説明

音響レンズ、超音波探触子、超音波診断装置、および音響レンズの製造方法

【課題】超音波の減衰が少ない音響レンズ、該音響レンズを製造する製造方法、及び、該音響レンズを有する超音波探触子、及び、該超音波探触子を有する超音波診断装置を提供する。
【解決手段】添加物の音波の伝播速度は母材と異なり、母材に占める添加物の体積割合が、超音波を所定の距離に収束させるように、超音波の入射する面に入射する超音波の位置に応じて連続的に変化した状態であることを特徴とする音響レンズ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響レンズ、超音波探触子、超音波診断装置、および音響レンズの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波診断装置は超音波パルス反射法により、体表から生体内の軟組織の断層像を低侵襲に得る医療用画像機器である。この超音波診断装置は、他の医療用画像機器に比べ、小型で安価、X線などの被爆がなく安全性が高い、ドップラー効果を応用して血流イメージングが可能等の特長を有している。そのため、循環器系(心臓の冠動脈)、消化器系(胃腸)、内科系(肝臓、膵臓、脾臓)、泌尿科系(腎臓、膀胱)、及び産婦人科系などで広く利用されている。
【0003】
このような医療用超音波診断装置に使用される超音波探触子は、高感度、高解像度の超音波の送受信を行うために、ジルコン酸チタン酸鉛を材料とした圧電素子が一般的に使用される。
【0004】
また、超音波探触子には、超音波のビームを収束させて分解能を向上させるため音響レンズが用いられている。音響レンズは被検体(生体)と密着させるので、被検体と密着させやすく、診断に使用する周波数において減衰率の小さい材料が求められている。
【0005】
従来からこのような材料としてシリコーンゴムが主に用いられている。シリコーンゴムは、被検体(生体)より音波の伝播速度(以下、音速ともいう)が遅いので、断面形状の中央部を凸状に形成し、超音波が中央の厚みの厚い部分を通過する時間を、厚みの薄い部分より長くして超音波を収束させるようにしていた。
【0006】
ところで、高調波信号を用いたハーモニックイメージング診断が、従来のBモード診断では得られない鮮明な診断像が得られることから標準的な診断方法となりつつある。
【0007】
ハーモニックイメージングを行うために十分な超音波信号を得るためには、基本波よりも周波数が高く減衰しやすい高調波をいかに効率的に受信できる設計とするか、が重要となる。
【0008】
しかしながら、シリコーンゴムは超音波の伝播損失が大きいため、超音波探触子の受信感度を向上させることは難しい。特に、高周波の伝播損失が大きいため、高調波信号を用いたハーモニックイメージングには不向きな材料であると言える。
【0009】
一方、伝播損失の少ない材料としては、例えば樹脂材料であるポリメチルペンテンが知られているが、ポリメチルペンテンは被検体(生体)より音速が速いので、断面形状の中央部を凹状に形成し、超音波を収束させるようにする必要がある。
【0010】
しかしながら、凹状では被検体(生体)の表面との接触性が悪く、鮮明な画像が得られない。
【0011】
そのため、ポリメチルペンテンを用いた凹状の音響レンズの平坦な側を生体接触側、凹側を圧電素子側とし、シリコーンゴムで形成した音響媒体によって凹状の部分を埋めて空気層を介在しないようにする方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0012】
また、従来の超音波探触子では、圧電素子と音響レンズの間に音響インピーダンスの異なる層を積層した整合層が設けられているが、整合層の各層の境界で音響インピーダンスが大きく異なるため、超音波の反射が発生し減衰するため超音波の送受信感度を低下させる原因になっていた。
【0013】
そのため、圧電素子から離間するにつれて含有割合が変化するように添加物を添加し、圧電素子と音響レンズとの間の音響インピーダンスを徐々に変化させた層を積層し、超音波の送受信感度を向上させた音響整合レンズを備えた超音波プローブが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0014】
しかしながら、音響整合層を構成する層の数を増し、超音波の送受信感度を向上させるためには、次のような課題があり、従来は2〜3層とするのが限界であった。
【0015】
例えば、音響整合層での超音波の伝播損失を抑制するため各層の厚みをできるだけ薄くする必要があるので、薄い膜を多数積層する工程に時間がかかる上、歩留まりが悪いという問題がある。また、各層を貼り合わせる際に接着剤を用いるので層間においても超音波の反射が生じる問題がある。
【0016】
このような多重反射の問題を解決する方法として、樹脂材料にタングステン粉末を混合し、タングステン粉末を沈降させながら自然硬化させることにより、音響インピーダンスが連続的に変化する音響媒介物を用いる方法が知られている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開平6−254100号公報
【特許文献2】特開2006−263385号公報
【特許文献3】特開昭54−21082号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
しかしながら、特許文献1に開示されているように、音響レンズの凹状の部分を埋める音響媒体を設けると、音響レンズと音響媒体との境界で音響インピーダンスが大きく異なるため、超音波の反射が発生し、超音波の送受信感度が低下する問題がある。
【0019】
