高分子膜の放射線処理方法及び改質された高分子膜及び燃料電池
【課題】解決しようとする課題は、優れた耐酸化性と広範囲なイオン交換容量を有して燃料電池に適した固体高分子電解質膜の基材として有用な、架橋構造を有する含フッ素系高分子膜を安価に大量生産できるようにすることである。
【解決手段】本発明では、含フッ素系高分子膜基材を酸素不在下において結晶融点前後の温度で、且つ熱分解が進行しない温度で、電離放射線を照射して架橋するに際して、多数の発熱体要素に分割した発熱体を用いて、前記電離放射線の照射野内で照射による温度上昇を打ち消すように前記含フッ素系高分子膜基材を部分的に冷却して、大面積の含フッ素系高分子膜基材を照射野内の全ての位置にわたってかつ処理の全時間中にわたって常に予め定められた温度範囲に保った状態で電離放射線を照射できるようにしている。
【解決手段】本発明では、含フッ素系高分子膜基材を酸素不在下において結晶融点前後の温度で、且つ熱分解が進行しない温度で、電離放射線を照射して架橋するに際して、多数の発熱体要素に分割した発熱体を用いて、前記電離放射線の照射野内で照射による温度上昇を打ち消すように前記含フッ素系高分子膜基材を部分的に冷却して、大面積の含フッ素系高分子膜基材を照射野内の全ての位置にわたってかつ処理の全時間中にわたって常に予め定められた温度範囲に保った状態で電離放射線を照射できるようにしている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、燃料電池に適した固体高分子電解質膜であって優れた耐酸化性と広範囲なイオン交換容量を有する含フッ素系高分子イオン交換膜及びその製造方法及び製造装置に関する。特に、含フッ素系高分子イオン交換膜の基材となる改質された含フッ素系高分子膜を工業的に安価に大量生産する方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子イオン交換膜を使用した燃料電池においては、高分子イオン交換膜はプロトンを伝導するための電解質として作用するとともに、燃料である水素やメタノールと酸化剤である空気または酸素を直接混合させないための隔膜として作用する。このような高分子イオン交換膜としての役割から、電解質としてイオン交換容量が高いこと、水酸化ラジカル等に対する耐性つまり耐酸化性に優れていること、電気抵抗を低く保持するために膜の保水性が一定で高いこと等が求められる。一方、隔膜としての役割から、膜の力学的な強度や膜の寸法安定性に優れていること、水素ガス、メタノール又は酸素ガスに対して過剰な透過性を有しないこと等が求められる。
【0003】
初期の高分子イオン交換膜型燃料電池では、スチレンとジビニルベンゼンの共重合で製造した炭化水素系高分子イオン交換膜が使用された。しかし、このイオン交換膜は耐酸化性に起因する耐久性が非常に劣っていた為に実用性に乏しかった。その後はデュポン社によりこの欠点を克服して開発されたパーフルオロスルホン酸膜「ナフィオン(デュポン社登録商標)」等が一般に使用されてきた。
【0004】
しかしながら、「ナフィオン」等の従来の含フッ素系高分子イオン交換膜は、前記の耐久性や安定性には優れているが、イオン交換容量が1meq/g前後と小さいことや、保水性が不十分でイオン交換膜の乾燥が生じてプロトン伝導性が低下することや、メタノールを燃料とする場合には膜の膨潤やメタノールのクロスオーバーが起きること等の欠点を有している。また、イオン交換容量を大きくする目的でスルホン酸基を多く導入しようとすると、高分子鎖中に架橋構造がないために、膜強度が著しく低下して容易に破損するようになる。したがって、従来の含フッ素系高分子のイオン交換膜では膜強度が保持される程度にスルホン酸基の量を抑える必要があり、このためイオン交換容量が1meq/g程度のものしかできなかった。また、「ナフィオン」などの従来の含フッ素系高分子イオン交換膜は、そのモノマーの合成が困難かつ複雑であり、さらに、これを重合してポリマー膜を製造する工程も複雑であるために非常に高価である。このことは、従来のプロトン交換膜型燃料電池を自動車などへ搭載して実用化する際の大きな障害になっている。そのため、前記「ナフィオン」等に替る低コストで高性能な電解質膜を開発することが求められている。
【0005】
含フッ素系高分子膜基材にスルホン酸基を導入することが出来るモノマーをグラフト重合して固体高分子電解質膜を作製する放射線グラフト重合法の試みが成されている。しかし、通常の含フッ素系高分子膜基材ではグラフト反応が膜の内部まで進行せず膜表面に限られるため、電解質膜としての特性が向上しない。また、電子線やγ線などの電離放射線を照射した場合に、通常の含フッ素系高分子膜基材は主鎖切断反応が起きて劣化する。さらに、グラフトモノマーとしての炭化水素系のモノマーでは耐酸化性が低いことが問題であった。例えば、エチレンーテトラフルオロエチレン共重合体にスチレンモノマーを放射線グラフト反応により導入し、次いでスルホン化することにより合成したイオン交換膜は燃料電池用イオン交換膜として機能することが特開平9−102322号公報に開示されているが、スチレングラフト鎖が炭化水素で構成されているため、膜に長時間電流を流すとグラフト鎖部の酸化劣化が起こり、膜のイオン交換能が大幅に低下するという欠点を有している。
【0006】
含フッ素系高分子膜基材を予め架橋しておくと、膜の耐熱性が向上しモノマーのグラフト率が向上し、さらに、グラフトのための照射による膜強度の低下を抑制することが出来るので、高温作動で高性能の燃料電池用イオン交換膜には好適であることが特開2004−51685号公報や特開2004−300360号公報に開示されている。特に、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の放射線グラフト反応では架橋構造を膜基材の分子構造に導入することによって無定形部分が多くなり、未架橋のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)ではグラフト率が低いという欠点を解決できることが特開2004−300360号公報や特開2001−348439号公報に開示されている。このように、架橋構造を有する含フッ素系高分子膜を基材として用いることにより優れた耐酸化性と広範囲なイオン交換容量を有して燃料電池に適した固体高分子電解質膜として使用できる含フッ素系高分子イオン交換膜が出来ることが知られている。
【0007】
一般に、含フッ素系高分子膜基材は耐熱性と耐薬品性に優れた特性を有し、産業用および民施用の樹脂として広く利用されている。しかし、含フッ素系高分子膜基材は放射線に対して感受性が高く、放射線を照射することによって分子鎖の切断が進行し、吸収線量が50kGyを超えると機械特性が低下する。そのため原子力施設や宇宙空間などの放射線環境下では利用することが出来なかった。含フッ素系高分子膜基材は放射線に対して典型的な崩壊型高分子膜であるが、従来の熱化学反応などの方法によって耐放射線性を付与することは出来なかった。含フッ素系高分子膜基材の代表であるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)は放射線に対して極めて感受性が高く、1kGyを超える照射を受けると機械特性が低下することから、原子力施設等の放射線環境下では利用できない樹脂であった。これは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)では、放射線照射により分子切断が優先的に生じ、結晶化が容易に進行してしまうことに起因する。ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)にその結晶融点以上の温度で酸素不存在下において電離放射線を照射すると架橋が起こり、特性が大きく改善されることが特開平6−116423号公報や特開平7−118423号公報に開示されている。
【0008】
特開平6−116423号公報にはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を架橋する方法が開示されている。これは、酸素不在環境下、すなわち真空中または不活性ガス雰囲気中において、結晶融点(327℃)以上の温度に保った状態で電離放射線(γ線、電子線、X線、中性子線、高エネルギーイオン等)を照射する方法である。照射時のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)膜基材の温度は340℃前後が望ましく、照射される線量は1kGyから10MGyの範囲が適当であるが、特にゴム特性を得る為には200kGyから5MGyの範囲が望ましいことが開示されている。このような条件で処理されたポリテトラフルオロエチレン(PTFE)膜は耐放射性が付与され、真空中で室温環境下において電離放射線を照射した場合と比較すると、破断伸びと降伏点強度等の材料劣化が著しく抑制されたことが記述されている。
【0009】
特開平11−49867号公報には、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)およびテトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)に同様の条件下で電離放射線を照射することによって、放射線環境下における耐熱性と機械特性が向上することが開示されている。テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)もしくはテトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)に、照射時の酸化を防止するために酸素不在下すなわち真空中もしくは不活性ガス雰囲気中において、各々の結晶融点よりも約20℃低い温度から各々の結晶融点よりも約20℃高い温度の範囲内において電離放射線(γ線、電子線、X線、中性子線、高エネルギーイオン等)を照射することによってこれらの含フッ素系高分子膜基材は架橋することが開示されている。照射時の樹脂の温度は、各々の含フッ素系高分子膜基材の結晶融点を中心としてそれよりもおよそ±10℃の範囲の温度が好ましいことが開示されている。また照射線量は1kGy〜15MGyの範囲が好ましく、ゴム特性を付与する為には500kGy〜10MGyの範囲がより好ましいことが開示されている。このように処理されたこれらの含フッ素系高分子膜は耐熱性と耐薬品性が改善されており、これらの特性が求められる機器類のシール材料やパッキング材料に適している。特に、耐放射線特性が付与されているので放射線環境下での工業材料としてテトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)やテトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)が利用できるようになる。
【0010】
また、特開平7−118423号公報には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の初期の結晶融点である327℃以上の温度で放射線照射を続けると、架橋反応に加えて熱分解反応や解重合反応が起こりモノマーがポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の表面から飛散し、重量が減少してしまうことが開示されている。ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)に、その結晶融点以上の温度で真空又は不活性ガス中で放射線を照射すると架橋するが、結晶融点は放射線の線量が増大すると低下してくる。そこで、照射時のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の温度を、照射線量にあわせて変化させ、熱分解や解重合を抑制しつつ架橋を進めると良いことが開示されている。例えば、照射初期には、327℃以上、望ましくは340℃〜350℃に昇温するが、その後、50kGy照射後では320〜330℃、100kGy照射後では290〜300℃、200kGy照射後では280〜290℃、500kGy照射後では260〜270℃、そして1MGy照射後では230〜240℃に温度を下げる例が開示されている。ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の温度を低下させる方法としては、液体窒素等の冷媒によって冷却したり、系内に流通せしめる不活性ガスの温度を徐々に下げたりする方法が開示されている。しかし、これらの温度低下方法では正確な温度管理が困難である。
【0011】
以下において、含フッ素系高分子膜基材をその結晶融点以上の予め定められた設定温度範囲内の温度に保ちながら当該含フッ素系高分子膜基材に1kGy以上の電離放射線を低い酸素分圧環境下において照射することにより改質含フッ素系高分子膜を製造する方法を記した例について述べる。特開平6−116423号公報には、厚さ1mmの市販のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)シートを真空中(0.01Torr以下)において340℃に加熱してコバルトー60から照射されたγ線を1.7kGyから20kGyまで照射した例や、厚さ0.3mmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)シートを真空中(0.01Torr以下)において340℃に加熱し、エネルギーが2MeVの電子線を100kGyから2MGyまで照射した例が開示されている。また、厚さ0.3mm、0.5mm、1mmのそれぞれのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)シートを真空中で、370℃において電子線を照射したところ、照射時間が長くなるにしたがってポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の熱分解が進行してシートの厚さが薄くなる旨の記述がある。
【0012】
特開平11−49867号公報には、厚さが0.5mmであるテトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)シートをアルゴン気流中でその結晶融点(270℃)より高い280℃に加熱して、エネルギーが2MeVの電子線を100kGy照射すると架橋して耐放射線性が付与された例が開示されている。同様に、厚さが0.5mmであるテトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)シートをアルゴン気流中でその結晶融点(310℃)より高い320℃に加熱して、エネルギーが2MeVの電子線を300kGy照射すると架橋して耐放射線性が付与された例が開示されている。
【0013】
特開2001−348439号公報には厚さが500μmで数平均分子量が1x107のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)シートの10cmx10cmの片を加熱型の照射容器に入れ、容器内を10−3Torr程度に脱気してアルゴンガスに置換した後、電気ヒータで加熱してポリテトラフルオロエチレン(PTFE)シートの温度を335〜345℃として、エネルギーが2MeVの電子線を50kGy、100kGy、300kGy、500kGy、または1MGyの線量まで照射し、照射後、容器を冷却して高温照射を終了したポリテトラフルオロエチレン(PTFE)シートを取り出したことが開示されている。
【0014】
また、特開2002−348389号公報には、長鎖分岐型ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)シートを得る為に以下の照射を行ったことが記されている。すなわち、厚さが50μm又は100μmで数平均分子量が1x107のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)シートの10cmx6cm片をSUS枠で固定し、50μm厚のチタン箔からできた電子線入射用の窓が付いた加熱型のSUS製照射容器に入れ、容器内を10−3Torr程度に脱気してアルゴンガスに置換し、その後、電気ヒータで加熱してポリテトラフルオロエチレン(PTFE)シートの温度を335〜340℃として、ごくわずかにアルゴンガスを流しながらエネルギーが2MeVの電子線を照射したことが開示されている。このときの電流は0.5mAで線量率は0.5kGy/秒で、線量は100kGy又は200kGyであり、照射時間はそれぞれ200秒または400秒である。照射後、容器を冷却して放射線照射を終了したポリテトラフルオロエチレン(PTFE)シートを取り出して長鎖分岐型ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)膜を得ている。
【0015】
特開2004−51685号公報や特開2004−14436号公報や特開2003−261697号公報や特開2003−82129号公報に開示されているように、架橋したポリテトラフルオロエチレン(PTFE)つまり長鎖分岐型ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)膜を得る為に以下の照射が行われている。厚さ50μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルムの10cm角をヒータ付きのSUS製オートクレーブ照射容器(内径7cmΦ、高さ30cm)に入れ、容器内を10−3Torrに脱気してアルゴンガスに置換し、その後、電気ヒータで加熱してポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルムの温度を340℃(又は300℃〜365℃の温度範囲)として、コバルト−60のγ線を3kGy/時の線量率で90kGyの線量まで照射した後、容器を冷却して放射線照射を終了したポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルムを取り出したことが記されている。この際の照射に必要な時間は30時間であった。
【0016】
以上に公開された処理方法では、処理される含フッ素系高分子膜基材は10cm角程度の小片であり、小容積の容器内に入れて加熱した後に、電離放射線の照射処理を行い、その後容器を冷却して処理された含フッ素系高分子膜を取り出している。電離放射線の照射処理を行うに際して、コバルト−60のγ線を使用した例が示されているが、この場合には線量率が低い為に所定の線量を照射するためには30時間もの長時間を要している。また、エネルギーが2MeVの電子線を照射した例も開示されているが、やはり線量率があまり高くないので小片の処理のために400秒程度を要している。さらに、一般的に容器の冷却のためには長時間を要する。このような照射においては、電離放射線の線量率を高めると、電離放射線の加熱効果によって照射中に被照射膜基材の温度が上昇して熱分解が進行する不都合が生じる。以上に記した通り、含フッ素系高分子膜基材を高温放射線処理するに際して、大面積の含フッ素系高分子膜基材を処理できることや、電離放射線を照射する時に含フッ素系高分子膜基材の正確な温度管理ができることが重要である。
【0017】
更に、架橋した含フッ素系高分子膜を工業製品として実用化するためには、処理速度を高めて低価格化するとともに処理条件の高度な管理を行って品質の均一化を達成することが必要である。電離放射線の照射処理を行うに際して線量率を高めた場合には、電離放射線による含フッ素系高分子膜基材の加熱が重畳されて含フッ素系高分子膜基材の温度が上昇するとともに、温度の分布が変わり、処理後の含フッ素系高分子膜の品質を均一化することが困難であった。特に、30cmを超える幅広で長尺の含フッ素系高分子膜基材を処理する場合には照射前後、特に照射中に於ける膜基材の温度及び温度の空間分布及び温度の時間変化の管理が困難であった。このような理由により、架橋した含フッ素系高分子膜を工業製品として実用化されるに至っていない。
【特許文献1】特開平6−116423号公報
【特許文献2】特開平7−118423号公報
【特許文献3】特開平9−102322号公報
【特許文献4】特開平11−19190号公報
【特許文献5】特開平11−49867号公報
【特許文献6】特開2001−348439号公報
【特許文献7】特開2003−82129号公報
【特許文献8】特開2003−261697号公報
【特許文献9】特開2004−14436号公報
【特許文献10】特開2004−51685号公報
【特許文献11】特開2004−300360号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
解決しようとする課題は、幅広で長尺の含フッ素系高分子膜基材をその結晶融点前後の予め定められた設定温度範囲内の温度に保ちながら当該含フッ素系高分子膜基材に1kGy以上の電離放射線を低い酸素分圧環境下において照射することにより改質含フッ素系高分子膜を製造するに際して、処理速度を高めて低価格化するとともに処理条件の高度な管理を行って品質の均一化を達成することにより、架橋した含フッ素系高分子膜を工業製品として実用化することである。さらに、安価で大面積の架橋した含フッ素系高分子膜を基材として提供して、燃料電池に適した固体高分子電解質膜として優れた耐酸化性と広範囲なイオン交換容量を有する含フッ素系高分子イオン交換膜を安価に大量生産できるようにし、もって、自動車などに搭載できる安価で高寿命の燃料電池を提供することである。特に、大面積の含フッ素系高分子膜基材を照射野内の全ての位置にわたってかつ照射処理の全時間中にわたって常に予め定められた温度範囲に保った状態で電離放射線を照射することによって、安定した品質の架橋構造を有する含フッ素系高分子膜を短時間に大量に且つ安価に生産する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、長尺の含フッ素系高分子膜基材を温度制御と電離放射線照射が行える高温放射線処理装置内を通過させ、この高温放射線処理装置の入口位置および出口位置において、含フッ素系高分子膜基材の長手方向の一部分を常温に保って機械的に保持するとともに走行機能を付与させ、前記高温放射線処理装置内においては発熱体を設け、この発熱体は含フッ素系高分子膜基材の長手方向および幅方向に沿って多数の発熱体要素に分割して配列しておき、これらの発熱体要素の表面温度を空間的および/又は時間的に適正に制御して、照射中および照射前後を問わず、照射野内の所望範囲内に於ける含フッ素系高分子膜基材の全ての位置の温度を一様とし、所定の処理が進行すれば長尺の改質された含フッ素系高分子膜の出口部分を部分的に冷却して高温放射線処理装置外に送り出すことによって短時間に多量の処理ができるようになっている。
【0020】
