説明

高い比容量および優れたサイクルを有する積層リチウムリッチ錯体金属酸化物

リチウムベース電池の優れた性能を提供するリチウムリッチおよびマンガンリッチリチウム金属酸化物を記載する。具体的な組成物は、所望の性能特性を提供するために指定の組成範囲内で設計することができる。選択される組成物は、適度に高い平均電圧と共に高い値の比容量を提供することができる。特に興味深い組成物は、組成式xLiMnO・(1−x)LiNiu+ΔMnu−ΔCoによって表すことができる。組成物は、大きな初回サイクル不可逆変化を受けるが、初回サイクル後は安定にサイクルする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、参照により本明細書に援用する、2009年8月27日に出願されて本願と同時係属中のVenkalachalamらの「Cathode Compositions for Lithium Ion Batteries」という名称の米国仮特許出願第61/237,344号明細書の優先権を主張するものである。
【0002】
本発明は、望ましい性能特性を提供する錯体金属酸化物の望ましい組成範囲に関する。
【背景技術】
【0003】
リチウム電池は、それらの比較的高いエネルギー密度により、家庭用電化製品で広く使用されている。再充電可能な電池は二次電池とも呼ばれ、リチウムイオン二次電池は一般に、リチウムをインターカレートする負極材料を有する。いくつかの現在市販されている電池では、負極材料は黒鉛であることがあり、正極材料は、コバルト酸リチウム(LiCoO)を含むことがある。実用上は、理論的なカソード容量の約50%、例えば約140mAh/gしか使用することができない。また、現在、少なくとも2種の他のリチウムベースのカソード材料も商業利用されている。これら2つの材料は、スピネル構造を有するLiMnと、オリビン構造を有するLiFePOである。これら他の材料は、エネルギー密度を大幅には改良していない。
【0004】
リチウムイオン電池は、それらの用途に基づいて2種類に分類することができる。第1の種類は高出力電池に関わり、リチウムイオン電池セルが、電動工具やハイブリッド電気自動車(HEV)などの用途のために高電流(アンペア)を供給するように設計される。しかし設計上、高電流を提供する設計は、一般に電池から供給することができる総エネルギーを減少させるので、これらの電池セルのエネルギーは比較的低い。第2の設計カテゴリーは高エネルギー電池に関わり、リチウムイオン電池セルが、セル式電話、ラップトップコンピュータ、電気自動車(EV)、およびプラグインハイブリッド電気自動車(PHEV)などの用途のための低〜中電流(アンペア)を供給するように設計され、しかもより高い総容量を提供する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の態様では、本発明は、組成式xLiMnO・(1−x)LiNiu+ΔMnu−ΔCoによって近似的に表される積層リチウム金属酸化物を含むリチウムイオン電池用の正極活性組成物であって、xが、少なくとも約0.03であり、約0.47以下であり、Δの絶対値が概して約0.2以下であり、2u+w+yが約1であり、wが0〜1の範囲内であり、uが0〜0.5の範囲内であり、yが約0.1以下であり、ただし(u+Δ)とwの両方が0であることはないものとし、任意選択のフッ素ドーパントが、約10モルパーセント以下の酸素を置換することができる正極活性組成物に関する。
【0006】
さらなる態様では、本発明は、正極活性組成物を合成するための方法であって、前駆体組成物を共沈するステップと、プロセス中の選択された時点でリチウム源を添加するステップと、前駆体組成物を分解して金属酸化物を形成するために、前駆体組成物を加熱するステップとを含む方法に関する。前駆体組成物は、組成式xLiMnO・(1−x)LiNiu+ΔMnu−ΔCoによって近似的に表される生成物組成に対応する選択された量でのマンガンならびにニッケルおよび/またはコバルトを含むことができ、xが、少なくとも約0.03であり、約0.47以下であり、Δの絶対値が概して約0.2以下であり、2u+w+yが約1であり、wが0〜1の範囲内であり、uが0〜0.5の範囲内であり、yが約0.1以下であり、ただし(u+Δ)とwの両方が0であることはないものとし、任意選択のフッ素ドーパントが、約10モルパーセント以下の酸素を置換することができる。
【0007】
他の実施形態では、本発明は、層状リチウム金属酸化物を含むリチウムイオンセル用の正極活物質であって、層状リチウム金属酸化物が、組成式Li1+bNiαMnβCoγδ2−zによって近似的に表され、ここで、bが約0.04〜約0.3の範囲内であり、αが0〜約0.4の範囲内であり、βが約0.2〜約0.65の範囲内であり、γが0〜約0.46の範囲内であり、δが約0〜約0.15の範囲内であり、zが0〜0.2の範囲内であり、ただしαとγの両方が0であることはないものとし、Aが、Mg、Sr、Ba、Cd、Zn、Al、Ga、B、Zr、Ti、Ca、Ce、Y、Nb、Cr、Fe、V、Li、またはそれらの組合せであり、2Cの放電速度で室温で放電したときに、10回目のサイクルで少なくとも約180mAh/gの放電容量を有する正極活物質に関する。
【0008】
さらなる実施形態では、本発明は、黒鉛状炭素活物質を含む負極と、正極と、正極と負極の間のセパレーターと、リチウムイオンを含む電解質とを備えるリチウムイオン電池に関する。いくつかの実施形態では、正極活物質は、室温でC/3の速度で4.5ボルトから2.0ボルトへ放電したときに少なくとも約200mAh/gの比放電容量を示す。電池は、少なくとも約3.4の平均電圧と、少なくとも約30%の充電状態で約6mΩ以下のパルスDC電気抵抗とを有することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】容器から分離された電池構造の概略図である。
【図2】実施例で生成される組成物中の遷移金属の相対量を示す組成相の図である。
【図3】正極活物質の組成中のXの関数としての真密度のプロットを示す図である。
【図4】最初の2サイクルに関して0.1C、サイクル番号3および4に関して0.2C、サイクル番号5および6に関して0.33C、サイクル番号7〜11に関して1C、サイクル番号12〜16に関して2C、サイクル番号17〜21に関して5C、サイクル番号22〜24に関して0.2Cでサイクルさせた、X=0.1の値を有する1組のリチウムリッチ金属酸化物のサイクル数に対する比容量の1組のプロットを示す図である。
【図5】最初の2サイクルに関して0.1C、サイクル番号3および4に関して0.2C、サイクル番号5および6に関して0.33C、サイクル番号7〜11に関して1C、サイクル番号12〜16に関して2C、サイクル番号17〜21に関して5C、サイクル番号22〜24に関して0.2Cでサイクルさせた、X=0.2の値を有する1組のリチウムリッチ金属酸化物のサイクル数に対する比容量の1組のプロットを示す図である。
【図6】最初の2サイクルに関して0.1C、サイクル番号3および4に関して0.2C、サイクル番号5および6に関して0.33C、サイクル番号7〜11に関して1C、サイクル番号12〜16に関して2C、サイクル番号17〜21に関して5C、サイクル番号22〜24に関して0.2Cでサイクルさせた、X=0.3の値を有する1組のリチウムリッチ金属酸化物のサイクル数に対する比容量の1組のプロットを示す図である。
【図7】最初の2サイクルに関して0.1C、サイクル番号3および4に関して0.2C、サイクル番号5および6に関して0.33C、サイクル番号7〜11に関して1C、サイクル番号12〜16に関して2C、サイクル番号17〜21に関して5C、サイクル番号22〜24に関して0.2Cでサイクルさせた、X=0.4の値を有する1組のリチウムリッチ金属酸化物のサイクル数に対する比容量の1組のプロットを示す図である。
【図8】最初の2サイクルに関して0.1C、サイクル番号3および4に関して0.2C、サイクル番号5および6に関して0.33C、サイクル番号7〜11に関して1C、サイクル番号12〜16に関して2C、サイクル番号17〜21に関して5C、サイクル番号22〜24に関して0.2Cでサイクルさせた、X=0.5の値を有する1組のリチウムリッチ金属酸化物のサイクル数に対する比容量の1組のプロットを示す図である。
【図9】最初の2サイクルに関して0.1C、サイクル番号3および4に関して0.2C、サイクル番号5および6に関して0.33C、サイクル番号7〜11に関して1C、サイクル番号12〜16に関して2C、サイクル番号17〜21に関して5C、サイクル番号22〜24に関して0.2Cでサイクルさせた、0.5重量パーセントのMgOのコーティングを備えるX=0.5の値を有する1組のリチウムリッチ金属酸化物のサイクル数に対する比容量の1組のプロットを示す図である。
【図10】C/10の速度で4.6ボルトへの充電および2.0ボルトへの放電での初回の充電および放電サイクルに関して、X=0.1を有する正電極活物質を用いて作製された1組のコイン電池に関するセル電圧の関数としての差分容量の1組のプロットを含むグラフである。
【図11】C/10の速度で4.6ボルトへの充電および2.0ボルトへの放電での初回の充電および放電サイクルに関して、X=0.2を有する正電極活物質を用いて作製された1組のコイン電池に関するセル電圧の関数としての差分容量の1組のプロットを含むグラフである。
【図12】C/10の速度で4.6ボルトへの充電および2.0ボルトへの放電での初回の充電および放電サイクルに関して、X=0.3を有する正電極活物質を用いて作製された1組のコイン電池に関するセル電圧の関数としての差分容量の1組のプロットを含むグラフである。
【図13】C/10の速度で4.6ボルトへの充電および2.0ボルトへの放電での初回の充電および放電サイクルに関して、X=0.4を有する正電極活物質を用いて作製された1組のコイン電池に関するセル電圧の関数としての差分容量の1組のプロットを含むグラフである。
【図14】C/10の速度で4.6ボルトへの充電および2.0ボルトへの放電での初回の充電および放電サイクルに関して、X=0.5を有する正電極活物質を用いて作製された1組のコイン電池に関するセル電圧の関数としての差分容量の1組のプロットを含むグラフである。
【図15】4.6ボルトから2.0ボルトへの初回の放電サイクルにわたる、リチウム金属負極を有するコイン電池用の正極活物質組成中のXの関数としての平均電圧のプロットを示す図である。
【図16】4.6ボルトから2.0ボルトへの初回の放電サイクルにわたる、リチウム金属負極を有するコイン電池用の正極活物質組成中のXの関数としての比放電容量のプロットを示す図である。
【図17】4.6ボルトから2.0ボルトへの初回の放電サイクルにわたる、リチウム金属負極を有するコイン電池用の正極活物質組成中のXの関数としての不可逆容量損失のプロットを示す図である。
【図18】C/10の速度で4.6ボルトへの充電および2.0ボルトへの放電での初回の充電および放電サイクルに関して、X=0.1、0.2、0.3、0.4、および0.5の値を有する正電極活物質を用いて作製された1組のコイン電池に関するセル電圧の関数としての差分容量の1組のプロットを含むグラフである。
【図19】最初の2サイクルに関して0.1C、サイクル番号3および4に関して0.33C、サイクル番号5および9に関して1C、サイクル番号10〜14に関して2C、サイクル番号15〜19に関して5Cでサイクルさせた、X=0.1、0.2、0.3、0.4、および0.5の値を有する別の組の組成を有する1組のリチウムリッチ金属酸化物のサイクル数に対する比容量のプロットを示す図である。組成物#35は、他の組成物に比べて2つのさらなるC/5サイクルを有する。
【図20】C/10の速度で4.6ボルトへの充電および2.0ボルトへの放電での第2の充電および放電サイクルに関して、X=0.1、0.2、0.3、0.4、および0.5を有する別の組の正極活物質を用いて作製された1組のコイン電池に関するセル電圧の関数としての差分容量のプロットを示す図である。
【図21】サイクル1および2に関して0.1C、サイクル3および4に関して0.2C、サイクル5〜40に関して0.33Cの速度で4.6ボルトから2.0ボルトへ放電されたセルに関して、X=0.5を有するとともにAlFコーティングを備える正極活物質で作製されたコイン電池に関するサイクルの関数としての比充電および放電容量のプロットを示す図である。
【図22】サイクル1および2に関して0.1C、サイクル3および4に関して0.2C、サイクル5〜40に関して0.33Cの速度で4.6ボルトから2.0ボルトへ放電されたセルに関して、X=0.5を有するとともに様々なAlFコーティングを備える正極活物質で作製されたコイン電池に関するサイクルの関数としての比放電容量の1組のプロットを含むグラフを示す図である。
【図23(a)】X=0.5を有する正極活物質を用いて作製されたコイン電池に関して、AlFコーティング厚さの関数として初期充電比容量のパーセントとして表した不可逆容量損失のプロットを示す図である。
【図23(b)】X=0.5を有する正極活物質を用いて作製されたコイン電池に関して、AlFコーティング厚さの関数としてmAh/g単位で表した不可逆容量損失のプロットを示す図である。
【図24(a)】X=0.5を有する正極活物質を用いて作製されたコイン電池に関して、AlFコーティング厚さの関数としての平均電圧のプロットを示す図である。
【図24(b)】X=0.5を有する正極活物質を用いて作製されたコイン電池に関して、AlFコーティング厚さの関数として、コーティングの存在により生じるパーセント単位での平均電圧減少のプロットを示す図である。
【図25】X=0.5を有する正極材料を用いて作製されたコイン電池に関して、AlFコーティング厚さの関数としてパーセント単位のクーロン効率のプロットを示す図である。
【図26】負極活物質としての黒鉛状炭素と、X=0.3、0.4、および0.5を有するリチウムリッチ正極活物質とを用いて作製されたポーチセル電池に関して、電池充電状態の関数としてのDC電気抵抗の3つのプロットを含むグラフを示す図である。
【図27】負極活物質としての黒鉛状炭素と、X=0.2、0.3、および0.5を有するリチウムリッチ正極活物質とを用いて作製されたコインセル電池に関して、サイクル数の関数としての比放電容量の3つのプロットを含むグラフを示す図である。
