説明

音声処理装置

【課題】大きなヘッドルームを設定したアナログ信号をデジタル処理回路で増幅したときのS/N特性を向上する。
【解決手段】音声処理系統11〜1nは、アナログ増幅回路21〜2n、AD変換回路31〜3n、デジタル処理回路41〜4nを有する。第1の音声処理系統11に入力されたアナログ信号は、分配スイッチ62を介して第1と第2の音声処理系統のアナログ増幅回路21、22に分配される。分配されたアナログ信号は、26dBに設定されたヘッドルームに基づいてアナログ増幅回路21、22で増幅され、AD変換回路31、32で−26dBFSのデジタル信号に変換される。これらのデジタル信号は、切換スイッチ71、72を介して、デジタル信号の加算・処理回路40に入力される。これらのデジタル信号は、デジタル信号の加算・処理回路40において加算、増幅され、一般的基準の出力レベルである−20dBFSのデジタル信号として出力される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、放送スタジオ、レコーディングスタジオなどにおいて、オーディオ信号の処理、調整などをする音声調整卓に使用するのに適した音声処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
放送スタジオ、レコーディングスタジオなどには、入力した音声信号の音量や音質を調整するための一般にミキサーと呼ばれる音声調整卓が設置されている。音声調整卓は、マイクや音声ソースから音声信号を入力し、これにレベル調整、音響効果、音像定位、ミキシングといった様々な調整や加工を施して、所望の音声データを作成する。
【0003】
この音声調整卓では、入力されたアナログ信号に対してデジタル処理を施すことにより、前記のような音声の加工及び音量調整を行う音声処理装置が使用されている。この音声処理装置のアナログ信号入力部の性能は、アナログ増幅回路及びAD変換回路によって決定され、例えば、ノイズレベルは使用するオペアンプやAD変換回路の性能に依存する。また、入力信号がデジタル処理されることから、前記アナログ信号入力部で処理する信号については、ヘッドルームが考慮される。
【0004】
このヘッドルームとは、機器で記録可能な最大の信号の大きさと、実際に処理する音のピークとの間の余裕、すなわち、基準レベルから回路が飽和し波形がクリップするまでのレベル差を指す。ヘッドルームが足りないと音のピークで歪みが発生し、ヘッドルームを取りすぎるとS/N比が低下する。特に、信号がデジタルで処理される場合、ヘッドルームが足りないと、信号波形が飽和して発生するクリップの中でも、緩やかに歪むのではなく、信号のピークがすっぱりとデジタル的に切り取られるハードクリップが生じ、大きな歪みとなるため、ヘッドルームの取り方は重要となる。
【0005】
例えば、生放送やバラエティ番組などで、予測しない高い音圧のレベルがマイクから入力された場合でも、出力波形がハードクリップして歪んだ音声の出力とならないように、アナログ信号入力部でのヘッドルームは、例えば、(20+α)dBとするのが望ましい。αは、正の実数であり、例えば、6である。そのため、従来技術では、AD変換後の基準レベルが−(20+α)dBFSになるようにアナログ増幅回路を設定し、その後デジタル信号処理によって+αdBのゲイン調整を行うことで、デジタル音声信号の一般的な基準レベルである−20dBFSに合わせると言ったことが行われていた。
【0006】
なお、dBFSとは、デジタル信号の大きさの単位であり、FSはフルスケールのことで、デジタルで表現可能な最大値ということである。0dBFSは、デジタルの最大値であり、これを超える信号は全てハードクリップされる。また、信号の大きさは、dBで表され、通常の信号はマイナスの数値で表される。
【0007】
図3を用いて、従来の音声処理装置10について説明する。この音声処理装置10は、複数の音声処理系統11〜1nを備えている。各音声処理系統11〜1nは、それぞれ音声信号を入力する複数のアナログ増幅回路21〜2n、各アナログ増幅回路21〜2nに接続されたAD変換回路31〜34n、及び各AD変換回路31〜31nに接続されたデジタル信号処理回路41〜4nを有している。
【0008】
この音声処理装置10において、アナログ増幅回路21〜2nにアナログ信号が入力されると、予め定められたヘッドルーム20+αdBに基づいて、このアナログ信号は、アナログ増幅回路21〜2nで増幅される。AD変換回路31〜3nにアナログ増幅回路21から増幅されたアナログ信号が入力され、AD変換回路31はこのアナログ信号をデジタル信号に変換する。
