説明

骨再生組成物製造器具、骨再生組成物の製造方法、骨再生組成物、および骨再生方法

【課題】本発明は、培養操作を行うことなく、閉鎖系内で簡便かつ迅速に骨再生組成物を製造することが可能な骨再生組成物製造器具、骨再生組成物の製造方法、骨再生組成物、および骨再生方法を提供する。
【解決手段】骨再生に関わる骨再生関連細胞を、細胞分離器1を用いて捕捉する。回収用シリンジ5を用いて、細胞分離器1に、洗浄液を注入し、骨再生関連細胞を細胞分離器1から流出させる。細胞分離器1から流出した骨再生関連細胞を分離容器6に回収し、該混合容器6において、骨再生関連細胞と支持体とを混合する。これにより、骨再生に関わる骨再生関連細胞を含む試料からの該骨再生関連細胞の分離と、該骨再生関連細胞と支持体との混合とを、一連の操作として閉鎖系内で行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨再生組成物製造器具、骨再生組成物の製造方法、骨再生組成物、および骨再生方法に関するものであって、特に、培養操作を行うことなく、閉鎖系内で簡便かつ迅速に骨再生組成物を製造することが可能な骨再生組成物製造器具、骨再生組成物の製造方法、骨再生組成物、および骨再生方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
骨欠損や骨折後の骨癒合不全を修復する方法として、患者の患部以外の健常部から骨を採取して患部へ移植する自家骨移植が最も一般的に知られている。しかし、自家骨移植は、採骨する健常部に対して侵襲的であること、採骨量に限界があること、骨採取部の骨折など合併症の危険性があることなどの問題点があった。
【0003】
そこで近年、リン酸カルシウムを主成分とする多孔質体を、骨充填材として患部へ充填する骨再生方法が開発されている。
【0004】
しかし、リン酸カルシウムの充填だけでは骨再生能力は不十分とされており、その適応は再生条件の良好な小さな欠損に限られる。そこで新たに、間葉系幹細胞をリン酸カルシウムに付与して移植する方法が開発されている。
【0005】
このような骨再生方法では、間葉系幹細胞とリン酸カルシウムとを含む骨再生組成物が用いられる。このような骨再生組成物やその製造方法は、例えば、特許文献1〜3に開示されている。
【0006】
具体的には、特許文献1には、生体適合性で開放気孔型基材の細孔が真空に曝され、骨誘導物質および/または骨形成物質が流動性態様で、開放気孔型基材の細孔内に発生される真空によってこれらの細孔に吸い込まれることにより、骨誘導物質および/または骨形成物質を含む骨代用材料を製造する方法が開示されている。
【0007】
上記開放気孔型基材は、少なくとも部分的に、生体再吸収性材料、好ましくはヒドロキシアパタイトまたは燐酸三カルシウムからなることが記載されている。
【0008】
また、上記骨形成物質は、流動性態様の体細胞の形で存在し、該体細胞は、自己骨髄、自己骨髄からなる分離された濃縮細胞、培養された自己幹細胞、分化した自己幹細胞、または間葉細胞であることが記載されている。
【0009】
特許文献2には、圧力によって、造血系幹細胞と間葉系幹細胞と血球とからなる所望の細胞を多孔質の生体組織補填材に押し込み、該所望の細胞を該生体組織補填材に浸透させることにより、生体組織欠損部に補填される生体組織補填体を製造することが開示されている。
【0010】
上記生体組織補填材として、具体的には、β−リン酸三カルシウム(以下、「β−TCP」ともいう)からなる円板状の多孔体が記載されている。
【0011】
特許文献3には、患者から採取した体液から少なくとも間葉系幹細胞を含む濃縮体を分離し、分離された濃縮体を生体組織補填材に散布することにより生体組織補填体を製造することが記載されている。
【0012】
上記生体組織補填材として、具体的には、β−TCPからなるブロック状あるいは顆粒状の多孔体が記載されている。
【0013】
また、骨再生組成物やその製造方法に特化するものではないが、間葉系幹細胞等の幹細胞を調製する方法として、特許文献4および5に開示されるような技術が知られている。
【0014】
具体的には、特許文献4には、造血組織を除く生体組織の再生に用いられる組織再生用細胞と、夾雑細胞の混合液を細胞分離フィルターに通液し、夾雑細胞を通過させ、組織再生用細胞を捕捉させた後、前記細胞分離フィルターに流体を導入して当該細胞を回収する工程を含む生体組織再生用細胞の分離方法が開示されている。
【0015】
上記生体組織再生用細胞として、具体的には、間葉系前駆細胞、血管内皮前駆細胞、神経幹細胞が記載されている。
【0016】
また、特許文献4には、上記生体組織再生用細胞の分離方法で得られた生体組織再生用細胞は、そのまま、あるいは必要に応じさらなる分離精製、培養、活性化、増幅、遺伝子導入、凍結保存、ハイドロキシアパタイトなどの骨補填材との複合化、人工血管との複合化などの各種処理が施された後、各種生体組織の病変および/または欠損の治療や基礎科学分野の研究に用いることができることが記載されている。
【0017】
また、特許文献5には、密度K(つまり、目付(g/m)/厚み(m))は、1.0×10≦K≦1.0×10であり、かつ、繊維径が3〜40μmの幹細胞分離材または、該幹細胞分離材を容器に充填してなる幹細胞分離フィルターを用いて、体液または生体組織の処理液中から幹細胞を分離、回収する方法が開示されている。
【0018】
上記幹細胞としては、具体的には、間葉系幹細胞、多能性成体幹細胞、骨髄ストローマ細胞が記載されている。また、上記体液として、具体的には、骨髄液、末梢血、または臍帯血が記載されている。
【0019】
さらに、上記特許文献4および5とは別に、間葉系幹細胞を調製する方法として、1)骨髄液から培養工程を経て分離する方法、2)骨髄液から細胞分離剤を用いて分離する方法等も用いられる。
【特許文献1】特表2004−505747号公報(平成16(2004)年2月26日公表)
【特許文献2】特開2003−320013号公報(平成15(2003)年11月11日公開)
【特許文献3】特開2003−320019号公報(平成15(2003)年11月11日公開)
【特許文献4】特開2001−161352号公報(平成13(2001)年6月19日公開)
【特許文献5】国際公開公報WO2007/046501(2007年4月26日公開)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
上説したように、間葉系幹細胞のような生体組織再生用細胞と、β−TCPのような生体組織補填材とを含む骨再生組成物は、骨再生に用いられるが、このような骨再生組成物を製造する技術は、特許文献1〜3に開示されている。
【0021】
上記骨再生組成物は、通常、患者に移植して用いられるため、無菌的に製造する必要がある。
【0022】
しかしながら、特許文献1〜3の技術では、間葉系幹細胞のような生体組織再生用細胞の調製(分離)と、生体組織再生用細胞とβ−TCPのような生体組織補填材との混合とを、別々の操作として行う。
【0023】
そのため、特許文献1〜3の技術では、生体組織再生用細胞と生体組織補填材とを無菌性を担保して混合するために、特別な装置が必要となるという問題がある。また、そのような特別な装置を用いる必要があるため、簡便に骨再生組成物を製造できないという問題がある。
【0024】
さらに、従来、骨再生組成物の製造には、体液や生体組織の処理液から分離された生体組織再生用細胞をそのまま、用いるのではなく、分離後、一旦培養した後、その培養した生体組織再生用細胞を用いることが一般的である。
【0025】
そのため、大掛かりな細胞培養専門の設備(Cell processing center)が別途必要となり、設備投資、センターの維持費など膨大な費用がかかるという問題がある。
【0026】
このように、従来、臨床用途に利用可能な骨再生組成物を、簡便に製造することができる技術は開発されておらず、そのような技術の開発が切望されている。
【0027】
本発明は、上記問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、培養操作を行うことなく、閉鎖系内で簡便かつ迅速に骨再生組成物を製造することが可能な骨再生組成物製造器具、骨再生組成物の製造方法、骨再生組成物、および骨再生方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0028】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、骨再生に関わる骨再生関連細胞を含む試料からの該骨再生関連細胞の分離と、該骨再生関連細胞と支持体との混合とを、一連の操作として閉鎖系内で行えば、簡便かつ迅速に骨再生組成物を製造できることを独自に見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は、以下の産業上有用な以下の発明を包含する。
【0029】
(1)骨再生に関わる骨再生関連細胞と、該骨再生関連細胞を支持する支持体とを含む骨再生組成物を製造するための骨再生組成物製造器具であって、上記骨再生関連細胞を捕捉するための細胞捕捉部と、上記細胞捕捉部に細胞回収液を注入し、該細胞捕捉部に捕捉された上記骨再生関連細胞を該細胞捕捉部から流出させるための細胞回収液注入部と、上記細胞捕捉部から流出した上記骨再生関連細胞を含む細胞回収液を回収するための細胞回収部と、を備え、上記細胞回収部には、支持体が配置されており、上記細胞回収部において、該細胞回収部に回収された骨再生関連細胞と、上記支持体とが混合されることを特徴とする骨再生組成物製造器具。
【0030】
(2)上記細胞回収部は上記骨再生組成物製造器具から取り外し可能であって、かつ、上記細胞回収部は、突起部を有する容器部と、上記支持体が封入された支持体封入部と、上記突起部と支持体収納部とを連結する連結部と、を備え、上記骨再生関連細胞を含む細胞回収液を回収した細胞回収部を取り外して、上記骨再生関連細胞を含む細胞回収液の遠心分離を行ったときに、上記骨再生関連細胞の沈殿を収納可能な構造を有し、上記連結部は、開閉により、上記容器部から上記支持体収納部への上記骨再生関連細胞の沈殿の移動を制御するためのものであることを特徴とする(1)の記載の骨再生組成物製造器具。
【0031】
(3)上記支持体封入部は、上記細胞回収部から取り外し可能であることを特徴とする(2)に記載の骨再生組成物製造器具。
【0032】
(4)上記支持体封入部は、加圧可能な材質からなることを特徴とする(2)または(3)に記載の骨再生組成物製造器具。
(5)上記細胞回収部は、濾過部によって隔てられた第1空間と第2空間とを含み、上記第1空間には、上記支持体が配置されており、上記濾過部は、上記第1空間に回収された上記骨再生関連細胞を含む細胞回収液を濾過し、上記骨再生関連細胞を除く成分を上記第2空間に流入させるためのものであることを特徴とする(1)に記載の骨再生組成物製造器具。
【0033】
(6)上記骨再生関連細胞を含む試料を上記細胞捕捉部に注入するための試料注入部をさらに備え、上記試料注入部は、上記細胞回収液注入部が上記細胞捕捉部に対して上記細胞回収液を注入する方向とは逆方向に、上記細胞捕捉部に対して上記試料を注入することを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の骨再生組成物製造器具。
【0034】
