説明

高い異なる圧力差を有する電気化学セル用電極、かかる電極の製造方法、及びかかる電極を使用する電気化学セル

本発明は、担体及び/又は触媒を含有する、電気化学セルにおいて使用される多孔質電極であって、異なる平均孔径を有する2以上の層から成り、それらの層のうち、最小の平均孔径を有する接触層が膜と接触し、より大きな平均孔径を有する1以上の支持層がこの接触層の他の面に連結することを特徴とする多孔質電極に関する。さらに、本発明は、かかる電極の製造方法及びかかる電極を含有する電気化学セルに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い異なる圧力差で稼動する電気化学セルにおいて使用できる電極、該電極の製造、及びかかるセルにおけるかかる電極の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
電解のプロセスは長い間知られており、プロセスの過程で、電流を用いて適切な化学組成の物質からガスが発生し、金属析出が生ずる。例えば、適切な電解質の存在下、好適な電極上で電解により水から水素ガス及び酸素ガスが発生し得る。
【0003】
電解には2つの電極と少なくとも1つの電解質が必要である。電極は電解質に接続される。電解質は導電性イオン溶液又は幾つかの他の流体物質若しくは固体物質である。電解のプロセスの過程で、電子の移動が起こり、その結果、関与する物質の酸化状態が変化する。電子を受け取る化学物質は還元され、一方、電子を与える化学物質は酸化される。アノードは酸化が起こる電極であり、一方、カソードは還元が起こる電極である。(電極とは、化学反応が起こる表面のみを意味することが多いが、本明細書において、電極の定義は、この表面、この表面を担持する材料、及び所定の場合において、担持剤を共に保持するのに必要な他の構造的要素を含む。)電解質を跨いだアノード端とカソード端との間の電圧により、電流がその系を流れる。即ち、アノードでは電子が移動し、つまり電圧により酸化が起こる。こうして放出された電子はアノードからカソードへ伝達され、カソードで過剰電子の結果、還元が起こる。電解は電解セル内で起こる。
【0004】
電解と比較して逆のプロセスが起こると、つまり水素ガス及び酸素ガスが電極上で互いに反応し、且つこの過程で電流が発生すると、燃料電池と呼ばれる。
【0005】
燃料電池とは、所与の可燃性物質と酸化性物質とを互いに反応させ、このプロセスの結果、この目的のために設計された装置(機器)の要素上に電位差が発生する装置又は機器を意味する。すると電池内において、制御された電気化学的酸化の結果として、一次エネルギー量の燃料が直流を発生すると同時に熱エネルギーを放出する。直流を発生する従来の要素と比較して、燃料電池は燃料供給が確保される限り作動する。インバータを挿入することによって、燃料電池で交流を発生することもできる。
【0006】
燃料電池の基本的なユニットは2つの電極及び電解質から成る。作動中、水素はアノード上で反応し、酸素はカソード上で反応する。触媒の助けを借りて、水素分子はプロトンと電子に分かれ、プロトンは電解質を通って流れ、一方、電子は電極を通って流れる。こうして発生する電流は、電気の消費者に供給するために使用することができる。触媒の助けを借りて、カソードに到達する電子はプロトンと結合し、そしてこれにより酸素分子は最終生成物として水を生成する。
【0007】
燃料電池はまた、自動車産業及び宇宙研究の最新の開発においても使用される。それらの多くの利点の1つは、可動部品を何も含有せず、引力の作用、宇宙放射線、熱揺らぎに対して非感受性であり、信頼性、安定性があり、水素燃料及び酸素燃料が低重量及び低容積であり、稼動中に有害物質を発生しないことである(SZUCS, Miklos:A tuzeloanyag-cellak varhato szerepe az energiaszolgaltatasban (エネルギー供給における燃料電池の期待される役割)、Energiagazdalkodas (エネルギーマネージメント) 2002/4)。
【0008】
電解セル及び燃料電池は共に電気化学セルと称される。幾つかの電気化学セルは電気化学セルシステムを形成し、それにより発生する物質又は電流は共に電気化学セルシステムを形成する。
【0009】
