説明

高分子凝集剤

【課題】 環境負荷が少なく安全性に優れ、カチオン性が大で、汚泥(下水汚泥等の有機性汚泥等)や廃水の処理において、優れた凝集性能(フロック粒径、フロック強度、ろ液量およびケーキ含水率)を示す高分子凝集剤を提供する。
【解決手段】 グアニジル基を有するアミノ酸を構成単位の少なくとも一部とする架橋型ポリペプチドを含有してなる高分子凝集剤;該高分子凝集剤を汚泥または廃水に添加、混合してフロックを形成させ、固液分離を行うことを特徴とする汚泥または廃水の処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高分子凝集剤に関する。さらに詳しくは架橋型ポリペプチドを含有してなる高分子凝集剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、下水汚泥、し尿(以下、汚泥と略記)もしくは一般産業廃水(以下、廃水と略記)等の有機性もしくは無機性の汚泥または廃水の処理には、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸ソーダ、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート重合物、あるいはこれらを構成するモノマーの2種またはそれ以上の共重合物等の合成高分子凝集剤が多用されていた。
しかしながら、これらの合成高分子凝集剤は、汚泥等を処理した後の処理液に残留した場合には、生分解性が悪く環境内に蓄積される懸念があること、前記モノマーには毒性が懸念されるものが含まれていること等、環境上種々問題のあることが指摘されている。
【0003】
そこで、環境負荷の少ない高分子凝集剤として、ポリペプチド、多糖類等の天然高分子凝集剤が注目されている。
例えば、ポリペプチド高分子凝集剤としては、ε−ポリリジンを架橋させてなる高分子凝集剤(例えば特許文献1参照)や、γ−ポリグルタミン酸およびそれを架橋させてなる高分子凝集剤(例えば特許文献2参照);多糖類の高分子凝集剤としては、キチン・キトサンを用いた高分子凝集剤(例えば特許文献3参照)が知られている。
しかしながら、これらの高分子凝集剤は、環境上での問題はないが凝集性能面で効果が低く、使用範囲が限定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−236307号公報
【特許文献2】特開2002−210307号公報
【特許文献3】特開2000−140509号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、汚泥または廃水の処理のうち、とくに下水汚泥等の有機性汚泥にはカチオン性の合成高分子凝集剤が使用されている。これは、通常負電荷を有する汚泥成分と高分子凝集剤の正電荷との間の静電気的な相互作用で、高分子凝集剤が汚泥成分を吸着するためであり、これにより脱水機の圧搾に耐えうる強固なフロックの形成が可能となる。従って、高分子凝集剤の正電荷量が大きいほど、汚泥成分の吸着性が大きく凝集性能に優れた凝集剤となり得る。
【0006】
しかしながら、前記ε−ポリリジンを架橋させてなる高分子凝集剤は、カチオン基が1級アミンであることから、従来の主要なカチオン性合成高分子凝集剤が有する3級アンモニウムや4級アンモニウムといったカチオン基よりカチオンの強さが劣るという問題があった。
また、前記γ−ポリグルタミン酸からなる高分子凝集剤はカチオン基を有さないため、有機性汚泥の脱水用の合成高分子凝集剤の代替とはなり難い。多糖類を用いた高分子凝集剤においても、そのカチオン性は弱く、従来の主要なカチオン性合成高分子凝集剤の代替とはなり難い。
【0007】
本発明の目的は、環境負荷が少なく、カチオン性が大で、下水汚泥等の有機性汚泥に対して優れた凝集性能(フロック粒径、フロック強度、ろ液量およびケーキ含水率。以下同じ。)を示す架橋型ポリペプチドを含有してなる高分子凝集剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、本発明に到達した。すなわち、本発明は、グアニジル基を有するアミノ酸(a)を構成単位の少なくとも一部とする架橋型ポリペプチド(A1)を含有してなる高分子凝集剤(P)である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の高分子凝集剤は下記の効果を奏する。
(1)ポリペプチドを含有してなるため、環境負荷が少なく安全性に優れる。
(2)従来の架橋型ポリペプチド高分子凝集剤よりも凝集性能に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[架橋型ポリペプチド(A1)]
本発明の高分子凝集剤(P)は架橋型ポリペプチド(A1)を含有してなる。(A1)は、グアニジル基を有するアミノ酸(a)を構成単位の少なくとも一部とするポリペプチドを架橋させてなる架橋型ポリペプチドである。
(a)には、下記の一般式(1)で表されるアミノ酸が含まれ、グアニジル基を含むアミノ酸であれば天然アミノ酸、合成アミノ酸のいずれであってもよい。
