説明

高保磁力NdFeB磁石の製法

【課題】高磁化残留と高保磁力を兼ね備えたNdFeB磁石の製法を提供すること。
【解決手段】NdFe14B相を含んでなる磁性組織に非磁性相を接触させる工程、
前記非磁性相をその融点以上の温度まで加熱する工程、および
前記非磁性相を前記磁性組織に粒界拡散させる工程を含んでなり、
ここで前記NdFe14B相を含んでなる磁性組織の少なくとも一部は、粒子径が10〜300nmのナノ結晶粒子である、
磁石の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、NdFeB磁石の製造方法に関している。
【0002】
本発明は、磁化曲線における保磁力が高いNdFeB磁石の製造方法に関する。なお、以後の説明においては、所定形状に成形された着磁前の成形体についても磁石という。
【背景技術】
【0003】
永久磁石の応用はエレクトロニクス、情報通信、医療、工作機械分野、産業用・自動車用モータなど広範な分野に及んでおり、二酸化炭素排出量の抑制の要求が高まっている中、ハイブリッドカーの普及、産業分野での省エネ、発電効率の向上などで近年さらに高特性の永久磁石開発への期待が高まっている。
【0004】
現在、高性能磁石として市場を席巻しているNd−Fe−B系磁石は、HV/EHV用の駆動モーター用磁石にも使用されている。そして、昨今、モーターのさらなる小型化、高出力化(磁石の残留磁化の増加)が追求されていることに対応して、Nd−Fe−B系磁石に関しても、高性能化、とりわけ高保磁力化の要求が強まっている。
【0005】
Nd−Fe−B系磁石はいまから20年以上前に佐川らにより発明されたものである(非特許文献1)。それ以降NdFe14B化合物を超える磁石材料は見いだされていない。
【0006】
NdFeB系磁石を超える性能を有する材料開発の一つとして、ナノコンポジット磁石の研究が進められている。ナノコンポジット磁石の材料設計思想は、いずれもnmオーダの微細な結晶粒である高保磁力の硬磁性相(Nd2Fe14B相)と高飽和磁化の軟磁性相(α−Fe相)を全体の組織内に共存させ、両相の特性を交換接合作用を介して同時に発現させ、もって高エネルギー積を達成するというものである。ナノコンポジット磁石は、高保磁力と高飽和磁化を両立させうるコンセプトとして、有望と考えられている。
【0007】
NdFeB系材料を用いた種々のナノコンポジット磁石が提案されており、例えば次のような異方性交換スプリング磁石が提案されている(特許文献1)。
【0008】
この磁石は、NdFe82CoCuの組成を有する合金の溶湯を超急冷法で薄膜片にしたのちそれを粉砕し、得られた粉末を冷間プレスして予備成形体にし、更にその予備成形体を熱間プレスして高密度化したのち熱間据え込み加工して製造されている。
【0009】
この磁石は、NdFe14B相、α−Fe相、およびNd−Cu相の3相混合物であり、NdFe14B相が硬磁性相、α−Fe相が軟磁性相になっている。これら3相のうち、Nd−Cu相は他の相の粒界に介在する粒界相になっていて、上記した据え込み加工時に各相の間の流動性を向上させて、保磁力を高める働きをするとされている。
【0010】
ナノコンポジット磁石の場合、それを構成する硬磁性相と軟磁性相のそれぞれの結晶粒径は、磁気特性を規定する重大なパラメータであるが、特許文献1では、NdFe14B相、α−Fe相、およびNd−Cu相の結晶粒径の検討や、更には結晶粒径と磁気特性との相関関係についての検討は行われていなかった。
【0011】
この点に関して、特許文献2では、NdFe14B相、α−Fe相、およびNd−Cu相の3相を含むナノコンポジット磁石における各相の結晶粒の集合状態を電子顕微鏡で観察して各相の結晶粒径を測定し、その結晶粒径と磁気特性との関係を調査している。その調査結果によると、結晶粒径が磁気特性を規定している、と記載されている。より詳しくは、Nd−Cu相の結晶粒の大きさが、磁化容易軸方向における最大エネルギー積を規定しており、そして、そのNd−Cu相の結晶粒の大きさは37nm以下が好ましい、と記載されている。
【0012】
また、特許文献2における磁石の製造工程においては、700〜1100℃の温度域で行う塑性加工の工程を必須の工程として含んでいる。この工程が、磁性相の相互流動性が保障されて磁性相は特定方向に配向させ、そのことにより、各磁性相の磁化容易軸が揃い、大きな異方化度が実現され、ひいては高保磁力が実現されるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2002−57015号公報
【特許文献2】特開2005−93731号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】M. Sagawa, S. Fujimura, N. Togawa, H. Yamamoto, and Y. Matsuura, J. Appl. Phys. 55 (1984),2083.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明はNdFeB系磁石の製造方法に関するものである。一般に、NdFeB系磁石は、Fe,Nd,Bを主成分とする合金から製造され、NdFe14B化合物を主相とし、主相の周りに粒界相が存在する。主相のNdFe14Bが磁区となり高残留磁化をもたらし、粒界相が、磁壁の移動、発生を妨げ高保磁力を発現させる。