電解の実用に関する多くの可能性の中で、水素ガスの発生に関連する方法及び機器を強調することが重要である。というのも、単純な化学組成のこのガスに関する多くの工業用途、特に化学工業用途が、有機化学、例えば医薬品産業における広範な技術的反応に特に関して知られているからである。(R. M. Machado, K. R. Heier, R. R. Broekhuis, Curr. Opin. Drug Discov. Dev., 4:745, 2001)。これらの産業分野において、水素ガスが、典型的にはいわゆる水素化反応の過程で汎用的に使用される。例えば、典型的な医薬品工場の生産活動の間、行われるすべての合成反応の約10〜20%が水素化反応である(F. Roessler, Chimia, 50:106, 1996)。水素化中に、水素原子は、白金等の適切な物質の助けを借りて所定の有機分子に組み入れられる。反応が実施される圧力が高いほど、水素化反応の成果は効率的になる。多くの溶液が高圧水素ガス製造用に工夫して作られている。水素イオン(H+)を含有する適切な溶液において、電圧によりカソード上で生成した過剰の電子は水素イオンを還元し、こうして水素ガス(H)が発生する。このために使用される装置は特定の文献において水素セルと通常呼ばれている。かかる水素セルは、ハンガリー特許出願第P0401727号、及びそれに基づき為された国際特許出願番号PCT/HU05/00046に記載されているように、ナノテクノロジーに基づく新規の水素化機器の水素供給を保証する(R. Jones, L. Godorhazy, G. Panka、D. Szalay, G. Dorman, L. Urge and F. Darvas, J. Comb. Chem., ASAP DOI: 10.1021/cc050107o, 2004; R.V. Jones, L. Godorhazy, G. Panka, D. Szalay, L. Urge, F. Darvas, ACS Fall Poster, 2004; C. Spadoni, R. Jones, L. Urge and F. Darvas, Chemistry Today, Drug Discov. Sec., Jan/Feb issue, 36-39, 2005)。
【0010】
水素セルの一般的な構造は、電解質の機能が固体又はゲル様の導電性膜によって実現されることを特徴とする。膜の別の機能はガス空間を分離することである。こうした特徴を有する多くの膜が知られており、例えば、プロトン伝導性高分子膜の系統に属する膜が知られている。水素セルにおいては、電解で2分子の水を分解する過程において、1分子の酸素と2分子の水素が生成し、そして水素ガスが生成する側では、2倍量の物質があるために、ガスの圧力は酸素ガスが生成する側の2倍である。つまり電解中に発生するガス量に差が生じる結果、膜の両側に有意な圧力差が生じる。電気化学セルは典型的には高いガス圧、及び高いガス圧力差を特徴とする。本明細書の発明の名称における異なる圧力差は、1つの部分にある2つの電極の空間内で発生するガスに関して起こる圧力の差、及びセルの内部空間と外部空間との間で生じる高い圧力差に関する。
【0011】
導電性物質から作製される多孔質構造の電極は、水素セルの膜の両側に押圧される。電極の第一の機能は膜に電流を伝えることであるので、導電性であり、膜の表面との効率的な電気的接触を確保することが重要である。さらに、電極の多孔性により、水を膜に導くことが可能となり、発生したガスの流出が可能となる。電極は、発生したガスにより生じる高圧に耐えるために機械的に安定でなければならない。また、電極の物質は、酸素ガスが発生する側では酸素に対して化学的に耐性でなければならない。電極は、担体上に白金、パラジウム、黒鉛、有機金属錯体等の触媒を含有する。電極は多くの環境への影響に対して耐性である必要があるので、電気化学セルにおいて使用することができる電極に関連する幾つかの発明が知られている。
【0012】
例えば、米国特許出願第US06828056号には、電極構造が記載されており、その担体は、アノードが機能する場合、1.5〜4Vの電圧値では酸化されず、ダイアモンド及び触媒と一体化したプロトン伝導性物質を含有する。
【0013】
典型的には、水素セルはまた、膜及び電極から離れて、水の流入接続部及び流出接続部、水素ガス流出部及び電気的接続部を含有する。水の流入部がアノード側にある水素セルにおいては、電解の基本的構成要素の水はアノード側、即ち酸素ガスが発生する側に入り、発生した酸素ガスは、幾らかの水と共に同じ側で放出される。プロトン及び残りの水はプロトン交換膜を通って流れ、水素ガスが発生するカソードと接触する。水流入部がアノード側にある水素セルに類似した、水流入部がカソード側にある水素セルも知られている。
【0014】
