説明

顕微鏡観察方法、顕微鏡装置、及び画像処理装置

【課題】本発明は、顕微鏡装置の結像光学系の能力を上回る高い解像力が得られる顕微鏡観察方法を提供する。
【解決手段】被検物(1)の照明角度を変化させ、前記照明角度が各値にあるときに前記被検物から射出した各光束が結像面(I)に個別に生起させる各光波の複素振幅分布を測定する測定手順と、前記各光波の複素振幅分布のデータに基づき、結像光学系(14)をそれよりも開口数の大きい仮想結像光学系(14’)に置換したときに前記結像面に生起する仮想光波(L’)の複素振幅分布を算出する算出手順と、前記仮想光波(L’)の複素振幅分布に基づき、前記仮想結像光学系がその結像面に形成する前記被検物の仮想像の画像のデータを作成する画像作成手順とを含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体等の工業部品、生物の細胞等の生体などの被検物を光学顕微鏡で観察する顕微鏡観察方法、その顕微鏡観察方法に適用される顕微鏡装置、及び顕微鏡装置に適用される画像処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光学顕微鏡(以下、単に「顕微鏡」という。)の解像力を向上させるには、一般に、対物レンズの開口数を高めるか、或いは光源の波長を短くする必要がある(非特許文献1など参照。)。
【非特許文献1】小松 啓,「光学顕微鏡の基礎と応用(1)」,応用物理,1991年,第60巻,第8号,1991年,p816−p817
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、被検物の種類や観察目的により使用光源の種類は限定され、使用光源によって光学系の材料が限定されることも多いので、各分野の各顕微鏡の解像力には、それぞれの限界がある。
そこで本発明は、顕微鏡装置の結像光学系の能力を上回る高い解像力が得られる顕微鏡観察方法を提供することを目的とする。
【0004】
また、本発明は、その顕微鏡観察方法を実施するのに好適な顕微鏡装置を提供することを目的とする。
また、本発明は、顕微鏡装置の結像光学系の能力を上回る高い解像力が得られる画像処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の顕微鏡観察方法は、照明された被検物から射出する光束を結像する結像光学系を有し、その結像光学系の結像面に生起する光波の複素振幅分布を測定可能な顕微鏡装置を用いた顕微鏡観察方法であって、前記被検物の照明角度を変化させ、前記照明角度が各値にあるときに前記被検物から射出した各光束が前記結像面に個別に生起させる各光波の複素振幅分布を測定する測定手順と、前記各光波の複素振幅分布のデータに基づき、前記結像光学系をそれよりも開口数の大きい仮想結像光学系に置換したときにその結像面に生起する仮想光波の複素振幅分布を算出する算出手順と、前記仮想光波の複素振幅分布に基づき、前記仮想結像光学系がその結像面に形成する前記被検物の仮想像の画像データを作成する画像作成手順とを含むことを特徴とする。
【0006】
請求項2に記載の顕微鏡観察方法は、請求項1に記載の顕微鏡観察方法において、前記算出手順は、前記各光波の複素振幅分布を空間についてフーリエ変換し、前記各光束が前記結像光学系の瞳上に個別に生起させる各光波の複素振幅分布を算出する手順と、前記各光波の複素振幅分布を横ずらしして合成し、前記仮想結像光学系の瞳上に生起する仮想光波の複素振幅分布を算出する手順と、前記仮想光波の複素振幅分布を空間について逆フーリエ変換し、前記仮想結像光学系の結像面に生起する仮想光波の複素振幅分布を算出する手順とを含むことを特徴とする。
【0007】
請求項3に記載の顕微鏡観察方法は、請求項2に記載の顕微鏡観察方法において、前記算出手順では、前記合成に当たり、前記各光波の複素振幅分布から、各光波間のばらつきに起因した位相オフセット及び/又は振幅オフセットを補正することを特徴とする。
請求項4に記載の顕微鏡観察方法は、請求項1〜請求項3の何れか一項に記載の顕微鏡観察方法において、前記算出手順では、前記各光波の複素振幅分布のデータとして、前記結像光学系の単体が前記各光波のそれぞれに共通して重畳させる位相成分が補正されたデータを用いることを特徴とする。
【0008】
