説明

高分解能拡散データを最大コヒーレンス投影により可視化する方法

拡散データを表示する方法では、拡散データのボクセル内コヒーレンス及びボクセル間コヒーレンスが定義される。ボクセル間コヒーレンス及びボクセル内コヒーレンスに基づいて、複数の経路を定義することができる。選択された特性を有する経路のみが表示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は神経路画像(tractography)に関し、特に、拡散データに基づく経路の識別及び表示に関する。
(連邦政府による資金提供を受けた研究開発の記載)
本発明は、国立保健研究所により交付される研究資金R01 MH64044に基づき連邦政府の援助を受けてなされた。連邦政府は本発明に所定の権利を保有する。
(関連出願の相互参照)
本出願は、2005年3月11日出願の米国仮特許出願第60/660,566号、及び2005年3月11日出願の米国仮特許出願第60/660,565号の優先権を主張するものであり、上記仮特許出願は本明細書において参照されることによりこれらの仮特許出願の内容全体が本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
脳は神経線維の通路によって結合する灰白質を含み、灰白質は多くの場合、白質であり、fasciculi(神経束)と表記される場合がある。神経路画像(tractography)の目的は、神経線維がその後に続くパスまたは経路を識別し、かつこれらの経路を使用して標準的な脳のマップを形成することにある。結果として得られるマップを分析することにより、脳がどのようにしてその機能を実行するかについて解明することができる所定のパターン及び構造を明らかにすることができる。
【0003】
神経線維経路の生理学的特性は、水分がこれらの経路の方向に沿って拡散し易く、かつ経路に交差する方向に拡散しようとするときに抵抗を受け易いことである。従って、水分が脳の異なる部位において拡散する方向を観察することにより、脳組織内部の主要な線維束の方向を特定することができる。好適な拡散方向を特定することができる場合、当該組織内の線維束の方向を求めることができる。
【0004】
脳内の水分の拡散を示すデータを収集する公知の方法では、脳のMRI画像を取得する。このことを行なうための「拡散テンソルMRI」として知られる一つのアプローチでは、脳内の各ボクセル位置における拡散テンソルを推定する。他のアプローチでは、各ボクセルにおける拡散特性を、球全体に渡って、または別のボリューム全体に渡って定義される方位密度関数で表わす。更に別のアプローチでは、各ボクセルにおける拡散特性を表わす。図1は、DSIを使用して得られる構造に基づく神経路データと、qボール法(q−ball method)を使用して得られる同じ構造に基づく神経路データとを比較した様子を示す。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
脳のほとんどにおいて、特に大脳皮質全体を通じて、これらの経路は繰り返し交差し易い。従って、全ての経路を正確に表示することができる場合、結果として得られる表示は、スチールウールのボールに極めて類似した外観を呈し、数百万の個々の経路が互いに交差し、そして再度交差して外見上シームレスな、かつ特徴のない全体構造を形成する。このような表示は解読するのが難しい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、拡散データ間のコヒーレンスを用いて経路自体を生成することができるという認識に基づいてなされる。
一態様では、本発明は拡散データを表示する方法を特徴とし、この方法では、第1ボクセルに関連する方位密度関数を取得する。少なくとも一つの経路に位置する第1ボクセルは第1方位ベクトルを含む。次に、第2ボクセルを第1方位ベクトルに基づいて特定する。次に、第2方位ベクトルを、第2ボクセルに関連する一連の方位ベクトルから選択する。第1方位ベクトルと第2方位ベクトルとの関係に基づいて、経路のセクションを第1方位ベクトル及び第2方位ベクトルによって定義されるパスに沿って生成すべきかどうかについて判断する。
【0007】
別の態様では、本発明は、神経路データは、データの内、指定される特性を有する部分のみが実際に表示される場合に更に容易に理解されるという認識に基づいてなされる。
この態様では、本発明は拡散データを表示する方法を特徴とする。この方法は、拡散データのボクセル内コヒーレンス及びボクセル間コヒーレンスを定義することにより達成される。ボクセル間コヒーレンス及びボクセル内コヒーレンスに基づいて、複数の経路を定義することができる。次に、選択された特性を有する経路のみが表示される。
