説明

高充填材入り射出成形用ポリアリールエーテルケトン

【課題】PBIの代わりに普通の安価な充填材を用いる、高温での最高の可能な寸法安定性を示しつつ、押出および射出成形機で加工できる範囲の加工溶融粘度をも示すPEEK複合材料の提供。
【解決手段】ポリアリールエーテルケトンマトリックスに2種類の充填材を含める。第一充填材は、高い強度および剛性を与える強化用繊維充填材である。第二充填材は、部分結晶性ポリアリールエーテルケトンポリマーの非晶質部分を不動化しそして耐高温撓み性を与える非熱可塑性不動化用充填材である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形用熱可塑性樹脂、特に、エンジニアリングプラスチックとして用いるのに適した高充填材入り射出成形用ポリアリールエーテルケトンに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアリールエーテルケトンポリマーは、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルエーテルケトンケトン(PEEKK)、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン(PEKEKK)およびポリエーテルケトンケトン(PEKK)を含めた多数の近縁のポリマーを含んで成る。これらポリマーは成形可能であり、したがって、容易に有効部材に成形される。それらは、高温で優れた長期酸化安定性を示す(“Thermoplastic Aromatic Polyetherketones” に関する1982年3月16日発行の米国特許第4,320,224号(特許文献1)を参照されたい)。ポリアリールエーテルケトンの内、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)は広く商業的に入手可能であり、しかも優れた熱可塑性成形用樹脂であることが判っている。周囲温度でPEEKは、結晶性および非晶質相を有する固体として存在する。その非晶質相は、52〜70%のポリマーを含み、非晶質相のガラス転移温度Tgに相当する約143℃〜155℃の温度で軟化する。
【0003】
残りの48〜30%のポリマーは、約335℃までの融点Tmの結晶性相として存在し、非晶質相中に分散している。そのポリマーは、Tgを越えて加熱された場合に軟化し、そしてTmを越える温度で融解する。PEEKのような部分結晶性ポリマーの無充填銘柄は、生じる軟化が、ポリマーの機械的性質、特に、剛性(すなわち、弾性率)の急激な減少をもたらすので、それらのTgをはるかに越える温度で成形される部材成形品において有用でない。この低下した剛性は、Tgを越える温度での応力下の減少した寸法安定性に反映される。
【0004】
成形品は、クリープ過程を経て、そして一時的にまたは永久に変形した状態になるであろう。完全に非晶質のPEEK相の熱容量は、非晶質相中の運動が熱的に活性化するにつれて、PEEKガラス転移温度Tgでの最大量[78J/(K*モル)]まで増加する。ガラス転移温度で可動する非晶質相のその部分を“可動非晶質相”と称する。しかしながら、観察される実際の熱容量増加は、最大値未満でありうるということが注目されてきた(B.Wunderlichら,Macromolecules(1986),19,1868-1876)。実際の増加は、加工歴並びにやはり存在する結晶性相の量および形態に依る。Tgでの最大量未満の増加は、ポリマー運動が、Tgを越えるにつれてほとんど熱的に活性でなくなることを示す。実熱容量増加と最大増加との間の差の大きさは“剛性非晶質相”と称される相の存在および量を示している。この相は、Tgを充分に越える温度まで剛性のままであり、そしてその温度が結晶融解温度付近まで上昇すると遂には融解する。同様に、以下に開示される発明において、剛性非晶質相は、部分結晶性PEEK材料中の非晶質相および結晶性相の界面で不動化された非晶質相ポリマーから形成されると考えられる。
【0005】
実用的な尺度は、ポリマーが有用な機械的性質を保持する最大温度を特性決定するために開発されてきた。広く用いられる例は、“加熱撓み温度”(HDT)または“荷重撓み温度”(DTUL)試験である。ポリマーまたはポリマー複合材料のHDTは、試験体が一定の荷重(264psi)で曲り始める温度である。無充填PEEKのHDTは、そのTgを越えて生じる軟化のために、比較的低い(160℃)。したがって、無充填PEEKは、たとえそれが更に高い温度およびはるかに高い結晶融解温度で長期酸化安定性を示すとしても、約160℃を越える使用温度を必要とする成形部材用途には考えられない。したがって、PEEKは、その低い熱−機械的安定性を向上させることができるならば、より高温度で有用であろう。
【0006】
PEEKなどの部分結晶性ポリマーのHDTは、充填材料、特に、強化用繊維充填材を組み込むことによって上昇させうることが周知である。例えば、10〜30重量%(容量基準で5〜17%に相当する)の短ガラス繊維を含有するPEEK銘柄は、次のような増加したHTDを示す。
【0007】
【表1】