一方、特許文献2に開示されている音響整合レンズは、シリコーンゴムに添加物を添加した3つの整合層の一つに凸曲面を設け超音波を収束させているが、整合層の数が少ないため界面での音響インピーダンスの差が大きく超音波の反射を十分抑制できない。
【0020】
また、特許文献1、2ではシリコーンゴムを用いているので、シリコーンゴムによる超音波の伝播損失が大きく高次高調波を利用する場合は受信感度が不十分になってしまうという問題があった。
【0021】
特許文献1の音響レンズの音響媒体として特許文献3に開示されている音響整合層を用いることも考えられるが、音響レンズと音響媒体の境界における音響インピーダンスの差を少なくすることはできても、接合面があるためやはり界面での超音波の反射が発生する。また、2つの異なる部品を接合するため製造工程が複雑である。
【0022】
特許文献2に開示されている音響整合レンズの整合層は、シリコーンゴムを用いたものであり、音響インピーダンスや音波の伝播速度などの特性が異なるので、そのまま特許文献3に開示されている音響整合層に置き換えることはできない。
【0023】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、超音波の減衰が少ない音響レンズ、該音響レンズを製造する製造方法、及び、該音響レンズを有する超音波探触子、および該超音波探触子を有する超音波診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
上記の課題を解決するため、本発明は以下のような特徴を有するものである。
【0025】
1.液状の母材に該母材と音波の伝播速度の異なる添加物を添加した分散液を硬化して形成された音響レンズであって、
前記母材に占める前記添加物の体積割合が、超音波を所定の距離に収束させるように、超音波の入射する面に入射する超音波の位置に応じて連続的に変化した状態であることを特徴とする音響レンズ。
【0026】
2.前記添加物の音響インピーダンスは前記母材と異なり、
前記母材に占める前記添加物の体積割合が、超音波の入射する面からの距離に応じて連続的に変化していることを特徴とする前記1に記載の音響レンズ。
【0027】
3.液状の母材に該母材と音波の伝播速度の異なる添加物を添加した分散液を硬化させて形成された音響レンズであって、
前記母材に占める添加物の体積割合が、超音波を所定の距離に収束させるように、超音波の入射する面の位置に応じて連続的に変化した状態であることを特徴とする音響レンズ。
【0028】
4.被検体に向けての超音波の送信、または被検体からの超音波の反射波の受信の少なくとも一方を行う超音波探触子において、
前記1から3の何れか1項に記載の音響レンズを有し、
前記音響レンズを介して超音波を送信および受信、または送信もしくは受信をすることを特徴とする超音波探触子。
【0029】
5.超音波を被検体に向けて送信し、該被検体から受信した該超音波の反射波に応じて画像を生成する超音波診断装置において、
前記4に記載の超音波探触子を有することを特徴とする超音波診断装置。
【0030】
6.液状の母材に該母材と音波の伝播速度の異なる添加物を添加した分散液を用いて形成する音響レンズの製造方法であって、
前記液状の母材に前記添加物を分散した分散液を型に注入する注入工程と、
前記添加物を所定時間沈降させる沈降工程と、
前記所定時間の後、前記添加物を沈降させながら前記分散液を硬化させる硬化工程と、
を含み、
前記型に注入された前記分散液の液面が遠心力により凹面になるように前記分散液を注入した型を回転させながら前記沈降工程、及び前記硬化工程を行った後、
凹面状に硬化された部分を平面に加工する工程を行うことを特徴とする音響レンズの製造方法。
【0031】
7.液状の母材に該母材と音波の伝播速度の異なる添加物を添加した分散液を用いて形成する音響レンズの製造方法であって、
前記液状の母材に添加物を分散させた分散液を型に注入する注入工程と、
前記添加物を所定時間沈降させる沈降工程と、
前記所定時間の後、前記添加物を沈降させながら分散液を硬化させる硬化工程と、
前記硬化工程で生成された2つの組成物を、それぞれの前記組成物の音波の伝播速度が遅い方の面を向き合わせて接合する接合工程と、
を含むことを特徴とする音響レンズの製造方法。
【発明の効果】
【0032】
本発明の音響レンズは、液状の母材に該母材と音波の伝播速度の異なる添加物を添加した分散液を硬化して形成され、母材に占める添加物の体積割合が、超音波を所定の距離に収束させるように、超音波の入射する面に入射する超音波の位置に応じて連続的に変化した状態である。
【0033】
このようにすると、音響レンズの内部に界面を設けないので、界面による超音波の反射が発生しない。
【0034】
したがって、超音波の減衰が少ない音響レンズ、及び、該音響レンズを製造する製造方法、該音響レンズを有する超音波探触子、及び、該超音波探触子を有する超音波診断装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】第1の実施形態の音響レンズ8の製造工程を説明する断面図である。
【図2】型70で組成される組成物72を説明する斜視図である。
【図3】音響レンズ8の製造工程を説明する工程図である。
【図4】音響レンズ8の深さ方向(Z軸方向)に対して、その深さにおける媒質に占める酸化亜鉛の体積割合を一例として示すグラフである。
【図5】酸化亜鉛の体積割合と音響インピーダンスとの関係の一例を示すグラフである。
【図6】酸化亜鉛の体積割合と音波の伝播速度(音速)との関係の一例を示すグラフである。
【図7】音響レンズ8の音響インピーダンスの深さ方向に対する変化を一例として示すグラフである。
【図8】音響レンズ8の音速の深さ方向に対する変化を一例として示すグラフである。