【0008】
特に断らない限り、本明細書において使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属するこの技術分野の当業者が共通に理解する意味と同じ意味を持つ。本明細書に記載するものと同様の、または等価な方法及び材料を、本発明を実施するか、あるいは吟味する際に使用することができるが、適切な方法及び材料が以下に記載される。本明細書に記載する全ての刊行物、特許出願、特許、及び他の参考文献は、参照することによりこれらの文献の内容の全てが本明細書に組み込まれる。相容れない事態が発生する場合には、定義を含む本明細書が優先する。更に、材料、方法、及び例は単なる例示であり、本発明を制限するものではない。
【0009】
本発明の他の特徴及び利点は、以下の詳細な説明、及び添付の図を参照することにより明らかになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
神経線維経路を表示する際、非常に多くのデータを表示することにより観察者が圧倒されてしまう状況と、少ないデータを表示し、これらのデータに基づいて観察者は要点をほとんど捉えることができない状況とは対照的な関係である。一般的に、表示されるものと、他の構造との間の或る程度の関係を提示して経路の解剖学的位置及び密度の重要度を容易に理解することができるようにするために十分な情報を表示する必要がある。
【0011】
本明細書に開示する方法は、拡散データ間の潜在的なコヒーレンスを利用して表示を行なう方法を提供する。その表示には2つのタイプのコヒーレンスが使用される。第1のタイプのコヒーレンスは、拡散の極大値が特定ボクセルにおいて生じる方位ベクトルによって表わされる種々の方向を示すコヒーレンスである。「ボクセル内コヒーレンス」と表記されるこのコヒーレンスは、或るボクセルを通過する神経線維経路の数、及びこれらの経路が進む方向を示唆する。第2のタイプのコヒーレンスは、隣接ボクセルの方位ベクトルの向きがどの程度揃っているかを示すコヒーレンスである。「ボクセル間コヒーレンス」と表記されるこのコヒーレンスは、或る神経線維経路が2つの隣接ボクセルの間に延びているかどうかを判断するための基礎情報である。
【0012】
図2はプロセス10を示し、このプロセスは、拡散データの解釈を容易にするために特に有用である。図3は、脳の一部分に関する従来の解剖学的マップと、経路を示す同じ部分に関する該当するマップとの差を示している。
【0013】
プロセス10は高分解能MRIデータの取得(ステップ12)から始まる。ここで使用する「高分解能データ」という用語は、従来の拡散テンソルMRIにより提供される情報よりも多くの情報を含むデータを指す。多種多様な方法がこのようなデータを取得するために知られている。これらの方法には、拡散スペクトルイメージング(diffusion spectrum imaging:DSI)法、及びqボール法を利用するMRIが含まれる。これらの方法についての詳細は、米国特許第6,614,226号及び米国特許出願公開第2002/004569号に開示され、これらの文献をここで参照することにより、これらの文献の内容が本明細書に組み込まれる。
【0014】
これまでのデータ取得ステップの結果により、各ボクセルと方位密度関数とが関連付けられる。従って、方位密度関数に関連する独立変数は3次元空間における空間角である。当該空間角の各値に関して、方位密度関数は、経路に関連するボクセルを通過する経路が当該空間角によって示される方向に進む尤度を示す指標を提供する。MRIはこれらの値を、水分が神経線維経路を拡散することに大きく依存する形で求めるので、方位密度関数の値は「拡散率」を指すことになる。
【0015】
特定のボクセルにおける方位密度関数は一つ以上の極大値を有する。これらの極大値の各々は、当該ボクセルを通過する経路の採り得る方向を示す。一般的に、一つよりも多くの経路が或るボクセルを通過し、この場合、各経路によって極大値ペアが生成される。実際には、角度分解能は有限であるので、2つの経路によって生成される極大値が互いに近接する場合、2つの経路を分解することが不可能であることが分かる。
【0016】
コントラスト強化指標として、方位密度関数の極大値に関連する空間角のみに注目する。複数の極大値の間で方位密度関数が採る値は、開示する経路生成法には関連しない。原点から特定の極大値の方向に向かうベクトルは「方位ベクトル」と表記される。一般的に、特定のボクセルは、当該ボクセルに関連する多数の方位を有することになる。
【0017】
