説明

飽和ポリエステルとナイロン樹脂の二層コーティングを施した金属被覆

【課題】本発明の課題は、上記の現状に対する要請に応えること、すなわち、人体や自然環境に悪影響がないものであって金属面と密着性がよく、ナイロン樹脂とも親和性が高い素材をプライマーとしたナイロン樹脂の金属被膜を提供することにある。
【解決手段】本発明の金属被覆は、金属表面に飽和ポリエステルの層を介し、その上にナイロン樹脂層が積層されるようにしたもので、その金属被覆方法は、金属素材を235度以上に加熱する工程と、前記加熱された金属素材に融点が230度程度の飽和ポリエステルの粉体を塗布する工程と、該飽和ポリエステルが塗布された上に融点が190度程度のナイロン樹脂の粉体を塗布する工程と、該ナイロン樹脂が塗布された金属素材を水冷する工程とからなる表面に飽和ポリエステルの層を介し、その上にナイロン樹脂層が積層されるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は飽和ポリエステルを介在させナイロンコーティングを施した金属被覆に関し、特に水道用金属管の内面コーティングに適した技術に関する。
【背景技術】
【0002】
水道用の鋼管にはコーティング材として一般にエポキシ樹脂、ナイロン樹脂、ポリエチレン樹脂が用いられてきた。また、塩化ビニルの管が接着剤で接続される形態でそのまま用いられてきた。しかし、最近は公害問題や発ガン性物質等の問題が指摘され、素材の安全性が強く求められるようになってきた。水道管の分野では、従来広く使用されてきた塩化ビニル製品が環境問題の観点から敬遠され、被覆鋼管が広く用いられる状況にある。その被覆鋼管であるが、その塗料について1984年に世界保健機構(WHO)が飲料水水質ガイドライン勧告の中で、コールタール系塗料について問題点を指摘している。日本では鋼管を錆から保守するため定期的に管内をフラッシングし、塗料を塗り替える作業が行われてきた。これまで使用してきたコールタール系塗料には発ガン性があるとの指摘で敬遠され、新たな素材として使用されたものはエポキシ樹脂であった。このエポキシ樹脂を用いる被覆には主剤と硬化剤が使用され、これらを混合した後管内面に塗布して硬化させる。この硬化剤には脂肪族系と芳香族系の二種類があり、芳香族系の硬化剤のほうが扱いやすいことからもっぱらこちらが用いられてきたのであるが、最近この芳香族系の硬化剤にはコールタールから抽出した発ガン性をもつ芳香族ポリアミンという成分を成分としていることが判明した。
【0003】
水道管の被覆剤として安全性、耐摩耗性、耐アルカリ性に優れ適度の柔軟性を備えていることから、ナイロン樹脂に期待がもたれていますが、ナイロン樹脂は金属面との親和性が低いため剥離の問題が生じるため鋼管面に直接被覆することができない。現在のナイロン樹脂コーティングはプライマーとしてエポキシ樹脂を塗布し、高温状態でその上にナイロン粉体を吹き付け樹脂の層を被覆するという形態が採られている。エポキシ樹脂は金属面と密着性がよく、ナイロン樹脂とも親和性が高いので、構造的には好適である。この水道管において、水道水が直接接するのはナイロン樹脂の層であり、完璧なナイロン被覆が使用期間中補償されるならば問題は生じないはずである。しかし、実際にはナイロン樹脂の被覆層にはピンホールが所々にあって、その部分でエポキシ樹脂が水と接触したり、当初はナイロン樹脂層がエポキシ樹脂を薄く被覆されていたとしてもナイロン樹脂層が経年劣化することが予測され、下層のエポキシ樹脂が水道水に接する状態となることを否定しきれない。そこで、プライマーとして人体や自然環境に悪影響がないものであって金属面と密着性がよく、ナイロン樹脂とも親和性が高い素材を選び、それを用いてナイロン樹脂コーティングが施された水道管の開発が求められている。
一方金属との密着性や耐候性に優れ、機械的強度も高く、人体や自然環境にも優しい金属被覆材として飽和ポリエステルが知られている。これを水道管の内面被覆に使うことに想到したが、一点耐アルカリ性(PH13以上)に弱いという弱点が問題となった。
【特許文献1】特開平10−305246号公報 「金属管内面に粉体塗料を塗布する装置」 平成10年11月17日公開
