説明

駆動装置

【課題】動力伝達機構の騒音や振動の低減を図った駆動装置を提供する。
【解決手段】モータは、DCモータ1であるとともに、減速歯車群3の最終歯車3aおよび出力軸5に設けられて最終歯車3aと歯合する出力軸歯車4の外周には、それぞれ原点から時計回り方向および反時計回り方向へ動力伝達が必要な範囲に歯が形成され、かつそれ以外の範囲には歯が形成されないことにより、動力伝達が必要の無い範囲においては、最終歯車3aと出力軸歯車4とは歯合せず、DCモータ1の回転により最終歯車3aのみが空転するとともに、空転中の最終歯車3aの歯が形成されていない外周部に、出力軸歯車4の最終歯9の端部が当接することにより、出力軸歯車4の回転位置を保持している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水洗トイレの洗浄用電動排水弁等を開閉するための駆動源として用いて好適な駆動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、水洗トイレの洗浄用電動排水弁を開閉するための駆動源に用いる駆動装置として、例えば、特許文献1に開示されているものが知られている。
【0003】
この駆動装置は、リバーシブルモータの駆動軸と出力軸との間に減速歯車群が介装され、減速歯車群の最終歯車に、通電時に接続状態となる電磁クラッチが設けられるとともに、出力軸の外周部に位置する突出片とこの出力軸から半径方向外方に離間した突起との間に、機械的な原点復帰機構としてスプリングが掛け渡された構造のものである。
【0004】
ところで、上記特許文献1に開示されている駆動装置は、出力軸歯車が所定角度を回転する間に排水が行われ、電源が切られると共に電磁クラッチが切り離され、スプリングの復元力によって出力軸歯車が原点復帰する。
この駆動装置は、ディテント力が大きいリバーシブルモータを用いているため、電源が切られるとリバーシブルモータにディテント力が発生し、出力軸歯車が回転位置を保持する。
これにより、電磁クラッチを用いなければスプリングの復元力によって出力軸歯車が原点復帰することができないため、部品点数が多くなる。
【0005】
このため、近年上記リバーシブルモータに変えてディテント力が小さいDCモータを用いたものが開発されている。この駆動装置によれば、電磁クラッチを用いずにスプリングの復元力だけで原点復帰させることが可能となり、装置の簡素化を図ることが可能となっている。
【0006】
図5は、従来のこの種のDCモータを用いた上記駆動装置を示すものである。
この駆動装置においては、DCモータ1からの動力は、駆動軸歯車2、減速歯車群3および出力軸歯車4を介して、この駆動装置の出力軸5に伝達されるようになっている。
【0007】
そして、この出力軸5の外周に、図示されない大小2つの排水弁をそれぞれ開閉する2本のワイヤの一端が固定されるとともに、出力軸5を原点復帰させるための図示されないスプリングが連結されている。
【0008】
上記構成からなる駆動装置を、例えば電動化された水洗トイレにおける排水弁開閉用の駆動源として用いた場合には、先ず当該水洗トイレにおける大径の排水弁用の排水開始ボタンが押されると、図6に示されるように、上記駆動装置の電源が入り、例えばDCモータ1が時計回り方向に数秒間回転することにより、出力軸5が規定回転角だけ回転する。
これにより、ワイヤが出力軸5に巻き取られ、大径の排水弁が開いて排水が開始される。
【0009】
他方、小径の排水弁用の排水開始ボタンが押されると、DCモータ1が反時計回り方向に数秒間回転することにより、出力軸5が規定回転角だけ回転する。
これにより、ワイヤが出力軸5に巻き取られ、小径の排水弁が開いて排水が開始される。
【0010】
そして、いずれの場合においても、排水が完了して、DCモータ1への電源が切られると、スプリングの復元力によって出力軸5が原点に復帰する。
【0011】
このように、この駆動装置は、ディテント力が小さいDCモータを用いているため、スプリングの復元力だけで原点復帰させることが可能となっている。
【0012】
ところで、上記DCモータ1を用いた駆動装置においは、排水が完了するまでの間、排水弁を全開の状態に保持しておく必要がある。
