説明

高分子結晶デバイス

【課題】電極間にステップによる電気的接合の欠陥がなく、分子配列の規則性が高く、電気的特性が向上した高分子結晶デバイスを提供する。
【解決手段】螺旋型ポリアセチレンからなる高分子結晶401と一対の電極403,404を備えたデバイスにおいて、前記一対の電極403,404の各々の電極の少なくとも一部を、前記螺旋型ポリアセチレンからなる高分子結晶の同一テラス402内に配置する。また、前記一対の電極403,404間を結ぶ任意の直線のうち、少なくとも一部を、螺旋型ポリアセチレンの螺旋軸に平行になるように配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規な高分子デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、電子回路の集積化が進む中で有機半導体等の導電性有機物を用いた有機デバイスが注目を浴びている。有機デバイスは曲げることが可能である利点や、また溶液からのプロセスが可能になると安価にデバイス作製が出来、大面積へのプロセスが可能になる利点がある。有機半導体はペンタセンのような低分子系の有機半導体とポリチオフェンなどの高分子系の半導体がある。高分子系の半導体は特に溶液プロセスとの親和性がよいため大面積プロセス、低価格プロセス用の導電性材料として注目されている。
【0003】
有機半導体において分子配列の規則性を向上させることで性能向上させる試みがなされている。特許文献1ではペンタセンあるいはルブレンなどの低分子系の有機半導体の性能向上に単結晶化が有効であることが報告されている。
【0004】
高分子系半導体としてはポリチオフェンやポリフェニレンビニレンなどが挙げられるが、螺旋型ポリアセチレンが電子デバイスに応用可能な材料として注目されている。例えば、特許文献2では電極間に螺旋型ポリアセチレンを平行に配向した配向膜デバイスが電子デバイスに応用できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−053659号公報
【特許文献2】特開2008−084979号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2には、電極間に分子が配向している高分子配向デバイスが開示されているが、表面は必ずしも平坦ではなく、一分子径以上の凹凸が生じる可能性があった。一分子径以上の凹凸は高分子配向膜の電子伝導において欠陥となりえるため、必ずしも導電性が十分に上がらない場合があるという課題があった。
【0007】
一般に、結晶の表面を形成する結晶面、あるいはへき開面は完全に平坦ではなく、単原子あるいはその整数倍、または単分子層あるいはその整数倍の段差であるステップを含有している場合が多い。本明細書中では、ステップとステップの間の平坦な領域をテラスと呼ぶ。また一つのテラス内の位置を示す場合を同一テラス、間にステップを挟んだ別のテラスを異なるテラスと定義する。
【0008】
特許文献1の有機低分子結晶デバイスでは結晶表面がステップを含む構造を有している。同一テラス内では非常に高速な電荷伝導が達成できる反面、ステップ構造を挟んだ異なるテラス間ではステップが存在し電荷伝導が妨げられる欠点があった。また低分子結晶は高分子に比べ一般に柔軟性、成膜性に劣るため、加工性や機械強度等が課題となっていた。
【0009】
本発明は、この様な背景技術に鑑みてなされたものであり、電極間にステップによる電気的接合の欠陥がなく、分子配列の規則性が高く、電気的特性が向上した高分子結晶デバイスを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決する高分子結晶デバイスは、螺旋型ポリアセチレンからなる高分子結晶と一対の電極を備えたデバイスであって、前記一対の電極の各々の電極の少なくとも一部が、前記螺旋型ポリアセチレンからなる高分子結晶の同一テラス内に配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、電極間にステップによる電気的接合の欠陥がなく、分子配列の規則性が高く、電気的特性が向上した高分子結晶デバイスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1A】本発明の螺旋型ポリアセチレンの俯瞰図である。
【図1B】本発明の螺旋型ポリアセチレン分子を螺旋軸に垂直な方向から見た模式図である。
【図1C】本発明の螺旋型ポリアセチレン分子を螺旋軸方向から見た模式図である。
【図2】高分子のファンデアワールス力を説明する説明図である。
【図3−1】本発明の螺旋型ポリアセチレンからなる高分子結晶の結晶構造を説明する説明図である。
【図3−2】本発明に用いる螺旋型ポリアセチレンからなる高分子結晶の概略図である。
【図3−3】本発明に用いる螺旋型ポリアセチレンからなる高分子結晶の概略図である。
【図4−1】本発明の高分子結晶デバイスの一実施態様を示す模式図である。
【図4−2】本発明と比較するための比較デバイスを示す模式図である。
【図4−3】本発明の高分子結晶デバイスの他の実施態様を示す模式図である。
【図4−4】本発明の高分子結晶デバイスの他の実施態様を示す模式図である。
【図4−5】本発明と比較するための比較デバイスを示す模式図である。
【図4−6】本発明の高分子結晶デバイスの他の実施態様を示す模式図である。
【図5】本発明の実施例1で得られた螺旋型ポリアセチレンの高分子結晶の原子間力顕微鏡像である。
【図6】螺旋型ポリアセチレン分子の最適化結果を示す図である。
【図7−1】実施例1で得られた高分子結晶デバイスを示す概略図である。
【図7−2】比較例1で得られた高分子結晶デバイスを示す概略図である。
【図7−3】実施例2で得られた高分子結晶デバイスを示す概略図である。
【図7−4】実施例3で得られた高分子結晶デバイスを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る高分子結晶デバイスは、螺旋型ポリアセチレンからなる高分子結晶と一対の電極を備えたデバイスであって、前記一対の電極の各々の電極の少なくとも一部が、前記螺旋型ポリアセチレンからなる高分子結晶の同一テラス内に配置されていることを特徴とする。
【0014】
本発明の高分子結晶デバイスによれば、分子配列の規則性が高く、電極間にステップによる電気的接合の欠陥のないデバイスが得られるため、従来のデバイスに比べ移動度などの電気的特性を向上することができる。また、本発明の高分子結晶デバイスは、分子鎖が不飽和共有結合で結合した共役高分子からなるため、従来の低分子単結晶デバイスに比べて機械的強度を向上することができる。
【0015】
また、本発明において、前記一対の電極間を結ぶ任意の直線のうち少なくとも一部が、螺旋型ポリアセチレンの螺旋軸に平行に配置されていることが好ましい。前記一対の電極の各々の電極の少なくとも一部が、螺旋型ポリアセチレンの分子長と同じかもしくは狭い間隔で配置されていることが好ましい。前記一対の電極の各々の電極の少なくとも一部が、同一螺旋型ポリアセチレン分子に接していることが好ましい。
【0016】
(螺旋型ポリアセチレン)
本発明に用いられる螺旋型ポリアセチレンは、立体規則的な構造を有する置換ポリアセチレンからなる。下記の構造式(1)に本発明の螺旋型ポリアセチレン分子の構造を示す。
【0017】
【化1】