請求項5に記載の顕微鏡観察方法は、請求項1〜請求項4の何れか一項に記載の顕微鏡観察方法において、前記顕微鏡装置は、前記被検物をパルス光で照明する照明手段と、前記被検物から射出する光束を結像する前記結像光学系と、前記結像光学系の結像面に生起する光波の電場強度分布を検出する検出手段と、前記パルス光の発光タイミングと前記検出のタイミングとを制御して1発光期間内における前記強度分布の時間変化を検出すると共に、前記時間変化のデータに基づき前記結像面に生起する光波の複素振幅分布を算出する制御手段とを備えていることを特徴とする。
【0009】
請求項6に記載の顕微鏡観察方法は、請求項5に記載の顕微鏡観察方法において、前記パルス光は、テラヘルツパルス光であることを特徴とする。
請求項7に記載の顕微鏡装置は、被検物をパルス光で照明する照明手段と、前記被検物から射出する光束を結像する前記結像光学系と、前記結像光学系の結像面に生起する光波の電場強度分布を検出する検出手段と、前記パルス光の発光タイミングと前記検出のタイミングとを制御して1発光期間内における前記強度分布の時間変化を検出すると共に、前記時間変化のデータに基づき前記結像面に生起する光波の複素振幅分布を算出する制御手段と、前記被検物の照明角度を変化させる変化手段とを備え、前記制御手段は、前記照明角度が各値にあるときに前記被検物から射出した各光束が前記結像面に個別に生起させる各光波の複素振幅分布を測定することを特徴とする。
【0010】
請求項8に記載の顕微鏡装置は、請求項7に記載の顕微鏡装置において、前記パルス光は、テラヘルツパルス光であることを特徴とする。
請求項9に記載の顕微鏡装置は、請求項7又は請求項8に記載の顕微鏡装置において、前記制御手段は、前記各光波の複素振幅分布のデータに基づき、前記結像光学系をそれよりも開口数の大きい仮想結像光学系に置換したときにその結像面に生起する仮想光波の複素振幅分布を算出する算出手順と、前記仮想光波の複素振幅分布に基づき、前記仮想結像光学系がその結像面に形成する前記被検物の仮想像の画像データを作成する画像作成手順とを実行することを特徴とする。
【0011】
請求項10に記載の顕微鏡装置は、請求項9に記載の顕微鏡装置において、前記制御手段は、前記算出手順において、前記各光波の複素振幅分布を空間についてフーリエ変換し、前記各光束が前記結像光学系の瞳上に個別に生起させる各光波の複素振幅分布を算出し、前記各光波の複素振幅分布を横ずらしして合成し、前記仮想結像光学系の瞳上に生起する仮想光波の複素振幅分布を算出し、前記仮想光波の複素振幅分布を空間について逆フーリエ変換し、前記仮想結像光学系の結像面に生起する仮想光波の複素振幅分布を算出することを特徴とする。
【0012】
請求項11に記載の顕微鏡装置は、請求項10に記載の顕微鏡装置において、前記制御手段は、前記算出手順において、前記合成に当たり、前記各光波の複素振幅分布から、各光波間のばらつきに起因した位相オフセット及び/又は振幅オフセットを補正することを特徴とする。
請求項12に記載の顕微鏡装置は、請求項9〜請求項11の何れか一項に記載の顕微鏡装置において、前記制御手段は、前記算出手順において、前記各光波の複素振幅分布のデータとして、前記結像光学系の単体が前記各光波のそれぞれに共通して重畳させる位相成分が補正されたデータを用いることを特徴とする。
【0013】
請求項13に記載の画像処理装置は、請求項7又は請求項8に記載の顕微鏡装置に適用される画像処理装置であって、前記各光波の複素振幅分布のデータに基づき、前記結像光学系をそれよりも開口数の大きい仮想結像光学系に置換したときにその結像面に生起する仮想光波の複素振幅分布を算出する算出手段と、前記仮想光波の複素振幅分布に基づき、前記仮想結像光学系がその結像面に形成する前記被検物の仮想像の画像データを作成する画像作成手段とを備えることを特徴とする。
【0014】
請求項14に記載の画像処理装置は、請求項13に記載の画像処理装置において、前記算出手段は、前記各光波の複素振幅分布を空間についてフーリエ変換し、前記各光束が前記結像光学系の瞳上に個別に生起させる各光波の複素振幅分布を算出し、前記各光波の複素振幅分布を横ずらしして合成し、前記仮想結像光学系の瞳上に生起する仮想光波の複素振幅分布を算出し、前記仮想光波の複素振幅分布を空間について逆フーリエ変換し、前記仮想結像光学系の結像面に生起する仮想光波の複素振幅分布を算出することを特徴とする。
【0015】
請求項15に記載の画像処理装置は、請求項14に記載の画像処理装置において、前記算出手段は、前記合成に当たり、前記各光波の複素振幅分布から、各光波間のばらつきに起因した位相オフセット及び/又は振幅オフセットを補正することを特徴とする。
