説明

音響装置及び出力音制御方法

【課題】
設定音量に対応して、中音域の音の聴取性の維持や、音質感の変化を抑制することができる適切なラウドネス補償を自動的に行う。
【解決手段】
操作入力部に設定音量が入力されると、制御部134が、記憶部内のラウドネス制御情報を参照して、低音域補正量及び高音域補正量に対応する係数KL,KHを決定する。引き続き、制御部134が、決定された係数KL,KHに基づいて、中音域補正量に対応する係数KMを決定する。こうして決定された係数KL,KH,KMを、制御部134が、低音域補正フィルタ部212、高音域補正フィルタ部213及び中音域補正フィルタ部214へ送ることにより、低音域補正フィルタ部212、高音域補正フィルタ部213及び中音域補正フィルタ部214のそれぞれによる補正態様が設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響装置、出力音制御方法及び出力音制御プログラム、並びに、当該出力音制御プログラムが記録された記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、音コンテンツを再生出力する音響装置が広く普及している。こうした音響装置の多くにおいて、ラウドネス補償が行われている。かかるラウドネス補償を行うのは、人間の聴覚における音量感が周波数帯域によって異なることに対応して、音量指定値に対応して全周波数帯域における音量を一律に増加させたり、低減させたりすると、全体の音量感のバランスが変化してしまうことによる。
【0003】
上記のようなラウドネス補償を行う技術として、利用者による音量指定値に応じて、低音域及び/又は高音域の周波数特性を補正する技術が提案されている(特許文献1(以下、「従来例1」と呼ぶ)及び特許文献2(以下、「従来例2」と呼ぶ)参照)。これらの従来例1,2では、利用者による音量指定値に応じて、低音域及び/又は高音域の周波数特性を自動的に補正するようになっている。ここで、音量指定値が小さい場合には、低音域及び/又は高音域の出力音量を増加させるラウドネス補償を行うとともに、音量指定値が大きい場合には、低音域及び/又は高音域の出力音量を低減させるラウドネス補償を行うようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平1−200812号公報
【特許文献2】特開2009−27292号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の従来例1,2の技術では、ラウドネス補償のために、設定音量値に応じて、低音域及び/又は高音域の周波数特性の補正を行っている。しかしながら、本発明者が、研究の結果から得た知見によれば、従来例1,2において周波数特性の対象としていない中音域においても周波数によって音量感が異なっている。
【0006】
従来例1,2では、例えば、設定音量値が小さいことに起因して低音域及び/又は高音域の出力音量を増加させると、低音や高音の質感は確保されるが、中音域内の特定の周波数帯域の音が、低音及び/又は高音にマスクされる傾向がある。この結果、音声や主旋律を受け持っている楽器の音が聞き取りづらくなったり、音質が変化したように感じられたりすることがあった。
【0007】
かかる事態に対処するため、トーン制御機能又はイコライザ機能を利用して中音域の量感を維持することが考えられる。しかし、これらの機能は、設定音量値に連動するようにはなっておらず、利用者の操作に応じて出力音の周波数特性の補正を行うようになっている。この結果、トーン制御機能又はイコライザ機能を利用して中音域の量感を維持するためには、利用者は、音量指定値を変化させるたびに、トーン制御機能又はイコライザ機能の調整のための操作を行う必要がある。
【0008】
このため、ラウドネス補償のために低音域及び/又は高音域の周波数特性を行ったとしても、中音域の音の聴取性の維持や、音質感の変化を自動的に抑制することができる技術が望まれている。かかる要請に応えることが、本発明が解決すべき課題の一つとして挙げられる。
【0009】
