説明

音響装置および遠隔会議システム

【課題】高性能なデジタル装置などを備えずに、簡略な構成でハウリングやエコーをキャンセルできる遠隔会議システムを提供する。
【解決手段】 前面方向と後面方向に互いに逆の位相の音波を形成する平面スピーカ12と、前面マイク11F,後面マイク11Rを音響不透過層13を挟んで背中合わせに設けたマイクユニット10とをパネル状に組み合わせ、前面マイクが収音した信号と後面マイクが収音した信号とを合成してスピーカ12から回り込んだ音声をキャンセルし話者の発言音声のみを出力する信号合成回路20を備えたパネル型音響装置1を、複数の会議室にそれぞれ設置する。各パネル型音響装置1の信号合成回路20の出力信号を他のパネル型音響装置1の平面型スピーカ12に入力するように接続する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、スピーカおよびマイクを一体に備え、スピーカからマイクへの音声の回り込みをキャンセルした音響装置、および、この音響装置を用いた遠隔会議システムに関する。
【背景技術】
【0002】
遠隔の会議室相互間を音声的(および映像的)に接続して遠隔会議を行うための遠隔会議システムが種々提案されている。遠隔会議システムでは、各会議室に、会議出席者の発言を収音するためのマイクおよび相手側会議室の音声を放音するためのスピーカが設置される。マイクおよびスピーカの設置形態としては、出席者各自用のマイクを設ける形態、会議室全体用のマイクを設ける形態、出席者各自用のスピーカまたはイヤホンを設ける形態、会議室全体用のスピーカを設ける形態の各種の形態が考えられる。
【0003】
このうち、特許文献1に示すような、会議室全体用のマイクおよびスピーカを設置する形態が、各自用装置の場合のように会議出席者の人数に合わせる必要がないため、または、各自用装置の台数によって会議出席者の人数が制限されないため、自由度が高く、設置も容易であるため、コスト的にも有利であるという利点がある。
【0004】
また、会議としての臨場感があるうえ、テレビ会議で映像と連動させた場合、映像の方向から音声を発生し、その方向にむけて発言できるため、自然な雰囲気で遠隔会議をすることができる利点がある。
【0005】
しかしながら、スピーカが会議室全体に対して音声を放音するとともに、マイクが会議室全体から音声を収音するため、スピーカから放音された音声が再度マイクによって収音されるループが生じてしまい、発言の音声とは全く別の発振音が発生するハウリングや発言の音声に不要な残響が生じたり繰り返して聴こえるエコーが発生するという問題点があった。
【0006】
従来、このようなハウリングやエコーを除去するため、オーディオ回路内にデジタル処理部を設け、スピーカからマイクに回り込む音声をシミュレートして、これをキャンセルすることにより、ハウリングやエコーをキャンセルする装置が提案されている(たとえば特許文献2)。
【特許文献1】特開平10−136100号公報
【特許文献2】特開平05−063609号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記デジタル処理によるエコーキャンセル装置は、回路構成が複雑化するとともに、スピーカやマイクの設置条件に合わせたシミュレーションのモデル(パラメータ)設定が困難であるという欠点があった。
【0008】
この発明は、複雑且つ高性能なデジタル処理装置などを備えることなく、簡略な構成でハウリングやエコーをキャンセルできる音響装置、および、この音響装置を用いた遠隔会議システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の発明は、前面方向と後面方向に互いに逆の位相の音波を形成する音響出力手段と、前面方向に形成された音波を収音する前面マイクと、後面方向に形成された音波を収音する後面マイクと、前面マイクが収音した信号と後面マイクが収音した信号を合成出力する信号合成手段と、を備えたことを特徴とする。
【0010】
音響出力手段が前面方向に形成した音波は前面マイクに回り込んで収音され、後面方向に形成した(逆位相の)音波は後面マイクに回り込んで収音される。したがって、前面マイクが収音した信号と後面マイクが収音した信号を合成出力する信号合成手段の出力信号は、回り込み音がキャンセルされたものとなる。一方、会議出席者の発言音声等は一方の方向(前面方向)から到来するため、これは当該一方の方向に設けられたマイクのみが収音し、合成してもキャンセルされずに出力される。
