説明

面方向に等方性の誘電率を持ったポリイミド系樹脂ベルト

【課題】カラー画像形成装置において正確な転写を実現することができ、長期間安定して高品質の転写画像を得ることができるポリイミド系樹脂ベルト及びその製造方法を提供する。
【解決手段】誘電率が7〜12の範囲を有し、ベルトのいずれの箇所においても面方向の誘電率の異方性を表す指標:MOR−cの最大値が1.2以下である面方向に等方性の誘電率を持ったポリイミド系樹脂ベルトであって、(1)重力加速度の0.5〜5.0倍程度の遠心加速度で回転する円筒金型の内周面に導電性フィラーを均一に分散させた液体原料をスプレー法で均一な厚さで塗布する工程、(2)該円筒金型を重力加速度の0.5〜5.0倍程度の遠心加速度で回転させたまま100〜140℃程度の温度で加熱して、不揮発分濃度を35重量%以上の皮膜を形成する工程、(3)該皮膜を円筒金型の内周面に付着した状態のまま約250℃以上で加熱する工程により製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カラー画像形成装置を備えた電子写真複写機、プリンタ、ファクシミリ、これらの複合機、さらにはデジタル印刷機などに用いられるポリイミド系樹脂ベルトとその製造方法に関する。さらに詳しくは、カラー画像形成装置の更なる高画質化・高速化、高信頼性化、さらには紙などの転写媒体の選択自由化に対応したシームレス形状のポリイミド系樹脂ベルトとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式を応用したカラー画像形成装置は、無機又は有機感光体で形成されたトナー像を、一色ずつ転写部材上に一旦静電的に担持し重ね合わせ、4色の合成画像を形成した後、紙などの転写材に一括転写するという二度の転写工程を経る。そのため転写ベルトの表面抵抗率と体積抵抗率は、各種プロセスの要求を達成するための重要な制御因子であることが知られている。
【0003】
上記カラー画像形成装置においては、形成画像の品質を向上させるため、トナー像を正確に転写することを目的とし、転写ベルトの電気特性、特に体積抵抗率について種々の検討がなされている。例えば、特許文献1〜3には、厚み方向の体積抵抗率が10〜1017Ω・cmの範囲で制御するとともに、体積電気抵抗値の最大値が最小値の1〜100倍の範囲にある中間転写部材が開示されている。
【0004】
また、耐熱性、機械的強度、耐環境特性に優れることから、ポリイミド系樹脂を使用したポリイミド系樹脂製中間転写部材が検討されている。特許文献4には、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等の導電性カーボンブラックがポリイミド樹脂に分散された導電性ポリイミドシームレスベルトが、特許文献5には、シラン系カップリング剤で表面処理された導電性金属酸化物を分散させたポリアミド酸の原液を、金属シート上でキャスティング成形した後、得られたフィルムの両端部を接合した中間転写部材が開示されている。
【0005】
しかし、このような従来の中間転写部材では、体積抵抗率の値を所定の範囲に設定したときであっても、形成画像にムラが発生するといった問題を除去することができない。これは、単に導電微粒子の1次粒子の分布状態でなく、マクロ的な分散状態やストラクチャーの方向性がもたらす、面方向の誘電率の異方性に起因するためである。従って、中間転写部材の体積抵抗率のばらつきが少なくても形成画像のムラを完全に除去することができない。
【0006】
また、画像形成装置において使用される中間転写部材においては、使用中の伸びだけでなく、画像形成装置に組み込まれた初期状態で面方向のうねりのないものが望まれる。すなわち、中間転写部材の転写面が平坦であることが必要であり、中間転写部材にうねりがあると転写像を歪めたり、周速差による色ずれを発生させたり、用紙との密着性を弱めたりして画質にムラを発生させてしまう。
【0007】
近年、画像形成装置の高速化に伴い、各色毎の現像器を備えた複数の感光体を備えたタンデム式カラー画像形成装置が多く開発されている。タンデム式カラー画像形成装置においては、中間転写方式あるいは転写搬送方式のどちらの方式を用いても、中間転写部材の周長は大きく(大口径化)する必要があり、周長を大きく(大口径化)しても面方向のうねりの出来る限り小さくすることが望まれている。
【0008】
一般的に、ポリイミド系樹脂の分子構造が比較的平面的に広がっているものが多く、液体原料の溶媒が揮発するとき、分子が層状になって膜形成がなされるため、導電微粒子の分散状態が面方向に異方性を発現しやすい。この結果、電気的特性として誘電率の異方性の発生と導電微粒子の配向などによる面方向のうねりとしてあらわれる。そして、面方向の異方性は中間転写部材の周長が大きく(大口径化)するほど発生しやすくなる傾向がある。
【0009】
また、特許文献6には、分子配向状態の指標としてMOR−cを用いて、フィルム面内の任意の点における物性のばらつきの少ないMOR−cの最大値が1.35以下のポリイミドフィルムを開示されている。しかし、このポリイミドフィルムは、カーボンブラックなどの導電性フィラーを含まないため、絶縁フィルムであり、中間転写部材として不可欠な電気特性、つまりフィルムの厚み方向に電気を流すという特性を持たないという問題を有している。
【0010】
一方、ポリイミド系樹脂製中間転写部材の製造方法として回転成形法が検討されている。特許文献7では、円筒金型の中に液体原料を投入し、重力加速度の約112倍の遠心加速度、特許文献8では、重力加速度の約250倍の遠心加速度により液体原料を円筒金型の内周面に均一に流延させる製造方法が開示されている。
【0011】
しかしながら、上記公報に開示された製造方法では、液体原料の投入や遠心力によって生じる流動でカーボンブラックのストラクチャーもその方向に配向するため、MOR−cが大きくなる傾向にあり、結果として、面方向の誘電率の異方性に起因して形成画像にムラが生じるという問題を除去することができない。
