説明

食品の下処理方法

【課題】食品本来の風味を損なうことなく、食品の異臭を低減できる食品の下処理方法を提供する。
【解決手段】調味及び/又は調理に供する食品に対し、水戻し、ブランチング及び漬け込みから選ばれる下処理を行う食品の下処理方法であって、前記食品を、鰹節抽出物を含有する下処理液を用いて前記下処理する。下処理液には、鰹節抽出物を固形換算分で0.005〜3質量%含有させることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鰹節抽出物を用いた食品の下処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食品の香りは、その食品の風味を決定する上で非常に重要な要因のひとつであり、良い香りを引き立たせることは、その食品の風味向上に繋がる。しかしながら、食品自体の香りや、食品の加工において発生する香りの中には、逆に風味を損なうものが多く存在する。
【0003】
例えば、乾燥食品は、保存性や流通性に優れるものの、乾燥工程において、食品中の脂質成分、香味成分、臭気成分などが酸化劣化して、異臭が発生しやすい。このため、乾燥食品には、独特の臭気(いわゆる乾燥臭)がある。
【0004】
また、野菜類は、その青臭みや刺激臭といった強い香りを有している。このため、特に、サラダのように生のまま使用する際には、その強い臭気により、敬遠され易かった。
【0005】
また、魚類は、青魚では特に生臭みが、脂の多い魚では脂焼けした臭いや、淡水魚では泥臭さなどがある。
【0006】
そこで、これらの食品を、調理や調味などするに際し、水戻し、ブランチング、水さらし、漬け込み等の下処理を行って臭気を低減させている。
【0007】
また、エリスリトール(特許文献1)、α,α−トレハロース(特許文献2)、甘庶由来の抽出物(特許文献3)等のマスキング剤を用いて食品の異臭や不快臭をマスキングする方法も行われている。
【特許文献1】特開平9−224588号公報
【特許文献2】WO2004/060077号公報
【特許文献3】特開平11−155516号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来、行われている下処理方法では、食品の臭気を十分除去することは困難であった。また、マスキング剤を用いた方法では、食品にマスキング剤の風味が付与されてしまい、食品本来の風味が損なわれることがあった。
【0009】
一方、鰹節抽出物は様々な香味成分や旨味成分を有しているので、調味料として一般的に使用されているが、鰹節抽出物による食品の風味改善効果については、これまで知られていない。
【0010】
したがって、本発明の目的は、食品本来の風味を損なうことなく、食品の異臭を低減できる食品の下処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため鋭意研究した結果、調味及び/又は調理に供する食品に対し、鰹節抽出物を用いて水戻し、ブランチング及び漬け込みから選ばれる下処理を行うことにより、食品本来の風味を損なうことなく、食品の異臭を低減できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明の食品の下処理方法は、調味及び/又は調理に供する食品に対し、水戻し、ブランチング及び漬け込みから選ばれる下処理を行う食品の下処理方法であって、前記食品を、鰹節抽出物を含有する下処理液を用いて前記下処理することを特徴とする。
【0013】
本発明の食品の下処理方法は、前記下処理液に、前記鰹節抽出物を固形換算分で0.005〜3質量%含有させることが好ましい。鰹節抽出物の含有量が上記範囲であれば、下処理した食品に鰹節抽出物の風味を付与することなく異臭を低減できる。
【0014】
本発明の食品の下処理方法は、前記食品が、乾燥食品であって、該食品を前記下処理液に浸漬して水戻しすることが好ましい。この態様によれば、乾燥食品から、脂質成分、香味成分、臭気成分などが酸化劣化して発生した異臭を除去できるので、乾燥食品の風味を改善することができる。
【0015】
本発明の食品の下処理方法は、前記食品が、生鮮野菜類であって、該食品を水洗処理した後、前記下処理液を用いて、ブランチング及び/又は漬け込みを行うことが好ましい。この態様によれば、生鮮野菜類の青臭さや刺激臭を除去できるので、野菜類の風味を改善することができる。
【0016】