次のステップでは、高分解能拡散データを使用して、ボクセル内方位コヒーレンスを定義する(ステップ14)。或る場合においては、高分解能拡散を事前処理して、拡散率が極大値を採る方向を特定する機能を強化する。このことを行なうための一つの方法では、高分解能拡散データを高域通過フィルタを通す。
【0018】
次に、各ボクセルにおいて拡散率の極大値を特定する。このことは、例えば拡散率を、多面体の各面を小さな多角形にn分割して球に近い形に膨らませた構成の20面体のような多面体表面に投影し、そして離散極大値を求める。20面体を使用する場合、利用可能な複数の方位は20面体の複数の頂点に対応する。
【0019】
使用する方法に関係なく、各ボクセルに関して、結果として一連の方位ベクトルが有限の個数だけ得られ、この場合、各ベクトルの方向は、当該ボクセルにおいて拡散率が採る極大値の方向を示す。
【0020】
DSIの場合、角度分解能は積R/rによって与えられ、Rは拡散視野(difusion field of view)であり、rは拡散分解能(diffusion resolution)である。更に、R/r=ΔQ/Qmaxが成り立ち、Qmaxは実験により得られる最大のq値であり、ΔQはqステップである。達成分解能は実験分解能の最小値であり、そして拡散角度のコントラストはほぼ、拡散異方性と実験により得られるb値との積である。
【0021】
次のステップでは、ボクセル間方位コヒーレンスを定義する(ステップ16)。このことは、経路を最終的に生成する一連のステップにおいて行なわれる。
或る経路を生成するために、第1ボクセルにおけるプロセスを初期化し、そして当該ボクセルに関連する方位ベクトルに関連する方向または方位を求める。方位ベクトルの方向は、第1ボクセルを含む経路上の使用可能なボクセルを示す。この手順を繰り返すと、経路が現われる。各ボクセルでは、経路の方位を変更して、当該ボクセル内の拡散方位であって、入射方位に最も近い拡散方位に必ず一致するようにする。この手順において使用するステップサイズは通常、ボクセルの空間サイズの半分である。
【0022】
脳内の神経線維経路は果てしなく延びる訳ではない。或るポイントで、経路は終点に達する。従って、経路がその終点に達する場合を判断するのが望ましい。このことは、テストを行なって経路が特定のボクセルを通過した後も続くか、または当該ボクセルの位置で終わるかを判断することにより行なわれる(ステップ18)。
【0023】
経路の方向が徐々に変化すると仮定する場合、一つの適切なテストを行なって、或る経路の方向に示唆される変化が閾値よりも大きいかどうかを判断する。閾値よりも大きい場合、経路は終わる。このようなテストに使用するために適する閾値は1/2ラジアンの大きさの閾値である。このような場合においては、各ボクセルに関して、1/2ラジアンの大きさの円錐角を有する円錐を定義する。神経線維経路が当該ボクセルを離れるときに、神経線維経路が円錐の外部を通るようにして現われる場合、神経線維経路は終わっていると推定される。
【0024】
更に一般的には、このテストは、次に通過すると考えられるボクセル以外のボクセルに関連する拡散特性を利用することができる。
これまでのステップは確率論的フレームワークの構成要素として説明することができる。第1の近似として、経路のp値、すなわち経路がランダムに生じる尤度は次式を満たす。
【0025】
−lnp≒(#経路が交差するボクセル境界)x(許容率)
上の式では、次式のような関係がある。
許容率=4π/((ボクセルにおける方向)x(許容角度)
図10は、経路を収集データに基づいて生成する手順21を詳細に示している。手順は幾つかの初期化ステップ(ステップ22)から始まり、これらのステップでは、ボクセルを特定するインデックスを設定し、そして「次のボクセル」をこの第1ボクセルに設定する(ステップ44)。
【0026】
次のステップでは、アクティブボクセルを次のボクセルに設定する(ステップ24)。これにより内部ループが始まり、このループでは、アクティブボクセルを通過する全ての経路が生成される。一旦、このような経路の全てが特定のアクティブボクセルに基づいて生成されると、外部ループによって次のアクティブボクセルの手順が繰り返される。
【0027】
上に説明したように、アクティブボクセルは幾つかの方位ベクトルを持つことになる。この手順は、これらの方位ベクトルのうちの一つを選択することから始まり、そしてこの手順では、選択された方位ベクトルを「アクティブベクトル」として指定する(ステップ26)。このアクティブ方位ベクトルは次のボクセルを指すので、次のボクセルが決定される(ステップ28)。
【0028】
