説明

非水電解質電池用電極の製造方法、非水電解質電池用電極及び非水電解質電池

【課題】 アルミニウム多孔体であってその表面の酸素量の少ないものを集電体として提供し、また、このような集電体に正極活物質を充填させた電極とすることにより、放電特性に優れる非水電解質電池を提供することを目的とする。
【解決手段】 アルミニウム多孔体を製造する工程の後にアルミニウム多孔体に活物質を充填する非水電解質電池用電極の製造方法であって、その工程では、連通孔を有する樹脂の表面にアルミニウム層を形成し、樹脂を溶融塩に浸漬した状態で、アルミニウム層をアルミニウムの標準電極電位より卑な電位に保ちながら樹脂を加熱分解する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム多孔体を用いた非水電解質電池用電極の製造方法、非水電解質電池電極及び非水電解質電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯情報端末、電動車両及び家庭用電力貯蔵装置に用いられるリチウムイオン二次電池が活発に研究されている。リチウムイオン二次電池は、正極、負極及び電解質から構成され、その充電又は放電は、正極と負極との間をリチウムイオンが輸送されることによりおこなわれる。一般的に、正極は正極集電体と正極合剤から構成され、負極は、負極集電体と負極合剤から構成される。
【0003】
正極集電体としては、アルミニウム箔を用いる場合が知られているほか、三次元的に多孔を有するアルミニウムからなる多孔質金属体を用いる場合が知られている。そのアルミニウムからなる多孔質金属体として、アルミニウムを発泡させることにより作られたアルミニウム発泡体が知られる。たとえば、特許文献1には、アルミニウム金属を溶融させた状態で発泡剤及び増粘剤を加えて攪拌するというアルミニウム発泡体の製造方法が開示されている。このアルミニウム発泡体は、その製造方法の特質上、多数の独立気泡(閉気孔)を含んでいる。
【0004】
ところで、多孔質金属体としては、連通孔を持ち、気孔率の高い(90%以上)ニッケル多孔体が広く知られている。このニッケル多孔体は、発泡ウレタン等の連通孔を有する発泡樹脂の骨格表面にニッケル層を形成した後、発泡樹脂を熱分解し、さらにニッケルを還元処理することによって製造される。しかし、このニッケル多孔体をリチウムイオン二次電池の正極集電体に用いたとすれば、ニッケル多孔体が腐食するという問題ある。すなわち、ニッケル多孔体に、遷移金属酸化物を含む活物質を主成分とする正極合剤スラリーを充填する際に、ニッケル多孔体が強アルカリ性を示す正極合剤スラリーにより腐食される。この問題に加え、さらに、有機電解液の中で正極集電体であるニッケル多孔体の電位が貴になった際に、ニッケル多孔体の耐電解液性が劣るという問題も指摘されている。一方、多孔体を構成する材質がアルミニウムであれば、このような問題を生じない。
【0005】
そこで、ニッケル多孔体の製造方法を応用したアルミニウム多孔体の製造方法も開発されている。たとえば、特許文献2にその製造方法が開示されている。すなわち、「三次元網目状構造を有する発泡樹脂の骨格に、メッキ法もしくは蒸着法、スパッタ法、CVD法などの気相法より、Alの融点以下で共晶合金を形成する金属による皮膜を形成した後、Al粉末と結着剤及び有機溶剤を主成分としたペーストを上記皮膜を形成した発泡樹脂に含浸塗着し、次いで非酸化性雰囲気において550℃以上750℃以下の温度で熱処理をする金属多孔体の製造方法」が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−371327号公報
【特許文献2】特開平8−170126号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、従来のアルミニウム多孔体は、いずれも、非水電解質電池用電極の集電体として採用するには適しないという問題があった。
【0008】
すなわち、アルミニウム多孔体のうちアルミニウム発泡体は、その製造法の特質上、閉気孔を有するので、発泡によって表面積が大きくなってもその表面全てを有効に利用することができない。そのため、非水電解質電池の電極のための集電体として採用するには、元来、適していない。
【0009】
次に、ニッケル多孔体の製造方法をアルミニウムに応用させたアルミニウム多孔体については、その製造方法において、アルミニウムを融点以上の温度に加熱する必要があるため、冷却するまでの間に、アルミニウムの酸化が進みやすく、表面に酸化皮膜ができやすい。アルミニウムは酸化しやすく、またいったん酸化すると融点以下の温度で還元するのは困難である。したがって、このような従来のアルミニウム多孔体は、その表面の酸素量が多い。このように、酸素量が多いアルミニウム多孔体を正極集電体として利用した正極は、非水電解質電池に使用された場合に放電特性が劣るという問題があった。