本発明の食品の下処理方法は、前記食品が、魚介類であって、該食品から不可食部を除去して水洗処理した後、前記下処理液に漬け込むことが好ましい。この態様によれば、魚介類から生臭さ除去できるので、魚介類の風味を改善することができる。
【0017】
本発明の食品の下処理方法は、前記鰹節抽出物として、抽出溶媒として水又はアルコール溶液を用いて得られる抽出物を用いることが好ましい。
【0018】
本発明の食品の下処理方法は、前記鰹節抽出物として、抽出溶媒としてアルコール濃度の異なる3種類以上のアルコール溶液を用いて鰹節からの抽出を行い、各濃度で抽出されたエキスを混合して得られる抽出物を用いることが好ましい。この抽出物は、アルコール溶液に対する溶解性の異なる成分を含有するので、風味改善効果に優れる。
【0019】
本発明の食品の下処理方法は、前記鰹節抽出物として、粉砕した鰹節をカラム又はタンクに充填し、該カラム又はタンクにアルコール濃度が連続的又は3段階以上の段階的に変化するようにアルコール溶液を通液することにより得られた抽出物を用いることが好ましい。この抽出物も、アルコール溶液に対する溶解性の異なる成分を含有するので、風味改善効果に優れる。
【0020】
本発明の食品の下処理方法は、前記鰹節抽出物として、下部にフィルターを備えた容器に粉砕した鰹節を充填し、該鰹節充填層の表面に抽出溶媒を滴下して、前記表面に前記抽出溶媒が液溜めされない状態で通液することにより得られた抽出物を用いることが好ましい。この抽出物は、抽出が容易で、鰹の成分を高濃度に含有するので、風味改善効果に優れる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、調味及び/又は調理に供する食品に対し、鰹節抽出物を含む下処理液を用いて、水戻し、ブランチング、水さらし、及び漬け込みから選ばれる下処理を行うことにより、食品本来の風味を損なうことなく、食品の異臭を低減でき、風味を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の下処理方法の対象となる食品は、調味や調理に供する食品であれば特に限定はなく、乾燥食品、生鮮野菜、魚介類などが好ましく挙げられる。
【0023】
乾燥食品としては、海藻類(昆布、ひじき、ワカメ、もずく、めかぶ、あらめ、のりなど)、乾燥野菜(切干大根、乾燥ポテト、大豆、小豆、干瓢など)、乾燥キノコ(乾燥椎茸、木耳、舞茸など)、その他、高野豆腐、乾燥おから、植物性蛋白などのエアードライ具材やフリードライ具材などが挙げられる。
【0024】
生鮮野菜としては、タマネギ、ピーマン、ニンジン、ゴボウ、キュウリ、キャベツ、白菜、セロリ、パセリ、トマト、ニンニク、ニラ、ネギ、アスパラガス、ラッキョウ、カブ、レタス、大根、生姜、筍などが挙げられる。
【0025】
魚介類としては、ウナギ、サケ、サバ、サンマ、イワシ、アジ、ニシン、コハダ、アナゴ、ドジョウ、タチウオ、タラ、サメ、エビ、イカ、貝、カニ、イクラ、カズノコ、タラコなどが挙げられる。
【0026】
次に、本発明の下処理方法に用いる下処理液について説明する。
【0027】
本発明の下処理方法に用いる下処理液は、鰹節抽出物を含有するものであって、鰹節抽出物を固形換算分で0.005〜3質量%含有することが好ましく、0.025〜1質量%含有することがより好ましい。鰹節抽出物の含有量が固形分換算で0.005質量%未満であると、下処理後の食品の異臭の低減効果が十分でない場合があり、3質量%を超えると、下処理に用いた食品に鰹節抽出物の風味が付与されてしまい、食品本来の風味が損なわれることがある。下処理液中の鰹節抽出物の含有量が、固形換算分で0.005〜3質量%であれば、当該下処理液で下処理した食品に鰹節抽出物の風味を付与することなく、食品の異臭を低減できる。
【0028】
鰹節抽出物は、鰹節から、飲食品に使用できる手法、溶媒等を用いて抽出して得られたものである。
【0029】
鰹節抽出物の抽出方法としては、従来知られている鰹だし、鰹エキス等の製造のための抽出方法を用いることができる。また、鰹節抽出物の抽出溶媒としては、通常の調理・加工において用いられている水及び/又はエタノールを用いることができる。鰹節抽出物の抽出効率を上げるためには、抽出原料となる鰹節の粉砕大を、3メッシュ以上に揃えることが好ましく、8〜32メッシュに揃えることがより好ましい。
【0030】
本発明においては、鰹節抽出物は、以下に説明する多段抽出法、グラジエント抽出法、もしくはドリップ抽出法を用いて抽出したものが好ましい。これらの手法により得られた抽出物は、鰹の水溶性成分及び脂溶性成分を高濃度で含有するので、特に食品の異臭の除去効果に優れる。
