説明

面状構造体と潅水構造体とこれらを用いた潅水システム及び潅水システムを用いる地表面温度の低下方法

【課題】ヒートアイランド現象を安定して緩和することができる面状構造体と潅水構造体とこれらを用いた潅水システム及び潅水システムを用いる地表面温度の低下方法を提供する。
【解決手段】薄膜状に形成された保水性を有する表層2と、表層2の直下に防水シート等からなる遮水層4とを配置して面状構造体1を構成する。面状構造体1は、さらに、表層2を貫いて遮水層4まで連通する開口部3と、表層2の地上空間側に日射エネルギーの反射を低減するように低反射面6を形成できる。更に、貯水部材、内部給水手段、開口部とを配置して灌水構造体を構成する。更に、雨水貯留槽15,ポンプ18,スプリンクラー14からなる外部給水手段18と組み合わせることにより、地表冷却効果の安定性を高めた潅水システム110を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路や建築物などの人工の地表面被覆に係り、地表面を被覆する面状構造体と潅水構造体と、これらを用いた潅水システム及び前記潅水システムを用いる地表面温度の低下方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
今日、都市部の歩道等の道路やビルの屋上、あるいは公園内の一部は、通常、アスファルトやコンクリートで固められている。そのため、照り返しのきつい夏季の日中、そのような場所の温度上昇は周囲と比較して一段と激しい。このような環境下において歩道を歩いたり、ビルの屋上等で過ごしたりすることはとても厳しい状況下にある。更に、日中のみならず夜間においても、この熱がアスファルトやビルの屋上から放熱されて、熱帯夜を引き起こし、いわゆるヒートアイランド現象を引き起こす大きな要因になっている。
【0003】
このヒートアイランド現象を緩和するために、道路の脇に植樹したり、ビルの屋上に芝生や木を植えたり、あるいは種々の草花を植える試みも成されている。しかしながらそれだけでは十分でなく、さらなる工夫が求められている。
【0004】
この一環として、特許文献1や特許文献2にあるように保水性を有する保水性舗装ブロック本体(以下単に保水性ブロックという)の下に容器状の保水タンクや保水トレーを設置した潅水構造体が提案されている。この潅水構造体の機能は、保水性ブロックを浸透して下降してきた雨水や打ち水(以下単に雨水等という)を保水タンクや保水トレーに溜めておき、外気温が高温になった時には、この雨水等を給水手段、具体的には不織布等の導水性部材を介して毛細管力により揚水し、これを保水性ブロック表面から蒸発させて、その蒸発潜熱により保水性ブロックを冷やす、というものである。すなわち、降雨時に雨水等を保水タンクや保水トレーに貯え、気温が上昇した折にはこの水で保水性ブロックを冷やしてヒートアイランド現象を緩和させよう、というものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2885085号公報(特開平8−85907号)
【特許文献2】特開2006−124980号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら特許文献1や特許文献2に開示されている舗装用の潅水構造体を実際に使用してみると、冷却能力が短期間で消失する、という問題が確認された。冷却能力が消失する期間は、保水性ブロックの保水性能にもよるが、最大でも1〜3日程度である。これは、保水性ブロック単体の場合と変わらない。すなわち、保水タンクや保水トレーの貯水空間が冷却能力の持続性に寄与していないことが判った。この理由は、概略、以下の2つにある。
【0007】
第一の理由は、地面に埋設されて十分に保水した保水性ブロックの水分は、地表面近傍に保水されたわずかな水分を除いてほとんど蒸発しないことである。
これは、十分に保水した状態で地面に埋設された保水性ブロックを、連続した晴天条件の下、表面が十分に乾燥した後に、掘り返して質量測定を行ったとき、埋設前と掘り返し後の質量がほぼ同じであることから明らかになった。
保水性ブロックの厚さは、一般に50〜80mmのものが使用されるが、前記質量測定によれば、この保水分の10%ほども蒸発していない。
第二の理由は、保水タンクや保水トレーの貯水空間には雨水等がほとんど入らないことである。このため、これらの保水タンクや保水トレーが冷却能力の持続性に寄与しない。
