説明

面発光レーザ、面発光レーザの製造方法、画像形成装置

【課題】電流狭窄層における酸化領域の一部を除去し、酸化による歪を緩和する際、機械的な強度を保つことが可能となる面発光レーザを提供する。
【解決手段】基板上の多層膜反射鏡の一部の層を構成する被酸化層に電流狭窄層を形成して活性層への電流注入を制限するようにした面発光レーザの製造方法であって、電流狭窄層は、酸化領域の一部が除去された酸化領域除去部分を有し、酸化領域除去部分は、非酸化領域の中心からみて、少なくとも以下の(1)〜(3)のいずれか一つの条件を満たす領域によって形成されていることを特徴とする面発光レーザ。(1)非酸化領域の形状は多角形であり、その頂点の方向を含む領域であること。(2)基板は傾斜基板であり、最大傾斜角の方向とは逆側の方向を含む領域であること。(3)電極が電気的コンタクトをしている面積が最大となる方向を含む領域であること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、面発光レーザ、面発光レーザの製造方法、及び画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、面発光レーザ(Vertical Cavity Surface Emitting Laser、以降VCSELと略す)が通信、記録、センサ、電子写真露光等の分野で注目されている。
VCSELの利点は、端面発光レーザと比較し2次元のアレイ化が容易、レーザ自体の小型化が容易なため高密度集積に適している等が挙げられる。
VCSELの発光領域を制御するため、活性層への電流注入領域を制限する方法として、アルミニウムを多く成分に含むAlGaAs層の一部を酸化することにより作製された酸化による電流狭窄構造が広く使われている。
【0003】
ここで、図3を用いて、一般的な酸化型VCSELの概要を説明する。
図3(a)に示すように、基板301上に下部多層膜反射鏡302、下部スペーサ層311、活性層304、上部スペーサ層312、上部多層膜反射鏡305が順次積層されている。上部多層膜反射鏡305の一部には、被酸化層306が形成されている。
メサ径308の幅において被酸化層306の側面を露出させるため、上部多層膜反射鏡305上のメサ径308の部分に、マスク307を形成する。その後、被酸化層306より下の深さまで上部多層膜反射鏡305にメサの形状に相当するメサ周囲の穴313をあける。この構造を図3(b)に示す。
【0004】
次に、構造体全体を高温水蒸気中に曝すことで、被酸化層306をメサ端から酸化していく。図3(c)に、酸化後の様子を示す。
メサ端から酸化された酸化領域309により、メサ内に非酸化領域310を備えた電流狭窄層が形成される。
この電流狭窄層における酸化領域309は伝導率が低くなっているため、上下の電極(図示していない)から注入された電流は、酸化領域309により狭窄され、非酸化領域310のみを流れる。
それにより、活性層304の一部に電流を注入し、発光領域の制御を行うことが可能となる。
【0005】
アルミニウム含有率の高いAlGaAs酸化層を酸化することにより、酸化された部分の体積が収縮することが知られている(非特許文献1)。
特に、Al組成比が多いと、収縮率がより大きくなる。非特許文献1によれば、AlAsを酸化すると、12−13%、Al0.92Ga0.08Asで6.7%の体積収縮が起こる。
このため、酸化型VCSELでは、特に図3(c)に示す酸化領域と非酸化領域との境界である酸化フロント315に歪が生じる。この歪が、VCSELの寿命に悪影響を及ぼすことがある。
【0006】
上記酸化による歪を緩和するため、特許文献1には酸化された酸化層の全てまたは一部をウェットエッチングにより除去する例が開示されている。
図2に示すよう、酸化された部分をNaOH等のエッチャントにより取り除き、ギャップ212を形成する。全ての酸化領域を取り除くことで酸化領域により発生するストレスを低減でき、デバイスの信頼性が向上すると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許出願公開第2006/0013276号明細書
