説明

高エネルギー密度高出力密度電気化学電池

カソード(14)にアルカリ金属遷移金属ポリアニオン化合物を、そして薄膜金属またはメタロイドアノード(16)を使用して高出力密度を保持しながら、電池全体のエネルギー密度を向上させることができる。薄膜アノード(16)は、最初は合金を形成していなくてもよいし、あるいは部分的に合金を形成していなくてもよい。使用中は、薄膜アノード(16)は、理論的最大値に対してごく一部が合金を形成していなくてもよい。金属アノード(16)は、体積容量が大きいため、緻密または多孔質な薄膜アノード(16)と、粒子をベースにした比較的薄いカソード(14)とを、組み合わせて使用することが可能となり、その結果、電池のエネルギー密度が改善される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電気化学電池に関し、具体的にはエネルギー密度と出力密度の両方が高い電気化学電池に関する。
【背景技術】
【0002】
充電が可能なリチウムバッテリーは、エネルギー密度が比較的高い、環境および安全に対する危険の可能性が低い、関連材料コストおよび製造コストが比較的低いという点で魅力的な技術である。リチウムバッテリーの充電は、バッテリー電極間に電圧を加えることにより、バッテリーのカソードのリチウムホストからリチウムイオンと電子が引き抜かれる形で行われる。リチウムイオンは、電解質を通してカソードからバッテリーのアノードに向かって流れ、アノードで還元され、過程全体はエネルギーを必要とする。放電時はこれと逆の過程が進行する。すなわち、リチウムイオンと電子はカソードのリチウムホストに帰還し、その間、アノードではリチウムがリチウムイオンに酸化される。この過程は、エネルギー的に有利な過程であって、外部回路を通して電子を駆動して、バッテリーに接続したデバイスに電力を供給する。
【0003】
現在知られているLiCoO2およびLiMn24のようなカソード貯蔵化合物と、現在知られているリチウム金属または炭素のようなアノードとを組み合わせて使用したときに得られる動作電圧は3〜4Vである。多くの用途では、高い比エネルギーを実現するため、カソードに対して高い電圧と重量の軽量化が望まれる。たとえば、電気自動車向け用途では、バッテリーのエネルギーvs重量比が、充電から次の充電までの走行距離を決定する。同じく、バッテリーの出力密度も多くの用途にとって重要である。たとえばハイブリッド電気自動車では、出力密度が、加速速度や、あるいはバッテリー系によって再生ブレーキエネルギーがいかに速く再捕獲できるかといったことに、大きな影響を与える。このように、多くの用途で高エネルギー密度と高出力密度の両方が必要とされている。加えて、低コストでしかも環境に対して毒性のないリチウム貯蔵材料が望まれている。さらに、バッテリーシステムの他の構成要素、たとえば液体電解質と組み合わせても安全性が維持される貯蔵材料も望まれている。また、安定性が高く、広い温度範囲で耐用年数の長い貯蔵材料も望まれている。
【0004】
現在の技術による充電可能なバッテリーのカソードは、リチウムイオンホスト材料と、リチウムイオンホストと電流コレクター(すなわちバッテリー端子)とを電子的に接続するための電子伝導性粒子と、バインダーと、リチウム伝導性液体電解質とを含む。リチウムイオンホスト粒子は、典型的にはリチウムを挿入した層間化合物の粒子であり、電子伝導性粒子は、典型的には表面積が大きなカーボンブラックかまたはグラファイトのような物質で作られる。広く使用されているカソード貯蔵化合物、たとえばLiCoO2、LiNiO2、LiMn24およびそれらの誘導体は、コストが高い、有毒、高温で不安定、充電した状態で不安定といった欠点を有している。
【0005】
充電が可能なリチウムイオンバッテリーのアノードは、典型的にはリチウムイオンホスト材料、たとえばグラファイトと、リチウムイオンホストと電流コレクター(すなわちバッテリー端子)とを電子的に接続するための電子伝導性粒子と、バインダーと、リチウム伝導性液体電解質とを含む。炭素をベースにしたアノードは、体積エネルギー密度が約2g/cm3で、比較的低いことが欠点である。
【0006】
リチウム遷移金属ポリアニオン化合物は、高いエネルギー密度が期待されること、原材料費が安いこと、環境にやさしいこと、そして安全であることの理由で、充電可能なリチウムバッテリー用貯蔵カソードを含め、電気化学的な応用に興味が持たれる。このようなポリアニオン化合物には、オリビン構造のLixMXO4、MASICONタイプの構造をしたLixM2(XO43、VOPO4、LiFe(P27)およびFe4(P273、および追加的な格子間金属イオン、対称性に変化をもたらす変位または多角形結合性の小さい変化を持つ誘導体構造が含まれている。ポリアニオン化合物は、典型的にはかなりの共有結合性を有するコンパクトな四面体「アニオン」構造単位(XO4n-、(X=P、S、As、Mo、W、Si、AlおよびB)を含み、かつこれらの構造単位は、他の金属イオンが占有して、たとえば酸素八面体あるいは四面体のような別のサイトを形成するように、連結されている。
【0007】
この種類に属する化合物には、電子伝導性が低いという根本的な制約があり、固体電解質には望ましいが、イオン貯蔵電極あるいは燃料電池の電極としての用途にとっては制約となっている。事実、公表された文献には、これらの化合物の絶縁特性や、そうした特性によるバッテリー貯蔵材料としてのこれらの利用に対する制約について言及した当業者による多くの記載が含まれている。代表的な文献を挙げれば次の通りである:“Appro
aching Theoretical Capacity of LiFePO4 at Room Temperature at High Rates,” H.Hua
ng, S.−C.Yin and L.F.Nazar, Electrochem.Sol.St.Lett.,4[10] A170−A172 (2001); J.Gaubicher, T.Le Mercier, Y.Chabre, J.Anenault, and M.Quarton, “Li/β−VOPO4: A New
4 V System for Lithium Batteries,” J.Ele
ctrochem.Soc., 146[12] 4375−4379 (1999); “Issues And Challenges Facing Rechargea
ble Lithium Batteries,” J.−M.Tarascon an
d M.Armand, Nature, 414, 359−367 (2001).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この種類に属するいくつかの化合物の重量エネルギー密度は、従来使用されているカソード活物質と比べて魅力的である。ただ、LiCoO2、LiNiO2およびLiMnO2のような秩序正しい岩塩構造の化合物や、あるいはLiMn24のようなスピネル構造の化合物、あるいはそれらの誘導体など、カソードより、結晶密度が典型的に低いため、アルカリ金属遷移金属ポリアニオン化合物は体積エネルギー密度が典型的に低い。それゆえ、これらのポリアニオン化合物を使用する貯蔵バッテリーを含む電気化学電池は、体積エネルギー密度が低い。
【0009】
このような訳で、リチウムイオンを挿入した層間化合物を使って、出力密度が高く、安全で、なおかつ耐用年数が長い、しかも通常のリチウムイオン電池と同等か、あるいはそれを超える高エネルギー密度の電気化学電池を得ることは、従来不可能であった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
アルカリ金属遷移金属ポリアニオン化合物の組成は、適切な出発材料と方法を選択することによって得ることができる。特に、これらのリチウム貯蔵化合物と、それらの電極は、電子的に高い伝導性と大きな比表面積を有し、きわめて高い出力密度を示す。優れた電気化学的性能を電池に付与する電子伝導性の本質的な向上は、アルカリ金属遷移金属ポリアニオン化合物を使用する電極において、伝導性添加物を、アルカリ金属遷移金属ポリアニオン化合物の粉末に添加するか、あるいは前記化合物を含む電極配合物に添加することを含め、伝導性添加相、たとえば炭素または金属を、前記化合物の合成過程で添加するか、あるいはその後で添加することによっても実現することができる。これらのポリアニオン化合物は、その他の属性、たとえば本質的に高い重量エネルギー密度、極めて高い安全性と安定性、および低コストと相俟って、貯蔵バッテリーを含め、電気化学電池において、多くの魅力的な特徴を有している。
【0011】
本発明の一つの実施形態では、電気化学デバイスは、アルカリ金属遷移金属ポリアニオン化合物を含むカソードと、アルカリ金属と合金を形成しうる金属またはメタロイドを含む薄膜金属アノードと、これらのアノードおよびカソードの両方とイオン接触する電解質とを含む。
【0012】
一つ以上の実施形態では、薄膜アノードの厚さは、約10マイクロメートル未満、約6マイクロメートル未満、約4マイクロメートル未満、約2マイクロメートル未満である。
