説明

高い安定性を有する組換えXRGD富化ゼラチン

本発明は、組換えゼラチンモノマー、およびそれらのモノマーのマルチマーを含むかまたはそれからなる組換えゼラチンに関する。これらの組換えゼラチンは、細胞付着を伴う幾つかの用途、たとえば細胞培養作業、および足場依存性細胞の細胞培養を伴う用途、ならびに多様な医療用途にも特に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組換え製造したXRGD富化ゼラチンの分野のものおよびこれらを製造する方法である。本発明のゼラチンは、細胞付着を伴う幾つかの用途、たとえば細胞培養作業、および足場依存性細胞の細胞培養を伴う用途、ならびに多様な医療用途にも特に有用である。特に、これらの組換えゼラチンはきわめて安定であり、すなわちタンパク質分解による分解および/または化学分解に対して高い抵抗性をもつ。この高い安定性は、組換え宿主細胞において産生させる際に高い収量をもたらし、たとえば医薬組成物または医療用具におけるその後のタンパク質の使用に際しても有利である。
【背景技術】
【0002】
動物細胞、特に哺乳動物細胞(ヒト細胞を含む)の細胞培養系は、多くの重要な(遺伝子工学的に処理した)生物材料、たとえばワクチン、酵素、ホルモンおよび抗体の製造のために重要である。大部分の動物細胞は足場依存性であり、それらの生存および増殖のために表面または細胞培養支持体に付着する必要がある。
【0003】
細胞付着は、医療用途、たとえば創傷の処置(人工皮膚材料が含まれるが、治癒および細胞付着を促進する化合物または組成物を含む粘着性のプラスターまたはバンドエイドも含まれる)、骨および軟骨の(再)増殖、ならびに移植および人工血管材料においても重要な役割を果たす。したがって医療用途において、インプラントまたは移植材料などの材料は細胞付着に関して生体適合性のコーティングを含むことがしばしば要求される。
【0004】
細胞付着に関連して関心のある他の領域は、細胞の付着受容体の遮断である。たとえば、付着受容体の遮断により、癌転移が影響または阻害を受ける、抗血栓組成物において血小板凝集が影響を受ける、ならびにたとえば外科手術後の組織癒着が阻止される、あるいはたとえば歯科製品または他の医療製品に対する組織接着が促進されるという可能性がある。
【0005】
US 2006/0241032には、最小(増加)レベルのRGDモチーフをもち、かつそのRGDモチーフの一定の分布をもつ、RGD富化したゼラチン様タンパク質が開示されており、これは医療およびバイオテクノロジー用途における細胞接着および細胞結合にきわめて適切なことが見いだされた。そこに記載された細胞結合ペプチドは良好な細胞付着特性をもつ。
【0006】
しかし、分解しやすさが大量の組換えゼラチンの製造能力における制限因子であった。
EP 926543およびWerten et al. 1999 (Yeast 15, 1087-1096)には、組換えゼラチンの製造方法が記載されており、その際らせんドメイン(Gly−Xaa−Yaaトリプレット反復配列からなる)の非ヒドロキシル化フラグメントがメチロトローフ酵母(methylotrophic yeast)ピキア・パストリス(Pichia pastoris)において高収量で製造された:マウスI型(計算mw 21kDaおよび28kDaのCOL1A1ペプチドならびに53kDaのCOL1A2をエンコードする)およびラットIII型(COL3A1)。収量は、COL3A1の多重コピー形質転換体につき3〜4g/リットル清澄ブロス(clarified broth)と最高14.8g/リットルの間であった。COL3A1については、発酵pHをpH5からpH3に変更することにより分解を減少させることができた。対照的に、エンドペプチダーゼモチーフ(Met−Gly−Pro−Arg)を含むと思われるCOL1A1の分解はこれによって減少しなかった。このモチーフをArg−Gly−Pro−Metに部位特異的変異誘発すると分解が減少し、Kex2プロテアーゼまたはKex2−様プロテアーゼはモチーフ[Leu−Ile−Val−Met]−Xaa−Yaa−Argを認識すると推測された。しかし、COL1A1配列の収量をさらに改良する必要があった。Wertenらは、COL1A1の収量がCOL3A1のものより低いままであるのは、COL3A1のコドン利用が高発現ピキア・パストリス遺伝子のものと類似するのに対してCOL1A1のコドン利用は高発現ピキア・パストリス遺伝子のものと異なるためであるという仮説を立てた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】US 2006/0241032
【特許文献2】EP 926543
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Werten et al. 1999 (Yeast 15, 1087-1096)
【発明の概要】
【0009】
本発明により、XRGD富化したゼラチン様配列、たとえばGly−Xaa−Yaaトリプレットからなるかまたはそれを含む配列、たとえばコラーゲンの三重らせんドメイン(”コラーゲン性ドメイン”とも言われる)の全部もしくは一部からなるかもしくはそれを含む配列(たとえば、哺乳動物、特にヒトのCOL1A1)または本質的にそれに類似する配列の収量および/または安定性を改良する方法が今回見いだされた。配列DRGD(Asp−Arg−Gly−Asp)およびPRGD(Pro−Arg−Gly−Asp)が存在すべきではないこと、すなわち最小量のXRGD(Xaa−Arg−Gly−Asp)が存在すべきであることが見いだされた;これによればX(Xaa)はD(Asp)、P(Pro)またはヒドロキシプロリン以外のいずれかのアミノ酸である。これにより本発明は、大幅に安定化されたゼラチン様ポリペプチドを提供し、これらを高レベルで製造でき、これらは細胞付着に特に有用である。
【0010】
本発明の1態様においては、XRGD富化した組換えゼラチンポリペプチドであって、そのアミノ酸配列がモチーフDRGDおよび/またはPRGDを含まないが、少なくとも1つのXRGDモチーフを含み、ここでXはD(Asp)およびP(Pro)またはO(ヒドロキシプロリン)以外のいずれかのアミノ酸であるゼラチンポリペプチドが提供される。そのような配列は、化学分解および/またはタンパク質分解による分解に対して大幅に高められた安定性をもつ。
【0011】
RGD富化したゼラチン様配列(およびそのバリアント、ならびにこれらのいずれかのフラグメント)の安定性および発現レベルは、ヒトのコラーゲン性ドメインCOL(I)α1(本明細書中ではCOL1A1とも記載する;SEQ ID NO:1を参照)および/またはSEQ ID NO:2(CBEモノマー)に対して少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70または80%、たとえば少なくとも90%、好ましくは少なくとも92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%またはそれ以上のアミノ酸配列同一性をもち、かつ配列XRGDを好ましくは少なくとも1回、より好ましくは少なくとも2回、3回、4回、5回、またはそれ以上含む(ここでXはD、PまたはO以外のいずれかのアミノ酸である)天然または合成核酸配列を発現させることによって著しく改良することができる。
【0012】
核酸配列(DNAまたはRNA)、実質的に純粋な組換えゼラチン様ポリペプチド分子、およびそのような異種ポリペプチドを高収量で大規模発酵法を用いて製造する方法が提供される。そのようなポリペプチドを含むか、またはそれらからなる、組成物および用具も提供される。
【0013】
そのような核酸配列およびコードされるポリペプチドのマルチマーも提供され、したがってXRGDを含むモノマーポリペプチド単位をコードする核酸配列が、モノマーのサイズに応じて数回、たとえば少なくとも2〜10回、20回、30回、50回または100回、反復される。好ましくは、モノマーまたはマルチマーは少なくとも約15kDa、20kDa、30kDaまたはそれ以上、たとえば100kDaもしくは150kDaの計算分子量をもつ。したがって、GXYトリプレットからなり、約15kDa〜約150kDa(およびその間のいずれかの数値)の分子量をもつポリペプチド(モノマーまたはポリマー)が本発明に包含され、その際、それらのポリペプチドは少なくとも1つ、ただし好ましくはその以上のXRGDモチーフを含み、ここでXはD(Asp)およびP(Pro)またはO(ヒドロキシプロリン)以外のいずれかのアミノ酸である。そのようなモノマーおよび/またはマルチマーポリペプチドは、細胞接着用途に特に適切である。
