説明

高光学純度を有するキラル3−ヒドロキシピロリジン化合物及びその誘導体の製造方法

本発明は、光学的に純粋なキラル3−ヒドロキシピロリジン及びその誘導体の効果的な製造方法に関する。より詳しくは、本発明は出発物質である4−クロロ−3−ヒドロキシブチロニトリルに適当な保護基を導入する工程を含む、キラル3−ヒドロキシピロリジン及びその誘導体の効果的な製造方法に関する。出発物質にヒドロキシ−保護基を導入することにより、副生成物の精製を効果的に抑制し、出発物質のニトリル基の還元及びインサイチュ分子内環化を効率的に進行させる。これにより、3−ヒドロキシピロリジン及びその誘導体が高収率かつ高純度で製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、化学的及び光学的に高純度のキラル3−ヒドロキシピロリジン化合物及びその誘導体の製造方法に関する。より詳しくは、本発明は出発物質である3−クロロ−2−ヒドロキシプロピオニトリルに効果的な保護基を導入することで、水素化を通じたニトリル基の還元反応及び環化反応時の副反応物の生成を効果的に抑制して、キラル3−ヒドロキシピロリジン化合物及びその誘導体を効果的に製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
背景技術
キラル3−ヒドロキシピロリジン及びその誘導体は、抗生物質、鎮痛剤、血栓溶解剤、抗精神剤などの多様なキラル医薬品の重要な中間体である。3−ヒドロキシピロリジンあるいはその誘導体から誘導された多様な医薬品がすでに市販されており、また多くの医薬品が臨床試験中であることが報告されている。したがって、キラル3−ヒドロキシピロリジン及びその誘導体に対する需要はさらに増加することが予想される。ゆえに、キラル3−ヒドロキシピロリジン及びその誘導体を安価に効果的に製造する方法に関する研究は、医薬品産業分野において重要である。
【0003】
キラル3−ヒドロキシピロリジン及びその誘導体の従来の製造方法を下記に示す。
【0004】
まず、天然のキラル資源から化学的修飾を通じて、キラル3−ヒドロキシピロリジンを製造する技術が報告されている。たとえば、天然のリンゴ酸を出発物質として、ベンジルアミンと縮合反応し、続いて、強力な還元剤を使用して還元反応を行うことによって、キラルN−ベンジル−3−ヒドロキシピロリジンを製造する技術が報告されている[Synth.Commun.1983年,第13巻,117頁;Synth.Commun.1985年,第15巻,587頁]。また、グルタミン酸を出発物質として、公知の製造方法[米国特許第3823187号明細書]によって、キラル4−アミノ−2−ヒドロキシ酪酸に変換し、次に、ヒドロキシ保護反応及び続く分子内環化反応を行うことによって、保護された3−ヒドロキシピロリジノンを得た後、これを強力な還元剤を用いて還元することによって、目的のキラルN−ベンジル−3−ヒドロキシピロリジンを製造する技術が報告されている[Synth.Commun.1986年,第16巻,1815頁]。
【0005】
キラル3−ヒドロキシピロリジンを効率的に製造するためには、反応物中のアミド基の還元を円滑に行わなくてはならない。しかしながら、上記の技術は、安価な天然物からキラル3−ヒドロキシピロリジン及び誘導体を製造することができるという長所はあるが、これらの技術はアミド基を還元するために、強力な還元剤である水素化リチウムアルミニウムまたは非常に高価なジボランを使用しなければならないことから、工業的な利用には適していない。
【0006】
キラル資源を用いた他の製造方法としては、キラル4−ヒドロキシ−2−ピロリジンカルボン酸を2−シクロヘキセン−1−オン及びシクロヘキサノールを組み合わせて処理して、脱炭酸を行うことによりキラル3−ヒドロキシピロリジン誘導体を製造する方法が報告されている[国際公開第91/09013号パンフレット;米国特許第5233053号明細書;Chem.Lett.,1986年,893頁]。しかしながら、この製造方法は複雑であり、収率も低いので工業的スケールでの生産には適していない。
【0007】
キラル資源を用いた有機合成に代えて、酵素や微生物を用いた非対称合成によるキラル3−ヒドロキシピロリジンの製造方法も報告されている。
【0008】
すなわち、ラセミ体のN−ベンジル−3−ヒドロキシピロリジンから酵素または微生物を用いて、一方の異性体を立体選択的にエステル化することによって、光学活性なキラルN−ベンジル−3−ヒドロキシピロリジンを製造する方法が報告されている[特公平6−211782号公報;特公平6−141876号公報;特公平4−131093号公報]。また、酵素または微生物を用いて、Nが置換されたラセミ体の3−アシルオキシピロリジンのいずれか一方の異性体を立体選択的に加水分解することによって、Nが置換されたキラルな3−ヒドロキシピロリジンを製造する方法も報告されている[国際公開第95/03421号パンフレット;特公平7−116138号公報;特公平1−141600号公報;BullChem.Soc,Jpn.,1996年,第69巻,207頁]。しかしながら、生体触媒を用いたキラル分割は、酵素の回収ならびに目的物の分離及び精製が困難であるという問題点を有していた。また、収率が低いという問題点もあった。これらの理由から、工業的な製造には適していない。
【0009】
生体触媒に代えて、多様な化学分割試薬存在下で、ラセミ体のNが置換された3−ヒドロキシピロリジンを分割することによって、キラルなNが置換された3−ヒドロキシピロリジンを製造する方法も報告されている[特公昭61−63652号公報;特公平6−73000号公報]。しかしながら、これらの方法は、化学収率の低さと光学純度の低さのため、工業的な利用には適していない。
【0010】
キラル3−ヒドロキシピロリジンを製造する従来の化学合成の一つとして、前駆体であるキラル1,2,4−トリブタントリオールまたはその誘導体からNが置換された3−ヒドロキシピロリジンを製造する方法が報告されている。該方法は、キラル4−ハロ−3−ヒドロキシブチレートを還元して、4−ハロ−3−ヒドロキシブタノールを調製し、4−ハロ−3−ヒドロキシブタノールの1級アルコール基を選択的に脱離基に変換した後、これをベンジルアミンと反応させることで、キラルN−ベンジル−3−ヒドロキシピロリジンを得る[欧州特許第452143号明細書;米国特許第5144042号明細書]。
【0011】
上記製造方法は、4−ハロ−3−ヒドロキシブタノールの1級アルコール基のみを選択的に脱離基に転換させることが容易ではないという問題点があった。また、該製造方法では、アジリジン化合物、アゼフィジン化合物が副生成物として生成されるので、目的化合物の精製が難しい。したがって、該製造方法は、目的化合物を高純度で製造するのに適していない。
【0012】
