説明

飛翔体誘導システム

【課題】 飛翔体誘導システムが、飛来する敵機をキャッチしてこれを迎撃すべくミサイル等の飛翔体を発射させるとき、飛翔体が種別の異なる敵機に対しても容易かつ適切に対応できるようにする。
【解決手段】 捜索レーダ1が空間を捜索して目標Aを検出し、判定器2がその検出した目標Aの種別を判定する。
捜索レーダ1がキャッチした目標Aに向けて飛翔体6が発射され、飛翔体6が目標Aを検知して追尾するとき、予め判定器2によって判定された目標Aの種別に対応した目標検出プログラム(A1,A2,・・・An)が選択されて飛翔体6に送信供給される。
従って、飛翔体6は、異なる種別の目標Aに対応した操舵翼66a,66bに対する目標位置情報を、その送信供給された目標検出プログラムに基づき生成できるので、格別複雑な構成を採用することなく、異なる複数種別の目標Aに対応することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空間捜索により目標を検出し、その検出された目標に向けてミサイル等の飛翔体を飛翔させる飛翔体誘導システムの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
地上あるいは海上の艦艇等からのミサイル攻撃を防ぐために、地上等に設置された捜索レーダが空間を常に捜索して飛来する敵ミサイルをキャッチするとともに、そのキャッチした敵ミサイルを迎撃すべくミサイルが発射される。
【0003】
敵ミサイルは空から攻撃してくるものであるが、空からの攻撃には、ミサイルの他に戦闘機や爆撃機等の航空機による場合もある。また、航空機でも戦闘機のように高速で飛来するものもあれば、ヘリコプタのように空中で停止(ホバリング)しつつ攻撃するものもある。
【0004】
いずれにしても、空からの攻撃に対向してミサイルを発射し、目標とする敵機(目標)を破壊するには、発射されたミサイルが目標を追尾し、目標に向けた誘導飛翔が確実に行われる必要がある。
【0005】
ミサイルが目標を追尾するように誘導飛翔するために、多くの場合、ミサイル自体にレーダ装置等の目標を捉えるための検知器を搭載し、その検知器からの出力信号に基づいて目標までの距離及び測角を行い、その出力信号により操舵翼を制御するように構成されている。
【0006】
ミサイル等の飛翔体が、レーダ装置を検知器として搭載し、高速で飛来するミサイルや航空機の目標を捕捉した場合、目標位置情報は、時間と周波数の情報から得ることができる。
【0007】
しかしながら、目標とは別に不要なクラッタの情報も同一に混在する為、クラッタを分離し抑圧する方法として、FFT(高速フーリエ変換)やMTI(Moving Target Indicator)を用いる。
【0008】
これらの処理は目標との間の相対速度に基づくドプラ効果を利用したものであるから、ミサイルや戦闘機等の速度を持って高速で飛来する目標に対しては有効であっても、ホバリングヘリコプタのように相手目標が空中で停止した状態の目標に対しては、これらを地面または海面等のクラッタと識別してその目標位置情報を出力するのは容易でなく、何らかの工夫が要求される。
【0009】
たとえば、停止した目標に対しては、レーダ装置に代えてカメラ等の光学検知器を搭載し、その映像出力信号から目標位置を検知して、目標位置に向けた誘導制御が行われる。
【0010】
すなわち、速度を持って飛行するミサイル等の機体そのもののドプラ信号を目標とした場合と、停止状態のヘリコプタのロータブレードの回転翼のドプラ信号を目標とした場合のように、目標信号の特徴が全く異なる場合は、これを探知、追尾する飛翔体は同一の受信信号処理によって、その特徴の異なる目標に対応することが困難であるから、それぞれ目標信号の特徴に対応したプログラム制御による信号処理により、目標の探知、追尾が行われる。
【0011】
そこで、従来のレーダをセンサとしたミサイル等の飛翔体は、そもそもホバリングヘリコプタの種別を識別する機能は有していないから対応できなかった。そのため、探知、追尾に係わる信号処理プログラムは1種のみ搭載していた。
【0012】
なお、レーダ装置を検知器として搭載したミサイルにおいて、目標との間の距離が大きく離れている間はドプラ追尾を行い、目標に近づいたときに距離追尾に切り替えるという、目標追尾中における目標との間の距離によって信号処理方法を切り替え、同一種別の目標に対し、時系列にプログラム処理を換えることで目標追尾のより正確化を目指した提案がなされている。(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平2004−219245号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記のように、従来のミサイル等の飛翔体において、目標信号の特徴によって、検知器はもとより検知器の出力に対応した信号処理は異なるものであったから、飛翔体が対応できる目標信号の特徴は特定され、適用範囲は限定された。