前記高温放射線処理装置内において、電離放射線を照射しない位置、または電離放射線を照射しないタイミングでは、前記発熱体要素の表面温度を照射中心から離れるにつれてステップ状に高く設定することにより、照射野内およびその周辺位置に存する前記含フッ素系高分子膜基材の部位の温度を一様に短時間に結晶融点前後の予め定められた温度範囲まで高める。電離放射線を照射する位置、および電離放射線を照射するタイミングでは、照射野内の近傍に位置する前記発熱体要素の表面温度を低下させて含フッ素系高分子膜基材の温度を、照射野を中心として、蒲鉾状に分布して低下させるように放熱させ、この放熱を打ち消す熱量を有する電離放射線を照射することによって結果として照射中のどのタイミングでも含フッ素系高分子膜基材の温度が変化しないようにしている。また、前記の放出される熱量の空間分布も時間変化も電離放射線によって与えられる熱量の分布と経時変化とにそれぞれ一致しており、結果として空間的および時間的に一様な温度分布となった状態で短時間に必要な線量を与えることができるようになっている。本発明においては、いずれの場合も、冷媒を局部的に吹き付けるなどの局部的な冷却を必要としていないので温度分布の安定な管理が行える。また、不活性ガスの自然対流を利用して冷却している為に温度管理が容易になっている。多くの場合、前記所望範囲は前記照射野と一致するが、処理後に切除する等で不使用となる部分は前記所望範囲から除外しても良い。これは、本発明のいずれの場合にも共通している。前記設定温度範囲は、前記含フッ素系高分子膜基材の結晶融点を中心として±20℃の温度範囲に設定することが許容される場合もあるが、前記含フッ素系高分子膜基材の結晶融点を超える特定の温度を中心として±5℃程度の温度範囲に設定することが好ましい。
【0021】
本発明の一つは、含フッ素系高分子膜基材をその結晶融点前後の予め定められた設定温度範囲内の温度に保ちながら当該含フッ素系高分子膜基材に1kGy以上の電離放射線を低い酸素分圧環境下において照射することにより改質含フッ素系高分子膜を製造する方法において、分布した発熱量を有する発熱体が前記電離放射線の照射野の近傍において前記含フッ素系高分子膜基材に対向して非接触に設けられており、前記含フッ素系高分子膜基材は前記照射野の大部分を占める所望範囲を含んでおり、当該所望範囲内の全ての部位は前記発熱体によって前記設定温度範囲内の温度まで加熱された後に、冷却率を有して冷却されるとともに強度分布を有する前記電離放射線によって加熱率を有して加熱され、前記電離放射線の強度分布又は/及び前記発熱体の発熱量の分布は前記冷却率と前記加熱率とを前記所望範囲内の全ての部位において照射時間中にわたって実質的に一致させるように設定され又は制御されたことを特徴とする方法である。ここで、冷却率とは、特定部位に於ける、単位時間内に低下する温度を表しており、熱伝導や熱輻射や対流による特定部位の温度低下速度を総称した値である。同様に、加熱率とは、特定部位に於ける、単位時間内で上昇する温度を表している。本発明を採用すると、前記電離放射線の照射の開始直前から照射の終了直後まで前記照射野内の大部分を占める所望範囲内の全ての位置における含フッ素系高分子膜基材の温度を前記設定温度範囲内に収めることができ、大きな面積の含フッ素系高分子膜基材を正確な温度管理下で改質処理ができる。
【0022】
本発明の一つは、含フッ素系高分子膜基材をその結晶融点前後の予め定められた設定温度範囲内の温度に保ちながら当該含フッ素系高分子膜基材に1kGy以上の電離放射線を低い酸素分圧環境下において照射することにより改質含フッ素系高分子膜を製造する方法において、分布した発熱量を有する発熱体が前記電離放射線の照射野の近傍において前記含フッ素系高分子膜基材に対向して非接触に設けられており、前記含フッ素系高分子膜基材は前記照射野の大部分を占める所望範囲を含んでおり、当該所望範囲内の全ての部位は、前記発熱体によって前記設定温度範囲内の温度まで加熱された後に、冷却されて第1の熱量を単位体積当りに放出するとともに強度分布を有する前記電離放射線の照射を受けて第2の熱量を単位体積当りに受領し、前記電離放射線の強度分布又は/及びその時間変化又は/及び前記発熱体の発熱量の分布は、前記第1の熱量の任意照射時間内における積算値と前記第2の熱量の同一時間内における積算値とを実質的に一致させるように設定され、又は制御されたことを特徴とする方法である。前記発熱体の発熱量の分布を設定するには、前記発熱体を多数の発熱体要素に分割し、これらの発熱体要素要素の発熱量を独立に設定するとよい。前記電離放射線の強度分布の設定は、前記電離放射線の線源と前記含フッ素系高分子膜基材との間に適当な透過率を有するフィルタを挿入すること等で実現できる。前記電離放射線強度の時間変化の設定は、前記電離放射線の線源の発生強度を電気的に制御することによって行える。本発明を採用すると、前記電離放射線の照射の開始直前から照射の終了直後まで前記所望範囲内の全ての位置における含フッ素系高分子膜基材の温度を前記設定温度範囲内に収めることができ、大きな面積の含フッ素系高分子膜基材を正確な温度管理下で改質処理できる。
【0023】
本発明の一つは、含フッ素系高分子膜基材をその結晶融点前後の予め定められた設定温度範囲内の温度に保ちながら当該含フッ素系高分子膜基材に1kGy以上の電離放射線を低い酸素分圧環境下において照射することにより改質含フッ素系高分子膜を製造する方法において、分布した発熱量を有する発熱体が前記電離放射線の照射野の近傍において前記含フッ素系高分子膜基材に対向して非接触に設けられており、前記含フッ素系高分子膜基材は前記照射野の大部分を占める所望範囲を含んでおり、前記発熱体の発熱量又は/及びその分布は予め定めた時間関数に従って設定されまたは制御され、当該時間関数は、前記発熱体が前記所望範囲内の全ての部位を前記設定温度範囲内の温度まで加熱するタイミングと、前記所望範囲内の全ての部位において前記電離放射線の照射による温度上昇と前記含フッ素系高分子膜基材の冷却による温度低下とを実質的に互いに打ち消し合うタイミングとを含んでいることを特徴とする方法である。前記電離放射線の照射を開始する前に前記含フッ素系高分子膜基材の温度を前記設定温度範囲内に収めるタイミングを設けているので、前記電離放射線の照射開始直後において低温状態下で照射する危険を回避できる。この加熱するタイミングでは、前記発熱体を多数の発熱体要素に分割して、これら発熱体要素のそれぞれの発熱量を適正に空間分布させることによって前記含フッ素系高分子膜基材の温度を適正値で均一に保っている。前記打ち消しあうタイミングでは、前記発熱体要素の発熱量及びその空間分布を適正に再設定することによって前記含フッ素系高分子膜基材の温度を適正値で均一に保っている。本発明を採用すると、前記電離放射線の照射の開始直前から照射の直後まで前記所望範囲内の全ての位置における前記含フッ素系高分子膜基材の温度を前記設定温度範囲内に収めることができ、大きな面積の含フッ素系高分子膜基材を正確な温度管理下で改質処理できる。
【0024】
本発明の一つは、含フッ素系高分子膜基材をその結晶融点前後の予め定められた設定温度範囲内の温度に保ちながら当該含フッ素系高分子膜基材に1kGy以上の電離放射線を低い酸素分圧環境下において照射することにより改質含フッ素系高分子膜を製造する方法において、分布した発熱量を有する発熱体が前記電離放射線の照射野の近傍において前記含フッ素系高分子膜基材に対向して非接触に設けられており、前記含フッ素系高分子膜基材は前記照射野の大部分を占める大きさの所望範囲を含んでおり、前記含フッ素系高分子膜基材は、前記設定温度範囲より低い温度に保たれて保持された第1の基材領域と、前記発熱体によって加熱された第2の基材領域と、前記電離放射線の照射を受けて前記設定温度範囲内の温度に保たれた第3の基材領域とを含んでおり、当該第3の基材領域は前記所望範囲を含んでおり、当該所望範囲内のあらゆる部分では、前記発熱体の加熱に起因する温度が低下すると前記電離放射線の照射に起因する温度が上昇して、前記電離放射線の照射を受ける時間中においてその温度が前記設定温度範囲内に保たれるように、前記発熱体の発熱量及び/又はその分布及び/又は前記電離放射線の強度が設定され、又は制御されたことを特徴とする方法である。前記第1の基材領域では好ましくは常温に保たれており、前記含フッ素系高分子膜基材の保持が容易に行えるとともにその走行作用を付与できるので、照射処理が連続的に行える。前記第1の基材領域を前記第3の基材領域を挟んで両側に設けることによって照射処理が終了した含フッ素系高分子膜を直後に取り出すことができ、処理速度が大きくなる。前記第2の基材領域では、前記電離放射線の照射を受けない状態で前記設定温度範囲内又はその近くの温度まで加熱されているので、低温状態下で前記電離放射線を照射する危険が回避できる。前記第2の基材領域及び第3領域では、これらの近傍に設けられた前記発熱体を多数の発熱体要素に分割して、これら発熱体要素のそれぞれの発熱量を適正に空間分布させることによって、その温度を適正値で均一に保つようになっている。本発明を採用すると、能率よく正確に大量の照射処理を行うことができる。
【0025】
本発明の一つは、含フッ素系高分子膜基材をその結晶融点前後の予め定められた設定温度範囲内の温度に保ちながら当該含フッ素系高分子膜基材に1kGy以上の電離放射線を低い酸素分圧環境下において照射することにより改質含フッ素系高分子膜を製造する方法において、前記含フッ素系高分子膜基材は前記電離放射線の照射野の大部分を占める大きさの所望範囲を含んでおり、当該所望範囲は前記電離放射線の照射を受ける処理装置内を通過し、当該処理装置は、前記含フッ素系高分子膜基材に対向して非接触に設けられた発熱体を含んでおり、前記含フッ素系高分子膜基材の一部を前記設定温度範囲より低い温度に保つとともに機械的に保持する第1の装置領域と、前記発熱体によって前記所望範囲を前記設定温度範囲内又はその近くの温度まで加熱する第2の装置領域と、前記所望範囲に電離放射線を照射して所定の線量を与える第3の装置領域とを順に有しており、前記所望範囲が当該第3の装置領域に位置する場合においては、前記所望範囲の部分が冷却されて温度が低下すると当該温度低下を補うように前記電離放射線の照射に起因する温度を上昇させて前記所望範囲内のあらゆる部位の温度を前記設定温度範囲内に保つように、前記電離放射線の強度分布又は/及び前記発熱体の発熱量の分布が設定され又は制御されるようになっていることを特徴とする方法である。前記含フッ素系高分子膜基材は、好ましくは常温に保たれた前記第1の装置領域と、前記電離放射線の照射を受けない状態で前記設定温度範囲内又はその近くの温度まで均一に加熱される前記第2の装置領域と、前記電離放射線の照射を受ける前記第3の装置領域とを順次通過するようになっている。従って、前記電離放射線の照射の開始直前から照射の直後まで前記所望範囲内の全ての位置における含フッ素系高分子膜基材の温度を前記設定温度範囲内に収めることができ、正確な温度管理下で短時間に多量の改質処理ができる。
【0026】
本発明の一つは、上記いずれかの発明において、前記含フッ素系高分子膜基材は第4の基材領域を含んでおり、当該第4の基材領域は、前記第1の基材領域と前記第2の基材領域の間に位置する基材領域であり、又は前記第1の装置領域と前記第2の装置領域の間に位置する前記含フッ素系高分子膜基材の基材領域であり、前記第4の基材領域において前記含フッ素系高分子膜基材の温度は前記それそれの他の基材領域に向う方向の距離に対する第1の変化率を有して分布しており、前記第2の基材領域又は前記第3の基材領域において、又は前記第2の装置領域又は前記第3の装置領域にそれぞれ位置する前記含フッ素系高分子膜基材の基材領域において前記含フッ素系高分子膜基材の温度は前記それそれの他の基材領域に向う方向の距離に対する第2の変化率を有して分布しており、前記第1の変化率は前記各器材領域内のいたる所で当該第2の変化率よりも実質的に大きくなっていることを特徴とする方法である。本発明を採用すると、前記第4の基材領域において狭い範囲で大きな温度勾配を保って加熱されるので前記含フッ素系高分子膜基材の保持が容易であるとともに、処理の為の装置が小型になり、低価格化できる。高温部分を、前記照射野を含む比較的に狭い範囲に限定できるので、処理中における被処理部位の位置決めが容易であり、処理の正確化と高速化ができるようになる。
【0027】
本発明の一つは、含フッ素系高分子膜基材又はその他の長尺被照射体を予め定められた設定温度範囲内の温度に保ちながら当該含フッ素系高分子膜基材又はその他の長尺被照射体に所定の線量の電離放射線を照射する処理装置であって、前記含フッ素系高分子膜基材又はその他の長尺被照射体は当該処理装置内で位置決め保持される保持部分と前記設定温度範囲内又はその近くの温度に加熱される加熱範囲と前記電離放射線の照射野内の大部分を占める所望範囲とを含んでおり、前記処理装置は、前記保持部分を保持可能な低い温度に保つとともに当該保持部分を機械的に保持する第1の装置領域と、前記照射野の近傍において前記含フッ素系高分子膜基材又はその他の長尺被照射体に対向して非接触に設けられた複数の発熱体要素を含んでなる発熱体によって前記加熱範囲を前記設定温度範囲内又はその近くの温度まで加熱する第2の装置領域と、前記所望範囲に電離放射線の照射に起因する発熱を与えて前記所望範囲を前記設定温度範囲内の温度に保つ第3の装置領域とを含んでおり、当該第3の装置領域においては、前記発熱体要素の発熱量の分布が前記第2の装置領域における分布とは異なって設定されており、前記発熱体によって加熱された前記所望範囲の温度が低下すると当該温度低下を補うように分布した強度の前記電離放射線の照射に起因して前記所望範囲の温度が上昇するようにして、前記電離放射線の照射を受ける時間中において、前記所望範囲内のあらゆる部分を前記設定温度範囲内の温度に保ちながら前記所望範囲に所定の線量を与えるようにしたことを特徴とする装置である。前記第1の装置領域では前記含フッ素系高分子膜基材又はその他の長尺の被照射体の温度を常温に保つようになっていることが好ましい。前記第3の装置領域では、前記発熱体によって加熱された温度が低下する時刻に於ける温度分布が適正化されるように前記発熱体要素の発熱量の分布を設定又は制御することが好ましい。また、前記時刻において前記電離放射線の強度分布を適正化する場合には、温度の応答速度が高いのでより正確な制御ができる。本発明の装置を採用すると、前記電離放射線の照射中における含フッ素系高分子膜基材又はその他の長尺の被照射体の温度を前記設定温度範囲内の温度に管理しながら容易に照射することができる。
【0028】
本発明の一つは、上記いずれかの発明において、前記所望範囲内のあらゆる部位において前記含フッ素系高分子膜基材又はその他の長尺被照射体の温度の位置に対する変化率が予め定められた値よりも常に小さくなるように前記発熱体の発熱量の分布を経時的に制御するようにしたことを特徴とする方法又は装置である。前記発熱体を多数の発熱体要素に分割し、これら其々の発熱体要素の発熱量を空間的、時間的に制御することによって、前記発熱体の発熱量の分布を経時的に制御することができる。特に、前記電離放射線の照射開始前と照射開始中における温度分布を均一になるように前記発熱量を制御することが有効である。前記予め定められた変化率の値は前記所望範囲内のあらゆる部位の温度が設定温度範囲内に収まるように定められている。本発明を採用すると、前記電離放射線の照射中における前記含フッ素系高分子膜基材又はその他の長尺被照射体の温度分布の管理が容易になり、処理時間が長くなっても必要な全ての部位において正確に管理された温度において照射処理を行うことができる。特に、照射処理の開始直後や終了直前における温度分布の管理が正確に行えるようになる。
【0029】
本発明の一つは、上記いずれかの発明において、前記発熱体は空間的に分割させた複数の発熱体要素を含んでおり、当該発熱体要素は前記照射野内の中央部において前記含フッ素系高分子膜基材又はその他の長尺被照射体に対向して設けられた第1の発熱体要素と前記照射野をはみ出した位置において前記含フッ素系高分子膜基材又はその他の長尺被照射体に対向して設けられた第2の発熱体要素とを含んでおり、当該第2の発熱体要素の表面温度は前記第1の発熱体要素の表面温度よりも高く設定されたことを特徴とする方法又は装置である。前記含フッ素系高分子膜基材又はその他の長尺被照射体の表面に対向して設けられた一様な表面温度を有する発熱体によって前記含フッ素系高分子膜基材又はその他の長尺被照射体を加熱する場合には、その周辺部位の温度が中央部位の温度よりも低くなる。この状況は、前記電離放射線を照射しない時も、均一に強度が分布する前記電離放射線を照射している時も変わらない。前記電離放射線の強度分布のみを複雑に制御することによって照射中における前記含フッ素系高分子膜基材又はその他の長尺被照射体の温度分布を均一化できるが、照射直後の温度を前記設定温度範囲内に収めるのが困難であるばかりでなく吸収線量が不均一に分布することになり好ましくない。しかるに、本発明を採用すると、前記発熱体による加熱に際して前記含フッ素系高分子膜基材又はその他の長尺被照射体の温度分布が前記照射野内で均一な温度分布を実現しやすく、且つ前記電離放射線の吸収線量を均一に保つことが容易である。また、簡単な装置を用いて照射中における前記含フッ素系高分子膜基材又はその他の長尺被照射体の温度管理が行える。
【0030】
本発明の一つは、上記いずれかの発明において、前記第2の発熱体要素の表面温度と前記第1の発熱体要素の表面温度との異差は前記含フッ素系高分子膜基材又はその他の長尺被照射体の移動速度に対応して変えられることを特徴とする方法又は装置である。本発明を採用すると、前記含フッ素系高分子膜基材又はその他の長尺被照射体の移動速度が変化した場合に、前記含フッ素系高分子膜基材又はその他の長尺被照射体の移動方向で前記第2の発熱体要素の表面温度と前記第1の発熱体要素の表面温度との異差が変えられるので、前記含フッ素系高分子膜基材又はその他の長尺被照射体の温度をその移動速度に関係なく前記設定温度範囲に収められる。
【0031】
本発明の一つは、上記いずれかの発明において、前記含フッ素系高分子膜基材は長手方向と幅方向とを有し、前記発熱体は当該幅方向に整列した発熱体要素を含む第1及び第2の発熱体要素群を有し、当該第1及び第2の発熱体要素群が前記長手方向に整列していることを特徴とする方法または装置である。本発明を採用すると、簡単な構造の発熱体を用いて照射中における前記含フッ素系高分子膜基材の温度管理が容易に行える。特に、前記含フッ素系高分子膜基材の幅方向温度分布を一様に保った状態で長手方向の温度分布を制御し易いので、前記幅方向に整列した発熱体要素群を同じ時間関数で制御できることになり、前記電離放射線の照射中における含フッ素系高分子膜基材の温度を前記設定温度範囲内の温度に管理しながら容易に照射することができる。
【0032】
本発明の一つは、上記いずれかの発明において、前記幅方向に整列した同一の発熱体要素群に含まれる各発熱体要素は同一の時間関数に従ってそれらの発熱量が制御されることを特徴とする方法または装置である。本発明を採用すると、簡単な制御装置を用いて前記電離放射線の照射中における前記含フッ素系高分子膜基材の温度を前記設定温度範囲内の温度に管理しながら正確に照射することができる。特に、前記電離放射線の照射開始前と照射開始後とを問わず、前記含フッ素系高分子膜基材の温度を前記設定温度範囲内の温度に保つことが容易になる。
【0033】
本発明の一つは、上記いずれかの発明において、前記含フッ素系高分子膜基材の任意の部分における前記設定温度範囲は前記含フッ素系高分子膜基材の前記任意部分において吸収された前記電離放射線の吸収線量の積算値に対応して予め定められた関係を保って低下することを特徴とする方法または装置である。本発明を採用すると、前記含フッ素系高分子膜基材に吸収された前記電離放射線の吸収線量の積算値が増加するにしたがってその結晶融点が低下した場合にも、吸収線量の積算値と前記設定温度範囲との関係を予め決められた最良の関係に常に保つことができて最適温度条件にて高温放射線処理を行うことができる。
【0034】
本発明の一つは、上記いずれかの発明において、前記含フッ素系高分子膜基材はポリテトラフルオロエチレン膜、又はテトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体膜、又はテトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体膜のいずれかであることを特徴とする方法または装置である。本発明を採用すると、放射線環境下で使用できなかった大面積のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)膜を放射線環境下でも使用できるように改質して工業製品として安価に提供できる。更に、改質したポリテトラフルオロエチレン(PTFE)膜を基材として使用することにより、優れた耐酸化性と広範囲なイオン交換容量を有する改質されたポリテトラフルオロエチレンイオン交換膜を安価に大量生産できるようになる。更に、これを用いると安価で耐久性がある燃料電池を提供できる。
【0035】
本発明の一つは、上記いずれかの発明の方法によって又は装置を用いて製造された改質含フッ素系高分子膜である。本発明を採用すると、優れた耐酸化性と広範囲なイオン交換容量を有する含フッ素系高分子イオン交換膜を安価に大量生産できるようになる。また、放射線環境下でも使用できるように改質された含フッ素系高分子膜が安価となり、且つ大量に供給できるようになり工業製品として有用である。
【0036】
本発明の一つは、上記いずれかの発明の方法によって又は装置を用いて製造された改質含フッ素系高分子膜を用いて製造された燃料電池である。本発明を採用すると、燃料電池の寿命と性能を高める為に最も重要な構成要素であるイオン交換膜が優れた耐酸化性と広範囲なイオン交換容量を有するとともに、これを安価に大量生産できるようになり、結果として高性能で安定動作をする長寿命の燃料電池を安価に大量生産できるようになる。
【発明の効果】
【0037】
本発明を採用すると、含フッ素系高分子膜基材を酸素不在下において高温度で電離放射線を照射して架橋するに際して、大面積の含フッ素系高分子膜基材の温度を照射野内の全ての部位にわたってかつ処理の全時間中にわたって予め定められた温度範囲に常に保った状態で電離放射線を照射することができ、安定した品質の架橋構造を有する含フッ素系高分子膜を短時間に大量に且つ安価に生産することができる。本発明を採用して生産された安価で高品質の架橋構造を有する含フッ素系高分子膜を基材として用いると、優れた耐酸化性と広範囲なイオン交換容量を有する含フッ素系高分子イオン交換膜を安価に大量生産できるようになり、結果として高性能で安定な動作をする長寿命の燃料電池を安価に生産できるようになる。また、本発明によって得られた改質含フッ素系高分子膜は耐放射線性を付与されるために放射線環境下で使用できるその他の工業材料としてまたは放射線滅菌が可能な医療用具素材として有用となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
本発明に係わる高分子膜基材の放射線処理方法では、長尺の含フッ素系高分子膜基材を温度制御と電子線照射が行える高温電子線処理装置内を通過させる。この高温電子線処理装置の入口位置および出口位置において、前記含フッ素系高分子膜基材の長手方向の一部分を常温に保って機械的に保持するとともに走行機能を付与させる。前記高温電子線処理装置内においては発熱体を設け、この発熱体を前記含フッ素系高分子膜基材の長手方向および幅方向に沿って多数の発熱体要素に分割して構成しておき、これらの発熱体要素の表面温度を空間的および/又は時間的に適正に制御して、照射中および照射前後を問わず、前記含フッ素系高分子膜基材の照射野内に位置する全ての部位の温度を実質的に一様とし、所定の処理が進行すれば長尺の改質された含フッ素系高分子膜の出口部分を部分的に冷却して高温電子線処理装置外に送り出すことによって短時間に多量の処理ができるようになっている。