【0013】
本発明のさらに別の実施形態では、電気化学デバイスは、アルカリ金属遷移金属ポリアニオン化合物を含むカソードと、厚さが6マイクロメートル未満の薄膜リチウムアノードと、これらのアノードおよびカソードの両方とイオン接触する電解質とを含む。
【0014】
一つ以上の実施形態では、金属は、リチウム、アルミニウム、銀、ホウ素、ビスマス、カドミウム、ガリウム、ゲルマニウム、インジウム、鉛、スズ、ケイ素、アンチモン、亜鉛、ならびにこれらの金属の化合物および合金から成る群から選択される。
【0015】
一つ以上の実施形態では、アノードは電池内の体積の約3%〜10%を占める。
【0016】
一つ以上の実施形態では、アノードは電池内の重量の約3%〜10%を占める。
【0017】
本発明の一つの実施形態では、電気化学電池は、薄層カソード電極と、厚さが約6マイクロメートル未満の薄膜金属またはメタロイドアノードと、電解質とを含む。
【0018】
一つ以上の実施形態では、アルカリ金属を挿入した層間化合物は、電子伝導度が約10-8S/cmより大きいか、約10-6S/cm以上のアルカリ金属遷移金属ポリアニオン化合物を含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
下記図面を参照しながら本発明をさらに詳しく説明するが、これらは例示である本発明を制限するものではない。
【0020】
ある種のアルカリ金属遷移金属ポリアニオン化合物は、電子伝導性と比表面積を高め、そのことが、リチウム貯蔵材料としてこれらの化合物を有用にしている。一つ以上の実施形態では、アルカリ金属のサイトか、または遷移金属のサイトか、または両サイトの一部がIIA族、IIIA族、IVA族、VA族、VIA族、VIIA族、VIIIA族、IB族、IIB族、IIIB族、IVB族、VB族およびVIB族金属のいずれかの金属か、または空席で置換されたアルカリ金属遷移金属ポリアニオン化合物に電子伝導性の増加が観察される。一つ以上の実施形態では、化合物の一次結晶サイズを小さくすることにより比面積の向上が観察される。例示ポリアニオン化合物として、電子伝導性を高めるように改変された改変リチウム遷移金属リン酸塩化合物を挙げることができる。リチウム遷移金属リン酸塩は、四面体「アニオン」構造単位(XO4n-(式中、XはP、S、As、MoまたWが可能)と、遷移金属Mによって占有された酸素八面体とを持つポリアニオン一般群に属する。材料とその調製に関する詳細は、2002年12月23日に同時出願した米国出願番号第10/329,046号「伝導性リチウム貯蔵電極」に記載してあり、その全体を、本出願の一部として参照し、ここに組み込む。
【0021】
カソードの電気活物質の伝導性および比表面積を大きくすると、ある充電/放電電流速度における充電容量を、リチウム金属に対する材料の電位を大きく変えないで、大きくすることができる。伝導性を高め、一次結晶サイズを小さくすると、容量を大きく損なうことなく、ずっと速い速度でカソード材料の充電と放電を行うことが可能となる。すなわち、電子伝導性を高め、結晶サイズを小さくすることで、これらのカソード材料のエネルギー密度と、これらのカソード材料を使用するバッテリーのエネルギー密度を未ドープLiFePO4と比較して大きくすることができる。
【0022】
本明細書で使用される充電容量および放電容量は、貯蔵材料1kg当たりのアンペア・時(Ah/kg)単位か、貯蔵材料1g当たりのミリアンペア・時(mAh/g)単位で表示され、充電速度および放電速度は、貯蔵材料1g当たりのミリアンペア単位とC速度の両方で表示される。C速度単位で表示される場合、C速度は、低速度で測定したバッテリーの完全容量を使用するために必要な時間(時間単位)の逆数で定義される。1Cの速度は所要時間が1時間であることを表し、2Cの速度は1/2時間であることを表し、C/2の速度は2時間であることを表し、以下同様である。典型的には、C速度は、より低いC/5以下の低速で測定される化合物またはバッテリーの容量に対して、その速度からmA/g単位で算出される。たとえば、本明細書に記載した一部の実施例では、ドープしたLiFePO4化合物の低速における公称容量は約150mAh/gである。それゆえ、1Cの速度は150mA/gの電流速度に相当し、C/5の速度は30mA/gに相当し、5Cの速度は750mA/gに相当し、以下同様である。体積容量はmAh/cm3単位で表示され、重量エネルギー密度はWh/kg単位で、体積エネルギー密度はWh/リットル単位で、重量出力密度はWh/kgで、そして体積出力密度はW/リットルでそれぞれ表示される。
【0023】
アルカリ金属遷移金属ポリアニオン化合物、たとえばドープしたLiFePO4は、カソード材料のエネルギー密度の低下を伴わないで、高い(充電/放電)サイクル速度を示すが、体積エネルギー密度は依然として、他の通常のリチウムを挿入したインターカレーション材料、たとえばLiCoO3より低い。ドープしたLiFePO4の体積エネルギー密度が比較的低い原因は、その結晶密度が低いことにある。これらの化合物の固相オリビン構造は、LiCoO2より低密度であり、モル表示でリチウム貯蔵容量に何ら追加的な向上は見られないため、本来的に体積エネルギー密度は低い。
【0024】
驚いたことに予期に反して、本発明者は、カソードおよび薄膜金属またはメタロイドアノードにアルカリ金属遷移金属ポリアニオン化合物を使用することにより、高出力密度を維持しながら、電池全体のエネルギー密度を向上させうることを発見した。事実、ポリアニオン化合物の速度性能には関係なく、電池全体のエネルギー密度を向上させることが可能である。薄膜はアルカリ金属を層間に挿入することができるか、アルカリ金属と合金を形成することができる。薄膜アノードは、最初は合金を形成していなくてもよいし、あるいは部分的に合金を形成していてもよい。使用中は、薄膜アノードは、飽和時に可能な理論的最大濃度値に対してごく一部が合金を形成していてもよい。「飽和」という表現は、リチウムの熱力学的活動度が少なくともバルクのリチウム金属のそれと同じ大きさにある状態を意味するものと理解される。金属アノードの体積容量が大きいため、緻密な薄膜アノードか多孔質薄膜アノードと、粒子をベースにした比較的薄いカソードとを組み合わせて使用することにより、電池のエネルギー密度を向上させることができる。重量充電容量および/または体積充電容量が高い金属アノードを選択すれば、カソード材料のエネルギー密度が低くても、その穴埋めに必要な容量の大きな金属アノードの質量または体積はわずかですむ。グラファイトアノードより充電容量が大きな金属アノードは、電池の全エネルギー密度を向上させる。通常の炭素アノードの代わりに大幅に薄い金属アノード層を使用すると、バッテリーの性能を低下させないで、アノードの体積と重量が大幅に削減される。それに比例して電池のエネルギー密度および出力密度が向上する。
【0025】
本発明の一つ以上の実施形態では、金属アノードは、純粋なアルカリ金属、たとえばリチウムとすることができる。リチウム薄膜の厚さは10マイクロメートル以下である。
【0026】
金属またはメタロイドのアノードは、バルクの形であれ薄膜の形であれ、可逆貯蔵容量が小さいことが以前から知られている。本発明の一つ以上の実施形態では、比較的容量の小さいカソードを使用すれば、アノードの厚さを薄くしても優れた可逆性を示す一方で、全体としての電池性能を高めることができる。
一つ以上の実施形態では、本発明は、エネルギー密度が高く、かつ出力密度のより高い電電気化学池を提供する。デバイスは、出力密度の高いカソード材料と高い重量充電容量、および/または金属またはメトロイドを含む、体積充電容量の大きい薄膜金属アノードを含む。一つ以上の実施形態では、出力密度の高いカソードはLiFePO4の仲間からの化合物を含み、そしてアノードは、LiFePO4より低い電圧で、リチウムと合金を作ることができる薄膜金属またはメタロイドである。アノードの体積と重量を小さくすることで、LiFePO4カソードのエネルギー密度が(LiCoO2と比べて)低いことは、穴埋めされるため、電池のエネルギー密度は維持されるか、LiCoO2をベースにした通常の電池より高くなることすらある。一つ以上の実施形態では、本発明は、カソード活物質にアルカリ金属遷移金属ポリアニオン化合物を使用する電気化学電池の体積エネルギー密度および重量エネルギー密度を向上させる。
【0027】
