説明

高い抗血管形成活性を示す変異体PF4ポリペプチド

本発明は野生型PF4タンパク質の配列と比較した場合に、67番目の位置に置換を有する、例えばL67H置換を有するPF4ムテインに関する。そのようなPF4ムテインは野生型PF4タンパク質と比較して、向上した抗血管新生活性及び低減したプロテオグリカンへの親和性を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、野生型PF4タンパク質の配列と比較して、67番目の位置に置換を含む、例えばL67H置換を含むPF4ムテインに関する。そのようなPF4ムテインは野生型PF4タンパク質と比較して、向上した抗血管新生活性及び低減したプロテオグリカンへの親和性を示す。
【0002】
血管新生、すなわち新しい血管の発生は、生理学的な状態(例えば胚発生、創傷治癒、などの最中)及び病的な状態(例えば癌)の両方で起こる、複雑な生物学的過程である(例えばBikfalvi and Bicknell, 2002 Trends Pharmacol Sci. 23:576-82を参照のこと)。血管新生は、血管新生促進因子と血管新生抑制因子との間の実質的なバランスによって制御される。血管新生を促進する因子として知られているものとしては、線維芽細胞成長因子、血管内皮成長因子(VEGF)、血小板由来成長因子(PDGF)及びアンギオポエチンのファミリーが挙げられる。
【0003】
腫瘍の成長には血管新生が必要であり、かつ拡散性の分子がこの過程を制御すると考えられることから、多くの抗癌研究プロジェクトにおいて、血管新生を阻害することが可能な分子が研究対象とされてきた(例えば、Auguste et al. 2005 Crit Rev Oncol Hematol. 54:53-61を参照のこと)。血管新生抑制分子には、アバスタチン(avastatin)のような抗体、小さい化学分子、及び内生因子、とりわけ血小板第4因子(PF4)が含まれる。
【0004】
当面の間、癌又は眼疾患における血管新生の阻害は主に、最初に血管内皮成長因子(VEGF)を阻害することに基づく。臨床試験及び臨床におけるVEGFアンタゴニストの現行の使用により、数多くの副作用及び治療への抵抗性が示されてきた。そのため、改善された特性を有する、新規抗血管新生分子の獲得が必要とされている。
【0005】
CXC−ケモカインファミリーは、主に化学誘引及び様々な免疫炎症性反応における特定の白血球の活性化に関与する炎症促進性のサイトカインを含む。血管新生促進性ケモカイン及び血管新生抑制性ケモカインの両方を含むことから、CXCケモカインファミリーは独特なものである。血小板第4因子(PF4又はCXCL4)は、血管新生の制御因子として最初に記載されたケモカインである(Maione et al. 1990 Science. 247:77-9、及び国際公開第85/04397号)。
【0006】
Maioneら(1991 Cancer Res. 51:2077-8)はPF4のPF4−241突然変異体について記載している。この突然変異体は、野生型PF4タンパク質に比較して4つの置換、すなわちK61Q、K62E、K65Q及びK66E突然変異を含む。この突然変異体の活性はヘパリンとの結合から独立しているため、低い毒性及び改善されたバイオアベイラビリティを示す可能性がある。しかしながら、その抗血管新生活性は、野生型PF4タンパク質の抗血管新生活性と同等である。
【0007】
国際公開第2006/029487号では、PF4var1と命名された、PF4の天然に生じる変異体が開示されている。この変異体は野生型PF4タンパク質と比較して3つの置換、すなわちP58L、K66E及びL67H突然変異を含む。PF4var1変異体は、野生型PF4タンパク質の抗血管新生活性と比較して、高い抗血管新生活性を有する。国際公開第2006/029487号では、P58L、K66E及びL67Hの3つの変異があることが、PF4var1変異体の高い抗血管新生活性に重要であることが示唆されている。
【0008】
高い血管新生活性及びプロテオグリカンへの低い親和性を有するPF4の突然変異体の獲得が必要とされている。
【発明を実施するための形態】
【0009】
おどろくべきことに、野生型PF4タンパク質と比較して高い抗血管新生活性及びプロテオグリカンへの低い親和性の両方を付与するためには、L67H変異が十分であることが見いだされた。
【0010】
さらに具体的には、発明者らは、野生型PF4タンパク質の配列と比較して、1つから5つのC末端配列のアミノ酸が変異した、PF4ムテインを得た。L67H突然変異を含む(単独で又はその他の突然変異との組み合わせで含む)全てのムテインがインビトロで十分に高い抗血管新生活性を示すことを見いだした。抗血管新生活性のこの向上は、プロテオグリカンへの結合親和性の低下と同時に起こり、このことがPF4ムテインを新生血管へ十分に供給することに寄与している。
【0011】
本発明のPF4ムテイン及びその断片
そのため本発明は、抗血管新生活性を示し、かつ、配列番号2と少なくとも80、85、90、95、96、97又は98%同一の配列を含むポリペプチドに関し、前記ポリペプチドは配列番号2の67番目の位置に置換を含み、かつ、前記ポリペプチドは:
i)配列番号4、5若しくは6の60番目から67番目まで又は58番目から67番目までのアミノ酸と同一の配列を含み;及び/又は
ii)配列番号2の66番目の位置におけるリシンからグルタミン酸への置換、及び配列番号2の67番目の位置におけるロイシンからヒスチジンへの置換の両方を含まないものである。
【0012】
そのようなポリペプチドは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13又は14単一点突然変異により、配列番号2の野生型PF4ポリペプチドから誘導することが可能である。
【0013】
配列番号4、5又は6の58番目から67番目までのアミノ酸に同一な前記配列は好ましくは、配列番号2の58番目から67番目までのアミノ酸に対応する位置に配置される。例えば、前記ポリペプチドが配列番号2と比較していずれの欠損又は挿入をも含まない場合には前記配列は本発明のポリペプチドの58番目から67番目までの位置に配置されるが、前記ポリペプチドが例えば配列番号2の1番目の位置を欠損している場合には、本発明のポリペプチドの57番目から66番目までの位置に配置される。