【図9】第1の実施形態の音響レンズ8の上側表面75上の各位置からの深さ方向(Z軸方向)に対して、その深さにおける媒質に占める酸化亜鉛の体積割合を一例として示すグラフである。
【図10】第2の実施形態の音響レンズ7の製造工程を説明する説明図である。
【図11】第2の実施形態の音響レンズ7の製造工程を説明する工程図である。
【図12】第2の実施形態の音響レンズ7の幅W3の中央X0からのX軸方向の距離と、その距離における媒質の音速との関係を一例として示すグラフである。
【図13】実施形態における超音波探触子1の構成例を示す断面図である。
【図14】実施形態における超音波診断装置の外観構成を示す図である。
【図15】実施形態における超音波診断装置の電気的な構成を示すブロック図である。
【図16】音響整合層を積層した圧電素子の送受信感度の周波数特性を比較するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明に係る実施の一形態を図面に基づいて説明するが、本発明は該実施の形態に限られない。なお、各図において同一の符号を付した構成は、同一の構成であることを示し、その説明を省略する。
【0037】
以降の説明では図中のX、Y、Zで示す座標軸に基づいて説明する。X方向は音響レンズ8を接合する超音波探触子1(図1には図示せず)のエレベーション方向(ダイシングを行う方向)であり、Y方向は音響レンズ8の長手方向、Z軸正方向は超音波を送信する方向である。
【0038】
次に、第1の実施形態の音響レンズ8の製造工程を説明する。
【0039】
図1は、第1の実施形態の音響レンズ8の製造工程を説明する断面図、図2は、型70で組成される組成物72を説明する斜視図、図3は、音響レンズ8の製造工程を説明する工程図である。
【0040】
第1の実施形態の音響レンズ8では、超音波を所定の距離に収束させるため、入射する超音波のX軸方向の位置と入射面からのZ軸方向の距離に応じて添加物の体積割合が連続的に変化するようにしている。
【0041】
図1の矢印X3は、下側表面76から入射し、音響レンズ8のX軸方向の幅の中央を進行する超音波を示し、矢印X5は、音響レンズ8のX軸方向の幅の周辺部を進行する超音波を、矢印X4は、矢印X5とX3の中間付近を進行する超音波を示している。
【0042】
図3の工程図に沿って直方体形状の第1の実施形態の音響レンズ8を作製する例を説明する。
【0043】
S1:分散液製造工程
分散液の母材には、各種樹脂材料を用いることができるが、短時間で硬化できる樹脂材料、例えば光を照射することにより短時間で硬化できる光硬化性樹脂材料が好ましい。
【0044】
また、超音波の減衰特性が周波数5MHzで2dB/cm以下の樹脂材料が好ましい。例えば、アクリレート、メチルペンテン、スチレン、メチルメタクリレート、カーボネート、プロピレンなどの重合体または共重合体を用いることができる。
【0045】
母材に添加する添加物は、酸化亜鉛、アルミニウム、酸化アルミニウム、ジュラルミン、チタン、窒化ケイ素、炭化ボロン、モリブデン等を用いることができる。これらは母材に均一に分散して添加し、母材と添加剤界面で音響不整合を生じないよう、波長に対して充分小さい粉末の状態で用いられることが好ましく、その粒径は10μm以下、さらに好ましくは0.5μm以下であることが好ましい。
【0046】
本実施形態では、表1の紫外線硬化型の光硬化性樹脂材料を母材とし、添加物として酸化亜鉛を均一に分散させた分散液を製造する例を説明する。
【0047】
【表1】

【0048】
表1の光硬化性樹脂Aは、イソシアヌル酸EO変性ジ及びトリアクリレート混合物(アロニックスM−313;東亞合成株式会社製)、光硬化性樹脂Bは、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート(アロニックスM−408;東亞合成株式会社製)である。
【0049】
添加剤は、平均粒径250nmの親油性酸化亜鉛ナノ微粒子(デグサ社製VP AdNano Z805)である。また、光重合開始剤は、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド(光重合開始剤IRGRACURE819;BASF社製)である。
【0050】
例えば、表1に示す割合で光硬化性樹脂A、Bを母材に、光重合開始剤と添加剤の酸化亜鉛を撹拌して均一に分散させ、分散液を製造する。
【0051】
S2:注入工程
図1(a)は分散液71を注入した型70の断面図である。図1(a)のように、母材に添加物を均一に分散させた分散液71を直方形の凹部を有する型70に注入する。本実施形態では、凹部の形状は幅W3=10(mm)、高さH3=4(mm)、長さL1=70(mm)とする。
【0052】
S10:沈降工程
図1(b)と図2(a)は、遠心分離器80の内部に取り付けた分散液71を注入した型70の断面図と斜視図である。第1の実施形態の沈降工程では、分散液71を注入した型70を、図1(b)のように遠心分離器80の内部に取り付け、Oを回転中心として矢印方向に回転させながら添加物を所定時間沈降させる。すると、型70に注入された分散液71の液面は、図1(b)のように遠心力により凹面になる。添加物も遠心力により凹状に分布し、型70の中央部より周辺部に多くの添加物が集まる。
【0053】
S11:硬化工程
分散液71を注入した型70を回転させながら、分散液71の上面より所定時間紫外線を照射して硬化させる。その後、遠心分離器80から型70を取り出し、加熱してさらに硬化させ、図2(b)のような組成物72を得る。
【0054】
S13:切削工程
図1(c)のように組成物72の凹面状の部分を、Cで示す点線で切削し、図1(d)のように高さH4の直方体形状に加工し、音響レンズ8を得る。
【0055】