同じようにして、次のボクセルは一連の方位ベクトルを有する(ステップ30)。次のステップでは、この一団の次の候補ベクトルの中から、「次のベクトル」として指定されるベクトルを選択する。経路セクションは最終的に、アクティブベクトル及びこの次のベクトルによって決定されるパスに沿って生成されることになる。
【0029】
多種多様な方法を、次のベクトルを次の候補ベクトル群の中から選択するために利用することができる。一方法では、上に説明したように、アクティブベクトルとの平行度が最も高い次の候補ベクトルを選択する(ステップ32)。
【0030】
一旦、次のベクトルが指定されると、経路セクションがアクティブベクトル及び次のベクトルによって決定されるパスに沿って生成される(ステップ34)。次に、アクティブボクセルから移動し、そして次のボクセルとして採用されたのは、アクティブボクセルを覆い隠す他のボクセルである(ステップ24)。次に、手順全体を繰り返して、どの方向に次の経路セクションを生成するかについて決定する。
【0031】
或る場合においては、次のベクトル及びアクティブベクトルは非常に異なる方向を向くことになる(ステップ36)。この場合、経路が終わったと推定される(ステップ38)。経路が終わった場合、開始ボクセルに進み、そしてプロセス全体を再度開始するが、別の方位ベクトルをアクティブベクトルとして使用する(ステップ42,46)。当該アクティブボクセルにアクティブベクトルがもうこれ以上存在しなくなった場合(ステップ42)、別のボクセルをアクティブボクセルとして指定する(ステップ44)。
【0032】
以上の手順は各ボクセルに関して実行される。従って、各ボクセルに関して、かつ当該ボクセルに関連する各方位ベクトルに関して、当該ボクセルを方位ベクトルの方向に通過する経路が特定される。経路は、方位ベクトルをアクティブボクセルから外に向かって追跡するとともに、各ステップにおいて、前の方位ベクトルの方向に最も近い方向に向いた方位ベクトルを選択することにより、生成される。パス上の2つの方位ベクトルの方向が大きく異なる場合、経路は終了する。
【0033】
以上の手順は、ベクトル場の中でのストリームラインに沿った流れを追跡することに類似する。このことを実行する公知の手順では、いずれかのポイントから開始し、そして当該ポイントでのベクトル場によって与えられる方向の次のポイントに移動する。従って、どのポイントに関しても、移動可能な方向が一つのみ存在する。実際、ストリームラインは交差することがない。
【0034】
この構成は、神経線維経路の場合には当てはまらない。その理由は、ストリームラインとは異なり経路は交差するからである。従って、場のどのポイントにおいても、すなわちどのボクセルにおいても、一般的に、次のステップを進めることができる方向が幾つか存在する。これらの方向は、方位密度関数から得られる方位ベクトルに対応する。ここに説明する方法は合理的な方法であり、この合理的な方法では、多くの方向を採り得る場合において、どの方向に次のステップを進めるべきかについて判断する。
【0035】
従って、これまでの手順は簡単かつ決定論的な方法であり、この方法では、一連の経路を拡散データから、方位密度関数を使用することにより抽出する。方位密度関数の実際のソースは重要ではない。多くの場合、方位密度関数はDSIデータに基づいて生成される。このような場合においては、方位密度関数は種々の方向における拡散率を示す。しかしながら、ここに開示する方法は方位密度関数のソースを利用しない。
【0036】
大量のデータを解析する場合、データ内のパターンまたは構造を解明しようとする際に当該データのサブセットを分析することが有用であることが多い。例えば、3次元構造の本質は、当該構造の長さ方向に交差する方向の断面、及び長さ方向断面を分析することにより把握することができる場合が多い。このことは多くの場合、データを「縮小する(reducing)」と表現される。
【0037】
一旦、経路が定義されると、次のステップでは、これらの経路を実際に役に立つように表示する(ステップ20)。このことでは通常、所定の特徴が表示される経路のみを表示する。このプロセスは一般的に、「神経路データを縮小する(reducing tractographic data)」と表現されることになる。
【0038】
例えば、相対的に長い経路は短い経路よりも統計的重要度が高いと考えられる。従って、一表示方法では、異なる長さの経路は異なるカラーで表示される。或いは、特定の長さの範囲を持つ経路のみが表示される。この場合、関連特性は経路長である。
【0039】
図4は表示の一例を示し、この表示では、ウサギの脳から得られた神経路データを縮小して、5mmを超える長さを有する経路のみが表示されるようにする。図5は同じ神経路データを示すが、3mm未満の長さを有する経路のみが表示されるようにデータが縮小されている。
