説明

顔料分散体の製造方法、顔料分散体及びインクジェット記録用インク

【課題】低粘度で吐出特性の優れたインクジェット記録用インクを作製するための顔料分散体、その製造方法及びインクジェット記録用インクを提供すること。
【解決手段】少なくとも、水性媒体、顔料及び該顔料を該水性媒体中に分散させる分散樹脂を含有している顔料分散体の製造方法において、該顔料及び該分散樹脂を含有する分散液に、該分散樹脂が有するイオン性基の当量を超える塩基を添加する塩基添加工程、該塩基添加工程により得られた分散液に機械的分散を行う分散工程、及び該分散工程により得られた分散液から塩基の少なくとも一部及び浮遊している分散樹脂の少なくとも一部を除去する除去工程を有することを特徴とする顔料分散体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顔料分散体の製造方法、顔料分散体及びインクジェット記録用インクに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録画像の耐水性と耐候性を改良する手段として、インクの色材に顔料を使用し、水中に顔料を分散させてインクとする技術がある。しかし、この場合は、顔料の分散安定性とインクジェット記録の吐出安定性とを両立させることが困難である。
【0003】
そこで、インクに含有させる顔料を分散樹脂で被覆する技術が提案されている。特許文献1には、疎水部と親水部とを有する分散樹脂により顔料を分散する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−264017号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の方法では、顔料の分散安定性を確保するために、一定量以上の分散樹脂を用いているため、顔料に吸着しないで浮遊するフリーの分散樹脂が系内に残存することがあった。或いは分散樹脂の高分子鎖内、高分子鎖間の絡まり合いにより、インクの粘度の増加が引き起こされたり、或いはインクの吐出性が損なわれたりすることがあった。
【0006】
したがって、本発明の目的は、低粘度で吐出特性の優れたインクジェット記録用インクを作製するための顔料分散体の製造方法、それにより得られた顔料分散体及びインクジェット記録用インクを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的は以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明の第一は、少なくとも、水性媒体、顔料及び該顔料を該水性媒体中に分散させる分散樹脂を含有している顔料分散体の製造方法において、該顔料及び該分散樹脂を含有する分散液に、該分散樹脂が有するイオン性基の当量を超える塩基を添加する塩基添加工程、該塩基添加工程により得られた分散液に機械的分散を行う分散工程、及び該分散工程により得られた分散液から塩基の少なくとも一部及び浮遊している分散樹脂の少なくとも一部を除去する除去工程を有することを特徴とする顔料分散体の製造方法である。
【0008】
本発明の第二は、少なくとも、水性媒体、顔料及び該顔料を該水性媒体中に分散させる分散樹脂を含有している顔料分散体の製造方法において、該顔料及び該分散樹脂を含有する分散液に該分散樹脂が有するイオン性基の当量以下の塩基を添加することにより該分散樹脂が有するイオン性基の少なくとも一部を中和する中和工程、該中和工程により得られた分散液に機械的分散を行う分散工程、該分散工程により得られた分散液に塩基を添加する塩基添加工程、及び該塩基添加工程により得られた分散液から塩基の少なくとも一部及び浮遊している分散樹脂の少なくとも一部を除去する除去工程を有することを特徴とする顔料分散体の製造方法である。
【0009】
本発明の第三は、前記の第一発明及び第二発明の製造方法により製造されたことを特徴とする顔料分散体である。
【0010】
本発明の第四は、前記の第三発明の顔料分散体を用いて製造されたことを特徴とするインクジェット記録用インクである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、低粘度かつ吐出特性の良好な顔料分散体及びインクジェット記録用インク(以下単に「インク」という場合がある)を低コストで提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】インクジェット記録装置のヘッドの一例を示す縦断面図である。
【図2】インクジェット記録装置のヘッドの一例を示す横断面図である。
【図3】図1に示したヘッドをマルチ化したヘッドの外観斜視図である。
【図4】インクジェット記録装置の一例を示す概略斜視図である。
【図5】インクカートリッジの一例を示す縦断面図である。
【図6】記録ユニットの一例を示す斜視図である。
【図7】記録ヘッドの構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に好ましい実施の形態を挙げて、本発明をさらに詳細に説明する。本発明の詳細を各々の構成材料毎に説明する。
(1)顔料
本発明で使用できる顔料としては以下のようなものが挙げられるが、これに限定されるものではない。顔料分散体又はインク(以下両者を「インク」という場合がある)のうち、黒色インクに使用される顔料としてはカーボンブラックが好適に使用される。例えば、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラックなどのカーボンブラック顔料で、例えば、レイヴァン(Raven)7000、レイヴァン5750、レイヴァン5250、レイヴァン5000、レイヴァン3500、レイヴァン2000、レイヴァン1500、レイヴァン1250、レイヴァン1200、レイヴァン1190ULTRAII、レイヴァン1170、レイヴァン1255(以上、コロンビア社製)。ブラックパールズ(Black Pearls)L、リーガル(Regal)400R、リーガル330R、リーガル660R、モウグル(Mogul)L、モナク(Monarch)700、モナク800、モナク880、モナク900、モナク1000。