説明

風防ガラス装置、バックミラー装置及び作動方法

【課題】雨天時等に、乗り物の風防ガラス又はバックミラーの表面に液滴が付着した場合に、機械的ワイパーを用いずに、光透過性又は光反射性を向上させ、外部視界を確保する。
【解決手段】風防ガラス又はバックミラーの表面又は内部に設置された透明な電極2及び3に高電圧電源4による高電圧を印加して沿面放電プラズマを発生させ、表面に存在する液滴5の形状又は運動又は表面の親水性を制御して、光透過性又は光反射性を向上させ、外部視界を確保する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス又はフィルム等の板の表面又は内部に配置された電極によりプラズマを発生させ、表面に付着する液滴の形状又は運動又は板表面の親水性を制御することで、ガラス又はミラー又はフィルム等の板の光透過性又は光反射性を向上させる方法と、その方法を利用したワイパーを備えた乗り物の風防ガラス装置及びバックミラー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、鉄道、航空機等の乗り物に使用される風防ガラス又はバックミラーは、例えばシリケートガラス、アクリル等を材料とするが、乗員が外部の視界を確保し、運転操作するために不可欠なものである。
【0003】
従来、雨天時等に外部の視界を確保するために、自動車の風防フロントガラスやサイドバックミラーには電動式ワイパーが備え付けられている。その構造はよく知られているが、線状のゴムが取り付けられたアームを左右にモータとリンク機構で移動させ、ゴムによりガラスの表面の雨滴を機械的に集め、平滑化し、雨滴の表面の接触角を低下させ、光散乱を無くすことにより、光透過性又は光反射性を高め、外部視界を向上させている。
【0004】
ここで、ガラス表面と雨滴の表面のなす角を接触角と呼ぶ。接触角が小さいほど雨滴の形状は平面に近くなり、親水性は向上する。逆に接触角が大きいほど雨滴の形状は球形に近くなり、はっ水性が向上する。
【0005】
しかしながら、このような機械的ワイパーは、自動車、鉄道、航空機等に幅広く普及しており性能は高いものの、乗り物の運転中に機械的可動をしているため、運転者の運転操作の妨げとなり、できれば無くすことが望ましい。しかしながら現在までに、この機械的ワイパーの性能を凌ぐ方法や装置は発明されていなかった。
【0006】
一方、例えばトリアルコキシシラン等の水分はっ水性能を持つ薬品を含む添加剤をガラス表面にあらかじめ均一に塗布し、ガラスのはっ水性を向上させ、ガラス表面の雨滴の接触角を大きくし、乗り物の進行に伴う風による抗力により、液滴を左右に飛散させ除去する方法及び製品が知られている。
【0007】
しかしながらこの方法では、乗り物がある程度以上の高速で移動中にのみ有効で(例えば自動車では高速道路走行中に有効)、静止時にはほとんど効果がない。また、雨に対する耐久性も数日程度で比較的短く、機械的ワイパーの完全な代替にはならない。また使用するはっ水薬剤は有害成分を含むものも多く、環境保全の観点から大量使用は好ましくない。
【0008】
さらに、ガラス表面にコロナ放電などによって発生した大気圧低温プラズマを印加し、その直後にはっ水剤トリアルコキシシランを表面塗布することにより、はっ水剤の水滴に対する耐久性を向上できる結果が非特許文献1及び例えば特許文献1で報告されている。
【0009】
非特許文献1では、ガラス表面にプラズマを印加することで、ガラス表面を親水化できることが述べられている。親水化させることでガラスの表面の雨滴を平滑化し、雨滴の接触角を低下させ、光散乱を無くすことにより、光透過性を向上させることができる。また、ガラスをミラーに置き換えた場合には、光反射性を向上させることができる。しかしながら、接触角の向上効果は放置すると数時間から数日程度で消滅し、雨がかかるとさらに短い時間で消滅することも報告されている。
【0010】
したがって、連続的な視界又は親水性を確保するためには、ガラスに周期的にプラズマを印加する必要がある。しかし、非特許文献1で報告されている周波数60Hzの高電圧を平板電極間に印加し、ガラスを挟む大気圧プラズマ印加装置と方法では、プラズマリアクター自体が小型容器に入り、ガラスと電極が一体化されていないなど、乗り物の風防ガラスやバックミラーに設置することは困難であった。
【特許文献1】特公平8−337654号広報
【非特許文献1】T.Yamamoto,M.Okubo,N.Imai and Y.Mori著,”Improvement on Hydrophilic and Hydrophobic Properties of Glass Surface Treated by Nonthermal Plasma Induced by Silent Corona Discharge”,Plasma Chemistry and Plasma Processing,24巻1号,1頁から12頁,2004年.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ガラス又はミラー又はフィルム等の板の表面に液滴が存在する場合、機械的ワイパーを用いずに、ガラス又はミラー又はフィルム等の板の光透過性又は光反射性を向上させ、外部視界を確保する方法と、その方法に基づく乗り物のワイパーを備えた風防ガラス装置及びワイパーを備えたバックミラー装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1〜4に記載の以下[1]〜[4]の手段を用いる。