このような簡単な工程で得られた音響レンズ8は、下側表面76方向に添加物が沈降しながら硬化されているので、上側表面81から下側表面76方向への深さに応じて、媒質に含まれる添加物の体積割合が増加している。
【0056】
図4のグラフは、音響レンズ8の深さ方向(Z軸方向)に対して、その深さにおける媒質に占める酸化亜鉛の体積割合を一例として示すグラフである。図4の横軸は、矢印X3の位置における音響レンズ8の上側表面81からの深さ(mm)であり、縦軸はその深さにおける媒質に占める酸化亜鉛の体積割合(体積%)である。
【0057】
図4の例では、上側表面81では、酸化亜鉛の体積割合は0(体積%)、深さ1.2(mm)の媒質では体積割合は9.8(体積%)、深さ2mmに相当する下側表面76では体積割合は65(体積%)であり、深さに応じて連続的に酸化亜鉛の体積割合が増加している。
【0058】
なお、酸化亜鉛の体積割合は、表面元素分析によって求めることができる。深さ方向(Z軸方向)の位置における酸化亜鉛の体積割合は、上側表面81から所定の深さまで表面を切削して表面元素分析を行うことにより求めることができる。
【0059】
次に、表1の光硬化性樹脂A、Bを母材に、酸化亜鉛の体積割合を変えて均一に分散した状態で硬化させた試料の特性例を図5、図6を用いて説明する。図5は、酸化亜鉛の体積割合と音響インピーダンスとの関係の一例を示すグラフである。図6は、酸化亜鉛の体積割合と音波の伝播速度(以下、音速ともいう)との関係を示すグラフである。
【0060】
図5に示すように、酸化亜鉛の体積割合0(体積%)では、音響インピーダンス3(Pa・s・m−1)、体積割合70(体積%)では、音響インピーダンス23(Pa・s・m−1)である。また、図6に示すように、酸化亜鉛の体積割合0(体積%)では、音速2700(m/s)、体積割合70(体積%)では、音速5200(m/s)であり、酸化亜鉛の体積割合が増加するのに伴って音響インピーダンスと音速が増加している。
【0061】
図4に示す上側表面からの深さにおける音響レンズ8の酸化亜鉛の体積割合と、図5、図6に示す特性から音速と音響インピーダンスの深さ方向に対する変化が求められる。
【0062】
図7は、音響レンズ8の音響インピーダンスの深さ方向に対する変化を一例として示すグラフ、図8は、音響レンズ8の音速の深さ方向に対する変化を一例として示すグラフである。図7、図8の横軸は、音響レンズ8の上側表面81からの深さ(mm)であり、図7の縦軸は音響インピーダンス(Pa・s・m−1)、図8の縦軸は音速(m/s)である。
【0063】
図7に示すように、上側表面81では、音響インピーダンス3(Pa・s・m−1)、深さ2mmに相当する下側表面76では音響インピーダンス23(Pa・s・m−1)であり、深さに応じて連続的に音響インピーダンスが増加している。
【0064】
また、図7に示すように、上側表面81では、音速2700(m/s)、深さ2mmに相当する下側表面76では音速5200(m/s)であり、深さに応じて連続的に音速が増加している。
【0065】
圧電素子の音響インピーダンスは、一般に24〜36Pa・s・m−1程度であり、圧電素子と接合する下側表面76の音響インピーダンスを、この例のように近い値にすると接合面で発生する超音波の反射を抑制することができる。
【0066】
また、被検体である人体の音響インピーダンスは、1.8Pa・s・m−1程度であり、被検体と接触する音響レンズも音響インピーダンスがこの値に近いものが用いられる。したがって、音響レンズと接合する上側表面81の音響インピーダンスを、この例のように音響レンズに近い値にすると同様に接合面で発生する超音波の反射を抑制することができる。
【0067】
本実施形態では、下側表面76と上側表面81の間に界面はなく、音響インピーダンスは深さ(距離)に応じて連続的に変化するので、音響レンズ8の内部では界面による超音波の反射はおこらない。したがって、本実施形態の音響レンズ8は超音波の減衰が少ない。このような音響レンズ8を簡単な設備と簡単な工程により製造することができる。
【0068】
図9は、このようにして作製した第1の実施形態の音響レンズ8の上側表面75上の各位置からの深さ方向(Z軸方向)に対して、その深さにおける媒質に占める酸化亜鉛の体積割合を一例として示すグラフである。図9の横軸は、音響レンズ8の上側表面75からの深さ(mm)であり、縦軸はその深さにおける媒質に占める酸化亜鉛の体積割合(体積%)である。また、図9のX3、X4、X5は、図1(d)に矢印で示すX3、X4、X5に対応する。すなわち、X3、X4、X5に示すX軸方向の位置の上側表面75からの深さ方向(Z軸負方向)の距離に応じて変化する酸化亜鉛の体積割合を示している。
【0069】
音響レンズ8のX軸方向の中央X3、周辺部X5、X3とX5の中間部X4の何れの位置でも、上側表面75に相当する深さ0(mm)では酸化亜鉛の体積割合は0(体積%)、深さ2(mm)に相当する下側表面76では体積割合は65(体積%)であり、上側表面75からの深さに応じて連続的に酸化亜鉛の体積割合が増加している。
【0070】
一方、X5、X4、X3の順に上側表面75に近い深さから体積割合の増加が始まるので、平均すると周辺部X5の方が音響レンズ8の上側表面75と下側表面76の間に占める酸化亜鉛の体積割合が多い。例えば、中央部X3では深さ1.2(mm)の媒質の体積割合は9.8(体積%)なのに対し、周辺部X5では体積割合は61.4(体積%)である。
【0071】
図6で説明したように、酸化亜鉛の体積割合が増すと音速も増加する。したがって、X5で示すような周辺部からZ軸方向に進行する超音波は、中央部X3より音速の高い領域を通過する割合が多く、上側表面75と下側表面76の間を通過する時間が短くなる。