【0011】
【化1】

【0012】
式(1)中、R1は炭素数(以下Cと略記)1〜10のアルキレン基を表す。
前記一般式(1)で表されるもののうち、天然アミノ酸としては、L−アルギニン、D−アルギニン等が挙げられるが、自然界に大量に存在するため工業上の観点から好ましいのはL−アルギニンである。
【0013】
(A1)を構成するポリペプチド中の(a)の構成割合は、ポリペプチドの高カチオン化の観点から好ましくは20モル%以上、さらに好ましくは50モル%以上、とくに好ましくは100モル%である。
【0014】
(A1)を構成するポリペプチドは、(a)以外のその他のアミノ酸を構成単位とすることができる。該その他のアミノ酸としては、アミノ基が1個のもの(アラニン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン酸、グリシン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、チロシン、バリン等)、アミノ基が2個のもの(リシン、アスパラギン、グルタミン、トリプトファン等)、アミノ基が3個のもの(ヒスチジン等)等が挙げられる。これらのうち高カチオン化の観点から好ましいのはヒスチジンおよびリシンである。
【0015】
本発明における架橋前のポリペプチド(未架橋ポリペプチドということがある)の分子量[測定は後述のMALDI−TOF MASS法(数千〜数万)、SDS−PAGE法(数千〜20万)またはアガロースゲルを用いた二次元電気泳動(アガロースゲル2−DE)法(20万〜50万)による。以下同じ。]は、後述する架橋型ポリペプチド(A1)の凝集性能および凝結性能の観点から好ましくは1,000〜200,000、さらに好ましくは4,000〜100,000である。
【0016】
なお、ポリペプチドの分子量測定方法は以下のとおりである。これらの方法および前記二次元電気泳動(アガロースゲル2−DE)法は未架橋および架橋ポリペプチドのいずれにも適用することができる。
(1)MALDI−TOF MASS法による分子量測定
<マトリックス溶液の作製>
シナピン酸(SA)をアセトニトリル[0.1%(V/V)TFA含有]に溶解し、濃度10mg/mLの溶液とする。該溶液にイオン交換シリカゲルを50mg/mLになるように添加してシリカゲル−SA懸濁液とする。該懸濁液1mL当たり0.5mg(0.05%)のドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を加えて、シリカゲル−SA−SDS懸濁液とし、これをマトリックス溶液とする。
<サンプル調整>
次にポリペプチド水溶液(0.5mg/200μL)0.5μLをMALDIサンプルプレートに塗布し、上記で作製したシリカゲル−SA−SDS懸濁液1μLを試料スポット上に塗布する。20分間自然乾燥し、MALDI−TOF MASSを測定する。
【0017】
(2)SDS−PAGE法による分子量測定
本方法については、「遺伝子クローニングのためのタンパク質構造解析」(平野 久著東京化学同人、1993年刊行)に記載されている。
架橋前のポリペプチドの測定は5%アクリルアミドゲルを用いて定電圧(CV)150Vで30分間電気泳動させることで分子量を測定する。また、架橋後のポリペプチドの測定には30%のアクリルアミドゲルを用いて、定電圧(CV)150Vで90分間電気泳動させることで分子量を測定する。
【0018】
(a)を構成単位の少なくとも一部とするポリペプチドのうち、天然物としては、核酸に作用する高カチオン性のヒストンやプロタミン、大豆タンパク質由来のβ−コングリシニンやグリシニン、SRタンパク質(セリン・アルギニンリッチなもの)等の天然タンパク質が挙げられる。
これらのうち例えばヒストンは分子量10,000〜20,000で構成アミノ酸の20モル%以上がアルギニンおよびリシンであり、プロタミンは分子量約5,000で構成アミノ酸の約60モル%がアルギニンである。
【0019】
本発明におけるポリペプチドとしては、該天然物の他に、化学合成や遺伝子組替えで設計された非天然物であってもよく、該非天然物としては、人工的に設計した配列であれば特に限定はなく、アミノ酸(a)を構成単位の少なくとも一部とするポリペプチドであればよい。
例えば公知のFmoc固相合成法、Boc固相合成法等により任意のアミノ酸を出発物質として合成される、人工の配列を持つ50〜1,000個のアミノ酸を構成単位とするポリペプチドで、構成アミノ酸のうち5〜100モル%がアミノ酸(a)であるものが挙げられる。ここにおいて、Fmoc固相合成法は下記の非特許文献1に、また、Boc固相合成法は非特許文献2に記載されている。
【0020】
【非特許文献1】Fmoc solid phase peptide synthesis:a practical approach,Weng C.Chen,Peter D.White.,Oxford University Press,New York,2000.