請求項16に記載の画像処理装置は、請求項13〜請求項15の何れか一項に記載の画像処理装置において、前記算出手段は、前記各光波の複素振幅分布のデータとして、前記結像光学系の単体が前記各光波のそれぞれに共通して重畳させる位相成分が補正されたデータを用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、顕微鏡装置の結像光学系の能力を上回る高い解像力が得られる顕微鏡観察方法が実現する。
また、本発明によれば、その顕微鏡観察方法を実施するのに好適な顕微鏡装置が実現する。
また、本発明によれば、顕微鏡装置の結像光学系の能力を上回る高い解像力が得られる画像処理装置が実現する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を説明する。
本実施形態は、超解像顕微鏡システム、及びそれを用いた顕微鏡観察方法の実施形態である。
先ず、本システムの構成を説明する。
図1に示すように、本システムには、テラヘルツ分光イメージング装置(符号11〜21)、コンピュータ30、ディスプレイ40などが備えられる。テラヘルツ分光イメージング装置が請求項の顕微鏡装置などに対応し、コンピュータが請求項の画像処理装置などに対応する。
【0018】
テラヘルツ分光イメージング装置には、フェムト秒パルスレーザ11、ビームエキスパンダ12、テラヘルツ光源となる半導体基板13、特殊プラスチックでできた結像光学系14、電気光学結晶15、偏光板16、CCDカメラ17、遅延装置18、高圧電源19、制御回路20、ステージ21などが備えられる。このステージが、請求項の変化手段に対応する。また、符号HM,Mで示すのは、ハーフミラー、ミラー、符号1で示すのは、被検物である。なお、テラヘルツ分光イメージング装置の詳細は、例えば、特開2003−295104号公報、特開2002−5828号公報などに開示されている。なお、図1では、遅延装置18が光学系によって構成されているかのごとく表したが、同じ機能を有した別の構成の遅延装置18を利用してもよい。
【0019】
コンピュータ30には、予め、本観察方法(後述)を実現するために必要なプログラムがインストールされている。なお、以下に説明する制御回路20の処理の一部又は全部は、コンピュータ30によって実行されてもよく、また、以下に説明するコンピュータ30の処理の一部又は全部は、制御回路20によって実行されてもよい。
次に、本システムの基本動作を説明する。
【0020】
フェムト秒パルスレーザ11は、制御回路20から指示されたタイミングでフェムト秒パルスレーザ光を発光する。このレーザ光は、ビームエキスパンダ12にて径の太い光束となり、ハーフミラーHMで二分岐される。
二分岐された一方のレーザ光は、ミラーMを経て、電極の形成された半導体基板13に入射する。その電極には電源19により常時電圧が印加されており、レーザ光が入射した瞬間に電極間で放電が生じ、これが双極子となってテラヘルツ領域のパルス光(テラヘルツパルス光)を放射する。このテラヘルツパルス光は、被検物1を照明する。
【0021】
テラヘルツパルス光によって照明された被検物1から射出する光(テラヘルツパルス光である。)は、結像光学系14によって結像される。その結像面Iには、電気光学結晶15が配置される。電気光学結晶15内では、結像面Iに生起する光波の電場強度分布に応じて、複屈折率の変調が生じる。
一方、前記二分岐された他方のレーザ光は、遅延装置18、ミラーM、ハーフミラーHMを経て電気光学結晶15に入射する。遅延装置18は、レーザ光が電気光学結晶15に入射するタイミングを、制御回路20から指示された時間(遅延時間)だけ遅延させる。
【0022】
電気光学結晶15に入射したレーザ光の偏光状態は、その電気光学結晶15内の複屈折分布により変調される。そのレーザ光の偏光状態の分布は、偏光板16を介することによって、CCDカメラ17が画像として認識可能である。
CCDカメラ17は、制御回路20から指示されたタイミングで撮像を行い、画像データを取得する。その画像データは、レーザ光が電気光学結晶15に入射した瞬間に結像面Iに入射したテラヘルツ光の光波の電場強度分布を示す。
【0023】
制御回路20は、フェムト秒パルスレーザ11の発光のタイミングと、遅延装置18の遅延時間と、CCDカメラ17の撮像のタイミングとを制御する。制御回路20は、遅延時間を微小量ずつずらしながら発光及び撮像を行い、パルス発光期間における各瞬間に結像面Iに生起した光波の電場強度分布の画像データ(画像データ群)を取得する。