【0040】
別の例では、関連特性は経路の終点である。従って、特定のボリュームまたは注目ボリュームと交差するか、あるいは特定の表面または注目表面と交差する経路のみを表示するように選択することができる。特に有用な特定の事例では、脳の2次元スライスと交差する全ての経路を表示する。例えば、特定の平面で終わる全ての経路を表示することができる。図6は、サルの脳から収集した神経路データを縮小して、選択平面で終わる経路のみが表示されるようにした様子を示している。
【0041】
スライスを選択して神経路データを表示するこのような機能を備えるということは、3次元ボリュームデータをスライスごとに完全に調査することができ、従って検出されるコヒーレンスを見落とす確率を低くすることができる。
【0042】
神経路データを縮小するために使用される他の例示としての特性として、経路が平面、表面、またはボリュームで終わる、或いは経路が平面、表面、またはボリュームと交差する形態を挙げることができる。更に別の特性として、経路が交差する対象となる物によって変わるのではなく、経路の形状によって変わる特性が挙げられる。例えば、上に既に説明した経路の長さだけでなく、経路の曲率及び経路のねじれを挙げることができる。
【0043】
上述した特性は論理演算子によって合成することができる。例えば、特定の長さを有し、かつ特定のボリュームを通過する全ての経路を表示するように選択を行なうことができる。
【0044】
神経路データの内、或るスライスに関連する部分のみが表示されている場合には、MRIデータを、当該スライスに関してか、または他のスライスに関して、3次元画像ボリューム内の陰影面としてレンダリングすると有効である。これにより、表示データに関する解剖学的構成または他の構成を提供することができる。
【0045】
皮質から皮質に至る経路を可視化するために特に有用な別の表示方法では、経路上の3つのポイントを選択し、そして円をレンダリングする。これにより、表示を簡易化することができる。
【0046】
高方向分解能MRIにより生成される神経路データは、T1,T2,MT,または他のケミカルシフトのような他のコントラスト機構を使用して得られるデータと合成することができる。このことは、例えば高分解能拡散MRIを適切な重み付けを施して使用するか、あるいは複数の高分解能分析の結果を可変重み付けを施して取得し、そして補助パラメータの方位分解画像を明示することにより、暗黙的に行なうことができる。このような場合においては、補助パラメータは各経路に明示的に関連付けることができる。経路にグラフィックコードを与えてこの補助パラメータを示すこともできる。
【0047】
神経路データを表示する際、経路をカラーコード化すると有用である場合が多い。例えば、或るカラーを或る経路に、経路の終点の座標に基づいて、または経路上の指定位置の2つのポイントの座標に基づいて割り当てることができる。例えば、カラーベクトル{r,g,b}を空間ベクトル{x,y,z}と関連付けることができ、空間座標{x,y,z}は正規化ベクトルX’−Xの座標であり、X’及びXは経路の終点であるか、あるいは経路の中心の近傍の2つのポイントである。このようなグラフィカルレンダリングは、カラー飽和度、輝度、反射率、透過率、及び厚さのような追加因子によって強化することができる。これらの追加因子を使用して各経路に関連する他のパラメータを示すことができる。
【0048】
経路が均一な初期化を実施することによって生成される場合においては、初期化は経路のどの場所でも実施することができる。従って、長い経路の表現の方が短い経路の表現よりも自ずと過剰になる。その理由は、長い経路は相対的に多くのボクセルを有するので初期化される確率が高くなるからである。
【0049】
この過剰表現は、経路の表現を、これらの経路の長さの逆数に比例するように少なくすることにより補正することができる。別の方法として、この過剰表現は、相対的に長い経路の視認性を低くするか、あるいは表示対象の経路をサブサンプリングすることにより補正することができる。オーバーサンプリングは、複数の経路をセットとして表示して各経路セットを1回だけ初期化することができるようにすることにより、行なわなくて済むようにすることができる。このような経路セットは多くの2次元平面だけでなく、灰白質界面を含む。
【0050】