【0012】
また、特許文献9には、実質的に無遠心力の回転速度で、粉霧状の耐熱性樹脂液を成型ドラムに噴出して得られる耐熱変形性管状フィルムが開示されている。しかし、この管状フィルムは、回転成形法によって温度120℃の温度で加熱して円筒金型の内周面に皮膜を形成した後、円筒金型から剥離してベルトの内周面に新たな金型を挿入し、250℃以上で加熱する製造方法で作製される。このようにベルトの内周面に新たな金型を挿入して、ポリイミド前駆体をイミド転化反応するとポリイミド分子鎖が周方向に配向してしまい、カーボンブラックなどの導電微粒子もその配向方向に並んだ分散状態になってしまう。その結果、面方向の誘電率に異方性を持つため改善の余地がある。
【0013】
そして、面方向の誘電率の異方性を持つ中間転写部材では、過大な電流を繰り返し流すことで誘電率が変化し、中間転写部材として必要な誘電率7〜12の範囲を外れるという問題がある。その結果、トナー飛散などの画像上の不具合を発生させ、中間転写部材の寿命の短命化につながり、交換等のメンテナンスの手間とランニングコストを押し上げ、画像形成装置としての信頼性が劣る結果につながる。
【特許文献1】特開平3−100579号公報
【特許文献2】特開平5−200904号公報
【特許文献3】特開平5−345368号公報
【特許文献4】特開平5−77252号公報
【特許文献5】特開平10−63115号公報
【特許文献6】特開2002−154168号公報
【特許文献7】特開2001−38750号公報
【特許文献8】特開2004−287005号公報
【特許文献9】特開2000−263568号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、従来技術における諸問題に鑑み、カラー画像形成装置において正確な転写を実現することができ、並びに長期間安定して高品質の転写画像を得ることができるポリイミド系樹脂ベルト及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、上記の課題を解決するために鋭意研究を行った結果、誘電率が7〜12の範囲であり、面方向の誘電率の異方性を表す指標:MOR−cの最大値が1.2以下である面方向に等方性の誘電率を持ったポリイミド系樹脂ベルトが、上記の目的を達成できることを見出した。かかる知見に基づき、さらに研究を重ねて本発明を完成するに至った。
【0016】
即ち、本発明は下記のポリイミド系樹脂ベルトを提供する。
【0017】
項1.誘電率が7〜12の範囲を有するポリイミド系樹脂ベルトであって、該ポリイミド系樹脂ベルトのいずれの箇所においても面方向の誘電率の異方性を表す指標:MOR−cの最大値が1.2以下である面方向に等方性の誘電率を持ったポリイミド系樹脂ベルト。
【0018】
項2.前記ポリイミド系樹脂ベルトが、ポリイミド系樹脂を75〜87重量%及び導電性フィラーを13〜25重量%含む項1に記載のポリイミド系樹脂ベルト。
【0019】
項3.前記ポリイミド系樹脂ベルトが、厚み80〜120μm程度、周長350〜3000mm程度のシームレスベルトである項1又は2に記載のポリイミド系樹脂ベルト。
【0020】
項4.前記ポリイミド系樹脂が、ポリイミド樹脂又はポリアミドイミド樹脂である項1〜3のいずれかに記載のポリイミド系樹脂ベルト。
【0021】
項5.項1〜4のいずれかに記載のポリイミド系樹脂ベルトからなる中間転写部材。
【0022】
項6.項1に記載の面方向に等方性の誘電率を持ったポリイミド系樹脂ベルトの製造方法であって、
(1)重力加速度の0.5〜5.0倍程度の遠心加速度で回転する円筒金型の内周面に導電性フィラーを均一に分散させた液体原料をスプレー法で均一な厚さで塗布する工程、
(2)該円筒金型を重力加速度の0.5〜5.0倍程度の遠心加速度で回転させたまま100〜140℃程度の温度で加熱して、不揮発分濃度が35重量%以上の皮膜を形成する工程、及び
(3)該皮膜を円筒金型の内周面に付着した状態のまま約250℃以上の温度で加熱する工程
を含むこと特徴とする製造方法。
【0023】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0024】
本発明のポリイミド系樹脂ベルトは、ポリイミド系樹脂ベルトのいずれの箇所においても、誘電率が7〜12、好ましくは7〜11の範囲を有し、面方向の誘電率の異方性を表す指標:MOR−cの最大値が1.2以下、好ましくは1.1以下、より好ましくは1.05以下である面方向に等方性の誘電率を持ったポリイミド系樹脂ベルトであることを特徴とする。
【0025】
ここで、面方向の誘電率の測定は、試験片を透過したマイクロ波の強度から分子配向度を求める分子配向計(王子計測機器(株)製MOA−6020)を用いる。測定原理は、試料を一定の角度だけ回転させるごとにマイクロ波を照射し、該マイクロ波の透過強度を測定し、試料における面方向の誘電率の異方性を測定する方法である。
【0026】
例えば、図1のように、異方性の誘電率を有する試料では、極座標における透過強度の角度依存性(配向パターン)は楕円となり、配向パターンの短軸方向が誘電率最大の方向を、配向パターンの長軸方向が誘電率最小の方向を示す。誘電率(ε)は、測定された全ての誘電率の平均値で表され、具体的には、例えば図1の「ε’ave」の値を意味する。また、配向パターンの楕円の程度(長軸と短軸の比)が配向度、即ち誘電率の異方性を示すMOR(Microwave Orientation Ratio)を意味する。
【0027】
ここで、MORは試料の厚みに影響されるため、実用上は厚み補正を行ない、所望の厚み(本発明では90μm)に換算したMOR−cを用いる。MOR−cを用いれば、厚みが異なる試料でも誘電率の等方性を比較することが可能となる。具体的には、MOR−cは、下記式(I)から導かれる。
