説明

食品又は食品原材料の製造方法

【課題】グルタミン酸と5’−ヌクレオチドが共存することによって旨味相乗効果が得られ、豊かな旨味を持ち雑味のない食品又は食品原材料の製造方法を提供することを課題とする。
【解決するための手段】遊離グルタミン及び核酸を含有する食品素材又は食品素材加工物に、グルタミナーゼ及びヌクレアーゼを添加して酵素反応させることによって、上記の課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】

【技術分野】
【0001】
本発明は食品素材又は食品素材加工物を酵素処理し、食品又は食品原材料を調製する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
グルタミンは蛋白質を構成するアミノ酸の一種であり、生体内に含まれる生体構成物質である。グルタミンは旨味を有するが、その旨味識別が可能となる濃度が高く、呈味成分としては利用されていない。グルタミンを加水分解することで得られるグルタミン酸も蛋白質を構成するアミノ酸の一種である。グルタミン酸は、グルタミンより強い旨味を有し、代表的な呈味成分として利用されており、世界の豊かな食文化を支える重要な調味料となっている。グルタミンはグルタミナーゼによりグルタミン酸へと加水分解可能なため、グルタミナーゼを利用した食品の旨味増強法が検討されてきた。また、蛋白質をアミノ酸へ分解して遊離アミノ酸を生成させる方法も呈味改善の方法として検討されている。
【0003】
一方、核酸も生体内に含まれる生体構成物質である。核酸を分解して得られる5’−ヌクレオチド、中でも5’−グアニル酸と5’−イノシン酸は特有の旨味を有し、代表的な呈味成分として利用されている。利用技術の一例として、核酸の一種であるRNAをヌクレアーゼで分解し、5’−アデニル酸、5’−グアニル酸、5’−シチジル酸、5’−ウリジル酸を生成させた後、陰イオン交換樹脂で4種類のヌクレオチドに分離精製し、5’−アデニル酸にデアミナーゼを作用させて5’−イノシン酸にする方法がある。こうして得られた5’−グアニル酸と5’−イノシン酸の等量混合物が「核酸系旨味調味料」として利用されている。さらに、この核酸系旨味成分はグルタミン酸と併用することにより、相乗効果を発揮して旨味を強く感じさせることが知られており、食品の旨味増強方法として応用されている。
【0004】
このように酵素処理はグルタミン酸および5’−ヌクレオチドの含量を上げるために非常に重要且つ有効な方法であることから、旨味を強くすることを目的に、酵素を利用した食品の旨味増強方法が種々検討されている。
【0005】
特許文献1、2、3には、グルタミナーゼを用いて、グルタミンからグルタミン酸を生成し、旨味を上げる方法が提案されている。
【0006】
また、特許文献4、5には、プロテアーゼ、ヌクレアーゼ、デアミナーゼを用いて、旨味の強い酵母エキスを得る方法が提案されている。
【特許文献1】特開平9−149787号公報
【特許文献2】特開2002−171961号公報
【特許文献3】特開2008−90号公報
【特許文献4】特開平10−262605号公報
【特許文献5】特開平11−332510号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述の、グルタミナーゼを用いる方法では、グルタミン酸による旨味増強効果のみしか得られず、グルタミン酸と5’−ヌクレオチドが共存する場合に見られる旨味相乗効果による画期的な旨味増強と呈味改善効果が得られないという問題点がある。
【0008】
また、前述の、プロテアーゼ、ヌクレアーゼ、デアミナーゼを用いて、旨味の強い酵母エキスを得る方法でも、5’−ヌクレオチドによる旨味増強効果は得られるが、グルタミン酸は生成しない為、グルタミン酸と5’−ヌクレオチドの併用による旨味相乗効果は得られないという問題点がある。また、プロテアーゼによってアミノ酸を生成させる方法では、食品素材の蛋白質を構成するアミノ酸の種類や構成比によっては良好な呈味に寄与するアミノ酸が生成されるとは限らず、かえって苦味を持つバリンやイソロイシンなどが生成されることもあり、必ずしも呈味改善効果をもたらすとは言えないという問題点がある。
【0009】