【0016】
しかしながら、高磁化を狙って、主相のNdFe14Bの含有率を高くした組成物では、粒界相が欠乏し、主相のNdFe14B粒子間の分断性が低下し、保磁力が低下する。逆に、主相のNdFe14Bの含有率を低くした組成物(粒界相含有率の高い組成)では、粒界相が増え、分断性が向上し、保磁力は増加するが、粒界相が局所的に偏在することにより、相対的に主相のNdFe14Bの含有率が下がり、磁化の低下を招く。
【0017】
また、NdFeB系磁石の磁化の向上させるために、軟磁性相、例えばα−Fe相をさらに含んだ、ナノコンポジット磁石も知られている。
【0018】
しかしながら、2相系ナノコンポジット磁石の組成では、Ndリッチ相(ナノ結晶磁石で言うところの粒界相)が存在しないため、NdFeB相同士が連結することがある。NdFeBが連結することで、粒子径の大きいNdFeBのように振舞い、単磁区ではなくなり、保磁力が低下するという問題点がある。
【0019】
特許文献1および2で原料にあらかじめCu等を加える手法が提案されている。加えられたCu等は、Nd−Fe−B相の粒界を取り囲む粒界相となり、この粒界相がNd−Fe−B相の流動性を向上させて、結晶の方向をそろえて異方性を高め、ひいては保磁力を高める働きをするとされている。
【0020】
しかしながら、Nd−Fe−B相とα−Fe相の交換接合は、これらの相間の距離が5nm〜10nm程度の場合に成立すると考えられており、Nd−Fe−B相/α−Fe相間に10nm以上の粒界相(NdCu等の相)が存在すると、交換接合は起こらず、残留磁化の増大は起こりえない。
【0021】
特許文献1および2で提案されたCu等を加える手法では、加えられた3相目の粒界(Nd−Cu相等)の膜厚が大きすぎ、Feとの交換接合が成立せず、残留磁化の増大を得られないという問題点がある。
【0022】
本発明は、上記した先行技術の問題点を解決し得る、高磁化残留と高保磁力を兼ね備えたNdFeB磁石の製法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記課題を解決するため手段として、本発明により以下のものが提供される。
【0024】
(1)NdFe14B相を含んでなる磁性組織に非磁性相を接触させる工程、
前記非磁性相をその融点以上の温度まで加熱する工程、および
前記非磁性相を前記磁性組織に粒界拡散させる工程を含んでなり、
ここで前記NdFe14B相を含んでなる磁性組織の少なくとも一部は、粒子径が10〜300nmのナノ結晶粒子である、磁石の製造方法。
【0025】
(2)前記NdFe14B相を含んでなる磁性組織が、α−Fe相をさらに含んでなるNdFeB/Feナノコンポジット磁性組織である、(1)に記載の方法。
【0026】
(3)RxFe(100−x−y−z)ByTzの組成を有し、ここでRは1種類、または2種類以上の希土類元素、TはGa,Zn,Si,Al,Nb,Zr,Ni,Cu,Cr,Hf,Mo,P,C,Mg,Hg,Ag,Au,Coよりなる1種類以上、および、不可避不純物、2≦x<14、1≦y<10、0≦z<5である、合金の溶湯を用意する工程、および
前記合金の溶湯を急冷してリボンを得る工程、
により前記NdFe14B相を含んでなる磁性組織が調製される、(1)または(2)に記載の方法。
【0027】
(4)前記リボンを焼結して焼結体を得る工程、をさらに含んでなる(3)に記載の方法。
【0028】
(5)粒界拡散された前記非磁性相の厚みが10nm以下である、(1)〜(4)のいずれか1つに記載の方法。
【0029】
(6)前記非磁性相がR−Mの組成を有し、ここでRは1種類、または2種類以上の希土類元素、MはGa,Zn,Si,Al,Nb,Zr,Ni,Cu,Cr,Hf,Mo,P,C,Mg,Hg,Ag,Au,よりなる1種類以上である、(1)〜(5)のいずれか1つに記載の方法。
【0030】
(7)前記非磁性相の融点が700℃以下である、(1)〜(6)のいずれか1つに記載の方法。
【0031】
(8)前記非磁性相を前記磁性組織に粒界拡散させる時間が1分以上、30分以下である、(1)〜(7)のいずれか1つに記載の方法。
【0032】
(9)前記非磁性相はNdCu合金である、(1)〜(8)のいずれか1つに記載の方法。
【0033】
(10)前記非磁性相はNdCu合金において、Nd含有率が50at%以上且つ82at%以下である、(9)に記載の方法。
【0034】
(11)前記磁性組織の質量を基準として、前記非磁性相は1wt%以上且つ50wt%以下の割合で粒界拡散される、(1)〜(10)のいずれか1つに記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】図1は、非磁性相が拡散するイメージを表わした図である。
【図2】図2は、磁性組織が、α−Fe相も含むNdFeB/Feナノコンポジット磁性組織である場合の、非磁性相が拡散するイメージを表わした図である。
【図3】図3は、NdCu状態図である。
