説明

鞍乗り型車両のマフラーおよび鞍乗り型車両

【課題】350〜650℃程度の高温環境下であっても塗膜の白色化および色むらが抑制される鞍乗り型車両のマフラーおよび該マフラーを備えた鞍乗り型車両を提供する。
【解決手段】内部に触媒9を有し、かつ表面の少なくとも一部に黒色顔料を含む塗膜(図中の斜線部)が形成された、鞍乗り型車両のマフラー5において、前記黒色顔料として、マンガンおよび銅を含み、前記黒色顔料中のマンガンの含有量が、MnO換算で25〜45質量%であり、前記黒色顔料中の銅の含有量が、CuO換算で5〜25質量%であり、前記黒色顔料中のケイ素の含有量が、SiO換算で3質量%以下である黒色顔料を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鞍乗り型車両のマフラーおよび鞍乗り型車両に関する。
【背景技術】
【0002】
自動二輪車のマフラーの表面には、外観性を向上させるため、複合酸化物からなる黒色顔料を含む耐熱性の塗膜が形成されている(特許文献1)。該複合酸化物としては、Fe−Cu−Mn−Cr系(例えば、特許文献1)、Cu−Mn−Fe系(例えば、特許文献2)等が知られている。
【特許文献1】特公平07−026059号公報
【特許文献2】特開2002−309123号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、自動二輪車のマフラーが内部に触媒を有する場合、マフラーの表面温度は350℃以上の高温となる。しかし、一般に入手可能な黒色顔料を用いた場合、350℃以上の高温に長時間さらされた塗膜は、しだいに白色化することがある。特に、触媒に近い塗膜では白色化が顕著であり、触媒に近い塗膜と遠い塗膜とで色むらが生じる場合がある。
【0004】
本発明は、350〜650℃程度の高温環境下であっても塗膜の白色化および色むらが抑制される鞍乗り型車両のマフラー、および該マフラーを備えた鞍乗り型車両を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の鞍乗り型車両のマフラーは、内部に触媒を有し、かつ表面の少なくとも一部に黒色顔料を含む塗膜が形成された、鞍乗り型車両のマフラーにおいて、前記黒色顔料が、マンガンおよび銅を含み、前記黒色顔料中のマンガンの含有量が、MnO換算で25〜45質量%であり、前記黒色顔料中の銅の含有量が、CuO換算で5〜25質量%であり、前記黒色顔料中のケイ素の含有量が、SiO換算で3質量%以下であることを特徴とする。
【0006】
前記黒色顔料は、さらにアルミニウムを含み、前記黒色顔料中のアルミニウムの含有量は、Al換算で5〜10質量%であることが好ましい。
前記黒色顔料は、さらに鉄を含み、前記黒色顔料中の鉄の含有量は、Fe換算で15〜65質量%であることが好ましく、15〜35質量%であることがより好ましい。
前記黒色顔料は、さらにナトリウムを含み、前記黒色顔料中のナトリウムの含有量は、NaO換算で0質量%超2質量%以下であることが好ましい。
【0007】
本発明の鞍乗り型車両は、エンジンと、該エンジンから延出する排気管と、該排気管に接続するマフラーとを備えた鞍乗り型車両において、前記マフラーが、本発明の鞍乗り型車両のマフラーであることを特徴とする。
本発明の鞍乗り型車両は、さらに、前記マフラーの前方に位置するロアカウルを備え、該ロアカウルの表面に黒色の塗膜が形成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明の鞍乗り型車両のマフラーは、350〜650℃程度の高温環境下であっても塗膜の白色化および色むらが抑制される。
本発明の鞍乗り型車両は、外観に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
<鞍乗り型車両のマフラー>
図1は、本発明の鞍乗り型車両のマフラーを備えた自動二輪車の一例を示す図である。該自動二輪車(鞍乗り型車両)においては、前輪1と後輪2との間に多気筒エンジン3が配置され、各気筒の排気口から延出する排気管4が多気筒エンジン3の下方にて集合し、マフラー5に接続している。
【0010】
マフラー5は、底面6が地面と略平行とされ、上面7が斜め上がりに後方へ延び、後端部にテールパイプユニット8が設けられている。