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Kent D. Choquette, ¨Advances in Selective Wet Oxidation of AlGaAs Alloys¨, IEEE journal of selected topics in quantum electronics, vol. 3, p.916 (1997)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献1では、酸化された酸化層において一部のみ無くても良いと記載されているが、どのような一部かについては具体的に何も記載されていない。歪緩和により効果的な方向のみ最小限の除去とすることが、機械的強度を保つ上で重要となる。誤った方向のみ一部除去することで、歪をより増強してしまうこととなる。
すなわち、誤った方向を除去した場合には、デバイスの機械的強度が弱くなり、デバイス作製中、運搬中、実装中等に問題が生じる。
特に、アルミニウムが多い層214(酸化層)より上の積層ミラー210が厚い場合や、ギャップ212以外の残された部分(酸化されずに残された部分、電流注入領域)が小さい場合(通常VCSELでは数〜数10um程度である)は、機械的強度が特に問題となる。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑み、電流狭窄層における酸化領域の一部を除去し、酸化領域と非酸化領域との境界領域に対する酸化による歪を緩和する際、機械的な強度を保つことが可能となる面発光レーザ、面発光レーザの製造方法、画像形成装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の面発光レーザは、
基板と、
前記基板上に形成された活性層と、
前記活性層の上下に配置された多層膜反射鏡と、
前記活性層へ電流を注入するための電極と、を備え、
前記上下に配置された多層膜反射鏡のいずれか一方またはその両方の多層膜反射鏡の一部の層を構成する被酸化層を酸化し、非酸化領域の周囲に酸化領域を有する電流狭窄層を形成して前記活性層への電流注入を制限するようにした面発光レーザであって、
前記電流狭窄層は、前記酸化領域の一部が除去された酸化領域除去部分を有し、
前記酸化領域除去部分は、前記非酸化領域の中心からみて、少なくとも以下の(1)〜(3)のいずれか一つの条件を満たす領域によって形成されていることを特徴とする。
(1)前記非酸化領域の形状は多角形であり、その頂点の方向を含む領域であること。
(2)前記基板は傾斜基板であり、最大傾斜角の方向とは逆側の方向を含む領域であること。
(3)前記電極が電気的コンタクトをしている面積が最大となる方向を含む領域であること。
また、本発明の面発光レーザの製造方法は、基板上の上下に配置された多層膜反射鏡のいずれか一方、またはその両方の多層膜反射鏡の一部の層を構成する被酸化層に電流狭窄層を形成して活性層への電流注入を制限するようにした面発光レーザの製造方法であって、
前記被酸化層の一部を酸化し、非酸化領域の周囲に酸化領域を有する前記電流狭窄層を形成する工程と、
前記酸化領域の一部を除去して酸化領域除去部分を形成する工程と、
を有し、
前記酸化領域除去部分として、前記非酸化領域の中心からみて、少なくとも以下の(1)〜(3)のいずれか一つの条件を満たす領域を形成することを特徴とする。
(1)前記非酸化領域の形状は多角形であり、その頂点の方向を含む領域であること。
(2)前記基板は傾斜基板であり、最大傾斜角の方向とは逆側の方向を含む領域であること。
(3)前記電極が電気的コンタクトをしている面積が最大となる方向を含む領域であること。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、電流狭窄層における酸化領域の一部を除去し、酸化領域と非酸化領域との境界領域に対する酸化による歪を緩和する際、機械的な強度を保つことが可能となる面発光レーザ、面発光レーザの製造方法、画像形成装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施例2における構成例を説明する平面図。
【図2】従来技術である特許文献1の構成を説明する図。
【図3】電流狭窄層を有する面発光レーザにおける一般的な酸化プロセスを説明する図。
【図4】本発明の実施例1における酸化領域の一部が除去された除去部分を有する電流狭窄層の構成を説明する断面図。
【図5】本発明の実施例1における酸化領域の一部が除去された除去部分を有する電流狭窄層の構成を説明する平面図。
【図6】本発明の実施例2における酸化領域の一部が除去された除去部分を有する電流狭窄層の構成を説明する断面図。
【図7】本発明の実施例2における酸化領域の一部が除去された除去部分を有する電流狭窄層の構成を説明する平面図。
【図8】本発明の実施例3における酸化領域の一部が除去された除去部分を有する電流狭窄層の構成を説明する断面図。
