説明

高い耐光性および耐候性を備えたアナターゼ白色顔料

本発明は、耐光性および耐候性が向上したアナターゼ型のTiO2顔料に関し、そのTiO2顔料は、青味、低硬度および摩耗性に関して利点を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い耐光性および耐候性を備えたアナターゼ型TiO2白色顔料に関する。その耐光性および耐候性はルチル白色顔料と同等であるが、アナターゼ型TiO2顔料は、青味、低硬度および低摩耗性に関してルチル型より優れた利点を有する。
【背景技術】
【0002】
TiO2白色顔料は、世界的な規模で化学繊維、プラスチック材料、GRPおよびラミネート紙などの複合材料の艶消し、白色着色および色の濃淡付け、ならびに塗料およびラッカーなどに広く使用されている。これらに関して、TiO2は関連する個々の使用に応じてアナターゼ型が好ましい場合またはルチル型が好ましい場合がある。
【0003】
アナターゼ白色顔料はルチル白色顔料よりも光散乱能は低いが青味度はやや高く、また耐光性および耐候性は低く、硬度は低く、さらに摩耗性は低い。さらに、アナターゼ顔料は触媒活性がより高いため、例えば、TiO2を添加したポリエステル繊維の製造においてアナターゼ顔料は早くも黄変を招く可能性もある。
【0004】
以下、TiO2白色顔料という用語は、略語形で単にTiO2顔料とする。
【0005】
2つの確立されたTiO2製造方法のうち、塩化物法ではルチルのみを製造することができ、硫酸塩法を用いるとアナターゼを製造することができ、コストレベルは高くなるがルチルも製造することができる。また、例えば、印刷用インクに用いるような、青味度がより高く摩耗性が低いルチル顔料は従来、両方法を用いることにより製造可能だが、経済的費用レベルは高くなる。その一方、触媒活性のないアナターゼ顔料は、単純なルチル顔料の場合と同様、基材にSbドープ処理を行うことでのみ製造することができ、さらに、耐光性を備えたものとなると、単純なルチル顔料の場合と同様に、Mn塩を用いた特殊な無機表面修飾を付け加えることでのみ製造することができる。
【0006】
しかし基材にドープ処理を行ったアナターゼ顔料は、露光によりラミネート紙では過度に灰色を帯び、また、Mnによる安定化作用は、例えば、ナイロンの場合の酸性染色法には耐えられず、雨により塗料およびラッカーの被膜やプラスチック部分から洗い流されるために耐候性はない。
【0007】
耐光性および耐候性を高めるためには、ルチル顔料に関する技術の現状は、基材にAl23をドープすること、すなわち、Al23をルチル結晶格子中に固溶することである。この場合、塩化物法では、硫酸塩法よりも製造温度が高いためにより多く固溶させることができる。また、両方法とも、サブミクロン結晶に関しては、結晶表面での分布平衡によってドープ成分は常に表面に多く存在する。このようにして耐候性は6倍〜12倍の間、さらにはそれ以上に向上させることができる。
【0008】
耐光性および耐候性をさらに向上させるだけでなく、使用系での顔料の分散性および耐凝集性も向上させるために、両顔料製造方法においてAl(OH)3、シリカ、アルミノケイ酸塩などで基材を表面修飾すること、すなわち、一般的にはそのような層で完全にまたは部分的に覆うことができる。この場合、成分は、顔料の計画された使用分野に従って選択することができる。このようにして、耐候性は各使用系によく適合し、基材のドープ処理による場合と同じ高さにまで向上させることができる。
【0009】
ルチル型の修飾では多くの金属酸化物をドープすることができ、ルチル結晶がそれによって着色されないことを確保しさえすればよいが、一方、アナターゼ結晶にはまだAl23さえドープすることができない。従来、アナターゼ顔料について唯一可能な選択肢はSb23のドープしかなかった。しかしこれに関して耐候性は、ドープ処理していないルチルの、ドープ処理していないアナターゼに対する耐候性の高さに相当する程度の倍率で、わずかながら向上するに過ぎないことが分かるだろう。
【0010】
ある程度の耐光性を備えたアナターゼ顔料は当技術分野の現状において知られている。
【0011】
特許文献1には、1.5〜50mol%のNb/(Ti+Nb)を含有する、TiO2中の酸化Nbの固溶体が記載されており、その固溶体は、純粋なアナターゼと比べて基本セルおよびエネルギー帯域間隔も拡大したアナターゼ結晶格子を保持し、所望により、Fe、Cr、Al、Ga、Sc、Co、Mn、NiおよびInなどの三価金属の酸化物をその結晶格子中に固溶することができる。これに関して、特許文献1の情報によれば、そのアナターゼ構造は、微結晶サイズが100nm未満、好ましくは10〜40nmの間である場合のみ安定している。特許文献1によれば、そのようなナノ粒子の生成物は触媒作用および光触媒作用において純粋なナノアナターゼよりも有効である。