そこで、本発明者は、グルタミン酸と5’−ヌクレオチドが共存することによって旨味相乗効果が得られ、豊かな旨味を持ち雑味のない食品又は食品原材料を調製する技術を提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、グルタミン酸と5’−ヌクレオチドが共存することによって旨味相乗効果が得られ、豊かな旨味を持ち雑味のない食品又は食品原材料を調整する技術を提供することを目的として鋭意検討を行った結果、遊離グルタミン及び核酸を含有する食品素材又は食品素材加工物に、酵素を添加して酵素反応することで課題を解決できることを知るに至り、さらに実用化に必要な最適条件を求めた結果として、本課題を解決するための具体的な手段の各態様として以下の通り提供した。
【0011】
まず、遊離グルタミン及び核酸を含有する食品素材又は食品素材加工物に、グルタミナーゼ及びヌクレアーゼを添加して酵素反応させることによって、グルタミン酸と5’−ヌクレオチドを共存させ、それによって旨味相乗効果が得られる食品又は食品原材料を製造する技術を本課題を解決するための手段の第1の態様とした。
【0012】
さらに、前記第1の態様において、グルタミナーゼとヌクレアーゼのうち何れか一方を添加して酵素反応させた後、他方を添加して酵素反応させることによっても、グルタミン酸と5’−ヌクレオチドを共存させ、それによって旨味相乗効果が得られる食品又は食品原材料を製造する技術を本課題を解決するための手段の第2の態様とした。
【0013】
さらに又、前記第1又は第2の態様において、グルタミナーゼを添加して酵素反応させた後、ヌクレアーゼを添加して酵素反応させることによっても、グルタミン酸と5’−ヌクレオチドを共存させ、それによって旨味相乗効果が得られる食品又は食品原材料を製造する技術を本課題を解決するための手段の第3の態様とした。
【0014】
さらに又、前記第1乃至3の何れかの態様において、グルタミナーゼとヌクレアーゼをそれぞれ5〜120分間酵素反応させることによっても、グルタミン酸と5’−ヌクレオチドを共存させ、それによって旨味相乗効果が得られる食品又は食品原材料を製造する技術を本課題を解決するための手段の第4の態様とした。
【0015】
さらに又、前記第1乃至4のいずれかの態様において、グルタミナーゼとヌクレアーゼをそれぞれ30〜90℃の温度条件下で酵素反応させることによっても、グルタミン酸と5’−ヌクレオチドを共存させ、それによって旨味相乗効果が得られる食品又は食品原材料を製造する技術を本課題を解決するための手段の第5の態様とした。
【0016】
さらに又、前記第1乃至5の何れかの態様において、グルタミナーゼとヌクレアーゼを添加して酵素反応させる前に、70〜120℃で食品素材又は食品素材加工物を加熱することによっても、グルタミン酸と5’−ヌクレオチドを共存させ、それによって旨味相乗効果が得られる食品又は食品原材料を製造する技術を本課題を解決するための手段の第6の態様とした。
【0017】
さらに又、前記第1乃至6の何れかの態様において、食品素材又は食品素材加工物が、菌茸、海藻、魚類、甲殻類、貝類、野菜、穀物及び畜肉で構成される群から選ばれた1以上のもの又は選ばれたものの加工物であることによっても、グルタミン酸と5’−ヌクレオチドを共存させ、それによって旨味相乗効果が得られる食品又は食品原材料を製造する技術を本課題を解決するための手段の第7の態様とした。
【0018】
さらに又、前記第1乃至7の何れかの態様において、食品素材又は食品素材加工物が、椎茸又は椎茸の加工物であることによっても、グルタミン酸と5’−ヌクレオチドを共存させ、それによって旨味相乗効果が得られる食品又は食品原材料を製造する技術を本課題を解決するための手段の第8の態様とした。
【0019】
さらに又、前記第8の態様において、椎茸又は椎茸の加工物が干し椎茸であることによっても、グルタミン酸と5’−ヌクレオチドを共存させ、それによって旨味相乗効果が得られる食品又は食品原材料を製造する技術を本課題を解決するための手段の第9の態様とした。
【0020】
さらに又、前記第1乃至9の何れかの態様において製造された食品又は食品原材料も本発明の1つとして本課題を解決するための手段の第10の態様とした。
【0021】
そして最後に、前記第10の態様における食品又は食品原材料を使用した食品も本発明の1つとして本課題を解決するための手段の第11の態様とすることによって本課題を具体的に解決する手段を提供し本発明を完成させた。