(7)上記試料注入部が上記細胞捕捉部に上記試料を注入したとき、上記試料のうち、上記細胞捕捉部を通過した成分を回収するための廃液回収部をさらに備えることを特徴とする(6)に記載の骨再生組成物製造器具。
【0035】
(8)上記細胞捕捉部を洗浄するための洗浄液を上記細胞捕捉部に注入するための洗浄液注入部をさらに備え、上記洗浄液注入部は、上記細胞回収液注入部が上記細胞捕捉部に対して上記細胞回収液を注入する方向とは逆方向に、上記細胞捕捉部に対して上記洗浄液を注入することを特徴とする(1)〜(7)のいずれかに記載の骨再生組成物製造器具。
【0036】
(9)上記細胞捕捉部は、フィルター構造を有する細胞分離材を含むことを特徴とする(1)〜(8)のいずれかに記載の骨再生組成物製造器具。
【0037】
(10)上記細胞分離材は、白血球および赤血球を含む試料を通液したとき、白血球の30%〜90%を通過させ、かつ、赤血球の90%以上を通過させることを特徴とする(9)に記載の骨再生組成物製造器具。
【0038】
(11)上記骨再生関連細胞は、間葉系幹細胞であることを特徴とする(1)〜(10)のいずれかに記載の骨再生組成物製造器具。
【0039】
(12)上記支持体は、リン酸カルシウム、天然高分子材料、合成高分子材料、金属材料、またはこれらの2種以上を組み合わせた複合材を含むことを特徴とする(1)〜(11)のいずれかに記載の骨再生組成物製造器具。
【0040】
(13)骨再生に関わる骨再生関連細胞と、該骨再生関連細胞を支持する支持体とを含む骨再生組成物の製造方法であって、閉鎖系内で、骨再生関連細胞を細胞捕捉部に捕捉し、該細胞捕捉部に細胞回収液を注入することによって、該細胞捕捉部に捕捉された上記骨再生関連細胞を該細胞捕捉部から流出させ、該細胞捕捉部から流出した上記骨再生関連細胞を含む細胞回収液を細胞回収部に回収し、該細胞回収部において、上記骨再生関連細胞を濃縮した後、該骨再生関連細胞と支持体とを混合することを特徴とする骨再生組成物の製造方法。
【0041】
(14)上記細胞捕捉部から、上記細胞回収液を用いて上記骨再生関連細胞を流出させる前に、上記細胞捕捉部に対して、上記細胞回収液を注入する方向とは逆方向に、洗浄液を注入して、上記細胞捕捉部を洗浄することを特徴とする(13)に記載の骨再生組成物の製造方法。
【0042】
(15)上記細胞回収部に回収された骨再生関連細胞を培養せずに、上記支持体と混合することを特徴とする(13)または(14)に記載の骨再生組成物の製造方法。
【0043】
(16)上記骨再生関連細胞は、間葉系幹細胞であることを特徴とする(13)〜(15)のいずれかに記載の骨再生組成物の製造方法。
【0044】
(17)上記支持体は、リン酸カルシウム、天然高分子材料、合成高分子材料、金属材料、またはこれらの2種以上を組み合わせた複合材を含むことを特徴とする(13)〜(16)のいずれかに記載の骨再生組成物の製造方法。
【0045】
(18)(1)〜(12)のいずれかに記載の骨再生組成物製造器具を用いて製造されたことを特徴とする骨再生組成物。
【0046】
(19)(13)〜(17)のいずれかに記載の骨再生組成物の製造方法を用いて製造されたことを特徴とする骨再生組成物。
【0047】
(20)上記支持体100mgに対して、1個〜5×10個の骨再生関連細胞を含むことを特徴とする(18)または(19)に記載の骨再生組成物。
【0048】
(21)(18)〜(20)のいずれかに記載の骨再生組成物を用いて骨を再生させることを特徴とする骨再生方法。
【発明の効果】
【0049】
以上のように、本発明にかかる骨再生組成物製造器具は、骨再生に関わる骨再生関連細胞を捕捉するための細胞捕捉部と、上記細胞捕捉部に細胞回収液を注入し、該細胞捕捉部に捕捉された上記骨再生関連細胞を該細胞捕捉部から流出させるための細胞回収液注入部と、上記細胞捕捉部から流出した上記骨再生関連細胞を含む細胞回収液を回収するための細胞回収部とを備えている。さらに、上記細胞回収部には、支持体が配置されており、上記細胞回収部において、該細胞回収部に回収された骨再生関連細胞と、上記支持体とが混合される。
【0050】
それゆえ、骨再生関連細胞と、該骨再生関連細胞を支持する支持体とを含む骨再生組成物を、閉鎖系内で簡便に製造することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0051】
本発明の一実施形態について図1〜図3に基づき説明すると以下の通りであるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0052】
<I.骨再生組成物製造器具>
本発明にかかる骨再生組成物製造器具は、(1)体液から骨再生関連細胞を分離し、(2)分離された骨再生関連細胞と、該骨再生関連細胞と混合して骨再生組成物として用いることができる支持体とを混合することを、閉鎖系内で、一連の操作として行うことを可能にするものである。
【0053】
したがって、本発明にかかる骨再生組成物製造器具によれば、骨再生組成物を、簡便に製造することができる。
【0054】
また、本発明にかかる骨再生組成物製造器具によれば、骨再生組成物の製造過程において、骨再生関連細胞の培養を行う必要がない。そのため、骨再生組成物の製造にかかる手間や製造コストを大幅に低減することができる。
【0055】
本明細書において、「骨再生組成物」は、骨再生関連細胞と、支持体とを少なくとも含み、骨再生に用いるための組成物が意図される。
【0056】
本明細書において、「骨再生関連細胞」とは、骨再生に関わる細胞が意図され、具体的には、例えば、間葉系幹細胞を挙げることができる。
【0057】
また、本明細書において、「間葉系幹細胞」とは、体液中から分離され、自己増殖を繰り返す能力を有し、下流の細部系譜への分化が可能な細胞が意図される。具体的には、骨髄由来間葉系幹細胞、脂肪組織由来間葉系幹細胞、羊膜由来間葉系幹細胞、胎盤由来間葉系幹細胞、臍帯由来間葉系幹細胞等を挙げることができる。これら間葉系幹細胞は、その由来系統の細胞だけではなく、別系統の細胞にまで分化する能力を有する。ここで、間葉系幹細胞の性質について説明する。
【0058】
間葉系幹細胞は、分化誘導因子により、例えば、軟骨細胞や、血管内皮細胞、心筋細胞、脂肪組織等、または歯周組織の構成細胞であるセメント芽細胞、歯周靱帯繊維芽細胞等の中胚葉系の細胞に分化する。
【0059】
また、間葉系幹細胞は、適切な環境下では骨芽細胞に分化し、骨組織を新生することが知られている。この骨組織の新生では、間葉系幹細胞は、不足した骨新生能力を補填する役割を担っていると考えられている。
【0060】
本明細書において、「支持体」とは、骨再生関連細胞と混合して骨再生組成物として用いることができる支持体が意図される。つまり、骨再生関連細胞を支持するものである。
【0061】
上記支持体としては、特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、ハイドロキシアパタイト、β−リン酸三カルシウム、炭酸カルシウムまたはリン酸オクタカルシウム等のリン酸カルシウム;コラーゲン、キトサン、またはキチン等の天然高分子材料;ポリリシン、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリシアノアクリレート、またはε−カプロラクタン等の合成高分子材料;純チタン、チタン合金、タンタル、またはステンレス鋼等の金属材料などを挙げることができる。
【0062】
これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせた複合材として用いてもよい。
【0063】
また、自家骨、自家骨片、自家骨粉、血管柄付き骨片のような組織及び組織片等を支持体とすることもできる。
【0064】
上記支持体の形状は特に限定されるものではなく、骨再生関連細胞を保持し得るものであればよい。具体的には、例えば、顆粒状、膜状、チューブ状、平板状、ロール状等の形状を挙げることができる。中でも、疾患部に形状をフィットさせるために、形態は顆粒状が好ましい。
【0065】
ここで、本発明にかかる骨再生組成物製造器具の一実施形態について、図1〜3を参照しながら、以下、詳細に説明するが本発明はこれに限定されるものではない。
【0066】
本実施形態にかかる骨再生組成物製造器具100(骨再生組成物製造器具)は、図1に示すように、細胞分離器1(細胞捕捉部)と、試料注入用シリンジ2(試料注入部)と、廃液バッグ3(廃液回収部)と、洗浄用シリンジ4(洗浄液注入部)と、回収用シリンジ5(細胞回収液注入部)と、混合容器6(細胞回収部)とを備えている。
【0067】
細胞分離器1、廃液バッグ3および回収用シリンジ5は、三方活栓12を介して互いに接続されている。
【0068】
より詳しくは、図1に示すように、細胞分離器1と三方活栓12とは、配管回路18によって接続されている。廃液バッグ3と三方活栓12とは、配管回路20によって接続されている。
【0069】
さらに、回収用シリンジ5と三方活栓12とは、配管回路19によって接続されている。これにより、結果として、細胞分離器1、廃液バッグ3および回収用シリンジ5は、互いに接続されている。
【0070】
また、細胞分離器1、試料注入用シリンジ2、洗浄用シリンジ4、および混合容器6は、三方活栓10および三方活栓11を介して互いに接続されている。
【0071】
より詳しくは、図1に示すように、細胞分離器1と三方活栓11とは、配管回路17によって接続されている。混合容器6と三方活栓11とは、配管回路16によって接続されている。三方活栓11と三方活栓10とは、配管回路15によって接続されている。
【0072】
また、洗浄用シリンジ4と三方活栓10とは、配管回路14によって接続されている。さらに、試料注入用シリンジ2と三方活栓10とは、配管回路13によって接続されている。
【0073】
これにより、結果として、細胞分離器1、試料注入用シリンジ2、洗浄用シリンジ4、および混合容器6は、互いに接続されている。
【0074】
上記構成によれば、試料注入用シリンジ2から骨再生関連細胞を含む試料溶液を注入すると、三方活栓10および三方活栓11を経由して、細胞分離器1に該試料溶液を流入させることができる。
【0075】
そして、細胞分離器1では、上記試料溶液に含有される骨再生関連細胞は、細胞分離器1に捕捉され、上記試料溶液に含有される夾雑物は、三方活栓12を経由して、廃液バッグ3に流入(排出)させることができる。
【0076】
また、上記構成によれば、細胞分離器1に骨再生関連細胞が捕捉された状態で、洗浄用シリンジ4から、洗浄液を注入すると、三方活栓10および三方活栓11を経由して、細胞分離器1に該洗浄液を流入させることができる。
【0077】
これにより、細胞分離器1には、上記試料溶液を流入させたときと同じ向きに、上記洗浄液が流入することになる。そのため、細胞分離器1内の夾雑物を洗い流し、上記洗浄液は、三方活栓12を経由して、廃液バッグ3に流入(排出)させることができる。
【0078】
さらに、上記構成によれば、細胞分離器1に骨再生関連細胞が捕捉され、細胞分離器1内の夾雑物が洗い流された状態で、回収用シリンジ5から細胞回収液を注入すると、三方活栓12を経由して、細胞分離器1に該細胞回収液を流入させることができる。
【0079】
その結果、細胞分離器1には、上記試料溶液を流入させたときとは逆向きに、上記細胞回収液が流入することになる。そのため、細胞分離器1に捕捉された骨再生関連細胞を細胞分離器1から流出させ、三方活栓11を経由して、混合容器6に、該骨再生関連細胞を流入させることができる。