【0008】
以上、これらの潅水構造体では、保水性ブロックが保水した水分のほとんどが蒸発しないため、この水分が冷却能力の持続性に寄与せず、加えて、保水タンクや保水トレーの貯水空間に水が入らないため、保水タンクや保水トレーが冷却能力の持続性が維持できないことになる。その結果、保水性ブロックに対する冷却能力は、降雨が終わると、急速に低下が始まり、最大でも1〜3日程度でこの冷却能力が消失する。
【0009】
また、保水性ブロックに対する冷却能力の持続性とは別の問題として、保水性ブロックの内部に滞留した水分の蓄熱により地表面温度が上昇しやすくなる、という問題がある。
すなわち、保水性ブロックを地表面に埋設すると、数回の雨の後、保水性ブロックの保水分はほぼ100%となるが、この後で晴天が続いても、埋設された保水性ブロックの保水分の90%以上は保水性ブロックの内部に滞留し続けることになる。このとき、水は比熱の高い素材であるため、この滞留水分は、日射エネルギーを蓄熱して地表面を高温にする蓄熱材として働いてしまい、従って、ヒートアイランド現象を悪化させる、と推測される。
【0010】
前述の問題に鑑み本発明の目的は、ヒートアイランド現象を安定して緩和することができる面状構造体と潅水構造体、さらには、これらを用いた潅水システムを提供することである。具体的には、均一に地表面を冷却すると共に、照り返しを防いで、地上に立つ人々の体感温度上昇を抑制する機能を備えた面状構造体を提供し、更に、同機能を給水手段と組み合わせることにより、地表冷却効果の安定性を高めた潅水構造体または潅水システムを提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成すべく本発明の請求項1記載の面状構造体は、
道路や建築物などの人工の地表面に敷設される面状構造体において、
薄膜状に形成された保水性を有する表層と、
該表層の直下に接するように配置した遮水層と、
を有することを特徴とする。
【0012】
本発明の請求項2に記載の面状構造体は、道路や建築物などの人工の地表面に敷設される面状構造体において、
薄膜状に形成された保水性を有する表層と、
該表層の直下に前記表層と接するように配置した遮水層と、
該表層、該遮水層の少なくともいずれか1つ以上に形成された1個以上の開口部と、
を有することを特徴とする。
【0013】
このようにしてなる本発明の請求項1および請求項2に記載の面状構造体によれば、雨水等が降った時には、保水性を有する面状構造体の表層に水を保水することができると共に、外気温が高温になった時には、表層に保水した水が蒸発することで、面状構造体を地表面から冷却することができる。
また、表層を薄膜状に形成して、遮水層で地中と区切ることにより、保水された水分の蓄熱への寄与を抑制することができるとともに、遮水層があることで、雨水等の地中への浸透速度を遅くして、表層内に均一に分散させて保水することができるようになる。
さらに、本発明の請求項2に記載の面状構造体によれば、表層、遮水層の少なくともいずれか1つ以上を地上空間側に開口をもつように開口部、すなわち、孔を開けることで、地上と地下の空気の通気や、水の通水を可能とすることができる。表層、遮水層の少なくともいずれか1つ以上を貫通するように開口部を形成すれば、地表面に水溜りができるのを防止することができる。ここで、開口部を表層の途中までしか貫通しないようにしてもよく、この場合には、保水性を有する表層の途中までしか開口部が貫通していないため、面状構造体を敷設した地表面に水を留めやすくなる。また、この開口部は、表層が保水した水分の開口部内面からの蒸発を可能とすることで、蒸発冷却面積を増し、冷却効果を向上することができる。
【0014】
本発明の請求項3に記載の面状構造体は、請求項1または請求項2に記載の面状構造体において、前記表層の地上空間側に地上空間への日射エネルギーの反射を低減するように低反射面が形成されていることを特徴とする。
【0015】
本発明の請求項3に記載の面状構造体によれば、地表面に位置する表層の地上空間側に低反射面が形成されることで、請求項1または請求項2に記載の面状構造体がもつ、地表面温度の上昇抑制効果に加えて、地上空間に立つ人に対する光エネルギーの入射量低減効果が得られ、真夏の太陽エネルギーの照り返しによる体温上昇を抑制することができる。