モナク1100、モナク1300、モナク1400、ヴァルカン(Valcan)XC−72R(以上、キャボット社製)、カラーブラック(Color Black)FW1、カラーブラックFW2、カラーブラックFW2V、カラーブラックFW18。カラーブラックFW200、カラーブラックS150、カラーブラックS160、カラーブラックS170、プリンテックス(Printex)35、プリンテックスU、プリンテックスV、プリンテックス140U、プリンテックス140V。スペシャルブラック(Special Blac k)6、スペシャルブラック5、スペシャルブラック4A、スペシャルブラック4(以上、デグッサ社製)。No.25、No.33、No.40、No.47、No.52、No.900、No.2300、MCF−88、MA600、MA7、MA8、MA100(以上、三菱化学社製)などの市販品や、別途新たに調製されたものも使用することができる。
【0014】
有機顔料として具体的には、トルイジンレッド、トルイジンマルーン、ハンザエロー、ベンジジンエロー、ピラゾロンレッドなどの不溶性アゾ顔料、リトールレッド、ヘリオボルドー、ピグメントスカーレット、パーマネントレッド2Bなどの溶性アゾ顔料。アリザリン、インダントロン、チオインジゴマルーンなどの建染染料からの誘導体、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーンなどのフタロシアニン系顔料、キナクリドンレッド、キナクリドンマゼンタなどのキナクリドン系顔料、ペリレンレッド。ペリレンスカーレットなどのペリレン系顔料、イソインドリノンエロー、イソインドリノンオレンジなどのイソインドリノン系顔料、ベンズイミダゾロンエロー、ベンズイミダゾロンオレンジ、ベンズイミダゾロンレッドなどのイミダゾロン系顔料。ピランスロンレッド、ピランスロンオレンジなどのピランスロン系顔料、チオインジゴ系顔料、縮合アゾ系顔料、チオインジゴ系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、フラバンスロンエロー、アシルアミドエロー、キノフタロンエロー、ニッケルアゾエロー。銅アゾメチンエロー。ペリノンオレンジ、アンスロンオレンジ、ジアンスラキノニルレッド、ジオキサジンバイオレットなどのその他の顔料が例示できる。
【0015】
また、有機顔料を、カラーインデックス(C.I.)ナンバーにて示すと、C.I.ピグメントイエロー12、13、14、17、20、24、74、83、86、93、97、109、110、117、120、125、128、137、138、147。148、150、151、153、154、166、168、180、185、C.I.ピグメントオレンジ16、36、43、51、55、59、61、71、C.I.ピグメントレッド9、48、49、52、53、57、97、122、123、149、168。175、176、177、180、192、215、216、217、220、223、224、226、227、228、238、240、254、255、272、C.I.ピグメントバイオレット19、23、29、30、37、40、50。C.I.ピグメントブルー15、15:1、15:3、15:4、15:6、22、60、64、C.I.ピグメントグリーン7、36、C.I.ピグメントブラウン23、25、26などが例示できる。
【0016】
特に、これらの顔料の中でも、C.I.ピグメントイエロー74、93、97、110、120、128、138、147、148、150、151、154、155、180、185。C.I.ピグメントレッド122、C.I.ピグメントバイオレット19、C.I.ピグメントブルー15、15:1、15:3、15:4などがさらに好ましい。
【0017】
また、水に自己分散可能な顔料も使用できる。水分散可能な顔料としては、顔料表面にポリマーを吸着させた立体障害効果を利用したものと、静電気的反発力を利用したものとがある。市販品としては、CAB−O−JET200、CAB−O−JET300(以上、キャボット社製)、Microjet Black CW−1(オリエント化学社製)などが挙げられる。
【0018】
本発明のインクに用いられる顔料は、インクの全質量に対して、0.1質量%以上50質量%以下が好ましい。顔料の量が、0.1質量%未満であると、十分な画像濃度を得られなくなり、50質量%を超えると顔料が凝集し分散できなくなる。さらに好ましい範囲としては0.5質量%以上30質量%以下の範囲である。
【0019】
なお、本発明のインクに用いられる顔料は1次粒子が微粒子化されたものが好ましい。微粒子化の方法としては、例えば、ビーズミルなどによる強い摩砕をかける方法、ジェットミルなどを使用する機械的方法がある。或いは顔料の合成時に1次粒子径ができるだけ細かく、かつ表面活性の低い顔料を合成する方法、不活性ガス中での蒸発法による微粒子化、すなわち気相法などの方法がある。
【0020】
(2)分散樹脂
本発明で用いる分散樹脂は、上記顔料を水性媒体中に分散させることができるものであればいずれのものでもよい。特に両親媒性ブロック共重合体が好適に使用されるが、これに限定されるものではない。該両親媒性ブロック共重合体は特徴的にイオン性官能基を有する。両親媒性とは、共に溶解しない2種の溶媒にそれぞれ溶解する性質を併せ持つ性質或いはある種の溶媒に溶解する部位と溶解しない部位を持つ性質或いはある種の溶媒に親和する部位と親和しない部位を持つ性質を言う。本発明においては水或いは水系溶媒に親和する部位と親和しない部位を併せ持つブロック共重合体であることが好ましい。また、ブロック共重合体の各セグメントは共重合セグメントであってもよいし、その共重合の形態は限定されず、例えばランダムセグメントであってもグラジュエーションセグメントであってもよい。
【0021】
また、前記ブロック共重合体は、疎水性ブロックセグメント、非イオン性親水セグメントおよびイオン性親水セグメントがこの記載の順に並ぶ構造を有するブロック共重合体であることが好ましい。なお、ブロック共重合体とは異なる繰り返し単位構造からなるポリマーセグメントが共有結合で結合した共重合体で、ブロックコポリマー、ブロックポリマーとも呼ばれる。
【0022】