表1は、金属およびメタロイド、具体的な濃度または量論までリチウム化し、対応する体積に材料が膨張した時の重量および体積エネルギー容量を一覧表にまとめたものである。これらのデータからリチウムの濃度が増すにつれて体積の膨張も単調に増大していることがわかる。アルミニウム、銀、ホウ素、ビスマス、カドミウム、ガリウム、ゲルマニウム、インジウム、鉛、スズ、ケイ素、アンチモン、亜鉛の少なくとも一つの既知リチウム合金の方が、炭素と比較して、大きな重量および体積充電容量が得られる。また、表のデータからは、これらの金属に対する体積および重量充電容量は、通常のグラファイトアノード(372mAh/gまたは836.9mAh/cm3)よりはるかに大きいのでアノードの容量がグラファイトの容量を上回るようにするために、(理論的最大濃度値に対して)金属のごく一部をリチウム化する必要があることもわかる。リチウム濃度が高くなるほど貯蔵容量は大きくなるが、体積変化も大きくなるため、初回サイクル時の容量低下は増し、サイクルの安定性は低下する可能性がある。そこで、本発明の一つ以上の実施形態では、アノードの体積膨張を少なくし、それによってアノードのサイクル安定性を向上させると同時に、同じカソードと通常のグラファイトのアノードを使用する電気化学電池と比べて、電池全体の容量およびエネルギー密度を向上させるため、部分的にリチウム化したアノードが電気化学電池に使用される。
【0028】
【表1】


一つ以上の実施形態では、アノードは表1に記載の合金または金属の化合物である。一つ以上の実施形態では、アノードは、Li、Al、Si、Sn、S6、B、Ag、Bi、Cd、Ga、Ge、In、PbまたはZnを含む。
【0029】
一つ以上の実施形態では、dcまたはrfマグネトロンスパッタリング、蒸発、化学蒸着、プラズマ励起化学蒸着(PE−CVD)、電気メッキ、無電解メッキのような、ただしこれらに限定されないが、当業者に知られたプロセスにより、あるいは粒子のスラリーまたは懸濁液を被覆することにより、金属箔電流コレクター上に金属またはメタロイドのアノードを固着させる。一つ以上の実施形態では、アノードを酸化物として塗布し、つづいて、たとえば、その酸化物を還元性ガス中で加熱処理するか、酸化物を液体還元剤に曝すか、あるいは酸化物を、酸化の負のギブスの自由エネルギーと反応させることにより、金属に還元する。一つ以上の実施形態では、金属リチウムの近くを加熱して蒸着させたのち、あるいはLiIまたはブチルリチウムで化学的にリチウム化することにより、アノード膜を部分的にまたは完全にリチウム化する。本発明の一つ以上の実施形態では、負極として使用する前に、リチウム化アノード膜を部分的に脱リチウム化する。一つ以上の実施形態では、金属またはメタロイドアノード膜を不動態層で被覆して、機械的にあるいは化学的に保護するか、あるいはサイクル安定性を高める。当業者には適当な不動態化剤が知られており、これには別の材料、たとえば炭素、リン酸リチウム(LiPO3またはLi3PO4)、ケイ酸リチウム、炭酸リチウム、金属炭酸塩、アルミン酸塩およびケイ酸塩を含む金属酸化物、または金属水酸化物が含まれる。一つ以上の実施形態では、添加物質など、たとえばフルオロエステルおよびクロロエステル、カルボン酸無水物、炭酸ビニレン、トリブチルアミンまたは有機塩基を、金属アノード膜を含む液体電解セルに添加して、サイクリング時または貯蔵時の安定が得られる。
【0030】
一つ以上の実施形態では、カソードはリチウムを挿入した層間化合物、たとえばLiCoO2、LiNiO2、LiMnO2、LiMn24、酸化バナジウム、酸化マンガンまたはそれらの誘導体を含む。他の実施形態では、カソードはポリアニオン化合物、たとえばオリビンタイプ(AxMXO4)、NASICON(Ax(M’,M”)2(XO43)、VOPO4、LiFe(P27)またはFe4(P273の構造タイプの化合物を含む。さらに別の実施形態では、カソードは、伝導性を有しかつ比表面積の大きな化合物、たとえば高い電流密度で大きな充電容量を与える、ドープしたオリビン構造の化合物LiMPO4を含む。一つ以上の実施形態では、カソードは、式LiMPO4(式中、MはFe、Mn、V、NiまたはCoの中から一種類以上である)で表されるオリビン構造の化合物を含み、その化合物は、普通IIA族、IIIA族、IVA族、VA族、VIA族、VIIA族、VIIIA族、IB族、IIB族、IIIB族、IVB族、VB族およびVIIB族金属のいずれかによる金属Mによって占有され、M2の名で知られる、サイトを自由選択的にドープされる。一つ以上の実施形態では、カソードはドープしたLiFePO4である。LiFePO4は、2002年12月23日に同時出願の米国出願番号第10/329,046号に記載したように、たとえば、Al、Mg、Ti、Zr、Nb、TaまたはWでドープして高い電子伝導性と、粉末として高い比表面積を持つまでドープすることができる。
【0031】
一つ以上の実施形態では、カソードは、Ax(M’1−aM”a)y(XD4)z、Ax(M’1−aM”a)y(DXD4)zまたはAx(M’1−aM”a)y(X27)z(式中、Aはアルカリ金属または水素の中の少なくとも一種類であり、M’は第一列の遷移金属であり、Xはリン、硫黄、ヒ素、ホウ素、アルミニウム、ケイ素、バナジウム、モリブデンおよびタングステンの中の少なくとも一種類であり、M”はIIA族、IIIA族、IVA族、VA族、VIA族、VIIA族、VIIIA族、IB族、IIB族、IIIB族、IVB族、VB族およびVIB族金属のいずれかであり、Dは酸素、窒素、炭素またはハロゲンの中の少なくとも一種類であり、0.0001<a≦0.1が成立し、そしてxは0に等しいか、0より大きく、yおよびzは、0より大きく、かつxと、M’の形式原子価をy(1−a)倍したものと、M”の形式原子価をya倍したものの和が、XD4基、X27基またはDXD4基の形式原子価をz倍したものと等しくなるような値を有する)で表される組成を持ち、かつ27゜Cにおいて少なくとも約10−8S/cmの伝導率を有する、化合物を含む。
【0032】
一つ以上の実施形態では、カソードは、(Ab−aM”a)xM’y(XD4)z、(Ab−aM”a)xM’y(DXD )zまたは(Ab−aM”a)xM’y(X27)z(式中、Aはアルカリ金属または水素の中の少なくとも一種類、M’は第一列の遷移金属、Xはリン、硫黄、ヒ素、ホウ素、アルミニウム、ケイ素、バナジウム、モリブデンおよびタングステンの中の少なくとも一種類であり、M”はIIA族、IIIA族、IVA族、VA族、VIA族、VIIA族、VIIIA族、IB族、IIB族、IIIB族、IVB族、VB族およびVIB族金属のいずれかであり、Dは酸素、窒素、炭素またはハロゲンの中の少なくとも一種類であり、0.0001<a≦0.1、a≦b≦1が成立し、x、yおよびzはゼロより大きく、かつ(b−a)xと、M”の形式原子価をax倍した量と、M’の形式原子価をy倍したものの和が、XD4基、X27基またはDXD4基の形式原子価をz倍したものと等しくなるような値を有する)で表される組成を有する化合物を含む。
【0033】
一つ以上の実施形態では、カソードの化合物は、Lix(M’1−aM”a)PO4、LixM”aM’PO4、Lix(M’1−a−yM”aLiy)PO4、またはLix−aM”aM’1−yLiyPO4のいずれかを含む。化合物は、Lix(Fe1−aM”a)PO4、LixM”aFePO4、Lix(Fe1−a−yM”aLiy)PO4、Lix(Fe1−yLiY)PO4またはLix−aM”aFe1−yLiyPO4のいずれかを含む。
【0034】
一つ以上の実施形態では、カソード化合物は、Lixvac1−x(M’1−aM”a)PO4、LixM”avac1−a−xM’PO4、Lix(M’1−a−yM”avacy)PO4、またはLix−aM”aM’1−yvacyPO4(式中、vacは化合物の構造に存在する空席を表す)のいずれかを含む。化合物は、Lixvac1−x(Fe1−aM”a)PO4、LixM”avac1−a−xFePO4、Lix(Fe1−a−yM”avacy)PO4、Lix−aM”aFe1−yvacyPO4、Lixvac1−xFePO4またはLix(Fe1−a−yLiavacy)PO4(式中、vacは化合物の構造に存在する空席を表す)のいずれか一つを含む。
【0035】
一つ以上の実施形態では、化合物はドープした、オリビン構造のLiFePO4を含む。
【0036】
一つ以上の実施形態では、化合物の結晶質部分は微結晶質を形成し、少なくともその50%は最小寸法が500nm未満か、200nm未満か、100nm未満か、50nm未満か、20nm未満か、10nm未満である。
【0037】
一つ以上の実施形態では、カソードは少なくとも15m2/gの、または20m2/gを超える、または30m2/gを超える、40m2/gを超える比表面積を有する前記化合物の一つを含む。
【0038】
前記電極は、ある電流速度で充電または放電中に、高い材料エネルギー密度(電圧vsLix充電容量)を有する。一つ以上の実施形態では、電極は、貯蔵化合物1g当たり30mA以上の速度で充電中または放電中に、350Wh/kgを超える材料エネルギー密度を有する。一つ以上の実施形態では、電極は、貯蔵化合物1g当たり150mA以上の速度で充電中または放電中に、280Wh/kgを超える材料エネルギー密度を有する。一つ以上の実施形態では、電極は、貯蔵化合物1g当たり300mA以上の速度で充電中または放電中に、270Wh/kgを超える材料エネルギー密度を有する。一つ以上の実施形態では、電極は、貯蔵化合物1g当たり750mA以上の速度で充電中または放電中に、250Wh/kgを超える材料エネルギー密度を有する。一つ以上の実施形態では、電極は、貯蔵化合物1g当たり1.5A以上の速度で充電中または放電中に、180Wh/kgを超える材料エネルギー密度を有する。一つ以上の実施形態では、電極は、貯蔵化合物1g当たり3A以上の速度で充電中または放電中に、40Wh/kgを超える材料エネルギー密度を有する。一つ以上の実施形態では、電極は、貯蔵化合物1g当たり4.5A以上の速度で充電中または放電中に、10Wh/kgを超える材料エネルギー密度を有する。