【0014】
したがって本発明の1態様においては、組換えによるXRGD富化ゼラチン、ならびにそれでコートした細胞支持体、および組換えゼラチンを含む制御放出組成物が提供される。組換えゼラチンおよび/または細胞支持体もしくは制御放出組成物を細胞接着関連の医療用途に使用する方法も提供される。
【0015】
一般的な定義
用語’コラーゲン’、’コラーゲン関連’、’コラーゲン由来’なども当技術分野でしばしば用いられるが、本明細書の他の箇所全体において用語’ゼラチン’または’ゼラチン様’タンパク質を用いる。天然ゼラチンは5,000から400,000ダルトンより大きい範囲にまで及ぶMWをもつ個々のポリマーの混合物である。
【0016】
用語”細胞接着(cell adhesion)”と”細胞付着(cell attachment)”は互換性をもって用いられる。
用語”XRGD配列”および”XRGDモチーフ”および”Xaa−Arg−Gly−Asp”も互換性をもって用いられる。用語”XRGD富化した”は、本明細書中で少なくとも1つのXRGDモチーフを含むアミノ酸配列を表わし、ここでXはD、Pまたはヒドロキシプロリン(O)ではない。本発明に関連して用語”XRGD富化した”は、分子当たりのアミノ酸の総数に対するパーセントとして計算して一定レベルのXRGDモチーフが存在すること、およびアミノ酸配列中に一定の均一なXRGD配列分布があることを意味する。XRGD配列のレベルは、パーセントとして表わされる。このパーセントは、XRGDモチーフの数をアミノ酸の総数で割り、その結果を100倍することにより計算される。XRGDモチーフの数は1から出発する、2、3などの整数である。
【0017】
特に、”XRGD富化した”は、本明細書中でアミノ酸の総数に対するXRGDモチーフのパーセントが少なくとも0.4であるアミノ酸配列を表わし、アミノ酸配列がアミノ酸350個以上を含む場合、アミノ酸350個の範囲それぞれが少なくとも1つのXRGDモチーフを含む。好ましくは、XRGDモチーフのパーセントは少なくとも0.6、より好ましくは少なくとも0.8、より好ましくは少なくとも1.0、より好ましくは少なくとも1.2、最も好ましくは少なくとも1.5である。
【0018】
少なくとも0.4以上のXRGDモチーフのパーセントは、アミノ酸250個当たり少なくとも1以上のXRGD配列に相当する。XRGDモチーフの数は整数であり、したがって0.4%の特徴を満たすためには、アミノ酸251個からなるアミノ酸配列は少なくとも2つのXRGD配列を含むべきである。好ましくは、本発明のXRGD富化した組換えゼラチンは、アミノ酸250個当たり少なくとも2つのRGD配列、より好ましくはアミノ酸250個当たり少なくとも3つのRGD配列、最も好ましくはアミノ酸250個当たり少なくとも4つのRGD配列を含む。さらに他の態様において、本発明のXRGD富化した組換えゼラチンは、少なくとも4つのXRGDモチーフ、好ましくは6、より好ましくは8、よりさらに好ましくは12、ないし16に及ぶRGDモチーフを含む。
【0019】
”三重らせんドメイン”および”コラーゲン性ドメイン”は互換性をもって用いられ、組換えまたは天然コラーゲンのGly−Xaa−Yaaトリプレット反復領域、すなわち[Gly−Xaa−Yaa]nを表わす;ここでXaaおよびYaaはいずれかのアミノ酸であり、nは少なくとも5、10、15、20、30、40、50、70、80、90、100またはそれ以上である。たとえばSEQ ID NO:1に示される天然ヒトCOL1A1において、コラーゲン性ドメインはアミノ酸179からアミノ酸1192までであり、それもしくはバリアントの全体、またはその(またはバリアントの)フラグメントを本発明に使用できる。
【0020】
”フラグメント”はより長い核酸またはポリペプチド分子の一部であり、より長い分子のうちたとえば少なくとも10、15、20、25、30、50、100、200、500またはそれ以上の連続したヌクレオチドまたはアミノ酸残基を含むか、またはそれからなる。
【0021】
”自然”または”天然”コラーゲンまたはコラーゲン性ドメインは、自然界で、たとえばヒトまたは他の哺乳動物にみられる核酸配列またはアミノ酸配列を表わす。
”バリアント”は、1個以上のアミノ酸の挿入、欠失または置換により天然配列と異なり、後記に定める天然配列と”実質的に同一”である配列を表わす。
【0022】
用語”タンパク質”または”ポリペプチド”または”ペプチド”は互換性をもって用いられ、アミノ酸の鎖からなる分子を表わし、特定の作用様式、サイズ、三次元構造または由来を表わすものではない。単離されたタンパク質は、それの自然環境内ではみられないタンパク質、たとえば培地から精製したタンパク質である。
【0023】
用語”支持体”または”細胞付着支持体”は、本明細書中で、細胞の付着および/または増殖を容易にするために使用できるいずれかの支持体、たとえば培養皿、マイクロキャリヤー(たとえばマイクロキャリヤービーズ)、ステント、インプラント、プラスターなどを表わす。
【0024】
用語”実質的に同一”、”実質的同一性”、または”本質的に類似”または”本質的類似性”は、2つのポリペプチドをデフォルトパラメーターのスミス−ウォーターマン(Smith−Waterman)アルゴリズムを用いてペアワイズアラインメントした際に少なくとも60%、70%、80%、より好ましくは少なくとも90%、95%、96%または97%、より好ましくは少なくとも98%、99%またはそれ以上のアミノ酸配列同一性を構成することを意味する。配列アラインメント、および配列同一性パーセントに関するスコアは、コンピュータープログラム、たとえばGCG Wisconsin Package,Version 10.3(Accelrys Inc.から入手できる;9685 Scranton Road, San Diego, CA 92121-3752 USA)を用いて、またはEmboss WIN(たとえばversion 2.10.0)を用いて決定できる。2つの配列間の配列同一性を比較するためには、局所アラインメントアルゴリズム、たとえばEmbossWINプログラム”water”に使用されるスミス−ウォーターマン
アルゴリズム(Smith TF, Waterman MS (1981) J. MoI. Biol 147(l);195-7)を用いるのが好ましい。デフォルトパラメーターは、タンパク質に関するBlosum62置換マトリックスを用いて、ギャップオープニングペナルティー10.0およびギャップエクステンションペナルティー0.5である(Henikoff & Henikoff, 1992, PNAS 89, 915-919)。
【0025】
用語”含む”は、記載した部分、工程または構成要素の存在を特定するけれども追加の1以上の部分、工程または構成要素の存在を除外するものではないと解釈すべきである。
さらに、不定冠詞”a”または”an”による要素の表記は、その状況から1つ、かつ1つだけの要素があることが明らかに要求されない限り、1より多い要素が存在する可能性を除外するものではない。したがって、不定冠詞”a”または”an”は通常は”少なくとも1つ”を意味する。
【0026】
”モノマー”は、ポリペプチド単位(またはそれをコードする核酸配列)であって、その単位を線状に反復させてより長いポリペプチドを生成させることによって”マルチマー”(または”ポリマー”、これは互換性をもって用いられる)を生成させるのに使用できるものを表わす。モノマー単位は好ましくは介在アミノ酸なしに反復されるが、場合により1、2、3、4、5個またはそれ以上の連結アミノ酸がモノマー単位間に存在してもよい。
【0027】
用語”改良された安定性”は、酵母発現宿主の通常の培養条件下でXRGD富化ゼラチンが加水分解されないこと、またはDRGD、PRGDもしくはORGD(Oはヒドロキシプロリンを意味する)をもつ対応する配列と比較して加水分解される程度が好ましくは少なくとも2倍少ないことを意味する。
【発明を実施するための形態】
【0028】
意外にも、卓越した細胞付着特性をもち、改良された安定性、改良された細胞付着特性(おそらく改良された安定性に帰因するものであろう)などの利点を含み、および/または組換えポリペプチドでコートしたキャリヤー(たとえばコアマイクロキャリヤービーズ)のより均一な粒度分布を生じる、高収量の改良されたきわめて安定なペプチドまたはポリペプチドを得るのが可能なことが見いだされた。
【0029】