【0011】
請求項2の発明は、前面方向と後面方向に互いに逆の位相の音波を形成する音響出力手段と、前面向きに設けられた前面マイクおよび後面向きに設けられた後面マイクと、該前面マイクおよび後面マイクの間に設けられた音響不透過層とを有するマイクユニットと、を備え、前記平面スピーカおよびマイクユニットがパネル状に組み合わされていることを特徴とする。
【0012】
上記のようにパネル状に音響出力手段とマイクユニットとを組み合わせたことにより、マイクと音響出力手段(スピーカ)を備えた音響装置を例えばホワイトボードのように移動可能に構成することができる。また、このパネルを白色で構成すれば、投影型テレビのスクリーンとして用いることも可能であり、テレビ会議システムに用いることも可能である。
【0013】
請求項3の発明は、前記音響出力手段は、平面振動板を有する平面型コンデンサスピーカで構成され、前記前面マイクおよび後面マイクは、平面振動板を有する平面コンデンサマイクで構成されていることを特徴とする。
【0014】
平面型コンデンサマイクは前後対称形であるため、前面方向および後面方向に同じ波形で位相が逆転した音波を出力する。また、振動が面振動であるため、正面方向に指向性を有し、真横に設置されているマイクへの回り込みはわずかである。
【0015】
請求項4の発明は、前記平面スピーカを、前面側平面スピーカおよび後面側平面スピーカの2層で構成し、前面側平面スピーカを、該前面側平面スピーカの平面振動板が前面マイクの平面振動板と同一平面になるように配置し、後面側平面スピーカを、該後面側平面スピーカの平面振動板が後面マイクの平面振動板と同一平面になるように配置したことを特徴とする。
【0016】
この発明では、平面スピーカを2層にしたことにより、後面側平面スピーカの振動が前面側平面スピーカの振動板を励振する作用が生じて音圧レベルを倍化させることができる。また、前面側平面スピーカ、後面側平面スピーカがそれぞれ前面マイク、後面マイクの真横になるため、スピーカ音声の回り込みが極小となる。
【0017】
請求項5の発明は、前記前面マイクが収音した信号と後面マイクが収音した信号を合成出力する信号合成手段を備えたことを特徴とする。
【0018】
請求項6の発明は、請求項1または請求項5に記載の発明において、前記信号合成手段は、前記前面マイクが収音した信号、後面マイクが収音した信号の少なくとも一方の信号のレベルまたは周波数特性を調整する信号処理手段を備えたことを特徴とする。
【0019】
請求項7の発明に係る遠隔会議システムは、請求項1、請求項5または請求項6に記載の音響装置を、複数の部屋にそれぞれ設置し、各々の音響装置の信号合成手段の出力信号を他の音響装置の音声出力手段に入力するべく接続して構成したことを特徴とする。
【0020】
この発明では、2台以上の音響装置をそれぞれ別々の会議室に設置し、これらを相互に接続する。接続形態は、各音響装置の信号合成手段の出力信号を伝送手段を介して他の音響装置の音声出力手段に接続するという形態である。3台以上の音響装置で構成する場合には、1台の音響装置の信号合成手段の出力を他の2台以上の音響装置の音声出力手段に共通に接続する。これにより、各装置でハウリングやエコーがキャンセルされ、相互に円滑な遠隔会議が可能になる。
【0021】
なお、上記伝送手段は、オーディオケーブル、ローカルエリアネットワーク、電話回線、インターネット、電波通信、赤外線通信等どのようなものであってもよい。
【発明の効果】
【0022】
この発明によれば、会議の臨場感を出すために、部屋全体に相手側の音声を放音する構成にしつつ、発言収音用のマイクにこの音声が回り込んでハウリングやエコーが発生することがなく、臨場感のある遠隔会議を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
図1はこの発明の実施形態であるパネル型音響装置1の概略構成を示す図である。同図(A)は正面図(前面から見た図)、同図(B)、(C)は、それぞれ異なる実施形態の平面図(上面から見た図)である。
【0024】
このパネル型音響装置1は、図4や図6に示すように、遠隔会議システムに用いられるものであり、複数の会議室にそれぞれ1台ずつ設置される。
【0025】
