高力ボルトによる摩擦接合構造及び構造物耐震補強方法
【課題】構造物の組立柱や梁等を構成する鋼材に補強用部材を無溶接でかつ孔開けなしで固定できる高力ボルトによる摩擦接合構造及びこの摩擦接合構造を用いた構造物耐震補強方法を提供する。
【解決手段】この高力ボルトによる摩擦接合構造は、構造物の鋼材LCが第1添板11と第2添板12とで挟み込まれ、第1添板と第2添板とが鋼材の端部Sから突き出た突き出し部を有し、突き出し部において第1添板と第2添板との間にスペーサ13が配置されかつ第1添板と第2添板とスペーサとがそれぞれボルト孔16を有し、突き出し部でボルト孔に通された高力ボルト14により第1添板と第2添板とがスペーサを挟んで締め付けられることで、鋼材と第1及び第2添板とが摩擦接合するものである。
【解決手段】この高力ボルトによる摩擦接合構造は、構造物の鋼材LCが第1添板11と第2添板12とで挟み込まれ、第1添板と第2添板とが鋼材の端部Sから突き出た突き出し部を有し、突き出し部において第1添板と第2添板との間にスペーサ13が配置されかつ第1添板と第2添板とスペーサとがそれぞれボルト孔16を有し、突き出し部でボルト孔に通された高力ボルト14により第1添板と第2添板とがスペーサを挟んで締め付けられることで、鋼材と第1及び第2添板とが摩擦接合するものである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物の鋼材に方杖や火打ち等の補強部材を接合する場合等に適用して好ましい高力ボルトによる摩擦接合構造及び構造物耐震補強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、各種建築物に関して耐震補強がなされており、この耐震補強は、既存の建築物の組立柱や梁を構成する鋼材に方杖や火打ち等の補強部材を接合することで行われている。図12(a)にトラス梁の鋼構造についての従来の一般的な溶接による補強構造を、図12(b)に同じくボルトによる補強構造をそれぞれ示す。
【0003】
図12(a)の溶接による補強構造によれば、方杖用ガセット101をトラス梁の下弦材103に溶接部102で溶接により接合する。下弦材103には束用ガセット105がリベット104で取り付ける。方杖用ガセット101には補強部材として方杖が取り付けられる。
【0004】
図12(b)のボルトによる補強構造によれば、方杖用ガセット101をトラス梁の下弦材103に高力ボルト106により取り付ける。すなわち、下弦材103にボルト孔103aを開けてから上側添板107を介して下弦材103を高力ボルト106とナット108とで締め付けることで2面せん断摩擦接合としている。
【0005】
また、下記特許文献1は、接合部に摩擦面増設用部材を配設することで滑り耐力を向上させた高力ボルト摩擦接合部を提案する。また、下記特許文献2は、水平材と鉛直材とで囲んで形成される枠組にブレースが組み込まれた鉄骨フレームを既存建物に取り付けることにより、耐震補強できるようにした鉄骨フレーム耐震補強構造を提案する。
【特許文献1】特開2002−180555号公報
【特許文献2】特開2004−324322号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来の各構造において組立柱や梁を構成している鋼材は、4.5mm〜6.0mmと板厚が比較的薄いため、図12(a)のような溶接による補強方法では溶接熱による膨張で変形し易く、場合によっては熱で焼切るおそれもある。さらに、製油、製紙、印刷および化学プラント工場等では、引火し易い物質が身近に存在するため、溶接による補強は困難であることが多い。
【0007】
また、組立柱や梁を構成している鋼材は断面サイズが小さく、図12(b)や特許文献1のように、一般的な高力ボルト摩擦接合を採用しようとすると、ボルト孔103aによる断面欠損が大きいばかりでなく、ボルト孔103aの開け加工自体が困難となる。また、使用可能なボルト径に限界と小径ボルトの本数増加に伴い、補強箇所に納まらず、耐震性能を充分に向上させることができない。
【0008】
本発明は、上述のような従来技術の問題に鑑み、構造物の組立柱や梁等を構成する鋼材に補強用部材を無溶接でかつ孔開けなしで固定できる高力ボルトによる摩擦接合構造及びこの摩擦接合構造を用いた構造物耐震補強方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本実施形態の高力ボルトによる摩擦接合構造は、構造物の鋼材が第1添板と第2添板とで挟み込まれ、前記第1添板と前記第2添板とが前記鋼材の端部から突き出た突き出し部を有し、前記突き出し部において前記第1添板と前記第2添板との間にスペーサが配置されかつ前記第1添板と前記第2添板と前記スペーサとがそれぞれボルト孔を有し、前記突き出し部で前記ボルト孔に通された高力ボルトにより前記第1添板と前記第2添板とが前記スペーサを挟んで締め付けられることで、前記鋼材と前記第1及び第2添板とが摩擦接合することを特徴とする。
【0010】
この高力ボルトによる摩擦接合構造によれば、鋼材を第1添板と第2添板とで挟み込んで、鋼材の端部から突き出た第1添板と第2添板の突き出し部においてスペーサを配置して高力ボルトにより第1添板と第2添板との間を締め付けることで鋼材と第1及び第2添板とが摩擦接合し、溶接を用いずかつ鋼材側にボルト孔を設けずに鋼材と第1及び第2添板とを接合させることができる。
【0011】
鋼材と第1及び第2添板との間の摩擦面の摩擦係数と高力ボルトの導入軸力とによりすべり抵抗を向上させ、第2添板に取り付けた補強用部材から伝達される水平力を鋼材に伝達させることができ、また、引張力を高力ボルトの引張抵抗を介して第1添板に伝達させることができる。これらの組合せにより上述の高力ボルトによる摩擦接合構造において摩擦接合を実現できる。
【0012】