【0014】
「抗血管新生活性」とは、血管の成長を部分的に又は全体的に阻害する能力を意味する。化合物が抗血管新生活性を示すかどうかを決定する方法は当該分野において周知であり、例えば、実施例1に記載した、ウシ大動脈内皮(BAE)細胞を用いたアッセイが含まれる。このアッセイでは、BAE細胞を組換えFGF2で刺激し、そして細胞の生存/増殖を測定する。
【0015】
本発明はまた、配列番号2と少なくとも80、85、90、95、96、97又は98%同一の配列を含むポリペプチドに関し、前記ポリペプチドは配列番号2の67番目の位置に置換を含み(例えばL67H)、かつ、前記ポリペプチドは配列番号2の58番目の位置から67番目の位置にわたる領域中に、最大で2つの単一点突然変異を含む(例えばK66E及びL67H)。
【0016】
上記ポリペプチドは今後、「本発明のPF4ムテイン」と称される。
【0017】
「PF4」とは、C−X−Cモチーフケモカイン4、オンコスタチン−A及びイロプラクト(iroplact)の名前でもまた知られている血小板第4因子を意味する。野生型PF4タンパク質の配列を配列番号1(完全長タンパク質)及び配列番号2(成熟タンパク質)として示す。PF4−241突然変異体の配列(成熟タンパク質)を配列番号3に示す。
【0018】
本発明のPF4ムテインは全て、配列番号2の67番目の位置に置換を含む。配列番号2の67番目の位置のロイシンが好ましくは、ヒスチジンの物理化学的特性に類似の特性を有するアミノ酸、例えば、ヒスチジン、リシン及びアルギニンからなる群より選択される、塩基性側鎖をもつアミノ酸で置換される。その結果、67番目の位置のロイシンが好ましくは、塩基性側鎖をもつアミノ酸で置換される。もっとも好ましくは、前記置換は、配列番号2の67番目の位置のロイシンのヒスチジンへの置換である。
【0019】
本発明のPF4ムテインはその他の単一点突然変異をさらに含んでいてもよく、この単一突然変異はアミノ酸の置換、挿入、又は欠損であってもよい。その他の単一点突然変異は好ましくは置換であり、これは保存的であっても保存的ではなくてもよい。その他の単一点突然変異は配列番号2に示す野生型PF4タンパク質のアレルの変異又は天然に生じない突然変異のいずれかに相当するものであってもよい。
【0020】
「保存的置換」とは、以下の表に示す置換のうちの1つを意味する。
【表1】

【0021】
本発明のクエリーアミノ酸配列と少なくとも、例えば、95%「同一な」アミノ酸配列を有するポリペプチドとは、クエリーアミノ酸配列の各100アミノ酸当たり最大5アミノ酸までの変異を対象ポリペプチド配列が含み得るという点を除いて、対象ポリペプチドのアミノ酸配列がクエリー配列と同一であることを意図する。言い換えると、クエリーアミノ酸配列と少なくとも95%同一のアミノ酸配列を有するポリペプチドを得るためには、対象配列中の最大5%(100当たり5)までのアミノ酸残基に、挿入、欠失、又は別のアミノ酸による置換を加えてもよい。
【0022】
2つ以上の配列の同一性及び相同性を比較するための方法は当該分野において周知である。例えば2つの配列間の同一性のパーセンテージを決定するためには、それらの全長を考慮して、2つの配列に最適なアライメント(ギャップを含む)を見いだすためのNeedleman−Wunschグローバルアライメントアルゴリズムを用いた「needle」プログラムを用いることができる。needleプログラムは例えば、ワールドワイドウェブサイトのebi.ac.ukから利用可能である。
【0023】
好ましい実施形態において本発明のPF4ムテインは、1つの単一アミノ酸置換、すなわち配列番号2の67番目の位置の置換(例えばロイシンからヒスチジンへの置換)を有することにより、配列番号2(野生型PF4タンパク質)又は配列番号3(PF4−241)の配列とは異なる。そのような本発明のPF4ムテインの例としては、配列番号4又は6を含む又は配列番号4又は6からなるポリペプチドが挙げられる。当業者には明らかなようにこの実施形態は、1つの単一アミノ酸置換を含むことのみにより、配列番号2(野生型PF4タンパク質)又は配列番号3(PF4−241タンパク質)の配列とは異なるPF4ムテインを包含することを目的とする。
【0024】
別の好ましい実施形態において本発明のPF4ムテインは、さらなる単一アミノ酸置換、すなわち、配列番号2の67番目の位置の置換(例えばロイシンのヒスチジンへの置換)と少なくとも1つのさらなる単一アミノ酸置換を有することにより、配列番号2又は3の配列とは異なる。
【0025】
さらなる単一アミノ酸置換は例えば、
i)配列番号2の56番目の位置の置換、例えば塩基性側鎖を有するアミノ酸への置換、好ましくはグルタミンからアルギニンへの置換;及び/又は
ii)配列番号2の58番目の位置の置換置換、例えばプロリンからロイシンへの置換;及び/又は
iii)配列番号2の61番目の位置の置換、例えばリシンからグルタミンへの置換;及び/又は
iv)配列番号2の62番目の位置の置換、例えばリシンからグルタミン酸への置換;及び/又は
v)配列番号2の65番目の位置の置換、例えばリシンからグルタミンへの置換;及び/又は
vi)配列番号2の66番目の位置の置換、例えばリシンからグルタミン酸置換、
からなる群より選択することができる。
【0026】
67番目の位置の置換に加えて、本発明のPF4ムテインは上述の単一アミノ酸置換の任意の組み合わせ、例えばi+ii、i+iii、i+iv、i+v、i+vi、ii+iii、ii+iv、ii+v、ii+vi、iii+iv、iii+v、iii+vi、iv+v、iv+vi、v+vi、i+ii+iii、i+ii+iv、i+ii+v、i+ii+vi、ii+iii+iv、ii+iii+v、ii+iii+vi、iii+iv+v、iii+iv+vi、iv+v+vi、i+ii+iii+iv、i+ii+iii+v、i+ii+iii+vi、ii+iii+iv+v、ii+iii+iv+vi、iii+iv+v+vi、i+ii+iii+iv+v、i+ii+iii+iv+vi、ii+iii+iv+v+vi又はi+ii+iii+iv+v+viを含んでもよい。さらなる単一アミノ酸置換が配列番号2の66番目の位置におけるグルタミン酸置換を含む場合、67番目の位置の置換は好ましくは、ロイシンからヒスチジンへの置換ではないものである。