【0018】
式中、R、Rは側鎖を示し、特に限定されるものはないが、例えば、水素原子、アルキル基、アルキルエステル基、アルキルアミドメチル基、フェニル基、アルキルフェニル基、アルキルオキシフェニル基等、およびそれらから誘導される官能基が挙げられる。nは繰り返し数を示す。
【0019】
本発明の説明には一置換ポリアセチレンを用いて説明を行うが、本発明に用いる螺旋型ポリアセチレンとしては、R、Rはがいずれも官能基である二置換ポリアセチレンでもよく、R、Rのいずれかが水素原子である一置換ポリアセチレンでもよい。
【0020】
次に、本発明に用いられる螺旋型ポリアセチレン分子の構造について説明する。
【0021】
図1Aは本発明の螺旋型ポリアセチレンの俯瞰図である。図1Bは本発明の螺旋型ポリアセチレン分子を螺旋軸に垂直な方向から見た模式図である。図1Cは本発明の螺旋型ポリアセチレン分子を螺旋軸方向から見た模式図である。
【0022】
本発明に用いられる螺旋型ポリアセチレンは、構造式(1)に示すような構造の置換ポリアセチレンが立体規則的な繰返し構造をしており、主鎖のポリアセチレン鎖は図1AからCのように螺旋状の構造を形成している。
【0023】
図1AからCにおいて、本発明に用いる螺旋型ポリアセチレンは立体規則的な構造を有する置換ポリアセチレンからなり、ポリアセチレン主鎖101と側鎖官能基102で構成される。ここで立体規則的とは不斉炭素のタクティシチーではなく、シス/トランスの幾何異性構造や頭尾結合の位置規則性などの構造が規則的であることを示す。側鎖官能基としては例えばフェニル基やカルボキシル基のような官能基が挙げられ、側鎖官能基にRで表されるアルキル鎖103が置換していてもよい。図1Aに示すように、ポリアセチレン主鎖101は二重結合と単結合が交互に結合した共役ポリエン主鎖が螺旋状の構造をしている。本発明においては、螺旋が伸長する方向を螺旋軸方向104とし、螺旋軸方向に垂直な二つの方向105、106のなす面を側鎖面とする。
【0024】
螺旋型ポリアセチレンは主鎖の共役構造により導電性を有する。また、側鎖102にベンゼン環のような芳香環が置換した場合、芳香環間のπスタッキング構造による共役系が形成するため、導電性が向上する。螺旋軸方向にはポリアセチレン主鎖101の共役構造により導電性を有するが、側鎖面に対しては分子間の隔たりがあるため、導電性は低い。また、側鎖102にアルキル鎖103が置換している場合、アルキル鎖103は絶縁性のため、側鎖面にはより絶縁性が高まる。そのため、側鎖面に比べて螺旋軸方向104の導電性が高まり、螺旋軸方向と側鎖面の導電性の異方性が大きい。
【0025】
また、螺旋型ポリアセチレンは主鎖が剛直な不飽和結合により構成されており、図1Bのようにポリアセチレン主鎖が螺旋の中心軸の周りを回転し、螺旋軸方向に進んでいくことにより、分子形状が棒状を呈する。
【0026】
このように螺旋型ポリアセチレンは棒状の形状をしているため、分子鎖間のファンデアワールス力が強く働き、棒状分子が集合した結晶を形成しやすい。
【0027】
図2は、高分子のファンデアワールス力を説明する説明図である。
【0028】
図2AからCに比較分子の分子間相互作用の模式図を示す。図2Aは比較分子の模式図、図2Bは二つの比較分子が接近した模式図、図2Cは二つの比較分子が接した場合の模式図を示す。
【0029】
比較分子は、具体的にはポリスチレンやポリプロピレンなどの不飽和炭化水素を主鎖とする非晶性高分子である。図2Aの比較分子201は剛直性が低く、分子は図2Aのように糸毬状の構造を形成する。そのため、比較分子201,202が接近しても図2Bのように比較分子間の最近接距離にある部分は点と点であり、ファンデアワールス力はほとんど働かない。また、比較分子が接した場合でも、図2Cのように比較分子201,202の間は点と点の接点203でしか接せず、相互作用が小さいため、分子配列の規則性は低い。