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、上記の現状に対する要請に応えること、すなわち、人体や自然環境に悪影響がないものであって金属面と密着性がよく、ナイロン樹脂とも親和性が高い素材をプライマーとしたナイロン樹脂の金属被膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の金属被覆は、金属表面に飽和ポリエステルの層を介し、その上にナイロン樹脂層が積層されるようにした。
本発明の金属被覆方法は、金属素材を235度以上に加熱する工程と、前記加熱された金属素材に融点が230度程度の飽和ポリエステルの粉体を塗布する工程と、該飽和ポリエステルが塗布された上に融点が190度程度のナイロン樹脂の粉体を塗布する工程と、該ナイロン樹脂が塗布された金属素材を水冷する工程とからなる表面に飽和ポリエステルの層を介し、その上にナイロン樹脂層が積層されるようにした。
本発明の異なる金属被覆方法は、金属素材を235度以上に加熱する工程と、前記加熱された金属素材に融点が230度程度の飽和ポリエステル粉体と融点が190度程度のナイロン樹脂の粉体との混合物を塗布しつつ、該塗布層に金属面方向への加速度を印加する工程と、樹脂が塗布された金属素材を水冷する工程とからなる表面に飽和ポリエステルの層を介し、その上にナイロン樹脂層が積層されるようにした。この方法において、飽和ポリエステルの混合比率を5〜80重量%とするようにした。
【発明の効果】
【0006】
本発明の金属被覆は、金属表面に飽和ポリエステルの層を介し、その上にナイロン樹脂層が積層されるようにしたので、金属面と飽和ポリエステルの層の境界部、飽和ポリエステルの層とナイロン樹脂層との境界部での密着性が良好で、剥離の心配はないし、被覆表面はナイロン樹脂であるため、耐アルカリ性にも強い構造である。そして、使用に際して人体や自然環境に悪影響がないものである。すなわち、人体や自然環境に悪影響がない点では共に問題のない飽和ポリエステル、ナイロン樹脂が備えている耐アルカリと強度金属との密着性の点における短所をそれぞれの長所で補完することができたものである。
本発明の金属被覆方法は、第1層目となる素材に融点が230度程度の飽和ポリエステル、第2層の素材に融点が190度程度のナイロン樹脂を選択してあるので、素材毎に加熱冷却を繰り返すことなく、一旦金属素材を235度以上に加熱する工程を経た後で、この加熱された金属素材に飽和ポリエステルの粉体を塗布する工程と、該ナイロン樹脂が塗布された金属素材を水冷する工程該飽和ポリエステルが塗布された上にナイロン樹脂の粉体を塗布する工程とを一連の工程で実行することができる。
また、本発明の異なる金属被覆方法は、第1層目となる素材に融点が230度程度の比重が重い飽和ポリエステル、第2層の素材に融点が190度程度の比重が軽いナイロン樹脂を選択し、両方の粉体材料を混合した粉体を塗布しつつ、該塗布層に金属面方向への加速度を印加する工程とによって、比重の異なる素材が遠心分離の原理で2層に分離され、1度の塗布工程で金属表面に飽和ポリエステルの層を介し、その上にナイロン樹脂層が積層された金属被覆を形成させることができる。
この両方の粉体材料を混合した粉体を塗布する方法において、混合比率については飽和ポリエステルの混合比率を5〜80重量%という広い範囲で実施が可能であるため、金属被覆材が用いられる用途や環境条件にあわせた所望の設計ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の好ましい1実施形態として金属材の上・下水道管を対象とし、その内面の被覆を行う例について説明する。直径が200mm〜600mm、長さ3m〜6mの鋳鉄管の内面に本発明に係る飽和ポリエステルとナイロン樹脂の二層コーティングを施す工程は、図1にフローチャートで示すように第1のステップが金属管の錆及び汚れを除去する洗浄工程である。表面の錆や付着した汚れは被覆層の剥離の原因となるので前処理として行われる周知の手法である。第2のステップはこの金属管を予熱する工程である。この工程では金属素材を飽和ポリエステルの融点230℃を少し越える235度以上に加熱する。