その画像データ群は、制御回路20を介してコンピュータ30に取り込まれる。コンピュータ30は、画像データ群が示している電場強度分布の時間変化をフーリエ変換(時間フーリエ変換)し、結像面Iに生起した光波の各波長成分の複素振幅分布をそれぞれ求める。
【0024】
次に、本観察方法を実施する際のテラヘルツ分光イメージング装置の特徴動作を説明する。
特徴は、ステージ21の動作にある。ステージ21は、半導体基板13を支持し、制御回路20からの指示に応じてその半導体基板13の姿勢を変化させる(後述する図3(a),図4(a),(b)等参照。)。
【0025】
ここでは、半導体基板13の姿勢が、光軸をZ軸としたXYZ直交座標系を採用し、以下の(0)〜(8)の各姿勢に変更可能であるとして説明する。
(0)基板法線がZ軸に一致した姿勢(半導体基板13の傾斜角度θ=θ0)、
(1)基板法線がZ軸から−X方向に所定量だけ傾斜した姿勢(半導体基板13の傾斜角度θ=θ1)、
(2)基板法線がZ軸から+X方向に所定量だけ傾斜した姿勢(半導体基板13の傾斜角度θ=θ2)、
(3)基板法線がZ軸から−Y方向に所定量だけ傾斜した姿勢(半導体基板13の傾斜角度θ=θ3)、
(4)基板法線がZ軸から+Y方向に所定量だけ傾斜した姿勢(半導体基板13の傾斜角度θ=θ4)、
(5)基板法線がZ軸から−Xかつ−Y方向に所定量だけ傾斜した姿勢(半導体基板13の傾斜角度θ=θ5)、
(6)基板法線がZ軸から+Xかつ−Y方向に所定量だけ傾斜した姿勢(半導体基板13の傾斜角度θ=θ6)、
(7)基板法線がZ軸から+Xかつ+Y方向に所定量だけ傾斜した姿勢(半導体基板13の傾斜角度θ=θ7)、
(8)基板法線がZ軸から−Xかつ+Y方向に所定量だけ傾斜した姿勢(半導体基板13の傾斜角度θ=θ8)。
【0026】
このように、半導体基板13の傾斜角度θがθ1,・・,θ8の間で変化すると、被検物1の照明角度も同様に変化する。以下、被検物1の照明角度をθで表す。
次に、本観察方法を説明する。
図2に示すように、本観察方法は、ステップS1〜ステップS5からなる。以下、これらのステップを順に説明する。
(ステップS1)
制御回路20は、照明角度θを初期値(例えば、θ0)に設定し(図3(a))、その状態で上述した画像データ群d0を取得する(図3(b))。コンピュータ30は、画像データ群d0が示している電場強度分布の時間変化をフーリエ変換(時間フーリエ変換)し(図3(c))、照明角度θ=θ0のときに結像面Iに生起する各波長の光波の複素振幅分布Aω0(i,j),Aω1(i,j),・・・を求める(図3(c))。このうち、特定波長(例えば、テラヘルツ領域の中心波長)の光波の複素振幅分布Aω0(i,j)を記憶する。以下、特定波長の光波を、単に「光波」と称し、この光波の複素振幅分布Aω0(i,j)を、照明角度θの設定値「θ0」と同じ添え字を付して「A0(i,j)」と表す(以下も同様。)。
【0027】
次に、制御回路20は、照明角度θを次の値(例えば、θ1)に設定して(図4(a))画像データ群d1を取得し、コンピュータ30は、その画像データ群d1に基づき、照明角度θ=θ1のときに結像面Iに生起する光波の複素振幅分布A1(i,j)を求めて記憶する。
同様に、制御回路20は、図4(b),・・・に示すように照明角度θをθ2,・・・,θ8に順次設定して画像データ群d2,・・・,d8を順次取得し、コンピュータ30は、画像データ群d2,・・・,d8に基づき、照明角度θ=θ2,・・・,θ8のそれぞれのときに結像面Iに生起する各光波の複素振幅分布A2(i,j),・・・,A8(i,j)を求めて記憶する。
【0028】
ここで、これらの複素振幅分布A0(i,j),A1(i,j),A2(i,j),,・・・,A8(i,j)には、結像光学系14の単体が被検物1無しの状態で各光波に共通して重畳させる位相成分Δφ(i,j)が重畳されている(図3(a)の点線部参照)。
コンピュータ30は、このステップにおいて各複素振幅分布A0(i,j),A1(i,j),A2(i,j),,・・・,A8(i,j)から位相成分Δφ(i,j)をそれぞれ補正する。
【0029】
なお、補正すべき位相成分Δφ(i,j)は、テラヘルツ分光イメージング装置に固有であり、予め測定されたものである(例えば、被検物1を配置しない状態で画像データ群dを取得し、その画像データ群dに基づき、その状態で結像面Iに生起する光波の複素振幅分布を求め、求めた位相成分を、補正すべき位相成分Δφ(i,j)とすればよい。)。
【0030】
次に、図5(a),(b),(c),・・・の左側に示すように、照明角度θ=θ0、θ=θ1、θ=θ2、・・・、θ=θ8のそれぞれでは、被検物1にて生じる各回折光の射出角度がずれる。