【0030】
図2DからFに本発明の螺旋型ポリアセチレン分子の分子間相互作用の模式図を示す。図2Dは本発明の螺旋型ポリアセチレン分子の模式図、図2Eは二つの螺旋型ポリアセチレン分子が接近した模式図、図2Fは二つの螺旋型ポリアセチレン分子が接した場合の模式図を示す。本発明の螺旋型ポリアセチレン204は剛直性があるため、図2Dのように分子は直線状となる。そのため、二つの分子204,205が接近した場合、図2Eのように二つの分子が平行になった場合に分子間力が最も強く、分子間の最近接距離にある部分は線と線になる。そのため、二つの分子が接した場合、図2Fのように接触面206の分子間の接触面積が大きく、分子は平行に配列する。そのため、本発明に用いる螺旋型ポリアセチレンは分子が集合した単結晶のような規則的配列を形成するのに適した高分子である。また、単結晶のような規則性配列中では分子にひずみがかからないため、分子の直線性、つまり螺旋構造の規則性がより高まり、そのため、螺旋軸方向の共役系の広がりがより大きくなり、螺旋軸方向の導電性が向上する。
【0031】
螺旋型ポリアセチレンは例えば以下の方法で作製できる。螺旋型ポリアセチレンは、有機溶媒中で立体規則性重合触媒、例えばロジウム等の遷移金属錯体を用いて、溶媒中で置換アセチレンを重合させることで得られる。置換アセチレンは特に限定されるものはないが、プロピオール酸アルキルエステル、プロパルギルアミド化合物、フェニルアセチレンおよびその誘導体が挙げられる。溶媒は特に限定されるものはないが、トルエン、クロロホルム、メタノール、エタノール等が挙げられる。
【0032】
(分子長)
螺旋型ポリアセチレンの分子長は例えばAFM観察などにより直接評価することもできるし、GPC等の分子量測定と分子構造の最適化計算を組み合わせることにより算出することができる。
【0033】
AFM観察の手法としては例えばシリコン基板上に螺旋型ポリアセチレンの希薄溶液をスピンコート法により塗布したのちにAFM観察を行うことで、螺旋型ポリアセチレン分子が基板上に分散した像を得ることができ、一本一本の長さを直接見積もることができる。
【0034】
GPCによる分子量測定としてはクロロホルムあるいはTHFなどの溶媒を用いてGPCにより分子量を評価し、螺旋型ポリアセチレンの分子構造の最適化計算を行って得られる螺旋構造のピッチの長さと分子量から、分子長を以下の式で算出することができる。
分子長=(螺旋分子の分子量/ピッチあたりの分子量)×ピッチ長
【0035】
(結晶構造)
次に、本発明の螺旋型ポリアセチレンからなる高分子結晶の結晶構造について説明する。図3−1は、本発明の螺旋型ポリアセチレンからなる高分子結晶の結晶構造を説明する説明図である。
【0036】
図3A,Bに本発明に用いる螺旋型ポリアセチレン(以降、HPAとも記す。)分子結晶の模式図、図3Cに本発明に用いるHPA結晶の概略図、図3Dにその断面図を示す。図中、301は主鎖、302は側鎖、303は結晶、304はテラス、305は螺旋軸方向、306は螺旋軸に垂直な方向、307は螺旋軸に垂直な方向、308はステップを示す。
【0037】
本発明に用いる螺旋型ポリアセチレンの結晶構造としては特に限定されるものはないが、HPA分子の主鎖301が螺旋軸方向305に一方向に配列し、螺旋軸方向と垂直な方向306,307の断面でカラム状の螺旋型ポリアセチレンが六方晶を形成する図3Cのようなヘキサゴナル構造が挙げられる。
【0038】
(結晶)
螺旋型ポリアセチレンの結晶303の表面には、例えば図3Cに示すような平坦なテラス304が存在する。テラス304はHPA分子が規則的に並んだ構造をしており、テラス304の凹凸は一分子の直径より小さい極めて平坦な面である。結晶内ではHPA分子が規則的な螺旋構造を形成しているため、螺旋軸方向305の共役系が広がり、螺旋軸方向に高い導電性を有する。310は結晶内のHPA分子とHPA分子の境界を示す。