また、キラル1,2,4−トリブタントリオールを臭化水素と反応させて1位と4位のアルコール基のみを選択的にブロモ化して、1,4−ジブロモ−2−ブタノールを製造し、得られた生成物をベンジルアミンと反応させてキラルN−ベンジル−3−ヒドロキシピロリジンを製造する技術が知られている[J.Med.Pharm.Chem.,1959年,第1巻,6頁]。しかしながら、この製造方法では、ブロモ化試薬が非常に有毒であり、反応終了後、ブロモ化試薬を効果的に除去することが難しい。また、製造収率が30%程度またはそれ以下であることから、大量生産には不適当である。
【0013】
近年、4位がハロゲンもしくは脱離基で置換されたキラル3−ヒドロキシブチロニトリルまたはその誘導体を出発物質とする3−ヒドロキシピロリジンの製造方法が提案された。該方法は、出発物質を金属触媒存在下で水素化する1工程を含む。水素化反応を経て、出発物質のニトリル基の還元及び還元された中間体のインサイチュ分子内環化反応を同時に行う[欧州特許第347818号明細書;欧州特許第431521号明細書;欧州特許第269258号明細書]。該製造方法は、非常に単純な製造工程によって目的とするキラル3−ヒドロキシピロリジンを製造することができるという長所がある。それでもなお、水素下で金属触媒を使用したニトリル基の還元ならびに分子間の求核置換及び縮合によって副生成物が多量に生成されるため、収率が非常に低く、精製工程が難しいという問題点を有していた[Reduction in organicChemistry,Ellis Horwood Limited.1984年,173頁]。
【0014】
上述のように、従来の技術を用いて高い光学純度を有するキラル3−ヒドロキシピロリジン化合物を大量生産するためには、改善しなければならない問題点が1つまたは複数ある。したがって、高い光学純度を有するキラル3−ヒドロキシピロリジン化合物を効果的に製造する方法に対する研究は、医薬品産業分野において重要な課題の一つとなっている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
発明の開示
技術課題
本発明者等は、上述の問題点を解決するための広範な研究の結果、出発物質であるキラル3−クロロ−2−ヒドロキシプロピオニトリルの還元及びインサイチュ分子内環化中の副反応を効果的に最小化できる化学的合成経路の改良が、前記化学式1で表されるキラル3−ヒドロキシピロリジン化合物の大量生産を効率的に行うために不可欠であることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0016】
技術的解決
本明細書の詳細な説明で説明した上記目的等は、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピオニトリルのヒドロキシ基を適切な保護基で保護し、金属触媒存在下、水素雰囲気下で、該ヒドロキシ基が保護された化合物を還元反応することにより達成され、高収率及び高純度でヒドロキシ−保護されたキラル3−ヒドロキシピロリジンを効果的に製造できる。必要によって、N−誘導体化及び脱保護をさらに行うことができる。
【0017】
本発明の製造方法は、安全な工程であって、光学的に純粋なキラル3−ヒドロキシピロリジンの大量生産に適用できる。
【発明の効果】
【0018】
有利な効果
本発明によると、化学式1で表される3−ヒドロキシピロリジン化合物は、以下の反応によって製造される。すなわち、化学式2で表されるキラル3−クロロ−2−ヒドロキシプロピオニトリルのヒドロキシ基を保護し、得られた生成物を水素化し、任意にN−誘導体化し、脱保護する。キラル3−クロロ−2−ヒドロキシプロピオニトリルのヒドロキシ基の保護により、水素化反応中の副反応を最小化することができ、全体の収率を向上することができる。また、目的化合物が高い光学純度で製造される。さらに、ヒドロキシ基の保護は、ヒドロキシ基の酸素原子による競合的誘導体化を効果的に防止する。キラル3−クロロ−2−ヒドロキシプロピオニトリルから得られる中間体は、特別な精製をすることなしに、粗生成物の状態で、ヒドロキシ基の保護、水素化、任意の選択的誘導体化及び脱保護などの一連の反応に供することができる。これにより、反応工程の単純化及び収率向上がなされる。したがって、本発明の製造方法は、多様なキラル医薬品の重要な中間体である化学式1で表される3−ヒドロキシピロリジン化合物を効果的にかつ工業的規模で生産することを可能とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
発明を実施するための最良の形態
本発明は、キラル3−ヒドロキシピロリジン化合物の効率的な製造方法に関する。本発明によると、該製造方法は、(a)ヒドロキシ−保護基を用いてキラル3−クロロ−2−ヒドロキシプロピオニトリルのヒドロキシ基を保護する工程、(b)得られたヒドロキシ−保護された化合物を水素化反応に供して、対応するヒドロキシ−保護されたピロリジン化合物またはその塩酸塩を得る工程、及び(c)必要によって、ヒドロキシ−保護されたピロリジン化合物を脱保護し、またはヒドロキシ−保護されたピロリジン化合物を、求核攻撃を受けやすい基質と反応させて、N−誘導体化し、続いてN−誘導体化ピロリジンを脱保護する工程を含む。本発明の製造方法は、下記のスキーム1に要約される。
【0020】
【化1】

【0021】
上記スキーム1中、*はキラル中心を表し、Zはヒドロキシ−保護基を表し、Rは水素または置換基を表す。
【0022】
上記スキーム1に示すように、本発明は出発物質として、化学式2を有するキラル3−クロロ−2−ヒドロキシプロピオニトリルを用いる。上記出発物質は、キラルなエピクロロヒドリンの求核開環反応によって容易に得られる。さらに詳細な事項は、大韓民国特許登録第491809号明細書及びその引用文献を参照されたい。具体的には、市販のキラルなエピクロロヒドリンを、クエン酸の存在下で、シアン化ナトリウムと反応させて、キラル3−クロロ−2−ヒドロキシプロピオニトリルを効果的に製造することができる。得られたキラル3−クロロ−2−ヒドロキシプロピオニトリルは、ヒドロキシ基の保護;水素化によるニトリル基の還元及びインサイチュ分子内環化;任意に、N−誘導体化及び/またはヒドロキシ−保護基の脱保護といった一連の反応を通じて、目的とするキラル3−ヒドロキシピロリジン化合物が高い収率及び高い光学純度で製造される。
【0023】
ニトリル基の還元は、1級アミンを製造するための効果的な有機合成技術の一つで、産業的に利用可能な工程である[TheChemistry of theCyano Group,John Wileyand Sons,1970年,7章;米国特許第5237088号明細書;米国特許第5801286号明細書;米国特許第5777166号明細書]。これらのニトリル基の効果的な還元は、様々な反応試薬の存在下で行われる。たとえば、主に水素化リチウムアルミニウムまたは水素化ホウ素ナトリウムのような金属ハイドライド、あるいは必要に応じてそれらと添加剤との組み合わせ[Chem.Soc.rev.,1998年,第27巻,395頁;Tetrahedron Lett.,1992年,第33巻,4533頁;Tetrahedron 1992年,第48巻,4623頁;J.Chem.Soc.perkin Trans.1991年,第1巻,379頁;J.Am.Chem.Soc.1982年,第104巻,6801頁]、ナトリウム、リチウムなどの金属[J.Org.Chem.,1972年,第37巻,508頁;Chem.Pharm.Bull.,1994年,第42巻,402頁]などが挙げられる。しかしながら、これらの技術は、還元剤の不安定性及び強い反応性のため、工業的スケールでの生産には適していない。