よって、照明角度θ=θ0、θ=θ1、θ=θ2、・・・、θ=θ8のそれぞれでは、結像に寄与する光束(つまり、結像光学系14を通過できる光束)が、異なる。
【0031】
よって、照明角度θ=θ0、θ=θ1、θ=θ2、・・・、θ=θ8のそれぞれでは、結像光学系14の瞳P上に生起する光波も、異なる。
以下、照明角度θ=θ0,θ=θ1,θ=θ2,・・・,θ=θ8のそれぞれにおいて結像光学系14の瞳P上に生起する光波をL0,L1,L2,・・・,L8とし、それら光波L0,L1,L2,・・・,L8の相違を説明する。
【0032】
説明に当たり、次のような仮想系を考える。この仮想系は、図1に示した本システムにおいて、結像光学系14がそれよりも開口数の大きい仮想結像光学系14’に置換され、かつ照明角度θがθ0に固定されたものである。
図6には、本システムの結像光学系14の瞳P上に生起する各光波L0,L1,L2,・・・,L8と、仮想系の仮想結像光学系14’の瞳P’上に生起する仮想光波L’との対応関係を示した。
【0033】
図6に示すとおり、光波L0は、仮想光波L’の中心領域の光波に相当する。
光波L1は、仮想光波L’の中心から+X方向にずれた領域の光波に相当する。
光波L2は、仮想光波L’の中心から−X方向にずれた領域の光波に相当する。
光波L3は、仮想光波L’の中心から+Y方向にずれた領域の光波に相当する。
光波L4は、仮想光波L’の中心から−Y方向にずれた領域の光波に相当する。
【0034】
光波L5は、仮想光波L’の中心から+Xかつ+Y方向にずれた領域の光波に相当する。
光波L6は、仮想光波L’の中心から−Xかつ+Y方向にずれた領域の光波に相当する。
光波L7は、仮想光波L’の中心から−Xかつ−Y方向にずれた領域の光波に相当する。
【0035】
光波L8は、仮想光波L’の中心から+Xかつ−Y方向にずれた領域の光波に相当する。
よって、各光波L0,L1,L2,・・・,L8が結像光学系14の瞳P上に形成する各回折パターンは、仮想光波L’が仮想結像光学系14’の瞳P’上に形成する大きな回折パターンのうち、互いにずれた領域の回折パターンを切り出したものに相当する。
【0036】
図5(a),(b),(c)の右側には、光波L0,L1,L2が瞳P上に形成する各回折パターンの概念を示した。
ところで、図6において、仮想光波L’の中心から或る光波Liまで位置ずれは、照明角度θの設定値θiによって決まる(sinθに比例する。)。
各設定値θ1,θ2,・・・,θ8は、図6に示す各光波L0,L1,・・・,L8の重複部分がなるべく少なく、かつ各光波L0,L1,・・・,L8が仮想光波L’のなるべく広い範囲を隙間無くカバーできるように最適化されている。
(ステップS2)
コンピュータ30は、ステップS1において取得した複素振幅分布A0(i,j),A1(i,j),A2(i,j),・・・,A8(i,j)をそれぞれフーリエ変換(空間フーリエ変換)し、図6に示した各光波L0,L1,L2,・・・,L8の複素振幅分布B0(i,j),B1(i,j),B2(i,j),・・・,B8(i,j)を算出する。
【0037】
図7,図8(a),図9(a)には、算出された複素振幅分布B0(i,j),B1(i,j),B2(i,j)の概念を結像光学系14の瞳P上の座標で表した。
なお、図7,図8(a),図9(a)においてX方向のデータ範囲が、結像光学系14の瞳Pの径(射出瞳の径)に相当する。
(ステップS3)
コンピュータ30は、図8(b),図9(b)に示すように、複素振幅分布B1(i,j),B2(i,j),・・・,B8(i,j)のデータをそれぞれ瞳P上の座標でsinθずつ横ずらしし、横ずらし後の複素振幅分布B1(i,j),B2(i,j),・・・,B8(i,j)のデータを合成し、仮想結像光学系14’の瞳P’上に生起する仮想光波L’の複素振幅分布C(i,j)を復元する。図10(a)には、復元された複素振幅分布C(i,j)の概念を示した。
【0038】
ここで、原理的には、各複素振幅分布B1(i,j),B2(i,j),・・・,B8(i,j)の間では、重複領域(図6斜線部など)のデータ同士は等しくなる。
しかし実際には、システムの環境変化(照明角度θを変更する期間における光源パワーの不確定さ、光路の屈折率の変動など)が原因で、複素振幅分布B1(i,j),B2(i,j),・・・,B8(i,j)のデータにはそれぞれオフセット(位相オフセットと振幅オフセット)が重畳している可能性がある。
【0039】