【0072】
このように、周辺部を進行するX5で示す超音波は、中央を進行するX3で示す超音波よりも音速の高い領域を進む距離が長いので同時に下側表面76に入射したX3で示す超音波よりも早く上側表面75に達する。
【0073】
音響インピーダンスについても、図5で説明したように、酸化亜鉛の体積割合が増すと音響インピーダンスも増加する。酸化亜鉛の体積割合から、音響レンズ8の音響インピーダンスは、上側表面75では、音響インピーダンス3(Pa・s・m−1)、下側表面76では音響インピーダンス23(Pa・s・m−1)であり、深さに応じて連続的に音響インピーダンスが増加している。
【0074】
前述のように、圧電素子の音響インピーダンスは、一般に24〜36Pa・s・m−1程度であり、圧電素子と接合する下側表面76の音響インピーダンスを、この例のように近い値にすると接合面で発生する超音波の反射を抑制することができる。
【0075】
被検体である人体の音響インピーダンスは、1.8Pa・s・m−1程度であり、上側表面75の音響インピーダンスはこの値に近い値になっている。
【0076】
以下の説明では、上側表面75が被検体に接しているものとする。
【0077】
X5で示す周辺部を進行する超音波は、X3で示す中央を進行する超音波より早く被検体に入射するので、その時間差の分だけ多くの距離を進行し、上側表面75からの距離fで中央部を進行するS1で示す超音波と収束する。また、X4はX3とX5の間に被検体に入射し、距離fで中央部を進行するX3で示す超音波と収束する。
【0078】
音響レンズ8の焦点距離は、このように超音波が下側表面76に入射する位置と、添加物の体積割合によって変わる下側表面76から上側表面75まで進行する時間との関係によって変わる。
【0079】
本実施形態では、下側表面76と上側表面75の間に界面はなく、音響インピーダンスは深さ(距離)に応じて連続的に変化するので、音響レンズ8の内部では超音波の反射はおこらない。また、音響レンズ8は、超音波を所定の距離に収束させることができる。
【0080】
さらに、被検体と接触する面は平面になっているので、被検体の表面との接触性が良く被検体と音響レンズ8を容易に密着させることができる。
【0081】
このように、本実施形態の音響レンズ8は、超音波の減衰が少なく、本実施形態の音響レンズ8の製造方法により、このような音響レンズ8を簡単な設備と簡単な工程により製造することができる。
【0082】
次に、第2の実施形態の音響レンズ7の製造工程を説明する。
【0083】
図10は、第2の実施形態の音響レンズ7の製造工程を説明する説明図、図11は、音響レンズ7の製造工程を説明する工程図である。
【0084】
第2の実施形態の音響レンズ7も第1の実施形態の音響レンズ8と同様に、超音波を所定の距離に収束させるため、入射する超音波のX軸方向の位置に応じて添加物の体積割合が連続的に変化するように構成している。
【0085】
図11の工程図に沿って直方体形状の第2の実施形態の音響レンズ7を作製する例を説明する。
【0086】
S1:分散液製造工程
第1の実施形態で説明した分散液と同じ分散液を用いることができるので、分散液製造工程も同じ工程を用いることができる。
【0087】
本実施形態では、第1の実施形態と同様に、表1に示す割合で光硬化性樹脂A、Bを母材に、添加物として酸化亜鉛を撹拌して均一に分散させた例を説明する。
【0088】
S2:注入工程
分散液71を注入する型は、第1の実施形態と同様に図1(a)、図2(a)に示す型70を用いることができる。図1(a)、図2(a)のように、母材に添加物を均一に分散させた分散液71を直方形の凹部を有する型70に注入する。本実施形態では、凹部の形状は幅W2=10(mm)、高さH2=4(mm)、長さL2=70(mm)とする。
【0089】
S3:沈降工程
分散液71を型70に注入後所定時間放置し、添加物を沈降させる。
【0090】
S4:硬化工程
分散液71の上面より所定時間紫外線を照射して硬化させる。その後、加熱してさらに硬化させ、型70から取り出して組成物72を得る。本工程では、図10(a)のように次工程の接合工程で用いる2つの組成物72a、72bを作製する。
【0091】
組成物72a、72bは、下側表面76a、82b方向に添加物が沈降しながら硬化されているので、上側表面81a、81bから下側表面76a、82b方向への深さに応じて、母材に占める添加物の体積割合が増加している。
【0092】
S5:接合工程
S4の硬化工程で生成された2つの組成物72a、72bを、それぞれの組成物72a、72bの添加物の密度が低い上側表面81aと上側表面81bとを互いに向き合わせて図11(b)のように接合する。
【0093】
S6:切断、研磨工程
図10(b)のように接合した組成物72a、72bを、点線で示すように接合面と直交する面で切断し、切断面を研磨して図10(c)のように厚みdの直方体形状に加工し、音響レンズ7を得る。
【0094】
図13は、このようにして作製した第2の実施形態の音響レンズ7の幅W3の中央X0からのX軸方向の距離と、その距離における媒質の音速との関係を一例として示すグラフである。
【0095】
音響レンズ7は、母材に占める添加物の体積割合の低い上側表面81a、81bを互いに向き合わせて接合して作製するので、接合面の位置である幅W3の中央X0が最も添加物の体積割合が低く、X0からX軸方向に離れるほど添加物の体積割合が高くなっている。Z軸方向においては、媒質に含まれ添加物の体積割合は一定である。
【0096】
図5、図6で説明したように、酸化亜鉛の体積割合が増すと音速と音響インピーダンスが増加する。したがって、X0からX軸方向に離れるほど音速と音響インピーダンスが増加し、Z軸方向については一定である。