【0010】
しかも、このような製造方法により得られるアルミニウム多孔体中には、アルミニウムのほかに、アルミニウムと共晶合金を形成する金属が含まれざるを得ないという問題もあった。
【0011】
本発明はこのような問題に鑑みなされたものである。本発明は、アルミニウム多孔体であってその表面の酸素量の少ないものを集電体として提供し、また、このような集電体に活物質を充填させた電極とすることにより、放電特性に優れる非水電解質電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
以下に、課題を解決するための手段を順次説明する。なお、以下の説明において丸括弧で記載した番号は説明の便宜上付されたものであり、特許請求の範囲における請求項の番号と一致するものではない。
【0013】
(1)本発明は、アルミニウム多孔体を製造する工程の後に前記アルミニウム多孔体に活物質を充填する非水電解質電池用電極の製造方法であって、前記工程では、連通孔を有する樹脂の表面にアルミニウム層を形成し、前記樹脂を溶融塩に浸漬した状態で、前記アルミニウム層をアルミニウムの標準電極電位より卑な電位に保ちながら前記樹脂を加熱分解することを特徴とする。
【0014】
本発明においては、樹脂の分解を溶融塩中で行い、その樹脂の表面のアルミニウム層をアルミニウムの標準電極電位より卑な電位に保ちながら、樹脂を加熱分解することが特徴である。これにより、アルミニウム多孔体の表面の酸素量を3.1質量%以下とすることが初めて可能となる。また、これにより、アルミニウムのみからなる多孔体であって、連通孔を有する一方で閉気孔を有しないものを初めて得ることが可能となる。
【0015】
そして、このアルミニウム多孔体に活物質を充填することにより得られた非水電解質電池用電極は、優れた放電特性(特に、高率放電特性)を示す。具体的な評価結果は、後述の実施例において示す。
【0016】
本発明の非水電解質電池用電極の製造方法について、図面を参照しながら説明する。製造方法の第一段階では、連通孔を有するアルミニウム多孔体を製造し、第二段階では、そのアルミニウム多孔体に活物質(及び必要に応じて固体電解質)を充填する。
【0017】
図1は、その第一段階の概略を示す模式図である。図1(a)は、連通孔を有する樹脂1の断面の一部を示す拡大模式図であり、樹脂1を骨格として孔が形成されている様子を示している。図1(b)は、連通孔を有する樹脂1の表面にアルミニウム層2が形成された様子(アルミニウム層被膜樹脂3)を示している。図1(c)は、アルミニウム層被膜樹脂3から樹脂1を熱分解させて消失させた後の様子(アルミニウム多孔体4)を示している。
【0018】
図2は、アルミニウム層被膜樹脂3から、樹脂1を熱分解して消失させる工程を示す。アルミニウム層被膜樹脂3及び正極5を溶融塩6に浸漬し、アルミニウム層2をアルミニウムの標準電極電位より卑な電位に保つ。溶融塩中に浸漬してアルミニウム層2をアルミニウムの標準電極電位より卑な電位に保つことにより、アルミニウム層2の酸化が抑制される。なお、正極5には、溶融塩に不溶性を示す材料であれば適宜選択して用いることができるが、たとえば、白金、チタンなどからなる電極が用いられる。
【0019】
この状態で、樹脂1の分解温度以上に溶融塩6を加熱すると、アルミニウム層被膜樹脂3のうち樹脂1のみが分解して消失する。その結果、アルミニウム多孔体4が得られる。この方法により製造されたアルミニウム多孔体4は、製造法の特質上、中空糸状である。この点において、特許文献1で開示するようなアルミニウム発泡体の構造とは異なっている。なお、樹脂1を分解させるに際しては、アルミニウムの溶融を防ぐため、加熱温度はアルミニウムの融点以下とする。具体的には、アルミニウムの融点である660℃以下で加熱することが好ましい。
【0020】
次に、第二段階として、アルミニウム多孔体4に、活物質(及び必要に応じて固体電解質)を充填する。充填するための方法として、公知の方法が使用される。具体的には、浸漬充填法、又は塗工法(たとえば、ロール塗工法、アプリケーター塗工法、静電塗工法、粉体塗工法、スプレー塗工法、スプレーコーター塗工法、バーコーター塗工法、ロールコーター塗工法、ディップコーター塗工法、ドクターブレード塗工法、ワイヤーバー塗工法、ナイフコーター塗工法、ブレード塗工法及びスクリーン印刷法など)が用いられる。なお、活物質及び固体電解質としては、後述(F)及び(G)に記載されたものが用いられる。