【発明の効果】
【0022】
本発明者が、グルタミン酸と5’−ヌクレオチドが共存することによって旨味相乗効果が得られる食品又は食品原材料の製造方法を提供することを目的とし鋭意検討を行い、課題を解決するために提供した各手段によりもたらされた効果は次の通りである。
【0023】
本発明において、遊離グルタミン及び核酸を含有する食品素材又は食品素材加工物に、グルタミナーゼ及びヌクレアーゼを添加して酵素反応させることにより、遊離グルタミンがグルタミン酸に、核酸が5’−ヌクレオチドに変換され、グルタミン酸と5’−ヌクレオチドが共存することによって、雑味を伴わず旨味増強効果が得られるという効果がもたらされる。
【0024】
或いは、本発明において、グルタミナーゼとヌクレアーゼのうちいずれか一方を添加して酵素反応させた後、他方を添加して酵素反応させることにより、互いの酵素活性が阻害されることなく、効率的に遊離グルタミンがグルタミン酸に、核酸が5’−ヌクレオチドに変換され、雑味を伴わず強い旨味増強効果が得られるという効果がもたらされる。
【0025】
或いは又、本発明において、グルタミナーゼを添加して酵素反応させた後、ヌクレアーゼを添加して酵素反応させることにより、より効率的に遊離グルタミンがグルタミン酸に、核酸が5’−ヌクレオチドに変換され、雑味を伴わずより強い旨味増強効果が得られるという効果がもたらされる。
【0026】
或いは又、本発明において、グルタミナーゼとヌクレアーゼをそれぞれ5〜120分間酵素反応させることにより、より効率的に遊離グルタミンがグルタミン酸に、核酸が5’−ヌクレオチドに変換され、雑味を伴わずより強い旨味増強効果が得られると共に、食品素材又は食品素材加工物由来のその他のエキス分も効率的に得られるという効果がもたらされる。
【0027】
或いは又、本発明において、グルタミナーゼとヌクレアーゼをそれぞれ30〜90℃の温度条件下で酵素反応させることにより、より効率的に遊離グルタミンがグルタミン酸に、核酸が5’−ヌクレオチドに変換され、雑味を伴わずより強い旨味増強効果が得られると共に、食品素材又は食品素材加工物由来のその他のエキス分も効率的に得られるという効果がもたらされる。
【0028】
或いは又、本発明において、グルタミナーゼとヌクレアーゼを添加して酵素反応させる前に、70〜120℃で食品素材又は食品素材加工物を加熱することにより、食品素材自体が持つ旨味成分分解酵素を失活させ、グルタミナーゼとヌクレアーゼによって得られたグルタミン酸と5’−ヌクレオチドを損失することなく、より効率的に、雑味を伴わずより強い旨味増強効果が得られるという効果がもたらされる。
【0029】
或いは又、本発明において、食品素材又は食品素材加工物が、菌茸、海藻、魚類、甲殻類、貝類、野菜、穀物及び畜肉で構成される群から選ばれた1以上のもの又は選ばれたものの加工物であることにより、雑味が無く旨みが増強された有用な食品又は食品原材料を得るという効果がもたらされる。
【0030】
或いは又、本発明において、食品素材又は食品素材加工物が椎茸又は椎茸の加工物であることにより、有用な食品又は食品原材料を得るという効果がもたらされる。
【0031】
或いは又、本発明において、椎茸又は椎茸の加工物が干し椎茸であることにより、雑味が無く旨みが増強された有用な食品又は食品原材料を得るという効果がもたらされる。
【0032】
或いは又、本発明により得られたグルタミン酸と5’−ヌクレオチドが共存することによって旨味相乗効果が得られる食品又は食品原材料を提供することにより、幅広い用途に使用可能な豊かな風味を持った食品又は食品原材料を提供するという効果も達成された。
【0033】
そして最後に、本発明により得られたグルタミン酸と5’−ヌクレオチドが共存することによって旨味相乗効果が得られる食品又は食品原材料を使用した食品を提供することにより、幅広い用途に使用可能な豊かな風味を持った食品を提供するという効果も達成された。
【0034】
