高周波キャリア型薄膜磁界センサ
【課題】高周波キャリア型薄膜磁界センサの高感度化
【解決手段】(a)は伝送線路型の高周波キャリア型薄膜磁界センサ250の構成を示す。グランドプレーン256上に高周波を通電させる伝送線路254を構成する。その上に磁性薄膜252を載せることにより、直接磁性薄膜252に通電して起こる磁化の飽和を回避しながら、表皮効果を利用した磁気検出が行える。この伝送線路254は、その形状で定まる共振の周波数がある。伝送線路254を流す搬送波電流の周波数を共振周波数とすることにより、センサをより高感度とすることができる。(b)は、このセンサ250を用いた測定系の構成を示す。制御解析装置210には、X−Yステージ230の制御系も組み込まれている。また、制御回析装置210は制御解析用コンピュータ220に接続され、全体の制御を行うとともに、測定結果の解析・表示等も行う。
【解決手段】(a)は伝送線路型の高周波キャリア型薄膜磁界センサ250の構成を示す。グランドプレーン256上に高周波を通電させる伝送線路254を構成する。その上に磁性薄膜252を載せることにより、直接磁性薄膜252に通電して起こる磁化の飽和を回避しながら、表皮効果を利用した磁気検出が行える。この伝送線路254は、その形状で定まる共振の周波数がある。伝送線路254を流す搬送波電流の周波数を共振周波数とすることにより、センサをより高感度とすることができる。(b)は、このセンサ250を用いた測定系の構成を示す。制御解析装置210には、X−Yステージ230の制御系も組み込まれている。また、制御回析装置210は制御解析用コンピュータ220に接続され、全体の制御を行うとともに、測定結果の解析・表示等も行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波キャリア型薄膜磁界センサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
高度情報化の急速な進展にともない、コンピュータ、情報通信機器、医療機器やメカトロニクス機器などでは、機器の小形化・軽量化、インテリジェント化が精力的に進められている。これら機器の情報入力部、情報記録部、電源部、制御部では、多数の磁気デバイスが主要な役割を演じており、その中で大きな注目を集めているものの一つにマイクロ磁気センサがある。
磁気センサとは、磁界、応力・歪、温度や光などに起因する磁性体の磁気特性の変化を、電気信号に変換して検出するものであり、感温フェライト温度センサや、磁気ひずみ効果を利用した応力センサおよびトルクセンサなどが、従来から広く用いられ普及している。また、磁気センサは磁界および磁束計測用にも広く使用され、特に磁界検出感度が高く、磁束や磁界強度あるいはその方位測定用のセンサとして使用されている。
一般に磁気センサは、被測定物に対して非破壊で信号の検出が可能であり、汚染されている、雑音が多いなどの劣悪な環境下においても十分信頼性をもって動作し、耐衝撃性、耐温度変動に優れ、寿命も長いことなどの利点を有している。これら磁気センサは、通常は前述のような電子機器内に組み込んで使用され、また微小空間領域における物理量の変化でも高感度・高速応答が必要とされるため、その小形・軽量化、さらに高速度・高感度化が強く望まれている。
【0003】
磁性体に高周波キャリア電流を通電し、さらに外部磁界を印加した場合に磁界の関数として透磁率、表皮効果が変化し、その結果、抵抗、インダクタンスおよびインピーダンスが変化する現象を利用した高周波キャリア型薄膜磁界センサが着目されている。このセンサは巻線無しで実現できるため小形化に向いている。また、MRセンサ(抵抗変化率2〜3%)やGMRセンサ(抵抗変化率10%程度)と比較して非常に高感度であり、かつ動作周波数が高く高速応答可能である等の理由により、次世代の磁気ヘッドや高精度制御用エンコーダの検出ヘッドや医療分野における生体磁気応用、近傍磁界計測等様々な分野において応用が期待されている。
高周波キャリア型薄膜センサの原理図を図1に示す。センサ素子100は短冊あるいはミアンダ形状としており、軟磁性膜の磁化容易軸は短冊の幅方向へ磁界中で熱処理を行うことによって付与する。バイアス磁界Hdcおよび交流磁界(測定磁界)Hacは短冊長手方向へ印加する。搬送波電流は短冊長手方向へ通電される。図1に示すように、外部からの印加磁界によって軟磁性膜で構成されている素子幅方向の磁化が回転し、透磁率及びインピーダンスが変化する。このインピーダンスの変化を検出して磁界検出を行う。
図2は微小交流磁界の計測回路を概念的に示したものである。搬送波電流はシグナル・ジェネレータ120によりセンサ素子100へ加えられ、出力信号はスペクトラム・アナライザ130等の測定装置で計測される。センサ素子100には、直流バイアス磁界をインピーダンス変化率が最大となるように印加している。計測される交流磁界は振幅変調され、磁界強度は側波帯に比例する。信号強度は線形領域での励振であれば、振幅変調波の側波帯として以下の式で近似できる。
【数1】
ただし、vo:側波帯レベル,ωc:搬送波の角周波数,ωs:微小交流磁界の角周波数,J:センサ素子に通電する搬送波の電流密度,S:センサ素子の断面積,hac:測定される交流磁界強度,Ri:シグナル・ジェネレータの入力抵抗,Ro:スペクトラム・アナライザの入力抵抗,Zb:素子の動作点におけるインピーダンス,ΔZ/ΔH:インピーダンス変化率
一般に、軟磁性薄膜の外部磁界による透磁率の変化は、面内一軸磁気異方性の大きさと方向により決定される。このことは、一軸異方性を有する軟磁性薄膜にバイアス磁界を印加した場合の透磁率が、微小交流励磁方向およびバイアス磁界印加方向の組み合わせによって定まるというバイアス磁化率の理論としてよく知られている。
この磁界センサ素子の検出感度の限界は磁化の熱ゆらぎで決定されると考えられ、その値は室温で10−9Oe(7.95×10−8A/m)台に達するとの報告がある(非特許文献2参照)。
【0004】
図3に、色々な磁気センサの磁界検出感度と検出磁界周波数を示す。図3に示されているように、高周波キャリア型薄膜磁界センサは、SQUID磁束計にせまる磁界検出感度と周波数を有している。
しかしながら、超電導を用いたSQUID磁束計は10−14Tの分解能を持つが、低温にしなければ動作しないこと、被測定物に近接させることが不可能(低温を維持しなければ超電導状態でいられないため)であることなどから、室温で動作する磁界センサが求められている。
室温で作動する高周波キャリア型薄膜磁界センサを高感度化するには、センサ素子自体の感度を高めるとともに、信号検出時のノイズの抑制が重要となる。この磁界センサでは、ノイズレベルは主として位相雑音と熱雑音で決まることが報告されている(非特許文献1参照)。また、高いSN比を得るためにセンサへの投入パワーを増加させることによる、SN比の悪化およびノイズレベルの上昇についても報告されている(非特許文献3参照)。
【0005】
【非特許文献1】S. Yabukami, T. Suzuki, N. Ajiro, H. Kikuchi, M. Yamaguchi, and K. I. Arai: “A High Frequency Carrier-Type Magnetic Field Sensor Using Carrier Suppressing Circuit”, IEEE Trans. Magn,37, 2019 (2001).