これらのポリペプチドは、抗原性が低く、かつウイルス、プリオンなどの病的因子を伝達するリスクなしに使用できるので、いかなる健康関連リスクを示すこともない。
メチロトローフ酵母(特にピキア属またはハンゼヌラ属(Hansenula))において、XRGD富化したゼラチン様ポリペプチドをコードする核酸配列を発現させることにより、特に、分解していない全長のXRGD富化タンパク質の安定性および収量を改良することができる。この組換えXRGD富化ポリペプチドは、ポリペプチド(モノマーまたはポリマー)のサイズが約15kDa〜約150kDaとなるような適切な数の連続GXYトリプレットを含むか、またはそれからなる。1態様において、組換えゼラチン様ポリペプチド(すなわちモノマーおよび/またはマルチマー)はヒトCOL1A1のコラーゲン性ドメイン(SEQ ID NO:1のアミノ酸179〜1192)および/またはSEQ ID NO:2に対して少なくとも60%の配列同一性をもち、配列DRGDおよび/またはPRGDを含まないが、最小数のXRGDモチーフ(少なくとも1つ)を含み、ここでXはDおよびPまたはO(ヒドロキシプロリン)以外のいずれのアミノ酸であってもよい。
【0030】
本発明によるゼラチン様ポリペプチドモノマー
したがって本発明の1態様においては、RGD富化したゼラチンモノマーであって、モチーフDRGDまたはPRGDまたはORGDを含まないが、少なくとも1つのXRGDモチーフを含み、ここでXはD(Asp)およびP(Pro)またはO(ヒドロキシプロリン)以外のいずれかのアミノ酸であるモノマーが提供される。
【0031】
あるいは、またはさらに、組換えによるXRGD富化したゼラチン様タンパク質は、SEQ ID NO:1および/またはSEQ ID NO:2に対する配列同一性により、SEQ ID NO:1のアミノ酸179〜1192またはそのフラグメント、たとえば少なくとも15個の連続アミノ酸のフラグメントに対する、少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%、80%、90%またはそれ以上のアミノ酸配列同一性、より好ましくは少なくとも92%、95%、96%、98%、99%の配列同一性またはそれ以上をもつアミノ酸配列を含むかまたはそれからなるタンパク質として規定することもできる。”フラグメント”は、1000個未満のアミノ酸、たとえば800、600、500、300、250、200、100、50、30個またはそれ未満の連続アミノ酸、ただし好ましくは少なくとも10、15または20個のアミノ酸の部分である。
【0032】
好ましくは、前記の配列は少なくとも1つのXRGDモチーフ、より好ましくは少なくとも2つのXRGDモチーフを含み、ここでXはいずれかのアミノ酸であってよいが、D、PまたはO(ヒドロキシプロリン)ではない。このポリペプチドは、好ましくはDRGD、PRGDまたはORGD配列モチーフを含まない。したがって、たとえば天然COL1A1コラーゲン性ドメインをコードする核酸配列(たとえば哺乳動物I型プロコラーゲン、たとえばマウス、ラット、ヒトのCOL1A1遺伝子に由来するもの)を使用でき、天然DRGDモチーフおよび/またはPRGDモチーフをコードするコドンを、たとえば部位特異的変異誘発により修飾してXRGDにすることができる。あるいは、DRGDおよび/またはPRGDモチーフを、ポリペプチドがこれらのモチーフを含まず、かつ少なくとも1以上の’新たな’XRGDモチーフを配列中のいずれかの箇所に導入するように修飾して、異なる配列にすることができる。もちろん、連続GXYモチーフ、たとえば少なくとも5、10、15、20、30、50、100、200、300またはそれ以上の連続GXYモチーフを含み、これにより少なくとも1つ、ただし好ましくはそれより多いXRGDモチーフが配列中に含まれるアミノ酸配列を簡単に設計することも可能である。そのように設計されたポリペプチドは、これらをコードする核酸配列を作製し(日常的な分子生物学的手法を用いて)、これらを組換え宿主細胞において発現させることにより製造できる。好ましくは、XRGDモチーフ(XはDまたはPまたはOではない)の間隔は少なくとも約0、10、15、20、25、30個またはそれ以上の介在アミノ酸が存在するものである(後記を参照)。その配列中に数個のXRGDが存在する場合、これらは好ましくは規則的な間隔をもつが、これは必要条件ではない。
【0033】
XはD、PおよびO以外のいずれかのアミノ酸であってよいが、Xは好ましくはC、M、K、L、I、R、K、H、S、T、V、A、GまたはEから選択される。好ましくは、XはS、T、V、A、GおよびEから選択される。最も好ましくは、XはEである。1より多いXRGDモチーフが存在する場合、異なるXRGDモチーフ中に存在するXが同一である必要はないが、好ましい態様においてはすべてのXRGDモチーフがERGDである。したがって、好ましい組換えゼラチンは、SEQ ID NO:1のアミノ酸179〜1192および/またはそのフラグメントおよび/またはSEQ ID NO:2に対して少なくとも60%の配列同一性をもつアミノ酸配列を含むか、またはそれからなり、好ましくはDRGDおよび/またはPRGD(およびORGD)を含まず、少なくとも1つ、好ましくは少なくとも2つ、好ましくは少なくとも3つ、またはそれ以上のXRGDを含み、ここでXは、その配列中に存在する少なくとも1つ、ただし好ましくは少なくとも2つ、またはすべてのXRGDモチーフにおいてEである。1態様においては、多数の、たとえば少なくとも10、20、30またはそれ以上のXRGDモチーフが存在する。場合により、モノマー全体が連続結合したXRGDモチーフから構成され、0、1、2、3、4または5個の介在アミノ酸がモチーフ間にある。
【0034】
好ましくは、XRGDモチーフはGXYモチーフの一部であり、すなわちGXYトリプレットはXRGDモチーフ(1以上)により中断されていない。たとえば配列−GXY−GXY−GXR−GDY−GXY−GXY−において、XRGDモチーフは連続GXYトリプレットを中断していない。
【0035】
したがって、2より多い、たとえば3、4、5またはそれ以上のXRGDモチーフがモノマーポリペプチド中に存在してもよい;この場合も、XはD、PまたはO以外のいずれかのアミノ酸である。そのようなさらに他のXRGDモチーフを、たとえば部位特異的変異誘発により、または他の方法を用いて、天然配列中に導入することもできる。
【0036】
組換えゼラチンがS(Ser)および/またはT(Thr)および/またはN(Asn)をいずれも含まないものがさらに他の態様である。したがって、たとえば天然コラーゲンドメイン(またはそのフラグメント)にみられるSおよび/またはTおよび/またはNを既知の分子生物学的方法で置換および/または欠失させることができる。あるいは、Sおよび/またはTおよび/またはNを含まない天然フラグメントを選択することができる。これによりグリコシル化が減少し、または阻止される(さらに後記を参照)。
【0037】
好ましくは、特に追加のXRGDモチーフを導入する場合、XRGDモチーフは配列内に比較的均一に分布する。好ましい態様において、修飾してXRGD(XはDまたはPまたはOではない)にされる天然DRGD(SEQ ID NO:1のアミノ酸744〜777)とPRGD(SEQ ID NO:1のアミノ酸1092〜1095)の間の間隔は344個の介在アミノ酸である。XRGDモチーフ間に少なくとも30、35、40、45、50、100個の介在アミノ酸またはそれ以上があるように追加のXRGDモチーフを導入することができる。したがって前記のポリペプチドは、100、150、200または300または350個のアミノ酸につき、好ましくは少なくとも2またはそれ以上のXRGDモチーフを含む。場合によってはより多数、たとえば5、6、7、8、9、10またはそれ以上のXRGDおよび/またはERGDモチーフが存在してもよい。
【0038】
1態様において、組換えゼラチン様タンパク質は、前記の2以上のモノマーを含むかまたはそれからなるポリマー(本明細書中では用語”マルチマー”と互換性をもって用いる)である。したがって組換えポリマーは、それぞれのモノマーが前記の基準を満たすn個のモノマー単位を含むことができ、ここでnは約15〜150kDaのマルチマーを構築するのに必要なモノマー反復配列の数である。したがって、nの数値はモノマーのサイズに依存する。アミノ酸10個のモノマーについて、nはたとえば10〜100またはそれ以上であってもよい。アミノ酸100個のモノマーについて、nはたとえば1〜10であってもよい。ポリマーは、連続結合した同一または異なるモノマー単位を含むことができる。それぞれのモノマーは、好ましくは少なくとも1つのXRGDを含み、ここでXはDまたはPまたはOではない。モノマーはDRGDおよび/またはPRGDを含まないので、ポリマーもこれらのモチーフを含まない。好ましくは、ポリマーは少なくとも