【0039】
(ステップ−テラス)
図3−2は、本発明に用いる螺旋型ポリアセチレンからなる高分子結晶の概略図である。図3Eに本発明に用いるHPA結晶の概略図、図3Fにその断面図を示す。一般に、結晶の表面を形成する結晶面、あるいはへき開面は完全に平坦ではなく、単原子あるいはその整数倍、または単分子層あるいはその整数倍の段差であるステップ308を含有している場合が多い。ステップ308を間に挟んだ異なるテラス304、311のそれぞれのテラスの任意の点の間では共役系のつながりは断たれており、キャリアが移動する確率は低い。本発明の高分子結晶デバイスように同一テラス上に一対の電極が配置されている場合は電極間にステップがなく、共役系のつながりがあるため、導電性が高い。
【0040】
(ステップと螺旋軸)
図3−3は、本発明に用いる螺旋型ポリアセチレンからなる高分子結晶の概略図である。本発明の螺旋型ポリアセチレンは剛直性があるため、分子は直線状となり、分子間の接触面積が大きく、ファンデアワールス力が強く働く。そのため、分子が集合した結晶を形成しやすい。しかし、必ずしもHPA分子の末端は揃っていない。図3GにHPA結晶表面の概略図を示す。309は本発明に用いるHPA分子、304はテラス、308はステップを示す。螺旋軸の方向305は特に限定されるものはなく、図3Gのようにステップ308に垂直に配列してもよいし、ステップに平行に配列していてもよい。図3Gでは螺旋軸305がステップに垂直をなしており、結晶表面の構造は平坦なテラス304と曲線状のステップ308により構成されている。結晶面のエッジであるステップは結晶を構成している螺旋分子の末端のずれに応じた凹凸が生じると考えられる。もし曲線状のステップが観察された場合、観察された曲線ステップはこの凹凸に相当すると考えられるため、HPA分子の螺旋軸はテラスに平行で且つステップに対してほぼ垂直に配向していると考えられる。
【0041】
(結晶の作製方法)
螺旋型ポリアセチレンの結晶の作成方法は特に限定されるものはないが、結晶化温度付近まで加熱することによる結晶化や溶媒蒸気により処理する結晶化、溶媒に溶解させた後に溶媒を蒸発することによる溶媒蒸発法などが挙げられる。
【0042】
加熱による結晶化としては例えば非晶部を有する螺旋型ポリアセチレンの結晶化温度あるいはガラス転移温度をあらかじめ測定しておき、それらの温度の近傍で数分から数時間静置することによって結晶を作製する方法である。
【0043】
溶媒蒸気による結晶化としては例えば非晶部を有する螺旋型ポリアセチレンをトルエンやクロロホルムなどの有機溶媒の蒸気に暴露することにより結晶を作製する方法である。
【0044】
溶媒蒸発による結晶化としては例えば螺旋型ポリアセチレンをトルエンやクロロホルムなどの有機溶媒に溶解し、有機溶媒を蒸発させることにより残存溶液あるいは乾燥した高分子中に結晶を作製する方法である。
【0045】
本発明の高分子結晶デバイスにおいて、例えば溶媒蒸発法による結晶作成は以下のように行う。まず、螺旋型ポリアセチレンのポリマー溶液を準備する。典型的な濃度としては例えば0.1〜100g/lであり、例えば螺旋型ポリアセチレン10mgを溶媒10mlに溶解させることで作製できる。溶媒は螺旋型ポリアセチレンの良溶媒を用いるが、側鎖構造により溶解性が異なるため、必要に応じて適宜選択する。有機溶媒としては例えばトルエンやクロロホルムなどが挙げられる。この際、不溶物が認められる場合はシリンジフィルターなどで取り除く方が好ましい。次に得られた溶液を基板上に滴下する。基板は例えばガラスやシリコンが挙げられるが、必要に応じて適した物を使用すればよい。滴下する量は溶液と基板との接触角、必要な膜の大きさや単結晶の量などを勘案して決めればよいが、10μlから1ml程度が好ましい。乾燥する工程は通常、大気圧下、室温で行うが、蒸発速度を制御する手段を用いても良い。