【0014】
また、目標検知器を搭載した飛翔体が、複数の目標信号の特徴に対応できるようにするには、予め複数の目標信号の特徴の数に対応した数の目標検出プログラムを搭載しておきき、何らかの手段で選択これを読み出し実行可能とする必要がある。このように複数種の目標検出プログラムを1つのプログラムとして搭載し、これを切り替え使用する構成は、メモリの増大につながるとともに構成の複雑化は避けられず、飛翔体としての信頼性を低下させるので改善が要望されていた。
【0015】
そこで本発明は、飛翔体が目標に向けて飛翔する際、その都度、選択された目標の特徴に対応した目標検出プログラムだけを搭載することで、簡単な構成にすると共に、適用範囲を拡大可能な飛翔体誘導システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の飛翔体誘導システムは、空間を捜索して目標を検出する捜索レーダと、この捜索レーダで検出された前記目標の種別を判定する判定手段と、前記目標の種別に対応して予め設定された複数種の目標検出プログラムの中から、前記判定手段で判定された前記目標に対応する目標検出プログラムを選択する選択手段と、この選択手段で選択された前記目標検出プログラムを送信する送信手段と、この送信手段から送信された前記目標検出プログラムを受信するとともに、目標検知器を搭載し、出力された目標検知信号の前記受信した目標検出プログラムに基づく処理により目標位置情報を求めて前記目標を追尾飛翔する飛翔体とを具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
上記のように、本発明の飛翔体誘導システムは、判定手段で判定された目標の種別に対応する目標検出プログラムを選択して送信する送信手段を備え、飛翔体は、その送信手段から送信された目標検出プログラムに基づく信号処理によって目標位置情報を求めるので、飛翔体は、複数の目標の種別のうち、選択されたいずれか一の目標の種別に対応した信号処理を実行して誘導制御できるので、飛翔体の適用範囲を拡大させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明による飛翔体誘導システムの一実施例を図1ないし図4を参照して詳細に説明する。
【0019】
図1は本発明による飛翔体誘導システムの一実施例を示した構成図である。
【0020】
すなわち、飛翔体誘導システムは、空間を捜索して目標を検出する捜索レーダ1と、この捜索レーダ1で検出された目標Aの種別(A1,A2,・・・An)を判定する判定器2と、この判定器2に接続された選択器3と、この選択器3に接続され、予め目標Aの種別に対応した複数種の目標検出プログラム(41,42,・・4n)を記憶したプログラム設定器4と、選択器3に接続され、その選択器3によって選択された目標検出プログラム(41,42,・・4n)の中の一の目標検出プログラムを送信する送信機5と、この送信機5から送信される目標検出プログラムを受信して記憶可能な飛翔体6とで構成されている。
【0021】
なお、図1に示した実施例において、目標Aの種別A1は航空機であり、目標Aの種別A2はホバリングヘリコプタであるものとして以下説明する。
【0022】
図1において、プログラム設定器4に記憶された目標検出プログラム(41,42,・・4n)は、以下説明するように、飛翔体6における目標検知出力に対し信号処理を行い、目標Aに向けて追尾飛翔するのに必要な目標位置情報を生成するための信号処理プログラムである。また、目標検出プログラム(41,42,・・4n)のうち、目標検出プログラム41は種別A1の航空機の位置情報を、また目標検出プログラム42は種別A2のホバリングヘリコプタの位置情報を生成するためのプログラムであるものとして以下説明する。
【0023】
図1において、捜索レーダ1は、空間を捜索して目標Aを検出し、その検出信号を判定器2に供給する。
【0024】
判定器2は、捜索レーダ1からの目標検出信号を受け、検出された目標Aの形状や移動速度並びに高さ位置情報等から、目標Aの種別を判定し、その判定結果を選択器3に供給するとともに、目標Aの角度(測角)情報は、不図示の手段により、飛翔体6が設置されたランチャ(発射台)に供給され、ランチャ上の飛翔体6の向きが目標A方向に向くように設定される。なお、判定器2は、捜索レーダ1からの目標検出信号を受け、目標Aの種別を判定するが、この実施例では、目標Aがホバリングヘリコプタであるものとして以下説明する。
【0025】
選択器3は、判定器2からの判定結果に基づき、対応する目標Aの種別、すなわちホバリングヘリコプタである種別A2に対応した目標検出プログラム42をプログラム設定器4から読み出し送信機5に供給する。