【0031】
以下、鰹節抽出物を得るための抽出方法として好ましく用いることができる多段抽出法、グラジエント抽出法、もしくはドリップ抽出法について具体的に説明する。
【0032】
本発明において、多段抽出法又はグラジエント抽出法とは、粉砕した鰹節を原料とし、抽出溶媒としてアルコール濃度の異なるアルコール溶液を用いて抽出を行い、各濃度で抽出されたエキスを混合する抽出方法である。そのアルコール溶液のアルコール濃度は、3種類以上が好ましく、4種類以上がより好ましい。なお、アルコールの種類は、飲食品の製造に使用可能なエタノールが好ましい。
【0033】
上記多段抽出法又はグラジエント抽出法の好ましい態様においては、上記抽出原料をカラム又はタンクに充填し、アルコール溶液のアルコール濃度を変化させながら通液して溶媒抽出してエキスを得る。これによれば、1つのカラム又はタンクから抽出される鰹節抽出物が、異なるアルコール濃度のアルコール溶液で抽出されたものの混合物となるので、カラムやタンクの設置数が少なくてすみ、しかも効率よく鰹節抽出物を高濃度含有するエキスを得ることができる。
【0034】
また、上記抽出原料が充填されたカラム又はタンクに、異なるアルコール濃度のアルコール溶液を、アルコール濃度が連続的又は3段階以上の段階的に変化するように通液してエキスを得ることが好ましい。これによれば、アルコール溶液に対する溶解性の異なる成分を含有するエキスを効率よく得ることができる。
【0035】
カラム又はタンクを用いる場合には、鰹節抽出物を高濃度含有するエキスを得られる点では、カラム式抽出法が好ましく用いられる。また、抽出原料として、カラムに充填した場合の圧力損失が大きなものを用いる場合はバッチ式抽出法が好ましく用いられる。また、抽出装置として抽出タンクを用いる場合は、抽出残渣を再度タンクに戻して異なるアルコール濃度のアルコール溶液で抽出してもよく、タンクの出口にメッシュ等を設置し、擬似カラム様に用いても良い。
【0036】
抽出原料を効率よく、かつ均一にカラム又はタンクに充填するため、適量(好ましくは抽出原料100質量部に対して10〜70質量部、より好ましくは20〜50質量部)の抽出溶媒に抽出原料を混合して充填することが好ましい。この時に用いる抽出溶媒のアルコール濃度は、後の抽出工程で用いる溶媒のアルコール濃度と同じものを用いることが好ましい。
【0037】
また、抽出効率をより向上させるために、抽出原料を充填したカラム又はタンクを後述する抽出温度で0.5〜1時間静置保温してから抽出を開始することが好ましい。抽出操作は、抽出溶媒をカラム又はタンクの上部若しくは下部より通液して行うことができる。
【0038】
抽出溶媒のカラム又はタンクへの通液量は、適宜設定することができるが、抽出原料100質量部に対して、カラム又はタンクからの抽出液量として20〜200質量部となるように設定することが好ましく、40〜150質量部となるように設定することがより好ましい。抽出溶媒の通液量が少な過ぎると抽出効率が悪く、通液量が多過ぎると得られる抽出液の固形分濃度が低くなり、濃縮等に手間がかかるため好ましくない。
【0039】
また、抽出溶媒のカラム又はタンクへの通液速度は、SV=0.1〜2.5h−1が好ましく、SV=0.5〜1.5h−1がより好ましい。通液速度が上記範囲未満では抽出に時間がかかり、上記範囲を超えると抽出効率が悪く、抽出液の固形分濃度が低くなり、濃縮等に手間がかかるため好ましくない。
【0040】
また、抽出温度は20〜80℃が好ましく、20〜60℃がより好ましい。抽出温度が上記温度範囲より低い場合は、充分な抽出効率を得ることができず、上記温度範囲より高い場合には、風味の熱による劣化や、エグ味成分や脂肪等の品質の面で好ましくない成分も抽出されるため好ましくない。
【0041】
本発明において、上記に説明した多段抽出法又はグラジエント抽出法のうち、多段抽出法とは、上記アルコール濃度の異なるアルコール溶液を用いた抽出方法において、抽出溶媒のアルコール濃度が段階的に変化するように抽出原料に接触させてエキスを得る方法を意味し、グラジエント抽出とは、抽出溶媒のアルコール濃度が連続的に変化するように抽出原料に接触させてエキスを得る方法を意味する。
【0042】