【0021】
(2)前述の第一段階において、樹脂1の表面にアルミニウム層2を形成する方法としては、(i)真空蒸着法、スパッタリング法若しくはプラズマCVDなどに代表される気相法、(ii)めっき法、又は(iii)アルミニウムペースト塗布法を用いることが好ましい。
【0022】
(i)について:真空蒸着法では、アルミニウム金属を溶融・蒸発させ、これを連通孔を有する樹脂の表面に付着させることにより、アルミニウム層を形成させることができる。スパッタリング法では、ターゲットであるアルミニウム金属にプラズマ照射して気化したアルミニウムを、連通孔を有する樹脂の表面に付着させることにより、アルミニウム層を形成させることができる。プラズマCVD法では、原料であるアルミニウム金属に高周波を印加することによってプラズマ化させ、これを連通孔を有する樹脂の表面に付着させることにより、アルミニウム層を形成することができる。
【0023】
(ii)について:水溶液中でアルミニウムをめっきすることは、実用上ほとんど不可能であるため、溶融塩中でアルミニウムをめっきする溶融塩電解めっきが行われる。この場合において、予め樹脂の表面を導電化処理した後に、溶融塩中でアルミニウムをめっきすることが好ましい。
【0024】
ここで用いる溶融塩は、樹脂を加熱分解する工程で用いられることになる溶融塩と同じであっても、異なっていてもよい。具体的には、塩化カリウム、塩化アルミニウム、塩化ナトリウム等の溶融塩が使用される。また、2成分以上の塩を使用し、共晶溶融塩として使用してもよい。共晶溶融塩にした場合、溶融温度が低下するので好ましい。この溶融塩中には、少なくともアルミニウムイオンが含まれている必要がある。
【0025】
(iii)について:樹脂の表面にアルミニウムペーストを塗布する場合において、そのアルミニウムペーストは、たとえば、アルミニウム粉末、結着剤(バインダー樹脂)及び有機溶剤が混合されたものである。具体的には、アルミニウムペーストを樹脂の表面に塗布した後、加熱して有機溶剤及びバインダー樹脂を消失させるとともに、アルミニウムペーストを焼結させる。焼結時の加熱は、一段階でおこなっても複数回に分けておこなっても良い。例えば、アルミニウムペーストを塗布した後に低温で加熱して有機溶剤を消失させた後、溶融塩中に浸漬して加熱することにより、樹脂の分解と同時にアルミニウムペーストの焼結を行っても良い。
【0026】
(3)本発明における樹脂には、アルミニウムの融点以下の温度で熱分解するものであれば、任意の樹脂を選択できる。たとえば、ポリウレタン、ポリプロピレン、ポリエチレン等がある。なかでも、発泡ウレタンは、気孔率が高いし、熱分解しやすい素材であるので、発泡ウレタンが本発明の製造方法に用いる樹脂として好ましい。また、樹脂の気孔率は80%〜98%、気孔径は50μm〜500μm程度のものが好ましい。樹脂は、連通孔を有することが好ましい。これにより、閉気孔が無いアルミニウム多孔体が得られる。
【0027】
(4)本発明の非水電解質電池は、上記(1)〜(3)に記載された製造方法により製造された電極を備えた非水電解質電池であることを特徴とする。
【0028】
本発明の非水電解質電池は、正極集電体であるアルミニウム多孔体の表面の酸素量を3.1質量%以下であるため、又は正極集電体がアルミニウムのみからなる多孔体であって連通孔を有する一方で閉気孔を有しないものであるために、放電特性の点で優れる。
【0029】
(5)本発明は、アルミニウム多孔体に活物質が充填された非水電解質電池用電極であって、前記活物質と接触する前記アルミニウム多孔体の表面の酸素量が、3.1質量%以下であることを特徴とする。
【0030】
活物質と接触するアルミニウム多孔体の表面は、非水電解質電池の放電特性に影響を及ぼす。充放電時には、アルミニウム多孔体と正極活物質との間で電子の授受がおこなわれるためである。本発明のように、アルミニウム多孔体の表面の酸素量が3.1質量%以下であることによって、放電特性(とくに、高率放電特性)が向上する。ここでいう酸素量は、アルミニウム多孔体の表面を15kVの加速電圧でEDX分析することにより特定される。具体的な測定機器については、後述する。
【0031】