水素セルの開発目標の1つは、圧力の増大を制限する技術的限界を打破することである。電極の表面を押圧する膜は実際のところ、電極の多孔性のために、こぶのある表面上にある。電池におけるガスの圧力差が高くなるほど、孔上にある膜の表面要素と電極の固体粒子と接触する表面要素との間に膜の片側でより高い圧力差が生じる。カソード上で発生するガス(H)の量は、アノード上で発生するガス(O)の量の2倍であるので、カソード側のガス圧により膜がアノードに押圧される。結果的に、膜上での不均等な圧力分布はアノード表面上のこぶのある特徴による。所定の構造において、或る特定の圧力値を上回ると、膜は不均等な圧力分布のために破裂するおそれがあり、電池の不良という結果になる。その結果、水素セルにおいて使用される電極(少なくともアノード)は、機械的過負荷の場合に膜の破裂又はへこみ等の膜の損傷を防止できる表面構造及び構造体構造を有する必要がある。
【0015】
膜が破裂する確率は、多孔性を決定する平均孔径を減少させることにより減少できる。その結果、電極の表面がより均一になるので、膜はより高圧にもより耐性を保持する。しかしながら、平均孔径を減少させることにより、流路が狭くなるため、電極を通る物質の流れも低下し、セルの効率は低下する。こうした理由から、多孔度の値は、現在既知の電極の場合、おおむね40〜70容量%である。
【0016】
電極の正確に適切な厚さを規定することも必要である。というのも、薄すぎる電極は、作動の過程で生じる大きな圧力によって引き起こされる機械的負荷の結果、変形するか、破壊するおそれさえあるからである。しかしながら、厚すぎる電極は電極内部での物質の流れの効率を低下させる。
【0017】
以上の結果から、電極の平均孔径及び厚さの決定には徹底した考察が必要となる。
【0018】
膜の安定性を増大させる別の考えられる方法は、膜の内部繊維補強である。この方法の欠点は、繊維を使用する結果、膜の厚さの不均等な分布を生じ、上記原因により或る特定の圧力値を上回るとこのために破裂し得ることである。
【0019】
米国特許出願第US20040105773号には、作動の過程で生じる圧力差が2.000psi(約14MPa、140bar)を上回る電気化学セルが記載されている。焼結により製造される多孔質電極をそのセルにおいて使用される。多孔質電極上に吸着又は多孔質担体上に塗布される触媒は電解質膜と接触する。ここで、平均孔径:約2〜13μm(2〜13×10−6m)の電極の製造過程において、触媒は10%を上回る多孔度の担体内に浸入する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明が解決しようとする課題は、膜の破裂又は損傷の危険性がない方法であれば如何なる方法であれ、電極が高圧発生中であっても、膜に押圧できると同時に、電極がまた、効率的な稼動に必要な物質の流れを保証する電気化学セル用電極を提供することである。さらに、本発明が解決しようとする課題は、かかる電極を製造する方法を提供すること、及びかかる電極を含有する電気化学セルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、電極が異なる平均孔径を有する幾つかの層から構築される場合、膜と接触するより小さな平均孔径を有する層は、より均一な表面のために圧力がより高い場合であっても、安全に膜を押圧し、そしてより大きな平均孔径を有する層(複数可)は、高圧に由来する機械的効果がある場合に、電極に対し適切な安定性を保証する、という認知に基づいている。本構造において、適切な物質の流れは、より大きな平均孔径を有する層(複数可)において容易に液体及びガスが流れ得ることによって保証され、そして、より小さな平均孔径を有する層、すなわち物質の流れの観点から高度に耐性を有する層は、ガス及び液体が層を通って容易に流れることができるように薄くなければならない。
【0022】
上記の認知に基づいて、本発明に従って、電気化学セルにおいて使用され、且つ担体及び/又は触媒を含有する多孔質電極を用いて設定課題を解決した。この電極は、異なる平均孔径を有する2以上の層から成り、それらの層のうち、最小の平均孔径を有する層が、当該層(即ち、接触層)に対して押圧する膜と接触し、そしてより大きな平均孔径を有する1以上の支持層が、接触層の他の面に接続する。
【0023】
本明細書中において、接触層とは、膜と接触する運搬層を意味するものとし、支持層とは、膜に対して接触層の他の面、又は所定の電極内の別の支持層のいずれかと接触する層を意味するものとする。
【0024】
好ましくは、本発明による電極は、小さな平均孔径を有する接触層及びより大きな平均孔径を有する支持層から成る。
【0025】
本発明による電極の好ましい実施形態によれば、接触層はナノ粒子から成る層によって形成され、あるいはナノ粒子から成るさらなる層が接触層上に形成される。