上記高力ボルトによる摩擦接合構造において前記鋼材側の耐力が前記第1添板側の耐力よりも大きい場合に前記第1添板に変形防止材を設けることで、第1添板の変形を防止することができる。
【0013】
また、上記摩擦接合構造においては前記スペーサの板厚の管理が重要であり、前記スペーサの板厚が前記鋼材の板厚に対し0.2〜0.8mmだけ薄くすることが好ましい。
【0014】
また、前記第2添板にその平面方向に延びる補強部材が取り付けられる場合に前記第2添板が前記平面方向に広く構成されることが好ましい。例えば、トラス梁は梁部材の軸方向の剛性が低いことから、横補強部材として火打ち材を取り付けて耐震性能を向上させる場合、第2添板を広く構成することで火打ち材取付け用ガセットプレートとして併用することができる。
【0015】
本実施形態の構造物耐震補強方法は、上述の高力ボルトによる摩擦接合構造を用い、補強用部材が取り付けられた第2添板を耐震補強対象の構造物の鋼材にセットし、スペーサを前記第2添板のボルト孔と合致するようにセットし、第1添板をそのボルト孔が前記スペーサ及び前記第2添板のボルト孔と合致するようにセットし、前記ボルト孔に高力ボルトを通してナットを軽く締付けた状態で耐震補強部材を前記補強用部材に仮留めし、前記高力ボルトの本締めを行い、前記耐震補強部材と前記補強用部材とを高力ボルトによる本締めで接合するものである。
【0016】
この構造物耐震補強方法によれば、ガセットプレート等の補強用部材を取り付けた第2添板を構造物の組立柱や梁等を構成する鋼材に無溶接でかつ孔開けなしで固定することができ、補強用部材と耐震補強部材とを接合することで構造物の耐震性能を向上させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の高力ボルトによる摩擦接合構造によれば、構造物の組立柱や梁等を構成する鋼材に補強用部材を無溶接でかつ孔開けなしで固定できる。この摩擦接合構造を用いた構造物耐震補強方法によれば、構造物の耐震性能を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための最良の形態について図面を用いて説明する。図1は本実施の形態による高力ボルトによる摩擦接合構造を適用して補強部材を配置したトラス構造を示す図である。図2は図1と同じくラーメン構造を示す図である。
【0019】
本実施の形態による高力ボルトによる摩擦接合構造は、図1の工場建家のようなトラス構造や図2の事務所のようなラーメン構造の鋼構造物の耐震補強において、各構造の鋼材に方杖や火打ち等の補強部材Kを接合する場合に用いるものであり、図1のようにトラス梁の下弦材LCと柱CCとの間に補強部材Kとして方杖が接合されている。
【0020】
図3は本実施の形態において図1のトラス梁の下弦材に耐震補強のため方杖を接合した摩擦接合部を示す要部側面図である。図4は図3の摩擦接合部AをX方向からみた要部断面図(a)及びY方向からみた要部平面図(b)である。
【0021】
図3のように、図1のトラス梁において下弦材LCの上部には束用ガセットPGが取り付けられ、束用ガセットPGには束材P及びラチス材Lが接合されている。下弦材LCの下部には方杖用ガセットGが接合され、方杖用ガセットGに耐震補強部材として方杖Kが接合されている。方杖用ガセットGは次のような高力ボルトによる摩擦接合構造により下弦材LCに接合される。
【0022】
すなわち、図4(a)のように、下弦材LCの図の左右の上面21,21には一対の第1添板11,11が配置され、下弦材LCの下面22には第2添板12が配置される。第2添板12の下面には方杖用ガセットGが溶接部Wで接合されている。
【0023】
図4(a)、(b)のように、上側の第1添板11,11及び下側の第2添板12は、下弦材LCの上面21,21及び下面22の端部Sから図の左右にはみ出るように突き出ており、その突き出た部分において第1添板11,11と第2添板12との間にスペーサ13,13が配置されており、第1添板11,11と第2添板12とスペーサ13,13とにはボルト孔16が貫通して設けられている。ボルト孔16は、図4(b)のように、下弦材LCの端部Sに沿って左右にそれぞれ複数個設けられる。
【0024】
第1添板11,11及び第2添板12が下弦材LCの上面21,21と下面22との間を挟み込んで、第1添板11,11及び第2添板12の突き出た部分で第1添板11,11と第2添板12との間にスペーサ13,13を配置した状態で、ボルト孔16に高力ボルト14を通してナット15に螺合させて締め付けることで、摩擦接合部Aにおいて第1添板11,11及び第2添板12を下弦材LCに接合することができる。なお、下弦材LCに束用ガセットPGがリベットRにより接合されている。
【0025】
図5は図3の下弦材に接合した方杖(耐震補強部材)に加わる軸力による下弦材に対する水平軸方向力及び鉛直軸方向力を示す図3と同様の図である。
【0026】
図5のように、下弦材LCに方杖用ガセットGを介して角度θで接合した方杖(耐震補強部材)Kに軸力Nyが加わり、方杖(耐震補強部材)Kから方杖用ガセットGを介して伝達されると、下弦材LCには図4(a)、(b)の摩擦接合部Aを介して水平軸方向力hNyと鉛直軸方向力vNyとが加わる。
【0027】
図4の摩擦接合部Aにおいて、下弦材LCの上面21,21と下面22と第1添板11,第2添板12とにおける摩擦面の摩擦係数と高力ボルト14の導入軸力によりすべり抵抗を向上させることができ、水平軸方向力hNyを下弦材LCに伝達させることができる。一方、鉛直軸方向力vNyを高力ボルト14の引張抵抗を介して第1添板11に伝達させることができる。これらの組合せにより、摩擦接合部Aにおいて摩擦接合を実現させることができる。
【0028】