本発明は、上記の事情を鑑みてなされたもので、適切なラウドネス補償を行うことができる音響装置及び出力音制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の発明は、ラウドネス補償に際して、操作入力部により設定された設定音量値に応じて低音域の周波数特性を補正する低音域補正フィルタ部と;前記設定音量値に応じて高音域の周波数特性を補正する高音域補正フィルタ部と;を備えた音響装置であって、中音域の周波数特性を補正する中音域補正フィルタ部と;前記設定音量値に対応した前記中音域補正フィルタ部による周波数特性の補正を制御する制御部と;を更に備えることを特徴とする音響装置である。
【0011】
請求項6に記載の発明は、ラウドネス補償に際して、操作入力部により設定された設定音量値に応じて低音域の周波数特性を補正する低音域補正フィルタ部と;前記設定音量値に応じて高音域の周波数特性を補正する高音域補正フィルタ部と;中音域の周波数特性を補正する中音域補正フィルタ部と;を備えた音響装置において使用される出力音制御方法であって、前記操作入力部により設定された設定音量値を取得する取得工程と;前記設定音量値に対応した前記中音域補正フィルタ部による周波数特性の補正を制御する制御工程と;を備えることを特徴とする出力音制御方法である。
【0012】
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の出力音制御方法を演算手段に実行させる、ことを特徴とする出力音制御プログラムである。
【0013】
請求項8に記載の発明は、請求項7に記載の出力音制御プログラムが、演算手段により読み取り可能に記録されていることを特徴とする記録媒体である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係る音響装置の構成を概略的に示すブロック図である。
【図2】図1のデジタル処理部の構成を示すブロック図である。
【図3】図2のラウドネス調整部の構成を示すブロック図である。
【図4】図2のラウドネス制御情報(LDCI)の内容を説明するための図である。
【図5】図3の低音域補正フィルタ部の特性を説明するための図である。
【図6】図3の高音域補正フィルタ部の特性を説明するための図である。
【図7】図3の中音域補正フィルタ部の特性を説明するための図である。
【図8】図1のアナログ処理部の構成を説明するためのブロック図である。
【図9】図1の音響装置におけるラウドネス補償制御処理を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態を、図1〜図9を参照して説明する。なお、以下の説明及び図においては、同一の要素には同一の符号を付し、重複する記載を省略する。
【0016】
[構成]
図1には、一実施形態に係る音響装置100の構成が概略的に示されている。この図1に示されるように、音響装置100は、音源部110と、操作入力部120とを備えている。また、音響装置100は、デジタル処理部130と、アナログ処理部140と、スピーカ150とを備えている。
【0017】
上記の音源部110は、音コンテンツデータ信号CTDを出力する。こうして音源部110から出力された音コンテンツデータ信号CTDは、デジタル処理部130へ送られる。
【0018】
なお、例えば、音響装置100が、DVD(Digital Versatile Disk)等の記録媒体に記録された音コンテンツを再生する装置である場合には、音源部110は、当該記録媒体から音コンテンツを読み取る読取手段を備える。また、音響装置100が、放送波の受信により取得した音コンテンツを再生する装置である場合には、音源部110は、放送波の受信結果から音コンテンツを抽出するコンテンツ抽出手段を備えることになる。
【0019】
上記の操作入力部120は、音響装置100の本体部に設けられたキー部、及び/又はキー部を備えるリモート入力装置等により構成される。ここで、本体部に設けられたキー部としては、表示デバイスに設けられたタッチパネルを用いることができる。なお、キー部を有する構成に代えて、又は併用して音認識技術を利用して音声にて入力する構成を採用することもできる。
【0020】
この操作入力部120を利用者が操作することにより、音響装置100の動作内容の設定や動作指令が行われる。例えば、出力音量の設定等を、利用者が操作入力部120を利用して行う。こうした入力内容は、操作入力データIPDとして、操作入力部120からデジタル処理部130へ送られる。
【0021】
