説明

高分子材料の超音波接合方法およびその装置

【課題】超音波接合を行う高分子材料の全数について超音波接合時に精度良く接合の良否を判断できる高分子材料の超音波接合方法およびその装置を提供すること。
【解決手段】超音波振動を与えるホーン16とホーン16に相対するアンビル18との間に高分子材料40a,40bを挟んで加圧し、高分子材料40a,40bの接触界面40cに超音波振動を与えることにより高分子材料40a,40bをその接触界面40cで接合する超音波接合装置10において、アンビル18の少なくとも一部を赤外線透過体22で構成するとともに赤外線透過体22を透過した赤外線Rを検知する赤外線放射温度計36を設け、高分子材料40a,40bの超音波接合時にその接合界面40dから放射されるとともに高分子材料40bおよび赤外線透過体22を透過した赤外線Rにより、超音波接合時における接合界面の温度を測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子材料の超音波接合方法およびその装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば樹脂フィルムなどの高分子材料同士を接合(溶着)する方法としては、超音波接合装置を用いて行う超音波接合方法が知られている。具体的には、例えば、超音波振動を与えるホーンとこのホーンに相対するアンビルとの間に高分子材料を挟んで加圧し、高分子材料同士の接触界面に超音波振動を与えることにより高分子材料同士をその接触界面で接合している。
【0003】
このとき、高分子材料同士の接合が確実に行われたか否かの判断は、例えば、超音波接合後に、その接合状態を見ることにより行うことができる。そして、この判断をもとに、超音波接合条件の良否を判断して、超音波接合条件を設定することができる。
【0004】
また、超音波溶接の良否を判別する方法としては、特許文献1にも開示されている。具体的には、アンビル上に載置された第1の被溶接部材とこの第1の被溶接部材上に重合されてホーンチップで押圧される第2の被溶接部材とをホーンチップから付与される超音波によって超音波溶接する工程において、放射温度計を用いて、測定部分に対し非接触の状態で溶接部の温度と載置部の温度とを測定し、これらをそれぞれ基準値と比較することで超音波溶接の良否を判別する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−202644号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
超音波接合後の接合状態を見て超音波接合条件を設定する方法は、繰返し超音波接合を行ってもホーンやアンビルの劣化が生じない場合には有効であるが、実際には、高分子材料に接触するホーンの先端表面や高分子材料を載置するアンビルの表面は摩耗等により劣化する。ホーンやアンビルの表面が摩耗してくると、超音波接合時における高分子材料同士の接触界面の温度は上がりにくくなるため、定期的に超音波接合条件を確認する必要がある。したがって、この方法では、作業が繁雑になる。また、その確認するタイミングは分かりにくいため、接合不良のものを生産するおそれがあり、接合物の品質が安定しないおそれがある。
【0007】
また、特許文献1に記載の方法では、超音波接合時には接合界面はホーンおよびアンビルによって覆われており、超音波接合時に接合界面の温度を測定することは困難である。そして、接合界面の近傍の温度を測定する場合には、接合界面の温度を測定する方法に比べて測定精度が落ちるため、接合界面の近傍の温度に基づいて接合の良否を判断することは困難である。そうすると、接合不良のものを生産するおそれがあり、接合物の品質が安定しないおそれがある。
【0008】
超音波接合時における接合界面の温度は、接合の良否を判断する重要な因子である。そして、超音波接合時に接合界面の温度をモニタできれば、超音波接合を行う高分子材料の全数について超音波接合時に精度良く接合の良否を判断できるため、超音波接合された高分子材料の品質は安定する。したがって、超音波接合時における接合界面の温度を測定する方法が望まれる。