【非特許文献2】Peptide synthesis and applications,John Howl,Vol.298,Methods in Molechlar Biology,2005.,HUMANA Press.
【0021】
前記ポリペプチドのうち、構成単位の(a)が高含量である観点から好ましいのはプロタミン、さらに好ましいのはアルギニンの構成割合が約60モル%の魚類プロタミンである。
【0022】
本発明における架橋型ポリペプチド(A1)は、前記未架橋ポリペプチドを架橋剤を用いて架橋することにより得られる。架橋により形成される結合としては共有結合、イオン結合、水素結合等が挙げられる。これらのうち架橋が容易に形成できる観点から好ましいのは共有結合、イオン結合である。
該架橋剤には、後述する、未架橋ポリペプチド中の官能基と反応性の官能基を有する化合物、および酵素が含まれる。
【0023】
共有結合を形成させる架橋方法のうち代表的なものには、ポリペプチド中の複数のアミノ基と反応性の官能基を2個以上有する、エポキシド、イソシアネート、アジド、アルデヒド、塩化スルホニル、ヒドロキシコハク酸イミドまたはカルボキシル基含有化合物等を架橋剤として反応させて架橋する方法、ポリペプチド中のカルボキシル基と反応性の官能基を2個以上有する、カルボジイミドまたはアミノ化合物等を架橋剤として反応させて架橋する方法、ポリペプチド中の複数のチオール基と反応性の官能基を2個以上有する、ハロゲン化アルキル、マレイミドまたはアジリジン化合物等を架橋剤として反応させて架橋する方法等の化学的方法が含まれる。
これらのうち架橋による高分子化が容易である観点から好ましいのは、ポリペプチド中の複数のアミノ基と反応性のグリシジル基を2個有するエポキシ化合物を反応させて架橋する方法である。
【0024】
共有結合を形成させる架橋方法においては、上記の化学的方法以外に、酵素反応により架橋させてもよく、用いられる酵素としてはトランスグルタミナーゼ、リジルオキシダーゼ、ペルオキシダーゼ等が挙げられる。
該架橋方法では、架橋前のポリペプチド中に酵素活性をもたらす基質となるアミノ酸配列あるいは特異的な3次構造を有している必要がある。
【0025】
トランスグルタミナーゼは、ペプチド鎖中のグルタミン残基のγ−カルボキサミド基のアシル転移反応を触媒する酵素である。アシル受容体としてペプチド鎖中のリジン残基のε−アミノ基が作用すると、蛋白質間にε−(γ−Glu)Lys架橋結合が形成される。この反応を利用してペプチドおよび/または蛋白質を架橋高分子化する技術が実用化されている(例えば特開昭58−149645公報、特公平6−65280公報参照)。
リジルオキシダーゼは、ペプチド鎖中のリジン残基をアリジン残基にする酸化的脱アミノ反応を触媒する。アリジン残基にペプチド鎖中のリジン残基が作用すると、ペプチド鎖間に架橋結合が形成する。この反応を利用すればペプチドおよび/または蛋白質原料の架橋高分子化による改質が可能である(例えば特開平2−245145公報参照)。
ペルオキシダーゼはAH2+H22→2H2O+Aの反応を触媒する酵素であり、フェノール性水酸基を共有結合させることができる。つまり、チロシンを有するタンパク質が基質となり得る。例えば、牛血清アルブミンまたはチオグロブリンを基質として架橋させることが可能である(特開平11−75887)。
【0026】
イオン結合を形成させる架橋方法としては、ポリペプチド中のカチオン基(アミノ基等)またはアニオン基(カルボキシル基、スルホ基等)とイオン結合可能な官能基(カルボキシル基、スルホ基またはアミノ基)を2個以上有する化合物(架橋剤)でポリペプチドを架橋する方法が挙げられる。
架橋剤のアニオン基としては、カルボキシル基、スルホ基等が挙げられる。
カルボキシル基を有する架橋剤としては、C2〜15のもの、例えばシュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、クエン酸、トリメリット酸、あるいはこれらの塩等の低分子化合物や、数平均分子量[以下Mnと略記。測定はゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)法による。]1,000〜50,000のもの、例えばポリアクリル酸、ポリグルタミン酸およびこれらの塩等の高分子化合物が挙げられる。
スルホ基を含有する架橋剤としては、C3〜15のもの、例えば1,3−プロパンジスルホン酸、2、2’−ベンジジンジスルホン酸、1、5’−ナフタレンジスルホン酸、ナフタレントリスルホン酸やこれらの塩等が挙げられる。