【0026】
本発明の別の好ましい実施形態によれば、ナノ粒子から成る層は白金及び/又はパラジウムを含有する。
【0027】
好ましい実施形態によれば、異なる平均孔径を有する層は、好ましくはプラスチック製の、より好ましくは化学的に耐性なプラスチック製の保持ユニットによって取り囲まれている。
好ましくは、保持ユニットはリング状に形成され、より好ましくは内側に溝を有するリング状ユニットである。
【0028】
本発明による電極の担体は、導電性物質であり、金属又は黒鉛、好ましくはニッケル、コバルト、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブ、タングステン、鉄、白金又は黒鉛であり得る。電極を酸素側に構築する場合において、鉄及びニッケルの使用は、酸化効果のため、好ましくない。本発明による電極の担体はチタン製であることが最も好ましい。
【0029】
膜と接触する本発明による電極の表面は、電気化学セルに広く使用される触媒の1つでコーティングされる。電気化学セルで使用される触媒は、当業者に既知であるので、ここでは、水素側の考えられる触媒として白金、ロジウム及びパラジウムが例として挙げられる。酸素が発生する側で使用される触媒は、白金、オスミウム、ロジウム又はイリジウム、好ましくは白金又はイリジウム、最も好ましくはイリジウムである。
【0030】
好ましい実施形態によれば、電極の接触層の平均孔径は、0.5〜30μm(5×10−7m〜3×10−5m)、好ましくは1.0〜10μm(1×10−6m〜1×10−5m)、最も好ましくは1.5〜2.5μm(1.5×10−6m〜2.5×10−6m)であり、そして支持層(複数可)の平均孔径は、30〜800μm(3×10−8m〜8×10−4m)、好ましくは50〜500μm(5×10−5m〜5×10−4m)、最も好ましくは100〜300μm(1×10−4m〜3×10−4m)である。接触層がナノ粒子から成る場合、接触層の粒径及び孔径もナノメートル範囲内である。ナノ粒子から成り、接触層上に形成される任意選択のさらなる層の粒径及び孔径もナノメートル範囲内である。
【0031】
本発明はまた、以下に従いプレスによる電極の製造方法に関する:
・所定の場合に、担体の基材として働くスポンジ及び/又は顆粒及び/又は繊維材料を平均粒径又は平均直径に基づいて2以上の画分に分割する。及び
・個々の画分を計画された層の数に従ってプレス器具内でそれぞれの頂部に積層し、その後コールドプレス又は焼結する。
【0032】
本方法の好ましい実施形態によれば、保持ユニットは、スポンジ画分、顆粒画分又は繊維画分をそれぞれの頂部に積層する前にプレス器具内に配置される。
【0033】
別の実施形態によれば、チャネル(複数可)は電極の支持層内でプレスされる。
【0034】
さらに好ましい実施形態によれば、ナノ粒子から成る層は1以上のプレスされた層又は焼結された層上に形成される。
【0035】
触媒は、既知の最新の技術水準の方法の1つを使用して、コールドプレス又は焼結後に塗布される。
【0036】
本発明はまた、少なくとも膜、電極、電気的接続部及びこれらすべてを取り囲むハウジングから成る電気化学セルに関し、このセルは少なくとも1つの電極が異なる平均孔径を有する2以上の層から成ることを特徴とする。
【0037】
好ましい実施の形態によれば、電気化学セルは電気化学セルシステムの一部を形成する。
【0038】
別の好ましい実施形態によれば、電気化学セルは水素ガス生成用及び/又は酸素ガス生成用である。
【0039】
本発明による電極は、少なくとも担体及びそれに塗布される触媒から成る。担体、触媒、触媒の担体への塗布はすべて、最新技術により既知である。好ましくは担体及び触媒は共に保持ユニットによって取り囲まれる。
【0040】
担体は、焼結又はコールドプレスによって、スポンジ、顆粒、粉末及び/又は繊維から作製することができる。本発明による電極の層は、好ましくはコールドプレスによってスポンジ又は顆粒から、より好ましくはスポンジから製造される。
【0041】
本発明による電極は、例えば、水素ガス発生用の電気化学セルに又はかかるセルから構築されるセルシステムに使用することができる。ここで、好ましくは、水素ガス発生用電極(カソード)の担体は、例えば、ニッケル、コバルト、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブ、タングステン、鉄、白金又は黒鉛であり、より好ましくはチタンである。そして、好ましくは、触媒は、例えば、白金、パラジウム又はロジウムである。さらに、好ましくは、酸素ガス発生用の電極(アノード)の担体は、例えば、コバルト、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブ、タングステン、白金又は黒鉛であり、より好ましくはチタンである。そして、好ましくは、触媒は、例えば、イリジウム又はオスミウム、特に好ましいのはイリジウムである。