【図9】本発明の実施例3における酸化領域の一部が除去された除去部分を有する電流狭窄層の構成を説明する平面図。
【図10】本発明の実施形態における面発光レーザの製造方法のプロセス手順を示す図。
【図11】本発明の実施例5における面発光レーザアレイを用いた画像形成装置の構成例を説明する図。
【図12】本発明の実施例4における構成例を説明する図。
【図13】通電による劣化の状態を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の面発光レーザは、酸化型VCSELにおいて、被酸化層の一部を酸化した後、酸化領域の一部のみを効果的に取り除くことにより、酸化フロントにおける歪を低減しつつ、機械的な強度も保つことが可能に構成される。
ここで、まず本実施形態の面発光レーザの製造方法における酸化領域一部の除去方法について図10を用いて説明する。
図10はメサ308を上面から見た図である。また、メサ内部の点線は、酸化フロント315を示す。
本実施形態の面発光レーザでは、メサの形状として円形、つまりメサ周囲の穴(図3(b)313に相当する)はメサの周囲全てにある形状にて説明するが、本実施の形態はこれに制限されるものではない。
例えば、同心円上に穴を複数個配置し、それぞれの穴から横方向(基板と並行な方向)に被酸化層を酸化することで、中心に酸化による電流狭窄層を作製する場合も同様に含む。
まず、少なくともメサとその周囲を全て覆うよう、マスク1001を作製する。このマスクは後に使用するエッチャントに応じて、フォトレジストやSiO等の誘電体で形成する。
マスク1001は、メサ表面のみでなく、深さ方向において、被酸化層の下まで掘られている穴313(図3(b))の底まで覆っていることが必要である。
【0015】
次に、フォトレジストであればフォトリソグラフィーにより、誘電体であればウェットまたはドライエッチングにより、マスク1001の一部を除去する。
このマスク除去部分1003は、酸化フロント315形状の中心からみて酸化領域中の除去方向1002側のメサ端を含む。
次に、被酸化層の酸化領域がエッチングされるエッチャントを用い、マスクに覆われていないメサ端1004から酸化領域の一部をエッチングする。
ここで使用するエッチャントとしては、希釈されたふっ酸やアンモニア等を用いることができる。
【0016】
このようにして、被酸化層の酸化領域の一部に、酸化領域除去部分1005を形成する。
酸化領域除去部分1005の大きさは、マスク除去部分1003の形状や大きさ、エッチング時間を制御することにより制御する。
酸化領域除去部分1005は酸化フロント315まで到達しないことが望ましい。
メサ端1004からの距離は、VCSELとして発振する光のモードへの影響が小さい距離以下にとどめておくことが望ましい。
【0017】
ここで、光のモードへの影響が小さい距離について、具体的に下記に説明する。
被酸化層の非酸化領域にて狭窄された電流が活性層の一部に注入されることにより、電流注入された領域の活性層が発光する。
この光は上下の多層膜反射鏡により共振され、発振に至る。発振したビームは、発振モードが基本モードに制限されていれば、ほぼガウシアン形状となる。
この形状は、被酸化層の酸化領域を含む共振器と非酸化領域を含む共振器の等価屈折率差、発振波長、酸化フロントの形状により決められる。被酸化層において、酸化された領域は、非酸化領域と比較し屈折率が小さくなる。
被酸化層の酸化領域の一部を取り除く際、酸化領域をメサの端から酸化フロントまで取り除いてしまうと、酸化領域を取り除かない場合と比較しさらに屈折率が小さくなる。
つまり、非酸化領域との屈折率差が大きくなってしまうため、ビーム形状に影響を及ぼす。
ビーム形状に伴い、遠視野像が乱れると、光ファイバや他の光学系との整合が取れなくなる等デバイスの応用先によってこのビーム形状のくずれが問題となる。このような場合には、酸化領域の一部を取り除く領域は、基板と平行な方向において、メサの端から最大ビーム強度の1/100の強度となる位置以下とすることが好ましい。
また、機械的強度の低下を最小限とし、かつ酸化フロントの歪を効果的に低減するためには、1/100に等しい位置とすることが好ましい。
また、酸化領域除去部分のうちの前記非酸化領域に一番近い位置におけるビーム強度をPr、前記非酸化領域における最大ビーム強度をPmaxとするとき、次式の関係を満たすようにするのが望ましい。

Pr<Pmax/100

また、上記被酸化層は、AlxGa1−xAsを含む層で形成し、その組成xを0.95<x≦1.0の範囲とすることが望ましい。