【0039】
図1は通常のバイポーラー・デバイスを概略的に表したものである。バイポーラー・デバイス10は、カソード14とアノード16がセパレーター領域22で互いに隔てられてなるエネルギー貯蔵システムとすることができる。このデバイスには、液体、ゲルまたは固体ポリマータイプの電解質を注入するか積層させることができる。電子およびイオン伝導性を高めるために、炭素質の伝導性添加物および電解質材料を、正極貯蔵材料、たとえば酸化リチウムコバルトに添加することができる。本発明によるエネルギー貯蔵デバイス、限定されるわけではないが、たとえばリチウムイオンバッテリーのベースには、液体、ゲルまたは固体ポリマータイプの電解質を使用することができる。例を挙げれば、典型的なリチウムバッテリーは、リチウム箔または複合炭素材のアノードと、リチウム塩を含む液体電解質と、複合材のカソードを具備している。カソードとアノードは、図1に図解したように、デバイス中のかなりの体積を占めるかもしれない。リチウムバッテリーは、電極14と16の間に電圧をかけ、バッテリーのカソードのリチウムホストからリチウムイオンと電子を引き抜く形で充電することができる。リチウムイオンは、カソード14からセパレーター22を通過してアノード16に向かって流れ、アノードで還元される。放電時にはその逆が起こり、リチウムイオンと電子はカソード14のリチウムホストに入り、他方、リチウムはアノード16でリチウムイオンに酸化される。この過程は、典型的にかつエネルギー的に有利な過程であり、外部回路18を通って電子を駆動し、それによってバッテリーに接続されたデバイスに電力を供給する。
【0040】
完全に構成された電池において、金属製電流コレクター20、たとえばアルミニウム箔を、図1に示すカソード14の外側に取り付けることができ、金属製電流コレクター21、たとえばCuを、アノード16の外側に取り付けることができる。図1に示す構成体は、多重層デバイスを構成するサブエレメントとすることができる。典型的な積層型充電式リチウムイオンバッテリーの場合、たとえばアルミニウム箔の電流コレクターの両側を正極配合物、たとえばリチウム貯蔵化合物、炭素およびバインダーの配合物で被覆することができる。それぞれの側に被覆した膜の厚さは約25マイクロメーターないし約150マイクロメーターとすることができる。同様に、銅箔の電流コレクターの両側もアノード配合物で約20マイクロメーターないし約100マイクロメーターの厚さに被覆することができる。被覆した箔は多孔質セパレーター膜で隔てられる。この種のバッテリーのエネルギー密度は、貯蔵化合物自体のエネルギー密度と不活性物質の量の両方に依存する。電気化学的に不活性な材料には、電極添加物、電解質、電流コレクター、セパレーター、タブ、容器、電池内の死体積などが含まれる。バッテリーのエネルギー密度は、不活性物質の量を少なくすることで高めることができるが、十分な出力密度と活物質の利用には電極を薄い被覆膜で覆う必要があるため、不活性物質を思い通りに少なくすることができるわけではない。図2は通常の充電可能なリチウムイオンバッテリーにおける活物質の典型的な重量比率と体積比率を図解したものである。電極を積層して高エネルギー密度設計にした典型的なリチウムイオンバッテリーは、正極貯蔵化合物、典型的にはLiCoO2を重量で25〜35%、体積で13〜18%含む。
【0041】
図3は、本発明の一つ以上の実施形態によるバイポーラー・デバイスの概略図である。図1の場合と同様、金属製電流コレクター20、たとえばアルミニウム箔を、カソード14に取り付けることができる。金属製電流コレクター21、たとえば銅を、アノード16に取り付けることができる。図3に示す構成体は、多重層デバイスを構成するサブエレメントとすることができ、二つの電流コレクターは両側に被せることができる。被覆した箔は多孔質セパレーター膜で互いに隔てられる。しかし、アノード16の体積充電容量も重量充電容量も比較的大きいため、アノードの重量も体積も従来の系よりはるかに小さい。カソードは、図1に記載のデバイスと同じ厚さと面積当たり付着量を持つことができる。それゆえ、デバイス全体の大きさは小さくなる一方で電池の充電容量が向上し、その結果、エネルギー密度および出力密度が改善される。この系が、小さい体積で同じエネルギー容量を与え、小型電気デバイスと大型電気デバイスの両方に電力を供給するに有利であることは直ちに明らかとなろう。一つ以上の実施形態では、アノードは厚さが約6マイクロメートル未満の薄膜であり、また別の実施形態では約4マイクロメートル未満の薄膜である。
【0042】
図4は、本発明の一つ以上の実施形態によるバイポーラー・デバイスの概略図である。通常のデバイスと同様、本発明のバイポーラー・デバイスは、アノード16とカソード14を含み、両者は、電解質を含むセパレーター22で隔てられている(電流コレクター20、21は図示されていない)。しかし、カソードとアノードの相対的比率は、アノードのより小さい体積と重量の要求条件を反映するように再度割り振られる。したがって、デバイスは、通常のデバイスと同じ体積に多くのカソード材料を含むため(それだけ充電容量も大きい)、電池全体のエネルギー密度が高くなる。
【0043】
本発明によるバイポーラー・デバイスのアノードは、重量または体積で約3%ないし約10%を占める。一つ以上の実施形態では、アノードは厚さが10マイクロメーター未満の、あるいは6マイクロメーター未満の、あるいは4マイクロメーター未満の、あるいはさらに2マイクロメーター未満の薄膜である。
【0044】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、こここに挙げる実施例は単に説明するためのものであって、特許の請求範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0045】
実施例1 金属でドープした組成物
この実施例はLi(Fe1−aM”a)PO4(式中、M”は、Al、Ti、Zr、Nb、Ta、WおよびMg)で表される組成物の調製法を明らかにする。表1および表2にそれぞれ具体的な組成、加熱処理および結果を示す。金属添加物またはドーパントがある低濃度のときに限って、電子伝導率が高くなることが発見された。電子伝導率が高くなる(約10-5S/cmを上回る)具体的な濃度範囲は各ドーパントによって変わるが、全体的には、Fe濃度で約5モル%未満であった。ドーパント濃度が低いことに加えて、高い電子伝導性が得られた条件で材料を加熱処理する必要があった。これらの条件は、非酸化性ガス雰囲気、たとえばアルゴン、窒素、窒素−水素などで加熱処理することであったが、これに限定されるものではない。さらに、加熱処理温度は、約800゜C未満であった。上記ガス雰囲気中、600゜Cでの焼成時間は約100時間未満であった。
【0046】
表1に記載した組成物は、特に断らない限り下記に従って調製し、あるいは下記組成物に対して挙げた手順によって特定の組成物に適するように調整して調製した。たとえば、下記出発材料を使用し、ZrでドープしたLiFePO4試料を、下記ドープレベルおよびバッチサイズで調製した。なお、ドーパント源にはジルコニウムエトキシドを使用した。

│ │ 5モル%Zr │ 1モル%Zr │ 2モル%Zr│
├──────────┼─────────┼─────────┼───────┤
│ │ 5gバッチ │ 2.5gバッチ │2.5gバッチ│
├──────────┼─────────┼─────────┼───────┤
│NH42PO4 │ 3.6465g │ 1.7254g │1.7254g│
├──────────┼─────────┼─────────┼───────┤
│LiCO3 │ 1.1171g │ 0.554g │ 0.554g│
├──────────┼─────────┼─────────┼───────┤
│PoC24・2H2O│ 5.4177g │ 2.6715g │2.6715g│
├──────────┼─────────┼─────────┼───────┤
│Zr(OC254 │ 0.4303g │ 0.0407g │0.0814g│
└──────────┴─────────┴─────────┴───────┘

同様に、(Zr(OC254の代わりに)Ti源としてチタンメトキシドTi(OCH34(CH3OH)2を使用した以外、上と同じ出発材料を使用して1モル%および2モル%TiドープしたLiFePO4を調製した。

│ │ 1モル%Ti │ 2モル%Ti │
├────────────────┼──────────┼──────────┤
│ │ 2.5gバッチ │ 2.5gバッチ │
├────────────────┼──────────┼──────────┤