【0012】
また、特許文献2には、結晶コアとその上に酸化NbまたはNb−Ti複合酸化物の0.01〜50nm厚の非晶質層(特許請求されている、実証済み3nm)とを含むTiO2白色顔料(アナターゼ型が好ましい)が記載されている。結晶コアには0.02〜0.4%Alまたは0.05〜1.0%Znをドープし全体に均等に分布させることができる。
【0013】
さらに、特許文献3では、ドープ処理したアナターゼが開示されている。それによれば、特にアナターゼ顔料の触媒活性は、TiO2に対する0.05〜1重量%のアンチモンイオンによる基材のドープ処理により低下し、この際に存在する酸化数+5のSbは60%を超える。アナターゼ顔料の耐光性は、特に基材上の無機表面被覆により得られ、その表面被覆は0.05〜0.8%の間のMnを含有し、この際に存在する酸化数+2のMnは5%を超えることが好ましい。
【0014】
通常の硫酸塩法による特許文献4によれば、焼成操作により水溶性のAlおよび/またはZnの塩をアナターゼにドープすることもできる。得られたアナターゼ白色顔料は、PEフィルムの明度および耐熱性を向上させ、水性メラミン樹脂ラッカーの耐光性を向上させたと述べられている。さらに、希HClでの1回限りの抽出によりAlおよびZnの添加量の一部が溶出したことから、これはアナターゼ結晶の表面上に存在する一部のものであり、残りのものは結晶内部に固溶しているに違いないと結論付けている。しかし本発明者らの試験によれば、表面部分の完全抽出には4〜5回の抽出が必要であることが立証されており(非特許文献1)、m−チタン酸のアニール処理では、ルチルとは異なり、アナターゼにAlをドープすることはできなかった。さらに、特許文献4に記載されている生成物は、本発明者らの発見によれば、全ての使用系で耐光性を有するとは限らず、また耐候性を有することは決してない。
【0015】
特許文献5によれば、ルチルをAl、GaまたはIn化合物と混合し、最初にNH3雰囲気下で加熱処理を行い、次いで空気中で加熱処理を行う。その方法によりルチルはその大部分がアナターゼへと転換されると述べられている。しかし添加量を多くしても完全転換は起こらない。生成されたアナターゼ−ルチル混合物は弱紫外線下で光触媒活性を示すとすでに述べられている。
【0016】
よって、上述のことを要約すると、アナターゼのドープ処理は、行うことが可能ならば、各関連要素に応じてTiO2の光触媒活性を減少させたり、増大させたり、あるいはTiO2の光触媒活性に影響を与えなかったりすることが当技術分野の現状において知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開2004−196641号公報
【特許文献2】特開平11−349329号公報
【特許文献3】独国特許出願公開第102007027361号明細書
【特許文献4】米国特許第6113873号明細書
【特許文献5】特開2005−089213号公報
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】U. Gesenhues, Solid State Ionics 101-103 (1997) 1171
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明の目的は、ドープ処理したアナターゼ白色顔料の特性に関する技術の現状の欠点を克服することであり、またアナターゼの耐光性および耐候性を高めるためにより効果的な基材のドープ処理を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
驚くべきことに、本発明者らは、そのような改善された特性を有するアナターゼ顔料を提供することができることを見出した。そのようなアナターゼ白色顔料は、Al、Ga、InおよびCeから選択される三価カチオンと、SbおよびNbから選択される五価カチオンならびにLi、NaおよびKから選択される一価カチオンから選択されるさらなるカチオンとをその結晶中に組み込むことにより、補償様式でドープされている。これに関して、そのさらなるカチオンは顔料基材中のTiに対して1.5mol%未満の量で存在する。
【発明を実施するための形態】
【0021】
一実施形態では、アナターゼ白色顔料は、その顔料中に少なくとも98.5%がアナターゼ型で、残りがルチルとして存在し、三価カチオンと第2のカチオンとのモル比は0.3〜6.0の間である。
【0022】
また、別の実施形態では、アナターゼ白色顔料は、GaおよびInから選択される三価カチオンだけをその顔料基材中のTiに対して0.05〜0.5mol%の量でドープされており、ここで、そのアニオン格子中に、2個の組み込まれた三価カチオンにつきそれぞれ1つの電荷補償欠陥が存在する。