【0027】
また、架橋剤のカチオン基としては、1〜3級アミンや4級アンモニウム塩等が挙げられる。これらの例としては、C2〜15のもの、例えばエチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、ペンタエチレンヘキサミン等が挙げられる。
また、後述する非架橋ポリペプチド(A2)は、イオン結合を形成する架橋剤として用いることもできる。
これらイオン結合を形成させる架橋は、架橋前のポリペプチドを溶解させた水溶液に架橋剤を所定量添加して行うが、反応溶液中のpHに大きく影響を受けるため、中性付近(pH5.0〜7.5)で行うことが好ましい。
【0028】
架橋剤の添加量は、未架橋ポリペプチドの組成や分子量および架橋剤の架橋点数によって大きく異なるが、得られる架橋型ポリペプチドの水溶性が保持できる量とすることが必要である。なお、本発明において水溶性とは、20℃の水に対する溶解性(g/水100g)が1以上であることを意味することとする。
架橋反応に基づく架橋剤と未架橋ポリペプチドとの当量の比は、ポリペプチドの高分子量化および水溶性保持の観点から好ましくは10-7/1〜1/1、さらに好ましくは10-5/1〜10-3/1である。
【0029】
本発明における架橋型ポリペプチド(A1)の、SDS−PAGE法による分子量は凝集性能の観点から好ましくは20万以上である。また、1N−NaNO3水溶液中30℃で測定される(A1)の固有粘度(dl/g)は、凝集性能および溶解性の観点から好ましくは0.1〜20、さらに好ましくは5〜15である。
【0030】
[非架橋型ポリペプチド(A2)]
本発明の高分子凝集剤(P)は、前記架橋型ポリペプチド(A1)の他に、必要により本発明の効果を阻害しない範囲で非架橋型ポリペプチド(A2)を含有させてもよい。
(A2)のうち、通常汚泥または廃水が有する電荷の中和を補う観点から好ましいのは、側鎖にカチオン基(アミノ基等)および/またはアニオン基(カルボキシル基、スルホ基等)を有するアミノ酸で構成されるポリペプチドである。
側鎖にカチオン基を有するアミノ酸としては、アルギニン、リシン、ヒスチジン等、アニオン基を有するアミノ酸としては、グルタミン酸、アスラギン酸等が挙げられる。
【0031】
(A2)の分子量は、凝集性能および凝結性能の観点から好ましくは後述の測定条件におけるMALDI−TOF MASS法、SDS−PAGE法もしくはアガロース2−DE法による分子量100〜500,000、さらに好ましくは1,000〜100,000である。
また、(A2)の分子量は、前記1N−NaNO3水溶液中30℃で測定される固有粘度(dl/g)で表した場合は、凝集性能および凝結性能の観点から好ましくは0.1〜15、さらに好ましくは0.3〜10である。
【0032】
本発明の高分子凝集剤(P)は、前記(A1)、または、(A1)と(A2)から構成される。(A1)と(A2)から構成される場合は、いずれも粉末状の(A1)と(A2)を任意の割合で均一配合することにより得られる。
(A1)と(A2)の重量比は、凝集性能および水溶性の観点から好ましくは50/50〜99/1、さらに好ましくは70/30〜95/5である。
【0033】
[高分子凝集剤(Q)]
本発明の高分子凝集剤(P)は、本発明の効果を阻害しない範囲で必要により共重合体(B1)を含有してなる、高分子凝集剤(P)以外の高分子凝集剤(Q)を併用することができる。
共重合体(B1)は、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸(塩)および下記一般式(2)で表される水溶性モノマーからなる群から選ばれる少なくとも1種のモノマーを構成単位としてなる。

CH2=CR4−CO−X−(Q−N+567・Z-)m(H)1-m (2)

式(2)中、XはOまたはNH;QはC1〜4のアルキレン基またはC2〜4のヒドロキシアルキレン基;R4はHまたはメチル基;R5、R6、R7はそれぞれ独立にH、C1〜16のアルキル、アラルキルまたはアルキルアリール基;Z-は対アニオン;mは0または1の数を表す。
【0034】
本発明における(Q)の分子量は、1N−NaNO3 水溶液中30℃で測定した固有粘度(dl/g)で表した場合、下限は通常0.1、凝集性能(とくにフロックの粗大化)の観点から好ましくは1、さらに好ましくは2、最も好ましくは4、上限は凝結性能(とくにフロック強度の向上)の観点から好ましくは20、さらに好ましくは18、最も好ましくは16である。
【0035】
