nmの緩衝層をエキシマレーザアブレーション法により形成した。緩衝層は、正極層10(正確には、正極層10の一面側に露出している正極活物質相12)と固体電解質層30との間の抵抗を下げる。緩衝層の上にLiS+Pからなる平均厚さ10μmの固体の電解質層30をエキシマレーザアブレーション法により形成した。最後に、電解質層30の上にLiからなる平均厚さ4μmの負極活物質相22を抵抗加熱法により形成した。この負極活物質相22は、集電体の役割を兼ねるため、負極集電体21は設けなかった。
【0088】
<電池B>
多孔質集電体としてニッケル多孔体を使用したこと以外は、電池Aと同様の方法で、リチウムイオン電池を作成した。ここでニッケル多孔体としては、Ni発泡金属であるニッケルセルメット(住友電気工業株式会社の登録商標)を用いた。このニッケル多孔体の平均厚さは100μm、空孔率は95体積%であった。また、電池Bの多孔質集電体(ニッケル多孔体)の表面について、15kVの加速電圧でEDX分析した結果、ニッケル多孔体の酸素量は、EDXの検出限界(3.1質量%)以下であることが分かった。
【0089】
<電池C>
電池Aで作成したアルミニウム多孔体の空孔部に正極活物質相を形成した後に加圧することなく完成させた正極体を用いたこと以外は、電池Aと同様の方法で、リチウムイオン電池を作製した。
【0090】
電池Cの正極体に備わる正極活物質相における正極活物質粒子の状態を観察すると、活物質粒子が塑性変形しておらず、隣接する粒子同士が点接触したような状態となっていた。また、正極活物質相には、アルコキシド溶液の溶媒を揮発させたことにより発生したと考えられる空隙部が形成されていた。このような正極活物質相の断面における固体電解質の面積割合は、約3%であった。また、加圧処理を行っていないため、隣接する粒子間の距離は1000nm以上の部分が殆どであった。
【0091】
<電池D>
孔径が200μm〜500μmであり、空孔率が97%で、厚みが2.0mmの発泡ウレタン樹脂を準備した。この発泡ウレタン樹脂を、真空蒸着の装置内に配置した。レーザ照射によってアルミニウム金属を溶融・蒸発させる真空蒸着法により、発泡ウレタン樹脂の表面にアルミニウム膜を蒸着させた。その後、大気中で550℃の熱処理をすることにより、発泡ウレタン樹脂を熱分解して除去した。これにより、電池Dの多孔質集電体(アルミニウム多孔体)を得た。電池Dのアルミニウム多孔体の表面について、電池Aの場合と同様の方法により、15kVの加速電圧でEDX分析した。その結果、酸素のピークが観測され、電池Dの多孔質集電体(アルミニウム多孔体)の表面の酸素量は、少なくとも3.1質量%を超えることが分かった。熱処理する際に、多孔質集電体(アルミニウム多孔体)の表面が酸化したためである。
【0092】
この電池Dに使用する多孔質集電体(アルミニウム多孔体)を用いたこと以外は、電池Aと同様の方法によって、電池Dを製造した。
【0093】
<電池E>
焼結体からなる正極活物質層を備える正極体を用いて、電池Eの電池を作製した。電池Eにおける正極体は、まず、焼結体からなる正極活物質層を用意して、この活物質層の一方の面に気相法により正極集電体を蒸着することで得た。正極体における活物質層と集電体の厚さはそれぞれ、体積換算したときに、多孔質集電体の体積と正極活物質相の体積と等しくなるようにした。この正極体以外の電池構成は、電池Aと同じとした。
【0094】
<電池A〜Eの性能評価>
作製した電池A、B、C、D及びEについて、0.05mAの定電流で4.2Vまで充電し、3Vで放電したときの放電容量(mAh/cm)を測定した。また、放電開始時の電圧降下により、電池の内部抵抗を求めた。さらに、それぞれの電池の容量維持率(%)を測定した。容量維持率は、100サイクル中の最大の放電容量で100サイクル目の放電容量を除したものである。これらの測定の結果を表1に示す。
【0095】
【表1】

【0096】
表1に示すように、電池Aについては、電池Cに比べて、内部抵抗が低く、放電容量が高い上、サイクル特性に優れていた。両電池の相違点は、正極活物質相における活物質粒子が塑性変形しているか否かであるため、活物質粒子が塑性変形するまで正極体を圧縮することが、重要であることが明らかになった。また、電池Bの結果を考慮すると、多孔質集電体がニッケルからなる場合にも、同様の効果が得られることがわかった。
【0097】
また、表面の酸素量が3.1質量%以下である多孔質集電体を用いた電池Aは、表面の酸素量が3.1質量%超である電池Dに比べて、放電容量の点で優れ、とりわけ、高率放電時(0.25mA放電時)に放電容量の低下を示さなかった。さらに、電池Aは、焼結体からなる正極体を使用した電池Eに比べて、内部抵抗、放電容量及びサイクル特性の全てにおいて優れていた。
【0098】
次に、有機電解液系リチウムイオン二次電池による電池F及び電池Gについて、以下の方法により評価した。
【0099】
<電池F>
電池Fの正極としては、電池Aの正極体を製造した方法と同様の方法で製造した正極体を用いた。この正極体の一面側に、電池Aの場合と同様に、LiNbOからなる平均厚さ10nmの緩衝層をエキシマレーザアブレーション法により形成した。次に、平均厚さ20μmの微多孔膜からなるセパレータと、平均厚さ100μmのLi−Al合金からなる負極体を準備した。
【0100】
以上の正極体と負極体とを、セパレータを介して積層させ、最後に、有機電解液として、1M−LiPF/EC:DEC(1:1)を注液した。これにより、電池Fを作成した。
【0101】
<電池G>