【0028】
MOR−c={t(MOR−1)/t}+1 (I)
ここで、tは試料の厚さ、tは補正したい厚さ(90μm)、MORは測定により得られた値、MOR−cは補正後のMOR値を示す。このMOR−c値を用いることにより、より簡便かつ短時間で試料面方向の誘電率の等方性を評価できる。なお、MOR−cの値が1.000に近いほど誘電率が等方性なベルトであることを表す。
【0029】
本発明で用いられるポリイミド系樹脂は、非熱可塑性又は熱可塑性のいずれでも良い。熱可塑性のポリイミド系樹脂は、溶融押出成型を用いて無端管状ベルトを成型できるという利点を有するが、耐熱性の点で非熱可塑性のポリイミド系樹脂に劣る。そのため、特に複写機用の機能性ベルト等に応用するに際しては、非熱可塑性のポリイミド系樹脂を選択することが好ましい。
【0030】
ポリイミド系樹脂は、ポリイミド樹脂(特に、芳香族ポリイミド樹脂)、及びポリアミドイミド樹脂(特に、芳香族ポリアミドイミド樹脂)を包含し、本発明ではこれらを適宜選択して用いることができる。ポリイミド樹脂やポリアミドイミド樹脂の出発原料の種類や組み合わせ等には特に制限はない。
【0031】
ポリイミド樹脂の出発原料として、例えば、芳香族テトラカルボン酸二無水物を含む酸成分、及び芳香族ジアミンを含むアミン成分が挙げられる。
【0032】
芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、例えばビフェニルテトラカルボン酸二無水物等が挙げられ、具体的には、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(a-BPDA)、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s-BPDA)、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、さらには、前記を2種ブレンドしたビフェニルテトラカルボン酸二無水物などを挙げることができる。
【0033】
芳香族ジアミンとしては、例えばジアミノジフェニルエーテルが挙げられ、具体的には、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル等が挙げられる。
【0034】
ポリアミドイミド樹脂の出発原料として、例えば、トリメリット酸又はその誘導体を含む酸成分、及び芳香族ジイソシアネートを含むアミン成分が挙げられる。
【0035】
ポリアミドイミド樹脂の酸成分は、トリメリット酸又はその無水物、酸塩化物等を含有するが、反応性、耐熱性、溶解性などの点からトリメリット酸無水物が好適である。トリメリット酸又はその誘導体の他に、他の酸性分を含有していても良い。例えば、ピロメリット酸、ビフェニルテトラカルボン酸、ビフェニルスルホンテトラカルボン酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、ビフェニルエーテルテトラカルボン酸、エチレングリコールビストリメリテート、プロピレングリコールビストリメリテート等のテトラカルボン酸又はその無水物;シュウ酸、アジピン酸、マロン酸、セバチン酸、アゼライン酸、ドデカンジカルボン酸、ジカルボキシポリブタジエン、ジカルボキシポリ(アクリロニトリルーブタジエン)、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸;テレフタル酸、イソフタル酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸などがあげられる。これらの酸性分のうち少なくとも1種を、トリメリット酸又はその誘導体に加えて用いることができる。特に、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、ビフェニルテトラカルボン酸無水物等が好ましい。
【0036】
全酸成分を100モル%としたときに、トリメリット酸又はその誘導体が50モル%以上であることが好ましく、特に、トリメリット酸無水物が50〜90モル%、かつ、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物及び/又はビフェニルテトラカルボン酸無水物が10〜50モル%含むものが寸法安定性の点で好ましい。
【0037】
芳香族イソシアネートとしては、例えば、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートビトリレンジイソシアネート、3,3’−ジフェニルスルホンジイソシアネート、イソホロンジシソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、m−キシレンジシソシアネート、p−キシレンジシソシアネート、1,4−シクロへキシレンジイソシアネートなどを挙げることができる。
【0038】
本発明において誘電率7〜12の範囲を有するポリイミド系樹脂ベルトとするためには、導電性フィラーをポリイミド系樹脂に配合する。導電性フィラーとしては、例えば、カーボンブラック;酸化スズ、酸化チタン(表面が酸化スズで被覆されたものも含む)等の金属酸化物;銅、鉄、ニッケル、アルミニウム等の金属;チタン酸バリウム;チタン酸ジルコン酸鉛;導電性シリカ;あるいはポリアニリン、ポリアセチレン等の導電性ポリマーなどが挙げられる。これらの適宜なものの1種又は2種以上を、ポリイミド系樹脂に分散することで上記範囲の誘電率が達成できる。なかでも低い導電性を有するカーボンブラックが好適に選択される。カーボンブラック粒子表面にポリマーをグラフト化させたり、絶縁材を被覆したりすることで導電特性を制御してもよく、カーボンブラック粒子表面に酸化処理を施してもよい。特に、酸化処理したファーネスブラック、チャンネルブラックが好ましい。導電性フィラーは、球状(粒状)、針状、扁平状のものが好ましく、その平均粒子径は15〜200nm程度であればよい。