このパネル型音響装置1は、前後2つの平面型コンデンサマイク(前面マイク11F,後面マイク11R)を有するマイクユニット10および平面型スピーカ12をパネル状に一体に接合したものであり、たとえばホワイトボードのように自立型の装置として構成することが好適である。なお、マイクユニット10の数と形状、平面型スピーカ12の数と形状はこの図のものに限定されない。
【0026】
また、この実施形態では、平面型スピーカとしてコンデンサスピーカを用いているが、前面,後面に同じ信号を逆の位相で出力するものであれば、どのような構成のものでもよい。
【0027】
同図(B)、(C)に示すように、マイクユニット10は、前面に向けて設けられた平面型コンデンサマイクである前面マイク11Fと後面に向けて設けられた平面型コンデンサマイクである後面マイク11R、および、前面マイク11Fと後面マイク11Rとの間の音声の伝搬を遮断するための音響不透過層13で構成されており、前面マイク11F,後面マイク11Rを音響不透過層13を挟んで背中合わせに配置されている。音響不透過層13は、たとえばウレタン等の吸音材や鋼板などの剛体で構成すればよい。この音響不透過層13の中心がこのパネル型音響装置1の前後境界線(前後境界面)となる。
【0028】
一方、平面型スピーカ12は、同図(B)に示すように、パネル前後境界面に振動板が一致するように1層で設けてもよく、同図(C)に示すように、前面マイク11F、後面マイク11Rの振動板に振動板の面が一致するように(同一平面となるように)前面側,後面側のそれぞれに平面型スピーカを2層に設けてもよい。2層の平面型スピーカの間は音響が透過するように空間とする。
【0029】
図2は、マイクユニット10および平面型スピーカ12の構成および前面マイク11F,後面マイク11Rが収音する音声信号を説明する図である。
同図において、前面マイク11F,後面マイク11Rは、平面型コンデンサマイクであり、メッシュ状の2層の固定電極40、41の間に、通気性のない導電性薄膜からなる振動板42を設け、振動板42にバイアス電圧を印加したものである。振動板42と固定電極40,41とは静電結合しており、固定電極40,41には、振動板42に印加されているバイアス電圧により、振動板42との距離応じた静電容量が生じている。外部から音声波が到来すると、その音声波によって振動板42が振動し、この振動によって振動板42と固定電極40,41との距離が変化するため、固定電極40,41に生じる静電容量が変化したことにより微小電流が発生し、この微小電流が高抵抗値の抵抗素子を流れることにより得られる信号電圧を差動増幅器で増幅することにより、到来した音声波を音声信号として取り出すことができる。
【0030】
平面型スピーカ12は平面型コンデンサスピーカであり、メッシュ状の2層の固定電極(正極,負極)50、51の間に、通気性のない導電性薄膜からなる振動板52を設け、振動板にバイアス電圧を印加するとともに、固定電極にオーディオ信号電圧を印加することによって、振動板52を振動させてオーディオ信号を音響として出力するようにしたものである。平面の振動板52の前面と後面が同じようにメッシュの電極50,51を介して開口しているため、前面方向には正位相の音声波が形成出力され、後面方向には逆位相の音声波が前面と同じ振幅,周波数特性等の条件で形成出力される。
【0031】
平面型スピーカ12は、平面状の振動板52の振動によって音声波を形成するものであるため、形成される音声波は平面波となり、正面方向への指向性を有している。したがって、ほぼ真横に設けたマイクユニット10への音声の回り込みを少なくすることができる。
【0032】
さらに、図1(C)に示したように、平面型スピーカ12を前面側スピーカ12F,後面側スピーカ12Rの2層にすることにより、出力される音声波の音圧を倍化して大きな音を発生することができるとともに、隣接する平面型コンデンサマイク11F,11Rに対する音声の回り込みを極小にすることが可能となる。すなわち、前面マイク11Fには、前面側の平面型スピーカ12Fが発生した音声波が回り込むが、前面マイク11Fと前面側スピーカ12Fとは、振動板が同じ平面上にある真横の位置関係に配置されるため、前面側スピーカ12Fが発生する音声波の指向性が最も弱い位置に前面マイク11Fが配置されていることになり、前面マイク11Fへの音声の回り込みが最も少なくなる。なお、後面側スピーカ12Rが前面側に発生した音声は、前面側スピーカ12Fの振動板を励振して音響エネルギを大きくするが、後面側スピーカ12Rが発生した音声波が斜め方向に直接前面マイク11Fに回り込むことはない。また、後面マイク11Rと後面側スピーカ12Rについても、上記の前面マイク11Fと前面側スピーカ12Fについてと同様である。