│NH42PO4 │ 1.7254g │ 1.7254g │
├────────────────┼──────────┼──────────┤
│LiCO3 │ 0.554g │ 0.554g │
├────────────────┼──────────┼──────────┤
│PoC24・2H2O │ 2.6715g │ 2.6715g │
├────────────────┼──────────┼──────────┤
│Ti(OCH3)4(CH3OH)2│ 0.0345g │ 0.0708g │
└────────────────┴──────────┴──────────┘

未ドープは、ドーパント塩を使用しないで同じ材料から調製した。他の試料については、表1に挙げたようにドーパントと一緒に適当な金属塩を使用した。特に、Nbでドープした試料の調製にはドーパント塩としてニオブフェノキシドNb(OC655を使用し、Taドープした試料の調製にはドーパント塩としてタンタルメトキシドTa(OCH35を使用し、Wでドープした試料の調製にはドーパント塩としてタングステンエトキシドW(OC256を使用し、Alでドープした試料の調製にはドーパント塩としてアルミニウムエトキシドAl(OC253を使用し、Mgでドープした試料(実施例2)の調製にはドーパント塩としてマグネシウムエトキシドMg(OC252を使用した。
【0047】
各試料を調製するには、各成分を、アルゴンを満たしたグローブボックス中で秤量した。次に、秤量した成分をグローブボックスから取り出し、ポリプロピレンジャーの中でジルコニア製ミリングボールを使用し、アセトン中で約20時間ボールミリングした。粉砕混合物を100゜Cを超えない温度で乾燥し、つづいてアルゴンを満たしたグローブボックス中で乳鉢と乳棒で粉砕した。次に、各混合物を加熱処理し、表2に記載する条件の下で「HT1」〜「HT8」を得た。各場合、第一の加熱処理は記載したガスの流通雰囲気中、350゜Cで10時間行った。つづいて各粉末試料を乳鉢と乳棒で粉砕し、それから、記載したガスの流通雰囲気中、さらに高い温度で第二の加熱処理にかけた。加熱した粉末試料は、第二の加熱処理にかける前に加圧してペレット状に成形し、第二の加熱処理時にはペレットをアルミナのルツボに入れ、粉末と焼結ペレットを一緒にして加熱処理した。
【0048】
知られた通常の手順に従い、2点および4点(van der Pauw、vdP)伝導率測定を行い、調製した化合物の伝導性を評価した。ドープした試料の室温における伝導率を表1に示す。試料の粉末は、期待されるオリビン構造をしているか確認するため、そして検出可能な第二の相がないか調べるため、加熱処理後にX線回折分析にもかけて評価した。一部についてはいくつかの粉末試料を透過電子顕微鏡分析(TEM)および/または走査型透過電子顕微鏡分析(STEM)にかけ、より高い分解能で検査し、第二の相の有無を決定し、LiFePO4相の結晶粒子内に存在するドーパント金属の濃度を測定した。これによって、金属ドーパントが、添加濃度と加熱処理で、LiFePO4相に完全に可溶性か否か、あるいは溶解度の限界を超えていたかどうかを決定することができた。
【0049】
表1に挙げた試料について、最初の数字はドーパントを示し、二番目の数字は濃度を、そして三番目の数字は加熱処理を示す。たとえば、試料3c1はHTI加熱処理にかけたTiドープした0.1モル%濃度の試料を表す。モル%表示のドーパント濃度は、相対モル分率Ti/(Ti+Fe)に100を掛けたものである。
【0050】
【表1】

+ ACインピーダンス分光分析による測定
++ スパッターAu電極を使用し、2点法で測定
【0051】
【表2】

表1の結果は、加熱処理する未ドープLiFePO4は、受け入れできる伝導性材料を作るには有効ではなかった。各焼結ペレットの伝導率は、約10-6S/cm未満であった。
【0052】
それに対して、表に挙げたドーパントの場合、低濃度で室温伝導率が約10-5S/cmを超える試料を作ることができた。これらの伝導率の値は、正極化合物LiMn24に対して知られている値を超えている。
【0053】
電子顕微鏡検査は、電子的に伝導性の高い試料は表面の被覆または他の形式の追加の伝導相を有さないことを証明した。電子顕微鏡観察結果は、伝導率が高くなると、リチウム金属に対する材料の電位を大きく変えないで、ある一定の充電/放電速度における充電容量が大きくなることを証明した。伝導率が高くなると、容量を大きく損なわないで、大幅に速い速度で材料を充電/放電することが可能になった。言い換えれば、電子伝導性を高めることによって、これらのカソードのエネルギー密度と、これらのカソードを使ったバッテリーのエネルギー密度を、未ドープLiFePO4より大きくすることができる。事実、これらのカソードの速度性能が高くなったことは、これらのカソードを実際のバッテリーに使用することを可能にするのに対して、この群に属する以前の未ドープ化合物およびドープした化合物は、典型的には伝導性添加物、たとえば炭素で被覆するか、これとの共合成する必要がある。
【0054】
オリビン構造を有するポリアニオン化合物、たとえばNASICON VOPO4、LiFe(P27)またはFe4(P273構造のポリアニオン化合物は別にして、その他のポリアニオン化合物も同様に高い電子伝導性を実現するためドープし、合成することができるものと考えられる。また、Mgをドーパントとして得られる結果(実施例2)によれば、他のIIAアルカリ土類金属、たとえばBe、Ca、SrおよびBaも同様な効果を有するに違いないものと考えられる。IVA族元素であるTiおよびZrを使用して得られる結果によれば、他のIVA族元素、たとえばHfも似た効果を有するに違いないものと考えられる。VA族元素であるNbおよびTaを使用して得られる結果によれば、他のVA族元素、たとえばVも似た効果を有するに違いないものと考えられる。VIA族元素であるWを使用して得られる結果によれば、他のVIA族元素、たとえばCrおよびMoも似た効果を有するに違いないものと考えられる。Alを使用して得られる結果によれば、他のIIIB族元素、たとえばB,GaおよびInも似た効果を有するに違いないものと考えられる。
【0055】
実施例2 リチウム欠損組成物およびリチウム置換組成物
この実施例では、LiFePO4の理想的なカチオンの量論に対してLiの欠損、あるいは他の金属の過剰を作り出すため、ドープしたLiFePO4を配合した。その組成は(Li1−aM”a)FePO4で表される。この実施例においてM”は0.01%でのMgである(1%Mgをドープ試料)。ドーピングは、マグネシウムエトキシドMg(OC252を使って行った点を除き、(Li0.99Mg0.01)FePO4試料は本質的には実施例1の記載に従って調製し、得られた試料は、(最初の加熱処理をアルゴン中、350゜Cで10時間行ったのち)第二の加熱処理をアルゴン中、600゜で24時間、それからアルゴン中、700゜Cで16時間行った。これらの試料はアルゴン中、600゜Cで24時間加熱処理した組成物Li(Fe0.99Mg0.01)PO4の試料と比較した。
【0056】
2点測定法(2−probe method)によって3種類の試料それぞれの焼結ペレットの抵抗を測定した(各測定間で接点距離が約5mmの等距離となるようにした)。アルゴン中、700゜Cで16時間加熱処理した(Li0.99Mg0.01)FePO4試料は黒色で伝導性を示し、抵抗値は低く、約30kΩであった。アルゴン中、600゜Cで24時間加熱処理した(Li0.99Mg0.01)FePO4試料も黒色で伝導性を示したが、抵抗値は上記より高く約250kΩであった。アルゴン中、600゜Cで24時間加熱処理したLi(Fe0.99Mg0.01)PO4試料の抵抗値も約250kΩであった。

┌──────────┬────────────────┬──────────┐
│ 試料 │ 加熱処理 │ 抵抗率(kΩcm)│
├──────────┼────────────────┼──────────┤
│(Li0.99Mg0.01)│アルゴン中、350゜Cで10 │ 30 │
│FePO4 │時間、アルゴン中、600゜C │ │
│ │で24時間 │ │
├──────────┼────────────────┼──────────┤
│(Li0.99Mg0.01)│アルゴン中、350゜Cで10 │ 250 │
│FePO4 │時間、アルゴン中、700゜C │ │
│ │で24時間 │ │
├──────────┼────────────────┼──────────┤
│Li(Fe0.99Mg0.│ アルゴン中、600゜Cで24 │ 250 │
01)PO4 │ 時間 │ │
└──────────┴────────────────┴──────────┘