以上のように、図3,図4の摩擦接合部Aにより下弦材LC等の鋼材に方杖用ガセットG等の補強用部材を無溶接でかつ孔開けなしで固定でき、トラス梁の下弦材LCと耐震補強部材Kとを摩擦接合部Aで接合することができる。このため、引火し易い物質が身近に存在し溶接が困難である製油、製紙、印刷および化学プラント工場等においてもその建物鋼構造物に耐震補強を安全に施すことができる。なお、第2添板12と方杖用ガセットGとは溶接により接合されているが、この溶接は、外部の鉄骨加工工場で別途行われるので、問題はない。
【0029】
図6は図3,図4の摩擦接合部における変形機構を説明するための図であり、下弦材のせん断耐力が第1添板の曲げ耐力よりも大きい場合に第1添板が局部変形をする様子を模式的に示す図(a)及び下弦材のせん断耐力が第1添板の曲げ耐力よりも小さい場合に下弦材が局部変形をする様子を模式的に示す図(b)である。
【0030】
次に、図3の下弦材LCに設けた図4(a)、(b)の摩擦接合部Aにおいて、下弦材LCの上側の第1添板11の曲げ強度が小さい場合及び大きい場合における変形機構について図6を参照して説明する。
【0031】
図6は図3,図4(a)、(b)の摩擦接合部における変形機構を説明するための図であり、下弦材のせん断耐力が上側の第1添板の曲げ耐力よりも大きい場合に第1添板が局部変形をする様子を模式的に示す図(a)及び下弦材のせん断耐力が第1添板の曲げ耐力よりも小さい場合に下弦材が局部変形をする様子を模式的に示す図(b)である。
【0032】
図6(b)のように、上側の第1添板11の曲げ剛性が高く、トラス梁の下弦材LCのせん断耐力が小さい場合、下弦材LCが降伏することにより、図4(a)、(b)の摩擦接合部Aの接合耐力が保持される。しかし、図6(a)のように、上側の第1添板11の曲げ剛性が低く、トラス梁の下弦材LCのせん断耐力が大きい場合、上側の第1添板11が局部変形を起こすことにより、図4(a)、(b)の摩擦接合部Aの摩擦面の摩擦係数が低下し、摩擦接合部Aの接合耐力も低下する可能性があり、十分な検討及び対策を講ずる必要がある。
【0033】
そこで、図6(a)の場合には、図7(a)、(b)のように、図4(a)、(b)の上側の第1添板11の上面に変形防止板17,17を別に設けることで、第1添板11の図6(a)のような急激な局部変形を防止するとともに、十分な接合耐力を確保することができる。なお、図7(a)、(b)の変形防止板17は、各高力ボルト14毎に分割して配置したが、分割せずに一体にして配置してもよい。
【0034】
次に、図4,図7のスペーサの好ましい形状について図8を参照して説明する。図8は図4,図7のスペーサの第1例を示す平面図(a)及び第2例を示す平面図(b)である。
【0035】
図8(a)、(b)のスペーサ13A,13Bは、平板状になっており、複数のボルト孔16A,16Bをそれぞれ端部に片寄って(図4,図7の下弦材LCの端部S側に)形成している。スペーサ13Aは各ボルト孔16Aの端から2.0mmを残し、スペーサの脱落を防止するようになっている。また、スペーサ13Bは、ボルト孔16Bの半径+2.0mmの範囲を直線的に切出した後施工タイプである。
【0036】
図4,図7の摩擦接合部Aにおいては、その摩擦面における摩擦係数を向上させるために、図8(a)、(b)のようなスペーサ13A,13Bを第1添板11と第2添板12との間に挟み、高力ボルト14で締付けることにより、第1添板11と第2添板12をトラス梁の下弦材LCやH形鋼フランジと摩擦力にて一体化させる。このため、スペーサ13A,13Bの板厚tは、トラス梁の下弦材やH形鋼フランジの板厚t0よりも薄いことが望ましく、具体的には、0.2〜0.8mm程度薄いことが好ましい。すなわち、スペーサ13A,13Bの板厚tとトラス梁の下弦材やH形鋼フランジの板厚t0との板厚差(=t0−t)が0.2〜0.8mmの範囲内に収まるようにスペーサ13A,13Bを削るか、異なる板厚の鋼板を組合せることにより、トラス梁の下弦材やH形鋼フランジを確実に挟むことが可能となる。
【0037】
次に、上述の摩擦接合部において下側の第2添板12を火打ち材取付け用ガセットプレートとして併用するようにした例について図9を参照して説明する。図9は、図4の下側の第2添板12を火打ち材取付け用ガセットプレートとして併用するようにしたタイプを説明するための図であり、図4と同様の要部断面図(a)及び要部平面図(b)である。
【0038】
トラス梁は梁部材の弱軸方向の剛性が低いことから、横補強部材を取り付け、耐震性能を向上させるのが一般的である。この横補強部材として火打ち材を取付ける際には、図9(a)、(b)のように下側の第2添板12を左右に広げて構成することにより、火打ち材取付け用ガセットプレートとして併用することができる。すなわち、第2添板12を左右に広げたガセット部18に火打ち材CBを高力ボルト14Aとナット15Aとにより接合する。
【0039】
また、下側の第2添板12の強度が低い場合は、図10(a)、(b)のように、スチフナー等の補強部材19を第2添板12の下面側に複数設けることで第2添板12を補強する。
【0040】
次に、本実施形態の鋼構造物耐震補強方法の各工程について図11を参照して説明する。図11は本実施形態の鋼構造物耐震補強方法の各工程(a)乃至(h)を説明するための要部斜視図である。
【0041】
本実施形態の鋼構造物耐震補強方法は、図4(a)、(b)の摩擦接合部Aにより下弦材とガセットプレートとを接合するものである。
【0042】
図11(a)に示すように、一対の上側の第1添板11と、方杖用ガセットGが予め取り付けられた下側の第2添板12と、一対のスペーサ13と、を用意する。
【0043】
次に、図11(b)のようにトラス梁の下弦材LC(またはH形鋼フランジ)の所定の位置に第2添板12をセットした後、図11(c)のようにスペーサ13を第2添板12のボルト孔と合致するようにセットする。
【0044】
次に、図11(d)のように、第1添板11のボルト孔が他の構成部材のボルト孔と合致するように第1添板11をセットする。
