説明

面発光ダイオード

【課題】出力光強度が使用温度環境の影響を受け難い面発光ダイオードを提供する。
【解決手段】活性層22はダブルヘテロ構造を有して相互に異なる井戸幅の複数の量子井戸層24、26、28から成る量子井戸構造を有するものであり、共振器を構成する多層膜反射層14と出力面34との間の距離Kが3μm以上であることにあることから、共振器において複数の共振周波数の共振モードが発生させられるので、複数のピークpを含む出力光Lが得られ、活性層22で発生する光が環境温度変化により波長シフトしても、光軸方向の出力光Lの強度低下が抑制され、出力光強度が使用温度環境の影響を受け難い面発光ダイオード10を得ることができる。また、前記活性層22はダブルヘテロ構造の複数の量子井戸層を有するので、活性層22における発光効率が高められる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性層を間に挟む共振器を備えた面発光ダイオードに関するものである。
【背景技術】
【0002】
光センサーや光学式エンコーダにおいて光源として用いられるLEDは、一般に発光スペクトルの波長帯域が広く、且つ環境温度が高くなることによって長波長側へ波長が移動する所謂レッドシフトが発生する。このような波長帯域が広い発光スペクトルは、回折格子やレンズの透過時に所謂色収差を発生させ、エンコーダなどの分解能を高める障害となる。また、レッドシフトは、エンコーダなどの使用可能温度範囲を制限する。一方、半導体レーザは、スペクトル幅が狭く、単色性の高い光源として利用可能であるが、半導体レーザから出力されるレーザ光はコヒーレント長が長いために干渉が発生し易く、散乱光や迷光の影響を受けないような複雑な駆動回路と光学系が必要となるため、機器が複雑で高価なものとなるという不都合があった。
【0003】
これに対し、活性層を挟む一対の反射層( DBR層)からなる共振器を備えた共振型面発光ダイオードが提案されている。たとえば、特許文献1に記載されたものがそれである。これによれば、活性層における自然放出が共振器により制御されて従来のLEDよりも狭いスペクトル幅の出力光が得られるとともに、高速応答性が改善され、しかも、レーザ光よりもコヒーレント長が短く、半導体レーザのような複雑な駆動回路と光学系が不要となる利点がある。
【特許文献1】特開平10−27945号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記共振型面発光ダイオードにおいても、環境温度が高くなることによって長波長側へ波長が移動する所謂レッドシフトが発生することから、光軸上の光出力が低下するという欠点があった。たとえば出力光の指向性分布の変化で説明すると、常温では長軸が光軸と一致する楕円により示されたものである場合に、例えば図3の実線に示すように、共振型でない場合を示す1点鎖線に比較して環境温度の上昇によってその光軸上の光強度が低下する一方で、その光軸に対して所定角度傾斜した方向のゲインが上昇し、たとえば図4の1点鎖線に示すように、常温の場合を示す実線に比較して所謂ラビットイヤーと称する一対の突起を含む指向性分布となる。また、スペクトルの変化で説明すると、上記共振型LEDでは、一対の反射層( DBR層)或いは反射面の間の多重反射によって発光スペクトルに振動が発生して複数のピークが形成され、そのピークの間隔は共振器を構成する一対の反射層或いは反射面との距離および屈折率で決まるところ、上記一対の反射層( DBR層)或いは反射面の間の距離は10μm程度のものであるため、そのピークの半値幅は5nm程度且つピーク間隔は10nm程度であり、半値幅が20nm程度の従来の発光波長帯内に形成されるピーク数もせいぜい3〜4個程度であり、周囲温度の上昇による発光スペクトルのレッドシフトによってその波長が共振波長からずれると、そのピークの高さが低下し或いはピークが消失する場合があった。このため、面発光ダイオードを光源として使用する機器の使用可能温度範囲を拡大することが困難となる場合があった。
【0005】
本発明は以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、出力光強度が使用温度環境の影響を受け難い共振器構造を備える面発光ダイオードを提供することにある。