【図28】負極活物質としての黒鉛状炭素と、X=0.2、0.3、および0.5を有するリチウムリッチ正極活物質とを用いて作製されたコインセル電池に関して、サイクル数の関数としての平均電圧の3つのプロットを含むグラフを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
リチウムベース電池に組み込まれるときに、高い比容量、より高速での性能、望ましいDC抵抗値、平均電圧、およびサイクル特性など、特定の性能特性の改善されたバランスを与える金属酸化物組成の特定の範囲が見出されている。一般に、電池は、Li1+bNiαMnβCoγδ2−zによって近似的に表すことができる組成物を用いて作製され、ここで、Aは任意選択の金属ドーパントであり、Fは任意選択のフッ素ドーパントである。いくつかの実施形態では、組成の化学量論のパラメータは、xLiMnO・(1−x)LiMOと書くことができる組成に合致し、ここで、Mは、一般にMnならびにNiおよび/またはCoを含む金属の混合物であり、任意選択でドーパント金属を含み、0<x<1である。適切な実施形態では、2つの結晶性材料が積層超格子構造内部で一体化されると考えられる。大きな比放電容量、良好な高速性能、低いDC抵抗、および良好なサイクルを実現する、上の組成式によって表される種類に含まれる組成物の範囲が見出されている。この組成設計に基づいて、正極活物質は、選択される用途にとって優れた性能を有するように設計することができる。さらに、コーティングが、これらの正極活性組成物の性能を改良することができる。
【0011】
本明細書で述べる正極材料を使用して、優れたサイクル性能、高い比容量、高い総容量、比較的高い平均電圧、比較的低い充電状態までの低いDC抵抗、および優れた速度性能の組合せを有する電池を構成することができる。得られるリチウムイオン電池は、特に電気自動車やプラグインハイブリッド電気自動車などの高エネルギー用途のための改良された電源として使用することができる。この正極材料は、放電サイクルにわたって比較的高い平均電圧を示し、したがって電池は、高い比容量と共に高い電力出力を有する。一般に、組成物の密度は組成によって決まる。タップ密度は、一般に、真密度と、材料を生成するための方法とによって決まる。本明細書で述べる合成手法は、高いタップ密度を有する材料を形成するのに適していることが示されている。比較的高いタップ密度および優れたサイクル性能により、この電池は、サイクル時に持続的な高い総容量を示す。さらに、この正極材料は、電池の初回の充電および放電後に低い割合の不可逆容量損失を示すことができ、したがってサイクル比容量をいくぶん大きくすることができる。活物質は、サイクルの改良、ならびに場合によっては不可逆容量損失の減少および比容量の増加を提供するのに適したコーティングを備えることができる。
【0012】
本明細書で述べる電池は、非水性電解質溶液がリチウムイオンを含むリチウムベース電池である。充電中の二次リチウムイオン電池では、カソード(正極)で酸化が生じ、リチウムイオンが引き抜かれ、電子が解放される。放電中には、カソードで還元が生じ、リチウムイオンが取り込まれ、電子が消費される。特に断りのない限り、本明細書で言及する性能値は室温でのものである。
【0013】
インターカレーションベースの正極活物質を用いた対応する電池が使用されるとき、格子へのリチウムイオンのインターカレーションおよび格子からのリチウムイオンの解放が、電気活物質の結晶格子の変化を誘発する。これらの変化が実質的に可逆である限り、材料の容量はサイクルと共に大幅には変化しない。しかし、活物質の容量は、多かれ少なかれサイクルと共に減少することが観察される。したがって、ある回数のサイクル後、電池の性能は許容値未満に低下し、電池が交換される。また、電池の初回のサイクルにおいて、一般に、後続のサイクルでの1サイクル当たりの容量損失よりもかなり大きい不可逆の容量損失が生じる。この不可逆の容量損失は、新しい電池の充電容量と初回の放電容量の差である。不可逆容量損失は、それに対応するセルの容量、エネルギー、および出力の減少をもたらす。不可逆容量損失は、一般に最初の充電放電サイクル中の変化に起因することがあり、その容量損失した状態が電池の後続のサイクル中にほぼ持続されることがある。
【0014】
本明細書では、用語「元素」は、従来の用法で周期表の要素を表すものとして使用し、元素は、組成物中にある場合には適切な酸化状態であり、元素形態であることが明記されているときにのみその元素形態Mである。したがって、金属元素は一般に、その元素形態、またはそれに対応する金属の元素形態の合金でのみ、金属状態である。すなわち、金属合金以外の金属酸化物または他の金属組成物は、一般に金属性ではない。
【0015】
リチウムイオン電池は、基準となる均質な電気活性リチウム金属酸化物組成物に対してリチウムリッチである正極活物質を使用することができる。いくつかの実施形態では、適切に生成されたリチウムリッチのリチウム金属酸化物は複合結晶構造を有すると考えられる。例えば、リチウムリッチ材料のいくつかの実施形態では、LiMO材料を、層状LiM’O成分と構造的に一体化させることができ、ここで、基準構造ではMおよびM’はマンガンであるが、興味深い特定の組成物は、マンガンカチオンの一部が、適切な酸化状態を有する他の遷移金属カチオンで置換されている。いくつかの実施形態では、正極材料は、xLiMO・(1−x)LiM’Oと2成分表記で表すことができ、ここで、M’は、平均原子価が+3の1つまたは複数の金属カチオンであり、少なくとも1つのカチオンがマンガンカチオンまたはニッケルカチオンであり、Mは、平均原子価が+4の1つまたは複数の金属カチオンである。一般に、特に興味深い組成物に関して、MはMnとみなすことができる。組成物の全般的な種類は、例えば、参照により本明細書に援用するThackerayらの「Lithium Metal Oxide Electrodes for Lithium Cells and Batteries」という名称の米国特許第6,680,143号明細書(‘143特許)にさらに記載されている。
【0016】
興味深い正極活物質の種類は、以下の組成式で近似的に表すことができる。
Li1+bNiαMnβ−δCoγδ2−z (1)
ここで、bは約0.01〜約0.3の範囲内であり、αは0〜約0.4の範囲内であり、βは約0.2〜約0.65の範囲内であり、γは約0〜約0.46の範囲内であり、δは約0.001〜約0.15の範囲内であり、zは0〜約0.2の範囲内であり、ただしαとγがどちらもゼロではないものとし、Aは、Ni、Mn、およびCo、またはそれらの組合せではない金属である。元素AおよびF(フッ素)は、それぞれ任意選択のカチオンおよびアニオンドーパントである。元素Aは、例えば、Mg、Sr、Ba、Cd、Zn、Al、Ga、B、Zr、Ti、Ca、Ce、Y、Nb、Cr、Fe、V、またはそれらの組合せでよい。性能の改良を実現するためのリチウムリッチ金属酸化物中でのフッ素ドーパントの使用は、参照により本明細書に援用する、本願と同時係属中のKumarらの「Fluorine Doped Lithium Rich Metal Oxide Positive Electrode Battery Materials With High Specific Capacity and Corresponding Batteries」という名称の米国特許出願第12/569,606号明細書に記載されている。
【0017】
同様の組成物が、Venkatachalamらの「Positive Electrode Material for Lithium Ion Batteries Having a High Specific Discharge Capacity and Processes for the Synthesis of these Materials」という名称の米国特許出願第12/246,814号明細書(‘814出願)、およびLopezらの「Positive Electrode Material for High Specific Discharge Capacity Lithium Ion Batteries」という名称の米国特許出願第12/332,735号(‘735出願)に記載されており、どちらの特許文献も参照により本明細書に援用する。‘814出願および‘735出願に記載されているように、共沈合成プロセスを使用して、Li[Li0.2Ni0.175Co0.10Mn0.525]Oに関して驚くほど良い性能が得られている。本明細書で説明するように、正極活性組成物の特定の設計によって望ましい特性が得られている。また、望ましい化学量論は、特定の用途のために材料に関して選択された特性に基づいて選択することができる。
【0018】
本明細書で提示する組成式は、合成時の開始材料のモル量に基づいており、これらのモル量は正確に決定することができる。複数の金属カチオンに関して、これらは一般に、完成した材料に定量的に取り込まれると考えられ、生成物組成からの金属の損失をもたらす既知の重大な経路はない。当然、金属の多くは複数の酸化状態を有し、これらは、電池に対するそれらの活性に関係付けられる。当技術分野で通例であるように、複数の酸化状態および複数の金属の存在により、酸素に対する厳密な化学量論は通常、反応物金属の結晶構造、電気化学的性能、および比率に基づいて大まかにのみ推定される。しかし、結晶構造に基づいて、酸素に関する全体の化学量論は相応に推定される。この段落および本明細書における関連の問題で論じるプロトコルはすべて、当技術分野で通例実施されているものであり、当技術分野でこれらの問題に対して長きにわたり確立されている手法である。
【0019】
組成物に関する化学量論の選択は、組成物中での金属イオンの酸化状態のいくつかの推定される関係に基づくことがある。始めに、式(1)で近似的にb+α+β+γ=1である場合、それに対応して、組成物の組成式は、2成分表記で以下のように近似的に書くことができる。
xLiMO・(1−x)LiM’O (2)
ここで、Mは、+4の平均酸化状態を有する1つまたは複数の金属原子であり、M’は、+3の平均酸化状態を有する1つまたは複数の金属原子である。Mn、Co、およびNiは複数の取り得る酸化状態を有し、酸化状態は活物質中でのそれらの使用法に直接関係するが、これらの複合材料において上記元素が適量で存在する場合には、各元素が酸化状態Mn+4、Co+3、およびNi+2を有することができると考えられる。このとき、δ=0の場合、2成分表記は、x・LiMnO・(1−x)LiNiMnCoと簡略化され、2u+w=1である。いくつかの実施形態では、金属元素の化学量論の選択は、これらの推定される酸化状態に基づくことがある。ドーパント元素Aの酸化状態に基づいて、それに対応する組成式の修正を行うことができる。
【0020】
しかし、前段で説明した組成物の基準範囲付近で組成を変えることで、良好な性能特性を有する活性組成物が見つかっている。特に、興味深い組成物の範囲は、組成式x・LiMnO・(1−x)LiNiu+ΔMnu−ΔCoによって近似的に表すことができ、2u+w=1であり、−0.3≦Δ≦0.3である。特に興味深いいくつかの実施形態では、xは0.03〜約0.47の範囲であるが、特定の性能特性に関しては他の範囲が特に興味深い。さらに、いくつかの実施形態では、uは0〜約0.4の範囲内であり、wは0〜約0.475の範囲内であり、ただしuとwがどちらもゼロではないものとする。上の明示的な範囲に含まれる追加の組成範囲が企図され、本開示に含まれることを当業者は理解されよう。
【0021】
リチウムイオン電池の初回の充電中、電池内で不可逆変化が生じる。例えば、負極では、対応するリチウムイオンの消費と共に溶媒電解質界面が生じる。しかし、本明細書で述べるリチウムリッチ材料の文脈では、正極での変化が特に興味深いものである。具体的には、本明細書でのリチウムリッチ組成物では、初回の充電中の正極の変化が不可逆容量損失の大半の原因となる。容量損失は、充電ステップ中に正極から負極に流れる電荷に基づいて測定されるので、不可逆容量損失は、充電ステップ中に電荷を発生させる正極活物質の構造変化のみを測定するものである。電流を生成しない不可逆変化は、材料のサイクル容量が減少されることはあるにせよ、測定される不可逆容量損失の一因にはならない。充電中の電子の発生は、それに対応する充電中の正極での金属イオンの発生を伴い、金属イオンがリチウムイオンである場合には、これらのイオンは基本的にはサイクルに利用可能である。リチウムでない金属イオンが生成される場合、金属の溶解が不可逆容量損失およびサイクル劣化を直接もたらす。それにもかかわらず、不可逆容量損失をもたらすリチウムでない金属の溶解の他に、酸素損失などの不可逆変化が生じることもある。したがって、最初の電池充電中に、正極に最初にあるリチウムの大部分を取り除くことができるが、不可逆容量損失は、電池の放電中にすべてのリチウムが正極に戻ることができるわけではないことを示す。
【0022】
複合材料を用いた電池の充電に関して、式(3)で示されるように、組成物のリチウムマンガン酸化物(LiMnO)成分は、関連する2つのLiイオンの解放を伴って分子酸素を解放する反応を受けることがある。
LiMnO→MnO+2Li+2e+1/2O (3)
放電後、MnO組成物は、1つのリチウムイオンと1つの電子を取り込んでLiMnOを生成するが、最初の充電中の材料の不可逆反応により、全体の大幅な容量減少が生じる。以下に論じるように、式(3)での反応は4.4ボルトを超える電圧で生じることが確証されている。したがって、リチウムリッチ積層材料では、4.4Vを超える初回のサイクル充電中、高容量材料のLiMnO成分の分解が酸素損失および不可逆容量損失をもたらすことがある。材料は、基本的には、分解反応LiMnO→MnO+LiOなど、最初の充電ステップと合致することがある他の不可逆変化を受けることもある。そのような分解反応は、最初の充電中に測定される電子を発生しないので、測定される不可逆容量損失を生じないが、不活性の酸化リチウムを生成するそのような反応は、特定の重量の材料に関する理論上の容量に対して可逆容量損失をもたらすことがある。この活物質に関わる初期反応は、完全には理解されていない。
【0023】