また、前記ブロック共重合体としては、具体的な例を挙げると、アクリル、メタクリル系ブロック共重合体、ポリスチレンと他の付加重合系又は縮合重合系のブロック共重合体。ポリオキシエチレン、ポリオキシアルキレンのブロックを有するブロック共重合体など、従来から知られているブロック共重合体を用いることもできる。本発明において、ブロック共重合体はAB、ABA、ABCなどのブロック形態がより好ましい。A、B、Cはそれぞれ異なるブロックセグメントを示す。また、本発明では、ブロック共重合体がある共重合体鎖にT字状に結合してグラフト共重合体となっていてもよい。本発明で用いるブロック共重合体は、ポリビニルエーテル構造を繰り返し単位構造として含有することが好ましい。イオン性の親水ブロックセグメント(Cセグメント)の具体的構造としては下記の一般式(1)で表される繰り返し単位が挙げられる。
【0023】

(式中、R0は−X−(COOH)r、−X−(COO−M)r又は−X2−(COO)2−M2を表す。Xは炭素数1乃至20までの直鎖状、分岐状又は環状のアルカンジイル若しくはアルカントリイル基を表す。又は−(CH(R5)−CH(R6)−O)p−(CH2m−CH3-r−若しくは−(CH2m−(O)n−(CH2q−CH3-r−又は、それらのメチレン基の少なくとも一つがカルボニル基又は芳香環構造で置換された構造を表す。rは1から2を表す。X2はXのうちrが2の基を表す。pは1乃至18までの整数を表す。mは0乃至35までの整数を表す。nは1又は0を表す。qは0乃至17の整数を表す。Mは一価のカチオンを表す。M2は二価のカチオンを表す。R5及びR6はアルキル基を表す。R5、R6は同じでも又は異なっていてもよい。)
【0024】
さらに疎水性セグメント或いは非イオン性の親水セグメントの繰り返し単位の具体例としては、下記の一般式(2)で表される繰り返し単位が挙げられる。
【0025】

(式中、R1は炭素数1乃至18までの直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基、−Ph、−Pyr、−Ph−Ph、−Ph−Pyr、−(CH(R5)−CH(R6)−O)p−R7及び−(CH2m−(O)n−R7から選ばれ。芳香環中の炭素原子に結合している水素原子は炭素数1乃至4の直鎖状又は分岐状のアルキル基と、また芳香環中の炭素原子は窒素原子とそれぞれ置換していてもよい基を表す。pは1乃至18の整数、mは1乃至36の整数、nは0又は1を表す。R5及びR6はそれぞれ独立に水素原子若しくは−CH3を表す。R5及びR6が複数ある場合はそれぞれ同じでも異なっていてもよい。R7は水素原子、炭素数1乃至18までの直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基、−Ph、−Pyr、−Ph−Ph、−Ph−Pyr、−CHO、−CH2CHO、−CO−CH=CH2及び−CO−C(CH3)=CH2から選ばれる。R7が水素原子以外である場合、R7中の炭素原子に結合している水素原子は炭素数1乃至4の直鎖状又は分岐状のアルキル基又は−F、−Cl、−Brと、また芳香環中の炭素原子は窒素原子とそれぞれ置換することができる。Phはフェニル基、Pyrはピリジル基を表わす。)
【0026】
イオン性の親水ブロックセグメント(Cセグメント)を構成する一般式(1)で表される繰り返し単位構造の具体例を以下に挙げる。
【0027】

【0028】

【0029】
疎水性セグメント(Aセグメント)を構成する一般式(2)で表される繰り返し単位構造の具体例としては、以下に記載したものが挙げられる。
【0030】

【0031】
非イオン性の親水セグメント(Bセグメント)を構成する一般式(2)で表される単位構造の具体例としては以下に記載したものが挙げられる。
【0032】

などが挙げられる。
【0033】
また、本発明で用いるブロック共重合体の各ブロックセグメントは単一の繰り返し単位からなるものでもよく、複数の繰り返し単位構造からなるものでもよい。複数の繰り返し単位からなるブロックセグメントの例としては、ランダム共重合体や徐々に組成比が変化するグラデーション共重合体がある。また、本発明のブロック共重合体はブロック共重合体構造が他のポリマーにグラフト結合したポリマーであってもよい。
【0034】
本発明において、ブロック共重合体中に含有される一般式(1)或いは一般式(2)で表される繰り返し単位構造の含有量は、ブロック共重合体全体に対して0.01mol%以上99mol%以下、好ましくは1mol%以上90mol%以下の範囲が望ましい。
【0035】
上記含有量が0.01mol%未満では、イオン性官能基或いは疎水性官能基或いは非イオン性親水基の働くべき高分子相互作用が不充分な場合があり、一方、上記含有量が99mol%を超えると逆に相互作用が働きすぎて機能が不充分な場合がある。
【0036】
本発明のブロック共重合体の数平均分子量(Mn)は、200以上10,000,000以下であり、好ましく用いられる範囲としては1,000以上1,000,000以下である。上記分子量が10,000,000を超えると、高分子鎖内、高分子鎖間の絡まりあいが多くなりすぎ、溶剤に分散しにくかったりする。一方、上記分子量が200未満である場合、分子量が小さく高分子としての立体効果が出にくかったりする場合がある。各ブロックセグメントの好ましい重合度は3以上10,000以下である。さらに好ましくは5以上5,000以下である。さらに好ましくは10以上4,000以下である。
【0037】
また、顔料の分散安定性向上、包接性(内包性)向上のためには、ブロック共重合体の分子運動性がよりフレキシブルであることが好ましい。ブロック共重合体の分子運動性がフレキシブルであることによって、ブロック共重合体が機能性物質の表面と物理的に絡まり親和しやすい点を有しているからである。さらには、後に詳述するように記録媒体上で被覆層を形成しやすい点でもフレキシブルであることが好ましい。このためには、その主鎖のガラス転移温度Tgは、好ましくは40℃以下であり、より好ましくは0℃以下であり、さらに好ましくは−20℃以下である。この点でもポリビニルエーテル構造を有するポリマーは、一般にガラス転移点が低く、フレキシブルな特性を有するため、好ましく用いられる。上記した繰り返し単位構造例の場合、そのガラス転移温度は−20℃くらいか、それ以下である場合が多い。