本発明において、アルコール溶液のアルコール濃度を段階的に変化させて通液する場合には、複数濃度のアルコール溶液を用意しておき、通液するアルコール溶液を経時的に切り替える方法等が採用できる。なお、アルコール濃度を段階的に変化させる場合、3段階以上に変化させて通液することが好ましく、4段階以上に変化させることがより好ましい。
【0043】
以下には、グラジエント抽出法について更に具体的に説明する。グラジエント抽出法によれば、多段抽出法に比べ、水溶性成分及び脂溶性成分をより効率よく抽出でき、かつ、抽出工程がより簡便である。
【0044】
グラジエント抽出法において、抽出溶媒のアルコール濃度を低濃度から高濃度へ連続的に変化させる場合には、上記抽出溶媒のアルコール初濃度は、0(水)〜50%(v/v)が好ましく、0(水)〜20%(v/v)がより好ましい。また、抽出溶媒のアルコール終濃度は、50〜100%(v/v)が好ましく、80〜100%(v/v)がより好ましい。
【0045】
一方、抽出溶媒のアルコール濃度を高濃度から低濃度へ連続的に変化させる場合には、上記抽出溶媒のアルコール初濃度は、50〜100%(v/v)が好ましく、80〜100%(v/v)がより好ましい。また、抽出溶媒のアルコール終濃度は、0(水)〜50%(v/v)が好ましく、0(水)〜20%(v/v)がより好ましい。
【0046】
また、抽出効率をより向上させるために、抽出原料を充填したカラム又はタンクを後述する抽出温度で0.1〜5時間、好ましくは0.5〜1時間静置保温してから抽出を開始することが好ましい。抽出操作は、抽出溶媒をカラム又はタンクの上部若しくは下部より通液して行うことができる。
【0047】
抽出装置としてカラムを用い、アルコール溶液のアルコール濃度に連続的な変化をつけながら通液する場合、抽出溶媒のアルコール濃度に勾配をかける手段としては特に制限されず、公知の手段を採用することができる。例えば、異なるアルコール濃度を有する2種類のアルコール溶液A、B(どちらか一方はアルコール濃度0%(v/v)、すなわち水であってもよい)を用い、それぞれの溶液の流速を調整しながらカラムに通液する方法や、アルコール溶液Aをカラムに通液しながら、アルコール溶液Bをアルコール溶液Aに混合する方法等が挙げられ、一定の流速で通液することができる点で後者の方法が好ましい。
【0048】
また、連続的にアルコール濃度を変化させる場合には、例えば、異なるアルコール濃度を有する2種類のアルコール溶液A、B(どちらか一方はアルコール濃度0%(v/v)、すなわち水であってもよい)を用い、一方を抽出タンク内に投入し、抽出原料とブレンドし、更に攪拌しながら、任意の流速で抽出液を排出・回収し、同時に同じもう一方のアルコール溶液を任意の流量で投入することにより可能となる。
【0049】
抽出時におけるアルコール濃度の勾配又はアルコール濃度の変化は、高濃度から低濃度へ変化させてもよく、低濃度から高濃度へ変化させてもよい。なお、得られる抽出液のアルコール濃度が高すぎると、アルコール除去の手間が余計にかかるため、好ましくは抽出液のアルコール濃度が70%(v/v)以下となるように、抽出溶媒のアルコール濃度やカラム又はタンクへの通液量を設定することが好ましい。例えば、抽出溶媒のアルコール初濃度を99%(v/v)、終濃度を0%(v/v)に設定した場合、抽出原料100質量部に対して、50質量部の99%(v/v)アルコールを、該アルコールの通液速度と同じ流速で水を混合しながらカラム又はタンクへ通液して、抽出液100質量部全量を回収することにより、抽出原料100質量部に対してアルコール濃度50%(v/v)の抽出液100質量部を得ることができる。また、抽出原料100質量部に対して、20質量部の99%(v/v)アルコールを、該アルコールの通液速度と同じ流速で水を混合しながらカラム又はタンクへ通液して、抽出液100質量部全量を回収することにより、抽出原料100質量部に対してアルコール濃度20%(v/v)の抽出液100質量部を得ることができる。この時、水の混合流速を任意に設定・変化させることにより、アルコール濃度の濃度変化を任意に設定することができる。
【0050】
以下には、更に、ドリップ抽出法について具体的に説明する。
【0051】
ドリップ抽出法においては、下部にフィルターを備えた容器に粉砕した鰹節を充填し、該鰹節充填層の表面に抽出溶媒を滴下して、前記表面に前記抽出溶媒が液溜めされない状態で通液する。ドリップ抽出法によれば、容器に充填された鰹節に抽出溶媒を均一に分散させつつ通液させることができるので、品質にばらつきの少ない、より品質の安定したエキスを得ることができる。なお、「抽出溶媒が液溜めされない状態で通液する」とは、滴下した抽出溶媒が粉砕した鰹節に浸透して、鰹節充填層の上部表面において液溜されない状態を保ちながら通液することを意味する。