上記のデジタル処理部130は、音源部110から送られた音コンテンツデータ信号CTDを受ける。そして、デジタル処理部130は、操作入力部120に入力された設定内容に従って、音コンテンツデータ信号CTDにラウドネス補償処理を含む所定の加工処理を施す。この加工処理の結果が、音データ信号CSDとして、アナログ処理部140へ送られる。
【0022】
また、デジタル処理部130は、操作入力部120に入力された設定内容が出力音量の設定であった場合には、当該設定に対応する音量指定VLCを更に生成する。そして、デジタル処理部130は、生成された音量指定VLCをアナログ処理部140へ送る。
【0023】
なお、デジタル処理部130の詳細については、後述する。
【0024】
上記のアナログ処理部140は、デジタル処理部130から送られた音データ信号CSD及び音量指定VLCを受ける。そして、アナログ処理部140は、音データ信号CSD及び音量指定VLCに基づいて、出力音信号AOSを生成する。こうして生成された出力音信号AOSは、スピーカ150へ送られる。
【0025】
なお、アナログ処理部140の詳細については、後述する。
【0026】
上記のスピーカ150は、アナログ処理部140から送られた出力音信号AOSを受ける。そして、スピーカ150は、出力音信号AOSに従った音を出力する。
【0027】
次に、上述したデジタル処理部130について説明する。デジタル処理部130は、図2に示されるように、ラウドネス調整部131と、後段処理部132とを備えている。また、デジタル処理部130は、記憶部133と、制御部134とを備えている。
【0028】
上記のラウドネス調整部131とは、音源部110から送られた音コンテンツデータ信号CTDを受ける。そして、ラウドネス調整部131は、制御部134から送られたラウドネス補償指定LDCに従って、音コンテンツデータ信号CTDに対してラウドネス補償処理を施して、ラウドネス補償信号LCDを生成する。こうして生成されたラウドネス補償信号LCDは、後段処理部132へ送られる。
【0029】
なお、ラウドネス調整部131の詳細については後述する。
【0030】
上記の後段処理部132は、ラウドネス調整部131から送られたラウドネス補償信号LCDを受ける。そして、後段処理部132は、制御部134から送られた後段処理設定RSCに従って、ラウドネス補償処理以外の音響処理を施して、音データ信号CSDを生成する。こうして生成された音データ信号CSDは、アナログ処理部140へ送られる。
【0031】
なお、本実施形態においては、後段処理部132において、トーン制御処理及びイコライザ処理が行われるようになっている。
【0032】
上記の記憶部133は、制御部134で利用される様々な情報データが記憶されている。こうした情報データには、ラウドネス制御情報LDCIが含まれている。このラウドネス制御情報LDCIの内容については、後述する。
【0033】
上記の制御部134は、音響装置100の動作を制御する。この制御部134は、操作入力部120に出力音量の設定が入力されると、設定音量値に対応するラウドネス補償指定LDC及び音量指定VLCを生成する。ここで、ラウドネス補償指定LDCには、減衰係数KA、低音域補正係数KL、高音域補正係数KH、中音域補正係数KM及び利得係数KGが含まれている。
【0034】
なお、制御部134によるラウドネス補償指定LDCの生成の詳細については、後述する。
【0035】
次いで、上記のラウドネス調整部131の構成について説明する。ラウドネス調整部131は、図3に示されるように、減衰部(AT)211と、低音域補正フィルタ部212と、高音域補正フィルタ部213とを備えている。また、ラウドネス調整部131は、中音域補正フィルタ部214と、利得部(GN)215とを備えている。
【0036】
上記の減衰部211は、音源部110から送られた音コンテンツデータ信号CTDを受ける。そして、減衰部211は、制御部134から送られた減衰係数KAに対応する減衰率で音コンテンツデータ信号CTDを減衰させる。こうして生成された減衰信号は、低音域補正フィルタ部212へ送られる。
【0037】
上記の低音域補正フィルタ部212は、減衰部211から送られた減衰信号を受ける。そして、低音域補正フィルタ部212は、制御部134から送られた低音域補正係数KLに対応する周波数特性補正を当該減衰信号に施す。こうして生成された低音域補正信号は、高音域補正フィルタ部213へ送られる。
【0038】