【非特許文献2】M. Takezawa : Doctoral dissertation of Tohoku University, p. 216
【非特許文献3】H. Mawatari, H. Kikuchi, S. Yabukami, M. Yamaguchi, and K. I. Arai: “High-Frequency-Carrier Type Thin Film Magnetic Field Sensor for AC Detection”, J. Magn. Soc. Jpn, 27, 414 (2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、高感度な高周波キャリア型薄膜磁界センサを得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の目的を達成するために、本発明は、磁性薄膜と、前記磁性薄膜の近傍に設けた搬送波電流を流す、共振周波数を有する伝送線路とを備えた高周波キャリア型薄膜磁界センサであって、前記伝送線路に流す搬送波電流の周波数は、前記伝送線路の共振周波数であり、前記高周波キャリア型薄膜磁界センサのインピーダンス変化により磁界を測定することを特徴とする。
前記伝送線路は、グランドプレーンと導電体とで構成され、前記磁性薄膜は前記導電体の上に、絶縁して配置してもよい。また、前記磁性薄膜は2つの層であって、その間に前記導電体を挟む構成とするとよい。
前記磁性薄膜は、前記導電体に面した側を高電気抵抗磁性膜で構成するとよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明の高周波キャリア型薄膜磁界センサは、磁性薄膜への直接の通電を避けて、磁性薄膜の近傍に伝送線路を配置した構成とし、ノイズの発生を防ぐために磁化が飽和しにくい構造としたのである。さらに、伝送線路の形状によるLC共振を利用して、急峻なインピーダンス変化を得ることでセンサ素子自体の感度向上を目指した。
また、磁性薄膜で搬送波電流が流れる導電体を挟んだり、磁性薄膜の伝送体に面した側を高電気抵抗の磁性膜で構成することで、さらなる感度向上を図った。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図面を参照して、本発明の実施形態を詳しく説明する。
本発明は、高いSN比を得るようにセンサへの投入パワーを増加させるため、搬送波電流を大きくした場合、ノイズレベル増大の緩和を目的として、磁性薄膜への直接の通電を避け、磁生体近傍に伝送線路を配置した構成として、高感度な高周波キャリア型薄膜磁界センサを提案するものである。
センサへの投入パワーを増大させたときのノイズ上昇の原因は、磁化の大振幅励磁により磁性薄膜の一部が飽和しているためであると考えられる。そこで、磁化が飽和しにくい構造として、磁性薄膜への直接の通電を避けて、磁生体近傍に伝送線路を配置した構成としたのである。
また、伝送線路の形状によるLC共振を利用して、急峻なインピーダンス変化を得ることでセンサ素子自体の感度向上を目指した。
さらに、磁性薄膜の一部に高電気抵抗の磁性薄膜を使用することにより、ノイズを防ぎ、感度を高めた。
【0010】
図4(a)に、本発明である伝送線路型の高周波キャリア型薄膜磁界センサ250の構成を示す。グランドプレーン256上の高周波を通電させる導電体254で伝送線路を構成する。その上に磁性薄膜252を載せることにより、直接磁性薄膜252に通電して起こる磁化の飽和を回避しながら、表皮効果を利用した磁気検出が行える。伝送線路は、ここではミヤンダ型(ミャンダー型ともいう。ジグザグになったストリップ構造の意味)のマイクロストリップライン(プリント基板の片面がグランドパターン、上面が信号ライン)を用いており、このマイクロストリップラインで、長さと線間の距離によって共振の周波数を決定することができる。また、マイクロストリップラインを共振させることにより、インピーダンスの急激な変化が観測される。
使用する磁性薄膜252としては、軟磁性膜(透磁率μが大きい、異方性分散が少ない膜)であればよい。例えば、CoNbZr、NiFeなどの軟磁性膜がよい。伝送線路としては、マイクロストリップライン、トリプレート、コプレーナ等がある。伝送線路の導体パターンとしては、ミアンダ型、スパイラル型等の共振回路が得られる形状であればよい。
図4(b)は、このセンサ250を用いた測定系の構成を示す。制御解析装置210には、図2に示すような回路系が組み込まれているとともにX−Yステージ230の制御系も組み込まれている。また、制御回析装置210は制御解析用コンピュータ220に接続され、全体の制御を行うとともに、測定結果の解析・表示等も行う。
【実施例1】
【0011】
図5は、実際に作成した高周波キャリア型薄膜磁界センサの図である。
作成したセンサ素子は、マイクロストリップライン(伝送線路)上にCo85Nb12Zr3の磁性薄膜を乗せた構造となっている。Co85Nb12Zr3薄膜はアモルファスであり、磁歪はほぼ0である。
マイクロストリップラインは、厚さ500μmのテフロン基板(プリント基板:テフロンは登録商標)のウェットエッチングで作製した。伝送線路部分は幅0.8mm,長さ10mm,厚さ18μm,3ターンのミアンダ形状とした。