【0009】
デジタル信号処理回路41〜4nは、AD変換回路31〜34nからのデジタル信号のゲインを調整する。このゲイン調整は、AD変換回路31〜3nからの出力レベルである−(20+α)dBFSを、+αdBのデジタル信号処理をすることである。この信号処理により、例えば、デジタル音声信号の一般的な基準レベルである−20dBFSにすることができる。
【0010】
このような従来技術は、特許文献1として知られている。特許文献1には、AD変換回路付リモートヘッドアンプにおいて、ヘッドルームが(20+α)dBに設定された回線が接続された場合に、そのデジタル音声信号と共に搬送されるデータを信号処理部が制御することが開示されている。この制御は、+αdBゲインを上げ、デジタルリミッタでヘッドルームを20dBに圧縮することにより、基準レベルを−20dBFSに合わせている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平10−51254号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
このような従来技術のデジタル信号処理においては、+αdBFSのゲイン増幅時に、音声信号と同時にノイズ成分までもが増幅され、良好なS/N特性を維持することが難しいといった課題があった。
【0013】
例えば、AD変換回路より出力された−26dBFSの信号に対して+6dBのゲイン調整をして、デジタル音声信号レベルを−20dBFSにする場合において、ノイズレベルも+6dBの増幅がされる。この+6dBは音圧を約2倍に増幅することに相当し、ノイズは約2倍となる。引用文献1に記載された発明においても、このS/N特性の問題は解決されていない。
【0014】
本発明は、前記のような従来技術の問題点を解決するために提案されたもので、アナログ増幅回路において大きなヘッドルームを設定し、デジタル処理回路において出力レベルの調整をした場合であっても、デジタル処理回路からの出力信号のS/N特性を向上できる音声処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、複数の入力されたアナログ信号を個別に、所定のヘッドルームに基づいて増幅する個別のアナログ増幅回路からなる複数のアナログ増幅回路と、前記個別のアナログ増幅回路から出力されるアナログ信号を前記所定のヘッドルームに応じた所定の出力レベルのデジタル信号に変換する個別のAD変換回路からなる複数のAD変換回路と、前記個別のAD変換回路から出力される前記所定の出力レベルのデジタル信号を個別にデジタル音声信号の一般的基準の出力レベルにゲイン調整したデジタル信号として出力する個別のデジタル信号処理回路からなる複数のデジタル信号処理回路とを有する音声調整卓用音声処理装置において、前記個別のアナログ信号を当該個別のアナログ増幅回路と1以上の他のアナログ増幅回路とに分配するように切換える複数の分配スイッチと、前記分配されたアナログ信号がデジタル信号に変換され、2以上の所定の出力レベルの出力を、デジタル信号処理回路から切換える複数の切換スイッチと前記切換えられた前記2以上の所定の出力レベルの出力を入力し、加算し、必要に応じてゲイン調整し、一般的基準の出力レベルのデジタル信号として出力するデジタル信号の加算・処理回路と、を更に有することを特徴とする。
【0016】
また、本発明は、前記所定のヘッドルームの信号レベルと、前記デジタル信号の加算・処理回路におけるゲイン調整による信号レベルとを自由に設定することを特徴とする。
【0017】
また、本発明は、前記デジタル信号の加算・処理回路は、2以上の所定の出力レベルのそれぞれが、略同一又は所定の閾値以内でないときは、エラー判定とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、未使用の音声処理系統がある場合に、使用中の音声処理系統の信号を未使用の音声処理系統に分配し、分配された各系統においてそれぞれ音声処理を施した後、各系統の信号を加算して出力するという簡単な構成で、大きなヘッドルームを設定したアナログ信号に対して、デジタル処理回路において出力レベルの調整をしたときのS/N特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態に係る音声処理装置の構成を説明するブロック図である。
【図2】本発明の実施形態に係る音声処理装置の動作を説明するフローチャートである。
【図3】従来の音声処理装置の構成を説明するブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態を図1、図2を用いて説明する。なお、従来技術と同一の部分については、同一の符号を付して、説明する。