【0042】
本発明による電極は、異なる平均孔径を有する層、即ち、膜と接触する接触層と安定性を確保する1以上の支持層から成る。平均孔径の値はμmで表される。電極の接触層の平均孔径は、0.5〜30μm(5×10−7m〜3×10−5m)、好ましくは1.0〜10μm(1×10−6m〜1×10−5m)、最も好ましくは1.5〜2.5μm(1.5×10−6m〜2.5×10−6m)でり、そして1以上の支持層の平均孔径は、30〜800μm(3×10−8m〜8×10−4m)、好ましくは50〜500μm(5×10−5m〜5×10−4m)、最も好ましくは100〜300μm(1×10−4m〜3×10−4m)である。より多くの支持層が使用される場合、それらは異なる平均孔径を有し得る。接触層の厚さは、0.1〜2.0mm(1×10−4m〜2×10−3m)、好ましくは0.3〜1.0mm(3×10−4m〜1×10−3m)、より好ましくは0.5mm(5×10−4m)であり得る。支持層の厚さは支持層の数に依存する。1つの支持層を使用する場合、その厚さはおおむね1.2〜1.5mm(1.2×10−3m〜1.5×10−3m)である。
【0043】
好ましくは、ナノ粒子から成る触媒層は、例えば、白金及び/又はパラジウムを使用して、本発明による電極の接触層として又は接触層上に形成される。ナノ粒子はナノメートルの範囲内であり、その結果、電気化学反応をさらに一層効率的にする大きな比表面積を形成する。このように、実際の接触層は、ナノ粒子範囲内の粒径を有する層であるが、その機械的安定性は無視できるので、明確な定義を使用するために、本明細書において、接触層とは上記で規定した層を意味するものとする。
【0044】
その層の平均孔径は、個々の層を作り上げる顆粒の平均粒径又は繊維の平均直径によって影響される。典型的には、接触層の平均粒径は、50〜200μm(5×10−5m〜2×10−4m)である。典型的には、支持層の平均粒径は350〜800μm(3.5×10−4m〜8×10−4m)である。個々の層は、顆粒、若しくは繊維、又は顆粒及び繊維の混合物からも構成され得る。技術的な理由から、これら繊維はあまり長くなくてよいので、それらのダイアゴナル(diagonal)の好ましい値は、長さ及び厚さから得られる算術平均に近く、その値は、顆粒を使用する場合には、平均顆粒径と同じである。
【0045】
使用される平均孔径と平均粒径との間には明確な関係がある。電極の製造に使用される平均粒径が大きいほど、電極の平均孔径は大きくなる。
【0046】
本発明による電極の製造に使用される方法の場合、好ましくはその基材が金属又は黒鉛である、好ましくはニッケル、コバルト、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブ、タングステン、鉄、白金、又は黒鉛、最も好ましくはチタンであるスポンジを、好ましくはプラスチックの保持ユニットに高圧でプレスすることにより、電極がディスクとして構築される。別の好ましい実施形態によれば、上記に例示した材料のスポンジを使用する代わりに、それらの顆粒を使用してプレス操作を行う。
【0047】
本発明はまた、本発明による電極が少なくともより低圧側で使用される、電気化学セル又は電気化学セルシステムに関する。本発明による電極は、ガスの発生のために電解が行われ得るか、あるいはガスを使用して作動される燃料電池として機能し得る高圧の電気化学セルにおいて使用され得る。本発明による電気化学セル又は電気化学セルシステムは、好ましくは水素及び/又は酸素を発生する電解セル又は電解セルシステムであるか、又は水素及び酸素を含有するガス混合物を用いて作動する燃料電池又は燃料電池システムである。最も好ましくは、本発明による電気化学セル又は電気化学セルシステムは水素セルである。
【0048】
以下、本発明を、添付図面を用いて詳細に説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0049】
図1は、アノード側に水の導入部を有する水素セルの膜−電極ユニット(全体として符号1を付した)を側面図で示す、このユニットはプロトン伝導膜2、カソード3、アノード4及び電気的部接続5及び6から成る。
【0050】