Co85Nb12Zr3薄膜はRFスパッタ法で作成した。投入電力は200W,Arガス圧は20mTorrの条件でガラス基板に約4μm成膜し、リフトオフにより微細加工を施した。その後、静磁界中で熱処理を施し、短冊の幅方向に磁界を印加しながら異方性を付与した。
伝送線路上にのせるCo85Nb12Zr3薄膜は、一辺25mmの正方形,厚さ4μm,静磁界中熱処理温度150℃とした。なお、磁性薄膜の導電体に接する面には、絶縁のためにレジストを塗布している。
【0012】
<共振周波数>
さて、伝送線路を設けたセンサに外部磁界を印加すると、磁性膜の透磁率が変化し、その影響で伝送線路のインダクタンスおよび抵抗が変化する。このとき、LC共振が発生するとセンサ素子のインピーダンスが大きく変化する。
図6は、図5に示した高周波キャリア型薄膜磁界センサの搬送波電流の外部磁界によるインピーダンス変化を示すグラフである。センサ素子のインピーダンスは、素子長手方向に直流磁界Hdcをヘルムホルツコイルで印加しながら、ネットワーク・アナライザを用いて測定し算出した。
図6に示すように、搬送波電流の交流周波数600MHz,印加磁界68A/mのとき、LC共振によってセンサ素子のインピーダンスが大きく変化した。このときインピーダンス変化率の最大値は約41000Ω/Oe(515.3 Ω/(A/m))を得た。LC共振が発生する条件は、素子構造や磁性膜の磁気特性によって決定されるため、それらの関係で、任意の条件でLC共振が発生するセンサ素子の作製が可能となる。
【0013】
<センサの計測性能>
図7は、図5に示した伝送線路を設けたセンサのノイズレベルの搬送波電流密度依存性を示すグラフを示す。センサには、上述で分かったセンサの共振周波数である600MHzの搬送波を通電した。計測対象の交流周波数Hacとして501kHzをセンサに印加したときのノイズレベルと信号レベルとを測定した。図7により、この構造のセンサは、搬送波電流密度を大きくすると、信号レベルの上昇と比較してノイズレベルの上昇が少ないことが確認できた。
また、図8は、作成したセンサ素子の分解能を調べるために、外部から印加した501kHzの交流磁界の強さを変化させて計測した結果を示したものである。なお、501kHzを用いたのは、50Hzの交流電源あるいは周辺の電子機器の高調波ノイズを避けるためである。このグラフから分かるように、作成したセンサ素子により測定した場合、雑音に埋もれる限界は、7×10−9Oe(エスルテッド)である。正確には、7.6×10−9Oe/Hz1/2である。従って、このセンサは10−12T(テスラ)以下の分解能を持つ。
図9は、作成したセンサ素子の、計測対象の交流磁界Hacの周波数と分解能との関係を計測した結果のグラフである。生体の磁気計測を行うためには、1kHz以下の周波数で高い分解能が必要になる。この計測結果では、980Hz(約1kHz)に対して2.1×10−12T,45Hzの周波数で7.3×10−11Tの分解能が得られている。
【0014】
<2枚の磁性薄膜を用いる実施形態>
上述では、伝送線路の近傍(例えば上側)に磁性薄膜を設置する構成を説明したが、磁性膜で伝送線路を挟む構成とすると上下にある磁性膜との相互作用により、高感度なセンサを得ることができる。この構成を図10に示す。図10(a)は、導電体322の上下に、磁性薄膜体310,330を配置した、伝送線路型の高周波キャリア型薄膜磁界センサ300を示している。磁性薄膜体310,330は、それぞれ、ガラス板312,336の上に磁性薄膜(例えば、Co85Nb12Zr3)314,334を貼り付け、絶縁のためにレジスト316,332を塗っている。導電体322は絶縁膜324上に作成され、例えばミヤンダ型の伝送線路をグランドプレーン342と形成している。グランドプレーンは例えば絶縁膜344上に作成されている。図10(b)は図10(a)の積層の状態を示している。
【実施例2】
【0015】
図11は、実際に作成した、上述の構成の伝送線路型の高周波キャリア型薄膜磁界センサの写真を示す。図11(a)は、伝送線路をみせるために磁性薄膜体を置かないで写したものである。図11(b)は、磁性薄膜体をつけたセンサを示している。作成した高周波キャリア型薄膜磁界センサの導電体は、線幅:0.6mm,厚さ:18μm,4ターンであり、ポリアミド(絶縁体)上の銅の薄膜をウェットエッチングして作成した。2枚の磁性薄膜は、CoNbZr膜で、大きさ:25mm×25mm,厚さ;4μm,静磁界中熱処理温度は150℃であり、レジスト膜厚:4.8μmである。グランドプレーンは厚さ500μmのテフロン基板(テフロンは登録商標)のものを用いた。
図11に示した高周波キャリア型薄膜磁界センサの共振周波数を測定するために、外部磁界を印加しながら、搬送波電流の周波数を変えて測定した。測定結果は図12に示す。図12は、高周波キャリア型薄膜磁界センサの搬送波電流の外部磁界によるインピーダンス変化を示すグラフである。センサ素子のインピーダンスZは、直流磁界Hをヘルムホルツコイルで印加しながら測定した。このグラフから、図11の磁界センサの共振周波数は、570MHzである。
図13は、搬送波電流570MHzにおける搬送波電流密度Jと信号レベル,ノイズレベルのグラフを示している。印加した外部交流磁界の周波数は、501kHzである。これにより、この磁界センサの分解能は7.4×10−9Oe/Hz1/2である。この分解能は、図5に示した磁界センサより向上している。
【0016】
<他の実施形態>