【0023】
本発明によれば、白色顔料という用語は、100nmより大きい微結晶サイズを有する上記のような顔料を示すために用いられる。高度の着色を行わずに最適な光散乱性能を得るために、本発明によるTiO2白色顔料は150〜300nmの間の微結晶サイズを有するものである。
【0024】
ここで、本発明によれば、固溶体の製造に関する区別として、ドーピングとは、上記のような少量のものをTiO2へ添加することを意味して用いており、その添加によって結晶の基本セルの寸法およびエネルギー帯間隔は微々たるものにすぎないがとにかく変化するということを指摘しておく。さらに、ドーピングとは、製造に使用したドーピング元素のかなりの部分がTiO2結晶全体にわたって均等に分布することも意味する。これに関して、本発明によるTiO2結晶の微結晶サイズは上に明記したとおり少なくとも100nmである。これはBET最大20m2/gに相当し、ドーピングの分布は顔料加工に関連する要件に従って少なくとも350℃まで熱的に安定している。
【0025】
また、結晶がより小さい(ナノ結晶)にもかかわらず、より大型の結晶中に組み込むことができない元素をドープすることができる場合も多い。例えば、ナノ結晶の製造に用いられることがある水熱処理では多くの場合分布は結晶内で生じるが、より大型の結晶の製造に必要なより高い温度では分布はもはや安定ではなくなる。さらに、ドーピング元素はナノ結晶の内部に組み込まれ、大型結晶とは異なる欠陥構造を有する可能性がある。表面領域は2〜10nm厚であり、一般的に結晶内部とは異なる欠陥構造を有し、ナノ粒子の場合には結晶内の体積の大部分を占有するためかなり大きな役割を果たす。従って、形式的に同じようにドープした同じ材料でもナノ粒子形態やより大きな粒子形態により異なる特性および異なる構造を有することが多く、結晶構造に関して同一と考えるべきではない。
【0026】
本発明によるドーピングに関して、本発明者ら自身は、補償ドーピングの原理に基づくドーピングはTiよりも低原子価の金属および高原子価の金属の酸化物を用いて同時に行うことができるという考えに基礎を置いている。本発明によるドーピングでは出発化合物を塩の形で、明記した原子価を有するものを用いる。
【0027】
本発明者らは上記ドーピングを用いたが、それはTiO2の光触媒活性の起源は電子および欠陥電子の生成を伴う光の吸収であったためであり、生じた電子はどちらもTiO2粒子の内部から表面へと拡散し、そこでその母体との酸化還元反応に関与する可能性がある。本発明に従って用いる補償ドーピングに関しては、捕捉位置および再結合中心は両種類の電荷キャリアの内部に生じるため、両方の電荷は遅れてその表面に現われるかまたは全く現われない。また、より低い原子価およびより高い原子価の金属イオンも格子中のTi位置において隣接関係の中に、すなわち、置換により、アニオン格子を破壊せずカチオン電荷の局所補償のために組み込むことができるため、光触媒活性を特に効果的に低下させることができる。
【0028】
本発明者ら提示の、アナターゼの補償ドーピングについて、本発明はAl(+3)+Sb(+5)、Al(+3)+Nb(+5)、Ga(+3)+Sb(+5)、Ga(+3)+Nb(+5)、In(+3)+Sb(+5)、In(+3)+Nb(+5)、Ce(+3)+Sb(+5)およびCe(+3)+Nb(+5)の組合せを提供する。Inはまた酸化数+1で存在してもよく、CeおよびNbはまた+4およびSb+3として存在してもよいが、それらの酸化数についてはそれぞれの適切な第2のドーピング元素との組合せにより抑える必要がある。
【0029】
本発明者らは、特定の場合において、三価カチオンがGoldschmidtによるイオン半径表(例えば、F A Cotton and G Wilkinson: Anorganische Chemie; Verlag Chemie, Weinheim 1970 - page 41)に従ってTi(+4)以上の大きさであり、その元素の酸化数がより高いと考えられないならば、GaおよびInの場合と同様に、第2の五価カチオンをLi(+)のような一価イオンで置換することができ、または第2のカチオンを完全になくすことが可能であることをさらに発見した。その場合、一価カチオンは格子間カチオン位置に組み込まれ得るため電気的中性に戻る。TiO2顔料の光安定性は欠陥電子の弱いトラップとしての三価カチオンの作用によって得られる。
【0030】