【0039】
前記高温電子線処理装置内において、電子線を照射しない位置、または電子線を照射しないタイミングでは、前記発熱体要素の表面温度を照射野の中心から離れるにつれてステップ状に高く設定することにより、前記含フッ素系高分子膜基材の照射野内およびその周辺位置に位置する部位の温度を一様に保ちながら短時間に結晶融点前後の予め定めた設定温度範囲内の温度まで高める。電子線を照射する位置、および電子線を照射するタイミングでは、照射野内の近傍に位置する前記発熱体要素の温度を低下させて前記含フッ素系高分子膜基材の温度を、照射野を中心として、蒲鉾状に分布した状態で低下させるように放熱させ、この放熱を打ち消す熱量を有する電子線を照射することによって加熱し、結果として照射中のどのタイミングでも前記含フッ素系高分子膜基材の温度が変化しないようにしている。また、前記の放出される熱量の空間分布および時間変化は、照射野内においては、電子線によって与えられる熱量の空間分布および経時変化とそれぞれ一致しており、結果として照射野内においては空間的および時間的に一様な温度分布となる。
【0040】
また、吸収線量の増加とともに結晶融点が低下し、したがって最適温度範囲が吸収線量とともに低下するので、前記発熱体要素の表面温度を吸収線量の積算値に応じて変化させて常に最適な温度で最適な架橋処理を行えるようになっている。このように吸収線量の積算値によって照射時の温度を変化させる場合には前記含フッ素系高分子膜基材を静止させた状態で前記発熱体要素の表面温度を吸収線量の積算値に応じて制御し、既定の吸収線量値に達した後に電子線の照射を休止して照射野の幅に相当する距離だけ前記含フッ素系高分子膜基材を長手方向に移動させるとともに、前記の各発熱体要素の温度設定を初期化して前記含フッ素系高分子膜基材の温度を照射開始時の設定値に戻した後、前記の照射を繰り返す。この際、前記含フッ素系高分子膜基材はステップ状に自動的に移動される。
【0041】
電子線照射時の許容温度範囲を狭く設定する場合には、前記含フッ素系高分子膜基材の長手方向に沿って電子線の強度分布を適当に変調することによって、照射野の周辺部囲の温度を他の部位の温度と同一にすることができる。この場合には、照射線量率が照射野の周辺と照射野の中央部と異なる為に前記含フッ素系高分子膜基材を静止して照射すると吸収線量が位置的に一様でなくなる。これを改善する為には照射中に前記含フッ素系高分子膜基材を適当な速さで移動させればよい。また、前記の各発熱体要素を前記長手方向に沿ってより細分化してより高精度に発熱量を制御することによって前記含フッ素系高分子膜基材の長手方向の温度分布を適正化すると前記の電子線の強度分布の変調は不必要にできる。
【0042】
照射する線量が多くない場合には、最適温度範囲を一定値にプリセットできるので、この場合には前記発熱体要素の温度設定を一定として前記含フッ素系高分子膜基材を一定速度で移動させながら架橋処理を行うことができる。この場合でも、不活性ガスの流量を増す等によって前記含フッ素系高分子膜基材の冷却率を大きくしておくと、放熱に釣り合う電子線の発熱量を増加できるのでより大きな線量率で短時間に多量の線量を照射できる。
【0043】
以上に述べたように、前記高温電子線処理装置内において前記含フッ素系高分子膜基材の保持部分を常温に保ったままで照射野およびその近傍部分を急速に加熱した後に、大きな照射線量率で照射しながら温度を一定に保った状態で前記含フッ素系高分子膜基材に多量の線量を短時間に照射し、照射が終了すると前記含フッ素系高分子膜基材の前記高温電子線処理装置出口に位置する部位を部分的に急速に冷却して前記高温電子線処理装置の外部に取り出される。このようにして、大面積の前記含フッ素系高分子膜基材を高速度で多量に自動的に架橋処理できるようになっている。以下に、実施例を用いて本発明の実施形態及び作用についてより具体的且つ詳細に説明する。
【実施例1】
【0044】
図1、図2、図3を参照して本発明の含フッ素系高分子膜基材の放射線処理方法について説明する。これらの図において、同じ部分は同じ番号を付して表している。図1及び図2は、本発明に係わる含フッ素系高分子膜基材の高温電子線処理装置の例を示している。図1は縦断面図であり、図2は横断面図である。図1において、1は長尺で幅広に形成された含フッ素系高分子膜基材であり、本実施例では、厚さが100μmで幅が30cmで長さが10mのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)膜を用いている。これは、リール2に巻き取られた状態からリール3に巻き取られるように移動する。含フッ素系高分子膜基材1はプーリー4によって位置決めされて高温電子線処理装置10内に導かれて、340℃程度に加熱された後に温度を340±5℃の範囲内に保った状態を維持しつつ電子線を照射される。高温電子線処理装置10の入口部分及び出口部分には冷却用プーリー5及び6が設けられており、これらは含フッ素系高分子膜基材1を機械的に保持してこの部分を常時常温に保つとともに含フッ素系高分子膜基材1の位置決め及び走行を促すように作動する。高温電子線処理装置10の出口部分にはプーリー7及び8が設けられている。プーリー7は位置が固定されており、含フッ素系高分子膜基材1の位置決めを行う。プーリー8には移動可能になっており、予め定められた力F1を常時含フッ素系高分子膜基材1に付与するようになっており、高温電子線処理装置10内の部分に適切な張力を与えるようになっている。プーリー8を通過した含フッ素系高分子膜基材1はリール3によって巻き取られる。
【0045】
高温電子線処理装置10には放射線防護機能と気体封じ込め機能を有する処理容器11が設けられており、内部はアルゴンや窒素等の不活性ガスで満たされている。高温電子線処理装置10には強度が面状に分布した電子線Eを照射する所謂面照射型の電子線照射装置12が設けられている。電子線照射装置12は例えば特開平11−19190号公報に開示された構造の装置で、電子線透過窓13を透過して平面状に分布した300keV程度のエネルギーと10mA程度の電流とを有する電子線を照射できるようになっている。高温電子線処理装置10内には含フッ素系高分子膜基材1が通過するようになっており、含フッ素系高分子膜基材1に対して電子線照射装置12と反対側に発熱体である加熱用ヒータ群30が設けられている。加熱用ヒータ群30と処理容器11の壁との間には熱遮蔽板14が設けられており、処理容器11の過熱を防止している。加熱用ヒータ群30は図示しない熱絶縁体を介して熱遮蔽板14に機械的に支持されている。熱遮蔽板14は必要により水冷等によって冷却されている。処理容器11内で含フッ素系高分子膜基材1と電子線透過窓13との間には第2の電子線透過窓15及びこれを冷却するとともに機械的に支持する隔壁16が設けられている。電子線透過窓13と第2の電子線透過窓15とは、ノズル17から導かれてノズル18から流出する不活性ガスがこれらの間を高速で流れることにより冷却される。
【0046】
高温電子線処理装置10の入口部位及び出口部位では熱遮蔽板14と隔壁16とが含フッ素系高分子膜基材1を挟んで非接触に近接している。これらの位置で、含フッ素系高分子膜基材1の図示上下両面に向って不活性ガスを吹きかけるノズル群19及び20が設けられており、この不活性ガスの流動により含フッ素系高分子膜基材1の機械的接触を防止して保持するとともに含フッ素系高分子膜基材1を冷却している。隔壁16には図示しない非接触温度計が設けられており、矢印21,22で示す方向における含フッ素系高分子膜基材1の表面位置の温度を検出できるようになっている。図1及び図2に示すように、電子線Eの中心軸をZ軸とし、含フッ素系高分子膜基材1とZ軸との交点を原点Oとし、原点Oを通り、高温電子線処理装置10の入口部分から出口部分に向う方向をX軸とし、原点Oを通り、X軸及びZ軸に直角な方向をY軸とする。高温電子線処理装置10内では含フッ素系高分子膜基材1の長手方向はX軸に平行であり、含フッ素系高分子膜基材1の幅方向はY軸に平行である。
【0047】
図3(a)は、正のZ座標値を有する高温電子線処理装置10の部分を取り除いてZ軸の方向から含フッ素系高分子膜基材1及び加熱用ヒータ群30を見た平面図を表している。図3(b)は図3(a)のYZ平面での断面図を表している。図3(a)の斜線部分は電子線Eの照射野Fiを表しており、照射野幅はFWであり、照射野長はFLである。本実施例においては前記所望範囲は照射野Fiに完全に一致している。図4(a)及び図4(b)は加熱用ヒータ群30の平面図及び側断面図をそれぞれ表している。図4(a)に示しているように、加熱用ヒータ群30はXY平面に平行な複数のヒータ要素とXZ平面に平行な複数のヒータ要素を含んでおり、これらはいずれも含フッ素系高分子膜基材1から一定の距離Z1、例えば2.5cm、を保って並べられている。これらのヒータ要素は前記発熱体要素の1つの具体例である。加熱用ヒータ群30には、X座標がそれぞれ−X2,−X1,0、X1,X2で,Y座標がそれぞれ−Y3,−Y2,−Y1,0、Y1,Y2,Y3の位置に表面の中心を有する35個のヒータ要素に分割されており、これらは小さな距離、例えば2mm、離れて互いに隣接して並べられている。ここで、X1は5.8cm、X2は13.8cm、Y1は10.8cm、Y2は15.1cm、Y3は17.5cmである。これらのヒータ要素はY軸方向に整列した7個のヒータ要素を含むヒータ要素群、つまり前記発熱体要素群、がX軸方向に5個整列して構成されている。これらのヒータ要素をそれぞれH(i,j)で表す。ここで、iはヒータ要素表面の中心座標を表すX軸方向の上記サフィックスを表し、−2、−1、0、1、2が含まれており、jはヒータ要素の表面の中心座標を表すY軸方向の上記サフィックスを表し、−3、−2、−1、0、1、2、3が含まれる。
【0048】
ヒータ要素H(i,j)、i = ±2、±1、0、j = ±2、±1,0、はZ座標が−2.5cmで、含フッ素系高分子膜基材1から2.5cm離れた位置で含フッ素系高分子膜基材1に平行に対面している。ヒータ要素H(i,j)、i = ±2、±1、0、j = ±3、は照射野中心からY方向にそれぞれ−Y3、Y3だけ離れた位置でZ方向に座標が0から−Z1まで広がってXZ平面に平行に配列されている。後者は、含フッ素系高分子膜基材1のY軸方向の温度分布を均一化するのに役立っている。これらの全てのヒータ要素はそれぞれ熱的、電気的に分割されており、独立して制御されるようになっている。
【0049】
これらの各ヒータ要素は、3種のタイミングで異なった様態に制御される。このタイミングは、含フッ素系高分子膜基材1を初期温度、例えば室温、から規定温度、例えば340℃、まで急速に加熱する為の急加熱タイミングT1と、含フッ素系高分子膜基材1を規定温度、例えば340℃、に保温する為の保温タイミングT2、T4と、含フッ素系高分子膜基材1の一部分における温度を低下させる部分冷却タイミングT3と電子ビームEを含フッ素系高分子膜基材1に照射するビーム照射タイミングT5とを含んでいる。急加熱タイミングT1に於ける各ヒータ要素の発熱量の分布を図5に示している。図5においては発熱量は面積密度で表している。図5(a)はヒータ要素H(0、j)、j = −3、−2、−1、0、1、2、3、の発熱量Q(0、j)、j = −3、−2、−1、0、1、2、3、であり、図5(b)はヒータ要素H(±1、j)、j = −3、−2、−1、0、1、2、3、の発熱量Q(±1、j)、j = −3、−2、−1、0、1、2、3、であり、図5(c)はヒータ要素H(±2、j)、j = −3、−2、−1、0、1、2、3、の発熱量Q(±2、j)、j = −3、−2、−1、0、1、2、3、であり、図5(d)はヒータ要素H(i、0)、i = −2、−1、0、1、2、の発熱量Q(i、0)、i = −2、−1、0、1、2、であり、図5(e)はヒータ要素H(i、±1)、i = −2、−1、0、1、2、の発熱量Q(i、±1)、i = −2、−1、0、1、2、であり、図5(f)はヒータ要素H(i、±2)、i = −2、−1、0、1、2、の発熱量Q(i、±2)、i = −2、−1、0、1、2、であり、図5(g)はヒータ要素H(i、±3)、i = −2、−1、0、1、2、の発熱量Q(i、±3)、i = −2、−1、0、1、2、である。
【0050】
同様に、保温タイミングT2,T4に於ける各ヒータ要素の発熱量を図6に示している。図6においては発熱量は面積密度で表している。図6(a)はヒータ要素H(0、j)、j = −3、−2、−1、0、1、2、3、の発熱量Q(0、j)、j = −3、−2、−1、0、1、2、3、であり、図6(b)はヒータ要素H(±1、j)、j = −3、−2、−1、0、1、2、3、の発熱量Q(±1、j)、j = −3、−2、−1、0、1、2、3、であり、図6(c)はヒータ要素H(±2、j)、j = −3、−2、−1、0、1、2、3、の発熱量Q(±2、j)、j = −3、−2、−1、0、1、2、3であり、図6(d)はヒータ要素H(i、0)、i = −2、−1,0,1,2の発熱量Q(i、0)、i = −2、−1、0、1、2、であり、図6(e)はヒータ要素H(i、±1)、i = −2、−1、0、1、2、の発熱量Q(i、±1)、i = −2、−1、0、1、2、であり、図6(f)はヒータ要素H(i、±2)、i = −2、−1、0、1、2、の発熱量Q(i、±2)、i = −2、−1、0、1、2、であり、図6(g)はヒータ要素H(i、±3)、i = −2、−1、0、1、2、の発熱量Q(i、±3)、i = −2、−1、0、1、2、である。
【0051】
同様に、部分冷却タイミングT3に於ける各ヒータ要素の発熱量を図7に示している。図7においては発熱量は面積密度で表している。図7(a)はヒータ要素H(0、j)、j = −3、−2、−1、0、1、2、3、の発熱量Q(0、j)、j = −3、−2、−1、0、1、2、3、であり、図7(b)はヒータ要素H(±1、j)、j = −3、−2、−1、0、1、2、3、の発熱量Q(±1、j)、j = −3、−2、−1、0、1、2、3、であり、図7(c)はヒータ要素H(±2、j)、j = −3、−2、−1、0、1、2、3、の発熱量Q(±2、j)、j = −3、−2、−1、0、1、2、3、であり、図7(d)はヒータ要素H(i、0)、i = −2、−1、0、1、2、の発熱量Q(i、0)、i = −2、−1、0、1、2、であり、図7(e)はヒータ要素H(i、±1)、i = −2、−1、0、1、2、の発熱量Q(i、±1)、i = −2、−1、0、1、2、であり、図7(f)はヒータ要素H(i、±2)、i = −2、−1、0、1、2、の発熱量Q(i、±2)、i = −2、−1、0、1、2、であり、図7(g)はヒータ要素H(i、±3)、i = −2、−1、0、1、2、の発熱量Q(i、±3)、i = −2、−1、0、1、2、である。
【0052】
上記の各ヒータ要素H(i,j)の発熱量を制御する時間関数及び電子ビーム照射線量を制御する時間関数を図8に示している。図8(a)は電子ビーム照射線量を制御する加熱時間tの関数Fb(t)であり、図8(b)はヒータ要素H(0,j)、j = −1、0、1、の発熱量Q(0,j)、j = −1、0、1、を制御する加熱時間tの関数Fh1(t)であり、図8(c)はヒータ要素H(0,j)、j = ±3、±2、の発熱量Q(0,j)、j = ±3、±2、を制御する加熱時間tの関数Fh2(t)であり、図8(d)はヒータ要素H(±1,j)、j = ±3、±2、±1、0、の発熱量Q(±1,j)、j = ±3、±2、±1、0、を制御する加熱時間tの関数Fh3(t)であり、図8(e)はヒータ要素H(±2,j)、j = ±3、±2、±1、0、の発熱量Q(±2,j)、j = ±3、±2、±1、0、を制御する加熱時間tの関数Fh4(t)である。これらの関数値は含フッ素系高分子膜基材1の冷却率等が変わると異なった値に適正化される。時間関数Fh4(t)は時間関数Fh3(t)と一致する場合もある。これらの図において、急加熱タイミングT1は加熱時間tが0から12.0秒の間に相当する。同様に、保温タイミングT2は加熱時間tが12.0秒から22.5秒の間、及び、保温タイミングT4は加熱時間tが41.3秒から63.8秒の間、及び82.6秒から105.1秒の間、及び123.9秒から146.4秒の間に相当する。同様に、部分冷却タイミングT3は加熱時間tが22.5秒から41.3秒の間、及び、63.8秒から82.6秒の間、及び105.1秒から123.9秒の間に相当する。同様に、ビーム照射タイミングT5は加熱時間tが24.0秒から44.5秒の間、及び65.3秒から85.8秒の間、及び106.6秒から127.1秒の間に相当する。
【0053】
上記のように各ヒータ要素H(i,j)の発熱量Q(i,j)を制御した場合に於ける各ヒータ要素H(i,j)の表面の加熱時間tにおける温度Th(i,j、t)を図9に表している。図9(a)はヒータ要素H(0,j)、j = ±3、±2、±1、0、の表面の温度Th(0、j、t)、j = ±3、±2、±1、0、t = 0〜145秒、を表している。図9(b)はヒータ要素H(±1,j)、j = ±3、±2、±1、0、の表面の温度Th(±1、j、t)、j = ±3、±2、±1、0、t = 0〜145秒、を表している。図9(c)はヒータ要素H(2,j)、j = ±3、±2、±1、0、の表面の温度Th(2、j、t)、j = ±3、±2、±1、0、t = 0〜145秒、を表している。図9(d)はヒータ要素H(−2,j)、j = ±3、±2、±1、0、の表面の温度Th(−2、j、t)、j = ±3、±2、±1、0、t = 0〜145秒、を表している。含フッ素系高分子膜基材1が静止している場合にはTh(−2、j、t)はTh(2、j、t)に一致する。
【0054】
図9に示した代表的な加熱時間t = 11.5秒、21.9秒、24.3秒、29.9秒に於ける各ヒータ要素H(i,j)の表面温度の空間分布を図10に表している。図10の縦軸の値はセ氏温度を表している。図10(a)はヒータ要素H(0、j)、j = ±3、±2、±1、0、の表面の温度Th(0、j、t)を示している。図10(b)はヒータ要素H(±1、j)、j = ±3、±2、±1、0、の表面の温度Th(±1、j、t)を示している。図10(c)はヒータ要素H(±2、j)、j = ±3、±2、±1、0、の表面の温度Th(±2、j、t)を示している。図10(d)はヒータ要素H(i、0)、i = ±2、±1、0、の表面の温度Th(i,0、t)を示している。図10(e)はヒータ要素H(i、±1)、i = ±2、±1、0、の表面の温度Th(i,±1、t)を示している。図10(f)はヒータ要素H(i、±2)、i = ±2、±1、0、の表面の温度Th(i,±2、t)を示している。図10(g)はヒータ要素H(i、±3)、i = ±2、±1、0、の表面の温度Th(i,±3、t)を示している。これらの図から分かるように、各ヒータ要素の同一表面内における温度はほぼ均一に分布する。
【0055】
図9及び図10に示すようにヒータ要素の表面温度Th(i,j,t)は含フッ素系高分子膜基材1の幅方向において、より端部に位置する表面の温度がより高くなっており、これらのヒータ要素で含フッ素系高分子膜基材1を熱輻射によって加熱した場合の含フッ素系高分子膜基材1の表面温度をTp(x、y、t)とする。ここで、xはX軸方向位置を、yはY軸方向位置を、tは加熱開始後の時間つまり加熱時間を表している。ヒータ要素の表面温度Th(i,j,t)は、含フッ素系高分子膜基材1の温度Tp(x、y、t)が照射野幅FW内のX方向位置x及び加熱時間tに関係せず、幅方向つまりY方向に一様な温度分布となるように定められている。図1(a)及び図2(a)に示すように、冷却用プーリー5及び6の近傍では含フッ素系高分子膜基材1の温度は常温に保たれている。図8及び図9で示した部分冷却タイミングT3が無く、急加熱タイミングT1に続いて保温タイミングT2、T4が継続するように各ヒータ要素H(i,j)を制御した場合には、含フッ素系高分子膜基材1の照射野Fiに位置する部分は340±5℃まで加熱されて空間的にも時間的にもこの温度範囲に保たれる。
【0056】
このように含フッ素系高分子膜基材1の表面温度Tp(x、y、t)を照射野Fi内で空間的にも時間的にも340±5℃の範囲で一様に保った状態で、X軸方向の強度分布を図11(a)に示すような照射野Fi内で一様に分布する強度(300keV、0.24mA)を有する電子線Eを照射した場合には、含フッ素系高分子膜基材1の温度Tp(x、y、t)のX軸方向分布は図11(b)に示すようになり、Y軸方向には一様に分布する。図11(b)に示すように、電子線Eの照射直前の加熱時間t = 21.9秒において含フッ素系高分子膜基材1の照射野中心に於ける温度Tp(0、0、21.9)は343.9℃であり、照射直後の加熱時間t = 24.3秒において含フッ素系高分子膜基材1の照射野中心に於ける温度Tp(0、0、24.3)は350.1℃であり、照射開始後5.9秒を経過した加熱時間t = 29.9秒において含フッ素系高分子膜基材1の照射野中心に於ける温度Tp(0、0、29.9)は395.0℃であり、照射開始後18.7秒を経過した加熱時間t = 42.7秒において含フッ素系高分子膜基材1の照射野中心に於ける温度Tp(0、0、42.7)は440.7℃である。つまり、照射中に含フッ素系高分子膜基材1の温度Tp(x、y、t)が高温度になり過ぎて含フッ素系高分子膜基材1の熱分解が進行する。この場合の吸収線量は210kGyに相当する。
【0057】
電子線Eの照射野Fi内におけるのX軸方向分布を図12(a)に示すように変更した場合の含フッ素系高分子膜基材1の温度Tp(x、y、t)のX軸方向分布は図12(b)に示すようになり、照射野Fiの幅FW内でなだらかに変化する。この場合の照射野中心に於ける含フッ素系高分子膜基材1の温度Tp(0、0、t)の時間変化は図15(b)に示している。この場合でも含フッ素系高分子膜基材1の温度Tp(x、y、t)はY軸方向には一様に分布する。このように、電子線Eの照射野Fi内におけるのX軸方向分布を変調することによって含フッ素系高分子膜基材1の温度Tp(x、y、t)のX軸方向分布を任意に変更することが出来る。電子線Eの照射野Fi内におけるのX軸方向分布の調整は電子線Eの通路内に適当なフィルタを設けること等によって達成できる。
【0058】
一方、図8及び図9に示したように部分冷却タイミングT3が生じるように各ヒータ要素H(i、j)を制御した状態で電子ビームEを照射しない場合における含フッ素系高分子膜基材1の温度Tp(x、y、t)を図13に示している。図13(a)は含フッ素系高分子膜基材1の温度Tp(x、y、t)のY軸方向分布であり、図13(b)は含フッ素系高分子膜基材1の温度Tp(x、y、t)のX軸方向分布である。これらの図は部分冷却タイミングT3において電子線Eの照射野Fiの照射野幅FW内において部分的に加熱時間tとともに低下していることを表している。この場合の照射野中心に於ける含フッ素系高分子膜基材1の温度Tp(0、0、t)の時間変化は図15(c)に示している。