マフラー5は、内部に触媒9を有し、かつ外側に面した側面の下半分に黒色の塗膜(図中の斜線部)が形成されている。
【0011】
(塗膜)
図2は、本発明の鞍乗り型車両のマフラーにおける塗膜の構造の一例を示す断面図である。塗膜13は、基材10の上に形成された下塗り層11と、該下塗り層11の上に形成された上塗り層12とから構成される。
【0012】
基材10は、マフラー5のケースの一部である。基材10の材料としては、ステンレス鋼、アルミナイズド鋼、ニッケルめっき鋼、一般鋼等が挙げられる。基材10の表面には、塗膜との密着性を向上させるために、ブラスト処理を施してもよい。
【0013】
下塗り層11は、後述する下塗り塗料を基材10の上に塗布、熱処理して形成される層であり、通常は、塗膜に耐食性を付与するための防錆顔料を含む。
下塗り層11の厚さは、通常、20〜30μmである。
【0014】
上塗り層12は、後述する耐熱塗料を下塗り層11の上に塗布、熱処理して形成される層であり、塗膜に黒色の外観を付与するための黒色顔料を含む。
上塗り層12の厚さは、通常、20〜30μmである。
【0015】
塗布方法としては、公知の塗布方法(スプレー法、刷毛塗り等。)を用いればよい。
熱処理条件は、塗料に含まれる樹脂や溶剤の種類、塗料の固形分濃度、各層の厚さ等に応じて適宜決定すればよい。
【0016】
(下塗り塗料)
下塗り塗料は、シリコーン樹脂および/またはエポキシ樹脂と、防錆顔料とを含み、必要に応じて溶剤、添加剤等を含むものである。
下塗り塗料の固形分濃度は、樹脂の種類、塗布方法、下塗り層11の厚さ等に応じて適宜選択すればよい。
下塗り塗料の固形分中の防錆顔料の含有量は、通常、50〜70質量%である。
【0017】
シリコーン樹脂としてはストレートシリコーン樹脂(ジメチルシリコーン樹脂、メチルフェニルシリコーン樹脂等。)、変性シリコーン樹脂(エポキシ変性シリコーン樹脂、ポリエステル変性シリコーン樹脂等。)等が挙げられ、エポキシ変性シリコーン樹脂が好ましい。シリコーン樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂等が挙げられる。エポキシ樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、シリコーン樹脂とエポキシ樹脂とを併用してもよい。
【0019】
防錆顔料としては、金属亜鉛粉末等が挙げられる。
溶剤としては、芳香族化合物(トルエン、キシレン等。)、アルコール(ブタノール等。)等が挙げられる。
【0020】
添加剤としては、充填材(補強材、体質顔料等。)、増粘剤、硬化剤、分散剤等の公知の添加剤が挙げられる。
補強材としては、リン酸アルミニウム、モリブデン酸カルシウム等が挙げられる。
体質顔料としては、雲母粉、チタン酸カリウム繊維、硅石粉、炭酸カルシウム、硫酸バリウム等が挙げられる。
【0021】
(耐熱塗料)
耐熱塗料は、シリコーン樹脂および/またはエポキシ樹脂と、黒色顔料とを含み、必要に応じて溶剤、添加剤等を含むものである。
耐熱塗料の固形分濃度は、樹脂の種類、塗布方法、上塗り層12の厚さ等に応じて適宜選択すればよい。
耐熱塗料の固形分中の黒色顔料の含有量は、通常、20〜40質量%である。
【0022】
シリコーン樹脂としてはストレートシリコーン樹脂(ジメチルシリコーン樹脂、メチルフェニルシリコーン樹脂等。)、変性シリコーン樹脂(エポキシ変性シリコーン樹脂、ポリエステル変性シリコーン樹脂等。)等が挙げられ、ストレートシリコーン樹脂が好ましい。シリコーン樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂等が挙げられる。エポキシ樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、シリコーン樹脂とエポキシ樹脂とを併用してもよい。
【0024】
黒色顔料は、マンガンおよび銅を含む複合酸化物からなるものである。
黒色顔料中のマンガンの含有量は、MnO換算で25〜45質量%であり、かつ黒色顔料中の銅の含有量は、CuO換算で5〜25質量%である。マンガンおよび銅の含有量が該範囲内であれば、酸化条件下においてもMnO(黒色)およびCuO(黒色)として安定的に存在し得る元素が多く存在することとなり、高温環境下での塗膜の白色化が抑制される。