【0046】
(電極の作成)
本発明において電極の材質は特に限定されるものはないが、例えば金属、金属酸化物、有機導電体などを用いることができる。金属としては例えば金、白金、銅が挙げられる。金属酸化物としては例えばITO、酸化鉛が挙げられる。有機導電体としては例えばポリアニリンやポリチオフェン、ペンタセンやテトラセンが挙げられる。
【0047】
本発明において電極の作成方法は特に限定されるものはないが、例えば、傾斜蒸着法やナノインプリント、光リソグラフィー、メタルマスク蒸着、電子ビーム蒸着、印刷法、塗布法などを用いることができる。
【0048】
(高分子結晶デバイス)
次に、本発明の高分子結晶デバイスについて説明する。図4−1は本発明の高分子結晶デバイスの一実施態様を示す模式図である。401は高分子結晶、402はテラス、403、404は電極、405はステップ、406はHPA分子、407は螺旋軸方向、408は螺旋軸に垂直な方向、409は螺旋軸に垂直な方向を示す。
【0049】
図4Aに本発明の高分子結晶デバイスの模式図、図4Bにその断面図を示す。本発明の高分子結晶デバイスによれば電極403,404は同一テラス402上に配置されているため、電極から電子あるいはホールなどの導電キャリアが電極403付近にある分子に注入される。本発明に用いる螺旋型ポリアセチレン結晶のテラスは導電性の高い螺旋軸方向を含むため、テラスに垂直な厚さ方向に対して導電性が高い。そのため、導電キャリアは同一テラスを伝達して電極403から対抗電極404まで移動するため、電極間のキャリア移動度が高い。
【0050】
(テラス面)
図4−2は本発明と比較するための比較デバイスを示す模式図である。図4Cに比較デバイスの模式図、図4Dにその断面図を示す。図4Cの比較デバイスのようにステップ405を複数含み、電極403,404がステップ405で隔てられた異なるテラス402,410に配置されている場合、電極403から注入された導電キャリアはテラス402内を優先的に移動するため、異なるテラス410に配置された対向電極404付近には到達しにくい。そのため、同一テラス上に一対の電極がある場合に比べて導電キャリアの移動度が低下する。
【0051】
図4−3は本発明の高分子結晶デバイスの他の実施態様を示す模式図である。図4Eに本発明の高分子結晶デバイス2の模式図、図4Fにその断面図を示す。図4E,Fのような本発明の高分子結晶デバイス2では一対の電極が同一テラス面に配置されているおり、電極403から注入された導電キャリアは同一テラス内の分子の螺旋軸方向に対向電極404付近まで優先的に移動するため、図4C,Dの比較デバイスのように一対の電極がステップで隔てられている場合に比べて導電キャリアの移動度が向上する。
【0052】
(螺旋軸平行電極対)
図4−4は本発明の高分子結晶デバイスの他の実施態様を示す模式図である。
【0053】
図4Gに一対の電極間を結ぶ任意の直線の一部が螺旋型ポリアセチレン結晶の螺旋軸方向407に平行になるように電極対が配置した場合の本発明の高分子結晶デバイス3の模式図、図4Hにその断面図を示す。また、図4−5は本発明と比較するための比較デバイスを示す模式図である。図4Iに比較デバイスの模式図、図4Jにその断面図を示す。前述したように本発明に用いる螺旋型ポリアセチレン結晶では螺旋軸と垂直方向409に比べて螺旋軸方向407の導電性が高いが、例えば、図4Iの比較デバイスように一対の電極間を結ぶ全ての直線が螺旋型ポリアセチレン結晶の螺旋軸方向407に平行にならないように電極対が配置した場合、電極対の間には螺旋軸と垂直な方向409の分子間に存在する非共役のアルキル鎖のため、十分な共役系の広がりはなく、導電性が低い。それに対して螺旋型ポリアセチレンは螺旋軸方向407に主鎖のポリアセチレン鎖あるいは側鎖芳香環のスタッキングによる共役系が広がっており、導電性が高いため、一対の電極間を結ぶ任意の直線のうち少なくとも一部が図4Gもしくは図4Hのように螺旋軸方向407に平行になるように電極対が配置している場合は特に高い導電性を示す。