【0052】
上記ドリップ抽出法においては、粉砕した鰹節が下部にフィルターを備えた容器に充填されて、一定の容積を有する鰹節充填層を形成する。
【0053】
上記鰹節充填層の上部表面において抽出溶媒が液溜されない状態を保つためには、抽出溶媒の滴下速度を鰹節充填層の断面積に対して410リットル/h・m以下で滴下することが好ましく、効率、作業性を考慮すると300〜410リットル/h・mで滴下することがより好ましい。
【0054】
上記抽出溶媒を滴下するにあたり、上記鰹節充填層の上方に備えられた複数のノズルを有するシャワーノズル、又はスプレイノズル等の抽出溶媒滴下口から、シャワー状、噴霧状、液滴状に滴下することが好ましい。また、ノズルを回転させながら滴下することが好ましい。これによれば、抽出溶媒を上記鰹節充填層の上部表面に均一に滴下することができる。
【0055】
上記容器としては、カラム又はタンク等を用いることができる。また、上記フィルターは、容器に充填される鰹節の流出を防ぐことができ、且つ、抽出エキスの通過を許容する特性を有するフィルターであればよい。具体的には、ろ紙、ろ布、セラミック、樹脂、ろ過助剤等が挙げられる。
【0056】
上記フィルターは、上記鰹節充填層の下部表面の全面に接するように容器の下部に配され、エキスの流出を許容する。したがって、鰹節充填層の下部表面においてエキスの流出が阻害されることによる抽出溶媒の移動の乱れを引き起こすことがない。
【0057】
また、充填する鰹節の粉砕大は、40メッシュ以下に粉砕したものが好ましく、3メッシュ〜32メッシュに粉砕したものがより好ましい。40メッシュ以上であると、通液しにくくなり、3メッシュ以下であると、抽出効率が悪くなる傾向にある。
【0058】
上記鰹節充填層の高さは、30cm〜60cmが好ましく、40cm〜60cmがより好ましい。60cm以上であると通液しにくくなる傾向にある。
【0059】
上記ドリップ抽出法においては、抽出溶媒として水又はアルコール溶液を用いることができる。アルコール溶液としては、1〜80質量%のアルコール含水を好ましく使用することができ、単一もしくは異なる濃度のアルコール溶液又は水を複数回に分けて使用してもよい。また、アルコール溶液を滴下後、続けて水を滴下させ所定量までエキスを回収してもよい。
【0060】
エキスは任意の濃度で抽出を終了することができるが、上記鰹節充填層を形成する粉砕した鰹節の質量に対し、50〜250%を回収することが好ましく、100〜200%を回収することがより好ましい。
【0061】
本発明においては、上記の方法等によって得られたエキスをそのまま鰹節抽出物として用いてもよく、また、公知の方法により適宜濃縮、乾燥してアルコール除去及び/又は固形分調整して用いてもよい。
【0062】
本発明の食品の下処理方法は、鰹節抽出物を含有する上記下処理液を用いて、水戻し、ブランチング及び漬け込みから選ばれる下処理を行う。
【0063】
例えば、対象とする食品が乾燥食品の場合、当該食品を上記下処理液に浸漬して水戻しすることで、乾燥食品を製造する際の乾燥工程において生じる乾燥臭(食品中の脂質成分、香味成分、臭気成分などが酸化劣化した臭気)を低減することができ、風味を向上できる。
【0064】
乾燥食品の水戻しは、鰹節抽出物を固形分換算で0.005〜3質量%含有する下処理液を用いることが好ましい。また、その処理条件については特に限定されるものではなく、例えば、上記下処理液を用いて0〜100℃で、0.5〜24時間浸漬させる処理を行えばよい。このようにして乾燥食品を水戻しすることにより、乾燥臭をより低減できるので、このような乾燥食品を調理や調味した場合、生鮮食品を使用した場合と同様の風味を有する加工食品を得ることが可能となり、煮物、サラダ、炒め物、佃煮、コロッケ等の食品に好適に用いることができる。
【0065】
また、対象とする食品が生鮮野菜類の場合、生鮮野菜類を水洗処理した後、上記下処理液を用いて、ブランチング及び/又は漬け込みを行うことで、生鮮野菜類の青臭さや刺激臭を低減することができる。
【0066】
生鮮野菜類のブランチングは、鰹節抽出物を固形分換算で0.005〜3質量%含有する下処理液を用いることが好ましい。また、その処理条件については特に限定されるものではなく、例えば、上記下処理液を用いて80〜100℃で、0.5〜30分間ブランチングを行えばよい。