このように、「アルミニウム多孔体の表面の酸素量を3.1質量%以下」とするためには、前述(1)に記載されているように、アルミニウム多孔体の製造方法の中で「樹脂を溶融塩に浸漬した状態で、アルミニウム層をアルミニウムの標準電極電位より卑な電位に保ちながら加熱分解する」ことによる必要がある。これらの技術的な特徴は、相互に対応する。このような製造方法を経ることにより、アルミニウム多孔体の表面の酸素量を、EDXの分解検出以下に抑えることができる。EDXの分解検出以下であるということは、アルミニウム多孔体の表面の酸素量が3.1質量%以下であることを意味する。
【0032】
なお、本発明でいうアルミニウム多孔体は、連通孔を有するものであることが好ましい。従来のアルミニウム発泡体のように連通孔を有しない場合には、その孔による表面積を活用できないからである。また、本発明のアルミニウム多孔体は、閉気孔を有しない。
【0033】
(6)本発明は、アルミニウム多孔体に活物質が充填された非水電解質電池用電極であって、前記アルミニウム多孔体は、連通孔を有し、閉気孔を有さず、前記アルミニウム多孔体はアルミニウムのみからなることを特徴とする。
【0034】
本発明においては、アルミニウム多孔体が、連通孔を有する一方で閉気孔を有しないので、多孔体が持つ表面のすべてが活物質との接触に利用されるため、非水電解質電池用電極に用いる集電体として好ましい。また、本発明では、多孔体がアルミニウムのみからなることを特徴とする。このようにアルミニウムのみからなる多孔体であって、連通孔を有する一方で、閉気孔を有しないものは、前述(1)に記載するような製法によって初めて得られる。なお、本発明における「アルミニウムのみからなる」という記載は、アルミニウム以外に不可避的に含まれざるを得ないような元素が混入した場合を、本発明の範囲から排除する趣旨ではない。
【0035】
(7)本発明の非水電解質電池用電極においては、活物質がリチウムを脱挿入できる材料であることが好ましい。
【0036】
リチウムを脱挿入できる材料を活物質として採用してアルミニウム多孔体に充填することにより、リチウムイオン二次電池に特に適した電極を得ることができる。リチウムを脱挿入できる材料は、後述する。
【0037】
(8)本発明では、アルミニウム多孔体に、活物質だけでなく、さらに、固体電解質が充填されていることを特徴とする。
【0038】
このような構成とすることにより、電極を、固体電解質型リチウムイオン二次電池に適したものとすることができる。すなわち、本発明のように活物質と固体電解質とが充填された正極と、たとえば固体電解質粉末を圧粉した固体電解質と金属リチウムからなる負極という3つの要素を積層させることにより、放電特性の優れた固体電解質型リチウムイオン二次電池が得られる。
【0039】
さらに、その固体電解質は、リチウム、リン及び硫黄を含む硫化物系固体電解質であることが好ましい。リチウムイオンの伝導度が高い硫化物系固体電解質を採用することにより、とくに放電特性に優れた固体電解質型リチウムイオン二次電池の電極にすることができる。
【0040】
(9)本発明の非水電解質電池は、上述で説明されたような非水電解質電池用電極を備えたことを特徴とする。
【0041】
これにより、放電特性(特に、高率放電特性)に優れた非水電解質電池が得られる。ここでいう非水電解質電池とは、一次電池及び二次電池を双方含むものであり、いずれの場合であってもその放電特性は優れる。
【発明の効果】
【0042】
本発明によれば、その表面の酸素量が少ないアルミニウム多孔体を得ることができる。また、アルミニウムのみからなるアルミニウム多孔体であって、連通孔を有し閉気孔を有さないものを得ることができる。このアルミニウム多孔体に、活物質(及び必要に応じて固体電解質)を充填して電極にすることにより、その電極を備える非水電解質電池は優れた放電特性を示す。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】アルミニウム多孔体4の製造工程を示した模式図である。(a)は、連通孔を有する樹脂1の断面の一部を示す。(b)は、樹脂1の表面にアルミニウム層2が形成された状態を示す。(c)は、樹脂1が消失した後のアルミニウム多孔体4を示す。
【図2】溶融塩6の中での樹脂1の分解工程を説明するための模式図である。
【図3】本発明によるアルミニウム多孔体の断面SEM写真である。
【図4】本発明によるアルミニウム多孔体のEDX分析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明は以下の記載に限定されるものではない。
【0045】
(A)連通孔を有する樹脂
連通孔を有する樹脂として、発泡樹脂又は繊維を絡めた不織布が用いられる。発泡樹脂の素材は、アルミニウムの融点以下の温度で分解可能なものであれば、任意の樹脂を選択できる。たとえば、ポリウレタン、ポリプロピレン、ポリエチレン等が挙げられる。発泡樹脂の気孔率は、80%〜98%が好ましい。発泡樹脂の気孔径は、50μm〜500μmとするのが好ましい。