【0008】
ガラスまたは炭素繊維充填材を有するPEEK銘柄は商業的に入手可能である(例えば、Victrex PEEK、150GL130銘柄は、30重量%のチョップトガラス繊維を充填したPEEK複合材料である)。
【0009】
HDTは、ポリマー剛性の比較的大ざっぱな尺度である。より厳密な試験は、単純なガラスまたは炭素繊維充填PEEK複合材料が、Tgを越える温度でなお剛性減少度を変化させることを示す。若干の臨界的用途には、成形品が、高温での応力下で最高の寸法安定性を示すことが望まれる。これらの用途については、より大きい剛性は、より敏感な試験が示す組成物の剛性または弾性率の点から有用な性質である。
【0010】
ポリマーおよびその複合材料の剛性または寸法安定性は、ポリマーおよびそれが含む充填材の弾性率Eの関数である。剛性材料、つまり高弾性率を有する材料は、応力が加えられた場合、小さい寸法変化(歪)しか示さない。これは、式1の関係によって定義される。
【0011】
【数1】

【0012】
短時間(瞬間)で生じる歪、つまり小振幅応力は、その応力が除かれた場合に元の部材寸法が回復するので弾性(εo と表示される弾性歪)であるといわれる。
ポリマーおよびポリマー複合材料において、応力を長時間加えた場合に生じる歪は、もう一つの成分、つまり加えた応力が除かれた場合に回復しない永久変形またはクリープ成分(εt)を有することがある。式1は、歪の塑性流成分を含むように修正することができる。
【0013】
【数2】

【0014】
式中、εt は、ポリマーまたは複合材料の見掛けの弾性率であり、σtは時間をかけて加えた応力である。材料の見掛けの弾性率Ea は、継続して加えた応力が、主としてポリマー中の塑性流によってますます大きい歪を生じるにつれて時間と共に減少する。
【0015】
クリープ成分εt および、加えた応力によって生じるであろうその経時変化は、式2の再配列によってEaおよびσt から見積もることができる。
【0016】
【数3】

【0017】
例えば、時間tで1GPaの弾性率Ea を示す材料は、次の式により、1000psiの加えた応力下において0.7%の歪(εo+εt)を示す。
【0018】
【数4】