第2のカチオンを省くとその代わりに、2個の組み込まれた三価カチオンに対して、それぞれ1つの欠陥がアニオン格子中に生じる、すなわち、結晶自体が電荷補償を行う。その反応は、ルチル顔料のAl23ドーピング中に起こるが、結晶を不安定にするため限られた程度でしか起こらず、アナターゼの場合も上に定義したとおり正確にTi(+4)以上のカチオンを用いた場合しか起こらない。そのようなドーピングはまた捕捉位置および再結合中心を結晶格子中での光誘起電荷に利用可能にするためアナターゼは光安定性となる。
【0031】
よって、本発明によれば、アナターゼ顔料は、硫酸塩法を用いる製造において、ドーピングに用いるカチオンを、好ましくは2μmより小さい平均粒子サイズを有する、それらの水溶性塩またはそれらの固体水酸化物、オキシ水酸化物または酸化物の形でm−チタン酸に添加することにより製造することができる。
【0032】
本発明者らがこれまでに発見したとおり、ドーピング元素は原理上TiO2白色顔料焼成の間全ての反応に影響を及ぼし得る。しかし最初の成長期にTiO2結晶成長に干渉しないように、それに代わるものとして、ドーピング元素を反応性の低いあるいは熱的に安定な化合物として添加するような方法により進行させることが可能である。それはドーピング元素の酸化物であってもよいが、ドーピング元素の特定の塩および無機化合物であってもよい。硫酸塩法を用いて得、それを漂白し、焼成の準備をしたm−チタン酸を、まず不完全にアニールし、次いで含浸によりドープし、最終的にアニールして、アナターゼ顔料を得る場合、用いる操作手順は、実施上、容易に確認することができる。
【0033】
特に、ルチル白色顔料と同程度の耐光性および耐候性であるアナターゼ白色顔料は、従来排他的に用いられているルチル顔料の代わりに用いることができ、摩耗がより少ないという利点を有し、紙、厚紙、プラスチック材料および金属の印刷用インクでは、耐光性および耐候性に関して特に需要がある。当技術分野の現状によれば、市販のアナターゼ顔料の摩耗量は約10〜最大約20mgであり、硫酸塩法によるルチル顔料では約20〜30mgであり、塩化物法によるルチル顔料の摩耗量は約30〜40mgであるが、ここでは、摩耗量はCu棒摩耗法(the Cu bar abrasion method)を用いて測定した(B Vielhaber - Kirsch and E W Lube, Farbe + Lack 1995, Issue 8, page 679およびKronos - Information 6.30に記載されている)。
【0034】
本発明によれば、アナターゼ顔料は前述の方法に従って決定された最大20mgの摩耗性を有する。
【0035】
さらに、アナターゼ型TiO2のUV吸収はルチルの場合の407nmに対してわずか381nmで始まることから、本発明による上記アナターゼ白色顔料はUV硬化ラッカーへのTiO2顔料の使用にも開かれている。
【0036】
経済的理由から、本発明に従って用いる一部のドーピング元素(Ce、NbおよびGaなど)の添加量は、新規アナターゼ白色顔料の商業生産およびすでに市場に出ている技術的解決法による置き換えによって制限することができる。
【0037】
本発明によるアナターゼ顔料をさらに無機的におよび/または有機的に表面修飾するならば有利だろう。その場合、アナターゼ顔料は、Al2(SO43および/またはNaAlO2溶液、水ガラスおよび、リン酸塩溶液での処理を受けたことにより無機的に表面修飾することができる。また、アナターゼ顔料は、例えば、トリメチルロールプロパンまたはシリコーン油での処理を行うことにより有機的に表面修飾することができる。
【実施例】
【0038】
次の実施例を用いて本発明をさらに下に記載する。
【0039】
実施例1:Ceを用いたドーピング
漂白処理したm−チタン酸(硫酸塩法を用いて製造し、アナターゼ白色顔料を得るための焼成のために予めアニール用の塩と混合したもの)を乾燥させ、次いでIKA社製衝撃式粉砕機中で異なる量のCe(NO33x6H2O水溶液を含浸させた。m−チタン酸中のTi当たりのCe添加量(単位mol%)を表1に示す。液体量は常に、m−チタン酸粉末上に水分が認められないように選択した。粉末を再び乾燥させ、次いでマッフル炉で異なる温度で90分間アニールし、その結果としてアニール生成物を得、CBU17〜18のもの(CBU 下記を参照)とさらにそれを下回る値およびそれを上回る値のものであった。
【0040】
実施例2:Nbを用いたドーピング
Ce(NO33x6H2Oの代わりにNb含量19.7%のNb−NH4オキサレートの市販調製品(白色粉末、水溶性)を用いた以外は製造実施例1と同様に実施した。ドーピング量を表1に明記する。
【0041】
実施例3:CeおよびMbを共に用いたドーピング
製造実施例1および2と同様に実施し、2つのドーピング操作を連続的に適用して水分が認められないようにした。ドーピング量を表1に明記する。
【0042】
実施例4:本発明によるさらなる補償ドーピング