【0039】
具体的には、デグサ社製の「スペシャルブラック4」、「スペシャルブラック5」、「スペシャルブラック250」、「プリンテックスV」、三菱化学社製の「MA100」、「MA100R」、「MA7」などが挙げられ、単独及び複数種類のカーボンブラックを併用してもよい。
【0040】
導電性フィラーの配合量は、ポリイミド系樹脂ベルトの全重量に対し13〜25重量%程度、好ましくは13〜20重量%程度の範囲である。この配合量が13重量%未満の少量であるとストラクチャーを形成し易く、面方向の誘電率の異方性に起因して形成画像にムラが生じる場合がある。また、過大な電流を繰り返し流すことで誘電率が変化し易くなる。一方、この配合量が25重量%を超えると、ポリイミド系樹脂ベルトは中間転写部材としての強度を失ってしまい、長期間の使用で中間転写部材が破損するなど、実使用に耐えられないものとなってしまう。
【0041】
また、ポリイミド系樹脂は、ポリイミド系樹脂ベルトの全重量に対し75〜87重量%程度、好ましくは80〜85重量%程度の範囲である。
【0042】
本発明のポリイミド系樹脂ベルトは、中間転写部材として使用することができる。その厚みや周長は、その使用目的に応じて適宜決定し得るが、例えば、厚みは80〜120μm程度、好ましくは90〜100μm程度であり、周長は350〜3000mm程度である。近年、印刷スピードの向上を図るために周長の長いベルトの使用が望まれているが、一般に周長が大きくなると面方向の誘電率の異方性が顕著になり所望の転写ベルトが得られないという問題がある。しかし、本発明のポリイミド系樹脂ベルトは、周長の大きいベルトであって面方向に等方性の誘電率を有し高い品質が維持されている。例えば、ベルトの周長が1500〜3000mm程度の大きなものであっても、優れた等方性の誘電率を保持している。また、このポリイミド系樹脂ベルトは、継ぎ目のないシームレスベルト形状であり、フラットなフィルムを継ぎ合わせによりシームレス形状に加工した中間転写部材と比べ、高品質の画像形成が可能となる。
【0043】
本発明のポリイミド系樹脂ベルトの製造方法は、好ましくはスプレー法を用いた回転成型法による。これは溶融押出法に比べてより寸法精度に優れたフィルムが得やすいためであり、また耐熱性の優れた非熱可塑性のポリイミド系樹脂を選択した場合は、溶融押出法による成型が不可能なためである。ポリイミド系樹脂ベルトのいずれの箇所においても、面方向の誘電率の異方性を表す指標:MOR−cの最大値が1.2以下にする手段としては、本発明のポリイミド系樹脂製中間転写部材の製造工程において、液体原料の流動を出来るだけ小さくするとともに、ポリイミド系樹脂の分子鎖を面方向に無配向化させることにより達成される。
【0044】
ポリイミド系樹脂ベルトの製造方法としては、(1)重力加速度の0.5〜5.0倍の遠心加速度で低速回転する円筒金型の内周面に、導電性フィラーを均一に分散させた液体原料をスプレー法で均一な厚さで塗布する工程、(2)該円筒金型を重力加速度の0.5〜5.0倍の遠心加速度で低速回転させたまま、100〜140℃の温度で加熱して溶媒を揮発させ不揮発分濃度が35重量%以上の皮膜を形成する工程、(3)該皮膜を円筒金型の内周面に付着した状態のまま、ポリイミド転化及び/又は溶媒を揮発させるのに十分な温度と時間で加熱する工程、を含むこと特徴とする。
【0045】
なお、本発明で使用する遠心加速度(G)は、式(II)から導かれる。
【0046】
G(m/s2)=r・ω2 =r・(2・π・n)2 (II)
ここで、rは円筒金型の半径(m)、ωは角速度(rad/s)、nは1秒間での回転数(60s間の回転数がr.p.m)を示す。比較する重力加速度(g)は、9.8 (m/s2)である。
【0047】
まず液体原料を調整する。液体原料としては、ポリイミド系樹脂ベルトの材質がポリイミド樹脂の場合、実質イミド化されていない前段階のポリアミド酸が溶媒に溶解したポリアミド酸溶液が挙げられる。また、ポリイミド系樹脂ベルトの材質がポリアミドイミド樹脂の場合は、酸クロリド法又はイソシアネート法などを用いた溶液中での重合法でイミド閉環されたポリアミドイミド樹脂が溶媒に溶解したポリアミドイミド樹脂溶液が挙げられる。
【0048】
使用する溶媒としては、非プロトン系有機極性溶媒が好ましく、例えばN−メチル−2−ピロリドン(以下、「NMP」と呼ぶ。)、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等が使用される。これらのうちの1種又は2種以上の混合溶媒であってもよい。特に、NMPが好ましい。溶媒の使用量は、原料の酸成分とアミン成分の合計量100重量部に対し、200〜700重量部程度(好ましくは、250〜500重量部程度)になるように決めればよい。
【0049】
上記の液体原料に、カーボンブラックなどの導電性フィラーを添加すると、粘度が増加するため、ボールミルなどの分散機中で行われるボール間の衝撃力によっても導電性フィラーの粉砕が困難となる場合がある。導電性フィラーを添加して液体原料に均一に分散するには、分散機で行われる導電性フィラーの粉砕と、ほぐされていく導電性フィラーの溶媒液による「ぬれ」という界面現象が伴わなければならない。本発明者らの実験によれば、溶液の粘度を0.5〜10.0Pa・s、好ましくは1.0〜5.0Pa・sの範囲とすれば、導電性フィラーの分散悪化を最小限に抑制できる。また、分散の方法としては特に制限されることはなく、例えば、ボールミル法や超音波ミル法等で分散させる方法がある。また、本発明の効果に悪影響を与えない範囲で、イミダゾール系化合物(2-メチルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、2-メチル-4-メチルイミダゾール、2-エチル-4-エチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール)、界面活性剤(フッ素系界面活性剤等)等の添加剤を加えてもよい。