これらの結果および実施例1の他の結果は、アルカリイオンが欠損し、LiFePO4構造では八面体サイトを占めるであろう他の金属が過剰な組成物において、高い伝導性を得ることができることを示している。すでに述べたように、結果は、組成物をこのように配合したとき、金属M”の溶解性はより高かったことを示している。Liが欠損し、Mgが過剰であれば、八面体陽イオンMgまたはFeのどちらかが、普通であればLiが占有するであろう構造では八面体サイトを占有することが可能になると期待することは、いかなる解釈にも拘束されず理に適っている。
【0057】
非アルカリ金属が過剰に存在しアルカリが欠損する上記の例で得られた結果によると、普通であれば主要アルカリ金属が占有する、秩序あるオリビン構造のM1結晶学的サイトで金属の置換が起きるように、ほとんどどんな金属であっても、母化合物の構造に添加されれば、形成される化合物の電子伝導性を高めるという所望の効果が得られるであろうと考えられる。
【0058】
実施例3 高速性能カソードと薄膜アノードを使用する貯蔵バッテリー
実施例1に記載の方法に従い、活物質79重量%と、SUPER PTM炭素10重量%と、Kynar 2801バインダー11重量%とをγ−ブチロラクトン溶媒中で混合し、アルゴン中、600゜Cで焼成し、比表面積が41.8m/g、組成が(Li0.99Zr0.01)FePO4で表されるカソード貯蔵化合物を電極中に配合した。アルミニウム箔上に流し出して乾燥したのち、被覆をプロピレンカーボネートの15%メタノール溶液からなる可塑化溶媒中に浸漬し、それから加圧し乾燥した。出来上がった正極(カソード)は、CELGARDR 2500セパレーター膜および1:1 EC:DEC、1M LiPF6液体電解質を使用するSwagelok電池アセンブリー中、リチウム金属箔を対極(アノード、厚さ約1mm)として試験した。
【0059】
図5は、定電流定電圧(CCCV)法によって測定したこの電池の放電曲線である。電池はまず0.5Cの速度(75mA/g)で充電し、それから上記速度で2Vまで放電する前、放電電流が0.001mAに減衰するまで上限電圧3.8Aを維持した。図5の結果は、放電速度が50C(7.5A/g)でも、この電池によれば、C/5速度で利用できる容量の約半分が得られることをはっきり示している。
【0060】
図6は、図5の場合と同じ貯蔵化合物組成を持ち、貯蔵化合物の加熱処理または電極への加工法にわずかな違いがあることを除けば、同様にして組み立てた数種類の電極の放電曲線を比較したものである。4種類の電極はすべて付着量が約4〜5mg/cm2と似ており、試験はすべて22〜23゜Cで行われた。カソードの層の厚さは44〜58マイクロメーターの範囲にある。電極に対する追加曲線は、CCCV法によるものではなく、連続サイクリングによって試験したものであり、電池は、所定速度で放電する前に約1Cの速度(150mA/g)で4.2Vの上限カットオフ電圧まで充電した。付着量が4.0mg/cm2の試料は自由変形しなかった(not plasticized)。付着量が5.3mg/cm2の試料は、アルゴン中で、図6に記載した他の試料より高い700Cまでの温度で焼成した粉末から調製され、その比表面積は26.4m2/gで、他の試料と比べて小さい。図6から、4種類の試料すべてが、高いCの放電速度でいちじるしく大きな容量を示すことがわかる。
【0061】
図7は、付着量を4.4mg/cm2から10.5mg/cm2まで変えた4種類の電極の放電容量vs放電速度を表す。放電速度が低いときはすべての電極が似た容量を持つのに対して、放電速度が5C速度(750mA/g)を超えると、薄い電極ほど容量は顕著に上がることがわかる。図5〜7の結果は、この事例では貯蔵化合物それ自体は、きわめて高い出力密度が可能であるが、電極への付着量が多くなるにつれて他の要因が律速要因になり、電極の使用できるエネルギー密度および出力密度を低下させることを示している。全体を通しての電子伝導性、液体電解質を満たした多孔質網構造体を通してのイオン輸送、貯蔵材料粒子表面を横切る表面交換速度、および粒子内部の固相輸送、たとえば二相貯蔵材料における固相内拡散または相変換速度を含むいくつかの要因が、複合電極の充電−放電挙動を制限する可能性がある可能性があることはよく知られている。この実施例において、負電極での律速段階の可能性は他の試験によって除外された。ここで使用する高い放電速度で付着量を大きくすると容量が低下する事実は、貯蔵材料化合物粒子表面または粒子内部の輸送は必ずしも律速ではなく、複合電極内の輸送が律速であることを示唆している。
【0062】
図5の放電容量データを使って、放電電流速度とリチウム貯蔵カソードのエネルギー密度との関係が計算された。LiCoO2をカソード活物質とし、炭素をアノード活物質とする電極積層体をベースとする典型的なリチウムイオンバッテリーが、正極貯蔵化合物を重量で25〜35%、体積で13〜18%含むことはよく知られている。材料が占める重量割合および体積割合のより詳細な計算は具体的な設計に使用されるのに対して、これらの概略値は、本実施例のリチウム貯蔵カソードと通常の炭素アノードを使用するLiイオン電池のデザインのエネルギー密度および出力密度を決めるための好適な基礎となる。LiFePO4の結晶密度がLiCoO2のそれより29%低いことを考慮し、比表面積が大きいことから充填密度がいくらか低いと仮定すると、最適化された電池は、控えに見積もって正極活物質を10〜20重量%含む可能性がある。図5の結果を使用し、炭素電極と組み合わせて使用すると電池の電圧がわずかに下がる(3.25vsLiCoO2の3.7V)ことを考慮すると、図8に示す出力密度−エネルギー密度の結果が得られる。正極活物質が10重量%、15重量%、20重量%の結果が示されている。完全放電に対する出力密度およびエネルギー密度として、20C(3A/g)の速度で、それぞれ800〜1500W/kgおよび30〜60Wh/kg、50C(7.5A/g)の速度で、それぞれ1500〜4200W/kgおよび15〜30Wh/kg、80C(12A/g)の速度で、それぞれ2500〜5000W/kgおよび5〜10Wh/kgの値が得られる。
【0063】
本発明のデバイスの出力密度/エネルギー密度は、これの結果と比較して、大幅に高くすることが可能である。比容量が約150mAh/gの伝導性LiFePO4の付着量が一回被覆で5mg/cm2の場合、電極単位面積当たりの容量は約0.75mAh/cm2である。表1から、金属をベースにした多くのアノードは炭素のそれを超える重量容量と、炭素のそれよりずっと大きな密度とを持っていることが注目される。ケイ素を例にとり、もしケイ素をリチウム化して750mAh/gの容量を得ようとすると、バランスの取れた電池が得られるために必要なアノードへの付着量は1mg/cm2、緻密なSi膜の厚さは4マイクロメートルとなろう。化合物Li12Si7を形成させることで実現しうる1500mAh/gに対して必要なSiの厚さは2マイクロメートルである。また、リチウム化化合物Li13Si4を形成させることで実現しうる3000mAh/gに対して必要なSiの厚さは1マイクロメートルである。
【0064】
密度が7.31g/cm2の金属スズを含む薄膜アノードの場合、500mAh/gの容量を持つ、リチウム化が部分的なSn−Li合金は、2.1マイクロメートルの厚さが必要であろう。また、994mAh/gの容量を持つ、完全にリチウム化された、組成がLi22Sn5の合金は、1マイクロメートルの厚さが必要であろう。このように、粉末をベースにした高電力カソードと一緒に使用すれば、薄膜金属をベースにしたアノードは、バランスした電池を形成しうることが理解される。
【0065】
それとは対照的に、体積密度が65%で、単位面積当たりの容量が同じ、典型的な炭素粉末をベースとするアノード被膜は、約16マイクロメートルの厚さが必要であろう。完全に緻密な炭素膜は10マイクロメートルの厚さが必要であろう。これらは、一つの事例において、緻密な膜または多孔質膜を固着させることが難しい厚さであり、第二の事例において、粉末をベースとする懸濁被膜として形成することが難しい厚さである。
【0066】
典型的な高エネルギー密度リチウムイオン電池において、アノード化合物、それと関連する電解質および添加物は、電池構成体(stack)の体積の40%、電池の体積の30%、電池集積体の重量の約28%、そして電池の体積の22%を成す。可能な限り小さく、可能な限り軽い薄膜アノードを使用し、カソードに変化を加えなければ、電池の体積エネルギー密度は約42%、重量エネルギー密度は約28%高くなる。この増加の大きさは、付着量を少なくした薄い電極の高エネルギー密度の電池の場合は幾分小さい。LiFePO4はLiCoO2より体積エネルギー密度が約30%低く、重量エネルギー密度がほぼ同じであることを考えると、薄膜金属アノードを使用することによってLiFePO4の体積エネルギー不足を大幅に補うことができ、その結果、高エネルギー密度と高出力密度を持つ電池が得られることが理解できる。
【0067】
ポリアニオン化合物の電力性能およびその化合物を組み込む電極の如何を問わず、薄膜金属アノードを使うことで電池のエネルギー密度を大幅に向上させることができることは容易に理解できよう。
【0068】