【0097】
図12の横軸は、中央X0からのX軸方向の距離(mm)であり、縦軸はその距離における媒質の音速(m/s)である。
【0098】
図12のように中央X0からのX軸方向の距離が増すと、音速が増加しているので、中央X0からZ軸方向に進行する超音波より、中央X0から離れた位置をZ軸方向に進行する超音波の方が、第1のレンズ面84と第2のレンズ面85の間を通過する時間が短い。
【0099】
このように、X1から入射した超音波は、中央X0から入射した超音波よりも音速の高い領域を進むので、同時に中央X0から入射した超音波よりも早く第2のレンズ面85に達する。
【0100】
X1から入射した超音波は、第2のレンズ面85に接する媒質内を中央X0から入射した超音波よりも早く進行し、所定の距離で中央X0から入射した超音波と収束する。
【0101】
超音波の収束する距離は、超音波が第1のレンズ面84と第2のレンズ面85の間を通過する時間差によって変わるので、本実施形態の音響レンズ7は、S6の切断工程で切断する厚みdを変えることにより焦点距離を変えることができる。
【0102】
本実施形態では、第1のレンズ面84と第2のレンズ面85の間に界面はなく、超音波が進行する方向の音響インピーダンスは一定なので、音響レンズ7の内部では超音波の反射はおこらない。
【0103】
したがって、本実施形態の音響レンズ7は、超音波の減衰が少ない。また、本実施形態の音響レンズの製造方法を用いると、超音波の減衰が少ない任意の焦点距離の音響レンズを簡単な設備と簡単な工程により製造することができる。
【0104】
さらに、被検体と接触する面は平面になっているので、被検体の表面との接触性が良く被検体と音響レンズ8を容易に密着させることができる。
【0105】
図13は、音響レンズ8または音響レンズ7を用いた超音波探触子のヘッド部の構成を示す断面図である。
【0106】
本実施形態では、単一の圧電素子で送受信を行うシングル型超音波探触子に本発明を適用した例を説明するが、特に限定されるものではなく送信用圧電素子と受信用圧電素子とを別体とし、超音波の送信時と受信時における動作を分離したアレイ型超音波探触子にも適用できる。
【0107】
以降の説明では図中のX、Y、Zで示す座標軸に基づいて説明する。X方向は超音波探触子1のエレベーション方向(ダイシングを行う方向)であり、Z軸正方向は超音波を送信する方向である。また、Z軸方向は積層方向である。
【0108】
図13に示す超音波探触子1は、バッキング材5の上に第1電極15、送受信素子層2、第2電極14、音響レンズ8、または音響レンズ7の順に積層されている。
【0109】
以降、積層順に各構成要素を説明する。
【0110】
(送受信素子層)
送受信素子層2は、ジルコン酸チタン酸鉛などの圧電材料から成る圧電素子であり、互いに厚み方向に対向する両面にそれぞれ第2電極14、第1電極15を備えている。送受信素子層2の厚みは320μm程度である。
【0111】
第2電極14、第1電極15は、図示せぬコネクタにより図13には図示せぬケーブル33と接続され、ケーブル33を介して送信回路42と接続する。第2電極14、第1電極15に電気信号を入力すると圧電素子が振動し、送受信素子層2からZ軸正方向に超音波を送信するように構成されている。
【0112】
第2電極14、第1電極15は、金、銀、アルミなどの金属材料を用いて、送受信素子層2の両面に蒸着法やフォトリソグラフィー法を用いて成膜する。
【0113】
また、第2電極14、第1電極15は、図13には図示せぬケーブル33を介して受信回路43とも接続する。
【0114】
送受信素子層2が被検体で反射した超音波の反射波を受信して振動すると、反射波に応じて第2電極14、第1電極15の間に電気信号が発生する。第2電極14、第1電極15の間に発生した電気信号は、ケーブル33を介して受信回路43で受信され、画像処理部44で画像化される。
【0115】
バッキング材5の上に、第2電極14と第1電極15とが形成された送受信素子層2、音響レンズ8または音響レンズ7を順に接着剤により接着して図13のように積層する。また、必要に応じて送受信素子層2と音響レンズ8または音響レンズ7の間に、その中間の音響インピーダンスを有する中間層を設けてもよい。
【0116】
積層後、送受信素子層2から超音波放射方向と反対の方向に向かってダイシングを行い、バッキング材5と第1電極15の接着層からさらにZ軸負方向に100μmの深さまでダイシングを行う。ダイシングによりできた溝部に、シリコーン樹脂などから成る充填剤を充填した後、最上層に音響レンズ7または音響レンズ8を接着する。
【0117】
(超音波診断装置および超音波探触子の各構成および動作)
図14は、実施形態における超音波診断装置の外観構成を示す図である。図15は、実施形態における超音波診断装置の電気的な構成を示すブロック図である。
【0118】
超音波診断装置100は、図略の生体等の被検体に対して超音波(超音波信号)を送信し、受信した被検体で反射した超音波の反射波(エコー、超音波信号)から被検体内の内部状態を超音波画像として画像化し、表示部45に表示する。
【0119】
超音波探触子1は、被検体に対して超音波(超音波信号)を送信し、被検体で反射した超音波の反射波を受信する。超音波探触子1は、図15に示すように、ケーブル33を介して超音波診断装置本体31と接続されており、送信回路42、受信回路43と電気的に接続されている。
【0120】
送信回路42は、制御部46の指令により、超音波探触子1へケーブル33を介して電気信号を送信し、超音波探触子1から被検体に対して超音波を送信させる。
【0121】
受信回路43は、制御部46の指令により、超音波探触子1からケーブル33を介して、被検体内からの超音波の反射波に応じた電気信号を受信する。