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、超音波接合を行う高分子材料の全数について超音波接合時に精度良く接合の良否を判断できる高分子材料の超音波接合方法およびその装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため本発明に係る高分子材料の超音波接合方法は、超音波接合する高分子材料を載置するアンビルの少なくとも一部に赤外線透過体を用い、前記高分子材料の超音波接合時にその接合界面から放射された赤外線を該赤外線透過体を介して検知して、前記超音波接合時における接合界面の温度を測定することを要旨とするものである。
【0011】
この際、前記超音波接合時における接合界面の温度を測定するための赤外線は、前記高分子材料の接合界面に直交する方向に放射された赤外線であることが望ましい。
【0012】
そして、前記超音波接合時における接合界面の温度は、前記高分子材料および前記赤外線透過体を介して赤外線放射温度計により測定された被測定物の測定温度と、前記被測定物の実温度と、の関係式を用いて算出すると良い。
【0013】
また、本発明に係る高分子材料の超音波接合装置は、超音波振動を与えるホーンと該ホーンに相対するアンビルとの間に高分子材料を挟んで加圧し、前記高分子材料の接触界面に超音波振動を与えることにより前記高分子材料をその接触界面で接合する高分子材料の超音波接合装置において、前記アンビルの少なくとも一部を赤外線透過体で構成するとともに、前記高分子材料の超音波接合時にその接合界面から放射された赤外線を該赤外線透過体を介して検知する赤外線放射温度計を設けたことを要旨とするものである。
【0014】
この際、前記赤外線透過体は、前記アンビルの前記ホーンに相対する部分に用いられており、前記ホーンおよび前記赤外線透過体を通る直線上に前記赤外線放射温度計が配置されている、あるいは、前記ホーンおよび前記赤外線透過体を通る直線上に赤外線反射ミラーが配置されるとともにその赤外線反射ミラーの反射先に前記赤外線放射温度計が配置されていると良い。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る高分子材料の超音波接合方法によれば、超音波接合する高分子材料を載置するアンビルの少なくとも一部に赤外線透過体を用いており、超音波接合時にその接合界面から放射された赤外線は高分子材料および赤外線透過体を透過する。そして、この赤外線透過体を透過した赤外線により、超音波接合時における接合界面の温度を測定するので、超音波接合時に接合界面の温度をモニタできる。これにより、超音波接合を行う高分子材料の全数について超音波接合時に精度良く接合の良否を判断できるため、超音波接合された高分子材料の品質が安定する。
【0016】
この際、高分子材料の接合界面に直交する方向に放射された赤外線により超音波接合時における接合界面の温度を測定するようにすれば、赤外線の強度が大きいため、精度良く温度測定ができる。測定温度の精度が上がれば、より精度良く接合の良否を判断できる。
【0017】
そして、上記特定の関係式を用いて超音波接合時における接合界面の温度を算出するようにすれば、接合界面から放射された赤外線が高分子材料を透過することによる測定温度への影響を除くことができるため、より精度良く温度測定ができる。測定温度の精度が上がれば、より精度良く接合の良否を判断できる。
【0018】
また、本発明に係る高分子材料の超音波接合装置によれば、アンビルの少なくとも一部を赤外線透過体で構成するとともにこの赤外線透過体を透過した赤外線を検知する赤外線放射温度計を設けたことから、高分子材料の超音波接合時にその接合界面から放射される赤外線を赤外線透過体を介して赤外線放射温度計で検知できるため、超音波接合時における接合界面の温度をモニタできる。これにより、超音波接合を行う高分子材料の全数について超音波接合時に精度良く接合の良否を判断できるため、超音波接合された高分子材料の品質が安定する。
【0019】
この際、アンビルのホーンに相対する部分に上記赤外線透過体が用いられ、ホーンおよび赤外線透過体を通る直線上に赤外線放射温度計が配置されているか、あるいは、ホーンおよび赤外線透過体を通る直線上に赤外線反射ミラーが配置されるとともにその赤外線反射ミラーの反射先に赤外線放射温度計が配置されている場合には、高分子材料の接合界面に直交する方向に放射された赤外線により超音波接合時における接合界面の温度をモニタできる。そして、接合界面に直交する方向に放射された赤外線は放射率が高いため、精度良く接合界面の温度をモニタできる。これにより、より精度良く接合の良否を判断できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第一実施形態に係る超音波接合装置を表す模式図である。