Al+Nb:硝酸セリウムIII溶液の代わりにAl2(SO43水溶液を用いた以外は製造実施例3と同様に実施した。
Ce+Sb:漂白処理したm−チタン酸(硫酸塩法を用いて製造した、実施例1〜3のアニール操作での出発材料とアナターゼ白色顔料焼成用の同じ塩を含有するもの)の水性懸濁液を異なる量の硝酸セリウムIII溶液および水性60%Sb23ペースト(Aquaspersions Ltd, Halifax, West Yorkshire, Enland)と混合し、乾燥させ、上記のとおりアニールした。
Al+Sb:Ce+Sbについての上記のとおり実施し、硝酸セリウムIII溶液の代わりにAl2(SO43溶液を用いた。3つ全ての系についてのドーピング量を表3に明記する。
【0043】
実施例5:最初に焼成処理したm−チタン酸へのCe+Nbを用いたドーピング
製造実施例1と同様に、漂白処理したm−チタン酸を825℃に上昇する温度で7時間アニールし、次いで製造実施例3と同様に、CeおよびNbを共に含浸させ、マッフル炉でアニールして同じCBU値とした。ドーピング量を表4に明記する。
【0044】
実施例6:Ga、Ga+Nb、Ga+(および)Li、In、In+Nbを用いたドーピング
製造実施例1と同様に、漂白処理したm−チタン酸を乾燥させ、製造実施例1と同様に、それぞれGaOOHおよびIn23の希釈水性塩−酸溶液、実施例2のNb−NH4オキサレート調製品の水溶液またはLiClの水溶液を連続的に含浸させ、(再び)乾燥させ、最終的にマッフル炉でアニールした。ドーピング量を表5に明記する。
【0045】
比較例(当技術分野の水準):Sb23を用いたドーピング
市販顔料を用いて以下のとおり調査を行った:
・Hombitan LW−S(被覆処理もドープ処理も施していないTiO2アナターゼ)
・Hombitan LW−S−U(Sbのドープ処理を施した(0.28〜0.30%Sb、Sb23として計算、0.16mol%のSb/Tiに相当)非被覆TiO2アナターゼ)
・Hombitan R 320(0.20%Al23をドープした(0.31mol%のAl/Tiに相当)未処理の微粉ルチル顔料)
・Hombitan LO−CR−S−M(0.28〜0.30%Sb(Sb23として計算)をドープしさらにとりわけ無機的に表面修飾したアナターゼ)。
これらのドーピング量および結果もまた表1に明記する。
【0046】
実施例の生成物の調査および結果:
製造実施例の生成物にボール粉砕を30分間行い、その後比較生成物とともに調査した。次の調査を行った。
・生成物中のアナターゼとルチルの割合に関するX線回折測定(生産管理および最終生成物処分についてはTiO2白色顔料製造業者の慣行に従った)
・DIN 53770に準拠したドーピング元素のHCl溶解度の決定:
ドーピング元素について高い値であると判明したならば、それは、添加した化合物がまだ反応していないか(ここでの例外:Sb23はHCl可溶性ではない)またはTiO2結晶の表面領域に存在する(例:低アニール温度でのCe、唯一のドーピング元素としてのAl)ことを示す。低い値は、ドーピング元素が所望のとおりTiO2結晶中に組み込まれた(例:高アニール温度でのCe、好適なCBUを有するTiO2白色顔料の全てのアニール温度でのNb)かまたはドーピング化合物がアニール処理によって溶解度の低いものへと転換された(一般的にドーピング量が少ないことはまれである)ことを示す。
・比BET表面積の決定:
TiO2白色顔料の場合、手間をかけさえすればTiO2微結晶サイズを直接測定することができる。しかしTiO2微結晶サイズは比表面積からかなり正確に評価することができる(U Gesenhues, J Nanoparticle Res 1 (1999) 223)ため、本発明による生成物とナノ材料とを区別することができる。
・DIN 53165、ISO 787−24に準拠した灰色ペーストでのCBUおよび相対散乱性能の決定
CBU(カーボンブラックアンダートーン)とは、カーボンブラックペーストとともにこすり合わせて灰色ペーストを得たときに白色顔料によって生み出される青味(高値>13)または黄味(さらに低い値)であり、測定方法およびコンピューティング方法は米国特許第2488439号明細書に記載されている。CBUは、TiO2白色顔料によって他の顔料との混合物における使用系で生み出される色相の特徴を表す。
・色度値および光触媒活性の決定:
乳鉢で水溶液から0.35%トリメチロールプロパンと混合し、次いでポリアミド6(市販製品Ultramid B2715)中0.5%で組み込み、3mm厚の射出成形プレートを作製し、Weather−o−meter C165(Atlas Electric Devices Co, USA)において簡易屋外曝露を行った。簡易屋外曝露の前とその後24時間ごとに、ISO 7724に準拠してポリアミドプレートから色度値L*、a*およびb*を記録し、ISO 2813に準拠して20度および60度光沢度を記録した。b*値は、使用系においてTiO2白色顔料によって他の顔料の不在下で生み出される色相の特徴を表す(負の値:青味、正の値:黄味)。光沢度は、全てのサンプルにおいて時間に関して同じ経過を示した:最初に初期値92〜95%での長さの異なるプラトー、その後数%へのs字形の低下、全てのサンプルは平行した曲線を示した。U Gesenhues, Polym. Degrad. Stab. 68 (2000), page 185で説明されているとおり、光沢のある表面の平均有効寿命は、異なる顔料を含むプレートの60度光沢度の低下から決定することができる。ワイブルの累積破壊率モデルによれば、平均寿命は、光沢度が1/e=初期値の37%に低下するまでの屋外曝露期間に相当し、その寿命の逆数値はポリマー中のTiO2顔料の光触媒活性に比例する。ドープ処理した顔料の場合、ドープ処理していない顔料に対する有効寿命の比率は、ドーピングによって有効寿命(耐光性または光安定性または耐候性)が延長される倍率に相当する。
【0047】
上記調査方法に関する生成物についての結果を表1〜5に示すが、それに関連しての説明を以下にも述べておく。
表1の全てのサンプルの比表面積は6〜17m2/gの間であり、表2のサンプルの比表面積は7〜10m2/gの間であり、表3ではサンプルの比表面積は9〜12m2/gの間であり、また表5ではサンプルの比表面積は10〜19m2/gの間であった。
【0048】
・顔料中のドーピング元素総含量の決定およびさらなる調査
さらに、ドーピング元素の総含量も、とりわけ、硫酸アンモニウム−硫酸分解処理およびICP、ならびに粒子サイズ分布により測定した。ドーピング元素の添加量は常に化学分析でも得た。
・顔料の結晶成分の決定
TiO2とは別の結晶成分、特に、個々のドーピング金属の酸化物またはそれらのTiO2との混合化合物またはそれら相互の混合化合物の存在について分析するためにX線回折測定も用いた。しかし全ての例において、強く鋭いTiO2反射のほかには全く反射が観察されないかまたは極めて弱く広い同定不可能な反射しか観察されなかった。
・TEMおよびXPSを用いての、いずれの場合も1mol%のCeおよびNbをドープし、850℃および890℃でアニールしたアナターゼ中のCeおよびNbの分布および酸化数の決定
粒子におけるCeおよびNbの分布を、TEMでのEDX−ナノビーム、およびCe、NbおよびTiについてのラインスキャンにより調査した。Tiを含まない粒子は認められず、すなわち、粒子はCeまたはNbをいずれの場合も単独で含むかまたはCeおよびNbを一緒に含み、測定精度に関連しては、CeおよびNbの分布は粒子全体に均等であり局所集中していなかった(表面でさえもそうではなかった)。XPSを用いて、5〜10nmの結晶の外層を調査した。850℃でのアニール生成物では、外層の測定組成は5.0mol%のCe/Tiおよび2.3mol%のNb/Tiであり、890℃での生成物の場合、外層の測定組成は1.2mol%のCe/Tiおよび5.8mol%のNb/Tiであった。つまりドーピング元素は表面領域にやや多く存在するが、測定精度の範囲内であるため、粒子全体にほぼ均等に分布していることを意味している。Ceのうち半分は酸化数+3であり残りの半分は+4である。Nbの場合、半分は+5であり、残りの半分は+4である。つまり添加したドーピング量の半分は補償ドーピングによってTiO2中に組み込まれることを意味しており、それによって本発明によるドーピングの測定光安定化効果を説明することができる。
・顔料の触媒活性の測定
次の製造実施例3の顔料について、CBU>14を有する相対的に大きい量を製造し、蒸気ジェット粉砕後に触媒活性について以下のとおり試験した。
1.ドープ処理していないアナターゼ;
2.以下をドープしたアナターゼ:
a.0.25mol%のCe+0.50mol%のNb、
b.0.5mol%のCe+0.5mol%のNb、
c.0.5mol%のCe+1.0mol%のNb、および
d.1.0mol%のCe+1.0mol%のNb
上記目的のために、当技術分野の現状において通常使用される触媒と試験用TiO2顔料の存在下でp−テレフタル酸をエチレングリコールスラリー中で重縮合した。得られたPETチップに関して色度値L*、a*およびb*を決定した。黄味度が高くなるのに対応して顔料の活性は高くなる。4種のドープ処理した顔料は全て、ドープ処理していない顔料と比べてPETチップの黄味は少なくなった。
・顔料の摩耗特性の測定