【0046】
発泡ウレタンについては、気孔率が高く、気孔の連通性や孔径の均一性が高く、また、熱分解性にも優れる。そのため、発泡ウレタンを使用することが好ましい。
【0047】
(B)樹脂の表面へのアルミニウム層の形成
樹脂の表面にアルミニウム層を形成する。アルミニウム層の形成は、真空蒸着法、スパッタリング法若しくはプラズマCVD等の気相法、アルミニウムペースト塗布法、又はめっき法など任意の方法で行うことができる。
【0048】
水溶液中でのアルミニウムのめっきは実用上ほとんど不可能であるため、溶融塩中でアルミニウムをめっきする溶融塩電解めっきを行うことが好ましい。溶融塩電解めっきでは、例えばAlCl−XCl(X:アルカリ金属)の2成分系あるいは多成分系の塩が使用される。このような塩を溶融させ、その中に樹脂を浸漬し、アルミニウム層に電位を印加して電解めっきをおこなう。電解めっきを行うためには、予め樹脂の表面を導電化処理する。その導電化処理は、ニッケル等の導電性金属の無電解めっき、アルミニウム等の蒸着若しくはスパッタリング、又はカーボン等の導電性粒子を含有した導電性塗料の塗布などの任意の方法が選択される。
【0049】
アルミニウム層の形成は、アルミニウムペーストの塗布によって行うこともできる。アルミニウムペーストは、アルミニウム粉末と結着剤(バインダー樹脂)及び有機溶剤を混合したものである。アルミニウムペーストの焼結は、非酸化性雰囲気下で行うことが好ましい。
【0050】
(C)溶融塩の中での樹脂の加熱分解
表面にアルミニウム層を形成した樹脂(すなわち、アルミニウム層被膜樹脂)を溶融塩に浸漬し、そのアルミニウム層をアルミニウムの標準電極電位より卑な電位で保つ。これにより、アルミニウム層の酸化が防止される。このような状態で加熱することにより、アルミニウムを酸化させることなく樹脂を分解させることができる。その結果として、表面の酸素量が3.1質量%以下のアルミニウム多孔体が得られる。このアルミニウム多孔体は、連通孔を有する。
【0051】
ここで、アルミニウム層が保たれるべき電位は、アルミニウムの標準電極電位より卑で、かつ溶融塩中のカチオンの還元電位より貴である。
【0052】
加熱温度は、使用する樹脂の種類に合わせて適宜選択できるが、アルミニウムを溶融させないために、アルミニウムの融点である660℃以下の温度とする必要がある。好ましい温度は、500℃以上600℃以下である。
【0053】
(D)溶融塩
本発明の製造で用いられる溶融塩は、塩化リチウム(LiCl)、塩化カリウム(KCl)、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化アルミニウム(AlCl)からなる群より選択される1種以上を含むことが好ましい。
【0054】
溶融塩としては、アルミニウム層の電位が卑となるように、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のハロゲン化物の塩を使用することができる。
【0055】
また、溶融塩の温度をアルミニウムの融点以下の温度とするために、2種以上を混合して融点を下げた共晶溶融塩を用いることもできる。特に表面が酸化しやすく還元処理が難しいアルミニウムを使用する場合には、共晶溶融塩を使用することが有効である。
【0056】
(E)活物質の充填
前述のとおり、活物質の充填は、公知の方法でおこなうことができる。たとえば、浸漬充填法又は塗工法(たとえば、ロール塗工法、アプリケーター塗工法、静電塗工法、粉体塗工法、スプレー塗工法、スプレーコーター塗工法、バーコーター塗工法、ロールコーター塗工法、ディップコーター塗工法、ドクターブレード塗工法、ワイヤーバー塗工法、ナイフコーター塗工法、ブレード塗工法及びスクリーン印刷法など)が用いられる。
【0057】
充填される材料は、活物質の粉末のほかに、さらに、導電助剤、バインダー樹脂及び固体電解質のうち所望とするものである。これらを有機溶剤と混合させて正極合剤スラリーを得て、これを上記の方法で得られているアルミニウム多孔体に充填する。活物質を充填する際には、アルミニウム多孔体の酸化を防ぐために、不活性ガス雰囲気の中でおこなうことが好ましい。
【0058】
なお、正極合剤スラリーを作成する際に用いる有機溶剤としては、活物質、導電助剤、バインダー樹脂、固体電解質のいずれに対しても悪影響を及ぼさなければ、適宜選択することができる。たとえば、n−ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、エチレングリコール、N−メチル−2−ピロリドンなどが例示される。