(Q)の製造法としては特に限定はなく、例えば水溶液重合、逆相懸濁重合、沈澱重合および逆相乳化重合等のラジカル重合法を用いることができる。これらのうち工業的観点から好ましいのは、水溶液重合、逆相懸濁重合および逆相乳化重合、さらに好ましいのは水溶液重合および逆相懸濁重合である。
水溶液重合としては、例えばモノマー水溶液を外部からの熱の出入りがない断熱容器中に入れ、断熱重合させる方法(例えば特公昭59−40843号公報)およびモノマー水溶液を外部から温度調整可能な容器中で定温重合させる方法(例えば特開平3−189000号公報)を用いることができる。
【0036】
逆相懸濁重合としては、例えば水溶性モノマーの水溶液を油溶性高分子物質またはノニオン性界面活性剤を分散安定剤として、油中水型に分散して重合させる方法(例えば特開昭56−53111号公報)を用いることができる。
【0037】
本発明の高分子凝集剤(P)と前記高分子凝集剤(Q)を併用する場合の、(P)を構成する(A1)および(A2)の合計と、(Q)を構成する(B1)との重量比、は、環境負荷低減および凝集性能の観点から好ましくは40/60〜99/1、さらに好ましくは60/40〜98/2、とくに好ましくは80/20〜95/5である。
また、該併用には、汚泥等への適用に際して(P)と(Q)を予め均一混合した高分子凝集剤として併用する方法、および、汚泥等を(P)または(Q)で別々に逐次的に処理して併用する方法が含まれる。
【0038】
本発明の高分子凝集剤を汚泥または廃水に添加する方法としては、特に限定はなく、例えば特許第1311340号公報または特許第2038341号公報等に記載の方法が挙げられる。
本発明の高分子凝集剤の使用量は、汚泥等の種類、懸濁粒子の含有量、高分子凝集剤の分子量等により異なるが、特に限定はなく、汚泥等中の蒸発残留物重量(以下、TSと略記)に基づいて、通常0.01〜10%、凝集性能の観点から好ましい下限は0.1%、さらに好ましくは0.5%、とくに好ましくは1%、処理コストの観点から好ましい上限は5%、さらに好ましくは3%、とくに好ましくは2%である。
【0039】
本発明の高分子凝集剤の使用方法としては、十分な凝集性能の観点から水溶液にした後に汚泥等に添加するのが好ましいが、高分子凝集剤を固体の状態で直接汚泥等に添加することもできる。高分子凝集剤を水溶液として用いる場合の濃度は、取り扱い上および溶解速度の観点から好ましくは0.05〜1重量%である。
高分子凝集剤の溶解方法としては、特に限定されることはなく、例えば予め秤り取った水をジャーテスター等の撹拌装置を用いて撹拌しながら所定量の高分子凝集剤を徐々に加え、数時間(約2〜4時間程度)かけて溶解させる方法等が採用できる。粉末状の高分子凝集剤を水に溶解させる際に、所定量の高分子凝集剤を一気に加える方法はままこを生じ、完全に水に溶解させることが困難となることから好ましくない。
【0040】
本発明の高分子凝集剤の添加の際には、汚泥等のpHを予め調整しておいてもよい。pHの調整範囲は通常3〜8、加水分解防止の観点から好ましい下限は3.5、さらに好ましくは4、とくに好ましくは4.5、溶解性の観点から好ましい上限は7、さらに好ましくは6、とくに好ましくは5.5である。
pHの調整方法としては、特に限定されることはなく、無機酸(硫酸、塩酸、リン酸、硝酸等)等の酸性物質や苛性アルカリ(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等)等のアルカリ性物質を用いる方法が挙げられる。
【0041】
また、本発明の高分子凝集剤を汚泥等に添加して形成されたフロックの脱水方法(固液分離法)としては、遠心脱水、フィルタープレス脱水、ベルトプレス脱水、スクリュープレス脱水およびキャピラリー脱水等の種々の脱水法が適用できる。これらのうち、本発明の高分子凝集剤の特異的な凝集性能である高フロック強度の観点から好ましいのは、スクリュープレス脱水およびベルトプレス脱水である。
【実施例】
【0042】
以下実施例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。実施例中の部は重量部、%は重量%を表す。
【0043】
実施例1[架橋型ポリペプチド(A1−1)を含有してなる高分子凝集剤(P−1)]
反応容器中で、サーモン由来のプロタミン[商品名「しらこたん白抽出物」、上野製薬(株)製。アルギニン含量60モル%、分子量約5,000。]10gを100mLのジメチルホルムアミド(DMF)に溶解し、50℃のオイルバス中で5分混合した。同温度で撹拌しながら、濃度0.02重量%に調整したエチレングリコールジグリシジルエーテルのDMF溶液5mLを10分かけて添加した。その後50℃で5時間撹拌を継続して架橋反応させた。