【0067】
生鮮野菜類の漬け込みは、鰹節抽出物を固形分換算で0.005〜3質量%含有する下処理液を用いることが好ましい。また、その処理条件については特に限定されるものではなく、上記下処理液中を用いて0〜30℃で、0.5〜24時間漬け込みを行えばよい。
【0068】
このようにして生鮮野菜類をブランチングや漬け込みすることで、生鮮野菜類の青臭さや刺激臭をより低減することができるので、例えば、サラダ用のカット野菜、漬物、煮物、野菜ピューレ、凍結野菜、炒めもの、フライ等に好適に用いることができる。
【0069】
また、対象とする食品が、魚介類の場合、魚介類から頭、骨、皮、内臓等の不可食部を必要に応じて適宜除去して水洗処理した後、上記下処理液に漬け込むことで、魚介類の生臭さを低減することができる。
【0070】
魚介類の漬け込みは、鰹節抽出物を固形分換算で0.005〜3質量%含有する下処理液を用いることが好ましい。また、その処理条件については特に限定されるものではなく、例えば、上記下処理液を用いて0〜30℃で、0.5〜24時間漬け込みを行えばよい。このようにして魚介類を漬け込むことで、魚介類の生臭さをより低減することができるので、例えば、蒲焼、白焼き、みりん干し、塩漬け、みりん漬け、燻製、焼き魚、煮魚、塩辛、佃煮、練り物、缶詰、しめ鯖、節等に好適に用いることができる。
【実施例】
【0071】
[調製例]
(調製例1)
鰹節(8mesh pass品)360gを、95%(v/v)エタノール90mlと混合して、カラム(容量550ml、Φ4cm×50cm)に充填して、55〜60℃で30分静置保温した。その後、エタノール初濃度95%(v/v)→エタノール終濃度0%(v/v)でグラジエント溶出するために、ビーカーに95%(v/v)エタノール180mlを入れて、該エタノールを攪拌しながら該ビーカーに空間速度がSV=0.8〜1.0h−1となるような流入速度で水を流入させつつ、更に該ビーカーから同じ速度で前記鰹節を充填したカラムに通液を行なった。抽出液量が360mlになるまで通液を行い、エタノール濃度48.0%(v/v)の鰹節抽出物(グラジエント抽出物)を得た。
【0072】
(調製例2)
鰹節(8mesh pass品)を、直径4cmのカラムに360g充填した。そしてカラムのジャケットに60℃の温水を流し、上部から流速7ml/minで50%アルコール溶液180mlを滴下し、続けて水を滴下してカラム下部から抽出液を回収し、回収液が360mlに達したところで抽出を終了して、アルコール分18.5%の鰹節抽出物(ドリップ抽出液)を得た。
【0073】
(調製例3)
鰹節(8mesh pass品)360gと、水1.0Lを混合して、攪拌しながら微沸騰(90℃〜95℃)で1時間加熱した。得られた液を100mesh passし、減圧濃縮して液量を355mlに調整した。得られた液を95%(v/v)エタノール5mlと混合し、エタノール濃度1.4%の鰹節抽出物(バッチ抽出物)を得た。
【0074】
[試験例1]
(実施例1)
調製例1の鰹節抽出物(グラジエント抽出物)を1%含有する水溶液を下処理液として用い、該下処理液中に、スライスした生のタマネギを10分間漬け込んだ。その後、水洗し、水切りした後、得られたタマネギの官能評価を行った。
【0075】
(実施例2)
実施例1において、調製例2の鰹節抽出物(ドリップ抽出液)を1%含有する水溶液を下処理液とした以外は、実施例1と同様にして漬け込みを行い、得られたタマネギの官能評価を行った。
【0076】
(実施例3)
実施例1において、調製例3の鰹節抽出物(バッチ抽出液)を1%含有する水溶液を下処理液とした以外は、実施例1と同様にして漬け込みを行い、得られたタマネギの官能評価を行った。
【0077】
(比較例1)
下処理液として、水を用いた以外は実施例1と同様にして漬け込みを行い、得られたタマネギの官能評価を行った。
【0078】
〈官能評価〉
実施例1〜3及び比較例1のタマネギの刺激臭及び辛味を、熟練されたパネラー10人による官能試験により、比較例1のタマネギを基準として−5(弱い)〜+5(強い)点の範囲で評価した。結果を表1に示す。
【0079】
【表1】

【0080】
表1に示すように、鰹節抽出物を含む下処理液に漬け込むことで、タマネギの刺激臭及び辛味が低減された。特に調製例1の鰹節抽出物(グラジエント抽出液)、調製例2の鰹節抽出物(ドリップ抽出液)は効果が高かった。