【0050】
前記の液体原料は、重力加速度の0.5〜5.0倍の遠心加速度で低速回転する円筒金型の内周面に、導電性フィラーを均一に分散させた液体原料をスプレー法で均一な厚さで塗布される(例えば、図2(A)を参照)。つまり、重力加速度の0.5〜5.0倍の遠心加速度という低速回転で液体原料がスプレー法によって供給されることで、回転方向に受けるせん断力が小さく、分子鎖の配向やカーボンブラックなどの導電性フィラーのストラクチャー配向を抑制できる。但し、前記の遠心加速度が重力加速度の0.5倍未満であると、供給された液体原料が円筒金型の内周面に密着せずに流れ落ちる(たれる)危険性がある。一方、重力加速度の5.0倍より大きくなると、供給時にうける回転方向へのせん断力による分子鎖の配向やカーボンブラックなどの導電性フィラーのストラクチャー配向が生じてしまう。また、遠心力による液体原料の流動が発生し、カーボンブラックなどの導電性フィラーも流れの方向に配向し、ストラクチャーを形成するため好ましくない。特に、重力加速度の0.8〜4.0の遠心加速度で回転するのがより好ましい。
【0051】
また、スプレー法で塗布する作用効果は、液体原料を霧化することにより供給時の流動を限りなく小さくして回転する円筒金型の内周面に瞬間的に密着できる。液体原料の粘度にもあまり影響されず、同一回転速度下で原料供給できる。そして、薄い厚みの塗膜を容易に得ることができ、液体原料の不揮発分濃度を高く設定することが可能となる。
【0052】
液体原料の供給手段は、スプレー法で吐出させながら回転する円筒金型の回転軸方向に移動させることによって、円筒金型の内周面に液体原料を塗布する。スプレーの形状は、特に制約はなく、円形や矩形など適時使用できる。また、その大きさも特に制約はなく、吐出される液体原料の粘度との組み合わせによって、適正な吐出圧力となるように設計することが可能である。スプレーヘッドと円筒金型の距離は任意でよく、5mm〜200mm程度が好ましい。吐出圧力の方式には特に制限はないが、圧縮空気や高粘度液対応のモーノポンプ、キヤポンプなどが用いられる。
【0053】
このように円筒金型の内周面に液体原料をスプレー法で塗布した場合は、円筒金型の高速回転によって液体原料を流動させ塗膜の膜厚を均一にさせる必要はない。また、原料の流動によって引き起こされるポリイミド系樹脂ベルトの電気特性への影響も回避できる。円筒金型の内周面には、ポリイミド系樹脂が密着しないように、離型剤を塗布することが好ましい。離型材の種類に制限はないが、液体原料の溶媒や加熱反応時に樹脂から発生する水の蒸気などに侵されないものであればよい。
【0054】
液体樹脂の皮膜形成工程においては、重量加速度の0.5〜5.0倍(好ましくは0.8〜4.5倍)の遠心加速度で低速回転させたまま、100〜140℃の温度で溶媒を揮発して不揮発分濃度を35重量%以上にすることで円筒金型の内周面に皮膜を形成する(例えば、図2(B)を参照)。一般に、ポリイミド樹脂の前駆体であるポリアミド酸では、70〜80℃加熱では熱イミド化反応がほとんど起こらず、最終的には不揮発分濃度26重量%程度で飽和することが知られている。そのため、100〜140℃の温度で加熱することでイミド化率10〜30%の範囲で進行させた後、溶媒を除去し、不揮発分濃度を35重量%以上にできる。140℃より高い温度で加熱すると急激な溶媒揮発が起こり、形成される皮膜表面状態の悪化だけでなく、中間転写部材として必要な誘電率7〜12の範囲を外れるという問題が発生する場合がある。
【0055】
ポリイミド系樹脂皮膜形成工程においては、ポリイミド系樹脂の種類によって異なるが円筒金型の内周面に付着した状態のまま80〜200分間かけて(好ましくは、100〜160分間かけて)昇温する。昇温速度は1.5〜0.8℃/min程度が好適である。次に、完全にポリイミド転化する温度、及び/又は溶媒を完全に揮発させるのに十分な温度と時間で加熱することで、ポリイミド系樹脂皮膜を形成することができる(例えば、図2(C)を参照)。通常、約250℃以上まで昇温して加熱すればよい。ポリイミド樹脂の場合は、例えば280〜350℃で30〜90分間、ポリアミドイミド樹脂の場合は、例えば250〜300℃で30〜90分間加熱処理して、ポリイミド系樹脂皮膜を形成することができる。皮膜形成を円筒金型の内周面に付着した状態で行うことで、イミド化反応や溶媒揮発で起こる収縮を抑えて、その応力でポリマー鎖を面方向に均一配向させることが可能となる。
【0056】
特に、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物及びジアミノジフェニルエーテルを原料モノマーとしたポリイミド樹脂、トリメリット酸無水物とベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物及び/又はビフェニルテトラカルボン酸無水物とからなる酸無水物及び芳香族イソシアネートを原料モノマーとしたポリアミドイミド樹脂では、約250℃以上の高温加熱時に面内配向の緩和が起こって無配向となり易い特徴を有している。
【0057】
このように製造したポリイミド系樹脂ベルトは、該ベルトのいずれの箇所においても、面方向の誘電率の異方性を表す指標:MOR−cの最大値が1.2以下、好ましくは1.1以下、より好ましくは1.05以下である面方向に等方性の誘電率を有し、平面性などの寸法安定性に優れた中間転写部材となる。
【0058】
本発明のポリイミド系樹脂ベルトは、面方向に等方性の誘電率を有し、過大な電流を繰り返し流しても誘電率が変化しにくいため、カラー画像形成装置の中間転写部材として用いると正確な転写を実現することができ、並びに長期間安定して高品質の転写画像を得ることができる。そして、中間転写部材の長寿命化につながり、メンテナンスフリー化を実現したものであるため、カラー画像形成装置としての信頼性が向上するメリットがある。さらに、中間転写部材の転写面にうねりがなく平坦であるため、良好な画像を得ることができる。