【0033】
図2において、平面型スピーカ12が前面に形成した正位相の音声波(スピーカ音声)は、前面方向に伝達されるとともに前面マイク11Fに回り込み音として収音される。一方、平面型スピーカ12が後面に形成した逆位相の音声信号(スピーカ音声)は、後面方向に伝達されるとともに後面マイク11Rに回り込み音として収音される。
【0034】
同じ平面型スピーカ12の振動板の振動によって発生した音声信号を前後境界面について対称な位置関係に配置された2つのマイク11F,11Rで収音した場合、これらの信号波形は、逆位相でほぼ打ち消しあう信号波形になっていると言える。波形の対称性を妨げる要因としては、パネル型音響装置1の設置場所の前面側と後面側とで空間形状が相違すること程度である。したがって、前面マイク11Fの出力信号と後面マイク11Rの出力信号を加算合成することにより、平面スピーカ12の回り込み音声をキャンセルすることができる。
【0035】
一方、このパネル型音響装置1は、一般的に、会議室の壁際に設置され、話者(会議出席者)の発言音声は、前面方向からのみ到達し、前面マイク11Fにのみ収音される(音響不透過層13があるため後面マイク11Rには到達しない)。したがって、前面マイク11Fには、話者の発言音声と、正位相のスピーカ音声が収音され、後面マイク11Rには、逆位相のスピーカ音声のみが入力される。
【0036】
したがって、前面マイク11Fの出力信号と後面マイク11Rの出力信号を加算合成すれば、両マイクに逆の位相で収音されているスピーカ音声がキャンセルされて、実質的にスピーカからの音声の回り込みが無かったことになり、話者の発言音声のみが取り出される。
【0037】
スピーカからの回り込み音がキャンセルされて無くなるため、マイク→スピーカ→マイクの信号ループが切断され、ハウリングやエコーが生じることがなくなる。
【0038】
上記のように前面側と後面側の空間形状の相違などにより、前面マイク11Fに収音されるスピーカ音声と後面マイク11Rに収音されるスピーカ音声の信号レベルや周波数特性に若干の差がある場合がある。この場合でも、スピーカ音声は十分に低レベルに減衰しているため、発振してハウリングを起こしたり会議参加者が気になるほどのエコーが生じることはないが、スピーカ音声が完全にはキャンセルされない。このため、この実施形態のパネル型音響装置1では、この残余のスピーカ音声を完全にキャンセルするために、更に、各マイク11にイコライザ15を接続している。
【0039】
図3は、同パネル型音響装置1の電気回路を説明する図である。前面マイク11F、後面マイク11Rには、それぞれイコライザ15F、15Rが接続されている。後面マイク11R接続したイコライザ15Rは、後面マイク11Rが出力するスピーカ音声の波形を前面マイク11Fが出力するスピーカ音声に完全に一致するように周波数特性やレベルを補正するための回路である。
【0040】
また、前面マイク11Fの出力側に接続されたイコライザ15Fは、話者の発言音声を収音した音声信号の音質を改善するためのものである。イコライザ15Rは、後面マイク11Rが収音したスピーカ音声が、イコライザ15Fを通過した前面マイク11Fのスピーカ音声と(逆位相で)同じ信号になるように、レベルおよび周波数特性を補正する。
【0041】
図3において、イコライザ15F,15Rから出力された前面マイク11F,後面マイク11Rの出力信号は加算回路16で加算合成されたのち、出力端子17を介して相手装置に出力される。この実施形態では、イコライザ15F,15Rおよび加算回路16が信号合成回路20を構成しているが、構成を簡略化する場合には、イコライザ15F,15Rは不要であり、レベルを調整するためのボリュームのみであってもよい。
【0042】
また、2つの平面型スピーカ12には、入力端子18および電圧増幅器21を介して相手装置からの音声信号が入力される。なお、図示の2つの平面スピーカに入力される音声信号は同じ信号でなくてもよい。すなわち、それぞれ別々のパネル型音響装置1から送られてきた信号でもよく、また、同じパネル型音響装置1の別々のマイクユニットで収音された信号でもよい。