【0019】
加えた応力によって生じる弾性歪およびクリープは、高弾性率を有する材料で最小になる。本発明の目的は、加えた応力下でより大きい寸法安定性を示す向上した弾性率を有するポリマー複合材料を提供することである。
【0020】
ポリマーおよびポリマー複合材料の寸法安定性は、これら複合材料中のポリマーマトリックスの剛性が高温でより低いので、高温でより低い(クリープはより高い)。しかしながら、本発明の技術を用いて複合材料に設計することができるより大きい高温弾性率のために、高温でより大きい寸法安定性を有するポリマー複合材料を配合することは可能である。
【0021】
ポリマー複合材料の高温での弾性率は、例えば次の一つまたはそれ以上の方法によって特性決定することができる。
・約350℃までの温度にわたる貯蔵弾性率E'の動的機械分析(DMA)走査。
【0022】
・対照温度(PEEK複合材料の場合300℃)での見掛けの曲げ弾性率Ea およびクリープ(εo+εt)を見積もるための時間/温度並置分析と連結された、一連の温度にわたる見掛けの曲げ弾性率Eaの短時間DMA測定。
【0023】
・高温(PEEK複合材料については、500、600および650℃)のオーブン中での試験における曲げ弾性率Ea およびクリープ(εo+εt)の長時間直接測定。
充填材入りポリマー部材は、配合、溶融押出および成形を含む簡単な3段階工程で経済的に製造することができる。配合では、乾燥充填材およびポリマー粉末を充分に混合する。溶融押出では、粉末配合物を溶融させ、そして更に、押出スクリューの作用によって混合して混練し、そしてオリフィスを通って押出機を出る際にストランドに成形される。押出されたストランドは、種々の手段によって冷却され、そして成形機に供給して用いるのに好都合な寸法に切断することができる。様々な成形法が実施されるが、この方法についての高い生産性のために、射出成形はこれらの内で商業的に最も重要である。射出成形では、押出機から押出されたペレットを射出成形機の押出機部分で再溶融させて金型中に押込み、そこでその溶融物を冷却して凝固させる。
【0024】
ポリマー複合材料の溶融粘度は、押出および成形を成功させる重要な決定要因である。ポリマーおよびポリマー複合材料の溶融粘度は、細管溶融粘度計で測定することができる。標準的な広く利用可能な押出機および射出成形装置による溶融加工のために、充填材入りポリマー複合材料は、達成しうる溶融温度で約2000〜15,000ポアズの溶融粘度を有するべきである。より低い粘度は、垂れ落ちおよびフラッシングの問題をもたらす。より高い粘度は、大部分の市販装置で利用可能な出力、圧力および金属学を用いて取扱うことができない。
【0025】
簡単な充填材入りポリマー複合材料は、約30重量%の充填量で溶融加工性の限界に近づく溶融粘度を有する。これは、最も商業的に入手可能な充填材入り樹脂での充填限界である。更に多量の充填材の添加は、その複合材料を、射出成形などの慣用的な大量成形技術によって作業できないほど剛性にさせる。複合材料が特殊な成形技術でしか取扱いできない場合、その費用は実用的でなくなる。
【0026】
本発明は、高温での最高の可能な寸法安定性を示しつつ、押出および射出成形機で加工できる範囲の加工溶融粘度をも示すPEEK複合材料の製造に向けられている。向上した寸法安定性は、本発明のこれら複合材料の高HDT、高温での高曲げ弾性率、高温での高貯蔵弾性率および低クリープで観察される。
【0027】
上記のように、無充填PEEKは、結晶性相および非晶質相成分を有するポリマーである。無充填PEEKを冷却すると、PEEK微結晶が非晶質PEEKのマトリックス中で生成する。充填材粒子が存在する場合、それらはポリマーの非晶質相で見出され、結晶性相中にはたとえあるとしても極めて希である。これは、充填材入りPEEK複合材料が凍結するまで冷却した場合、充填材粒子間に存在する溶融ポリマーからPEEK微結晶が形成するために起こる。微結晶は成長しないし充填材粒子を包含しない。(若干の充填材粒子は微結晶形成の核になることができ、充填材粒子表面から結晶が成長するようである。)
本発明の複合材料は、PEEK非晶質相の大部分が、結晶性相との結合だけでなく、充填材粒子上への吸着によっても不動化されるために、それらの向上した寸法/熱安定性を示すと考えられる。充填材粒子は、剛性非晶質相の形成のための更に別の不動化面を提供する。
【0028】
無充填PEEKについては、形成しうる剛性非晶質相の量は、存在する結晶化度によって制限される。