【0045】
次に、図11(e)のように各ボルト孔が合致していることを確認して高力ボルト14,ワッシャ15c、ナット15を用意し、この状態を維持しながら図11(f)のように、高力ボルト14をボルト孔に通してから、図11(g)のように、ナット15を軽く締付けた状態にしてから、方杖や火打ち材等の耐震補強部材K(図1)をガセットGに仮留めする。
【0046】
全ての部材の仮留めが終了し、各々の部材の正確な位置が決まった段階で図11(h)のように各高力ボルト14の本締めを行う。
【0047】
なお、方杖や火打ち材等の耐震補強部材K(図1)については、図11(g)の段階で仮留めし、図11(h)の高力ボルトの本締めが完了した後、耐震補強部材Kの高力ボルトの本締めを行い、耐震補強工法が完了する。また、図1の柱CC側に取付ける場合も同じ工程を経る。
【0048】
以上のように、本実施の形態の鋼構造物耐震補強方法によれば、ガセットプレート等の補強用部材を取り付けた第2添板を構造物の組立柱や梁等を構成する鋼材である下弦材やH形鋼フランジに無溶接でかつ孔開けなしで固定することができ、補強用部材と耐震補強部材とを接合することで構造物の耐震性能を向上させることができる。
【0049】
以上のように本発明を実施するための最良の形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で各種の変形が可能である。例えば、本実施の形態による高力ボルトによる摩擦接合構造は、図1,図2のような構造に限定されず、耐震補強が必要な鉄骨部材に適用できることはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本実施の形態による高力ボルトによる摩擦接合構造を適用して補強部材を配置したトラス構造を示す図である。
【図2】図1と同じくラーメン構造を示す図である。
【図3】本実施の形態において図1のトラス梁の下弦材に耐震補強のため方杖を接合した摩擦接合部を示す要部側面図である。
【図4】図3の摩擦接合部AをX方向からみた要部断面図(a)及びY方向からみた要部平面図(b)である。
【図5】図3の下弦材に接合した方杖(耐震補強部材)に加わる軸力による下弦材に対する水平軸方向力及び鉛直軸方向力を示す図3と同様の図である。
【図6】図3,図4(a)、(b)の摩擦接合部における変形機構を説明するための図であり、下弦材のせん断耐力が上側の第1添板の曲げ耐力よりも大きい場合に第1添板が局部変形をする様子を模式的に示す図(a)及び下弦材のせん断耐力が第1添板の曲げ耐力よりも小さい場合に下弦材が局部変形をする様子を模式的に示す図(b)である。
【図7】図6(a)のようにトラス梁の下弦材LCのせん断耐力が第1添板11の曲げ耐力よりも大きい場合に適用して好ましい図4の第1添板の曲げ変形を補強するタイプを説明するための図であり、図4と同様の要部断面図(a)及び要部平面図(b)である。
【図8】図4,図7のスペーサの第1例を示す平面図(a)及び第2例を示す平面図(b)である。
【図9】図4の下側の第2添板12を火打ち材取付け用ガセットプレートとして併用するようにしたタイプを説明するための図であり、図4と同様の要部断面図(a)及び要部平面図(b)である。
【図10】図9の第2添板12を補強するために補強部材19を設けたタイプを説明するための図であり、図9と同様の要部断面図(a)及び要部平面図(b)である。
【図11】本実施形態の鋼構造物耐震補強方法の各工程(a)乃至(h)を説明するための要部斜視図である。
【図12】トラス梁の鋼構造についての従来の一般的な溶接による補強例を示す図(a)及び同じくボルトによる補強例を示す図(b)である。
【符号の説明】
【0051】
A 摩擦接合部
11 第1添板
12 第2添板
13,13A,13B スペーサ
14 高力ボルト
15 ナット
16 ボルト孔
17 変形防止板
18 ガセット部
19 補強部材
21 下弦材LCの上面
22 下弦材LCの下面
CB 火打ち材
G 方杖用ガセット、ガセット
K 耐震補強部材、補強部材
LC 下弦材、 鋼材
S 端部
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物の鋼材に方杖や火打ち等の補強部材を接合する場合等に適用して好ましい高力ボルトによる摩擦接合構造及び構造物耐震補強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、各種建築物に関して耐震補強がなされており、この耐震補強は、既存の建築物の組立柱や梁を構成する鋼材に方杖や火打ち等の補強部材を接合することで行われている。図12(a)にトラス梁の鋼構造についての従来の一般的な溶接による補強構造を、図12(b)に同じくボルトによる補強構造をそれぞれ示す。
【0003】
図12(a)の溶接による補強構造によれば、方杖用ガセット101をトラス梁の下弦材103に溶接部102で溶接により接合する。下弦材103には束用ガセット105がリベット104で取り付ける。方杖用ガセット101には補強部材として方杖が取り付けられる。
【0004】
図12(b)のボルトによる補強構造によれば、方杖用ガセット101をトラス梁の下弦材103に高力ボルト106により取り付ける。すなわち、下弦材103にボルト孔103aを開けてから上側添板107を介して下弦材103を高力ボルト106とナット108とで締め付けることで2面せん断摩擦接合としている。
【0005】
また、下記特許文献1は、接合部に摩擦面増設用部材を配設することで滑り耐力を向上させた高力ボルト摩擦接合部を提案する。また、下記特許文献2は、水平材と鉛直材とで囲んで形成される枠組にブレースが組み込まれた鉄骨フレームを既存建物に取り付けることにより、耐震補強できるようにした鉄骨フレーム耐震補強構造を提案する。