そこで、コンピュータ30は、復元に当たり、各複素振幅分布B0(i,j),B1(i,j),B2(i,j),・・・,B8(i,j)のうち、重複領域のデータを比較し(例えば、図7の領域E1のデータと図8の領域E1のデータ,図7の領域E2のデータと図9の領域E2のデータなどを比較し)、重複領域のデータ同士が等しくなるよう、各複素振幅分布B0(i,j),B1(i,j),B2(i,j),・・・,B8(i,j)のデータから、それぞれの位相オフセットと振幅オフセットとを補正する。これによって、各複素振幅分布B0(i,j),B1(i,j),B2(i,j),・・・,B8(i,j)の間のデータの「段差」が解消される。
(ステップS4)
コンピュータ30は、仮想光波L’の複素振幅分布C(i,j)を逆フーリエ変換し、仮想系の仮想結像光学系14’の結像面I’上に生起する仮想光波L”の複素振幅分布D(i,j)を求める。図10(b)には、その複素振幅分布D(i,j)の概念を示した。
(ステップS5)
コンピュータ30は、複素振幅分布D(i,j)に基づき、次式(1)により、仮想系の仮想結像光学系14’が結像面I’に形成する被検物1の仮想像の画像データE(i,j)を作成する。
【0040】
E(i,j)=D*(i,j)×D(i,j) ・・・(1)
図10(c)には、画像データE(i,j)の概念を示した。
コンピュータ30は、画像データE(i,j)をディスプレイ40に送出し、被検物1の像を表示する(図1参照)。
次に、本システム及び本観察方法の効果を説明する。
【0041】
本システムにおいては、半導体基板13の姿勢を変化させるステージ21が備えられているので、被検物1の照明角度θが可変である。このため、以下の本観察方法を実施することが可能となった。
本観察方法では、照明角度θ=θ0,θ1,θ2,・・・,θ8のときに結像面Iに個別に生起する複素振幅分布A0(i,j),A1(i,j),・・・,A8(i,j)を測定する。測定された複素振幅分布A0(i,j),A1(i,j),・・・,A8(i,j)のデータに基づけば、仮想結像光学系14’が形成する被検物1の仮想像の画像データE(i,j)を作成することができる。
【0042】
この仮想結像光学系14’の開口数は、図6において各光波L0,L1,L2,・・・,L8によるカバー範囲に相当するので、結像光学系14の開口数よりも約3倍大きい。よって、画像データE(i,j)は、結像光学系14の能力を上回る高い解像力で被検物1を表現する。
また、それを確実に行うため、本測定方法では、複素振幅分布A0(i,j),A1(i,j),・・・,A8(i,j)を一旦、結像光学系14の瞳P上の複素振幅分布B0(i,j),B1(i,j),B2(i,j),・・・,B8(i,j)に変換し、それら複素振幅分布B0(i,j),B1(i,j),B2(i,j),・・・,B8(i,j)を横ずらしして合成し、それによって仮想結像光学系14’の瞳P’上の複素振幅分布C(i,j)を復元している。
【0043】
また、本測定方法では、比較的初期の手順(ステップS1)において、位相成分Δφ(i,j)を各複素振幅分布A0(i,j),A1(i,j),A2(i,j),,・・・,A8(i,j)からそれぞれ補正しておくので、その後のステップにて必要なデータ(複素振幅分布C(i,j),D(i,j),画像データE(i,j)など)を簡単かつ高精度に得ることができる。
【0044】
また、本測定方法では、復元する手順(ステップS3)において、複素振幅分布B0(i,j),B1(i,j),B2(i,j),・・・,B8(i,j)の間の重複領域のデータを利用して、それらのデータの「段差」を無くすので、測定中のシステムの環境変化に依らず、必要なデータを高精度に得ることができる。
なお、本観察方法では、照明角度θの設定値をθ0,θ1,θ2,,・・・,θ8の9種類とし、仮想結像光学系14’の開口数を結像光学系14の開口数の約3倍としたが、照明角度θの設定値の組み合わせは、必要な解像力に応じて適宜選定される(3倍よりも大きくすることも可能である。)。
【0045】
また、本観察方法では、顕微鏡装置として、テラヘルツ領域の光を照明光としたテラヘルツ分光イメージング装置を用いたが、テラヘルツ領域からずれた領域の光を照明光とする同様の分光イメージング装置を用いてもよい。
また、本システムには、結像面Iの電場強度分布の画像データを一括して取得する非走査型の顕微鏡装置が適用されたが、その電場強度分布の画像データを1点ずつ取得する走査型の顕微鏡装置を適用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本システムの構成図である。