【図4】図4は、急冷リボンとNdCu粉末の加熱経路を表わした図である。
【図5】図5は、急冷リボンとNdCu粉末を加熱する方法の概略を表わした図である。
【図6】図6は、実施例1および比較例1で得た磁石の減磁曲線を表わした図である。
【図7】図7は、実施例1および比較例1で得た磁石の保磁力の温度依存性を表わした図である。
【図8】図8は、実施例1および比較例1の磁石のTEM像である。
【図9】図9は、NdFeB焼結体とNdCuの加熱経路を表わした図である。
【図10】図10は、NdFeB焼結体とNdCuの加熱する方法の概略を表わした図である。
【図11】図11は、実施例2および比較例2で得た磁石の減磁曲線を表わした図である。
【図12】図12は、実施例2および比較例2で得た磁石のXRD測定結果を表わした図である。
【図13】図13は、実施例2および比較例2で得た磁石のSEM像を表わした図である。
【図14】図14は、急冷リボンとNdCu粉末の加熱経路を表わした図である。
【図15】図15は、実施例3および比較例3で得た磁石の拡散時間を変化させたときの保磁力の変化率を表わした図である。
【図16】図16は、実施例3および比較例3で得た磁石の減曲線を表わした図である。
【図17】図17は、急冷リボンとNdCu粉末の加熱経路を表わした図である。
【図18】図18は、比較例4および実施例4で得た磁石の減磁曲線を表わした図である。
【図19】図19は、非磁性相(NdCu)の量と保磁力を表わした図である。
【図20】図20は、非磁性相(NdCu)の量が200wt%の磁石についてのSEM観察結果を表わした図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明による磁石の製造方法の一実施態様は、以下の工程を含んでなる。
(1)NdFe14B相を含んでなる磁性組織に非磁性相を接触させる工程、
(2)前記非磁性相をその融点以上の温度まで加熱する工程、および
(3)前記非磁性相を前記磁性組織に粒界拡散させる工程。
【0037】
以下、各工程について詳細に説明する。
【0038】
(1)の工程で用いられる、NdFe14B相を含んでなる磁性組織は、NdFe14B相は高磁化を付与する磁性組織であって、本発明で得られる磁石のベースとなるものである。
【0039】
ここで前記NdFe14B相を含んでなる磁性組織の少なくとも一部は、粒子径が10〜300nmのナノ結晶粒子である。粒子径がこの範囲であると、単磁区粒子の割合が多くなる。単磁区とは内部に磁壁の存在しない一つの磁区のみが存在する状態のことである。単磁区粒子の集合した組織では、各磁区の磁化の変化が磁化の回転の機構によってのみ生じる。単磁区に対して、多磁区とは内部に磁壁が存在し複数の磁区が存在する状態のことである。多磁区粒子の集合した組織では、磁壁の移動による各磁区の磁化の変化も生じる。したがって、多磁区の場合よりも単磁区の場合、磁壁の移動がないので磁化の変化が生じにくく、すなわち保磁力が高くなる。
この粒子径が300nmより大きくなると、単磁区ではなくなり、固有保磁力の低下を招く。一方、この粒子サイズが10nm程度までが小さくなると、NdFe14B相が磁気特性的には等方性を示しはじめる。したがって、NdFe14B相を含んでなる磁性組織の少なくとも一部は、粒子径が10〜300nmである。
【0040】
NdFe14B相を含んでなる磁性組織が、α−Fe相をさらに含んでなるNdFeB/Feナノコンポジット磁性組織であってもよい。ナノコンポジット磁石とは、ナノメートルオーダーの微細な硬磁性相と軟磁性相が組織内に共存している磁石である。高飽和磁化の軟磁性相(α−Fe相)を含むことにより、高磁化がもたらされる。加えて、α−Fe相は本来軟磁性であり、保磁力は高くないが、硬磁性相(Nd−Fe−B相)との交換接合によって、高保磁力も備えたナノコンポジット磁石がもたらされる。
一般に、ナノコンポジット磁石において、NdFe14B相およびα−Fe相は、それぞれナノメートルオーダーの粒子として存在していることが求められる。例えば、NdFe14B相の粒子サイズは10〜300nm程度になっていることが好適である。これが300nmより大きくなると、単磁区ではなくなり、固有保磁力の低下を招くというような問題が発生するからである。一方、この粒子サイズが10nm程度までが小さくなると、NdFe14B相が磁気特性的には等方性を示しはじめる。したがって、通常、NdFe14B相の粒子サイズは10〜300nmに規制することが好ましい。
また、α−Fe相の粒子サイズは10〜50nm程度になっていることが好適である。これが10nmより小さい場合は、このα−Fe相は非磁性となってしまい、また50nmより大きい場合は、NdFe14B相の粒子との間での交換相互作用が劣化してしまいナノコンポジット磁石としての機能低下が起こるからである。通常、良好な交換相互作用の発現のためには、α−Fe相の粒子サイズは10〜20nmにすることが好ましい。
【0041】
このNdFe14B相を含んでなる磁性組織(ナノ結晶粒子またはナノコンポジット磁性組織)は以下の工程によって調製できる。
1)RFe(100−x−y−z)の組成を有する合金の溶湯を用意する工程、および