上述した磁性薄膜の表面と裏面の両側に高電気抵抗膜(抵抗率ρが高い、透磁率μが大きい)をつけることにより、更に高感度のセンサとなる。
高電気抵抗膜を磁性薄膜(CoNbZr,NiFeなど)の両側に配置することにより、磁性薄膜の表面で起こる過度の電流集中および大きな磁束密度を緩和することができる。所謂表皮効果を緩和するのである。
これを図14で説明する。この図では、磁性膜に搬送波電流を流した場合で説明している。図14(a−1),(a−2)は、図1のような従来の低電気抵抗率・高透磁率である磁性薄膜に搬送波電流を流した場合を図示している。図14(b−1),(b−2)は、磁性薄膜の上面・下面に高電気抵抗率で高透磁率の磁性薄膜を貼り付けた場合に、搬送波電流を流した場合を図示している。
表皮深さδ(電界・磁界が1/eに減少する長さ)は、√{(2ρ)/(μω)}と表される(ρ:抵抗率,μ:透磁率,ω:角周波数)ため、電気抵抗率を上げることで、表皮深さを大きくすることができる。それぞれの場合の搬送波電流密度は、図14(a−2),(b−2)の左側に示している。
【0017】
これらの図から分かるように、磁性薄膜の上面・下面に高電気抵抗率で高透磁率の磁性薄膜を貼り付けた場合、従来の磁性膜と比較すると、表皮効果を緩和し、過度の電流集中によるカオス発生を原因とするノイズの増加を抑えることが可能になる。
使用する高電気抵抗薄膜としては、高周波用のインダクタの鉄心で、グラニューラ薄膜(セラミック中に磁性体が分散しているもの)などが候補として挙げられる。もともと、セラミックで抵抗が高く、磁性体が分散していることで、透磁率が高い特徴を持つ。また磁性体部分がそれぞれはなれているために、渦電流が流れにくい特徴を持つ。このような磁性膜を計測に用いる低電気抵抗磁性膜上に貼り付けるのである。
【0018】
図14(b−1)のような構成の磁性膜は、図1に示した従来の磁性膜内に搬送波電流を流して磁界を測定する高周波キャリア型薄膜磁界センサに対して適用すると、効果が大きいが、上述の図4(a)や図10で示した伝送線路に搬送波電流を流す構成のセンサ素子に適用しても、その効果が期待できる。この高電気抵抗膜により、導電体に流れる搬送波電流により磁性膜に誘起される渦電流が小さくなり、これによる磁性膜内の磁界が少なくなる結果として、ノイズが減少し感度がよくなるからである。この場合は、導電体に面する側に高電気抵抗の磁性膜をつけるとよい。
図15は、図10で示した、磁性薄膜で伝送線路を挟んだ構成のものを示している。このように、図14(b−1)に示した磁性膜で高周波電流を流す電導路を挟んだ構成とすることで、さらに高感度な高周波キャリア型薄膜磁界センサを得ることができる。
図15において、上側磁性薄膜451と下側磁性薄膜453で、共振周波数を定めるスパイラル状の導電体454を絶縁して挟んでおり、各磁性薄膜の高電気抵抗磁性膜は、導電体の側につけている構成である。下側磁性薄膜453の下には絶縁膜455を介してグランドプレーン456があり、導電体454とともに伝送線路を形成している。
【0019】
<応用例>
上述した高周波キャリア型薄膜磁界センサの応用としては、生体の磁気計測(心磁図,脳磁図など),非破壊検査(鉄筋、構造材のクラックなどの検出),局部近傍磁界計測,マーカー等の位置検出などがある。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】高周波キャリア型薄膜センサの原理を示す図である。
【図2】高周波キャリア型薄膜センサの微小交流磁界の計測回路を概念的に示した図である。
【図3】色々な磁気センサの磁界検出感度と検出磁界周波数を示す図である。
【図4】(a)は、本発明である伝送線路型の高周波キャリア型薄膜磁界センサの構成を示す図である。(b)は、このセンサ250を用いた測定系の構成を示す図である。
【図5】実際に作成した高周波キャリア型薄膜磁界センサの図である。
【図6】図5に示した磁界センサの外部磁界変化によるインダクタンス変化を示すグラフである。
【図7】図5に示したセンサ素子のノイズレベルの搬送波電流密度依存性を示すグラフである。
【図8】図5に示したセンサ素子に対して、外部から印加した501kHzの交流磁界の強さを変化させて計測した結果を示すグラフである。
【図9】図5に示したセンサ素子の、交流磁界の周波数と分解能との関係を計測した結果のグラフである。
【図10】搬送波電流を流している導電体の両面に磁性薄膜を配置した磁界センサの構成を示す図である。
【図11】実際に作成した図10の構成の磁界センサを示す写真である。
【図12】図11の磁界センサの外部磁界変化によるインダクタンス変化を示すグラフである。
【図13】図11に示したセンサ素子に対して、外部から印加した交流磁界の強さを変化させて計測した結果を示すグラフである。
【図14】磁性薄膜に低電気抵抗率で高透磁率の磁性薄膜に搬送波電流を流した場合(a−1)(a−2)と、高電気抵抗率で高透磁率の磁性薄膜を上下に貼り付けて搬送波電流を流した場合(b−1)(b−2)を説明する図ある。
【図15】高電気抵抗の磁性膜を導電体に面する側に備えた磁性薄膜で挟んだ構成の高周波キャリア型薄膜磁界センサを示す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波キャリア型薄膜磁界センサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