【0027】
その上さらに別の好ましい実施形態において本発明のPF4ムテインは、2つの単一アミノ酸置換を有することから、配列番号2(野生型PF4タンパク質)又は配列番号3(PF4−241タンパク質)の配列とは異なる。2つのアミノ酸置換を有することにより配列番号2又は3の配列とは異なる本発明のPF4ムテインの例としては、配列番号5、7又は8を含む又は配列番号5、7又は8からなるポリペプチドが挙げられる。当業者には明らかなように、この実施形態は、2つの単一アミノ酸置換を有することのみにより配列番号2(野生型PF4タンパク質)又は配列番号3(PF4−241タンパク質)の配列とは異なるPF4ムテインを包含することを目的とする。
【0028】
本発明のPF4ムテインはこの配列に加えて、配列番号2に少なくとも80%同一の配列をさらに含んでいてもよい。例えば本発明のPF4ムテインはシグナルペプチドを含む場合がある。シグナルペプチドはPF4の天然のシグナルペプチド(すなわち配列番号1の1番目から31番目のアミノ酸)であってもよく、又は、例えば特定の宿主細胞中での発現に好適な異種シグナルペプチドであってもよい。あるいは加えて、本発明のPF4ムテインは、ムテインと検出マーカー又は細胞毒性薬のような分子とを結合させるのに好適なリンカー配列を含んでもよい。
【0029】
本発明はまた、本発明のPF4ムテインの少なくとも6つの連続したアミノ酸の断片を含み又はこれらからなり、かつ、抗血管新生活性を示すポリペプチドに関する。この断片は好ましくは、配列番号2の66番目及び67番目の位置を含む。最も好ましくは、この断片は、配列番号2の60番目から67番目まで、又は58番目から67番目までの位置を含む。
【0030】
本明細書で使用する場合、「配列番号2の58番目から67番目までの位置を含む断片」、又は「配列番号2の66番目及び67番目の位置を含む断片」とは、本発明のPF4ムテインに保存されている断片を意味し、前記断片はPF4のこれらの位置のアミノ酸を含む領域を含む。これらの断片は、配列番号2に示す野生型PF4タンパク質の対応する断片に比較して、少なくとも1つの単一点置換(すなわち配列番号2の67番目の位置におけるロイシンからヒスチジンへの置換)を含む。
【0031】
そのような断片は、少なくとも6、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60又は65の連続した、本発明のPF4ムテインのアミノ酸を含むか又はこれらからなる。
【0032】
特定の実施形態においてそのような断片は、少なくとも6、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60又は65の連続した、配列番号4、5、6、7又は8のいずれか1つのアミノ酸を含む又はこれらからなる。
【0033】
別の特定の実施形態においてそのような断片は、配列番号4、5又は6の、60番目から67番目まで、又は58番目から67番目までのアミノ酸と同一な配列を含む。
【0034】
断片は例えば、配列番号2の17番目の位置から70番目の位置までにわたる断片をからなる、PF4の短いイソ型に相当するものであってもよい。
【0035】
断片はまた、ペプチド、すなわち50アミノ酸未満のポリペプチドに相当するものであってもよい。
【0036】
本発明のそのようなペプチドは例えば、配列番号2の67番目の位置に少なくとも1つの置換(例えばロイシンからヒスチジンへの置換)を挿入することにより、Ragonaら(2009 Biochem Biophys Res Commun. 382:26-9)、Bennyら(2005 Clin Cancer Res. 11:768-76)、Bikfalvi(2004 Semin Thromb Hemost. 30:379-85)、Giussaniら(2003 Cancer Res. 63:2499-505)、Hagedornら(2002 Cancer Res. 62:6884-90)、Hagedornら(2001 FASEB J. 15:550-2) 又は Jouanら(1999 Blood. 94:984-93)に記載されているペプチドから誘導することができる。
【0037】
本発明のペプチドはまた、国際公開第02/06300号に記載されているペプチドのうちの1つからも誘導することができる。それらは例えば、配列番号2の47番目の位置から70番目の位置にわたる断片を含む又はそれらからなっていてもよい。好ましい実施形態においてペプチドは、配列番号2の47番目の位置から70番目までの位置にわたる断片にインフレームで融合させた、配列番号2の17番目の位置から34番目の位置にわたる断片を含む又はそれらからなる。配列番号9のペプチドがそのような本発明のペプチドの一例である。
【0038】
本発明のペプチドは任意に、それらの安定性及び/又はそれらのバイオディスポニビリティ(biodisponibility)を向上させる化学修飾を含んでいてもよい。そのような化学修飾は、インビボでの酵素分解に対する保護、及び/又は膜のバリアを貫通する能力が向上し、その結果、その半減期及び維持が増大し、又はその生物学的活性が向上したペプチドの獲得を目的としている。当該分野において既知の任意の化学修飾を本発明に用いることができる。そのような化学修飾には、
例えばN末端アシル化(好ましくはアセチル化)又は脱アミノ化のような、ペプチドのN末端及び/又はC末端修飾、又はC末端カルボキシル基をアミド又はアルコール基にする修飾;
2つのアミノ酸の間のアミド結合の修飾:2つのアミノ酸を結合しているアミド結合の窒素原子又はアルファ炭素のアシル化(好ましくはアセチル化)又はアルキル化(好ましくはメチル化);
例えば2つのアミノ酸を結合しているアミド結合のアルファ炭素のアシル化(好ましくはアセチル化)又はアルキル化(好ましくはメチル化)のような、アルファ炭素の修飾;
例えば1つ以上の天然に生じるアミノ酸(L鏡像異性体)を相当するD−鏡像異性体に置換するようなキラル変化;