【0081】
[試験例2]
(実施例4)
水199.7g中に、調製例1の鰹節抽出物(グラジエント抽出物)を0.3g含有する下処理液中に、乾燥ポテト100gを10分間浸漬して乾燥ポテトの水戻しを行った。
【0082】
水戻しした乾燥ポテトを10分間茹でた後、水切り後押しつぶした後、常法に従ってマッシュポテトを製造し、得られたマッシュポテトについて官能評価を行った。
【0083】
(実施例5)
実施例4において、水199.4g中に、調製例1の鰹節抽出物(グラジエント抽出物)を0.6g含有する下処理液を使用した以外は、実施例4と同様にしてマッシュポテトを製造して、得られたマッシュポテトについて官能評価を行った。
【0084】
(比較例2)
実施例4において、下処理液として水200gを使用した以外は、実施例4と同様にしてマッシュポテトを製造して、得られたマッシュポテトについて官能評価を行った。
【0085】
〈官能評価〉
実施例4,5及び比較例2のマッシュポテトの乾燥臭(におい、味)、えぐ味、おいしさを、熟練されたパネラー9人による官能試験により、比較例2のマッシュポテトを基準として−5〜+5点の範囲で評価した。結果を表2に示す。
【0086】
【表2】

【0087】
表2に示すように、鰹節抽出物を含む下処理液で乾燥食品を水戻しすることで、乾燥食品の乾燥臭やえぐ味を低減して、おいしさが向上し、その効果は鰹節抽出物の添加量に依存して高くなった。
【0088】
[試験例3]
(実施例6)
調製例1の鰹節抽出物(グラジエント抽出物)を0.5%含有する水溶液を下処理液として用い、該下処理液にて、3cm角にカットした生のキャベツをブランチング2分間行った。その後、ブランチング処理を行ったキャベツを流水冷却して、得られたキャベツの官能評価を行った。
【0089】
(比較例3)
下処理液として、水を用いた以外は実施例6と同様にしてブランチング処理を行い、得られたキャベツの官能評価を行った。
【0090】
〈官能評価〉
実施例6及び比較例3のキャベツの刺激臭(におい、味)、おいしさを、熟練されたパネラー10人による官能試験により0〜5点の範囲で評価した。結果を表3に示す。
【0091】
【表3】

【0092】
表3に示すように、鰹節抽出物を含む下処理液でブランチングすることで、キャベツの刺激臭が低減され、おいしさが向上した。
【0093】
[試験例4]
(実施例7)
調製例1の鰹節抽出物(グラジエント抽出物)を5%含有する水溶液を下処理液として用い、該下処理液40g中に、生のニンニク100gを一晩漬け込んだ。その後、水洗し、水切りした後、得られたニンニクの官能評価を行った。
【0094】
(比較例4)
下処理液として、水を用いた以外は実施例7と同様にして漬け込みを行い、得られたニンニクの官能評価を行った。
【0095】
〈官能評価〉
実施例7及び比較例4のニンニクの臭気を、熟練されたパネラー8人による官能試験により、比較例4のニンニクを基準として−5〜+5点の範囲で評価した。結果を表4に示す。
【0096】
【表4】

【0097】
表4に示すように、鰹節抽出物を含む下処理液に漬け込むことで、ニンニクの臭気が低減した。
【0098】
[試験例5]
(実施例8)
調製例1の鰹節抽出物(グラジエント抽出物)を1%含有する水溶液を下処理液として用い、該下処理液中に、さばいた鰻を30分間漬け込み、漬け込み後水切りした後、常法により白焼きし、蒸煮して、得られた鰻の白焼きの官能評価を行った。
【0099】
(比較例5)
下処理液として、水を用いた以外は実施例8と同様にして漬け込みを行い、得られた鰻の白焼きの官能評価を行った。
【0100】
〈官能評価〉
実施例8及び比較例5のウナギの白焼きの生臭さ(におい、味)、コク・厚み、おいしさを、熟練されたパネラー10人による官能試験により0〜5点の範囲で評価した。結果を表5に示す。
【0101】
【表5】

【0102】
表5に示すように、鰹節抽出物を含む下処理液に漬け込むとで、鰻の生臭さが低減され、コク・厚みが増し、おいしさが向上した。
【0103】
[試験例6]
(実施例9)
調製例1の鰹節抽出物(グラジエント抽出物)を0.5%含有する水溶液を下処理液として用い、該下処理液中に、白焼きした鰻を30分間漬け込み、漬け込み後水切りした後、常法により蒸煮し、得られた鰻の白焼きの官能評価を行った。
【0104】
(実施例10)
下処理液として、調製例1の鰹節抽出物(グラジエント抽出物)を1%含有する水溶液を下処理液として用いた以外は実施例9と同様にして漬け込みを行い、得られた鰻の白焼きの官能評価を行った。