【0024】
また、パラジウム、白金、ラネーニッケル、ラネーコバルトなどの金属触媒存在下での水素化を通じてニトリル基を還元することによっても、1級アミン化合物を製造することができる。この製造過程では、触媒をろ過し、溶媒を除去することによって、容易に目的物を得ることができるという長所がある。
【0025】
しかしながら、下記スキーム2に示すように、水素化を通じたニトリル基の還元は、たとえば、反応条件によって1級アミン化合物と中間体であるイミンの分子間縮合が起こり、2級アミンまたは3級アミン等の副生成物が生成するために、収率が低くなる虞がある[Reduction in organicChemistry,Ellis Horwood Limited.1984年,173頁;Tetrahedron Lett.,1969年,第10巻,4555頁;Chem.Soc.Rev.,1976年,第5巻,23頁;Applied CatalystA:General,1999 年,第182巻,365頁;J.Org.Chem.,2001年,第66巻,2480頁]。
【0026】
【化2】

【0027】
本発明者等は、上記化学式2で表されるキラル3−クロロ−2−ヒドロキシプロピオニトリルの水素化を通じてキラル3−ヒドロキシピロリジンを製造する過程において、上記のスキーム2で示される2級アミンまたは3級アミンなどの大量の副生成物が生成し、これにより製造収率が低下すること、そして、この副反応は、大規模な製造においてはさらに深刻になることを見出した。
【0028】
その上、化学式2のキラル3−クロロ−2−プロピオニトリルの固有の分子構造によって、水素化中に、さらに別の副生成物が生成されることを確認した。すなわち、化学式2の化合物の水素化中に、中間体化合物Aが反応の初期段階で生成し、そして、該化合物は分子内環化を経て、エポキシド中間体化合物Bが生成される。中間体化合物Aは、エポキシド化合物Bとの分子間反応によって2級アミンまたは3級アミンである副生成物Cを生成しうる。また、中間体化合物A及びBは、化学式1の目的化合物との分子間反応によって、副生成物DまたはEを生成しうる。このような副生成物は、3−ヒドロキシピロリジンの収率を低下させて、目的物である3−ヒドロキシピロリジンの精製を困難なものとする。
【0029】
【化3】

【0030】
結果的に、上記のスキーム2及び3に示すように、化学式2のキラル3−クロロ−2−ヒドロキシプロピオニトリルの直接的水素化によると、キラル3−ヒドロキシピロリジンは、多様な副生成物の生成によって、高収率及び高純度で得られない。なおかつ、このような副反応は、大規模生産において深刻であり、この問題を回避するための新たな解決法に対する研究が必要であった。
【0031】
本発明者等は、広範な研究を通じて、副生成物の生成による生産収率の低下及び困難な精製条件は、主に、(a)分子間求核置換反応と、(b)初期段階の中間体の分子内環化と、(c)反応溶媒中に存在する化合物の分子間求核置換に起因することを見出した。
【0032】
これらの知見から、出発物質のヒドロキシ基を保護することで、好ましくない分子内環化による中間体Bの生成を抑制して、それと同時にヒドロキシ−保護基の立体障害を導入することで、分子間求核置換反応よりも、初期段階で生成する1級アミン化合物の分子内環化をより優位にすることで、副反応を抑制できることを確認した。
【0033】
したがって、本発明によると、まず、出発物質であるキラル3−クロロ−2−ヒドロキシプロピオニトリルのヒドロキシ基をヒドロキシ−保護基によって保護する。上述のように、ヒドロキシ−保護基は、一連の水素化中に分解されないことが重要である。本発明者等は、最初に、アセチルまたはベンゾイルなどのアシル化合物を用いて化学式2のヒドロキシ基を保護した後、水素化を試みた。しかしながら、上記のヒドロキシ−保護基は、高圧力条件下での水素化で脱保護されてしまうので適当ではなかった。さらに、メチル基あるいはテトラヒドロピラン基のようなアルキル基を保護基として化学式2のヒドロキシ基を保護した状態で、水素化及びこれに続く脱保護を行うと、30%程度の収率となることが分かった。
【0034】
用いて本発明者等は、シリル基を用いて、化学式2のキラル3−クロロ−2−ヒドロキシプロピオニトリルのヒドロキシ基を保護した場合、シリル基は続く水素化において安定しており、副生成物の生成が効果的に抑制され、所望の結果が得られることを確認した。したがって、ヒドロキシ−保護基がシリル基であることが特に好ましい。言い換えれば、化学式2を有するキラル3−クロロ−2−ヒドロキシプロピオニトリルは、まず、シリル化剤と反応することによって、キラル3−クロロ−2−ヒドロキシプロピオニトリルのヒドロキシ基がシリル基で保護される。好ましくは、化学式6で表されるシリル基である。
【0035】
【化4】

【0036】
式中、R’、R’’及びR’’’は置換基である。好ましくは、R’、R’’及びR’’’は、それぞれ独立して、C〜Cアルキル基、C〜Cシクロアルキル基、C〜Cアルケン基、C〜Cアルキン基、C〜Cアルコキシ基、C〜C10のアリール基、または(CH−R(ここで、RはC〜Cシクロアルキル基、C〜Cアルケン基、C〜Cアルキン基、C〜Cアルコキシ基、またはC〜C10のアリール基を表し、Lは1〜8までの整数である)を表す。
【0037】
シリル基は、ヒドロキシ−保護基であり、酸性条件以外の様々な化学反応条件下で非常に安定である。また、シリル基の導入及び脱保護も容易に行うことができる[Protecting Groups,Thieme Medical Publishers Inc,.New York,1994年;Protective Groups in Organic Synthesis,John Wiley and Sons,Inc,1991年]。シリル基を用いたヒドロキシ基の保護は、具体的には、化学式2のキラル3−クロロ−2−ヒドロキシプロピオニトリル化合物を、塩基の存在下で、シリル化剤と反応させることで容易になされる。R’R’’R’’’Si−Y(ここで、R’、R’’及びR’’’は、上述の定義と同様であり、Yはハロゲン化物またはスルホネートなどの脱離基を表す)で表されるシリル化剤は、化学式2のキラル3−クロロ−2−ヒドロキシプロピオニトリルに対して、0.8〜5当量、好ましくは、1.0〜2当量添加される。塩基としては、イミダゾール、2,6−ルチジン、N,N−ジメチルアミノピリジン及びこれらの塩、第3級アミン及びこれらの水和物を挙げることができ、好ましくはトリアルキルアミンである。