上記の高音域補正フィルタ部213は、低音域補正フィルタ部212から送られた低音域補正信号を受ける。そして、高音域補正フィルタ部213は、制御部134から送られた高音域補正係数KHに対応する周波数特性補正を当該低音域補正信号に施す。こうして生成された高音域補正信号は、中音域補正フィルタ部214へ送られる。
【0039】
上記の中音域補正フィルタ部214は、高音域補正フィルタ部213から送られた高音域補正信号を受ける。そして、中音域補正フィルタ部214は、制御部134から送られた中音域補正係数KMに対応する周波数特性補正を当該高音域補正信号に施す。こうして生成された中音域補正信号は、利得部215へ送られる。
【0040】
上記の利得部215は、中音域補正フィルタ部214から送られた中音域補正信号を受ける。そして、利得部215は、制御部134から送られた利得係数KGに対応する増幅率で中音域補正信号を増幅し、ラウドネス補償信号LCDを生成する。こうして生成されたラウドネス補償信号LCDは、後段処理部132へ送られる。
【0041】
次に、上記の記憶部133に記憶されるラウドネス制御情報LDCIについて説明する。このラウドネス制御情報LDCIには、図4に示されるように、減衰制御情報ACIと、低音域補正制御情報LCIと、高音域補正制御情報HCIと、利得制御情報GCIとが含まれている。
【0042】
上記の減衰制御情報ACIでは、設定音量値と、減衰部211における減衰量を制御するための減衰係数とが関連付けられている。ここで、各設定音量値に関連付けられる減衰係数は、低音域補正フィルタ部212、高音域補正フィルタ部213又は中音域補正フィルタ部214において実行される各設定音量値に対応する周波数特性補正によるデジタルクリップの発生を防止できるように、各設定音量値に対応する低音域補正フィルタ部212、高音域補正フィルタ部213又は中音域補正フィルタ部214の補正量に基づいて、予め定められている。
【0043】
上記の低音域補正制御情報LCIでは、設定音量値と、低音域補正フィルタ部212における補正を制御するための低音域補正係数とが関連付けられている。ここで、各設定音量値に関連付けられる低音域補正係数は、後述するようにして行われる各設定音量における低音域の周波数特性補正に対応して、実験、シミュレーション、経験等に基づいて、予め定められる。
【0044】
上記の高音域補正制御情報HCIでは、設定音量値と、高音域補正フィルタ部213における補正を制御するための高音域補正係数とが関連付けられている。ここで、各設定音量値に関連付けられる高音域補正係数は、後述するようにして行われる各設定音量における高音域の周波数特性補正に対応して、実験、シミュレーション、経験等に基づいて、予め定められる。
【0045】
上記の利得制御情報GCIでは、設定音量値と、利得部215における利得量を制御するための利得係数とが関連付けられている。ここで、各設定音量値に関連付けられる利得係数は、減衰部211における減衰量、並びに、低音域補正フィルタ部212、高音域補正フィルタ部213及び中音域補正フィルタ部214における利得オフセットを補償するように、各設定音量値に対応する減衰部211における減衰量、並びに、低音域補正フィルタ部212、高音域補正フィルタ部213及び中音域補正フィルタ部214の利得オフセットに基づいて、予め定められている。
【0046】
なお、低音域補正制御情報LCIでは、所定の基準音量よりも出力音量が小さい場合には、音質感の維持のためには、低音域の音を増強させることが必要であることに対応して、低音域補正係数が正値となり、補正量が正量となるようになっている。また、低音域補正制御情報LCIでは、所定の基準音量よりも出力音量が小さい場合には、音質感の維持のためには、出力音量が小さくなるほど低音域の音の増強度合いを増大させることが必要であることに対応して、設定音量値が小さいほど、低音域補正係数が大きくなり、補正量が多くなるようになっている。さらに、低音域補正制御情報LCIでは、設定音量を下げたにもかかわらず、低音域の音量感が増大してしまうことを防止するために、互いに異なる設定音量値のそれぞれに対応する低音域補正係数により定まる低音域補正における補正量の差が、当該互いに異なる設定音量値の差よりも小さくなるようになっている。
【0047】