すなわち、地表面に立つ人が感じる暑さの要素は、気温や風以外に、光エネルギーによるものがあるが、この光エネルギーは、主に、上方からくる日射エネルギーと、下方からくる反射光エネルギー、下方からくる輻射光エネルギーよりなる。
従って、地表面温度の上昇を抑制することで、輻射光エネルギーの低減効果が得られるとともに、地表面に低反射面を形成することで、反射光エネルギーの低減効果が得られるため、地上空間に立つ人に対する光エネルギーの総量が低減され、照り返しによる体温上昇を抑制することができる。
本発明の請求項4に記載の面状構造体の前記表層は、保水性アスファルト舗装や、保水性コンクリート舗装、あるいは保水性を有するモルタルや漆喰であることを特徴とするものである。また、本発明の請求項5に記載の遮水層は、プラスチック製の防水シート、あるいは金属板や、撥水加工をした布、又は粘土層あるいは金網に粘土層を固定したもののいずれかを用いることができる。請求項6に記載の面状構造体において、該面状構造体の前記表層に水を給水する外部給水手段を有することを特徴とする面状構造体である。
【0016】
本発明の請求項7に記載の潅水構造体は、道路や建築物などの人工の地表面に敷設される潅水構造体において、水を貯水する貯水部材と、該貯水部材に貯水された水を毛細管力により外部に吸い出すための導水部材とを備えた内部給水手段と、該内部給水手段の上部に形成された遮水性を有する遮水面と、該遮水面の上部に薄膜状に形成された保水性を有する保水面と、該保水面、該遮水面、該内部給水手段、の少なくともいずれか1つ以上に形成される1個以上の開口部と、を有することを特徴とする。
ここで、該保水面、該遮水面、該内部給水手段、の少なくともいずれか1つ以上に形成される開口部は、保水面、遮水面、内部給水手段は、この順に1つ以上形成されるのが望ましく、さらには、この順に全てを連通して形成されることが望ましい。このように、開口部を設けることで、該貯水部材と地上空間との通気または通水、あるいは該貯水部材に貯水された水と該導水部材と該保水面との通水を可能とすることができる。
【0017】
本発明の請求項8に記載の潅水構造体は、請求項7に記載の潅水構造体において、該貯水部材、該遮水面、該保水面の少なくともいずれか1つ以上の地上空間側に地上空間への日射エネルギーの反射を低減するように低反射面が形成されていることを特徴とする。
【0018】
本発明の請求項7、請求項8のいずれか1項に記載の潅水構造体によれば、内部給水手段として、地中で雨水等を貯える貯水部材と、この貯水部材から毛細管力によって水を揚水して、上方の保水性を有する保水面に水を給水する導水部材とを有することで、雨水等の貯水量を増大させることができる。従って、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の面状構造体の効果に加えて、これらの面状構造体の表層に相当する、潅水構造体の保水面に対する給水時間を長くすることが可能となる。すなわち、地表冷却効果を長く安定にすることが可能となる。
【0019】
本発明の請求項9に記載の潅水システムは、請求項7または請求項8のいずれか1項に記載の潅水構造体において、該潅水構造体の前記表層に水を給水する外部給水手段を有することを特徴とする。
【0020】
本発明の請求項6に記載の面状構造体や請求項9に記載の潅水システムによれば、外部給水手段として、スプリンクラーなどの地表散水設備を用いることで、タイマーにより定期的に水を自動給水することで、雨が降らない日照りが続いて面状構造体や潅水構造体の水分が失われた場合であっても、地表冷却効果を安定して維持することができる。
外部給水手段は、地中埋設潅水パイプなど、であってもよい。
さらに、本発明の請求項10に記載のように、請求項9に記載の潅水システムを用いて地表を冷却する地表面温度の低下方法を得ることができる。この方法によれば、地表面に形成された保水性を有する表層の厚さを薄くすることで、蒸発冷却効果に寄与する地表面近傍の保水分を活用した上、さらに蓄熱による温度上昇に寄与する地中側の保水分を減らして地表面温度の上昇を抑制することができる。また、表層の直下に遮水層をおくことで、雨水等の水を、表層内に均一に分散させることで地表冷却効果を均一にできる。さらに、地表面を低反射面で覆うことで、地上空間への照り返しを防いで、地上に立つ人の体感温度の上昇を抑制することを可能にできる。この地表面温度の低下方法を採用すれば、地表冷却効果を長く持続でき、地表面温度を低く保つことができることから、ヒートアイランド現象を緩和することができる。