【0038】
本発明において好ましく用いられるポリビニルエーテル繰り返し単位構造を有するブロック共重合体の重合は主にカチオン重合で行われることが多い。開始剤としては、塩酸、硫酸、メタンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸、過塩素酸などのプロトン酸が挙げられる。また、BF3、AlCl3、TiCl4、SnCl4、FeCl3、RAlCl2、R1.5AlCl1.5(Rはアルキルを示す)などのルイス酸とカチオン源の組み合わせ(カチオン源としてはプロトン酸や水、アルコール、ビニルエーテルとカルボン酸の付加体などが挙げられる。)が例として挙げられる。これらの開始剤を重合性化合物(モノマー)と共存させることにより重合反応が進行し、ブロック共重合体を合成することができる。本発明において好ましく用いられるポリビニルエーテル繰り返し単位構造を有するブロック共重合体は、より好ましくはポリビニルエーテル繰り返し単位構造が50mol%以上好ましくは70mol%以上さらに好ましくは90mol%以上含有される。
【0039】
本発明にさらに好ましく用いられる重合方法について説明する。ポリビニルエーテル構造を含むブロック共重合体の合成法は多数報告されている。例えば、特開平11−080221号公報、青島らによるカチオンリビング重合による方法(ポリマーブレタン誌 15巻、1986年、417頁、特開平11−322942号公報、特開平11−322866号公報)が代表的である。上記重合でポリマー合成を行うことにより、ホモポリマーや2成分以上のモノマーからなる共重合体、さらにはブロック共重合体、グラフトポリマー、グラデーションポリマーなどの様々なポリマーを、長さ(分子量)を正確に揃えて合成することができる。また、他にHI/I2系、HCl/SnCl4系などでリビング重合を行うこともできる。
【0040】
(4)水性媒体、他の添加剤など
本発明のインクに含まれる水性媒体は、水と水溶性有機溶剤との混合溶媒(水性媒体)からなるが、水溶性有機溶剤としては、インクの乾燥防止効果を有するものが特に好ましい。また、水は、種々のイオンを含有する一般の水ではなく、脱イオン水を使用することが好ましい。
【0041】
本発明で使用する水溶性有機溶剤としては、具体的には、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール。イソブチルアルコール、n−ペンタノールなどの炭素数1乃至5のアルキルアルコール類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどのアミド類;アセトン、ジアセトンアルコールなどのケトン又はケトアルコール類;テトラヒドロフラン。ジオキサンなどのエーテル類、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール。ポリプロピレングリコールなどのオキシエチレン又はオキシプロピレン共重合体、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、トリエチレングリコール。1,2,6−ヘキサントリオールなどのアルキレン基が2乃至6個の炭素原子を含むアルキレングリコール類;グリセリン。エチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、ジエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル。トリエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテルなどの低級アルキルエーテル類;トリエチレングリコールジメチル(又はエチル)エーテル、テトラエチレングリコールジメチル(又はエチル)エーテルなどの多価アルコールの低級ジアルキルエーテル類;。モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアルカノールアミン類、スルホラン、N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンなどが挙げられる。上記のごとき水溶性有機溶剤は、単独でも或いは混合物としても使用することができる。
【0042】
本発明のインク中に含有される上記したような水溶性有機溶剤の含有量は、特に限定されないが、インク全質量に対して、好ましくは3質量%以上50質量%以下の範囲である。また、インクに含有される水の含有量は、インク全質量に対して、好ましくは50質量%以上95質量%以下の範囲である。また、本発明の顔料分散体又は水性インクは、所望の物性値を有するインクとするために、上記した成分の他に必要に応じて、添加剤として、例えば、粘度調整剤、消泡剤、防腐剤、防カビ剤、界面活性剤、酸化防止剤などを添加することができる。界面活性剤の選択は、インクの表面張力が30mN/m以上になるように決定することが好ましい。
【0043】
(5)塩基
本発明においては、塩基添加工程及び中和工程で塩基を用いる。用いる塩基は特に限定されるものではなく、好ましいものとしては水酸化カリウムなどが挙げられる。塩基の使用量は、第一発明においては、分散樹脂が有するイオン性基の当量を超える量であり、第二発明においては、分散樹脂が有するイオン性基の当量以下の量(中和工程)及び任意の量(塩基添加工程)である。特には、塩基添加工程により得られた分散液中の塩基の総量が、分散液のpHが11以上になる量であることが好ましい。このように、過剰の塩基を加える工程を含むことにより、分散樹脂の解離度が促進され、その結果、分散樹脂の高分子鎖内或いは高分子鎖間の絡み合いが軽減することにより顔料分散体の粘度が下がるものと推定される。また、前記塩基の一部と浮遊している分散樹脂の少なくとも一部を同時に取り除くことによって、顔料分散体のpHを8以上10以下の間にすることが好ましい。
【0044】
(6)機械的分散