トリアルキルアミンの例としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン及びジイソプロピルエチルアミンを挙げることができる。上記塩基は、化学式2のキラル3−クロロ−2−ヒドロキシプロピオニトリルに対して、0.8〜10当量、好ましくは、1.0〜3.0当量添加される。保護反応に用いられる有機溶媒は特に制限されず、当該分野で通常使用される有機溶媒であればいずれのものでも構わない。有機溶媒の例としては、N,N−ジメチルホルムアミド、脂肪族または芳香族の炭化水素、ハロゲン化炭化水素及びエーテル類が挙げられる。具体的には、トルエン及びベンゼンなどの芳香族有機溶媒、ジクロロメタン及びクロロホルムなどのハロゲン化アルカン、エチルエーテル、テトラヒドフラン、及びジオキサンなどのエーテル類が挙げられる。反応温度は、0〜100℃であることが好ましく、10〜40℃であることがより好ましい。シリル化剤の添加によって出発物質が完全に消費された後、通常の後処理を行うことによって、高純度の化学式3の化合物が得られる。得られた化学式3の化合物は、特別な精製(たとえば、分留または再結晶)を行うことなしに、続く水素化に直接供することができる。これは工程の単純化と収率の改善を付随的にもたらす。
【0038】
他の好ましいヒドロキシ−保護基としては、ベンジル基が挙げられる。ベンジル基は、通常、水素化で脱保護されることが知られている。それにもかかわらず、キラル3−クロロ−2−ヒドロキシプロピオニトリルのヒドロキシ−保護基として導入したベンジル基は、ラネーニッケルを用いた水素化においても安定である。ただし、パラジウム及び白金などの金属触媒下で水素化を行った場合、ベンジル基は水素化中に脱保護され、非常に低い収率を示した。
【0039】
ヒドロキシ−保護された化学式3の化合物は、水素化に供される。水素化によって、ヒドロキシ−保護された化学式3の化合物は、ニトリル基の還元及びインサイチュ分子内環化される。該水素化は、下記スキーム4に要約される。
【0040】
【化5】

【0041】
上記スキーム4中、*はキラル中心を表し、Zはヒドロキシ−保護基、好ましくはシリル基を表す。
【0042】
上記スキーム4に示すように、まず、化学式3のヒドロキシ−保護された化合物のニトリル基は、水素化によって還元されて、1級アミン化合物を与える。生じた化学式5で表される中間体は、インサイチュ分子内環化する。結果的に、化学式4で表されるヒドロキシ−保護されたピロリジン化合物またはその塩酸塩が生成される。ヒドロキシ−保護されたピロリジン(遊離塩基)のその塩酸塩に対する割合は、水素化に用いられた金属触媒の種類及び反応のpHによって異なる。しかしながら、どのような場合であっても、0.5〜1当量の塩基を用いて処理することで、遊離塩基のヒドロキシ−保護されたピロリジン化合物を得ることができる。水素化は、金属触媒存在下で、水素雰囲気下で進行する。水素化に用いることができる金属触媒は、特に制限されず、当該分野で公知の触媒でありうる。金属触媒としては、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、ラネーニッケル(Raney−Ni)、ラネーコバルト(Raney−Co)などが好ましい。ただし、ヒドロキシ−保護基としてベンジル基を使用する場合は、金属触媒はラネーニッケル(Raney−Ni)を用いることが好ましい。金属触媒の添加量は、5〜80質量%、好ましくは5〜25質量%の量である。水素ガスは1〜50bar、好ましくは2〜10barの圧力で充填される。反応は、25〜200℃、好ましくは50〜150℃の温度で、1〜30時間、好ましくは2〜5時間撹拌することによって行われる。全ての反応物が消費された後、通常のろ過及び減圧蒸留を経て、化学式4で表されるヒドロキシ−保護されたピロリジン化合物またはその塩酸塩が得られる。用いられる溶媒は、特に制限されず、当該分野で通常に使用される溶媒でありうる。具体的には、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、脂肪族または芳香族の炭化水素、ハロゲン化炭化水素、エーテル、またはアルコールが挙げられる。アルコールの好ましい具体例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール及びt−ブタノールなどのC〜Cアルコールが挙げられる。
【0043】
得られた化学式4の化合物は、特別な精製(たとえば、分留または再結晶)なしに、粗生成物の状態で、続くNの誘導体化または脱保護反応に直接供することができる。具体的には、水素化反応を通じて、化学式3のヒドロキシ−保護されたキラル3−クロロ−2−ヒドロキシプロピオニトリル化合物が完全に消費された後、ろ過によって金属触媒を除去し、減圧蒸留によって揮発性溶媒を除去することで、化学式4で表されるヒドロキシ−保護されたピロリジンまたはその塩酸塩が生成される。得られた粗生成物は、さらなる特別な精製なしに、続く誘導体化または脱保護に供される。化学式4で表されるヒドロキシ−保護されたピロリジン化合物またはその塩酸塩は高純度で生成されるので、精製工程が単純化されて、収率が向上する。本発明の好ましい実施形態によると、ヒドロキシ−保護されたピロリジン塩酸塩は、無機塩基(たとえば、NaOH)で処理することによって遊離塩基が得られる。しかしながら、脱保護はHClの存在によって影響を受けないので、化学式4で表される化合物は塩酸塩の形態で脱保護またはN−誘導体化に直接供することができる。また、N−誘導体化は通常過剰量の塩基の存在下で行われるので、HClの存在はN−誘導体化に影響を及ぼさない。したがって、化学式4のピロリジン化合物は塩酸塩の形態で脱保護反応及びN−誘導体化に用いることができる。
【0044】
得られた化学式4で表されるヒドロキシ−保護されたピロリジン化合物またはその塩酸塩は、任意のN−誘導体化及び脱保護を経てキラル3−ヒドロキシピロリジンまたはその誘導体に変換される。具体的には、キラル3−ヒドロキシピロリジンまたは化学式1を有するN−置換されたキラル3−ヒドロキシピロリジンが、化学式4のヒドロキシ−保護されたピロリジン化合物またはその塩酸塩から製造される。
【0045】