こうして得られた食品又は食品原材料は、他の調味料を添加しなくても十分な旨味を有する。従来の調味料は、旨味を付与するために蛋白加水分解物や化学調味料が使用されていた。蛋白加水分解物には小麦などアレルギー特定原材料を原料とするものが多く、利用範囲が大きく制限されるという問題があった。また、化学調味料は昨今の消費者の健康志向の高まりにより敬遠される傾向にある。本発明は、食品素材又は食品素材加工物中に含まれる天然成分を利用して旨味を付与するため、これらの問題を解決する手段としても効果的である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明するが、本説明は本発明を具体的に説明し、発明の内容の的確な理解に資するという趣旨に基づいて行うものであり、本説明の記述内容は本発明の一例に過ぎず、かつ本説明により本発明の範囲を限定する趣旨でもない。
【0036】
まず、本発明が好適に提供可能な食品素材又は食品素材加工物とは、遊離グルタミン及び核酸を含有する食品素材又は食品素材加工物であれば、特に限定されるものではない。例えば、菌茸、海藻、魚類、甲殻類、貝類、野菜、穀物及び畜肉並びにその加工品が挙げられる。食品素材又は食品素材加工物は1つでもよいし、2つ以上を組み合わせて使用してもよい。また、食品素材又は食品素材加工物が、椎茸又は椎茸の加工物、好ましくは干し椎茸であることにより、より有用な食品又は食品原材料が得られる。
【0037】
椎茸には遊離状態のグルタミンが多く存在している。前述の通り、グルタミンは呈味成分としての力価は弱いが、グルタミナーゼの作用により強い旨味を呈するグルタミン酸へ変換されるため、原料由来成分を有効活用して旨味を強めることができる。また、椎茸には核酸の一種であるRNAを分解するヌクレアーゼが存在しており、ヌクレアーゼの作用によって生成する5’−ヌクレオチドが椎茸の旨味成分として知られている。一般的には、生椎茸よりも干し椎茸の方が5’−グアニル酸の含有量が多いとされている。これは乾燥工程によって細胞が破壊され、椎茸の自己消化が起こりやすい状態となっているためであると考えられている。しかし一方、椎茸には5’−ヌクレオチドを分解して呈味性のない5’−ヌクレオシドへ変換するホスホモノエステラーゼも存在している。そのため、椎茸を抽出するとヌクレアーゼの作用により5’−ヌクレオチドが生成されても、ホスホモノエステラーゼの作用により5’−ヌクレオシドへ変換されてしまう現象がみられる。5’−ヌクレオシドへの変換を避ける為には、ヌクレアーゼが活性を持ち、且つ、ホスホモノエステラーゼの活性が抑えられる条件で抽出する必要がある。椎茸に含まれるホスホモノエステラーゼは椎茸を70〜120℃で加熱することで失活できるが、この加熱により椎茸中のヌクレアーゼの活性も低下する。従って、椎茸が含有する核酸から5’−ヌクレオチドを効率良く生成するには、椎茸が持つ酵素を失活させた後、ヌクレアーゼを別途添加して酵素反応させることが効果的である。また、グルタミナーゼとヌクレアーゼを組み合わせることにより、グルタミン酸と5’−ヌクレオチドが共存することによる相乗効果が作用し旨味を強めることができる。
【0038】
グルタミナーゼは、遊離グルタミンを基質としてグルタミン酸を生成する加水分解反応を触媒する酵素である。本発明に使用するグルタミナーゼは市販されている酵素をそのまま使用できる。例えば、グルタミナーゼダイワSD−C100S(天野エンザイム)等が挙げられる。
【0039】
ヌクレアーゼは、核酸の糖とリン酸の間のホスホジエステル結合を加水分解してヌクレオチドとする加水分解反応を触媒する酵素である。本発明に使用するヌクレアーゼは市販されている酵素をそのまま使用できる。例えば、ヌクレアーゼ「アマノ」G(天野エンザイム)等が挙げられる。
【0040】
グルタミナーゼとヌクレアーゼは同時に添加してもよいが、いずれか一方を添加して酵素反応させた後、他方を添加して酵素反応させることで、より効率よく酵素反応が行われる。更に、グルタミナーゼを添加して酵素反応させた後、ヌクレアーゼを添加して酵素反応させることで、更に効率よく酵素反応が行われる。
【0041】
グルタミナーゼとヌクレアーゼの酵素反応時間は特に限定されるものではないが、5〜120分間酵素反応することで、効率のよい製造が行うことができる。5分より短いと、酵素反応の効果が弱く、120分より長いとその効果は変わらず、製造時間が長くなり経済性が悪くなる。
【0042】
グルタミナーゼとヌクレアーゼの酵素反応温度は特に限定されるものではないが、30〜90℃の温度条件下で酵素反応することで、より効率のよい酵素反応が行われ、且つ、食品素材由来のその他の成分も効率よく抽出できる。30℃より温度が低いと酵素活性が弱く、90℃より温度が高いと酵素が失活する。