【0006】
本発明者等は、以上の事情を背景として種々検討を重ねた結果、共振型LEDの出力光は活性層から発生する光のスペクトル内にあり、その範囲内で複数のピークが形成されること、活性層から出力される光の波長は前記レッドシフトにより環境温度上昇とともに長波長側へシフトするが、基板上に積層された共振器の共振器長および屈折率は殆ど変化せず、共振条件を満たす複数ピークの波長の温度変化が殆どないこと、このため、活性層から発生する光のスペクトルを広帯域とすることにより、複数ピークの強度比を1に接近でき、実質的に1つの波長のピーク強度の環境温度変化による強度低下が好適に改善されることを見いだした。本発明はこのような知見に基づいて為されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1にかかる発明の要旨とするところは、(a)半導体基板上に順次成長させられた多層膜反射層、活性層を備え、その多層膜反射層とその活性層を挟んで位置する出力面または表面側反射層との多重反射により複数のピークを含む前記出力光を前記出力面を通して出力する面発光ダイオードであって、(b)前記活性層はダブルヘテロ構造を有して相互に異なる井戸幅の複数の量子井戸から成る量子井戸構造を有するものであり、(c)前記多層膜反射層と前記出力面または表面側反射層との距離が3μm以上であることにある。
【0008】
また、請求項2にかかる発明の要旨とするところは、(a)半導体基板上に順次成長させられた多層膜反射層、活性層を備え、その多層膜反射層とその活性層を挟んで位置する出力面または表面側反射層との多重反射により複数のピークを含む前記出力光を前記出力面を通して出力する面発光ダイオードであって、(b)前記活性層はダブルヘテロ構造を有して相互に異なる相互に異なるバンドギャップを有する複数の量子井戸から成る量子井戸構造を有するものであり、(c)前記多層膜反射層と前記出力面または表面側反射層との距離が3μm以上であることにある。
【0009】
また、請求項3にかかる発明の要旨とするところは、請求項2に係る発明において、前記活性層は、バンドギャップの大きさが順に相違する傾斜構造の複数の量子井戸層を含むことにある。
【0010】
また、請求項4にかかる発明の要旨とするところは、請求項1乃至3のいずれか1に係る発明において、前記出力光は、15nm以下の半値幅、5〜10nmの間隔、および50%以上の強度比を有するピークを5個以上含むものであることにある。
【0011】
また、請求項5にかかる発明の要旨とするところは、請求項1乃至4のいずれか1に係る発明において、前記多層膜反射層は、チャープ構造の多層膜反射層であることにある。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る発明の面発光ダイオードによれば、活性層はダブルヘテロ構造を有して相互に異なる井戸幅の複数の量子井戸から成る量子井戸構造を有するものであり、多層膜反射層と出力面または表面側反射層との距離が3μm以上であることにあることから、多層膜反射層と出力面または表面側反射層とで構成される共振器において複数の共振周波数の共振モードが発生させられるので、環境温度変化によって活性層から出力される光の波長シフトが発生したとしても、その波長シフト後の光の波長帯の一部は上記共振波長を含むことになり、複数のピークを含む出力光が得られる。すなわち、活性層で発生する光が温度変化により波長シフトしても、光軸方向の出力光の強度低下が抑制され、出力光強度が使用温度環境の影響を受け難い面発光ダイオードを得ることができる。また、前記活性層はダブルヘテロ構造の複数の量子井戸層を有するので、活性層における発光効率が高められる。
【0013】