【0018】
ここで、図10(b)における酸化領域中の除去方向1002とは、下記3つのうちのいずれか一つを満たす方向である。
すなわち、前記非酸化領域の中心からみて、
(1)前記非酸化領域の形状は多角形であり、その頂点の方向。
(2)前記基板は傾斜基板であり、最大傾斜角の方向とは逆側の方向。
(3)前記電極が電気的コンタクトをしている面積が最大となる方向。
のうちのいずれか一つを満たす方向である。
【実施例】
【0019】
以下、上記した酸化領域中の除去方向について、実施例において具体的な例を挙げて説明する。
[実施例1]
実施例1として、本発明を適用した面発光レーザとその製造方法の構成例について説明する。
本実施例では、GaAs基板(100)面上に、高低2種類の屈折率からなるAlGaAs層を交互に配置した上下の多層膜反射鏡があり、該上下多層膜反射の間に、AlGaAsからなる活性層が配置されている。
上部多層膜反射鏡の一部には、AlAsからなる被酸化層を設けている。図4に本実施例のVCSELの一部である、被酸化層402と、その下層401、上層403を示す。
下層401、上層403は、被酸化層402よりも酸化レートが低くなるよう、被酸化層402よりもAl組成を低くしておく。
【0020】
次に、高温水蒸気の雰囲気に曝し、被酸化層402を酸化することにより、図4(b)に示されているよう、被酸化層の周囲に酸化領域405を形成する。
非酸化領域406は狭窄された電流の通り道となる。酸化領域405と非酸化領域406との境界を酸化フロント407と呼ぶ。
ここで、図4の点線404で切った平面図を図5に示す。図5中の点線410で切った断面図が図4である。
本実施例では、酸化フロント407が形成する形(非酸化領域の形状)は図5(b)に示すような四角い形となる。
酸化により、酸化フロント407には歪が集中するが、この歪を、機械的強度を保ちつつ効果的に低減するため、酸化部分の一部を除去する。
この除去部分は、酸化フロント407が形成する形において、その中心からみてそれぞれの頂点方向、つまり図4、5(b)における矢印408の方向を含む酸化領域の一部である。
【0021】
この領域を、図4、5(c)にて酸化領域除去部分409として示す。
酸化フロントが形成する形が多角形形状であると、活性層へ電流を注入する際、該多角形の各頂点へ電流が集中する。このため、デバイスの劣化はこの場所から起こりやすくなる。従って、デバイスの機械的強度の減少を抑え、かつデバイスの寿命を確保することが可能となるため、酸化層の酸化による酸化フロントへの歪を効果的に取り除く方向として、多角形の頂点方向の酸化領域を取り除くことが有効である。
【0022】
図4、5(c)において、酸化領域除去部分409は、矢印408方向においてはメサの端を必ず含み、メサの端から酸化フロント407までとする。
規定の方向における酸化領域を酸化フロントまで除去し、他の酸化領域は除去しないことで、デバイスの機械的強度の低減を小さく抑え、かつ酸化による歪を効果的に低減させることができるため、デバイスの信頼性を向上することが可能である。
ここで、酸化フロント407に近い酸化領域は、レーザとして発振させた際の出射ビームにおいて、横(基板と並行な方向の)モードを制御するための光閉じ込めの役割を果たすため、酸化フロントまで取り除いてしまうと、レーザビームのモードに影響を与える。
デバイスの使用用途により、この変化が問題となる場合には、酸化領域除去部分409はメサ端からモードに与える影響が少ない距離までであることがより好ましい。
【0023】
レーザビーム形状がシングルモードである場合において、以下に具体例を示す(図4、5(d))。
酸化フロント407が形成する多角形に内接する円形の直径を9.0um、レーザの発振波長を980nm、酸化層の酸化領域を含む共振器と、非酸化領域を含む共振器の等価屈折率の差を0.1%とする。これにより、レーザの最大強度位置からメサ端側に6.5umの距離となるところで、光の強度が最大ビーム強度の1/100となる。
従って、メサ径が29umの場合には、メサの端からの酸化領域除去部分411において、メサ端からの距離を8um以下とすることが好適である。
【0024】
本実施例は酸化フロントが形成する形を多角形、メサの形状を円形、ビームの横モードがシングルモードとして記載したが、本発明はこれに限定されるものではない。
メサの形状がどのようなものであっても、また、ビームの横モードがマルチモードであってもメサ形状の頂点方向において、光の強度が最大ビーム強度の1/100となる距離以下まで酸化領域の一部を除去することで、同様の効果が得られる。