【特許文献1】特開2002−180555号公報
【特許文献2】特開2004−324322号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来の各構造において組立柱や梁を構成している鋼材は、4.5mm〜6.0mmと板厚が比較的薄いため、図12(a)のような溶接による補強方法では溶接熱による膨張で変形し易く、場合によっては熱で焼切るおそれもある。さらに、製油、製紙、印刷および化学プラント工場等では、引火し易い物質が身近に存在するため、溶接による補強は困難であることが多い。
【0007】
また、組立柱や梁を構成している鋼材は断面サイズが小さく、図12(b)や特許文献1のように、一般的な高力ボルト摩擦接合を採用しようとすると、ボルト孔103aによる断面欠損が大きいばかりでなく、ボルト孔103aの開け加工自体が困難となる。また、使用可能なボルト径に限界と小径ボルトの本数増加に伴い、補強箇所に納まらず、耐震性能を充分に向上させることができない。
【0008】
本発明は、上述のような従来技術の問題に鑑み、構造物の組立柱や梁等を構成する鋼材に補強用部材を無溶接でかつ孔開けなしで固定できる高力ボルトによる摩擦接合構造及びこの摩擦接合構造を用いた構造物耐震補強方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本実施形態の高力ボルトによる摩擦接合構造は、構造物の鋼材が第1添板と第2添板とで挟み込まれ、前記第1添板と前記第2添板とが前記鋼材の端部から突き出た突き出し部を有し、前記突き出し部において前記第1添板と前記第2添板との間にスペーサが配置されかつ前記第1添板と前記第2添板と前記スペーサとがそれぞれボルト孔を有し、前記突き出し部で前記ボルト孔に通された高力ボルトにより前記第1添板と前記第2添板とが前記スペーサを挟んで締め付けられることで、前記鋼材と前記第1及び第2添板とが摩擦接合することを特徴とする。
【0010】
この高力ボルトによる摩擦接合構造によれば、鋼材を第1添板と第2添板とで挟み込んで、鋼材の端部から突き出た第1添板と第2添板の突き出し部においてスペーサを配置して高力ボルトにより第1添板と第2添板との間を締め付けることで鋼材と第1及び第2添板とが摩擦接合し、溶接を用いずかつ鋼材側にボルト孔を設けずに鋼材と第1及び第2添板とを接合させることができる。
【0011】
鋼材と第1及び第2添板との間の摩擦面の摩擦係数と高力ボルトの導入軸力とによりすべり抵抗を向上させ、第2添板に取り付けた補強用部材から伝達される水平力を鋼材に伝達させることができ、また、引張力を高力ボルトの引張抵抗を介して第1添板に伝達させることができる。これらの組合せにより上述の高力ボルトによる摩擦接合構造において摩擦接合を実現できる。
【0012】
上記高力ボルトによる摩擦接合構造において前記鋼材側の耐力が前記第1添板側の耐力よりも大きい場合に前記第1添板に変形防止材を設けることで、第1添板の変形を防止することができる。
【0013】
また、上記摩擦接合構造においては前記スペーサの板厚の管理が重要であり、前記スペーサの板厚が前記鋼材の板厚に対し0.2〜0.8mmだけ薄くすることが好ましい。
【0014】
また、前記第2添板にその平面方向に延びる補強部材が取り付けられる場合に前記第2添板が前記平面方向に広く構成されることが好ましい。例えば、トラス梁は梁部材の軸方向の剛性が低いことから、横補強部材として火打ち材を取り付けて耐震性能を向上させる場合、第2添板を広く構成することで火打ち材取付け用ガセットプレートとして併用することができる。
【0015】
本実施形態の構造物耐震補強方法は、上述の高力ボルトによる摩擦接合構造を用い、補強用部材が取り付けられた第2添板を耐震補強対象の構造物の鋼材にセットし、スペーサを前記第2添板のボルト孔と合致するようにセットし、第1添板をそのボルト孔が前記スペーサ及び前記第2添板のボルト孔と合致するようにセットし、前記ボルト孔に高力ボルトを通してナットを軽く締付けた状態で耐震補強部材を前記補強用部材に仮留めし、前記高力ボルトの本締めを行い、前記耐震補強部材と前記補強用部材とを高力ボルトによる本締めで接合するものである。
【0016】
この構造物耐震補強方法によれば、ガセットプレート等の補強用部材を取り付けた第2添板を構造物の組立柱や梁等を構成する鋼材に無溶接でかつ孔開けなしで固定することができ、補強用部材と耐震補強部材とを接合することで構造物の耐震性能を向上させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の高力ボルトによる摩擦接合構造によれば、構造物の組立柱や梁等を構成する鋼材に補強用部材を無溶接でかつ孔開けなしで固定できる。この摩擦接合構造を用いた構造物耐震補強方法によれば、構造物の耐震性能を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための最良の形態について図面を用いて説明する。図1は本実施の形態による高力ボルトによる摩擦接合構造を適用して補強部材を配置したトラス構造を示す図である。図2は図1と同じくラーメン構造を示す図である。
【0019】
本実施の形態による高力ボルトによる摩擦接合構造は、図1の工場建家のようなトラス構造や図2の事務所のようなラーメン構造の鋼構造物の耐震補強において、各構造の鋼材に方杖や火打ち等の補強部材Kを接合する場合に用いるものであり、図1のようにトラス梁の下弦材LCと柱CCとの間に補強部材Kとして方杖が接合されている。
【0020】
図3は本実施の形態において図1のトラス梁の下弦材に耐震補強のため方杖を接合した摩擦接合部を示す要部側面図である。図4は図3の摩擦接合部AをX方向からみた要部断面図(a)及びY方向からみた要部平面図(b)である。
【0021】