充填材入りPEEK検体については、形成しうる剛性非晶質相の量は、存在する充填材粒子の量および形態によって並びにPEEK微結晶によって決定される。これら充填材入りPEEK複合材料から成形される造形品は、より多くの非晶質相が、その非晶質相のTgで軟化しない剛性非晶質材料として存在するために、PEEKのTgを越える温度でより大きい寸法安定性を示す。充填材粒子およびPEEK微結晶は両方とも非晶質相PEEKによって取り囲まれている。充填材入り複合材料の熱機械的性質は、この非晶質相のTgによって制限される。しかしながら、無充填PEEKとは対照的に、充填材入りPEEK複合材料中の非晶質相は、充填材粒子に極めて接近していて、そして非特定的で物理的な(ファン・デル・ワールス)相互作用によってその表面上に吸着できる。この吸着は、ポリマーの移動度を減少させる。したがって、充填材への(およびPEEK微結晶への)ポリマーの吸着は、そのポリマーを剛性にし且つその寸法安定性を増加させる。結果として、充填材入りPEEK複合材料は、無充填PEEKより高い温度で軟化する。本発明の高充填材入りPEEK複合材料は、結晶性相の融解温度である335℃に近い極めて高いHDTを示す。一般的に入手可能な充填材入りPEEK中の充填材含有率によって与えられる表面積の量は、30(重量)%の充填量でも、非晶質PEEKを完全に不動化するのに充分ではないので、本発明のPEEK複合材料中の高充填材含有率の利点を全て与える訳ではない。等割の(equiaxed)または繊維状の充填材の含有率の単純な増加は、脆いかまたは加工不能な組成物をもたらすので、有効ではないであろう。
【0029】
より最近になって、ポリアリールエーテルケトンおよび他のポリマー中のポリベンズイミダゾール(PBI)の複合材料が記載されている(米国特許第5,070,153号(特許文献2);および同第5,139,862号(特許文献3)を参照されたい)。PBIおよび固体潤滑性充填材を含む高充填材入りPEEK複合材料が記載されている(米国特許第5,391,605号(特許文献4))。最後に、PBIおよびガラスまたは炭素繊維充填材を含む高充填材入りの加工可能なPEEK複合材料が記載されている(米国特許第4,912,176号(特許文献5)および1992年5月15日出願の“Reinforced Injection Moldable Blends”と題する米国特許出願第07/883,838号(特許文献6))。しかしながら、PBIは高価なポリマーである(1ポンド当たり50.00ドル〜75ドル(1994〜5年))。
【特許文献1】米国特許第4,320,224号
【特許文献2】米国特許第5,070,153号
【特許文献3】米国特許第5,139,862号
【特許文献4】米国特許第5,391,605号
【特許文献5】米国特許第4,912,176号
【特許文献6】米国特許出願第07/883,838号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0030】
PBIは、高温で圧縮成形することができるという意味で熱可塑性ポリマーである。概して、それは、普通の充填材が与えない特別な利点をそれが与えるのでなければ、充填材としての用途には考えられない。本発明の目的は、PBIの代わりに普通の安価な充填材を用いうることを示すことである。むしろ、本発明は、以下に詳細に記載される安価な非熱可塑性充填材を用いる。
【課題を解決するための手段】
【0031】
本発明は、広く入手可能な充填材入りPEEKの限界および高充填材入りPBI含有PEEK複合材料の高費用を克服し、同時に、標準的な押出および射出成形装置で加工できる複合材料を提供する。本発明の高充填材入りポリマー複合材料は、そのマトリックスポリマーのガラス転移温度を越える温度で高い寸法安定性を示す。この複合材料の加熱撓み温度は、マトリックスポリマーの結晶融解温度のそれに近づき、それを越えて更に増加することはありえない。この複合材料は、ポリアリールエーテルケトンマトリックスおよびそれぞれ独特の性質を与える2種類の充填材を包含する。第一充填材は、高い強度および剛性を与える強化用繊維充填材である。第二充填材は、部分結晶性ポリアリールエーテルケトンポリマーの非晶質部分を不動化しそして耐高温撓み性を与える非熱可塑性不動化用充填材である。この改良された機械的性質および耐熱性にもかかわらず、その複合材料はなお射出成形できるし、したがって、低費用で製造することができる。この改良された複合材料はまた、PEEKの剛性および強度を上昇させ且つクリープを減少させる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
本発明の充填材入り複合材料のマトリックスとして用いられるポリマーは、次の一般式を有するポリアリールエーテルケトンである。
【0033】
【化1】