また、メサの形状についても例えば穴を丸く開けず、複数の穴をあけてそこから酸化をすることにより、五角形等の多角形形状を有する酸化フロントが形成する形を作製することができる。
多角形形状として、その頂点の内角の大きさが小さいほど電流集中が強くなる。そのため、正多角形の場合は頂点の数が少ないほど、本発明の効果が大きくなる。
また、正多角形でない場合は、内角の大きさが小さい頂点に電流集中が強くなるため、この方向の酸化部分のみ取り除くことで、機械的強度の減少を最小限に抑えつつ、デバイスの寿命を確保することが可能となる。
なお、本実施例では上部多層膜反射鏡の一部に被酸化層を設けて電流狭窄層を形成する構成が採られているが、本発明はこのような構成に限定されるものではなない。基板上の上下に配置された多層膜反射鏡のいずれか一方、またはその両方の多層膜反射鏡の一部の層を構成する被酸化層に電流狭窄層を形成するようにしてもよい。
【0025】
[実施例2]
実施例2として、実施例1とは異なる形態の構成例について説明する。
本実施例では基板として、傾斜GaAs基板を用いた例を示す。
ここで傾斜基板とは、基板の面方位(例えば(100)面)に対して、指定された方向にある角度傾いた面が表面となっている基板のことを呼ぶ。
ビームの偏波制御や、活性層の自然超格子成長の防止の目的で、傾斜基板が用いられる。傾斜角度は、5°以上20°以下を選択することができる。
5°未満であると、結晶成長時にAlGaInP系材料で自然超格子が形成されてしまい、デバイスの性能上問題となる。
20°より大きいと結晶成長が非常に困難となるため好ましくない。
GaAs(100)面に対し、<111A>方向に10°傾斜した基板上に、高低2種類の屈折率からなるAlGaAs層を交互に配置した上下の多層膜反射鏡があり、該上下多層膜反射鏡の間に、AlGaInPからなる活性層が配置されている。
上部多層膜反射鏡の一部には、Al0.98Ga0.02Asからなる酸化層を設けている。
【0026】
図6に、本実施例のVCSELの一部である、AlGaAs酸化層602と、その下層401、上層403を示す。
下層401、上層403は、AlGaAs酸化層602よりも酸化レートが低くなるよう、AlGaAs酸化層403よりもAl組成を低くしておく。
次に、高温水蒸気の雰囲気に曝し、AlGaAs酸化層602を酸化することにより、図6(b)に示されているよう、酸化層の周囲に酸化領域405を形成する。
非酸化領域406は狭窄された電流の通り道となる。酸化領域405と非酸化領域406との境界を酸化フロント607と呼ぶ。
ここで、図6の点線604で切った平面図を図1に示す。図1中の点線110で切った断面図が図6である。
図1(a)において、点線の矢印101は、基板の傾斜方向<111A>方向を、傾斜基板の面に投影した方向を示している。
本実施例では、メサ径の大きさや、被酸化層の酸化条件により、酸化フロントが形成する形は図1(b)に示すような円形や、図7(b)に示すような円形に近い形707となる。
【0027】
以下、酸化フロントが形成する形が円形の場合について説明する。
酸化フロントが図7(b)のような場合であっても、酸化領域の一部を除去するプロセスは同様である。
酸化により、酸化フロント607には歪が集中するが、この歪を、機械的強度を保ちつつ効果的に低減するため、酸化部分の一部を除去する。
この除去部分は、基板の最大傾斜角の方向とは逆の方向、つまり図6、1(b)における矢印608の方向を含む酸化領域の一部である。
この領域を、図6、1(c)にて酸化領域除去部分609として示す。
傾斜基板を用いると、デバイスへの通電により、基板の傾斜方向とは逆の方向の酸化フロントより劣化が起こる傾向があることを我々は見出した。
【0028】
図13に、長時間通電により劣化が生じたデバイスの観察像を示す。この像は発振閾値電流よりも小さな電流をデバイスに注入することにより、活性層の発光の状態を観察している。
酸化フロント1302のうち、一方である矢印1301の方向のみから、暗い領域が広がっていることが分かる。この矢印1301の方向は、(100)基板における傾斜方向<111A>と同じである。
通電による劣化が生じる方向について、傾斜基板上に多層膜を成長しているため、傾斜の方向に電流の異方性が生じる、転位の入りやすい方向が一方向に固定される等の原因と考えている。
このため、デバイスの機械的強度の減少を抑えつつ、デバイスの寿命を確保するため、基板の傾斜方向とは逆の方向の酸化領域の一部分を取り除くことが有効である。
【0029】