本方法について、脳内の神経線維経路をマッピングすることに関連する形で説明してきた。しかしながら、本方法は実際には、神経組織を撮像するための極めて新規な手法である。従って、本方法を使用してどのような構造の神経組織の表示も強化することができ、あるいは神経組織の表示をいずれのアプリケーションと関連させる形でも強化することができる。例えば、本明細書に記載する方法を使用して、外科手術を予定している場合に手術野における重要な神経線維構造を決定するか、あるいは神経線維侵入及び検査による腫瘍の転移を調べることができる。本方法は、MS(多発性硬化:multiple sclerosis)症、外傷、または1次または2次神経線維変性のような神経線維症の診断または治療と関連させながら使用することもできる。
【0051】
本方法を使用して、多種多様な他の解剖学的構造から得られる神経路データを可視化することもできる。例えば、図7〜9は、牛の舌、食道、及び心臓から得られる神経路データをそれぞれ示している。
【0052】
本明細書に記載する方法は更に、髄鞘形成、皮質形成異常、及び神経血管障害を含む神経発生の観察に適用することができる。神経精神医学に適用する、例えば失読症、及び統合失調症における経路固有の異常の特定、特に前頭前野からでる神経線維の解析に適用することもできる。
【0053】
本明細書に記載する方法は、構造上の結合性の研究、fMRIとの相関、及びMEG(脳血管造影法(myoencephalography))、特に機能的結合性の研究にも適用することができる。
【0054】
更に、本明細書に記載する方法は、皮質の研究、例えば結合にクラスターが形成されることによる皮質の局在を含む灰白質における局在の研究に適用することができる。
本発明及び本発明の好適な実施形態についてこれまで記載してきたが、ここに新規に請求し、かつ特許証によって権利が確保されるべき事項は以下の特許請求の範囲の通りである。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】qボール法を利用するMRI及びDSIにより、拡散データに基づいて取得される経路を比較している。
【図2】拡散データを表示する方法のフローチャートである。
【図3】脳の或る部分の従来の解剖学的な図を、同じ部分に関連する拡散データと比較している。
【図4】選択長を有する経路を示す画像である。
【図5】選択長を有する経路を示す画像である。
【図6】特定のスライスで終わる経路のみを示す画像である。
【図7】牛の舌の中の経路を示す画像である。
【図8】牛の食道の中の経路を示す画像である。
【図9】牛の心臓の中の経路を示す画像である。
【図10】経路を生成する手順のフローチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
拡散データの表示を行なうためにソフトウェアをコード化して記録したコンピュータ読み取り可能な媒体であって、前記ソフトウェアは
拡散データに関連する方位密度関数を取得するための命令と、
少なくとも一つの経路に位置する第1ボクセルに関連する方位密度関数から、第1方位ベクトルを取得するための命令と、
第2ボクセルを前記第1方位ベクトルに基づいて特定するための命令と、
前記第2ボクセルに関連する一連の方位ベクトルから第2方位ベクトルを選択するための命令と、
前記第1方位ベクトルと前記第2方位ベクトルとの関係に基づいて、経路のセクションを前記第1方位ベクトル及び前記第2方位ベクトルによって定義されるパスに沿って生成すべきかどうかについて判断するための命令とを含む、コンピュータ読み取り可能な媒体。
【請求項2】
前記ソフトウェアは、前記第1方位ベクトルと前記第2方位ベクトルとの関係が、経路を継続するためには不整合が生じると判断されると経路を終了する命令を更に含む、請求項1記載のコンピュータ読み取り可能な媒体。
【請求項3】
前記ソフトウェアは、経路セクションを前記第1方位ベクトル及び前記第2方位ベクトルによって定義されるパスに沿って定義する命令を更に含む、請求項1記載のコンピュータ読み取り可能な媒体。
【請求項4】
前記ソフトウェアは、前記関係を選択することにより前記第1方位ベクトル及び前記第2方位ベクトルの方向の差を求め、方向の差の閾値を定義して、差が前記閾値を超える場合に経路を終了するようにする命令を更に含む、請求項1記載のコンピュータ読み取り可能な媒体。
【請求項5】
前記第2方位ベクトルを選択する命令は、前記第2ボクセルに関連する一連の方位ベクトルから、前記第1方位ベクトルと平行度が最も高いベクトルを選択する命令を含む、請求項1記載のコンピュータ読み取り可能な媒体。
【請求項6】
拡散データの表示を行なうためにソフトウェアをコード化して記録したコンピュータ読み取り可能な媒体であって、前記ソフトウェアは、
拡散データのボクセル内コヒーレンスを定義するための命令と、
拡散データのボクセル間コヒーレンスを定義するための命令と、