高度情報化の急速な進展にともない、コンピュータ、情報通信機器、医療機器やメカトロニクス機器などでは、機器の小形化・軽量化、インテリジェント化が精力的に進められている。これら機器の情報入力部、情報記録部、電源部、制御部では、多数の磁気デバイスが主要な役割を演じており、その中で大きな注目を集めているものの一つにマイクロ磁気センサがある。
磁気センサとは、磁界、応力・歪、温度や光などに起因する磁性体の磁気特性の変化を、電気信号に変換して検出するものであり、感温フェライト温度センサや、磁気ひずみ効果を利用した応力センサおよびトルクセンサなどが、従来から広く用いられ普及している。また、磁気センサは磁界および磁束計測用にも広く使用され、特に磁界検出感度が高く、磁束や磁界強度あるいはその方位測定用のセンサとして使用されている。
一般に磁気センサは、被測定物に対して非破壊で信号の検出が可能であり、汚染されている、雑音が多いなどの劣悪な環境下においても十分信頼性をもって動作し、耐衝撃性、耐温度変動に優れ、寿命も長いことなどの利点を有している。これら磁気センサは、通常は前述のような電子機器内に組み込んで使用され、また微小空間領域における物理量の変化でも高感度・高速応答が必要とされるため、その小形・軽量化、さらに高速度・高感度化が強く望まれている。
【0003】
磁性体に高周波キャリア電流を通電し、さらに外部磁界を印加した場合に磁界の関数として透磁率、表皮効果が変化し、その結果、抵抗、インダクタンスおよびインピーダンスが変化する現象を利用した高周波キャリア型薄膜磁界センサが着目されている。このセンサは巻線無しで実現できるため小形化に向いている。また、MRセンサ(抵抗変化率2〜3%)やGMRセンサ(抵抗変化率10%程度)と比較して非常に高感度であり、かつ動作周波数が高く高速応答可能である等の理由により、次世代の磁気ヘッドや高精度制御用エンコーダの検出ヘッドや医療分野における生体磁気応用、近傍磁界計測等様々な分野において応用が期待されている。
高周波キャリア型薄膜センサの原理図を図1に示す。センサ素子100は短冊あるいはミアンダ形状としており、軟磁性膜の磁化容易軸は短冊の幅方向へ磁界中で熱処理を行うことによって付与する。バイアス磁界Hdcおよび交流磁界(測定磁界)Hacは短冊長手方向へ印加する。搬送波電流は短冊長手方向へ通電される。図1に示すように、外部からの印加磁界によって軟磁性膜で構成されている素子幅方向の磁化が回転し、透磁率及びインピーダンスが変化する。このインピーダンスの変化を検出して磁界検出を行う。
図2は微小交流磁界の計測回路を概念的に示したものである。搬送波電流はシグナル・ジェネレータ120によりセンサ素子100へ加えられ、出力信号はスペクトラム・アナライザ130等の測定装置で計測される。センサ素子100には、直流バイアス磁界をインピーダンス変化率が最大となるように印加している。計測される交流磁界は振幅変調され、磁界強度は側波帯に比例する。信号強度は線形領域での励振であれば、振幅変調波の側波帯として以下の式で近似できる。
【数1】
ただし、vo:側波帯レベル,ωc:搬送波の角周波数,ωs:微小交流磁界の角周波数,J:センサ素子に通電する搬送波の電流密度,S:センサ素子の断面積,hac:測定される交流磁界強度,Ri:シグナル・ジェネレータの入力抵抗,Ro:スペクトラム・アナライザの入力抵抗,Zb:素子の動作点におけるインピーダンス,ΔZ/ΔH:インピーダンス変化率
一般に、軟磁性薄膜の外部磁界による透磁率の変化は、面内一軸磁気異方性の大きさと方向により決定される。このことは、一軸異方性を有する軟磁性薄膜にバイアス磁界を印加した場合の透磁率が、微小交流励磁方向およびバイアス磁界印加方向の組み合わせによって定まるというバイアス磁化率の理論としてよく知られている。
この磁界センサ素子の検出感度の限界は磁化の熱ゆらぎで決定されると考えられ、その値は室温で10−9Oe(7.95×10−8A/m)台に達するとの報告がある(非特許文献2参照)。
【0004】
図3に、色々な磁気センサの磁界検出感度と検出磁界周波数を示す。図3に示されているように、高周波キャリア型薄膜磁界センサは、SQUID磁束計にせまる磁界検出感度と周波数を有している。
しかしながら、超電導を用いたSQUID磁束計は10−14Tの分解能を持つが、低温にしなければ動作しないこと、被測定物に近接させることが不可能(低温を維持しなければ超電導状態でいられないため)であることなどから、室温で動作する磁界センサが求められている。
室温で作動する高周波キャリア型薄膜磁界センサを高感度化するには、センサ素子自体の感度を高めるとともに、信号検出時のノイズの抑制が重要となる。この磁界センサでは、ノイズレベルは主として位相雑音と熱雑音で決まることが報告されている(非特許文献1参照)。また、高いSN比を得るためにセンサへの投入パワーを増加させることによる、SN比の悪化およびノイズレベルの上昇についても報告されている(非特許文献3参照)。
【0005】
【非特許文献1】S. Yabukami, T. Suzuki, N. Ajiro, H. Kikuchi, M. Yamaguchi, and K. I. Arai: “A High Frequency Carrier-Type Magnetic Field Sensor Using Carrier Suppressing Circuit”, IEEE Trans. Magn,37, 2019 (2001).