同じ5種の顔料(上の製造実施例3による1、2a〜2d)の摩耗性もまた、Cu棒摩耗法(B Vielhaber - Kirsch and E W Lubbe, Farbe + Lack 1995, Issue 8, page 679およびKronos - Information 6.30によって記載されている)を用いて測定し、Hombitan LW−SおよびHombitan R320の摩耗性と比較した。Hombitan LW−Sでは16mgであることが分かり、Hombitan R320では27mgであることが分かった。一方、製造実施例3による5種の顔料(1、2a〜2d)の値は8〜14mgの間であった。
【0049】
本発明者らが結果に基づいて立証したとおり、本発明による生成物は白色顔料サイズのTiO2結晶を含みナノ粒子を含まない。さらに、高アニール温度ではまずCeだけが結晶に組み込まれ、そこでその第1の粒子サイズによってアナターゼの青味はすでに低下し始め、その場合耐候性は高まるが、黄味はやや増すのみである。それに対し、より低い温度ではNbだけが早くも完全に組み込まれ、耐候性はやや向上するが、黄味は増さない。
【0050】
CeおよびNbを用いた共ドーピングでは、より低い温度でCeが早くも組み込まれただけであり、特にNbは過剰に存在する。しかし共ドーピングでは明度は低下し、黄味は増すが、等モルのドーピングの場合にはそれが増大されることを述べておく。しかしそれによってルチルのレベルには達しない。とにかく、共ドーピングでは、耐候性は元素を単独でまたはそれらの混合物を用いて達成される値を超えて高まるが、総ドーピング量が同じことによる相乗効果はない。共ドーピングの場合には、相乗効果はなく、耐光性係数は、2つの個々のドーピングの値の積に相当するだろう。
【0051】
このように、本発明者らは、CeおよびNbを用いた等モルの、すなわち、真に補償的な、ドーピングによって、ドープ処理していないルチル顔料基材よりも耐光性が高く、かつ耐候性が高く、さらにAlをわずかにドープしたルチル顔料基材と同程度に耐性のある形でアナターゼ白色顔料基材を製造することができるということを見出した。そのような改善は経済的に少ないドーピング量ですでに達成されている。
【0052】
本発明によるドープアナターゼ顔料は、摩耗がより少ないという利点を有する。その耐光性および耐候性は、当技術分野の水準による無機表面修飾によってさらに高めることができる。酸に安定な表面修飾を採用するならば、Hombitan LO−CR−S−Mを別にすれば、得られる改善はとりわけMn塩を用いた、特別な無機修飾によるような因子によるものではないことは明らかである(上記を参照)が、より高い安定性の白色顔料基材とは、結果としてLO−CR−S−Mと少なくとも同程度に耐光性および耐候性を有し、その耐性が酸に安定であるという利点を有する生成物を得るということである。
【0053】
最初の焼成を行った上で初めて、CeおよびNbを用いた共ドーピングによりm−チタン酸にドープするならば、結果としてこれまでのドープm−チタン酸ほど高くはないが、当技術分野の水準よりさらに改善されている耐光性および耐候性を備えたアナターゼ顔料が得られる。
【0054】
AlおよびNbを用いた別の共ドーピングでは、結果としてAlが固定化されたアナターゼ顔料が得られることは明らかであるが、その顔料は明度および黄味に変化はなく、耐候性の向上はわずかである。CeおよびSbを用いた共ドーピングでは明度は低下し、黄味はやや大きく強まる。またその共ドーピングでは耐光性および耐候性はさらに向上するが、Sb単独の場合またはCeとの相乗作用がない場合と比べてごくわずかなものにすぎない。
【0055】
AlおよびSbを用いた共ドーピングでは、明度はやや低下し、黄味に変化はなく、耐光性および耐候性はSb単独の場合ほど大きく高まらない。しかしAlおよびSbを用いたドーピングと、CeおよびSbならびにAlおよびNbそれぞれを用いた2つの前述のドーピングでは、それをもって顔料基材の焼成における顔料特性の変化を抑制しやすいという利点を有する。
【0056】
Gaだけを用いたドーピングでは、Sbを用いた場合よりも耐光性および耐候性はやや大きく向上する。その効果は、Nbを用いた共ドーピングによってさらに大きくなることが分かっているが、その場合には明度は低下し黄味はやや増すことを述べておく。Liを用いた共ドーピングを行うと、行わなかった場合よりも多くのGaがTiO2中に拘束され得ることは明らかであるが、その共ドーピングの実施の結果として、行わなかった場合ほどの大きな耐光性および耐候性の高まりは必ずしも起こらず、またさらにLiはTiO2のルチルへの転換を促進する。全体的には、Sbの代わりとしてGa、場合によってはNbまたはLiを用いたドーピングは適切である。
【0057】
Inを単独でまたはNbとともに用いたドーピングでは、耐光性および耐候性はSbと同程度に大きく向上し得ることは明らかであるが、PA6に添加した場合の明度および青味はわずかな低下を示す。