請求項2に係る発明の面発光ダイオードによれば、活性層はダブルヘテロ構造を有して相互に異なるバンドギャップを有する複数の量子井戸から成る量子井戸構造を有するものであり、多層膜反射層と出力面または表面側反射層との距離が3μm以上であることにあることから、多層膜反射層と出力面または表面側反射層とで構成される共振器において複数の共振周波数の共振モードが発生させられるので、環境温度変化によって活性層から出力される光の波長シフトが発生したとしても、その波長シフト後の光の波長帯の一部は上記共振波長を含むことになり、複数のピークを含む出力光が得られる。すなわち、活性層で発生する光が温度変化により波長シフトしても、光軸方向の出力光の強度低下が抑制され、出力光強度が使用温度環境の影響を受け難い面発光ダイオードを得ることができる。また、前記活性層はダブルヘテロ構造の複数の量子井戸層を有するので、活性層における発光効率が高められる。また、上記活性層は、相互に異なるバンドギャップを有する複数の量子井戸層から構成されたものであることから、活性層は、発光波長が近接するが相互に異なる光を発生し、活性層から出される光の波長帯が広くなるので、共振器における共振波長を多く含み、複数のピークを含む出力光が得られる。従って、活性層で発生する光が温度変化により波長シフトしても、光軸方向の出力光の強度低下が抑制され、出力光強度が使用温度環境の影響を受け難い面発光ダイオードを得ることができる。
【0014】
請求項3に係る発明の面発光ダイオードによれば、前記活性層は、バンドギャップの大きさが順に相違する傾斜構造の複数の量子井戸層を含むことから、活性層から出される光の波長帯が広くなるので、共振器における共振波長を多く含み、複数のピークを含む出力光が得られる。従って、活性層で発生する光が温度変化により波長シフトしても、光軸方向の出力光の強度低下が抑制され、出力光強度が使用温度環境の影響を受け難い面発光ダイオードを得ることができる。
【0015】
請求項4に係る発明の面発光ダイオードによれば、前記出力光は、15nm以下の半値幅、5〜10nmの間隔、および50%以上の強度比を有するピークを5個以上含むものであることにあることから、活性層で発生する光が温度変化により波長シフトしても出力光のピークの数が十分に確保されるので、光軸方向の出力光の強度低下が抑制され、出力光強度が使用温度環境の影響を受け難い面発光ダイオードを得ることができる。
【0016】
請求項5に係る発明の面発光ダイオードによれば、前記多層膜反射層は、チャープ構造の多層膜反射層を備えたものであることから、その反射波長帯を大きくできるので、活性層で発生する光が温度変化により波長シフトしても、光軸方向の出力光の強度低下が抑制され、出力光強度が使用温度環境の影響を受け難い面発光ダイオードを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の一実施例を図面を参照して説明する。尚、以下の説明に用いる図面において各部の寸法比等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例】
【0018】
図1は、本発明の一実施例である面発光ダイオード( LED発光素子) 10のチップ構造を示す図である。この面発光ダイオード10は、たとえば、GaAsから成る350μm程度の単結晶半導体の基板(GaAs基板)12上に、例えばMOCVD(有機金属化学気相蒸着)法等を用いたエピタキシャル成長により、多層膜反射層14、第1クラッド層20、活性層22、第2クラッド層30、キャップ層32が順次積層され、そのキャップ層32の上面である出力面34を通して出力光Lが、その出力面34に垂直な光軸方向へ出力されるようになっている。そして、上記キャップ層32上にAuZn/Au共晶合金からなる上部電極38が、基板12の下面にAuGe/Ni/Au共晶合金からなる下部電極40がそれぞれ蒸着或いはスパッタにより形成されている。
【0019】
上記多層膜反射層14は、活性層22から基板12側へ向かう光を出力面34側へ反射するためのものであり、活性層22に発生した光を90〜95%程度以上の反射率で反射する反射波長帯を備える。多層膜反射層14は、たとえば厚みが順次変化するチャープ状のn型半導体AlAsとn型半導体Al0.5GaAsとを一組とした30組の積層体( n−AlAs/n−Al0.5GaAs、30組の平均膜厚54nm/49nm、30ペア) から構成されている。上記のように、膜厚が1方向へ向かうにしたがって増加するように順次変化させられる結果、多層膜反射層14は少なくとも活性層22の発光波長帯よりも同等、またはそれ以上に幅広く形成された、90乃至95%の反射率を有する反射波長帯を備える。上記多層膜反射層14の反射波長帯の中心波長は、活性層22から発せられる光の常温たとえば20℃での中心波長λC たとえば650nmの近傍に設定される。