この加熱は次の工程で2種類のコーティング材を溶融付着させるためのもので、金属材料の熱容量が大きい場合にはさほど温度を高くする必要はないが、冷めやすい小物の場合には高めに設定する必要がある。第3のステップは前記加熱された金属管の内面に融点が230度程度の飽和ポリエステルの粉体を塗布する工程となる。この工程で行われる金属内面に粉体塗装を行わせる手法は、本件出願人が先に特許出願した「金属管内面に粉体塗料を塗布する装置」(特許文献1参照)を用いてなされる。図6に示されるこの装置は、金属管の内面に粉体塗料を短時間で均一に塗布し、充分な厚さを有し且つ剥離し難い塗膜を形成するための装置であって、予め所定の温度に加熱した金属管を、水平に保持し、軸心を中心に回転させながら、浮遊させた粉体塗料を空気流とともに供給して金属管内面に塗布するものである。装置の構成は、金属管(1)を水平に保持しながら回転させる回転台(2)と、内部で粉体塗料を浮遊させる流動浸漬槽(3)と、流動浸漬槽に一端が取り付けられた導管(4)と、空気流を金属管の一端においてその内部に噴射するための空気導管(6)と、金属管の他端に設けられた絞り管(7)とからなり、流動浸漬槽(3)内部の粉体塗料と空気の混合体を金属管(1)に吹き込むことにより、金属管内面で粉体塗料が予熱温度(この時点で融点の230℃を越えていることが必要である。)により溶融し、塗膜を形成することができる。この作業中金属管を回転させるのは溶融状態にある樹脂が流下して塗膜の厚さを不均一にするのを防ぐためである。この装置を用い、第1被覆層となる飽和ポリエステルの均等厚の塗膜が形成される。
【0008】
次の第4のステップでは、第2被覆層となるナイロン樹脂(ポリアミド)の塗膜を形成させるが、この工程でも同じ図6に示す「金属管内面に粉体塗料を塗布する装置」が用いられる。粉体塗料の種類がナイロン樹脂である点が異なるだけで、作業は全く同様である。ここで用いるナイロン樹脂はウンデカンラクタムを開環重縮合したポリアミドであるナイロン11が適当である。融点187℃、ガラス遷移点37℃、比重1.04である。ナイロン6及び66に比べて融点、吸水性が低く、耐寒衝撃性に優れている点で水道管の被覆材に適している。ステップ2の加熱後第3ステップを経てからの作業となるため、当然に自然冷却によって金属管表面の温度は低下しているが、ナイロン樹脂の融点は飽和ポリエステルのそれより低いので、190℃を越えていればよく再度加熱工程を入れなくても第2層の塗膜を形成させることができる。ステップ5は二層の塗膜が形成された金属管を冷却する工程で、この工程ではまず空気中で溶融状態にあるナイロン樹脂の塗膜がある程度固まって落ち着くまで自然冷却させるものである。この後二層となった樹脂塗膜を金属管内面にしっかりと固定させるため、該ナイロン樹脂が塗布された金属管材を常温程度にまで一気に水冷する。具体的には被膜が形成された金属管を水槽に移し常温まで冷却してコーティング層を固着させる。ステップ6は金属表面に水分が残らないように乾燥させる工程である。この6つのステップを経て、金属管内面に飽和ポリエステルの層を介し、その上にナイロン樹脂層が積層される二層コーティングが形成できる。この例で素材とした鋳鉄管の場合鋼管に比べ表面荒さが大きく凹凸があるため、被覆厚さを大きくすることが求められる。飽和ポリエステルにせよナイロン樹脂にせよ1層構造では500μm位が限界値でありこれ以上の厚さにすると内部歪みによりクラックを生じる可能性がある。本発明では飽和ポリエステルとナイロン樹脂の二層構造となるため、500μm〜1000μmの厚さの被膜を形成させてもクラックを生じることが無く、厚みを得ることができるため、凹凸がある鋳鉄管の被覆に好適である。
【0009】