【図2】超音波接合装置10の作用・効果を説明する模式図である。
【図3】本発明の第二実施形態に係る超音波接合装置を表す模式図である。
【図4】高分子材料および赤外線透過体を介して赤外線放射温度計により測定された測定温度と接合強度との関係を模式的に表したグラフである。
【図5】高分子材料および赤外線透過体を介して赤外線放射温度計により測定された測定温度と実温度との関係を模式的に表したグラフである。
【図6】高分子材料および赤外線透過体を介して赤外線放射温度計により測定された測定温度と実温度との関係を求めるための装置を表す模式図である。
【図7】高分子材料および赤外線透過体を介して赤外線放射温度計により測定された測定温度と実温度との関係を求めるための装置を表す模式図である。
【図8】高分子材料および赤外線透過体を介して赤外線放射温度計により測定された測定温度と実温度との関係を示すグラフである。
【図9】実施例1における接合経過時間と上昇温度との関係を示すグラフである。
【図10】実施例2における接合経過時間と上昇温度との関係を示すグラフである。
【図11】実施例3、4における接合経過時間と上昇温度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0022】
まず、本発明に係る高分子材料の超音波接合方法を実施するのに好適な、本発明に係る高分子材料の超音波接合装置の実施形態について説明する。なお、本発明において、上下方向は図中のW方向とする。
【0023】
本発明の第一実施形態に係る高分子材料の超音波接合装置10(以下、超音波接合装置10ということがある。)は、図1に示すように、発振器12と、この発振器12に接続され、発振器12により振動する振動子14と、この振動子14に連接され、振動子14の振動が伝達されて振動するホーン16と、このホーン16に相対する位置(図1では、ホーン16の下方位置)に配置され、超音波接合する高分子材料を載置するステージとなるアンビル18と、振動子14の上方に配置され、振動子14および振動子14に連接されたホーン16を振動子14の上方から押圧してこれらを下方に押し下げる押圧部20と、からなる基本的構成を備えている。
【0024】
これらの基本的構成を備える超音波接合装置10の基本的動作としては次の通りである。すなわち、互いに相対配置されたホーン16とアンビル18との間に超音波接合する高分子材料を配置し、押圧部20によりホーン16を押し下げてホーン16により高分子材料を加圧しながら所定の周波数で超音波振動させる。超音波振動は、図示しない電源により発振器12が作動し、発振器12により振動子14が上下方向に振動され、この振動子14の振動がホーン16に伝達されてホーン16が上下方向に振動することにより、高分子材料に伝達される。この超音波振動により、高分子材料はその接触界面で超音波接合される。
【0025】
そして、超音波接合装置10においては、アンビル18の一部を、赤外線が透過できる赤外線透過体22で構成している。より具体的には、アンビル18は、高分子材料が載置される載置面24aを有する板状の載置部24と、この載置部24を支える支持部26とにより構成されている。載置部24のホーン16に相対する中央位置には、載置部24を上下方向に貫通する貫通孔28が穿設されており、この貫通孔28を塞ぐ窓となるように、アンビル18の載置部24に板状の赤外線透過体22が取り付けられている。すなわち、アンビル18の載置部24は、その上下方向に赤外線が透過できる赤外線透過窓を備えている。
【0026】