n個のXRGDモチーフ(ここでXはDまたはPまたはOではない)を含み、DRGD、PRGDまたはORGDモチーフを含まない。好ましくは、ポリマーはS、Tおよび/またはNも含まない。
【0039】
ポリマー中に存在するモノマー単位は、1態様においてはそれらのアミノ酸配列が同一である。
モノマー単位間に介在アミノ酸が存在しないことが好ましいが、モノマー単位間に1個以上の介在アミノ酸を含むポリマーも本発明において提供される。
【0040】
前記ポリペプチドの酵素および/または化学的タンパク質分解に対する安定性は、対応する天然ポリペプチド、たとえばSEQ ID NO:1の天然アミノ酸179〜1192もしくはその天然バリアントもしくはそのフラグメントのものより高く、および/またはXRGDモチーフのXがD、PもしくはOである対応するアミノ酸配列のものより高い。たとえば、実施例のXRGD富化したCBEモノマー(SEQ ID NO:2)の安定性は、CBEと同じアミノ酸配列をもつがXRGDモチーフ中のXがDである対応するCBTモノマー(SEQ ID NO:5)のものより高い。CBEモノマーは、LC−MSにより見られるように、ピキア属菌において産生される途中/後に開裂されてより小さなフラグメントになることはなく、1つのポリマーとして安定に維持される。
【0041】
好ましくは、たとえばSDS−PAGEゲルまたは他の方法、たとえばLC−MSによる安定性アッセイの途中/後に、分解または開裂生成物、すなわちコードされた(全長)ポリペプチドのものより小さなサイズのポリペプチドは見られず、または少ない。安定性は、たとえばポリペプチドが酵母宿主の培地中に分泌された後に試験することができ、これによれば実質的にすべて(少なくとも95%、好ましくは少なくとも98%、99%、または最も好ましくは100%)の組換えポリペプチドが完全サイズである場合、そのポリペプチドは安定である。いずれの場合も、分解していないポリペプチドの割合は、XRGDモチーフのX部分にD、PまたはOをもつけれども他の点では同一のアミノ酸配列をもつ対応するポリペプチドを産生に際して同じ方法で処理したもの、たとえば組換え宿主において同じ方法で発現させ、または同じ安定性試験を施したものより、有意に高い。酵素による加水分解または化学的加水分解に対する安定性は、ポリペプチドを1種類以上のタンパク質分解酵素または加水分解性化学薬品と共にインキュベートし、特定の処理期間後に得られた分子量を分析することにより試験することもできる。
【0042】
たとえば、同じ酵母宿主において産生された組換えによる天然ゼラチンと本発明によるゼラチンの分子量を発酵後に比較した場合、本発明による組換えゼラチンは同じ条件下において同じ方法で産生された天然ゼラチンより分解が少ない。分解は、同量の試料を装入したSDS−PAGEゲル上のバンド強度を分析することによっても定量できる。たとえばWerten et al. 1999(前掲)を参照。
【0043】
前記のゼラチン様タンパク質モノマー(および1以上のモノマーを含むかまたはそれからなるポリマー)は、好ましくは相当数のGXY三つ組を含み、またはそれからなり、ここでGはグリシンであり、XおよびYはいずれかのアミノ酸である。相当数のGXY三つ組とは、全ポリペプチドの少なくとも約50%、より好ましくは少なくとも60%、70%、80%、90%、または最も好ましくは100%のアミノ酸トリプレットがGXY、特に連続GXYトリプレットであることを表わす。モノマーおよび/またはポリマーのN−および/またはC−末端側末端は、他のアミノ酸を含むことができ、これらはGXYトリプレットである必要はない。また、モノマーの分子量は好ましくは少なくとも約15kDa(計算分子量)、より好ましくは少なくとも約16、17、18、19、20、30、40、50、60、70、80、90kDaまたはそれ以上である。
【0044】
好ましい態様においてXRGDを含むゼラチンは組換えDNA技術により、特にメチロトローフ酵母、好ましくはピキア属および/またはハンゼヌラ属、最も好ましくはピキア・パストリスにおいて核酸配列を発現させることにより製造される。宿主は好ましくはプロリンをヒドロキシル化できず、すなわちそれは機能性プロリル−4−ヒドロキシラーゼを欠如し、したがって、得られるポリペプチドにおいてポリマー中のGXYトリプレットのプロリン残基および/または全プロリン残基のうち10%未満、より好ましくは5%未満、4%未満、3または2%未満、最も好ましくは1%未満がヒドロキシル化されている。本発明の組換えゼラチンは、好ましくは天然コラーゲン性配列に由来し、好ましくは本明細書中の他のいずれかの箇所に記載するアミノ酸配列基準を満たすためにさらに修飾される。特に、天然の哺乳動物COL1A1配列、たとえば哺乳動物プロコラーゲンCOL1A1配列が修飾に適切である。これらは1つの連続範囲のGXYトリプレットを含み、これがコラーゲン性ドメインを構成する。コラーゲン、たとえばCOL1A1をコードする核酸は一般に当技術分野で記載されており(たとえばFuller and Boedtker (1981) Biochemistry 20: 996-1006; Sandell et al. (1984) J Biol Chem 259: 7826-34; Kohno et al. (1984) J Biol Chem 259: 13668-13673; French et al. (1985) Gene 39: 311-312; Metsaranta et al. (1991) J Biol Chem 266: 16862-16869; Metsaranta et al. (1991) Biochim Biophys Acta 1089: 241-243; Wood et al. (1987) Gene 61: 225-230; Glumoff et al. (1994) Biochim Biophys Acta 1217: 41-48 ; Shirai et al. (1998) Matrix Biology 17: 85-88; Tromp et al. (1988) Biochem J 253: 919-912; Kuivaniemi et al. (1988) Biochem J 252: 633640;およびAla-Kokko et al. (1989) Biochem J 260: 509-516を参照)、遺伝子/タンパク質データベースから入手できる。
【0045】
本発明によるゼラチン様ポリペプチドマルチマー
さらに他の態様においては、前記モノマーのマルチマーが提供される。したがって、そのようなマルチマーはモノマー配列の少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9または10の反復配列を含むか、またはそれからなる。したがって、さらに他の態様においては、前記のモノマー配列のマルチマーを含むか、またはそれからなる、組換えゼラチンポリペプチドが提供される。好ましくは、モノマー反復配列は同じモノマー単位(同一アミノ酸配列をもつもの)の反復配列であるが、場合により異なるモノマー単位(それぞれ前記の基準に含まれる異なるアミノ酸配列をもつもの)の組合わせも使用できる。
【0046】
好ましくはモノマー単位はスペーシングアミノ酸により分離されていないが、短い連結アミノ酸、たとえば1、2、3、4または5個のアミノ酸が1以上のモノマー間に挿入されていてもよい。
【0047】
1態様においてマルチマーは、前記のモノマー、たとえばSEQ ID NO:1のアミノ酸179〜1192またはそのフラグメントと実質的に同一の配列の少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9または10の反復配列を含むか、またはそれからなり、その際、この配列はDRGDおよび/またはPRGDを含まず、かつこの配列は少なくとも1つのXRGDを含み、XはDまたはPまたはOではない(前記を参照)。
そのようなマルチマーは既知の標準的な分子生物学的方法を用いて作製できる。
【0048】
XRGDを含むモノマーおよび/またはマルチマーを含む材料および組成物