アミノ酸の鎖の反転と共に(C末端からN末端)、1つ以上の天然に生じるアミノ酸(L−鏡像異性体)が相当するD−鏡像異性体に置換されるレトロ反転;
1つ以上のアルファ炭素が窒素原子に置換されるアザペプチド;及び/又は
1つ以上のアミノ酸のアミノ基がα炭素よりもβ炭素に結合しているベータペプチド;
が含まれるがこれらには限定されない。
【0039】
本発明のPF4ムテインの少なくとも6つの連続したアミノ酸の断片を含み、かつ、抗血管新生活性を示すポリペプチドは、本発明のPF4ムテインに保存される断片に加えて、さらに配列を含む場合がある。例えばそれらは、シグナルペプチド、リンカー配列又は第二の、本発明のPF4ムテインの少なくとも6つの連続したアミノ酸の断片を含んでいてもよい。
【0040】
特定の実施形態において、本発明のPF4ムテインの少なくとも6つの連続したアミノ酸の断片を含み、かつ、抗血管新生活性を示すポリペプチドは、連続していない少なくとも2つの、本発明のPF4ムテインの少なくとも6つの連続したアミノ酸、の断片から成る。
【0041】
本発明のPF4ムテイン及びその断片は、好ましくは、野生型PF4タンパク質と比較して高い抗血管新生活性を示す。
【0042】
本発明のPF4ムテイン及びその断片はまた好ましくは、野生型PF4タンパク質と比較して、ヘパリン及び/又はヘパリン硫酸への低い親和性を示す。化合物のヘパリン及び/又はヘパリン硫酸塩への親和性を決定する方法は当該分野において周知である。親和性は例えば、実施例1に記載したように、BIAcoreの装置を備えた表面プラズモン共鳴により決定することができる。
【0043】
好ましい実施形態において本発明のPF4ムテイン及びその断片は、
i)それらのヘパリンへの親和定数が少なくとも4、8又は10μMである;及び/又は
ii)それらのヘパラン硫酸塩への親和定数が少なくとも10、3.10又は10μMである;及び/又は
iii)FGF−2で刺激したBAEを用いた増殖アッセイにより決定したそれらのIC50が、160、90又は42ng/mlよりも低いものである、
のうちの少なくとも1つの特徴を示す。
【0044】
本発明のPF4ムテインは例えば、(i)及び(ii);(i)及び(iii);(ii)及び(iii);又は(i)、(ii)及び(iii)の特徴を示す場合がある。
【0045】
PF4ムテイン及びその断片の治療における使用
本発明のPF4ムテイン及びその断片は抗血管新生活性を示す。そのためこれらは、インビトロ及びインビボの両方において、血管新生の阻害に有用なものである。
【0046】
血管新生の阻害が望まれる疾患は、当業者には周知である(例えば、Carmeliet 2005 Nature. 438:932-6を参照のこと)。疾患は例えば、Carmeliet(2005 Nature. 438:932-6)の添付の表1に挙げられた疾患のいずれか1つに相当するものであってもよい。
【0047】
より具体的には本発明は、癌、眼の新生血管障害、炎症性疾患、自己免疫疾患、感染、血管疾患、皮膚疾患、肺疾患、腸疾患、生殖系疾患、骨及び/又は関節疾患、糖尿病、肥満及び肝硬変からなる群より選択される疾患の治療における、本発明のPF4ムテイン及びその断片の使用を指向する。
【0048】
本明細書で使用する場合、用語「」とは、任意の型の悪性(すなわち良性ではない)腫瘍を指す。腫瘍は好ましくは、固形の悪性腫瘍に相当し、例えば癌腫、腺癌、肉腫、悪性黒色腫、中皮腫並びに神経芽細胞腫、膠芽腫及び網膜芽細胞腫のような芽細胞腫が含まれる。あるいは癌は、リンパ腫又は白血病のような血液癌である場合もある。癌は例えば、肺、直腸結腸、膵臓、胃、喉頭、鼻咽頭、甲状腺、膀胱、陰茎、前立腺、精巣、尿道、乳、子宮頸、子宮内膜、卵巣、膣、外陰、肝臓、腎臓又は網膜癌に相当するものであってもよい。最も好ましい実施形態において癌は転移性の癌である。
【0049】
本明細書を通して使用する場合、用語「眼の新生血管障害」とは、硝子体過形成遺残症候群、糖尿病性網膜症(例えば増殖糖尿病性網膜症)、未熟網膜症、虚血性網膜症、眼内血管新生、黄斑変性、角膜血管新生、網膜血管新生、脈絡膜新生血管、糖尿病性黄斑浮腫、糖尿病性網膜虚血及び糖尿病性網膜浮腫のような障害を指す。
【0050】
本明細書を通して使用する場合、用語「炎症性疾患」とは、炎症によって引き起こされる、又は炎症をもたらす疾患を指す。炎症は、罹患した血管及び隣接した組織で、損傷又は物理的、化学的、又は生物学的な薬剤による異常な刺激に反応して起こる、動的で複雑な細胞学的及び化学的応答からなる病的過程である。炎症性疾患は好ましくは、慢性炎症性疾患に相当する。
【0051】
本明細書を通して使用する場合、「自己免疫疾患」とは、関節リウマチ(RA)、多発性硬化症(MS)、炎症性大腸炎(IBD)、クローン病、全身性エリテマトーデス(SLE)、バセドウ病及び真性糖尿病を含むがこれらには限定されない。
【0052】
本明細書を通して使用する場合、用語「感染」とは、ウイルス感染(例えばAIDS)及び細菌感染を含むがこれらには限定されない。
【0053】
本明細書を通して使用する場合、用語「糖尿病」は、I型及びII型両方の糖尿病を含む。
【0054】
血管疾患」とは、血管奇形、ディジョージ症候群、HHT、海綿状血管腫、アテローム性動脈硬化及び移植後血管病変のような疾患を意味する。
【0055】
皮膚疾患」とは、乾癬、疣贅、アレルギー性皮膚炎、ケロイド瘢痕、化膿性肉芽腫、水疱性疾患及びカポジ肉腫のような疾患を意味する。
【0056】
肺疾患」とは、喘息、原発性肺高血圧症及び鼻茸のような疾患を意味する。
【0057】
腸疾患」とは、炎症性大腸炎、歯周病、腹水及び腹膜癒着のような疾患を意味する。
【0058】
生殖系疾患」とは、子宮内膜症、子宮出血、卵巣嚢胞及び卵巣過刺激のような疾患を意味する。
【0059】
骨及び/又は関節疾患」とは、関節炎、滑膜炎、骨髄炎及び骨棘形成のような疾患を意味する。
【0060】
本発明はさらに、有効量の本明細書において記載したポリペプチドをそれを必要とする患者に投与する工程を含む、血管新生を阻害する方法、及び/又は癌、眼の新生血管障害、炎症性疾患、自己免疫疾患、感染、血管疾患、皮膚疾患、肺疾患、腸疾患、生殖系疾患、骨及び/又は関節疾患、糖尿病、肥満及び肝硬変からなる群より選択される疾患を治療又は予防する方法を指向する。前記患者は、好ましくは、癌、眼の新生血管障害、炎症性疾患、自己免疫疾患、感染、血管疾患、皮膚疾患、肺疾患、腸疾患、生殖系疾患、骨及び/又は関節疾患、糖尿病、肥満及び肝硬変からなる群より選択される疾患を発症している、又はそれらを発症するリスクのある患者である。