組成x・LiMnO・(1−x)LiNiMnCoを有する積層材料に基づいて、この組成の2つのパラメータは「x」とu/wである。「x」が増加するにつれて、材料はより大量のリチウムを利用可能になる。しかし「x」が増加するにつれて、一般に不可逆容量損失が増加し、したがって、増加したリチウム量の一部しかサイクルに利用可能でなくなる。それにもかかわらず、少なくともxの範囲の一部にわたって「x」と共に可逆の比容量が増加するので、「x」が増加するにつれて、増加したリチウムのいくらかがサイクルに利用可能になることがある。比u/wは、コバルトに対するマンガンおよびニッケルの相対量に関する。u/w比の変化と共に見られる関係は複雑である。「x」の増加と共にその範囲の一部分にわたって観察される比容量の増加に基づき、積層結晶構造が構造の複雑さをもたらすことは明らかである。
【0024】
電池の初回のサイクルにわたる差分容量のプロットは、電圧の最初のピークが4ボルトよりもわずかだけ低い電圧で観察されることを示し、これは、活性組成物のLiM’O成分によるものと推定され、一方、4.4ボルト付近のピークは、LiMnO成分の減少に対応すると考えられる。プロットにおいて、より低い電圧でのピークは、より高い電圧に向かって長い裾(tail)を有し、これは、LiMnO成分に関連付けられるリチウムが引き抜かれ始めるときに、LiM’O成分からのリチウムが全部は引き抜かれていないことがあることを示唆する。この積層材料は、2成分分析が示唆するよりも複雑である可能性が高く、高いサイクル容量は、より複雑な構造に合致するものである。同様に、LiMnO成分は、充電後にMn+3が存在するが、電解質中に多量のマンガンが溶解することなくサイクルすると考えられ、したがって錯体構造は、材料のより複雑な性質に合致した構造の安定化をもたらすと考えられる。コーティングが存在するときの材料のさらなる安定化は、構造のさらなる複雑さを示し、この複雑さは、本明細書で得られる結果の大きな予測不能性を生み出す。
【0025】
一般に、本明細書における教示に基づいて、最終的に作製される電池に関する所望の性能特性を得るために特定の活物質化学量論を選択することができる。例えば、活物質は通常、電池の初回の充電中に不可逆変化を受けるが、より高いx値を有する材料は、特定のx値までは、低速サイクルでのより高い初期放電比容量を示すことができる。以下の実施例における結果が示すように、x=0.4を有する材料は、x=0.5を有する材料に比べて、低速でのより高い比容量値、さらにはより高速でのより高い相対比容量を示す。また、より大きなx値を有する材料が一般により大きな不可逆容量損失を有するように、他の特性が重要であることもある。したがって、不可逆容量損失の値を減少させるために、より低いx値に対応する組成を有する材料を利用することができる。さらに、より低いx値を有する材料は、4.6ボルトから2.0ボルトへ放電されたときにより高い平均電圧を示し、より高い平均電圧は、より高いエネルギー供給と言い換えることができる。材料の真密度は組成に応じて決まることが判明している。特に、真密度は通常、より低いXを有するカソード組成物のほうが大きい。これは、電極密度を増加するためまたは体積エネルギーおよび出力仕様を増加するための魅力的な特徴である。家庭用電化製品およびいくつかの自動車用途の場合と同様に、体積特性の改良が有用であり、セル体積を減少することが望ましい。
【0026】
本明細書で述べる望ましいリチウムリッチ金属酸化物材料に関して、炭酸塩および水酸化物共沈プロセスが行われている。一般に、溶液が生成され、そこから、所望の金属化学量論で金属水酸化物または金属炭酸塩が沈殿される。その後、共沈からの金属水酸化物または金属炭酸塩組成物を熱処理して、適切な結晶度を有する対応する金属酸化物組成物を生成することができる。水酸化物組成物または炭酸塩組成物から酸化物組成物を生成するために、最初の共沈プロセスにリチウムカチオンを混入することができ、または熱処理中もしくは熱処理後の固相反応時にリチウムを導入することができる。以下の実施例で実証されるように、共沈プロセスによって生成される得られるリチウムリッチ金属酸化物材料は、改良された性能特性を有する。上の‘735出願に記載されているように、共沈プロセスは、リチウム金属酸化物粉末に比較的高いタップ密度を与えるように適合させることができ、これは、特定の電池体積に関する性能の改良に関して利用することができる。
【0027】
金属フッ化物コーティングは、本明細書で述べるリチウムリッチ層状正極活物質を大きく改良することができる。これらの改良は、容量劣化の大幅な減少、初回のサイクルでの不可逆容量損失の大幅な減少、および全般的な容量の改良を伴う長期サイクルに関係する。コーティング材料の厚さは、観察される性能改良が顕著になるように選択することができる。リチウムリッチ金属酸化物と共に優れた性能を生み出すように設計された金属フッ化物コーティングは、参照により本明細書に援用する、本願と同時係属中のLopezらの「Coated Positive Electrode Materials for Lithium Ion Batteries」という名称の米国特許出願第12/616,226号明細書にさらに記載されている。
【0028】
また、正極活物質のためのコーティングとして、金属酸化物および金属リン酸塩も使用されている。以下の実施例では、AlFコーティングを用いたいくつかの結果と共に、様々な活性組成物に関してMgOnのコーティングを用いた結果を提示する。リチウムリッチ金属酸化物活物質で使用するための金属酸化物コーティングは、参照により本明細書に援用する、本願と同日に出願されて本願と同時係属中のKarthikeyanらの「Metal Oxide Coated Positive Electrode Materials For Lithium−Based Batteries」という名称の米国特許出願第12/870,096号明細書にさらに記載されている。
【0029】
コーティングの使用は、不可逆容量損失を減少させることができるが、以下の実施例でのMgOコーティングは一般に不可逆容量損失の大幅な減少は生じない。材料構造変化の減少を示唆するのに加えて、不可逆容量損失の減少は、電池のエネルギーおよび電力密度を増加するのに有利であることがある。いくつかの実施形態では、コーティングは、比容量および平均電圧を増加させることができる。これらの観察は、コーティングの存在により、初回の充電における活物質に対する変化に関して大きな相違が生じることがあることを示唆する。これらの変化はまだよく理解されていない。コーティングによるサイクル放電容量の増加は、電池性能に対して明らかに直接的な利点を有する。また、コーティングは、電池のサイクル性能を大幅に改良することができる。
【0030】
充電/放電測定中、材料の比容量は放電速度によって決まることに留意することが有用である。特定の材料の最大比容量は、非常に遅い放電速度で測定される。実用上は、放電が有限速度であるので、実際の比容量は最大値未満である。より現実的な比容量は、使用中の速度により近い適当な放電速度を使用して測定することができる。低〜中速の適用例では、適当な試験速度は、3時間にわたる電池の放電を含む。慣例的な表記では、これはC/3または0.33Cと書かれ、他の充電および放電速度もこの表記で書くことができる。
【0031】
再充電可能な電池には様々な用途があり、例えば、電話などの移動体通信デバイス、MP3プレーヤやテレビジョンなどのモバイルエンターテインメントデバイス、ポータブルコンピュータ、広い用途があるこれらのデバイスの組合せ、ならびに自動車やフォークリフトなどの輸送デバイスである。これらの電子デバイスで使用される電池のほとんどが固定体積を有する。したがって、これらの電池で使用される正極材料が高いタップ密度を有し、それにより実質的により多くの充電可能な材料が正極内に存在して、電池のより高い総容量を生み出すことが非常に望ましい。比容量、タップ密度、およびサイクルに関して良好な特性を有する改良された正極活物質を組み込む本明細書で述べる電池は、特に中電流用途で、改良された性能を消費者に提供することができる。
【0032】
本明細書で述べる電池は車両用途に適している。特に、これらの電池は、ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車、および純電気自動車用の電池パックで使用することができる。これらの車両は、一般に、重量、体積、および容量の均衡を図るように選択された電池パックを有する。したがって、本明細書で述べる電池の高い容量により、所望の総電力量を生み出す電池パックを適当な体積で形成することができ、またそれに対応して、これらの電池パックは、優れたサイクル性能を実現することができる。
【0033】
正極活物質
正極活物質は、一般に層状複合構造を形成すると考えられるリチウムリッチ組成物を含む。特に興味深い実施形態では、リチウム金属酸化物組成物はさらに、任意選択の金属ドーパントを有するNi、Co、およびMnイオンを含む。本明細書で述べるように、金属化学量論は、正極に活物質を組み込む最終的に作製される電池に関する所望の性能特性を実現するように調整することができる。上述したように、正極組成物は、任意選択のフッ素アニオンドーパントを含むことができる。フッ素ドーパントの有無は、組成物に関する金属カチオン化学量論の選択に関わる問題を大きく変えるとは予想されず、以下の論述では一般に、論述を単純にするために組成式に任意選択のフッ素ドーパントを含めない。いくつかの実施形態では、材料をさらに安定させるために不活性無機コーティングを提供することが望ましい。コーティングは、以下の他の節でさらに説明する。
【0034】
特に興味深い正極活物質は、xLiMnO・(1−x)LiMOと2成分表記で近似的に表すことができ、ここでMは、平均原子価が+3の2つ以上の金属元素であり、金属元素の1つがMnであり、別の金属元素がNiおよび/またはCoである。一般に0<x<1であるが、いくつかの実施形態では0.03≦x≦0.47、さらなる実施形態では0.075≦x≦0.46、さらなる実施形態では0.1≦x≦0.45、他の実施形態では0.15≦x≦0.425である。さらなる実施形態では、望ましいxの範囲は、長期サイクル、平均電圧、またはDC電気抵抗など、何らかの性能パラメータに基づいて選択することができる。したがって、特に興味深いものとして選択された特定の性能パラメータに応じて、0.24≦x≦0.4、さらなる実施形態では0.25≦x≦0.375、他の実施形態では0.26≦x≦0.36である。同様に、他の性能パラメータを強調する場合、0.15≦x≦0.325、さらなる実施形態では0.16≦x≦0.32、他の実施形態では0.175≦x≦0.31である。上の明示的な範囲に含まれるさらなる範囲の組成パラメータxが企図され、本開示に含まれることを当業者は理解されよう。例えば、Mは、ニッケル、コバルト、およびマンガンの組合せでよく、これらは酸化状態Ni+2、Co+3、およびMn+4でよい。これらの組成物に関する全体の組成式は、Li2(1+x)/(2+x)Mn2x/(2+x)(2−2x)/(2+x)と書くことができる。全体の組成式において、マンガンの総量は、2成分表記で列挙した両方の成分からの寄与を有する。したがって、ある意味では、組成物はマンガンリッチである。
【0035】
一般に、Mは、マンガンならびにニッケルおよび/またはコバルトと、任意選択で1つまたは複数のドーパント金属との組合せである。したがって、Mは、NiMnCoと書くことができる。y=0である実施形態では、これは、NiMnCoと簡略化される。あるいは、MがNi、Co、Mn、および任意選択でAを含む場合、組成は、2成分表記および1成分表記で以下のように書くことができる。
xLiMnO・(1−x)LiNiMnCo (4)
Li1+bNiαMnβCoγδ (5)
ここで、u+v+w+y≒1であり、b+α+β+γ+δ≒1である。これら2つの組成式を突き合わせて、以下の関係が得られる。
b=x/(2+x)
α=2u(1−x)/(2+x)
β=2x/(2+x)+2v(1−x)/(2+x)
γ=2w(1−x)/(2+x)
δ=2y(1−x)/(2+x)
および同様に、
x=2b/(1−b)
u=α/(1−3b)
v=(β−2b)/(1−3b)
w=γ(1−3b)
y=δ(1−3b)
【0036】
いくつかの実施形態では、u≒vであることが望ましく、それによりLiNiMnCoは、近似的にLiNiMnCoになる。この組成において、y=0のとき、Ni、Co、およびMnの平均原子価は+3であり、u≒vの場合、これらの元素は、近似的にNi+2、Co+3、およびMn+4の原子価を有すると考えることができる。仮説としてリチウムが十分に引き抜かれるとき、元素はすべて+4の原子価になる。NiとMnのバランスにより、材料が電池内でサイクルされるときにMnを+4の原子価のままにすることができる。このバランスはMn+3の生成を回避する。Mn+3は、電解質中へのMnの溶解およびそれに対応する容量損失に関連している。
【0037】
上述したように、LiMnO成分は、リチウムを引き抜くときに分子酸素を放出することがあり、それと共にMnOの生成が得られ、このMnOが次いで電池の再充電時にLiMnOとサイクルすることができる。これらの材料において、生じたMn+3は、Mn+3がLiMnOから生成される場合には溶解に関して比較的安定であると考えられる。最初の組成は2つの電子の発生と共に2つのリチウム原子を失い、生成物組成はただ1つのリチウム原子を有し、ただ1つの電子を交換することでサイクルするので、この組成の変化が不可逆容量損失をもたらす。さらに、初回のサイクルの生成ステップ中の結晶構造のより複雑な変化が確証され、したがって、酸素損失量は、組成物中に組み入れられた金属の量に基づく活性LiMnOの化学量論量に対応しないことがある。また、比容量および不可逆容量損失の変化によって確証されているように、無機コーティング材料による組成物のコーティングがこの化学反応にさらに影響を及ぼす。さらに、コーティングを施されたサンプルでは、コーティングなしのサンプルに比べて平均電圧が増加することがある。これらの材料の優れた性能に寄与する根底にある化学作用は、完全には理解されていない。
【0038】
1成分表記に関して、特に興味深いリチウムリッチ金属酸化物は、組成式Li1+bNiαMnβ−δCoγδによって記述することができ、ここで、bは約0.015〜約0.19の範囲内であり、αは0〜約0.4の範囲内であり、βは約0.2〜約0.65の範囲内であり、γは0〜約0.46の範囲内であり、δは約0〜約0.1の範囲内であり、ただしαとγがどちらもゼロではないものとし、Aは、Mg、Sr、Ba、Cd、Zn、Al、Ga、B、Zr、Ti、Ca、Ce、Y、Nb、Cr、Fe、V、またはそれらの組合せである。いくつかの実施形態では、αは約0.1〜約0.3の範囲内にあり、βは約0.3〜約0.65の範囲内にあり、γは約0.05〜約0.4の範囲内にある。組成物中に存在するドーパントAの量に関して、さらなる実施形態ではδは約0.001〜約0.09の範囲内であり、さらなる実施形態では約0.005〜約0.075の範囲内である。上の明示的な範囲に含まれるさらなる範囲のパラメータ値が企図され、本開示に含まれることを当業者は理解されよう。