また、高音域補正制御情報HCIでは、所定の基準音量よりも出力音量が小さい場合には、音質感の維持のためには、高音域の音を増強させることが必要であることに対応して、高音域補正係数が正値となり、補正量が正量となるようになっている。また、高音域補正制御情報HCIでは、所定の基準音量よりも出力音量が小さい場合には、音質感の維持のためには、出力音量が小さくなるほど高音域の音の増強度合いを増大させることが必要であることに対応して、設定音量値が小さいほど、高音域補正係数が大きくなり、補正量が多くなるようになっている。さらに、高音域補正制御情報HCIでは、設定音量を下げたにもかかわらず、高音域の音量感が増大してしまうことを防止するために、互いに異なる設定音量値のそれぞれに対応する高音域補正係数により定まる高音域補正における補正量の差が、当該互いに異なる設定音量値の差よりも小さくなるようになっている。
【0048】
次いで、低音域補正フィルタ部212、高音域補正フィルタ部213及び中音域補正フィルタ部214のそれぞれによる周波数特性補正について説明する。
【0049】
低音域補正フィルタ部212には、図5に示される基本低音域補正パターンBLC(F)(F:周波数)が定義されている。この低音域補正フィルタ部212は、制御部134から送られた低音域補正係数KLに従って、次の(1)式によって定まる低音域(周波数FMIN〜FLMAX)の周波数補正LC(F)を、減衰部211から送られた減衰信号に対して施す。
LC(F)=KL・(BLC(F)−GFL)+GFL …(1)
ここで、値GFLは、低音域補正フィルタ部212の利得オフセットである。
【0050】
高音域補正フィルタ部213には、図6に示される基本高音域補正パターンBHC(F)(F:周波数)が定義されている。この高音域補正フィルタ部213は、制御部134から送られた高音域補正係数KHに従って、次の(2)式によって定まる高音域(周波数FHMIN〜FMAX)の周波数補正HC(F)を、低音域補正フィルタ部212から送られた低音域補正信号に対して施す。
HC(F)=KH・(BHC(F)−GFH)+GFH …(2)
ここで、値GFHは、高音域補正フィルタ部213の利得オフセットである。
【0051】
中音域補正フィルタ部214には、図7に示される基本中音域補正パターンBMC(F)(F:周波数)が定義されている。この中音域補正フィルタ部214は、制御部134から送られた中音域補正係数KMに従って、次の(3)式によって定まる中音域(周波数FLMAX〜FHMIN)の周波数補正MC(F)を、高音域補正フィルタ部213から送られた高音域補正信号に対して施す。
MC(F)=KM・(BHC(F)−GFM)+GFM …(3)
ここで、値GFMは、中音域補正フィルタ部214の利得オフセットである。
【0052】
なお、基本低音域補正パターンBLC(F)、基本高音域補正パターンBHC(F)及び基本中音域補正パターンBMC(F)のそれぞれは、ラウドネス補償の観点から、実験、シミュレーション、経験等により、予め定められる。
【0053】
次に、上記のアナログ処理部140の構成について、より詳細に説明する。アナログ処理部140は、図8に示されるように、DA(Digital to Analogue)変換部141と、音量調整部142と、パワー増幅部143とを備えている。
【0054】
上記のDA変換部141は、DA変換器を備えて構成されている。このDA変換部141は、デジタル処理部130から送られた音データ信号CSDを受ける。そして、DA変換部141は、音データ信号CSDをアナログ信号に変換する。DA変換部141による変換結果であるアナログ信号は、音量調整部142へ送られる。
【0055】
上記の音量調整部142は、電子ボリューム素子等を備えて構成されている。この音量調整部142は、デジタル処理部130から送られた音量指定値VLCに従って、DA変換部141から送られたアナログ信号に対して音量調整処理を施す。音量調整部142による調整結果である音量調整信号は、パワー増幅部143へ送られる。
【0056】
上記のパワー増幅部143は、パワー増幅器を備えて構成される。このパワー増幅部143は、音量調整部142から送られた音量調整信号を受ける。そして、パワー増幅部143は、音量調整信号をパワー増幅する。パワー増幅部143による増幅結果である出力音信号AOSは、スピーカ150へ送られる。
【0057】
[動作]
次に、上記のように構成された音響装置100の動作について、デジタル処理部130におけるラウドネス補償処理に主に着目して説明する。
【0058】