【0061】
有効量」とは、ポリペプチドの濃度を、治療対象となる疾患を予防する、治療する、又はその進行を遅らせることが可能な濃度にするために十分な量を意味する。当業者は、そのような濃度を慣習的に決定することができる。実際に投与される化合物の量は、一般的には、治療対象となる状態、選択された投与経路、実際に投与する化合物、年齢、体重、及び個々の患者の反応、患者の症状の重篤度などを含む関連する状況を考慮して、医師により決定されるだろう。用量は投与されるポリペプチドの安定性によって多様になり得ることもまた、当業者には明かだろう。
【0062】
治療する」とは、治療上での使用を意味し、「予防する」とは、予防的な使用を意味する。
【0063】
本発明の範囲内で治療を受ける患者は、好ましくはヒト患者である。しかしながら、その他の哺乳類を治療するための、本発明のPF4ムテイン及びその断片の獣医学的使用についてもまた、本発明では検討する。
【0064】
本発明は、本発明のPF4ムテインをコードしている核酸若しくはその断片、又はそのような核酸を含むベクターの、血管新生を阻害するための使用にもまた関する。
【0065】
核酸、宿主細胞及び組換えPF4ムテイン及びその断片の製造方法
本発明の一態様は、本発明のPF4ムテインをコードしている核酸又はその断片に関する。PF4ムテイン又はその断片は、上の段落において記載したポリペプチドのいずれか1つに相当するものであってもよい。
【0066】
当業者はそのような核酸を、例えば実施例1に記載したように、野生型PF4をコードしているcDNAをクローニングし、部位特異的突然変異生成によって突然変異を導入することにより、容易に得ることができる。
【0067】
核酸を例えば、発現ベクターのようなベクター中に含ませてもよい。そのような発現ベクター中では、本発明の核酸は、コードされたポリペプチドの発現を可能にする、シグナル(例えばプロモーター、ターミネーター、及び/又はエンハンサー)の制御下におかれる。ベクターは、複数のクローニング部位、選択マーカー、検出マーカーなどをさらに含んでいてもよい。
【0068】
任意にベクター中に挿入される核酸を、次に、宿主細胞に導入してもよい。従って、本発明は、本発明の核酸を含む宿主細胞に関する。
【0069】
そのような宿主細胞は、本発明の組換えムテイン又はその断片の製造に有用である。組換えタンパク質の製造に好適な宿主細胞は当該分野において周知であり、それらには例えば、細菌細胞(例えばE.coli)、酵母細胞(例えばS.cerevisiae)、真菌細胞(例えばA.niger)、植物細胞、昆虫細胞、並びに、CHO細胞、マウス細胞及びヒト細胞(例えばHEK293及びPER.C6)のような哺乳類細胞が含まれる。
【0070】
従って本発明は、
a)本発明の宿主細胞を準備する工程;
b)前記ポリペプチドの製造に好適な条件下で前記宿主細胞を培養する工程;及び、任意に、
c)前記ポリペプチドを精製する工程、及び任意に、
d)前記ポリペプチドを医薬組成物に処方する工程、
を含む、本発明のPF4ムテイン又はその断片の製造方法を指向する。
【0071】
あるいは、本発明のPF4ムテイン又はその断片を化学合成によって製造することもできる。実際小さいペプチドの製造には、化学合成が特に適用される。
【0072】
PF4ムテイン及び/又はその断片を含む医薬組成物
本発明のPF4ムテイン又はその断片を医薬組成物として処方してもよい。従って本発明は、本発明のPF4ムテイン又はその断片及び生理学的に許容可能な担体を含む医薬組成物について検討する。当業者は、既知のいずれの方法からも生理学的に許容可能な担体を調製することができる。
【0073】
本発明のPF4ムテイン又はその断片を含む医薬組成物には、目的を達成するのに有効な量のポリペプチド及び/又はペプチドを含む、全ての組成物が含まれる。加えて、医薬組成物は、活性化合物を薬学上使用可能な調製物として処理する工程を促進するための賦形剤及び左剤を含む、好適な薬学上許容可能な担体を含んでいてもよい。好適な薬学上許容可能な媒体は当該分野において周知であり、例えばこの分野における標準的な教科書である、Remington's Pharmaceutical Sciences(Mack Publishing Company, Easton, USA, 1985)に記載されている。ペプチドの投与方法、溶解度及び安定性に従って、薬学上許容可能な媒体を慣習的に選択することができる。例えば、静脈内投与用の製剤は、緩衝液、希釈剤及びその他の好適な添加剤をもまた含有する可能性のある、無菌的な水溶液を含み得る。薬物送達のための生体材料及びその他のポリマーの使用、並びに別の技術及び特定の投与方法を確認するためのモデルについては文献において開示されている。
【0074】
目的を達成するための任意の手段により、本発明のPF4ムテイン又はその断片を投与することができる。例えば、皮下、静脈内、皮内、筋内、腹腔内、脳内、鞘内、鼻腔内、経口、直腸、経皮的、口腔、局所、局部、吸入又は皮下の使用を含むがこれらには限定されない数多くの方法により、投与を行うことができる。
【0075】
投与される用量は、個々のニーズ、望まれる効果、及び選択された投与経路により異なる。投与される用量は、性別、健康状態、及び受容者の体重、併用療法、併用療法を受ける場合には、治療の頻度、及び望まれる効果の特性、に依存して異なることを理解されたい。それぞれの治療に必要とされる総量を、複数回投与又は単回投与により投与することができる。
【0076】
目的の送達経路によっては、化合物を、液体(例えば、溶液、懸濁液)、固体(例えば、丸薬、錠剤、座剤)又は半固体(例えば、クリーム、ゲル)の剤形に処方してもよい。
【0077】