【0039】
正極活物質に関する組成式での和b+α+β+γ+δが約1.0である実施形態では、組成は、必要に応じて上述された2成分表記で書くことができる。しかし、組成を2成分表記で書くことができる場合でさえ、組成物の結晶構造は、異なる材料を示す成分を必ずしも有さなくてよい。以下の実施例でのデータは、少なくとも実施形態のいくつかに関して、LiMnOに対応するx線回折線をLiMOに対応する線と共に観察することができるという確証を与える。
【0040】
本明細書で述べる材料のいくつかの実施形態に関して、Thackerayとその共同研究者らは、LiMO組成物がLiM’O成分と共に層状構造として構造的に一体化された、いくつかのリチウムリッチ金属酸化物組成物に関する複合結晶構造を提案している。これらの材料から作製される電池は、対応するLiMO組成物を用いて作製される電池に比べて高い電圧および高い容量でサイクルすることが観察されている。これらの材料は、Thackeray他に付与された「Lithium Metal Oxide Electrodes for Lithium Cells and Batteries」という名称の米国特許第6,680,143号明細書、およびThackerayらに付与された「Lithium Metal Oxide Electrodes for Lithium Cells and Batteries」という名称の米国特許第6,677,082号明細書に全般的に記載されており、どちらの特許文献も参照により本明細書に援用する。Thackerayは、Mn、Ti、およびZrがM’として特に興味深いものであり、MnおよびNiがMに関して特に興味深いものであると認識した。
【0041】
いくつかの具体的な層状構造の構造は、参照により本明細書に援用するThackerayらの「Comments on the structural complexity of lithium−rich Li1+xM1−xO electrodes (M=Mn,Ni,Co) for lithium batteries」Electrochemistry Communications 8 (2006), 1531−1538にさらに記載されている。この論文で報告されている研究では、組成式Li1+x[Mn0.5Ni0.51−xおよびLi1+x[Mn0.333Ni0.333Co0.3331−xを有する組成物を調べている。この論文はまた、層状材料の構造的な複雑さを述べている。
【0042】
近頃、Kangおよびその共同研究者らが、組成式Li1+xNiαMnβCoγM’δ2−z(ここで、M’=Mg、Zn、Al、Ga、B、Zr、Tiであり、xは約0〜0.3の間であり、αは約0.2〜0.6の間であり、βは約0.2〜0.6の間であり、γは約0〜0.3の間であり、δは約0〜0.15の間であり、zは約0〜0.2の間である)を有する二次電池で使用するための組成物を示した。電池容量、および得られる層状構造の電気化学サイクル中の安定性を改善するものとして、これらの金属範囲およびフッ素が提案された。参照により本明細書に援用するKangらの「Layered cathode materials for lithium ion rechargeable batteries」という名称の米国特許第7,205,072号明細書(‘072特許)を参照されたい。この特許文献は、室温で10サイクル後にカソード材料の容量が250mAh/g(ミリアンペア時間/グラム)未満であることを報告しており、これは指定されていない速度におけるものであり、性能値を高めるには低いとみなすことができる。Kang他が、x=0.5の組成に対応するLi1.2Ni0.15Mn0.55Co0.10を含む様々な具体的な組成物を検査した。リチウムリッチおよびマンガンリッチリチウム金属酸化物に対するフッ素ドーピングの効果は、参照により本明細書に援用する、本願と同時係属中のKumarらの「Fluorine Doped Lithium Rich Metal Oxide Positive Electrode Battery Materials With High Specific Capacity and Corresponding Batteries」という名称の米国特許出願公開第2010/0086854号明細書にさらに記載されている。
【0043】
‘072特許で得られた結果は、材料の固相合成に関わるものであったが、これは、共沈法で形成されるカソード活物質を用いて作製される電池と同等のサイクル性能を実現することはできなかった。共沈によって形成される材料の改良された性能は、フッ素ドーピングを施された組成物に関して、上述した‘814出願および‘735出願、ならびに米国特許出願公開第2010/0086854号明細書にさらに記載されている。本明細書に述べるドーピングされた材料に関する共沈プロセスは、以下にさらに説明する。
【0044】
正極活物質の性能は、多くの因子によって影響を受ける。本明細書で説明するように、材料の組成は、特定の電池用途に関して所望の性能パラメータを実現するように選択することができる。特に、上の組成式でu≒vである組成物が比較的安定なサイクルを生み出すと考えられる。この観察は、‘814出願および‘735出願で観察された結果と合致し、‘814出願および‘735出願での組成物は、化学量論がu≒vから若干変えられている。また、LiMnO成分は、場合によってはいくらかの量のMn+3を生じることがあり、これは、本明細書で述べるリチウムリッチおよびマンガンリッチ組成物の錯体格子において比較的安定にサイクルすることができる。
【0045】
これらの観察および以下の実施例での結果に基づいて、特に興味深い組成は、以下の組成式によって近似的に表すことができる。
xLiMnO(1−x)LiNiu+ΔMnu−ΔCo (6)
ここで、Δの絶対値は、一般に約0.3(−0.3≦Δ≦0.3)以下であり、いくつかの実施形態では約0.2(−0.2≦Δ≦0.2)以下であり、他の実施形態では0.175(−0.175≦Δ≦0.175)であり、さらなる実施形態では約0.15(−0.15≦Δ≦0.15)以下である。xに関する望ましい範囲は上で与えた。2u+w+y≒1では、望ましいパラメータ範囲は、いくつかの実施形態では0≦w≦1、0≦u≦0.5、0≦y≦0.1(ただしuとwがどちらもゼロではないものとする)、さらなる実施形態では0.1≦w≦0.6、0.1≦u≦0.45、0≦y≦0.075、さらなる実施形態では0.24≦w≦0.475、0.25≦u≦0.4、0≦y≦0.05である。これらの範囲内の各組の値は、所望の性能値、および上で詳述したxの特定の範囲内の各x値に関する成分を実現するように個別に選択することができる。上で明示した範囲に含まれるさらなる範囲の組成パラメータが企図され、本開示に含まれることを当業者は理解されよう。本明細書で使用するとき、表記(値1≦変数≦値2)は、値1と値2が近似的な量であることを暗に仮定する。
【0046】
平均粒径と粒径分布が、正極活物質を特徴付ける2つの基本的な特性であり、これらの特性は、材料の速度性能およびタップ密度に影響を及ぼす。電池は固定体積を有するので、したがって、これらの電池の正極で使用される材料は、その材料の比容量を望ましく高い値で維持することができる場合には、高いタップ密度を有することが望ましい。このとき、より多くの充電可能な材料が正極に存在することにより、電池の総容量をより高くすることができる。以下の節で述べる合成手法は、最終的に作製される電池にほとんどの商業用途に望ましい性能を与えるために適切なタップ密度で本明細書で述べる活物質の粉末を製造することができることが見出されている。
【0047】
合成方法
本明細書で述べる合成手法は、高い値の比容量と比較的高いタップ密度とを有する積層リチウムリッチ正極活物質を形成するために使用することができる。この合成方法は、上述したように、組成式Li1+bNiαMnβCoγδ2−zおよび望ましいパラメータ範囲を有する組成物の合成に適合されている。この合成手法は、商業規模への拡張にも適している。具体的には、共沈プロセスを使用して、望ましい結果を伴う望ましいリチウムリッチ正極材料を合成することができる。
【0048】
共沈プロセスでは、純水などの水性溶媒中に金属塩が望ましいモル比で溶解される。適した金属塩としては、例えば、金属酢酸塩、金属硫酸塩、金属硝酸塩、およびそれらの組合せが挙げられる。溶液の濃度は、一般に1M〜3Mの間で選択される。金属塩の相対モル量は、生成物材料に関する所望の組成式に基づいて選択することができる。同様に、任意選択のドーパント元素も、沈殿された材料中にドーパントが混入されるように適切なモル量で他の金属塩と共に導入することができる。次いで、例えばNaCOおよび/または水酸化アンモニウムの添加によって溶液のpHを調節することができ、所望の量の金属元素を含む金属水酸化物または金属炭酸塩を沈殿させる。一般に、pHは、約6.0〜約12.0の間の値に調節することができる。水酸化物または炭酸塩の沈殿を容易にするように、溶液を加熱して撹拌することができる。次いで、沈殿された金属水酸化物または金属炭酸塩を溶液から分離して、洗浄し、乾燥させて、さらなる処理の前に粉末を形成することができる。例えば、乾燥は、オーブン内で約110℃で約4〜約12時間行うことができる。上で明示した範囲に含まれるさらなる範囲のプロセスパラメータが企図され、本開示に含まれることを当業者は理解されよう。
【0049】
次いで、収集された金属水酸化物または金属炭酸塩に熱処理を施して、水および/または二酸化炭素をなくして、水酸化物または炭酸塩組成物を対応する酸化物組成物に変換することができる。MgFなどのフッ化物を添加して、フッ化物ドーパントを導入することができる。一般に、熱処理は、オーブンや炉などの中で行うことができる。熱処理は、不活性雰囲気中で、または酸素が存在する雰囲気中で行うことができる。いくつかの実施形態では、少なくとも約350℃、いくつかの実施形態では約400℃〜約800℃の温度に材料を加熱して、水酸化物または炭酸塩を酸化物に変換することができる。熱処理は、一般に、少なくとも約15分間、さらなる実施形態では約30分〜24時間以上、さらなる実施形態では約45分〜約15時間行うことができる。生成物材料の結晶度を改良するために、さらなる熱処理を行うことができる。結晶性生成物を形成するためのこの焼成ステップは、一般に、少なくとも約650℃、いくつかの実施形態では約700℃〜約1200℃、さらなる実施形態では約700℃〜約1100℃の温度で行う。粉末の構造的特性を改良するための焼成ステップは、一般に、少なくとも約15分、さらなる実施形態では約20分〜約30分以上、他の実施形態では約1時間〜約36時間行うことができる。所望の材料を生み出すために、加熱ステップは、望みであれば適切な温度勾配と組み合わせることができる。上に明示した範囲に含まれるさらなる範囲の温度および時間が企図され、本開示に含まれることを当業者は理解されよう。
【0050】
リチウム元素は、プロセス中の1つまたは複数の選択されたステップで材料に混入することができる。例えば、沈殿ステップを行う前または行った後に、水和リチウム塩の添加によって溶液中にリチウム塩を混入することができる。この手法では、他の金属と同様に、水酸化物または炭酸塩材料にリチウム種を混入する。また、リチウムの特性により、生成物組成物の最終的な特性に悪影響を及ぼすことなく、固相反応でリチウム元素を材料に混入することもできる。したがって、例えば一般に、LiOH・H2O、LiOH、LiCO、またはそれらの組合せなど粉末としての適量のリチウム源を、沈殿された金属炭酸塩または金属水酸化物と混合することができる。次いで、粉末混合物を加熱ステップに通して酸化物を生成し、次いで結晶性の最終生成物材料を生成する。
【0051】
水酸化物共沈プロセスのさらなる詳細は、上で参照した‘814出願に記載されている。炭酸塩共沈プロセスのさらなる詳細は、上で参照した‘735出願に記載されている。
【0052】
コーティングおよびコーティングを形成するための方法
金属フッ化物コーティングや金属酸化物コーティングなどの無機コーティングが、本明細書で述べるリチウムリッチ層状正極活物質の性能を大幅に改良することが判明しているが、これらのコーティングは、電池サイクルに関しては不活性であると考えられる。特に、金属フッ化物コーティングを施されたリチウム金属酸化物から作製される電池のサイクル特性は、コーティングなしの材料よりも大幅に良いことが判明しているが、、不活性金属酸化物コーティングおよび金属リン酸塩コーティングも望ましい特性を生み出すことが判明している。さらにまた、コーティングを用いた場合、電池の比容量が望ましい特性を示し、電池の初回のサイクルの不可逆容量損失を減少させることができる。上述したように、電池の初回のサイクルでの不可逆容量損失は、新しい電池の充電容量とその初回の放電容量の差である。本明細書で述べる電池に関して、初回のサイクルの不可逆容量損失の大部分は、一般に正極材料に起因する。コーティングが適切に選択されるとき、コーティングからのこれらの有利な特性は、所望の性能パラメータを実現するために特別に選択された化学量論を有する本明細書で述べる組成物に関して維持される。
【0053】
以下の実施例において、酸化マグネシウムMgOおよびフッ化アルミニウムAlFでコーティングされた活物質に関していくつかの性能特性が得られる。酸化マグネシウムコーティングは、活物質の比容量を増加し、正極活物質のより長期のサイクル特性を改良すると予想することができる。しかし、MgOコーティングは、材料の不可逆容量損失の減少をもたらさない。AlFコーティングは、不可逆容量損失を減少させ、比容量を増加させることが判明している。
【0054】