前提として、音源部110からは、音コンテンツデータ信号CTDがデジタル処理部130へ送られているものとする。また、操作入力部120を利用したトーン制御処理及びイコライザ処理の態様の設定がなされており、制御部134が、当該設定に対応する後段処理設定RSCを生成し、後段処理部132へ送っているものとする。
【0059】
音響装置100では、ラウドネス補償処理が開始されると、図9に示されるように、ステップS11において、制御部134が、利用者により設定されている設定音量を取得する。引き続き、ステップS12において、制御部134が、当該設定音量をキーにして、記憶部133内のラウドネス制御情報LDCIを参照し、上述した係数KA,KL,KH,KGを決定する。
【0060】
次に、ステップS13において、制御部134が、決定された上述した係数KL,KH(ひいては、低音域補正フィルタ部212による補正量及び高音域補正フィルタ部213による補正量)に基づいて、次の(4)式に従った算出より、係数KM(ひいては、中音域補正フィルタ部214による補正量)を決定する。
M=FN(KL,KH) …(4)
【0061】
ここで、(4)式は、中音域の適切なラウドネス補償を行うとの観点から、実験、シミュレーション、経験等に基づいて、予め定められる。
【0062】
なお、(4)式は、係数KL,KHが非負値である場合には、係数KMが非負値となるようになっている。また、(4)式は、中音域の可聴性の確保の観点から、係数KL,KHが大きくなるほど、係数KMが大きくなるようになっている。さらに、設定音量を下げたにもかかわらず、中音域の音量感が増大してしまうことを防止するために、互いに異なる設定音量値のそれぞれに対応して算出される係数KMにより定まる中音域補正における補正量の差が、当該互いに異なる設定音量値の差よりも小さくなるようになっている。
【0063】
次いで、ステップS14において、制御部134が、取得された設定音量に基づいて、音量指定値を決定する。
【0064】
次に、ステップS15において、制御部134が、決定された係数KA,KL,KH,KM,KGを、ラウドネス補償指定LDCとしてラウドネス調整部131へ送ることにより、ラウドネス調整部131の設定を行う。この結果、ラウドネス調整部131では、設定された係数KA,KL,KH,KM,KGに従ったラウドネス補償処理が行われる。
【0065】
また、制御部134が、決定された音量指定値を指定した音量指定VLCを、音量調整部142へ送ることにより、音量調整部142の設定を行う。この結果、音量調整部142では、設定された音量指定値に従った音量調整処理が行われる。
【0066】
次いで、ステップS16において、制御部134が、設定音量を新たに取得する。引き続き、ステップS17において、制御部134が、前回の取得時点から設定音量が変化した否かを判定する。
【0067】
ステップS17における判定の結果が否定的であった場合(ステップS17:N)には、処理はステップS16へ戻る。そして、ステップS17における判定の結果が肯定的となるまで、ステップS16及びステップS17の処理が繰り返される。
【0068】
設定音量が変化して、ステップS17における判定の結果が肯定的となると(ステップS17:Y)、処理はステップS12へ戻る。この後、ステップS12〜S17の処理が繰り返されることにより、設定音量が変化するたびに、変化後の設定音量に対応したラウドネス調整部131の設定及び音量調整部142の設定が行われる。
【0069】
上述したようにして行われるラウドネス補償処理の制御及び出力音量の制御が行われている状態で、音源部110から音コンテンツデータ信号CTDが送られると、まず、ラウドネス調整部131において、音コンテンツデータ信号CTDに対して、設定音量に対応したラウドネス補償処理が施され、ラウドネス補償信号LCDが生成される。そして、生成されたラウドネス補償信号LCDが、後段処理部132へ送られる。
【0070】
ラウドネス補償信号LCDを受けた後段処理部132では、制御部134から送られた後段処理設定RSCに従ったトーン制御処理及びイコライザ処理が施され、音データ信号CSDが生成される。そして、生成された音データ信号CSDが、アナログ処理部140へ送られる。
【0071】