【0021】
[実施形態の構成]
図1に示す通り、本実施形態の音声処理装置10は、複数の音声処理系統11〜1nを備えている。各音声処理系統11〜1nは、それぞれアナログ増幅回路21〜2n、AD変換回路31〜3n、デジタル信号処理回路41〜4nを備えている。
【0022】
第1の音声処理系統11から第n−1の音声処理系統1n−1のアナログ増幅回路21〜2n−1の入力側には、第1の音声処理系統へ入力された音声信号を第2から第nの音声処理系統に分配する分配器51〜5n−1を有する分配用配線50が設けられている。第2〜第nの音声処理系統12〜1nにおけるアナログ増幅回路22〜2nの前段には、分配スイッチ62〜6nが設けられ、この分配スイッチ62〜6nの入力側の2つの端子に、各系統の音源(通常位置)と前記分配用配線50(分配位置)とが接続されている。
【0023】
この分配スイッチ62〜6nは、1つの音声処理系統に入力された信号を他の音声処理系統にも分配するものであって、例えば、第1のアナログ増幅回路21に入力されるアナログ信号を、第2から第nの音声処理系統12〜1nのアナログ増幅回路22〜2nに分配するスイッチである。
【0024】
各音声処理系統11〜1nにおけるAD変換回路31〜3nの後段には、切換スイッチ71〜7nが設けられている。この切換スイッチ71〜7nの出力側の2つの端子は、自系統のデジタル信号処理回路41〜4n(通常位置)と、分配されたデジタル信号の加算・処理回路40(分配位置)にそれぞれ接続されている。
【0025】
デジタル信号の加算・処理回路40は、AD変換回路31〜3nのいずれか2以上の音声処理系統から出力されたデジタル信号が同一であるか否かを判定するエラー判定部と、各音声処理系統からのデジタル信号を加算する信号加算部と、加算された信号に対してそのゲインを調整するゲイン調整部とから構成される。
【0026】
なお、加算前の各系統の信号に対してゲイン調整を行い、その後、各系統の信号を加算するような信号加算部と加算処理部とを設けることも可能である。また、このデジタル加算・処理回路40は、前記デジタル処理回路41〜4nと同様に、音声信号に対する種々の音響効果を与える加工処理部を備えていても良い。
【0027】
この音声装置10には、前記各部を制御する制御装置80が設けられている。この制御装置80は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)などを有している。例えば、制御装置80は、ROMに記憶されているプログラムを実行し、音声処理装置10の各部を制御する。
【0028】
より具体的には、制御装置80は、次の各部を有する。
(1) 前記分配スイッチ62〜6nを操作する入力回線設定部81。
(2) 各アナログ増幅回路21〜2nの増幅率を設定するアナログ増幅率設定部82。
(3) 前記切換スイッチ71〜7nを操作する出力先設定部83。
(4) 前記デジタル信号の加算・処理回路40のエラー判定、ゲイン調整、加算処理を制御する加算・処理回路制御部84。
(5) 各音声処理系統のデジタル信号処理回路41〜4nの増幅率を設定するデジタル増幅率設定部85。
【0029】
前記制御装置80には、LEDなどで構成されたステイタス(エラー表示の有無)の表示部86と、音声調整卓に設けられた外部コントローラ87が接続されている。この外部コントローラ87に入力回線状態の表示部87aと、入力回線設定用の入力手段87bが設けられている。
【0030】
[実施形態の動作]
図2は、本発明の実施形態に係る音声処理装置の動作を説明するフローチャートである。図1と図2とを用いて、本実施形態の音声処理装置10の動作を説明する。
【0031】
本実施形態の音声処理装置10は、一般的には、ステップS10の通常モードで使用される。ここで、通常モードとは、マイクなどの音源からのアナログ入力が予測しない高い音圧のレベルがマイクから入力されることがなく、アナログ増幅回路21において大きなヘッドルームを必要としない場合や、複数設けられた音声処理系統11〜1nのすべてに音源が接続されており、空いている音声処理系統がない場合に採用される。
【0032】
そのため、この通常モードにおいて、入力信号に対して大きなヘッドルームを必要としない場合は、AD変換回路からの出力が−20dBFに設定されている。また、音声処理系統11〜1nの中で、生放送やバラエティ番組のマイクのように予測しない高音圧のレベルの入力がある音源については、従来技術と同様に、AD変換回路の出力を−26dBFSに設定しておき、後段のデジタル信号処理回路41〜4nにおいて+6dBの増幅処理を行う。