【0059】
図8(a)に示すような、部分冷却タイミングT3に概略一致したビーム照射タイミングT5において、図12(a)に示す強度分布をした電子線を照射した場合には、含フッ素系高分子膜基材1の温度Tp(x、y、t)のY軸方向分布Tp(0、y、t)は図14(a)に示すように、X軸方向分布Tp(x、0、t)は図14(b)に示すように、照射野中心に於ける含フッ素系高分子膜基材1の温度Tp(0、0、t)の時間変化は図15(a)のようになる。これらの図が示すように、照射野Fi内の如何なる位置においても如何なる時点においても含フッ素系高分子膜基材1の温度は340±5℃の範囲に収まっている。図14(a)に示すように、X軸方向分布Tp(x,0,t)は照射野Fi内では340±5℃の範囲に収まっており、照射幅FWの外部直近に位置する部分では照射時間が長くなると含フッ素系高分子膜基材1の温度がやや低下している。これは、図12(b)と図13(b)の照射野幅FWの外側に於ける温度分布の違いに起因している。この部分では含フッ素系高分子膜基材1が電子線Eの照射を受けないので何ら問題とならない。
【0060】
含フッ素系高分子膜基材1の温度Tp(x、y、t)の経時変化を少なくする為に、電子ビームEの強度を図8(a)で示すように時間的に変化させている。この場合にも電子ビームEの強度の空間分布は前述のように一定に保たれている。電子ビームEの強度の時間変化は、図1(a)の矢印16で示している方向の温度を非接触温度計で測定して電子線照射装置12に帰還制御することによって自動的に制御できる。上述した20.5秒間の一回の照射で含フッ素系高分子膜基材1に与えられる線量は236kGyに相当し、繰り返して照射することにより、任意に線量を増加することができる。
【0061】
以上に述べたように、電子線Eを照射する前後に照射野Fiの範囲内において含フッ素系高分子膜基材1の温度Tp(x、y、t)をY軸方向に一様に340±5℃の範囲に保つことはヒータ要素H(i,j)の表面温度をY軸方向に原点から離れるに従って適正化して高めることによって達成しており、含フッ素系高分子膜基材1の温度Tp(x、y、t)をX軸方向に一様に340±5℃の範囲に保つことはヒータ要素H(i,j)の表面温度をX軸方向に原点から離れるに従って適正化して高めることによって達成している。電子線Eを照射する間に照射野Fiの範囲内において含フッ素系高分子膜基材1の温度Tp(x、y、t)をY軸方向およびX軸方向に一様に340±5℃の範囲に保つことは照射野Fiの中心に近接するヒータ要素H(i,j)の表面温度を部分的に低下させるとともに、含フッ素系高分子膜基材1の表面を熱輻射及び自然対流によって冷却し、この冷却によって放出される熱量に相当する熱量を有する電子線Eを照射することによって達成している。この際、電子線Eの照射時間が長くなった場合にも含フッ素系高分子膜基材1の温度Tp(x、y、t)をX軸方向に一様に340±5℃の範囲に保つことは、電子線EのX軸方向における照射野幅FWの端部における強度を適正に分布させて電子線Eによって加熱される温度上昇のX軸方向分布を、ヒータ要素H(i,j)の発熱量Q(i,j)によって低下する含フッ素系高分子膜基材1の温度低下のX軸方向分布に一致させることによって達成している。照射野幅FWの範囲内において含フッ素系高分子膜基材1の温度Tp(x、y、t)を経時的に常に340±5℃の範囲に保つことは、電子線Eの照射開始直後及び照射終了直前における電子線強度を適正に設定することによって達成している。これは、含フッ素系高分子膜基材1の表面温度をフィードバックして電子ビームEの強度を経時的に自動制御する事がより好ましい。
【0062】
以上において、含フッ素系高分子膜基材1を静止した状態で電子線Eを照射する場合について述べたが、この場合に、電子線強度のX軸方向分布が図12(a)に示すように変調されているので照射される線量がX軸方向に均一でない部分が生じる。この照射線量のX軸方向不均一が許容されない場合には、電子線強度のX軸方向分布を図11(a)に示すように均一にして、ヒータ要素H(i,j)をX軸方向により細分化して部分冷却タイミングT3におけるX軸方向の温度分布を適正化することによって改善できる。若しくは、電子線Eの照射中に含フッ素系高分子膜基材1をX軸方向に適当な速さで移動することによって吸収線量を一様化できる。更に、含フッ素系高分子膜基材1の移動速度を電子線Eの強度に連動して制御して単位距離あたりの吸収線量を均一化することによって達成できる。前記のビーム照射タイミングT5で含フッ素系高分子膜基材1をX軸方向に移動させ、前記の保温タイミングT4で含フッ素系高分子膜基材1を静止させ、ヒータ要素H(i,j)によって含フッ素系高分子膜基材1の温度を均一に戻しており、これらを交互に繰り返すことによってテープ状の長い含フッ素系高分子膜基材1を均一温度で任意の均一な線量の電子線照射を行うことが出来るようになっている。単位面積あたりの吸収線量はビーム照射タイミングT5の時間を長くすることによって任意に決めることが出来る。
【実施例2】
【0063】
以上において、各ヒータ要素H(i,j)の空間分布を一定に保って発熱量Q(i,j)を制御する時間関数を変化させて急加熱タイミングT1と保温タイミングT2,T4と部分冷却タイミングT3において各ヒータ要素H(i,j)の表面温度Th(i,j)を変化させている実施例を示したが、各ヒータ要素H(i,j)の表面温度Th(i,j)をX軸の方向に空間的に異なる設定にして、急加熱空間と保温空間と部分冷却空間とを順に設け、これらの空間に於けるヒータ要素の表面温度Th(i,j)の相対関係を適正化しておき、含フッ素系高分子膜基材1の移動速度を適正化することによって含フッ素系高分子膜基材1の温度Tp(x、y、t)を一様に340±5℃の範囲に保つことが出来る。更に、ビーム照射空間を設け、これは前記の部分冷却空間と概略一致させる。この場合の各ヒータ要素H(i,j)の温度の空間分布を図16(a)に、と各ヒータ要素H(i,j)によって加熱される含フッ素系高分子膜基材1の温度の空間分布を図6(b)に、電子ビーム照射によって加熱される含フッ素系高分子膜基材1の温度の空間分布を図16(c)に、各ヒータ要素H(i,j)による加熱と電子ビーム照射による加熱が重畳された場合の含フッ素系高分子膜基材1の温度の空間分布を図16(d)にそれぞれ示している。この実施例でも、部分冷却空間において含フッ素系高分子膜基材1から単位時間内に放出させる熱量と単位時間内に電子ビームEによって与えられる熱量とは、含フッ素系高分子膜基材1の照射野Fi内のどの位置においても、常に一致している。
【0064】
前記各空間のX軸方向長さXsと含フッ素系高分子膜基材1の移動速度vと時間tとの関係をt=Xs/vとすることによって実施例1と同様な含フッ素系高分子膜基材1の温度Tp(x、y、t)を実現することが出来る。この実施例では含フッ素系高分子膜基材1の移動速度vを変更しても含フッ素系高分子膜基材1の温度Tp(x、y、t)を一定範囲内に保てるので照射線量を変更するには移動速度vを変更すればよい。部分冷却空間に於けるヒータ要素H(i、j)の表面温度の設定を変えることによって電子ビームEの照射線量率を適正化することが出来る。
【0065】
本発明を実施形態及び実施例に関連して説明したが、本発明は、ここに例示した実施形態及び実施例に限定されるものではなく、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、いろいろな実施形態が可能であり、いろいろな変更及び改変を加えることができることを理解されたい。例えば、上記の実施例では、各ヒータ要素H(i,j)の温度を空間的又は時間的にプリセットしている場合を示しているが、コンピュータ等を使用して自動制御することも出来る。図8に示した時間関数を吸収線量の積算値に応じて変化させることにより、含フッ素系高分子膜基材1が受けた積算線量に応じて照射時の設定温度範囲を変化させることによって照射時の温度を経時的に最適化できる。本発明においては、高温放射線処理されていない含フッ素系高分子膜は処理後の膜と区別する為に原則的に含フッ素系高分子膜基材と称しており、照射野は前記含フッ素系高分子膜基材が前記電離放射線の照射を受ける空間範囲を意味しており、前記電離放射線が前記含フッ素系高分子膜をはみ出している部分は含んでいない。また、本発明においては、冷却とは輻射や対流による放熱の他に熱伝導によって特定の部位にける熱量が減少する場合も含めて表現している。電子線強度は吸収された電子線のパワーを意味しており、エネルギーが一定である場合には電流に比例した値となる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明を採用すると、含フッ素系高分子膜基材を酸素不在環境下において高温度で電離放射線を照射して架橋するに際して、大面積の含フッ素系高分子膜基材を照射野内の全ての位置にわたってかつ処理の全時間中にわたって常に予め定められた温度範囲に保った状態で電離放射線を照射することができ、安定した品質の架橋構造を有する含フッ素系高分子膜を短時間に大量に且つ安価に生産することができる。本発明を採用して生産された安価で高品質の架橋構造を有する含フッ素系高分子膜を基材として用いると、優れた耐酸化性と広範囲なイオン交換容量を有する含フッ素系高分子イオン交換膜を安価に大量生産できるようになり、結果として高性能で安定動作をする長寿命の燃料電池を安価に生産できるようになるので産業上の利用価値は極めて高い。また、本発明によって得られた改質含フッ素系高分子膜は耐放射線性を付与されるために放射線環境下での工業材料としてまたは放射線滅菌が可能な医療用具素材として産業上の利用価値は極めて高い。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明に係わる高温電子線処理装置を縦断面図で表した図である。
【図2】本発明に係わる高温電子線処理装置を横断面図で表した図である。
【図3】本発明に係わる高温電子線処理装置を構成する加熱用ヒータ群を表した平面図及び断面図である。
【図4】本発明に係わる加熱用ヒータ群の平面図及び側断面図を表した図である。
【図5】本発明に係わる作用を説明する図であり、急加熱タイミングT1に於ける各ヒータ要素の発熱量を示す図である。
【図6】本発明に係わる作用を説明する図であり、保温タイミングT2,T4に於ける各ヒータ要素の発熱量を示す図である。
【図7】本発明に係わる作用を説明する図であり、部分冷却タイミングT3に於ける各ヒータ要素の発熱量を示す図である。
【図8】本発明に係わる作用を説明する図であり、各ヒータ要素の発熱量を制御する時間関数及び電子ビーム照射線量を制御する時間関数を示す図である。
【図9】本発明に係わる作用を説明する図であり、各ヒータ要素の表面の温度変化を示す図である。
【図10】本発明に係わる作用を説明する図であり、各ヒータ要素の表面温度の空間分布を表す図である。
【図11】本発明に係わる作用を説明する図であり、電子線強度及びこれを照射した場合の含フッ素系高分子膜基材の温度のX軸方向分布を示す図である。
【図12】本発明に係わる作用を説明する図であり、電子線強度及びこれを照射した場合の含フッ素系高分子膜基材の温度のX軸方向分布を示す図である。
【図13】本発明に係わる作用を説明する図であり、部分冷却タイミングT3が生じるように各ヒータ要素を制御した状態で電子ビームEを照射しない場合における含フッ素系高分子膜基材1の温度分布を示す図である。
【図14】本発明に係わる作用を説明する図であり、電子線の照射中における含フッ素系高分子膜基材の温度の空間分布及びその時間変化を示す図である。
【図15】本発明に係わる作用を説明する図であり、含フッ素系高分子膜基材の温度の時間変化を示す図である。
【図16】本発明に係わる他の実施例を表す図であり、各ヒータ要素の表面温度の空間分布と含フッ素系高分子膜基材の温度の空間分布を示す図である。
【符号の説明】
【0068】
1 含フッ素系高分子膜基材
2 リール
3 リール
4 プーリー
5 冷却用プーリー
6 冷却用プーリー
7 プーリー
8 プーリー
10 高温電子線処理装置
11 処理容器
12 電子線照射装置
13 電子線透過窓
14 熱遮蔽板
15 電子線透過窓
16 隔壁
17 ノズル
18 ノズル
19 ノズル群
20 ノズル群
21 温度検出方向を示す矢印
22 温度検出方向を示す矢印
30 加熱用ヒータ群
E 電子線
Fi 照射野
FL 照射野長
FW 照射野幅
T1 急加熱タイミング
T2 保温タイミング
T3 部分冷却タイミング
T4 保温タイミング
T5 ビーム照射タイミング
【技術分野】
【0001】
この発明は、燃料電池に適した固体高分子電解質膜であって優れた耐酸化性と広範囲なイオン交換容量を有する含フッ素系高分子イオン交換膜及びその製造方法及び製造装置に関する。特に、含フッ素系高分子イオン交換膜の基材となる改質された含フッ素系高分子膜を工業的に安価に大量生産する方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子イオン交換膜を使用した燃料電池においては、高分子イオン交換膜はプロトンを伝導するための電解質として作用するとともに、燃料である水素やメタノールと酸化剤である空気または酸素を直接混合させないための隔膜として作用する。このような高分子イオン交換膜としての役割から、電解質としてイオン交換容量が高いこと、水酸化ラジカル等に対する耐性つまり耐酸化性に優れていること、電気抵抗を低く保持するために膜の保水性が一定で高いこと等が求められる。一方、隔膜としての役割から、膜の力学的な強度や膜の寸法安定性に優れていること、水素ガス、メタノール又は酸素ガスに対して過剰な透過性を有しないこと等が求められる。
【0003】
初期の高分子イオン交換膜型燃料電池では、スチレンとジビニルベンゼンの共重合で製造した炭化水素系高分子イオン交換膜が使用された。しかし、このイオン交換膜は耐酸化性に起因する耐久性が非常に劣っていた為に実用性に乏しかった。その後はデュポン社によりこの欠点を克服して開発されたパーフルオロスルホン酸膜「ナフィオン(デュポン社登録商標)」等が一般に使用されてきた。
【0004】
しかしながら、「ナフィオン」等の従来の含フッ素系高分子イオン交換膜は、前記の耐久性や安定性には優れているが、イオン交換容量が1meq/g前後と小さいことや、保水性が不十分でイオン交換膜の乾燥が生じてプロトン伝導性が低下することや、メタノールを燃料とする場合には膜の膨潤やメタノールのクロスオーバーが起きること等の欠点を有している。また、イオン交換容量を大きくする目的でスルホン酸基を多く導入しようとすると、高分子鎖中に架橋構造がないために、膜強度が著しく低下して容易に破損するようになる。したがって、従来の含フッ素系高分子のイオン交換膜では膜強度が保持される程度にスルホン酸基の量を抑える必要があり、このためイオン交換容量が1meq/g程度のものしかできなかった。また、「ナフィオン」などの従来の含フッ素系高分子イオン交換膜は、そのモノマーの合成が困難かつ複雑であり、さらに、これを重合してポリマー膜を製造する工程も複雑であるために非常に高価である。このことは、従来のプロトン交換膜型燃料電池を自動車などへ搭載して実用化する際の大きな障害になっている。そのため、前記「ナフィオン」等に替る低コストで高性能な電解質膜を開発することが求められている。
【0005】
含フッ素系高分子膜基材にスルホン酸基を導入することが出来るモノマーをグラフト重合して固体高分子電解質膜を作製する放射線グラフト重合法の試みが成されている。しかし、通常の含フッ素系高分子膜基材ではグラフト反応が膜の内部まで進行せず膜表面に限られるため、電解質膜としての特性が向上しない。また、電子線やγ線などの電離放射線を照射した場合に、通常の含フッ素系高分子膜基材は主鎖切断反応が起きて劣化する。さらに、グラフトモノマーとしての炭化水素系のモノマーでは耐酸化性が低いことが問題であった。例えば、エチレンーテトラフルオロエチレン共重合体にスチレンモノマーを放射線グラフト反応により導入し、次いでスルホン化することにより合成したイオン交換膜は燃料電池用イオン交換膜として機能することが特開平9−102322号公報に開示されているが、スチレングラフト鎖が炭化水素で構成されているため、膜に長時間電流を流すとグラフト鎖部の酸化劣化が起こり、膜のイオン交換能が大幅に低下するという欠点を有している。
【0006】
含フッ素系高分子膜基材を予め架橋しておくと、膜の耐熱性が向上しモノマーのグラフト率が向上し、さらに、グラフトのための照射による膜強度の低下を抑制することが出来るので、高温作動で高性能の燃料電池用イオン交換膜には好適であることが特開2004−51685号公報や特開2004−300360号公報に開示されている。特に、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の放射線グラフト反応では架橋構造を膜基材の分子構造に導入することによって無定形部分が多くなり、未架橋のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)ではグラフト率が低いという欠点を解決できることが特開2004−300360号公報や特開2001−348439号公報に開示されている。このように、架橋構造を有する含フッ素系高分子膜を基材として用いることにより優れた耐酸化性と広範囲なイオン交換容量を有して燃料電池に適した固体高分子電解質膜として使用できる含フッ素系高分子イオン交換膜が出来ることが知られている。
【0007】
一般に、含フッ素系高分子膜基材は耐熱性と耐薬品性に優れた特性を有し、産業用および民施用の樹脂として広く利用されている。しかし、含フッ素系高分子膜基材は放射線に対して感受性が高く、放射線を照射することによって分子鎖の切断が進行し、吸収線量が50kGyを超えると機械特性が低下する。そのため原子力施設や宇宙空間などの放射線環境下では利用することが出来なかった。含フッ素系高分子膜基材は放射線に対して典型的な崩壊型高分子膜であるが、従来の熱化学反応などの方法によって耐放射線性を付与することは出来なかった。含フッ素系高分子膜基材の代表であるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)は放射線に対して極めて感受性が高く、1kGyを超える照射を受けると機械特性が低下することから、原子力施設等の放射線環境下では利用できない樹脂であった。これは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)では、放射線照射により分子切断が優先的に生じ、結晶化が容易に進行してしまうことに起因する。ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)にその結晶融点以上の温度で酸素不存在下において電離放射線を照射すると架橋が起こり、特性が大きく改善されることが特開平6−116423号公報や特開平7−118423号公報に開示されている。
【0008】
特開平6−116423号公報にはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を架橋する方法が開示されている。これは、酸素不在環境下、すなわち真空中または不活性ガス雰囲気中において、結晶融点(327℃)以上の温度に保った状態で電離放射線(γ線、電子線、X線、中性子線、高エネルギーイオン等)を照射する方法である。照射時のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)膜基材の温度は340℃前後が望ましく、照射される線量は1kGyから10MGyの範囲が適当であるが、特にゴム特性を得る為には200kGyから5MGyの範囲が望ましいことが開示されている。このような条件で処理されたポリテトラフルオロエチレン(PTFE)膜は耐放射性が付与され、真空中で室温環境下において電離放射線を照射した場合と比較すると、破断伸びと降伏点強度等の材料劣化が著しく抑制されたことが記述されている。
【0009】
特開平11−49867号公報には、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)およびテトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)に同様の条件下で電離放射線を照射することによって、放射線環境下における耐熱性と機械特性が向上することが開示されている。テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)もしくはテトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)に、照射時の酸化を防止するために酸素不在下すなわち真空中もしくは不活性ガス雰囲気中において、各々の結晶融点よりも約20℃低い温度から各々の結晶融点よりも約20℃高い温度の範囲内において電離放射線(γ線、電子線、X線、中性子線、高エネルギーイオン等)を照射することによってこれらの含フッ素系高分子膜基材は架橋することが開示されている。照射時の樹脂の温度は、各々の含フッ素系高分子膜基材の結晶融点を中心としてそれよりもおよそ±10℃の範囲の温度が好ましいことが開示されている。また照射線量は1kGy〜15MGyの範囲が好ましく、ゴム特性を付与する為には500kGy〜10MGyの範囲がより好ましいことが開示されている。このように処理されたこれらの含フッ素系高分子膜は耐熱性と耐薬品性が改善されており、これらの特性が求められる機器類のシール材料やパッキング材料に適している。特に、耐放射線特性が付与されているので放射線環境下での工業材料としてテトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)やテトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)が利用できるようになる。
【0010】
また、特開平7−118423号公報には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の初期の結晶融点である327℃以上の温度で放射線照射を続けると、架橋反応に加えて熱分解反応や解重合反応が起こりモノマーがポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の表面から飛散し、重量が減少してしまうことが開示されている。ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)に、その結晶融点以上の温度で真空又は不活性ガス中で放射線を照射すると架橋するが、結晶融点は放射線の線量が増大すると低下してくる。そこで、照射時のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の温度を、照射線量にあわせて変化させ、熱分解や解重合を抑制しつつ架橋を進めると良いことが開示されている。例えば、照射初期には、327℃以上、望ましくは340℃〜350℃に昇温するが、その後、50kGy照射後では320〜330℃、100kGy照射後では290〜300℃、200kGy照射後では280〜290℃、500kGy照射後では260〜270℃、そして1MGy照射後では230〜240℃に温度を下げる例が開示されている。ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の温度を低下させる方法としては、液体窒素等の冷媒によって冷却したり、系内に流通せしめる不活性ガスの温度を徐々に下げたりする方法が開示されている。しかし、これらの温度低下方法では正確な温度管理が困難である。