本発明は、細胞接着にきわめて適切であって医療またはバイオテクノロジー用途に使用できるペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質、特に組換えゼラチンまたはゼラチン様タンパク質に関する。より具体的には本発明は、RGDを含む既知の組換えゼラチン様ポリペプチド、たとえばUS2006/0241032に記載されるもの、特にそこでSEQ ID NO:2と表示される配列と比較して改良された特性をもつ、細胞結合ペプチドまたはポリペプチドに関する。
【0049】
本発明による組換えゼラチンは細胞培養支持体をコートするのにきわめて適切であり、これをバイオテクノロジー法または医療用途に使用できることが見いだされた。
ゼラチン中のXRGD配列は、細胞壁上のインテグリンと呼ばれる特異的受容体に接着することができる。これらのインテグリンは細胞結合アミノ酸配列を認識する際のそれらの特異性が異なる。天然ゼラチンおよびたとえばフィブロネクチンは共にXRGD配列を含む可能性があるが、ゼラチンはフィブロネクチンに結合しない細胞と結合することができ、逆も同様である。したがって、XRGD配列を含むフィブロネクチンが細胞接着の目的について必ずしもゼラチンの代替となりうるわけではない。
【0050】
組換えにより製造したゼラチンには、動物から得られたゼラチンの欠点、すなわちそれからゼラチンが得られた動物を起源とする病原体による潜在汚染がない。
細胞培養支持体として、またはそれと組み合わせて使用する場合、本発明によるゼラチン様ポリペプチドは細胞結合ポリペプチドとして機能する。それは、その上で増殖する細胞がそれを代謝することもできるという、他のポリペプチドを上回る利点をもつ。
【0051】
組換え製造したゼラチンのさらに他の利点は、分子量(MW)を均一に維持できることである。天然ゼラチンは、その調製方法の結果として、5,000kDより小さいペプチドから400,000kDより大きい分子量をもつ大型ポリマーまでを含む幅広い分子量分布をもつことを避けられない。特に、細胞培養支持体としてのマイクロキャリヤーコアビーズと組み合わせる際に、小型ペプチドの欠点は、細胞が到達できないマイクロキャリヤー内部の微細孔にペプチドが粘着するため添加したゼラチンの一部が使用されないことである。組換え製造法によれば、目的分子量をもつゼラチンを設計でき、この望ましくない材料損失が阻止される。
【0052】
本発明による組換えゼラチンを含む細胞支持体が提供される。そのような細胞支持体は、下記よりなる群から選択できる:
1)細胞培養支持体、たとえばコアビーズ(たとえばマイクロキャリヤービーズ)もしくはペトリ皿またはこれらに類するものを、1種類以上の本発明によるゼラチン様ポリペプチドでコートしたもの;
2)インプラントまたは移植装具(たとえば股関節−、歯−、または他のインプラント、ステントなど)を、1種類以上の本発明による組換えゼラチンでコートしたもの;
3)組織工学のための骨格またはマトリックス、たとえば人工皮膚マトリックス材料を、1種類以上の組換えゼラチン様ポリペプチドでコートしたもの;
4)創傷修復製品を、1種類以上の組換えゼラチン様ポリペプチドでコートしたもの;
5)1種類以上の組換えゼラチン様ポリペプチドを含むか、またはそれからなる、組織接着剤;
前記の組換えゼラチン様タンパク質は、このポリペプチドでコートした細胞支持体、たとえばマイクロキャリヤーが有利な特性をもつという利点をもたらす。マイクロキャリヤーコアビーズのコーティング過程における重要な問題は、ビーズ相互の凝集である。特に、そのような凝集により、細胞付着に利用できる表面積が少なくなり、マイクロキャリヤーのサイズ分布が乱れてそれらは役に立たなくなる。本発明によるポリペプチドを使用するとコートされた粒子のサイズ分布がより均一になることが見いだされた。支持体の細胞接着特性も改良された;これはおそらくタンパク質安定性の増大がみられたことに帰因するものであろう。
【0053】
1態様において、本明細書中で提供される細胞支持体は、好ましくは本発明による組換えゼラチン1種類のみ、すなわち提供されるポリペプチドの1つから選択されるものを含む。したがって、生成物のアミノ酸配列、分子量などは均一である。場合により、ペプチドはたとえば化学架橋により架橋していてもよい。
【0054】
別態様においては、本発明によるポリペプチドの混合物、たとえば本発明による2、3、4、5種類またはそれ以上の異なるアミノ酸配列を使用できる。混合物の比率は多様であってよく、たとえば1:1、または10:1、50:1、100:1、1:100、1:50、1:10、およびこれらの間の比率である。場合により、これらの混合物またはその一部もたとえば化学架橋により架橋していてもよい。
【0055】
1態様においては、本発明による組換えゼラチンポリペプチドのみを細胞支持系に使用する;すなわち、他の組換えゼラチン、たとえば先行技術に記載されたものまたは天然ゼラチンは細胞支持体に含まれない。別態様において、細胞支持系はさらに他の組換えおよび/または天然ゼラチン(たとえば天然源から抽出したもの)を含むことができる。
【0056】
組換えゼラチンモノマー(1種類以上)および/またはマルチマーを多孔質マイクロキャリヤービーズのコーティングに用いる場合、好ましくは少なくとも約30kDa、たとえば少なくとも約30kDa、40kDa、50kDa、60kDaもしくは70kDaまたはそれ以上の分子量をもつポリペプチドを使用する。その理由は、より小さいポリペプチドは細孔に侵入し、このためコートされたビーズの細胞付着特性に寄与せず、特に低濃度のポリペプチドをコーティング処理に用いる場合にその処理が非効率的となる可能性があるからである。
【0057】
好ましくは、使用するゼラチンまたはゼラチン様タンパク質の分子量は均一であり、75%より多い、好ましくは85%より多い、より好ましくは95%より多い、またはさらに少なくとも98%のゼラチンまたはゼラチン様タンパク質が、選択した分子量から20%以内の均一なMWをもつ。
【0058】
前記に特定した範囲内の分子量をコーティング処理に際して選択することにより、ゼラチンまたはゼラチン様タンパク質コーティング溶液の粘度を厳密に制御できる。可能な限り高い濃度のゼラチンを選択できる一方で、そのようなゼラチン溶液の完全なゲル化またはより重大な部分ゲル化を阻止することができる。均一なゼラチンは、均等にコートされたマイクロキャリヤーの処理を確実にする。均一なコーティング処理により、最小量のゼラチンの使用、および最小体積のゼラチンコーティング溶液の使用が可能になる。これらすべての結果として、当技術分野で既知のものよりはるかに効率的なコーティング処理が得られる。
【0059】
本発明の1態様においては、非孔質コアビーズを本発明のゼラチンでコートする。適切には非孔質コアビーズはポリスチレンまたはガラスで作製される。他の適切な非孔質材料は当業者に既知である。
【0060】
特に有利な態様は、多孔質コアビーズ、たとえば修飾デキストランまたは架橋セルロースまたは(多孔質)ポリスチレン、特にDEAE−デキストラン製のビーズを、本発明のゼラチンでコートする、本発明の方法である。他の適切な多孔質材料は当業者に既知であり、たとえば化学修飾した、または修飾していない、他の多糖類が含まれる。
【0061】
ビーズのサイズは50μmから500μmにまで及ぶことができる。マイクロキャリヤービーズの一般的な平均サイズは、生理食塩水中で約100、約150または約200μmである。少なくとも90%のビーズがその範囲内にあるサイズ範囲は、80〜120μm、100〜150μm、125〜175μmまたは150〜200μmに及ぶことができる。
【0062】
広範な細胞をマイクロキャリヤー上で培養できる。たとえば、無脊椎動物、魚類、鳥類からの細胞、および哺乳動物由来の細胞をマイクロキャリヤー上で培養できる。トランスフォームした細胞系および正常細胞系、線維芽細胞および上皮細胞、ならびに遺伝子工学的に処理した細胞ですら、多様な生物学的用途のために、たとえば免疫物質、たとえばインターフェロン、インターロイキン、増殖因子などの製造のために、マイクロキャリヤー上で培養できる。マイクロキャリヤー上で培養した細胞は、手足口病または狂犬病などのワクチンとして使用される多様なウイルスのための宿主としても役立つ。
【0063】
マイクロキャリヤー培養は、大量培養のほかにも多数の用途をもつ。マイクロキャリヤー上で増殖している細胞は、細胞生物学の種々の観点、たとえば細胞−対−細胞または細胞−対−培養基板の相互作用を研究するための卓越した道具として役立つ。細胞の分化および成熟、代謝の研究も、マイクロキャリヤーを用いて実施できる。そのような細胞は、電子顕微鏡による研究のために、または細胞小器官、たとえば細胞膜の単離のためにも使用できる。この系は本質的に三次元系であり、良好な三次元モデルとしても役立つ。同様に、この系を用いて細胞の共培養を行なうことができる。したがって用途には、細胞、ウイルスおよび細胞産物(たとえばインターフェロン、酵素、核酸、ホルモン)の大量生産、細胞の接着、分化および細胞機能に関する研究、潅流カラム培養系、顕微鏡による研究、有糸分裂細胞の採取、細胞の単離、膜の研究、細胞の貯蔵および輸送、細胞伝達を伴うアッセイ、ならびに標識化合物の取込みに関する研究が含まれる。