【非特許文献2】M. Takezawa : Doctoral dissertation of Tohoku University, p. 216
【非特許文献3】H. Mawatari, H. Kikuchi, S. Yabukami, M. Yamaguchi, and K. I. Arai: “High-Frequency-Carrier Type Thin Film Magnetic Field Sensor for AC Detection”, J. Magn. Soc. Jpn, 27, 414 (2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、高感度な高周波キャリア型薄膜磁界センサを得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の目的を達成するために、本発明は、磁性薄膜と、前記磁性薄膜の近傍に設けた搬送波電流を流す、共振周波数を有する伝送線路とを備えた高周波キャリア型薄膜磁界センサであって、前記伝送線路に流す搬送波電流の周波数は、前記伝送線路の共振周波数であり、前記高周波キャリア型薄膜磁界センサのインピーダンス変化により磁界を測定することを特徴とする。
前記伝送線路は、グランドプレーンと導電体とで構成され、前記磁性薄膜は前記導電体の上に、絶縁して配置してもよい。また、前記磁性薄膜は2つの層であって、その間に前記導電体を挟む構成とするとよい。
前記磁性薄膜は、前記導電体に面した側を高電気抵抗磁性膜で構成するとよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明の高周波キャリア型薄膜磁界センサは、磁性薄膜への直接の通電を避けて、磁性薄膜の近傍に伝送線路を配置した構成とし、ノイズの発生を防ぐために磁化が飽和しにくい構造としたのである。さらに、伝送線路の形状によるLC共振を利用して、急峻なインピーダンス変化を得ることでセンサ素子自体の感度向上を目指した。
また、磁性薄膜で搬送波電流が流れる導電体を挟んだり、磁性薄膜の伝送体に面した側を高電気抵抗の磁性膜で構成することで、さらなる感度向上を図った。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図面を参照して、本発明の実施形態を詳しく説明する。
本発明は、高いSN比を得るようにセンサへの投入パワーを増加させるため、搬送波電流を大きくした場合、ノイズレベル増大の緩和を目的として、磁性薄膜への直接の通電を避け、磁生体近傍に伝送線路を配置した構成として、高感度な高周波キャリア型薄膜磁界センサを提案するものである。
センサへの投入パワーを増大させたときのノイズ上昇の原因は、磁化の大振幅励磁により磁性薄膜の一部が飽和しているためであると考えられる。そこで、磁化が飽和しにくい構造として、磁性薄膜への直接の通電を避けて、磁生体近傍に伝送線路を配置した構成としたのである。
また、伝送線路の形状によるLC共振を利用して、急峻なインピーダンス変化を得ることでセンサ素子自体の感度向上を目指した。
さらに、磁性薄膜の一部に高電気抵抗の磁性薄膜を使用することにより、ノイズを防ぎ、感度を高めた。
【0010】
図4(a)に、本発明である伝送線路型の高周波キャリア型薄膜磁界センサ250の構成を示す。グランドプレーン256上の高周波を通電させる導電体254で伝送線路を構成する。その上に磁性薄膜252を載せることにより、直接磁性薄膜252に通電して起こる磁化の飽和を回避しながら、表皮効果を利用した磁気検出が行える。伝送線路は、ここではミヤンダ型(ミャンダー型ともいう。ジグザグになったストリップ構造の意味)のマイクロストリップライン(プリント基板の片面がグランドパターン、上面が信号ライン)を用いており、このマイクロストリップラインで、長さと線間の距離によって共振の周波数を決定することができる。また、マイクロストリップラインを共振させることにより、インピーダンスの急激な変化が観測される。
使用する磁性薄膜252としては、軟磁性膜(透磁率μが大きい、異方性分散が少ない膜)であればよい。例えば、CoNbZr、NiFeなどの軟磁性膜がよい。伝送線路としては、マイクロストリップライン、トリプレート、コプレーナ等がある。伝送線路の導体パターンとしては、ミアンダ型、スパイラル型等の共振回路が得られる形状であればよい。
図4(b)は、このセンサ250を用いた測定系の構成を示す。制御解析装置210には、図2に示すような回路系が組み込まれているとともにX−Yステージ230の制御系も組み込まれている。また、制御回析装置210は制御解析用コンピュータ220に接続され、全体の制御を行うとともに、測定結果の解析・表示等も行う。
【実施例1】
【0011】
図5は、実際に作成した高周波キャリア型薄膜磁界センサの図である。
作成したセンサ素子は、マイクロストリップライン(伝送線路)上にCo85Nb12Zr3の磁性薄膜を乗せた構造となっている。Co85Nb12Zr3薄膜はアモルファスであり、磁歪はほぼ0である。
マイクロストリップラインは、厚さ500μmのテフロン基板(プリント基板:テフロンは登録商標)のウェットエッチングで作製した。伝送線路部分は幅0.8mm,長さ10mm,厚さ18μm,3ターンのミアンダ形状とした。
Co85Nb12Zr3薄膜はRFスパッタ法で作成した。投入電力は200W,Arガス圧は20mTorrの条件でガラス基板に約4μm成膜し、リフトオフにより微細加工を施した。その後、静磁界中で熱処理を施し、短冊の幅方向に磁界を印加しながら異方性を付与した。
伝送線路上にのせるCo85Nb12Zr3薄膜は、一辺25mmの正方形,厚さ4μm,静磁界中熱処理温度150℃とした。なお、磁性薄膜の導電体に接する面には、絶縁のためにレジストを塗布している。
【0012】
<共振周波数>
さて、伝送線路を設けたセンサに外部磁界を印加すると、磁性膜の透磁率が変化し、その影響で伝送線路のインダクタンスおよび抵抗が変化する。このとき、LC共振が発生するとセンサ素子のインピーダンスが大きく変化する。