【0011】
以下において、含フッ素系高分子膜基材をその結晶融点以上の予め定められた設定温度範囲内の温度に保ちながら当該含フッ素系高分子膜基材に1kGy以上の電離放射線を低い酸素分圧環境下において照射することにより改質含フッ素系高分子膜を製造する方法を記した例について述べる。特開平6−116423号公報には、厚さ1mmの市販のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)シートを真空中(0.01Torr以下)において340℃に加熱してコバルトー60から照射されたγ線を1.7kGyから20kGyまで照射した例や、厚さ0.3mmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)シートを真空中(0.01Torr以下)において340℃に加熱し、エネルギーが2MeVの電子線を100kGyから2MGyまで照射した例が開示されている。また、厚さ0.3mm、0.5mm、1mmのそれぞれのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)シートを真空中で、370℃において電子線を照射したところ、照射時間が長くなるにしたがってポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の熱分解が進行してシートの厚さが薄くなる旨の記述がある。
【0012】
特開平11−49867号公報には、厚さが0.5mmであるテトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)シートをアルゴン気流中でその結晶融点(270℃)より高い280℃に加熱して、エネルギーが2MeVの電子線を100kGy照射すると架橋して耐放射線性が付与された例が開示されている。同様に、厚さが0.5mmであるテトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)シートをアルゴン気流中でその結晶融点(310℃)より高い320℃に加熱して、エネルギーが2MeVの電子線を300kGy照射すると架橋して耐放射線性が付与された例が開示されている。
【0013】
特開2001−348439号公報には厚さが500μmで数平均分子量が1x107のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)シートの10cmx10cmの片を加熱型の照射容器に入れ、容器内を10−3Torr程度に脱気してアルゴンガスに置換した後、電気ヒータで加熱してポリテトラフルオロエチレン(PTFE)シートの温度を335〜345℃として、エネルギーが2MeVの電子線を50kGy、100kGy、300kGy、500kGy、または1MGyの線量まで照射し、照射後、容器を冷却して高温照射を終了したポリテトラフルオロエチレン(PTFE)シートを取り出したことが開示されている。
【0014】
また、特開2002−348389号公報には、長鎖分岐型ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)シートを得る為に以下の照射を行ったことが記されている。すなわち、厚さが50μm又は100μmで数平均分子量が1x107のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)シートの10cmx6cm片をSUS枠で固定し、50μm厚のチタン箔からできた電子線入射用の窓が付いた加熱型のSUS製照射容器に入れ、容器内を10−3Torr程度に脱気してアルゴンガスに置換し、その後、電気ヒータで加熱してポリテトラフルオロエチレン(PTFE)シートの温度を335〜340℃として、ごくわずかにアルゴンガスを流しながらエネルギーが2MeVの電子線を照射したことが開示されている。このときの電流は0.5mAで線量率は0.5kGy/秒で、線量は100kGy又は200kGyであり、照射時間はそれぞれ200秒または400秒である。照射後、容器を冷却して放射線照射を終了したポリテトラフルオロエチレン(PTFE)シートを取り出して長鎖分岐型ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)膜を得ている。
【0015】
特開2004−51685号公報や特開2004−14436号公報や特開2003−261697号公報や特開2003−82129号公報に開示されているように、架橋したポリテトラフルオロエチレン(PTFE)つまり長鎖分岐型ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)膜を得る為に以下の照射が行われている。厚さ50μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルムの10cm角をヒータ付きのSUS製オートクレーブ照射容器(内径7cmΦ、高さ30cm)に入れ、容器内を10−3Torrに脱気してアルゴンガスに置換し、その後、電気ヒータで加熱してポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルムの温度を340℃(又は300℃〜365℃の温度範囲)として、コバルト−60のγ線を3kGy/時の線量率で90kGyの線量まで照射した後、容器を冷却して放射線照射を終了したポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルムを取り出したことが記されている。この際の照射に必要な時間は30時間であった。
【0016】
以上に公開された処理方法では、処理される含フッ素系高分子膜基材は10cm角程度の小片であり、小容積の容器内に入れて加熱した後に、電離放射線の照射処理を行い、その後容器を冷却して処理された含フッ素系高分子膜を取り出している。電離放射線の照射処理を行うに際して、コバルト−60のγ線を使用した例が示されているが、この場合には線量率が低い為に所定の線量を照射するためには30時間もの長時間を要している。また、エネルギーが2MeVの電子線を照射した例も開示されているが、やはり線量率があまり高くないので小片の処理のために400秒程度を要している。さらに、一般的に容器の冷却のためには長時間を要する。このような照射においては、電離放射線の線量率を高めると、電離放射線の加熱効果によって照射中に被照射膜基材の温度が上昇して熱分解が進行する不都合が生じる。以上に記した通り、含フッ素系高分子膜基材を高温放射線処理するに際して、大面積の含フッ素系高分子膜基材を処理できることや、電離放射線を照射する時に含フッ素系高分子膜基材の正確な温度管理ができることが重要である。
【0017】
更に、架橋した含フッ素系高分子膜を工業製品として実用化するためには、処理速度を高めて低価格化するとともに処理条件の高度な管理を行って品質の均一化を達成することが必要である。電離放射線の照射処理を行うに際して線量率を高めた場合には、電離放射線による含フッ素系高分子膜基材の加熱が重畳されて含フッ素系高分子膜基材の温度が上昇するとともに、温度の分布が変わり、処理後の含フッ素系高分子膜の品質を均一化することが困難であった。特に、30cmを超える幅広で長尺の含フッ素系高分子膜基材を処理する場合には照射前後、特に照射中に於ける膜基材の温度及び温度の空間分布及び温度の時間変化の管理が困難であった。このような理由により、架橋した含フッ素系高分子膜を工業製品として実用化されるに至っていない。
【特許文献1】特開平6−116423号公報
【特許文献2】特開平7−118423号公報
【特許文献3】特開平9−102322号公報
【特許文献4】特開平11−19190号公報
【特許文献5】特開平11−49867号公報
【特許文献6】特開2001−348439号公報
【特許文献7】特開2003−82129号公報
【特許文献8】特開2003−261697号公報
【特許文献9】特開2004−14436号公報
【特許文献10】特開2004−51685号公報
【特許文献11】特開2004−300360号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
解決しようとする課題は、幅広で長尺の含フッ素系高分子膜基材をその結晶融点前後の予め定められた設定温度範囲内の温度に保ちながら当該含フッ素系高分子膜基材に1kGy以上の電離放射線を低い酸素分圧環境下において照射することにより改質含フッ素系高分子膜を製造するに際して、処理速度を高めて低価格化するとともに処理条件の高度な管理を行って品質の均一化を達成することにより、架橋した含フッ素系高分子膜を工業製品として実用化することである。さらに、安価で大面積の架橋した含フッ素系高分子膜を基材として提供して、燃料電池に適した固体高分子電解質膜として優れた耐酸化性と広範囲なイオン交換容量を有する含フッ素系高分子イオン交換膜を安価に大量生産できるようにし、もって、自動車などに搭載できる安価で高寿命の燃料電池を提供することである。特に、大面積の含フッ素系高分子膜基材を照射野内の全ての位置にわたってかつ照射処理の全時間中にわたって常に予め定められた温度範囲に保った状態で電離放射線を照射することによって、安定した品質の架橋構造を有する含フッ素系高分子膜を短時間に大量に且つ安価に生産する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、長尺の含フッ素系高分子膜基材を温度制御と電離放射線照射が行える高温放射線処理装置内を通過させ、この高温放射線処理装置の入口位置および出口位置において、含フッ素系高分子膜基材の長手方向の一部分を常温に保って機械的に保持するとともに走行機能を付与させ、前記高温放射線処理装置内においては発熱体を設け、この発熱体は含フッ素系高分子膜基材の長手方向および幅方向に沿って多数の発熱体要素に分割して配列しておき、これらの発熱体要素の表面温度を空間的および/又は時間的に適正に制御して、照射中および照射前後を問わず、照射野内の所望範囲内に於ける含フッ素系高分子膜基材の全ての位置の温度を一様とし、所定の処理が進行すれば長尺の改質された含フッ素系高分子膜の出口部分を部分的に冷却して高温放射線処理装置外に送り出すことによって短時間に多量の処理ができるようになっている。
【0020】
前記高温放射線処理装置内において、電離放射線を照射しない位置、または電離放射線を照射しないタイミングでは、前記発熱体要素の表面温度を照射中心から離れるにつれてステップ状に高く設定することにより、照射野内およびその周辺位置に存する前記含フッ素系高分子膜基材の部位の温度を一様に短時間に結晶融点前後の予め定められた温度範囲まで高める。電離放射線を照射する位置、および電離放射線を照射するタイミングでは、照射野内の近傍に位置する前記発熱体要素の表面温度を低下させて含フッ素系高分子膜基材の温度を、照射野を中心として、蒲鉾状に分布して低下させるように放熱させ、この放熱を打ち消す熱量を有する電離放射線を照射することによって結果として照射中のどのタイミングでも含フッ素系高分子膜基材の温度が変化しないようにしている。また、前記の放出される熱量の空間分布も時間変化も電離放射線によって与えられる熱量の分布と経時変化とにそれぞれ一致しており、結果として空間的および時間的に一様な温度分布となった状態で短時間に必要な線量を与えることができるようになっている。本発明においては、いずれの場合も、冷媒を局部的に吹き付けるなどの局部的な冷却を必要としていないので温度分布の安定な管理が行える。また、不活性ガスの自然対流を利用して冷却している為に温度管理が容易になっている。多くの場合、前記所望範囲は前記照射野と一致するが、処理後に切除する等で不使用となる部分は前記所望範囲から除外しても良い。これは、本発明のいずれの場合にも共通している。前記設定温度範囲は、前記含フッ素系高分子膜基材の結晶融点を中心として±20℃の温度範囲に設定することが許容される場合もあるが、前記含フッ素系高分子膜基材の結晶融点を超える特定の温度を中心として±5℃程度の温度範囲に設定することが好ましい。
【0021】
本発明の一つは、含フッ素系高分子膜基材をその結晶融点前後の予め定められた設定温度範囲内の温度に保ちながら当該含フッ素系高分子膜基材に1kGy以上の電離放射線を低い酸素分圧環境下において照射することにより改質含フッ素系高分子膜を製造する方法において、分布した発熱量を有する発熱体が前記電離放射線の照射野の近傍において前記含フッ素系高分子膜基材に対向して非接触に設けられており、前記含フッ素系高分子膜基材は前記照射野の大部分を占める所望範囲を含んでおり、当該所望範囲内の全ての部位は前記発熱体によって前記設定温度範囲内の温度まで加熱された後に、冷却率を有して冷却されるとともに強度分布を有する前記電離放射線によって加熱率を有して加熱され、前記電離放射線の強度分布又は/及び前記発熱体の発熱量の分布は前記冷却率と前記加熱率とを前記所望範囲内の全ての部位において照射時間中にわたって実質的に一致させるように設定され又は制御されたことを特徴とする方法である。ここで、冷却率とは、特定部位に於ける、単位時間内に低下する温度を表しており、熱伝導や熱輻射や対流による特定部位の温度低下速度を総称した値である。同様に、加熱率とは、特定部位に於ける、単位時間内で上昇する温度を表している。本発明を採用すると、前記電離放射線の照射の開始直前から照射の終了直後まで前記照射野内の大部分を占める所望範囲内の全ての位置における含フッ素系高分子膜基材の温度を前記設定温度範囲内に収めることができ、大きな面積の含フッ素系高分子膜基材を正確な温度管理下で改質処理ができる。
【0022】
本発明の一つは、含フッ素系高分子膜基材をその結晶融点前後の予め定められた設定温度範囲内の温度に保ちながら当該含フッ素系高分子膜基材に1kGy以上の電離放射線を低い酸素分圧環境下において照射することにより改質含フッ素系高分子膜を製造する方法において、分布した発熱量を有する発熱体が前記電離放射線の照射野の近傍において前記含フッ素系高分子膜基材に対向して非接触に設けられており、前記含フッ素系高分子膜基材は前記照射野の大部分を占める所望範囲を含んでおり、当該所望範囲内の全ての部位は、前記発熱体によって前記設定温度範囲内の温度まで加熱された後に、冷却されて第1の熱量を単位体積当りに放出するとともに強度分布を有する前記電離放射線の照射を受けて第2の熱量を単位体積当りに受領し、前記電離放射線の強度分布又は/及びその時間変化又は/及び前記発熱体の発熱量の分布は、前記第1の熱量の任意照射時間内における積算値と前記第2の熱量の同一時間内における積算値とを実質的に一致させるように設定され、又は制御されたことを特徴とする方法である。前記発熱体の発熱量の分布を設定するには、前記発熱体を多数の発熱体要素に分割し、これらの発熱体要素要素の発熱量を独立に設定するとよい。前記電離放射線の強度分布の設定は、前記電離放射線の線源と前記含フッ素系高分子膜基材との間に適当な透過率を有するフィルタを挿入すること等で実現できる。前記電離放射線強度の時間変化の設定は、前記電離放射線の線源の発生強度を電気的に制御することによって行える。本発明を採用すると、前記電離放射線の照射の開始直前から照射の終了直後まで前記所望範囲内の全ての位置における含フッ素系高分子膜基材の温度を前記設定温度範囲内に収めることができ、大きな面積の含フッ素系高分子膜基材を正確な温度管理下で改質処理できる。
【0023】
本発明の一つは、含フッ素系高分子膜基材をその結晶融点前後の予め定められた設定温度範囲内の温度に保ちながら当該含フッ素系高分子膜基材に1kGy以上の電離放射線を低い酸素分圧環境下において照射することにより改質含フッ素系高分子膜を製造する方法において、分布した発熱量を有する発熱体が前記電離放射線の照射野の近傍において前記含フッ素系高分子膜基材に対向して非接触に設けられており、前記含フッ素系高分子膜基材は前記照射野の大部分を占める所望範囲を含んでおり、前記発熱体の発熱量又は/及びその分布は予め定めた時間関数に従って設定されまたは制御され、当該時間関数は、前記発熱体が前記所望範囲内の全ての部位を前記設定温度範囲内の温度まで加熱するタイミングと、前記所望範囲内の全ての部位において前記電離放射線の照射による温度上昇と前記含フッ素系高分子膜基材の冷却による温度低下とを実質的に互いに打ち消し合うタイミングとを含んでいることを特徴とする方法である。前記電離放射線の照射を開始する前に前記含フッ素系高分子膜基材の温度を前記設定温度範囲内に収めるタイミングを設けているので、前記電離放射線の照射開始直後において低温状態下で照射する危険を回避できる。この加熱するタイミングでは、前記発熱体を多数の発熱体要素に分割して、これら発熱体要素のそれぞれの発熱量を適正に空間分布させることによって前記含フッ素系高分子膜基材の温度を適正値で均一に保っている。前記打ち消しあうタイミングでは、前記発熱体要素の発熱量及びその空間分布を適正に再設定することによって前記含フッ素系高分子膜基材の温度を適正値で均一に保っている。本発明を採用すると、前記電離放射線の照射の開始直前から照射の直後まで前記所望範囲内の全ての位置における前記含フッ素系高分子膜基材の温度を前記設定温度範囲内に収めることができ、大きな面積の含フッ素系高分子膜基材を正確な温度管理下で改質処理できる。
【0024】
本発明の一つは、含フッ素系高分子膜基材をその結晶融点前後の予め定められた設定温度範囲内の温度に保ちながら当該含フッ素系高分子膜基材に1kGy以上の電離放射線を低い酸素分圧環境下において照射することにより改質含フッ素系高分子膜を製造する方法において、分布した発熱量を有する発熱体が前記電離放射線の照射野の近傍において前記含フッ素系高分子膜基材に対向して非接触に設けられており、前記含フッ素系高分子膜基材は前記照射野の大部分を占める大きさの所望範囲を含んでおり、前記含フッ素系高分子膜基材は、前記設定温度範囲より低い温度に保たれて保持された第1の基材領域と、前記発熱体によって加熱された第2の基材領域と、前記電離放射線の照射を受けて前記設定温度範囲内の温度に保たれた第3の基材領域とを含んでおり、当該第3の基材領域は前記所望範囲を含んでおり、当該所望範囲内のあらゆる部分では、前記発熱体の加熱に起因する温度が低下すると前記電離放射線の照射に起因する温度が上昇して、前記電離放射線の照射を受ける時間中においてその温度が前記設定温度範囲内に保たれるように、前記発熱体の発熱量及び/又はその分布及び/又は前記電離放射線の強度が設定され、又は制御されたことを特徴とする方法である。前記第1の基材領域では好ましくは常温に保たれており、前記含フッ素系高分子膜基材の保持が容易に行えるとともにその走行作用を付与できるので、照射処理が連続的に行える。前記第1の基材領域を前記第3の基材領域を挟んで両側に設けることによって照射処理が終了した含フッ素系高分子膜を直後に取り出すことができ、処理速度が大きくなる。前記第2の基材領域では、前記電離放射線の照射を受けない状態で前記設定温度範囲内又はその近くの温度まで加熱されているので、低温状態下で前記電離放射線を照射する危険が回避できる。前記第2の基材領域及び第3領域では、これらの近傍に設けられた前記発熱体を多数の発熱体要素に分割して、これら発熱体要素のそれぞれの発熱量を適正に空間分布させることによって、その温度を適正値で均一に保つようになっている。本発明を採用すると、能率よく正確に大量の照射処理を行うことができる。
【0025】
本発明の一つは、含フッ素系高分子膜基材をその結晶融点前後の予め定められた設定温度範囲内の温度に保ちながら当該含フッ素系高分子膜基材に1kGy以上の電離放射線を低い酸素分圧環境下において照射することにより改質含フッ素系高分子膜を製造する方法において、前記含フッ素系高分子膜基材は前記電離放射線の照射野の大部分を占める大きさの所望範囲を含んでおり、当該所望範囲は前記電離放射線の照射を受ける処理装置内を通過し、当該処理装置は、前記含フッ素系高分子膜基材に対向して非接触に設けられた発熱体を含んでおり、前記含フッ素系高分子膜基材の一部を前記設定温度範囲より低い温度に保つとともに機械的に保持する第1の装置領域と、前記発熱体によって前記所望範囲を前記設定温度範囲内又はその近くの温度まで加熱する第2の装置領域と、前記所望範囲に電離放射線を照射して所定の線量を与える第3の装置領域とを順に有しており、前記所望範囲が当該第3の装置領域に位置する場合においては、前記所望範囲の部分が冷却されて温度が低下すると当該温度低下を補うように前記電離放射線の照射に起因する温度を上昇させて前記所望範囲内のあらゆる部位の温度を前記設定温度範囲内に保つように、前記電離放射線の強度分布又は/及び前記発熱体の発熱量の分布が設定され又は制御されるようになっていることを特徴とする方法である。前記含フッ素系高分子膜基材は、好ましくは常温に保たれた前記第1の装置領域と、前記電離放射線の照射を受けない状態で前記設定温度範囲内又はその近くの温度まで均一に加熱される前記第2の装置領域と、前記電離放射線の照射を受ける前記第3の装置領域とを順次通過するようになっている。従って、前記電離放射線の照射の開始直前から照射の直後まで前記所望範囲内の全ての位置における含フッ素系高分子膜基材の温度を前記設定温度範囲内に収めることができ、正確な温度管理下で短時間に多量の改質処理ができる。
【0026】
本発明の一つは、上記いずれかの発明において、前記含フッ素系高分子膜基材は第4の基材領域を含んでおり、当該第4の基材領域は、前記第1の基材領域と前記第2の基材領域の間に位置する基材領域であり、又は前記第1の装置領域と前記第2の装置領域の間に位置する前記含フッ素系高分子膜基材の基材領域であり、前記第4の基材領域において前記含フッ素系高分子膜基材の温度は前記それそれの他の基材領域に向う方向の距離に対する第1の変化率を有して分布しており、前記第2の基材領域又は前記第3の基材領域において、又は前記第2の装置領域又は前記第3の装置領域にそれぞれ位置する前記含フッ素系高分子膜基材の基材領域において前記含フッ素系高分子膜基材の温度は前記それそれの他の基材領域に向う方向の距離に対する第2の変化率を有して分布しており、前記第1の変化率は前記各器材領域内のいたる所で当該第2の変化率よりも実質的に大きくなっていることを特徴とする方法である。本発明を採用すると、前記第4の基材領域において狭い範囲で大きな温度勾配を保って加熱されるので前記含フッ素系高分子膜基材の保持が容易であるとともに、処理の為の装置が小型になり、低価格化できる。高温部分を、前記照射野を含む比較的に狭い範囲に限定できるので、処理中における被処理部位の位置決めが容易であり、処理の正確化と高速化ができるようになる。
【0027】