ところが、排水中にDCモータ1の電源を切ってしまうと、スプリングの復元力によって原点復帰されるため、出力軸5の回転位置を保持することができない。
【0013】
他方、DCモータ1に連続通電したままでは、出力軸5が回転し続けるため、出力軸5の回転位置を保持することができない。
【0014】
そこで、従来の上記駆動装置においては、図6に示すように、排水弁が開いた後に、さらにDCモータ1に効率が80%(200Hz)のパルス電圧を数秒間印加して、出力軸5への駆動力とスプリングによる復元力とをバランスさせて回転位置を保持することにより、出力軸5の回転位置を保持する構成が採られている。
【0015】
以上の構成によれば、大径の排水弁、小径の排水弁のどちらの排水の場合においても、DCモータ1にパルス電圧を数秒間印加することにより、出力軸5の回転位置を保持することができ、よって排水弁を全開のまま保持して排水することができる。
【0016】
また、排水が完了した後は、上記駆動装置への電源が切られ、DCモータ1が停止することにより、スプリングの復元力によって出力軸5を原点復帰させることができる。
【特許文献1】特公平8−6593号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、上記従来の駆動装置においては、出力軸5の回転位置を保持させる際に、上記DCモータ1にパルス電圧を印加しているために、上記DCモータ1のOn/Off音や、歯車のバックラッシュによる騒音(歯車叩き音)や振動が発生するという問題点があった。
【0018】
また、上記DCモータ1にパルス電圧が印加されるため、少なくとも大きなトルクが繰り返し作用する上記最終歯車3aと上記出力軸歯車4については、強度確保のために金属製の材料を用いる必要があり、製品単価の上昇を招くという問題点もあった。
【0019】
本発明は、上記事情に鑑み成されたもので、動力伝達機構の騒音や振動の低減を図った駆動装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0020】
すなわち、請求項1に記載の本発明は、モータの駆動軸と出力軸との間に、減速歯車群が介装された駆動装置において、上記モータは、DCモータであるとともに、上記減速歯車群の最終歯車および上記出力軸に設けられて上記最終歯車と歯合する出力軸歯車の外周には、それぞれ原点から時計回り方向および反時計回り方向へ動力伝達が必要な範囲に歯が形成され、かつそれ以外の範囲には歯が形成されないことにより、動力伝達が必要の無い範囲においては、上記最終歯車と上記出力軸歯車とは歯合せず、上記モータの回転により上記最終歯車のみが空転するとともに、空転中の上記最終歯車の歯が形成されていない外周部に、上記出力軸歯車の最終歯の端部が当接することで、上記出力軸歯車の回転位置を保持するようにしたことを特徴としている。
【0021】
また、請求項2に記載の本発明は、請求項1に記載の駆動装置において、上記モータの駆動軸歯車、上記減速歯車群の歯車および上記出力軸歯車は、樹脂材料で形成されていることを特徴としている。
【0022】
また、請求項3に記載の本発明は、請求項1または請求項2の何れかに記載の駆動装置において、上記最終歯車は、歯が形成されない部分の円周方向の両端が、面取り加工されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0023】
請求項1に記載の発明によれば、上記DCモータの回転により上記最終歯車のみを空転させる際、空転中の上記最終歯車の歯が形成されていない外周部に、上記出力軸歯車の最終歯の端部が当接し、これにより上記出力軸の回転位置を保持することが可能となるために、DCモータのOn/Off音や、歯車のバックラッシュによる騒音や振動の発生を抑制することができる。
【0024】
請求項2に記載の発明によれば、上記最終歯車と上記出力軸歯車を樹脂材料で形成しているために、製品単価の上昇を抑えることができる。
【0025】
請求項3に記載の発明によれば、上記最終歯車と上記出力軸歯車を、歯が形成されない部分の円周方向の両端に面取り加工を施しているために、当該歯車の磨耗を低減させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