[1]板の表面又は内部に配置された電極によりプラズマを発生させ、表面に存在する液滴の形状又は運動又は板表面の親水性を制御することで、板の光透過性を向上させる方法を用いる。
[2]板の表面又は内部に配置された電極によりプラズマを発生させ、表面に存在する液滴の形状又は運動又は板表面の親水性を制御することで、板の光反射性を向上させる方法を用いる。
[3]前記板がガラスである[1]の方法を利用したワイパーを備えた乗り物の風防ガラス装置を用いる。
[4]前記板がミラーである[2]の方法を利用したワイパーを備えた乗り物のバックミラー装置を用いる。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、ガラス又はミラー又はフィルム等の板の、表面にプラズマを発生させ、表面に存在する液滴の形状又は運動又は板表面の親水性を制御することで、光透過性又は光反射性を向上させ、機械的可動部分を持たない乗り物のワイパーを備えた風防ガラス装置及びワイパーを備えたバックミラー装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を用いて本発明の実施の形態について詳細に説明するが、本発明は、これに限定されて解釈されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、発明者の知識に基づいて種々の変更、修正、改良を加え得るものである。
【0015】
図1は実施形態の一例を示す斜視図である。ガラス1の裏面には平板又は網状の裏面電極2が貼られており、表面電極3の形状は細い平行直線型となっている。ガラス1の材質は絶縁性であれば限定されず、高分子等のフィルムでもよい。電極の材質としては特定されないが、ITO(Indium Tin Oxide、酸化インジウムに酸化スズを添加したもの)又は導電性プラスチック等の透明導電体が望ましい。
【0016】
このようなガラスに雨天時等に液滴5が落下付着し、視界が妨げられた場合(図1(a))、表及び裏の電極間に高電圧電源4をスイッチONし、印加し表面電極3の周囲に沿面放電プラズマ等の低温プラズマを発生させる。図1(b)に示すようにガラス表面の大部分は親水化し、水滴は平板状領域6となり光散乱が抑えられ、雨滴に対する光透過性が保たれる。又、ガラス1がミラーである場合には光反射性が保たれる。プラズマ停止後もこの親水性はかなりの時間保たれ、親水性が失われた場合は再度プラズマ印加すればよい。
【0017】
電極間に加える高電圧電源4の種類は特に限定されないが、交流、直流、パルス電圧が望ましい。また最適電圧値はガラス板の厚さにも依存するが、2mmの場合におよそ12kVピークのパルス高電圧が例示される。
【0018】
図2に別の実施形態である電極付きガラスの正面図を示す。ガラス1の裏面には平板又は網状の裏面電極2が貼られており、表面電極3の形状は細いコ型となっている。
【0019】
図3にさらに別の実施形態である電極付きガラスの正面図を示す。ガラス1の裏面には平板又は網状の裏面電極2が貼られており、表面電極3の形状は細い多数のロ型となっている。
【0020】
図4にさらに別の実施形態である電極付きガラスの正面図を示す。ガラス1の裏面には平板又は網状の裏面電極2が貼られており、表面電極3の形状は図のような連続直線となっている。
【0021】
図5にさらに別の実施形態である電極付きガラスの正面図を示す。ガラスの裏面には平板又は網状の裏面電極2が貼られており、表面電極3の形状は細い針状電極9が多数存在している。
【0022】
図6にさらに別の実施形態である電極付きガラスの正面図を示す。ガラスの裏面には平板又は網状の裏面電極2が貼られており、表面電極3の形状は細い一方向の網状の電極である。
【0023】
以上、図1〜図6までの電極配置では、それぞれに適した最適電圧値、間隔が存在し、状況により適した設計がなされるべきである。また、一対の電極の少なくとも一方はガラスの内部に位置しても良い。
【実施例】
【0024】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は、この実施例に限定されるものではなく、ガラス又はミラー又はフィルム等の板の様々な形状と種類に対し、様々なプラズマ電源を用いて実施し得るものである。
【0025】
図7に示すような寸法の電極付きシリケートガラス(図3の電極配置の1パターンを模したもの。寸法はmm単位で図7に示す。以下Aと呼ぶ)を準備した。
【0026】
また、別の一例として図8に示すような寸法の電極付きポリエステルフィルムーシリケートガラス複合材料(ガラスの表面にポリエステルフィルム7を貼り合わせ、図2の電極配置の1パターンを模したもの。寸法はmm単位で図8に示す。以下Bと呼ぶ)を準備した。
【0027】
A、Bの電極の表面は試作後、表面の油脂を除くため、研磨剤で軽く表面研磨し、エタノールで洗浄した後、試験を開始した。A、Bそれぞれの電極間に、高電圧を印加し、電極近傍で一様な沿面放電プラズマを発生させた。発生前後の水滴(直径2mm)の接触角を接触角計(協和界面科学(株)、CA−DT型)により計測した。