【0043】
グルタミナーゼとヌクレアーゼの添加時期は、食品素材又は食品素材加工物と抽出液が混在する抽出途中でもよいし、固液分離を行った後の抽出液に添加してもよい。
【0044】
また、必要に応じて市販のセルラーゼ、ペクチナーゼ、プロテアーゼなどの酵素を作用させてもよい。例えば、セルラーゼとしてはセルラーゼA「アマノ」3(天野エンザイム)等が、ペクチナーゼとしてはペクチナーゼG「アマノ」等が、プロテアーゼとしてはプロテアーゼA「アマノ」、プロテアーゼM「アマノ」G(天野エンザイム)等が挙げられる。これらの酵素反応の条件については、各酵素の至適温度、至適pH域に従えばよい。
【0045】
得られた食品素材又は食品素材加工物の抽出液は、必要に応じて、清澄化、濃縮、乾燥などの工程を行ってもよい。
【実施例】
【0046】
以下、実施例をもって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
[実施例1]
【0047】
90℃の湯4000gに椎茸400gを添加して、90℃にて60分抽出した後、液温を70℃まで下げて、グルタミナーゼ0.4gを添加して70℃にて60分酵素反応した。更にヌクレアーゼ0.4gを添加して70℃にて60分酵素反応した後、90℃にて60分保持して失活した。その後、圧搾して固液分離した後、デキストリン(マックス1000;松谷化学工業製)200gを混合溶解して、噴霧乾燥を行い、椎茸エキス粉末を得た。
[比較例1]
【0048】
90℃の湯4000gに椎茸400gを添加して、90℃にて60分抽出した後、圧搾して固液分離し、デキストリン(マックス1000;松谷化学工業製)200gを混合溶解して、噴霧乾燥を行い、椎茸エキス粉末を得た。
[比較例2]
【0049】
90℃の湯4000gに椎茸400gを添加して、90℃にて60分抽出した後、液温を70℃まで下げて、グルタミナーゼ0.4gを添加して70℃にて60分酵素反応した後、90℃にて60分保持して失活した。その後、圧搾して固液分離した後、デキストリン(マックス1000;松谷化学工業製)200gを混合溶解して、噴霧乾燥を行い、椎茸エキス粉末を得た。
[比較例3]
【0050】
90℃の湯4000gに椎茸400gを添加して、90℃にて60分抽出した後、液温を70℃まで下げて、ヌクレアーゼ0.4gを添加して70℃にて60分酵素反応した後、90℃にて60分保持して失活した。その後、圧搾して固液分離した後、デキストリン(マックス1000;松谷化学工業製)200gを混合溶解して、噴霧乾燥を行い、椎茸エキス粉末を得た。
【0051】
実施例1、比較例1乃至3で得られたエキスを7倍に希釈した醤油へ添加し、旨味が付与される最少添加濃度とそのときの香気を調べた。結果を表1に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
表1に示すように、実施例1で得られたエキスは、比較例1に比べて1/3の添加量で同等の旨味が感じられた。そのときの香気を官能検査にて評価したところ、比較例1では椎茸香が全く感じられなかったが、実施例1ではほど良い香りが付与されていた。また、実施例1で得られたエキスと、グルタミナーゼ処理のみを行った比較例2のエキス、ヌクレアーゼ処理のみを行った比較例3のエキスを比較しても、実施例1は比較例2又は3の1/2量の添加で同等の旨味が感じられた。そのときの香気を官能検査にて評価したところ、比較例2又は3では椎茸香がわずかに付与されただけに留まったことを確認した。
[実施例2]
【0054】
90℃の湯200gに鰹粉節20gを添加して、90℃にて30分抽出した後、液温を60℃まで下げて、グルタミナーゼ0.02gを添加して60℃にて60分酵素反応した。更にヌクレアーゼ0.02gを添加して70℃にて60分酵素反応した後、90℃にて30分保持して失活した。その後、圧搾して固液分離して、鰹粉節抽出液を得た。
[比較例4]
【0055】
90℃の湯200gに鰹粉節20gを添加して、90℃にて30分抽出した後、液温を60℃まで下げて、60℃にて60分抽出した。更に70℃にて60分抽出した後、90℃にて30分抽出した。その後、圧搾して固液分離して、鰹粉節抽出液を得た。