好ましい実施形態において組成物は、正確な投与を促すための単位容量形態で提供される。用語「単位容量形態」とは、ヒト対象及びその他の哺乳類への単回投与として好適な、物理的に別個の単位を指し、ここで各単位は、所望される治療効果をもたらすように算出された、予め決められた量の活性成分と、好適な医薬賦形剤とを含むものである。一般的に単位容量形態は、充填済みの、予め測定された、液体組成物のアンプル若しくはシリンジ、又は固体組成物の場合には、丸薬、錠剤、カプセルなどを含む。そのような組成物では、本発明の化合物は一般に少ない方の構成要素(約0.1〜約50重量%又は好ましくは約1〜約40重量%)であり、その他の部分は様々な媒体若しくは担体、及び所望の剤形に処方するのに有用な加工助剤である。
【0078】
本発明のPF4ムテイン又はその断片を、持続放出形態において又は持続放出性薬物送達システムにより投与することもできる。
【0079】
「生理学的に許容可能な」という表現は、活性成分の生物学的活性の効果を干渉しない、かつ、投与される宿主にとって有毒でない任意の担体を包含することを意味する。例えば非経口投与用には、注入のための単位容量形態として上述した活性成分を、生理的食塩水、デキストロース溶液、血清アルブミン及びリンガー液のような媒体中に処方してもよい。
【0080】
薬学上許容可能な担体に加えて、安定剤、賦形剤、緩衝剤及び保存剤のような少量の添加剤を本発明の組成物に加えることもできる。
【0081】
本発明はまた、例えば遺伝子治療による治療における、本発明のPF4ムテイン又はその断片をコードしている核酸を含む医薬組成物についても検討する。この例において核酸は、好ましくは、ベクターに挿入された状態で提供され、ここでペプチドをコードしている配列は、その発現を可能にする発現シグナル(例えばプロモーター、ターミネーター及び/又はエンハンサー)の制御下におかれる。ベクターは例えば、アデノウイルス又はレンチウイルスベクターのようなウイルスベクターに相当するものであってもよい。
【0082】
本発明はさらに、本発明のPF4ムテイン又はその断片を含む医薬組成物及び投与方法についての説明を含むキットを提供する。これらの説明においては、例えば、医学的適応、及び/又は投与経路、及び/又は用量、及び/又は治療する患者群を示すことができる。
【0083】
学術論文若しくは要約、公開されている若しくは未公開の特許出願、交付済み特許又はいずれのその他の参考文献を含む本明細書で引用した全ての参考文献は、引用した参考文献中に示されている全てのデータ、表、図面及び文章を含め、参照することによりその全体が本明細書に組み入れられる。
【0084】
「含む」「有する」「含有する」及び「からなる」という用語はそれぞれ個別の意味を有するが、これらは本明細書を通じて同じ意味で用いられ、他方の語に置き換えることもできる。
【0085】
以下の実施例及び図面を考慮して、本発明はさらに評価されるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】図1は、ケモカインPF4のGAGへの親和性を変化させるためには、ヒスチジン67の変異が重要であることを示す。A.2μMの異なるタンパク質を固定化したヘパリン及びへパラン硫酸上に注入したBiacore解析。B.PF4及び変異体のエクスビボでの拡散性。特異的抗PF4ELISAにより、膜に結合したタンパク質の量を決定した。結果は、3つの複製を用いて行った、3回の独立した実験の、平均±標準偏差である。
【図2A】図2は、ケモカインPF4の生物学的活性を変化させるためには、ヒスチジン67の変異が重要であることを示す。異なる濃度の組換えタンパク質を、FGF−2で刺激したウシ大動脈内皮細胞(BAEC)を用いた増殖アッセイに加えた。結果は、3つの複製を用いて行った、3回の独立した実験の、平均±標準偏差である。
【図2B】図2は、ケモカインPF4の生物学的活性を変化させるためには、ヒスチジン67の変異が重要であることを示す。異なる濃度の組換えタンパク質を、FGF−2で刺激したウシ大動脈内皮細胞(BAEC)を用いた増殖アッセイに加えた。結果は、3つの複製を用いて行った、3回の独立した実験の、平均±標準偏差である。
【0087】
配列の簡単な説明
配列番号1は、完全長野生型PF4タンパク質の配列を示す。
配列番号2は、成熟野生型PF4タンパク質の配列を示す。
配列番号3は、PF4−241変異体の配列を示す。
配列番号4は、L67H変異を含むPF4ムテインの配列を示す。
配列番号5は、P58L変異及びL67H変異を含むPF4ムテインの配列を示す。
配列番号6は、L67H変異を含むPF4−241変異体の配列を示す。
配列番号7は、Q56R変異及びL67H変異を含むPF4ムテインの配列を示す。
配列番号8は、Q56R変異及びL67H変異を含むPF4−241変異体の配列を示す。
配列番号9は、Q56R変異及びL67H変異を含む本発明のペプチドの配列を示す。
【0088】
実施例
実施例1:材料及び方法
1.1.細胞培養
抗生物質、1%グルタミン、及び10%ウシ胎仔血清又は10%ウシ血清を含むDMEM(Invitrogen、Cergy Pontoise、France)培地中でBAE細胞を生育させ、37℃、10% CO条件下で維持した。
【0089】
1.2.プラスミド
2回の連続した工程により、pCDNA−PF4から、ヒトPF4/CXCL4cDNAのコード領域をクローニングした。最初に、PF4に結合するプライマーを用いてより長いPF4cDNA断片を増幅した。
【0090】
単位複製配列(306bp)をpSC−Aベクター(Stratagene)にクローニングした。再構成したプラスミドをDNAシークエンシングにより確認した。この構築物を、成熟PF4タンパク質のコード領域を増幅するための鋳型として用いた。精製したPCR産物をBamH1及びXho1制限酵素で消化し、そして、pGEX−PF4発現ベクターを生成するために、プラスミドpGEX−6P−2(Amersham Biosciences)に挿入した。最後に、自動DNAシークエンシング解析により、選択したクローンのヌクレオチド配列を確認した。
【0091】
1.3.pGEX−PF4変異体発現ベクター組み換え体の構築
QuikChange II XLキット(Stratagen)を用いた部位特異的突然変異生成に、pGEX−PF4発現ベクターをDNA鋳型として用いた。最終的に、既に記載されているように(Lasagni et al. 2007 Blood. 2007 109:4127-34 ; Bastide et al. 2008 Nucleic Acids Res. 36:2434-45)、DNAシークエンシング解析により、pGEX−PF4変異体クローンのスクリーニングを行った。