【0058】
従って、本発明によるアナターゼ顔料は少なくとも13のCBUを有する。ポリアミド6に添加した場合のb*値は−2.5〜+3.5の間であることが好ましい。
【0059】
耐光性および耐候性における特性の改善により、本発明によるアナターゼ顔料は、合成繊維、フィルム、箔、成形加工品およびポリマー含有複合材料を含むポリマーおよびプラスチックへ、ならびに塗料およびUV硬化ラッカーを含むラッカーへの添加剤として使用することができる。そのような使用には、ポリビニルクロリド、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリメチルメタクリレート、ポリエステル、ポリラクチド、ポリアミド、セルロースアセテート、ビスコース、エポキシ樹脂およびメラミン樹脂、ならびに紙、厚紙、プラスチックおよび金属の印刷用インクにおける使用が含まれる。
【0060】
【表1】



【0061】
【表2】

【0062】
【表3】



【0063】
【表4】

【0064】
【表5】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
100nmより大きい微結晶サイズを有するアナターゼ白色顔料であって、補償する形式で、Al、Ga、InおよびCeから選択される三価カチオンと、Li、NaおよびKから選択される一価カチオンならびにSbおよびNbから選択される五価カチオンからなる群から選択されるさらなるカチオンとをドープされており、前記カチオンは前記顔料基材中のTiに対して1.5mol%未満の量で存在することを特徴とする、アナターゼ白色顔料。
【請求項2】
TiO2は前記顔料中に少なくとも98.5%がアナターゼ型で残りがルチルとして存在し、三価カチオンと第2のカチオンとのモル比は0.3〜6.0の間であることを特徴とする、請求項1に記載のアナターゼ白色顔料。
【請求項3】
100nmより大きい微結晶サイズを有するアナターゼ白色顔料であって、GaおよびInから選択される三価カチオンを前記顔料基材中のTiに対して0.05〜0.5mol%の量でドープされており、そのアニオン格子中に、2個の組み込まれた三価カチオンにつき1つの電荷補償欠陥が存在することを特徴とするアナターゼ白色顔料。
【請求項4】
無機的におよび/または有機的に表面修飾された、請求項1〜3のうちの一項に記載のアナターゼ白色顔料。
【請求項5】
Al2(SO43溶液、NaAlO2溶液、水ガラスまたはリン酸塩溶液またはそれらの混合物での処理を受けたことにより無機的に表面修飾された、請求項4に記載のアナターゼ白色顔料。
【請求項6】
トリアルキロールアルカンまたはシリコーン油での処理を受けたことにより有機的に表面修飾された、請求項4に記載のアナターゼ白色顔料。
【請求項7】
CBUは少なくとも13であることを特徴とする、請求項1〜6のうちの一項に記載のアナターゼ白色顔料。
【請求項8】
ポリアミド6中のb*値は−2.5〜+3.5の間であることを特徴とする、請求項7に記載のアナターゼ白色顔料。
【請求項9】
簡易屋外曝露において60度光沢度の低下から決定された少なくとも80時間の有効寿命をポリアミド6に与えることを特徴とする、請求項1〜8のうちの一項に記載のアナターゼ白色顔料。
【請求項10】
Cu棒摩耗法に従って決定された最大20mgの摩耗性を有する、請求項1〜9のうちの一項に記載のアナターゼ白色顔料。
【請求項11】
請求項1〜10のうちの一項に記載のアナターゼ白色顔料の製造方法であって、硫酸塩法を用いる製造において、ドーピングに用いるカチオンを、好ましくは2μmより小さい平均粒子サイズを有する、それらの水溶性塩またはそれらの固体水酸化物、オキシ水酸化物または酸化物の形でm−チタン酸に添加することを特徴とする方法。
【請求項12】
合成繊維、フィルム、箔、成形加工品およびポリマー含有複合材料を含むポリマーおよびプラスチックへ、ならびに塗料およびUV硬化ラッカーを含むラッカーへの添加剤としての、請求項1〜10のうちの一項に記載のアナターゼ白色顔料の使用。

【公表番号】特表2013−517214(P2013−517214A)
【公表日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−549303(P2012−549303)
【出願日】平成23年1月11日(2011.1.11)
【国際出願番号】PCT/EP2011/050281
【国際公開番号】WO2011/089043
【国際公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(510113265)サハトレーベン・ヒェミー・ゲーエムベーハー (5)
【Fターム(参考)】