前記ボクセル間コヒーレンス及び前記ボクセル内コヒーレンスに基づいて、複数の経路を定義するための命令と、
選択された特性を有する経路のみを表示するための命令とを含む、コンピュータ読み取り可能な媒体。
【請求項7】
前記ソフトウェアは、経路長に関連付けられる特性を選択する命令を更に含む、請求項6記載のコンピュータ読み取り可能な媒体。
【請求項8】
選択された特性を有する経路のみを表示する命令は、選択されたボリュームと接触する経路のみを表示する命令を含む、請求項6記載のコンピュータ読み取り可能な媒体。
【請求項9】
選択された特性を有する経路のみを表示する命令は、選択されたスライスと交差する経路のみを表示する命令を含む、請求項6記載のコンピュータ読み取り可能な媒体。
【請求項10】
選択された特性を有する経路のみを表示する命令は、選択されたスライスで終了する経路のみを表示する命令を含む、請求項6記載のコンピュータ読み取り可能な媒体。
【請求項11】
選択された特性を有する経路のみを表示する命令は、経路の特性に対応する表示プロパティを経路に割り当てる命令を含む、請求項6記載のコンピュータ読み取り可能な媒体。
【請求項12】
前記ソフトウェアは、カラーとなるような表示プロパティを選択する命令を含む、請求項11記載のコンピュータ読み取り可能な媒体。
【請求項13】
前記ソフトウェアは、経路の終点に応じたものとなるような前記表示プロパティを選択する命令を含む、請求項11記載のコンピュータ読み取り可能な媒体。
【請求項14】
経路長に応じたものとなるような前記表示プロパティを選択する、請求項11記載のコンピュータ読み取り可能な媒体。
【請求項15】
拡散データを表示する方法であって、
拡散データに関連する方位密度関数を取得すること、
少なくとも一つの経路に位置する第1ボクセルに関連する方位密度関数から、第1方位ベクトルを取得すること、
第2ボクセルを前記第1方位ベクトルに基づいて特定すること、
前記第2ボクセルに関連する一連の方位ベクトルから第2方位ベクトルを選択すること、
前記第1方位ベクトルと前記第2方位ベクトルとの関係に基づいて、経路のセクションを前記第1方位ベクトル及び前記第2方位ベクトルによって定義されるパスに沿って生成すべきかどうかについて判断すること、を備える方法。
【請求項16】
前記第1方位ベクトルと前記第2方位ベクトルとの関係が、経路を継続するためには不整合が生じる場合に経路を終了することを更に備える、請求項15記載の方法。
【請求項17】
経路セクションを前記第1方位ベクトル及び前記第2方位ベクトルによって定義されるパスに沿って定義することを更に備える、請求項15記載の方法。
【請求項18】
前記関係を選択することにより前記第1方位ベクトル及び前記第2方位ベクトルの方向の差を求め、方向の差の閾値を定義して、差が前記閾値を超える場合に経路を終了することを更に備える、請求項15記載の方法。
【請求項19】
前記第2方位ベクトルを選択することは、前記第2ボクセルに関連する一連の方位ベクトルから、前記第1方位ベクトルと平行度が最も高いベクトルを選択することを含む、請求項15記載の方法。
【請求項20】
拡散データを表示する方法であって、
拡散データのボクセル内コヒーレンスを定義すること、
拡散データのボクセル間コヒーレンスを定義すること、
前記ボクセル間コヒーレンス及び前記ボクセル内コヒーレンスに基づいて、複数の経路を定義すること、
選択された特性を有する経路のみを表示すること、を備える方法。
【請求項21】
経路長に関連付けられる特性を選択することを更に備える、請求項20記載の方法。
【請求項22】
前記選択された特性を有する経路のみを表示することは、選択されたボリュームと接触する経路のみを表示することを含む、請求項20記載の方法。
【請求項23】
前記選択された特性を有する経路のみを表示することは、選択されたスライスと交差する経路のみを表示することを含む、請求項20記載の方法。
【請求項24】
前記選択された特性を有する経路のみを表示することは、選択されたスライスで終了する経路のみを表示することを含む、請求項20記載の方法。
【請求項25】
前記選択された特性を有する経路のみを表示することは、経路の特性に対応する表示プロパティを経路に割り当てることを含む、請求項20記載の方法。
【請求項26】
カラーとなるような表示プロパティを選択することを更に備える、請求項25記載の方法。
【請求項27】
経路の終点に応じたものとなるような表示プロパティを選択することを更に備える、請求項25記載の方法。
【請求項28】
経路長に応じたものとなるような表示プロパティを選択することを更に備える、請求項25記載の方法。
【請求項29】