【0033】
この通常モードにおいては、各音声処理系統11〜1nに設けられた分配スイッチ62〜6n及び切換スイッチ71〜7nは、各音声処理系統に入力された信号が、それぞれの処理系統に設けられたアナログ増幅回路21〜2n、AD変換回路31〜3n及びデジタル信号処理回路41〜4nにのみ流れる通常位置(図1の各スイッチの位置)にセットされている。
【0034】
前記のような通常モードに設定されている状態において、音声処理系統11〜1nのいずれかに空きが生じ、しかも、大きなヘッドルームを必要とする音源を接続する必要がある場合には、音声処理装置10を分配モードに設定する。すなわち、ステップS11において、動作モードを分配モードに変更する指示がされる。この指示は、前記制御装置80に設けられた外部コントローラ87の入力手段87bをユーザが操作することにより行われる。
【0035】
次に、ステップS12において、入力回線の変更、アナログ増幅率の変更などが行われる。例えば、アナログ増幅回路22が空き状態であれば、制御装置80の入力回線設定部81により、分配スイッチ62を分配位置に切り換え、大きなヘッドルームを必要とする音源が接続された第1の音声処理系統11のアナログ増幅回路21に入力されているアナログ信号の一部を、第2の音声処理系統12のアナログ増幅回路22に分配する。
【0036】
同様に、入力回線設定部81により、第1及び第2の音声処理系統11、12に接続された切換スイッチ71、72をデジタル信号加算・処理回路50側の分配位置に切り換える。なお、この入力回線の設定完了は、設定状態通知として入力回線設定部81に送られ、外部コントローラ87の表示部87aに表示される。
【0037】
同時に、制御装置80のアナログ増幅率設定部92により、分配された信号が入力されるアナログ増幅回路21、22のアナログ増幅率の変更、例えば、ヘッドルームを20dBから26dBにする変更がなされる。
【0038】
その結果、音声処理系統11に入力された音声信号は、分配器99によって第1と第2の音声処理系統11、12に2分配され、この2分配された信号が、各系統のアナログ増幅回路21、22により増幅され、その後AD変換回路31、32によってデジタル信号へ変換され、デジタル信号の加算・処理回路40に入力される。
【0039】
次に、ステップS13において、デジタル信号の加算・処理回路40に入力された2系統の信号に対して、エラー判定がされる。このエラー判定は、デジタル信号の加算・処理回路40に設けられたエラー判定部において、入力された2系統のデジタル信号を比較して、同一か否かを判定するものである。この場合、2系統のデジタル信号の同一性は、両方の信号の周波数成分を比較するなどの方法で判定できる。
【0040】
デジタル信号の加算・処理回路40に入力される複数のデジタル信号は基本的には同一であるが、各回路やスイッチなどの不具合で、同一とならない場合がある。このような同一でない複数の信号が加算されると、音声処理装置10に入力された元のアナログ信号とは、異なるものとなる。その場合には、分配モードに切り換えることなく、通常モードを維持することが好ましいので、エラー判定部において信号の同一性を判定する。
【0041】
エラー判定部において、デジタル信号が同一と判定された場合(ステップS14:Yes)は、ステップS15に進み、分配スイッチ62と切換スイッチ71、72は、分配位置を維持する。その結果、AD変換回路31、32からのデジタル信号の出力は、デジタル信号の加算・処理回路40に入力され、これらのデジタル信号は加算処理される。また、加算処理されたデジタル信号は、必要に応じて、ゲイン調整される。
【0042】
例えば、AD変換回路31、32から出力されるデジタル信号のヘッドルームは、それぞれ26dBである。これらのデジタル信号は同一であり、加算処理されると2倍に増幅されたデジタル信号になる。入力と出力の比が2倍の場合そのdBは約6.02であり、−26dBFSの2倍に増幅されたデジタル信号は約−19.98dBFSである。これは、一般的基準の出力レベルである−20dBFSに近い値であり、一般的基準の出力レベルで出力する場合は、ゲイン調整をしないで、出力することができる。
【0043】
AD変換回路31、32からの出力レベルは、−26dBFSに限定されず設定できるが、例えば、−28dBFSに設定された場合、これらのデジタル信号は、加算・処理回路40での加算処理により約−22dBFSの出力レベルとなり、一般的基準の出力レベルにするには、約+2dBFSのレベル調整が必要となる。