電池Gの正極としては、電池Bの正極体を製造した方法と同様の方法で製造した正極体を準備した。次に、平均厚さ20μmの微多孔膜からなるセパレータと、平均厚さ100μmのLi−Al合金からなる負極体を準備した。
【0102】
以上の正極体と負極体とを、セパレータを介して積層させ、最後に、有機電解液として、1M−LiPF/EC:DEC(1:1)を注液した。これにより、電池Gを作成した。
【0103】
<電池F、Gの性能評価>
電池Fと電池Gについて、サイクル試験をおこなった。サイクル試験の条件は、正極体の電位が貴となるように、以下の条件とした。
充電:0.03mAで4.4Vまで定電流充電
放電:0.03mAで3.0Vまで定電流放電
【0104】
その結果、有機電解液を用いたリチウムイオン二次電池においては、アルミニウムからなる正極集電体を用いた電池Fは、ニッケルからなる正極集電体を用いた電池Gに比べて優れていた。具体的には、放電容量が初期放電容量の50%に低下するまでのサイクル数が、電池Fでは1000サイクルであったのに対し、電池Gでは750サイクルであった。以上のように、電解液系リチウムイオン二次電池にとってやや厳しい条件となる4.4V充電サイクル試験の場合には、アルミニウムを正極集電体とする電池の方が、ニッケルを正極集電体とする電池よりも、優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明正極体の製造方法で作製された本発明正極体は、携帯機器や電動車両などの電源に利用される非水電解質電池の正極層として好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0106】
100 リチウムイオン電池(非水電解質電池)
10 正極層
11 多孔質集電体
12 正極活物質相
20 負極層
21 負極集電体
22 負極活物質層
30 電解質層
1 正極活物質粒子
2 固体電解質
31 樹脂
32 金属層
33 金属層被覆樹脂
34 多孔質金属体(多孔質集電体)
41 溶融塩
42 正極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属からなる多孔質集電体と、前記多孔質集電体の空孔部に担持される正極活物質相とを備える非水電解質電池用正極体であって、
前記正極活物質相は、正極活物質の粒子群とこれら粒子群を固める固体電解質とを有し、かつ、隣接する粒子同士の輪郭線の一部が前記固体電解質を介して互いに沿い合っており、
前記正極活物質相と接触している前記多孔質集電体の表面の酸素量が、3.1質量%以下であることを特徴とする非水電解質電池用正極体。
【請求項2】
前記多孔質集電体がアルミニウムからなることを特徴とする請求項1に記載の非水電解質電池用正極体。
【請求項3】
前記多孔質集電体の骨格が中空糸状であることを特徴とする請求項1又は2に記載の非水電解質電池用正極体。
【請求項4】
金属からなる多孔質集電体と、前記多孔質集電体の空孔部に担持される正極活物質相とを備える非水電解質電池用正極体であって、
前記正極活物質相は、正極活物質の粒子群とこれら粒子群を固める固体電解質とを有し、かつ、隣接する粒子同士の輪郭線の一部が前記固体電解質を介して互いに沿い合っており、
前記多孔質集電体が、連通孔を有し、閉気孔を有さず、
前記多孔質集電体は、アルミニウムのみからなることを特徴とする非水電解質電池用正極体。
【請求項5】
前記正極活物質相の任意断面に占める前記固体電解質の面積割合が20%以下であることを特徴とする請求項1、2、3又は4に記載の非水電解質電池用正極体。
【請求項6】
前記多孔質集電体における空孔部の占める割合である空孔率は、90〜98体積%であることを特徴とする請求項1、2、3、4又は5に記載の非水電解質電池用正極体。
【請求項7】
非水電解質電池用正極体の製造方法であって、
縮重合することによりリチウムイオン伝導性固体電解質となる金属アルコキシド又は金属アルコキシドの加水分解物を溶媒に溶解したアルコキシド溶液を用意する工程と、
前記アルコキシド溶液に正極活物質の粒子を混合して原料ゾルを作製する工程と、
連通孔を有する樹脂の表面に金属層を形成し、前記樹脂を溶融塩に浸漬した状態で、前記金属層をその金属の標準電極電位より卑な電位に保ちながら前記樹脂を加熱分解することによって金属からなる多孔質集電体を得る工程と、
前記多孔質集電体の空孔部に前記原料ゾルを充填する工程と、
熱処理により前記原料ゾルに含まれる金属アルコキシド又は金属アルコキシドの加水分解物を縮重合させて固体電解質とすることで、活物質粒子を固体電解質で固めた正極活物質相を前記空孔部に形成する工程と、
正極活物質相を加圧して、正極活物質相における隣接する粒子同士の輪郭線の一部が前記固体電解質を介して互いに沿い合うように各粒子を塑性変形させる工程と、
を備えることを特徴とする正極体の製造方法。
【請求項8】
加圧処理は、100〜1000MPaの範囲で行うことを特徴とする請求項7に記載の非水電解質電池用正極体の製造方法。
【請求項9】
請求項7又は8に記載された製造方法により製造された正極体を備える非水電解質電池。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図2】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−249254(P2011−249254A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−123668(P2010−123668)
【出願日】平成22年5月31日(2010.5.31)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】