【発明の効果】
【0021】
以上のように本発明によれば、ヒートアイランド現象を緩和することができる面状構造体と潅水構造体と、さらには、これらを用いた潅水システムを提供することができる。具体的には、地表面に形成された保水性を有する表層の厚さを薄くすることで、蒸発冷却効果に寄与する地表面近傍の保水分を活用した上で、蓄熱による温度上昇に寄与する地中側の保水分を減らすことができ、これにより、地表面温度上昇を抑制することができる。
更に、表層の直下に遮水層をおくことで、雨水等の水を、表層内に均一に分散させて保水することができ、これにより、地表冷却効果を均一にする。
更に、地表面を低反射面で覆うことで、地上空間への照り返しを防ぐ。これにより、地上に立つ人の体感温度上昇を抑制する。
ついで、給水手段を設けることにより、地表冷却効果を長く安定にする。
その結果、均一に地表面を冷却するとともに、照り返しを防いで、地上に立つ人々の体感温度上昇を抑制する機能を備えた面状構造体を提供することができる。更に、同機能を給水手段と組み合わせることにより、地表冷却効果の安定性を高めた潅水構造体または潅水システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の面状構造体の第一の実施形態例を示す平面図である。
【図2】本発明の面状構造体の第一の実施形態例を示す概略縦断面図である。
【図3】本発明の面状構造体の第二の実施形態例を示す概略縦断面図である。
【図4】本発明の面状構造体の第三の実施形態例を示す平面図である。
【図5】本発明の面状構造体の第三の実施形態例を示す概略縦断面図である。
【図6】本発明の潅水構造体の第一の実施形態例を示す概略縦断面図である。
【図7】本発明の潅水構造体の第二の実施形態例を示す概略縦断面図である。
【図8】本発明の潅水システムの実施形態例を示す概略縦断面図である。
【図9】本発明の潅水構造体を地面に埋設して、晴天の昼間に地表面温度を測定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に図を用いて本発明の面状構造体の実施形態例を詳細に説明する。図1、図2は、本発明の面状構造体の第一実施形態例を示すものであり、図1は平面図であり、図2はそのA−A’面で切断した概略縦断面図である。
【0024】
これら図1、図2に示すように、この面状構造体1は、薄膜状に形成された保水性を有する表層2と、表層2の直下に接するように配置した遮水層4を有し、この表層2および遮水層4を鉛直方向に貫通するように所定の間隔で形成された複数個の開口部3が形成されている。
【0025】
この面状構造体1は、道路や広場などの一般舗装として使用されるものである。ただし、使用箇所としては、建築物の屋上でもよいし、更には、90°傾けて、建築物の壁面でもよい。
表層2は、具体的には、保水性アスファルト舗装や、保水性コンクリート舗装などが使用可能である。建築物で用いる場合には、保水性を有するモルタルや漆喰であってもよい。また、表層2の厚さは、約10mm以下の薄膜状に形成する。なおここで、薄膜状という表現を用いた理由は、一般的な舗装における表層厚さが約50mm以上であることを考慮したことによる。遮水層4は、防水シートとして使用される、塩化ビニル製等のプラスチックシートが使用可能である。ここで、開口部3は、所定の間隔で表層2を貫いて遮水層4まで連通するように形成する。
開口部3の直径は、あまり大きいと、ハイヒールがささるなどの不具合があるため、5mm程度を上限にするとよい。また、開口部3の直径が小さいと、毛細管力が強くなって雨水を吸い込みやすくなり、これに伴って砂塵が侵入しやすくなって目詰まりしやすくなるため、開口部3の直径の下限は、1mm程度にするとよい。開口部3には、砂塵の侵入を防止するような防砂部材が設置されていてもよい。この場合、開口部3の直径は、開口の先端から内部まで同一寸法で形成することもできるが、開口部3の先端のみが僅かに他部分より直径が大きく、開口部の先端以外を開口先端より小径に形成することができる。この場合、開口部の断面において、開口部の先端近傍を滑らかな曲線で結ばれた末広がり状の曲線で形成し、さらにその下部は一定の寸法で形成することが望ましい。このように、開口部を形成すれば、例えば、開口先端部の直径を5mmとしても、開口部の実質的な直径を2〜3mmとすることができる。