【0064】
マイクロキャリヤーは、脾細胞集団からマクロファージを枯渇させるためにも使用できる。DEAE−デキストランマイクロキャリヤーは、コンカナバリンA(con A)によるリンパ球刺激を増強することができる。同種腫瘍細胞で周密状態にしたマイクロキャリヤービーズをマウスに注射して、体液性免疫および細胞仲介性免疫を高めることができる。植物プロトプラストをDEAE−デキストランマイクロキャリヤー上に固定化することができる。
【0065】
マイクロキャリヤーにより提供される大きな表面積−対−体積比の結果として、それらは実験室的規模およびたとえば4000リットル以上もの工業的規模での多様な生物学的生産に効果的に使用できる。
【0066】
ゼラチンでコートしたマイクロキャリヤーを用いて、発現生成物の大規模生産を達成できる。生産規模のバイオリアクター内へのマイクロキャリヤーの充填は、一般に20g/lであるが、40g/lまで高めることができる。マイクロキャリヤーをバッチおよび潅流システムに、撹拌培養、およびウェーブバイオリアクター(wave biorector)に、ならびに伝統的な固定単層培養およびローラー培養の表面積を拡大するために使用できる。
【0067】
さらに他の好ましい態様において、ゼラチンまたはゼラチン様タンパク質は本質的にヒドロキシプロリン残基を含まない。ヒドロキシル化はコラーゲンにおける三重らせん形成の必要条件であり、ゼラチンのゲル化に際して役割を果たす。特に、組換えゼラチンのアミノ酸残基の10%未満、より好ましくは5%未満、より好ましくは1%未満がヒドロキシプロリンであり、組換えゼラチンのゲル化能が好ましくない用途においては組換えゼラチンはヒドロキシプロリンを含まないことが最も好ましい。ヒドロキシプロリンを含まない組換えゼラチンはより高い濃度で使用でき、その溶液はより粘度が低く、激しい撹拌の必要性がより少なく、その結果、培養細胞に対する剪断力がより少ないであろう。WO 02/070000 Alに記載されるように、本質的にヒドロキシプロリンを含まない組換えゼラチンは、天然ゼラチンと対照的にIgEを伴う免疫反応を示さない。ヒドロキシプロリンの不存在は、たとえば機能性プロリル−4−ヒドロキシラーゼ酵素で形質転換していないかまたはそれを含まないピキア属宿主、たとえばピキア・パストリスにおける発現により達成できる。
【0068】
コラーゲンコートしたマイクロキャリヤーの製造方法はUS 4,994,388に記載されている。要約すると、コアビーズへのコラーゲンコーティングの付与は2工程で行われる:コーティングおよび固定。コアビーズを酸性コラーゲン水溶液(0.01〜0.1N酢酸)に懸濁し、溶液を蒸発乾固させる。乾固したコラーゲンコートされたビーズを、次いでタンパク質架橋剤、たとえばグルタルアルデヒドを含有する溶液に懸濁し、こうしてコラーゲンコーティングを架橋させる。あるいは、コラーゲン溶液で湿潤させたコアビーズを固定工程の開始前に完全には乾燥させない。コーティング条件の変更および別のコーティング処理も当業者が容易になしうる範囲のものである。
【0069】
組換え構造体は、US 5,512,474に従って追加のアルギニン、リジンまたはヒスチジンを組み込むことにより、正に荷電した追加の基を含むように設計することもできる。ゼラチンの組換え製造により、生成タンパク質中の正に荷電したアミノ酸(細胞培養のpHにおいて正に荷電していることを意味する)の数を容易に操作することができる。特にアルギニン、リジンおよびヒスチジンは正の電荷をもつ。目的とする特定の細胞培養のpHにおいて正味正電荷をもつゼラチンを設計するのは、当業者が十分に達成しうる範囲である。細胞は普通はpH7〜7.5で培養される。したがって、本発明のさらに他の態様においては、pH7〜7.5で正味正電荷をもつゼラチンまたはゼラチン様タンパク質を使用する。好ましくは、正味正電荷は+2、+3、+4、+5、+10またはそれ以上である。したがって、さらに他の態様において本発明は、pH7〜7.5で正味正電荷をもつゼラチンに関する。好ましくは、正味正電荷は+2、+3、+4、+5、+10またはそれ以上である。
【0070】
さらに他の態様において本発明は、細胞の表面受容体を遮断するための、およびそのような受容体を遮断する組成物を調製するための、XRGDを含む本発明によるゼラチンの使用に関する。細胞の受容体の遮断は、たとえば血管形成の阻害または心臓線維芽細胞上のインテグリンの遮断に適用される。
【0071】
本発明による組換えゼラチンでコートし、その上で細胞を増殖させた細胞支持体は、たとえば皮膚の移植もしくは創傷の処置に際して、または骨もしくは軟骨の(再)増殖を増強するために適用できる。インプラント材料を本発明の組換えゼラチンでコートして細胞を接着させ、これにより移植を促進することもできる。
【0072】
本発明のさらに他の態様においては、1種類以上の本発明による組換えゼラチンを含む制御放出組成物が提供される。したがって、この組成物はさらに1種類以上の薬物を含むことができる。制御放出配合物は、当技術分野で知られているように、たとえば組換えゼラチン様タンパク質またはこれらを含む組成物を1種類以上の薬物の周囲のコーティング層として用いることにより、または薬物を内包したもしくは取り込んだマトリックスの作製のために用いることにより調製できる。制御放出組成物は、注射(皮下、静脈内または筋肉内)または経口により、または吸入により投与できる。しかし、使用する制御放出組成物を外科的に埋め込むこともできる。さらに他の適切な投与経路は、外部創傷包帯、またはさらに経皮によるものである。
【0073】
制御放出組成物は、好ましくは架橋した形の、たとえば化学架橋した組換えゼラチンを含む。本発明はさらに、痛み、癌療法、心血管疾患、心筋修復、血管形成、骨の修復および再生、創傷の処置、神経刺激/療法、または糖尿病を処置する医薬を製造するための、本明細書に記載する制御放出組成物の使用を提供する。
【0074】
さらに他の態様において、本発明はグリコシル化されていない、XRGDを含むゼラチンに関する。グリコシル化はアミノ酸Asnにおいて(N−グリコシド構造体)、またはSerもしくはThrにおいて(O−グリコシド構造体)行われる。グリコシル化は、免疫応答を望まない用途については好ましくは阻止すべきである。アミノ酸配列中にAsn、Serおよび/またはThrアミノ酸を存在させないことは、たとえば酵母細胞培養を用いるバイオテクノロジーによる製造系においてグリコシル化を阻止するための有効な方法である。
【0075】
さらに、ゼラチンの特徴は異例な高いプロリン残基含量である。さらに他の特徴は、天然ゼラチンでは多数のプロリン残基がヒドロキシル化されていることである。ヒドロキシル化の最も顕著な部位は4−位であり、その結果、ゼラチン分子中に異例なアミノ酸4−ヒドロキシプロリンが存在する。哺乳動物のトリプレットにおいて、4−ヒドロキシプロリンは常にYの位置にみられる。ヒドロキシプロリン残基の存在は、ゼラチン分子がそれの二次構造においてらせんコンホメーションをとる可能性があるという事実の原因となる。したがって、ゲル化特性が好ましくない用途において本発明に従って使用するためのゼラチンは、ヒドロキシプロリン残基の含量が5%未満、好ましくは3%未満、最も好ましくは1%未満であることが好ましい。
【0076】
XRGDを含む本発明によるゼラチンは、EP−A−0926543、EP−A−1014176またはWO 01/34646に開示された組換え法により製造できる。本発明のゼラチンの製造および精製を可能にするために、EP−A−0926543およびEP−A−1014176中の例も参照される。
【0077】
コラーゲン(の一部)をコードする天然核酸配列から出発して、本発明に従ってXRGDを含み、DRGDおよび/またはPRGDを含まないゼラチンをコードする配列が得られるような点変異を適用することもできる。既知のコドンに基づいて、XRGX配列が変異後にXRGD配列を生成するような点変異を行なうことができ、あるいはXYGD配列を変異させてXRGD配列を得ることもできる。XYGX配列がXRGD配列を生成するように、2つの変異を行なうことも可能である。1個以上のヌクレオチドを挿入し、または1個以上のヌクレオチドを欠失させて、目的とするXRGD配列を生成させることも可能であろう。同じ方法で、たとえば1個以上のアミノ酸の置換、挿入または欠失によりDRGDおよび/またはPRGDモチーフを除去することができる。さらに、目的ゼラチンをコードする遺伝子を遺伝子合成により得ることができる。遺伝子合成事業は種々の企業が提供している。