【0044】
以上のようにして、加算・処理回路40に入力された各系統の信号の同一性が確認された場合は、エラーがないとして、分配モードへの移行が完了する(ステップS16)。
【0045】
一方、ステップS14において、これらのデジタル信号が同一と判定されなかった場合は(ステップS14:No)、ステップS17に進む。すなわち、加算・処理回路40がエラーを判定すると、その情報は制御装置80に送られ、制御装置80は、この状態をステイタス表示部86にエラーとして表示する。また、エラーと判定された場合、分配モードとすることができないので、制御装置80はその入力回線設定部81及び出力先設定部83からの指令により、分配スイッチ62〜6n及び切換スイッチ71〜7nを通常側に切り換える。
【0046】
同時に、制御装置81は、アナログ増幅率設定部82からの指令により、各アナログ増幅回路21〜2nのアナログ増幅率も、通常モードの時の値に設定する。このようにすると、第1の音声処理系統11に入力された音声信号は、分配されることなく、そのままの音圧でアナログ増幅回路21に入力され、通常モードに復帰する(ステップS18)。
【0047】
[実施形態の効果]
実施形態で例示されているアナログ増幅回路21におけるヘッドルームの設定値は、26dBである。この場合の、アナログ増幅回路21で発生するノイズをα1とし、AD変換回路31で発生するノイズをβ1とすると、通常モードにおいて、デジタル信号処理回路41に入力されるノイズは、(α1+β1)となる。なお、アナログ増幅回路でのノイズとAD変換回路でのノイズは、単純な加算では計算できないが、便宜上(α1+β1)と表現する。デジタル信号処理回路41で、+6dBのゲイン調節がされると、ノイズは(2α1+2β1)となる。このノイズは、従来の技術で説明したように、このゲイン調整で約2倍になっている。
【0048】
一方、アナログ入力を、アナログ増幅回路21、22に分配された場合、それぞれのヘッドルームの設定値を26dBとし、アナログ増幅回路21、22で発生するノイズをそれぞれα1/2、α2/2とする。また、AD変換回路31、32で発生するノイズはそれぞれβ1/2、β2/2とする。なお、これらのノイズが異なるのは各回路の特性が異なるからであり、また、1/2になっているのはアナログ入力信号が分配されているからである。
【0049】
この場合において、デジタル信号の加算・処理回路40に入力されるノイズは、その加算処理により、(α1/2+β1/2)と(α2/2+β2/2)となり、さらに、加算・処理回路40の6dB増幅処理により、デジタル信号の出力レベルが約−20dBFSになると、そのノイズは、この増幅処理で、2倍の2(α1/2+β1/2+α2/2+β2/2)=(α1+β1+α2+β2)となる。
【0050】
通常モードのノイズ(2α1+2β1)と分配モードのノイズ(α1+β1+α2+β2)とを比較すると、分配モードのノイズ(α1+β1+α2+β2)の方が小さい。これは、ノイズα1、β1、α2、β2において発生する各ノイズ成分(ノイズの位相)は異なり、これらのノイズの合成ピークは、ノイズ2α1と2β1とのノイズの合成ピークより小さいからである。
【0051】
このように本実施形態では、アナログ増幅回路21とアナログ増幅回路22には同一の音声信号が入力されていることになるので、デジタル信号処理による加算部に入力されるAD変換回路31の出力音声信号およびAD変換回路32の出力音声信号は同一となる。従って、デジタル信号処理による加算によって音声信号のレベルは+6dBされるので、デジタル信号処理回路1の基準レベルを−20dBFSに保つために、予めアナログ増幅回路21、22にてそれぞれゲインを−6dBしておく。
【0052】
つまり、アナログ増幅回路21、22の出力レベルはそれぞれ−26dBFSとなり、アナログ増幅回路21、22のヘッドルームは26dBということになる。その一方、デジタル信号加算・処理部40入力されるAD変換回路31、32の信号ノイズ成分は同一ではないため、ここでノイズ成分が増幅されることはない。このように、必要な音声信号成分のみ+6dB増幅し、不要なノイズ成分は増幅しない、といったことが実現され、S/N特性を犠牲にすることなく、アナログ増幅回路でのヘッドルームを26dB確保できることになる。
【0053】
以上のとおり、本実施形態によれば、使用していない音声処理系統のアナログ増幅回路に入力信号を分配し、分配した信号にアナログ増幅やAD変換処理を行った後、分配された信号を加算して、デジタル処理を施すことにより、S/N特性及びヘッドルームの向上が実現できる。
【0054】