開口部3の深さは、図2では、表層2と遮水層4を貫通したものとして図示したが、これに限定されるものではなく、表層2のみを貫通してもよく、この場合は、表層2に水を留めやすくなるが、透水性は劣り、地表面に水溜りができやすくなるため、目地や勾配を用いた排水処理を施すとよい。
【0026】
面状構造体1の下方には、路盤5があり、図示していないが、遮水層4と路盤5との間に基層舗装などが敷設されてもよい。
【0027】
図3は、本発明の面状構造体の第二実施形態例を示す概略縦断面図である。
【0028】
図3に示すように、この面状構造体1は、薄膜状に形成された保水性を有する表層2と、表層2の直下に接するように配置した遮水層4を有し、この表層2および遮水層4を鉛直方向に貫通するように所定の間隔で形成された複数個の開口部3が形成されている。さらに、表層の地上空間側に地上空間への日射エネルギーの反射を低減するように低反射面6が形成されている。
【0029】
表層2と、遮水層4と、開口部3については、第一実施形態例と同じである。
低反射面6の反射性能は、反射性能において、可視域、赤外域を含む太陽光スペクトルを、理想的には0%反射する、すなわち、100%吸収する面とすることが望ましい。このとき、低反射面6の色は、現実には、黒色とすることで、可視域太陽光スペクトルをほぼ反射しない面とすることができる。色素材料の反射特性を調整することで、赤外域太陽光スペクトルも極力、低反射とすることが望ましいことはいうまでもない。あるいは、景観性が求められる場合には、色素材料の反射スペクトルを適切に設計することで、所定の色スペクトルを反射しつつ、他のスペクトルに対して、低反射とすることで、目的を達成することができる。
低反射面6の形成方法は、表層2の地表面を、保水性を維持した状態で黒く塗りつぶした塗装面であってもよい。あるいは、低反射面6は、表層2の表面に良好な接触状態で取り付けられた黒色の保水性プラスチック板、黒色の保水性布であってもよい。この場合の良好な接触状態とは、物理的な意味は当然であるが、熱、水についても含む。
【0030】
あるいは、低反射面6は、コンクリート製材料で形成されてもよい。この場合は、コンクリートが、保水すると黒くなる性質を活用する。この性質の原理は、コンクリートが保水した状態で外部から光の入射を受けると、保水した水の影響で、コンクリート内部で乱反射がおきることにより、光が外部に反射光として出てくる前に減衰するため、といわれている。この場合、保水していないときの低反射性能はそれほど高くないが、保水したときは黒くなるため、照り返しを防止しつつ、かつ、地表面温度の上昇に対しては、蒸発冷却効果を活かすことが可能となる。なお、保水していないとき、すなわち、乾燥したときは、表面が白色系となるため、低反射性能は悪化して照り返しが多くなるが、表層を薄膜状としていることから、蓄熱性も低下しており、地表面温度は上昇しにくくなる。ゆえに、保水状態、乾燥状態、いずれの場合にも、バランスのとれた、良好なヒートアイランド対策効果を発揮できる。
さらに、低反射面6の材質に加えて、表層も同じコンクリート製であっても同じ効果が期待できるし、この材料については、同様に保水して黒色、もしくは、低反射となる性質のものであれば、同様に使用できることはいうまでもない。
【0031】
また、図3の形態とは異なるが、低反射面6を不透水性の板とすることもでき、この場合は、低反射面6の開口部の数を、表層2や遮水層4の開口部の数よりも増やすことで、表層2から蒸発した水分の逃げ道とすればよい。
【0032】
図4、図5は、本発明の面状構造体の第三実施形態例を示すものであり、図4はこの面状構造体1を平面状に敷き並べた平面図であり、図5は図4のB−B’面で切断した概略縦断面図である。
【0033】
これら図4、図5に示すように、この面状構造体1は、地表面に敷設して使用する保水性タイルもしくは保水性ブロック等として使用される実施形態であり、インターロッキングブロック舗装等として使用される。ただし、使用箇所としては、建築物の屋上でもよいし、更には、90°傾けて、建築物の壁面用タイルとして使用してもよい。
個々の面状構造体1は、薄膜状に形成された保水性を有する表層2と、表層2の直下に接するように配置した遮水層4を有し、この表層2および遮水層4を鉛直方向に貫通するように所定の間隔で形成された複数個の開口部3が形成されている。さらに、表層の地上空間側に地上空間への日射エネルギーの反射を低減するように低反射面6が形成されている。
【0034】