直流電圧は電気的部接続5と6との間に右向きに発生し、水導入部から誘導される水7は電気化学的に分解され、その結果、プロトン及び水が膜2を通って流れることにより、酸素ガス9がアノード4上で発生し、水素ガス10がカソード3上で発生する。アノード側に残存する水8及び酸素ガス9は共にアノード4から離れる。
【0051】
図2は、本発明による電極の好ましい実施形態を示す。(より分かり易くするために、接触層11及び支持層12を取り囲む保持ユニットは図示せず。)図中、全体として符号4を付したディスク状アノードは、膜(図示せず)と接触する接触層11及び支持層12から成る。接触層11は膜と接触する。支持層12は同心円から成るチャネル13を有し、チャネル13は電極4上での導入される水7の均等な分布を確保する。支持層12に接続した水の導入(図示せず)を確保するユニットは、放射状のチャネルを含有して、導入される水がそれらから容易に支持要素12上の同心円を形成するチャネル内に流れることを可能にする。
【0052】
図3は、本発明による水素セルの好ましい実施形態を示す。水素セルのハウジングは、鉄製の上部圧力板301及び鉄製の下部圧力板302によって一緒にプレスされるプラスチック製の上部チャンバ303及びプラスチック製の下部チャンバ304を含む。チャンバはプラスチック製であり、酸素に対する化学的な耐性を確保する。上部圧力板301及び下部圧力板302は、鉄製のねじ(図示せず)によって互に向けて押され、最終的に、上部チャンバ303及び下部チャンバ304を一緒に押圧する。2つのチャンバ間の空間には、アノード4とカソード3の間に挟まれた膜2がある。カソード3はチタン製ばね305によって膜2に押圧される。圧力板301と302は電気的接続部、及びガス接続部並びに水接続部を運搬する。水接続部306と307は水の導入と水の排出を確保する。発生した水素ガスは管308を通って水素セルから排出される。電気的接続部5と6は、電解に必要な電流供給を確保する。電気的接続部は水素ガス圧に対してシールされ、そしてそれらはばね構造を有して温度変化により引き起こされる寸法変化を克服する。図中、電極3及び電極4の層は、より分かり易くするために、1つの単一ユニットとして示す。しかし、本発明によれば、これらの電極、少なくともアノード4は、異なる平均孔径を有する幾つかの層から成ることを強調する。電極はプラスチック製の保持ユニット309と310によって取り囲まれている。
【0053】
直流電圧が電気接続部5と6の間に右向きに発生する場合、水接続部306を通って入る蒸留水はアノード4上で電気化学的に分解される。その結果、ここで酸素ガスが発生し、膜2を通って流れるプロトン及び水により、水素ガスがカソード3上で発生し、その後、管308を通って使用場所又は貯蔵場所に導かれる。
【0054】
例えば、本発明による電極が、電解セルにおける水の分解によって水素ガス及び酸素ガスを発生するために使用される場合、使用され得る酸素側の電極(アノード)は、例えば、プラスチック製の保持ユニットにプレスされるチタン担体上にイリジウム触媒を含有し、その担体は、平均孔径2μm(2×10−6m)を有する厚さ0.5mm(5×10−4m)の接触層と、平均孔径200μm(2×10−4m)を有する厚さ1.2〜1.5mm(1.2×10−3m〜1.5×10−3m)の支持層から成る。
【0055】
例えば、本発明による電極が、電解セルにおける水の分解によって水素ガス及び酸素ガスを発生するために使用される場合、酸素側の電極(アノード)は例えば以下の手順で製造することができる。
【実施例】
【0056】
電極の製造は、以下の工程を通して行われる:
1.Oフリットプレス
2.洗浄、検査
3.組立
【0057】
1.側チタンフリットプレス
実際は、2層から成るフリットである。リブ付きの側では、粗粒チタン粉末(粒径:400〜1000μm(4×10−4m〜1×10−3m))4.5gを使用する。一方、膜と接触する側では、微細粒チタン粉末(粒径:400μm未満(4×10−4m未満))0.5gを使用する。よってそれらの総重量は5.0gである。
【0058】
プレス工程:
チタンと接触する器具の表面を、アルコールに浸漬した人工綿で又は10% HCl溶液で洗浄し、蒸留水ですすぎ、そしてすばやく乾燥する。
作成済みのプラスチックリングをプレス器具の下部に配置する。その後、粗粒チタン粉末をプレス器具内に均等に流し込み、粉末を適当な器具を用いてやさしく広げる。その後、器具を水平に保持して器具を回転させながら、混合物を分配する。
プレス棒をプレス器具内に配置し、チタン粉末をプレスする。操作後、プレス棒をプレス器具から除去する。次の工程では、微細粒チタン粉末をプレス器具に流し込み、広げる。分布後、プレスインサートをプレス器具上部内に配置し、チタン粉末をプレスする。