【図2】本観察方法のフローチャートである。
【図3】照明角度θをθ0 に設定したときの様子と、その状態で取得されるデータとを示す図である。
【図4】照明角度θをθ1,θ2に設定したときの各様子と、その状態で取得されるデータとを示す図である。
【図5】照明角度θをθ0,θ1,θ2に設定したときに結像に寄与する光束の相違、及び、瞳P上の回折パターンの相違を説明する図である。
【図6】仮想結像光学系14’の瞳P’上に生起する仮想光波L’と、結像光学系14の瞳P上に生起する各光波L0,L1,L2,・・・,L8との対応関係を示す図である。
【図7】複素振幅分布B0(i,j)の概念(瞳P上の座標による)を示す図である。
【図8】複素振幅分布B1(i,j)の概念(瞳P上の座標による)と、横ずらしの様子とを示す図である。
【図9】複素振幅分布B2(i,j)の概念(瞳P上の座標による)と、横ずらしの様子とを示す図である。
【図10】仮想結像光学系14’による結像の様子と、復元された複素振幅分布C(i,j)の概念と、結像面I’上に生起する複素振幅分布D(i,j)の概念と、画像データEの概念とを示す図である。
【符号の説明】
【0047】
1 被検物
11 フェムト秒パルスレーザ、
12 ビームエキスパンダ、
13 半導体基板、
14 結像光学系、
15 電気光学結晶、
16 偏光板、
17 CCDカメラ、
18 遅延装置、
19 高圧電源、
20 制御回路、
21 ステージ
HM ハーフミラー
M ミラー、
P,P’ 瞳
14’ 仮想結像光学系
I,I’ 結像面
L 光波


【特許請求の範囲】
【請求項1】
照明された被検物から射出する光束を結像する結像光学系を有し、その結像光学系の結像面に生起する光波の複素振幅分布を測定可能な顕微鏡装置を用いた顕微鏡観察方法であって、
前記被検物の照明角度を変化させ、前記照明角度が各値にあるときに前記被検物から射出した各光束が前記結像面に個別に生起させる各光波の複素振幅分布を測定する測定手順と、
前記各光波の複素振幅分布のデータに基づき、前記結像光学系をそれよりも開口数の大きい仮想結像光学系に置換したときにその結像面に生起する仮想光波の複素振幅分布を算出する算出手順と、
前記仮想光波の複素振幅分布に基づき、前記仮想結像光学系がその結像面に形成する前記被検物の仮想像の画像データを作成する画像作成手順と
を含むことを特徴とする顕微鏡観察方法。
【請求項2】
請求項1に記載の顕微鏡観察方法において、
前記算出手順は、
前記各光波の複素振幅分布を空間についてフーリエ変換し、前記各光束が前記結像光学系の瞳上に個別に生起させる各光波の複素振幅分布を算出する手順と、
前記各光波の複素振幅分布を横ずらしして合成し、前記仮想結像光学系の瞳上に生起する仮想光波の複素振幅分布を算出する手順と、
前記仮想光波の複素振幅分布を空間について逆フーリエ変換し、前記仮想結像光学系の結像面に生起する仮想光波の複素振幅分布を算出する手順と
を含むことを特徴とする顕微鏡観察方法。
【請求項3】
請求項2に記載の顕微鏡観察方法において、
前記算出手順では、
前記合成に当たり、前記各光波の複素振幅分布から、各光波間のばらつきに起因した位相オフセット及び/又は振幅オフセットを補正する
ことを特徴とする顕微鏡観察方法。
【請求項4】
請求項1〜請求項3の何れか一項に記載の顕微鏡観察方法において、
前記算出手順では、
前記各光波の複素振幅分布のデータとして、前記結像光学系の単体が前記各光波のそれぞれに共通して重畳させる位相成分が補正されたデータを用いる
ことを特徴とする顕微鏡観察方法。
【請求項5】
請求項1〜請求項4の何れか一項に記載の顕微鏡観察方法において、
前記顕微鏡装置は、
前記被検物をパルス光で照明する照明手段と、
前記被検物から射出する光束を結像する前記結像光学系と、
前記結像光学系の結像面に生起する光波の電場強度分布を検出する検出手段と、
前記パルス光の発光タイミングと前記検出のタイミングとを制御して1発光期間内における前記強度分布の時間変化を検出すると共に、前記時間変化のデータに基づき前記結像面に生起する光波の複素振幅分布を算出する制御手段と
を備えていることを特徴とする顕微鏡観察方法。
【請求項6】
請求項5に記載の顕微鏡観察方法において、
前記パルス光は、
テラヘルツパルス光である
ことを特徴とする顕微鏡観察方法。
【請求項7】
被検物をパルス光で照明する照明手段と、
前記被検物から射出する光束を結像する前記結像光学系と、