【0080】
骨再生組成物製造器具100の混合容器6には、図1に示すように、支持体7が配置されている。そのため、混合容器6に流入した骨再生関連細胞は、混合容器6内で、支持体7と混合される。
【0081】
なお、支持体7としては、上説した支持体を用いればよい。また、混合容器6内における骨再生関連細胞と支持体7との混合方法については、後述するので、ここではその詳細な説明は省略する。
【0082】
このように、骨再生組成物製造器具100によれば、骨再生関連細胞を含む試料溶液から、骨再生関連細胞を分離し、さらに、該分離した骨再生関連細胞と支持体7と混合することを、閉鎖系内で、一連の操作として行うことができる。したがって、無菌性を保ったまま、骨再生組成物を簡便に製造することができる。
【0083】
さらに、骨再生組成物製造器具100により製造された骨再生組成物は、その製造工程において、骨再生関連細胞の培養を行わないにもかかわらず、後述する実施例に示すように、骨再生能を有する。つまり、骨再生組成物製造器具100によれば、骨再生関連細胞を培養することなく、骨再生能を有する骨再生組成物を製造できる。それゆえ、骨再生関連細胞の培養工程を省き、骨再生組成物の生産効率を大幅に向上させることができる。
【0084】
以下、骨再生組成物製造器具100を構成する各部材について、より具体的に説明する。
【0085】
細胞分離器1は、骨再生関連細胞を捕捉し、不必要な夾雑物を通過させることが可能である。ここでいう「夾雑物」とは、目的細胞以外の細胞、例えば、赤血球、血小板、リンパ球等が意図される。
【0086】
細胞分離器1の形態は特に限定されるものではなく、任意の大きさ、形状の細胞分離材を、少なくとも2つの口をもつ容器に充填したものであってもよいし、容器等に充填していない細胞分離材そのものであってもよい。
【0087】
本実施形態では、細胞分離器1は、フィルター構造を有する細胞分離材を容器内に充填したものであることが好ましい。この場合、細胞分離材は、上記容器に圧縮して充填されていてもよいし、圧縮せずに充填されていてもよい。
【0088】
より具体的には、例えば、不織布状の細胞分離材を、充填した状態で厚みが0.1cm〜5cm、好ましくは、0.15cm〜4cm、より好ましくは0.2cm〜3cmとなるように、上記容器に充填したものを細胞分離器1として好適に用いることができる。
【0089】
このような構成の細胞分離器1によれば、赤血球、白血球、血小板等を効率よく除去した上で、骨再生関連細胞を高い回収率で回収することができる。
【0090】
また、上記細胞分離材として、ロール状の細胞分離材を用いる場合、上記容器に該ロール状の細胞分離材を充填し、ロールの内側から外側に向けて体液を流して、骨再生関連細胞を捕捉する形態としてもよいし、ロールの外側から内側に向けて体液を流して、骨再生関連細胞を捕捉する形態としてもよい。
【0091】
細胞分離材を充填する容器は、特に限定されるものではなく、球、コンテナ、カセット、バッグ、チューブ、カラム等、任意の形態をとりうる。好ましい具体例としては、例えば、容量約0.1ml〜1000ml程度、直径約0.1cm〜15cm程度の透明または半透明の円柱状容器、あるいは一片の長さ0.1cm〜20cm程度の正方形あるいは長方形で、厚みが0.1cm〜5cm程度の四角柱状の容器等を挙げることができる。
【0092】
上記細胞分離材は、支持体や骨再生関連細胞は通過せず、液体成分を通過させる濾過材であればよい。具体的には、白血球および赤血球を含む試料を通液したとき、白血球の30%〜90%を通過させ、かつ、赤血球の90%以上を通過させることが好ましい。なお、上記「白血球および赤血球を含む試料」としては、骨髄液、末梢血液、密度勾配を利用した分離剤にて体液を処理した産物(分離剤にて処理した体液を任意の液体(培地、生理食塩水、PBS等)に再懸濁した試料が意図される。上記分離剤としては、Ficoll、ヒドロキシエチルスターチ等が挙げられる。
【0093】
上記細胞分離材の材質としては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン等のポリオレフィン、ポリエステル、塩化ビニル、ポリビニルアルコール、塩化ビニリデン、レーヨン、ビニロン、ポリスチレン、アクリル(ポリメチルメタクリレート、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ポリアクロニトリル、ポリアクリル酸、ポリアクリレート等)、ナイロン、ポリウレタン、ポリイミド、アラミド、ポリアミド、キュプラ、ケブラー、カーボン、フェノール、テトロン、パルプ、麻、セルロース、ケナフ、キチン、キトサン、ガラス、綿等を挙げることができる。
【0094】
中でも、ポリエステル、ポリスチレン、アクリル、レーヨン、ポリオレフィン、ビニロン、ナイロン、およびポリウレタン等の合成高分子を好適に用いることができる。
【0095】
上記細胞分離材は、これらの材質のうち、単一の材質からなってもよいし、複数の材質を組み合わせた複合材からなってもよい。
【0096】
2種以上の合成高分子を組み合わせて用いる場合、その組み合わせは特に限定されるものではないが、ポリエステルとポリプロピレンとの組み合わせ、レーヨンとポリオレフィンとの組み合わせ、または、ポリエステルとレーヨンとビニロンとの組み合わせを好適に用いることができる。
【0097】
2種以上の合成高分子を組み合わせて繊維とする場合、具体的には、例えば、1本の繊維が異成分同士の合成高分子よりなる繊維、あるいは異成分同士が剥離分割した分割繊維でもよい。また、成分の異なる合成高分子単独よりなる繊維をそれぞれ複合化した繊維であってもよい。ここでいう「複合化した繊維」とは、2種以上の繊維を混在させることにより構成した繊維、または、合成高分子単独よりなる繊維をそれぞれ張り合わせた繊維等が意図される。
【0098】
上記細胞分離材の形態は特に限定されるものではないが、本発明では、フィルター構造を有する細胞分離材を容器内に充填したものを細胞分離器1として用いることが好ましいことから、上記細胞分離材の形態は、上記容器に収納できるものであることが好ましい。
【0099】
具体的には、例えば、連通孔構造の多孔質体、繊維の集合体、織物等を挙げることができる。中でも、繊維で構成されることが好ましく、不織布であることがより好ましい。
【0100】
また、上記細胞分離材は、上記例示した材質に対して、細胞分離材としての性能を向上させるための処理が施されたものであってもよい。
【0101】
このような処理としては、具体的には、例えば、(1)親水化処理、(2)細胞付着性タンパク質や、骨再生関連細胞上に特異的に発現している特異的抗原に対する抗体の固定化処理を挙げることができる。
【0102】
上記親水化処理により、骨再生関連細胞以外の細胞の非特異的な捕捉を抑制することができる。また、体液が細胞分離器1内を通過する際、特定の領域の細胞分離材に偏って通過して、骨再生関連細胞の回収率が低下することを防止することができる。
【0103】
また、上記特定のタンパク質の固定化処理によれば、骨再生関連細胞の細胞分離材への付着性をより向上させることができる。
【0104】
なお、上記親水化処理や、特定のタンパク質の固定化処理の具体的な方法については特に限定されるものではなく、従来公知の方法を用いればよい。また、細胞分離材の性能を向上させる処理については、例えば、上記特許文献5の内容も本明細書に参考として援用される。
【0105】
細胞分離器1は骨再生関連細胞の分離に用いられるため、上記細胞分離材は、通液方向と平行に孔が連通している形態とすることが好ましい。
【0106】
また、細胞分離材が繊維である場合、その繊維径が3μmより小さいと、細胞分離材と白血球との相互作用が高まり、夾雑物(換言すれば、不用細胞)の除去効率が低くなる傾向がある。一方、繊維径が40μmより大きいと、有効接触面積の低下やショートパスが起こりやすくなり、骨再生関連細胞の回収率が低下する傾向がある。
【0107】
したがって、細胞分離材が繊維である場合の繊維径は、3μm〜40μmであることが好ましく、5μm〜35μmであることがより好ましく、5μm〜30μmであることがさらに好ましい。このような繊維径とすれば、骨再生関連細胞と細胞分離材との相互作用を上げ、骨再生関連細胞の収率を向上させることができる。
【0108】
さらに、細胞分離材が繊維である場合、目開きは、3μmより小さいと、夾雑物の除去効率が低下する傾向がある。一方、上記目開きが120μmより大きいと、骨再生関連細胞の捕捉が困難となる傾向がある。
【0109】
したがって、上記目開きは、短径が3μm以上で、長径が120μm以下であることが好ましく、短径が5μm以上で、長径が80μm以下であることがより好ましく、短径が5μm以上で、長径が50μm以下であることがさらに好ましい。このような目開きとすれば、赤血球等の比較的大きな夾雑物を高い除去効率で除去するとともに、高い回収率で骨再生関連細胞を捕捉することができる。
【0110】
なお、ここでいう「細胞分離材が繊維である場合の繊維の目開き」は、下記の方法により求めることができる。まず、細胞分離材が繊維である場合の繊維を走査型電子顕微鏡(以下、「SEM」ともいう)にて写真撮影する。次に、そのSEM画像を用いて、異なる2本以上の繊維が交差することにより形成される実質的な孔の長径、および短径を画像解析装置にて50ポイント以上測定し、それぞれの平均値を求める。これにより、上記目開きの短径および長径をそれぞれ測定することができる。
【0111】
なお、長径は実質的な孔の2点間の最長の距離を、短径は長径を求めた際の2点間の距離の中央値を通り、実質的に孔に接する最短の距離をいう。
【0112】
細胞分離器1において、細胞分離材の密度K(つまり、目付(g/m)/厚み(m))は、1.0×10≦K≦1.0×10であることが好ましく、2.5×10≦K≦7.5×10であることがより好ましく、5.0×10≦K≦5.0×10であることがさらに好ましく、5.0×10≦K≦2.0×10であることが特に好ましい。このような密度であれば、赤血球、白血球、血小板等を高い除去効率で除去できるうえ、骨再生関連細胞を高い回収率で回収することができる。
【0113】
なお、密度Kは、目付(g/m)/厚み(m)を示すが、換言すれば、重量(g)/単位体積(m)と表すこともできる。したがって、密度Kは、細胞分離材の単位体積(m)当りの重量(g)を測定することにより求めることができる。
【0114】
なお、細胞分離器1は、上記容器を含まず、細胞分離材のみからなる構成とすることもできる。その場合、具体的には、上記細胞分離材を成型したフィルター、多孔質体、中空糸、メッシュ等を挙げることができる。
【0115】
細胞分離器1は、以上説示した通りであるが、細胞分離器1の構成については、例えば、上記特許文献5の内容も本明細書に参考として援用される。
【0116】
試料注入用シリンジ2は、骨再生関連細胞を含む試料溶液(以下、「骨再生関連細胞含有試料」ともいう)を細胞分離器1に注入するためのものである。
【0117】
試料注入用シリンジ2の材質や形状は、特に限定されるものではなく、従来公知のあらゆるシリンジ、好ましくは医療用シリンジを用いることができる。
【0118】