【0122】
画像処理部44は、制御部46の指令により、受信回路43が受信した電気信号に基づいて被検体内の内部状態を超音波画像として画像化する。
【0123】
表示部45は、液晶パネルなどから成り、制御部46の指令により、画像処理部44が画像化した超音波画像を表示する。
【0124】
操作入力部41は、スイッチやキーボードなどから構成され、ユーザが診断開始を指示するコマンドや被検体の個人情報等のデータを入力するために設けられている。
【0125】
制御部46は、CPU、メモリなどから構成され、操作入力部41の入力に基づいてプログラムされた手順により超音波診断装置100各部の制御を行う。
【実施例】
【0126】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0127】
[実施例1]
(音響レンズ8の作製)
実施例1では、図1(d)と同じ構成のX軸方向の幅W3=10mm、Z軸方向の高さH4=2mm、Y軸方向の長さL1=70mm、の直方体の音響レンズ8を図3で説明した手順で作製した。
【0128】
S1:分散液製造工程
本実施例では、表1の材料からなる分散液を用いた。
【0129】
表1に示す割合で光硬化性樹脂A、Bを母材に、光重合開始剤と、添加物として親油性酸化亜鉛ナノ微粒子を撹拌して均一に分散させた。
【0130】
光硬化性樹脂Aは、イソシアヌル酸EO変性ジ及びトリアクリレート混合物(アロニックスM−313;東亞合成株式会社製)、光硬化性樹脂Bは、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート(アロニックスM−408;東亞合成株式会社製)を用いた。
【0131】
親油性酸化亜鉛ナノ微粒子(デグサ社製VP AdNano Z805)の平均粒径は250nmである。また、光重合開始剤はビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド(光重合開始剤IRGRACURE819;BASF社製)を用いた。
【0132】
S2:注入工程
図1(a)のように、母材に添加物を均一に分散させた分散液71を直方形の凹部を有する型70に注入した。本実施形態では、凹部の形状は幅W3=10(mm)、高さH3=4(mm)、長さL1=70(mm)とする。
【0133】
S10:沈降工程
図1(b)のように、回転半径M=30mmの遠心分離器80の内部に分散液71を注入した型70を取り付け回転させ5分間放置した。
【0134】
S11:硬化工程
分散液71を注入した型70を回転させながら、分散液71の上面より2分間紫外線を照射して硬化させる。その後、遠心分離器80から型70を取り出し、180℃で10分間加熱してさらに硬化させ、型70から取り出して組成物72を得た。
【0135】
S13:切削工程
図1(c)のように組成物72の凹面状の部分を、Cで示す点線で切削し、図1(d)のように高さH4=2mmの直方体形状に加工し、音響レンズ8を得た。
【0136】
実施例1の音響レンズ8を実施例1で用いた圧電素子と同じ仕様の圧電素子に積層した。
【0137】
[比較例]
(比較例1)
比較のため、実施例1で用いた圧電素子と同じ圧電素子を単体で用いた。
【0138】
(比較例2)
図11で説明したS1:分散液製造工程とS2:注入工程を行って型70に注入した後、分散液71に添加物が均一に分散した状態で紫外線を2分間照射し硬化させた。その後、S4:硬化工程を行い幅W1=10mm、Z軸方向の高さH1=1mm、Y軸方向の長さL1=70mmの組成物Aを作製した。
【0139】
また、実施例1と同じ光硬化性樹脂Aを74質量%、光硬化性樹脂Bを25質量%、熱重合開始剤を1質量%を加えた母材を型70に注入した後、紫外線を2分間照射し硬化させた。その後、180℃で10分間加熱してさらに硬化させ、型70から取り出して幅W1=10mm、Z軸方向の高さH1=1mm、Y軸方向の長さL1=70mmの添加物を含まない組成物Bを作製した。
【0140】
組成物Aと組成物BをZ軸方向に積層して接合し、実施例1と同形状の音響整合層を作製した。次に、比較例2の音響整合層組成物A側の面を、実施例1で用いた圧電素子と同じ圧電素子に接合し積層した。
【0141】
実験に用いた圧電素子の中心周波数は4MHz、音響インピーダンスは36(Pa・s・m−1)である。
【0142】
[評価方法]
このようにして作製した実施例1の音響レンズ8と、比較例2の音響整合層をそれぞれ圧電素子上に積層し、圧電素子から水中の平面金属板に対して送受信を行い、周波数特性を測定した。水中ハイドロフォン法を用いて焦点距離の測定を行った。
【0143】
[結果]
図16のように実施例1の4MHzにおける送受信感度は、比較例1の音響整合層を設けない場合と比べ約7dBも高く、測定した0〜12MHzの範囲で比較例1の送受信感度を上回っている。
【0144】
一方、比較例2の4MHzにおける送受信感度は、実施例1と同等であるが6MHz以上では送受信感度が低下し、8MHz付近では比較例1より低くなっている。
【0145】
これは、比較例2の音響整合層は、両面の音響インピーダンスは実施例1と同じだが、2層から構成されているので、その界面で超音波の反射が発生して減衰し、送受信感度が低下したものと考えられる。
【0146】
また、音響レンズ8から60mmの位置に音響焦点が得られることが確認できた。
【0147】
[実施例2]
(音響レンズ8の作製)
実施例2では、図10(c)と同じ構成のX軸方向の幅W3=8mm、Z軸方向の高さd=3mm、Y軸方向の長さL1=70mmの直方体の音響レンズ7と、W3=8mm、d=2mm、L1=70mmの直方体の音響レンズ7と、を図11で説明した手順で作製した。
