説明

食物素材乾燥粉末の製造方法

【課題】澱粉質、糊質、油脂質等を含み、粘り気がある食物素材でも容易に粉末化が可能であり、しかも粉砕器に与える負荷を軽減して食物素材乾燥粉末を容易に製造する。
【解決手段】食物素材乾燥粉末の製造方法は、水分を含む食物素材を乾燥して限界域まで脱水した後、粉砕して粉状にすることを特徴とするものである。この場合における食物素材の乾燥は、換気される乾燥室2内で過熱蒸気を食物素材に当てる対流式ヒータ8と熱輻射式ヒータ10との併用による加熱により行うのがよい。また、熱輻射式ヒータ10は特に遠赤外線ヒータが好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、干し芋等のように、食物素材を粉砕して粉状にする食物素材乾燥粉末の製造方法に関し、特に澱粉質、糊質、油脂質を多く含む食物を粉状にした食物素材乾燥粉末を製造するのに好適な食物素材乾燥粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食物素材を粉末化して利用することは多く行われている。例えば、米粉、小麦粉、きな粉、そば粉等である。これらは、穀物、豆類の一次産品、すなわち収穫したままの穀物や豆類をそのまま粉砕して粉にした粉状の食物素材である。このような穀物や豆類は、含有水分が少なく、組織も繊維質であるため、これらを粉砕器にかけて細かく粉砕することにより粉末化することは極めて容易である。
【0003】
これに対して、米、小麦、大豆、そば等を蒸したり焚いたりすると、それらの含まれる澱粉質が糊化し、粘り気を生じる。また、魚肉や獣肉のようにそれ自体が多くの油脂分を含むものでは、食物素材そのものが粘り気をもっている。このような食品素材を粉砕器にかけて細かく粉砕すると、素材そのものが練り混ぜられて糊状或いはペースト状となってしまい、粉末化は困難である。加えて、練り込みによる素材の変質も避けられない。また、素材を粉砕器にかけたとき、素材が粉砕器に粘り着くので、粉砕器に大きな負荷をかけることになり、粉砕器の負担も大きい。
【0004】
【特許文献1】特表2001−510025号公報
【特許文献2】特開2003−240432号公報
【特許文献3】特開2001−352834号公報
【特許文献4】特開2001−165570号公報
【特許文献5】特開2000−135051号公報
【特許文献6】特開平11−225667号公報
【特許文献7】特開平11−206323号公報
【特許文献8】特開平9−275928号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記従来の食物素材の粉末化技術における課題に鑑み、澱粉質、糊質、油脂質等を含み、粘り気がある食物素材でも容易に粉末化が可能であり、しかも粉砕器に与える負荷を軽減して食物素材乾燥粉末を容易に製造することが出来る方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明では、前記の目的を達成するため、水分を含む食物素材を乾燥して限界域まで脱水した後に粉砕して粉状にするようにした。これにより、澱粉質、糊質、油脂質等による食物素材の粘りを取り除き、これにより粉砕を容易にして粉砕器の負荷を低減しながら、粉末化を可能としてものである。
【0007】
すなわち、本発明による食物素材乾燥粉末の製造方法は、水分を含む食物素材を乾燥して限界域まで脱水した後、粉砕して粉状にすることを特徴とするものである。この場合における食物素材の乾燥は、換気される乾燥室内で放射伝導熱を食物素材に当てる熱輻射式ヒータ10と過熱蒸気により熱気を発生する対流式ヒータ8との併用による加熱により行うのがよい。また、熱輻射式ヒータは特に遠赤外線ヒータが好適である。
【0008】
このような食物素材乾燥粉末の製造方法では、食物素材に含まれる水分が殆ど無くなるため、糊質や油脂質の組織が固化され、固定化される。この状態で粉砕器にかけて細かく粉砕すると、粉砕器が粘り付かないので、小さな負荷で食物素材を粉砕し、粉末化することが出来る。また、粉砕時に素材の練りが伴わないため、素材の変質も起こらない。得られた食物素材は、各種食品の素材に使用することが出来、例えば栄養補助食品の素材等として使用するのに好適である。
【発明の効果】
【0009】