支持部26は、載置部24のホーン16に相対する位置を外した載置部24の周辺位置で載置部24を支えており、載置部24のホーン16に相対する中央位置の下方には空間部30が形成されている。そして、この空間部30が存在することにより、載置部24の上下方向に赤外線が赤外線透過体22を透過できるようになっている。この空間部30内において、ホーン16および赤外線透過体22を通る直線上には、赤外線を反射する赤外線反射ミラー32が、ホーン16および赤外線透過体22を通る直線に対してそのミラー面32aを45°傾けた状態にして設置されている。さらに、その赤外線の反射先には、反射された赤外線が空間部30からアンビル18の外に放出されるための赤外線通路34が設けられており、この赤外線通路34によって空間部30と外部とがつながっている。そして、赤外線反射ミラー32から見て赤外線通路34の先には、赤外線反射ミラー32により反射されてアンビル18の外に放出された赤外線を検知するための赤外線放射温度計36の赤外線検知部36aが配置されている。
【0027】
このような構成のアンビル18の支持部26は、ロードセル38上に固定されており、アンビル18は上下方向に移動可能になっている。これにより、上下方向の位置合わせが可能になっている。
【0028】
赤外線透過体22を構成する材料としては、特に限定されるものではなく、使用する赤外線放射温度計の検知波長域を透過しやすい材料であれば良い。一般的な赤外線放射温度計の検知波長域である0.7〜14μm域を透過しやすい材料としては、例えば、NaCl・KBr・KCl・CsI等のアルカリハライド類、BaF、ZnS、ZnSe、Geなどを挙げることができる。これらは、特に、板状のものが好ましい。
【0029】
赤外線反射ミラー32のミラー面32aを構成する材料としては、特に限定されるものではなく、赤外線を反射しやすい材料であれば良い。このような材料としては、例えば、Ag、Au、Cuなどを挙げることができる。また、通常の光学用Al蒸着ミラーを用いても良い。
【0030】
超音波接合可能な高分子材料としては、特に限定されるものではないが、赤外線を透過しやすい材料が好ましい。その形状としては、フィルム状が好ましい。より具体的には、例えば、PETフィルムなどを挙げることができる。
【0031】
高分子材料として、例えば樹脂フィルムを例に挙げて、超音波接合時における超音波接合装置10の作用・効果について説明する。図2に示すように、アンビル18の載置部24内の赤外線透過体22とホーン16との間に重ね合わされた2枚の樹脂フィルム40a,40bを超音波振動させると、その接触界面40cの温度が上昇し、その接触界面40cで樹脂フィルム40a,40bの樹脂が溶着され、2枚の樹脂フィルム40a,40bが接合される。その超音波接合時には、2枚の樹脂フィルム40a,40bの接合界面40dからその温度に基づく赤外線Rが放射される。放射された赤外線Rは、下側の樹脂フィルム40bおよび赤外線透過体22を通過し、空間部30内の赤外線反射ミラー32のミラー面32aに到達する。到達した赤外線Rはミラー面32aで反射され、空間部30から赤外線通路34を通ってアンビル18の外に放出される。そして、赤外線反射ミラー32から見て赤外線通路34の先に設置された赤外線放射温度計36の赤外線検知部36aにより、アンビル18の外に放出された赤外線Rを検知する。この検知した赤外線Rにより、超音波接合時における樹脂フィルム40a,40bの接合界面40dの温度を測定(モニタ)できる。
【0032】
また、超音波接合装置10においては、アンビル18のホーン16に相対する部分に赤外線透過体22が用いられており、ホーン16および赤外線透過体22を通る直線上に赤外線反射ミラー32が配置されるとともにその赤外線反射ミラー32の反射先に赤外線放射温度計36が配置されているため、樹脂フィルム40a,40bの接合界面40dに直交する方向に放射された赤外線Rにより超音波接合時における樹脂フィルム40a,40bの接合界面40dの温度をモニタできる。そして、この接合界面40dに直交する方向に放射された赤外線Rは強度が大きいため、精度良く接合界面40dの温度をモニタできる。
【0033】
次に、本発明の第二実施形態に係る高分子材料の超音波接合装置について説明する。第二実施形態に係る高分子材料の超音波接合装置110(以下、超音波接合装置110ということがある。)は第一実施形態に係る超音波接合装置10と同様の基本的構成を備えている。具体的には、図3に示すように、発振器12と、振動子14と、ホーン16と、アンビル18と、押圧部20と、からなる基本的構成を備えている。
【0034】