バルク金属をベースとしたリチウムアノードは、リチウム化するときの体積変化が大きいため、可逆的なサイクルが不可能であることも知られている。しかし、本発明によれば、数マイクロメートル以下の範囲の薄膜アノードを使用することで、サイクル特性の優れた電池が可能になる。
【0069】
優れたサイクル特性を実現するためには適当な固体−電解質界面(SEI)層による金属アノード表面の不動態化が必要であることも知られている。このSEI層は電解質成分との反応によって層が成長し続けるのを防止するために十分電子的に隔離される一方で、リチウムの迅速な輸送を可能にするため、イオン的にきわめて伝導性が高くかつ十分に薄い。本発明によれば、電池を組み立てる前に、炭素かまたは炭酸リチウムかまたはリン酸リチウムのような、液体電解質と接触して良好なSEIを形成する化合物の膜を薄膜金属アノードの表面に固着させることができる。
【0070】
アノードのリチウム化を薄い金属膜に限定するか、リチウム化の間に起きる体積の膨張と収縮を吸収するため、薄膜アノードを固着させる前に、電流コレクター上に分離バリヤー層を固着させることができる。薄膜アノードの可逆的なサイクルを可能にするため、電気化学的、熱機械的および弾性的性質の違いをなだらかにすることができる多重固着層を使用することもできる。
【0071】
このような電池は、現在のニッケル金属水素化物バッテリー技術(400〜1200W/kg、40〜80Wh/kg)およびリチウムイオンバッテリー技術(800〜2000W/kg、80〜170Wh/kg)では不可能な出力密度を提供することができよう。これらの性能は、低コスト、かつ極めて安全性の高い貯蔵材料である点で、動力ツール、ハイブリッド、電気自動車を含むが、これらに限定されない高電力大型バッテリーへの応用に対して特に魅力的であろう。
【0072】
本発明が教えるところを含む様々な実施形態を明らかにし、ここに詳しく述べてきたが、当業者であれば、これらの教えるところを含むその他の様々な実施形態を容易に引き出すことができよう。
【図面の簡単な説明】
【0073】
下記図面を参照しながら本発明をさらに詳しく説明するが、これらは例示である本発明を制限するものではない。
【図1】充電モードを示す通常のインターカレーション・アノード/カソード系の略図である。
【図2】再充電リチウムイオン電池における活物質の典型的な体積割合と重量割合である。
【図3】本発明の一つ以上の実施形態による電気化学電池の略図である。
【図4】本発明の一つ以上の実施形態による電気化学電池の略図である。
【図5】Li0.99Zr0.01FePO4の粉末を使用して製作した電極について、リチウム金属負極と非水液体電解質を使用した通常の電池デザインで、22゜Cで200C(30A/g)の放電速度まで試験し、2〜3.8Vの電圧間で定電流定電圧サイクリングして得られた放電曲線である。
【図6】600゜Cまたは700゜Cで加熱処理したLi0.99Zr0.01FePO4の粉末を使用して定式化し、活物質を比較的少量(4.0〜5.3mg/cm2)装填した数個の電極について、リチウム金属負極と非水液体電解質を使用した通常の電池デザインで、22〜23゜Cで60C(9A/g)より大きな高放電速度まで試験して得られた放電容量vs放電速度曲線である。
【図7】600゜Cまたは700゜Cで加熱処理したLi0.99Zr0.01FePO4の粉末を使用し、活物質装填量を種々変えて作製した数種類の電極について、リチウム金属負極と非水液体電解質を使用した通常の電池デザインで、22〜23゜Cで60C(9A/g)より大きな高放電速度まで試験して得られた放電容量vs放電速度曲線である。
【図8】図5に記載の高出力密度リチウム貯蔵材料と炭素をベースにしたアノードをベースにした貯蔵バッテリー電池のlog出力密度vslogエネルギー密度のRagoneプロット; 電池内のカソードが10wt%、15wt%、20wt%と想定した場合の曲線を示す; 本発明の電池は、同一条件下で従来の電池より約25〜40%高い出力密度およびエネルギー密度を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属遷移金属ポリアニオン化合物を含むカソードと、アルカリ金属と合金を作りうる金属またはメタロイドを含む薄膜金属アノードと、アノードおよびカソードの両方とイオン接触する電解質と、を具備する電気化学的デバイス。
【請求項2】
アルカリ金属遷移金属ポリアニオン化合物を含むカソードと、厚さが6マイクロメートル未満の薄膜リチウムアノードと、アノードおよびカソードの両方とイオン接触する電解質と、を具備する電気化学的デバイス。
【請求項3】
該カソードが、第一の電流コレクターと電子的に連通し、該アノードが第二の電流コレクターと電子的に連通する、請求項1に記載のデバイス。
【請求項4】
該アルカリ金属がリチウムを含む、請求項1に記載のデバイス。
【請求項5】
リチウムを挿入した該層間化合物がLiMPO4(式中、MはV,Mn,Fe,CoまたはNiのなかの一種類以上)を含む、請求項4に記載のデバイス。
【請求項6】
該カソードが粒子をベースとする材料である、請求項1に記載のデバイス。
【請求項7】
該アルカリ金属遷移金属ポリアニオン化合物の比表面積が少なくとも15m2/gである、請求項1に記載のデバイス。
【請求項8】
該アルカリ金属遷移金属ポリアニオン化合物の比表面積が20m2/gより大きい、請求項1に記載のデバイス。
【請求項9】
該アルカリ金属遷移金属ポリアニオン化合物の比表面積が30m2/gより大きい、請求項1に記載のデバイス。
【請求項10】
該アルカリ金属遷移金属ポリアニオン化合物の比表面積が40m2/gより大きい、請求項1に記載のデバイス。
【請求項11】
該アルカリ金属遷移金属ポリアニオン化合物が、平均最小寸法が500nm未満の微結晶質を含む結晶質部分を有する、請求項1に記載のデバイス。
【請求項12】
該アルカリ金属遷移金属ポリアニオン化合物が、平均最小寸法が100nm未満の微結晶質を含む結晶質部分を有する、請求項1に記載のデバイス。
【請求項13】
該アルカリ金属遷移金属ポリアニオン化合物が、平均最小寸法が20nm未満の微結晶質を含む結晶質部分を有する、請求項1に記載のデバイス。
【請求項14】
該カソードが、(Ab−aM”a)xM’y(XD4)z、(Ab−aM”a)xM’y(DXD4)zまたは(Ab−aM”a)xM’y(X2D7)z(式中、Aはアルカリ金属または水素の中の少なくとも一種類、M’は第一列の遷移金属、Xはリン、硫黄、ヒ素、ホウ素、アルミニウム、ケイ素、バナジウム、モリブデンおよびタングステンの中の少なくとも一種類であり、M”はIIA族、IIIA族、IVA族、VA族、VIA族、VIIA族、VIIIA族、IB族、IIB族、IIIB族、IVB族、VB族およびVIB族金属のいずれかであり、Dは酸素、窒素、炭素またはハロゲンの中の少なくとも一種類であり、0.0001<a≦0.1、a≦b≦1が成立し、x、yおよびzはゼロより大きく、かつ(b−a)xと、M”の形式原子価をax倍した量と、M’の形式原子価をy倍したものの和が、XD4基、X2D7基またはDXD4基の形式原子価をz倍したものと等しくなるような値を有する)で表される組成を持ち、かつ27゜Cにおいて少なくとも約10-8S/cmの伝導率を有する、化合物を含む、請求項1に記載のデバイス。
【請求項15】
該カソードが、Ax(M’1−aM”a)y(XD4)z、Ax(M’1−aM”a)y(DXD4)zまたはAx(M’1−aM”a)y(X2D7)z(式中、Aはアルカリ金属または水素の中の少なくとも一種類であり、M’は第一列の遷移金属であり、Xはリン、硫黄、ヒ素、ホウ素、アルミニウム、ケイ素、バナジウム、モリブデンおよびタングステンの中の少なくとも一種類であり、M”はIIA族、IIIA族、IVA族、VA族、VIA族、VIIA族、VIIIA族、IB族、IIB族、IIIB族、IVB族、VB族およびVIB族金属のいずれかであり、Dは酸素、窒素、炭素またはハロゲンの中の少なくとも一種類であり、0.0001<a≦0.1が成立し、そしてxは0に等しいか0より大きく、yおよびzは、0より大きく、かつxと、M’の形式原子価をy(1−a)倍したものと、M”の形式原子価をya倍したものの和が、XD4基、X2D7基またはDXD4基の形式原子価をz倍したものと等しくなるような値を有する)で表される組成を持ち、かつ27゜Cにおいて少なくとも約10-8S/cmの伝導率を有する、化合物を含む、請求項1に記載のデバイス。
【請求項16】
該カソードの組成が、Lix(M’1−aM”a)PO4、LixM”aM’PO4、Lix(M’1−a−yM”aLiy)PO4、Lix(M’1−yLiY)PO4またはLix−aM”aM’1−yLiyPO4(式中、M’はV、Mn、Fe、CoまたはNiの中の一種類以上であり、M”はIIA族、IIIA族、IVA族、VA族、VIA族、VIIA族、VIIIA族、IB族、IIB族、IIIB族、IVB族、VB族およびVIB族金属のいずれかであり、かつ0.0001<a≦0.1、0.0001<y≦0.1、そしてxはゼロに等しいか、ゼロより大きい)である請求項1に記載のデバイス。
【請求項17】