【0059】
カラー画像形成装置は、本発明のポリイミド系樹脂ベルトを少なくとも1種類以上備えることを特徴とする電子写真方式の画像形成装置である。本発明のポリイミド系樹脂ベルトを中間転写ベルト、直接転写ベルトあるいは転写兼定着ベルトとして備えることで、高画質の転写画像を得ることができる。
【0060】
転写兼定着ベルトとして使用する場合には、表面に付着するトナーの剥離性向上のため、表面に非粘着性の樹脂皮膜を形成することが有効である。その非粘着性の樹脂皮膜の材料としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などのフッ素系樹脂などが好ましい。また、弾性シリコーン樹脂、フッ素ゴム樹脂、弾性フロロシリコーン樹脂、弾性ポリシロキサンなどを用いてもよい。
【発明の効果】
【0061】
本発明のポリイミド系樹脂ベルトによれば、形成画像にムラが生じず、正確な転写を実現することができ、良好な画質を得ることができる。すなわち、本発明のポリイミド系樹脂ベルトは、面方向に等方性の誘電率であるという優れた特性を備えている。そのため、例えばカラー画像形成装置の中間転写ベルトなどとして使用した場合、電荷の帯電安定性と徐電を適切に行うことができ、並びに長期間安定して高品質の転写画像を得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0062】
以下に実施例に基づいて本発明の内容を具体的に説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【0063】
実施例1
3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と4,4’−ジアミノジフェニルエーテルとを、N−メチル−2−ピロリドン中で合成したポリイミド前駆体のポリアミド酸溶液を20kg用意した。この溶液は粘度3.0Pa・s、不揮発分濃度18.0重量%であった。この溶液にカーボンブラック(三菱化学社製「MA100」)0.55kgとN-メチル-2-ピロリドン2.0kgを加えて、ボールミルにてカーボンブラックの均一分散を行った。
【0064】
このカーボンブラック分散ポリイミド前駆体溶液は、不揮発分濃度18.40重量%であった。不揮発分重量のうち、カーボンブラックの含有量は、13.25重量%であった。また、溶液中でのカーボンブラックの平均粒径は0.32μm、最大粒径は0.76μmであった。
【0065】
なお、本明細書における「不揮発分濃度」とは次のように算出された値である。試料を金属カップ等の耐熱性容器で精秤しこの時の試料の重量をAgとする。試料を入れた耐熱性容器を電気オーブンに入れて、120℃×15分、180℃×15分、280℃×30分で順次昇温しながら加熱、乾燥し、得られる固形分の重量(不揮発分重量)をBgとする。同一試料について5個のサンプルのA及びBの値を測定し(n=5)、次式(III)にあてはめて不揮発分濃度を求めた。その5個のサンプルの平均値を、本発明における不揮発分濃度として採用した。
【0066】
不揮発分濃度=B/A×100(%) (III)
外径324mm、内径300mm、長さ500mmの円筒金型を、重力加速度の4.0倍の遠心加速度(約154r.p.m.)で回転させながら、その円筒金型の内周面にカーボンブラック分散ポリイミド前駆体溶液を、スプレー法にて均一に480mmで塗布した。塗布厚さは、不揮発分濃度から算出し、ポリイミド樹脂ベルトの厚さが90μmになるよう決定した。その後も重力加速度の4.0倍の遠心加速度(約154r.p.m.)で回転させたまま、30分間かけて130℃に昇温し、その後130℃で90分間保持して溶媒揮発を行った。不揮発分濃度は約55重量%であった。
【0067】
次に、この管状物を円筒金型の内周面に付着したまま高温加熱炉に投入し、150分間かけて320℃に昇温し(昇温速度:約1.27℃/min)、320℃で60分間高温加熱することでポリイミド転化を完了した。その後、常温まで冷却して金型よりポリイミド樹脂ベルトを取り出し、幅350mmにカットし、カラー画像形成装置の中間転写ベルトとして用いた。その結果を表1に示す。
【0068】
次に、面方向の誘電率を測定して、MOR−cを求めた。ポリイミド樹脂ベルト試料に、マイクロ波を照射した場合、吸収されたマイクロ波の透過強度が試料の異方性より異なることから、透過強度の差を表した極座標(配向パターン)の長軸と短軸の比を求め、分子配向状態を示す指標MOR値とした。なお、上記配向パターンから、配向角および異方性の程度を知ることができる。ポリイミド樹脂ベルトの幅方向に対し2ヶ所、および周方向に2ヶ所の計4ヶ所の部位から、4cm×4cmのサンプル片合計4枚を切り出し、それぞれのサンプルを測定周波数19〜20GHzで直径15mmの部位を測定した。これを基準厚さ(90μm)で補正してMOR−cを測定した(前記式(I)参照)。測定結果を表2に示す。
【0069】
実施例2
実施例1と同様のカーボンブラック分散ポリイミド前駆体溶液を用いて、外径740mm、内径700mm、長さ700mmの円筒金型を、重力加速度の0.8倍の遠心加速度(約45r.p.m.)で回転させながら、その円筒金型の内周面にカーボンブラック分散ポリイミド前駆体溶液をスプレー法にて均一に650mmで塗布した。塗布厚さは、不揮発分濃度から算出し、中間転写部材の厚さが90μmになるよう決定した。
【0070】
その後も重力加速度の0.8倍の遠心加速度(約45r.p.m.)で回転させたまま、60分間かけて110℃に昇温し、その後110℃で90分間保持して溶媒揮発を行った。不揮発分濃度は約42重量%であった。次に、この管状物を円筒金型の内周面に付着したまま高温加熱炉に投入し、150分間かけて320℃に昇温し(昇温速度:約1.40℃/min)、320℃で90分間高温加熱することでポリイミド転化を完了した。