脱保護は、当該分野で広く知られている。より詳細な事項は、[Protecting Groups,Thieme Medical Publishers Inc,.New York,1994年,28頁;Protective Groups in Organic Synthesis,John Wiley and Sons,Inc,1991年,10頁]を参照されたい。本発明の好ましい実施形態によると、シリル基はpH1〜6の酸性条件下で容易に効率よく脱保護された。pH1〜6の酸性条件は、反応に用いられない適当な酸によって容易に形成される。酸の例としては、塩酸、硫酸、トルエンスルホン酸、及び置換されたまたは非置換のカルボン酸が挙げられる。酸性条件下での脱保護では、キラル3−ヒドロキシピロリジンを酸付加塩として与えるが、これは後処理工程で塩基(たとえば、水酸基、リン酸基、炭酸基を含む無機塩基)を用いて処理することによって、容易に再生されうる。ベンジル基の脱保護は、パラジウム及び白金等の金属触媒の存在下で、水素化することによってなされる。ただし、目的とするピロリジン化合物がベンジル保護された化合物である場合、脱保護の必要はない。シリル基の脱保護の具体的な条件を以下に示す。まず、化学式4のヒドロキシ−保護されたピロリジン化合物またはその塩酸塩を有機溶媒に溶解し、これに反応温度0〜100℃(好ましくは10〜30℃)で、0.1〜10当量(好ましくは0.5〜2.0当量)の脱保護剤を撹拌しながら添加する。ここで、溶媒は特に制限されず、当該分野で通常使用される溶媒でありうる。具体的には、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、脂肪族または芳香族の炭化水素、ハロゲン化炭化水素、エーテルまたはアルコールが用いられうる。アルコールの好ましい具体例としえは、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、t−ブタノール等のC〜Cアルコールを使用することができるが挙げられる。得られた生成物を0.8〜5当量(好ましくは1〜2当量)の無機塩基で処理して、ろ過する。そして、減圧蒸留することによってキラルな3−ヒドロキシピロリジンが遊離塩基として得られる。
【0046】
好ましくは、化学式4のヒドロキシ−保護されたピロリジン化合物は、N−誘導体化反応及び脱保護に順次供され、N−置換されたキラル3−ヒドロキシピロリジンが製造される。N−誘導体化は、化学式4のヒドロキシ−保護されたピロリジン化合物を求核攻撃を受けやすい基質と反応させることによって行われる。言い換えると、化学式4のヒドロキシ−保護されたピロリジン化合物の窒素原子が求核攻撃を受けやすい基質に求核攻撃することによって、N−誘導体化が起こる。求核攻撃を受けやすい基質は、通常化学式R−Y(ここで、Rはカルボハイドライドであり、Yは脱離基である)で表される。脱離基の例としては、ハロゲン原子、スルホネート基、酸無水物が挙げられる。上記基質は、通常0.8〜2当量、好ましくは1.0〜2.0当量添加される。N−誘導体化は、通常塩基の存在下で行われる。塩基の例としては、イミダゾール、2,6−ルチジン、N,N−ジメチルアミノピリジン及びこれらの塩、第3級アミン及びこれらの水和物を挙げることができ、好ましくはトリアルキルアミンである。トリアルキルアミンの例としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン及びジイソプロピルエチルアミンが挙げられる。上記塩基は、化学式4のヒドロキシ−保護されたピロリジン化合物に対して、0.8〜10当量、好ましくは、1.0〜3.0当量添加される。該反応に用いられる有機溶媒は特に制限されず、当該分野で通常使用される有機溶媒であればいずれのものでも構わない。有機溶媒の例としては、N,N−ジメチルホルムアミド、脂肪族または芳香族の炭化水素、ハロゲン化炭化水素及びエーテル類が挙げられる。具体的には、トルエン、ベンゼンのような芳香族有機溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン化アルカン、または、エチルエーテル、テトラヒドロフラン、及びジオキサン等のエーテル類が使用されうる。反応温度については、当業者が公知技術に基づいて、基質の種類によって適宜調節することができる。通常、該反応は0〜100℃の温度で行われる。そして、通常の後処理工程を通じて、目的化合物が高純度で得られる。生成した化合物は、さらなる精製(たとえば、分留または再結晶)なしに、続く脱保護に供することができる。これは、工程の単純化と収率の向上に寄与する。脱保護の工程は、上述と同様の方法で行われうる。ヒドロキシ−保護基の脱保護の後、最終的に目的のN−置換されたキラル3−ヒドロキシピロリジンが製造される。
【0047】
これと同時に、キラル3−ヒドロキシピロリジンは、通常求核攻撃を受けやすい基質と反応することによって、直接的にN−誘導体化され、そして、得られた化合物はキラル医薬品合成の中間体として用いられる。しかしながら、キラル3−ヒドロキシピロリジン化合物の直接的誘導体化は、キラル3−ヒドロキシピロリジンの窒素原子と酸素原子とによる競合的誘導体化を伴う。すなわち、窒素原子と酸素原子とが競合的に誘導体化反応に参加する。酸素原子による競合的求核攻撃は、副生成物を生成し、これは目的化合物の収率を低下させると同時に、精製を困難にする。
【0048】
一方、化学式4のヒドロキシ−保護されたピロリジン化合物の酸素原子は、すでに保護されているので、このような競合反応を抑制し、窒素原子を選択的に誘導体化させることができる。結果的に、キラル3−クロロ−2−ヒドロキシプロピオニトリルのヒドロキシ保護は、水素化だけではなく、N−誘導体化反応においても大きく寄与する。
【0049】
本発明の好ましい実施形態によると、下記化学式1で表されるキラル3−ヒドロキシピロリジン化合物が製造されうる。
【0050】
【化6】

【0051】
上記化学式1中、Zは水素またはベンジル基を表し、Rは水素、C〜C10アルキル基、C〜C10アルケン基、C〜C10アルキン基、C〜C10アルコキシ基、(C〜C10)−アルキルオキシカルボニル基、C〜C10アリール基、C〜C10シクロアルキル基、C〜C10シクロアルケニル基、ヘテロサイクル基またはポリサイクル基、C〜C10カルボニル基、C〜C10カルボキシル基、シリル基、エーテル基、チオエーテル基、セレノエーテル基、ケトン基、アルデヒド基、エステル基、ホスホリル基、ホスホネート基、ホスフィン基、スルホニル基、または(CH−R(ここで、RはC〜C10アルケン基、C〜C10アルキン基、C〜C10アルコキシ基、C〜C10アリール基、C〜C10シクロアルキル基、C〜C10シクロアルケニル基、ヘテロサイクルまたはポリサイクル基、C〜C10カルボニル基、C〜C10カルボキシル基、シリル基、エーテル基、チオエーテル基、セレノエーテル基、ケトン基、アルデヒド基、エステル基、ホスホリル基、ホスホネート基、ホスフィン基、またはスルホニル基を表し、kは1〜8の整数である)を表す。これらは、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アミノ基、チオール基、アルキルチオール基、ニトロ基、アミン基、イミン基、アミド基などの多様な置換基によって置換されうる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例をあげて、本発明をより詳しく説明する。ただし、これら実施例を本発明の理解のために提示するもので、本発明の範囲がこれら実施例によって限定されるものではない。特許請求の範囲に記載された本発明の範囲内で多様な変形及び改良を行うことができる。