【0044】
架橋型プロタミンの回収は以下の手順で行った。まず、反応液に300mLのジエチルエーテルを添加して混合し、遠心分離(10,000G、15分間、4℃)した。上澄み液を除去し、再度ジエチルエーテルを50mL加えて撹拌洗浄を行い、遠心分離(10,000G、15分間、4℃)した。上澄み液を除去して得られた白色粉末を蒸留水30mLに溶解し、凍結乾燥することで架橋型プロタミン(A1−1)を含有してなる粉末状の高分子凝集剤(P−1)を得た。(A1−1)の固有粘度(単位はdl/g。1N−NaNO3水溶液中30℃で測定。以下同じ。)は10.0であった。架橋前のプロタミンの固有粘度は0.1であったことから架橋により高分子量化されたことが確認できた。また、SDS−PAGE法を用いて(A1−1)の分子量を確認したところ、架橋前が約5,000であったのに対し、架橋後は20万以上となっていることが分かった。
【0045】
製造例1[非架橋型ポリペプチド(A2−1)]
アミノ酸(アルギニン)配列を有するポリペプチド(A2)(30個のアルギニンが結合したもの。分子量4,703.6)をペプチド合成機[型番「PSSM−8」、(株)島津製作所製]を用いたFmoc固相合成法により合成した。樹脂担体としてC−末端活性化アミド樹脂であるTGS−RAM[(株)島津製作所製]100mgを用いた。樹脂は反応容器に採取し、DMF2mLを加え、静置して一晩膨潤させた。カップリング試薬として、2−(1H−ベンゾトリアゾール−1−イル)−1,1,3,3,−テトラメチルウロニウム ヘキサフルオロホスフェート)(HBTU)/1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)/N−メチルモルホリン系を用いた。各カップリング反応は反応性N末端に対して3当量のFmoc−Arg(Pbf)を添加し、縮合剤溶液(HBTU18.3g、HOBt・H2O7.5g、DMF96mLを混合した溶液)を1.5mL、続いてジイソプロピルエチルアミン(DIEA)16.5mLとN−メチルピロリジン(NMP)88.5mLの混合溶液を1.3mL添加し、30分間窒素バブリングにて撹拌し反応させた。続いて、20%ピペリジン(PPD)/DMF溶液を2mL添加し3分間窒素バブリングにて撹拌し、脱Fmocを行った。続いて、DMFを2mL加えて1分間窒素バブリングにて撹拌し洗浄を行った。この洗浄は5回行った。上記のカップリング反応、脱Fmoc、洗浄を30回繰り返し、ペプチド鎖を伸長した。合成完了後、脱保護および樹脂からの切り出しは、トリフルオロ酢酸(TFA)1.72mL、水50μL、トリイソプロピルシラン(TIS)30μL、1,2−エタンジチオール100μL、チオアニソール100μLの混合液を加え、3時間静置にて反応させて行った。その後、ろ過した反応液に窒素ガスを吹きかけることでTFAをできるだけ除去し、残渣にジエチルエーテルを加えることにより白色の析出物を得た。さらにここで得られた析出物を遠心機により沈降させた後(3,500G、5分、4℃)、上澄み液のジエチルエーテルをデカンテーションした。この操作を3回行った。次に真空ポンプで乾燥させることにより粗精製のペプチドを得た。次にこのペプチドを、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)[型番「ELITE LaChrom」、日立ハイテクノロジーズ(株)製、逆相カラムは、「Cosmosil 5C18 AR−300」、10mm×250mm、ナカライ(株)製]を用い、0.1%TFA水溶液/0.1%TFAアセトニトリル溶液を溶離液として、2mL/分の流速で0.1%TFAアセトニトリル溶液を10%から0.6%/分のグラジエントで50%まで上げることで分離精製を行った。分取したサンプルを凍結乾燥後、白色の固体を得た。この生成物について、MALDI−TOF MASS法により分子量を測定したところ、分子量は4,703であり、理論値とほぼ一致したことから、合成できたことを確認した。
【0046】
実施例2〜4[(A1−1)と(A2−1)を含有してなる高分子凝集剤(P−2〜P−4)]
架橋型ポリペプチド(A1−1)の粉末と、非架橋型ポリペプチド(A2−1)の粉末の混合割合(重量比)がそれぞれ50/50、80/20、95/5となるように均一混合して、それぞれ高分子凝集剤(P−2)、(P−3)、(P−4)を得た。
【0047】