一般に、MgOの代わりに他の金属酸化物コーティングも効果的に使用することができ、他の金属フッ化物またはメタロイドフッ化物もコーティングに使用することができる。同様に、金属および/またはメタロイド元素の組合せを有するコーティングを使用することもできる。フッ化物コーティングに適した金属およびメタロイド元素としては、例えば、Al、Bi、Ga、Ge、In、Mg、Pb、Si、Sn、Ti、Tl、Zn、Zr、またはそれらの組合せが挙げられる。フッ化アルミニウムは、手頃な価格であり、環境に優しいと考えられるので、望ましいコーティング材料となり得る。金属フッ化物コーティングは、参照により本明細書に援用するSunらの「Cathode Active Materials Coated with Fluorine Compound for Lithium Secondary Batteries and Method for Preparing the Same」という名称の国際公開第2006/109930A号パンフレットに全般的に記載されている。金属/メタロイドフッ化物コーティングは、リチウムイオン二次電池用のリチウムリッチ層状組成物の性能を大幅に改良することができることが判明している。例えば、上で挙げた‘814出願および‘735出願、ならびに参照により本明細書に援用する、本願と同時係属中のLopezらの「Coated Positive Electrode Materials for Lithium Ion Batteries」という名称の米国特許出願第12/616,226号明細書を参照されたい。
【0055】
容量の増加および不可逆容量損失の減少は、参照により本明細書に援用するWuらの「High Capacity, Surface−Modified Layered Li[Li(1−x)/3Mn(2−x)/3Nix/3Cox/3]O Cathodes with Low Irreversible Capacity Loss」Electrochemical and Solid State Letters, 9 (5) A221−A224 (2006)に、Al2Oコーティングについて言及されている。改良されたサイクル性能を得るためのLiNiPOの使用は、参照に本明細書に援用するKangらの論文「Enhancing the rate capability of high capacity xLiMnO (1−x)LiMO (M = Mn, Ni, Co) electrodes by Li−Ni−PO treatment」Electrochemistry Communications 11, 748−751 (2009)に記載されており、この論文を、金属リン酸塩コーティングの形成に関して全般的に参照することができる。
【0056】
いくつかの実施形態では、コーティングは、コーティング自体は電気化学的に活性ではないが、電池の比容量を改良する。しかし、コーティングはまた、平均電圧、熱安定性、およびインピーダンスなど活物質の他の特性にも影響を及ぼす。コーティング特性の選択は、材料の特性の全範囲に関係付けられる追加の因子を組み込むことができる。
【0057】
一般に、コーティングは、25nm以下、いくつかの実施形態では約0.5nm〜約20nm、他の実施形態では約1nm〜約12nm、さらなる実施形態では1.25nm〜約10nm、さらなる実施形態では約1.5nm〜約8nmの平均厚さを有することができる。上の明示的な範囲に含まれるさらなる範囲のコーティング材料が企図され、本開示に含まれることを当業者は理解されよう。コーティングなしの材料の容量を改良するためにAlFでコーティングした金属酸化物材料で有効なAlFの量は、コーティングなしの材料の粒径および表面積に関係付けられる。コーティングを施されたリチウムリッチリチウム金属酸化物に関する性能特性に対する効果のさらなる論述は、参照により本明細書に援用する、本願と同時係属中のLopezらの「Coated Positive Electrode Materials for Lithium Ion Batteries」という名称の米国特許出願第12/616,226号明細書に見られる。
【0058】
金属フッ化物コーティングは、溶液ベースの沈殿手法を使用して塗布することができる。正極材料の粉末を、水性溶媒など適切な溶媒中に混合することができる。望ましい金属/メタロイドの可溶性組成物を溶媒中に溶解することができる。次いで、NHFを分散液/溶液に徐々に添加して、金属フッ化物を沈殿させることができる。コーティング反応物の総量は、所望の厚さのコーティングを形成するように選択することができ、コーティング反応物の比率は、コーティング材料の化学量論に基づくことができる。コーティングプロセスを促進するために、コーティングプロセス中に、水溶液に関して例えば約60℃〜約100℃の範囲内の適当な温度で約20分〜約48時間、コーティング混合物を加熱することができる。コーティングを施された電気活物質を溶液から除去した後、材料を乾燥させ、一般に約250℃〜約600℃の温度で約20分〜約48時間加熱して、コーティングを施された材料の形成を完了する。加熱は、窒素雰囲気、または実質的に酸素を含まない他の雰囲気中で行うことができる。
【0059】
酸化物コーティングは、一般に、活物質の粉末上への前駆体コーティングの堆積によって形成される。次いで、前駆体コーティングが加熱されて、金属酸化物コーティングを形成する。適切な前駆体コーティングは、対応する金属水酸化物、金属炭酸塩、または金属窒化物を含むことがある。金属水酸化物および金属炭酸塩前駆体コーティングは沈殿プロセスによって堆積することができる。なぜなら、水酸化アンモニウムおよび/または炭酸アンモニウムの添加分を使用して、対応する前駆体コーティングを堆積することができるからである。金属窒化物前駆体コーティングは、活性カソード粉末を金属窒化物溶液と混合し、次いで溶液を蒸発させて乾燥状態にして、金属窒化物前駆体コーティングを形成することによって堆積することができる。前駆体コーティングを施された粉末を加熱して、対応する金属酸化物コーティングを形成するためにコーティングを分解することができる。例えば、金属水酸化物または金属炭酸塩前駆体コーティングは、一般に約1時間〜約20時間、約300℃〜約800℃の温度に加熱することができる。また、一般に、金属窒化物前駆体コーティングを加熱して、少なくとも約30分間、約250℃〜約550℃の温度でコーティングを分解することができる。当業者は、特定の前駆体コーティング組成物に関する本発明における開示に基づいてこれらの処理条件を調節することができる。
【0060】
電池構造
図1を参照すると、電池100が概略的に示されており、負極102と、正極104と、負極102と正極104の間のセパレーター106とを有する。電池は、スタックなどの形で、適切に配置されたセパレーターと共に複数の正極および複数の負極を備えることができる。電極と接触する電解質は、逆極性の電極間のセパレーターを通るイオン伝導性を生み出す。電池は、一般に、負極102および正極104にそれぞれ関連付けられた集電体108、110を備える。
【0061】
リチウムは、一次電池と二次電池との両方に使用されている。リチウム金属の魅力的な特徴は、それが軽量であること、および最も陽性の強い金属であることであり、有利には、これらの特徴のいくつかの側面をリチウムイオン電池にも取り入れることができる。特定の形態の金属、金属酸化物、および炭素材料が、インターカレーション、合金化、または同様のメカニズムによってリチウムイオンをその構造内に取り込むものとして知られている。二次リチウムイオン電池における正極用の電気活物質として機能する望ましい混合金属酸化物を本明細書でさらに説明する。リチウムイオン電池とは、負極活物質が充電中にはリチウムを取り込み放電中にはリチウムを解放する材料である電池を表す。元素リチウム金属自体がアノードとして使用される場合、得られる電池は一般に単にリチウム電池と呼ばれる。
【0062】
得られる電池電圧はカソードとアノードでの半電池電位の差であるので、負極インターカレーション材料の性質がこの電圧に影響を及ぼす。適した負極リチウムインターカレーション組成物としては、例えば黒鉛、人造黒鉛、コークス、フラーレン、五酸化ニオブ、スズ合金、シリコン、酸化チタン、酸化スズ、およびリチウムチタン酸化物、例えばLiTiO(0.5<x≦1)やLi1+xTi2−x(0≦x≦1/3)を挙げることができる。さらなる負極材料は、Kumarの「Composite Compositions, Negative Electrodes with Composite Compositions and Corresponding Batteries」という名称の米国特許出願公開第2010/0119942号明細書、およびKumarらの「High Energy Lithium Ion Batteries with Particular Negative Electrode Compositions」という名称の米国特許出願公開第2009/0305131号明細書に記載されており、どちらの特許文献も参照により本明細書に援用する。
【0063】
正極活性組成物と負極活性組成物は、一般に、対応する電極内にポリマーバインダによって一体に保持された粉末である。バインダは、電解質と接触すると、活性粒子にイオン伝導性を与える。適したポリマーバインダとしては、例えば、フッ化ポリビニリデン、ポリエチレンオキシド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリレート、ゴム、例えばエチレン−プロピレン−ジエンモノマー(EPDM)ゴム、またはスチレンブタジエンゴム(SBR)、それらの共重合体、またはそれらの混合物が挙げられる。バインダ中の粒子担持量を多くすることができ、例えば約80重量パーセント超にすることができる。電極を形成するために、粉末を、ポリマー用の溶媒など適切な液体中でポリマーとブレンドすることができる。得られたペーストを電極構造に押し入れることができる。いくつかの実施形態では、電池は、参照により本明細書に援用するBuckleyらの「High Energy Lithium Ion Secondary Batteries」という名称の米国特許出願公開第2009/0263707号明細書に記載されている方法に基づいて構成することができる。
【0064】
また、正極組成物、および場合によっては負極組成物は、一般に電気活性組成物とは異なる導電性粉末を含む。適した補助的な導電性粉末としては、例えば、黒鉛、カーボンブラック、金属粉末、例えば銀粉末、金属繊維、例えばステンレス鋼繊維など、およびそれらの組合せが挙げられる。一般に、正極は、約1重量パーセント〜約25重量パーセント、さらなる実施形態では約2重量パーセント〜約15重量パーセントの異なる導電性粉末を含むことができる。上に明示した範囲に含まれるさらなる範囲の導電性粉末量が企図され、本開示に含まれることを当業者は理解されよう。
【0065】
電極は、一般に、電極と外部回路の間の電子の流れを促進するために導電性集電体に関連付けられる。集電体は、金属箔や金属グリッドなど金属を含むことができる。いくつかの実施形態では、集電体は、ニッケル、アルミニウム、ステンレス鋼、銅などから形成することができる。集電体上に電極材料を薄膜として鋳造することができる。次いで、電極から溶媒を除去するために、電極材料と集電体を例えばオーブン内で乾燥させることができる。いくつかの実施形態では、集電体箔または他の構造と接触している乾燥済みの電極材料に、約2〜約10kg/cm(キログラム/平方センチメートル)の圧力をかけることができる。
【0066】
セパレーターが正極と負極の間に位置される。セパレーターは、電気絶縁性であると同時に、2つの電極間での少なくとも選択されたイオン伝導を可能にする。様々な材料をセパレーターとして使用することができる。市販のセパレーター材料は、一般にポリエチレンおよび/またはポリプロピレンなどのポリマーから形成され、例えばイオン伝導を可能にする有孔シートである。市販のポリマーセパレーターとしては、例えば、Hoechst Celanese, Charlotte, N.C.からのCelgard(登録商標)系列のセパレーター材料が挙げられる。また、セラミックポリマー複合材料がセパレーター用に開発されている。これらの複合材セパレーターは、より高温で安定であることがあり、これらの複合材料は発火の危険を大幅に減少させることができる。セパレーター材料用のポリマーセラミック複合材は、参照により本明細書に援用するHennigeらの「Electric Separator, Method for Producing the Same and the Use Thereof」という名称の米国特許出願公開第2005/0031942A号明細書にさらに記載されている。リチウムイオン電池のセパレーター用のポリマーセラミック複合材は、Evonik Industries, Germanyによって商品名Separion(登録商標)の下で販売されている。
【0067】
電解質として、溶媒和したイオンを含む溶液に言及する。適切な液体中で溶媒和したイオンを生成するように溶解されるイオン組成物を電解質塩と呼ぶ。リチウムイオン電池用の電解質は、1種または複数種の選択されたリチウム塩を含むことができる。適切なリチウム塩は、一般に不活性アニオンを有する。適したリチウム塩としては、例えば、ヘキサフルオロリン酸リチウム、ヘキサフルオロヒ素リチウム、リチウムビス(トリフルオロメチルスルホニルイミド)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、リチウムトリス(トリフルオロメチルスルホニル)メチド、テトラフルオロホウ酸リチウム、過塩素酸リチウム、テトラクロロアルミン酸リチウム、塩化リチウム、リチウムジフルオロオキサレートボレート、およびそれらの組合せが挙げられる。従来、電解質は、濃度1Mのリチウム塩を含む。
【0068】
興味深いリチウムイオン電池に関して、リチウム塩を溶解するために一般に非水性液体が使用される。溶媒は、一般に電気活物質を溶解しない。適した溶媒としては、例えば、炭酸プロピレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、2−メチルテトラヒドロフラン、ジオキソラン、テトラヒドロフラン、メチルエチルカーボネート、γ−ブチロラクトン、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、トリグライム(トリ(エチレングリコール)ジメチルエーテル)、ジグライム(ジエチレングリコールジメチルエーテル)、DME(グライムまたは1,2−ジメチルオキシエタンまたはエチレングリコールジメチルエーテル)、ニトロメタン、およびそれらの混合物が挙げられる。高電圧リチウムイオン電池に関して特に有用な溶媒は、参照により本明細書に援用する、2009年12月4日に出願されて本願と同時係属中のAmiruddinらの「Lithium Ion Battery With High Voltage Electrolytes and Additives」という名称の米国特許出願第12/630,992号明細書にさらに記載されている。