[他の実施形態]
本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、次のような他の実施形態も包含する。
【0055】
(1) 上記例では、アナログ入力を2分配した場合であるが、未使用の音声処理系統がさらに複数ある場合には3分配、4分配と分配数を増やすことで、アナログ増幅回路のヘッドルームをさらに多く確保することができる。
【0056】
(2) ヘッドルームをそれほど多く必要としない場合は、アナログ増幅回路のゲイン設定と、デジタル信号処理による増幅部のゲイン設定の配分を調整することで、S/N特性を従来よりも向上させることも可能である。
【0057】
(3) 前記エラー判定部には、エラーか否かを判定する閾値(比較する各系統の同一性がどの程度であるかを示す値)を設定できる機能も併設し、使用環境にあわせて適切なエラー判定ができるようにする。
【0058】
(4) 音声処理装置のアナログ信号の分配は、スイッチを用いているが、これに限定されず、例えば、分配トランスを用いてもよい。また、スイッチは、アナログ増幅回路の途中段に設けてもよい。
【0059】
(5) 実施形態の音声処理装置は、制御装置80に設けた外部コントローラからの制御信号で処理されているが、これに限定されず、例えば、音声処理装置が制御手段を有している構成であってもよい。
【0060】
(6) 前記実施形態では、アナログ増幅回路21に入力される音声信号を分配対象にしているが、これに限定されず、例えば、アナログ増幅回路22、23、24に入力されるアナログ信号を分配対象としてもよい。また、多数の音声処理系統を有する音声処理装置において、分配側と被分配側の音声処理系統を組み合わせたものを複数組設けることも可能である。
【符号の説明】
【0061】
10…音声処理装置、11〜1n…音声処理系統、21〜2n…アナログ増幅回路、31〜3n…AD変換回路、40…デジタル信号の加算・処理回路、41〜4n…デジタル信号処理回路、50…分配用配線、51〜5n−1…分配器、62〜6n…分配スイッチ、71〜7n…切換スイッチ、80…制御装置、81…入力回線設定部、82…アナログ増幅率設定部、83…出力先設定部、84…加算・処理回路制御部、85…デジタル増幅率設定部、86…ステイタス表示部、87…外部コントローラ、87a…入力回線状態の表示部、87b…入力回線設定用の入力手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理対象の音源を接続する複数の音声処理系統を備え、各音声処理系統には、所定のヘッドルームに基づいて入力されたアナログ信号を増幅するアナログ増幅回路と、このアナログ増幅回路から出力されるアナログ信号をデジタル信号に変換するAD変換回路と、前記AD変換回路から出力されたデジタル信号を増幅するデジタル信号処理回路が設けられた音声処理装置において、
使用中の音声処理系統に入力されたアナログ信号を、その使用中の音声処理系統のアナログ増幅回路と、他の未使用の音声処理系統のアナログ増幅回路に分配する分配器と、
分配された各音声処理系統のアナログ信号をそれぞれのAD変換回路においてデジタル信号に変換し、その変換した各音声処理系統のデジタル信号を加算してデジタル処理を施す加算・処理回路を有することを特徴とする音声処理装置。
【請求項2】
前記各音声処理系統におけるアナログ増幅回路の前段に、各音声処理系統に接続される音源からのアナログ信号と、前記分配器からのアナログ信号を切り換える分配スイッチを設け、
前記各音声処理系統におけるAD変換回路の後段には、AD変換回路から出力されるデジタル信号を、各音声処理系統に設けられたデジタル処理回路と、前記加算・処理回路と切り換える切換スイッチを設けたことを特徴とする請求項1に記載の音声処理装置。
【請求項3】
前記デジタル信号の加算・処理回路は、分配された各音声処理系統のデジタル信号が同一又は所定の閾値以内でないときは、エラー判定とすることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の音声処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−60536(P2012−60536A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−203595(P2010−203595)
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(390005223)株式会社タムラ製作所 (526)
【Fターム(参考)】