【0059】
(F)活物質
正極の活物質としては、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、ニッケルコバルト酸リチウム(LiCo0.3Ni0.7)、マンガン酸リチウム(LiMn)、チタン酸リチウム(LiTi12)、リチウムマンガン酸化合物(LiMMn2−y;M=Cr、Co、Ni)、リチウム燐酸鉄およびその化合物(LiFePO、LiFe0.5Mn0.5PO)であるオリビン化合物等の遷移金属酸化物材料が挙げられる。また、これらの材料の中に含まれる遷移金属を、別の遷移金属に一部置換した材料が挙げられる。
【0060】
さらに、正極の活物質としては、TiS、VS、FeS、M・MoS(MはLi、Ti、Cu、Sb、Sn、Pb、Ni等の遷移金属)のような硫化物系カルコゲン化物、TiO、Cr、V、MnO等のような金属酸化物を骨格としたリチウム金属酸化物等が挙げられる。
【0061】
なお、活物質としてチタン酸リチウム(LiTi12)を選択する場合には、負極に使用する負極活物質として利用することもできる。
【0062】
(G)固体電解質
固体電解質としては、酸化物系固体電解質及び硫化物固体電解質などが適宜用いられる。
【0063】
酸化物系固体電解質としては、必要とされる特性に応じて公知の材料が適宜選択される。具体的には、たとえば、LiO、Al及び/又はGa、TiO及び/又はGeO、SiO、Pを含有する酸化物系固体電解質が好ましい。酸化物系固体電解質には、非晶質のものと結晶質のものとがあるが、いずれであってもよい。
【0064】
硫化物系固体電解質としては、リチウム、リン及び硫黄のみからなるような硫化物系固体電解質であっても良いし、さらに、O、Al、B、Si、Geなどの他の元素を含むものであっても良い。
【0065】
このような硫化物系固体電解質は、公知の方法により得ることができる。たとえば、原材料としての硫化リチウム(LiS)及び五硫化二燐(P)を、50:50〜80:20程度の所望の割合で混合した後、これを溶融させて急冷させる(溶融急冷法)、又はこれをメカニカルミリング処理させることによって得ることができる。
【0066】
これらによって得られる硫化物系固体電解質は、非晶質である。この非晶質の状態の硫化物系固体電解質をそのままアルミニウム多孔体に充填しても良いし、さらに、加熱処理して結晶性の硫化物系固体電解質にした後にアルミニウム多孔体に充填しても良い。
【実施例】
【0067】
本発明の実施例とその比較例とを具体的に示す。
【0068】
(アルミニウム多孔体の製造(実施例))
樹脂として、気孔率97%、厚み1.0mm、気孔径約300μmのポリウレタンフォームを準備した。
【0069】
このポリウレタンフォームの表面に、真空蒸着法により、アルミニウム層を形成した。真空蒸着法の条件については、真空度を1.0×10―5Paとし、基板温度を室温とし、そして、蒸着源と基材であるポリウレタンフォームとの間の距離を300mmとした。蒸着をおこなった後に、アルミニウム層をSEM観察した結果、アルミニウム層の厚みは15μmであった。
【0070】
表面にアルミニウム層が形成されたポリウレタンフォームを、温度500℃のLiCl−KCl共晶溶融塩に浸漬し、さらに、アルミニウム層がアルミニウムの標準電極電位に対して−1Vの卑な電位となるように、30分間、負電圧を印加した。このとき、溶融塩中に気泡が発生した。ポリウレタンの分解反応が起こっているものと推定された。
【0071】
その後、ポリウレタンフォームが分解された後のアルミニウム骨格(アルミニウム多孔体)を大気中で室温まで冷却した後、水洗して溶融塩を除去した。以上により、実施例のアルミニウム多孔体を得た。実施例のアルミニウム多孔体は、アルミニウム以外の他の金属を含まない。すなわち、実施例のアルミニウム多孔体は、特許文献2のように、Alの融点以下で共晶合金を形成する金属を含むものではない。
【0072】
(従来のアルミニウム多孔体の製造(比較例))
孔径が200μm〜500μmであり、空孔率が97%で、厚みが1.0mmの発泡ウレタンフォームを準備した。この発泡ウレタンフォームを、真空蒸着装置内に配置した。アルミニウム金属を溶融・蒸発させる真空蒸着法により、発泡ウレタン樹脂の表面にアルミニウム膜を蒸着させた。その後、大気中で、550℃の熱処理をすることにより、発泡ウレタンフォームを除去した。これにより、比較例であるアルミニウム多孔体を得た。