【0043】
図4は、2台のパネル型音響装置1を用いた遠隔会議システムにおける電気的接続の例を示す図である。この図では、説明を簡略化するために、図3に示したイコライザ15F,15Rの図示は省略している。一方のパネル型音響装置1Aは、会議室Aに設置されている。もう一方のパネル型音響装置1Bは、会議室Bに設置されている。以下、パネル型音響装置1Aについて説明する。前面マイク11Fおよび後面マイク11Rの振動板42F,42Rには共通のバイアス電圧が印加されており、収音側の固定電極40F,40Rは、共通に差動増幅器30の非反転入力端子に接続されている。また、音響不透過層13側の固定電極41F,41Rは、共通に差動増幅器30の反転入力端子に接続されている。固定電極40F,40Rおよび固定電極41F,41Rを共通にして差動増幅器30の端子に接続することにより、前面,後面両マイク11F,11Rの信号が加算合成され、平面型スピーカ12から回り込んだスピーカ音声がキャンセルされる。そして、差動増幅器30からは、前面マイク11Fが収音した話者の音声信号のみが出力される。この音声信号は、所定の伝達手段を介して会議室Bの平面型スピーカに供給される。
【0044】
一方、会議室Aのコンデンサスピーカ12には、会議室Bの差動増幅器30から会議室Bの話者の音声信号が供給される。供給された音声信号は、電圧増幅器31Pで増幅されて平面型スピーカ(コンデンサスピーカ)12の前面側の固定電極50に印加されるとともに、反転電圧増幅器31Mで位相を正負を反転して増幅されて平面型スピーカ12の後面側の固定電極51に印加される。振動板52には、バイアス電圧が印加されており、固定電極50,51との電位差に応じた吸引力,反発力によって振動し、音声波となる空気振動を発生する。振動板52が前面側に振動して前面側に密の波を形成したとき背面側には疎の波が形成され、逆に振動板52が後面側に振動して前面側に疎の波を形成したとき背面側には密の波が形成されるため、前面側に出力される音声波と後面側に出力される音声波とは逆位相となる。
【0045】
前面側に出力された正位相のスピーカ音声は前面マイク11Fに回り込んで収音され、後面側に出力された逆位相のスピーカ音声は後面マイク11Rに回り込んで収音されるが、このスピーカ音声は加算合成することによってキャンセルされる。
【0046】
図5は、多数の平面型スピーカおよびマイクセットを組み合わせたテレビ会議システム用のパネル型音響装置を示す図である。このパネル型音響装置は、プロジェクタテレビのスクリーン2を兼ねており、テレビカメラ3とともに、図6に示すように、互いに離れた複数の会議室をつないでテレビ会議を行うときに用いられる。
【0047】
同図のパネル型音響装置1は、スピーカおよびマイクを2段構成とし、上段は、4枚の略正方形の平面型スピーカ12を横に並べるとともに、各平面型スピーカ12の間に縦長方形のマイクユニット10を配置している。また下段は、3枚の略正方形の平面型スピーカ12を横に並べ、更に横幅がほぼ半分の平面型スピーカ12を両端に並べるとともに、各平面型スピーカ12の間にその間に縦長方形のマイクユニット10を配置している。
【0048】
このパネル型音響装置1をスクリーン2として(またはスクリーン2の一部として)用いて、相手側の会議室の映像を映し出すことにより、会議室の映像が写されている方向からその音声が聴こえてくるようになり、臨場感が増すうえ、その方向のマイクユニット10(前面マイク11F)に向かって話せばよいため、個別のマイクに向かって話すよりも自然な姿勢および雰囲気で遠隔会議を行うことが可能になる。
【0049】
なお、遠隔会議システム(テレビ会議システム)は、2台のパネル型音響装置1を1対1で接続する形態に限定されない。3台以上のパネル型音響装置1をスター型または対角線型に接続した構成にしてもよい。各パネル型音響装置間の音声信号の伝送方式は任意である。複数の伝送方式が混在することも自由である。
【0050】
マイクは、平面型のコンデンサマイクに限定されない。通常のダイナミックマイクでもよい。この場合、筒状ケースに収納するなどして、横方向への指向性を遮断するようにすればよい。
【0051】