本発明における分散工程に用いる分散装置としては、機械的分散が可能なものであればいずれでもよい。例えば、コロイドミル、フロージェットミル、スラッシャーミル、ハイスピードディスパーザー、ボールミル、アトライター、サンドミル、サンドグラインダー、ウルトラファインミル、アイガーモーターミル、ダイノーミル、パールミル、アジデータミル。コボルミル、3本ロール、2本ロール、エクストリューダー、ニーダー、マイクロフルイダイザー、ラボラトリーホモジナイザー、超音波ホモジナイザーなどがあり、これらを単独で用いても、組み合わせて用いてもよい。或いは、所定の溶媒、水、分散剤を混合後、顔料を添加して、分散機を用いて分散してもよい。
【0045】
(7)除去
本発明においては、分散工程により得られた分散液(第一発明)又は塩基添加工程により得られた分散液(第二発明)から塩基の少なくとも一部及び浮遊している分散樹脂の少なくとも一部を除去する。除去工程により得られた顔料分散体のpHは8以上10以下にすることが好ましい。pHが10に満たないと信頼性が低下しやすく、8未満であると粘度が上昇しやすくなる。
【0046】
また、本発明においては、浮遊している分散樹脂の少なくとも一部も取り除くことで、さらに顔料分散体の低粘性化が促進される。本発明は、上述したような効果を低コストで達成させるため、低粘度なインクを安価に提供することができる。
【0047】
作製された顔料分散体に所定の溶媒、添加剤などを加えて攪拌混合及び濾過を行い、本発明のインクジェット記録用インクとすることができる。
【0048】
(8)インクジェット記録
本発明のインクジェット記録方法としては、インクに力学的エネルギーを作用させてインクを吐出する記録方法、及びインクに熱エネルギーを加えてインクの発泡によりインクを吐出するインクジェット記録方法がある。それらのインクジェット記録方法に本発明のインクは特に好適である。
【0049】
次に、上記した本発明のインクを用いて記録を行うのに好適な、本発明のインクジェット記録装置の一例を以下に説明する。先ず、熱エネルギーを利用したインクジェット記録装置の主要部であるヘッド構成の一例を図1及び図2に示す。
【0050】
図1は、インク流路に沿ったヘッド13の断面図であり、図2は図1のA−B線での切断面図である。ヘッド13はインクを通す流路(ノズル)14を有するガラス、セラミック、シリコン又はプラスチック板などと発熱素子基板15とを接着して得られる。発熱素子基板15は酸化シリコン、窒化シリコン、炭化シリコンなどで形成される保護層16、アルミニウム、金、アルミニウム−銅合金などで形成される電極17−1及び17−2、HfB2、TaN、TaAlなどの高融点材料から形成される発熱抵抗体層18、熱酸化シリコン、酸化アルミニウムなどで形成される蓄熱層19、シリコン、アルミニウム、窒化アルミニウムなどの放熱性のよい材料で形成される基板20よりなっている。
【0051】
上記ヘッド13の電極17−1及び17−2にパルス状の電気信号が印加されると、発熱素子基板15のnで示される領域が急速に発熱し、この表面に接しているインク21に気泡が発生する。その圧力でメニスカス23が突出し、インク21がヘッドのノズル14を通して吐出し、吐出オリフィス22よりインク小滴24となり、記録媒体25に向かって飛翔する。図3には、図1に示したヘッドを多数並べたマルチヘッドの一例の外観図を示す。このマルチヘッドは、マルチノズル26を有するガラス板27と、図1に説明したものと同じような発熱ヘッド28を接着して作られている。
【0052】
図4に、このヘッドを組み込んだインクジェット記録装置の一例を示す。図4において、61はワイピング部材としてのブレードであり、その一端はブレード保持部材によって保持固定されており、カンチレバーの形態をなす。ブレード61は記録ヘッド65による記録領域に隣接した位置に配置され、また、本例の場合、記録ヘッド65の移動経路中に突出した形態で保持される。
【0053】
62は記録ヘッド65の突出口面のキャップであり、ブレード61に隣接するホームポジションに配置され、記録ヘッド65の移動方向と垂直な方向に移動して、インク吐出口面と当接し、キャッピングを行う構成を備える。さらに、63はブレード61に隣接して設けられるインク吸収体であり、ブレード61と同様、記録ヘッド65の移動経路中に突出した形態で保持される。上記ブレード61、キャップ62及びインク吸収体63によって吐出回復部64が構成され、ブレード61及びインク吸収体63によって吐出口面に水分、塵埃などの除去が行われる。
【0054】
65は、吐出エネルギー発生手段を有し、吐出口を配した吐出口面に対向する記録媒体にインクを吐出して記録を行う記録ヘッド、66は記録ヘッド65を搭載して記録ヘッド65の移動を行うためのキャリッジである。キャリッジ66はガイド軸67と摺動可能に係合し、キャリッジ66の一部はモーター68によって駆動されるベルト69と接続(不図示)している。これによりキャリッジ66はガイド軸67に沿った移動が可能となり、記録ヘッド65による記録領域及びその隣接した領域の移動が可能となる。
【0055】
51は記録媒体を挿入するための給紙部、52は不図示のモーターにより駆動される紙送りローラーである。これらの構成により記録ヘッド65の吐出口面と対向する位置へ記録媒体が給紙され、記録が進行につれて排紙ローラー53を配した排紙部へ排紙される。
【0056】
以上の構成において記録ヘッド65が記録終了してホームポジションへ戻る際、吐出回復部64のキャップ62は記録ヘッド65の移動経路から退避しているが、ブレード61は移動経路中に突出している。その結果、記録ヘッド65の吐出口がワイピングされる。
【0057】
なお、キャップ62が記録ヘッド65の吐出面に当接してキャッピングを行う場合、キャップ62は記録ヘッドの移動経路中に突出するように移動する。記録ヘッド65がホームポジションから記録開始位置へ移動する場合、キャップ62及びブレード61は上記したワイピングの時の位置と同一の位置にある。この結果、この移動においても記録ヘッド65の吐出口面はワイピングされる。上述の記録ヘッドのホームポジションへの移動は、記録終了時や吐出回復時ばかりでなく、記録ヘッドが記録のために記録領域を移動する間に所定の間隔で記録領域に隣接したホームポジションへ移動し、この移動に伴って上記ワイピングが行われる。