音データ信号CSDを受けたアナログ処理部140では、まず、DA変換部141により、音データ信号CSDがアナログ信号に変換される。引き続き、音量調整部142において、制御部134から送られた音量指定VLCに従った音量調整処理が、当該アナログ信号に対して施される。そして、パワー増幅部143により、音量調整処理された信号のパワー増幅が行われて、出力音信号AOSが生成される。こうして生成された出力音信号AOSが、スピーカ150へ送られる。
【0072】
出力音信号AOSを受けたスピーカ150は、当該出力音信号AOSに従った音出力を行う。この結果、設定音量に対応して適切にラウドネス補償がなされた音が、スピーカ150から出力される。
【0073】
以上説明したように、本実施形態では、操作入力部120に設定音量が入力されると、制御部134が、記憶部133内のラウドネス制御情報LDCIを参照して、低音域補正量及び高音域補正量に対応する係数KL,KHを決定する。引き続き、制御部134が、決定された係数KL,KHに基づいて、中音域補正量に対応する係数KMを決定する。こうして決定された係数KL,KH,KMを、制御部134が、低音域補正フィルタ部212、高音域補正フィルタ部213及び中音域補正フィルタ部214へ送ることにより、低音域補正フィルタ部212、高音域補正フィルタ部213及び中音域補正フィルタ部214のそれぞれによる補正態様が設定される。
【0074】
したがって、本実施形態によれば、設定音量に対応して、中音域の音の聴取性の維持や、音質感の変化を抑制することができる適切なラウドネス補償を自動的に行うことができる。
【0075】
[実施形態の変形]
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。
【0076】
例えば、上記の実施形態では、低音域、高音域、中音域の順序でラウドネス補償のための補正処理を行うようにしたが、低音域、高音域及び中音域の補正処理を任意の順序で行うようにしてもよい。
【0077】
また、上記の実施形態では、低音域、高音域、中音域の順序で直列的の補正処理を行うようにしたが、低音域、高音域及び中音域の補正処理を並列して行い、3つの補正処理結果を合成するようにしてもよい。さらに、低音域、高音域及び中音域の任意の2つに関する補正処理を並列して行うとともに、他の1つに関する補正処理を、当該2つに関する補正処理と直列的に行うようにしてもよい。
【0078】
また、上記の実施形態では、初段の補正フィルタ部(低音域補正フィルタ部212)の前段に減衰部を配置する構成とした。これに対し、各補正フィルタ部における利得オフセットを適切に設定しておくことで、当該減衰部を省略するようにしてもよい。
【0079】
また、上記の実施形態では、最後段の補正フィルタ部(中音域補正フィルタ部214)の後段に利得部を配置する構成とした。これに対し、最後段の補正フィルタ部における利得オフセットを適切に設定しておくことで、当該利得部を省略するようにしてもよい。
【0080】
また、上記の実施形態では、低音域補正フィルタ部、高音域補正フィルタ部及び中音域補正フィルタ部を独立に配置する構成としたが、中音域補正フィルタ部における補正機能を分散して、低音域補正フィルタ部及び高音域補正フィルタ部に更に有させることにより、2つのフィルタ部によりラウドネス補償を行うようにしてもよい。
【0081】
また、上記の実施形態では、低音域、高音域及び中音域のそれぞれについて基本補正パターンを定義しておき、係数KL,KH,KMを制御部が決定するようにした。これに対して、設定音量値に対応して、低音域、高音域及び中音域のそれぞれの補正パターンを用意しておき、制御部が、設定音量値に対応する補正パターンを各補正フィルタ部に指定するようにしてもよい。
【0082】
また、上記の実施形態では、制御部が、係数KL,KHに基づいて係数KMを算出するようにした。これに対し、ラウドネス制御情報が、設定音量と係数KMとを関連付けた中音域補正制御情報(すなわち、中音域補正フィルタ部による補正量と、設定され得る音量値とが関連付けられて登録された補正テーブル)を更に含むようにし、制御部が、当該中音域補正制御情報を参照して、係数KMを決定するようにしてもよい。
【0083】
また、上記の実施形態では、他の音響処理に先立ってラウドネス補償処理を行うようにしたが、他の音響処理の後に、ラウドネス補償処理を行うようにしてもよい。さらに、他の音響処理の種類が複数である場合には、当該複数の他の音響処理の途中でラウドネス補償処理を行うようにしてもよい。