また、第二実施形態に係る超音波接合装置110は、第一実施形態に係る超音波接合装置10と同様にアンビル18の一部を赤外線透過体22で構成している。第二実施形態に係る超音波接合装置110は、第一実施形態に係る超音波接合装置10と比較して、ホーン16および赤外線透過体22を通る直線上に、赤外線反射ミラーに代えて赤外線放射温度計36が配置されている点が異なっている。この赤外線放射温度計36の赤外線検知部36aは、赤外線透過体22を介してホーン16の先端面16aに向けられており、赤外線透過体22を介して赤外線放射温度計36により、超音波接合時における高分子材料の接合界面の温度を測定(モニタ)できるようになっている。すなわち、赤外線反射ミラーを介さないで赤外線放射温度計36により直接温度測定するものである。
【0035】
また、第二実施形態に係る超音波接合装置110によれば、高分子材料の接合界面に直交する方向に放射された赤外線により超音波接合時における接合界面の温度をモニタできる。そして、接合界面に直交する方向に放射された赤外線は強度が大きいため、精度良く接合界面の温度をモニタできる。
【0036】
次に、本発明に係る高分子材料の超音波接合方法(以下、本超音波接合方法ということがある。)について、第一実施形態に係る超音波接合装置10を用いて(図1および図2を用いて)説明する。なお、本発明に係る高分子材料の超音波接合方法は、第二実施形態に係る超音波接合装置110を用いて行うこともできる。
【0037】
まず、超音波接合する高分子材料40a,40bを超音波接合装置10のアンビル18の載置部24の載置面24a上に載置する。次いで、ホーン16の先端面16aとアンビル18の載置部24の載置面24aとで高分子材料40a,40bを挟み加圧した状態で高分子材料40a,40bに超音波振動を付与して、高分子材料40a,40bをその接触界面40cで接合する。
【0038】
そして、本超音波接合方法においては、この超音波接合時における高分子材料40a,40bの接合界面40dの温度を測定することに特徴がある。すなわち、この接合界面40dの温度をモニタしながら高分子材料40a,40bの超音波接合を行う。高分子材料40a,40bの超音波接合においては、超音波振動によって高分子材料40a,40bが溶着されることによりその接触界面40cで高分子材料40a,40bが接合されることから、超音波接合時における高分子材料40a,40bの接合界面40dの温度は、その接合界面40dの接合の良否を判断する指標にできる。したがって、超音波接合時における接合界面40dの温度からその接合界面40dの接合の良否を判断することにより、安定した品質の接合物(超音波接合された高分子材料)を得ることができる。
【0039】
この際、超音波接合する高分子材料40a,40bを載置するアンビル18の少なくとも一部に赤外線透過体22を用いる。より具体的には、例えば、アンビル18の高分子材料40a,40bを載置する載置部24の載置面24aから載置部24の下方に形成された空間部30まで赤外線透過体22が連続する赤外線透過窓をアンビル18の載置部24内に設ける。これにより、高分子材料40a,40bの超音波接合時にその接合界面40dから放射された赤外線Rは、高分子材料40bおよび赤外線透過体22を透過して、アンビル24内の空間部30に到達する。そして、この空間部30内に設けられた赤外線反射ミラー32を介して赤外線反射ミラー32の反射先に設けられた赤外線放射温度計36により、赤外線透過体22を透過した赤外線Rを検知する。これにより、超音波接合時における接合界面40dの温度が測定できる。この測定温度に基づいてその接合界面40dの接合の良否を判断する。
【0040】
このとき、ホーン16および赤外線透過体22を通る直線上に赤外線反射ミラー36を配置し、高分子材料40a,40bの接合界面40dに直交する方向の赤外線Rを赤外線反射ミラー36で反射させて、この反射された赤外線Rを検知するようにすると、赤外線の強度が大きいため、精度良く温度測定ができる。
【0041】
ここで、高分子材料40a,40bの超音波接合時にその接合界面40dから放射された赤外線Rは、赤外線放射温度計36に到達する前に、高分子材料40bおよび赤外線透過体22を透過する。したがって、赤外線Rは赤外線放射温度計36に到達する前に高分子材料40bおよび赤外線透過体22により吸収されて減衰する。また、接合界面40dの材料の赤外線放射率で接合界面40dから赤外線Rは放射される。そのため、この方法においては、超音波接合時における接合界面40dの実温度と、その放射赤外線Rによる測定温度との間にずれが生じている。