プレス器具をプレス内に配置し、10トン(1×10g)の重量でプレスする。プレスを開き、プレス器具を取り出す。プレス器具を分解し、プレスされたフリットをプレス器具から叩き出す。プレス後、プレスされたフリット及びプレス器具を圧縮空気で洗浄する。
【0059】
2.洗浄、検査:
プレスされたフリットをエタノール中に15分間浸漬し、その後乾燥した。任意の考えられるチタン粒子をフリットの両面から除去し、表面の平滑度を検査した。
【0060】
3.組立:
フリットを、平滑面を上向きにした人工綿上に配置した。イリジウム懸濁液(80mg/ml)500μl(5×10−4l)をフリットのチタン部分にプレスした。さらに、先の操作を、さらにかかるイリジウム懸濁液500μl(5×10−4l)を用いて繰り返し、そして乾燥した。イリジウムでコーティングした電極を、水圧プレスを用いて2トン(2×10g)で懸濁液側にプレスした。
【0061】
ナノ粒子から成る触媒層を、本発明による電極に塗布すれば、以下のことが実現され得る。明確な粒径及び形態を有する白金ナノ粒子は、既知の最先技術水準の方法を使用して、例えば、HPtClのメタノール/水溶液から、ポリビニルピロリドン(PVP)安定剤の存在下に、加熱された反応器空間内で製造される。多孔質チタンフリットを50〜70℃の温度に予熱し、白金粒子を含有する前もって調製したコロイド溶液数mlをフリットの接触層に塗布する。溶液塗布後、溶媒は蒸発し、白金ナノ粒子が残存する。このようにして、粒径2〜3nmの白金ナノ粒子層を電極表面上に作り出すことができる。
【0062】
本発明の目的を形成する電気化学セルの好ましい実施形態によれば、電気化学セルは水素セルであり、その酸素側の電極(アノード)は、2μm(2×10−6m)の平均孔径を有する厚さ0.5mm(5×10−4m)の接触層、及び200μm(2×10−4m)の平均孔径を有する厚さ1.2〜1.5mm(1.2×10−3m〜1.5×10−3m)の支持層から成り、これらの層はプラスチックリング内にコールドプレスされて電極を作り出し、その後、水素セルの稼動水素圧は35MPa(約350bar)にさえもなり得る。適切な膜を選択することが、より高い稼動水素圧に到達する条件である。本発明者等により選択された膜(デュポン製の膜、商品名Nafion(登録商標))を使用すると、高い水素圧の場合には、カソード側で発生する水素はアノード側に拡散する。本発明の主題を形成する電気化学セル構造を用いて、60MPa(600bar)に相当する稼働水素圧を達成することができる。上記のように製造される酸素側の電極(アノード)の理論上の耐圧性は、通常プレス圧力とアノードの表面(プレス圧力÷表面)から算出することができ、300MPa(約3000bar)にさえもなり得る。
【0063】
本発明の目的を形成する電極、電極の製造、及び電極を使用する電気化学セルは、明らかに図示の構造例に制限されないが、保護の範囲は、特許請求の範囲に特定される電極、電極の製造、及び電気化学セルにおける電極の使用に関する。
【0064】
さらに、当業者にとって明らかなように、本明細書において、本発明者等は、殆どの場合、最も汎用される電気化学セルの1つとしての水素セルに言及しているけれども、本発明による電極、電極の製造、及び電極を使用する電気化学セルは、膜を有する任意の高圧電解セル又は燃料電池の場合に使用され得ることを強調する。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】アノード側に水の入口を有する水素セルの膜−電極ユニットを断面図で示す。
【図2】一例としての電極の構造を詳細に斜視図で示す。
【図3】電気化学セルを断面で示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜の形態である電解質を含有する電解セルにおいて使用される、担体及び/又は触媒を含有する多孔質電極であって、該多孔質電極が異なる平均孔径を有する2以上の層から成り、それらの層のうち、最小の平均孔径を有する接触層(11)が前記膜(2)と接触し、より大きな平均孔径を有する1以上の支持層(12)がこの接触層(11)の他の面と接続することを特徴とする多孔質電極。
【請求項2】
より小さな平均孔径を有する接触層(11)及びより大きな平均孔径を有する支持層(12)から成ることを特徴とする、請求項1に記載の電極。
【請求項3】
前記接触層(11)がナノ粒子から成る層によって形成されるか、又はナノ粒子から成るさらなる層が前記接触層(11)上に形成されることを特徴とする、請求項2に記載の電極。