次に、本発明の異なる金属被覆方法について説明する。図2にフローチャートで示すように第1のステップである金属管の錆及び汚れを除去する洗浄工程、そして第2のステップである金属管を予熱する工程であるが、これは先の金属被覆方法と同様である。この工程で金属素材を飽和ポリエステルの融点230℃を少し越える235度以上に加熱する。第3のステップは前記加熱された金属管の内面に飽和ポリエステルとナイロン樹脂の二層コーティングを一度に施す工程であって、この被覆方法の特異工程である。この場合は飽和ポリエステルの粉体とナイロン樹脂の粉体を所望の比率で混合した塗装剤を予め準備しておく。この塗装剤を用いて上記と同じ「金属管内面に粉体塗料を塗布する装置」で行うのであるが、融点が230度程度の飽和ポリエステルと融点が190度程度のナイロン樹脂は加熱された金属管表面で共に溶融状態となる。飽和ポリエステルの比重は1.3であり、ナイロン樹脂の比重は1.1であることから、金属管を回転させる過程で遠心分離の原理により金属表面に接する第1層に飽和ポリエステルその上層にナイロン樹脂と二層に分離する現象が生じる。溶融状態の飽和ポリエステルの粘性は水と同様のほぼ1であることから、この分離は容易に行われ綺麗な二層被覆が形成される。この工程での金属管の回転は単に被覆層の均一化のためではなく、遠心分離を行わせるものであるため、回転速度は所定値以上速くする必要があるが、回転数を高くしすぎるとかえって被膜厚さにムラが生じることになる。因みにこの実施形態の直径200mmの管の場合1分間に7回転で実施したところ層分離においても層厚均一性の点でも好適なものを得ることができた。
【0010】
次の第4のステップは二層の塗膜が形成された金属管を冷却する工程で、この工程ではまず溶融状態にあるナイロン樹脂の塗膜がある程度固まって落ち着くまで自然冷却させた後、この二層となった樹脂塗膜を金属管内面に固定させる工程で、該ナイロン樹脂が塗布された金属管材を常温程度にまで一気に水冷する。ステップ5は金属表面に水分が残らないように乾燥させる工程である。この5つのステップを経て、金属管内面に飽和ポリエステルの層を介し、その上にナイロン樹脂層が積層される二層コーティングが形成できる。ステップ3の工程以外は先の被覆方法の場合と違いはない。
この被覆方法に用いる粉体の混合比であるが、飽和ポリエステルの混合比率を5〜80重量%と広い範囲で選択が可能である。ナイロン樹脂の金属被覆は水道管の分野で実績があり、ただ金属との密着性が悪いという問題点があるため、金属面との間にはプライマーが必要である。このプライマーとして必要とされる飽和ポリエステルの量からすれば5%重量で足りる。また、飽和ポリエステルも水道管の被膜材としての物性は優れており、難点はPH13以上のアルカリに弱いということである。したがって、アルカリ性の液と接する可能性のある表面への露出は避けたいという事情があり、この観点からすれば上層に100μm程度の厚さのナイロン被膜があれば十分であり、比率からすれば20%重量のナイロン樹脂を含んでいれば良いということになる。このような事情であるから、用いられる金属材料の用途や環境条件や、材料コストを勘案して幅広い適宜の設計が可能である。
【0011】
[顕微鏡観察]本発明に係る飽和ポリエステルを介在させナイロンコーティングを施した金属被覆を確認するため、サンプルとして、鋳鉄の表面に飽和ポリエステルのみのコーティングと本発明の二重コーティングを施したものと、鋼鉄の表面に飽和ポリエステルのみのコーティングと本発明の二重コーティングを施したものを作り、それぞれの断面構造を顕微鏡観察した。図3のAは鋳鉄の表面に飽和ポリエステルのみのコーティングを施したものの顕微鏡写真(倍率:×200)であるが、この写真は断面を切り出したサンプル片を樹脂に埋め込み表面を研磨して観察したものである。図中右側の斑点模様の部分が鋳鉄で、左側の黒ずんだ部分が固定用の樹脂であり、その中間層が飽和ポリエステルのコーティングである。この写真から分かるように鋳鉄の表面には±50μm程度の凹凸があり、表面はなだらかではない。その凹部にも飽和ポリエステルが密に入り込んでいることが確認できる。飽和ポリエステルは溶融状態では水と同様の粘性となるあるため、濡れ状態は極めて良好である。ただ、この凹部の飽和ポリエステルは黒ずんだ不均一部分が観察される。これは鋳鉄を事前に洗浄するも凹部には若干の異物が残留しそれが飽和ポリエステルに混入しているものと解される。しかし、このことがコーティング製品に影響を及ぼすことはない。飽和ポリエステルによるコーティングは凹凸のある金属表面にも空隙のない状態で密に接触し、外側の固定樹脂との境界線から分かるように表面が滑らかに仕上がることが確認できる。