【0071】
その後、常温まで冷却して金型よりポリイミド樹脂ベルトを取り出した。実施例1と同様に4点をサンプリングし、このサンプルのMOR−c値を測定した。その結果を表3に示す。
【0072】
実施例3
トリメリット酸無水物90モル%、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物5モル%、ビフェニルテトラカルボン酸無水物5モル%からなる酸無水物と、芳香族ジイソシアネート100モル%からなるポリアミドイミド溶液を20kg用意した。この溶液は、粘度50.0Pa・s、不揮発分濃度14.0重量%であった。この溶液にカーボンブラック(デグサ社製の「スペシャルブラック4」)0.50kgとN-メチル-2-ピロリドン6.0kgを加えて、ボールミルにてカーボンブラックの均一分散を行った。このカーボンブラック分散ポリアミドイミド溶液は、不揮発分濃度12.45重量%であった。不揮発分重量のうち、カーボンブラックの含有量は、15.15重量%であった。また、溶液中でのカーボンブラックの平均粒径は0.28μm、最大粒径は0.58μmであった。
【0073】
外径324mm、内径300mm、長さ500mmの円筒金型を、重力加速度の4.5倍の遠心加速度(約163r.p.m.)で回転させながら、その円筒金型の内周面にカーボンブラック分散ポリアミドイミド溶液を、スプレー法にて均一に450mmで塗布した。塗布厚さは、不揮発分濃度から算出し、ポリアミドイミド樹脂ベルトの厚さが90μmになるよう決定した。その後、重力加速度の2.0倍の遠心加速度(約109r.p.m.)で回転させながら、30分間かけて140℃に昇温し、その後140℃で90分間保持して溶媒揮発を行った。不揮発分濃度は約60重量%であった。次に、この管状物を円筒金型の内周面に付着したまま高温加熱炉に投入し、120分間かけて260℃(昇温速度:約1.00℃/min)に昇温し、260℃で90分間高温加熱することで溶媒を揮発させた。
【0074】
その後、常温まで冷却して金型よりポリアミドイミド樹脂ベルトを取り出し、幅350mmにカットし、カラー画像形成装置の中間転写ベルトとして用いた。その結果を表1に示す。また、実施例1と同様に、4点をサンプリングし、MOR−c値を測定した。その結果を表4に示す。
【0075】
比較例1
実施例1で得られたカーボンブラック分散ポリイミド前駆体溶液を、外径324mm、内径300mm、長さ500mmの円筒金型の内周面にノズル式の吐出装置にて指定量を投入した。ここで、ノズル式とは、微小開口部から該溶液を吐出し、スプレー法のように霧化せずに筋状で金型内に原料を供給するものである(以下同じ)。次に、重力加速度の100倍の遠心加速度(約772r.p.m.)で、カーボンブラック分散ポリイミド前駆体溶液を内周面に均一な塗膜厚みに流延させた。遠心加速度が小さいと前駆体溶液の流動が十分に行われず、円筒金型への投入した部位の塗膜厚みが大きいままで成形されてしまう。そのため、遠心力を利用した回転成形法では、大きな遠心加速度で前駆体溶液を円筒金型の内周面に均一に流延させることが最小限必要となる。
【0076】
その後、重力加速度の5.0倍の遠心加速度(約172r.p.m.)の回転に変更し、30分間かけて130℃に昇温し、その後130℃で90分間保持して溶媒揮発を行った。不揮発分濃度は約52重量%であった。次に、この管状物を円筒金型の内周面に付着したまま高温加熱炉に投入し、150分間かけて320℃に昇温し(昇温速度:約1.27℃/min)、320℃で60分間高温加熱することでポリイミド転化を完了した。
【0077】
その後、常温まで冷却して金型よりポリイミド樹脂ベルトを取り出し、幅350mmにカットし、カラー画像形成装置の中間転写ベルトとして用いた。その結果を表1に示す。その後、実施例1と同様に、4点をサンプリングし、MOR−c値を測定した。その結果を表5に示す。
【0078】
比較例2
外径324mm、内径300mm、長さ500mmの円筒金型を重力加速度の4.5倍の遠心加速度(約163r.p.m.)で回転させながら、その円筒金型の内周面に、実施例3で得られたカーボンブラック分散ポリアミドイミド溶液を、ノズル式の吐出装置よって吐出させた。回転する円筒金型の回転軸方向にノズルを移動させて、らせん状の吐出をおこなった。
【0079】
その後、重力加速度の100倍の遠心加速度(約772r.p.m.)に変更し、円筒金型を回転させ続けることで、溶液の流動性により、らせん状の筋は約10分間で消滅した。そして、重力加速度の100倍の遠心加速度(約772r.p.m.)で回転させながら、90分間かけて130℃に昇温し、その後130℃で60分間保持して溶媒揮発を行った。次に、この管状物を円筒金型の内周面に付着したまま高温加熱炉に投入し、120分間かけて260℃に昇温し(昇温速度:約1.08℃/min)、260℃で90分間高温加熱することで溶媒を揮発させた。
【0080】
その後、常温まで冷却して金型よりポリアミドイミド樹脂ベルトを取り出し、幅350mmにカットし、カラー画像形成装置の中間転写ベルトとして用いた。その結果を表1に示す。その後、実施例1と同様に、4点をサンプリングし、MOR−c値を測定した。その結果を表6に示す。
【0081】
比較例3
3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物とp−フェニレンジアミンとを、N−メチル−2−ピロリドン中で合成したポリイミド前駆体のポリアミド酸溶液を20kg用意した。この溶液は粘度5.0Pa・s、不揮発分濃度18.0重量%であった。この溶液にカーボンブラック(電気化学工業社製「デンカブラック」):0.28kgとN-メチル-2-ピロリドン:3.0kgを加えて、ボールミルにてカーボンブラックの均一分散を行った。このカーボンブラック分散ポリイミド前駆体溶液は、不揮発分濃度16.67重量%であった。不揮発分重量のうち、カーボンブラックの含有量は、7.22重量%であった。また、溶液中でのカーボンブラックの平均粒径は0.87μm、最大粒径は5.86μmであった。