【0092】
1.4.組み換え体PF4及び変異体のE.coli内での生産
上述した異なるcDNAを含む、pGEX−6P−2(GST融合発現ベクター、Amersham)組換えベクターを用いて形質転換したE.coli BL21(DE3)を、100μg/mlのアンピシリンを加えた100mlのLB培地中で生育させた。OD600 nmが0.3〜0.5に達した後、培地を揺すりながら0.5mmol/Lのイソプロピル−1−チオ−β−D−ガラクトピラノシド(IPTG)(Euromedex)を添加することにより、融合タンパク質の発現を誘導した。220rpm、25℃で、培地を一晩生育させた。IPTGで誘導した試験培養及び空のpGEX−6P−2ベクターを含むIPTGで誘導した対照培養を、5000回転/分、15分、4℃での遠心分離により回収した。PBS 1X(10mM NaHPO、1.8mM KHPO、140mM NaCl、2.7mM KCl、pH7.3、Lonza)、1mg/mlリゾチーム(Sigma)及びプロテアーゼ阻害剤カクテル(Roche)を含む10倍量の溶解緩衝液に、沈殿物を再懸濁した。液体窒素での凍結とその後の氷浴中での超音波処理(6、30秒の超音波処理工程)による凍結/融解で細胞を溶解した。DNAを完全に断片化するために、5g/mlのDNaseI(Sigma)を加え、氷上で15分間撹拌した。12000回転/分、30分、4℃での遠心分離により細胞残渣を除去し、上清を回収した。
【0093】
1.5.GST−PF4及び変異体組換えタンパク質を精製するためのアフィニティクロマトグラフィー工程
可溶性GST−PF4(又は別の変異体)組換えタンパク質を含む上清を、PBS IXを用いて流速1ml/分、室温で予め平衡化しておいたGSTrap HPアフィニティカラム(5ml;Amersham Biosciences)にロードした。OD 280nmでの吸収が基準に戻るまで、結合させた材料をPBS IXを用いて洗浄した。基準値で安定したら、カラムの10倍量の溶出緩衝液(PBS IX、20mM 還元グルタチオン、pH8.0)を用い、流速1ml/分で、結合したGST−PF4組換えタンパク質を溶出した。GST−PF4組換えタンパク質を含む溶出画分をプールした。クマシーブルー(Biorad)で染色したSDS-PAGEゲル及びウェスタンブロット解析を用いて精製段階及びアフィニティクロマトグラフィーのプロファイルを解析した。
【0094】
1.6.細胞生死判別試験
BAE細胞を、平底の96−ウェルプレートに5x10細胞/ウェルの密度で24時間プレーティングした。一晩血清飢餓を行った後、細胞を3つに分け、異なる濃度の組換えタンパク質を加えて又は加えずに、10ng/mlの組換えFGF2で48時間処理した。細胞の生存能力をCellTiter 96 AQueous One Solution細胞増殖アッセイ(Promega)を用いて、製造業者の説明に従って、490nmで測定した。
【0095】
1.7.SPR(表面プラズモン共鳴)
BIAcore3000バイオセンサー装置(BIAcore AB)を用いてリアル−タイム結合実験を行い、レゾナンスユニット(RU)として数値化した(1000RU=1ngのタンパク質が1mmのフローセル表面に結合する単位)(Ferjoux et al. 2003 Mol Biol Cell. 14:3911-28)。グリコアミノグリカン(GAG)をビオチン化し、そしてストレプトアビジンを予め結合させておいたカルボキシルメチル化デキストランチップ上に固定化した(chip SA、BIAcore AB)。ヘパリン(140RU)及びへパラン硫酸(120RU)をフローセル2及びフローセル3上に固定化し、フローセル1を非特異的相互作用対照として用いた。可溶性リガンドを流速30μl/分で注入し、表面に曝露させ、600s(結合位相)とその後、この流れの間に解離が生じる300sで測定した。センサーグラムは特異的相互作用(差次的反応)の代表的なものであり、フローセル2及び3で生じた結合から、フローセル1で生じた非特異的結合を推定した。結果を、レゾナンスユニット(RU)を秒単位での時間の関数として表す。固定化したGAG上に異なる濃度(16〜2000nM)のタンパク質を注入することにより、全ての組換えタンパク質の結合、解離、及び親和性定数(それぞれka、kd、及びKD)を決定するための動態解析を行った。BIAevaluation 3.1ソフトウェアによる質量移動を伴う1:1 Languimuir結合モデルを用いて重ねたセンサーグラムをフィッティングさせることにより、解析を行った。GAGと組換えタンパク質複合体との解離速度は、接触時間(4分から最大8分まで)には影響されなかった。
【0096】
1.8.ELISA
市販のPF4−ELISAキット(R&D Systems)を用いてPF4及び変異体を測定した。ブランクとしてはPBSを用いた。3つの複製を用いてアッセイを行い、そして結果をSoftmax Pro4.0ソフトウェア(Molecular Devices)を用いて解析した。
【0097】
実施例2:結果
以下のタンパク質を組換えタンパク質として、E.coli内で生産した。
野生型PF4タンパク質(「PF4」と称する、配列番号2);
PF4P58L変異体(「L」とする、配列番号2の58番目の位置のプロリンがロイシンに置換されている);
PF4K66E変異体(「E」とする、配列番号2の66番目の位置のリシンがグルタミン酸に置換されている);
PF4P58LK66E変異体(「LE」とする、配列番号2の58番目の位置のプロリンがロイシンに置換されていて、かつ、66番目の位置のリシンがグルタミン酸に置換されている);
PF4P58LL67Hムテイン(「LH」とする、配列番号2の58番目の位置のプロリンがロイシンに置換されていて、かつ、67番目の位置のロイシンがヒスチジンに置換されている);
PF4K66EL67Hムテイン(「EH」とする、配列番号2の66番目の位置のリシンがグルタミン酸に置換されていて、かつ、67番目の位置のロイシンがヒスチジンに置換されている);