【0069】
本明細書で説明する電極は、様々な市販の電池設計に組み込むことができる。例えば、カソード組成物は、プリズム形状の電池、巻型円筒形電池、コイン電池、または他の適当な電池形状に使用することができる。これらの電池は、単一のカソード構造、または並列および/または直列電気接続で組み立てられた複数のカソード構造を備えることができる。
【0070】
いくつかの実施形態では、正極と負極を、それらの間にセパレーターを挟んで積み重ねることができ、所望の電池構造を形成するように構成することができる。適切な導電性タブを集電体に溶接などで接続することができ、得られた電極構造を金属キャニスタまたはポリマーパッケージ内に配置することができ、負極タブおよび正極タブが適切な外部接点を溶接する。電解質をキャニスタに加え、キャニスタを封止して電池を完成させる。望ましいポーチ電池設計は、参照により本明細書に援用する、本願と同時係属中のKumarらの「Battery Packs for Vehicles and High Capacity Pouch Secondary Batteries for Incorporation Into Compact Battery Packs」という名称の米国仮特許出願第61/369,825号明細書にさらに記載されている。
【0071】
電池性能
本明細書で述べる特定の正極活物質から形成される電池は、中電流用途のための現実的な放電条件下での優れた性能が実証されている。特に、ドープ活性材料が、低および中放電速度での電池のサイクル時に、高い平均放電電圧および高い比容量を示している。以下の実施例で得られたサイクル結果、および関連の材料に基づいて、材料が、比較的大きいサイクル数まで良好なサイクル性能を示すことが予想される。
【0072】
一般に、電池性能を評価するために様々な類似した試験手順を使用することができる。本明細書で述べる性能値の評価に関して、具体的な試験手順を説明する。以下の実施例で、試験手順をより詳細に説明する。具体的には、室温で4.6ボルトと2.0ボルトの間で電池をサイクルさせることができる。4.6ボルトから2.0ボルトまでの範囲にわたる評価は商業利用に望ましいものである。なぜなら、本明細書で述べる活物質を用いた電池は一般にはこの電圧範囲にわたって安定なサイクルを有するからである。いくつかの実施形態では、最初の2回のサイクルに関しては、不可逆容量損失を確立するために、電池をC/10の速度で放電する。次いで、電池は、2回のサイクルに関してC/5、2回のサイクルに関してC/3、5回のサイクルに関して1C、5回のサイクルに関して2C、5回のサイクルに関して5C、および3回のさらなるサイクルに関してC/5でサイクルされる。ここでも、表記C/xは、選択された電圧限界値までx時間で電池を放電するような速度で電池が放電されることを示唆する。電池容量は放電速度に大きく左右され、放電速度が高まるにつれて容量が減少する。
【0073】
いくつかの実施形態では、正極活物質は、4.6ボルトから2.0ボルトへ放電されるときに放電速度C/3で少なくとも約260mAh/gの比放電容量を示すことができ、いくつかの実施形態では少なくとも約270mAh/gを示すことができる。上記の特定の範囲に含まれるさらなる範囲の比容量およびサイクル容量が企図され、本開示に含まれることを当業者は理解されよう。
【0074】
材料の平均電圧が重要なパラメータとなり得る。より高い平均電圧が、さらなる電力を供給できる能力を示すことがある。リチウム金属負極活物質を用いたいくつかの実施形態では、平均電圧は、4.6ボルトと2.0ボルトの間で放電速度C/10で放電されたときに、少なくとも約3.60ボルト、さらなる実施形態では少なくとも約3.64ボルト、さらなる実施形態では少なくとも約3.65ボルトになり得る。黒鉛状炭素負極活物質を用いたポーチセルなどの電池いくつかの実施形態では、平均電圧は、4.5ボルトと2.0ボルトの間で放電速度C/10で放電されたときに、少なくとも約3.45ボルト、さらなる実施形態では少なくとも約3.475ボルト、さらなる実施形態では少なくとも約3.50ボルト〜約3.60ボルトになり得る。また、黒鉛状炭素負極活物質を用いた電池に関して、250回目の放電サイクルでの平均電圧は、4.5ボルトと2.0ボルトの間で速度C/3で放電されたときに、少なくとも約3.25ボルト、さらなる実施形態では少なくとも約3.3ボルト、さらなる実施形態では少なくとも約3.325ボルトになり得る。上の明示的な範囲に含まれるさらなる範囲の平均電圧が企図され、本開示に含まれることを当業者は理解されよう。
【0075】
充電状態の関数としてDC抵抗プロファイルを評価することも有用である。10秒パルスからのDC抵抗は、パルス開始からパルス終了までの電圧の変化を、パルス開始時とパルス終了時での電流の変化によって割った値と定義される。本明細書で述べる電池は、充電と放電の両方に関して10秒パルス試験で1時間の速度(1C)で、少なくとも約30%の充電状態、いくつかの実施形態では少なくとも約25%の充電状態、さらなる実施形態では少なくとも約20%の充電状態において約6ミリオーム以下のDC抵抗を示す。いくつかの実施形態では、電池は、少なくとも約35%の充電状態で、さらなる実施形態では少なくとも約30%の充電状態で、他の実施形態では少なくとも約25%の充電状態で約5ミリオーム以下のDC放電抵抗を示す。上に明示した範囲に含まれるさらなる範囲のDC抵抗性能が企図され、本開示に含まれることを当業者は理解されよう。
【0076】
上述したように、本明細書における教示は、望ましいバランスの諸特性を有するリチウムリッチ正極組成物の設計を可能にする。比容量は、少なくともある値のxまではx値の増加と共に増加する傾向があるが、長期サイクル、平均電圧、およびDC抵抗など他のパラメータは、x値が低いほうが望ましい特性を有する傾向がある。これらの依存性の理解から、車両用途および家庭用電化製品など多くの対象用途に関して優れた性能を提供することができる新たな組成範囲が示されている。
【実施例】
【0077】
以下の実施例は、選択される金属量がLiMO(ここで、Mは金属元素Li、Ni、Co、およびMnの組合せである)の全体的な化学量論に基づいて選択される、いくつかの範囲の組成物の評価を対象とする。組成物を安定するためにコーティングを施した場合とコーティングなしの場合の結果を提示する。また、電気化学作用に対する化学量論の影響を解明するために、初回の充電/放電ステップ中に電気化学作用を調べる。
【0078】
実施例3、4、および6で試験したコインセル電池は、ここで概説する手順に従って製造したコインセル電池を使用して実施した。実施例7は、ポーチ電池を使用して得られた電池性能結果を示す。ポーチ電池の作製は実施例7で説明する。リチウム金属酸化物(LMO)粉末を、アセチレンブラック(Timcal, Ltd, Switzerland)からのSuper P(商標))および黒鉛(Timcal, LtdからのKS 6(商標))と完全に混合させて、均質な粉末混合物を生成した。それとは別に、フッ化ポリビニリデンPVDF(株式会社クレハ(日本)のKF1300(商標))をN−メチル−ピロリドン(SigmaーAldrich)と混合し、一晩撹拌して、PVDF−NMP溶液を生成した。次いで、均質な粉末混合物をPVDF−NMP溶液に添加して、約2時間混合して、均質なスラリを生成した。アルミニウム箔集電体上にスラリを塗布して、湿潤薄膜を形成した。
【0079】
NMPを除去するために、湿潤薄膜を設けられたアルミニウム箔集電体を真空オーブン内で110℃で約2時間にわたって乾燥させることによって、正極材料を作製した。正極材料を薄板圧延機のローラの間で圧延して、所望の厚さを有する正極を得た。混合物は、少なくとも約75重量パーセントの活性金属酸化物と、少なくとも約3重量パーセントのアセチレンブラックと、少なくとも約1重量パーセントの黒鉛と、少なくとも約2重量パーセントのポリマーバインダとを含んでいた。
【0080】
コインセル電池を製造するために、アルゴンを充填したグローブボックス内に正極を配置した。厚さ約125ミクロンのリチウム箔(FMC箔)を負極として使用した。高い電圧で安定になるように電解質を選択した。適当な電解質は、参照により本明細書に援用する、本願と同時係属中のAmiruddinらの「Lithium Ion Battery With High Voltage Electrolytes and Additives」という名称の米国特許出願第12/630,992号明細書に記載されている。電解質で浸漬された3層(ポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレン)の微孔性セパレーター(Celgard, LLC, NC, USAからの2320)を正極と負極の間に配置した。電解質をさらに数滴、電極の間に加えた。次いで、圧着法を使用して、電極を2032コインセルハードウェア(宝泉株式会社(日本))内部に封止し、コインセル電池を作製した。得られたコインセル電池をMaccorサイクルテスタで試験して、数サイクルにわたる充放電曲線およびサイクル安定性を得た。
【0081】
実施例1−リチウムリッチ錯体金属酸化物の合成
この実施例は、炭酸塩または水酸化物共沈プロセスを使用した望ましい正極活物質の形成を実証する。化学量論量の金属前駆体を蒸留水中に溶解して、望ましいモル比で金属塩を含む水溶液を生成した。それとは別に、NaCOおよび/またはNHOHを含有する水溶液を調製した。サンプルを形成するために、一方または両方の溶液を反応容器に徐々に加えて、金属炭酸塩または金属水酸化物の沈殿物を生成した。反応混合物を撹拌し、反応混合物の温度を室温〜80℃の間で保った。反応混合物のpHは、6〜12の範囲内であった。一般に、遷移金属水溶液は濃度1M〜3Mであり、NaCO/NHOH水溶液は、NaCO濃度1M〜4M、および/またはNHOH濃度が0.2〜2Mであった。金属炭酸塩または金属水酸化物の沈殿物を濾過し、蒸留水で複数回洗浄して、110℃で約16時間乾燥させて、金属炭酸塩または金属水酸化物の粉末を生成した。サンプルの調製のための反応条件の具体的な範囲をさらに表1に概略的に示す。ここで、溶液がNaCOとNHOHをどちらも含まないこともある。
【0082】
【表1】

【0083】
適量のLiCO粉末を、乾燥させた金属炭酸塩または金属水酸化物の粉末と混ぜ合わせ、ジャーミル(Jar Mill)、二重遊星形混合機、または乾燥粉末回転混合機によって完全に混合して、均質な粉末混合物を生成した。均質化した粉末の一部、例えば5グラムを1ステップで焼成して酸化物を形成し、その後、追加の混合ステップで、粉末をさらに均質化した。さらに均質化した粉末を再び焼成して、高い結晶性のリチウム複合酸化物を生成した。焼成条件の具体的な範囲をさらに表2に概略的に示す(scfhは、標準立方フィート/時)。
【0084】
【表2】

【0085】
このようにして形成された正極複合材料粒子は、一般にほぼ球状であり、比較的均質なサイズである。生成物組成は、全体の目標の酸化状態を生み出すように調節を行う酸素と共に組成物を生成するために使用される金属反応物の部分に対応すると仮定した。上の節で論じたように、これらの組成物に関する全体の組成式は、xLiMnO・(1−x)LiNiMnCo(組成式I)またはLi1+bNiαCoγMnβ(組成式II)と書くことができる。2組の組成物を生成した。第1の組に関しては、u=vを有する組成物タイプを合成した。表3で見られるように、Xが0.1〜0.5の範囲内であり、Mn%が35%〜70%の範囲内である総計34種のカソード組成物を合成した。組成物中に存在するNi、Co、およびMnの関係を図2にさらに示す。第2の組の組成物に関しては、uはvと等しくなく、ここでもx=0.1、0.2、0.3、0.4、または0.5である。表4は、合成された5つの異なるカソード組成物と、それらの対応するMn%を示す。
【0086】
【表3】

【0087】
【表4】

【0088】
高い結晶性の組成物の真密度を、ヘリウムピクノメトリを使用して得た。図3を参照すると、xLiMnO・(1−x)LiMOでのx値の関数として密度がプロットされている。各点でわずかなばらつきがあるが、概して、真密度は、より小さい量のXを有する組成のほうが大きい。様々なXを有するカソード組成物に関して同様のカソード粒子形態(粒径、多孔率、および表面積)を得ることができると仮定すると、より低いXを有する組成物のほうが高い電極密度を得ることができ、真密度が高くなる。望ましい、より大きい粉末装填量を電極で得ることに関して、これらそれぞれの特性と他の性能特性の適切なバランスを取ることができる。
【0089】
以下の実施例2で説明するように、両方の組での組成物の一部を、安定化組成物としての酸化マグネシウムでコーティングした。次いで、コーティングを施された組成物とコーティングなしの組成物とを使用して、上で概説した手順に従ってコインセル電池を作製した。コインセル電池を試験した。以下に、実施例3(第1の組の組成物)と実施例4(第2の組の組成物)で結果を述べる。
【0090】
さらに、以下の実施例5で説明するように、両方の組からの組成物の一部を酸化アルミニウムでコーティングした。次いで、コーティングを施された組成物とコーティングなしの組成物とを使用して、上で概説した手順に従ってコインセル電池を作製した。コインセル電池を試験した。以下に、実施例6で結果を述べる。
【0091】
実施例2−MgOでコーティングされた金属酸化物材料の形成
実施例1で説明したように合成したLMO組成物の一部を、この実施例で説明するように、安定化コーティングとしての酸化マグネシウムでコーティングした。LMO材料の上への酸化マグネシウムコーティングの塗布は、LMO上でマグネシウム組成物を乾燥させ、その後、焼成ステップを施すことによって行った。具体的には、選択した量の水に硝酸マグネシウムを溶解し、MgOでコーティングすべき正極活物質を硝酸マグネシウム溶液中に分散させた。次いで、この混合物を、乾燥状態になるまで数時間にわたって十分な温度で加熱した。乾燥粉末を収集して、乾燥空気中で従来のマッフル炉内で300〜500℃の温度で1〜5時間焼成した。次いで、約0.5wt%のMgOでコーティングされたLMOを使用して、上で概説した手順に従ってコイルセル電池を作製した。コインセル電池を試験した。以下の実施例で結果を述べる。