【0073】
(電解液型リチウムイオン二次電池用電極の製造)
電解液型リチウムイオン二次電池用の電極を、次の方法により製造した。正極活物質としてのLiCoO粉末(90質量部)に、導電助剤としての人工黒鉛粉末(5質量部)、及び結着バインダーとしてのポリフッ化ビニリデン(5質量部)を含むN−メチル−2−ピロリドン溶液を混合して練り合わせることにより、正極合剤スラリーを作った。この正極合剤スラリーを、実施例のアルミニウム多孔体と比較例のアルミニウム多孔体のそれぞれに、塗工した。その後、ロールプレスで圧縮成形することにより、いずれも、アルミニウム多孔体の厚さを0.4mmとした後、直径16mmに打ち抜いた。以上により、実施例Aの正極及び比較例Aの正極を得た。
【0074】
(固体電解質型リチウムイオン二次電池用電極の製造)
正極活物質及び固体電解質が充填されたアルミニウム多孔体を、次の方法により製造した。ボールミル容器に、硫化物系固体電解質(27質量%)、正極活物質として平均粒子径2μmのLiCoO(63質量%)、及びトルエン(10質量%)を入れた。そのボールミル容器にジルコニアボールを入れて4時間攪拌することにより、正極合剤スラリーを得た。
【0075】
次に、この正極合剤スラリーを、実施例のアルミニウム多孔体と、比較例のアルミニウム多孔体のそれぞれに塗工した。その後、100℃にて40分間乾燥させて、さらに、ロールプレスにより500MPaの圧力で圧縮成形することにより、いずれも、アルミニウム多孔体の厚さを0.1mmとした後、直径16mmに打ち抜いた。以上により、実施例Bの正極、及び比較例Bの正極を得た。
【0076】
(電解液型リチウムイオン二次電池と固体電解質型リチウムイオン二次電池の製造)
電解液型リチウムイオン二次電池を以下の方法で製造した。正極には、実施例A及び比較例Aの正極をそれぞれ用いた。負極には、黒鉛粉末とポリエチレンテレフタレートとの混練物を負極合剤として、厚さ15μmの銅箔に塗布し、これを乾燥させた後、圧縮成形により厚さ0.4mmとして得たものを用いた。電解液には、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)との混合溶媒(体積比1:1)に1.0Mの濃度で支持塩LiPFを溶解させたものを用いた。セパレータには、ポリエチレン微多孔膜を用いた。これらの正極、負極、セパレータ及び電解液を用いて、コイン型リチウムイオン二次電池を作製した(電池寸法:直径18mm、電極対向面積:2cm)。
【0077】
固体電解質型リチウムイオン二次電池を以下の方法で製造した。正極には、実施例B及び比較例Bの正極を用いた。負極には、厚さ0.5mmのインジウム金属箔を用いた。電解質には、硫化物系固体電解質の粉末を圧縮成形して0.25mmにしたものを用いた。これらの正極、負極、及び電解質を用いて、コイン型リチウムイオン二次電池を作製した(電池寸法:直径18mm、電極対向面積:2cm)。
【0078】
(分析とその結果)
実施例のアルミニウム多孔体のSEM写真を図3に示す。図3より、アルミニウム多孔体を構成する孔が連通していることがわかった。また、実施例のアルミニウム多孔体は閉気孔を有しないことがわかった。
【0079】
実施例のアルミニウム多孔体の表面について、15kVの加速電圧でEDX分析した。その結果を図4に示す。酸素のピークは観測されなかった。したがって、アルミニウム多孔体の酸素量は、EDXの検出限界以下であることが分かった。ここで、EDXによる検出限界は酸素量3.1質量%であるので、実施例のアルミニウム多孔体の表面の酸素量は、3.1質量%以下であるといえる。
【0080】
比較例の集電体の表面についても、同様な条件でEDX分析した。その結果、酸素のピークが観測され、アルミニウム多孔体の酸素量は少なくとも3.1質量%を超えることが分かった。熱処理する際に、アルミニウム多孔体の表面が酸化したためである。
【0081】
なお、この分析で用いられた装置は、EDAX社製の「EDAX Phonenix」であり、その型式はHIT22 136−2.5であった。
【0082】
(評価とその結果)
実施例及び比較例の電解液型リチウムイオン二次電池と固体電解質型リチウムイオン二次電池の放電特性を評価した。具体的には、それぞれのリチウムイオン二次電池を、0.4mAで4.2Vまで定電流充電した後に、0.8mA(0.2C)で定電流放電させ(放電終止電圧:3.0V)、そのときの放電容量を測定した。続いて、0.4mAで4.2Vまで定電流充電した後に、4mA(1C)で定電流放電させ(放電終止電圧:3.0V)、そのときの放電容量を測定した。