【0034】
式中、X、YおよびNは整数である。典型的なポリアリーレンケトンは、次の反復単位を有するポリエーテルケトンである。
【0035】
【化2】

【0036】
次の反復単位を有するポリエーテルエーテルケトンもまた、ポリエーテルケトンの性質と類似の性質を有する結晶性熱可塑性樹脂である。
【0037】
【化3】

【0038】
第三の典型的なポリアリーレンケトンは、次の反復単位を有するポリエーテルエーテルケトンケトンである。
【0039】
【化4】

【0040】
第四の典型的なポリアリーレンケトンは、次の反復単位を有するポリエーテルケトンケトンである。
【0041】
【化5】

【0042】
本発明は、先行技術のポリアリールエーテルケトン複合材料の1種類の充填材(例えば、ガラス繊維)を、強化用繊維および非熱可塑性不動化用充填材で置き換えて、高温での最大性能を提供する。実際に、その加熱撓み温度は、絶対限界である結晶融解温度から数度の範囲内まで上昇することができる。これは、射出成形などの安価な成形法によって材料を成形する能力を保持しながら達成される。その材料が適用される用途に必要ならば、その複合材料に潤滑剤を加えることができる。
【0043】
本発明は、少なくとも2種類の充填材と一緒に形成される高充填材入りポリアリールエーテルケトン複合材料を提供する。そのタイプは次のように定義される。
タイプ(a):強化用繊維充填材。強化用充填材の主な機能は、その複合材料を強化することである。強化用繊維充填材は、チョップトガラスおよびチョップト炭素繊維充填材を最も優先的に含む種々の広く利用可能な繊維状充填材から選択することができる。これら充填材は、典型的に、5〜15マイクロメートルの範囲の繊維直径および1/16、1/8、1/4インチの初期長さを有する。(強化用繊維の長さは、しばしば、配合および成形の剪断によって200〜500マイクロメートル範囲の長さまで減少する。)それらの長さのために、これら繊維充填材は、その溶融複合材料が標準的な溶融加工装置には粘稠すぎるので、約30重量%(17容量%)を越える量で容易に組み入れられることはできない。
【0044】
タイプ(b):非熱可塑性不動化用充填材:不動化用充填材の機能は、複合材料の溶融粘度を比例して増加させることなく複合材料に追加の表面積または容積を提供することである。不動化用充填材は、等割状、小板状または繊維状(ホイスカー)形状を含めた様々な形態を有することができる。不動化用充填材は、強化用充填材粒子を充分に包むように選択される。充分に包む組合せは、最低の溶融粘度を示すので、良好な溶融加工性を保持している。
【0045】
強化用および不動化用充填材の組合せによって、充填材粒子で占められた複合材料の容積部分を実質的に増加させることができる。
強化用充填材は、通常用いられる量(典型的に、15〜20容量%)まで用いることができる。更に、不動化用充填材は、30〜45容量%の量で加えることができる。45〜65容量%の全充填材含有率は、加工可能な溶融粘度を越えることなく可能である。
【0046】
例外的に小さい粒子(すなわち、マイクロメール未満の平均粒径)を含む充填材は大きい表面積(典型的に、>20m2/g)を有し、それは、それらが与える高PEEK不動化表面によって複合材料を剛性にする。この追加のPEEK不動化表面は、非晶質PEEK成分がより完全に吸着されて剛性になるのを確実にする。
【0047】
比較的大きい高弾性率粒子(すなわち、50〜200マイクロメートル粒径)に基づく充填材は、適度な粒子表面積(典型的に、1〜20m2/g)を有する。これらは、次の二つのメカニズムによってその複合材料を剛性にする。(1)それらが与える適度な追加表面は、PEEK不動化メカニズムによって適度な剛性をもたらす、および(2)大部分の高弾性率の無機充填材が示す、PEEKおよび他のポリマーと比較して高い剛性は、容積部分基準でのそれらの含有率に比例して複合材料剛性の一因となる。
【0048】
非熱可塑性不動化用充填材は、等割状、小板状または繊維状形態を有する広範囲の材料から選択することができる。例として、次のものが含まれる。
等割粒子:炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、シリカ、アルミナ、窒化アルミニウム、ホウ砂、活性炭、パーライト、テレフタル酸亜鉛、バッキー(Bucky)ボール等。
【0049】
小板状粒子:グラファイト、タルク、雲母、合成ヘクトライト、炭化ケイ素小板、(注記:溶融物由来PBI熱可塑性粒子は粗い小板形である)。
ホイスカー状粒子:ウォラストナイト、テレフタル酸カルシウム[Ca(H484)]、炭化ケイ素ホイスカー、ホウ酸アルミニウムホイスカー、フラレンチューブ(fullerene tubes)。(種々の石綿繊維を用いうるが、吸入毒性が提起されている)。
【0050】
本複合材料はまた、第三の充填材タイプを含み、それは、更に別の性質を与えるように提供される。少量の充填材の添加によって増強しうる性質には、潤滑性、耐摩耗性、導電性、熱伝導性、増大した摩耗性が含まれる。適当な潤滑性充填材は、結晶性グラファイト、窒化ホウ素および二硫化モリブデンである。
【0051】
次の表1および2は、商業的に入手可能な無充填PEEK(コードA)および充填材入りPEEK(コードB)と比較して、本発明によって配合された多数の典型的な組成物(コードC〜K)を示す。比較のために更に包含されるのは、熱可塑性PBIを不動化用充填材として用いる組成物(コードL)である。表から判るように、多数の組成物は、充填材入りPEEKのHDTより10〜20℃大きいHDTを有し、より安価な費用でより高い強度を有し、また更に、組成物から製品を射出成形するのを可能にする8500ポアズ未満の溶融粘度を保持し、それは、製造費用を有意に減少させる。比較すると、PBI充填PEEK複合材料は、高HDTを有すると同時に、比較的高い溶融粘度を有し且つ高コストである。製造される製品に必要な物性を与えるように組成を変動させ得ることは理解される。
【0052】
次の非制限実施例は、本発明のいくつかの態様を例証する。しかしながら、これら実施例は、単に例証するためのものであり、本発明の範囲は、本明細書中で例証された態様に制限されないし、本発明の範囲は、請求の範囲に包含されるそのままの内容を包含する。
【0053】
【表2】