【0058】
図5は、記録ヘッドにインク供給部材、例えば、チューブを介して供給されるインクを収容したインクカートリッジの一例を示す図である。ここで40は供給用インクを収納したインク収容部、例えば、インク袋であり、その先端にはゴム製の栓42が設けられている。この栓42に針(不図示)を挿入することにより、インク袋40中のインクをヘッドに供給可能にする。44は廃インクを受容するインク吸収体である。インク収容部としてはインクとの接液面がポリオレフィン、特にポリエチレンで形成されているものが好ましい。
【0059】
本発明で使用されるインクジェット記録装置としては、上述のようにヘッドとインクカートリッジとが別体となったものに限らず、図6に示すようなそれらが一体になったものにも好適に用いられる。図6において、70は記録ユニットであり、この中にはインクを収容したインク収容部、例えば、インク吸収体が収納されており、かかるインク吸収体中のインクが複数オリフィスを有するヘッド部71からインク滴として吐出される構成になっている。インク吸収体の材料としてはポリウレタンを用いることが本発明にとって好ましい。また、インク吸収体を用いず、インク収容部が内部にバネなどを仕込んだインク袋であるような構造でもよい。72はカートリッジ内部を大気に連通させるための大気連通口である。この記録ユニット70は図4に示す記録ヘッド65に換えて用いられるものであって、キャリッジ66に対して着脱自在になっている。
【実施例】
【0060】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、下記実施例により限定されるものではない。なお、以下の記載で「部」又は「%」とあるのは、特に断わりのない限り質量基準である。
【0061】
<実施例1>
分散樹脂としてポリ−4−メチルフェニルエチルビニルエーテル(Aブロック)とポリ−2−(2−メトキシエチル)エチルビニルエーテル(Bブロック)とポリ−4−(2−ビニルオキシ)エトキシ安息香酸(Cブロック)からなるトリブロック共重合体−1(重合比はA:B:C=98:90:14)(Mn=27,200、Mw/Mn=1.36)を用いた。
【0062】
上記分散樹脂5部と銅フタロシアニン顔料(東洋インキ製)5部をテトラヒドロフラン100部に共溶解し、トリブロック共重合体−1のカルボン酸の量に対し1化学量論量の水酸化カリウムを含むイオン交換水100部を加えた。その後、ナノマイザーYSNM−2000AR(吉田機械興業社製)を用いて分散した。
【0063】
そして、テトラヒドロフランをエバポレーションすることにより、トリブロック共重合体及び銅フタロシアニン顔料を水相へ変換した。その後、トリブロック共重合体−1のカルボン酸の量に対し2化学量論量の水酸化カリウムをさらに加えた。pHを11.6にした後、その分散体を遠心分離機で処理し(10,000rpm×30分)、その上澄み液をイオン交換水で置換する工程を繰り返すことにより、塩基及び浮遊している分散樹脂を除去し、pHが9.6の顔料分散体を得た。上記顔料分散体に水性溶剤、イオン交換水、及び添加剤を適量加え、1μmのフィルターを通して加圧濾過し、下記インク−1を調製した。
【0064】
・銅フタロシアニン顔料(東洋インキ製) 2.5部
・トリブロック共重合体−1 2.5部
・ジエチレングリコール 5.0部
・グリセリン 4.5部
・トリメチロールプロパン 5.0部
・アセチレノールEH(川研ファインケミカル製) 0.1部
・イオン交換水 80.4部
【0065】
<実施例2>
分散樹脂としてポリ−4−メチルフェニルエチルビニルエーテル(Aブロック)とポリ−2−(2−メトキシエチル)エチルビニルエーテル(Bブロック)とポリ−4−(2−ビニルオキシ)エトキシ安息香酸(Cブロック)からなるトリブロック共重合体−2(重合比はA:B:C=98:130:14)(Mn=31,200、Mw/Mn=1.36)を用いた。
【0066】
上記分散樹脂5部と銅フタロシアニン顔料(東洋インキ製)5部をテトラヒドロフラン100部に共溶解し、トリブロック共重合体−2のカルボン酸の量に対し3化学量論量の水酸化カリウムを含むイオン交換水100部を加えた。これによりpHを11.4にした後、ナノマイザーYSNM−2000AR(吉田機械興業社製)を用いて分散した。そして、テトラヒドロフランをエバポレーションすることにより、トリブロック共重合体−2及び銅フタロシアニン顔料を水相へ変換した。
【0067】
その後、分散体を遠心分離機で処理し(10,000rpm×60分)、その上澄み液をイオン交換水で置換する工程を繰り返すことにより、塩基及び浮遊している分散樹脂を除去し、pHが9.4の顔料分散体を得た。上記顔料分散体に水性溶剤、イオン交換水、及び添加剤を適量加え、1μmのフィルターを通して加圧濾過し、下記インクジェット用インク−2を調製した。
【0068】
・銅フタロシアニン顔料(東洋インキ製) 2.5部
・トリブロック共重合体−2 2.5部
・ジエチレングリコール 5.0部
・グリセリン 4.5部
・トリメチロールプロパン 5.0部
・アセチレノールEH(川研ファインケミカル製) 0.1部
・イオン交換水 80.4部
【0069】
<実施例3>
分散樹脂としてポリ−4−メチルフェニルエチルビニルエーテル(Aブロック)とポリ−2−(2−メトキシエチル)エチルビニルエーテル(Bブロック)とポリ−4−(2−ビニルオキシ)エトキシ安息香酸(Cブロック)からなるトリブロック共重合体−1(重合比はA:B:C=98:90:14)(Mn=27,200、Mw/Mn=1.36)を用いた。
【0070】
上記分散樹脂5部と銅フタロシアニン顔料(東洋インキ製)5部をテトラヒドロフラン100部に共溶解し、トリブロック共重合体−1のカルボン酸の量に対し3化学量論量の水酸化カリウムを含むイオン交換水100部を加えた。これによりpHを11.4にした後、ナノマイザーYSNM−2000AR(吉田機械興業社製)を用いて分散した。
【0071】