【0148】
S1:分散液製造工程
実施例1と同じ分散液を用いた。
【0149】
S2:注入工程
図1(a)のように、母材に添加物を均一に分散させた分散液71を直方形の凹部を有する型70に注入した。本実施例では、凹部の形状が幅W2=10(mm)、高さH2=4(mm)、長さL1=70(mm)の型70を用いた。
【0150】
S3:沈降工程
分散液71を型70に注入後5分間放置し、添加物を沈降させる。
【0151】
S4:硬化工程
分散液71の上面より2分間紫外線を照射して硬化させる。その後、180℃で10分間加熱してさらに硬化させ、型70から取り出して2つの組成物72a、72bを得た。
【0152】
S5:接合工程
S4の硬化工程で生成された2つの組成物72a、72bを、それぞれの組成物72a、72bの音速が遅い方(添加物の体積割合が低い方)の上側表面81a、および上側表面81bを互いに向き合わせて図11(b)のように接着した。
【0153】
S6:切断、研磨工程
図11(b)のように接合した組成物72a、72bを切断し、切断面を研磨して厚みd=3mmの音響レンズ7と厚みd=2mmの音響レンズ7を作製した。
【0154】
次に、実施例2で作製した厚みを変えた音響レンズ7を、それぞれ実施例1で用いた圧電素子と同じ仕様の圧電素子に積層した。
【0155】
[評価方法]
実施例1と同様に、水中ハイドロフォン法を用いて焦点距離の測定を行った。
【0156】
[結果]
厚みd=3mmの音響レンズ7は、30mmの位置に、厚みd=2mmの音響レンズ7は、42mmの位置にそれぞれ音響焦点が得られることが確認できた。
【0157】
以上このように、本発明によれば、超音波の減衰が少ない音響レンズ、該音響レンズを製造する製造方法、及び、該音響レンズを有する超音波探触子、および該超音波探触子を有する超音波診断装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0158】
1 超音波探触子
2 送受信素子
5 バッキング材
7 音響レンズ
8 音響整合層
9 音響整合層
14 第2電極
15 第1電極
31 超音波診断装置本体
33 ケーブル
41 操作入力部
42 送信回路
43 受信回路
44 画像処理部
45 表示部
46 制御部
71 分散液
72 組成物
75 上側表面
76 下側表面
80 遠心分離器
81 上側表面
84 第1のレンズ面
85 第2のレンズ面
100 超音波診断装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状の母材に該母材と音波の伝播速度の異なる添加物を添加した分散液を硬化して形成された音響レンズであって、
前記母材に占める前記添加物の体積割合が、超音波を所定の距離に収束させるように、超音波の入射する面に入射する超音波の位置に応じて連続的に変化した状態であることを特徴とする音響レンズ。
【請求項2】
前記添加物の音響インピーダンスは前記母材と異なり、
前記母材に占める前記添加物の体積割合が、超音波の入射する面からの距離に応じて連続的に変化していることを特徴とする請求項1に記載の音響レンズ。
【請求項3】
液状の母材に該母材と音波の伝播速度の異なる添加物を添加した分散液を硬化させて形成された音響レンズであって、
前記母材に占める添加物の体積割合が、超音波を所定の距離に収束させるように、超音波の入射する面の位置に応じて連続的に変化した状態であることを特徴とする音響レンズ。
【請求項4】
被検体に向けての超音波の送信、または被検体からの超音波の反射波の受信の少なくとも一方を行う超音波探触子において、
請求項1から3の何れか1項に記載の音響レンズを有し、
前記音響レンズを介して超音波を送信および受信、または送信もしくは受信をすることを特徴とする超音波探触子。
【請求項5】
超音波を被検体に向けて送信し、該被検体から受信した該超音波の反射波に応じて画像を生成する超音波診断装置において、
請求項4に記載の超音波探触子を有することを特徴とする超音波診断装置。
【請求項6】
液状の母材に該母材と音波の伝播速度の異なる添加物を添加した分散液を用いて形成する音響レンズの製造方法であって、
前記液状の母材に前記添加物を分散した分散液を型に注入する注入工程と、
前記添加物を所定時間沈降させる沈降工程と、
前記所定時間の後、前記添加物を沈降させながら前記分散液を硬化させる硬化工程と、
を含み、
前記型に注入された前記分散液の液面が遠心力により凹面になるように前記分散液を注入した型を回転させながら前記沈降工程、及び前記硬化工程を行った後、
凹面状に硬化された部分を平面に加工する工程を行うことを特徴とする音響レンズの製造方法。
【請求項7】
液状の母材に該母材と音波の伝播速度の異なる添加物を添加した分散液を用いて形成する音響レンズの製造方法であって、
前記液状の母材に添加物を分散させた分散液を型に注入する注入工程と、
前記添加物を所定時間沈降させる沈降工程と、
前記所定時間の後、前記添加物を沈降させながら分散液を硬化させる硬化工程と、
前記硬化工程で生成された2つの組成物を、それぞれの前記組成物の音波の伝播速度が遅い方の面を向き合わせて接合する接合工程と、
を含むことを特徴とする音響レンズの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−193895(P2011−193895A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−60561(P2010−60561)
【出願日】平成22年3月17日(2010.3.17)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】