【0054】
(一分子長電極対)
図4−6は本発明の高分子結晶デバイスの他の実施態様を示す模式図である。図4Kに一対の電極の各々の電極の一部が共に同一の螺旋型ポリアセチレン分子に接している場合の本発明の高分子結晶デバイスの模式図、図4Lにその断面図を示す。前述したように本発明の高分子結晶デバイスによれば電極403,404は同一テラス402上に配置されているため、電極から電子あるいはホールなどの導電キャリアが電極403付近にある分子に注入される。さらに図4Kのように電極403,404が同一の螺旋型ポリアセチレン一分子に接している場合は一方の電極403から注入されたキャリアが結晶内の螺旋型ポリアセチレン一分子を通ってもう一方の電極404に移動する。このようなデバイスでは電極間の導電キャリアの移動が螺旋型ポリアセチレン分子間の移動を伴わないため、より高効率で高速な伝導が実現できる。
【実施例】
【0055】
以下に本発明における高分子デバイスおよび高分子デバイスの作製方法について詳しく説明する。
【0056】
[実施例1]
(螺旋型ポリアセチレンの合成)
減圧及び窒素置換後密閉した試験管にロジウム(ノルボルナジエン)塩化物二量体29mgとトルエン15ml、トリエチルアミン0.1mlを入れ、30℃で15分攪拌した後、p−オクチルオキシフェニルアセチレン0.5gとトルエン2.0mlの混合溶液を注入することにより重合反応を開始させる。反応は30度で30分行い、重合が充分進行した後、得られたポリマーをメタノールで洗浄、濾過した後、24時間真空乾燥することで目的のポリアセチレン、ポリ(p−オクチルオキシフェニルアセチレン)を得た。得られたポリマーの分子量はポリスチレン標準試料を用いたGPC測定により評価し、重量平均分子量は232,000、分子量分散は3.3であった。
【0057】
構造最適化計算から算出されるピッチあたりの分子長は0.116nm、ピッチあたりの分子量は230であるため、得られたポリマーの平均分子長は117nmと見積もることができる。
【0058】
(結晶作成)
得られたポリマー10mgをトルエン10mlに溶解させ、充分に溶解した後、残存固体を0.45μmのシリンジフィルターで濾過して取り除いた。得られたポリマー溶液を一辺3cm程度の大きさのシリコン基板上に0.1ml程度滴下し、大気圧下、室温で蒸発させ、一時間程度放置し、充分に乾燥した。
【0059】
得られた膜の偏光顕微鏡、X線回折により結晶の有無を調べた。偏光顕微鏡に得られたシリコン基板をセットし、ポラライザとアナライザをクロスニコルにして視野を暗くした状態で偏光顕微鏡の回転ステージを回した。その結果、一辺が50μm以上の花弁状の部分が45度ごとに明暗を繰り返し、この花弁状部分に一軸配向した単結晶が形成していることが確認された。
【0060】
次に得られた基板上の膜のX線回折測定を行ったところ、4.95°付近のシャープなピークが観測された。このピークの半値幅は約0.07°と非常に狭く、非常に高度な規則性を有する結晶を形成していることがわかった。
【0061】
図5は本発明の実施例1で得られた螺旋型ポリアセチレンの高分子結晶の原子間力顕微鏡像である。
【0062】
図5Aに得られた基板表面のAFM高さ像、図5Bに線503の断面プロファイルを示す。501はテラス、502はステップを示す。一分子の直径以下のレベルで平坦なテラス面とほぼ一分子厚に相当する段差ステップが混在していることがわかる。テラスの大きさは100nmから1μm程度であった。ここでテラスの大きさとはステップから隣のステップまでの間隔を示す。ステップの段差はほぼ均一に3nmである。
【0063】