酸化領域除去部分609は、矢印608方向においてはメサの端を含み、メサの端から酸化フロント607までの間とする。
酸化フロントまで除去することで、酸化による歪を低減させる効果は一番大きくなるが、機械的強度は低くなる。
また、酸化フロント607に近い酸化領域は、レーザとして発振させた際の出射ビームにおいて、横(基板と並行な方向の)モードを制御するための光閉じ込めの役割を果たすため、酸化フロントまで取り除いてしまうと、レーザビームのモードに影響を与える。
そこで、酸化領域除去部分609はメサ端からモードに与える影響が少ない距離までであることが好ましい。
ここで、酸化フロント607が形成する円形の内径を6.0um、レーザの発振波長を680nm、酸化層の酸化領域を含む共振器と、非酸化領域を含む共振器の等価屈折率の差を1.4%とする。これにより、酸化フロント607からメサ端側に1.3umの距離となるところで、光の強度が最大ビーム強度の1/100となる。
従って、メサ径が22umの円形である場合には、メサの端からの酸化領域除去距離を5.7um以下とすることが好適である。
【0030】
本実施例は酸化フロントが形成する形やメサの形状を円形として記載したが、本発明はこれに限定されるものではない。
酸化フロントが形成する形がどのようなものであっても、基板の傾斜方向と逆側の方向において、光の強度が最大ビーム強度の1/100となる距離以下まで酸化領域の一部を除去することで、同様の効果が得られる。
【0031】
[実施例3]
実施例3として、上記各実施例と異なる形態の構成例について説明する。
本実施例ではGaAs(100)面に対し、<111A>方向に10°傾斜した基板上に、高低2種類の屈折率からなるAlGaAs層を交互に配置した上下の多層膜反射鏡があり、該上下多層膜反射鏡の間にAlGaInPからなる活性層が配置されている。
上部多層膜反射鏡の一部にはAlAsからなる酸化層を設けている。
図8に本実施例のVCSELの一部である、AlAs酸化層802と、その下層401、上層403を示す。下層401、上層403は、AlAs酸化層802よりも酸化レートが低くなるよう、AlAs酸化層802よりもAl組成を低くしておく。
【0032】
次に、高温水蒸気の雰囲気に曝し、AlAs酸化層802を酸化することにより、図8(b)に示されているよう、酸化層の周囲に酸化領域405を形成する。非酸化領域406は狭窄された電流の通り道となる。
酸化領域405と非酸化領域406との境界を酸化フロント807と呼ぶ。
ここで、図8の点線804で切った平面図を図9に示す。図9中の点線910で切った断面図が図8である。
図9(a)において、点線の矢印901は、基板の傾斜方向<111A>方向を、傾斜基板の面に投影した方向を示している。本実施例では、酸化フロントが形成する形は図9(b)に示すような四角形となる。酸化条件やメサ形状の違いにより、この形状は正四角形ではなく、歪んだ四角形や、円形に近い形となることもある。
酸化フロントの形状が異なっても、酸化領域の一部を除去する方向は以下に説明する方向と同様である。
【0033】
酸化により、酸化フロント807には歪が集中するが、この歪を、機械的強度を保ちつつ効果的に低減するため、酸化部分の一部を除去する。
この除去部分は、基板の最大傾斜角とは逆の方向、つまり、図8、9(b)における矢印808の方向を含む酸化領域の一部である。
この領域を、図8、9(c)にて酸化領域除去部分809として示す。
傾斜基板を用いると、デバイスへの通電により、基板の最大傾斜角の方向とは逆の方向の酸化フロントより劣化が起こる傾向がある。
このため、デバイスの機械的強度の減少を抑えつつ、デバイスの寿命を確保するため、基板の傾斜方向とは逆の方向の酸化領域の一部分を取り除くことが有効である。
【0034】
この酸化領域除去部分809は、矢印808においてはメサの端を含み、メサ端から酸化フロント807までの間とする。
酸化フロントまで除去することで、酸化による歪を低減させる効果は一番大きくなるが、機械的強度は低くなる。
また、酸化フロント807に近い酸化領域は、レーザとして発振させた際の出射ビームにおいて、横(基板と並行な方向の)モードを制御するための光閉じ込めの役割を果たすため、酸化フロントまで取り除いてしまうと、レーザビームのモードに影響を与える。
そこで、酸化領域除去部分809はメサ端からモードに与える影響が少ない距離までであることが好ましい。
ここで、酸化フロント807が形成する四角形に内接する円形の直径を6.0um、レーザの発振波長を680nm、酸化層の酸化領域を含む共振器と、非酸化領域を含む共振器の等価屈折率の差を0.1%とする。これにより、レーザの最大強度位置からメサ端側に4.5umの距離となるところで、光の強度が最大ビーム強度の1/100となる。