【0084】
なお、上記の実施形態におけるデジタル処理部を中央処理装置(CPU:Central Processor Unit)やDSP(Digital Signal Processor)を備えるコンピュータシステムとして構成し、上述したデジタル処理部の全部又は一部の機能を、プログラムの実行によって実現するようにすることができる。これらのプログラムは、CD−ROM、DVD等の可搬型記録媒体に記録された形態で取得されるようにしてもよいし、インターネットなどのネットワークを介した配信の形態で取得されるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0085】
100 … 音響装置
120 … 操作入力部
133 … 記憶部
134 … 制御部
212 … 低音域補正フィルタ部
213 … 高音域補正フィルタ部
214 … 中音域補正フィルタ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラウドネス補償に際して、操作入力部により設定された設定音量値に応じて低音域の周波数特性を補正する低音域補正フィルタ部と;前記設定音量値に応じて高音域の周波数特性を補正する高音域補正フィルタ部と;を備えた音響装置であって、
中音域の周波数特性を補正する中音域補正フィルタ部と;
前記設定音量値に対応した前記中音域補正フィルタ部による周波数特性の補正を制御する制御部と;
を更に備えることを特徴とする音響装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記設定音量値に基づいて定まる前記低音域補正フィルタ部による補正量と、前記設定音量値に基づいて定まる前記高音域補正フィルタ部による補正量とに基づいて、前記中音域補正フィルタ部により付与されるべき補正量を算出する、ことを特徴とする請求項1に記載の音響装置。
【請求項3】
前記中音域補正フィルタ部による補正量と、設定され得る音量値とが、関連付けられて登録された補正テーブルが記憶された記憶部を更に備え、
前記制御部は、前記設定音量値に基づいて前記補正テーブルを参照して、前記中音域補正フィルタ部により付与されるべき補正量を決定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の音響装置。
【請求項4】
前記設定音量値が小さいほど、前記低音域補正フィルタ部、前記中音域補正フィルタ部及び前記高音域補正フィルタ部のそれぞれによる補正量が多い、ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の音響装置。
【請求項5】
前記設定音量値の変化に伴う前記低音域補正フィルタ部、前記中音域補正フィルタ部及び前記高音域補正フィルタ部のそれぞれによる補正量の変化は、前記設定音量値の変化量を超えない、ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の音響装置。
【請求項6】
ラウドネス補償に際して、操作入力部により設定された設定音量値に応じて低音域の周波数特性を補正する低音域補正フィルタ部と;前記設定音量値に応じて高音域の周波数特性を補正する高音域補正フィルタ部と;中音域の周波数特性を補正する中音域補正フィルタ部と;を備えた音響装置において使用される出力音制御方法であって、
前記操作入力部により設定された設定音量値を取得する取得工程と;
前記設定音量値に対応した前記中音域補正フィルタ部による周波数特性の補正を制御する制御工程と;
を備えることを特徴とする出力音制御方法。
【請求項7】
請求項6に記載の出力音制御方法を演算手段に実行させる、ことを特徴とする出力音制御プログラム。
【請求項8】
請求項7に記載の出力音制御プログラムが、演算手段により読み取り可能に記録されている、ことを特徴とする記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−142730(P2012−142730A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−293084(P2010−293084)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000005016)パイオニア株式会社 (3,620)
【Fターム(参考)】