【0026】
送信機5は、選択器3で選択された目標検出プログラム42をプログラム設定器4から取り出し、飛翔体6に向けて送信する。
【0027】
飛翔体6は、受信機61を搭載し、送信機5から送信された目標検出プログラム42を受信して、内蔵したメモリ62に記憶しローディングする。
【0028】
また、飛翔体6は、目標検出プログラム42を受信する受信機61、及びその受信機61で受信した目標検出プログラム42を記憶するメモリ62とともに、図1に示したように、レーダ装置からなる検知器63、プログラム制御により信号処理を行う受信信号処理回路64、飛翔体6自体の速度を検出して出力する速度検出器65、及び操舵翼66a,66bを備えている。
【0029】
受信信号処理回路64は、検知器63及び速度検出器65に接続され、検知器63から得られた目標反射信号と、速度検出器65から供給される飛翔体6自体の速度データ(信号)とを導入し、メモリ62に記憶された目標検出プログラム42を読み出し実行することによって目標位置情報を生成し、操舵翼66a,66bを駆動制御する。
【0030】
なお、受信信号処理回路64は、受信機61で受信された目標検出プログラム42がメモリ62に記憶されたタイミングに合わせて動作を開始し、検知器63からの目標反射信号を処理して目標位置情報を生成する。
【0031】
この実施例における目標検出プログラム42はホバリングヘリコプタに対応したプログラムであり、目標検出プログラム41は通常目標(戦闘機、ミサイル等)に対応したプログラムである。
【0032】
また、本レーダはHi−PRFレーダであり、プログラム41はFFT(高速フーリエ変換)を用いてクラッタ周波数(例えば1kHz 以下)以外の周波数について事前に計測した受信ノイズから検出スレッショルドを決め、比較することで検出を行う。要すればFFFTによりクラッタを分離、抑圧し、目標信号のみ検出する。これは、通常目標の信号の特徴が機体速度のドプラ周波数(FFTの1バンク)だけであるからである。
【0033】
これに対しプログラム42はホバリングヘリコプタのブレードロータ信号を検出する必要がある。
【0034】
ブレードロータ信号の特徴は時間的には瞬時信号、すなわち周波数的にはある周波数範囲に広がっているという特徴がある。そのため、前述したプログラム41のFFTを用いた検出は使用できない。
【0035】
プログラム42ではFFTではなくデジタルフィルタを用いる。ブレードロータ信号の周波数広がりに対応してデジタルフィルタの通過帯域を決め、それ以外は抑圧する。
【0036】
このように目標検出プログラム41と目標検出プログラム42の演算式は全く異なった式を使用する。
【0037】
プログラム41で用いる式は、データ列をx(n)とすれば下記式(4−1)と表される。
【数1】

【0038】
プログラム42で用いる式は、z 変換を用いた伝達関数で示すと下記式(4−2)と表される。
【数2】

【0039】
この伝達関数とデータ列x(n)のコンボリューション(畳み込み)となる。ちなみに本伝達関数は一例としてFIR(非巡回型)フィルタで示しているが、IIR(巡回型)フィルタでも良い。また、演算負荷を軽減する方法として、FFTを実施し、不要帯域をゼロ埋め(ゼロフィル)後、逆FFTすることで帯域通過フィルタを実現することもできる。
【0040】
とにかく帯域通過フィルタを実現することで、ブレードロータ信号を抽出できる。ただし、S/Nをより上げる方法としてフィルタ通過後の信号をコヒーレント積分することもある。ちなみにコヒーレント積分とは具体的にはFFTであり、この場合は少数(例えば4とか8とか)でのFFTである。基本的には対象目標の特徴抽出のため、上記2種類の演算式を換えることが必要である。
【0041】
ハードウエアはDSP(Digital Signal Processing)デバイスまたはCPUデバイスを用いる。
【0042】
この様にハードウエアは共通としておき、プログラムを入れ替えることで、2種類の信号処理回路を実現する。
【0043】
目標検出プログラム41は図2のフローチャートの様に動作する。また、目標検出プロ
グラム42は図3のフローチャートの様に動作する。以降、検出プログラム42が書き込まれたとする。
【0044】
すなわち、飛翔体6は、図4に示した様に構成され、レーダ装置からなる探知器63は、送信器631、受信器632、及びアンテナ633で構成され、アンテナ633は、アレイアンテナ素子6331a〜6331N、送受信モジュール6332a〜6332N、及び給電回路6333で構成される。
【0045】
検出においては、捜索レーダ1から不図示の手段により初期位置情報をUTDC(アップトウデートコマンド)信号として、UTDC受信機67から得ることで送信器631から送信パルス信号を給電回路6333を介し、送受モジュール6332a〜6332Nで位相を変えることにより、アンテナ素子6331a〜6331Nで方位情報方向に空間合成し出力する。