本発明の一つは、含フッ素系高分子膜基材又はその他の長尺被照射体を予め定められた設定温度範囲内の温度に保ちながら当該含フッ素系高分子膜基材又はその他の長尺被照射体に所定の線量の電離放射線を照射する処理装置であって、前記含フッ素系高分子膜基材又はその他の長尺被照射体は当該処理装置内で位置決め保持される保持部分と前記設定温度範囲内又はその近くの温度に加熱される加熱範囲と前記電離放射線の照射野内の大部分を占める所望範囲とを含んでおり、前記処理装置は、前記保持部分を保持可能な低い温度に保つとともに当該保持部分を機械的に保持する第1の装置領域と、前記照射野の近傍において前記含フッ素系高分子膜基材又はその他の長尺被照射体に対向して非接触に設けられた複数の発熱体要素を含んでなる発熱体によって前記加熱範囲を前記設定温度範囲内又はその近くの温度まで加熱する第2の装置領域と、前記所望範囲に電離放射線の照射に起因する発熱を与えて前記所望範囲を前記設定温度範囲内の温度に保つ第3の装置領域とを含んでおり、当該第3の装置領域においては、前記発熱体要素の発熱量の分布が前記第2の装置領域における分布とは異なって設定されており、前記発熱体によって加熱された前記所望範囲の温度が低下すると当該温度低下を補うように分布した強度の前記電離放射線の照射に起因して前記所望範囲の温度が上昇するようにして、前記電離放射線の照射を受ける時間中において、前記所望範囲内のあらゆる部分を前記設定温度範囲内の温度に保ちながら前記所望範囲に所定の線量を与えるようにしたことを特徴とする装置である。前記第1の装置領域では前記含フッ素系高分子膜基材又はその他の長尺の被照射体の温度を常温に保つようになっていることが好ましい。前記第3の装置領域では、前記発熱体によって加熱された温度が低下する時刻に於ける温度分布が適正化されるように前記発熱体要素の発熱量の分布を設定又は制御することが好ましい。また、前記時刻において前記電離放射線の強度分布を適正化する場合には、温度の応答速度が高いのでより正確な制御ができる。本発明の装置を採用すると、前記電離放射線の照射中における含フッ素系高分子膜基材又はその他の長尺の被照射体の温度を前記設定温度範囲内の温度に管理しながら容易に照射することができる。
【0028】
本発明の一つは、上記いずれかの発明において、前記所望範囲内のあらゆる部位において前記含フッ素系高分子膜基材又はその他の長尺被照射体の温度の位置に対する変化率が予め定められた値よりも常に小さくなるように前記発熱体の発熱量の分布を経時的に制御するようにしたことを特徴とする方法又は装置である。前記発熱体を多数の発熱体要素に分割し、これら其々の発熱体要素の発熱量を空間的、時間的に制御することによって、前記発熱体の発熱量の分布を経時的に制御することができる。特に、前記電離放射線の照射開始前と照射開始中における温度分布を均一になるように前記発熱量を制御することが有効である。前記予め定められた変化率の値は前記所望範囲内のあらゆる部位の温度が設定温度範囲内に収まるように定められている。本発明を採用すると、前記電離放射線の照射中における前記含フッ素系高分子膜基材又はその他の長尺被照射体の温度分布の管理が容易になり、処理時間が長くなっても必要な全ての部位において正確に管理された温度において照射処理を行うことができる。特に、照射処理の開始直後や終了直前における温度分布の管理が正確に行えるようになる。
【0029】
本発明の一つは、上記いずれかの発明において、前記発熱体は空間的に分割させた複数の発熱体要素を含んでおり、当該発熱体要素は前記照射野内の中央部において前記含フッ素系高分子膜基材又はその他の長尺被照射体に対向して設けられた第1の発熱体要素と前記照射野をはみ出した位置において前記含フッ素系高分子膜基材又はその他の長尺被照射体に対向して設けられた第2の発熱体要素とを含んでおり、当該第2の発熱体要素の表面温度は前記第1の発熱体要素の表面温度よりも高く設定されたことを特徴とする方法又は装置である。前記含フッ素系高分子膜基材又はその他の長尺被照射体の表面に対向して設けられた一様な表面温度を有する発熱体によって前記含フッ素系高分子膜基材又はその他の長尺被照射体を加熱する場合には、その周辺部位の温度が中央部位の温度よりも低くなる。この状況は、前記電離放射線を照射しない時も、均一に強度が分布する前記電離放射線を照射している時も変わらない。前記電離放射線の強度分布のみを複雑に制御することによって照射中における前記含フッ素系高分子膜基材又はその他の長尺被照射体の温度分布を均一化できるが、照射直後の温度を前記設定温度範囲内に収めるのが困難であるばかりでなく吸収線量が不均一に分布することになり好ましくない。しかるに、本発明を採用すると、前記発熱体による加熱に際して前記含フッ素系高分子膜基材又はその他の長尺被照射体の温度分布が前記照射野内で均一な温度分布を実現しやすく、且つ前記電離放射線の吸収線量を均一に保つことが容易である。また、簡単な装置を用いて照射中における前記含フッ素系高分子膜基材又はその他の長尺被照射体の温度管理が行える。
【0030】
本発明の一つは、上記いずれかの発明において、前記第2の発熱体要素の表面温度と前記第1の発熱体要素の表面温度との異差は前記含フッ素系高分子膜基材又はその他の長尺被照射体の移動速度に対応して変えられることを特徴とする方法又は装置である。本発明を採用すると、前記含フッ素系高分子膜基材又はその他の長尺被照射体の移動速度が変化した場合に、前記含フッ素系高分子膜基材又はその他の長尺被照射体の移動方向で前記第2の発熱体要素の表面温度と前記第1の発熱体要素の表面温度との異差が変えられるので、前記含フッ素系高分子膜基材又はその他の長尺被照射体の温度をその移動速度に関係なく前記設定温度範囲に収められる。
【0031】
本発明の一つは、上記いずれかの発明において、前記含フッ素系高分子膜基材は長手方向と幅方向とを有し、前記発熱体は当該幅方向に整列した発熱体要素を含む第1及び第2の発熱体要素群を有し、当該第1及び第2の発熱体要素群が前記長手方向に整列していることを特徴とする方法または装置である。本発明を採用すると、簡単な構造の発熱体を用いて照射中における前記含フッ素系高分子膜基材の温度管理が容易に行える。特に、前記含フッ素系高分子膜基材の幅方向温度分布を一様に保った状態で長手方向の温度分布を制御し易いので、前記幅方向に整列した発熱体要素群を同じ時間関数で制御できることになり、前記電離放射線の照射中における含フッ素系高分子膜基材の温度を前記設定温度範囲内の温度に管理しながら容易に照射することができる。
【0032】
本発明の一つは、上記いずれかの発明において、前記幅方向に整列した同一の発熱体要素群に含まれる各発熱体要素は同一の時間関数に従ってそれらの発熱量が制御されることを特徴とする方法または装置である。本発明を採用すると、簡単な制御装置を用いて前記電離放射線の照射中における前記含フッ素系高分子膜基材の温度を前記設定温度範囲内の温度に管理しながら正確に照射することができる。特に、前記電離放射線の照射開始前と照射開始後とを問わず、前記含フッ素系高分子膜基材の温度を前記設定温度範囲内の温度に保つことが容易になる。
【0033】
本発明の一つは、上記いずれかの発明において、前記含フッ素系高分子膜基材の任意の部分における前記設定温度範囲は前記含フッ素系高分子膜基材の前記任意部分において吸収された前記電離放射線の吸収線量の積算値に対応して予め定められた関係を保って低下することを特徴とする方法または装置である。本発明を採用すると、前記含フッ素系高分子膜基材に吸収された前記電離放射線の吸収線量の積算値が増加するにしたがってその結晶融点が低下した場合にも、吸収線量の積算値と前記設定温度範囲との関係を予め決められた最良の関係に常に保つことができて最適温度条件にて高温放射線処理を行うことができる。
【0034】
本発明の一つは、上記いずれかの発明において、前記含フッ素系高分子膜基材はポリテトラフルオロエチレン膜、又はテトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体膜、又はテトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体膜のいずれかであることを特徴とする方法または装置である。本発明を採用すると、放射線環境下で使用できなかった大面積のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)膜を放射線環境下でも使用できるように改質して工業製品として安価に提供できる。更に、改質したポリテトラフルオロエチレン(PTFE)膜を基材として使用することにより、優れた耐酸化性と広範囲なイオン交換容量を有する改質されたポリテトラフルオロエチレンイオン交換膜を安価に大量生産できるようになる。更に、これを用いると安価で耐久性がある燃料電池を提供できる。
【0035】
本発明の一つは、上記いずれかの発明の方法によって又は装置を用いて製造された改質含フッ素系高分子膜である。本発明を採用すると、優れた耐酸化性と広範囲なイオン交換容量を有する含フッ素系高分子イオン交換膜を安価に大量生産できるようになる。また、放射線環境下でも使用できるように改質された含フッ素系高分子膜が安価となり、且つ大量に供給できるようになり工業製品として有用である。
【0036】
本発明の一つは、上記いずれかの発明の方法によって又は装置を用いて製造された改質含フッ素系高分子膜を用いて製造された燃料電池である。本発明を採用すると、燃料電池の寿命と性能を高める為に最も重要な構成要素であるイオン交換膜が優れた耐酸化性と広範囲なイオン交換容量を有するとともに、これを安価に大量生産できるようになり、結果として高性能で安定動作をする長寿命の燃料電池を安価に大量生産できるようになる。
【発明の効果】
【0037】
本発明を採用すると、含フッ素系高分子膜基材を酸素不在下において高温度で電離放射線を照射して架橋するに際して、大面積の含フッ素系高分子膜基材の温度を照射野内の全ての部位にわたってかつ処理の全時間中にわたって予め定められた温度範囲に常に保った状態で電離放射線を照射することができ、安定した品質の架橋構造を有する含フッ素系高分子膜を短時間に大量に且つ安価に生産することができる。本発明を採用して生産された安価で高品質の架橋構造を有する含フッ素系高分子膜を基材として用いると、優れた耐酸化性と広範囲なイオン交換容量を有する含フッ素系高分子イオン交換膜を安価に大量生産できるようになり、結果として高性能で安定な動作をする長寿命の燃料電池を安価に生産できるようになる。また、本発明によって得られた改質含フッ素系高分子膜は耐放射線性を付与されるために放射線環境下で使用できるその他の工業材料としてまたは放射線滅菌が可能な医療用具素材として有用となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
本発明に係わる高分子膜基材の放射線処理方法では、長尺の含フッ素系高分子膜基材を温度制御と電子線照射が行える高温電子線処理装置内を通過させる。この高温電子線処理装置の入口位置および出口位置において、前記含フッ素系高分子膜基材の長手方向の一部分を常温に保って機械的に保持するとともに走行機能を付与させる。前記高温電子線処理装置内においては発熱体を設け、この発熱体を前記含フッ素系高分子膜基材の長手方向および幅方向に沿って多数の発熱体要素に分割して構成しておき、これらの発熱体要素の表面温度を空間的および/又は時間的に適正に制御して、照射中および照射前後を問わず、前記含フッ素系高分子膜基材の照射野内に位置する全ての部位の温度を実質的に一様とし、所定の処理が進行すれば長尺の改質された含フッ素系高分子膜の出口部分を部分的に冷却して高温電子線処理装置外に送り出すことによって短時間に多量の処理ができるようになっている。
【0039】
前記高温電子線処理装置内において、電子線を照射しない位置、または電子線を照射しないタイミングでは、前記発熱体要素の表面温度を照射野の中心から離れるにつれてステップ状に高く設定することにより、前記含フッ素系高分子膜基材の照射野内およびその周辺位置に位置する部位の温度を一様に保ちながら短時間に結晶融点前後の予め定めた設定温度範囲内の温度まで高める。電子線を照射する位置、および電子線を照射するタイミングでは、照射野内の近傍に位置する前記発熱体要素の温度を低下させて前記含フッ素系高分子膜基材の温度を、照射野を中心として、蒲鉾状に分布した状態で低下させるように放熱させ、この放熱を打ち消す熱量を有する電子線を照射することによって加熱し、結果として照射中のどのタイミングでも前記含フッ素系高分子膜基材の温度が変化しないようにしている。また、前記の放出される熱量の空間分布および時間変化は、照射野内においては、電子線によって与えられる熱量の空間分布および経時変化とそれぞれ一致しており、結果として照射野内においては空間的および時間的に一様な温度分布となる。
【0040】
また、吸収線量の増加とともに結晶融点が低下し、したがって最適温度範囲が吸収線量とともに低下するので、前記発熱体要素の表面温度を吸収線量の積算値に応じて変化させて常に最適な温度で最適な架橋処理を行えるようになっている。このように吸収線量の積算値によって照射時の温度を変化させる場合には前記含フッ素系高分子膜基材を静止させた状態で前記発熱体要素の表面温度を吸収線量の積算値に応じて制御し、既定の吸収線量値に達した後に電子線の照射を休止して照射野の幅に相当する距離だけ前記含フッ素系高分子膜基材を長手方向に移動させるとともに、前記の各発熱体要素の温度設定を初期化して前記含フッ素系高分子膜基材の温度を照射開始時の設定値に戻した後、前記の照射を繰り返す。この際、前記含フッ素系高分子膜基材はステップ状に自動的に移動される。
【0041】
電子線照射時の許容温度範囲を狭く設定する場合には、前記含フッ素系高分子膜基材の長手方向に沿って電子線の強度分布を適当に変調することによって、照射野の周辺部囲の温度を他の部位の温度と同一にすることができる。この場合には、照射線量率が照射野の周辺と照射野の中央部と異なる為に前記含フッ素系高分子膜基材を静止して照射すると吸収線量が位置的に一様でなくなる。これを改善する為には照射中に前記含フッ素系高分子膜基材を適当な速さで移動させればよい。また、前記の各発熱体要素を前記長手方向に沿ってより細分化してより高精度に発熱量を制御することによって前記含フッ素系高分子膜基材の長手方向の温度分布を適正化すると前記の電子線の強度分布の変調は不必要にできる。
【0042】
照射する線量が多くない場合には、最適温度範囲を一定値にプリセットできるので、この場合には前記発熱体要素の温度設定を一定として前記含フッ素系高分子膜基材を一定速度で移動させながら架橋処理を行うことができる。この場合でも、不活性ガスの流量を増す等によって前記含フッ素系高分子膜基材の冷却率を大きくしておくと、放熱に釣り合う電子線の発熱量を増加できるのでより大きな線量率で短時間に多量の線量を照射できる。
【0043】
以上に述べたように、前記高温電子線処理装置内において前記含フッ素系高分子膜基材の保持部分を常温に保ったままで照射野およびその近傍部分を急速に加熱した後に、大きな照射線量率で照射しながら温度を一定に保った状態で前記含フッ素系高分子膜基材に多量の線量を短時間に照射し、照射が終了すると前記含フッ素系高分子膜基材の前記高温電子線処理装置出口に位置する部位を部分的に急速に冷却して前記高温電子線処理装置の外部に取り出される。このようにして、大面積の前記含フッ素系高分子膜基材を高速度で多量に自動的に架橋処理できるようになっている。以下に、実施例を用いて本発明の実施形態及び作用についてより具体的且つ詳細に説明する。
【実施例1】
【0044】
図1、図2、図3を参照して本発明の含フッ素系高分子膜基材の放射線処理方法について説明する。これらの図において、同じ部分は同じ番号を付して表している。図1及び図2は、本発明に係わる含フッ素系高分子膜基材の高温電子線処理装置の例を示している。図1は縦断面図であり、図2は横断面図である。図1において、1は長尺で幅広に形成された含フッ素系高分子膜基材であり、本実施例では、厚さが100μmで幅が30cmで長さが10mのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)膜を用いている。これは、リール2に巻き取られた状態からリール3に巻き取られるように移動する。含フッ素系高分子膜基材1はプーリー4によって位置決めされて高温電子線処理装置10内に導かれて、340℃程度に加熱された後に温度を340±5℃の範囲内に保った状態を維持しつつ電子線を照射される。高温電子線処理装置10の入口部分及び出口部分には冷却用プーリー5及び6が設けられており、これらは含フッ素系高分子膜基材1を機械的に保持してこの部分を常時常温に保つとともに含フッ素系高分子膜基材1の位置決め及び走行を促すように作動する。高温電子線処理装置10の出口部分にはプーリー7及び8が設けられている。プーリー7は位置が固定されており、含フッ素系高分子膜基材1の位置決めを行う。プーリー8には移動可能になっており、予め定められた力F1を常時含フッ素系高分子膜基材1に付与するようになっており、高温電子線処理装置10内の部分に適切な張力を与えるようになっている。プーリー8を通過した含フッ素系高分子膜基材1はリール3によって巻き取られる。
【0045】
高温電子線処理装置10には放射線防護機能と気体封じ込め機能を有する処理容器11が設けられており、内部はアルゴンや窒素等の不活性ガスで満たされている。高温電子線処理装置10には強度が面状に分布した電子線Eを照射する所謂面照射型の電子線照射装置12が設けられている。電子線照射装置12は例えば特開平11−19190号公報に開示された構造の装置で、電子線透過窓13を透過して平面状に分布した300keV程度のエネルギーと10mA程度の電流とを有する電子線を照射できるようになっている。高温電子線処理装置10内には含フッ素系高分子膜基材1が通過するようになっており、含フッ素系高分子膜基材1に対して電子線照射装置12と反対側に発熱体である加熱用ヒータ群30が設けられている。加熱用ヒータ群30と処理容器11の壁との間には熱遮蔽板14が設けられており、処理容器11の過熱を防止している。加熱用ヒータ群30は図示しない熱絶縁体を介して熱遮蔽板14に機械的に支持されている。熱遮蔽板14は必要により水冷等によって冷却されている。処理容器11内で含フッ素系高分子膜基材1と電子線透過窓13との間には第2の電子線透過窓15及びこれを冷却するとともに機械的に支持する隔壁16が設けられている。電子線透過窓13と第2の電子線透過窓15とは、ノズル17から導かれてノズル18から流出する不活性ガスがこれらの間を高速で流れることにより冷却される。
【0046】
高温電子線処理装置10の入口部位及び出口部位では熱遮蔽板14と隔壁16とが含フッ素系高分子膜基材1を挟んで非接触に近接している。これらの位置で、含フッ素系高分子膜基材1の図示上下両面に向って不活性ガスを吹きかけるノズル群19及び20が設けられており、この不活性ガスの流動により含フッ素系高分子膜基材1の機械的接触を防止して保持するとともに含フッ素系高分子膜基材1を冷却している。隔壁16には図示しない非接触温度計が設けられており、矢印21,22で示す方向における含フッ素系高分子膜基材1の表面位置の温度を検出できるようになっている。図1及び図2に示すように、電子線Eの中心軸をZ軸とし、含フッ素系高分子膜基材1とZ軸との交点を原点Oとし、原点Oを通り、高温電子線処理装置10の入口部分から出口部分に向う方向をX軸とし、原点Oを通り、X軸及びZ軸に直角な方向をY軸とする。高温電子線処理装置10内では含フッ素系高分子膜基材1の長手方向はX軸に平行であり、含フッ素系高分子膜基材1の幅方向はY軸に平行である。
【0047】
図3(a)は、正のZ座標値を有する高温電子線処理装置10の部分を取り除いてZ軸の方向から含フッ素系高分子膜基材1及び加熱用ヒータ群30を見た平面図を表している。図3(b)は図3(a)のYZ平面での断面図を表している。図3(a)の斜線部分は電子線Eの照射野Fiを表しており、照射野幅はFWであり、照射野長はFLである。本実施例においては前記所望範囲は照射野Fiに完全に一致している。図4(a)及び図4(b)は加熱用ヒータ群30の平面図及び側断面図をそれぞれ表している。図4(a)に示しているように、加熱用ヒータ群30はXY平面に平行な複数のヒータ要素とXZ平面に平行な複数のヒータ要素を含んでおり、これらはいずれも含フッ素系高分子膜基材1から一定の距離Z1、例えば2.5cm、を保って並べられている。これらのヒータ要素は前記発熱体要素の1つの具体例である。加熱用ヒータ群30には、X座標がそれぞれ−X2,−X1,0、X1,X2で,Y座標がそれぞれ−Y3,−Y2,−Y1,0、Y1,Y2,Y3の位置に表面の中心を有する35個のヒータ要素に分割されており、これらは小さな距離、例えば2mm、離れて互いに隣接して並べられている。ここで、X1は5.8cm、X2は13.8cm、Y1は10.8cm、Y2は15.1cm、Y3は17.5cmである。これらのヒータ要素はY軸方向に整列した7個のヒータ要素を含むヒータ要素群、つまり前記発熱体要素群、がX軸方向に5個整列して構成されている。これらのヒータ要素をそれぞれH(i,j)で表す。ここで、iはヒータ要素表面の中心座標を表すX軸方向の上記サフィックスを表し、−2、−1、0、1、2が含まれており、jはヒータ要素の表面の中心座標を表すY軸方向の上記サフィックスを表し、−3、−2、−1、0、1、2、3が含まれる。
【0048】
ヒータ要素H(i,j)、i = ±2、±1、0、j = ±2、±1,0、はZ座標が−2.5cmで、含フッ素系高分子膜基材1から2.5cm離れた位置で含フッ素系高分子膜基材1に平行に対面している。ヒータ要素H(i,j)、i = ±2、±1、0、j = ±3、は照射野中心からY方向にそれぞれ−Y3、Y3だけ離れた位置でZ方向に座標が0から−Z1まで広がってXZ平面に平行に配列されている。後者は、含フッ素系高分子膜基材1のY軸方向の温度分布を均一化するのに役立っている。これらの全てのヒータ要素はそれぞれ熱的、電気的に分割されており、独立して制御されるようになっている。
【0049】
これらの各ヒータ要素は、3種のタイミングで異なった様態に制御される。このタイミングは、含フッ素系高分子膜基材1を初期温度、例えば室温、から規定温度、例えば340℃、まで急速に加熱する為の急加熱タイミングT1と、含フッ素系高分子膜基材1を規定温度、例えば340℃、に保温する為の保温タイミングT2、T4と、含フッ素系高分子膜基材1の一部分における温度を低下させる部分冷却タイミングT3と電子ビームEを含フッ素系高分子膜基材1に照射するビーム照射タイミングT5とを含んでいる。急加熱タイミングT1に於ける各ヒータ要素の発熱量の分布を図5に示している。図5においては発熱量は面積密度で表している。図5(a)はヒータ要素H(0、j)、j = −3、−2、−1、0、1、2、3、の発熱量Q(0、j)、j = −3、−2、−1、0、1、2、3、であり、図5(b)はヒータ要素H(±1、j)、j = −3、−2、−1、0、1、2、3、の発熱量Q(±1、j)、j = −3、−2、−1、0、1、2、3、であり、図5(c)はヒータ要素H(±2、j)、j = −3、−2、−1、0、1、2、3、の発熱量Q(±2、j)、j = −3、−2、−1、0、1、2、3、であり、図5(d)はヒータ要素H(i、0)、i = −2、−1、0、1、2、の発熱量Q(i、0)、i = −2、−1、0、1、2、であり、図5(e)はヒータ要素H(i、±1)、i = −2、−1、0、1、2、の発熱量Q(i、±1)、i = −2、−1、0、1、2、であり、図5(f)はヒータ要素H(i、±2)、i = −2、−1、0、1、2、の発熱量Q(i、±2)、i = −2、−1、0、1、2、であり、図5(g)はヒータ要素H(i、±3)、i = −2、−1、0、1、2、の発熱量Q(i、±3)、i = −2、−1、0、1、2、である。
