説明

高周波イオン源

【課題】金属皮膜の付着を低減して、イオン源性能の低下を減少できる高周波イオン源を提供することにある。
【解決手段】高周波イオン源は、石英円筒管4の外周に配置され、高周波電流が流されるコイル3と、石英円筒室にガスを流すことにより生成されたプラズマからイオンビームを引き出す多孔型引出電極2とを有する。石英円筒管4の内面に近接して第2の石英円筒管13が配置される。第2の石英円筒管13は、石英製の短冊状部材13Cが周方向に間隔をおいて配列されることにより、軸方向に長いスリット13Dが周方向に複数個形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波イオン源に係り、特に、イオンミリング装置等に用いるに好適なイオンミリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
イオンミリング装置のイオンビームとしては、近年、CH(パーフルオロカーボン(PFC)といわれる)やCHF、Cl(塩素ガス)等の放電ガスからのイオンビームも用いられる。そのためのイオン源としては、ガスを高周波放電を使ってプラズマ化し、このプラズマからイオンビームを引き出す高周波イオン源が用いられている(例えば、特許文献1,特許文献2,非特許文献1,非特許文献2参照)。
【0003】
【特許文献1】特公平7−75152号公報
【特許文献2】特開平8−106996号公報
【非特許文献1】Review of Scientific Insturments, vol. 69, No. 2 (1998), V. Kanarov, pp.874-876
【非特許文献2】Review of Scientific Insturments, vol. 71, No. 2 (2000), O.Vollmer, pp.939-942
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、イオンミリング装置に高周波イオン源を用いると、加速されたイオンビームの衝突によって、試料基板からのスパッター中性粒子や、引出し電極にイオンが当たって発生する電極材料の金属中性粒子や、試料基板以外の装置構造部材にイオンビームが当たってスパッターされる金属粒子などが、プラズマ室側に流入し、石英放電管の内面に付着して、内面が金属皮膜で覆われる問題が発生する。付着物が金属性の場合、金属性付着物により円筒管周方向に高周波誘導電界は短絡する。これは結果として高周波電力がシールドされて石英管内部に入らなくなることと同等である。その結果、誘導電界が石英放電管内に効率よく発生できなくなるためプラズマが安定に発生しないばかりか、プラズマ密度やプラズマ電子温度も大電流ビームを引き出すに十分な高い値を維持できなくなる。すなわち、金属皮膜付着によって、プラズマ変動及びイオンビーム電流値の変動が起き、イオン源性能が低下するという問題があった。
【0005】
なお、高周波プラズマによる半導体基板の加工では、イオンは数eV程度のエネルギーのため仮に試料基板に金属部分が含まれていてもその金属スパッター量は僅かである。また、内面付着物は主として半導体材料のシリコン系の皮膜となるため、金属皮膜のような短絡状態になり高周波電力がプラズマに全く伝達されなくなるということは起きない。
【0006】
また、核融合技術分野で用いられる中性粒子入射用の高周波イオン源では、主に重水素などの軽イオンが使われるためその物理的スパッター効率は一般に小さい。引き出されたビームも核融合用プラズマに注入されるためスパッターを受けて金属粒子等がイオン源に流入することは構造上、極めて少ない。このため核融合研究用の高周波イオン源において、プラズマ室内面に金属膜付着が着くことを防止する工夫は今まで特になされていない。
【0007】
以上のように、石英放電管内面に金属膜が少しずつ付着し安定かつ長寿命の運転が困難となる問題は、高周波イオン源をミリング加工に用いる場合に特有な問題である。
【0008】
本発明の目的は、金属皮膜の付着を低減して、イオン源性能の低下を減少できる高周波イオン源を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)上記目的を達成するために、本発明は、真空に引かれた石英円筒管の外周に配置され、高周波電流が流されるコイルと、前記石英円筒室にガスを流すことにより生成されたプラズマからイオンビームを引き出す多孔型引出電極とを有する高周波イオン源であって、前記石英円筒管の内面に近接し、かつ、石英製の短冊状部材が周方向に間隔をおいて配列されることにより、軸方向に長いスリットが周方向に複数個形成された第2の石英円筒管を備えるようにしたものである。
かかる構成により、石英円筒管の内面への金属皮膜の付着を低減して、イオン源性能の低下を減少できるものとなる。