図6は螺旋型ポリアセチレン分子の分子動力学法に基づく最適化結果を示す図である。分子動力学の計算には、アクセルリス社のマテリアルスタジオ4.4における分子動力学計算ソフトであるフォーサイトを用いた。また、力場はユニバーサル力場を使用した。また、電荷はQEq法を用いて決定した値を使用した。図6Aは螺旋軸方向から見たトップビューを、図6Bは側鎖面からみたサイドビューを示す。この計算結果からこのHPA分子の直径は約3nmであり、この値はAFM観察により実測したステップ高さと等しい。
【0064】
(電極作製)
酸化膜付のシリコン基板上に写し取った結晶の表面を観察し、結晶表面のテラスを確認したのち、200nm以上の幅のテラス上に、傾斜蒸着法を用いて、200nmの間隔のギャップを有する金電極パターンを作製した。傾斜蒸着法は、例えば表面科学Vol.28,No.3,pp.169から171,2007に報告されている方法が用いられる。その結果、図7−1に示す様な、両電極の少なくとも一部を同一テラス上に配置した高分子結晶デバイスが得られる。701は結晶、702はテラス、703、704は電極、705はステップ、706はHPA分子、707は螺旋軸方向、708は螺旋軸に垂直な方向、709は螺旋軸に垂直な方向を示す。
【0065】
[比較例1]
HPA結晶の作成は実施例1と同様に行う。得られたHPA結晶を酸化膜付のシリコン基板上に写し取り、結晶の表面を観察し、結晶表面のテラスおよびステップを確認する。ステップがHPA分子の末端のずれに応じた凸凹になっていることを確認し、HPA分子の螺旋軸がステップとステップの間にほぼ平行になっていることを確かめる。その後、200nm程度の幅のテラス上に傾斜蒸着法によりステップ間隔にほぼ平行に500nmの間隔のギャップを有する金電極パターンを作製することにより両電極を異なるテラスに配置した図7−2に示す図7C、図7Dのようなデバイスが得られる。702,710はテラスを示す。
【0066】
[実施例2]
HPA結晶作成は実施例1と同様に行う。得られたHPA結晶を酸化膜付のシリコン基板上に写し取り、結晶の表面を観察し、結晶表面のテラスおよびステップを確認する。ステップがHPA分子の末端のずれに応じた凸凹になっていることを確認し、HPA分子の螺旋軸がステップとステップの間にほぼ平行になっていることを確かめる。その後、200nm以上の幅のテラス上に傾斜蒸着法によりステップ間隔にほぼ平行に200nmのギャップを有する金電極パターンを作製することにより電極間を結ぶ任意の直線のうち少なくとも一部がHPA分子の螺旋軸に平行になるように配置されている図7−3に示す図7E、図7Fのようなデバイスが得られる。
【0067】
[実施例3]
HPA結晶作成は実施例1と同様に行う。得られたHPA結晶を酸化膜付のシリコン基板上に写し取り、結晶の表面を観察し、結晶表面のテラスおよびステップを確認する。ステップがHPA分子の末端のずれに応じた凸凹になっていることを確認し、HPA分子の螺旋軸がステップとステップの間にほぼ平行になっていることを確かめる。その後、100nm以上の幅のテラス上に傾斜蒸着法によりステップ間隔にほぼ平行に100nmのギャップを有する金電極パターンを作製することにより各々の電極の少なくとも一部がHPA分子に接した図7−4に示す図7G、図7Hのようなデバイスが得られる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の高分子結晶デバイスは、電極間にステップによる電気的接合の欠陥がなく、分子配列の規則性が高く、電気的特性が良いので、トランジスタ素子に利用することができる。
【符号の説明】
【0069】
101 ポリアセチレン主鎖
102 側鎖官能基
103 アルキル鎖
104 螺旋軸方向
105、106 螺旋軸に垂直な方向
301 主鎖
302 側鎖
303 結晶
304 テラス
305 螺旋軸方向
306、307 螺旋軸に垂直な方向
308 ステップ
601 炭素
602 酸素
603 水素