2)前記合金の溶湯を急冷してリボンを得る工程。
【0042】
まず工程1)について説明する。
ここでRは1種類、または2種類以上の希土類元素である。例えば、例えばNd,Pr,Gd,Tb,Dy,Ce,Pm,Sm,Eu,Ho,Er,Tm,Yb,Luの1種または2種以上を用いることができる。
TはGa,Zn,Si,Al,Nb,Zr,Ni,Cu,Cr,Hf,Mo,P,C,Mg,Hg,Ag,Au,Coよりなる1種類以上、および、不可避不純物である。合金材料であるため、微量の不純物が混入することは止むを得ないが、不純物量は少量であるほど好ましい。
また、組成式において、2≦x<14、1≦y<10、0≦z<5である。
Fe(100−x−y−z)の組成を有する合金を溶湯にするための溶融方式は、前記組成を有する合金の融点以上に加熱できるものであれば特に制限はない。例えば、溶融方式にはアークによる溶融、ヒーターによる溶融、高周波誘導加熱による溶融等がある。
【0043】
次いで工程2)について説明する。
この合金の溶湯を急冷してリボンを得るための方法として、メルトスピニング、アトマイジング、単ロール法等がある。ここでは単ロール炉を用いて説明をする。前記組成を有する合金インゴットを単ロール炉にセットし、高周波誘導加熱で溶融させた後、その溶融している合金を回転するロールに噴射して、ロール上で急冷し、急冷リボンを得る。前記合金の溶湯は、通常不活性ガス、例えばアルゴンや窒素を使用して、噴射ノズルから噴射される。溶湯温度、噴射圧力、噴射ノズル径等は適宜調整される。
【0044】
前記の急冷法を用いるにあたって、その種類、ロールの材質、ロールの大きさなどについては、特に限定されない。例えば、前記ロールとしては、Crメッキを施した銅製のロールを用いることが可能である。前記ロールの大きさは、製造スケールに応じて決定することが望ましい。
【0045】
この急冷して得られたリボンを焼結して焼結体を得る工程を加えてもよい。焼結工程には、公知の焼結磁石の製造方法に用いられる手段を採用することができる。磁石の焼結・熱処理設備として、小規模生産の場合はバッチ式の真空・雰囲気焼結炉、熱処理炉を利用することができる。バッチ式炉は同じチャンバー内で温度パターンに従って加熱・冷却することができる。焼結によって焼結体の密度を上昇することにより、(i)残留磁束密度Brが高くなる、(ii)機械強度が増大する、(iii)酸化などの腐食に強くなる、などの効果が生まれる。
【0046】
非磁性相について説明する。
非磁性相は、最終的に得られる磁石において、粒界相となり得るものである。粒界相は、NdFe14B相を含んでなる磁性組織の間に存在し、NdFe14B相を含んでなる磁性組織どうしを分離させるものである。粒界相の状況に応じて磁石の保磁力は変化しうる。例えば、NdFe14B相を含んでなる二つの磁性組織が粒界相を挟んで存在している場合、一方の磁性組織において磁化の変化があっても、粒界相の存在によって、他方の磁性組織にはその磁化の変化の影響は及びにくくなり、結果として保磁力が高まる。
【0047】
この粒界相を得るために、まず、工程(1)でNdFe14B相を含んでなる磁性組織に非磁性相を接触させる。次いで、工程(2)で非磁性相をその融点以上の温度まで加熱する。加熱された非磁性相は溶融する。次いで、工程(3)で、非磁性相を磁性組織に粒界拡散する。すなわち、溶融した非磁性相が、磁性組織との接触面から浸透して、磁性組織間に粒界相として拡散する。
【0048】
この方法で、非磁性相を磁性組織間に粒界拡散させると、偏在した粒界相を作ることなく、粒界相が磁性組織を均質に取り囲み、保磁力を向上させることができる。また、粒界相に偏在が無いことは、粒界相の量(磁石中の体積分率)を抑制することにつながり、ひいては磁性組織の量(磁石中の体積分率)を高くすることができ、磁石の高磁化がもたらされる。
【0049】
図1を用いて、非磁性相が拡散するイメージを説明する。図1の拡散前では、NdFe14B相を含んでなる磁性組織(主相)が多く、高磁化がもたらされている。粒界相も存在するが、その量は少なく、磁性組織(主相)どうしが接しているため、保磁力は高くない。この状態から、非磁性相(例えばNdCu)を粒界拡散させる。拡散させる非磁性相の量は、磁性組織(主相)の量(体積分率)を出来るだけ減らさず、且つ、非磁性相が粒界相として非磁性相が粒界相として磁性組織(主相)を十分に分断するように、適当に調整可能である。磁性相が粒界相として拡散した後では、粒界相が磁性組織(主相)を分断されている。その効果として、保磁力の向上がもたらされる。また、磁性組織の量(体積分率)を出来るだけ減らさないようにしたので、高磁化も保たれている。
【0050】
図2は、磁性組織が、α−Fe相も含むNdFeB/Feナノコンポジット磁性組織である場合の、非磁性相が拡散するイメージを示している。図2の拡散前(右下)では、NdFe14B相を含んでなる磁性組織(主相)とα−Fe相のみからなるNdFeB/Feナノコンポジット磁性組織が示されている。この状態から、非磁性相(例えばNdCu)を粒界拡散させる。非磁性相は、主相どうしの間、主相とα−Fe相の間、またはα−Fe相どうしの間に拡散しはじめ(図2の右中)、最終的には主相およびα−Fe相のそれぞれを分断する(図2の右上)。