【0053】
実施例1:(R)−2−(トリメチルシリルオキシ)−3−クロロブチロニトリルの製造
温度計、還流冷却器及び撹拌器を付した3Lの3口丸底フラスコに、100gの(R)−3−クロロ−2−ヒドロキシプロピオニトリルと200gのN,N−ジメチルホルムアミドを混合した。0℃に冷却した後、この反応溶液に、68.3gのイミダゾールを添加して30分間撹拌し、95.4gのトリメチルシリルクロライドを添加した。この混合物の温度を徐々に常温まで上げた後、14時間撹拌した。出発物質が全て消費された後、500gの酢酸エチルと水50gを加えた。30分間撹拌した後、有機層を分離した。100gの酢酸エチルを用いて分離した水層を2回抽出した後、有機層を回収した。これを30gの水を用いて洗浄した後、集めた有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥し、ろ過した後、減圧濃縮することによって49.6gの目的とする化合物(R)−2−(トリメチルシリルオキシ)−3−クロロブチロニトリルを得た(収率:99%)。得られた生成物をそれ以上の精製を行うことなしに、続く水素化に供した。
【0054】
実施例2:(R)−2−(トリエチルシリルオキシ)−3−クロロブチロニトリルの製造
95.4gのトリメチルシリルクロライドに代えて、132.4gのトリエチルシリルクロライドを用いた点を除いては、上記の実施例1と同様の方法で行った。目的化合物である(R)−2−(トリエチルシリルオキシ)−3−クロロブチロニトリル193.6gを得た(収率:99%)。得られた生成物をそれ以上の精製を行うことなしに、続く水素化に供した。
【0055】
実施例3:(R)−2−(トリイソプロピルシリルオキシ)−3−クロロブチロニトリルの製造
95.4gのトリメチルシリルクロライドに代えて、169.3gのトリイソプロピルシリルクロライドを上記の実施例1と同様の方法で目的化合物である(R)−2−(トリイソプロピルシリルオキシ)−3−クロロブチロニトリル223.8gを得た(収率:97%)。得られた生成物をそれ以上の精製を行うことなしに、続く水素化に供した。
【0056】
実施例4:(R)−2−(tert−ブチルジメチルシリルオキシ)−3−クロロブチロニトリルの製造
95.4gのトリメチルシリルクロライドに代えて、132.4gのtert−ブチルジメチルシリルクロライドを用いた点を除いては、上記の実施例1と同様の方法で行った。用いて目的化合物である(R)−2−(tert−ブチルジメチルシリルオキシ)−3−クロロブチロニトリル193.6gを得た(収率:99%)。得られた生成物をそれ以上の精製を行うことなしに、続く水素化に供した。
【0057】
実施例5:水素化による(R)−3−(アルキルシリルオキシ)ピロリジンの製造
上記実施例1〜4で製造された(R)−2−(アルキルシリルオキシ)−3−クロロプロピオニトリル(68.4mmol)をメタノール(80ml)に溶解した溶液にメタノール(80ml)に懸濁された25質量%金属触媒溶液を添加した。混合物に25℃で、20barの水素圧力条件下で撹拌した。出発物質である(R)−2−(アルキルシリルオキシ)−3−クロロプロピオニトリルが全て消費された後、反応溶液をセライトろ過して、触媒を除去した。ろ液を26mlの10%水酸化ナトリウムメタノール溶液(71.8mmol)で処理して、減圧下で濃縮した。残渣をカラムクロマトグラフィーすることによって、目的化合物である(R)−3−(アルキルシリルオキシ)ピロリジンを得た。
【0058】
(R)−3−(トリメチルシリルオキシ)−ピロリジン:H NMR(CDCl,300MHz):δ 0.92(s,9H),1.54〜2.15(m,2H),2.60〜3.77(m,6H),3.81(bs,1H),4.25〜4.49(m,1H)ppm。
【0059】
(R)−3−(トリエチルシリルオキシ)−ピロリジン:H NMR(CDCl,300MHz):δ 1.02(s,9H),1.55(q,6H),1.52〜2.14(m,2H),2.58〜3.75(m,6H),3.80(bs,1H),4.24〜4.47(m,1H)ppm。
【0060】
(R)−3−(トリイソプロピルシリルオキシ)−ピロリジン:H NMR(CDCl,300MHz):δ 1.01(s,18H),1.87(m,3H),1.55〜2.15(m,2H),2.61〜3.79(m,6H),3.80(bs,1H),4.24〜4.51(m,1H)ppm。
【0061】
(R)−3−(t−ブチルジメチルシリルオキシ)−ピロリジン:H NMR(CDCl,300MHz):δ 0.10(s,6H),1.35(s,9H),1.57〜2.16(m,2H),2.63〜3.81(m,6H),3.94(bs,1H),4.28〜4.53(m,1H)ppm。
【0062】
反応収率、シリル保護基の種類、及び金属触媒の種類を下記表1に示す。
【0063】
【表1】

【0064】
実施例6:(R)−3−(t−ブチルジメチルシリルオキシ)ピロリジンの製造
前記実施例4で得た(R)−2−(t−ブチルジメチルシリルオキシ)−3−クロロプロピオニトリル(66.9mmol)をメタノール(40ml)に溶解した溶液に、メタノール(40ml)に懸濁された25質量%ラネーNi触媒溶液を添加した。混合物に20barの水素圧力条件下で、反応温度を30℃〜120℃に変化させて撹拌した。これを上記実施例5と同様の方法で処理することによって、目的化合物である(R)−3−(t−ブチルジメチルシリルオキシ)ピロリジンを得た。
【0065】
反応温度の変化による反応収率を下記表2に示す。
【0066】
【表2】

【0067】
実施例7:(R)−3−(t−ブチルジメチルシリルオキシ)ピロリジンの製造
上記実施例4で得た(R)−2−(t−ブチルジメチルシリルオキシ)−3−クロロプロピオニトリル(66.9mmol)をメタノール(40ml)に溶解した溶液に、メタノール(40ml)に懸濁された25質量%のラネーNi触媒溶液を添加した。混合物をそれぞれ50℃、70℃、及び100℃で、水素の圧力を変化させて撹拌した。これを上記実施例5と同様の方法で処理することによって、目的とする(R)−3−(t−ブチルジメチルシリルオキシ)ピロリジンを収得した。
【0068】
反応温度及び水素の圧力による反応収率を下記表3に示す。
【0069】
【表3】

【0070】
実施例8:(R)−3−ヒドロキシピロリジンの製造
2Lの高圧反応容器に、(R)−2−(t−ブチルジメチルシリルオキシ)−3−クロロプロピオニトリル100gをメタノール(500ml)に溶解し、25gのラネーNiをメタノール(500ml)に懸濁した溶液を添加した。混合物の温度を100℃まで昇温して、5barの水素圧力条件下で2時間撹拌した。反応溶液を常温まで冷却した後、セライトろ過して触媒を除去した。これを0℃に冷却して、濃塩酸(37.1ml)を徐々に滴下して脱保護を行った。この反応溶液を2時間撹拌した後、減圧濃縮した。残渣を10%水酸化ナトリウムメタノール溶液(179.6g)中で7時間撹拌した。固体沈殿物をろ過して取り除き、ろ液を減圧濃縮した。残渣を減圧蒸留することによって目的化合物である(R)−3−ヒドロキシピロリジン30.2gを得た(収率:81%)。