【0020】
第1クラッド層20は、厚みが1μmのn型半導体AlInPから構成されている。活性層22は、9.5nm、10nm、10.5nmという厚み方向において順に異なるチャープ状の厚みを有する半導体InGaPから成る3層の量子井戸層24、26、28と、それらを挟むように配置された厚みが20nmの半導体AlInGaPから成る4層のバリヤ層とから構成された、多重量子井戸活性層である。第2クラッド層30は、厚みが4μmのp型半導体AlInPから構成されている。これら、第1クラッド層20、活性層22、及び第2クラッド層30によってダブルヘテロ構造が構成され、量子井戸層24、26、28から効率良く光が発せられるようになっている。なお、上記第2クラッド層30の上に積層されたキャップ層32は、0.1μm程度の厚みのp型半導体GaAsから構成されている。
【0021】
上記量子井戸層24、26、28は、9.5nm、10nm、10.5nmという厚み方向において順に異なるチャープ状の厚みを備えていることから、チャープ状に順に異なる井戸幅を備えており、それぞれ中心波長がずれた光を発生させ、活性層22全体としては、それらの光が合波されることで、80乃至100nm程度の比較的大きな半値幅を有する前記波長帯の中心波長λC の光を発生する。
【0022】
以上のように構成された面発光ダイオード10において、上部電極38と下部電極40との間にpn順方向の駆動電流が流されて上記活性層22に電流が注入されると、その活性層22の3層の量子井戸層24、26、28において電子と正孔の再結合が起こることによって光が発生させられる。この光のうち、出力面34側へ向った光は出力面34から外部へ出力されるとともに一部が出力面34により内部へ反射される。また、多層膜反射層14側へ向った光はその多層膜反射層14により出力面34側へ反射され、出力面34から外部へ出力されるとともに一部が出力面34により内部へ反射される。これら多層膜反射層14と出力面34とは光の共振器を構成しており、その共振波長で自然放出が増大させられて応答性が改善されるとともに、共振モードに合致しない光は抑圧され、効率良く出力光が得られる。
【0023】
本実施例の面発光ダイオード10においては、第1クラッド層20および第2クラッド層30を厚くすることにより、上記共振器を構成する多層膜反射層14と出力面34との間の距離Kが3μm以上、好適には10μmに設定されているので、出力光Lには少なくとも5個以上のピークpが含まれるようになっている。共振器の共振周波数の間隔Δλは、上記多層膜反射鏡14と出力面34との間の距離Kにほぼ反比例する関係にある。このピークpは、半値幅が15nm以下たとえば5乃至15nm、ピーク間隔が5乃至30nm、強度比が50%以上のものである。図2の実線は、TO18のステムにマウントされた上述の面発光ダイオード10が20mA程度のpn順方向の駆動電流が流されることにより駆動されている状態において得られる光軸方向の出力光Lの発光スペクトルを示している。この出力光Lの発光スペクトルは、8個のピークpが含まれており、常温( 20℃)において中心波長λC が650nm、半値幅が80nm程度となっている。
【0024】
図2の1点鎖線は、活性層22の量子井戸層24、26、28が相互に同じ厚み10nmであり、且つ多層膜反射層14を構成する多層膜の膜厚がチャープ状ではなく、通常の1/4波長である従来のLEDを、上記と同じ条件の20mAで駆動したときの出力光の発光スペクトルを、比較対象として示している。この1点鎖線に示される出力光では、3つのピークpしか含まれておらず、常温( 20℃)において中心波長λC が650nm、半値幅が35nm程度となっている。
【0025】
上記面発光ダイオード10は、予め設定された環境温度範囲、たとえば−40℃乃至80℃の範囲の環境範囲において使用されるとき、活性層22に発生する光に温度上昇に伴って長波長側へ温度低下に伴って短波長側へ波長シフトが発生するが、そのシフト量が上記環境温度の最低値或いは最高値において−20nm或いは20nmである。上記面発光ダイオード10の活性層22に発生する光は、その波長シフト量の3倍程度の半値幅を備えており、温度上昇或いは温度低下に伴って発生する出力光Lの強度低下が好適に抑制されている。
【0026】