この分断による効果について説明する。まず、主相どうしが分断されることにより、保磁力が向上する。加えて、主相およびα−Fe相も分断されるが、主相とα−Fe相との間の交換接合は保たれたままとすることが出来る。すなわち、ナノコンポジット磁石の特徴である、軟磁性相(α−Fe相)による高磁化の効果を保つことができる。つまり、分断された主相とα−Fe相との間の距離、すなわち粒界相の厚みを適当に調節することができ、ひいては主相とα−Fe相との間の交換接合が成立する範囲内に調節することができる。
【0051】
NdFeB/Feナノコンポジット磁性組織において、NdFeB/Fe間の交換接合が成立する距離は5nm〜10nm程度と言われており、NdFeB/Fe間に存在する粒界相(非磁性相)の厚みは10nm以下であることが好ましい。粒界相(非磁性相)の厚みが10nmを超えると、NdFeB/Fe間の交換接合が成立せず、高磁化が望めないからである。また、粒界相(非磁性相)の厚みは0.5nm以上であることが好ましい。粒界相(非磁性相)の厚みが0.5nm未満であると、NdFeB/NdFeB間の交換接合を切り、磁気的な分断性を十分に向上させることが望めないからである。
【0052】
非磁性相はR−Mの組成を有することができ、ここでRは1種類、または2種類以上の希土類元素、MはGa,Zn,Si,Al,Nb,Zr,Ni,Cu,Cr,Hf,Mo,P,C,Mg,Hg,Ag,Au,よりなる1種類以上である。
【0053】
これらのR−M組成物は概して融点が低く、700℃以下であってもよい。表1は、典型的なR−M組成物の融点を示したものである。
【0054】
【表1】

【0055】
工程(2)で非磁性相はその融点以上の温度まで加熱され、同時にNdFe14B相を含んでなる磁性相も加熱される。NdFe14B相を含んでなる磁性相は700℃を超える温度で加熱されると、粒子の粗大化を招き、固有保磁力の低下を招くことがある。本発明では、R−M組成物の融点が概して低いため、700℃を超えて加熱する必要がない。したがって、NdFe14B相を含んでなる磁性相の粗大化、ひいては固有保磁力の低下を防ぐことができる。
【0056】
また、非磁性相を前記磁性組織に粒界拡散させる時間は短時間でよい。粒界拡散させる時間は、磁性相や非磁性相の種類や性状(融点、粒径、密度等)等に応じて、適当に調整してもよい。例えば、粒界拡散させる時間の下限は10分以上、30分以上等であってもよく、粒界拡散させる時間の上限は30分以下、40分以下、50分以下、60分以下等であってもよい。拡散時間が短すぎると、例えば5分未満であると、粒界拡散が十分でなく、NdFe14B相を含んでなる磁性相を十分に分断することができず、ひいては高保磁力が得られないことがある。拡散時間が長すぎると、例えば60分超であると、粒子の粗大化を招き、固有保磁力の低下を招くことがある。
【0057】
非磁性相、R−MはNdCu合金であってもよい。その理由として以下が挙げられる。NdFe14B相を含んでなる磁性相の周りには、Ndを含有した粒界相が存在していることが多い。そのため、NdCu合金を粒界相として拡散した場合、既に存在しているNdを含有した粒界相との親和性が高い。また、NdCu合金の融点は520℃と低い。
【0058】
さらに、NdCu合金のNd含有率は調節することができる。その場合、NdCu合金におけるNd含有率は50at%以上、且つ82at%以下にすることができる。図3のNdCu状態図によれば、その範囲のNdCu合金は、融点が700℃以下であり、同時に加熱されるNdFe14B相(磁性相)の粗大化、ひいては固有保磁力の低下を防ぐことができる。
【0059】
粒界拡散される非磁性相の質量比率(磁性組織の質量を基準とする)は適当に調節することができる。非磁性相の質量比率の下限値は1wt%以上、2wt%以上、3wt%以上、5wt%以上、10wt%以上、20wt%以上等であってもよい。非磁性相の質量比率の上限値は、100wt%以下、80wt%以下、70wt%以下、60wt%以下、50wt%以下等としてもよい。非磁性相の質量比率が低すぎると、例えば1wt%未満では、粒界拡散が十分でなく、NdFe14B相を含んでなる磁性相を十分に分断することができず、ひいては高保磁力が得られないことがある。非磁性相の質量比率が高すぎると、例えば100wt%超では、NdFe14B相を含んでなる磁性相の質量比率が相対的に低く、高磁化が得られない。
【実施例】
【0060】
以下、本発明の実施例を示す。
【0061】
実施例1
(1)急冷リボン(磁性組織)の調製
Nd、Fe、B、Ga、AlおよびCuの原子数比が13.3:80.2:5.9:0.3:0.2:0.1の割合になるように原料を所定量秤量し、アーク溶解炉にて合金インゴットを作製した。次いで、表2に示す単ロール炉にて合金インゴットを高周波で溶解し、表2に示す単ロール炉使用条件で銅ロールに噴射し、Nd13.3Fe80.25.9Ga0.3Al0.2Cu0.1組成の急冷リボンを作製した。
【0062】
【表2】

【0063】
(2)非磁性相の粒界拡散