【0028】
A、Bの電極間には正極性のパルス高電圧電源8により、ピーク電圧約12kV、305Hz、立ち上がり時間約60μsのパルス高電圧を印加した。電圧V、電流Iの波形を図9、図10に示す。この波形は横河電機製オシロスコープ(DL1740−1GS/s)、ピアソン製電流プローブ(Model 2878)、ソニーテクトロニクス製電圧プローブ(P6015A)を用いて測定したものである。パルス沿面放電に特有のパルス状の電流波形Iが観察されている。
【0029】
表1に結果を示す。A、Bに対し、プラズマを印加前、1分間印加直後、さらに3分間印加直後及び印加後室内で1日放置した際の位置(1)、(2)、(3)での接触角を測定した。なお、Aに対し位置(1)での計測は行っていない。
【表1】

【0030】
表1からわかるようにAでは、1分印加直後、電極近傍(2)で接触角が7°以下になっており、十分な親水性が得られている。なお(3)では電極から離れているので、接触角の低下はほとんどない。また、Bの表面(ポリエステル)ではAの表面(ガラス)に比べて接触角の低下割合は小さいが、Bではさらに3分印加直後、位置(1)〜(3)で接触角が25°以下になっており、十分な親水性が得られている。
【0031】
A、Bに対し、いずれの位置でも放置1日後には接触角はかなり大きく戻っており、親水性を取り戻すには再度のプラズマ印加が必要となる。
【0032】
以上の結果より、ガラス又はミラー又はフィルム等の板の、表面又は内部に電極を有し、表面にプラズマを発生させ、表面に存在する液滴の形状又は運動又は板表面の親水性を制御することで、光透過性又は光反射性を向上させる方法又はワイパー装置を実現させた。このような電極パターンを多くガラス表面に構成することで、ワイパーを備えた風防ガラス装置及びワイパーを備えたバックミラー装置を提供できる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明により、機械的可動部分を持たない革新的なワイパーを備えた乗り物の風防ガラス装置及びバックミラー装置を実現できる。さらには親水性向上によるクリーニング効果、例えば太陽電池パネル板の表面に付着した汚れを、表面を親水化させて洗い流す用途にも使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】風防ガラス又はバックミラーの表面に水滴が付着した場合に、表面にプラズマを発生させ、水滴を平らにし、光透過性又は光反射性を向上させ、外部視界を確保するワイパー機能を実現している方法又は装置の斜視図である。
【図2】本発明におけるガラス又はミラー又はフィルム上に配置されたプラズマ電極の表面での形状を示す正面図である。
【図3】本発明におけるガラス又はミラー又はフィルム上に配置された別のプラズマ電極の表面での形状を示す正面図である。
【図4】本発明におけるガラス又はミラー又はフィルム上に配置された別のプラズマ電極の表面での形状を示す正面図である。
【図5】本発明におけるガラス又はミラー又はフィルム上に配置された別のプラズマ電極の表面での形状を示す正面図である。
【図6】本発明におけるガラス又はミラー又はフィルム上に配置された別のプラズマ電極の表面及び裏面の形状を示す正面図である。
【図7】本発明の実施例における電極付きガラスAの形状を示す正面図である。
【図8】本発明の実施例における電極付きガラスBの形状を示す正面図である。
【図9】本発明の実施例における電極付きガラスAにパルス高電圧を印加した場合の電圧V、電流Iの波形の測定結果を表すグラフである。
【図10】本発明の実施例における電極付きガラスBにパルス高電圧を印加した場合の電圧V、電流Iの波形の測定結果を表すグラフである。
【符号の説明】
【0035】
1 ガラス
2 裏面電極
3 表面電極
4 高電圧電源
5 液滴
6 平板状領域
7 ポリエステルフィルム
8 パルス高電圧電源
9 針状電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板の表面又は内部に配置された電極によりプラズマを発生させ、表面に存在する液滴の形状又は運動又は板表面の親水性を制御することで、板の光透過性を向上させる方法。
【請求項2】
板の表面又は内部に配置された電極によりプラズマを発生させ、表面に存在する液滴の形状又は運動又は板表面の親水性を制御することで、板の光反射性を向上させる方法。
【請求項3】
前記板がガラスである請求項1の方法を利用したワイパーを備えた乗り物の風防ガラス装置。
【請求項4】
前記板がミラーである請求項2の方法を利用したワイパーを備えた乗り物のバックミラー装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2007−173193(P2007−173193A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−381215(P2005−381215)
【出願日】平成17年12月22日(2005.12.22)
【出願人】(502283811)
【Fターム(参考)】