【0071】
H NMR(CDCl,300MHz):δ 1.56〜2.16(m,2H),2.62〜3.79(m,6H),3.82(bs,1H),4.26〜4.48(m,1H)ppm。
【0072】
実施例9:(S)−3−ヒドロキシピロリジンの製造
上記実施例8と同様の方法で、(S)−2−(t−ブチルジメチルシリルオキシ)−3−クロロプロピオニトリルを用いて、目的化合物である(S)−ヒドロキシピロリジンを収得した(収率:82%)。
【0073】
実施例10:(R)−N−ベンジル−3−ヒドロキシピロリジンの製造
2Lの高圧反応容器に、(R)−2−(t−ブチルジメチルシリルオキシ)−3−クロロプロピオニトリル100gをメタノール(500ml)に溶解し、25gのラネーNiをメタノール(500ml)に懸濁した溶液を添加した。混合物を100℃まで昇温し、5barの水素圧力下で2時間撹拌した。反応温度を常温まで冷却した後、セライトろ過して触媒を除去した。ろ液に34.2gの水酸化ナトリウムと65.0gのベンジルクロライドを順次滴下した。5時間撹拌した後、反応混合物を減圧濃縮し、残渣に水(300ml)と酢酸エチル(450ml)を添加した。30分間撹拌した後、有機層を減圧濃縮し、残渣をメタノール(200ml)に溶解した。この溶液を0℃でに冷却し、濃塩酸(37.1ml)を徐々に滴下した。これを3時間撹拌した後、10%水酸化ナトリウムメタノール溶液(179.6g)を滴下した。生成した沈殿物をろ過して除き、ろ液を減圧濃縮した。これに水(300ml)及び酢酸エチル(450ml)を加え、有機層を分離た。水層を酢酸エチル(300ml)を用いて2回抽出した。集めた有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、ろ過、減圧濃縮した。得られた残渣を減圧蒸留して、目的化合物である(R)−N−ベンジル−3−ヒドロキシピロリジン66.0gを得た(収率:87%)。
【0074】
H NMR(CDCl,300MHz):δ 1.75(m,1H),2.21(m,1H),2.34(m,1H),2.50(bs,1H),2.60(m,1H),2.71(m,1H),2.89(m,1H),3.71(s,2H),4.31(m,1H),7.29(S,2H)ppm。
【0075】
実施例11:(S)−N−ベンジル−3−ヒドロキシピロリジンの製造
上記の実施例10と同様の方法で、(S)−2−(t−ブチルジメチルシリルオキシ)−3−クロロプロピオニトリル100gを用いて、目的化合物である、(S)−N−ベンジル−3−ヒドロキシピロリジン67.5gを得た(収率:89%)。
【0076】
実施例12:(R)−N−(t−ブチルオキシカルボニル)−3−ヒドロキシピロリジンの製造
2Lの高圧反応容器に、(R)−2−(t−ブチルジメチルシリルオキシ)−3−クロロプロピオニトリル100gをメタノール(500ml)に溶解し、25gのラネーNiをメタノール(500ml)に懸濁した溶液を添加した。混合物を100℃まで昇温し、5barの水素圧力条件下で2時間撹拌した。反応溶液を常温まで冷却した後、セライトろ過して触媒を除去した。ろ液を減圧下で濃縮した。0℃で、残渣をトルエン(600ml)に溶解した溶液と、93.4gのジ−t−ブチルジカルボネートをトルエン(300ml)に溶解した溶液とを順次、1N 水酸化ナトリウム水溶液(513ml)に徐々に滴下した。8時間撹拌した後、トルエン層と水層とを分離した。トルエン層を無水硫酸マグネシウムで乾燥、ろ過後、減圧濃縮した。
【0077】
残渣を500mlのテトラヒドロフランに溶解し、513mlの1M テトラブチルアンモニウムフルオリドを滴下した。4時間撹拌した後、反応溶液を減圧濃縮し、残渣に水(500ml)及び酢酸エチル(1L)を加えた。30分間撹拌した後、有機層を分離し、水層を酢酸エチル(1L)を用いて2回抽出した。集めた有機層を減圧濃縮した。残渣をジクロロメタン及びエーテルの混合溶媒を用いて再結晶を行い、目的化合物である、(R)−N−(t−ブチルオキシカルボニル)−3−ヒドロキシピロリジン67.3gを得た(収率:84%)。
【0078】
H NMR(CDCl,300MHz):δ 1.48(s,9H),1.83〜2.09(m,3H),3.26〜3.66(m,4H),4.39〜4.51(m,1H)ppm。
【0079】
実施例13:(S)−N−(t−ブチルオキシカルボニル)−3−ヒドロキシピロリジンの製造
上記実施例12と同様の方法で、(S)−2−(t−ブチルジメチルシリルオキシ)−3−クロロプロピオニトリル100gを用いて、目的化合物である、(S)−N−ベンジル−3−ヒドロキシピロリジン67.8gを得た(収率:85%)。
【0080】
実施例14:(R)−3−(ベンジルオキシ)−4−クロロブタンニトリルの製造
60g(0.504mol)の(R)−4−クロロ−3−ヒドロキシブタンニトリル、140g(0.554mol)のベンジル2,2,2−トリクロロアセトイミデートを300mlのジクロロメタン及び600mlのシクロヘキサン混合溶媒に加えた。これに、室温で5.1mlのトリフルオロメタンスルホン酸を滴下し、混合物を16時間撹拌した。出発物質が全て消費された後、固体沈殿物をろ過することによって除いた。600mlのNaHCO飽和溶液及び600mlの水で洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥してろ過した。ろ液を減圧濃縮して目的化合物、(R)−3−(ベンジルオキシ)−4−クロロブタンニトリル98.0gを得た(未精製収率:93%)。得られた生成物をそれ以上の精製を行うことなしに、続く水素化に供した。
【0081】
H NMR(CDCl,400MHz):δ2.67〜2.79(m,2H),3.60(dd,J=6.4,12.0Hz,1H),3.67(dd,J=4.4,12Hz,1H),3.92(m,1H), 4.64〜4.72(m,2H),7.31〜7.45(m,5H)ppm。
【0082】
実施例15:(R)−3−ベンジルオキシピロリジンの製造
2Lの高圧反応容器に上記実施例14で得た(R)−3−(ベンジルオキシ)−4−クロロブタンニトリル98.0gをメタノール(500ml)に溶解した。この溶液に25gのラネーニッケルをメタノール(500ml)に懸濁した溶液を添加した。混合溶液を100℃まで昇温し、5barの水素圧力下で3時間撹拌した。反応混合物を常温に冷却した後、セライトろ過することによって触媒を除去し、ろ液を減圧下で濃縮した。水(500ml)及びジクロロメタン(500ml)を加え、6N塩酸でpHを1に調節した。水層を集めた。水層を10%水酸化ナトリウム溶液でpHを11に調節して、酢酸エチル(1000ml)を用いて2回抽出した。集めた有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、ろ過、減圧濃縮した。得られた残渣を減圧蒸留して(R)−3−ベンジルオキシピロリジン66.3gを得た(収率:80%)。