PF4−241変異体(「241」とする、配列番号6);及び
PF4−241L67Hムテイン(「241+H」と称する、配列番号6の67番目の位置のロイシンがヒスチジンに置換されている)
【0098】
クマシー染色及び抗PF4ウェスタンブロットにより、それぞれのタンパク質が正しく発現していることを確認した。
【0099】
Biacoreを用いてそれぞれのタンパク質のヘパリン及びヘパリン硫酸への結合性を解析し、そしてELISAによって拡散性を解析した。結果を図1に示す。L67H変異を含むムテインが、L67H変異を欠くタンパク質よりもよい拡散性を示すことを見いだした。L67H変異に加えてK61Q、K62E、K65Q及びK66E変異がある場合、拡散性はさらに高くなった(241+Hを参照のこと)。
【0100】
Biacoreを用いた結合実験によって決定した、それぞれのタンパク質の固定化したヘパリン及びヘパラン硫酸に対する親和性定数を以下の表1に示す。L67H変異がある場合、ムテインのヘパリンに対する親和性は3ログまでになり、ヘパラン硫酸への親和性は5ログまでになる。
【表2】

【0101】
FGF−2で刺激したウシ大動脈内皮細胞(BAEC)を用いた増殖アッセイにより、それぞれのタンパク質の抗血管新生活性を試験した。用量−反応曲線を図2に示す。これらの曲線により、表2に示すようなそれぞれのタンパク質の半数阻害濃度(IC50)を算出することができる。モル単位(28kDaの4量体形態としてのMW)において計算した場合のL67H変異体のIC50値は1nMであり、野生型PF4タンパク質のIC50値は84nMである。
【表3】

【0102】
結論として、PF4の生物学的活性を変化させるためにはL67H変異が重要であることを見いだした。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号2と少なくとも80%同一の配列を含むポリペプチドであって、前記ポリペプチドが、抗血管新生活性を示し、かつ、配列番号2の67番目の位置に置換を含み、そして前記ポリペプチドが:
i)配列番号4、5又は6のいずれかの60番目から67番目のアミノ酸と同一の配列を含み;又は
ii)配列番号2の66番目の位置のリシンからグルタミン酸への置換及び配列番号2の67番目の位置のロイシンからヒスチジンへの置換の両方を含まない、ポリペプチド。
【請求項2】
配列番号2の67番目の位置のロイシンが、ヒスチジン、リシン及びアルギニンからなる群より選択されるアミノ酸によって置換されている、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項3】
配列番号2の67番目の位置にロイシンからヒスチジンへの置換を含む、請求項1又は2に記載のポリペプチド。
【請求項4】
1つ又は2つのアミノ酸置換の存在によってのみ配列番号2又は3とは配列が異なる、請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリペプチド。
【請求項5】
配列番号4、5、6、7又は8のいずれかの配列を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリペプチド。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載したポリペプチドの、少なくとも6つの連続したアミノ酸の断片を含むポリペプチドであって、前記断片が、配列番号2の66番目及び67番目の位置を含み、かつ、前記ポリペプチドが、抗血管新生活性を示す、ポリペプチド。
【請求項7】
前記断片が、配列番号2の58番目から67番目までの位置を含む、請求項6に記載のポリペプチド。
【請求項8】
配列番号2の野生型PF4タンパク質と比較して、前記ポリペプチドが向上した抗血管新生活性及び低減したヘパリン及び/又はヘパリン硫酸への親和性を示す、請求項1〜7のいずれか1項に記載のポリペプチド。
【請求項9】
血管新生をインビボで阻害するための、請求項1〜8のいずれか1項に記載のポリペプチド。
【請求項10】
癌、眼の新生血管障害、炎症性疾患、自己免疫疾患、感染、血管疾患、皮膚疾患、肺疾患、腸疾患、生殖系疾患、骨及び/又は関節疾患、糖尿病、肥満及び肝硬変からなる群より選択される疾患の治療における使用のための、請求項1〜9のいずれか1項に記載のポリペプチド。
【請求項11】
前記疾患が癌である、請求項10に記載のポリペプチド。
【請求項12】
前記疾患が眼の新生血管障害である、請求項11に記載のポリペプチド。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項に記載のポリペプチドをコードしている核酸。
【請求項14】
請求項13に記載の核酸を含む宿主細胞。
【請求項15】
請求項1〜12のいずれか1項に記載のポリペプチド及び/又は請求項13に記載の核酸を含む医薬組成物。
【請求項16】
請求項1〜12のいずれか1項に記載のポリペプチドの製造方法であって、
a)請求項14に記載の宿主細胞を提供する工程;
b)前記ポリペプチドの生産に好適な条件下において前記宿主細胞を培養する工程;及び、場合により、
c)前記ポリペプチドを精製する工程、及び場合により、
d)前記ポリペプチドを医薬組成物に処方する工程、
を含む製造方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【公表番号】特表2013−500029(P2013−500029A)
【公表日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−522136(P2012−522136)
【出願日】平成22年7月26日(2010.7.26)
【国際出願番号】PCT/EP2010/060818
【国際公開番号】WO2011/012585
【国際公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(591100596)アンスティチュ ナショナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル (59)
【Fターム(参考)】