【0012】
図3のBは同じく鋳鉄の表面に飽和ポリエステルのみのコーティングを施したものの上にナイロン樹脂(商品名:リルサンナイロン11)をコーティングした本発明に係る二重コーティングのサンプルの顕微鏡写真(倍率:×200)である。鋳鉄部分は画像右側に外れて画像領域にはなく、画像の右側は飽和ポリエステルのコーティング層、左側の黒ずんだ部分が固定用の樹脂であり、その中間層がナイロン樹脂の層である。飽和ポリエステルとナイロン樹脂との境界は判然としない。第2層のナイロン樹脂を粉体塗装する際には被覆面の温度がナイロン樹脂の融点187℃以上でなければならず、第1層の飽和ポリエステルは固化前のまだ緩い状態の上にナイロン樹脂の粉体は付着するものと想定される。したがって、両方の樹脂が混ざり合っている状態があり、その境界は明瞭に観察されないものと解される。ただし、外側すなわち画像上では左側に混じりけのないナイロン樹脂層がやや白く形成されているのが見て取れる。また、外側の固定樹脂との境界線ははっきり観察され、ナイロン樹脂がコーティングされた被覆表面は先の飽和ポリエステルの表面ほどではないが、滑らかに仕上がっていることが確認できる。
【0013】
次に示す図4のAの写真は、鋼鉄の表面に飽和ポリエステルのみのコーティングを施したものの顕微鏡写真(倍率:×200)であるが、この写真も先の例と同様に断面を切り出したサンプル片を樹脂に埋め込み表面を研磨して観察したものである。図中右側の白い部分が鋼鉄で、左側が飽和ポリエステルのコーティングである。この写真から分かるように鋼鉄の表面はせいぜい±10μm程度の細かい凹凸であり、先の鋳鉄の表面に比べ表面はなだらかである。飽和ポリエステルはその細かい凹凸部にも密に接していることが確認できる。飽和ポリエステルは鋼鉄表面に均質に被覆がなされていることが観察できる。
【0014】
図4のBは同じく鋼鉄の表面に飽和ポリエステルのみのコーティングを施したものの上にナイロン樹脂(商品名:リルサンナイロン11)をコーティングした本発明に係る二重コーティングのサンプルの顕微鏡写真(倍率:×200)である。この画像も鋳鉄部分は写っておらず、右側は飽和ポリエステルのコーティング層、左側の黒ずんだ部分が固定用の樹脂であり、その中間層がナイロン樹脂の層である。飽和ポリエステルとナイロン樹脂との境界は矢印付近であるが図3のBのものと同様判然としない。その理由も鋳鉄の二層コーティングの時と同様と解される。その外側すなわち、図面の左側は白っぽくなっておりこの部分はナイロン樹脂のコーティング層である。また、更に外側、図面の左側端部の黒っぽい部分は固定用の樹脂で、それとの境界線ははっきり観察され、ナイロン樹脂がコーティングされた被覆表面は先の飽和ポリエステルの表面ほどではないが、このサンプルでは相当滑らかに仕上がっていることが確認できる。
【0015】
つぎに、金属表面・飽和ポリエステル層・ナイロン樹脂層の密着性について試験を行ったので、その結果をしめす。本発明の課題の一つがナイロン樹脂と金属との密着性の悪さを解決することにあり、本発明ではその間に飽和ポリエステルの層を介在させることでこの解決を図っている。そこで、本発明に係る飽和ポリエステルを介在させナイロンコーティングを施した金属被覆における各境界における密着性を確認するため、2本の鋼鉄の丸棒(φ10mm×L50mm)の端面に飽和ポリエステルの層を形成し、一方の丸棒の飽和ポリエステルの層の上に更にナイロン樹脂層を形成すると共にその他端に、前記他方の丸棒を接続して冷却固化させたサンプルを作成して、引っ張り試験を行った。サンプルの構造は図5に示すように、鋼鉄の丸棒a、飽和ポリエステルの層b、ナイロン樹脂の層c、飽和ポリエステルの層b、鋼鉄の丸棒aというサンドイッチ形態である。試験機はインストン社製の5582型を用い、クロスヘッドの移動速度は5mm/minで行った。3個のサンプルによる試験結果を表1に示す。
【表1】

なお、上記の顕微鏡撮像写真並びにこの引っ張り試験のデータは群馬県産業技術センターに委託して得たものである。
【0016】