本実施形態にかかる骨再生組成物製造器具100では、細胞分離器1に骨再生関連細胞含有試料を注入するために、試料注入用シリンジ2を備えているが、本発明はこれに限定されない。すなわち、試料注入用シリンジ2に代えて、細胞分離器1に骨再生関連細胞含有試料を注入する方法に応じて、あらゆる試料注入用具を用いることができる。
【0119】
具体的には、例えば、試料注入用シリンジ2に代えて、任意の容器(例えば、バッグ)を用い、骨再生関連細胞含有試料を該任意の容器にプールして、自然落下により、細胞分離器1に骨再生関連細胞含有試料を注入することができる。また、骨再生関連細胞含有試料を入れた任意の容器から、ポンプ等を用いて、細胞分離器1に骨再生関連細胞含有試料を注入してもよい。
【0120】
洗浄用シリンジ4、および回収用シリンジ5は、それぞれ、洗浄液、および細胞回収液を細胞分離器1に注入するためのものである。洗浄用シリンジ4、および回収用シリンジ5の材質並びに形状は特に限定されるものでないが、試料注入用シリンジ2と同様のものを用いることができる。また、試料注入用シリンジ2と同様に、細胞分離器1に洗浄液または細胞回収液を注入する方法に応じて、シリンジ以外のものを代用することができる。
【0121】
廃液バッグ3は、試料注入用シリンジ2および洗浄用シリンジ4から注入された骨再生関連細胞含有試料および洗浄液のうち、細胞分離器1を通過した成分を回収するものである。廃液バッグ3の材質および形状は特に限定されるものではなく、医療用途に一般的に用いられる廃液バッグを好適に用いることができる。
【0122】
また、本実施形態では、廃液バッグ3を備えているが本発明はこれに限定されない。すなわち、試料注入用シリンジ2および洗浄用シリンジ4から注入された骨再生関連細胞含有試料および洗浄液のうち、細胞分離器1を通過した成分を回収することができるものであれば、バッグに限らず、あらゆる容器を代用することができる。
【0123】
三方活栓10〜12は、それぞれ、3つの口をもち、これら3つの口の任意の2つの口を連通させることが可能なものであればよく、その材質等は特に限定されるものではない。具体的には、例えば、医療用途で用いられるあらゆる三方活栓を用いることができる。
【0124】
さらに、配管回路13〜20もまた、特に限定されるものではなく、各部材間を、溶液が漏れないように接続できるものであればよい。その材質や形状についても特に限定されるものではない。具体的には、例えば、医療用途で用いられるあらゆるチューブ類を好適に用いることができる。
【0125】
以下、混合容器6について詳細に説明する。ここでは、混合容器6の3つの実施形態について説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0126】
〔混合容器6の第1実施形態〕
混合容器6は、図1に示すように、容器21内に、フィルター8(濾過部)が配置された構成である。より具体的には、フィルター8は、容器21の内部空間を二分するように配置されている。これにより、混合容器6は、フィルター8によって隔てられた混合部9a(第1空間)と貯留部9b(第2空間)とを有する構成となっている。
【0127】
混合容器6において、混合部9aは、混合容器6内に流入する溶液が、まず、通過する空間である。一方、貯留部9bは、混合容器6内に流入する溶液がフィルター8を通過したのち、貯留する空間である。
【0128】
フィルター8は、混合部9aに回収された(流入した)骨再生関連細胞を含む細胞回収液を濾過し、骨再生関連細胞を除く成分を貯留部9bに流入させるためのものである。フィルター8は、特に限定されるものではないが、実質的に、細胞程度の大きさの粒子は通さず、細胞よりも小さい粒径の成分のみを通過させることができるフィルターであることが好ましい。具体的には、例えば、通液方向と水平な連通孔を有し、その孔径が2μm〜5μmのフィルターを用いることが好ましい。
【0129】
さらに、混合容器6においては、混合部9aの空間(例えば、フィルター8の上)に、支持体7が配置されている。このような構成によれば、混合容器6の混合部9aに流入した溶液は、混合部9aにて、支持体7と混合される。
【0130】
したがって、上記構成によれば、混合容器6内に回収された骨再生関連細胞を含む細胞回収液(換言すれば、骨再生関連細胞の細胞懸濁液)は、混合部9aで支持体7と混合され、その後、骨再生関連細胞を除く成分は、貯留部9bに移動する。これにより、フィルター8上には骨再生関連細胞と支持体との混合物が残る。
【0131】
そして、混合部9aに任意の溶液を注入することにより、濃縮された骨再生関連細胞と支持体とを含む骨再生組成物を製造することができる。
【0132】
混合部9aに任意の溶液を注入する方法、および製造された骨再生組成物を混合部9aから回収する方法は特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、シリンジ等を用いて、混合部9aに任意の溶液を注入したり、混合部9aから骨再生組成物を回収したりすることができる。
【0133】
容器21は、特に限定されるものではなく、任意の容器を用いることができる。また、容器21は硬質容器であってもよいし、軟質容器であってもよい。容器21の材質としては、具体的には、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレンなどのポリオレフィン、ポリエステル、塩化ビニル、ポリビニルアルコール、塩化ビニリデン、ビニロン、ポリスチレン、アクリル(ポリメチルメタクリレート、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、アクリロニトリル、アクリル酸、アクリル酸エステルなど)、ナイロン、ポリウレタン、ポリイミド、ポリアミド、カーボン、ポリアクリレート、セルロース、キチン、キトサン、およびガラス等を挙げることができる。
【0134】
なお、容器21は、単一の材質からなっていてもよいし、上記例示したような材質を複数組み合わせてなるものであってもよい。
【0135】
〔混合容器6の第2実施形態〕
混合容器6は、別の実施形態として、図2に示すように、突起部27を有する容器26(容器部)と、支持体7が封入された支持体封入容器29(支持体封入部)と、チューブ28(連結部)とからなる。
【0136】
容器26の突起部27と、支持体封入容器29とは、チューブ28によって連結されている。また、容器26と支持体封入容器29とは、チューブ28が閉状態の時、非連通状態にある。一方、チューブ28が開状態の時、容器26と支持体封入容器29とは連通状態となる。
【0137】
つまり、チューブ28は、容器26から支持体封入容器29への溶液の移動を制御するためのものである。チューブ28は、可逆的に開閉可能なものであってもよいし、閉状態から開状態へ一度だけ切り替え可能なものであってもよい。
【0138】
閉状態から開状態へ一度だけ切り替え可能な形態としては、例えば、チューブ28が、開孔可能な非連通のチューブであって、該チューブを折り曲げることにより開孔される形態が挙げられる。なお、チューブ28の開閉方法は上記に限定されるものではなく、あらゆる開閉方式を用いることができる。
【0139】
本実施形態の混合容器6を備える骨再生組成物製造器具100では、混合容器6は、骨再生組成物製造器具100から取り外し可能であることが好ましい。
【0140】
このような構成によれば、混合容器6内に骨再生関連細胞を含む細胞回収液(換言すれば、骨再生関連細胞の細胞懸濁液)を回収した後、骨再生組成物製造器具100から取り外すことができる。さらに、取り外した混合容器6を遠心分離器に供し、骨再生関連細胞を濃縮して、突起部27に沈降(収納)することができる。
【0141】
すなわち、突起部27は、骨再生関連細胞を含む細胞回収液を回収した混合容器6を取り外して、骨再生関連細胞を含む細胞回収液の遠心分離を行ったときに、骨再生関連細胞の沈殿を収納可能な構造を有する。
【0142】
その後、チューブ28を開状態とすれば、突起部27と、支持体封入容器29とが連通し、濃縮された骨再生関連細胞が支持体封入容器29に流入し、間葉系細胞と支持体7とが混合され、骨再生組成物を調製(製造)することができる。
【0143】
容器26の材質や形状は、特に限定されるものではないが、容器26内に回収された骨再生関連細胞の懸濁液を遠心分離して、骨再生関連細胞を沈殿させる操作に耐えうる材質および形状であることが好ましい。
【0144】
具体的には、例えば、一般的に細胞を遠心分離により沈殿させるために用いる遠心チューブや遠心バッグの材質を、上記容器21の材質として例示したものの中から、選択して好適に用いることができる。
【0145】
また、容器26の形状についても、具体的には、容器26内に回収された骨再生関連細胞の懸濁液を遠心分離して、骨再生関連細胞を沈殿させることができ、沈殿した骨再生関連細胞を突起部27に収納できる形状であればよい。
【0146】
支持体封入容器29の材質および形状は特に限定されるものではなく、支持体7を封入できるものであればよい。具体的には、例えば、上記容器21の材質として例示した材質からなる容器を用いることができる。
【0147】
骨再生組成物製造器具100において、支持体封入容器29は、容器26との連通前、すなわち、チューブ28が閉状態のとき、内部が陰圧状態、好ましくは真空であることが好ましい。
【0148】
このような構成によれば、支持体封入容器29を、容器26と連通させたときに、必要以上の細部回収液が支持体封入容器29内に流入することがなく、突起部27に沈降した骨再生関連細胞(換言すれば、濃縮された骨再生関連細胞)が優先的に支持体封入容器29内流入する。それゆえ、骨再生関連細胞の細胞濃度が高い骨再生組成物を製造することができる。
【0149】
また、支持体封入容器29は、加圧可能な容器であることが好ましい。加圧可能な容器とは、外圧を加えて容器の空間を縮小可能な容器が意図される。さらに、支持体封入容器29は、容器26と切り離せることが好ましい。
【0150】
上記構成によれば、支持体封入容器29内で骨再生組成物を調製した後、支持体封入容器29をチューブ28と共に、または支持体封入容器29のみを、容器26から切り離して、支持体封入容器29に外圧を加えることにより、チューブ28または支持体封入容器29の開口部を介して、骨再生組成物を押し出し回収することができる。
【0151】
また、支持体封入容器29に外圧を加えることにより、チューブ28を介して骨再生組成物をそのまま疾患部に移植することもできる。
【0152】
より具体的には、例えば、シリンジを支持体封入容器29として用いれば、ピストンを押し込むことにより、支持体封入容器29に外圧を加え、骨再生組成物を、支持体封入容器29から回収したり、疾患部に直接移植したりすることができる。
【0153】
また、軟質容器を支持体封入容器29として用いれば、支持体封入容器29を指等で押すことにより、支持体封入容器29に外圧を加え、骨再生組成物を、支持体封入容器29から回収したり、疾患部に直接移植したりすることができる。
【0154】
さらに、硬質容器を支持体封入容器29として用いれば、ポンプ等の機械を用いて支持体封入容器29に外圧を加え、骨再生組成物を、支持体封入容器29から回収したり、疾患部に直接移植したりすることができる。
【0155】
支持体封入容器29から骨再生組成物を回収する方法は、加圧による方法に限定されるものではない。例えば、シリンジ等を用いて支持体封入容器29から骨再生組成物を回収してもよい。
【0156】