【0054】
【表3】

【0055】
本発明の複合材料の改良された物性を図1で更に図示するが、それは、動的機械分析(DMA)に基づいている。組成物コードF、G、LおよびBのいくつかのDMA走査(貯蔵弾性率E'vs温度)を図1のプロットで重ね合わせて、抽出することができる情報を図示する。コードFおよびGは、本発明によって配合された複合材料であり、コードBは市販の充填材入りPEEKであり、そしてコードLはPBI充填PEEKである。それぞれの曲線は、棒形成形品のPEEK複合材料の貯蔵弾性率E'の温度に対するプロットである。これら複合材料は、低温および高温両方で剛性が異なる。
【0056】
150℃未満の温度で、それぞれの複合材料は、比較的高いE'、典型的には、5GPaまたはそれ以上を示す。150℃を越える温度で、これら複合材料は更に低い弾性率、典型的には、5GPa未満を示す。E'の下降は、PEEKのTg付近の温度で起こり、そしてPEEK非晶質成分がガラス転移温度を越える温度で獲得する増加した移動度に反映する。寸法安定性およびクリープ抵抗に関しては、材料が、マトリックスポリマーのTgを越える温度でその低温弾性率の有意な部分を保持していることが必要である。図1は、PEEKのような部分結晶性ポリマー中の充填材の量およびタイプが、ポリマー複合材料の弾性率に関して、ポリマーのTgを越えてもそれ未満でも有意な影響力を持ちうることを示している。
【0057】
本発明のPEEK複合材料(コードFおよびG)において、150℃を越える温度での弾性率の下降は、高濃度の充填材の組合せの使用によって最小になる。これら複合材料の温度の関数としての貯蔵弾性率のDMA走査は、これら複合材料が示すであろう寸法安定性を予測するのに用いることができる。この情報は、単一の温度での貯蔵弾性率を報告することによって要約することができる。PEEK複合材料については、300℃が選択されが、それは、この範囲の温度に対して本発明の複合材料が有用な寸法安定性を示すからである。
【0058】
本発明による組成物は、何等かの適当な手段によって、典型的には、押出機中での溶融ブレンディングによって製造することができる。概して、本発明の組成物は、マトリックスポリマーのTm の20℃以内のHDT(264psi)を示すが、15℃以内が好ましく、そして結晶の融点の10℃以内がより一層好ましい。概して、少なくとも40容量%の繊維および充填材を用いるが、高温寸法安定性は、極めて結晶性のポリアリールエーテルケトン中に15容量%程度の少量で達成することができる。50容量%またはそれ以上の充填材は、組成物の溶融粘度が高くなりすぎない、すなわち、430℃において1000秒-1で約10,000ポアズ未満である限りは用いることができ、これらの条件で7500ポアズ未満が好ましい。典型的には、本発明の組成物は、25容量%未満の繊維充填材を含み、21容量%未満程度が好ましい。
【0059】
本発明をここにおいて、現在最も好ましいと考えられるものおよびその典型的な態様で記載してきたが、当業者は、それについて多数の変更を行いうることを理解できる。その変更は、同等の方法および製品を全て包含するように、請求の範囲の最も広い範囲に一致するであろう。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】貯蔵弾性率vs温度のDMA走査の複合グラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
改良された強度および耐加熱撓み性を有する射出成形品であって、
・部分結晶性および部分非晶質ポリアリールエーテルケトンポリマー、
・該成形品に強度および剛性を与えるための、チョップトガラスまたはチョップト炭素繊維から選択される強化用繊維であって、前記強化用繊維が該製品の25容量%未満を構成する強化用繊維、
・該ポリアリールエーテルケトンポリマーの非晶質部分を不動化するための非熱可塑性不動化用充填材であって、等割材料および小板状材料からなる群から選択される充填剤、
・該成形品の少なくとも40容量%を形成し且つ該成形品の18.56kg/cm2での加熱撓み温度を該ポリアリールエーテルケトンポリマーの結晶融解温度の20℃以内まで上昇させる前記強化用繊維および前記不動化用充填材