【0042】
この測定温度をもとに、温度のずれを補正しないで、その接合界面40dの接合の良否を判断することもできるが、この温度のずれを補正して、実温度に近い温度をもとに、その接合界面40dの接合の良否を判断する場合には、測定温度の精度が上がるため、より精度良く接合の良否を判断できる。
【0043】
この測定温度をもとに、温度のずれを補正しないで、その接合界面40dの接合の良否を判断する方法としては、例えば、図4に示すように、予め、高分子材料40bおよび赤外線透過体22を透過した赤外線による測定温度と高分子材料40a,40bの接合強度(例えば接合界面40dの剥離強度など)との関係を求めておき、この関係と測定温度とにより、その接合界面の接合の良否を判断する方法を挙げることができる。例えば超音波接合時における接合界面40dの赤外線放射温度計36による測定温度がA℃であったとすると、図4のグラフから、超音波接合時における接合界面40dの接合強度をXと算出することができる。例えばこのXの値が閾値Yを超えていれば、十分に接合されたと判断できる。
【0044】
これに対し、温度のずれを補正して、実温度に近い温度をもとに、その接合界面40dの接合の良否を判断する場合、図5に示すように、予め、高分子材料40bおよび赤外線透過体22を透過した赤外線による測定温度と実温度との関係を求めておき、この関係と測定温度とにより、その接合界面40dの実温度を算出する方法を採用することが好ましい。例えば超音波接合時における接合界面40dの赤外線放射温度計36による測定温度がA℃であったとすると、図5のグラフから、接合界面40dの実温度をA’℃と算出することができる。例えば算出した実温度A’℃が高分子材料40a,40bの溶着温度を超えていれば、十分に接合されたと判断できる。
【0045】
図5に示す関係は、例えば図6に示す装置を用いて求めることができる。具体的には、赤外線透過体22の上に、超音波接合する高分子材料と同じ(厚さ・材質の)高分子材料40bを載置し、この高分子材料40bの上に、赤外線を通さない十分厚いシリコンゴム42を載置し、このシリコンゴム42の上にアルミブロック44を載置し、このアルミブロック44の上にブロックヒーター46を載置する。アルミブロック44はシリコンゴム42を均一に加熱するものである。赤外線透過体22の下方には赤外線放射温度計36を配置し、その赤外線検知部36aを高分子材料40bに向ける。次いで、高分子材料40bとシリコンゴム42との間の、赤外線放射温度計36により温度検知する領域外に、熱電対48を挿入する。
【0046】
次いで、アルミブロック44を介してブロックヒーター46でシリコンゴム42を所定温度に加熱し、温度が安定したところで、高分子材料40bとシリコンゴム42との間のシリコンゴム42の表面の温度を熱電対48で測定するとともに、シリコンゴム42の表面から放射され、高分子材料40bおよび赤外線透過体22を透過した赤外線Rを赤外線放射温度計36で検知する。いくつかの加熱温度において、このような操作を行えば、熱電対48で測定した温度と赤外線放射温度計36で測定した温度との関係をグラフに表すことができる。これにより、図5に示す関係を求めることができる。
【0047】
以上の本発明に係る高分子材料の超音波接合方法によれば、超音波接合時における接合界面の温度をモニタできる。これにより、超音波接合を行う高分子材料の全数について超音波接合時に精度良く接合の良否を判断できるため、超音波接合された高分子材料の品質が安定する。
【0048】
また、超音波接合を繰り返し行うと、ホーンやアンビルの表面が摩耗して高分子材料への超音波振動の伝達が悪くなる。そうすると、一定の接合条件(超音波の振幅やホーン荷重など)においては、超音波接合時における接合界面の温度が低下する。これにより、接合不良が生じやすくなる。この問題に対し、本発明に係る高分子材料の超音波接合方法によれば、超音波接合時に接合界面の温度をモニタするため、超音波接合時における接合界面の温度低下により、ホーンやアンビルの表面の摩耗などの影響で超音波振動の伝達が悪くなっていることが把握できる。これにより、接合条件の変更のタイミング、あるいは、ホーンやアンビルを交換するタイミングを把握できる。そして、これにより、高分子材料の接合不良品の産出を防止できる。