そして、テトラヒドロフランをエバポレーションすることにより、トリブロック共重合体−1及び銅フタロシアニン顔料を水相へ変換した。その後、分散体を遠心分離機で処理し(10,000rpm×60分)、その上澄み液をイオン交換水で置換する工程を繰り返すことにより、塩基及び浮遊している分散樹脂を除去し、pHが9.1の顔料分散体を得た。上記顔料分散体に水性溶剤、イオン交換水、及び添加剤を適量加え、1μmのフィルターを通して加圧濾過し、下記インクジェット用インク−3を調製した。
【0072】
・銅フタロシアニン顔料(東洋インキ製) 2.5部
・トリブロック共重合体−1 2.5部
・ジエチレングリコール 5.0部
・グリセリン 4.5部
・トリメチロールプロパン 5.0部
・アセチレノールEH(川研ファインケミカル製) 0.1部
・イオン交換水 80.4部
【0073】
<実施例4>
分散樹脂としてスチレンアクリル酸1:1ランダム共重合体−1(Mn=22,000、Mw/Mn=1.98)を用いた。
【0074】
上記分散樹脂5部と銅フタロシアニン顔料(東洋インキ製)5部をテトラヒドロフラン100部に共溶解し、ランダム共重合体−1のカルボン酸の量に対し1化学量論量の水酸化カリウムを含むイオン交換水100部を加えた。その後、ナノマイザーYSNM−2000AR(吉田機械興業社製)を用いて分散した。
【0075】
そして、テトラヒドロフランをエバポレーションすることにより、ランダム共重合体−1及び銅フタロシアニン顔料を水相へ変換した。その後、ランダム共重合体−1のカルボン酸の量に対し2化学量論量の水酸化カリウムをさらに加えることによりpHを11.6にした。その後、その分散体を遠心分離機で処理し(10,000rpm×30分)、その上澄み液をイオン交換水で置換する工程を繰り返すことにより、塩基及び浮遊している分散樹脂を除去し、pHが9.6の顔料分散体を得た。上記顔料分散体に水性溶剤、イオン交換水、及び添加剤を適量加え、1μmのフィルターを通して加圧濾過し、下記インク−4を調製した。
【0076】
・銅フタロシアニン顔料(東洋インキ製) 2.5部
・ランダム共重合体−1 2.5部
・ジエチレングリコール 5.0部
・グリセリン 4.5部
・トリメチロールプロパン 5.0部
・アセチレノールEH(川研ファインケミカル製) 0.1部
・イオン交換水 80.4部
【0077】
<実施例5>
分散樹脂としてポリ−4−メチルフェニルエチルビニルエーテル(Aブロック)とポリ−2−(2−メトキシエチル)エチルビニルエーテル(Bブロック)とポリ−4−(2−ビニルオキシ)エトキシ安息香酸(Cブロック)からなるトリブロック共重合体−2(重合比はA:B:C=98:130:14)(Mn=31,200、Mw/Mn=1.36)を用いた。
【0078】
上記分散樹脂5部と銅フタロシアニン顔料(東洋インキ製)5部をテトラヒドロフラン100部に共溶解し、トリブロック共重合体−2のカルボン酸の量に対し1.5化学量論量の水酸化カリウムを含むイオン交換水100部を加えた。これによりpHを9.7にした後、ナノマイザーYSNM−2000AR(吉田機械興業社製)を用いて分散した。
【0079】
そして、テトラヒドロフランをエバポレーションすることにより、トリブロック共重合体−2及び銅フタロシアニン顔料を水相へ変換した。その後、分散体を遠心分離機で処理し(10,000rpm×60分)、その上澄み液をイオン交換水で置換する工程を繰り返すことにより、塩基及び浮遊している分散樹脂を除去し、pHが9.1の顔料分散体を得た。上記顔料分散体に水性溶剤、イオン交換水、及び添加剤を適量加え、1μmのフィルターを通して加圧濾過し、下記インクジェット用インク−5を調製した。
【0080】
・銅フタロシアニン顔料(東洋インキ製) 2.5部
・トリブロック共重合体−2 2.5部
・ジエチレングリコール 5.0部
・グリセリン 4.5部
・トリメチロールプロパン 5.0部
・アセチレノールEH(川研ファインケミカル製) 0.1部
・イオン交換水 80.4部
【0081】
<実施例6>
分散樹脂としてポリ−4−メチルフェニルエチルビニルエーテル(Aブロック)とポリ−2−(2−メトキシエチル)エチルビニルエーテル(Bブロック)とポリ−4−(2−ビニルオキシ)エトキシ安息香酸(Cブロック)からなるトリブロック共重合体−1(重合比はA:B:C=98:90:14)(Mn=27,200、Mw/Mn=1.36)を用いた。
【0082】
上記分散樹脂5部と銅フタロシアニン顔料(東洋インキ製)5部をテトラヒドロフラン100部に共溶解し、トリブロック共重合体−1のカルボン酸の量に対し1化学量論量の水酸化カリウムを含むイオン交換水100部を加えた。その後、ナノマイザーYSNM−2000AR(吉田機械興業社製)を用いて分散した。そして、テトラヒドロフランをエバポレーションすることにより、トリブロック共重合体及び銅フタロシアニン顔料を水相へ変換した。
【0083】
その後、トリブロック共重合体−1のカルボン酸の量に対し2化学量論量の水酸化カリウムをさらに加えることによりpHを11.6にした後、その分散体を遠心分離機で処理した(15,000rpm×60分)。その上澄み液をイオン交換水で置換する工程を繰り返すことにより、塩基及び浮遊している分散樹脂を除去し、pHが7.8の顔料分散体を得た。上記顔料分散体に水性溶剤、イオン交換水、及び添加剤を適量加え、1μmのフィルターを通して加圧濾過し、下記インク−6を調製した。
【0084】
・銅フタロシアニン顔料(東洋インキ製) 2.5部
・トリブロック共重合体−1 2.5部
・ジエチレングリコール 5.0部
・グリセリン 4.5部
・トリメチロールプロパン 5.0部
・アセチレノールEH(川研ファインケミカル製) 0.1部
・イオン交換水 80.4部
【0085】
<比較例1>
分散樹脂としてポリ−4−メチルフェニルエチルビニルエーテル(Aブロック)とポリ−2−(2−メトキシエチル)エチルビニルエーテル(Bブロック)とポリ−4−(2−ビニルオキシ)エトキシ安息香酸(Cブロック)からなるトリブロック共重合体−1(重合比はA:B:C=98:90:14)(Mn=27,200、Mw/Mn=1.36)5部と銅フタロシアニン顔料(東洋インキ製)を用いた。
【0086】
上記分散樹脂5部をテトラヒドロフラン100部に共溶解し、トリブロック共重合体−1のカルボン酸の量に対し1化学量論量の水酸化カリウムを含むイオン交換水100部を加えた。その後、ナノマイザーYSNM−2000AR(吉田機械興業社製)を用いて分散した。