図1ないし図4は、本発明に係る駆動装置を水洗トイレの洗浄用電動排水弁を開閉するための駆動源として用いた実施形態の要部を示すもので、他の構成については、図5に示したものと同一であるために、同一符号を用いてその説明を簡略化する。
【0027】
図1に示すように、この駆動装置が従来のものと相違する点は、最終歯車3aおよび出力軸歯車4の歯の形状および材質にある。
すなわち、この駆動装置においても、図5に示したものと同様に、DCモータ1から、駆動軸歯車2、減速歯車群3、出力軸歯車4を介して、動力が伝達される出力軸5の外周に、図示されない大小2つの排水弁をそれぞれ開閉する2本のワイヤの一端が固定されている。
【0028】
そして、本実施形態の駆動装置においては、駆動軸歯車2、減速歯車群3、最終歯車3aおよび出力軸歯車4が全て合成樹脂によって成形されている。
【0029】
ここで、最終歯車3aの図示されない軸の外周に、最終歯車3aと歯合する出力軸歯車4の出力軸5を原点復帰させるための図示されないスプリングが連結されている。
【0030】
また、減速歯車群3の最終歯車3aの外周には、排水弁が閉じた状態の歯車原点位置から、時計回り方向に110度の範囲と反時計回り方向に110度の範囲6aに歯が形成され、かつそれ以外の140度の範囲7aには歯が形成されていない。
【0031】
同様にして、出力軸歯車4の外周には、歯車原点位置から時計回り方向に110度の範囲と反時計回り方向に110度の範囲6bに歯が形成され、かつそれ以外の140度の範囲7bには歯が形成されていない。
【0032】
なお、この角度110度は、排水弁を開くのに充分な角度とされている。
また、140度は、排水に必要な時間を確保するために、出力軸5の回転位置を保持するのに充分な角度とされている。
【0033】
そして、最終歯車3aにおいて、歯が形成されていない140度の範囲7aは、歯先円と同じ直径で円周方向に形成されており、歯が形成されない140度の範囲7aにおける円周方向の両端部8は、図4に示すように、面取り加工されている。
【0034】
さらに、出力軸歯車4において、歯が形成されていない140度の範囲7bは、歯底円と同じ直径で円周方向に形成されている。
【0035】
また、最終歯車3aの歯が形成されていない140度の範囲7aと出力軸歯車4の歯が形成されていない140度の範囲7bは、最終歯車3aおよび噛合う出力軸歯車4の頂げきにより僅かな隙間が形成されている。
【0036】
以上の構成からなる駆動装置において、電動化された水洗トイレにおける排水弁開閉用の駆動源として用いた場合には、出力軸5が時計回り方向に回転すると大径の排水弁が開き、出力軸5が反時計回り方向に回転すると小径の排水弁が開くようになっている。
【0037】
そして、先ず当該水洗トイレにおける大径の排水弁用の排水開始ボタンが押されると、図3に示されるように、上記駆動装置の電源が入り、DCモータ1が時計回り方向に2秒間回転することにより、DCモータ1から、駆動軸歯車2、減速歯車群3、出力軸歯車4を介して、動力が伝達される出力軸5が規定回転角(110度)だけ回転する。
これにより、ワイヤが出力軸5に巻き取られ、大径の排水弁が開いて排水が開始する。
【0038】
他方、当該水洗トイレにおける小径の排水弁用の排水開始ボタンが押されると、上記駆動装置の電源が入り、DCモータ1が反時計回り方向に2秒間回転することにより、出力軸5が規定回転角(110度)を2秒間かけて回転する
これにより、ワイヤが出力軸5に巻き取られ、小径の排水弁が開いて排水が開始する。
【0039】
ここで、最終歯車3aと出力軸歯車4の歯が形成されていない140度の範囲7a、7bは、僅かな隙間が形成されているため、当接していない。
そのため、全開後DCモータ1が2秒以上回転させると、図2に示すように、最終歯車3aが回転を続けても出力軸歯車4には動力が伝わらない。
そして、最終歯車3aの歯が形成されていない140度の範囲7aの外周部に、出力軸歯車4の最終歯9の端部が当接するため、出力軸歯車4の回転位置を保持することが可能になる。
【0040】
このことから、大径の排水弁、小径の排水弁のどちらの排水の場合においても、図3に示すように、DCモータ1が全開後、さらに同一方向に一定の速度で2秒間回転することで、最終歯車3aの歯が形成されていない140度の範囲7aの外周部に、出力軸歯車4の最終歯9の端部が当接して、出力軸5の回転位置を保持するため、排水弁が全開のまま排水する。