〔混合容器6の第3実施形態〕
混合容器6は、さらに別の実施形態として、図3(a)に示すように、突起部48(突起部)を有する容器47(容器部)と、容器26の突起部48に接続可能で、支持体7が封入された支持体封入体50(支持体封入部)とからなる。
【0157】
この実施形態では、骨再生関連細胞を含む細胞回収液(換言すれば、骨再生関連細胞の細胞懸濁液)が容器47に回収されるまで、容器47と支持体封入体50とは非連通状態にある。具体的には、図3(a)では、容器47と支持体封入体50とは分離された状態にある。ただし、本発明は、これに限定されるものではなく、容器47と支持体封入体50とは完全には分離されずに接続されており、支持体封入体50を、容器47の方向に押し込むことにより、針51が容器47の突起部48に刺さり、容器47と支持体封入体50とが連通される構成とすることもできる。
【0158】
また、骨再生関連細胞の細胞懸濁液を回収するまでは、容器47の突起部48は、蓋されている。蓋をする方法は特に限定されず、骨再生関連細胞の細胞懸濁液が容器47から漏れ出さないものであればよい。例えば、ゴム栓によって、容器47の突起部48を蓋することができる。
【0159】
また、容器47は、骨再生組成物製造器具100から取り外し可能であって、回収された骨再生関連細胞の細胞懸濁液を遠心分離により、突起部48に回収可能であることが好ましい。この場合、突起部48に装着される蓋は、遠心分離操作によっても、骨再生関連細胞の細胞懸濁液が漏れ出さないものであることが好ましい。
【0160】
容器47の材質や形状は、特に限定されるものではないが、上説した容器26と同様の材質、形状の容器を用いることができる。
【0161】
支持体封入体50は、図3(b)に示すように、支持体7が封入された容器53に針51(連結部)が取り付けられている。針51は、内部が空洞であり、骨再生関連細胞の細胞懸濁液を通過させることができる。
【0162】
上記構成の支持体封入体50は、針51を、容器47の突起部48の蓋に差込み、貫通させることにより、容器47の突起部48と、支持体封入体50とを連通し、突起部48から支持体封入体50へ骨再生関連細胞の細胞懸濁液を移動させることができる。
【0163】
容器47から針51を通って支持体封入体50に流入した骨再生関連細胞は、支持体封入体50の容器53内で、支持体7と混合され、骨再生組成物が製造される。
【0164】
さらに、図3(b)に示すように、支持体封入体50の針51は、ゴム52で被われている。そして、針51を容器47の突起部48の蓋に差し込む際、ゴム52は針51によって貫通される。このような構成によれば、閉鎖系を実質的に保った状態で、容器47の突起部48と、支持体封入体50とを連通させることができる。
【0165】
また、この実施形態では、容器47の内部は陰圧であることが好ましく、真空であることがより好ましい。支持体封入体50は、針51がゴム52で覆われているため、容器47の内部を陰圧、好ましくは真空に保つことができる。
【0166】
また、容器47の内部が陰圧、好ましくは真空であれば、支持体封入体50と容器47の突起部48とを連通させたとき、必要以上の細胞回収液が流入することがなく、沈降して濃縮された骨再生関連細胞のみを、支持体封入体50の容器53に優先的に流入させることができる。
【0167】
支持体封入体50から製造された骨再生組成物を回収する方法は、特に限定されるものではない。例えば、シリンジ等を用いて、支持体封入体50から骨再生組成物を回収することができる。また、支持体封入体50を容器47から切り離して、ゴム52を取り外した後、容器53に外圧を加えることにより、針51を通して骨再生組成物を押し出し回収することもできる。このように容器53に外圧を加えて骨再生組成物を回収する場合、針51を介して骨再生組成物をそのまま疾患部に移植してもよい。
【0168】
<II.骨再生組成物の製造方法>
本発明にかかる骨再生組成物の製造方法は、骨再生に関わる骨再生関連細胞と、該骨再生関連細胞を支持する支持体とを含む骨再生組成物を製造する方法である。
【0169】
本発明にかかる骨再生組成物の製造方法は、上説した本発明にかかる骨再生組成物製造器具を用いて、好適に実施することができる。
【0170】
そのため、以下の説明では、上説した骨再生組成物製造器具を用いて骨再生組成物を製造する実施形態について説明するが、本発明はこれに限定されない。すなわち、本発明には、同様の原理を用いて、骨再生組成物を製造する方法も含まれる。
【0171】
本実施形態にかかる骨再生組成物の製造方法は、具体的には、骨再生関連細胞を細胞分離器1で捕捉する工程(以下、「細胞捕捉工程」ともいう)と、細胞分離器1に捕捉された骨再生関連細胞を、細胞分離器1に細胞回収液を注入することによって、細胞分離器1から流出させ、細胞分離器1から流出した骨再生関連細胞を含む細胞回収液を混合容器6に回収する工程(以下、「細胞回収工程」)と、混合容器6において、骨再生関連細胞を濃縮した後、骨再生関連細胞と支持体7とを混合する工程(以下、「混合工程」ともいう)とを含む。
【0172】
さらに、上記細胞捕捉工程と、細胞回収工程との間に、細胞分離器1に対して洗浄液を注入し、細胞分離器1を洗浄する工程(以下、「洗浄工程」ともいう)を含んでいてもよい。
【0173】
以下、上記細胞捕捉工程、洗浄工程、細胞回収工程、および混合工程について、詳細に説明する。
【0174】
〔細胞捕捉工程〕
上記細胞捕捉工程では、骨再生関連細胞を細胞分離器1に捕捉する。具体的には、図1に示す試料注入用シリンジ2を用いて、骨再生関連細胞含有試料を細胞分離器1に注入する。
【0175】
上記骨再生関連細胞含有試料は、特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、体液、および生体組織の処理液等を挙げることができる。
【0176】
本明細書において、「体液」とは、骨再生関連細胞を含む、血液(末梢血、G−CSF動員末梢血を含む)、骨髄液、臍帯血等が意図される。また、体液には、血液(末梢血、G−CSF動員末梢血を含む)、骨髄液、臍帯血等の希釈物;血液(末梢血、G−CSF動員末梢血を含む)、骨髄液、臍帯血等を、フィコール、パーコール、ヒドロキシエチルスターチ(HES)、バクティナーチューブ、リンフォプレップ等を用いた比重密度遠心分離法により前処理して調製された細胞懸濁液等も含まれる。
【0177】
また、「生体組織の処理液」とは、生体組織を酵素により分解させた処理液(酵素分解処理液)、生体組織を破砕により分解させた処理液(破砕処理液)、生体組織を擦過により分解させた処理液(擦過処理液)、生体組織を浸透抽出により分解させた処理液(浸透抽出処理液)、生体組織を美容整形等で行われる脂肪吸引法により分解させた処理液(脂肪吸引処理液)等が意図される。なお、これら生体組織の処理液については、上記特許文献5の内容も本明細書に参考として援用される。
【0178】
また、「生体組織」とは、骨再生関連細胞を含む体液以外の生体組織が意図される。
【0179】
上記細胞捕捉工程において、試料注入用シリンジ2を用いて、細胞分離器1に骨再生関連細胞含有試料を注入(換言すれば、通液)する方法は、特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、骨再生関連細胞含有試料を入れた試料注入用シリンジ2のプランジャーを、手や機械を用いて押して、細胞分離器1に骨再生関連細胞含有試料を注入することができる。
【0180】
図1に示す骨再生組成物製造器具を用いずに、上記細胞捕捉工程を実施する場合、骨再生関連細胞含有試料をプールしたバックなどから自然落下により、細胞分離器1に骨再生関連細胞含有試料を注入してもよい。
【0181】
また、骨再生関連細胞含有試料を入れたシリンジを直接、細胞分離器1に接続し、手や機械で該シリンジのプランジャーを押して、骨再生関連細胞含有試料を細胞分離器1に注入することもできる。
【0182】
さらに、骨再生関連細胞含有試料の細胞分離器1への注入には、ポンプなどを使用してもよい。
【0183】
上記細胞捕捉工程において、細胞分離器1に骨再生関連細胞含有試料を注入する注入速度(換言すれば、通液速度)は、特に限定されるものではなく、細胞分離器1の形態に応じて適した注入速度とすればよい。
【0184】
具体的には、例えば、細胞分離器1として、フィルター構造を有する細胞分離材が充填された細胞分離器を用いる場合、細胞分離材の厚さに対する骨再生関連細胞含有試料の通過速度(線速)として、0.1mm/min〜1000mm/minとすることが好ましく、0.5mm/min〜500mm/minとすることがより好ましく、1mm/min〜250mm/minとすることがさらに好ましい。
【0185】
線速が0.1mm/minより低いと処理時間が長期化する傾向がある。一方、1000mm/minより高いと、骨再生関連細胞含有試料の流水圧により、コロニー形成が可能な骨再生関連細胞が細胞分離器1に捕捉されにくくなる傾向がある。
【0186】
しかし、上記線速範囲であれば、処理時間が長期化することなく、また、効率よく骨再生関連細胞を捕捉することができる。
【0187】
〔洗浄工程〕
上記洗浄工程では、細胞分離器1洗浄液を注入し、上記細胞捕捉工程後の細胞分離器1を洗浄する。具体的には、洗浄用シリンジ4を用いて、上記細胞捕捉工程において骨再生関連細胞含有試料を流した方向と同方向から、細胞分離器1に洗浄液を注入する。これにより、細胞分離器1中に溜まっている夾雑物を、細胞分離器1から洗い流すことができる。
【0188】
上記洗浄液は、特に限定されるものではなく、細胞に対して負の影響を与えない溶液であればよい。具体的に、例えば、生理的食塩液やリンゲル液など注射用剤として一般的に用いられる溶液、リン酸緩衝液等の緩衝液、αMEM培地やDMEM培地等の細胞培養用の培地等を挙げることができる。
【0189】
これら例示した溶液の中でも、細胞への負の影響が小さいこと、医療用途での使用実績が多いことから、生理食塩水を好ましく用いることができる。
【0190】
上記洗浄工程において、細胞分離器1に洗浄液を注入(換言すれば、通液)する注入速度は、特に限定されなく、細胞分離器1の形態に応じて適した注入速度とすればよい。
【0191】
具体的には、例えば、細胞分離器1として、フィルター構造を有する細胞分離材が充填された細胞分離器を用いる場合、細胞分離材の厚さに対する洗浄液の通過速度(線速)として、0.1mm/min〜1000mm/minとすることが好ましく、0.5mm/min〜500mm/minとすることがより好ましく、1mm/min〜250mm/minとすることがさらに好ましい。
【0192】
線速が0.1mm/minより低いと処理時間が長期化する傾向がある。一方、1000mm/minより高いと、洗浄液の流水圧により、コロニー形成が可能な骨再生関連細胞が細胞分離器1から流出する可能性がある。
【0193】
しかし、上記線速範囲であれば、処理時間が長期化することなく、また、コロニー形成が可能な骨再生関連細胞を細胞分離器1から流出させることなく、細胞分離器1中に溜まっている夾雑物を、細胞分離器1から流出させることができる。
【0194】
上記洗浄工程において、細胞分離器1に注入する洗浄液の量は、特に限定されるものではなく、細胞分離器1の容積に応じて適宜変更すればよい。具体的には、細胞分離器1の容積の1倍量〜100倍量の洗浄液を注入することが好ましく、10倍量〜100倍量の洗浄液を注入することがより好ましい。