【0078】
したがって、前記のゼラチン様タンパク質は、それらのポリペプチドをコードする核酸配列を適切な微生物により発現させることによって製造できる。この方法は、真菌細胞または酵母細胞を用いて適切に実施できる。適切には、宿主細胞は高発現性の宿主細胞、たとえばハンゼヌラ属(Hansenula)、トリコデルマ属(Trichoderma)、コウジカビ属(Aspergillus)、アオカビ属(Penicillium)、サッカロミセス属(Saccharomyces)、クライベロミセス属(Kluyveromyces)、アカパンカビ属(Neurospora)またはピキア属(Pichia)である。真菌および酵母細胞は反復配列の不適切な発現を生じにくいので、それらの方が細菌より好ましい。最も好ましくは、宿主は発現したコラーゲン構造体を攻撃する高レベルのプロテアーゼをもたないであろう。これに関して、ピキア属またはハンゼヌラ属はきわめて適切な発現系の例である。発現系としてのピキア・パストリスの使用は、EP−A−0926543およびEP−A−1014176に開示されている。1態様において、微生物は活性な翻訳後プロセシング機序、たとえば特にプロリンのヒドロキシル化を伴わず、リジンのヒドロキシル化も伴わない。他の態様において、宿主系は内因性のプロリンヒドロキシル化活性をもち、これにより組換えゼラチンはきわめて効果的にヒドロキシル化される。既知の工業用の酵素産生真菌宿主細胞、特に酵母細胞から、宿主細胞を本発明による組成物に適切な組換えゼラチン様タンパク質の発現に適切なものにするために必要な本明細書に記載するパラメーターと宿主細胞および発現させる配列に関する知識とを合わせたものに基づいて適切な宿主細胞を選択することは、当業者がなしうるであろう。
【0079】
したがって、1観点において本発明は、本発明による組換えゼラチンを製造するための方法であって、下記を含む方法に関する:
−請求項1〜10に記載のポリペプチドをコードする核酸配列が適切なプロモーターに作動可能な状態で連結したものを含む発現ベクターを調製し、
−前記の核酸配列をメチロトローフ酵母において発現させ、
−前記の核酸配列を発現させるのに適切な発酵条件下でその酵母を培養し、
−場合により前記ポリペプチドを培養物から精製する。
【0080】
変異宿主株、たとえば1種類以上のタンパク質分解酵素を欠如する株も使用できるが、組換えポリペプチドはタンパク質分解に対してきわめて安定かつ抵抗性であるので、これは本発明によれば必要ではない。
【0081】
配列
SEQ ID NO 1:ヒトプロコラーゲンCOL1A1配列
SEQ ID NO 2:ERGD富化モノマー
SEQ ID NO 3:ERGD富化マルチマー(トリマー)
SEQ ID NO 4:ERGD富化マルチマー(ペンタマー)
SEQ ID NO 5:DRGDを含む配列
SEQ ID NO 6:ERGDを含む配列。
【実施例】
【0082】
実施例1:
ヒトCOL1A1−1のゼラチンアミノ酸配列の一部をコードする核酸配列に基づき、この核酸配列を修飾して、XRGDを含むゼラチンを製造した。EP−A−0926543、EP−A−1014176およびWO 01/34646に開示された方法を用いた。このXRGDを含むゼラチンは下記の配列をもつ:
アミノ酸配列(SEQ ID NO:6):
【0083】
【化1】

【0084】
192個のアミノ酸の長さ;4つのERGDモチーフを含む。
SEQ ID NO:6のから、ERGD富化モノマー(SEQ ID NO:2)の配列を誘導した:
ERGD富化モノマーのアミノ酸配列(SEQ ID NO:2):
【0085】
【化2】

【0086】
189個のアミノ酸の長さ;4つのERGDモチーフを含む。
標準サブクローニング法により、ERGD富化モノマーを含むマルチマーを製造した。
たとえば、このモノマーの3回反復配列を含むマルチマー、すなわちERGD富化トリマー(SEQ ID NO:3)であって、前にGAPを含み、かつグリシン(G)で延長されたものを製造した。こうして製造したERGD富化トリマーを含むゼラチンの配列は下記のものである:
【0087】
【化3】

【0088】
571個のアミノ酸の長さ;12のERGDモチーフを含む。
同様に、このモノマーの5回反復配列を含むマルチマー、すなわちERGD富化ペンタマー(SEQ ID NO:4)であって、前にGAPを含み、かつグリシン(G)で延長されたものを製造した。こうして製造したERGD富化ペンタマーを含むゼラチンの配列は下記のものである:
【0089】
【化4】

【0090】
949個のアミノ酸の長さ;20のERGDモチーフを含む。
【0091】
実施例2:
マイクロキャリヤービーズの調製
平均直径100マイクロメートルのポリスチレンビーズを用いる。ヘテロ二官能性架橋剤BBA−EAC−NOSを用いて、ゼラチンをポリスチレンビーズ上に共有結合により固定化する。BBA−EAC−NOSをポリスチレンビーズに添加し、吸着させる。次いでゼラチンを添加し、このNOS合成ポリマーと反応させて、このスペーサーへの共有結合を生じさせる。次いでビーズを(320nmで)光活性化して、スペーサー(および共有結合したゼラチン)をポリスチレンビーズに共有結合により固定化する。最後に、リン酸緩衝化生理食塩水(pH7.2)中の緩和な界面活性剤Tween 20で一夜洗浄することにより、ゆるく付着したゼラチンを除去する。
【0092】
細胞タイプおよび培養条件
ミドリザル(Green monkey)腎(Vero)細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、正常ラット腎線維芽(NRK−49F)細胞、およびMadin Darbyイヌ腎(MDCK)細胞を、ATCCから購入した。4種類すべての細胞タイプを75cm2のフラスコ内で37℃において5% CO2の環境で継代および維持した。VeroおよびNRK−49F細胞はダルベッコの改変イーグル培地(DMEM)中で培養され、CHO細胞はハム(Ham)のF−12栄養素混合物中で培養され、MDCK細胞はアールの塩類(Earle’s salts)を含む最少必須培
地(MEM)中で培養された。
【0093】
VeroおよびCHO細胞については、培地に10%のウシ胎仔血清(FBS)、2mMのL−グルタミン、20mMのHEPES緩衝液、1mMのピルビン酸ナトリウム、100ug/mlのストレプトマイシン、および100単位/mlのペニシリンを補充した(最終pH7.1)。NRK−49F細胞については、DMEMに5%のFBS、2mMのL−グルタミン、1mMのピルビン酸ナトリウム、非必須アミノ酸(各0.1mM)、100μg/mlのストレプトマイシン、100単位/mlのペニシリン、および0.25μg/mlのアンホテリシンBを補充した(最終pH7.1)。MDCK細胞については、MEMに10%のFBS、2mMのL−グルタミン、非必須アミノ酸(各0.1mM)、ならびに100μg/mlのストレプトマイシン、100単位/mlのペニシリン、および0.25μg/mlのアンホテリシンBを補充した(最終pH7.1)。
【0094】
各実験の前に細胞の生理的状態を標準化するために、マイクロキャリヤービーズ接種の2〜3日前に細胞を150cm2のフラスコに継代した。細胞をフラスコから離脱させるためにトリプシン処理した(PBS中、0.05%のトリプシン、0.53mMのEDTA)。マイクロキャリヤー実験のために、細胞を遠心してトリプシン培地を除去し、培養培地に再懸濁して約1×106細胞/mlにした。生存細胞濃度をトリパン色素排除により判定した(0.9%生理食塩水中の0.4%トリパンブルー)。
【0095】
撹拌フラスコにおける細胞培養およびアッセイ
細胞付着アッセイのために、20mg/mlのコートしたポリスチレンビーズを用い、細胞濃度はそれぞれの細胞タイプにつき1.5×105細胞/mlであった。
【0096】
100mlの培養物を250mlの撹拌容器内に維持し、懸垂型の磁気インペラーで撹拌しながら(50rpm)、マイクロキャリヤーを培養した。
細胞付着の動態を上清細胞濃度の低下としてアッセイした。試料を取り出すために撹拌を短時間(約30秒間)停止し、この時点でマイクロキャリヤーは沈降し、下記に従って細胞を定量するために上清試料を取り出した。