図6は、図5に示した高周波キャリア型薄膜磁界センサの搬送波電流の外部磁界によるインピーダンス変化を示すグラフである。センサ素子のインピーダンスは、素子長手方向に直流磁界Hdcをヘルムホルツコイルで印加しながら、ネットワーク・アナライザを用いて測定し算出した。
図6に示すように、搬送波電流の交流周波数600MHz,印加磁界68A/mのとき、LC共振によってセンサ素子のインピーダンスが大きく変化した。このときインピーダンス変化率の最大値は約41000Ω/Oe(515.3 Ω/(A/m))を得た。LC共振が発生する条件は、素子構造や磁性膜の磁気特性によって決定されるため、それらの関係で、任意の条件でLC共振が発生するセンサ素子の作製が可能となる。
【0013】
<センサの計測性能>
図7は、図5に示した伝送線路を設けたセンサのノイズレベルの搬送波電流密度依存性を示すグラフを示す。センサには、上述で分かったセンサの共振周波数である600MHzの搬送波を通電した。計測対象の交流周波数Hacとして501kHzをセンサに印加したときのノイズレベルと信号レベルとを測定した。図7により、この構造のセンサは、搬送波電流密度を大きくすると、信号レベルの上昇と比較してノイズレベルの上昇が少ないことが確認できた。
また、図8は、作成したセンサ素子の分解能を調べるために、外部から印加した501kHzの交流磁界の強さを変化させて計測した結果を示したものである。なお、501kHzを用いたのは、50Hzの交流電源あるいは周辺の電子機器の高調波ノイズを避けるためである。このグラフから分かるように、作成したセンサ素子により測定した場合、雑音に埋もれる限界は、7×10−9Oe(エスルテッド)である。正確には、7.6×10−9Oe/Hz1/2である。従って、このセンサは10−12T(テスラ)以下の分解能を持つ。
図9は、作成したセンサ素子の、計測対象の交流磁界Hacの周波数と分解能との関係を計測した結果のグラフである。生体の磁気計測を行うためには、1kHz以下の周波数で高い分解能が必要になる。この計測結果では、980Hz(約1kHz)に対して2.1×10−12T,45Hzの周波数で7.3×10−11Tの分解能が得られている。
【0014】
<2枚の磁性薄膜を用いる実施形態>
上述では、伝送線路の近傍(例えば上側)に磁性薄膜を設置する構成を説明したが、磁性膜で伝送線路を挟む構成とすると上下にある磁性膜との相互作用により、高感度なセンサを得ることができる。この構成を図10に示す。図10(a)は、導電体322の上下に、磁性薄膜体310,330を配置した、伝送線路型の高周波キャリア型薄膜磁界センサ300を示している。磁性薄膜体310,330は、それぞれ、ガラス板312,336の上に磁性薄膜(例えば、Co85Nb12Zr3)314,334を貼り付け、絶縁のためにレジスト316,332を塗っている。導電体322は絶縁膜324上に作成され、例えばミヤンダ型の伝送線路をグランドプレーン342と形成している。グランドプレーンは例えば絶縁膜344上に作成されている。図10(b)は図10(a)の積層の状態を示している。
【実施例2】
【0015】
図11は、実際に作成した、上述の構成の伝送線路型の高周波キャリア型薄膜磁界センサの写真を示す。図11(a)は、伝送線路をみせるために磁性薄膜体を置かないで写したものである。図11(b)は、磁性薄膜体をつけたセンサを示している。作成した高周波キャリア型薄膜磁界センサの導電体は、線幅:0.6mm,厚さ:18μm,4ターンであり、ポリアミド(絶縁体)上の銅の薄膜をウェットエッチングして作成した。2枚の磁性薄膜は、CoNbZr膜で、大きさ:25mm×25mm,厚さ;4μm,静磁界中熱処理温度は150℃であり、レジスト膜厚:4.8μmである。グランドプレーンは厚さ500μmのテフロン基板(テフロンは登録商標)のものを用いた。
図11に示した高周波キャリア型薄膜磁界センサの共振周波数を測定するために、外部磁界を印加しながら、搬送波電流の周波数を変えて測定した。測定結果は図12に示す。図12は、高周波キャリア型薄膜磁界センサの搬送波電流の外部磁界によるインピーダンス変化を示すグラフである。センサ素子のインピーダンスZは、直流磁界Hをヘルムホルツコイルで印加しながら測定した。このグラフから、図11の磁界センサの共振周波数は、570MHzである。
図13は、搬送波電流570MHzにおける搬送波電流密度Jと信号レベル,ノイズレベルのグラフを示している。印加した外部交流磁界の周波数は、501kHzである。これにより、この磁界センサの分解能は7.4×10−9Oe/Hz1/2である。この分解能は、図5に示した磁界センサより向上している。
【0016】
<他の実施形態>
上述した磁性薄膜の表面と裏面の両側に高電気抵抗膜(抵抗率ρが高い、透磁率μが大きい)をつけることにより、更に高感度のセンサとなる。
高電気抵抗膜を磁性薄膜(CoNbZr,NiFeなど)の両側に配置することにより、磁性薄膜の表面で起こる過度の電流集中および大きな磁束密度を緩和することができる。所謂表皮効果を緩和するのである。
これを図14で説明する。この図では、磁性膜に搬送波電流を流した場合で説明している。図14(a−1),(a−2)は、図1のような従来の低電気抵抗率・高透磁率である磁性薄膜に搬送波電流を流した場合を図示している。図14(b−1),(b−2)は、磁性薄膜の上面・下面に高電気抵抗率で高透磁率の磁性薄膜を貼り付けた場合に、搬送波電流を流した場合を図示している。
表皮深さδ(電界・磁界が1/eに減少する長さ)は、√{(2ρ)/(μω)}と表される(ρ:抵抗率,μ:透磁率,ω:角周波数)ため、電気抵抗率を上げることで、表皮深さを大きくすることができる。それぞれの場合の搬送波電流密度は、図14(a−2),(b−2)の左側に示している。
【0017】
これらの図から分かるように、磁性薄膜の上面・下面に高電気抵抗率で高透磁率の磁性薄膜を貼り付けた場合、従来の磁性膜と比較すると、表皮効果を緩和し、過度の電流集中によるカオス発生を原因とするノイズの増加を抑えることが可能になる。