【0056】
実施例2の鰹粉節抽出液は、酵素を使用していない比較例4の鰹粉節抽出液と比較して、旨味が強くなっていた。
[実施例3]
【0057】
90℃の湯200gに昆布20gを添加して、90℃にて30分抽出した後、液温を60℃まで下げて、グルタミナーゼ0.02gを添加して60℃にて60分酵素反応した。更にヌクレアーゼ0.02gを添加して70℃にて60分酵素反応した後、90℃にて30分保持して失活した。その後、圧搾して固液分離して、昆布抽出液を得た。
[比較例5]
【0058】
90℃の湯200gに昆布20gを添加して、90℃にて30分抽出した後、液温を60℃まで下げて、60℃にて60分抽出した。更に70℃にて60分抽出した後、90℃にて30分抽出した。その後、圧搾して固液分離して、昆布抽出液を得た。
【0059】
酵素を使用していない比較例5の昆布抽出液は旨味が弱く昆布由来のえぐみが目立つのに対し、酵素を使用した実施例3の昆布抽出液は旨味が強く、味のバランスがよかった。
[実施例4]
【0060】
90℃の湯200gに緑茶20qを添加して、90℃にて30分抽出した後、液温を60℃まで下げて、グルタミナーゼ0.02gを添加して60℃にて60分酵素反応した。更にヌクレアーゼ0.02gを添加して70℃にて60分酵素反応した後、90℃にて30分保持して失活した。その後、圧搾して固液分離して、緑茶抽出液を得た。
[比較例6]
【0061】
90℃の湯200gに緑茶20gを添加して、90℃にて30分抽出した後、液温を60℃まで下げて、60℃にて60分抽出した。更に70℃にて60分抽出した後、90℃にて30分抽出した。その後、圧搾して固液分離して、緑茶抽出液を得た。
【0062】
酵素を使用していない比較例6の緑茶抽出液は旨味が弱く渋味が目立つのに対し、酵素を使用した実施例4の緑茶抽出液は、旨味が強く、味のバランスがよかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遊離グルタミン及び核酸を含有する食品素材又は食品素材抽出液に、グルタミナーゼ及びヌクレアーゼを添加して酵素反応させることを特徴とする食品素材加工物の製造方法。
【請求項2】
グルタミナーゼとヌクレアーゼのうちいずれか一方を添加して酵素反応させた後、他方を添加して酵素反応させることを特徴とする請求項1記載の食品素材加工物の製造方法。
【請求項3】
グルタミナーゼを添加して酵素反応させた後、ヌクレアーゼを添加して酵素反応させることを特徴とする請求項1又は2記載の食品素材加工物の製造方法。
【請求項4】
グルタミナーゼとヌクレアーゼをそれぞれ5〜120分間酵素反応させることを特徴とする請求項1乃至3記載の食品素材加工物の製造方法。
【請求項5】
グルタミナーゼとヌクレアーゼをそれぞれ30〜90℃の温度条件下で酵素反応させることを特徴とする請求項1乃至4記載の食品素材加工物の製造方法。
【請求項6】
グルタミナーゼとヌクレアーゼを添加して酵素反応させる前に、70〜120℃で食品素材又は食品素材抽出液を加熱することを特徴とする請求項1又は5記載の食品素材加工物の製造方法。
【請求項7】
食品素材がキノコであることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の食品素材加工物の製造方法。
【請求項8】
食品素材が椎茸であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の食品素材加工物の製造方法。
【請求項9】
食品素材が干し椎茸であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の食品素材加工物の製造方法。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれかに記載の方法にて製造された食品素材加工物。

【公開番号】特開2009−254336(P2009−254336A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−131343(P2008−131343)
【出願日】平成20年4月18日(2008.4.18)
【出願人】(596076698)佐藤食品工業株式会社 (28)
【Fターム(参考)】