【0050】
同様に、保温タイミングT2,T4に於ける各ヒータ要素の発熱量を図6に示している。図6においては発熱量は面積密度で表している。図6(a)はヒータ要素H(0、j)、j = −3、−2、−1、0、1、2、3、の発熱量Q(0、j)、j = −3、−2、−1、0、1、2、3、であり、図6(b)はヒータ要素H(±1、j)、j = −3、−2、−1、0、1、2、3、の発熱量Q(±1、j)、j = −3、−2、−1、0、1、2、3、であり、図6(c)はヒータ要素H(±2、j)、j = −3、−2、−1、0、1、2、3、の発熱量Q(±2、j)、j = −3、−2、−1、0、1、2、3であり、図6(d)はヒータ要素H(i、0)、i = −2、−1,0,1,2の発熱量Q(i、0)、i = −2、−1、0、1、2、であり、図6(e)はヒータ要素H(i、±1)、i = −2、−1、0、1、2、の発熱量Q(i、±1)、i = −2、−1、0、1、2、であり、図6(f)はヒータ要素H(i、±2)、i = −2、−1、0、1、2、の発熱量Q(i、±2)、i = −2、−1、0、1、2、であり、図6(g)はヒータ要素H(i、±3)、i = −2、−1、0、1、2、の発熱量Q(i、±3)、i = −2、−1、0、1、2、である。
【0051】
同様に、部分冷却タイミングT3に於ける各ヒータ要素の発熱量を図7に示している。図7においては発熱量は面積密度で表している。図7(a)はヒータ要素H(0、j)、j = −3、−2、−1、0、1、2、3、の発熱量Q(0、j)、j = −3、−2、−1、0、1、2、3、であり、図7(b)はヒータ要素H(±1、j)、j = −3、−2、−1、0、1、2、3、の発熱量Q(±1、j)、j = −3、−2、−1、0、1、2、3、であり、図7(c)はヒータ要素H(±2、j)、j = −3、−2、−1、0、1、2、3、の発熱量Q(±2、j)、j = −3、−2、−1、0、1、2、3、であり、図7(d)はヒータ要素H(i、0)、i = −2、−1、0、1、2、の発熱量Q(i、0)、i = −2、−1、0、1、2、であり、図7(e)はヒータ要素H(i、±1)、i = −2、−1、0、1、2、の発熱量Q(i、±1)、i = −2、−1、0、1、2、であり、図7(f)はヒータ要素H(i、±2)、i = −2、−1、0、1、2、の発熱量Q(i、±2)、i = −2、−1、0、1、2、であり、図7(g)はヒータ要素H(i、±3)、i = −2、−1、0、1、2、の発熱量Q(i、±3)、i = −2、−1、0、1、2、である。
【0052】
上記の各ヒータ要素H(i,j)の発熱量を制御する時間関数及び電子ビーム照射線量を制御する時間関数を図8に示している。図8(a)は電子ビーム照射線量を制御する加熱時間tの関数Fb(t)であり、図8(b)はヒータ要素H(0,j)、j = −1、0、1、の発熱量Q(0,j)、j = −1、0、1、を制御する加熱時間tの関数Fh1(t)であり、図8(c)はヒータ要素H(0,j)、j = ±3、±2、の発熱量Q(0,j)、j = ±3、±2、を制御する加熱時間tの関数Fh2(t)であり、図8(d)はヒータ要素H(±1,j)、j = ±3、±2、±1、0、の発熱量Q(±1,j)、j = ±3、±2、±1、0、を制御する加熱時間tの関数Fh3(t)であり、図8(e)はヒータ要素H(±2,j)、j = ±3、±2、±1、0、の発熱量Q(±2,j)、j = ±3、±2、±1、0、を制御する加熱時間tの関数Fh4(t)である。これらの関数値は含フッ素系高分子膜基材1の冷却率等が変わると異なった値に適正化される。時間関数Fh4(t)は時間関数Fh3(t)と一致する場合もある。これらの図において、急加熱タイミングT1は加熱時間tが0から12.0秒の間に相当する。同様に、保温タイミングT2は加熱時間tが12.0秒から22.5秒の間、及び、保温タイミングT4は加熱時間tが41.3秒から63.8秒の間、及び82.6秒から105.1秒の間、及び123.9秒から146.4秒の間に相当する。同様に、部分冷却タイミングT3は加熱時間tが22.5秒から41.3秒の間、及び、63.8秒から82.6秒の間、及び105.1秒から123.9秒の間に相当する。同様に、ビーム照射タイミングT5は加熱時間tが24.0秒から44.5秒の間、及び65.3秒から85.8秒の間、及び106.6秒から127.1秒の間に相当する。
【0053】
上記のように各ヒータ要素H(i,j)の発熱量Q(i,j)を制御した場合に於ける各ヒータ要素H(i,j)の表面の加熱時間tにおける温度Th(i,j、t)を図9に表している。図9(a)はヒータ要素H(0,j)、j = ±3、±2、±1、0、の表面の温度Th(0、j、t)、j = ±3、±2、±1、0、t = 0〜145秒、を表している。図9(b)はヒータ要素H(±1,j)、j = ±3、±2、±1、0、の表面の温度Th(±1、j、t)、j = ±3、±2、±1、0、t = 0〜145秒、を表している。図9(c)はヒータ要素H(2,j)、j = ±3、±2、±1、0、の表面の温度Th(2、j、t)、j = ±3、±2、±1、0、t = 0〜145秒、を表している。図9(d)はヒータ要素H(−2,j)、j = ±3、±2、±1、0、の表面の温度Th(−2、j、t)、j = ±3、±2、±1、0、t = 0〜145秒、を表している。含フッ素系高分子膜基材1が静止している場合にはTh(−2、j、t)はTh(2、j、t)に一致する。
【0054】
図9に示した代表的な加熱時間t = 11.5秒、21.9秒、24.3秒、29.9秒に於ける各ヒータ要素H(i,j)の表面温度の空間分布を図10に表している。図10の縦軸の値はセ氏温度を表している。図10(a)はヒータ要素H(0、j)、j = ±3、±2、±1、0、の表面の温度Th(0、j、t)を示している。図10(b)はヒータ要素H(±1、j)、j = ±3、±2、±1、0、の表面の温度Th(±1、j、t)を示している。図10(c)はヒータ要素H(±2、j)、j = ±3、±2、±1、0、の表面の温度Th(±2、j、t)を示している。図10(d)はヒータ要素H(i、0)、i = ±2、±1、0、の表面の温度Th(i,0、t)を示している。図10(e)はヒータ要素H(i、±1)、i = ±2、±1、0、の表面の温度Th(i,±1、t)を示している。図10(f)はヒータ要素H(i、±2)、i = ±2、±1、0、の表面の温度Th(i,±2、t)を示している。図10(g)はヒータ要素H(i、±3)、i = ±2、±1、0、の表面の温度Th(i,±3、t)を示している。これらの図から分かるように、各ヒータ要素の同一表面内における温度はほぼ均一に分布する。
【0055】
図9及び図10に示すようにヒータ要素の表面温度Th(i,j,t)は含フッ素系高分子膜基材1の幅方向において、より端部に位置する表面の温度がより高くなっており、これらのヒータ要素で含フッ素系高分子膜基材1を熱輻射によって加熱した場合の含フッ素系高分子膜基材1の表面温度をTp(x、y、t)とする。ここで、xはX軸方向位置を、yはY軸方向位置を、tは加熱開始後の時間つまり加熱時間を表している。ヒータ要素の表面温度Th(i,j,t)は、含フッ素系高分子膜基材1の温度Tp(x、y、t)が照射野幅FW内のX方向位置x及び加熱時間tに関係せず、幅方向つまりY方向に一様な温度分布となるように定められている。図1(a)及び図2(a)に示すように、冷却用プーリー5及び6の近傍では含フッ素系高分子膜基材1の温度は常温に保たれている。図8及び図9で示した部分冷却タイミングT3が無く、急加熱タイミングT1に続いて保温タイミングT2、T4が継続するように各ヒータ要素H(i,j)を制御した場合には、含フッ素系高分子膜基材1の照射野Fiに位置する部分は340±5℃まで加熱されて空間的にも時間的にもこの温度範囲に保たれる。
【0056】
このように含フッ素系高分子膜基材1の表面温度Tp(x、y、t)を照射野Fi内で空間的にも時間的にも340±5℃の範囲で一様に保った状態で、X軸方向の強度分布を図11(a)に示すような照射野Fi内で一様に分布する強度(300keV、0.24mA)を有する電子線Eを照射した場合には、含フッ素系高分子膜基材1の温度Tp(x、y、t)のX軸方向分布は図11(b)に示すようになり、Y軸方向には一様に分布する。図11(b)に示すように、電子線Eの照射直前の加熱時間t = 21.9秒において含フッ素系高分子膜基材1の照射野中心に於ける温度Tp(0、0、21.9)は343.9℃であり、照射直後の加熱時間t = 24.3秒において含フッ素系高分子膜基材1の照射野中心に於ける温度Tp(0、0、24.3)は350.1℃であり、照射開始後5.9秒を経過した加熱時間t = 29.9秒において含フッ素系高分子膜基材1の照射野中心に於ける温度Tp(0、0、29.9)は395.0℃であり、照射開始後18.7秒を経過した加熱時間t = 42.7秒において含フッ素系高分子膜基材1の照射野中心に於ける温度Tp(0、0、42.7)は440.7℃である。つまり、照射中に含フッ素系高分子膜基材1の温度Tp(x、y、t)が高温度になり過ぎて含フッ素系高分子膜基材1の熱分解が進行する。この場合の吸収線量は210kGyに相当する。
【0057】
電子線Eの照射野Fi内におけるのX軸方向分布を図12(a)に示すように変更した場合の含フッ素系高分子膜基材1の温度Tp(x、y、t)のX軸方向分布は図12(b)に示すようになり、照射野Fiの幅FW内でなだらかに変化する。この場合の照射野中心に於ける含フッ素系高分子膜基材1の温度Tp(0、0、t)の時間変化は図15(b)に示している。この場合でも含フッ素系高分子膜基材1の温度Tp(x、y、t)はY軸方向には一様に分布する。このように、電子線Eの照射野Fi内におけるのX軸方向分布を変調することによって含フッ素系高分子膜基材1の温度Tp(x、y、t)のX軸方向分布を任意に変更することが出来る。電子線Eの照射野Fi内におけるのX軸方向分布の調整は電子線Eの通路内に適当なフィルタを設けること等によって達成できる。
【0058】
一方、図8及び図9に示したように部分冷却タイミングT3が生じるように各ヒータ要素H(i、j)を制御した状態で電子ビームEを照射しない場合における含フッ素系高分子膜基材1の温度Tp(x、y、t)を図13に示している。図13(a)は含フッ素系高分子膜基材1の温度Tp(x、y、t)のY軸方向分布であり、図13(b)は含フッ素系高分子膜基材1の温度Tp(x、y、t)のX軸方向分布である。これらの図は部分冷却タイミングT3において電子線Eの照射野Fiの照射野幅FW内において部分的に加熱時間tとともに低下していることを表している。この場合の照射野中心に於ける含フッ素系高分子膜基材1の温度Tp(0、0、t)の時間変化は図15(c)に示している。
【0059】
図8(a)に示すような、部分冷却タイミングT3に概略一致したビーム照射タイミングT5において、図12(a)に示す強度分布をした電子線を照射した場合には、含フッ素系高分子膜基材1の温度Tp(x、y、t)のY軸方向分布Tp(0、y、t)は図14(a)に示すように、X軸方向分布Tp(x、0、t)は図14(b)に示すように、照射野中心に於ける含フッ素系高分子膜基材1の温度Tp(0、0、t)の時間変化は図15(a)のようになる。これらの図が示すように、照射野Fi内の如何なる位置においても如何なる時点においても含フッ素系高分子膜基材1の温度は340±5℃の範囲に収まっている。図14(a)に示すように、X軸方向分布Tp(x,0,t)は照射野Fi内では340±5℃の範囲に収まっており、照射幅FWの外部直近に位置する部分では照射時間が長くなると含フッ素系高分子膜基材1の温度がやや低下している。これは、図12(b)と図13(b)の照射野幅FWの外側に於ける温度分布の違いに起因している。この部分では含フッ素系高分子膜基材1が電子線Eの照射を受けないので何ら問題とならない。
【0060】
含フッ素系高分子膜基材1の温度Tp(x、y、t)の経時変化を少なくする為に、電子ビームEの強度を図8(a)で示すように時間的に変化させている。この場合にも電子ビームEの強度の空間分布は前述のように一定に保たれている。電子ビームEの強度の時間変化は、図1(a)の矢印16で示している方向の温度を非接触温度計で測定して電子線照射装置12に帰還制御することによって自動的に制御できる。上述した20.5秒間の一回の照射で含フッ素系高分子膜基材1に与えられる線量は236kGyに相当し、繰り返して照射することにより、任意に線量を増加することができる。
【0061】
以上に述べたように、電子線Eを照射する前後に照射野Fiの範囲内において含フッ素系高分子膜基材1の温度Tp(x、y、t)をY軸方向に一様に340±5℃の範囲に保つことはヒータ要素H(i,j)の表面温度をY軸方向に原点から離れるに従って適正化して高めることによって達成しており、含フッ素系高分子膜基材1の温度Tp(x、y、t)をX軸方向に一様に340±5℃の範囲に保つことはヒータ要素H(i,j)の表面温度をX軸方向に原点から離れるに従って適正化して高めることによって達成している。電子線Eを照射する間に照射野Fiの範囲内において含フッ素系高分子膜基材1の温度Tp(x、y、t)をY軸方向およびX軸方向に一様に340±5℃の範囲に保つことは照射野Fiの中心に近接するヒータ要素H(i,j)の表面温度を部分的に低下させるとともに、含フッ素系高分子膜基材1の表面を熱輻射及び自然対流によって冷却し、この冷却によって放出される熱量に相当する熱量を有する電子線Eを照射することによって達成している。この際、電子線Eの照射時間が長くなった場合にも含フッ素系高分子膜基材1の温度Tp(x、y、t)をX軸方向に一様に340±5℃の範囲に保つことは、電子線EのX軸方向における照射野幅FWの端部における強度を適正に分布させて電子線Eによって加熱される温度上昇のX軸方向分布を、ヒータ要素H(i,j)の発熱量Q(i,j)によって低下する含フッ素系高分子膜基材1の温度低下のX軸方向分布に一致させることによって達成している。照射野幅FWの範囲内において含フッ素系高分子膜基材1の温度Tp(x、y、t)を経時的に常に340±5℃の範囲に保つことは、電子線Eの照射開始直後及び照射終了直前における電子線強度を適正に設定することによって達成している。これは、含フッ素系高分子膜基材1の表面温度をフィードバックして電子ビームEの強度を経時的に自動制御する事がより好ましい。
【0062】
以上において、含フッ素系高分子膜基材1を静止した状態で電子線Eを照射する場合について述べたが、この場合に、電子線強度のX軸方向分布が図12(a)に示すように変調されているので照射される線量がX軸方向に均一でない部分が生じる。この照射線量のX軸方向不均一が許容されない場合には、電子線強度のX軸方向分布を図11(a)に示すように均一にして、ヒータ要素H(i,j)をX軸方向により細分化して部分冷却タイミングT3におけるX軸方向の温度分布を適正化することによって改善できる。若しくは、電子線Eの照射中に含フッ素系高分子膜基材1をX軸方向に適当な速さで移動することによって吸収線量を一様化できる。更に、含フッ素系高分子膜基材1の移動速度を電子線Eの強度に連動して制御して単位距離あたりの吸収線量を均一化することによって達成できる。前記のビーム照射タイミングT5で含フッ素系高分子膜基材1をX軸方向に移動させ、前記の保温タイミングT4で含フッ素系高分子膜基材1を静止させ、ヒータ要素H(i,j)によって含フッ素系高分子膜基材1の温度を均一に戻しており、これらを交互に繰り返すことによってテープ状の長い含フッ素系高分子膜基材1を均一温度で任意の均一な線量の電子線照射を行うことが出来るようになっている。単位面積あたりの吸収線量はビーム照射タイミングT5の時間を長くすることによって任意に決めることが出来る。
【実施例2】
【0063】
以上において、各ヒータ要素H(i,j)の空間分布を一定に保って発熱量Q(i,j)を制御する時間関数を変化させて急加熱タイミングT1と保温タイミングT2,T4と部分冷却タイミングT3において各ヒータ要素H(i,j)の表面温度Th(i,j)を変化させている実施例を示したが、各ヒータ要素H(i,j)の表面温度Th(i,j)をX軸の方向に空間的に異なる設定にして、急加熱空間と保温空間と部分冷却空間とを順に設け、これらの空間に於けるヒータ要素の表面温度Th(i,j)の相対関係を適正化しておき、含フッ素系高分子膜基材1の移動速度を適正化することによって含フッ素系高分子膜基材1の温度Tp(x、y、t)を一様に340±5℃の範囲に保つことが出来る。更に、ビーム照射空間を設け、これは前記の部分冷却空間と概略一致させる。この場合の各ヒータ要素H(i,j)の温度の空間分布を図16(a)に、と各ヒータ要素H(i,j)によって加熱される含フッ素系高分子膜基材1の温度の空間分布を図6(b)に、電子ビーム照射によって加熱される含フッ素系高分子膜基材1の温度の空間分布を図16(c)に、各ヒータ要素H(i,j)による加熱と電子ビーム照射による加熱が重畳された場合の含フッ素系高分子膜基材1の温度の空間分布を図16(d)にそれぞれ示している。この実施例でも、部分冷却空間において含フッ素系高分子膜基材1から単位時間内に放出させる熱量と単位時間内に電子ビームEによって与えられる熱量とは、含フッ素系高分子膜基材1の照射野Fi内のどの位置においても、常に一致している。
【0064】
前記各空間のX軸方向長さXsと含フッ素系高分子膜基材1の移動速度vと時間tとの関係をt=Xs/vとすることによって実施例1と同様な含フッ素系高分子膜基材1の温度Tp(x、y、t)を実現することが出来る。この実施例では含フッ素系高分子膜基材1の移動速度vを変更しても含フッ素系高分子膜基材1の温度Tp(x、y、t)を一定範囲内に保てるので照射線量を変更するには移動速度vを変更すればよい。部分冷却空間に於けるヒータ要素H(i、j)の表面温度の設定を変えることによって電子ビームEの照射線量率を適正化することが出来る。
【0065】
本発明を実施形態及び実施例に関連して説明したが、本発明は、ここに例示した実施形態及び実施例に限定されるものではなく、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、いろいろな実施形態が可能であり、いろいろな変更及び改変を加えることができることを理解されたい。例えば、上記の実施例では、各ヒータ要素H(i,j)の温度を空間的又は時間的にプリセットしている場合を示しているが、コンピュータ等を使用して自動制御することも出来る。図8に示した時間関数を吸収線量の積算値に応じて変化させることにより、含フッ素系高分子膜基材1が受けた積算線量に応じて照射時の設定温度範囲を変化させることによって照射時の温度を経時的に最適化できる。本発明においては、高温放射線処理されていない含フッ素系高分子膜は処理後の膜と区別する為に原則的に含フッ素系高分子膜基材と称しており、照射野は前記含フッ素系高分子膜基材が前記電離放射線の照射を受ける空間範囲を意味しており、前記電離放射線が前記含フッ素系高分子膜をはみ出している部分は含んでいない。また、本発明においては、冷却とは輻射や対流による放熱の他に熱伝導によって特定の部位にける熱量が減少する場合も含めて表現している。電子線強度は吸収された電子線のパワーを意味しており、エネルギーが一定である場合には電流に比例した値となる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明を採用すると、含フッ素系高分子膜基材を酸素不在環境下において高温度で電離放射線を照射して架橋するに際して、大面積の含フッ素系高分子膜基材を照射野内の全ての位置にわたってかつ処理の全時間中にわたって常に予め定められた温度範囲に保った状態で電離放射線を照射することができ、安定した品質の架橋構造を有する含フッ素系高分子膜を短時間に大量に且つ安価に生産することができる。本発明を採用して生産された安価で高品質の架橋構造を有する含フッ素系高分子膜を基材として用いると、優れた耐酸化性と広範囲なイオン交換容量を有する含フッ素系高分子イオン交換膜を安価に大量生産できるようになり、結果として高性能で安定動作をする長寿命の燃料電池を安価に生産できるようになるので産業上の利用価値は極めて高い。また、本発明によって得られた改質含フッ素系高分子膜は耐放射線性を付与されるために放射線環境下での工業材料としてまたは放射線滅菌が可能な医療用具素材として産業上の利用価値は極めて高い。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明に係わる高温電子線処理装置を縦断面図で表した図である。
【図2】本発明に係わる高温電子線処理装置を横断面図で表した図である。
【図3】本発明に係わる高温電子線処理装置を構成する加熱用ヒータ群を表した平面図及び断面図である。
【図4】本発明に係わる加熱用ヒータ群の平面図及び側断面図を表した図である。
【図5】本発明に係わる作用を説明する図であり、急加熱タイミングT1に於ける各ヒータ要素の発熱量を示す図である。
【図6】本発明に係わる作用を説明する図であり、保温タイミングT2,T4に於ける各ヒータ要素の発熱量を示す図である。
【図7】本発明に係わる作用を説明する図であり、部分冷却タイミングT3に於ける各ヒータ要素の発熱量を示す図である。
【図8】本発明に係わる作用を説明する図であり、各ヒータ要素の発熱量を制御する時間関数及び電子ビーム照射線量を制御する時間関数を示す図である。
【図9】本発明に係わる作用を説明する図であり、各ヒータ要素の表面の温度変化を示す図である。
【図10】本発明に係わる作用を説明する図であり、各ヒータ要素の表面温度の空間分布を表す図である。
【図11】本発明に係わる作用を説明する図であり、電子線強度及びこれを照射した場合の含フッ素系高分子膜基材の温度のX軸方向分布を示す図である。
【図12】本発明に係わる作用を説明する図であり、電子線強度及びこれを照射した場合の含フッ素系高分子膜基材の温度のX軸方向分布を示す図である。
【図13】本発明に係わる作用を説明する図であり、部分冷却タイミングT3が生じるように各ヒータ要素を制御した状態で電子ビームEを照射しない場合における含フッ素系高分子膜基材1の温度分布を示す図である。
【図14】本発明に係わる作用を説明する図であり、電子線の照射中における含フッ素系高分子膜基材の温度の空間分布及びその時間変化を示す図である。
【図15】本発明に係わる作用を説明する図であり、含フッ素系高分子膜基材の温度の時間変化を示す図である。
【図16】本発明に係わる他の実施例を表す図であり、各ヒータ要素の表面温度の空間分布と含フッ素系高分子膜基材の温度の空間分布を示す図である。