面状構造体1の下方には、路盤5があり、図示していないが、隣接する面状構造体1の隙間には、目地が形成される。また、こちらも図示していないが、遮水層4と路盤5との間に保水性ブロックと一体になるように形成した、保水性ブロックの基層があってもよい。
【0035】
表層2は、具体的には、保水性ブロックで使用される、保水性コンクリートや、保水性セラミックスなどが使用可能である。表層2の厚さは、約10mm以下の薄膜状に形成する。遮水層4は、塩化ビニル製等のプラスチックシートやプラスチック板が使用可能である。ただし、遮水性があればよいので、金属板や、撥水加工をした布等でもよい。また、開口部3は、所定の間隔で表層2と遮水層4を穿つように形成する。
【0036】
図6は、本発明の潅水構造体の第一実施形態例を示す概略縦断面図である。
【0037】
図6に示すように、この潅水構造体100は、請求項3に記載の面状構造体1と、面状構造体1の下側に設置して、該面状構造体と一体で使用され、該面状構造体の前記表層に水を給水する内部給水手段7とを有している。
【0038】
面状構造体1の表層2は保水面20として、面状構造体1の遮水層2は遮水面40として、それぞれ機能する。更に、面状構造体1の保水面20の上には、低反射面6が形成される。
内部給水手段7は、雨水等の水10を貯水するための貯水トレー8と、地表面に加わる荷重等からこの貯水トレー8を保護する貯水トレー保護カバー9と、貯水トレー8に貯水された水10を毛細管力で吸い上げて、面状構造体1の保水面2に給水する導水部材12とを有する。貯水トレー8と貯水トレー保護カバー9が貯水部材70となる。
貯水トレー保護カバー9には、面状構造体1の一部の開口部3と上方からみてほぼ重なるように、開口部が設けられている。この重なり具合は、導水部材12を引き出すことができればよく、導水部材12は、保水性を有する表層2に通水できるように接触していればよい。
潅水構造体100の下方には、路盤5があり、隣接する潅水構造体100の間には、目地13が形成される。
【0039】
なお、潅水構造体100において、面状構造体1と内部給水手段7とは、一対一である必要はなく、一組の内部給水手段7の上に、9枚の面状構造体1が3×3枚のような形に取り付けられていてもよい。この場合には、導水部材12は、9枚の面状構造体1に対して、最低1本ずつ接触するように内部給水手段7に取り付けられていることが望ましい。
【0040】
図7は、本発明の潅水構造体の第二実施形態例を示す概略縦断面図である。
【0041】
図7に示すように、この潅水構造体100は、貯水トレー8と貯水トレー保護カバー9よりなる貯水部材70の上面に保水面20が形成され、更にその上に、低反射面6が形成されている。貯水トレー保護カバー9は、遮水性素材で構成されているため、この上面は遮水面40となる。導水部材12は、低反射面6と保水面20と貯水トレー保護カバー9を貫通する開口部3を通じて貯水空間11と保水面20とを通水するように設置されており、この導水部材12と貯水部材70が内部給水手段7を構成している。
この例のように、潅水構造体100の遮水面40は、貯水トレー保護カバー9と一体にすると、潅水構造体100の施工性が向上する。
【0042】
図8は、本発明の潅水システムの実施形態例を示す概略縦断面図である。
【0043】
図8に示すように、この潅水システム110は、平面状に敷き並べた面状構造体1に対する外部給水手段18として、スプリンクラー14が設置されており、更に、このスプリンクラー14には、雨水貯留槽15、ポンプ16、ホース17、とがつながっている。雨水貯留槽15には、雨水などの水10を貯留することができる。
【0044】
また、面状構造体1への給水手段としては、地上に設置した潅水点滴パイプを使用してもよい。
【0045】
図9は、本発明の潅水構造体100による地表面温度測定実験結果の一例を示すものである。
【0046】
実験で用いた潅水構造体100のサイズは、縦300mm×横150mm×厚さ50mmである。従来保水性ブロックも同じとした。潅水構造体100の低反射面6は、金属製の貯水部材70の上面を黒マジックで塗ったものであり、従来保水性ブロックは、白色系セラミックスのブロックをそのまま使用した。すなわち、低反射面6の性能としては、潅水構造体100の方が反射しにくく、地表面温度が上昇しやすい条件で実験を行った。