【0041】
そして、排水が完了すると、上記駆動装置への電源が切られ、DCモータ1が停止することにより、スプリングの復元力によって最終歯車3aが原点復帰し、最終歯車3aと歯合する出力軸歯車4によって、出力軸5が原点復帰する。
【0042】
したがって、最終歯車3aの回転を止めることなく、出力軸歯車4の回転位置を保持することが可能なため、排水中にDCモータ1をOn/Offする必要が無くなる。
これにより、歯車のバックラッシュによる歯車叩きが発生しなくなるため、騒音や振動の発生を抑制することができる。
【0043】
また、歯車のバックラッシュによる歯車叩きが発生しなくなるために、最終歯車3aと出力軸歯車4についても、強度確保のために金属製の材料を用いる必要が無くなり、樹脂材料で形成することによって製品単価の低減化を図ることができる。
【0044】
さらに、最終歯車3aの歯が形成されない部分の円周方向の両端8に、面取り加工を施しているので、最終歯車3aの歯が形成されない部分の円周方向の両端8と出力軸歯車4の最終歯9の端部の磨耗を低減することができる。
【0045】
なお、上記実施形態のおいては、本発明に係る駆動装置を水洗トイレの洗浄用電動排水弁を開閉するための駆動源として用いた場合についてのみ説明したが、これに限るものではなく、例えば、洗濯機の排水弁開閉用や、空気調整機のダンパ開閉用等の各種の駆動装置として適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の実施形態の駆動装置の要部を示す正面図である。
【図2】図1の出力軸歯車の回転位置が保持された状態の正面図である。
【図3】図1の駆動装置の、排水時のDCモータに流れる電圧と通電時間の関係を示す図である。
【図4】図1の最終歯車を示す正面図である。
【図5】従来の駆動装置を示す断面図である。
【図6】図5の駆動装置の、排水時のDCモータに流れる電圧と通電時間の関係を示す図である。
【符号の説明】
【0047】
1 DCモータ
2 駆動軸歯車
3 減速歯車群
3a 最終歯車
4 出力軸歯車
5 出力軸
6a 最終歯車3aの外周における、歯が形成されている範囲
6b 出力軸歯車4の外周における、歯が形成されている範囲
7a 最終歯車3aの外周における、歯が形成されていない範囲
7b 出力軸歯車4の外周における、歯が形成されていない範囲
8 最終歯車3aの歯が形成されない部分の円周方向の両端
9 最終歯

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータの駆動軸と出力軸との間に、減速歯車群が介装された駆動装置において、
上記モータは、DCモータであるとともに、
上記減速歯車群の最終歯車および上記出力軸に設けられて上記最終歯車と歯合する出力軸歯車の外周には、それぞれ原点から時計回り方向および反時計回り方向へ動力伝達が必要な範囲に歯が形成され、かつそれ以外の範囲には歯が形成されないことにより、動力伝達が必要の無い範囲においては、上記最終歯車と上記出力軸歯車とは歯合せず、上記モータの回転により上記最終歯車のみが空転するとともに、空転中の上記最終歯車の歯が形成されていない外周部に、上記出力軸歯車の最終歯の端部が当接することにより、上記出力軸歯車の回転位置を保持するようにしたことを特徴とする駆動装置。
【請求項2】
上記モータの駆動軸歯車、上記減速歯車群の歯車および上記出力軸歯車は、樹脂材料で形成されていることを特徴とする請求項1に記載の駆動装置。
【請求項3】
上記最終歯車は、歯が形成されない部分の円周方向の両端が、面取り加工されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−261401(P2008−261401A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−103848(P2007−103848)
【出願日】平成19年4月11日(2007.4.11)
【出願人】(594111292)三菱マテリアルシ−エムアイ株式会社 (54)
【Fターム(参考)】