以上説明した通り、本発明による食物素材乾燥粉末の製造方法では、粉砕器に大きな負荷をかけずに食物素材を粉砕し、粉末化することが出来るので、食物素材乾燥粉末を効率よく高い生産性で製造することが出来る。粉砕時に食物素材の変質も避けることが出来、食物素材が含む固有の成分をそのまま維持することが出来る。また、原料となる食物素材として商品価値の無い屑ものを利用して食物素材の乾燥粉末を得ることも出来るので、食物素材の歩留まりの向上を図ることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明では、水分を含む食物素材を乾燥して限界域まで脱水した後に粉砕して粉状にすることにより、その目的を達成するものである。
以下、本発明を実施するための最良の形態について、実施例をあげて詳細に説明する。
【0011】
図1〜図3は、本発明の方法により食物素材乾燥粉末を製造する第一の工程である食物素材の乾燥を行うための乾燥装置設備の一例である。
この乾燥装置は、幅3,600mm、奥行き7,200mm、高さ3,000mm程度の平屋の建屋1の中に乾燥室2と搬入室3とを設けている。建屋1の正面中央に間口幅1,800mmで高さが建屋1の2/3程の入口4が設けられており、この入口4から入った奥行き1,800mmの部屋が搬入室3である。入口4はシャッタ5により開閉される。この入口から奥に1,800mm入ったところに仕切り壁13が設けれられており、この仕切り壁13の中央に間口幅1,800mmで高さが建屋1の2/3程の第二の入口6が設けられている。この第二の入口6から入った奥の部屋が乾燥室2である。図3は、この乾燥室2の部分を断面し、正面から乾燥室2の奥側を見た図面である。この第二の入口6もシャッタ7により開閉される。
【0012】
仕切り壁13の両側の上部には、過熱蒸気により加熱するタイプのファン付きの対流式ヒータ8が取り付けられている。例えばこの対流式ヒータ8は、蒸気圧0.1Kg/cmG〜蒸気圧2.0Kg/cmG、温度101.76℃〜132.87℃ 程度の過熱蒸気をフィンコイルユニットに送り、ここで発生した熱をファンにより搬入室3側から乾燥室2へ送り込む。
乾燥室2の壁には、壁取り付け型の熱輻射式ヒータ10が設けられている。この熱輻射式ヒータ10としては、遠赤外線ヒータが最適である。この熱輻射式ヒータ10を乾燥室の壁に適当な間隔で設置する。
【0013】
乾燥室2の中央部の天井近く、具体的には乾燥室2の2/3程の高さの位置に、入口6側から奥に向かって2本の梁が架設され、この梁の上に並んで3つの循環ファン12が設けられている。この循環ファン12は乾燥室2の天井側から床に向かって送風し、乾燥室2の中の空気を循環する。
さらに乾燥室2の奥の壁の両側の上部には、排気ファン9が設けられている。この排気ファン9は、乾燥室2の中の空気を強制排気する。
【0014】
乾燥する食物素材は、簀の子等の上に並べ、この簀の子を上下に間隔をおいて台車11に載せる。搬入室3のシャッタ4を開けて台車11を入口4から搬入室3に導入し、その後乾燥室2のシャッタ6を開けて、台車11を入口6から乾燥室2に導入する。乾燥室2内の雰囲気が加熱状態になっているときは、熱を逃がさないように、第一の入口4のシャッタ5と第二の入口6のシャッタ7を開く時間をずらしてそれら第一の入口4と第二の入口6の開閉を行う。その後、人が乾燥室2から出た後、第二の入口6をシャッタ7で閉じ、乾燥運転を開始する。図示はしてないが、制御操作盤や過熱蒸気配管設備等は搬入室3の壁に設けられており、搬入室3には第一の入口4をシャッタ5で開閉し、人が随時入退室して運転操作や乾燥運転状態の確認等をする。
【0015】
乾燥室2内では、排気ファン9により乾燥室2内の空気を排気し、乾燥室2内を若干の負圧に維持してシャッタ7で閉じた入口6や建屋1の壁の僅かな隙間から外気を導入しながら、ファン付きの対流式ヒータ8と熱輻射式ヒータ10との併用により乾燥室2内の温度を加熱する。これにより、台車11に載せた食物素材に含まれる水分を蒸発させ、この蒸気を排気ファン9により乾燥室2内から排気する。そして、対流式ヒータ8による加熱及び外気の導入による風量と熱輻射式ヒータ10のオン・オフ制御との併用により、乾燥室2内の温度制御をしながら食物素材の乾燥を行う。乾燥室2内の温度は45℃〜50℃に維持する。
【0016】
このような乾燥装置を用い、台車に積んだ簀の子に並べた食品素材を乾燥する。食品素材は、前記対流式ヒータ8と熱輻射式ヒータ10との併用により、乾燥室2内を45〜50℃程度の温度に維持すると共に、排気ファン9の作動により乾燥室2内を換気しながら乾燥する。これにより、水分を含む食物素材を乾燥して限界域まで脱水する。ここで言う「限界域まで脱水」とは、乾燥、脱水により、蒸発する水分量が無くなるまで脱水することを言う。これは、乾燥、脱水により蒸発する水分量が無くなるため、それ以上乾燥を続けても食物素材の脱水による食物素材の重量減少が無くなる状態を意味し、この状態では食物素材の水分量はほぼ0とみなすことが出来る。