【0105】
(比較例6)
下処理液として、水を用いた以外は実施例9と同様にして漬け込みを行い、得られた鰻の白焼きの官能評価を行った。
【0106】
〈官能評価〉
実施例9,10及び比較例6の鰻の白焼きの生臭さ(におい、味)、コク・厚み、おいしさを、熟練されたパネラー10人による官能試験により、比較例6の鰻の白焼きを基準として−5〜+5点の範囲で評価した。結果を表6に示す。
【0107】
【表6】

【0108】
表6に示すように、鰹節抽出物を含む下処理液に漬け込むとで、鰻の生臭さが低減され、コク・厚みが増し、おいしさが向上し、その効果は鰹節抽出物の添加量に依存して高くなった。
【0109】
[試験例7]
(実施例11)
調製例1の鰹節抽出物(グラジエント抽出物)を0.5%含有する水溶液を下処理液として用い、該下処理液中に、白焼きした鰻を30分間漬け込み、漬け込み後水切りした後、常法により蒸煮して蒲焼きを行い、得られた鰻の蒲焼きの官能評価を行った。
【0110】
(実施例12)
下処理液として、調製例1の鰹節抽出物(グラジエント抽出物)を1%含有する水溶液を下処理液として用いた以外は実施例11と同様にして漬け込みを行い、得られた鰻の蒲焼きの官能評価を行った。
【0111】
(比較例7)
下処理液として、水を用いた以外は実施例11と同様にして漬け込みを行い、得られた鰻の蒲焼きの官能評価を行った。
【0112】
〈官能評価〉
実施例11,12及び比較例7の鰻の蒲焼きの生臭さ(におい、味)、コク・厚み、おいしさを、熟練されたパネラー10人による官能試験により、比較例9の鰻の蒲焼きを基準として−5〜+5点の範囲で評価した。結果を表7に示す。
【0113】
【表7】

【0114】
表7に示すように、鰹節抽出物を含む下処理液に漬け込むとで、鰻の生臭さが低減され、コク・厚みが増し、おいしさが向上し、その効果は鰹節抽出物の添加量に依存して高くなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
調味及び/又は調理に供する食品に対し、水戻し、ブランチング及び漬け込みから選ばれる下処理を行う食品の下処理方法であって、
前記食品を、鰹節抽出物を含有する下処理液を用いて前記下処理することを特徴とする食品の下処理方法。
【請求項2】
前記下処理液に、前記鰹節抽出物を固形換算分で0.005〜3質量%含有させる、請求項1に記載の食品の下処理方法。
【請求項3】
前記食品が、乾燥食品であって、該食品を前記下処理液に浸漬して水戻しする、請求項1又は2に記載の食品の下処理方法。
【請求項4】
前記食品が、生鮮野菜類であって、該食品を水洗処理した後、前記下処理液を用いて、ブランチング及び/又は漬け込みを行う、請求項1又は2に記載の食品の下処理方法。
【請求項5】
前記食品が、魚介類であって、該食品から不可食部を除去して水洗処理した後、前記下処理液に漬け込む、請求項1又は2に記載の食品の下処理方法。
【請求項6】
前記鰹節抽出物として、抽出溶媒として水又はアルコール溶液を用いて得られる抽出物を用いる、請求項1〜5のいずれか1項に記載の食品の下処理方法。
【請求項7】
前記鰹節抽出物として、抽出溶媒としてアルコール濃度の異なる3種類以上のアルコール溶液を用いて鰹節からの抽出を行い、各濃度で抽出されたエキスを混合して得られる抽出物を用いる、請求項1〜5のいずれか1項に記載の食品の下処理方法。
【請求項8】
前記鰹節抽出物として、粉砕した鰹節をカラム又はタンクに充填し、該カラム又はタンクにアルコール濃度が連続的又は3段階以上の段階的に変化するようにアルコール溶液を通液することにより得られた抽出物を用いる、請求項1〜5のいずれか1項に記載の食品の下処理方法。
【請求項9】
前記鰹節抽出物として、下部にフィルターを備えた容器に粉砕した鰹節を充填し、該鰹節充填層の表面に抽出溶媒を滴下して、前記表面に前記抽出溶媒が液溜めされない状態で通液することにより得られた抽出物を用いる、請求項1〜5のいずれか1項に記載の食品の下処理方法。

【公開番号】特開2009−171859(P2009−171859A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−11132(P2008−11132)
【出願日】平成20年1月22日(2008.1.22)
【出願人】(390033145)焼津水産化学工業株式会社 (80)
【Fターム(参考)】