説明

顕微鏡対物レンズ

【課題】十分な色収差の補正がされ、且つ、視野範囲が十分で、その視野範囲における諸収差が良好に補正された顕微鏡対物レンズを提供する。
【解決手段】顕微鏡対物レンズOLは、物体側から順に、正の屈折力を有する第1レンズ群G1と、第2レンズ群G2と、負の屈折力を有する第3レンズ群G3と、を有し、第1レンズ群G1は、最も物体側に位置し、負の屈折力を有するレンズ面を含む正レンズ成分L1を有し、第2レンズ群G2は、異なる光学材料からなる2つの回折素子要素を接合し、当該接合面に回折格子溝が形成された回折光学面Dを有する回折光学素子GDを有し、第3レンズ群G3は、少なくとも1つ以上の、負の屈折力を有する色補正レンズ成分CL31を有し、且つ、当該第3レンズ群G3の最も像側のレンズ面が、像側に凹面を向けて配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顕微鏡対物レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の顕微鏡対物レンズは、諸収差の中でも色収差を良好に補正するために多数の接合レンズを必要とし、また、2次スペクトルを補正するのに異常分散ガラスを用いる必要があったため、高価にならざるを得なかった。近年、高倍率・高開口数で、接合レンズや異常分散ガラスを多用することなく諸収差、特に2次スペクトルまで含めた色収差を補正できる回折光学素子(DOE)を用いたレンズ系が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−331898号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような回折光学素子を用いたレンズ系では、回折光学素子で色収差を補正できても、高画角でのコマ収差の補正が困難となり、視野周辺部での像性能が低いという課題があった。
【0005】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、十分な色収差の補正がされ、且つ、視野範囲が十分で、その視野範囲において諸収差が良好に補正された顕微鏡対物レンズを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本発明に係る顕微鏡対物レンズは、物体側から順に、正の屈折力を有する第1レンズ群と、第2レンズ群と、負の屈折力を有する第3レンズ群と、を有し、第1レンズ群は、最も物体側に位置し、負の屈折力を有するレンズ面を含む正レンズ成分を有し、第2レンズ群は、異なる光学材料からなる2つの回折素子要素を接合し、当該接合面に回折格子溝が形成された回折光学面を有する回折光学素子を有し、第3レンズ群は、少なくとも1つ以上の、負の屈折力を有する色補正レンズ成分を有し、且つ、当該第3レンズ群の最も像側のレンズ面が、像側に凹面を向けて配置されている。そして、第1レンズ群に設けられた正レンズ成分に含まれる負の屈折力を有するレンズ面のうち、最も物体側に配置された負の屈折力を有するレンズ面の曲率半径をRとし、この負の屈折力を有するレンズ面の物体側の媒質のd線に対する屈折率をn1、像側の媒質のd線に対する屈折率をn2とし、この負の屈折力を有するレンズ面の頂点から物体までの光軸上の距離をd0としたとき、次式
|(n2−n1)/(R・d0)| ≦ 0.1
の条件を満足し、全系の焦点距離をfとし、回折光学面を通る最大画角に対応する光束の主光線の光軸からの高さをhとしたとき、次式
0.01 ≦ |h/f| ≦ 0.04
の条件を満足する。但し、軸外物点から発する光束の主光線は、軸外物点から射出される光束の中、最も光軸から離れた方向に射出される光線を、軸上物点から射出される最大開口数(NA)の光線と第1レンズ群内の適宜の面との交点で制限し、最も光軸に近い方向に射出される光線を、軸上物点から射出される最大開口数の光線と第3レンズ群内の適宜の面との交点で制限したとき、当該光束の中心光線とする。
【0007】
このような顕微鏡対物レンズは、第1レンズ群と第2レンズ群との合成焦点距離をf12としたとき、次式
1 ≦ |f12/f| ≦ 1.5
の条件を満足することが好ましい。
【0008】
また、このような顕微鏡対物レンズは、第2レンズ群の焦点距離をf2としたとき、次式
10 ≦ |f2/f|
の条件を満足することが好ましい。
【0009】
また、このような顕微鏡対物レンズは、回折光学素子における回折光学面の回折格子溝の数をNとし、当該回折光学面の有効半径をHとしたとき、次式
2 ≦ N/H ≦ 5
の条件を満足することが好ましい。但し、有効半径Hは、軸上物点から射出される最大開口数の光線及び、軸外物点から射出される光束の中、最も光軸から離れた方向に射出される光線を、軸上物点から射出される最大開口数の光線と第1レンズ群内の適宜の面との交点で制限し、最も光軸に近い方向に射出される光線を、軸上物点から射出される最大開口数の光線と第3レンズ群内の適宜の面との交点で制限したときに決まる当該光束の最外側の光線で決定される。
【0010】
さらに、このような顕微鏡対物レンズは、回折光学素子中の2つの回折素子要素のうち、屈折率が低くアッベ数が小さい方の回折素子要素の材料のd線に対する屈折率をnd1、F線に対する屈折率をnF1、C線に対する屈折率をnC1とし、回折光学素子中の2つの回折素子要素のうち、屈折率が高くアッベ数が大きい方の回折素子要素の材料のd線に対する屈折率をnd2、F線に対する屈折率をnF2、C線に対する屈折率をnC2としたとき、次式
nd1 ≦ 1.54
0.0145 ≦ nF1−nC1
1.55 ≦ nd2
nF2−nC2 ≦ 0.013
の条件を満足することが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る顕微鏡対物レンズを以上のように構成すると、十分な色収差の補正がされ、且つ、視野範囲が十分で、その視野範囲における諸収差が良好に補正された顕微鏡対物レンズを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】第1実施例に係る顕微鏡対物レンズのレンズ構成図である。
【図2】上記第1実施例に係る顕微鏡対物レンズの諸収差図である。
【図3】第2実施例に係る顕微鏡対物レンズのレンズ構成図である。
【図4】上記第2実施例に係る顕微鏡対物レンズの諸収差図である。
【図5】第3実施例に係る顕微鏡対物レンズのレンズ構成図である。
【図6】上記第3実施例に係る顕微鏡対物レンズの諸収差図である。
【図7】上記顕微鏡対物レンズとともに用いられる結像レンズのレンズ構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照して説明する。まず、図1を用いて、本実施の形態に係る顕微鏡対物レンズの構成について説明する。この顕微鏡対物レンズOLは、物体側から順に、正の屈折力を有する第1レンズ群G1と、第2レンズ群G2と、負の屈折力を有する第3レンズ群G3とを有して構成される。
【0014】
このような顕微鏡対物レンズOLにおいて、第1レンズ群G1は、物体からの発散光束を平行光束へと近づけるためのレンズ群であり、そのため、最も物体側に位置し、負の屈折力を有するレンズ面を含む正レンズ成分(例えば、図1における正メニスカスレンズL1)を有して構成される。なお、正レンズ成分は、単レンズで構成しても良いし、接合レンズで構成しても良い。ここで、この正レンズ成分に含まれる負の屈折力を有するレンズ面のうち、最も物体側に配置された負の屈折力を有するレンズ面(例えば、図1における第1面)の曲率半径をRとし、当該レンズ面の物体側の媒質のd線に対する屈折率をn1、像側の媒質のd線に対する屈折率をn2とし、物体から当該レンズ面の頂点までの光軸上の距離をd0としたとき、次の条件式(1)を満足する。
【0015】
|(n2−n1)/(R・d0)| ≦ 0.1 (1)
【0016】
この条件式(1)は、第1レンズ群G1に設けられた上述の正レンズ成分に含まれる負の屈折力を有するレンズ面の屈折力を規定するものであり、この条件式(1)の上限値を上回ると、ペッツバール和の補正が困難となり、高画角までの像面平坦性を確保することが困難になる。
【0017】
また、第2レンズ群G2は、第1レンズ群G1から出射した略平行光束を受けて、色収差を補正するためのレンズ群であり、この色収差を補正するために回折光学素子GDが設けられている。回折光学素子GDは、1mmあたり数本から数百本の細かい溝状またはスリット状の格子構造が同心円状に形成された回折光学面Dを備え、この回折光学面Dに入射した光を格子ピッチ(回折格子溝の間隔)と入射光の波長とによって定まる方向へ回折する性質を有している。また、回折光学素子GD(回折光学面D)は、負の分散値(後述する実施例ではアッベ数=−3.453)を有し、分散が大きく、また異常分散性(後述する実施例では部分分散比(ng−nF)/(nF−nC)=0.2956)が強いため、強力な色収差補正能力を有している。光学ガラスのアッベ数は、通常30〜80程度であるが、上述のように回折光学素子のアッベ数は負の値を持っている。換言すると、回折光学素子GDの回折光学面Dは分散特性が通常のガラス(屈折光学素子)とは逆で光の波長が短くなるに伴い屈折率が小さくなり、長い波長の光ほど大きく曲がる性質を有している。そのため、通常の屈折光学素子と組み合わせることにより、大きな色消し効果が得られる。したがって回折光学素子GDを利用することで、通常の光学ガラスでは達し得ない良好な色収差の補正が可能になる。
【0018】
本実施の形態における回折光学素子GDは、異なる光学材料からなる2つの回折素子要素(例えば、図1の場合、光学部材L7,L8)を接合し、その接合面に回折格子溝を設けて回折光学面Dを構成している、いわゆる「密着複層型回折光学素子」である。そのため、この回折光学素子は、g線からC線を含む広波長域において回折効率を高くすることができる。したがって、本実施の形態に係る顕微鏡対物レンズOLは広波長域において利用することが可能となる。なお、回折効率は、透過型の回折光学素子において1次回折光を利用する場合、入射強度I0と一次回折光の強度I1との割合η(=I1/I0×100[%])を示す。
【0019】
また、密着複層型回折光学素子は、回折格子溝が形成された2つの回折素子要素をこの回折格子溝同士が対向するように近接配置してなるいわゆる分離複層型回折光学素子に比べて製造工程を簡素化することができるため、量産効率がよく、また光線の入射角に対する回折効率が良いという長所を備えている。したがって、密着複層型回折光学素子を利用した本実施の形態に係る顕微鏡対物レンズOLでは、製造が容易となり、また回折効率も良くなる。
【0020】
ここで、この顕微鏡対物レンズOLの全系の焦点距離をfとし、回折光学面D(図1における第12面)を通る最大画角に対応する光束の主光線の光軸からの高さをhとしたとき、この回折光学素子GDは、次の条件式(2)を満足する位置に配置される。
【0021】
0.01 ≦ |h/f| ≦ 0.04 (2)
【0022】
但し、この図1の顕微鏡レンズOLにおいて、軸外物点から発する光束の主光線を、軸外物点から射出される光束の中、最も光軸から離れた方向に射出される光線を、軸上物点から射出される最大開口数の光線と第1レンズ群G1内のレンズL3の物体側の面との交点で制限し、最も光軸に近い方向に射出される光線を、軸上物点から射出される最大開口数の光線と第3レンズ群G3内のレンズL11の物体側の面との交点で制限し、軸外光束を決め、当該軸外光束の中心光線として決めている。
【0023】
回折光学素子GDを、この条件式(2)を満足する位置に配置することにより、この回折光学素子GDの色収差補正能力を、軸上色収差の補正だけでなく倍率色収差の補正にも効果を持たせることができる。ただし、低倍では倍率色収差の補正は困難ではないため、より軸上色収差の補正に効果的で、ほどよく倍率色収差の補正も助けられるようなバランスを取ることが重要であり、条件式(2)はそれらを考慮した範囲を表している。
【0024】
第3レンズ群G3は、第2レンズ群G2を出射した収斂光束を略平行光束にするレンズ群である。この第3レンズ群G3は、負の屈折力を有する色補正レンズ成分(例えば、図1における両凸レンズL11及び両凹レンズL12からなる接合レンズ成分CL31)を少なくとも1つ有して構成されている。さらに、この第3レンズ群G3の最も像側に配置されるレンズの像側の面(例えば、図1における第18面)は、像側に凹形状に形成されている。第3レンズ群G3へ入射する光束は、第1レンズ群G1及び第2レンズ群G2の合成で正の屈折力を持っているため収斂光束となっている。第3レンズ群G3は、かかる収斂光束を受け、球面収差やコマ収差の発生を抑えつつ平行光束に変換することが大切である。第3レンズ群G3の最も像側の面は、第3レンズ群G3の負の屈折力の多くの部分を担う面であり、この面を像側に凹の面で構成することにより、収斂光線の当該最終面に対する入射角を小さく構成でき、特に高次のコマ収差等の発生を的確に抑えることが可能となる。なお、この色補正レンズ成分は、接合レンズとしてだけでなく、色収差補正能力を大きく低下させない程度の空気間隔を空けて配置した複数のレンズで構成しても良い。
【0025】
さらに、この顕微鏡対物レンズOLは、全系の焦点距離をfとし、第1レンズ群G1と第2レンズ群G2との合成焦点距離をf12としたとき、次の条件式(3)を満足することが望ましい。
【0026】
1 ≦ |f12/f| ≦ 1.5 (3)
【0027】
条件式(3)は、十分な作動距離を確保しながら十分な開口数(NA)を確保するための条件である。この条件式(3)の下限値を下回ると、全系の焦点距離fに比べ、第1及び第2レンズ群G1,G2の合成焦点距離f12が短くなり、十分な開口数の確保が困難になるとともに、球面収差の補正が困難になる。反対に、条件式(3)の上限値を上回ると、全系の焦点距離fに比べ、第1及び第2レンズ群G1,G2の合成焦点距離f12が長くなり、光線の収束が十分でなくなることで全長が長くなる傾向になるとともに、高画角での諸収差や、色収差の二次スペクトルの補正が困難となる。
【0028】
ところで、回折光学素子GDは、回折格子溝の厚さを持っているため、わずかな入射角の変化でも回折効率が大きく変化する。すなわち、回折光学面Dに対する入射角が大きくなると、回折効率が著しく低下し、ブレ−ズされていない次数の光線がフレアとなって表れてしまう。そこで、この顕微鏡対物レンズOLは、全系の焦点距離をfとし、第2レンズ群G2の焦点距離をf2としたとき、次の条件式(4)を満足することが望ましい。
【0029】
10 ≦ |f2/f| (4)
【0030】
条件式(4)は、パワー配分を使って回折光学素子GDへの入射角を制御するための条件である。この条件式(4)の下限値を下回ると、全系の焦点距離fに比べ、第2レンズ群G2の焦点距離f2が短くなり、この第2レンズ群G2内での光線の屈折角が大きくなり、回折光学素子GDへの入射角が大きくなってしまう。また、上述の条件式(3)で、全系の焦点距離fに対する第1及び第2レンズ群G1,G2の合成焦点距離f12の範囲を規定しているため、この条件式(4)の下限値を下回ると、第1レンズ群G1のパワーが弱くなって第1レンズ群G1から発生する収差が減り、第2レンズ群G2での収差、特に球面収差の発生が大きくなり、第1レンズ群G1と第2レンズ群G2との収差のバランスをとるのが困難となる。
【0031】
また、この顕微鏡対物レンズOLは、回折光学素子GDにおける回折光学面Dの回折格子溝の数をNとし、この回折光学面Dの有効半径をHとしたとき、次の条件式(5)を満足することが望ましい。
【0032】
2 ≦ N/H ≦ 5 (5)
【0033】
但し、この図1の顕微鏡対物レンズOLにおいて、有効半径Hは、軸上物点から射出される最大開口数の光線及び、軸外物点から射出される光束の中、最も光軸から離れた方向に射出される光線を、軸上物点から射出される最大開口数の光線と第1レンズ群G1内のレンズL3の物体側の面との交点で制限し、最も光軸に近い方向に射出される光線を、軸上物点から射出される最大開口数の光線と第3レンズ群G3内のレンズL11の物体側の面との交点で制限したときに決まる当該光束の最外側の光線で決定される。
【0034】
条件式(5)は、回折光学面Dの回折格子溝の数Nと有効半径Hとの適切な範囲を規定する条件式である。この条件式(5)の下限値を下回ると、軸上色収差はd線とg線を色消しした際に、C線とF線で色消し不足となる(二次スペクトル)。一方、条件式(5)の上限値を上回ると、軸上色収差はd線とg線を色消しした際に、C線とF線で色消し過剰となる(二次スペクトル)。また、回折光学素子GDに形成された回折格子溝の最小ピッチ幅が小さくなり、製造上の精度を確保するのが困難となる。
【0035】
さらに、この顕微鏡対物レンズOLは、回折光学素子GD中の2つの回折素子要素のうち、屈折率が低くアッベ数が小さい方の回折素子要素の材料のd線に対する屈折率をnd1、F線に対する屈折率をnF1、C線に対する屈折率をnC1とし、回折光学素子中の2つの回折素子要素のうち、屈折率が高くアッベ数が大きい方の回折素子要素の材料のd線に対する屈折率をnd2、F線に対する屈折率をnF2、C線に対する屈折率をnC2としたとき、次の条件式(6)〜(9)を満足することが望ましい。
【0036】
nd1 ≦ 1.54 (6)
0.0145 ≦ nF1−nC1 (7)
1.55 ≦ nd2 (8)
nF2−nC2 ≦ 0.013 (9)
【0037】
条件式(6)〜(9)は、回折光学素子GDを構成する2つの回折素子要素の材質、すなわち2つの異なる紫外線硬化樹脂の屈折率と、F線及びC線に対する分散(nF−nC)をそれぞれ規定するものである。これらの条件式を満足することで、より良い性能で異なる2つの回折素子要素を密着接合させて回折光学面Dを形成することができ、これにより、g線からC線までの広波長域において90%以上の回折効率を実現することができる。なお、このような光学材料としての樹脂の例としては、例えば特願2004−367607号公報、特願2005−237573号公報等に記載されている。各条件式(6)〜(9)の上限値または下限値を超えると、本実施の形態に係る色消しレンズ系における回折光学素子GDは、広波長域において90%以上の回折効率を得ることが困難になり、密着複層型回折光学素子の利点を維持することが困難になってしまう。
【実施例】
【0038】
以下に、本実施の形態に係る顕微鏡対物レンズOLの3つの実施例を示すが、各実施例において、回折光学素子GDに形成された回折光学面Dの位相差は、通常の屈折率と後述する非球面式(10)とを用いて行う超高屈折率法により計算した。超高屈折率法とは、非球面形状と回折光学面の格子ピッチとの間の一定の等価関係を利用するものであり、本実施例においては、回折光学面Dを超高屈折率法のデータとして、すなわち、後述する非球面式(10)及びその係数により示している。なお、本実施例では収差特性の算出対象として、d線、C線、F線及びg線を選んでいる。本実施例において用いられたこれらd線、C線、F線及びg線の波長と、各スペクトル線に対して設定した超高屈折率法の計算に用いるための屈折率の値を次の表1に示す。
【0039】
(表1)
波長 屈折率(超高屈折率法による)
d線 587.562nm 10001.0000
C線 656.273nm 11170.4255
F線 486.133nm 8274.7311
g線 435.835nm 7418.6853
【0040】
各実施例において、非球面は、光軸に垂直な方向の高さをyとし、高さyにおける各非球面の頂点の接平面から各非球面までの光軸に沿った距離(サグ量)をS(y)とし、基準球面の曲率半径(頂点曲率半径)をrとし、円錐定数をκとし、n次の非球面係数をAnとしたとき、以下の式(10)で表される。なお、以降の実施例において、「E−n」は「×10-n」を示す。
【0041】
S(y)=(y2/r)/{1+(1−κ×y2/r21/2
+A2×y2+A4×y4+A6×y6+A8×y8+A10×y10 (10)
【0042】
なお、各実施例において、回折光学面が形成されたレンズ面には、表中の面番号の右側に*印を付しており、非球面式(10)は、この回折光学面の性能の諸元を示している。
【0043】
また、以下の各実施例における顕微鏡対物レンズOL1〜OL3は、無限遠補正型のものであり、図7に示す構成であって、表2に示す諸元を有する結像レンズILとともに使用される。なお、この表2において、第1欄mは物体側からの各光学面の番号を、第2欄rは各光学面の曲率半径を、第3欄dは各光学面から次の光学面までの光軸上の距離(面間隔)を、第4欄ndはd線に対する屈折率を、そして、第5欄νdはアッベ数をそれぞれ示している。ここで、空気の屈折率1.00000は省略してある。この諸元表の説明は以降の実施例においても同様である。
【0044】
(表2)
m r d nd νd
1 75.043 5.10 1.62280 57.0
2 -75.043 2.00 1.74950 35.2
3 1600.580 7.50
4 50.256 5.10 1.66755 42.0
5 -84.541 1.80 1.61266 44.4
6 36.911
【0045】
なお、この結像レンズILは、物体側から順に、両凸レンズL21と両凹レンズL22とを接合した接合レンズ、及び、両凸レンズL23と両凹レンズL24とを接合した接合レンズから構成される。
【0046】
[第1実施例]
上述の説明で用いた図1は、第1実施例に係る顕微鏡対物レンズOL1を示している。この顕微鏡対物レンズOL1は、乾燥系の対物レンズであって、物体側より順に、正の屈折力を有する第1レンズ群G1と、負の屈折力を有する第2レンズ群G2と、負の屈折力を有する第3レンズ群G3とから構成される。第1レンズ群G1は、物体側より順に、物体側に凹面を向けた正メニスカスレンズ(正レンズ成分)L1、物体側に凹面を向けた正メニスカスレンズL2、及び、両凸レンズL3と両凹レンズL4と両凸レンズL5とを接合した接合レンズ成分CL11から構成される。また、第2レンズ群G2は、物体側から順に、両凸レンズ形状の回折光学素子GDと両凹レンズL10とを接合した接合レンズ成分CL21から構成される。さらに、第3レンズ群G3は、物体側から順に、両凸レンズL11と両凹レンズL12とを接合した接合レンズ成分(色補正レンズ成分)CL31から構成される。ここで、この第1実施例においては、第1レンズ群G1の最も物体側に位置する正レンズ成分(正メニスカスレンズL1)は、1つの負の屈折力を有するレンズ面(第1面)を有し、また、第3レンズ群G3の最も像側のレンズ面(第18面)は、像側に凹面を向けて配置されている。
【0047】
また、回折光学素子GDは、物体側に凸面を向けた平凸レンズL6、それぞれ異なる樹脂材料から形成された2個の光学部材L7,L8、及び、像側に凸面を向けた平凸レンズL9がこの順で接合され、光学部材L7,L8の接合面に回折格子溝(回折光学面D)が形成されている。すなわち、この回折光学素子GDは、密着複層型の回折光学素子である。
【0048】
このように図1に示した第1実施例に係る顕微鏡対物レンズOL1の諸元を表3に示す。なお、この表3において、fは顕微鏡対物レンズOL1の全系の焦点距離を、NAは開口数を、βは倍率をそれぞれ示している。また、d0は標本(物体)から最も物体側にある正レンズ成分(正メニスカスレンズL1)に含まれる負の屈折力を有するレンズ面のうち、最も物体側に位置する負の屈折力を有するレンズ面(第1面)の頂点までの光軸上の距離を示している。なお、この第1実施例では、厚さ0.170mm、d線に対する屈折率1.52216、アッベ数58.8のカバーガラスを用いて物体(標本)を観察するように構成されている。そのため、上述のd0は、このカバーガラスの厚さが除かれている。
【0049】
また、表3において、hは回折光学面Dを通る最大画角に対応する光束の主光線の光軸からの高さを示し、f1は第1レンズ群G1の焦点距離を示し、f2は第2レンズ群G2の焦点距離を示し、f12は第1及び第2レンズ群G1,G2の合成焦点距離を示し、f3は第3レンズ群G3の焦点距離を示し、Nは回折光学素子GDにおける回折光学面Dの回折格子溝の数を示し、Hはこの回折光学面の有効半径を示す。また、前述の如く、本第1実施例における軸外主光線及び有効径を決める軸外光束を制限するレンズ面は、両凸レンズL3の物体側の面(第5面)と両凸レンズL11の物体側の面(第16面)である。
【0050】
また、表3において、第1欄mに示す各光学面の番号(右の*は回折光学面として形成されているレンズ面を示す)は、図1に示した面番号1〜18に対応している。また、第2欄rにおいて、曲率半径0.000は平面を示している。また、回折光学面の場合は、第2欄rにベースとなる非球面の基準となる球面の曲率半径を示し、超高屈折率法に用いるデータは非球面データとして諸元表内に示している。さらに、この表3には、上記条件式(1)〜(9)に対応する値、すなわち、条件対応値も示している。以上の諸元表の説明は、以降の実施例においても同様である。
【0051】
なお、以下の全ての諸元において掲載される曲率半径r、面間隔d、全系の焦点距離fその他長さの単位は、特記の無い場合、一般に「mm」が使われるが、光学系は比例拡大又は比例縮小しても同等の光学性能が得られるので、単位は「mm」に限定されることはなく、他の適当な単位を用いることもできる。
【0052】
(表3)
f=10.030
NA=0.75
β=20x
d0=1.426
h=0.234
f1=11.913
f2=-2083.794
f12=11.339
f3=-842.747
N=25
H=9.43

m r d nd νd
1 -5.203 10.00 1.72916 54.7
2 -8.542 0.15
3 -494.981 5.40 1.49782 82.5
4 -15.368 0.15
5 93.917 5.30 1.49782 82.5
6 -21.131 1.50 1.61340 44.3
7 17.138 7.65 1.49782 82.5
8 -24.188 0.15
9 57.175 4.00 1.51680 64.1
10 0.000 0.20 1.55690 50.2
11 0.000 0.00 10001.00000 -3.5
12* 0.000 0.20 1.52760 34.7
13 0.000 3.80 1.60300 65.5
14 -26.099 1.20 1.75520 27.5
15 166.877 14.80
16 24.623 4.60 1.71736 29.5
17 -41.588 1.15 1.51742 52.3
18 13.348

回折光学面データ
第12面 κ=1.0000 A2=-1.6667E-08 A4=3.83938E-14
A6=-1.86752E-16 A8=-6.20047E-19 A10=0.00000E+00

条件対応値
(1)|(n2−n1)/(R・d0)|=0.098
(2)|h/f|=0.02
(3)|f12/f|=1.1
(4)|f2/f|=207.7
(5)N/H=2.7
(6)nd1=1.528
(7)nF1−nC1=0.0152
(8)nd2=1.557
(9)nF2−nC2=0.0111
【0053】
なお、表3に示した条件対応値のうち、条件式(1)は、第1面の曲率半径R、その前後の媒質のd線に対する屈折率n1,n2及び物体から第1面までの光軸上の距離d0から算出された値である。また、条件式(6),(7)は第12面の値に相当し、条件式(8),(9)は第10面の値に相当する。このように、第1実施例では上記条件式(1)〜(9)は全て満たされていることが分かる。図2に、この第1実施例におけるd線、C線、F線及びg線の光線に対する球面収差、非点収差、倍率色収差、及び、コマ収差の諸収差図を示す。これらの収差図のうち、球面収差図は開口数NAに対する収差量を示し、非点収差図及び倍率色収差は像高Yに対する収差量を示し、コマ収差図は、像高Yが12.5mmのとき、9.0mmのとき、6.0mmのとき、及び、0mmのときの収差量を示している。また、球面収差図、倍率色収差図及びコマ収差図において、実線はd線を示し、点線はC線を示し、一点鎖線はF線を示し、二点鎖線はg線を示している。さらに、非点収差図において、実線は各波長の光線に対するサジタル像面を示し、破線は各波長の光線に対するメリジオナル像面を示している。これらの諸収差図の説明は以降の実施例においても同様である。この図2に示す各収差図から明らかなように、第1実施例では諸収差が良好に補正され、優れた結像性能が確保されていることがわかる。
【0054】
[第2実施例]
次に、第2実施例として、図3に示す顕微鏡対物レンズOL2について説明する。この図3に示す顕微鏡対物レンズOL2も、乾燥系の対物レンズであって、物体側より順に、正の屈折力を有する第1レンズ群G1と、正の屈折力を有する第2レンズ群G2と、負の屈折力を有する第3レンズ群G3とから構成される。第1レンズ群G1は、物体側より順に、物体側に凹面を向けた負メニスカスレンズL1と物体側に凹面を向けた正メニスカスレンズL2とを接合した接合レンズ成分(正レンズ成分)CL11、両凸レンズL3、及び、物体側に凸面を向けた負メニスカスレンズL4と両凸レンズL5とを接合した接合レンズ成分CL12から構成される。また、第2レンズ群G2は、物体側から順に、回折光学面Dを含む平板形状の回折光学素子GD、及び、両凸レンズL10と物体側に凹面を向けた負メニスカスレンズL11とを接合した接合レンズ成分CL21で構成される。さらに、第3レンズ群G3は、物体側から順に、物体側に凹面を向けた正メニスカスレンズL12と両凹レンズL13とを接合した接合レンズ成分(色補正レンズ成分)CL31から構成される。ここで、この第2実施例においては、第1レンズ群G1の最も物体側に位置する正レンズ成分(接合レンズ成分CL11)は、2つの負の屈折力を有するレンズ面(第1面及び第2面)を有し、また、第3レンズ群G3の最も像側のレンズ面(第20面)は、像側に凹面を向けて配置されている。また、本第2実施例における軸外主光線及び有効径を決める軸外光束を制限するレンズ面は、正メニスカスレンズL2の像側の面(第3面)と正メニスカスレンズL12の物体側の面(第18面)である。
【0055】
また、この第2実施例に係る回折光学素子GDも密着複層型の回折光学素子であって、平板状の光学ガラスL6、それぞれ異なる樹脂材料から形成された2個の光学部材L7,L8、及び、平板状の光学ガラスL9がこの順で接合され、光学部材L7,L8の接合面に回折格子溝(回折光学面D)が形成されている。
【0056】
この図3に示した第2実施例に係る顕微鏡対物レンズOL2の諸元を表4に示す。なお、表4に示す面番号は図3に示した面番号1〜20と一致している。また、d0は標本(物体)から最も物体側にある正レンズ成分(接合レンズ成分CL11)に含まれる負の屈折力を有するレンズ面のうち、最も物体側に位置する負の屈折力を有するレンズ面(第1面)の頂点までの光軸上の距離を示している。
【0057】
(表4)
f=9.962
NA=0.45
β=20x
d0=5.561
h=0.336
f1=15.459
f2=116.019
f12=13.404
f3=-36.215
N=26
H=7.89

m r d nd νd
1 -13.200 8.80 1.59270 35.3
2 -89.546 5.46 1.65160 58.5
3 -12.975 0.20
4 1362.063 3.65 1.49782 82.6
5 -24.083 0.30
6 51.899 1.00 1.64769 33.8
7 18.663 4.50 1.49782 82.6
8 -93.183 0.20
9 0.000 1.50 1.51680 64.1
10 0.000 0.20 1.55690 50.2
11 0.000 0.00 10001.00000 -3.5
12* 0.000 0.20 1.52760 34.7
13 0.000 1.50 1.51680 64.1
14 0.000 0.20
15 30.634 5.10 1.49782 82.6
16 -18.485 1.00 1.66755 42.0
17 -1177.040 15.83
18 -550.436 3.70 1.74077 27.8
19 -14.581 2.80 1.51742 52.3
20 12.143

回折光学面データ
第12面 κ=1.0000 A2=-2.50000E-08 A4=1.32542E-13
A6=-2.23241E-16 A8=-1.44998E-18 A10=0.00000E+00

条件対応値
(1)|(n2−n1)/(R・d0)|=0.008
(2)|h/f|=0.03
(3)|f12/f|=1.3
(4)|f2/f|=11.6
(5)N/H=3.3
(6)nd1=1.528
(7)nF1−nC1=0.0152
(8)nd2=1.557
(9)nF2−nC2=0.0111
【0058】
なお、表4に示した条件対応値のうち、条件式(1)は、第1面の曲率半径R、その前後の媒質のd線に対する屈折率n1,n2及び物体から第1面までの光軸上の距離d0から算出された値である。また、条件式(6),(7)は第12面の値に相当し、条件式(8),(9)は第10面の値に相当する。このように、第2実施例では上記条件式(1)〜(9)は全て満たされていることが分かる。図4にこの第2実施例に係る顕微鏡対物レンズOL2の球面収差、非点収差、倍率色収差及びコマ収差の諸収差図を示す。この各収差図から明らかなように、この第2実施例でも、収差が良好に補正され、優れた結像性能が確保されていることが分かる。
【0059】
[第3実施例]
次に、第3実施例として、図5に示す顕微鏡対物レンズOL3について説明する。この図5に示す顕微鏡対物レンズOL3も、乾燥系の対物レンズであって、物体側より順に、正の屈折力を有する第1レンズ群G1と、正の屈折力を有する第2レンズ群G2と、負の屈折力を有する第3レンズ群G3とから構成される。第1レンズ群G1は、物体側より順に、両凹レンズL1と両凸レンズL2とを接合した接合レンズ成分(正レンズ成分)CL11、及び、両凸レンズL3から構成される。また、第2レンズ群G2は、平板形状の回折光学素子GDから構成される。さらに、第3レンズ群G3は、物体側から順に、両凸レンズL8と両凹レンズL9とを接合した接合レンズ成分(色補正レンズ成分)CL31から構成される。ここで、この第3実施例においても、第1レンズ群G1の最も物体側に位置する正レンズ成分(接合レンズ成分CL11)は、2つの負の屈折力を有するレンズ面(第1面及び第2面)を有し、また、第3レンズ群G3の最も像側のレンズ面(第14面)は、像側に凹面を向けて配置されている。また、本第3実施例における軸外主光線及び有効径を決める軸外光束を制限するレンズ面は、両凸レンズL2の像側の面(第3面)と両凹レンズL9の像側の面(第14面)である。
【0060】
また、この第3実施例に係る回折光学素子GDも密着複層型の回折光学素子であって、平板状の光学ガラスL4、それぞれ異なる樹脂材料から形成された2個の光学部材L5,L6、及び、平板状の光学ガラスL7がこの順で接合され、光学部材L5,L6の接合面に回折格子溝(回折光学面D)が形成されている。
【0061】
この図5に示した第3実施例に係る顕微鏡対物レンズOL3の諸元を表5に示す。なお、表5に示す面番号は図5に示した面番号1〜14と一致している。また、d0は標本(物体)から最も物体側にある正レンズ成分(接合レンズ成分CL11)に含まれる負の屈折力を有するレンズ面のうち、最も物体側に位置する負の屈折力を有するレンズ面(第1面)の頂点までの光軸上の距離を示している。
【0062】
(表5)
f=20.015
NA=0.25
β=10x
d0=11.600
h=0.381
f1=24.397
f2=1200.063
f12=23.824
f3=-2110.168
N=27
H=6.15

m r d nd νd
1 -20.000 9.70 1.80384 33.9
2 36.020 3.05 1.60300 65.5
3 -15.779 0.75
4 40.984 4.50 1.60311 60.7
5 -39.626 0.30
6 0.000 1.50 1.51680 64.1
7 0.000 0.20 1.55690 50.2
8 0.000 0.00 10001.00000 -3.5
9* 0.000 0.20 1.52760 34.7
10 0.000 1.50 1.51680 64.1
11 0.000 14.90
12 13.519 3.30 1.56883 56.3
13 -180.667 2.65 1.51823 58.9
14 10.140

回折光学面データ
第9面 κ=1.0000 A2=-4.16667E-08 A4=1.32746E-13
A6=-2.17799E-16 A8=-1.31199E-18 A10=0.00000E+00

条件対応値
(1)|(n2−n1)/(R・d0)|=0.003
(2)|h/f|=0.02
(3)|f12/f|=1.2
(4)|f2/f|=60.0
(5)N/H=4.4
(6)nd1=1.528
(7)nF1−nC1=0.0152
(8)nd2=1.557
(9)nF2−nC2=0.0111
【0063】
なお、表5に示した条件対応値のうち、条件式(1)は、第1面の曲率半径R、その前後の媒質のd線に対する屈折率n1,n2及び物体から第1面までの光軸上の距離d0から算出された値である。また、条件式(6),(7)は第9面の値に相当し、条件式(8),(9)は第7面の値に相当する。このように、第3実施例では上記条件式(1)〜(9)は全て満たされていることが分かる。図6にこの第3実施例に係る顕微鏡対物レンズOL3の球面収差、非点収差、倍率色収差及びコマ収差の諸収差図を示す。この各収差図から明らかなように、この第3実施例でも、収差が良好に補正され、優れた結像性能が確保されていることが分かる。
【符号の説明】
【0064】
OL(OL1〜OL3) 顕微鏡対物レンズ G1 第1レンズ群
G2 第2レンズ群 G3 第3レンズ群
GD 回折光学素子 CL31 色補正レンズ成分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体側から順に、
正の屈折力を有する第1レンズ群と、
第2レンズ群と、
負の屈折力を有する第3レンズ群と、を有し、
前記第1レンズ群は、最も物体側に位置し、負の屈折力を有するレンズ面を含む正レンズ成分を有し、
前記第2レンズ群は、異なる光学材料からなる2つの回折素子要素を接合し、当該接合面に回折格子溝が形成された回折光学面を有する回折光学素子を有し、
前記第3レンズ群は、少なくとも1つ以上の、負の屈折力を有する色補正レンズ成分を有し、且つ、当該第3レンズ群の最も像側のレンズ面が、像側に凹面を向けて配置されており、
前記第1レンズ群に設けられた前記正レンズ成分に含まれる前記負の屈折力を有するレンズ面のうち、最も物体側に配置された負の屈折力を有するレンズ面の曲率半径をRとし、当該負の屈折力を有するレンズ面の物体側の媒質のd線に対する屈折率をn1、像側の媒質のd線に対する屈折率をn2とし、当該負の屈折力を有するレンズ面の頂点から物体までの光軸上の距離をd0としたとき、次式
|(n2−n1)/(R・d0)| ≦ 0.1
の条件を満足し、
全系の焦点距離をfとし、前記回折光学面を通る最大画角に対応する光束の主光線の光軸からの高さをhとしたとき、次式
0.01 ≦ |h/f| ≦ 0.04
の条件を満足する顕微鏡対物レンズ。
【請求項2】
前記第1レンズ群と前記第2レンズ群との合成焦点距離をf12としたとき、次式
1 ≦ |f12/f| ≦ 1.5
の条件を満足する請求項1に記載の顕微鏡対物レンズ。
【請求項3】
前記第2レンズ群の焦点距離をf2としたとき、次式
10 ≦ |f2/f|
の条件を満足する請求項1または2に記載の顕微鏡対物レンズ。
【請求項4】
前記回折光学素子における前記回折光学面の回折格子溝の数をNとし、当該回折光学面の有効半径をHとしたとき、次式
2 ≦ N/H ≦ 5
の条件を満足する請求項1〜3いずれか一項に記載の顕微鏡対物レンズ。
【請求項5】
前記回折光学素子中の前記2つの回折素子要素のうち、屈折率が低くアッベ数が小さい方の前記回折素子要素の材料のd線に対する屈折率をnd1、F線に対する屈折率をnF1、C線に対する屈折率をnC1とし、前記回折光学素子中の前記2つの回折素子要素のうち、屈折率が高くアッベ数が大きい方の前記回折素子要素の材料のd線に対する屈折率をnd2、F線に対する屈折率をnF2、C線に対する屈折率をnC2としたとき、次式
nd1 ≦ 1.54
0.0145 ≦ nF1−nC1
1.55 ≦ nd2
nF2−nC2 ≦ 0.013
の条件を満足する請求項1〜4いずれか一項に記載の顕微鏡対物レンズ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−197536(P2010−197536A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−40281(P2009−40281)
【出願日】平成21年2月24日(2009.2.24)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】