上述のように、本実施例の面発光ダイオード10によれば、活性層22はダブルヘテロ構造を有して相互に異なる井戸幅の複数の量子井戸層24、26、28から成る量子井戸構造を有するものであり、光の共振器を構成する多層膜反射鏡14と出力面34との間の距離Kが3μm以上であることにあることから、共振器において複数の共振周波数の共振モードが発生させられるので、環境温度変化によって活性層22から出力される光の波長シフトが発生したとしても、その波長シフト後の光の波長帯の一部は上記共振波長を含むことになり、複数のピークpを含む出力光Lが得られる。すなわち、活性層22で発生する光が温度変化により波長シフトしても、光軸方向の出力光Lの強度低下が抑制され、出力光強度が使用温度環境の影響を受け難い面発光ダイオード10を得ることができる。また、前記活性層22はダブルヘテロ構造の複数の量子井戸層24、26、28を有するので、活性層22における発光効率が高められる。
【0027】
また、本実施例の面発光ダイオード10によれば、活性層22は、相互に異なるバンドギャップを有する複数の量子井戸層24、26、28から構成されたものであることから、活性層22は、発光波長が近接するが相互に異なる光を発生し、活性層22から出される光の波長帯およびその半値幅が広くなるので、共振器における共振波長を多く含み、複数のピークpを含む出力光Lが得られる。従って、活性層22で発生する光が温度変化により波長シフトしても、光軸方向の出力光Lの強度低下が抑制され、出力光強度が使用温度環境の影響を受け難くなる。
【0028】
また、本実施例の面発光ダイオード10によれば、活性層22は、バンドギャップの大きさが厚み方向において順に相違する傾斜構造の複数の量子井戸層24、26、28を含むことから、活性層22から出される光の波長帯が広くなるので、共振器における共振波長を多く含み、複数のピークpを含む出力光Lが得られる。従って、活性層22で発生する光が温度変化により波長シフトしても、光軸方向の出力光Lの強度低下が抑制され、出力光強度が使用温度環境の影響を受け難くなる。
【0029】
また、本実施例の面発光ダイオード10によれば、出力光Lは、15nm以下の半値幅、5〜10nmの間隔、および50%以上の強度比を有するピークpを5個以上含むものであることにあることから、活性層22で発生する光が温度変化により波長シフトしても出力光Lのピークpの数が十分に確保されるので、光軸方向の出力光Lの強度低下が抑制され、出力光強度が使用温度環境の影響を受け難くなる。
【0030】
また、本実施例の面発光ダイオード10によれば、基板側反射層である多層膜反射層14は、厚み方向において厚みが順次変化するチャープ状のn型半導体AlAsとn型半導体Al0.5GaAsとを一組とした30組の積層体( n−AlAs/n−Al0.5GaAs、30組の平均膜厚54nm/49nm、30ペア) から構成された多層膜反射層( 半導体多層膜反射鏡) 14を備えたものであることから、その反射波長帯を大きくできるので、活性層22で発生する光が温度変化により波長シフトしても、光軸方向の出力光Lの強度低下が抑制され、出力光強度が使用温度環境の影響を受け難くなる。
【0031】
以上、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明したが、本発明はこの実施例に限定されるものではなく、別の態様でも実施され得る。
【0032】
例えば、前述の実施例の面発光ダイオード10において、活性層22は、9.5nm、10nm、10.5nmという厚み方向において順に異なるチャープ状の厚みを有する半導体InGaPから成る3層の量子井戸層24、26、28と、それらを挟むように配置された厚みが20nmの半導体AlInGaPから成る4層のバリヤ層とから構成された、多重量子井戸活性層であったが、同じ厚みであって相互に異なる組成から成る3層の量子井戸層24、26、28と、それらを挟むように配置された厚みが20nmの半導体AlInGaPから成る4層のバリヤ層とから構成された、多重量子井戸活性層であってもよい。この場合の3層の量子井戸層24、26、28は、たとえばIn0.52Ga0.48P、In0.5 Ga0.5 P、In0.48Ga0.52Pからそれぞれ構成され、エネルギ順位が順 に異なるようにすなわち狭くなるように構成される。この結果、量子井戸層24、26、28は、そのエネルギ順位の相違によった中心波長が順に短波長側へ異なる光が発生させられる。