製造例2[水溶性モノマーの共重合体(B1−1)を含有してなる高分子凝集剤(Q−1)]
反応容器に2−アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリドの80%水溶液79.7部、アクリルアミドの50%水溶液46.8部および水46部を仕込み、撹拌、混合して均一水溶液とした。その後スルファミン酸の10%水溶液を用いて該水溶液のpHを3.0に調整した。液中に窒素を5分間通気して窒素置換した後、2,2’−アゾビス−(アミジノプロパン)ジハイドロクロライドの8.7%水溶液0.1部およびチオグリセロールの1.0%水溶液0.1部を添加し、密閉下50℃で20時間重合させた。その後反応容器内のゲルを取り出し細断後、循風乾燥機で50℃×10時間乾燥させ、さらにジューサーミキサーで粉砕して粉末状の水溶性共重合体(B1−1)を含有してなる高分子凝集剤(Q−1)得た。(B1−1)の固有粘度は10.1dl/g、カチオンコロイド当量値は3.78meq/gであった。
【0048】
実施例5[(A1−1)と(B1−1)を含有してなる高分子凝集剤(R−1)]
架橋型ポリペプチド(A1−1)の粉末80部、共重合体(B1−1)の粉末20部を均一混合して高分子凝集剤(R−1)を得た。
【0049】
実施例6[(A1−1)、(A2−1)および(B1−1)を含有してなる高分子凝集剤(R−2)]
架橋型ポリペプチド(A1−1)の粉末60部、非架橋型ポリペプチド(A2−1)の粉末20部、共重合体(B1−1)の粉末20部を均一混合して高分子凝集剤(R−2)を得た。
【0050】
比較例1
実施例1で用いたサーモン由来のプロタミン(非架橋のプロタミン)を含有してなる高分子凝集剤を(比P−1)とした。(比P−1)の固有粘度は0.1dl/gであった。
【0051】
比較例2
非架橋型ポリペプチド(A2−1)のみを含有してなる高分子凝集剤を(比P−2)とした。
【0052】
比較例3
(B1−1)のみを含有してなる高分子凝集剤を(比P−3)とした。
【0053】
比較例4
粉体ε−ポリリジン[チッソ(株)製]を0.5g/Lとなるようにイオン交換水に溶解し、該溶液10mLとメタノール10mLを混合した後、50℃のオイルバス中で5分間撹拌しながら温度調整した。次に7−エチルオクタデカン二酸ジグリシジル[岡村精油(株)製]を0.5g/Lとなるようにメタノール10mLに懸濁させた懸濁液を30分かけて前記の溶液に徐々に滴下した。全量滴下した後、50℃で12時間保つことで架橋反応させた。架橋高分子化ε−ポリリジンの回収は前記特許文献1に記載の方法で行い、架橋ε−ポリリジン高分子凝集剤(比P−4)を得た。(比P−4)の分子量は、SDS−PAGE法による測定では20万以上であった。また、1N−NaNO3水溶液中30℃で測定した固有粘度(dl/g)は9.1であった。
【0054】
実施例1〜6、比較例1〜4[凝集性能評価]
上記で得られた高分子凝集剤をそれぞれイオン交換水に溶解して固形分含量0.2%の水溶液とした。A市処理場から採取した消化汚泥[pH7.4、TS(蒸発残留物含量)2.9%、SS(浮遊物質含量)2.7%、有機分65%、アルカリ度4,543mg−CaCO3/L]200部を500mLのビーカーに採り、上記高分子凝集剤の各水溶液16、19、22部を添加し(この時の固形分添加量はそれぞれ0.6、0.7、0.8%/TS)、性能を評価した。結果を表1に示す。
【0055】
<性能評価方法>
(1)フロック粒径(mm)
ジャーテスター[宮本理研工業(株)製、形式JMD−6HS−A]に板状の塩ビ製撹拌羽根(直径5cm、高さ2cm、厚さ0.2cm)2枚を十字になるように上下に連続して撹拌棒に取り付け、汚泥または廃水200mLを500mLのビーカーに取り、ジャーテスターにセットした。ジャーテスターの回転数を120rpmにし、ゆっくり汚泥または廃水を撹拌しながら、所定量の0.2%の高分子凝集剤水溶液を一度に添加し、30秒間撹拌した後、撹拌を止め形成されたフロックの粒径(mm)を目視にて観察した。続いて回転数を300rpmにセットし、さらに30秒間撹拌した後、撹拌を止め該フロックの大きさを再度目視にて観察した。
【0056】
(2)ろ液量(mL)
T−1189のナイロン製ろ布[敷島カンバス(株)製、円形状、直径9cm]、ヌッチェ漏斗、300mLが測れるメスシリンダーをセットし、上記フロック粒径の評価後の汚泥を一度に投入して濾過し、ストップウォッチを用いて投入直後から60秒後までのろ液量を測定し処理速度を評価した。
【0057】
(3)ケーキ含水率(%)