従って、メサ径が22umの場合には、メサの端からの酸化領域除去距離を7um以下とすることが好適である。
【0035】
[実施例4]
実施例4として、上記各実施例と異なる構成例について、図12を用いて説明する。
図12(a)のように、電極1201がコンタクト層1203に電気的コンタクトをしている面積1202において異方性がある場合は、酸化フロント1204に集中する電流にも異方性ができることがある。
このような場合、デバイスの劣化はこの電流集中部分から起こりやすくなる。
従って、デバイスの機械的強度の減少を抑え、かつデバイスの寿命を確保することが必要となる。
このような場合、本実施例のように被酸化層の酸化による酸化フロントへの歪を効果的に取り除く方向として、非酸化領域1205の中心からみて、電極1202が電気的コンタクトをしている面積が最大となる方向1206とするのが好適である。
【0036】
図12(b)のよう、電気的コンタクトをしている面積が最大となる方向1206の酸化領域の一部を、ウェットエッチングにより除去する。
この酸化領域除去部分1207は、矢印1206においてはメサの端を含み、メサ端から酸化フロント1204までの間とする。
酸化フロントまで除去することで、酸化による歪を低減させる効果は一番大きくなるが、機械的強度は低くなる。
また、酸化フロント1204に近い酸化領域は、レーザとして発振させた際の出射ビームにおいて、横(基板と並行な方向の)モードを制御するための光閉じ込めの役割を果たすため、酸化フロントまで取り除いてしまうと、レーザビームのモードに影響を与える。
そこで、酸化領域除去部分1207はメサ端からモードに与える影響が少ない距離までであることが好ましい。
【0037】
[実施例5]
実施例5として、本発明の面発光レーザを複数配置した面発光レーザアレイを用いた画像形成装置の構成例を、図11を用いて説明する。
図11(a)は平面図であり、図11(b)は側面図である。
面発光レーザアレイ514は、記録用光源となるものであり、レーザドライバ(図示せず)により画像信号に応じて点灯または消灯するように構成されている。こうして光変調されたレーザ光は、面発光レーザアレイ514からコリメータレンズ520を介し回転多面鏡510に向けて照射される。
回転多面鏡510はモータ512により矢印方向に回転され、面発光レーザアレイ514から出力されたレーザ光は回転多面鏡510の回転に伴い、その反射面で連続的に出射角度を変える偏向ビームとして反射される。
この反射光は、f−θレンズ522により歪曲収差の補正等を受け、反射鏡516を経て感光体500に照射され、感光体500上で主走査方向に走査される。
【0038】
このとき、回転多面鏡510の1面を介したビーム光の反射により、感光体500の主走査方向に面発光レーザアレイ514に対応した複数のライン分の画像が形成される。
感光体500は、予め帯電器502により帯電されており、レーザ光の走査により順次露光され、静電潜像が形成される。
また、感光体500は矢印方向に回転していて、形成された静電潜像は、現像器504により現像され、現像された可視像は転写帯電器506により、転写紙(図示せず)に転写される。
可視像が転写された転写紙は、定着器508に搬送され、定着を行った後に機外に排出される。
【符号の説明】
【0039】
101:基板の傾斜方向<111A>方向を、傾斜基板の面に投影した方向
407:酸化フロント
408:非酸化領域の形状である多角形の頂点の方向
409:酸化領域除去部分
607:酸化フロント
609:酸化領域除去部分
1206:電気的コンタクトをしている面積が最大となる方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に形成された活性層と、
前記活性層の上下に配置された多層膜反射鏡と、
前記活性層へ電流を注入するための電極と、を備え、
前記上下に配置された多層膜反射鏡のいずれか一方またはその両方の多層膜反射鏡の一部の層を構成する被酸化層を酸化し、非酸化領域の周囲に酸化領域を有する電流狭窄層を形成して前記活性層への電流注入を制限するようにした面発光レーザであって、
前記電流狭窄層は、前記酸化領域の一部が除去された酸化領域除去部分を有し、
前記酸化領域除去部分は、前記非酸化領域の中心からみて、少なくとも以下の(1)〜(3)のいずれか一つの条件を満たす領域によって形成されていることを特徴とする面発光レーザ。