【0097】
細胞計数のために、細胞を0.1Mクエン酸中のクリスタルバイオレット(0.1% w/w)等体積と混合することにより染色し、次いで血球計数器で計数した。培地からの細胞枯渇をビーズに付着した細胞の指標として用いた。
【0098】
培地から除かれた細胞が実際にマイクロキャリヤーに付着した(かつ細胞溶解していない)ことを証明するために、マイクロキャリヤーに付着した細胞をそれぞれの細胞付着アッセイの終了時に定量した。十分に撹拌したキャリヤー培地1mlずつを取り出し、マイクロキャリヤーを沈降させ、沈降したマイクロキャリヤーを前記のクリスタルバイオレット/クエン酸に再懸濁した。37℃で1時間インキュベートした後、懸濁液をパスツールピペットに吸入排出することにより剪断して核を放出させ、これを血球計数器で定量した。
【0099】
ERGDを含むゼラチン(SEQ ID NO:6)を前記操作に従ってマイクロキャリヤーコーティングとして用い、US 2006/0241032に開示された4つのRGD配列をもつ配列識別番号2の参照ゼラチンと比較した。SEQ ID NO:2は、出発培地からの細胞枯渇数に関して、またマイクロキャリヤーへの細胞付着に関しても、改良された結果を示した。この改良は、US 2006/0241032に開示された識別番号2の配列と比較して改良されたSEQ ID NO:6ゼラチンの安定性に帰因する可能性がある。
【0100】
同様にSEQ ID NO:3およびSEQ ID NO:4を含むゼラチンを前記の操作に従ってマイクロキャリヤーコーティングとして用い、US 2006/0241032に開示された配列識別番号2のXRGDを含むゼラチンのトリマー、テトラマーおよびペンタマーと比較する。SEQ ID NO:3およびSEQ ID NO:4を含むゼラチンは、おそらく改良されたそれらの安定性に帰因すると思われるが、US 2006/0241032に開示された識別番号2の配列に基づくマルチマーゼラチンと比較して、マイクロキャリヤーへの改良された細胞付着を示す。SEQ ID NO:3およびSEQ ID NO:4を含むゼラチンでコートしたマイクロキャリヤーの粒度測定も、コートしたマイクロキャリヤーの24時間保持後および細胞付着アッセイ直後に、US 2006/0241032に開示された識別番号2の配列に基づくマルチマーゼラチンと比較して、より均一な粒度分布を示す。
【0101】
実施例3
下記のポリペプチドをピキア・パストリスにおいて、Easy selectピキア発現キット(Pichia expression kit)version H(Invitrogen Corp.)に付随する発現ベクターおよびマニュアルに記載された方法を用いて発現させた。
【0102】
【化5】

【0103】
組換えピキア・パストリスの培養上清中に分泌されたポリペプチドおよびポリペプチドフラグメントをLC−MSで分析した。予想された生成物のほかに、次表に示すように幾つかのより小さいフラグメントがみられた:
【0104】
【表1】

【0105】
このように、培養上清は組換えポリペプチドの完全サイズポリペプチドより小さい多数のフラグメントを含有していた。これらのフラグメントはD/RGD各種モチーフ内のDとRの間の開裂に起因すると考えられた。
【0106】
この仮説を調べるために、DRGDモチーフを含まずに代わりにERGDを含む改良型のポリペプチド(本明細書中でSEQ ID NO:6と呼ぶ)を作製した:
【0107】
【化6】

【0108】
SEQ ID NO:6はDRGDモチーフを含まずに代わりにERGDを含む。
組換えピキア・パストリスにおいて前記と同じ方法を用いてポリペプチドを産生させ、培養上清を分析した。
【0109】
E/RGD内のEとRの間の開裂により生じると予想されたフラグメントはみられなかった。したがって、DRGDモチーフの代わりにERGDモチーフを含むXRGD富化タンパク質の方が安定である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単離されたXRGD富化した組換えゼラチンポリペプチドであって、モチーフDRGDおよび/またはPRGDを含まないが、少なくとも1つのXRGDモチーフを含み、ここでXはD(Asp)およびP(Pro)またはO(ヒドロキシプロリン)以外のいずれかのアミノ酸である、前記ゼラチンポリペプチド。
【請求項2】
XがY、W、F、C、M、K、L、I、R、H、S、T、V、A、GおよびEよりなる群から選択される、請求項1に記載の組換えゼラチンポリペプチド。
【請求項3】
XがEである、請求項2に記載の組換えゼラチン。
【請求項4】
ゼラチンポリペプチドがS(Ser)および/またはT(Thr)および/またはN(Asn)残基を含まない、請求項1〜3のいずれか1項に記載の組換えゼラチンポリペプチド。
【請求項5】
少なくとも2つのXRGDモチーフ、好ましくは少なくとも3つのXRGDモチーフを含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の組換えゼラチンポリペプチド。
【請求項6】
ポリペプチドが少なくとも15kDaの分子量を有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の組換えゼラチンポリペプチド。
【請求項7】
10%未満、より好ましくは5%未満、最も好ましくは1%未満のプロリンがヒドロキシル化されている、請求項1〜6のいずれか1項に記載の組換えゼラチン。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の組換えゼラチンポリペプチドの少なくとも2つの反復配列を含むか、またはそれからなる、ポリマー状組換えゼラチン。
【請求項9】
反復配列のアミノ酸配列が同一である、請求項8に記載のポリマー状組換えゼラチン。
【請求項10】
反復配列がモノマー反復単位の間にいずれの介在アミノ酸をも含まない、請求項9に記載のポリマー状組換えゼラチン。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の組換えゼラチンを含む、細胞支持体。
【請求項12】
細胞支持体が、組換えゼラチンでコートしたインプラントまたは移植材料、組換えゼラチンでコートした組織工学用骨格、歯科製品(の一部)、創傷修復製品(の一部)、人工皮膚マトリックス材料(の一部)、および組織接着剤(の一部)よりなる群から選択される、請求項11に記載の細胞支持体。
【請求項13】
細胞支持体が、組換えゼラチンでコートしたインプラントまたは移植材料、組換えゼラチンでコートした組織工学用骨格、歯科製品(の一部)、創傷修復製品(の一部)、人工皮膚マトリックス材料(の一部)、および組織接着剤(の一部)よりなる群から選択される、請求項12に記載の細胞支持体。
【請求項14】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の組換えゼラチンを含む、制御放出組成物。
【請求項15】
癌の転移を阻害し、血小板の凝集を阻止し、または外科手術後に組織の癒着を阻止する医薬を調製するための、請求項1〜10のいずれか1項に記載の組換えゼラチンの使用。
【請求項16】
制御放出組成物を調製するための、請求項1〜10のいずれか1項に記載の組換えゼラチンの使用。
【請求項17】
請求項1〜10に記載の組換えゼラチンを製造するための方法であって、下記を含む方法:
a)請求項1〜10に記載のポリペプチドをコードする核酸配列が適切なプロモーターに作動可能な状態で連結したものを含む発現ベクターを調製し、
b)前記の核酸配列をメチロトローフ酵母において発現させ、
c)前記の核酸配列を発現させるのに適切な発酵条件下でその酵母を培養し、
d)場合により前記ポリペプチドを培養物から精製する。

【公表番号】特表2010−518833(P2010−518833A)
【公表日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−550598(P2009−550598)
【出願日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際出願番号】PCT/NL2008/050100
【国際公開番号】WO2008/103042
【国際公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【出願人】(509077761)フジフィルム・マニュファクチュアリング・ヨーロッパ・ベスローテン・フエンノートシャップ (25)
【Fターム(参考)】