【0046】
出力した電波は反射波として、アンテナ素子6331a〜6331Nで受信され、送受信モジュール6332a〜6332Nで増幅し、給電回路6333で電力合成され、受信器632で周波数変換し、AD変換器643でデジタル信号列にする。このとき、前述のUTDC信号で受信時間が解るのでサンプルする時間が定められる。
【0047】
本レーダはHi−PRFレーダなので、一つの送信パルスに対し一つの受信データがサンプルされる。例えば、4096のパルス送信を考えるなら、受信信号列は4096のデータ列となる。
【0048】
検出においては、受信出力のうち和信号Σだけを使用する。ここで、信号処理回路64
1で前述した検出プログラム42、すなわち図3のフローに従い検出処理がなされる。
【0049】
この処理で検出されたなら、同様のプログラムでΔAZ、ΔELも処理され、Σとの比較により測角演算される。本飛翔体は比例航法を前提としているので、測角情報から後段の誘導処理回路642にて誘導計算を施し、操舵信号として操舵翼66a,66bを駆動して目標方向に誘導する。
【0050】
ところで、上記説明の実施例において、送信機5から受信機61への目標検出プログラム42の伝送は無線で行われる旨説明したが、有線で伝送を行い、飛翔体の発射前に切り離しても良い。
【0051】
以上説明のように、本実施例によれば、判定器2で判定された目標Aの反射波の特徴に対応する目標検出プログラムを選択して伝送する送信機5を備え、飛翔体6は、その送信機5から伝送された目標検出プログラムに基づく信号処理によって目標検出を行うので、飛翔体6に搭載されたDSPやCPUに付随するメモリを増大させることなく、また、飛翔体6の構成の複雑化を回避して、対応できる目標Aの特徴対応を大幅に拡大させることができる。
【0052】
また、上記実施例において、プログラム設定器4を飛翔体6の外側に構成した例で説明したが、プログラム設定器4を飛翔体6の内部に構成し、外部の構成される選択器3から選択指示を与えるように構成しても良い。
【0053】
以上説明のように、本実施例によれば、判定器2で判定された目標Aの反射波の特徴に対応する目標検出プログラムを選択して伝送する送信機5を備え、飛翔体6は、その送信機5から伝送された目標検出プログラムに基づく信号処理によって目標検出を行うので、飛翔体6に搭載されたDSPやCPUに付随するメモリを増大させることなく、また、飛翔体6の構成の複雑化を回避して、対応できる目標Aの特徴対応を大幅に拡大させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明による飛翔体誘導システムの一実施例を示した構成図である。
【図2】図1に示した目標検出プログラム41に記載された動作のフローチャートである。
【図3】図1に示した目標検出プログラムラム42に記載された動作のフローチャートである。
【図4】図1に示した飛翔体の構成図である。
【符号の説明】
【0055】
1 捜索レーダ
2 判定器(判定手段)
3 選択器(選択手段)
4 プログラム設定器
5 送信機(送信手段)
6 飛翔体
61 受信機
62 メモリ
63 検知器
64 受信信号処理回路
65 速度検出器
66a,66b 操舵翼
67 UTDC受信器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空間を捜索して目標を検出する捜索レーダと、
この捜索レーダで検出された前記目標の種別を判定する判定手段と、
前記目標の種別に対応して予め設定された複数種の目標検出プログラムの中から、前記判定手段で判定された前記目標に対応する目標検出プログラムを選択する選択手段と、
この選択手段で選択された前記目標検出プログラムを送信する送信手段と、
この送信手段から送信された前記目標検出プログラムを受信するとともに、目標検知器を搭載し、出力された目標検知信号の前記受信した目標検出プログラムに基づく処理により目標位置情報を求めて前記目標を追尾飛翔する飛翔体と
を具備することを特徴とする飛翔体誘導システム。
【請求項2】
前記目標の種別は、ホバリングヘリコプタとホバリングヘリコプタ以外の航空機とを区別したものであることを特徴とする請求項1に記載の飛翔体誘導システム。
【請求項3】
前記目標検知器は、レーダ装置で構成したことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の飛翔体誘導システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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