【符号の説明】
【0068】
1 含フッ素系高分子膜基材
2 リール
3 リール
4 プーリー
5 冷却用プーリー
6 冷却用プーリー
7 プーリー
8 プーリー
10 高温電子線処理装置
11 処理容器
12 電子線照射装置
13 電子線透過窓
14 熱遮蔽板
15 電子線透過窓
16 隔壁
17 ノズル
18 ノズル
19 ノズル群
20 ノズル群
21 温度検出方向を示す矢印
22 温度検出方向を示す矢印
30 加熱用ヒータ群
E 電子線
Fi 照射野
FL 照射野長
FW 照射野幅
T1 急加熱タイミング
T2 保温タイミング
T3 部分冷却タイミング
T4 保温タイミング
T5 ビーム照射タイミング
【特許請求の範囲】
【請求項1】
含フッ素系高分子膜基材をその結晶融点前後の予め定められた設定温度範囲内の温度に保ちながら当該含フッ素系高分子膜基材に1kGy以上の電離放射線を低い酸素分圧環境下において照射することにより改質含フッ素系高分子膜を製造する方法において、
分布した発熱量を有する発熱体が前記電離放射線の照射野の近傍において前記含フッ素系高分子膜基材に対向して非接触に設けられており、前記含フッ素系高分子膜基材は前記照射野の大部分を占める所望範囲を含んでおり、当該所望範囲内の全ての部位は前記発熱体によって前記設定温度範囲内の温度まで加熱された後に、冷却率を有して冷却されるとともに強度分布を有する前記電離放射線によって加熱率を有して加熱され、前記電離放射線の強度分布又は/及び前記発熱体の発熱量の分布は前記冷却率と前記加熱率とを前記所望範囲内の全ての部位において照射時間中にわたって実質的に一致させるように設定され又は制御されたことを特徴とする方法。
【請求項2】
含フッ素系高分子膜基材をその結晶融点前後の予め定められた設定温度範囲内の温度に保ちながら当該含フッ素系高分子膜基材に1kGy以上の電離放射線を低い酸素分圧環境下において照射することにより改質含フッ素系高分子膜を製造する方法において、
分布した発熱量を有する発熱体が前記電離放射線の照射野の近傍において前記含フッ素系高分子膜基材に対向して非接触に設けられており、前記含フッ素系高分子膜基材は前記照射野の大部分を占める所望範囲を含んでおり、当該所望範囲内の全ての部位は、前記発熱体によって前記設定温度範囲内の温度まで加熱された後に、冷却されて第1の熱量を単位体積当りに放出するとともに強度分布を有する前記電離放射線の照射を受けて第2の熱量を単位体積当りに受領し、前記電離放射線の強度分布又は/及びその時間変化又は/及び前記発熱体の発熱量の分布は、前記第1の熱量の任意照射時間内における積算値と前記第2の熱量の同一時間内における積算値とを実質的に一致させるように設定され、又は制御されたことを特徴とする方法。
【請求項3】
含フッ素系高分子膜基材をその結晶融点前後の予め定められた設定温度範囲内の温度に保ちながら当該含フッ素系高分子膜基材に1kGy以上の電離放射線を低い酸素分圧環境下において照射することにより改質含フッ素系高分子膜を製造する方法において、
分布した発熱量を有する発熱体が前記電離放射線の照射野の近傍において前記含フッ素系高分子膜基材に対向して非接触に設けられており、前記含フッ素系高分子膜基材は前記照射野の大部分を占める所望範囲を含んでおり、前記発熱体の発熱量又は/及びその分布は予め定めた時間関数に従って設定されまたは制御され、当該時間関数は、前記発熱体が前記所望範囲内の全ての部位を前記設定温度範囲内の温度まで加熱するタイミングと、前記所望範囲内の全ての部位において前記電離放射線の照射による温度上昇と前記含フッ素系高分子膜基材の冷却による温度低下とを実質的に互いに打ち消し合うタイミングとを含んでいることを特徴とする方法。
【請求項4】
含フッ素系高分子膜基材をその結晶融点前後の予め定められた設定温度範囲内の温度に保ちながら当該含フッ素系高分子膜基材に1kGy以上の電離放射線を低い酸素分圧環境下において照射することにより改質含フッ素系高分子膜を製造する方法において、
分布した発熱量を有する発熱体が前記電離放射線の照射野の近傍において前記含フッ素系高分子膜基材に対向して非接触に設けられており、前記含フッ素系高分子膜基材は前記照射野の大部分を占める大きさの所望範囲を含んでおり、前記含フッ素系高分子膜基材は、前記設定温度範囲より低い温度に保たれて保持された第1の基材領域と、前記発熱体によって加熱された第2の基材領域と、前記電離放射線の照射を受けて前記設定温度範囲内の温度に保たれた第3の基材領域とを含んでおり、当該第3の基材領域は前記所望範囲を含んでおり、当該所望範囲内のあらゆる部分では、前記発熱体の加熱に起因する温度が低下すると前記電離放射線の照射に起因する温度が上昇して、前記電離放射線の照射を受ける時間中においてその温度が前記設定温度範囲内に保たれるように、前記発熱体の発熱量及び/又はその分布及び/又は前記電離放射線の強度が設定され、又は制御されたことを特徴とする方法。
【請求項5】
含フッ素系高分子膜基材をその結晶融点前後の予め定められた設定温度範囲内の温度に保ちながら当該含フッ素系高分子膜基材に1kGy以上の電離放射線を低い酸素分圧環境下において照射することにより改質含フッ素系高分子膜を製造する方法において、
前記含フッ素系高分子膜基材は前記電離放射線の照射野の大部分を占める大きさの所望範囲を含んでおり、当該所望範囲は前記電離放射線の照射を受ける処理装置内を通過し、当該処理装置は、前記含フッ素系高分子膜基材に対向して非接触に設けられた発熱体を含んでおり、前記含フッ素系高分子膜基材の一部を前記設定温度範囲より低い温度に保つとともに機械的に保持する第1の装置領域と、前記発熱体によって前記所望範囲を前記設定温度範囲内又はその近くの温度まで加熱する第2の装置領域と、前記所望範囲に電離放射線を照射して所定の線量を与える第3の装置領域とを順に有しており、前記所望範囲が当該第3の装置領域に位置する場合においては、前記所望範囲の部分が冷却されて温度が低下すると当該温度低下を補うように前記電離放射線の照射に起因する温度を上昇させて前記所望範囲内のあらゆる部位の温度を前記設定温度範囲内に保つように、前記電離放射線の強度分布又は/及び前記発熱体の発熱量の分布が設定され又は制御されるようになっていることを特徴とする方法。
【請求項6】
前記含フッ素系高分子膜基材は第4の基材領域を含んでおり、当該第4の基材領域は、前記第1の基材領域と前記第2の基材領域の間に位置する基材領域であり、又は前記第1の装置領域と前記第2の装置領域の間に位置する前記含フッ素系高分子膜基材の基材領域であり、前記第4の基材領域において前記含フッ素系高分子膜基材の温度は前記それそれの他の基材領域に向う方向の距離に対する第1の変化率を有して分布しており、前記第2の基材領域又は前記第3の基材領域において、又は前記第2の装置領域又は前記第3の装置領域にそれぞれ位置する前記含フッ素系高分子膜基材の基材領域において前記含フッ素系高分子膜基材の温度は前記それそれの他の基材領域に向う方向の距離に対する第2の変化率を有して分布しており、前記第1の変化率は前記各器材領域内のいたる所で当該第2の変化率よりも実質的に大きくなっていることを特徴とする請求項4乃至請求項5のいずれか1項に記載した方法。
【請求項7】
含フッ素系高分子膜基材又はその他の長尺被照射体を予め定められた設定温度範囲内の温度に保ちながら当該含フッ素系高分子膜基材又はその他の長尺被照射体に所定の線量の電離放射線を照射する処理装置であって、前記含フッ素系高分子膜基材又はその他の長尺被照射体は当該処理装置内で位置決め保持される保持部分と前記設定温度範囲内又はその近くの温度に加熱される加熱範囲と前記電離放射線の照射野内の大部分を占める所望範囲とを含んでおり、前記処理装置は、前記保持部分を保持可能な低い温度に保つとともに当該保持部分を機械的に保持する第1の装置領域と、前記照射野の近傍において前記含フッ素系高分子膜基材又はその他の長尺被照射体に対向して非接触に設けられた複数の発熱体要素を含んでなる発熱体によって前記加熱範囲を前記設定温度範囲内又はその近くの温度まで加熱する第2の装置領域と、前記所望範囲に電離放射線の照射に起因する発熱を与えて前記所望範囲を前記設定温度範囲内の温度に保つ第3の装置領域とを含んでおり、当該第3の装置領域においては、前記発熱体要素の発熱量の分布が前記第2の装置領域における分布とは異なって設定されており、前記発熱体によって加熱された前記所望範囲の温度が低下すると当該温度低下を補うように分布した強度の前記電離放射線の照射に起因して前記所望範囲の温度が上昇するようにして、前記電離放射線の照射を受ける時間中において、前記所望範囲内のあらゆる部分を前記設定温度範囲内の温度に保ちながら前記所望範囲に所定の線量を与えるようにしたことを特徴とする装置。
【請求項8】
前記所望範囲内のあらゆる部位において前記含フッ素系高分子膜基材又はその他の長尺被照射体の温度の距離に対する変化率が予め定められた値よりも常に小さくなるように前記発熱体の発熱量の分布を経時的に制御するようにしたことを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載した方法又は装置。
【請求項9】
前記発熱体は空間的に分割させた複数の発熱体要素を含んでおり、当該発熱体要素は前記照射野内の中央部において前記含フッ素系高分子膜基材又はその他の長尺被照射体に対向して設けられた第1の発熱体要素と前記照射野をはみ出した位置において前記含フッ素系高分子膜基材又はその他の長尺被照射体に対向して設けられた第2の発熱体要素とを含んでおり、当該第2の発熱体要素の表面温度は前記第1の発熱体要素の表面温度よりも高く設定されたことを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載した方法又は装置。
【請求項10】
前記第2の発熱体要素の表面温度と前記第1の発熱体要素の表面温度との異差は前記含フッ素系高分子膜基材又はその他の長尺被照射体の移動速度に対応して変えられることを特徴とする請求項9に記載した方法又は装置。
【請求項11】
前記含フッ素系高分子膜基材又はその他の長尺被照射体は長手方向と幅方向とを有し、前記発熱体は当該幅方向に整列した発熱体要素を含む第1及び第2の発熱体要素群を有し、当該第1及び第2の発熱体要素群が前記長手方向に整列していることを特徴とする請求項1乃至請求項10のいずれか1項に記載した方法または装置。
【請求項12】
前記幅方向に整列した同一の発熱体要素群に含まれる各発熱体要素は同一の時間関数に従ってそれらの発熱量が制御されることを特徴とする請求項11に記載した方法または装置。
【請求項13】
前記含フッ素系高分子膜基材の任意の部分における前記設定温度範囲は前記含フッ素系高分子膜基材の前記任意部分において吸収された前記電離放射線の吸収線量の積算値に対応して予め定められた関係を保って低下することを特徴とする請求項1乃至請求項12のいずれか1項に記載した方法または装置。
【請求項14】
前記含フッ素系高分子膜基材はポリテトラフルオロエチレン膜、又はテトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体膜、又はテトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体膜のいずれかであることを特徴とする請求項1乃至請求項13のいずれか1項に記載した方法または装置。
【請求項15】
請求項1乃至請求項14のいずれか1項に記載した方法によって又は装置を用いて製造された改質含フッ素系高分子膜。
【請求項16】
請求項15に記載した改質含フッ素系高分子膜を用いて製造された燃料電池。
【請求項1】
含フッ素系高分子膜基材をその結晶融点前後の予め定められた設定温度範囲内の温度に保ちながら当該含フッ素系高分子膜基材に1kGy以上の電離放射線を低い酸素分圧環境下において照射することにより改質含フッ素系高分子膜を製造する方法において、
分布した発熱量を有する発熱体が前記電離放射線の照射野の近傍において前記含フッ素系高分子膜基材に対向して非接触に設けられており、前記含フッ素系高分子膜基材は前記照射野の大部分を占める所望範囲を含んでおり、当該所望範囲内の全ての部位は前記発熱体によって前記設定温度範囲内の温度まで加熱された後に、冷却率を有して冷却されるとともに強度分布を有する前記電離放射線によって加熱率を有して加熱され、前記電離放射線の強度分布又は/及び前記発熱体の発熱量の分布は前記冷却率と前記加熱率とを前記所望範囲内の全ての部位において照射時間中にわたって実質的に一致させるように設定され又は制御されたことを特徴とする方法。
【請求項2】
含フッ素系高分子膜基材をその結晶融点前後の予め定められた設定温度範囲内の温度に保ちながら当該含フッ素系高分子膜基材に1kGy以上の電離放射線を低い酸素分圧環境下において照射することにより改質含フッ素系高分子膜を製造する方法において、
分布した発熱量を有する発熱体が前記電離放射線の照射野の近傍において前記含フッ素系高分子膜基材に対向して非接触に設けられており、前記含フッ素系高分子膜基材は前記照射野の大部分を占める所望範囲を含んでおり、当該所望範囲内の全ての部位は、前記発熱体によって前記設定温度範囲内の温度まで加熱された後に、冷却されて第1の熱量を単位体積当りに放出するとともに強度分布を有する前記電離放射線の照射を受けて第2の熱量を単位体積当りに受領し、前記電離放射線の強度分布又は/及びその時間変化又は/及び前記発熱体の発熱量の分布は、前記第1の熱量の任意照射時間内における積算値と前記第2の熱量の同一時間内における積算値とを実質的に一致させるように設定され、又は制御されたことを特徴とする方法。
【請求項3】
含フッ素系高分子膜基材をその結晶融点前後の予め定められた設定温度範囲内の温度に保ちながら当該含フッ素系高分子膜基材に1kGy以上の電離放射線を低い酸素分圧環境下において照射することにより改質含フッ素系高分子膜を製造する方法において、
分布した発熱量を有する発熱体が前記電離放射線の照射野の近傍において前記含フッ素系高分子膜基材に対向して非接触に設けられており、前記含フッ素系高分子膜基材は前記照射野の大部分を占める所望範囲を含んでおり、前記発熱体の発熱量又は/及びその分布は予め定めた時間関数に従って設定されまたは制御され、当該時間関数は、前記発熱体が前記所望範囲内の全ての部位を前記設定温度範囲内の温度まで加熱するタイミングと、前記所望範囲内の全ての部位において前記電離放射線の照射による温度上昇と前記含フッ素系高分子膜基材の冷却による温度低下とを実質的に互いに打ち消し合うタイミングとを含んでいることを特徴とする方法。
【請求項4】
含フッ素系高分子膜基材をその結晶融点前後の予め定められた設定温度範囲内の温度に保ちながら当該含フッ素系高分子膜基材に1kGy以上の電離放射線を低い酸素分圧環境下において照射することにより改質含フッ素系高分子膜を製造する方法において、
分布した発熱量を有する発熱体が前記電離放射線の照射野の近傍において前記含フッ素系高分子膜基材に対向して非接触に設けられており、前記含フッ素系高分子膜基材は前記照射野の大部分を占める大きさの所望範囲を含んでおり、前記含フッ素系高分子膜基材は、前記設定温度範囲より低い温度に保たれて保持された第1の基材領域と、前記発熱体によって加熱された第2の基材領域と、前記電離放射線の照射を受けて前記設定温度範囲内の温度に保たれた第3の基材領域とを含んでおり、当該第3の基材領域は前記所望範囲を含んでおり、当該所望範囲内のあらゆる部分では、前記発熱体の加熱に起因する温度が低下すると前記電離放射線の照射に起因する温度が上昇して、前記電離放射線の照射を受ける時間中においてその温度が前記設定温度範囲内に保たれるように、前記発熱体の発熱量及び/又はその分布及び/又は前記電離放射線の強度が設定され、又は制御されたことを特徴とする方法。
【請求項5】
含フッ素系高分子膜基材をその結晶融点前後の予め定められた設定温度範囲内の温度に保ちながら当該含フッ素系高分子膜基材に1kGy以上の電離放射線を低い酸素分圧環境下において照射することにより改質含フッ素系高分子膜を製造する方法において、
前記含フッ素系高分子膜基材は前記電離放射線の照射野の大部分を占める大きさの所望範囲を含んでおり、当該所望範囲は前記電離放射線の照射を受ける処理装置内を通過し、当該処理装置は、前記含フッ素系高分子膜基材に対向して非接触に設けられた発熱体を含んでおり、前記含フッ素系高分子膜基材の一部を前記設定温度範囲より低い温度に保つとともに機械的に保持する第1の装置領域と、前記発熱体によって前記所望範囲を前記設定温度範囲内又はその近くの温度まで加熱する第2の装置領域と、前記所望範囲に電離放射線を照射して所定の線量を与える第3の装置領域とを順に有しており、前記所望範囲が当該第3の装置領域に位置する場合においては、前記所望範囲の部分が冷却されて温度が低下すると当該温度低下を補うように前記電離放射線の照射に起因する温度を上昇させて前記所望範囲内のあらゆる部位の温度を前記設定温度範囲内に保つように、前記電離放射線の強度分布又は/及び前記発熱体の発熱量の分布が設定され又は制御されるようになっていることを特徴とする方法。
【請求項6】
前記含フッ素系高分子膜基材は第4の基材領域を含んでおり、当該第4の基材領域は、前記第1の基材領域と前記第2の基材領域の間に位置する基材領域であり、又は前記第1の装置領域と前記第2の装置領域の間に位置する前記含フッ素系高分子膜基材の基材領域であり、前記第4の基材領域において前記含フッ素系高分子膜基材の温度は前記それそれの他の基材領域に向う方向の距離に対する第1の変化率を有して分布しており、前記第2の基材領域又は前記第3の基材領域において、又は前記第2の装置領域又は前記第3の装置領域にそれぞれ位置する前記含フッ素系高分子膜基材の基材領域において前記含フッ素系高分子膜基材の温度は前記それそれの他の基材領域に向う方向の距離に対する第2の変化率を有して分布しており、前記第1の変化率は前記各器材領域内のいたる所で当該第2の変化率よりも実質的に大きくなっていることを特徴とする請求項4乃至請求項5のいずれか1項に記載した方法。
【請求項7】
含フッ素系高分子膜基材又はその他の長尺被照射体を予め定められた設定温度範囲内の温度に保ちながら当該含フッ素系高分子膜基材又はその他の長尺被照射体に所定の線量の電離放射線を照射する処理装置であって、前記含フッ素系高分子膜基材又はその他の長尺被照射体は当該処理装置内で位置決め保持される保持部分と前記設定温度範囲内又はその近くの温度に加熱される加熱範囲と前記電離放射線の照射野内の大部分を占める所望範囲とを含んでおり、前記処理装置は、前記保持部分を保持可能な低い温度に保つとともに当該保持部分を機械的に保持する第1の装置領域と、前記照射野の近傍において前記含フッ素系高分子膜基材又はその他の長尺被照射体に対向して非接触に設けられた複数の発熱体要素を含んでなる発熱体によって前記加熱範囲を前記設定温度範囲内又はその近くの温度まで加熱する第2の装置領域と、前記所望範囲に電離放射線の照射に起因する発熱を与えて前記所望範囲を前記設定温度範囲内の温度に保つ第3の装置領域とを含んでおり、当該第3の装置領域においては、前記発熱体要素の発熱量の分布が前記第2の装置領域における分布とは異なって設定されており、前記発熱体によって加熱された前記所望範囲の温度が低下すると当該温度低下を補うように分布した強度の前記電離放射線の照射に起因して前記所望範囲の温度が上昇するようにして、前記電離放射線の照射を受ける時間中において、前記所望範囲内のあらゆる部分を前記設定温度範囲内の温度に保ちながら前記所望範囲に所定の線量を与えるようにしたことを特徴とする装置。
【請求項8】
前記所望範囲内のあらゆる部位において前記含フッ素系高分子膜基材又はその他の長尺被照射体の温度の距離に対する変化率が予め定められた値よりも常に小さくなるように前記発熱体の発熱量の分布を経時的に制御するようにしたことを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載した方法又は装置。
【請求項9】
前記発熱体は空間的に分割させた複数の発熱体要素を含んでおり、当該発熱体要素は前記照射野内の中央部において前記含フッ素系高分子膜基材又はその他の長尺被照射体に対向して設けられた第1の発熱体要素と前記照射野をはみ出した位置において前記含フッ素系高分子膜基材又はその他の長尺被照射体に対向して設けられた第2の発熱体要素とを含んでおり、当該第2の発熱体要素の表面温度は前記第1の発熱体要素の表面温度よりも高く設定されたことを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載した方法又は装置。
【請求項10】
前記第2の発熱体要素の表面温度と前記第1の発熱体要素の表面温度との異差は前記含フッ素系高分子膜基材又はその他の長尺被照射体の移動速度に対応して変えられることを特徴とする請求項9に記載した方法又は装置。
【請求項11】
前記含フッ素系高分子膜基材又はその他の長尺被照射体は長手方向と幅方向とを有し、前記発熱体は当該幅方向に整列した発熱体要素を含む第1及び第2の発熱体要素群を有し、当該第1及び第2の発熱体要素群が前記長手方向に整列していることを特徴とする請求項1乃至請求項10のいずれか1項に記載した方法または装置。
【請求項12】
前記幅方向に整列した同一の発熱体要素群に含まれる各発熱体要素は同一の時間関数に従ってそれらの発熱量が制御されることを特徴とする請求項11に記載した方法または装置。
【請求項13】
前記含フッ素系高分子膜基材の任意の部分における前記設定温度範囲は前記含フッ素系高分子膜基材の前記任意部分において吸収された前記電離放射線の吸収線量の積算値に対応して予め定められた関係を保って低下することを特徴とする請求項1乃至請求項12のいずれか1項に記載した方法または装置。
【請求項14】
前記含フッ素系高分子膜基材はポリテトラフルオロエチレン膜、又はテトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体膜、又はテトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体膜のいずれかであることを特徴とする請求項1乃至請求項13のいずれか1項に記載した方法または装置。
【請求項15】
請求項1乃至請求項14のいずれか1項に記載した方法によって又は装置を用いて製造された改質含フッ素系高分子膜。
【請求項16】
請求項15に記載した改質含フッ素系高分子膜を用いて製造された燃料電池。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2006−282688(P2006−282688A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−100539(P2005−100539)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(399116102)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(399116102)
【Fターム(参考)】
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