また、図1(C)に示したものに類似する構成として、前面側スピーカ12Fおよび後面側スピーカ12Rは、平面型スピーカに限定されず、通常のコーンスピーカでもよい。この場合には、前面側スピーカに入力する音声信号と後面側スピーカに入力する音声信号とは端子を反転して形成される音声波の位相を反転させる。コーンスピーカの場合、スピーカボックスに収納するが、スピーカボックスは前面側,後面側共通であってもよく、別々であってもよい。また、スピーカは前面側,後面側1つずつであってもよく、複数の小型スピーカを配列したものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】この発明の実施形態であるパネル型音響装置の概略構成を示す図
【図2】コンデンサマイクおよびコンデンサスピーカの構造およびスピーカ信号の回り込みを説明する図
【図3】同パネル型音響装置の電気回路を説明する図
【図4】2台のパネル型音響装置を用いた遠隔会議システムにおける電気的接続の例を示す図
【図5】多数の平面型スピーカおよびマイクセットを組み合わせたテレビ会議システム用のパネル型音響装置を示す図
【図6】同パネル型音響装置の設置形態を説明する図
【符号の説明】
【0053】
1…パネル型音響装置
10…マイクユニット
11F…前面マイク(平面型コンデンサマイク)
11R…後面マイク(平面型コンデンサマイク)
12…平面型スピーカ(12F…前面側スピーカ、12R…後面側スピーカ)
13…音響不透過層
15F,15R…イコライザ
16…加算回路
17…信号出力端子
18…信号入力端子
20…信号合成回路
21…電圧増幅器
30…差動増幅器
31P…電圧増幅器
31M…反転電圧増幅器
40,41…(平面型コンデンサマイクの)固定電極
42…(平面型コンデンサマイクの)振動板
50,51…(平面型スピーカの)固定電極
52…(平面型スピーカの)振動板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前面方向と後面方向に互いに逆の位相の音波を形成する音響出力手段と、
前面方向に形成された音波を収音する前面マイクと、後面方向に形成された音波を収音する後面マイクと、
前面マイクが収音した信号と後面マイクが収音した信号を合成出力する信号合成手段と、
を備えた音響装置。
【請求項2】
前面方向と後面方向に互いに逆の位相の音波を形成する音響出力手段と、
前面向きに設けられた前面マイクおよび後面向きに設けられた後面マイクと、該前面マイクおよび後面マイクの間に設けられた音響不透過層とを有するマイクユニットと、
を備え、前記平面スピーカおよびマイクユニットがパネル状に組み合わされていることを特徴とする音響装置。
【請求項3】
前記音響出力手段は、平面振動板を有する平面型コンデンサスピーカで構成され、前記前面マイクおよび後面マイクは、平面振動板を有する平面コンデンサマイクで構成されている請求項2に記載の音響装置。
【請求項4】
前記平面スピーカを、前面側平面スピーカおよび後面側平面スピーカの2層で構成し、
前面側平面スピーカを、該前面側平面スピーカの平面振動板が前面マイクの平面振動板と同一平面になるように配置し、後面側平面スピーカを、該後面側平面スピーカの平面振動板が後面マイクの平面振動板と同一平面になるように配置したことを特徴とする請求項3に記載の音響装置。
【請求項5】
前記前面マイクが収音した信号と後面マイクが収音した信号を合成出力する信号合成手段を備えた請求項2、請求項3または請求項4に記載の音響装置。
【請求項6】
前記信号合成手段は、前記前面マイクが収音した信号、後面マイクが収音した信号の少なくとも一方の信号のレベルまたは周波数特性を調整する信号処理手段を備えた請求項1または請求項5に記載の音響装置。
【請求項7】
請求項1、請求項5または請求項6に記載の音響装置を、複数の部屋にそれぞれ設置し、各々の音響装置の信号合成手段の出力信号を他の音響装置の音声出力手段に入力するべく接続してなる遠隔会議システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2006−25351(P2006−25351A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−203636(P2004−203636)
【出願日】平成16年7月9日(2004.7.9)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】