【0195】
上記の量の洗浄液を注入すれば、最終的に得られる骨再生組成物を治療用として人体に投与する場合であっても、人体に悪影響を与えない程度にまで、夾雑物を除去することができる。
【0196】
〔細胞回収工程〕
上記細胞回収工程では、骨再生関連細胞含有試料を注入した方向とは逆方向から、回収用シリンジ5を用いて、細胞分離器1に細胞回収液を注入する。これにより、細胞分離器1に捕捉された骨再生関連細胞を、細胞分離器1から流出させることができる。こうして細胞分離器1から流出した骨再生関連細胞を含む細胞回収液は、混合容器6に回収することができる。
【0197】
上記細胞回収液は、特に限定されるものではなく、細胞に対して負の影響を与えない溶液であればよい。具体的に、例えば、生理的食塩液やリンゲル液など注射用剤として一般的に用いられる溶液、リン酸緩衝液等の緩衝液、αMEM培地やDMEM培地等の細胞培養用の培地等を挙げることができる。
【0198】
これら例示した溶液の中でも、細胞への負の影響が小さいことから、細胞培養用培地や生理食塩水を好ましく用いることができる。
【0199】
また、上記細胞回収液には、細胞保護の観点から、タンパク質を添加しても良い。上記タンパク質は特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、血漿、血清、アルブミン等を挙げることができる。
【0200】
さらに、上記細胞回収液には、粘張度を上げるための物質を添加してもよい。上記物質は特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、アルブミン、フィブリノーゲン、グロブリン、デキストラン、ヒドロキシエチルスターチ、ヒドロキシエチルセルロース等を挙げることができる。
【0201】
このような物質を添加することにより、細胞分離器1に捕捉された骨再生関連細胞の回収率を向上させることができる。
【0202】
上記細胞回収工程において、細胞分離器1に細胞回収液を注入(換言すれば、通液)する注入速度は、特に限定されなく、細胞分離器1の形態に応じて適した注入速度とすればよいが、可能な範囲で、高速で注入することが好ましい。
【0203】
具体的には、例えば、細胞分離材の厚さに対する細胞回収液の通過速度(線速)として、50cm/min〜1000cm/minとすることが好ましく、100cm/min〜500cm/minとすることがより好ましい。
上記流速範囲によれば、骨再生関連細胞の回収率を向上させることができる。
【0204】
このような線速範囲で、細胞分離器1に対して細胞回収液を注入する場合、例えば、細胞回収液入れた回収用シリンジ5のプランジャーを、手や機械を用いて勢いよく押すことにより上記線速を実現することができる。
【0205】
上記細胞回収工程において、細胞分離器1に注入する細胞回収液の量は、特に限定されるものではなく、細胞分離器1の容積に応じて適宜変更すればよい。具体的には、細胞分離器1の容積の1倍量〜100倍量の細胞回収液を注入することが好ましく、10倍量〜100倍量の細胞回収液を注入することがより好ましい。
【0206】
上記の量の細胞回収液を注入すれば、細胞分離器1に捕捉された骨再生関連細胞を確実に、回収することができる。
【0207】
本発明にかかる骨再生組成物の製造方法では、上記細胞回収工程において、回収した骨再生関連細胞を増幅させる必要はなく、むしろ、回収した骨再生関連細胞を増幅させないことが好ましいが、該骨再生関連細胞を増幅させることを妨げるものではない。すなわち、本発明にかかる骨再生組成物の製造方法では、上記細胞回収工程において、上記骨再生関連細胞を増幅させてもよい。
【0208】
具体的には、例えば、上記細胞回収液として、Dulbecco MEM培地(日水)、α−MEM培地(GIBCO BRL社製)、MEM培地(日水)、IMEM培地(日水)、RPMI−1640培地(日水)等の培養培地を用いて、骨再生関連細胞を混合容器6に回収し、混合容器6内で骨再生関連細胞を接着または増殖させることにより、骨再生関連細胞を増幅させることができる。
【0209】
また、上記培養培地には、必要に応じて血清を5%〜20%の濃度で添加してもよい。
【0210】
骨再生関連細胞を培養により増幅させる場合、培養条件は、特に限定されるものではなく、骨再生関連細胞の種類に応じて適宜設定すればよい。例えば、温度37℃、COガス5%の雰囲気下で培養することができる。
【0211】
〔混合工程〕
上記混合工程では、上記細胞回収工程後、混合容器6において、骨再生関連細胞と支持体7とを混合する。
【0212】
本発明では、上記混合工程において骨再生関連細胞と支持体7とを混合する前もしくは後に、混合容器6内で骨再生関連細胞を濃縮することが好ましい。このような構成によれば、最終的に得られる骨再生組成物を移植に用いる場合、移植に用いる骨再生組成物の体積を、疾患部の大きさに合わせた体積に容易に調整することができる。
【0213】
混合容器6内で骨再生関連細胞を濃縮する方法は、特に限定されるものではないが、<I.骨再生組成物製造器具>で説明した方法で濃縮することができる。
【0214】
混合容器6内で、骨再生関連細胞と支持体7とを混合する方法は、特に限定されるものではなく、混合容器6の形態に応じて、実質的に骨再生関連細胞と支持体7とを混合できる方法を適宜選択して用いればよい。
【0215】
具体的には、例えば、(1)加圧や引圧を与えることにより、骨再生関連細胞と支持体7とを混合する方法、(2)液を加えて、骨再生関連細胞と支持体7とを混合する方法、(3)骨再生関連細胞と支持体7とのチャージを利用して電気的に骨再生関連細胞と支持体7とを混合する方法、(4)振動を与えることにより、骨再生関連細胞と支持体7とを混合する方法等が挙げることができる。
【0216】
より具体的に説明すると、上記(1)の方法において加圧する方法は、特に限定されるものではないが、例えば、シリンジにより空気を介して押圧したり、混合容器6自体を手で押圧したりすることにより、加圧することができる。また、引圧する方法についても特に限定されるものではないが、例えば、シリンジやポンプを用いて引圧することができる。
【0217】
また、上記(2)の方法では、例えば、顆粒状の支持体7が入った混合容器6に、細胞分離器1から流出された細胞懸濁液(すなわち、細胞回収液に骨再生関連細胞が懸濁された細胞懸濁液)を、混合容器6の上部から滴下することによって、該細胞懸濁溶液中で支持体7と骨再生関連細胞とを混合させることができる。
【0218】
上記(3)の方法では、例えば、支持体7を正に帯電させることにより、骨再生関連細胞は負に帯電しているため、互いに静電的に引き付けあって、支持体7と骨再生関連細胞とを混合することができる。
【0219】
上記(4)の方法で、振動を与える方法は特に限定されるものではないが、例えば、手動で、または機械的に容器に振動を与えることができる。
【0220】
本発明にかかる骨再生組成物の製造方法は、上説した構成を備えているため、骨再生関連細胞と、支持体とを少なくとも含む骨再生組成物を製造することができる。
【0221】
また、本発明では、上記混合工程において、混合容器6内で骨再生関連細胞を濃縮することができるため、骨再生関連細胞の細胞濃度が高い骨再生組成物を製造することができる。
【0222】
具体的には、支持体100mgに対して、1個〜5×10個の骨再生関連細胞を含むことが好ましく、50個〜5×10個の骨再生関連細胞を含むことがより好ましく、1×10個〜5×10個の骨再生関連細胞を含むことがさらに好ましい。
【0223】
上記骨再生関連細胞と支持体との混合割合が、上記範囲内であれば、骨再生関連細胞と支持体とを均一に混合することができる。
【0224】
また、上記骨再生組成物は、支持体100mgに対して、1×10個〜5×10個の有核細胞を含むことが好ましく、1×10個〜5×10個の有核細胞を含むことがより好ましい。上記有核細胞とは、核を有する細胞が意図され、具体的には、例えば、リンパ球、単球等に代表される単核球、および顆粒球に代表される多核球を挙げることができる。
【0225】
このような骨再生組成物によれば、特別の操作をすることなく、そのまま、骨再生治療のための移植に用いることができる。
【0226】
また、本発明にかかる骨再生組成物の製造方法は、本発明にかかる骨再生組成物製造器具を用いて好適に実施できるものである。つまり、本発明にかかる骨再生組成物製造器具によれば、1重量部の支持体に対して、少なくとも、0.1重量部〜10重量部の骨再生関連細胞の細胞懸濁液を含む骨再生組成物を製造することができる。
【0227】
したがって、本発明には、本発明にかかる骨再生組成物の製造方法、または本発明にかかる骨再生組成物製造器具で製造された骨再生組成物も含まれる。
【0228】
さらに、本発明にかかる骨再生組成物は、骨再生治療のための移植に用いることができるため、本発明にかかる骨再生組成物を用いて骨を再生させる骨再生方法も含まれる。
【0229】
なお、本発明にかかる骨再生方法は、本発明にかかる骨再生組成物を用いて骨を再生させるものであればよい。その他の具体的な構成は特に限定されるものではなく、従来公知の方法を用いればよい。
【0230】
なお本発明は、以上説示した各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0231】
本発明について、実施例、比較例、および図4〜図10に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。当業者は本発明の範囲を逸脱することなく、種々の変更、修正、および改変を行うことができる。
【0232】
〔実施例1:骨再生組成物製造器具による赤血球および不要白血球の除去〕
図1に示す骨再生組成物製造器具を作製し、該骨再生組成物製造器具を用いて骨髄液を処理したときの赤血球の除去率、および白血球の回収率を測定した。
【0233】
なお、細胞分離器1としては、フィルター構造をもつ不織布を容器に充填したカラム(φ20mm×長さ80mm、容積1cm)を用いた。また、混合容器6には、支持体が配置されていない容器を用いた。
【0234】
具体的には、まず、ビーグル犬の腸骨から骨髄液10mlを採取した。そして、この骨髄液10mlに含まれる赤血球数および白血球数を測定した。その結果、図4に示すように、骨髄液10ml中の白血球の総数は、429×10cellsであった。また、骨髄液10ml中の赤血球の総数は、72×10cellsであった。なお、図4中、処理前の欄に記載している。
【0235】
次に、上記骨再生組成物製造器具の洗浄用シリンジ4を用いて、30mlのPBSを細胞分離器1に注入し、プライミング処理を行った。続いて、上記骨髄液10mlを、3ml/minの流速で試料注入用シリンジ2を用いて細胞分離器1に注入した。
【0236】
骨髄液の注入後、洗浄用シリンジ4を用いて、10mlのPBS(洗浄液)を、3ml/minの流速で、細胞分離器1に注入した。これにより、不要細胞の洗浄を行った。
【0237】
洗浄後、回収用シリンジ5を用いて、30mlのDMEM培地(細胞回収液)を細胞分離器1に注入した。こうして混合容器6に、間葉系幹細胞を含むDMEM培地30mlを回収した。
【0238】
得られた間葉系幹細胞を含む細胞回収液30mlについて、赤血球数および白血球数を測定した。その結果、図4に示すように、白血球の総数は、56×10cellsであった。また、赤血球の総数は、1.32×10cellsであった。なお、図4中、処理後の欄に記載している。