【0010】
(2)上記(1)において、好ましくは、前記第2の石英円筒管は、前記短冊状部材と、その両端に位置する2つのリング状部材とから構成され、前記リング状部材も石英製であるとともに、前記短冊状部材と前記2つのリング状部材とは一体化されているものである。
【0011】
(3)上記(1)において、好ましくは、前記第2の石英円筒管は、前記短冊状部材と、その両端に位置し、前記短冊状部材を保持する2つのリング状部材とから構成され、前記リング状部材は金属製としたものである。
【0012】
(4)上記(1)において、好ましくは、前記高周波イオン源から引き出されたイオンビームは、試料室に置かれた金属及び半導体もしくは絶縁物の試料基板、あるいはこれらの材質が複数混合された試料基板に当てることにより、試料基板の表面微細加工を行うイオンミリング装置に用いられるものである。
【0013】
(5)上記(4)において、好ましくは、前記高周波イオン源に導入するガスが、アルゴン,CF,塩素ガスに微量の水素ガスを混合せしめたガスとしたものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、金属皮膜の付着を低減でき、イオン源性能の低下を減少できるものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図1〜図3を用いて、本発明の一実施形態による高周波イオン源の構成について説明する。
最初に、図1を用いて、本実施形態による高周波イオン源を用いたイオンミリング装置の構成について説明する。
図1は、本発明の一実施形態による高周波イオン源を用いたイオンミリング装置の構成を示す部分断面図である。
【0016】
プラズマ室1を形成する第1の石英円筒管4の外側には、高周波コイル3が巻かれている。高周波電源6からの高周波電力は、プラズマやコイルを含めた負荷インピーダンスと電源のインピーダンスをほぼ同一にして効率良く電力を供給するインピーダンス整合器(図中には省略)を介してコイル3に供給される。
【0017】
石英円筒管4の内径としては、直径15cmから直径50cm程度のものが用いられる。円筒管4の長さは、20cmから50cm程度の範囲で、高周波電源の出力の最大能力に応じて選択される。コイルのターン数は、コイル口径や使用周波数ならびにインピーダンス整合器の性能により決められ、本例では6ターンである。高周波電力の周波数としては0.5MHzから13.56MHzの周波数が使用可能である。本例では、主として2MHzで運転している。
【0018】
高周波コイル3に高周波電流が流れることで、プラズマ室1を構成する石英円筒管4の内部に高周波誘導電界が発生する。これによりプラズマが点火する。点火したプラズマから引き出し電極2でイオンビームが引き出される。
【0019】
イオン源の動作条件は以下の通りである。すなわち、加速電源10の電圧を0.2kVから1kVの範囲でイオンビームを引き出し、ガスの種類はアルゴンガスとした。ガス圧力は、処理室8の圧力で0.5×10−2〜10×10−2Paの範囲である。引出し電極2は、3枚構成され、小孔が複数開口した多孔型引出し電極である。開口径は、直径100mmから500mm程度のものが使われる。減速電源11の電圧は、−100Vから−250V程度の範囲で使用した。これによりイオン源からは、0.5A〜1Aを越えるイオンビーム電流が引き出される。引き出されたイオンビームは、処理室8の内部に設置された試料基板7に照射され、加工が行われる。
【0020】
本実施形態では、上述の構成に加えて、プラズマ室1を構成する第1の石英円筒管4の内部に、第2の石英円筒管13を挿入している。
【0021】
次に、図2及び図3を用いて、本実施形態による高周波イオン源に用いる第2の石英円筒管13の構成について説明する。
図2は、本発明の一実施形態による高周波イオン源に用いる第2の石英円筒管の構成を示す斜視図である。図3は、本発明の一実施形態による高周波イオン源に用いる石英円筒管の断面図である。なお、図1と同一符号は、同一部分を示している。
【0022】
図2に示すように、第2の石英円筒管13は、両端に位置するリング状部材13A,13Cと、その中央に位置する複数の短冊状部材13Bから構成されている。リング状部材13A,13C及び短冊状部材13Bともに、石英製である。短冊状部材13Bは、図3に示すように、その断面形状が円弧状であり、この例では、8個用いられている。短冊状部材13Bは、円周方向に等間隔に配置され、隣接する短冊状部材の間には、軸方向に長いスリット部13Dが形成される。そして、短冊状部材13Bの両端部は、リング状部材13A,13Cに一定的に固定される。図2に示す第2の石英円筒管13は、円筒状の石英管に対して、スリット部13Dを抜き加工することで一体的に形成することができる。
【0023】