【0083】
これらの放電容量を、正極活物質の質量あたりの放電容量に換算した結果を、表1に示す。
【0084】
【表1】

【0085】
以上のように、本発明のアルミニウム多孔体を集電体として採用した場合には、電解液型リチウムイオン二次電池においても、固体電解質型リチウムイオン二次電池においても、比較例のアルミニウム多孔体を集電体として採用した場合に比べて、1C放電容量が大きくなった。アルミニウム多孔体の表面の酸素量が少ないため、アルミニウム多孔体と活物質との間で電子の授受が速やかにおこなわれているためと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0086】
以上の通りであるから、本発明の産業上の意義は極めて大きい。そして、本発明の製造方法により得られる電極を備えた非水電解質電池は、たとえば、携帯情報端末、電動車両及び家庭用電力貯蔵装置など広範な分野における電源として利用することができる。
【符号の説明】
【0087】
1 樹脂
2 アルミニウム層
3 アルミニウム層被膜樹脂
4 アルミニウム多孔体
5 正極
6 溶融塩

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム多孔体を製造する工程の後に前記アルミニウム多孔体に活物質を充填する非水電解質電池用電極の製造方法であって、
前記工程では、
連通孔を有する樹脂の表面にアルミニウム層を形成し、
前記樹脂を溶融塩に浸漬した状態で、前記アルミニウム層をアルミニウムの標準電極電位より卑な電位に保ちながら前記樹脂を加熱分解することを特徴とする非水電解質電池用電極の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載された非水電解質電池用電極の製造方法であって、
前記アルミニウム多孔体に、さらに固体電解質を充填することを特徴とする非水電解質電池用電極の製造方法。
【請求項3】
前記固体電解質が、リチウム、リン及び硫黄を含む硫化物系固体電解質であることを特徴とする請求項2に記載された非水電解質電池用電極の製造方法。
【請求項4】
請求項1、2又は3に記載された非水電解質電池用電極の製造方法であって、
前記樹脂の表面にアルミニウム層を形成する方法が、真空蒸着法、スパッタリング法又はプラズマCVD法であることを特徴とする非水電解質電池用電極の製造方法。
【請求項5】
請求項1、2又は3に記載された非水電解質電池用電極の製造方法であって、
前記樹脂の表面にアルミニウム層を形成する方法が、
前記樹脂の表面を導電化処理した後に、アルミニウムをめっきするものであることを特徴とする非水電解質電池用電極の製造方法。
【請求項6】
請求項1、2又は3に記載された非水電解質電池用電極の製造方法であって、
前記樹脂の表面にアルミニウム層を形成する方法が、
前記樹脂の表面にアルミニウムペーストを塗布するものであることを特徴とする非水電解質電池用電極の製造方法。
【請求項7】
請求項1、2又は3に記載された非水電解質電池用電極の製造方法により製造された電極を備える非水電解質電池。
【請求項8】
アルミニウム多孔体に活物質が充填された非水電解質電池用電極であって、
前記活物質と接触する前記アルミニウム多孔体の表面の酸素量が、3.1質量%以下であることを特徴とする非水電解質電池用電極。
【請求項9】
アルミニウム多孔体に活物質が充填された非水電解質電池用電極であって、
前記アルミニウム多孔体は、連通孔を有し、閉気孔を有さず、
前記アルミニウム多孔体は、アルミニウムのみからなることを特徴とする非水電解質電池用電極。
【請求項10】
請求項8又は9に記載された非水電解質電池用電極であって、
前記アルミニウム多孔体に、固体電解質が充填されていることを特徴とする非水電解質電池用電極。
【請求項11】
前記固体電解質が、リチウム、リン及び硫黄を含む硫化物系固体電解質であることを特徴とする請求項10に記載された非水電解質電池用電極。
【請求項12】
請求項8、9、10又は11に記載された非水電解質電池用電極を備える非水電解質電池。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−249252(P2011−249252A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−123666(P2010−123666)
【出願日】平成22年5月31日(2010.5.31)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】