【0082】
外径326mm、内径312mm、長さ500mmの円筒金型を、重力加速度の4.0倍の遠心加速度(約151r.p.m.)で回転させながら、その円筒金型の内周面にカーボンブラック分散ポリイミド前駆体溶液をスプレー法にて均一に480mmで塗布した。塗布厚さは、不揮発分濃度から算出し、ポリイミド樹脂ベルトの厚さが90μmになるよう決定した。その後も重力加速度の4.0倍の遠心加速度(約151r.p.m.)で回転させたまま、30分間で120℃に昇温し、その後120℃で90分間保持して溶媒揮発を行った。そして該円筒金型の内周面から管状物を取り出した。この管状物の不揮発分濃度は約40重量%であった。
【0083】
次に前記管状物をイミド化と共に残存する溶媒を除去するために、これを表面粗さR=2.0μm、外径300mm、長さ380mmのアルミニウム製の円筒金型に嵌挿し、熱風乾燥機内に投入した。180分間で450℃に到達させ、その450℃で30分間加熱した。最後に常温に冷却し金型から取り出し、幅350mmにカットし、カラー画像形成装置の中間転写ベルトとして用いた。その結果を表1に示す。その後、実施例1と同様に、4点をサンプリングし、MOR−c値を測定した。その結果を表7に示す。
【0084】
【表1】

【0085】
【表2】

【0086】
【表3】

【0087】
【表4】

【0088】
【表5】

【0089】
【表6】

【0090】
【表7】

【0091】
表1の画像評価の結果と表2〜表7のMOR−cの値から分かるように、実施例1及び3のポリイミド系樹脂ベルト(ポリイミド樹脂ベルト又はポリアミドイミド樹脂ベルト)は、誘電率が7〜12の範囲であって、MOR−cの最大値が本発明の範囲(1.2以下)内に設定されており、いずれも良好な画像が得られることが示唆された。
【0092】
一方、比較例1〜3のポリイミド系樹脂ベルト(ポリイミド樹脂ベルト又はポリアミドイミド樹脂ベルト)は、誘電率が7〜12の範囲であっても、MOR−cの最大値が本発明の範囲から外れており、正確な転写を実現することが出来ず、画像不良が生じていた。なお、特許文献6のように誘電率が7〜12の範囲を外れているフィルムは、MOR−cの最大値に関係なく中間転写部材に不可欠な帯電と除電という性能を両立させることができないため、画像を形成することは困難である。
【0093】
実施例1〜3(表2〜4)の結果より、重力加速度の0.5〜5.0倍の遠心加速度で低速回転する円筒金型の内周面に、導電性フィラーを均一に分散させた液体原料をスプレー法で均一な厚さで塗布する工程、重力加速度の0.5〜5.0倍の遠心加速度で低速回転させたまま100〜140℃の温度で溶媒を揮発して不揮発分濃度を35重量%以上の皮膜を形成する工程と、該皮膜を円筒金型の内周面に付着した状態で完全にポリイミド転化、または、溶媒を完全に揮発させるのに十分な温度と時間で加熱する工程とからなる製造方法により、MOR−cの最大値が1.2以下の面方向に等方性の誘電率を持ったポリイミド系樹脂ベルトが得られることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】分子配向計(王子計測機器(株)製MOA−6020)を用いたMOR評価の模式図である。
【図2】本発明のポリイミド系樹脂ベルトの製造工程の模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電率が7〜12の範囲を有するポリイミド系樹脂ベルトであって、該ポリイミド系樹脂ベルトのいずれの箇所においても面方向の誘電率の異方性を表す指標:MOR−cの最大値が1.2以下である面方向に等方性の誘電率を持ったポリイミド系樹脂ベルト。
【請求項2】
前記ポリイミド系樹脂ベルトが、ポリイミド系樹脂を75〜87重量%及び導電性フィラーを13〜25重量%含む請求項1に記載のポリイミド系樹脂ベルト。
【請求項3】
前記ポリイミド系樹脂ベルトが、厚み80〜120μm程度、周長350〜3000mm程度のシームレスベルトである請求項1又は2に記載のポリイミド系樹脂ベルト。
【請求項4】
前記ポリイミド系樹脂が、ポリイミド樹脂又はポリアミドイミド樹脂である請求項1〜3のいずれかに記載のポリイミド系樹脂ベルト。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のポリイミド系樹脂ベルトからなる中間転写部材。
【請求項6】
請求項1に記載の面方向に等方性の誘電率を持ったポリイミド系樹脂ベルトの製造方法であって、
(1)重力加速度の0.5〜5.0倍程度の遠心加速度で回転する円筒金型の内周面に導電性フィラーを均一に分散させた液体原料をスプレー法で均一な厚さで塗布する工程、
(2)該円筒金型を重力加速度の0.5〜5.0倍程度の遠心加速度で回転させたまま100〜140℃程度の温度で加熱して、不揮発分濃度が35重量%以上の皮膜を形成する工程、及び
(3)該皮膜を円筒金型の内周面に付着した状態のまま約250℃以上の温度で加熱する工程
を含むこと特徴とする製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−1262(P2007−1262A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−187061(P2005−187061)
【出願日】平成17年6月27日(2005.6.27)
【出願人】(000001339)グンゼ株式会社 (919)
【Fターム(参考)】