【0087】
そして、テトラヒドロフランをエバポレーションすることにより、トリブロック共重合体及び銅フタロシアニン顔料を水相へ変換し、pHが8.3の顔料分散体を得た。上記顔料分散体に水性溶剤、イオン交換水、及び添加剤を適量加え、1μmのフィルターを通して加圧濾過し、下記インク−5を調製した。
【0088】
・銅フタロシアニン顔料(東洋インキ製) 2.5部
・トリブロック共重合体−1 2.5部
・ジエチレングリコール 5.0部
・グリセリン 4.5部
・トリメチロールプロパン 5.0部
・アセチレノールEH(川研ファインケミカル製) 0.1部
・イオン交換水 80.4部
【0089】
<比較例2>
分散樹脂としてスチレンアクリル酸1:1ランダム共重合体−1(Mn=22,000、Mw/Mn=1.98)5部と銅フタロシアニン顔料(東洋インキ製)を用いた。
【0090】
上記分散樹脂5部をテトラヒドロフラン100部に共溶解し、ランダム共重合体−1のカルボン酸の量に対し1化学量論量の水酸化カリウムを含むイオン交換水100部を加えた。その後、ナノマイザーYSNM−2000AR(吉田機械興業社製)を用いて分散した。
【0091】
そして、テトラヒドロフランをエバポレーションすることにより、ランダム共重合体−1及び銅フタロシアニン顔料を水相へ変換し、pHが8.0の顔料分散体を得た。上記顔料分散体に水性溶剤、イオン交換水、及び添加剤を適量加え、1μmのフィルターを通して加圧濾過し、下記インク−6を調製した。
【0092】
・銅フタロシアニン顔料(東洋インキ製) 2.5部
・ランダム共重合体−1 2.5部
・ジエチレングリコール 5.0部
・グリセリン 4.5部
・トリメチロールプロパン 5.0部
・アセチレノールEH(川研ファインケミカル製) 0.1部
・イオン交換水 80.4部
【0093】
<評価>
(粘度)
上記インクの粘度を東機産業(株)製E型粘度計にて測定した。評価結果を下記表1に示す。また、評価基準は下記の通りである。
○:3.5mPa・s未満
△:3.5mPa・s以上4.5mPa・s未満
×:4.5mPa・s以上
【0094】
(吐出特性)
上記インクをインクジェット記録装置(キヤノン社製、BJF−900)のインクタンクに充填し、15℃、10%の環境下で英数文字を印字後、プリンタを停止し、キャップなどをしない状態で大気中にヘッドを曝露させ再び印字し、下記の基準で評価した。評価結果を下記表1に示す。
○:曝露時間60秒以上で文字の乱れが発生する。
△:曝露時間30秒以上60秒未満で文字の乱れが発生する。
×:曝露時間30秒未満で文字の乱れが発生する。
【0095】
(長期保存安定性)
上記インクをテフロン(登録商標)製容器に60℃で5ヶ月間保存し、粒度分布、表面張力、粘度、pHの変化と、析出物の有無、吐出への影響を調査し、下記の基準で評価した。評価結果を下記表1に示す。
○:物性の変化が殆どなく、析出物が確認されず、吐出に影響を及ぼさない。
△:物性の変化がするか、析出物が確認されるか、吐出に影響を及ぼすかのいずれかである。
【0096】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、水性媒体、顔料及び該顔料を該水性媒体中に分散させる分散樹脂を含有している顔料分散体の製造方法において、該顔料及び該分散樹脂を含有する分散液に、該分散樹脂が有するイオン性基の当量を超える塩基を添加する塩基添加工程、該塩基添加工程により得られた分散液に機械的分散を行う分散工程、及び該分散工程により得られた分散液から塩基の少なくとも一部及び浮遊している分散樹脂の少なくとも一部を除去する除去工程を有することを特徴とする顔料分散体の製造方法。
【請求項2】
少なくとも、水性媒体、顔料及び該顔料を該水性媒体中に分散させる分散樹脂を含有している顔料分散体の製造方法において、該顔料及び該分散樹脂を含有する分散液に該分散樹脂が有するイオン性基の当量以下の塩基を添加することにより該分散樹脂が有するイオン性基の少なくとも一部を中和する中和工程、該中和工程により得られた分散液に機械的分散を行う分散工程、該分散工程により得られた分散液に塩基を添加する塩基添加工程、及び該塩基添加工程により得られた分散液から塩基の少なくとも一部及び浮遊している分散樹脂の少なくとも一部を除去する除去工程を有することを特徴とする顔料分散体の製造方法。
【請求項3】
前記塩基添加工程により得られた分散液中の塩基の総量が、該分散液のpHが11以上になる量である請求項1又は2に記載の顔料分散体の製造方法。
【請求項4】
前記除去工程により得られた顔料分散体のpHを8以上10以下にする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の顔料分散体の製造方法。
【請求項5】
前記分散樹脂が、イオン性官能基を有する両親媒性ブロック共重合体である請求項1乃至4のいずれか1項に記載の顔料分散体の製造方法。
【請求項6】
前記ブロック共重合体が、疎水性ブロックセグメント、非イオン性親水セグメント及びイオン性親水セグメントがこの順に並ぶ構造を有する請求項5に記載の顔料分散体の製造方法。
【請求項7】
前記ブロック共重合体が、ポリビニルエーテル構造を繰り返し単位構造として含有する請求項5又は6に記載の顔料分散体の製造方法。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の顔料分散体の製造方法により製造されたことを特徴とする顔料分散体。
【請求項9】
請求項8に記載の顔料分散体を用いて製造されたことを特徴とするインクジェット記録用インク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−222405(P2010−222405A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−68618(P2009−68618)
【出願日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】