【0092】
実施例3−電池性能−第1の組の組成物
この実施例は、上の実施例1および2からの酸化マグネシウムコーティングを施したリチウム金属酸化物およびコーティングを施していないリチウム金属酸化物を用いて作製したコインセルの電池性能を実証する。
【0093】
コインセルは、実施例1および2で説明したように合成した粉末を取り入れた正極を用いて作製した。コイルセル電池を、サイクル1および2に関してはC/10、サイクル3および4に関してはC/5、サイクル5および6に関してはC/3、サイクル7〜11に関しては1C、サイクル12〜16に関しては2C、サイクル17〜21に関しては5C、およびサイクル22〜24に関してはC/5の放電速度で、24回の充電および放電サイクルに関して試験した。図4〜図9に、コインセル電池のサイクルに対する比放電容量のプロットを、比較のために実施例4で説明する第2の組の組成物を用いた電池に関する比放電容量の結果と共に示す。具体的には、図4、図5、図6、図7、および図8に示されるグラフは、それぞれx=0.1、0.2、0.3、0.4、および0.5を有する組成式Iによって表される近似の化学量論量を有する正極活物質を用いた電池を対象とする。図9は、0.5wt%のMgOでコーティングされたx=0.5を有する材料を対象とする。各図は、様々なMn%の値を有する各種の組成物に関する結果を伴う1組のプロットからなる。一般に、比放電容量は、正極活物質に関する組成式中のxの値が増加するにつれて増加したが、x=0.5を有する正極材料を用いた電池は、0.5wt%のMgO材料でコーティングされたx=0.4およびx=0.5を有する電池に比べて、より高い速度において低い比放電容量を示した。
【0094】
図10〜図14に、コインセル電池の電圧(V)に対する差分容量(mAh/V)のプロットを示す。具体的には、図10、図11、図12、図13、および図14に示されるグラフは、それぞれx=0.1、0.2、0.3、0.4、および0.5を有する組成式Iによって近似的に表される活物質を組み込む電池に関する差分容量を対象とする。図14は、0.5wt%のMgOでコーティングされたx=0.5を有する複合材料を対象とするデータも含む。充電プロセスは正の差分容量としてプロットされ、放電プロセスは負の放電容量としてプロットされる。特定のx値に関して、差分容量の結果は、Mn%の量にかかわらず定性的に同じであるが、差分容量の挙動はXの値に大きく左右される。3.8〜3.9ボルト付近の放電ピークは、組成式IのLiMO成分の反応に関係付けられると考えられ、4.4〜4.5ボルト付近のピークは、組成物のLiMnO成分の反応に関係付けられると考えられる。したがって、増加するXの関数として、3.8ボルト付近のピークは減少し、4.4ボルト付近のピークは増加する。
【0095】
電池の初回の充電および放電サイクルでの比容量、不可逆容量損失、および平均電圧を比較し、結果を以下の表5〜9に概説する。上述したように、不可逆容量損失は、電池に関する初回の充電容量と初回の放電容量の差である。平均電圧は、初回の放電サイクルにおいて、C/10の放電速度で4.6Vから2Vへの放電に関して得た。具体的には、表5、表6、表7、表8、および表9に示されるデータは、それぞれx=0.1、0.2、0.3、0.4、および0.5を有する正極活物質を用いた電池の性能を対象とする。各表は、所与のXに関して様々なパーセントのMnを有するカソード組成物に対応する電池に関する1組の結果と、0.5wt%のMgOでコーティングされた対応する複合材料からの結果とを含む。
【0096】
異なるx値(0.1、0.2、0.3、0.4、および0.5)を有する活性組成物を有する電池に関する平均電圧の変化が図15にプロットされている。具体的には、正極活物質に関するx値が増加するにつれて平均電圧は減少した。異なるx値(0.1、0.2、0.3、0.4、および0.5)に関する速度0.1Cでの初回のサイクルの放電容量の変化が図16にプロットされている。特に、放電容量は、x値が増加するにつれて増加し、0.4と0.5では同等の放電容量であった。図17に見られるように、IRCLの値は、X値が増加するにつれて増加した。X値の増加に伴うIRCLの増加は、主にLiMnOの反応に起因するIRCLと合致する。
【0097】
【表5】

【0098】
【表6】

【0099】
【表7】

【0100】
【表8】

【0101】
【表9】

【0102】
図18で、異なるX値を有するコインセル電池の電圧(V)に対する差分容量(mAh/V)を比較する。図18に示される差分容量曲線は、約4.4ボルトでのピークの大きさが、より低いXの組成に関して減少することを示す。しかし、3.8〜4.0ボルト付近のピークの電圧に関する大きさおよび偏移は、より低いXの組成に関して増加する。
【0103】
実施例4−電池性能−第2の組の組成物
この実施例は、上の実施例2で示したような酸化マグネシウムコーティングを施した、またはコーティングなしの、実施例1からの1組の組成を有するリチウム金属酸化物を用いて作製したコインセルの電池性能を実証する。
【0104】
コインセルは、実施例1および2で説明したように合成した粉末を取り入れた正極を用いて作製した。コインセル電池を、サイクル1および2に関してはC/10、サイクル3および4に関してはC/3、サイクル5〜9に関しては1C、サイクル10〜14に関しては2C、およびサイクル15〜19に関しては5Cの放電速度で、19回の充電および放電サイクルに関して試験した。組成物35を用いた電池は、他の組成物を用いた電池と比較して2つのさらなるC/5サイクルを有していた。x=0.1、0.2、0.3、0.4、および0.5を有する組成式Iで近似的に表される活物質を組み込むコインセル電池のサイクル数に対する比放電容量のプロットが図19に示される。一般に、比放電容量は、正極活物質に関する組成式中のxの値が増加するにつれて増加したが、x=0.4を有する正極材料を用いた電池は、x=0.1、0.2、および0.3を有する電池に比べて、より高速ではより低い比放電容量を示した。
【0105】
x=0.1、0.2、0.3、0.4、および0.5を有する組成式Iで近似的に表される活物質を組み込むコインセル電池の電圧(V)に対する差分容量(mAh/V)のプロットが、充電および放電サイクル2に関して図20に示される。充電プロセスは正の差分容量としてプロットされ、放電プロセスは負の放電容量としてプロットされる。3.8〜3.9ボルト付近の放電ピークは、組成式IのLiMO成分の反応に関係付けられると考えられ、3.0ボルト付近のピークは、組成物のLiMnO成分の反応に関係付けられると考えられる。したがって、増加するXの関数として、3.8ボルト付近のピークは減少し、3.0ボルト付近のピークは増加する。
【0106】
x=0.1、0.2、0.3、0.4、および0.5を有する正極活物質を組み込む電池の初回の充電および放電サイクルでの比容量、不可逆容量損失、および平均電圧を比較し、結果を以下の表10に概説する。上述したように、不可逆容量損失は、電池に関する初回の充電容量と初回の放電容量の差である。平均電圧は、初回の放電サイクルにおいて、C/10の放電速度で4.6Vから2Vへの放電に関して得た。
【0107】
【表10】

【0108】
実施例5−AlFでコーティングされたリチウム金属酸化物材料の形成
実施例1で調製したリチウム金属酸化物粒子に、溶液ベースの方法を使用してフッ化アルミニウム(AlF)の薄層をコーティングした。選択した量のフッ化アルミニウムコーティングに対して、適量の硝酸アルミニウムの飽和溶液を水性溶媒中で調製した。次いで、リチウム金属酸化物粒子を硝酸アルミニウム溶液中に添加して混合物を生成した。混合物を、均質になるように所定の時間にわたって良く混合した。混合の長さは、混合物の体積に応じて決まる。均質化後、均質化した混合物に化学量論量のフッ化アンモニウムを添加して、フッ素源を保ちながらフッ化アルミニウム沈殿物を生成した。沈殿の完了後、混合物を80℃で5時間撹拌した。次いで、混合物を濾過し、得られた固体を繰り返し洗浄して、反応していない材料を除去した。この固体を窒素雰囲気中で400℃で5時間焼成して、AlFでコーティングした金属酸化物材料を生成した。
【0109】
実施例1で述べたように合成したリチウム金属酸化物(LMO)のサンプルを、この実施例で述べたプロセスを使用して、様々な選択した量のフッ化アルミニウムでコーティングした。透過型電子顕微鏡を使用して、得られたAlFコーティングの厚さを査定した。次いで、フッ化アルミニウムでコーティングしたLMOを使用して、上に概説した手順に従ってコインセル電池を作製した。以下の実施例6で述べるようにコインセル電池を試験した。
【0110】
実施例6−AlFでコーティングされたサンプルに関する電池性能
この実施例は、様々なリチウム金属酸化物組成物について、ある範囲のAlFコーティング厚さに関して、および様々な電池性能パラメータに関して電池性能がどのように変化したかを示す。
【0111】
コインセル電池を、上述したように合成した材料から作製した。セルの性能を評価するためにそれらをサイクルさせた。最初の3回のサイクルは、充電/放電速度0.1Cで測定した。次の3回のサイクルは、充電/放電速度0.2Cで測定した。後に続くサイクルは、充電/放電速度0.33Cで測定した。コインセル電池のサイクルに対する比容量を図21に示す。電池は、40回の充電および放電サイクルを経た後に、7回目のサイクルの比容量に対して約98%の比容量を維持した。
【0112】
コーティングなしのLMO材料、ならびに3nm、6nm、11nm、22nm、および40nmのフッ化アルミニウムコーティングを施されたLMO材料から作製されたコインセル電池のサイクルに対する比容量を試験した。結果を図22に示す。コーティングを施されたLMO材料を用いた電池は、コーティング厚さに対する比容量性能の複雑な関係を示した。6nmのフッ化アルミニウムコーティングを有するLMO材料を用いた電池は、少ないサイクル数で最高の比容量を有し、一方、4nmのフッ化アルミニウムコーティングを有するLMO材料を用いた電池は、40サイクルで最高の容量を有した。40nmのコーティングを有するLMO材料を用いた電池は最低の比容量を有した。これは、コーティングなしの材料を用いた電池よりも低かったが、この電池は、サイクルと共に容量のわずかな増加を示した。
【0113】
コーティングなしのLMO材料、ならびに3nm、6nm、11nm、22nm、および40nmのフッ化アルミニウムコーティングを施されたLMO材料を有する電池の初回のサイクルの不可逆容量損失(IRCL)を測定した。コーティング厚さに対する総容量のパーセンテージ単位での結果のプロットを図23aに示し、コーティング厚さの関数としての比容量変化の結果のプロットを図23bに示す。IRCLの結果は、約10nmのコーティング厚さを有する電池に関してはIRCLの一定の減少を示し、11nm、22nm、および40nmのフッ化アルミニウムコーティングを施されたLMO材料を用いた電池に関してはIRCLはほぼ横ばいであった。
【0114】
コーティングなしのLMO材料、ならびに3nm、6nm、11nm、22nm、および40nmのフッ化アルミニウムコーティングを施されたLMO材料を用いた正極を有する電池に関して、電池の平均電圧を測定した。平均電圧は、4.6Vから2.0Vへの放電にわたって求めた。図24aに、平均電圧のプロットがコーティング厚さの関数として示されており、図24bには、コーティングなしの材料の性能と比べた電圧減少のパーセンテージのプロットがコーティング厚さの関数として示されている。一般に、平均電圧は、LMO材料上のフッ化アルミニウムコーティング厚さの増加につれて減少を示したが、6nm以下のコーティングに関しては平均電圧の減少は小さかった。
【0115】
さらに、コーティングなしのLMO材料、ならびに3nm、6nm、11nm、22nm、および40nmのフッ化アルミニウムコーティングを施されたLMO材料を有する電池のクーロン効率を測定した。本明細書で使用するとき、クーロン効率は、サイクル7での比容量に対するサイクル40での比容量のパーセンテージとして求め、初回のサイクルはC/3の速度とする。すなわち、クーロン効率は、100×(サイクル40での比容量)/(サイクル7での比容量)である。コーティング厚さの関数としてのクーロン効率のプロットを図25に示す。コーティング厚さが0から3nmへ増加されたとき、クーロン効率は約2%増加した。次いで、コーティング厚さが3nmから6nmおよび11nmへ増加されたとき、クーロン効率は大幅に減少した。コーティング厚さが22nmおよび40nmであったとき、正極活物質を用いて作製された電池に関して、クーロン効率が急激に増加した。
【0116】
実施例7−ポーチ電池を用いた性能の結果
この実施例は、実施例1で述べたように合成された典型的なリチウムリッチ活性組成物を用いた、約20Ahの総容量を有するポーチ電池に基づく結果を提供する。
【0117】
リチウム金属酸化物(LMO)粉末を、実施例1に述べるように合成した。X=0.2、0.3、0.4、および0.5を有する典型的な粉末を使用して、ポーチ電池を作製した。LMO粉末を、アセチレンブラック(Timcal, Ltd, Switzerland)からのSuper P(商標))および黒鉛(Timcal, LtdからのKS 6(商標))と完全に混合させて、均質な粉末混合物を生成した。それとは別に、フッ化ポリビニリデンPVDF(株式会社クレハ(日本)のKF1300(商標))をN−メチル−ピロリドンNMP(Honeywell − Riedel−de−Haen)と混合し、一晩撹拌して、PVDF−NMP溶液を生成した。次いで、均質な粉末混合物をPVDF−NMP溶液に添加して混合し、均質なスラリを生成した。ブレードコーティングプロセスを使用して、アルミニウム箔集電体上にスラリを塗布して湿潤薄膜を形成した。
【0118】
NMPを除去するために、湿潤薄膜電極を設けられたアルミニウム箔集電体を真空オーブン内で乾燥させることによって、正極構造を形成した。正極と箔集電体を薄板圧延機のローラの間で一緒に圧延して、所望の厚さを有する正極構造を得た。カソードのための箔を含めた平均厚さは、約110ミクロンであった。
【0119】