3つのサンプルが破断に至る最大引張り荷重はそれぞれ1027N,843N,695Nであった。値にバラツキがあるが、これは一方の丸棒の飽和ポリエステルの層の上にナイロン樹脂層を形成してその他端に他方の丸棒を接続させる際、サンプルの温度差等に起因してナイロン樹脂の溶融状態にバラツキがあったためと推定される。破断面を観察すると金属面と飽和ポリエステル層境界部分での剥離はなく、飽和ポリエステル層の破断であるかナイロン樹脂層の破断であるかその境界での剥離であるかは判然としないが、樹脂部分での破断となっている。値にバラツキがあるものの、その最小値をとっても695Nの荷重まで耐えていることから、水道管の内面被覆という環境を想定すれば十分すぎる程の値であり、金属面と飽和ポリエステル層および飽和ポリエステル層とナイロン樹脂層のいずれの境界についても、長期使用しても剥離の心配はない機械的強度であることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0017】
本発明は、金属水道管の内面塗装として人体や自然環境に悪影響がないものであって金属面と密着性がよく、ナイロン樹脂とも親和性が高い素材をプライマーとしたナイロン樹脂の被膜を提供することに出発したものであるが、開発された飽和ポリエステルを介在させてナイロン樹脂コーティングを施した金属被覆は、その特性において前述のように優れたものであるから、飲料水関係ばかりでなく広い分野において安定した金属被覆材として適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る飽和ポリエステルとナイロン樹脂の二層コーティングを施す工程を示すフローチャートである。
【図2】本発明に係る飽和ポリエステルとナイロン樹脂の二層コーティングを施す他の工程を示すフローチャートである。
【図3】鋳鉄の表面に飽和ポリエステルのみのコーティングと本発明の二重コーティングを施したものとを観察した顕微鏡写真である。
【図4】鋼鉄の表面に飽和ポリエステルのみのコーティングと本発明の二重コーティングを施したものとを観察した顕微鏡写真である。
【図5】金属面の二層コーティングの密着性を検査するサンプルの構造を示す図である。
【図6】本発明で用いる金属管内面に粉体塗料を塗布する装置を説明する図である。
【符号の説明】
【0019】
a 鋼鉄の丸棒 b 飽和ポリエステルの層
c ナイロン樹脂の層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属表面に飽和ポリエステルの層を介し、その上にナイロン樹脂層が積層された金属被覆。
【請求項2】
金属素材を235度以上に加熱する工程と、前記加熱された金属素材に融点が230度程度の飽和ポリエステルの粉体を塗布する工程と、該飽和ポリエステルが塗布された上に融点が190度程度のナイロン樹脂の粉体を塗布する工程と、該ナイロン樹脂が塗布された金属素材を水冷する工程とからなる表面に飽和ポリエステルの層を介し、その上にナイロン樹脂層が積層されるようにした金属被覆方法。
【請求項3】
金属素材を235度以上に加熱する工程と、前記加熱された金属素材に融点が230度程度の飽和ポリエステル粉体と融点が190度程度のナイロン樹脂の粉体との混合物を塗布しつつ、該塗布層に金属面方向への加速度を印加する工程と、樹脂が塗布された金属素材を水冷する工程とからなる表面に飽和ポリエステルの層を介し、その上にナイロン樹脂層が積層されるようにした金属被覆方法。
【請求項4】
飽和ポリエステルの混合比率を5〜80重量%としたものである請求項3に記載の表面に飽和ポリエステルの層を介し、その上にナイロン樹脂層が積層されるようにした金属被覆方法。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−203698(P2007−203698A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−28284(P2006−28284)
【出願日】平成18年2月6日(2006.2.6)
【出願人】(594047290)テリー工業株式会社 (5)
【Fターム(参考)】