該組成が、Lixvac1−x(M’1−aM”a)PO4、LixM”avac1−a−xM’PO4、Lix(M’1−a−yM”avacy)PO4、またはLix−aM”aM’1−yvacyPO4(式中、vacは化合物の構造に存在する空席を表し、M’はV、Mn、Fe、CoまたはNiの中の一種類以上であり、M”はIIA族、IIIA族、IVA族、VA族、VIA族、VIIA族、VIIIA族、IB族、IIB族、IIIB族、IVB族、VB族およびVIB族金属のいずれかであり、かつ0.0001<a≦0.1、0.0001<y≦0.1が成立し、そしてxはゼロに等しいか、ゼロより大きい)である、請求項1に記載のデバイス。
【請求項18】
該組成が、Lixvac1−x(Fe1−aM”a)PO4、LixM”avac1−a−xFePO4、Lix(Fe1−a−yM”avacy)PO4、Lix−aM”aFe1−yvacyPO4、Lix(Fe1−a−yLiavacy)PO4、またはLixvac1−xFePO4(式中、vacは化合物の構造に存在する空席を表し、M”はIIA族、IIIA族、IVA族、VA族、VIA族、VIIA族、VIIIA族、IB族、IIB族、IIIB族、IVB族、VB族およびVIB族金属のいずれかであり、かつ0.0001<a≦0.1、0.0001<y≦0.1が成立し、そしてxはゼロに等しいか、ゼロより大きい)である、請求項1に記載のデバイス。
【請求項19】
該カソード組成物が、ドープされ、かつオリビン構造を有するLiFePO4を含んで成る、リチウムを挿入した層間化合物を含む、請求項1に記載のデバイス。
【請求項20】
該カソード化合物が、少なくとも約80mAh/gの重量容量を有し、ほぼCより大きな速度で充電/放電が行われる電気化学的デバイスに使用される、請求項1に記載のデバイス。
【請求項21】
該重量容量が少なくとも約100mAh/gである、請求項20に記載のデバイス。
【請求項22】
該重量容量が少なくとも約120mAh/gである、請求項20に記載のデバイス。
【請求項23】
該重量容量が少なくとも約150mAh/gである、請求項20に記載のデバイス。
【請求項24】
該重量容量が少なくとも約160mAh/gである、請求項20に記載のデバイス。
【請求項25】
Cの約2倍より大きな速度で充電/放電する、請求項1に記載のデバイス。
【請求項26】
該金属が、アルミニウム、銀、ホウ素、ビスマス、カドミウム、ガリウム、ゲルマニウム、インジウム、鉛、スズ、ケイ素、アンチモンおよび亜鉛、ならびにこれらの化合物および合金からなる群から選択される、請求項1に記載のデバイス。
【請求項27】
該金属アノードが、使用前にリチウム化されない、請求項1に記載のデバイス。
【請求項28】
該金属アノードが使用時にリチウム化される百分率が、最大理論濃度に対してごくわずかである、請求項1に記載のデバイス。
【請求項29】
薄膜アノードの厚さが約1ないし約10マイクロメートルである、請求項1に記載のデバイス。
【請求項30】
該アノードが、電池内の体積の約3ないし約10%を占める、請求項1に記載のデバイス。
【請求項31】
該アノードが、電池内の重量の約3ないし約10%を占める、請求項1に記載のデバイス。
【請求項32】
薄層カソード電極と、厚さが約6マイクロメートル未満の薄膜金属アノードまたは薄膜メタロイドアノードと、電解質とを含む電気化学電池。
【請求項33】
薄層カソードが、電池の約10ないし約25重量%をなす、請求項32に記載の電気化学電池。
【請求項34】
薄膜アノードが、電池の約3ないし約10重量%をなす、請求項33に記載の電気化学電池。
【請求項35】
使い捨てタイプの(一次)バッテリー電池である、請求項32に記載の電気化学電池。
【請求項36】
充電可能な(二次)バッテリー電池である、請求項32に記載の電気化学電池。
【請求項37】
放電時に少なくとも0.25Whのエネルギーを発揮する、請求項32に記載の電気化学電池。
【請求項38】
放電時に少なくとも1Whのエネルギーを発揮する、請求項32に記載の電気化学電池。
【請求項39】
放電時に少なくとも5Whのエネルギーを発揮する請求項32に記載の電気化学電池。
【請求項40】
放電時に少なくとも10Whのエネルギーを発揮する、請求項32に記載の貯蔵バッテリー電池。
【請求項41】
放電時に少なくとも20Whのエネルギーを発揮する、請求項32に記載の電気化学電池。
【請求項42】
放電時に少なくとも30Whのエネルギーを発揮する、請求項32に記載の電気化学電池。
【請求項43】
放電時に少なくとも40Whのエネルギーを発揮する、請求項32に記載の電気化学電池。
【請求項44】
放電時に少なくとも50Whのエネルギーを発揮する、請求項32に記載の電気化学電池。
【請求項45】
放電時に少なくとも100Whのエネルギーを発揮する、請求項32に記載の電気化学電池。
【請求項46】
放電時に少なくとも30Wh/kgの重量エネルギー密度か、または少なくとも100Wh/リットルの体積エネルギー密度を発揮する、請求項32に記載の電気化学電池。
【請求項47】
放電時に少なくとも50Wh/kgの重量エネルギー密度か、または少なくとも200Wh/リットルの体積エネルギー密度を発揮する、請求項32に記載の電気化学電池。
【請求項48】
放電時に少なくとも90Wh/kgの重量エネルギー密度か、または少なくとも300Wh/リットルの体積エネルギー密度を発揮する、請求項32に記載の電気化学電池。
【請求項49】
放電時に少なくとも100W/kgの重量出力密度か、または少なくとも350W/リットルの体積出力密度を発揮する、請求項32に記載の電気化学電池。
【請求項50】
放電時に少なくとも500W/kgの重量出力密度か、または少なくとも500W/リットルの体積出力密度を発揮する、請求項32に記載の電気化学電池。
【請求項51】
放電時に少なくとも1000W/kgの重量出力密度か、または少なくとも1000W/リットルの体積出力密度を発揮する、請求項32に記載の電気化学電池。
【請求項52】
放電時に少なくとも2000W/kgの重量出力密度か、または少なくとも2000W/リットルの体積出力密度を発揮する、請求項32に記載の電気化学電池。
【請求項53】
放電時に:
少なくとも500W/kgの出力密度で少なくとも30Wh/kgの重量エネルギー密度か、または
少なくとも1000W/kgの出力密度で少なくとも20Wh/kgの重量エネルギー密度か、または
少なくとも1500W/kgの出力密度で少なくとも10Wh/kgの重量エネルギー密度か、または
少なくとも2000W/kgの出力密度で少なくとも5Wh/kgの重量エネルギー密度か、または
少なくとも2500W/kgの出力密度で少なくとも2Wh/kgの重量エネルギー密度か、または
少なくとも3000W/kgの出力密度で少なくとも1Wh/kgの重量エネルギー密度を発揮する、請求項32に記載の電気化学電池。
【請求項54】
放電時に:
少なくとも500W/kgの出力密度で少なくとも50Wh/kgの重量エネルギー密度か、または
少なくとも1000W/kgの出力密度で少なくとも40Wh/kgの重量エネルギー密度か、または
少なくとも2000W/kgの出力密度で少なくとも20Wh/kgの重量エネルギー密度か、または
少なくとも3000W/kgの出力密度で少なくとも10Wh/kgの重量エネルギー密度か、または
少なくとも4000W/kgの出力密度で少なくとも4Wh/kgの重量エネルギー密度か、または
少なくとも5000W/kgの出力密度で少なくとも1Wh/kgの重量エネルギー密度を発揮する、請求項32に記載の電気化学電池。
【請求項55】
放電時に:
少なくとも1000W/kgの出力密度で少なくとも80Wh/kgの重量エネルギー密度か、または
少なくとも2000W/kgの出力密度で少なくとも70Wh/kgの重量エネルギー密度か、または
少なくとも3000W/kgの出力密度で少なくとも60Wh/kgの重量エネルギー密度か、または
少なくとも4000W/kgの出力密度で少なくとも55Wh/kgの重量エネルギー密度か、または
少なくとも5000W/kgの出力密度で少なくとも50Wh/kgの重量エネルギー密度か、または
少なくとも6000W/kgの出力密度で少なくとも30Wh/kgの重量エネルギー密度か、または
少なくとも8000W/kgの出力密度で少なくとも10Wh/kgの重量エネルギー密度を発揮する、請求項32に記載の電気化学電池。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公表番号】特表2006−511907(P2006−511907A)
【公表日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−562580(P2004−562580)
【出願日】平成15年12月23日(2003.12.23)
【国際出願番号】PCT/US2003/041353
【国際公開番号】WO2004/059758
【国際公開日】平成16年7月15日(2004.7.15)
【出願人】(505239219)エイ 123 システムズ,インク. (24)
【Fターム(参考)】