【0049】
さらに、接合界面の温度をモニタできるので、これに基づいて、接合条件を決定することもできる。
【実施例】
【0050】
以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0051】
<放射赤外線に基づく測定温度と実温度との関係の算出>
図7に示すように、厚さ5mmのNaCl板(22)の上に厚さ188μmのPETフィルム(40b)を載置し、このPETフィルム(40b)の上に厚さ10mmの赤外線を通さない板状のシリコンゴム(42)を載置し、このシリコンゴム(42)の上にアルミブロック(44)を載置し、このアルミブロック(44)の上にブロックヒーター(46)を載置した。次いで、PETフィルム(40b)とシリコンゴム(42)との間の、赤外線放射温度計(36)により温度検知する領域外に、熱電対(48)を挿入し、シリコンゴム(42)の表面にポリイミドテープを用いて熱電対(48)を貼り付けた。次いで、アルミブロック(44)を介してブロックヒーター(46)でシリコンゴム(42)を所定温度に加熱した。なお、アルミブロック(44)はシリコンゴム(42)を均一に加熱するために設置している。
【0052】
温度が安定したところで、PETフィルム(40b)とシリコンゴム(42)との間のシリコンゴム(42)の表面の温度を熱電対(48)で測定するとともに、シリコンゴム(42)の表面から放射され、PETフィルム(40b)とNaCl板(22)を透過し、赤外線を反射する銀ミラー(32)で反射された赤外線(R)に基づいて、赤外線放射温度計(36)を用いて温度を測定した。この際、プラスチックの赤外線放射率は0.90であり、厚さ5mmのNaCl板(22)の赤外線透過率は0.95であり、銀ミラー(32)による赤外線反射率は100%であるとして測定した。
【0053】
シリコンゴム(42)は赤外線(R)を通さないことから、図7において赤外線放射温度計(36)を用いて測定できるのは、PETフィルム(40b)とシリコンゴム(42)との間のシリコンゴム(42)の表面までであり、この範囲内において最も温度の高いところはシリコンゴム(42)の表面である。したがって、赤外線放射温度計(36)は、このシリコンゴム(42)の表面から放射され、PETフィルム(40b)とNaCl板(22)を透過する赤外線(R)の放射量を測定している。
【0054】
各温度についてそれぞれ3回測定した。その結果を表1に示した。また、熱電対による測定値と赤外線放射温度計による測定値との関係を図8(グラフ1)に表した。
【0055】
図8(グラフ1)によれば、熱電対による測定値と赤外線放射温度計による測定値とが比例関係にあることが確認できた。そこで、この関係と赤外線放射温度計による測定値とからシリコンゴム表面の実温度を算出できることが確認できた。
【0056】
これによれば、赤外線透過率が不明な高分子材料について、予め熱電対による測定値と赤外線放射温度計による測定値との関係を求めておけば、超音波接合時における接合界面の温度を全数モニターできることが確認できた。
【0057】
なお、厚さ188μmのPETフィルムの赤外線透過率の影響により、熱電対による測定値と赤外線放射温度計による測定値との関係を表すグラフ1(図8)は、所定の傾きと切片を有するものになっている。
【0058】
<超音波接合>
(実施例1)
図1に示す構成の超音波接合装置を用い、上記PETフィルムと同じPETフィルム(厚さ188μm)の超音波接合を行った。具体的には、図2に示すように、赤外線透過体であるNaCl板(厚さ5mm)上にPETフィルムを2枚重ねて載置した。次いで、振幅14μm、ホーン荷重23Nの条件下で10秒間超音波接合を行った。この際、赤外線放射温度計により、超音波接合時における接合界面の温度を測定した。より具体的には、超音波接合時に接合界面から放射され、PETフィルムおよびNaCl板を透過し、赤外線反射ミラーにより反射された赤外線を赤外線放射温度計で検出することにより、超音波接合時における接合界面の温度を測定した。次いで、図8のグラフをもとにこの測定温度を実温度に変換し、さらに、室温(23℃)との温度差(上昇温度ΔT℃)に変換して、経過時間(Time)と上昇温度ΔTとの関係を求めた。その結果を図9(グラフ2)に示した。