【0239】
以上の結果に基づき、上記骨再生組成物製造器具による赤血球の除去率および白血球の回収率を算出した。その結果、図4に示すように、白血球の回収率は13.1%、赤血球の除去率は98.2%であった。
【0240】
なお、赤血球の除去率および白血球の回収率は、図4にも示すように、以下の計算式を用いて算出した。
白血球回収率(%)=処理後白血球総数/処理前白血球総数×100
赤血球除去率(%)=100−処理後赤血球総数/処理前赤血球総数×100。
【0241】
〔実施例2:骨再生組成物製造器具の性能評価〕
骨髄液に、3mlの市販ヒト骨髄液(株式会社ベリタス)を用いた以外は、実施例1と同様の方法でデバイス処理を行った。このときの処理前骨髄液3mlに含まれる赤血球数および白血球数を測定した。
【0242】
その結果、骨髄液3ml中の白血球の総数は、45×10cellsであった。また、骨髄液3ml中の赤血球の総数は、10×10cellsであった。
【0243】
次に、得られた間葉系幹細胞を含む細胞回収液30mlについて、赤血球数および白血球数を測定した。その結果、白血球の総数は、6×10cellsであった。また、赤血球の総数は、0.05×10cellsであった。つまり、白血球の回収率は、13.3%、赤血球の除去率は、99.5%であった。
【0244】
コントロールとして、Ficollを用いた密度勾配遠心(Ficoll法)により調製した間葉系幹細胞を含むDMEM培地(以下、「コントロール細胞懸濁液」と称する)を用いた。
【0245】
なお、コントロール細胞懸濁液の調製は、以下の手順により行った。まず、上記骨髄液3mlに、1mlのPBSを添加した。次に、遠心管に入られた3mlのFicoll(Ficoll−paquePLUS)上に、上記PBSで希釈した骨髄液4mlを、界面を乱さないように注意深く積層した。
【0246】
その後、18℃〜20℃で、1400rpm、30分間遠心分離を行った。その結果、上記骨髄液は、下層から順に、顆粒球および赤血球の層、Ficoll層、単核球および血小板の層(以下、「単核球層」ともいう)、および血漿の層が積層されるように分離した。
【0247】
上記層のうち、単核球層を採取した。採取した単核球に10mlのPBSを加え、再懸濁した。そして、この懸濁液を、18℃〜20℃で、1500rpm、10分間遠心分離を行った。
【0248】
遠心分離後、上清を取り除き、再び、沈殿を10mlのPBSに再懸濁し、上記条件で遠心分離を行うとの操作を繰り返し行った。こうして得られた細胞をDMEM培地30mlに懸濁し、コントロール細胞懸濁液とした。
【0249】
なお、デバイスを用いた方法では、骨再生組成物は、5分間で調製することができたが、上記コントロール細胞懸濁液の調製には、90分もの長時間を要した。つまり、本発明にかかる方法によれば、従来法と比較して、より短時間で間葉系幹細胞を分離することができた。
【0250】
上記間葉系幹細胞懸濁液および上記コントロール細胞懸濁液における間葉系幹細胞数は、以下の手順により行った。具体的には、細胞回収液の半量である15mlをT−75フラスコに播種し、37℃条件下で8日間培養を行った。培養後、培地を除き、クリスタルバイオレット染色を行い、コロニー数をカウントした。ここで、出現したコロニー数を間葉系幹細胞数とした。
【0251】
その結果、図5(a)に示すように、上記間葉系幹細胞懸濁液(図5(a)中、デバイスと記載)15ml中には、169個の間葉系幹細胞が含まれていた。一方、コントロール細胞懸濁液(図5(a)中、Ficollと記載)15ml中には、88個の間葉系幹細胞が含まれていた。
【0252】
上記間葉系幹細胞懸濁液およびコントロール細胞懸濁液における各細胞のマーカーの検出は、以下の手順により行った。具体的には、まず、上記と同様に調製した培養細胞を酵素処理によって回収した(以下、回収培養細胞という)。次に、回収培養細胞を1×10個ずつ8本に分注し、そこへ下記抗体を10μL添加した。これをサンプルとし、フローサイトメーター(FACSCalibur、ベクトンディッキンソン)にて陽性率を測定した。
【0253】
その結果、図5(b)に示すように、回収培養細胞(図5(b)中、デバイスと記載)では、CD105、CD73、CD90、およびCD166の全ての間葉系幹細胞マーカーを90%以上の陽性率で検出できた。一方、コントロール回収培養細胞(図5(b)中、Ficollと記載)では、CD166の陽性率が80%以下と低かった。
【0254】
なお、血管内皮細胞マーカーであるCD31、造血幹細胞マーカーであるCD133およびCD34、並びに白血球マーカーであるCD45の陽性率は、回収培養細胞およびコントロール回収培養細胞のいずれにおいても4%以下と低かった。
【0255】
このように、本発明にかかる方法によれば、従来法と比較して、より効率よく間葉系幹細胞を分離できることが明らかとなった。
【0256】
さらに、上記回収培養細胞を用いて、管腔形成能、骨分化能の測定、および軟骨分化能の評価を行った。
【0257】
管腔形成能は、上記回収培養細胞をMedium199培地に懸濁し、以下因子を所定濃度となるように細胞懸濁液に添加した(3% FBS、50ng/ml VEGF、10ng/ml b−FGF)。Matrigel(BD Bioscience Biotec)を用いて前記細胞懸濁液を培養することにより評価した。その結果を図5(c)に示す。
【0258】
また、骨分化能は、まず上記回収培養細胞をαMEM培地に懸濁し、12WELL組織培養用プレートに播種し、24時間培養を行った。次に、以下因子を所定濃度となるようにαMEM培地に添加し骨分化誘導培地を調製した(15% FBS、10mM β−GP、0.1mM デキサメサゾン、50μg/ml アスコルビン酸)。24時間培養後、培地を骨分化誘導培地細胞に交換してさらに培養を続け、アリザリン染色することにより評価した。その結果を図5(d)に示す。
【0259】
さらに、軟骨分化能は、まず上記回収培養細胞をDMEM培地に懸濁し、遠心分離を行うことによってペレットを調製した。次に、以下因子を所定濃度となるようにDMEM培地に添加し、軟骨分化誘導培地を調製した(0.1mM デキサメサゾン、50μg/ml アスコルビン酸、6.25ng/ml インシュリン、6.25ng/ml トランスフェリン、6.25ng/ml 亜セレン酸、1.25mg/ml ウシ血清アルブミン、5.35mg/ml リノレン酸、10ng/ml TGF−β3、40μg/ml プロリン)。ペレットの上清を除いた後、軟骨分化誘導培地を添加して培養し、細胞をアルシアンブルー染色することにより評価した。その結果を図5(e)に示す。
【0260】
その結果、図5(c)〜(e)に示すように、上記間葉系幹細胞懸濁液に含まれる間葉系幹細胞は、管腔形成能、骨分化能、および軟骨分化能ともに有していた。
【0261】
以上の結果、本発明にかかる骨再生組成物製造器具によれば、管腔形成能、骨分化能、および軟骨分化能をともに有する間葉系幹細胞を迅速に分離できることが明らかとなった。
【0262】
〔実施例3:骨再生組成物製造器具により分離された間葉系幹細胞の特性評価〕
実施例1と同一の方法を用いて、2匹のビーグル犬からそれぞれ間葉系幹細胞を分離した。それぞれのビーグル犬から分離した間葉系幹細胞を含むDMEM培地を、それぞれ3枚ずつのシャーレ(φ60mm)上に、1枚あたりの細胞数が2×10個となるように播いて、37℃で2週間培養した。その後、形成されたコロニー数を計測し、3枚のシャーレの平均値を算出した。
【0263】
なお、コントロールには、実施例2と同一の方法を用いて、2匹のビーグル犬からそれぞれ採取した骨髄液から調製したコントロール細胞懸濁液を用いた。
【0264】
その結果、図6(a)および(b)に示すように、本発明の骨再生組成物製造器具により分離された間葉系幹細胞(図6中、「デバイス」と記載)は、コントロール細胞懸濁液中の間葉系幹細胞(図6中、「Ficoll」と記載)よりも、コロニー形成能が高かった。
【0265】
次に、骨再生組成物製造器具を用いて分離した間葉系幹細胞の形態を顕微鏡で観察した。具体的には、1匹のビーグル犬より骨髄液を採取し、前記したコロニー形成能と同様の方法で培養細胞を調製した。該培養細胞を経時的(播種8日後、10日後、16日後)に位相差顕微鏡で観察し、写真撮影を行った。観察時の顕微鏡の倍率は100倍であった。
【0266】
その結果、図7に示すように、本発明の骨再生組成物製造器具により分離された間葉系幹細胞(図7中、「デバイス」と記載)は、コントロール細胞懸濁液中の間葉系幹細胞(図7中、「Ficoll」と記載)と同様に、間葉系幹細胞として正常の形態を有していた。
【0267】
さらに、骨再生組成物製造器具を用いて分離した間葉系幹細胞の増殖能を調べた。具体的には、1匹のビーグル犬より骨髄液を採取し、前記したコロニー形成能と同様に培養細胞を調製した。該培養細胞を酵素処理によって一度回収し、4枚のシャーレ(φ60mm)に3×10個となるように播種した。播種後、経時的(24、72、120、168時間後)にシャーレ上の細胞を酵素処理によって回収し、血球計算盤にて細胞数を計測することで、経時的な細胞数の推移を観察した。
【0268】
その結果、本発明の骨再生組成物製造器具により分離された間葉系幹細胞(図7中、「デバイス」と記載)は、コントロール細胞懸濁液中の間葉系幹細胞(図7中、「Ficoll」と記載)とほぼ同様の増殖曲線を描いた。
【0269】
具体的には、培養開始後約72時間で対数増殖期に入り、培養開始後約120時間で定常期に達した。
【0270】
〔実施例4:イヌ骨壊死モデルの骨修復〕
(1)骨壊死モデルの作製
体重13kg、24月齢のビーグル犬の両前肢を背側より展開し、月状舟状骨を同定した。同骨骨皮質を開窓し、内部の海綿骨を可及的に除去した。作製した欠損部に液体窒素を満たし、その後10分間室温で解凍した。この処置を3回繰返し、骨壊死モデルを作製した。
【0271】
(2)骨髄液の採取
骨壊死を作製したイヌの腸骨より骨髄液を10ml採取した。
【0272】
(3)移植細胞画分の調製
直径20mmの筒状ポリカーボネートの中にレーヨンとポリオレフィンからなる不織布(直径18mm、目開き:5μm〜48μm)を24枚積層し、この積層不織布をポリカーボネートのストッパーにて挟み込み、細胞分離材とした。
【0273】
この細胞分離材に、線速1.6mm/minの速度で採取した骨髄液を10ml通液した。同方向から生理食塩水を線速1.6mm/minの速度で10ml通液し、細胞分離材を洗浄した。
【0274】
次に、牛胎児血清10%を含む細胞培養液(DMEM培地) 30mlを、骨髄液を流した方向と逆方向から勢いよく流すことにより、目的とする細胞画分を回収した。
【0275】
回収した細胞画分を遠心分離した後、上清を除きPBS100μLを添加した。この細胞懸濁液をβ−TCP(β−リン酸三カルシウム)0.16gの入った封入体に流入させて混合し、移植細胞画分(骨再生組成物)とした。
【0276】
(4)移植細胞画分(骨再生組成物)の移植
上記(1)で作製した骨壊死部の片足側に調製した移植細胞画分(骨再生組成物)を注入し、この足を(実施例1)とした。反対側足の骨壊死部にβ−TCP(β−リン酸三カルシウム)0.16gの入った封入体のみを注入し、この足を(比較例1)とした。各足共に、軟部組織及び皮膚を縫合し手術を終了した。そして、移植28日後にマイクロCT(SMX-100CT-SV3type, Shimazu)にて骨形成量を測定した。