これを一般的なブロック舗装と同様に、屋外の地表面下に設置した状態で、地表面温度の測定を行った。なお、実験では、付近の日陰部にて気温も測定した。測定は全て熱電対を用いて行った。気温測定用の熱電対は、百葉箱などにはいれずに、むき出しの状態で日陰に設置したため、一般的な気温測定値とは若干異なる。測定日は2011年9月22日で、当日は快晴であった。測定点に最も近い気象庁測定点での時刻11時40分の気温は、30.6℃であった。
【0047】
図9に示された当日11時40分の測定結果は、以下の通りである。気温は約35℃であった。このとき、従来保水性ブロックは約53℃まで上昇したが、潅水構造体100は約39℃であった。すなわち、潅水構造体100は、従来保水性ブロックよりも約14℃低い地表面温度を実現することができた。
【符号の説明】
【0048】
1 面状構造体
100 潅水構造体
110 潅水システム
2 表層
20 保水面
3 開口部
4 遮水層
40 遮水面
5 路盤
6 低反射面
7 内部給水手段
70 貯水部材
8 貯水トレー
9 貯水トレー保護カバー
10 水
11 貯水空間
12 導水部材
13 目地
14 スプリンクラー
15 雨水貯留槽
16 ポンプ
17 ホース
18 外部給水手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
道路や建築物などの人工の地表面に敷設される面状構造体において、
薄膜状に形成された保水性を有する表層と、
該表層の直下に接するように配置した遮水層と、
を有することを特徴とする面状構造体。
【請求項2】
道路や建築物などの人工の地表面に敷設される面状構造体において、
薄膜状に形成された保水性を有する表層と、
該表層の直下に前記表層と接するように配置した遮水層と、
該表層、該遮水層の少なくとも何れか1つ以上が形成された1個以上の開口部と、
を有することを特徴とする面状構造体。
【請求項3】
前記面状構造体において、前記表層の地上空間側に地上空間への日射エネルギーの反射を低減するように低反射面が形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の面状構造体。
【請求項4】
前記表層は、保水性アスファルト舗装や、保水性コンクリート舗装、あるいは保水性を有するモルタルや漆喰であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の面状構造体。
【請求項5】
遮水層は、プラスチック製の防水シート、あるいは金属板や、撥水加工をした布、又は粘土層、又は金網に粘土層を固定したものの又は粘土層のいずれかであることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の面状構造体。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の面状構造体において、該面状構造体の前記表層に水を給水する外部給水手段を有することを特徴とする面状構造体。
【請求項7】
道路や建築物などの人工の地表面に敷設される潅水構造体において、
水を貯水する貯水部材と、該貯水部材に貯水された水を毛細管力により外部に吸い出すための導水部材とを備えた内部給水手段と、
該内部給水手段の上部に形成された遮水性を有する遮水面と、
該遮水面の上部に薄膜状に形成された保水性を有する保水面と、
該遮水面、該保水面、該内部給水手段、の少なくともいずれか1つ以上に形成される1個以上の開口部と、
を有することを特徴とする潅水構造体。
【請求項8】
前記潅水構造体において、該貯水部材、該遮水面、該保水面の少なくともいずれか1つ以上の地上空間側に地上空間への日射エネルギーの反射を低減するように低反射面が形成されていることを特徴とする請求項7に記載の潅水構造体。
【請求項9】
請求項7または請求項8のいずれか1項に記載の潅水構造体において、該潅水構造体の前記表層に水を給水する外部給水手段を有することを特徴とする潅水システム。
【請求項10】
請求項9に記載の潅水システムを用いて地表を冷却する地表面温度の低下方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−237142(P2012−237142A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−106938(P2011−106938)
【出願日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】