【特許請求の範囲】
【請求項1】
螺旋型ポリアセチレンからなる高分子結晶と一対の電極を備えたデバイスであって、前記一対の電極の各々の電極の少なくとも一部が、前記螺旋型ポリアセチレンからなる高分子結晶の同一テラス内に配置されていることを特徴とする高分子結晶デバイス。
【請求項2】
前記一対の電極対が電極間を結ぶ任意の直線のうちの少なくとも一部が、螺旋型ポリアセチレンの螺旋軸に平行になるように配置されていることを特徴とする請求項1に記載の高分子結晶デバイス。
【請求項3】
前記一対の電極の各々の電極の少なくとも一部が、螺旋型ポリアセチレンの分子長と同じかもしくは狭い間隔で配置されていることを特徴とする請求項1または2に記載の高分子結晶デバイス。
【請求項4】
前記一対の電極の各々の電極の少なくとも一部が、同一螺旋型ポリアセチレン分子に接していることを特徴とする請求項1または2に記載の高分子結晶デバイス。

【図1A】
image rotate

【図1B】
image rotate

【図1C】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3−1】
image rotate

【図3−2】
image rotate

【図3−3】
image rotate

【図4−1】
image rotate

【図4−2】
image rotate

【図4−3】
image rotate

【図4−4】
image rotate

【図4−5】
image rotate

【図4−6】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7−1】
image rotate

【図7−2】
image rotate

【図7−3】
image rotate

【図7−4】
image rotate


【公開番号】特開2013−4682(P2013−4682A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−133497(P2011−133497)
【出願日】平成23年6月15日(2011.6.15)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】