【0059】
(実施例2〜4)
超音波接合条件(振幅、ホーン荷重)を変更した以外は、実施例1と同様にして超音波接合を行い、このときの経過時間(Time)と上昇温度ΔTとの関係を求めた。その結果を図10(グラフ3)、図11(グラフ4)に示した。
【0060】
実施例1〜2の接合条件では、超音波接合時に接合界面の温度が十分に上昇しており、超音波接合が適切に行われたことが分かる。実際、超音波接合後のPETフィルムは十分に接合されていた。これに対し、実施例3〜4の接合条件では、超音波接合時に接合界面の温度があまり上昇しておらず、超音波接合が適切に行われていないことが分かる。実際、超音波接合後のPETフィルムは接合されていなかった。
【0061】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【0062】
例えば、本超音波接合方法において、第二実施形態に係る超音波接合装置110を用いる場合には、空間部30内には赤外線放射温度計36が設けられていることから、空間部30内に設けられた赤外線放射温度計により、赤外線透過体を透過した赤外線を検知することにより、超音波接合時における接合界面の温度が測定できる。そして、空間部30内に赤外線放射温度計36を設ける場合には、ホーン16および赤外線透過体22を通る直線上に赤外線放射温度計36を配置し、高分子材料の接合界面に直交する方向の赤外線を検知するようにすると、赤外線の強度が大きいため、精度良く温度測定ができる。
【符号の説明】
【0063】
10 超音波接合装置
12 発振器
14 振動子
16 ホーン
18 アンビル
20 押圧部
22 赤外線透過体
32 赤外線反射ミラー
36 赤外線放射温度計
40a、40b 高分子材料
40c 接触界面
40d 接合界面
R 赤外線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波接合する高分子材料を載置するアンビルの少なくとも一部に赤外線透過体を用い、前記高分子材料の超音波接合時にその接合界面から放射された赤外線を該赤外線透過体を介して検知して、前記超音波接合時における接合界面の温度を測定することを特徴とする高分子材料の超音波接合方法。
【請求項2】
前記超音波接合時における接合界面の温度を測定するための赤外線は、前記高分子材料の接合界面に直交する方向に放射された赤外線であることを特徴とする請求項1に記載の高分子材料の超音波接合方法。
【請求項3】
前記超音波接合時における接合界面の温度は、前記高分子材料および前記赤外線透過体を介して赤外線放射温度計により測定された被測定物の測定温度と、前記被測定物の実温度と、の関係式を用いて算出することを特徴とする請求項1または2に記載の高分子材料の超音波接合方法。
【請求項4】
超音波振動を与えるホーンと該ホーンに相対するアンビルとの間に高分子材料を挟んで加圧し、前記高分子材料の接触界面に超音波振動を与えることにより前記高分子材料をその接触界面で接合する高分子材料の超音波接合装置において、
前記アンビルの少なくとも一部を赤外線透過体で構成するとともに、前記高分子材料の超音波接合時にその接合界面から放射された赤外線を該赤外線透過体を介して検知する赤外線放射温度計を設けたことを特徴とする高分子材料の超音波接合装置。
【請求項5】
前記赤外線透過体は、前記アンビルの前記ホーンに相対する部分に用いられており、前記ホーンおよび前記赤外線透過体を通る直線上に前記赤外線放射温度計が配置されている、あるいは、前記ホーンおよび前記赤外線透過体を通る直線上に赤外線反射ミラーが配置されるとともにその赤外線反射ミラーの反射先に前記赤外線放射温度計が配置されていることを特徴とする請求項4に記載の高分子材料の超音波接合装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−152725(P2011−152725A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−16202(P2010−16202)
【出願日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】