得られたNd13.3Fe80.25.9Ga0.3Al0.2Cu0.1急冷リボンを、NdCu粉末(Nd70Cu30(at%))とともに、加熱した。加熱は、図4の加熱経路に従って行った。図5に、急冷リボンとNdCu粉末を加熱する方法の概略を示している。加熱を通じて、NdCu粉末(非磁性相)が溶融し、急冷リボン(磁性組織)の中に粒界拡散し、実施例1の磁石を得た。
【0064】
(3)磁気特性評価、電子顕微鏡観察
得られた磁石を回収し、その磁気特性をVSM(Lake Shorc社製)で評価した。VSMとは、試料振動型磁力計(Vibrating Sample Magnetometer)のことであり、均一磁場中においた試料を一定の周波数・振幅で振動させ、試料近辺に配置した検出コイルに誘起される起電力をロックインアンプを用いて検出することにより、試料の磁化特性を測定する装置である。また、得られた磁石組織観察も、電子顕微鏡(SEMおよび/またはTEM)により実施した。
【0065】
(4)比較例1
実施例1と同様の急冷リボンを調製した。実施例1との相違は、NdCu粉末(非磁性相)の拡散は行わなかったことである。得られた急冷リボンについて、実施例1と同様に、磁気特性評価(VSM分析)、電子顕微鏡観察を実施した。
【0066】
(5)結果
・磁気特性評価(VSM分析)
実施例1および比較例1の磁気特性評価結果を図6および図7に示す。図6は、室温(25℃)における実施例1および比較例1で得た磁石の減磁曲線のグラフである。室温(25℃)における保磁力は、比較例1の非磁性相の拡散処理をしなかった磁石で16.7kOeだったが、実施例1の非磁性相の拡散処理をした磁石では23.3kOeまで増加した。図7は、実施例1および比較例1で得た磁石の保磁力の温度依存性を示したグラフである。室温(25℃)から170℃の範囲で、実施例1の磁石は、比較例1の磁石よりも高い保磁力を示した。
・電子顕微鏡観察
図8に、実施例1および比較例1の磁石のTEM像を示した。図8から、非磁性相(NdCu)の拡散前後の様子を観察することができる。拡散前は主相(NdFeB系磁性組織)どうしが直接結合している様子が多く観察された。一方、拡散後は数nm厚さの粒界相(NdCuリッチ相)が均質に主相界面に存在し、主相どうしを分断している様子が観察された。この分断性の向上により、保磁力が向上したと考えられる。
【0067】
実施例2
(1)急冷リボン(磁性組織)の調製
Nd、Fe、BおよびGaの原子数比が10.4:83.4:5.2:1.0の割合になるように原料を所定量秤量し、アーク溶解炉にて合金インゴットを作製した。次いで、表2に示す単ロール炉にて合金インゴットを高周波で溶解し、表2に示す単ロール炉使用条件で銅ロールに噴射し、Nd10.4Fe83.45.2Ga1.0組成の急冷リボンを作製した。
【0068】
(2)焼結体の調製
回収した急冷リボンから目視、磁選にて柱状晶組織化した急冷リボンの部分を除き、残部をビニールにつめて手で粉砕し、通電加熱焼結装置のカーボンダイスに充填した。次いで、表3の条件で焼結体を作製した。
【0069】
【表3】

【0070】
得られたNd10.4Fe83.45.2Ga1.0焼結体を回収し、所定寸法(およそ2x2x2mm)に切断した。
【0071】
(3)非磁性相の粒界拡散
切断したNd10.4Fe83.45.2Ga1.0焼結体を、NdCu粉末(Nd70Cu30(at%))とともに、加熱した。加熱は、図9の加熱経路に従って行った。図10に、焼結体とNdCu粉末を加熱する方法の概略を示している。加熱を通じて、NdCu粉末(非磁性相)が溶融し、焼結体(磁性組織)の中に粒界拡散し、実施例2の磁石を得た。
【0072】
(4)磁気特性評価、XRD分析、電子顕微鏡観察
得られた磁石を回収し、その磁気特性をVSM(Lake Shorc社製)で評価した。また、得られた磁石のXRD分析も行った。また、得られた磁石組織観察も、電子顕微鏡(SEMおよび/またはTEM)により実施した。
【0073】
(5)比較例2
実施例2と同様の焼結体を調製した。実施例2との相違は、NdCu粉末(非磁性相)の拡散は行わなかったことである。得られた比較例2の磁石について、実施例2と同様に、磁気特性評価(VSM分析)、XRD分析、電子顕微鏡観察を実施した。
【0074】
(6)結果
・磁気特性評価(VSM分析)
実施例2および比較例2の磁気特性評価結果を図11に示す。図11は、比較例2および実施例2で得た磁石、すなわち粒界相を拡散させる前とさせた後の磁石の減磁曲線のグラフである。拡散後の磁石(実施例2)は拡散前の磁石(比較例2)に比べ保磁力が向上した(5.17kOe→8.16kOe)。これは、非磁性相(NdCu)が粒界拡散し、主相(NdFeB/Fe系ナノコンポジット組織)間を効果的に分断したためと考えられる。
磁化に関して、実施例2および比較例2の間で残留磁化率(Mr/Ms)は変化しなかった。これは、非磁性相(NdCu)が硬磁性相(NdFeB系組織)と軟磁性相(Fe系組織)の間には存在しないか、または存在するとしても十分に薄く、軟磁性相(Fe系組織)の磁気スピンを支えられる程度の交換接合を保っていると考えられる。
・XRD分析