図3のように、図1のトラス梁において下弦材LCの上部には束用ガセットPGが取り付けられ、束用ガセットPGには束材P及びラチス材Lが接合されている。下弦材LCの下部には方杖用ガセットGが接合され、方杖用ガセットGに耐震補強部材として方杖Kが接合されている。方杖用ガセットGは次のような高力ボルトによる摩擦接合構造により下弦材LCに接合される。
【0022】
すなわち、図4(a)のように、下弦材LCの図の左右の上面21,21には一対の第1添板11,11が配置され、下弦材LCの下面22には第2添板12が配置される。第2添板12の下面には方杖用ガセットGが溶接部Wで接合されている。
【0023】
図4(a)、(b)のように、上側の第1添板11,11及び下側の第2添板12は、下弦材LCの上面21,21及び下面22の端部Sから図の左右にはみ出るように突き出ており、その突き出た部分において第1添板11,11と第2添板12との間にスペーサ13,13が配置されており、第1添板11,11と第2添板12とスペーサ13,13とにはボルト孔16が貫通して設けられている。ボルト孔16は、図4(b)のように、下弦材LCの端部Sに沿って左右にそれぞれ複数個設けられる。
【0024】
第1添板11,11及び第2添板12が下弦材LCの上面21,21と下面22との間を挟み込んで、第1添板11,11及び第2添板12の突き出た部分で第1添板11,11と第2添板12との間にスペーサ13,13を配置した状態で、ボルト孔16に高力ボルト14を通してナット15に螺合させて締め付けることで、摩擦接合部Aにおいて第1添板11,11及び第2添板12を下弦材LCに接合することができる。なお、下弦材LCに束用ガセットPGがリベットRにより接合されている。
【0025】
図5は図3の下弦材に接合した方杖(耐震補強部材)に加わる軸力による下弦材に対する水平軸方向力及び鉛直軸方向力を示す図3と同様の図である。
【0026】
図5のように、下弦材LCに方杖用ガセットGを介して角度θで接合した方杖(耐震補強部材)Kに軸力Nyが加わり、方杖(耐震補強部材)Kから方杖用ガセットGを介して伝達されると、下弦材LCには図4(a)、(b)の摩擦接合部Aを介して水平軸方向力hNyと鉛直軸方向力vNyとが加わる。
【0027】
図4の摩擦接合部Aにおいて、下弦材LCの上面21,21と下面22と第1添板11,第2添板12とにおける摩擦面の摩擦係数と高力ボルト14の導入軸力によりすべり抵抗を向上させることができ、水平軸方向力hNyを下弦材LCに伝達させることができる。一方、鉛直軸方向力vNyを高力ボルト14の引張抵抗を介して第1添板11に伝達させることができる。これらの組合せにより、摩擦接合部Aにおいて摩擦接合を実現させることができる。
【0028】
以上のように、図3,図4の摩擦接合部Aにより下弦材LC等の鋼材に方杖用ガセットG等の補強用部材を無溶接でかつ孔開けなしで固定でき、トラス梁の下弦材LCと耐震補強部材Kとを摩擦接合部Aで接合することができる。このため、引火し易い物質が身近に存在し溶接が困難である製油、製紙、印刷および化学プラント工場等においてもその建物鋼構造物に耐震補強を安全に施すことができる。なお、第2添板12と方杖用ガセットGとは溶接により接合されているが、この溶接は、外部の鉄骨加工工場で別途行われるので、問題はない。
【0029】
図6は図3,図4の摩擦接合部における変形機構を説明するための図であり、下弦材のせん断耐力が第1添板の曲げ耐力よりも大きい場合に第1添板が局部変形をする様子を模式的に示す図(a)及び下弦材のせん断耐力が第1添板の曲げ耐力よりも小さい場合に下弦材が局部変形をする様子を模式的に示す図(b)である。
【0030】
次に、図3の下弦材LCに設けた図4(a)、(b)の摩擦接合部Aにおいて、下弦材LCの上側の第1添板11の曲げ強度が小さい場合及び大きい場合における変形機構について図6を参照して説明する。
【0031】
図6は図3,図4(a)、(b)の摩擦接合部における変形機構を説明するための図であり、下弦材のせん断耐力が上側の第1添板の曲げ耐力よりも大きい場合に第1添板が局部変形をする様子を模式的に示す図(a)及び下弦材のせん断耐力が第1添板の曲げ耐力よりも小さい場合に下弦材が局部変形をする様子を模式的に示す図(b)である。
【0032】
図6(b)のように、上側の第1添板11の曲げ剛性が高く、トラス梁の下弦材LCのせん断耐力が小さい場合、下弦材LCが降伏することにより、図4(a)、(b)の摩擦接合部Aの接合耐力が保持される。しかし、図6(a)のように、上側の第1添板11の曲げ剛性が低く、トラス梁の下弦材LCのせん断耐力が大きい場合、上側の第1添板11が局部変形を起こすことにより、図4(a)、(b)の摩擦接合部Aの摩擦面の摩擦係数が低下し、摩擦接合部Aの接合耐力も低下する可能性があり、十分な検討及び対策を講ずる必要がある。
【0033】
そこで、図6(a)の場合には、図7(a)、(b)のように、図4(a)、(b)の上側の第1添板11の上面に変形防止板17,17を別に設けることで、第1添板11の図6(a)のような急激な局部変形を防止するとともに、十分な接合耐力を確保することができる。なお、図7(a)、(b)の変形防止板17は、各高力ボルト14毎に分割して配置したが、分割せずに一体にして配置してもよい。
【0034】
次に、図4,図7のスペーサの好ましい形状について図8を参照して説明する。図8は図4,図7のスペーサの第1例を示す平面図(a)及び第2例を示す平面図(b)である。
【0035】
図8(a)、(b)のスペーサ13A,13Bは、平板状になっており、複数のボルト孔16A,16Bをそれぞれ端部に片寄って(図4,図7の下弦材LCの端部S側に)形成している。スペーサ13Aは各ボルト孔16Aの端から2.0mmを残し、スペーサの脱落を防止するようになっている。また、スペーサ13Bは、ボルト孔16Bの半径+2.0mmの範囲を直線的に切出した後施工タイプである。