を含む、430℃において1000秒-1で10,000未満の溶融粘度を有する均一混合物から製造された成形品。
【請求項2】
ポリアリールエーテルケトンが、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン、ポリエーテルエーテルケトンケトンおよびポリエーテルケトンケトンから成る群より選択される請求項1に記載の成形品。
【請求項3】
該強化用繊維が、200マイクロメートル〜1/4インチ(6,350マイクロメートル)の範囲の長さである請求項1に記載の成形品。
【請求項4】
該不動化用充填材が、グラファイト、タルク、雲母、合成ヘクトライト、炭化ケイ素およびテレフタル酸カルシウムから成る群より選択される請求項1に記載の成形品。
【請求項5】
該不動化用充填材が200μm以下の寸法を有する請求項1に記載の成形品。
【請求項6】
固体潤滑性充填材を更に含む請求項1に記載の成形品。
【請求項7】
該固体潤滑剤が、グラファイト粉末、二硫化モリブデンおよび窒化ホウ素から成る群より選択される請求項6に記載の成形品。
【請求項8】
該強化用繊維および該不動化用充填材の容積百分率が40〜60%である請求項1に記載の成形品。
【請求項9】
改良された強度および耐加熱撓み性を有する射出成形品であって、
・部分結晶性および部分非晶質ポリアリールエーテルケトンポリマー、
・該成形品に強度および剛性を与えるための、チョップトガラスまたはチョップト炭素繊維から選択される強化用繊維であって、前記強化用繊維が該製品の25容量%未満を構成する強化用繊維、
・該ポリアリールエーテルケトンポリマーの非晶質部分を不動化するための小板状不動化用充填材であって、グラファイト、タルク、雲母、合成ヘクトライト、炭化ケイ素および溶融物由来ポリベンズイミダゾール熱可塑性粒子から成る群より選択される充填剤、および
・該成形品の少なくとも40容量%を形成し且つ該成形品の18.56kg/cm2での加熱撓み温度を該ポリアリールエーテルケトンポリマーの結晶融解温度の20℃以内まで上昇させる前記強化用繊維および前記不動化用充填材
を含む、430℃において1000秒-1で10,000未満の溶融粘度を有する均一混合物から製造された成形品。
【請求項10】
該強化用繊維が、200マイクロメートル〜1/4インチ(6,350マイクロメートル)の範囲の長さである請求項9に記載の成形品。
【請求項11】
改良された強度および耐加熱撓み性を有する製品を成形するためのポリマー複合材料であって、
・部分結晶性および部分非晶質ポリアリールエーテルケトンポリマー、
・該成形品に強度および剛性を与えるための強化用繊維であって、ガラス繊維である強化用繊維充填材、
・ポリアリールエーテルケトンポリマーの非晶質部分を不動化して、高温で追加の剛性および依存的寸法安定性を与えるための非熱可塑性不動化用充填材であって、等割粒子、小板状粒子またはホイスカー状粒子であり、ここにおいて、炭酸カルシウム、シリカ、ホウ砂、パーライト、タルク、雲母、合成ヘクトライト、ウォラストナイト、テレフタル酸カルシウム、およびそれらの組合せからなる群から選択される充填剤、
・該複合材料の少なくとも40容量%を形成し且つ該成形品の18.56kg/cm2での加熱撓み温度を該ポリアリールエーテルケトンポリマーの結晶融解温度の20℃以内まで上昇させる前記強化用繊維および前記不動化用充填材
を含むポリマー複合材料。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
改良された強度および耐加熱撓み性を有する射出成形品であって、
・部分結晶性および部分非晶質ポリアリールエーテルケトンポリマー、
・該成形品に強度および剛性を与えるための、チョップトガラスまたはチョップト炭素繊維から選択される強化用繊維であって、前記強化用繊維が該成形品の25容量%未満を構成する強化用繊維、
・該ポリアリールエーテルケトンポリマーの非晶質部分を不動化するための非熱可塑性不動化用充填材であって、等割材料および小板状材料からなる群から選択される充填剤、
・該成形品の少なくとも40容量%を形成し且つ該成形品の18.56kg/cm2(264psi)での加熱撓み温度を該ポリアリールエーテルケトンポリマーの結晶融解温度の20℃以内まで上昇させる前記強化用繊維および前記不動化用充填材