前記結像光学系の結像面に生起する光波の電場強度分布を検出する検出手段と、
前記パルス光の発光タイミングと前記検出のタイミングとを制御して1発光期間内における前記強度分布の時間変化を検出すると共に、前記時間変化のデータに基づき前記結像面に生起する光波の複素振幅分布を算出する制御手段と、
前記被検物の照明角度を変化させる変化手段とを備え、
前記制御手段は、
前記照明角度が各値にあるときに前記被検物から射出した各光束が前記結像面に個別に生起させる各光波の複素振幅分布を測定する
ことを特徴とする顕微鏡装置。
【請求項8】
請求項7に記載の顕微鏡装置において、
前記パルス光は、
テラヘルツパルス光である
ことを特徴とする顕微鏡装置。
【請求項9】
請求項7又は請求項8に記載の顕微鏡装置において、
前記制御手段は、
前記各光波の複素振幅分布のデータに基づき、前記結像光学系をそれよりも開口数の大きい仮想結像光学系に置換したときにその結像面に生起する仮想光波の複素振幅分布を算出する算出手順と、
前記仮想光波の複素振幅分布に基づき、前記仮想結像光学系がその結像面に形成する前記被検物の仮想像の画像データを作成する画像作成手順とを実行する
ことを特徴とする顕微鏡装置。
【請求項10】
請求項9に記載の顕微鏡装置において、
前記制御手段は、前記算出手順において、
前記各光波の複素振幅分布を空間についてフーリエ変換し、前記各光束が前記結像光学系の瞳上に個別に生起させる各光波の複素振幅分布を算出し、
前記各光波の複素振幅分布を横ずらしして合成し、前記仮想結像光学系の瞳上に生起する仮想光波の複素振幅分布を算出し、
前記仮想光波の複素振幅分布を空間について逆フーリエ変換し、前記仮想結像光学系の結像面に生起する仮想光波の複素振幅分布を算出する
ことを特徴とする顕微鏡装置。
【請求項11】
請求項10に記載の顕微鏡装置において、
前記制御手段は、前記算出手順において、
前記合成に当たり、前記各光波の複素振幅分布から、各光波間のばらつきに起因した位相オフセット及び/又は振幅オフセットを補正する
ことを特徴とする顕微鏡装置。
【請求項12】
請求項9〜請求項11の何れか一項に記載の顕微鏡装置において、
前記制御手段は、前記算出手順において、
前記各光波の複素振幅分布のデータとして、前記結像光学系の単体が前記各光波のそれぞれに共通して重畳させる位相成分が補正されたデータを用いる
ことを特徴とする顕微鏡装置。
【請求項13】
請求項7又は請求項8に記載の顕微鏡装置に適用される画像処理装置であって、
前記各光波の複素振幅分布のデータに基づき、前記結像光学系をそれよりも開口数の大きい仮想結像光学系に置換したときにその結像面に生起する仮想光波の複素振幅分布を算出する算出手段と、
前記仮想光波の複素振幅分布に基づき、前記仮想結像光学系がその結像面に形成する前記被検物の仮想像の画像データを作成する画像作成手段と
を備えることを特徴とする画像処理装置。
【請求項14】
請求項13に記載の画像処理装置において、
前記算出手段は、
前記各光波の複素振幅分布を空間についてフーリエ変換し、前記各光束が前記結像光学系の瞳上に個別に生起させる各光波の複素振幅分布を算出し、
前記各光波の複素振幅分布を横ずらしして合成し、前記仮想結像光学系の瞳上に生起する仮想光波の複素振幅分布を算出し、
前記仮想光波の複素振幅分布を空間について逆フーリエ変換し、前記仮想結像光学系の結像面に生起する仮想光波の複素振幅分布を算出する
ことを特徴とする画像処理装置。
【請求項15】
請求項14に記載の画像処理装置において、
前記算出手段は、
前記合成に当たり、前記各光波の複素振幅分布から、各光波間のばらつきに起因した位相オフセット及び/又は振幅オフセットを補正する
ことを特徴とする画像処理装置。
【請求項16】
請求項13〜請求項15の何れか一項に記載の画像処理装置において、
前記算出手段は、
前記各光波の複素振幅分布のデータとして、前記結像光学系の単体が前記各光波のそれぞれに共通して重畳させる位相成分が補正されたデータを用いる
ことを特徴とする画像処理装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−17488(P2006−17488A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−193288(P2004−193288)
【出願日】平成16年6月30日(2004.6.30)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】