磁気共鳴撮像システムであって、
磁界発生源と、
前記磁界発生源の作動に応答して生成される電磁放射線を検出する検出サブシステムと、
前記磁界発生源及び前記検出サブシステムの動作を制御するコントローラと、
拡散データを前記検出サブシステムが供給するデータに基づいて生成する処理サブシステムとを備え、前記処理サブシステムは、
拡散データに関連する方位密度関数を取得し、
少なくとも一つの経路に位置する第1ボクセルに関連する方位密度関数から、第1方位ベクトルを取得し、
第2ボクセルを前記第1方位ベクトルに基づいて特定し、
前記第2ボクセルに関連する一連の方位ベクトルから第2方位ベクトルを選択し、
前記第1方位ベクトルと前記第2方位ベクトルとの関係に基づいて、経路のセクションを前記第1方位ベクトル及び前記第2方位ベクトルによって定義されるパスに沿って生成すべきかどうかについて判断するように構成される、磁気共鳴撮像システム。
【請求項30】
前記処理サブシステムは、前記第1方位ベクトルと前記第2方位ベクトルとの関係が、経路を継続するためには不整合が生じる場合に経路を終了するように更に構成される、請求項29記載のシステム。
【請求項31】
前記処理サブシステムは、経路セクションを前記第1方位ベクトル及び前記第2方位ベクトルによって定義されるパスに沿って定義するように更に構成される、請求項29記載のシステム。
【請求項32】
前記処理サブシステムは、
前記関係を選択して、前記関係に前記第1方位ベクトル及び前記第2方位ベクトルの方向の差を取り込み、
方向の差の閾値を定義して、差が前記閾値を超える場合に経路を終了するように更に構成される、請求項29記載のシステム。
【請求項33】
前記処理サブシステムは、前記第2ボクセルに関連する一連の方位ベクトルから、前記第1方位ベクトルと平行度が最も高いベクトルを少なくとも選択することにより前記第2方位ベクトルを選択するように構成される、請求項29記載のシステム。
【請求項34】
磁気共鳴撮像システムであって、
磁界発生源と、
前記磁界発生源の作動に応答して生成される電磁放射線を検出する検出サブシステムと、
前記磁界発生源及び前記検出サブシステムの動作を制御するコントローラと、
拡散データを検出サブシステムが供給するデータに基づいて生成する処理サブシステムとを備え、前記処理サブシステムは、
拡散データのボクセル内コヒーレンスを定義し、
拡散データのボクセル間コヒーレンスを定義し、
前記ボクセル間コヒーレンス及び前記ボクセル内コヒーレンスに基づいて、複数の経路を定義し、
選択された特性を有する経路のみを表示するように構成される、磁気共鳴撮像システム。
【請求項35】
前記処理サブシステムは、経路長に関連付けられる特性を選択するように更に構成される、請求項34記載のシステム。
【請求項36】
前記処理サブシステムは、選択されたボリュームと接触する経路のみを表示するように構成される、請求項34記載のシステム。
【請求項37】
前記処理サブシステムは、選択されたスライスと交差する経路のみを表示するように構成される、請求項34記載のシステム。
【請求項38】
前記処理サブシステムは、選択されたスライスで終了する経路のみを表示するように構成される、請求項34記載のシステム。
【請求項39】
前記処理サブシステムは、経路に割り当てられ、該経路の特性に対応する表示プロパティを有する経路のみを表示するように構成される、請求項34記載のシステム。
【請求項40】
前記処理サブシステムは、カラーとなるような表示プロパティを選択するように構成される、請求項39記載のシステム。
【請求項41】
前記処理サブシステムは、経路の終点に応じたものとなるような表示プロパティを選択するように構成される、請求項39記載のシステム。
【請求項42】
前記処理サブシステムは、経路長に応じたものとなるような表示プロパティを選択するように構成される、請求項39記載のシステム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公表番号】特表2008−537688(P2008−537688A)
【公表日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−500978(P2008−500978)
【出願日】平成18年3月10日(2006.3.10)
【国際出願番号】PCT/US2006/008665
【国際公開番号】WO2006/099179
【国際公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【出願人】(592017633)ザ ジェネラル ホスピタル コーポレイション (177)
【Fターム(参考)】