【0033】
また、前述の実施例の面発光ダイオード10において、基板12、多層膜反射鏡14、第1クラッド層20、活性層22、第2クラッド層30、キャップ層32等は、他の種類の半導体であってもよい。
【0034】
また、前述の実施例において、多層膜反射層14と出力面34との間で共振器が構成されていたが、活性層22とキャップ層32との間に表面側多層膜反射層( 表面側反射層)が設けられ、その表面側多層膜反射層と上記多層膜反射鏡14との間で共振器が構成されてもよい。
【0035】
また、前述の実施例において、活性層22で発生する合波光の半値幅が、波長シフトの最大値の3倍程度に設定されていたが、2倍以上であれば一応の出力光Lの強度低下を抑制する効果が得られる。
【0036】
また、前述の実施例において、活性層22は、3層のAlGaInP量子井戸層24、26、28とそれらAlGaInP量子井戸層24、26、28の間に介在されるInGaPバリア層とを備える3層の多重量子井戸層であったが、たとえば3層に限らず、量子井戸層が何層であってもよい。また、活性層22は、必ずしも量子井戸構造でなくてもよい。
【0037】
また、前述の実施例において、面発光ダイオード10には、イオン注入によって電流狭窄構造が形成されることにより、点光源LEDとして構成されてもよい。また、この電流狭窄構造はp−n反転領域を設ける等の他の電流狭窄構造が形成されていてもよい。
【0038】
その他一々例示はしないが、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の一実施例である面発光ダイオードの積層構造を模式的に示す断面図である。
【図2】図1の面発光ダイオードの出力光のスペクトル( 実線)を、従来のLEDの出力光( 1点鎖線) と対比して示す図である。
【図3】従来のLEDの出力光強度の環境温度に対する変化特性を示す図である。
【図4】従来のLEDの出力光の指向性の環境温度に対する変化を示す図である。
【符号の説明】
【0040】
10:面発光ダイオード
12:半導体基板
14:多層膜反射層
22:活性層
24、26、28:量子井戸層
34:出力面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板上に順次成長させられた多層膜反射層、活性層を備え、該多層膜反射層と該活性層を挟んで位置する出力面または表面側反射層との多重反射により複数のピークを含む出力光を前記出力面を通して出力する面発光ダイオードであって、
前記活性層はダブルヘテロ構造を有して相互に異なる井戸幅の複数の量子井戸層から成る量子井戸構造を有するものであり、
前記多層膜反射層と前記出力面または表面側反射層との距離が3μm以上であることを特徴とする面発光ダイオード。
【請求項2】
半導体基板上に順次成長させられた多層膜反射層、活性層を備え、該多層膜反射層と該活性層を挟んで位置する出力面または表面側反射層との多重反射により複数のピークを含む出力光を前記出力面を通して出力する面発光ダイオードであって、
前記活性層はダブルヘテロ構造を有して相互に異なるバンドギャップを有する複数の量子井戸層から成る量子井戸構造を有するものであり、
前記多層膜反射層と前記出力面または表面側反射層との距離が3μm以上であることを特徴とする面発光ダイオード。
【請求項3】
前記活性層は、バンドギャップの大きさが順に相違する傾斜構造の複数の量子井戸層を含むことを特徴とする請求項2の面発光ダイオード。
【請求項4】
前記出力光は、15nm以下の半値幅、5〜10nmの間隔、および50%以上の強度比を有するピークを5個以上含むものである請求項1乃至3のいずれか1の面発光ダイオード。
【請求項5】
前記多層膜反射層は、チャープ構造の多層膜反射層であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1の面発光ダイオード。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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