【0036】
図4,図7の摩擦接合部Aにおいては、その摩擦面における摩擦係数を向上させるために、図8(a)、(b)のようなスペーサ13A,13Bを第1添板11と第2添板12との間に挟み、高力ボルト14で締付けることにより、第1添板11と第2添板12をトラス梁の下弦材LCやH形鋼フランジと摩擦力にて一体化させる。このため、スペーサ13A,13Bの板厚tは、トラス梁の下弦材やH形鋼フランジの板厚t0よりも薄いことが望ましく、具体的には、0.2〜0.8mm程度薄いことが好ましい。すなわち、スペーサ13A,13Bの板厚tとトラス梁の下弦材やH形鋼フランジの板厚t0との板厚差(=t0−t)が0.2〜0.8mmの範囲内に収まるようにスペーサ13A,13Bを削るか、異なる板厚の鋼板を組合せることにより、トラス梁の下弦材やH形鋼フランジを確実に挟むことが可能となる。
【0037】
次に、上述の摩擦接合部において下側の第2添板12を火打ち材取付け用ガセットプレートとして併用するようにした例について図9を参照して説明する。図9は、図4の下側の第2添板12を火打ち材取付け用ガセットプレートとして併用するようにしたタイプを説明するための図であり、図4と同様の要部断面図(a)及び要部平面図(b)である。
【0038】
トラス梁は梁部材の弱軸方向の剛性が低いことから、横補強部材を取り付け、耐震性能を向上させるのが一般的である。この横補強部材として火打ち材を取付ける際には、図9(a)、(b)のように下側の第2添板12を左右に広げて構成することにより、火打ち材取付け用ガセットプレートとして併用することができる。すなわち、第2添板12を左右に広げたガセット部18に火打ち材CBを高力ボルト14Aとナット15Aとにより接合する。
【0039】
また、下側の第2添板12の強度が低い場合は、図10(a)、(b)のように、スチフナー等の補強部材19を第2添板12の下面側に複数設けることで第2添板12を補強する。
【0040】
次に、本実施形態の鋼構造物耐震補強方法の各工程について図11を参照して説明する。図11は本実施形態の鋼構造物耐震補強方法の各工程(a)乃至(h)を説明するための要部斜視図である。
【0041】
本実施形態の鋼構造物耐震補強方法は、図4(a)、(b)の摩擦接合部Aにより下弦材とガセットプレートとを接合するものである。
【0042】
図11(a)に示すように、一対の上側の第1添板11と、方杖用ガセットGが予め取り付けられた下側の第2添板12と、一対のスペーサ13と、を用意する。
【0043】
次に、図11(b)のようにトラス梁の下弦材LC(またはH形鋼フランジ)の所定の位置に第2添板12をセットした後、図11(c)のようにスペーサ13を第2添板12のボルト孔と合致するようにセットする。
【0044】
次に、図11(d)のように、第1添板11のボルト孔が他の構成部材のボルト孔と合致するように第1添板11をセットする。
【0045】
次に、図11(e)のように各ボルト孔が合致していることを確認して高力ボルト14,ワッシャ15c、ナット15を用意し、この状態を維持しながら図11(f)のように、高力ボルト14をボルト孔に通してから、図11(g)のように、ナット15を軽く締付けた状態にしてから、方杖や火打ち材等の耐震補強部材K(図1)をガセットGに仮留めする。
【0046】
全ての部材の仮留めが終了し、各々の部材の正確な位置が決まった段階で図11(h)のように各高力ボルト14の本締めを行う。
【0047】
なお、方杖や火打ち材等の耐震補強部材K(図1)については、図11(g)の段階で仮留めし、図11(h)の高力ボルトの本締めが完了した後、耐震補強部材Kの高力ボルトの本締めを行い、耐震補強工法が完了する。また、図1の柱CC側に取付ける場合も同じ工程を経る。
【0048】
以上のように、本実施の形態の鋼構造物耐震補強方法によれば、ガセットプレート等の補強用部材を取り付けた第2添板を構造物の組立柱や梁等を構成する鋼材である下弦材やH形鋼フランジに無溶接でかつ孔開けなしで固定することができ、補強用部材と耐震補強部材とを接合することで構造物の耐震性能を向上させることができる。
【0049】
以上のように本発明を実施するための最良の形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で各種の変形が可能である。例えば、本実施の形態による高力ボルトによる摩擦接合構造は、図1,図2のような構造に限定されず、耐震補強が必要な鉄骨部材に適用できることはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本実施の形態による高力ボルトによる摩擦接合構造を適用して補強部材を配置したトラス構造を示す図である。
【図2】図1と同じくラーメン構造を示す図である。
【図3】本実施の形態において図1のトラス梁の下弦材に耐震補強のため方杖を接合した摩擦接合部を示す要部側面図である。
【図4】図3の摩擦接合部AをX方向からみた要部断面図(a)及びY方向からみた要部平面図(b)である。
【図5】図3の下弦材に接合した方杖(耐震補強部材)に加わる軸力による下弦材に対する水平軸方向力及び鉛直軸方向力を示す図3と同様の図である。
【図6】図3,図4(a)、(b)の摩擦接合部における変形機構を説明するための図であり、下弦材のせん断耐力が上側の第1添板の曲げ耐力よりも大きい場合に第1添板が局部変形をする様子を模式的に示す図(a)及び下弦材のせん断耐力が第1添板の曲げ耐力よりも小さい場合に下弦材が局部変形をする様子を模式的に示す図(b)である。
【図7】図6(a)のようにトラス梁の下弦材LCのせん断耐力が第1添板11の曲げ耐力よりも大きい場合に適用して好ましい図4の第1添板の曲げ変形を補強するタイプを説明するための図であり、図4と同様の要部断面図(a)及び要部平面図(b)である。
【図8】図4,図7のスペーサの第1例を示す平面図(a)及び第2例を示す平面図(b)である。