【0017】
表1と表2は、前記の乾燥装置により、台車に積んだ簀の子に並べた食品素材である干しいもを乾燥したときの時間毎の素材重量(g)、前回計測時からの蒸発水量(g)、その時の素材の含水率(%)を示したものである。素材の含水率(%)は、食物素材を限界域まで脱水したときの含水率を0%とし、蒸発水量から逆算した素材重量に対する未蒸発水分量により表示した。表1が対流式ヒータ8を運転し、熱輻射式ヒータ10をオンオフしながら乾燥室2内を45〜50℃程度の温度に維持しながら乾燥運転を行ったときの数値であり、表2が対流式ヒータ8と熱輻射式ヒータ10とを共に停止し、乾燥室2内の余熱により乾燥運転を行ったときの数値である。
【0018】
【表1】

【0019】
【表2】

【0020】
食品素材は、蒸したタマユタカ種の甘藷を厚さ7mm前後にスライスしたものを前記の乾燥装置を使用して一次乾燥したものを使用した。一次乾燥後の食品素材の厚さは5mm程度である。日時は平成17年8月19日〜同20日であり、最高外気温度34℃、最高外気湿度66%RHであった。前述したように、乾燥室2内の温度は熱輻射式ヒータ10である遠赤外線ヒータをオンオフ制御して行ったが、そのオンオフ時の制御スイッチ動作温度は50℃に設定した。この状態では、乾燥室2内の平均温度は47℃〜50℃である。
【0021】
使用した熱源の性能は、対流式ヒータ8である過加熱蒸気フィンコイルユニットヒータが毎時33,400Kcal、 熱輻射式ヒータ10である遠赤外線ヒータが毎時24KWである。但し、熱輻射式ヒータ10は温度制御のためオンオフにより断続運転されることは先に説明した通りである。
【0022】
前記の表1から明らかな通り、乾燥開始から約8時間で食品素材約325g中の水分の蒸発量が毎時1〜2gと安定的に低減されるようになり、11時間後に対流式ヒータ8と熱輻射式ヒータ10の運転を共に停止した後、4時間で毎時の水分蒸発量は0となる。すなわち、食物素材が乾燥により限界域まで脱水された状態となる。
【0023】
その後この食品素材を乾燥室2から建屋1の外へ取り出し、常温にまで自然冷却する。この乾燥工程により、食物素材に含まれる水分が殆ど無くなるため、糊質や油脂質の組織が固化され、固定化される。その後、乾燥した食品素材を粉砕器にかけて粉砕し、乾燥された粉状食物素材とする。このとき、食物素材に含まれる水分が殆ど無いため、粉砕器が粘り付かない。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の方法により食物素材乾燥粉末を製造する第一の工程である食物素材の乾燥を行うための装置設備の一例を示す横断平面図である。
【図2】同じく食物素材の乾燥を行うための装置設備の一例を示す縦断側面図である。
【図3】同じく食物素材の乾燥を行うための装置設備の一例を示す乾燥室の縦断正面図である。
【符号の説明】
【0025】
2 乾燥室
8 対流式ヒータ
10 熱輻射式ヒータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
食物素材の乾燥粉末を製造する方法において、水分を含む食物素材を乾燥して限界域まで脱水した後、粉砕して粉状にすることを特徴とする食物素材乾燥粉末の製造方法。
【請求項2】
換気される乾燥室(2)内で放射伝導熱を食物素材に当てる熱輻射式ヒータ(10)と過熱蒸気により熱気を発生する対流式ヒータ(8)との併用により食物素材を加熱しながら乾燥することを特徴とする請求項1に記載の食物素材乾燥粉末の製造方法。
【請求項3】
熱輻射式ヒータ(10)は遠赤外線ヒータであることを特徴とする請求項2に記載の食物素材乾燥粉末の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−104928(P2007−104928A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−297169(P2005−297169)
【出願日】平成17年10月12日(2005.10.12)
【出願人】(396013020)北越電建株式会社 (4)
【Fターム(参考)】