【0025】
マンガンおよび銅の含有量が該範囲内であっても、黒色顔料に含まれるケイ素の量が多くなると、高温環境下での塗膜の白色化が促進される傾向がある。よって、黒色顔料は、ケイ素をできるだけ含まないことが重要となる。具体的には、黒色顔料中のケイ素の含有量は、SiO換算で3質量%以下である。
【0026】
黒色顔料は、さらにアルミニウムを含むことが好ましい。
黒色顔料中のアルミニウムの含有量は、Al換算で5〜10質量%が好ましい。アルミニウムの含有量がAl換算で5質量%以上であれば、黒色顔料に含まれる他の元素の酸化が抑制され、塗料の変色が抑制される。なお、Al自体は白色であるため、より濃い黒色を出すため、アルミニウムの含有量はAl換算で10質量%以下とすることが好ましい。
【0027】
黒色顔料は、さらに鉄を含むことが好ましい。
黒色顔料中の鉄の含有量は、Fe換算で15〜65質量%が好ましい。鉄の含有量が該範囲内であれば、高温環境下での塗膜の白色化がさらに抑制される。なお、FeO(黒色)が酸化されると、Fe(赤褐色)となるため、酸化による塗膜の変色を抑制する点では、鉄の含有量は、Fe換算で15〜35質量%がより好ましい。
【0028】
黒色顔料は、さらにナトリウムを含むことが好ましい。
黒色顔料中のナトリウムの含有量は、NaO換算で0質量%超2質量%以下が好ましい。ナトリウムの含有量が該範囲内であれば、高温環境下での塗膜の白色化がさらに抑制される。
【0029】
黒色顔料は、本発明の効果を損なわない範囲において、必要に応じて他の元素(バリウム、硫黄、カルシウム、チタン、リン、カリウム、クロム、マグネシウム、塩素等。)を含んでいてもよい。
【0030】
黒色顔料は、公知の製法により製造できる。
黒色顔料に含まれる各元素の含有量は、黒色顔料の製造に用いる原料(金属塩等)の配合比を調整することにより、調整できる。
黒色顔料に含まれる各元素の含有量は、蛍光X線分析により求める。
【0031】
溶剤としては、芳香族化合物(トルエン、キシレン等。)、アルコール(ブタノール等。)等が挙げられる。
添加剤としては、充填材(補強材、体質顔料等。)、防錆顔料、増粘剤、硬化剤、分散剤等の公知の添加剤が挙げられる。
【0032】
<鞍乗り型車両>
本発明の鞍乗り型車両としては、例えば、本発明の鞍乗り型車両のマフラーを備えた自動二輪車が挙げられる。該自動二輪車(鞍乗り型車両)は、図1に示すように、前輪1と後輪2との間に配置された多気筒エンジン3と、各気筒の排気口から延出する排気管4と、多気筒エンジン3の下方にて集合した排気管が接続するマフラー5と、該マフラー5の前方、かつ前記多気筒エンジン3の下方に位置し、前記排気管4を覆うロアカウル14とを備えたものである。
【0033】
ロアカウル14は、外側に面した表面に黒色の塗膜(図中の斜線部)が形成されている。該塗膜は、通常の黒色塗料を基材の塗布、熱処理して形成されるものである。
マフラー5の下半分およびロアカウル14が黒色とされることにより、比較的サイズの大きいマフラー5およびロアカウル14が黒色で目立たなくなり、完成車として軽快な外観が得られる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例を示す。
例1、2は実施例であり、例3〜6は比較例である。
実施例における測定方法および評価方法は、下記の通りである。
【0035】
(蛍光X線分析)
蛍光X線分析装置(リガク社製、ZSX100e)を用いて、ブリケット法による蛍光X線分析を行った。具体的には、プレス機を用いて黒色顔料を円盤状サンプルに成型し、該円盤状サンプルを蛍光X線分析装置のホルダーにセットし、蛍光X線強度を測定した。FP定量法にて定量値を求め、あらかじめ測定しておいた黒色顔料のIg loss値を用いて補正し、各元素の含有量を求めた。
【0036】
(色差ΔE94
耐熱塗料を基板(SUS409L)に塗布し、180℃で20分間加熱し、厚さ20〜30μmの塗膜を形成し、耐熱試験用サンプルを作製した。該サンプルの塗膜について、JIS Z8730にしたがい、色差計(コニカミノルタセンシング社製、CM−700d)を用いてL表色系におけるL、a、bを測色した。