図12に、拡散後の磁石(実施例2)および拡散前の磁石(比較例2)のXRD測定結果を示す。拡散前に見られなかった結晶質のNdのピークが拡散後に観察された。すなわち、拡散後の磁石が、NdFeB系組織、Fe系組織、Ndリッチ相の3相組織を有することが分かった。
・電子顕微鏡観察
図13に、実施例2および比較例2の磁石のSEM像を示した。図13から、非磁性相(NdCu)の拡散前後の様子を観察することができる。拡散前はNdFeB系組織(灰色部)、Fe系組織(黒色部)の2相組織である様子が観察された。一方、拡散後は、Ndと考えられる粒界相(白色部)が確認された。
【0075】
実施例3
(1)急冷リボン(磁性組織)の調製
Nd、Fe、BおよびAlの原子数比が14.76:78.55:5.69:1.0の割合になるように原料を所定量秤量し、アーク溶解炉にて合金インゴットを作製した。次いで、表2に示す単ロール炉にて合金インゴットを高周波で溶解し、表2に示す単ロール炉使用条件で銅ロールに噴射し、Nd14.76Fe78.555.69Al1.0組成の急冷リボンを作製した。
【0076】
(2)非磁性相の粒界拡散(拡散時間の保磁力への影響)
得られたNd14.76Fe78.555.69Al1.0急冷リボンを、NdCu粉末(Nd70Cu30(at%))とともに、加熱した。加熱は、図14の加熱経路に従って行った。加熱時間を0〜60分の間で変化させたことを除けば、急冷リボンとNdCu粉末を加熱する方法は、実施例1と同様とした(図5を参照)。加熱を通じて、NdCu粉末(非磁性相)が溶融し、急冷リボン(磁性組織)の中に粒界拡散し、実施例3の磁石を得た。
【0077】
(3)磁気特性評価
得られた磁石を回収し、その磁気特性をVSM(Lake Shorc社製)で評価した。
【0078】
(4)比較例3
実施例3と同様の急冷リボンを調製した。実施例3との相違は、NdCu粉末(非磁性相)の拡散は行わなかったことである。すなわち、比較例3の磁石は、拡散時間0分の磁石である。得られた磁石(急冷リボン)について、実施例3と同様に、磁気特性評価(VSM分析)を実施した。
【0079】
(5)結果
・磁気特性評価(VSM分析)
実施例3および比較例3の磁気特性評価結果を図15および図16に示す。図15は、拡散時間を変化させたときの保磁力の変化率を示した。図15の保磁力の変化率に関して、拡散時間0分のものを基準、すなわち100%とした。非磁性相(NdCu)を拡散させる磁性組織が熱間塑性加工体(強加工体)である場合、非磁性相(NdCu)の拡散に60分程度の時間が必要と考えられていた。しかし、磁性組織が急冷リボンである場合、急冷リボンの厚みが薄く、20〜100μmであるため、非磁性相(NdCu)の拡散に要する時間は10分でもよいことが判明した。長時間の拡散(加熱)処理では、磁性組織の粗大化を招くおそれがあるが、このような短時間の拡散(加熱)処理によって粗大化が回避でき、このことは向上した保磁力の維持につながる。拡散時間が短い場合、例えば5分以下では、非磁性相(NdCu)が均質かつ十分に拡散することができず、すなわち磁性組織を均質かつ十分に分断できず、保磁力が向上しなかったと考えられる。
図16は、30分の拡散を行った実施例3の磁石と、拡散を行っていない比較例3の磁石の、減磁曲線のグラフである。非磁性相を30分拡散処理した実施例3の磁石の保磁力は、非磁性相の拡散処理をしなかった比較例3の磁石より、明らかに増加することが判明した。
【0080】
実施例4
(1)急冷リボン(磁性組織)の調製
Nd、Fe、およびBの原子数比が10.6:84.1:5.3の割合になるように原料を所定量秤量し、アーク溶解炉にて合金インゴットを作製した。次いで、表2に示す単ロール炉にて合金インゴットを高周波で溶解し、表2に示す単ロール炉使用条件で銅ロールに噴射し、Nd10.6Fe84.15.3組成の急冷リボンを作製した。
【0081】
(2)非磁性相の粒界拡散(拡散量の保磁力への影響)
得られたNd10.6Fe84.15.3急冷リボンを、Nd70Cu30(at%)組成の合金粉末とともに、550℃で0.5時間加熱した。加熱は、図17の加熱経路に従って行った。NdCu粉末の量を変化させたことを除けば、焼結体とNdCu粉末を加熱する方法は、実施例1と同様とした(図5参照)。NdCu粉末の量は、焼結体(磁性体)の質量を基準として、1wt%から50wt%まで変化させた。加熱を通じて、NdCu粉末(非磁性相)が溶融し、焼結体(磁性組織)の中に粒界拡散し、実施例4の磁石を得た。
【0082】
(3)磁気特性評価、電子顕微鏡観察
得られた磁石を回収し、その磁気特性をVSM(Lake Shorc社製)で評価した。また、得られた磁石組織観察も、電子顕微鏡(SEMおよび/またはTEM)により実施した。
【0083】
(4)比較例4
実施例4と同様の焼結体を調製した。実施例4との相違は、NdCu粉末(非磁性相)の量を1wt%から50wt%の範囲外としたことである。得られた比較例4の磁石について、実施例4と同様に、磁気特性評価(VSM分析)、電子顕微鏡観察を実施した。
【0084】
(5)結果
・磁気特性評価(VSM分析)/電子顕微鏡観察