【0083】
H NMR(CDCl,400MHz):δ 1.85〜1.93(m,2H),2.79〜2.89(m,2H),3.07〜3.17(m,2H),4.11(m,1H),4.53(s,2H),7.24〜7.38(m,5H)ppm。
【0084】
実施例16:(R)−3−ヒドロキシピロリジンの製造
(R)−3−ベンジルオキシピロリジン80g(0.452mol)をメタノール(500ml)に溶解した。5gの10%Pd/C触媒を加えて、風船気圧の水素圧力下で15時間撹拌した。反応溶液をセライトろ過することによって触媒を除去し、ろ液を減圧濃縮した。残渣を減圧蒸留して目的化合物である(R)−3−ヒドロキシピロリジン34.5g(90%)を得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ヒドロキシ−保護基を用いて、キラル3−クロロ−2−ヒドロキシプロピオニトリルのヒドロキシ基を保護する工程、及び
(b)得られたヒドロキシ−保護された化合物を水素化反応に供して対応するヒドロキシ−保護されたピロリジン化合物またはその塩酸塩を製造する工程を含む、キラル3−ヒドロキシピロリジン及びその誘導体の製造方法。
【請求項2】
前記工程(b)のヒドロキシ−保護されたピロリジン化合物を脱保護する工程、または前記工程(b)のヒドロキシ−保護されたピロリジン化合物を求核攻撃を受けやすい基質と反応させてN−誘導体化し、得られたN−誘導体化されたピロリジン化合物を脱保護する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記水素化反応は、金属触媒の存在下に水素雰囲気下で行われることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記金属触媒が、Pd、Pt、ラネーNi及びラネーCoからなる群から選択されることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記水素雰囲気は、1〜50barの圧力で水素を供給することによって形成されることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記工程(a)の前記ヒドロキシ−保護基が、前記工程(b)の水素化反応中に分解されないことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記ヒドロキシ−保護基が、シリル基またはベンジル基であることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記シリル基が、下記化学式6で表されることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【化1】

式中、R’、R’’及びR’’’は、それぞれ独立して、C〜Cアルキル基、C〜Cシクロアルキル基、C〜Cアルケン基、C〜Cアルキン基、C〜Cアルコキシ基、C〜C10のアリール基、または(CH−R(ここで、RはC〜Cシクロアルキル基、C〜Cアルケン基、C〜Cアルキン基、C〜Cアルコキシ基、またはC〜C10のアリール基であり、Lは1〜8の整数である)を表す。
【請求項9】
前記シリル基が、pH1〜6の酸性条件化で脱保護されることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記ヒドロキシ−保護基が、ベンジル基であり、前記工程(b)の前記水素化反応がラネーNi金属触媒の存在下に、水素雰囲気下で行われることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記キラル3−ヒドロキシピロリジン及びその誘導体が、下記化学式1で表されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【化2】

式中、Zは水素またはベンジル基であり、RはC〜C10アルキル基、C〜C10アルケン基、C〜C10アルキン基、C〜C10アルコキシ基、(C〜C10)−アルキルオキシカルボニル基、C〜C10アリール基、C〜C10シクロアルキル基、C〜C10シクロアルケニル基、ヘテロサイクルまたはポリサイクル基、C〜C10カルボニル基、C〜C10カルボキシル基、シリル基、エーテル基、チオエーテル基、セレノエーテル基、ケトン基、アルデヒド基、エステル基、ホスホリル基、ホスホネート基、ホスフィン基、スルホニル基、(CH−R(ここで、Rは、C〜C10アルケン基、C〜C10アルキン基、C〜C10アルコキシ基、C〜C10アリール基、C〜C10シクロアルキル基、C〜C10シクロアルケニル基、ヘテロサイクルまたはポリサイクル基、C〜C10カルボニル基、C〜C10カルボキシル基、シリル基、エーテル基、チオエーテル基、セレノエーテル基、ケトン基、アルデヒド基、エステル基、ホスホリル基、ホスホネート基、ホスフィン基、及びスルホニル基を表し、kは1〜8の整数である)または、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アミノ基、チオール基、アルキルチオール基、ニトロ基、アミン基、イミン基、またはアミド基からなる群から選択されるこれらの置換体を示す。
【請求項12】
前記方法が、(a)シリル基及びベンジル基からなる群から選択されるヒドロキシ−保護基を用いて、キラル3−クロロ−2−ヒドロキシプロピオニトリルのヒドロキシ基を保護する工程及び(b)得られたヒドロキシ−保護された化合物を対応するピロリジン化合物またはその塩酸塩の製造に供する工程を含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記方法が、前記工程(b)のヒドロキシ−保護されたピロリジン化合物を脱保護する工程、または前記工程(b)のヒドロキシ−保護されたピロリジン化合物を求核攻撃を受けやすい基質と反応させてN−誘導体化し、得られたN−誘導体化されたピロリジン化合物を脱保護する工程をさらに含む、請求項12に記載の方法。

【公表番号】特表2009−507783(P2009−507783A)
【公表日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−527850(P2008−527850)
【出願日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際出願番号】PCT/KR2006/003341
【国際公開番号】WO2007/024113
【国際公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【出願人】(506310072)アールエステック コーポレイション (3)
【Fターム(参考)】