【0277】
その結果、図9(図中、比較例1はβTCP onlyと記載、実施例1はβTCP+MSCと記載)に示すように、骨量−骨体積比(全容積に占める骨の割合)が、実施例1では0.72であるのに対して、比較例1では、では0.63であった。
【0278】
このことから、上記移植細胞画分(骨再生組成物)によれば、骨形成が促進することが明らかとなった。
【0279】
また、図9および図10(b)(図中、比較例1はβTCP onlyと記載、実施例1はβTCP+MSCと記載)に示すように、比較例1では明らかな月状舟状骨の圧潰を認めた。
【0280】
さらに、病理組織学的には実施例1では比較例1に比べ、骨壊死部の破骨細胞、及び骨芽細胞の浸潤が多く、良好な骨組織の再生が確認された。
【0281】
以上の結果、上記移植細胞画分(骨再生組成物)は、骨再生治療に利用可能な骨再生組成物であることが明らかとなった。
【0282】
なお本発明は、以上説示した各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態や実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態や実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
【産業上の利用可能性】
【0283】
以上のように、本発明では、骨再生に関わる骨再生関連細胞を含む試料からの骨再生関連細胞の分離し、該骨再生関連細胞を培養することなく、そのまま、閉鎖系内で、支持体と混合する。そのため、骨再生治療に利用可能な骨再生組成物を簡便かつ迅速に製造することができる。したがって、本発明は、骨再生に関わる医療用途および医薬品用途に広く用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0284】
【図1】図1は、本発明の一実施形態にかかる骨再生組成物製造器具を示す断片図である。
【図2】図2は、本発明の別の実施形態にかかる骨再生組成物製造器具を示す断片図である。
【図3】図3は、本発明のさらに別の実施形態にかかる骨再生組成物製造器具を示す断片図である。
【図4】図4は、本発明の実施例において、骨再生組成物製造器具による赤血球の除去率および白血球の回収率を示す図である。
【図5】図5は、本発明の実施例において、骨再生組成物製造器具の性能評価結果を示す図であり、(a)は分離性能を示す図であり、(b)は表面抗原による間葉系幹細胞の同定結果を示す図であり、(c)〜(e)はそれぞれ分離された間葉系幹細胞の分化能を示す図である。
【図6】図6は、本発明の実施例において、骨再生組成物製造器具を用いて分離した間葉系幹細胞のコロニー形成能を示す図であり、(a)および(b)はそれぞれ異なるビーグル犬から分離した間葉系幹細胞のコロニー形成能を示す図である。
【図7】図7は、本発明の実施例において、骨再生組成物製造器具を用いて分離した間葉系幹細胞の培養中の形態を顕微鏡で観察した結果を示す図である。
【図8】図8は、本発明の実施例において、骨再生組成物製造器具を用いて分離した間葉系幹細胞の増殖曲線を示す図である。
【図9】図9は、本発明の実施例において、イヌ月状骨壊死疾患モデルを用いて、骨再生組成物のin vivo治療効果を調べた結果を示す図である。
【図10】図10は、本発明の実施例において、イヌ月状骨壊死疾患モデルを用いて、骨再生組成物のin vivo治療効果を調べた結果を示す図であり、(a)は骨再生組成物の治療効果を示す図であり、(b)はコントロール(β−TCPのみ)実験の結果を示す図である。
【符号の説明】
【0285】
1 細胞分離器(細胞捕捉部)
2 試料注入用シリンジ(試料注入部)
3 廃液バッグ(廃液回収部)
4 洗浄用シリンジ(洗浄液注入部)
5 回収用シリンジ(細胞回収液注入部)
6 混合容器(細胞回収部)
7 支持体
8 フィルター(濾過部)
9a 混合部(第1空間)
9b 貯留部(第2空間)
26 容器(容器部)
27 突起部
28 チューブ(連結部)
29 支持体封入溶液(支持体封入部)
47 容器(容器部)
48 突起部
50 支持体封入体(支持体封入部)
51 針(連結部)
100 骨再生組成物製造器具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨再生に関わる骨再生関連細胞と、該骨再生関連細胞を支持する支持体とを含む骨再生組成物を製造するための骨再生組成物製造器具であって、
上記骨再生関連細胞を捕捉するための細胞捕捉部と、
上記細胞捕捉部に細胞回収液を注入し、該細胞捕捉部に捕捉された上記骨再生関連細胞を該細胞捕捉部から流出させるための細胞回収液注入部と、
上記細胞捕捉部から流出した上記骨再生関連細胞を含む細胞回収液を回収するための細胞回収部と、を備え、
上記細胞回収部には、支持体が配置されており、
上記細胞回収部において、該細胞回収部に回収された骨再生関連細胞と、上記支持体とが混合されることを特徴とする骨再生組成物製造器具。
【請求項2】
上記細胞回収部は上記骨再生組成物製造器具から取り外し可能であって、かつ、
上記細胞回収部は、
突起部を有する容器部と、
上記支持体が封入された支持体封入部と、
上記突起部と支持体収納部とを連結する連結部と、を備え、
上記突起部は、
上記骨再生関連細胞を含む細胞回収液を回収した細胞回収部を取り外して、上記骨再生関連細胞を含む細胞回収液の遠心分離を行ったときに、上記骨再生関連細胞の沈殿を収納可能な構造を有し、
上記連結部は、
開閉により、上記容器部から上記支持体収納部への上記骨再生関連細胞の沈殿の移動を制御するためのものであることを特徴とする請求項1の記載の骨再生組成物製造器具。
【請求項3】
上記支持体封入部は、上記細胞回収部から取り外し可能であることを特徴とする請求項2に記載の骨再生組成物製造器具。
【請求項4】
上記支持体封入部は、加圧可能な材質からなることを特徴とする請求項2または3に記載の骨再生組成物製造器具。
【請求項5】
上記細胞回収部は、濾過部によって隔てられた第1空間と第2空間とを含み、
上記第1空間には、上記支持体が配置されており、
上記濾過部は、上記第1空間に回収された上記骨再生関連細胞を含む細胞回収液を濾過し、上記骨再生関連細胞を除く成分を上記第2空間に流入させるためのものであることを特徴とする請求項1に記載の骨再生組成物製造器具。
【請求項6】
上記骨再生関連細胞を含む試料を上記細胞捕捉部に注入するための試料注入部をさらに備え、
上記試料注入部は、
上記細胞回収液注入部が上記細胞捕捉部に対して上記細胞回収液を注入する方向とは逆方向に、上記細胞捕捉部に対して上記試料を注入することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の骨再生組成物製造器具。
【請求項7】
上記試料注入部が上記細胞捕捉部に上記試料を注入したとき、上記試料のうち、上記細胞捕捉部を通過した成分を回収するための廃液回収部をさらに備えることを特徴とする請求項6に記載の骨再生組成物製造器具。
【請求項8】
上記細胞捕捉部を洗浄するための洗浄液を上記細胞捕捉部に注入するための洗浄液注入部をさらに備え、
上記洗浄液注入部は、
上記細胞回収液注入部が上記細胞捕捉部に対して上記細胞回収液を注入する方向とは逆方向に、上記細胞捕捉部に対して上記洗浄液を注入することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の骨再生組成物製造器具。
【請求項9】
上記細胞捕捉部は、フィルター構造を有する細胞分離材を含むことを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の骨再生組成物製造器具。
【請求項10】
上記細胞分離材は、白血球および赤血球を含む試料を通液したとき、白血球の30%〜90%を通過させ、かつ、赤血球の90%以上を通過させることを特徴とする請求項9に記載の骨再生組成物製造器具。
【請求項11】
上記骨再生関連細胞は、間葉系幹細胞であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の骨再生組成物製造器具。
【請求項12】
上記支持体は、リン酸カルシウム、天然高分子材料、合成高分子材料、金属材料、またはこれらの2種以上を組み合わせた複合材を含むことを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の骨再生組成物製造器具。
【請求項13】
骨再生に関わる骨再生関連細胞と、該骨再生関連細胞を支持する支持体とを含む骨再生組成物の製造方法であって、
閉鎖系内で、
骨再生関連細胞を細胞捕捉部に捕捉し、
該細胞捕捉部に細胞回収液を注入することによって、該細胞捕捉部に捕捉された上記骨再生関連細胞を該細胞捕捉部から流出させ、
該細胞捕捉部から流出した上記骨再生関連細胞を含む細胞回収液を細胞回収部に回収し、
該細胞回収部において、上記骨再生関連細胞を濃縮した後、該骨再生関連細胞と支持体とを混合することを特徴とする骨再生組成物の製造方法。
【請求項14】
上記細胞捕捉部から、上記細胞回収液を用いて上記骨再生関連細胞を流出させる前に、上記細胞捕捉部に対して、上記細胞回収液を注入する方向とは逆方向に、洗浄液を注入して、上記細胞捕捉部を洗浄することを特徴とする請求項13に記載の骨再生組成物の製造方法。
【請求項15】
上記細胞回収部に回収された骨再生関連細胞を培養せずに、上記支持体と混合することを特徴とする請求項13または14に記載の骨再生組成物の製造方法。
【請求項16】
上記骨再生関連細胞は、間葉系幹細胞であることを特徴とする請求項13〜15のいずれか1項に記載の骨再生組成物の製造方法。
【請求項17】
上記支持体は、リン酸カルシウム、天然高分子材料、合成高分子材料、金属材料、またはこれらの2種以上を組み合わせた複合材を含むことを特徴とする請求項13〜16のいずれか1項に記載の骨再生組成物の製造方法。
【請求項18】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の骨再生組成物製造器具を用いて製造されたことを特徴とする骨再生組成物。
【請求項19】
請求項13〜17のいずれか1項に記載の骨再生組成物の製造方法を用いて製造されたことを特徴とする骨再生組成物。
【請求項20】
上記支持体100mgに対して、1個〜5×10個の骨再生関連細胞を含むことを特徴とする請求項18または19に記載の骨再生組成物。
【請求項21】
請求項18〜20のいずれか1項に記載の骨再生組成物を用いて骨を再生させることを特徴とする骨再生方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図8】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−101022(P2009−101022A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−276872(P2007−276872)
【出願日】平成19年10月24日(2007.10.24)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】