図2に示すように、成形加工された第2の石英円筒管13は、図3に示すように、第1の石英円筒管4の内周側に、同軸に配置される。ここで、第1の石英円筒管4の内側の半径d1を250mmとするとき、第2の石英円筒管13の外側の半径d2は、247mmとし、第1の石英円筒管4の内周側と、第2の石英円筒管13の外周側との間に、3mmのギャップを設けている。第2の石英円筒管13の内周側の半径d3は、237mmであり、第2の石英円筒管13の厚さは10mmである。
【0024】
第1の石英円筒管4と第2の石英円筒管13の隙間は、3mm以下となるようにしている。ここに、十分な隙間があると、この部分へのプラズマの拡散が多くなり、金属皮膜付着がわずかに起き、付着防止効果が弱められるからである。3mm以下にすることにより、この隙間の中で直接プラズマ放電が起きることを防ぐことができる。
【0025】
第2の石英円筒管13の短冊状部材13Bは、円周方向の幅w1が10mmとし、スリット部13Dの幅w2は8mmである。短冊状部材13Bの円周方向の幅w1は、10〜20mmの範囲から適当に選択することができる。スリット部13Dの幅w2も、10〜20mm程度が適当であるが、少なくとも、3mm以上の幅としている。最大のスリット幅としては、隣り合うスリットの間の石英部の幅が3mm以上になる寸法までとした。この値は、石英円筒管4の内面に金属皮膜12が着いても、高周波電力がプラズマ室内に支障なく行き渡り、長時間のプラズマ生成維持が可能となった寸法を実験的に求めた結果である。
【0026】
本実施形態では、第1の石英円筒管4の内周側に、第2の石英円筒管13を配置しているので、イオンミリング装置に高周波イオン源を用いた際、加速されたイオンビームの衝突によって、試料基板からのスパッター中性粒子や、引出し電極にイオンが当たって発生する電極材料の金属中性粒子や、試料基板以外の装置構造部材にイオンビームが当たってスパッターされる金属粒子などは、プラズマ室側に流入するが、第2の石英円筒管13の内周面と、スリット部側に面する側面と、さらに、第1の石英円筒管4の内周面にも一部にも付着する。すなわち、従来のように、第1の石英円筒管4の内周面の全面が金属皮膜で被覆され、高周波電界が短絡する状態は回避できるため、金属皮膜の付着による、プラズマ変動及びイオンビーム電流値の変動を回避でき、イオン源性能が低下するのを防止できる。
【0027】
図1に示したイオン源を用いて、高周波電力として0.2から3kWの電力を投入し、前述の条件でビーム引出しと基板照射を実施した。従来のように第1の石英円筒管4のみを用いた場合、500時間使用後の引出し電流の減少率は50%であったのに対して、本実施形態のように、第2の石英円筒管13を用いることで、500時間使用後の引出し電流の減少率は20%以下と少なく、長時間安定にイオンミリング加工を行うことが可能となった。
【0028】
以上説明したように、本実施形態によれば、第2の石英管により石英放電管内面の金属皮膜による石英菅周方向の電気的短絡を防ぐことができるため、長時間にわたって高周波プラズマを発生できまた大電流イオンビームを安定に長時間引き出せるものとなる。
【0029】
次に、図4を用いて、本発明の他の実施形態による高周波イオン源の構成について説明する。なお、本実施形態による高周波イオン源を用いたイオンミリング装置の構成は、図1に示したものと同様である。
図4は、本発明の他の一実施形態による高周波イオン源に用いる石英円筒管の断面図である。
【0030】
第2の石英円筒管13’は、両端に位置するリング状部材13A’,13C’と、その中央に位置する複数の短冊状部材13B’から構成されている。リング状部材13A’,13C’は金属製であり、短冊状部材13B’は石英製である。短冊状部材13B’は、図示するように、その断面形状が矩形であり、この例では、10個用いられている。短冊状部材13B’は、円周方向に等間隔に配置され、隣接する短冊状部材の間には、軸方向に長いスリット部13Dが形成される。リング状部材13A’,13C’には、それぞれ、10個の矩形の穴が開口しており、短冊状部材13B’の両端部は、これらの穴に挿入され、保持される。
【0031】
金属製のリング状部材13A’,13C’は円周上に短絡するが、その厚みを薄くすることによりこの部分で消費される高周波電力を小さくできる。即ち、コイル3の軸方向の長さに比べ、金属リング状部材13A’,13C’の厚みを十分に小さくすれば、高周波コイルによる高周波磁場は金属リングで遮蔽されることなく石英円筒管内に十分な量が入るため、石英放電管内にはプラズマ生成に必要な高周波誘導電界が発生できる。
【0032】