黒鉛とバインダのブレンドをアノード(負極)として使用し、負極組成物を銅箔集電体上にコーティングした。ポリマーバインダは、スチレンブタジエンゴム(SBR)とカルボキシメチルセルロースのブレンドとした。箔とアノードのペーストを、薄板圧延機のローラの間で一緒に圧延した。完成したアノードは、箔を含めた全厚が約115ミクロンであった。
【0120】
電池は、アノードプレートがスタックの両端に位置するように交互に重ねられた24枚のアノードプレートと23枚のカソードプレートとを用いて構成した。電解質で浸漬された3層(ポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレン)の微孔性セパレーター(Celgard, LLC, NC, USAからの2320)を、隣接する正極と負極の間に配置した。高い電圧で安定になるように電解質を選択した。適当な電解質は、参照により本明細書に援用する、本願と同時係属中のAmiruddinらの「Lithium Ion Battery With High Voltage Electrolytes and Additives」という名称の米国特許出願第12/630,992号明細書に記載されている。次いで、電極スタックを従来のポーチセル構造に組み立てた。得られたポーチ電池は、203mm×93mm×7.1mmの寸法であった。電池は、放電速度C/3で、15.3Ahの室温放電容量を有した。リチウムリッチ正極活性組成物を使用するポーチセルの作製は、参照により本明細書に援用する、本願と同時係属中のKumarらの「Battery Packs for Vehicles and High Capacity Pouch Secondary Batteries for Incorporation Into Compact Battery Packs」という名称の米国仮特許出願第61/369,825号明細書にさらに記載されている。
【0121】
ポーチ電池に関して、X=0.3、X=0.4、およびX=0.5を有する典型的なカソード組成について、充電状態の関数としてDC抵抗を測定した。さらなるパルス試験を行うために、電池を4.5Vに充電し、次いで10秒パルスを用いた室温(23℃)での1Cパルス試験にかけた。このパルス試験では、90%の初期充電状態から始めて、充電状態の関数としてDC抵抗を評価した。DC抵抗データを図26に示す。
【0122】
より大きい充電状態に関しては、望ましい約6ミリオーム(mΩ)未満のDC抵抗値がすべての電池で得られるが、充電状態が減少するにつれて抵抗が増加した。しかし、より低いX値を有する正極組成物に関しては、DC抵抗は、充電状態の関数としてよりゆっくりと増加する。したがって、より低いX値を有する組成物を用いて作製された電池は、商業用途において、電池を再充電する前に、望ましい低い抵抗値でより低い充電値まで放電することができる。抵抗は、3つの電池すべてに関して、約35%よりも大きい充電状態に関しては約5ミリオーム(mΩ)未満であり、3つの電池すべてに関して、約18%よりも大きい充電状態に関しては約10mΩ未満であった。したがって、電池は、低い充電状態まで非常に低いDC抵抗を示す。低いDC抵抗は、電池パック内での発熱を減少させることができ、これは、特に車両用途に関して望ましいことがある。
【0123】
実施例8−黒鉛状炭素アノードを用いたコイン電池の性能
さらに、コインセルを黒鉛状炭素アノードを用いて作製して、より多数のサイクルでサイクル性能を試験した。
【0124】
コイルセルは上述したのと同様に作製したが、負極を以下のように形成した点だけ異なる。負極は、活物質として黒鉛を備えるものとした。負極を形成するために、Super P(商標)アセチレンブラックをNMPと混合し、PVDFバインダ(株式会社クレハ(日本)のKF9305(商標))をNMPに加えて撹拌した。この溶液に黒鉛材料を加えて撹拌した。負極組成物を銅箔集電体上にコーティングして乾燥させた。次いで、負極を所望の厚さに圧延した。
【0125】
X=0.2、X=0.3、およびX=0.5を有するカソード材料を用いて作製されたコイン電池を、それぞれ225、350、および400サイクルにわたって4.5Vと2ボルトの間でサイクルさせた。最初の2回のサイクルは速度C/10で行い、その後のサイクルは速度C/3で行った。比放電容量を図27にプロットする。X=0.5の組成物を用いた電池は、始めはかなり大きい比容量を有するが、これらの電池はまた、サイクルと共に、より速い容量減少を示した。225サイクルで、最初のサイクル性能と比べた電池の比容量に関するサイクル効率は、X=0.2に関して約90%、X=0.3に関して87%、X=0.5に関して81%であった。同様に、これらの電池に関して平均電圧をサイクルと共に測定した。3つのコイン電池に関して、サイクル数の関数としての平均電圧を図28にプロットする。X=0.5のカソード組成物を用いて作製された電池は、他の2つの電池に比べてすべてのサイクルで大幅に低い平均電圧を示し、また、X=0.5のカソード材料を用いた電池に関して、平均電圧はサイクルと共により急速に降下した。より低い平均電圧は、一般に、電池から利用可能なエネルギーおよび電力の対応する減少をもたらす。X=0.2の組成物を用いた電池は、X=0.3を有する電池によって示される平均電圧に比べて、すべてのサイクルでわずかだけ大きい平均電圧を示した。
【0126】
上述した実施形態は、限定としてではなく例示として意図したものである。さらなる実施形態は特許請求の範囲に記載する。さらに、特定の実施形態を参照して本発明を説明してきたが、本発明の精神および範囲から逸脱することなく形態および詳細に変更を加えることができることを当業者は理解されよう。上記文献の参照による援用は、本明細書における明示的な開示に反する主題は組み込まないように限定する。本明細書で使用するとき、表記(値1≦変数≦値2)は、値1と値2が近似的な量であることを暗に仮定する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式xLiMnO・(1−x)LiNiu+ΔMnu−ΔCoによって近似的に表される層状リチウム金属酸化物を含むリチウムイオン電池用の正極活性組成物であって、xが、少なくとも約0.03であり、約0.47以下であり、Δの絶対値が概して約0.3以下であり、2u+w+yが約1であり、wが0〜1の範囲内であり、uが0〜0.5の範囲内であり、yが約0.1以下であり、ただし(u+Δ)とwの両方が0であることはないものとし、任意選択のフッ素ドーパントが、約10モルパーセント以下の酸素を置換することができる正極活性組成物。
【請求項2】
xが、少なくとも約0.1であり、約0.45以下である請求項1に記載の正極活性組成物。
【請求項3】
xが、少なくとも約0.15であり、約0.425以下である請求項1に記載の正極活性組成物。
【請求項4】
Δの絶対値が一般に約0.2以下であり、wが少なくとも約0.1であり、約0.6以下であり、uが少なくとも約0.1であり、約0.45以下である請求項1に記載の正極活性組成物。
【請求項5】
Δの絶対値が一般に約0.15以下であり、wが少なくとも約0.2であり、約0.475以下であり、uが少なくとも約0.2であり、約0.4以下であり、yが約0である請求項1に記載の正極活性組成物。
【請求項6】
前記正極活物質が、組成式Li1+bNiαCoγMnβによって近似的に表され、ここで、bが約0.04〜約0.175の範囲内であり、αが0〜約0.4の範囲内であり、γが0〜約0.46の範囲内であり、βが約2b+α−0.2〜約2b+α+0.2の範囲内であり、ただしαとγがどちらもゼロではないものとし、b+α+β+γが約1である請求項1に記載の正極活性組成物。
【請求項7】
前記活性組成物とは異なる組成物を有するコーティングをさらに備える請求項1に記載の正極活性組成物。
【請求項8】
金属酸化物を含むコーティングをさらに備える請求項1に記載の正極活性組成物。
【請求項9】
C/3の速度で4.6ボルトから2.0ボルトへサイクルさせたとき、少なくとも約235mAh/gの比放電容量を有する請求項1に記載の正極活性組成物。
【請求項10】
1Cの速度で4.6ボルトから2.0ボルトへサイクルさせたとき、少なくとも約190mAh/gの比放電容量を有する請求項1に記載の正極活性組成物。
【請求項11】
4.6ボルトから2.0ボルトへサイクルさせたとき、少なくとも約3.64の平均電圧を有する請求項1に記載の正極活性組成物。
【請求項12】
負極と、請求項1に記載の正極活性組成物を含む正極と、前記正極と前記負極との間のセパレーターと、リチウムイオンを含む電解質とを備える電池。
【請求項13】
前記負極が黒鉛状炭素を含む請求項12に記載の電池。
【請求項14】
正極活性組成物を合成するための方法であって、
組成式xLiMnO・(1−x)LiNiu+ΔMnu−ΔCoによって近似的に表される生成物組成に対応する選択された量でのマンガンならびにニッケルおよび/またはコバルトを含む前駆体組成物を共沈するステップであって、xが、少なくとも約0.03であり、約0.47以下であり、Δの絶対値が概して約0.3以下であり、2u+w+yが約1であり、wが0〜1の範囲内であり、uが0〜0.5の範囲内であり、yが約0.1以下であり、ただし(u+Δ)とwの両方が0であることはないものとし、任意選択のフッ素ドーパントが、約10モルパーセント以下の酸素を置換することができるステップと、
前記プロセス中の選択された時点でリチウム源を添加するステップと、
前記前駆体組成物を分解して金属酸化物を形成するために、前記前駆体組成物を加熱するステップと
を含む方法。
【請求項15】
前記前駆体組成物が水酸化物を含む請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記前駆体組成物が炭酸塩を含む請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記リチウム源が、前記金属酸化物を形成するために前記前駆体組成物を分解する前に前記前駆体組成物とブレンドされる請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記前駆体組成物を分解するために加熱するステップが第1の温度で行われ、さらに、前記金属酸化物の結晶度を改良するために前記第1の温度よりも高い第2の温度に前記金属酸化物を加熱するステップを含む請求項14に記載の方法。
【請求項19】
層状リチウム金属酸化物を含むリチウムイオンセル用の正極活物質であって、前記層状リチウム金属酸化物が、組成式Li1+bNiαMnβCoγδ2−zによって近似的に表され、ここで、bが約0.04〜約0.3の範囲内であり、αが0〜約0.4の範囲内であり、βが約0.2〜約0.65の範囲内であり、γが0〜約0.46の範囲内であり、δが約0〜約0.15の範囲内であり、zが0〜0.2の範囲内であり、ただしαとγの両方が0であることはないものとし、Aが、Mg、Sr、Ba、Cd、Zn、Al、Ga、B、Zr、Ti、Ca、Ce、Y、Nb、Cr、Fe、V、Li、またはそれらの組合せであり、2Cの放電速度で室温で放電したときに10回目のサイクルで少なくとも約180mAh/gの放電容量を有する正極活物質。
【請求項20】
黒鉛状炭素活物質を含む負極と、正極と、前記正極と前記負極の間のセパレーターと、リチウムイオンを含む電解質とを備えるリチウムイオン電池であって、前記正極活物質が、室温でC/3の速度で4.5ボルトから2.0ボルトへ放電したときに少なくとも約200mAh/gの比放電容量を示し、少なくとも約3.4の平均電圧と、少なくとも約30%の充電状態で約6mΩ以下のパルスDC電気抵抗とを有するリチウムイオン電池。
【請求項21】
前記正極が、組成式Li1+bNiαMnβCoγδ2−zによって近似的に表される積層リチウム金属酸化物を含む活物質を備え、ここで、bが約0.04〜約0.3の範囲内であり、αが0〜約0.4の範囲内であり、βが約0.2〜約0.65の範囲内であり、γが0〜約0.46の範囲内であり、δが約0〜約0.15の範囲内であり、zが0〜0.2の範囲内であり、ただしαとγの両方が0であることはないものとし、Aが、Mg、Sr、Ba、Cd、Zn、Al、Ga、B、Zr、Ti、Ca、Ce、Y、Nb、Cr、Fe、V、Li、またはそれらの組合せである請求項20に記載のリチウムイオン電池。
【請求項22】
前記電池がポーチ電池である請求項20に記載のリチウムイオン電池。
【請求項23】
前記DC電気抵抗が、25%の充電状態で約6mΩ以下である請求項20に記載のリチウムイオン電池。
【請求項24】
室温でC/3の速度で4.5ボルトから2.0ボルトへ放電したときに少なくとも約210mAh/gの比放電容量を有する請求項20に記載のリチウムイオン電池。
【請求項25】
少なくとも約3.45ボルトの平均電圧を有する請求項20に記載のリチウムイオン電池。
【請求項26】
室温でC/3の速度で4.5ボルトから2.0ボルトへ放電したときに250回目のサイクルで少なくとも約180mAh/gの比放電容量を有する請求項20に記載のリチウムイオン電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23(a)】
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【図23(b)】
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【図24(a)】
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【図24(b)】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【公表番号】特表2013−503450(P2013−503450A)
【公表日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−527020(P2012−527020)
【出願日】平成22年8月27日(2010.8.27)
【国際出願番号】PCT/US2010/046951
【国際公開番号】WO2011/031546
【国際公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(510275367)エンビア・システムズ・インコーポレイテッド (12)
【氏名又は名称原語表記】ENVIA SYSTEMS, INC.
【Fターム(参考)】