を含む、430℃において1000秒-1で10,000未満の溶融粘度を有する均一混合物から製造された成形品。
【請求項2】
ポリアリールエーテルケトンが、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン、ポリエーテルエーテルケトンケトンおよびポリエーテルケトンケトンから成る群より選択される請求項1に記載の成形品。
【請求項3】
該強化用繊維が、200マイクロメートル〜1/4インチ(6,350マイクロメートル)の範囲の長さである請求項1に記載の成形品。
【請求項4】
該不動化用充填材が、グラファイト、タルク、雲母、合成ヘクトライト、炭化ケイ素およびテレフタル酸カルシウムから成る群より選択される請求項1に記載の成形品。
【請求項5】
該不動化用充填材が200μm以下の寸法を有する請求項1に記載の成形品。
【請求項6】
固体潤滑性充填材を更に含む請求項1に記載の成形品。
【請求項7】
該固体潤滑剤が、グラファイト粉末、二硫化モリブデンおよび窒化ホウ素から成る群より選択される請求項6に記載の成形品。
【請求項8】
該強化用繊維および該不動化用充填材の容積百分率が40〜60%である請求項1に記載の成形品。
【請求項9】
改良された強度および耐加熱撓み性を有する射出成形品であって、
・部分結晶性および部分非晶質ポリアリールエーテルケトンポリマー、
・該成形品に強度および剛性を与えるための、チョップトガラスまたはチョップト炭素繊維から選択される強化用繊維であって、前記強化用繊維が該成形品の25容量%未満を構成する強化用繊維、
・該ポリアリールエーテルケトンポリマーの非晶質部分を不動化するための小板状不動化用充填材であって、グラファイト、タルク、雲母、合成ヘクトライト、炭化ケイ素および溶融物由来ポリベンズイミダゾール熱可塑性粒子から成る群より選択される充填剤、および
・該成形品の少なくとも40容量%を形成し且つ該成形品の18.56kg/cm2(264psi)での加熱撓み温度を該ポリアリールエーテルケトンポリマーの結晶融解温度の20℃以内まで上昇させる前記強化用繊維および前記不動化用充填材
を含む、430℃において1000秒-1で10,000未満の溶融粘度を有する均一混合物から製造された成形品。
【請求項10】
該強化用繊維が、200マイクロメートル〜1/4インチ(6,350マイクロメートル)の範囲の長さである請求項9に記載の成形品。
【請求項11】
改良された強度および耐加熱撓み性を有する製品を成形するためのポリマー複合材料であって、
・部分結晶性および部分非晶質ポリアリールエーテルケトンポリマー、
・該成形品に強度および剛性を与えるための強化用繊維であって、ガラス繊維である強化用繊維充填材、
・ポリアリールエーテルケトンポリマーの非晶質部分を不動化して、高温で追加の剛性および依存的寸法安定性を与えるための非熱可塑性不動化用充填材であって、等割粒子、小板状粒子またはホイスカー状粒子であり、ここにおいて、炭酸カルシウム、シリカ、ホウ砂、パーライト、タルク、雲母、合成ヘクトライト、ウォラストナイト、テレフタル酸カルシウム、およびそれらの組合せからなる群から選択される充填剤、
・該複合材料の少なくとも40容量%を形成し且つ該成形品の18.56kg/cm2(264psi)での加熱撓み温度を該ポリアリールエーテルケトンポリマーの結晶融解温度の20℃以内まで上昇させる前記強化用繊維および前記不動化用充填材
を含むポリマー複合材料。

【図1】
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【公開番号】特開2006−291217(P2006−291217A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−152607(P2006−152607)
【出願日】平成18年5月31日(2006.5.31)
【分割の表示】特願平9−503110の分割
【原出願日】平成8年6月3日(1996.6.3)
【出願人】(506184772)ピービーアイ・パフォーマンス・プロダクツ・インコーポレーテッド (6)
【Fターム(参考)】