濾過した汚泥の一部をスパーテルで取り出し、プレスフィルター試験機を用いて脱水試験(1kg/cm2、60秒)を行い、試験後の脱水ケーキ約3.0gをシャーレに秤量(W1)して、循風乾燥機中で完全に水分が蒸発するまで(105±5℃×8時間)乾燥させた後、シャーレ上に残った乾燥ケーキの重量を(W2)として、次式からケーキ含水率を算出した。

ケーキ含水率(%)={(W1)−(W2)}×100/(W1)
【0058】
【表1】

【0059】
表1から、実施例1の本発明の高分子凝集剤は比較例1、2、4に比べて、凝集性能(フロック粒径、フロック強度、ろ液量およびケーキ含水率)が極めて優れていることが分かる。このことからプロタミンを架橋高分子量化することで極めて凝集性能が向上し、非架橋のプロタミン、非架橋ポリペプチドまたは従来型の架橋ポリペプチドよりはるかに優れることがわかる。さらに、実施例1〜6の本発明の高分子凝集剤は、比較例3と同等またはそれ以上の凝集性能を示した。このことから本発明の架橋型ポリペプチド、または該架橋型ポリペプチドを含有してなる高分子凝集剤は、合成高分子凝集剤に匹敵する凝集性能を有することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の高分子凝集剤は、従来の合成高分子凝集剤と同等またはそれ以上の凝集性能を発揮し、かつ環境に対する安全性に優れることから、汚泥(とくに有機性汚泥等)または廃水の処理等、高分子凝集剤が活用される分野で幅広く利用することができ極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グアニジル基を有するアミノ酸(a)を構成単位の少なくとも一部とする架橋型ポリペプチド(A1)を含有してなる高分子凝集剤(P)。
【請求項2】
(a)が、下記一般式(1)で表されるアミノ酸の少なくとも1種である請求項1記載の高分子凝集剤(P)。
【化1】

[式(1)中、R1は炭素数1〜10のアルキレン基を表す。]
【請求項3】
(A1)中の(a)の構成単位の割合が、20〜100モル%である請求項1または2記載の高分子凝集剤(P)。
【請求項4】
(A1)が、未架橋ポリペプチドを架橋剤を用いて架橋させてなる請求項1〜3のいずれか記載の高分子凝集剤(P)。
【請求項5】
架橋剤と未架橋ポリペプチドとの当量比が、10-7/1〜1/1である請求項4記載の高分子凝集剤(P)。
【請求項6】
1N−NaNO3水溶液中30℃で測定した(A1)の固有粘度が0.1〜20dl/gである請求項1〜5のいずれか記載の高分子凝集剤(P)。
【請求項7】
さらに、非架橋型ポリペプチド(A2)を含有させてなる請求項1〜6のいずれか記載の高分子凝集剤(P)。
【請求項8】
(A1)と(A2)の重量比が、50/50〜99/1である請求項7記載の高分子凝集剤(P)。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか記載の高分子凝集剤(P)と、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸(塩)および下記一般式(2)で表される水溶性モノマーからなる群から選ばれる少なくとも1種のモノマーを構成単位とする(共)重合体(B1)を含有してなる高分子凝集剤(Q)を併用してなる高分子凝集剤(R)。

CH2=CR4−CO−X−(Q−N+567・Z-) m(H)1-m (2)

[式(2)中、XはOまたはNH;Qは炭素数1〜4のアルキレン基または炭素数2〜4のヒドロキシアルキレン基;R4はHまたはメチル基;R5、R6、R7はそれぞれ独立にH、炭素数1〜16のアルキル、アラルキルまたはアルキルアリール基;Z-は対アニオン;mは0または1の数を表す。]
【請求項10】
(A1)と(A2)の合計と(B1)との重量比が、40/60〜99/1である請求項9記載の高分子凝集剤(R)。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか記載の高分子凝集剤を汚泥または廃水に添加、混合してフロックを形成させ、固液分離を行うことを特徴とする汚泥または廃水の処理方法。

【公開番号】特開2012−210579(P2012−210579A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−77443(P2011−77443)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【Fターム(参考)】