【請求項4】
ナノ粒子から成る前記層が白金及び/又はパラジウムを含有することを特徴とする、請求項3に記載の電極。
【請求項5】
異なる平均孔径を有する前記層が、好ましくはプラスチック製の保持ユニット、好ましくはリング(309、310)によって取り囲まれていることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の電極。
【請求項6】
前記担体の材料が、金属又は黒鉛、好ましくはニッケル、コバルト、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブ、タングステン、鉄、白金又は黒鉛、最も好ましくはチタンであることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の電極。
【請求項7】
前記触媒が白金、ロジウム、パラジウム、オスミウム又はイリジウム、好ましくは白金又はイリジウム、最も好ましくはイリジウムであることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の電極。
【請求項8】
前記接触層(11)の平均孔径が、0.5〜30μm(5×10−7m〜3×10−5m)、好ましくは1.0〜10μm(1×10−6m〜1×10−5m)、最も好ましくは1.5〜2.5μm(1.5×10−6m〜2.5×10−6m)であり、かつ、前記支持層(複数可)(12)の平均孔径が、30〜800μm(3×10−8m〜8×10−4m)、好ましくは50〜500μm(5×10−5m〜5×10−4m)、最も好ましくは100〜300μm(1×10−4m〜3×10−4m)であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の電極。
【請求項9】
プレスによって膜の形態である電解質を含有する電解セルにおいて使用される、担体及び/又は触媒を含有する多孔質電極の製造方法であって、少なくとも、次の工程を実施することを特徴とする、多孔質電極の製造方法:
・所定の場合に、前記担体の基材として働くスポンジ及び/又は顆粒及び/又は繊維材料を平均粒径又は平均直径に基づいて2以上の画分に分割する。
・個々の画分を計画された層の数に従ってプレス器具内でそれぞれの頂部に積層し、その後コールドプレスする。
【請求項10】
好ましくはプラスチック製の保持ユニット、好ましくはリング(309、310)が、スポンジ画分、顆粒画分又は繊維画分をそれぞれの頂部に積層する前に前記プレス器具内に配置されることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
チャネル(13)が電極(4)の支持層(12)内でプレスされることを特徴とする、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
ナノ粒子から成る層が1以上のプレスされた層上に形成されることを特徴とする、請求項9〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
少なくとも膜、電極、電気接続部及びその他の接続部、並びにこれらすべてを取り囲むハウジングを含む電解セルであって、前記電極の少なくとも1つが異なる平均孔径を有する2以上の層から成り、それらの層のうち、最小の平均孔径を有する接触層(11)が膜(2)と接触し、より大きな平均孔径を有する1以上の支持層(12)がこの接触層(11)の他の面に接続することを特徴とする電解セル。
【請求項14】
電解セルシステムの要素を形成することを特徴とする、請求項13に記載の電解セル。
【請求項15】
水素ガス(10)及び/又は酸素ガス(9)の発生用であることを特徴とする、請求項13又は14に記載の電解セル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2009−520880(P2009−520880A)
【公表日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−546652(P2008−546652)
【出願日】平成18年12月22日(2006.12.22)
【国際出願番号】PCT/HU2006/000124
【国際公開番号】WO2007/072096
【国際公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【出願人】(508187089)
【氏名又は名称原語表記】THALESNANO ZRT.
【Fターム(参考)】