以上のように、石英製の短冊状部材13B’として断面形状が矩形状のものを用いることで、図3に示したように、断面が円弧状とする場合に比べて、短冊状部材のコストを低減でき、また、両端のリング状部材13A’,13C’を金属製とすることで、さらに、コストを低減できる。なお、リング状部材13A’,13C’として石英製のものを用いてもよいものであるが、その場合には、多少コスト高になる。
【0033】
図4に示した第2の石英円筒管13’を、図3に示した第2石英円筒管13の代わりに使用したところ、同じイオン電流を得るに必要な高周波電力は若干高くなったものの、イオン源の寿命としては図3に示したものと同様に500時間を越えて安定にビームが引き出せた。
【0034】
以上説明したように、本実施形態によれば、第2の石英管により石英放電管内面の金属皮膜による石英菅周方向の電気的短絡を防ぐことができるため、長時間にわたって高周波プラズマを発生できまた大電流イオンビームを安定に長時間引き出せるものとなる。また、第2の石英管のコストを低減できる。
【0035】
なお、以上の説明では、放電ガスとしいてアルゴンガスを用いた場合を示したが、CFガスや塩素ガスを使ったところ、同様に長時間安定な運転が実現された。
【0036】
また、CFガスを使ったイオンビームミリングの例では、プラズマ室1に導入するCFガスに数%から数10%の水素ガスを混入させた試験も行った。その結果、本発明による構造のイオン源で石英円筒管4,13の内面に付着する金属皮膜の堆積速度が減少し、CFガス単独での運転に比べて更なるイオン源寿命の延長効果が見られた。これはCFガスの放電でできるフッ素と水素ガスの放電による水素原子、水素分子との反応でできるHF分子が金属皮膜等をエッチングする効果が現れたためと考えられる。
【0037】
以上のように、イオン源の清掃周期が著しく長くなり、また安定にイオンビーム電流が得られることから、イオンミリング加工における試料のスループットが向上すると共に時間的に加工性能の変化が小さい高性能ミリング加工を実現することができる。特に、試料基板7として磁気ヘッド加工用の材料(磁性体あるいは絶縁物など)を使った場合に有用であることが実験的に確かめられた。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の一実施形態による高周波イオン源を用いたイオンミリング装置の構成を示す部分断面図である。
【図2】本発明の一実施形態による高周波イオン源に用いる第2の石英円筒管の構成を示す斜視図である。
【図3】本発明の一実施形態による高周波イオン源に用いる石英円筒管の断面図である。
【図4】本発明の他の一実施形態による高周波イオン源に用いる石英円筒管の断面図である。
【符号の説明】
【0039】
1…高周波プラズマ室
2…引出し電極
3…高周波コイル
4…第1の石英円筒管
5…照明ランプ
6…高周波電源
7…試料基板
8…処理室
9…真空排気装置
10…加速電源
11…減速電源
13…第2の石英円筒管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空に引かれた石英円筒管の外周に配置され、高周波電流が流されるコイルと、前記石英円筒室にガスを流すことにより生成されたプラズマからイオンビームを引き出す多孔型引出電極とを有する高周波イオン源であって、
前記石英円筒管の内面に近接し、かつ、石英製の短冊状部材が周方向に間隔をおいて配列されることにより、軸方向に長いスリットが周方向に複数個形成された第2の石英円筒管を備えることを特徴とする高周波イオン源。
【請求項2】
請求項1記載の高周波イオン源において、
前記第2の石英円筒管は、前記短冊状部材と、その両端に位置する2つのリング状部材とから構成され、前記リング状部材も石英製であるとともに、前記短冊状部材と前記2つのリング状部材とは一体化されていることを特徴とする高周波イオン源。
【請求項3】
請求項1記載の高周波イオン源において、
前記第2の石英円筒管は、前記短冊状部材と、その両端に位置し、前記短冊状部材を保持する2つのリング状部材とから構成され、前記リング状部材は金属製であることを特徴とする高周波イオン源。
【請求項4】
請求項1記載の高周波イオン源において、
前記高周波イオン源から引き出されたイオンビームは、試料室に置かれた金属及び半導体もしくは絶縁物の試料基板、あるいはこれらの材質が複数混合された試料基板に当てることにより、試料基板の表面微細加工を行うイオンミリング装置に用いられることを特徴とする高周波イオン源。
【請求項5】
請求項4記載の高周波イオン源において、
前記高周波イオン源に導入するガスが、アルゴン,CF,塩素ガスに微量の水素ガスを混合せしめたガスであることを特徴とする高周波イオン源。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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