【図9】図4の下側の第2添板12を火打ち材取付け用ガセットプレートとして併用するようにしたタイプを説明するための図であり、図4と同様の要部断面図(a)及び要部平面図(b)である。
【図10】図9の第2添板12を補強するために補強部材19を設けたタイプを説明するための図であり、図9と同様の要部断面図(a)及び要部平面図(b)である。
【図11】本実施形態の鋼構造物耐震補強方法の各工程(a)乃至(h)を説明するための要部斜視図である。
【図12】トラス梁の鋼構造についての従来の一般的な溶接による補強例を示す図(a)及び同じくボルトによる補強例を示す図(b)である。
【符号の説明】
【0051】
A 摩擦接合部
11 第1添板
12 第2添板
13,13A,13B スペーサ
14 高力ボルト
15 ナット
16 ボルト孔
17 変形防止板
18 ガセット部
19 補強部材
21 下弦材LCの上面
22 下弦材LCの下面
CB 火打ち材
G 方杖用ガセット、ガセット
K 耐震補強部材、補強部材
LC 下弦材、 鋼材
S 端部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の鋼材が第1添板と第2添板とで挟み込まれ、
前記第1添板と前記第2添板とが前記鋼材の端部から突き出た突き出し部を有し、前記突き出し部において前記第1添板と前記第2添板との間にスペーサが配置されかつ前記第1添板と前記第2添板と前記スペーサとがそれぞれボルト孔を有し、
前記突き出し部で前記ボルト孔に通された高力ボルトにより前記第1添板と前記第2添板とが前記スペーサを挟んで締め付けられることで、前記鋼材と前記第1及び第2添板とが摩擦接合することを特徴とする高力ボルトによる摩擦接合構造。
【請求項2】
前記鋼材側の耐力が前記第1添板側の耐力よりも大きい場合に前記第1添板に変形防止材が設けられる請求項1に記載の高力ボルトによる摩擦接合構造。
【請求項3】
前記スペーサの板厚が前記鋼材の板厚に対し0.2〜0.8mmだけ薄くなるようにする請求項1または2に記載の高力ボルトによる摩擦接合構造。
【請求項4】
前記第2添板にその平面方向に延びる補強部材が取り付けられる場合に前記第2添板が前記平面方向に広く構成される請求項1乃至3のいずれか1項に記載の高力ボルトによる摩擦接合構造。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の高力ボルトによる摩擦接合構造を用いた構造物耐震補強方法であって、
補強用部材が取り付けられた第2添板を耐震補強対象の構造物の鋼材にセットし、
スペーサを前記第2添板のボルト孔と合致するようにセットし、
第1添板をそのボルト孔が前記スペーサ及び前記第2添板のボルト孔と合致するようにセットし、
前記ボルト孔に高力ボルトを通してナットを軽く締付けた状態で耐震補強部材を前記補強用部材に仮留めし、
前記高力ボルトの本締めを行い、
前記耐震補強部材と前記補強用部材とを高力ボルトによる本締めで接合する構造物耐震補強方法。
【請求項1】
構造物の鋼材が第1添板と第2添板とで挟み込まれ、
前記第1添板と前記第2添板とが前記鋼材の端部から突き出た突き出し部を有し、前記突き出し部において前記第1添板と前記第2添板との間にスペーサが配置されかつ前記第1添板と前記第2添板と前記スペーサとがそれぞれボルト孔を有し、
前記突き出し部で前記ボルト孔に通された高力ボルトにより前記第1添板と前記第2添板とが前記スペーサを挟んで締め付けられることで、前記鋼材と前記第1及び第2添板とが摩擦接合することを特徴とする高力ボルトによる摩擦接合構造。
【請求項2】
前記鋼材側の耐力が前記第1添板側の耐力よりも大きい場合に前記第1添板に変形防止材が設けられる請求項1に記載の高力ボルトによる摩擦接合構造。
【請求項3】
前記スペーサの板厚が前記鋼材の板厚に対し0.2〜0.8mmだけ薄くなるようにする請求項1または2に記載の高力ボルトによる摩擦接合構造。
【請求項4】
前記第2添板にその平面方向に延びる補強部材が取り付けられる場合に前記第2添板が前記平面方向に広く構成される請求項1乃至3のいずれか1項に記載の高力ボルトによる摩擦接合構造。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の高力ボルトによる摩擦接合構造を用いた構造物耐震補強方法であって、
補強用部材が取り付けられた第2添板を耐震補強対象の構造物の鋼材にセットし、
スペーサを前記第2添板のボルト孔と合致するようにセットし、
第1添板をそのボルト孔が前記スペーサ及び前記第2添板のボルト孔と合致するようにセットし、
前記ボルト孔に高力ボルトを通してナットを軽く締付けた状態で耐震補強部材を前記補強用部材に仮留めし、
前記高力ボルトの本締めを行い、
前記耐震補強部材と前記補強用部材とを高力ボルトによる本締めで接合する構造物耐震補強方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2008−2268(P2008−2268A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【公開請求】
【出願番号】特願2007−264360(P2007−264360)
【出願日】平成19年10月10日(2007.10.10)
【出願人】(000166627)五洋建設株式会社 (364)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−264360(P2007−264360)
【出願日】平成19年10月10日(2007.10.10)
【出願人】(000166627)五洋建設株式会社 (364)
【Fターム(参考)】
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