(1)前記非酸化領域の形状は多角形であり、その頂点の方向を含む領域であること。
(2)前記基板は傾斜基板であり、最大傾斜角の方向とは逆側の方向を含む領域であること。
(3)前記電極が電気的コンタクトをしている面積が最大となる方向を含む領域であること。
【請求項2】
基板と、
前記基板上に形成された活性層と、
前記活性層の上下に配置された多層膜反射鏡と、
前記活性層へ電流を注入するための電極と、を備え、
前記上下に配置された多層膜反射鏡のいずれか一方またはその両方の多層膜反射鏡の一部の層を構成する被酸化層を酸化し、非酸化領域の周囲に酸化領域を有する電流狭窄層を形成して前記活性層への電流注入を制限するようにした面発光レーザであって、
前記非酸化領域は多角形の形状を有すると共に、前記電流狭窄層の酸化領域は該酸化領域の一部が除去された酸化領域除去部分を有し、
前記酸化領域除去部分は、前記非酸化領域の中心からみて前記多角形の頂点の方向を含む領域によって形成されていることを特徴とする面発光レーザ。
【請求項3】
前記除去部分は、
前記非酸化領域の中心からみて、前記多角形の内角の大きさが最小となる頂点の方向を含む領域とされていることを特徴とする請求項2に記載の面発光レーザ。
【請求項4】
前記被酸化層が、AlAsを含む層で形成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の面発光レーザ。
【請求項5】
前記被酸化層が、AlxGa1−xAsを含む層であり、その組成xが0.95<x<1.0の範囲であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の面発光レーザ。
【請求項6】
基板と、
前記基板上に形成された活性層と、
前記活性層の上下に配置された多層膜反射鏡と、
前記活性層へ電流を注入するための電極と、を備え、
前記上下に配置された多層膜反射鏡のいずれか一方またはその両方の多層膜反射鏡の一部の層を構成する被酸化層を酸化し、非酸化領域の周囲に酸化領域を有する電流狭窄層を形成して前記活性層への電流注入を制限するようにした面発光レーザであって、
前記基板が傾斜基板で形成されていると共に、前記電流狭窄層の酸化領域は該酸化領域の一部が除去された酸化領域除去部分を有し、
前記酸化領域除去部分は、前記非酸化領域の中心からみて、最大傾斜角の方向とは逆側の方向を含む領域によって形成されていることを特徴とする面発光レーザ。
【請求項7】
前記傾斜の方向が、(100)面に対し、5°以上20°以下傾斜した基板に対し、<111A>の方向であることを特徴とする請求項6に記載の面発光レーザ。
【請求項8】
前記酸化領域除去部分は、酸化領域除去部分のうちの前記非酸化領域に一番近い位置におけるビーム強度をPr、前記非酸化領域における最大ビーム強度をPmaxとするとき、次式の関係を満たすことを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の面発光レーザ。

Pr<Pmax/100
【請求項9】
基板上の上下に配置された多層膜反射鏡のいずれか一方、またはその両方の多層膜反射鏡の一部の層を構成する被酸化層に電流狭窄層を形成して活性層への電流注入を制限するようにした面発光レーザの製造方法であって、
前記被酸化層の一部を酸化し、非酸化領域の周囲に酸化領域を有する前記電流狭窄層を形成する工程と、
前記酸化領域の一部を除去して酸化領域除去部分を形成する工程と、
を有し、
前記酸化領域除去部分として、前記非酸化領域の中心からみて、少なくとも以下の(1)〜(3)のいずれか一つの条件を満たす領域を形成することを特徴とする面発光レーザの製造方法。
(1)前記非酸化領域の形状は多角形であり、その頂点の方向を含む領域であること。
(2)前記基板は傾斜基板であり、最大傾斜角の方向とは逆側の方向を含む領域であること。
(3)前記電極が電気的コンタクトをしている面積が最大となる方向を含む領域であること。
【請求項10】
前記酸化領域の一部を除去する工程にウェットエッチングを用いることを特徴とする請求項9に記載の面発光レーザの製造方法。
【請求項11】
面発光レーザアレイと、前記面発光レーザアレイからの光を照射することにより静電潜像を形成する感光体と、帯電器と、現像器と、を備えた画像形成装置であって、
前記面発光レーザアレイが、請求項1〜8記載の面発光レーザを複数配置した面発光レーザアレイによって構成されていることを特徴とする画像形成装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate