説明

顕微鏡用照明装置および蛍光顕微鏡装置

【課題】カップリングレンズ以降において発生した光軸ズレによる光ファイバへの結合効率の低下を防止する。
【解決手段】短パルスレーザ光を出射する短パルスレーザ光源5と、該短パルスレーザ光源5からの短パルスレーザ光の分散を補償する分散補償光学系6と、該分散補償光学系6により分散を補償された短パルスレーザ光を顕微鏡本体3に導く光ファイバ7と、該光ファイバ7のコアに入射させる短パルスレーザ光を集光させるカップリング光学系8と、光ファイバ7のコアに入射させる短パルスレーザ光の光軸を調節するビーム位置補正機構9と、光ファイバ7の出射端7bと顕微鏡本体3との間に配置され、光ファイバ7から出射される短パルスレーザ光の光量を検出する光量検出器10とを備える顕微鏡用照明装置2を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顕微鏡用照明装置および蛍光顕微鏡装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、レーザ光源から出射されたレーザ光を光ファイバを用いて顕微鏡本体に導入し、蛍光観察を行う際に、波長が変化しても光ファイバへの結合効率を低下させることなく、かつ均一なビーム径の平行光として顕微鏡本体に入射させるために、レーザ光の波長に応じて光ファイバへのカップリングレンズを光軸上で移動させる顕微鏡装置が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
【特許文献1】特開2006−171027号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示されている顕微鏡用照明装置は、カップリングレンズよりもレーザ光源側において光軸のズレを調整するアライメント調整光学系を備えているため、カップリングレンズ以降において光軸ズレが発生した場合に、これを修正することができないという不都合がある。
【0005】
すなわち、光ファイバのコア径は、約数μm〜数10μmであるため、カップリングレンズと光ファイバの入射端面との相対位置関係が、例えば、温度変化等の要因によって、光軸に交差する方向に数μmずれると、結合効率が低下するという不都合がある。また、カップリングレンズを光軸方向に移動させることによっても、機械的な誤差により光軸が変動する可能性があり、これによっても結合効率が低下する不都合が考えられる。
【0006】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、カップリングレンズ以降において発生した光軸ズレによる光ファイバへの結合効率の低下を防止することができる顕微鏡用照明装置および蛍光顕微鏡装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、短パルスレーザ光を出射する短パルスレーザ光源と、該短パルスレーザ光源からの短パルスレーザ光の分散を補償する分散補償光学系と、該分散補償光学系により分散を補償された短パルスレーザ光を顕微鏡本体に導く光ファイバと、該光ファイバのコアに入射させる短パルスレーザ光を集光させるカップリング光学系と、前記光ファイバのコアに入射させる短パルスレーザ光の光軸を調節するビーム位置補正機構と、前記光ファイバの出射端と前記顕微鏡本体との間に配置され、前記光ファイバから出射される短パルスレーザ光の光量を検出する光量検出器とを備える顕微鏡用照明装置を提供する。
【0008】
本発明によれば、短パルスレーザ光源から発せられる短パルスレーザ光の波長が変更されると、分散補償光学系による分散補償量が変更され、これに基づいて光軸の位置ズレあるいは傾きが発生しても、ビーム位置補正機構の作動により、これらの光軸ズレあるいは傾きを補正して、カップリング光学系による光ファイバのコアへの短パルスレーザ光の結合効率を向上することができる。この場合において、本発明によれば、光ファイバの出射端と顕微鏡との間に設けられた光量検出器により、光ファイバから出射された短パルスレーザ光の光量が検出されるので、温度変化等の種々の要因により、カップリング光学系以降において光軸ズレが発生した場合にも、検出光量の低下によってそれを認識することが可能となる。
【0009】
上記発明においては、前記光量検出器により検出された短パルスレーザ光の光量が最大となるように前記ビーム位置補正機構を制御する制御部を備えることとしてもよい。
このように構成することで、光ファイバへの結合効率を最大限に維持することが可能となる。
【0010】
また、上記発明においては、前記ビーム位置補正機構と前記カップリングレンズとの間に、短パルスレーザ光の光軸ズレを検出する光軸ズレ検出機構を備えることとしてもよい。
このようにすることで、光ファイバへの入射端の前段において、光軸ズレ検出機構の作動により光軸ズレを検出し、その検出結果に基づいてビーム位置補正機構を作動させることにより、光ファイバのコアから外れるほど大きな光軸ズレが生じている場合においても、これを検出して補正することが可能となる。
【0011】
また、上記発明においては、前記光軸ズレ検出機構が、光軸方向に間隔をあけて配置された2つの絞り機構からなることとしてもよい。
このようにすることで、2つの絞り機構をターゲットとして機能させ、光軸のズレと傾きを容易に検出することが可能となる。
【0012】
また、上記発明においては、前記光軸ズレ検出機構が、短パルスレーザ光のスポット位置を検出するポジションセンサからなることとしてもよい。
このようにすることで、ポジションセンサにより検出されるスポット位置の変化により、短パルスレーザ光の光軸ズレを容易に検出できる。
【0013】
また、上記発明においては、前記光軸ズレ検出機構が、2次元的な撮像素子からなることとしてもよい。
このようにすることで、ポジションセンサと同様にして、2次元的な撮像素子により取得される画像内の高輝度の画素位置により、短パルスレーザ光のスポット位置を検出し、光軸ズレを容易に検出することができる。
【0014】
また、前記光軸ズレ検出機構が、光量検出器と、該光量検出器に入射する短パルスレーザ光の光束を制限する絞りとを備えることとしてもよい。
このようにすることで、短パルスレーザ光に光軸ずれが発生すると、絞りにより短パルスレーザ光がけられ、光量検出器により検出される光量が低下するので、光軸ズレを容易に検出することができる。
また、これらポジションセンサ、撮像素子あるいは光量検出器を、光軸方向に間隔をあけた2カ所に配置し、各位置における光軸ズレを検出することにより、光軸の傾きを容易に検出することができる。
【0015】
また、上記発明においては、短パルスレーザ光の波長に対応づけて前記ビーム位置補正機構の調整目標値を記憶する記憶部を備え、前記ビーム位置補正機構が短パルスレーザ光の波長に応じて記憶部に記憶されている調整目標値に調節されることとしてもよい。
このようにすることで、短パルスレーザ光の波長が切り替えられると、記憶部に記憶されている調整目標値にビーム位置補正機構が調節され、光ファイバへの結合効率を迅速に向上することができる。
【0016】
また、上記発明においては、前記ビーム位置補正機構が前記光ファイバの入射端を移動させる光ファイバ移動機構からなることとしてもよい。
このようにすることで、光ファイバ移動機構を作動させ、光ファイバの移動端を光軸に交差する方向に2次元的に移動させることにより光軸ズレを補正し、あるいは、さらに光軸方向に移動させることにより、カップリング光学系による短パルスレーザ光の集光位置を光ファイバの入射端側のコア位置に一致させることができ、結合効率を向上することができる。
【0017】
また、上記発明においては、前記光軸ズレ検出機構と前記光ファイバの入射端との間に配置され、短パルスレーザ光の光ファイバへの入射を制限可能な減光手段を備えることとしてもよい。
このようにすることで、光軸ズレ検出機構による光軸ズレの検出時に、減光手段を作動させて、短パルスレーザ光の光ファイバへの入射を制限し、光ファイバの入射端側においてコアから外れた位置に短パルスレーザ光が照射されることによる光ファイバの損傷を防止することが可能となる。減光手段としては、減光フィルタの他、光ファイバの入射端への短パルスレーザ光の入射を遮断するシャッタを用いることができる。
【0018】
また、上記発明においては、前記光ファイバの出射端に対向して配置され、短パルスレーザ光の波長に基づいて光軸方向に移動可能な少なくとも1つのレンズを有するズーム光学系を備えることとしてもよい。
このようにすることで、ズーム光学系を作動させて、1以上のレンズを光軸方向に移動させることにより、顕微鏡本体に入射させる短パルスレーザ光の光束径を任意に調節することができる。
【0019】
また、上記発明においては、前記短パルスレーザ光源と、前記ビーム位置補正機構との間に、音響光学素子または電気光学素子が配置され、該音響光学素子または電気光学素子と、前記ビーム位置補正機構との間に、非点較差補正光学系が配置されていることとしてもよい。
【0020】
このようにすることで、パルスレーザ光源から出射された短パルスレーザ光は音響光学素子または電気光学素子によりオンオフ、光量調整あるいは波長選択が行われる。音響光学素子または電気光学素子においては屈折率変化により短パルスレーザ光が回折させられ、その回折方向に短パルスレーザ光の波長分散が発生し、出射される短パルスレーザ光が広がる。したがって、非点較差補正光学系により、波長分散を補正することによって、均一な光束断面形状の短パルスレーザ光としてビーム位置補正機構に入射させることができる。
【0021】
また、上記発明においては、前記ビーム位置補正機構と前記カップリングレンズとの間に、短パルスレーザ光の光軸ズレを検出する光軸ズレ検出機構を備え、前記制御部が、前記光軸ズレ検出機構により検出された光軸ズレに基づいて前記ビーム位置補正機構を制御し、光軸が所定の範囲に調節された後には、光量検出器により検出された短パルスレーザ光の光量が最大となるように前記ビーム位置補正機構を制御することとしてもよい。
【0022】
このようにすることで、制御部は、まず光軸ズレ検出機構により検出された光軸ズレに基づいてビーム位置補正機構による光軸調節を行い、次いで、光量検出器により検出された短パルスレーザ光の光量が最大となるようにビーム位置補正機構による光軸調節を行う。すなわち、まず光ファイバの入射端への入射前における光軸ズレを検出して補正することにより、短パルスレーザ光が光ファイバのコアから外れないようにし、その後の光軸ズレについては、光ファイバの出射端以降に配置された光量検出器により補正する。その結果、温度変化等により発生するカップリングレンズ以降の光軸ズレによる結合効率の低下を防止することができる。
【0023】
また、本発明は、上記いずれかの顕微鏡用照明装置と、該顕微鏡用照明装置から出射された短パルスレーザ光を2次元的に走査させるスキャナと、該スキャナにより走査された短パルスレーザ光を標本に照射する一方、標本において発生した蛍光を集光する対物レンズと、該対物レンズにより集光された蛍光を検出する光検出器とを有する顕微鏡本体とを備える蛍光顕微鏡装置を提供する。
【0024】
本発明によれば、顕微鏡用照明装置から出射された短パルスレーザ光がスキャナにより2次元的に走査され、対物レンズを介して標本に照射される。標本においては短パルスレーザ光が照射されることにより蛍光物質が励起されて蛍光が発生し、対物レンズにより集光される。対物レンズにより集光された蛍光は光検出器により検出されることにより、蛍光画像が取得される。この場合において、顕微鏡照明装置から出射される短パルスレーザ光は結合効率の低下が防止されているので、経時的な温度変化等による蛍光画像の明るさの変動を防止し、正確な診断が可能な蛍光画像を取得することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、カップリングレンズ以降において発生した光軸ズレによる光ファイバへの結合効率の低下を防止することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明の一実施形態に係る顕微鏡用照明装置2および蛍光顕微鏡装置1について、図1および図2を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る蛍光顕微鏡装置1は、図1に示されるように、顕微鏡用照明装置2と、顕微鏡本体3と、これらを制御する制御装置4とを備えている。
【0027】
顕微鏡用照明装置2は、短パルスレーザ光を出射する短パルスレーザ光源5と、該短パルスレーザ光源5からの短パルスレーザ光の分散を補償する分散補償光学系6と、該分散補償光学系6により分散を補償された短パルスレーザ光を顕微鏡本体3に導く光ファイバ7と、該光ファイバ7の入射端7aのコアに入射させる短パルスレーザ光を集光させるカップリング光学系8と、光ファイバ7のコアに入射させる短パルスレーザ光の光軸を調節するビーム位置補正機構9と、光ファイバ7の出射端7bと顕微鏡本体3との間に配置され、光ファイバ7から出射される短パルスレーザ光の光量を検出する光量検出器10とを備えている。
【0028】
短パルスレーザ光源5と分散補償光学系6との間には、音響光学素子11および該音響光学素子11から出射された短パルスレーザ光の波長分散を補正するシリンドリカルレンズ(非点較差補正光学系)12が備えられている。また、ビーム位置補正機構9が分散補償光学系6の直後に配置され、該ビーム位置補正機構9とカップリング光学系8との間には、光軸ズレ検出機構13が備えられている。
【0029】
さらに、カップリング光学系8と光ファイバ7の入射端7aとの間には、オンオフにより、短パルスレーザ光の透過および遮断を切り替えるシャッタ14が備えられている。
また、光ファイバ7の出射端7aには、ビームエキスパンダ15が対向して備えられている。
光ファイバ7は、例えば、フォトニッククリスタルファイバのような光波長帯域にわたり単一モードを維持できるシングルモードファイバである。
【0030】
前記短パルスレーザ光源5は、波長可変のサブピコオーダの短パルスレーザ光を出射するようになっている。
前記音響光学素子11は、入射される短パルスレーザ光に回折を生じさせることにより、波長選択、調光あるいはシャッタ手段として機能するようになっている。
前記シリンドリカルレンズ12は、音響光学素子11による短パルスレーザ光の回折方向に正の屈折率を有し、音響光学素子11により回折させられることにより、回折方向に波長分散を生じた短パルスレーザ光を一方向に集光させることで、略平行光に戻すようになっている。
【0031】
前記分散補償光学系6は、例えば、間隔調整可能な一対のグレーティング6a,6bと可動ミラー6cとを備えている。短パルスレーザ光の波長が変更されると、そのパルス幅が変動するので、グレーティング6a,6bの間隔を調節して分散補償量を変化させることにより、標本Aにおける多光子励起効果の効率を最適に維持することができる。
【0032】
例えば、短パルスレーザ光が光学系を通過する場合、波長が短いほど媒質中での速度が遅く、波長が長いほど速くなる。このため、波長幅を有する短パルスレーザ光が光学系を通過する場合、波長によって通過時間に差が生じる結果、パルス幅が太る。また、短パルスレーザ光の波長が変化した場合には、パルス幅の太る程度も変化する。したがって、分散補償光学系6により、レーザ光の長波長成分を短波長成分より遅らせ、かつ、短パルスレーザ光の波長に応じてその遅らせる程度を変更することにより、短パルスレーザ光の波長が変化した場合にもパルス幅の短い短パルスレーザ光を維持したまま標本Aに照射することができる。
【0033】
前記ビーム位置補正機構9は、光軸に直交する2軸回りにそれぞれ揺動可能、かつ、間隔調節可能な2枚のミラー(図示略)により構成されている。各ミラーは図示しないモータにより駆動されるようになっている。これにより、光軸に発生するシフトおよび傾きを補正することができるようになっている。
【0034】
前記光軸ズレ検出機構13は、短パルスレーザ光の一部を分岐するビームスプリッタ13aと、検出機構本体13bとを備えている。検出機構本体13bは、例えば、図2に示されるように、前記ビームスプリッタ13aにより分岐された短パルスレーザ光をさらに2つに分岐するビームスプリッタ13cと、該ビームスプリッタ13cにより分岐された短パルスレーザ光を異なる光路長を経た後に検出する2つの4分割ダイオード13d,13eとにより構成されている。これにより、短パルスレーザ光の光軸のシフトおよび傾きを検出することができるようになっている。
【0035】
前記カップリング光学系8は、1以上のレンズにより構成され、短パルスレーザ光を光ファイバ7の入射端7aの中心位置(コア)に集光させる機能を有している。分散補償光学系6の作動等による光路長の変動等によって入射ビーム径が変動すると、集光位置が光軸方向にずれるので、1以上のレンズを光軸方向に移動させることにより、集光位置を光軸方向に調節することができるようなっている。
【0036】
前記シャッタ14は、例えば、メカニカルシャッタであり、光軸ズレ検出機構13による光軸ズレの検出およびこれに基づくビーム位置補正機構9による補正動作の際に、短パルスレーザ光を遮断し、補正動作終了後に透過させるようになっている。補正動作時には、光軸ズレによって短パルスレーザ光の集光位置がコアから外れると光ファイバ7が損傷することがあるため、これを遮断して損傷を防止することができるようになっている。
【0037】
前記ビームエキスパンダ15は、光軸方向に駆動可能な1以上のレンズを含む2以上のレンズにより構成されている。1以上のレンズを光軸方向に駆動することにより、光ファイバ7から出射された短パルスレーザ光の光束径を任意に調節することができるようになっている。
【0038】
前記光量検出器10は、ビームエキスパンダ15から出射された短パルスレーザ光の一部を分岐するビームスプリッタ10aと、該ビームスプリッタ10aにより分岐された短パルスレーザ光を検出するフォトダイオード等の光電検出器10bとを備えている。光電検出器10bの出力変動をモニタリングすることにより、光ファイバ7から出射された短パルスレーザ光の光量の変動を検出することができるようになっている。
【0039】
前記顕微鏡本体3は、顕微鏡用照明装置2から入射されてくる短パルスレーザ光を2次元的に走査するスキャナ16と、該スキャナ16により走査された短パルスレーザ光を集光する瞳投影レンズ17および結像レンズ18と、これら瞳投影レンズ17および結像レンズ18を通過した短パルスレーザ光を集光して標本Aに照射する対物レンズ19と、該対物レンズ19により集光された標本Aからの蛍光を、短パルスレーザ光から分岐するダイクロイックミラー20と、該ダイクロイックミラー20により分岐された蛍光を検出する光検出器21とを備えている。図中符号22はバリアフィルタ、符号23は集光レンズである。
【0040】
スキャナ16は、例えば、相互に直交する2つの軸線回りに揺動させられる2枚のガルバノミラー(図示略)を近接配置した、いわゆる近接ガルバノミラーにより構成されている。
光検出器21は、例えば、光電子増倍管により構成されている。光検出器21により検出された蛍光光量と、その検出時におけるスキャナ16の走査位置情報とを対応づけて記憶しておくことにより、2次元的な蛍光画像を構築することができるようになっている。
【0041】
前記制御装置4は、短パルスレーザ光の波長と、該波長に対応する音響光学素子11、分散補償光学系6、カップリング光学系8およびビームエキスパンダ15の調節目標値とを対応づけて記憶するメモリ24を備えている。制御装置4は、短パルスレーザ光源5に対して、出射すべき短パルスレーザ光の波長を指令する信号を出力する際には、メモリ24から読み出した調節目標値を音響光学素子11、分散補償光学系6、カップリング光学系8およびビームエキスパンダ15に対して出力し、波長毎に予め定められた状態に制御するようになっている。
【0042】
また、制御装置4は、短パルスレーザ光の波長を変更したときは、まず、シャッタ14を駆動して光路を遮断し、短パルスレーザ光の光ファイバ7への入射を禁止するようになっている。そして、光軸ズレ検出機構13により検出された光軸のシフトおよび傾きを調節するようにビーム位置補正機構9を作動させるようになっている。その後、光軸ズレが補正された段階でシャッタ14による光路の遮断を終了して、短パルスレーザ光を光ファイバ7に入射させるようになっている。
【0043】
また、制御装置4は、シャッタ14を開放した後には、光軸ズレ検出機構13による検出信号に基づくビーム位置補正機構9の制御から、光量検出器10により検出される光量に基づくビーム位置補正機構9の制御に切り替えるようになっている。
【0044】
このように構成された本実施形態に係る顕微鏡用照明装置2および蛍光顕微鏡装置1の作用について以下に説明する。
短パルスレーザ光源5から出射された短パルスレーザ光は、音響光学素子11により調光、オンオフあるいは波長選択された後に、シリンドリカルレンズ12により非点較差を補正された略円形横断面の光束形状の平行光束として分散補償光学系6に入射される。分散補償光学系6は端パスレーザ光の波長に応じた状態に駆動され、顕微鏡本体3の対物レンズ19の出射端までの光学系における分散量が補償されて出射される。
【0045】
分散補償光学系6から出射された短パルスレーザ光は、ビーム位置補正機構9によりその光軸ズレを補償された後、カップリング光学系8によって光ファイバ7の入射端7aへの集光位置を光軸方向に調節されて光ファイバ7に入射される。短パルスレーザ光は光ファイバ7により伝播された後に、ビームエキスパンダ15により光束径を調節され、顕微鏡本体3に入射される。
【0046】
顕微鏡本体3に入射された短パルスレーザ光はスキャナ16により2次元的に走査された後に瞳投影レンズ17、結像レンズ18および対物レンズ19を介して集光され、標本Aに照射される。短パルスレーザ光は、標本Aにおける集光位置において多光子励起効果により蛍光物質を励起して蛍光を発生させる。発生した蛍光は、対物レンズ19により集光され、ダイクロイックミラーを透過して、バリアフィルタ22により短パルスレーザ光を除去された後に、集光レンズ23によって集光され、光検出器21により検出される。これにより、多光子蛍光画像を取得することができる。
【0047】
この場合において、本実施形態に係る顕微鏡用照明装置2および蛍光顕微鏡装置1によれば、光ファイバ7の出射端7bの後段に配置された光量検出器10により検出される光量が最大となるようにビーム位置補正機構9が制御されるので、カップリング光学系8以降の光学系において温度変化等により光軸ズレが発生してもこれを補正して光ファイバ7への結合効率を高い状態に維持することができる。その結果、光軸ズレにより顕微鏡本体3に導入される短パルスレーザ光の光量変動が生ずることを防止して、安定した光量の短パルスレーザ光を標本Aに照射することができるという利点がある。
【0048】
また、本実施形態においては、まず、光ファイバ7の入射端7aよりも前段に配置されている光軸ズレ検出機構13による検出結果に基づいてビーム位置補正機構9を制御するので、光軸ズレにより短パルスレーザ光の集光位置が光ファイバ7のコアから完全に外れてしまい、調節不能になる不都合の発生を防止することができる。すなわち、光軸ズレ検出機構13により光ファイバ7のコアへの短パルスレーザ光を概略的に位置決め(粗調整)し、その後、光ファイバ7の後段に配置されている光量検出器10により検出した光量に基づいて短パルスレーザ光の光ファイバ7の入射端7aへの入射位置および角度を微調整することができる。
【0049】
なお、本実施形態に係る顕微鏡用照明装置2および蛍光顕微鏡装置1においては、短パルスレーザ光源5の後段に配置した音響光学素子11により、短パルスレーザ光の調光、オンオフあるいは波長選択を行うこととしたが、これに代えて、電気光学素子を採用することにしてもよい。
また、分散補償光学系6として、一対のグレーティング6a,6bの間隔を変更する方式のものを例示したが、これに代えて、プリズム対を用いてもよいし、プリズム対とグレーティング対を組み合わせたものを採用してもよい。
【0050】
また、ビーム位置補正機構9による光軸ズレの補正動作時に光ファイバ7への短パルスレーザ光の入射を遮断するシャッタ14を設けたが、これに代えて、短パルスレーザ光の光量を低下させる減光フィルタや音響光学素子あるいは電気光学素子を採用してもよい。
【0051】
また、光軸ズレ検出機構13としては、4分割ダイオードを例示したが、これに代えて、CCDのような撮像素子のように、受光位置を検出可能な他の光電検出素子を採用してもよい。
また、光軸ズレ検出機構13としては、光電検出素子に代えて、光軸方向に間隔をあけて配置された2枚の絞り機構からなるターゲットにより、光軸ズレを検出することにしてもよい。絞り機構を開口径可変の羽絞りにすることにより、ビーム径に合わせて開口径を調節し、より正確に調節することができる。
【0052】
また、光軸ズレ検出機構13としては、光電検出素子に代えて、絞りおよび光量検出器を採用してもよい。絞りには光軸中心に開口が設けられており、光軸ズレが生ずると光量検出器により検出される光量が変動するので、光軸ズレを検出することができる。
【0053】
また、ビーム位置補正機構9として、揺動可能かつ平行移動可能な2枚のミラーを備えるものを採用したが、これに代えて、光ファイバ7の入射端7aを光軸に直交する2次元方向に移動させることにしてもよい。また、光ファイバ7の入射端7aを光軸に対して傾斜可能に構成して、短パルスレーザ光の光軸の傾きを補正することにしてもよい。すなわち、光ファイバ7の入射端7aを3次元的に移動可能にすることにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の一実施形態に係る顕微鏡用照明装置および顕微鏡装置の全体構成を示す図である。
【図2】図1の顕微鏡用照明装置における光軸ズレ検出機構の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0055】
A 標本
1 蛍光顕微鏡装置
2 顕微鏡用照明装置
3 顕微鏡本体
4 制御装置(制御部)
5 短パルスレーザ光源
6 分散補償光学系
7 光ファイバ
7a 入射端
7b 出射端
8 カップリング光学系
9 ビーム位置補正機構
10 光量検出器
11 音響光学素子
12 シリンドリカルレンズ(非点較差補正光学系)
13 光軸ズレ検出機構
14 シャッタ(減光手段)
15 ビームエキスパンダ(ズーム光学系)
16 スキャナ
19 対物レンズ
21 光検出器
24 メモリ(記憶部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
短パルスレーザ光を出射する短パルスレーザ光源と、
該短パルスレーザ光源からの短パルスレーザ光の分散を補償する分散補償光学系と、
該分散補償光学系により分散を補償された短パルスレーザ光を顕微鏡本体に導く光ファイバと、
該光ファイバのコアに入射させる短パルスレーザ光を集光させるカップリング光学系と、
前記光ファイバのコアに入射させる短パルスレーザ光の光軸を調節するビーム位置補正機構と、
前記光ファイバの出射端と前記顕微鏡本体との間に配置され、前記光ファイバから出射される短パルスレーザ光の光量を検出する光量検出器とを備える顕微鏡用照明装置。
【請求項2】
前記光量検出器により検出された短パルスレーザ光の光量が最大となるように前記ビーム位置補正機構を制御する制御部を備える請求項1に記載の顕微鏡用照明装置。
【請求項3】
前記ビーム位置補正機構と前記カップリングレンズとの間に、短パルスレーザ光の光軸ズレを検出する光軸ズレ検出機構を備える請求項1または請求項2に記載の顕微鏡用照明装置。
【請求項4】
前記光軸ズレ検出機構が、光軸方向に間隔をあけて配置された2つの絞り機構からなる請求項3に記載の顕微鏡用照明装置。
【請求項5】
前記光軸ズレ検出機構が、短パルスレーザ光のスポット位置を検出するポジションセンサからなる請求項3に記載の顕微鏡用照明装置。
【請求項6】
前記光軸ズレ検出機構が、2次元的な撮像素子からなる請求項3に記載の顕微鏡用照明装置。
【請求項7】
前記光軸ズレ検出機構が、光量検出器と、該光量検出器に入射する短パルスレーザ光の光束を制限する絞りとを備える請求項3に記載の顕微鏡用照明装置。
【請求項8】
短パルスレーザ光の波長に対応づけて前記ビーム位置補正機構の調整目標値を記憶する記憶部を備え、前記ビーム位置補正機構が短パルスレーザ光の波長に応じて記憶部に記憶されている調整目標値に調節される請求項1から請求項3のいずれかに記載の顕微鏡用照明装置。
【請求項9】
前記ビーム位置補正機構が前記光ファイバの入射端を移動させる光ファイバ移動機構からなる請求項1または請求項2に記載の顕微鏡用照明装置。
【請求項10】
前記光軸ズレ検出機構と前記光ファイバの入射端との間に配置され、短パルスレーザ光の光ファイバへの入射を制限可能な減光手段を備える請求項3から請求項6のいずれかに記載の顕微鏡用照明装置。
【請求項11】
前記光ファイバの出射端に対向して配置され、短パルスレーザ光の波長に基づいて光軸方向に移動可能な少なくとも1つのレンズを有するズーム光学系を備える請求項1から請求項10のいずれかに記載の顕微鏡用照明装置。
【請求項12】
前記短パルスレーザ光源と、前記ビーム位置補正機構との間に、音響光学素子または電気光学素子が配置され、
該音響光学素子または電気光学素子と、前記ビーム位置補正機構との間に、非点較差補正光学系が配置されている請求項1に記載の顕微鏡用照明装置。
【請求項13】
前記ビーム位置補正機構と前記カップリングレンズとの間に、短パルスレーザ光の光軸ズレを検出する光軸ズレ検出機構を備え、
前記制御部が、前記光軸ズレ検出機構により検出された光軸ズレに基づいて前記ビーム位置補正機構を制御し、光軸が所定の範囲に調節された後には、光量検出器により検出された短パルスレーザ光の光量が最大となるように前記ビーム位置補正機構を制御する請求項2に記載の顕微鏡用照明装置。
【請求項14】
請求項1から請求項13のいずれかに記載の顕微鏡用照明装置と、
該顕微鏡用照明装置から出射された短パルスレーザ光を2次元的に走査させるスキャナと、
該スキャナにより走査された短パルスレーザ光を標本に照射する一方、標本において発生した蛍光を集光する対物レンズと、
該対物レンズにより集光された蛍光を検出する光検出器とを有する顕微鏡本体とを備える蛍光顕微鏡装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−209429(P2008−209429A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−43186(P2007−43186)
【出願日】平成19年2月23日(2007.2.23)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】