サンプルを、所定の温度(200℃、300℃、400℃、500℃、600℃)で24時間加熱する耐熱試験を行った。耐熱試験後のサンプルの塗膜について同様にL、a、bを測色した。
JIS Z8730にしたがい、耐熱試験前後のL、a、bから色差ΔE94を求めた。
【0037】
〔例1〜6〕
表1に示す組成(蛍光X線分析結果)を有する黒色顔料を調製した。各黒色顔料の30質量部、ストレートシリコーン樹脂(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製、TSR1452、固形分:60質量%)の50質量部、溶剤(キシレン)の20質量部を混合し、例1〜6の耐熱塗料を得た。各耐熱塗料を用いて耐熱試験用サンプルを作製し、塗膜の耐熱試験前後の色差ΔE94を求めた。結果を図3に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
例3〜6の耐熱塗料から形成された塗膜については、400〜600℃の耐熱試験後に白色化が認められ、色差ΔE94の結果からも、変色が大きいことが確認された。
例1、2の耐熱塗料から形成された塗膜については、白色化は例3〜6に比べ十分に抑制されており、色差ΔE94の結果からも、例3〜6に比べ変色が小さいことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の鞍乗り型車両のマフラーは、車外の外面に大きく露出することから外観性が要求される自動二輪車のマフラーとして特に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の鞍乗り型車両のマフラーを備えた自動二輪車の一例を示す図である。
【図2】本発明の鞍乗り型車両のマフラーにおける塗膜の構造の一例を示す断面図である。
【図3】例1〜6の耐熱塗料から形成された塗膜の耐熱試験前後の色差ΔE94と耐熱試験における温度との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0042】
5 マフラー
9 触媒
13 塗膜
14 ロアカウル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に触媒を有し、かつ表面の少なくとも一部に黒色顔料を含む塗膜が形成された、鞍乗り型車両のマフラーにおいて、
前記黒色顔料が、マンガンおよび銅を含み、
前記黒色顔料中のマンガンの含有量が、MnO換算で25〜45質量%であり、
前記黒色顔料中の銅の含有量が、CuO換算で5〜25質量%であり、
前記黒色顔料中のケイ素の含有量が、SiO換算で3質量%以下であることを特徴とする鞍乗り型車両のマフラー。
【請求項2】
前記黒色顔料が、さらにアルミニウムを含み、
前記黒色顔料中のアルミニウムの含有量が、Al換算で5〜10質量%である、請求項1に記載の鞍乗り型車両のマフラー。
【請求項3】
前記黒色顔料が、さらに鉄を含み、
前記黒色顔料中の鉄の含有量が、Fe換算で15〜65質量%である、請求項1または2に記載の鞍乗り型車両のマフラー。
【請求項4】
前記黒色顔料中の鉄の含有量が、Fe換算で15〜35質量%である、請求項3に記載の鞍乗り型車両のマフラー。
【請求項5】
前記黒色顔料が、さらにナトリウムを含み、
前記黒色顔料中のナトリウムの含有量が、NaO換算で0質量%超2質量%以下である、請求項1〜4のいずれかに記載の鞍乗り型車両のマフラー。
【請求項6】
エンジンと、該エンジンから延出する排気管と、該排気管に接続するマフラーとを備えた鞍乗り型車両において、
前記マフラーが、請求項1〜5のいずれかに記載の鞍乗り型車両のマフラーであることを特徴とする鞍乗り型車両。
【請求項7】
さらに、前記マフラーの前方に位置するロアカウルを備え、該ロアカウルの表面に黒色の塗膜が形成されている、請求項6に記載の鞍乗り型車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−156235(P2010−156235A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−334235(P2008−334235)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】