実施例4および比較例4の磁気特性評価結果を図18、図19に示す。図18は、比較例4および実施例4で得た磁石、すなわち非磁性相(NdCu)の量を変化させた磁石の減磁曲線のグラフである。非磁性相(NdCu)の量の増加とともに、保磁力も向上した。図19に、非磁性相(NdCu)の量と保磁力のグラフを示す。しかしながら、非磁性相(NdCu)の量が100wt%以上では、減磁曲線が階段状になってしまった(図18参照)。これに関して、図20は、非磁性相(NdCu)の量が200wt%の磁石についてのSEM観察結果である。図20から、ナノコンポジット組成の急冷リボン組織(磁性組織)が、拡散させたNdCu合金に遊離している様子が観察される。これにより、階段状の特異な減磁曲線が現れたものと考えられる。また、非磁性相(NdCu)の量が多くなると、相対的に磁性相の量が少なくなり、磁化が低下する。これらの点を考慮して、非磁性相(NdCu)の量は、50wt%以下としてもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
NdFe14B相を含んでなる磁性組織に非磁性相を接触させる工程、
前記非磁性相をその融点以上の温度まで加熱する工程、および
前記非磁性相を前記磁性組織に粒界拡散させる工程を含んでなり、
ここで前記NdFe14B相を含んでなる磁性組織の少なくとも一部は、粒子径が10〜300nmのナノ結晶粒子である、磁石の製造方法。
【請求項2】
前記NdFe14B相を含んでなる磁性組織が、α−Fe相をさらに含んでなるNdFeB/Feナノコンポジット磁性組織である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
RxFe(100−x−y−z)ByTzの組成を有し、ここでRは1種類、または2種類以上の希土類元素、TはGa,Zn,Si,Al,Nb,Zr,Ni,Cu,Cr,Hf,Mo,P,C,Mg,Hg,Ag,Au,Coよりなる1種類以上、および、不可避不純物、2≦x<14、1≦y<10、0≦z<5である、合金の溶湯を用意する工程、および
前記合金の溶湯を急冷してリボンを得る工程、
により前記NdFe14B相を含んでなる磁性組織が調製される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記リボンを焼結して焼結体を得る工程、をさらに含んでなる請求項3に記載の方法。
【請求項5】
粒界拡散された前記非磁性相の厚みが10nm以下である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記非磁性相がR−Mの組成を有し、ここでRは1種類、または2種類以上の希土類元素、MはGa,Zn,Si,Al,Nb,Zr,Ni,Cu,Cr,Hf,Mo,P,C,Mg,Hg,Ag,Au,よりなる1種類以上である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記非磁性相の融点が700℃以下である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記非磁性相を前記磁性組織に粒界拡散させる時間が10分以上、60分以下である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記非磁性相はNdCu合金である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記非磁性相はNdCu合金において、Nd含有率が50at%以上且つ82at%以下である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記磁性組織の質量を基準として、前記非磁性相は1wt%以上且つ50wt%以下の割合で粒界拡散される、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。

【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図11】
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【図12】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図8】
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【図10】
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【図13】
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【図20】
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【公開番号】特開2012−234985(P2012−234985A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−102911(P2011−102911)
【出願日】平成23年5月2日(2011.5.2)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】