使用する高電気抵抗薄膜としては、高周波用のインダクタの鉄心で、グラニューラ薄膜(セラミック中に磁性体が分散しているもの)などが候補として挙げられる。もともと、セラミックで抵抗が高く、磁性体が分散していることで、透磁率が高い特徴を持つ。また磁性体部分がそれぞれはなれているために、渦電流が流れにくい特徴を持つ。このような磁性膜を計測に用いる低電気抵抗磁性膜上に貼り付けるのである。
【0018】
図14(b−1)のような構成の磁性膜は、図1に示した従来の磁性膜内に搬送波電流を流して磁界を測定する高周波キャリア型薄膜磁界センサに対して適用すると、効果が大きいが、上述の図4(a)や図10で示した伝送線路に搬送波電流を流す構成のセンサ素子に適用しても、その効果が期待できる。この高電気抵抗膜により、導電体に流れる搬送波電流により磁性膜に誘起される渦電流が小さくなり、これによる磁性膜内の磁界が少なくなる結果として、ノイズが減少し感度がよくなるからである。この場合は、導電体に面する側に高電気抵抗の磁性膜をつけるとよい。
図15は、図10で示した、磁性薄膜で伝送線路を挟んだ構成のものを示している。このように、図14(b−1)に示した磁性膜で高周波電流を流す電導路を挟んだ構成とすることで、さらに高感度な高周波キャリア型薄膜磁界センサを得ることができる。
図15において、上側磁性薄膜451と下側磁性薄膜453で、共振周波数を定めるスパイラル状の導電体454を絶縁して挟んでおり、各磁性薄膜の高電気抵抗磁性膜は、導電体の側につけている構成である。下側磁性薄膜453の下には絶縁膜455を介してグランドプレーン456があり、導電体454とともに伝送線路を形成している。
【0019】
<応用例>
上述した高周波キャリア型薄膜磁界センサの応用としては、生体の磁気計測(心磁図,脳磁図など),非破壊検査(鉄筋、構造材のクラックなどの検出),局部近傍磁界計測,マーカー等の位置検出などがある。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】高周波キャリア型薄膜センサの原理を示す図である。
【図2】高周波キャリア型薄膜センサの微小交流磁界の計測回路を概念的に示した図である。
【図3】色々な磁気センサの磁界検出感度と検出磁界周波数を示す図である。
【図4】(a)は、本発明である伝送線路型の高周波キャリア型薄膜磁界センサの構成を示す図である。(b)は、このセンサ250を用いた測定系の構成を示す図である。
【図5】実際に作成した高周波キャリア型薄膜磁界センサの図である。
【図6】図5に示した磁界センサの外部磁界変化によるインダクタンス変化を示すグラフである。
【図7】図5に示したセンサ素子のノイズレベルの搬送波電流密度依存性を示すグラフである。
【図8】図5に示したセンサ素子に対して、外部から印加した501kHzの交流磁界の強さを変化させて計測した結果を示すグラフである。
【図9】図5に示したセンサ素子の、交流磁界の周波数と分解能との関係を計測した結果のグラフである。
【図10】搬送波電流を流している導電体の両面に磁性薄膜を配置した磁界センサの構成を示す図である。
【図11】実際に作成した図10の構成の磁界センサを示す写真である。
【図12】図11の磁界センサの外部磁界変化によるインダクタンス変化を示すグラフである。
【図13】図11に示したセンサ素子に対して、外部から印加した交流磁界の強さを変化させて計測した結果を示すグラフである。
【図14】磁性薄膜に低電気抵抗率で高透磁率の磁性薄膜に搬送波電流を流した場合(a−1)(a−2)と、高電気抵抗率で高透磁率の磁性薄膜を上下に貼り付けて搬送波電流を流した場合(b−1)(b−2)を説明する図ある。
【図15】高電気抵抗の磁性膜を導電体に面する側に備えた磁性薄膜で挟んだ構成の高周波キャリア型薄膜磁界センサを示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性薄膜と、
前記磁性薄膜の近傍に設けた搬送波電流を流す、共振周波数を有する伝送線路と
を備えた高周波キャリア型薄膜磁界センサであって、
前記伝送線路に流す搬送波電流の周波数は、前記伝送線路の共振周波数であり、
前記高周波キャリア型薄膜磁界センサのインピーダンス変化により磁界を測定することを特徴とする高周波キャリア型薄膜磁界センサ。
【請求項2】
請求項1に記載された高周波キャリア型薄膜磁界センサにおいて、
前記伝送線路は、グランドプレーンと導電体とで構成され、
前記磁性薄膜は前記導電体の上に、絶縁して配置していることを特徴とする高周波キャリア型薄膜磁界センサ。
【請求項3】
請求項1に記載された高周波キャリア型薄膜磁界センサにおいて、
前記伝送線路は、グランドプレーンと導電体とで構成され、
前記磁性薄膜は2つの層であって、その間に前記導電体を挟んで絶縁して配置していることを特徴とする高周波キャリア型薄膜磁界センサ。
【請求項4】
請求項2又は3に記載された高周波キャリア型薄膜磁界センサにおいて、
前記磁性薄膜は、前記導電体に面した側を高電気抵抗磁性膜で構成することを特徴とする高周波キャリア型薄膜磁界センサ。
【請求項1】
磁性薄膜と、
前記磁性薄膜の近傍に設けた搬送波電流を流す、共振周波数を有する伝送線路と
を備えた高周波キャリア型薄膜磁界センサであって、
前記伝送線路に流す搬送波電流の周波数は、前記伝送線路の共振周波数であり、
前記高周波キャリア型薄膜磁界センサのインピーダンス変化により磁界を測定することを特徴とする高周波キャリア型薄膜磁界センサ。
【請求項2】
請求項1に記載された高周波キャリア型薄膜磁界センサにおいて、
前記伝送線路は、グランドプレーンと導電体とで構成され、
前記磁性薄膜は前記導電体の上に、絶縁して配置していることを特徴とする高周波キャリア型薄膜磁界センサ。
【請求項3】
請求項1に記載された高周波キャリア型薄膜磁界センサにおいて、
前記伝送線路は、グランドプレーンと導電体とで構成され、
前記磁性薄膜は2つの層であって、その間に前記導電体を挟んで絶縁して配置していることを特徴とする高周波キャリア型薄膜磁界センサ。
【請求項4】
請求項2又は3に記載された高周波キャリア型薄膜磁界センサにおいて、
前記磁性薄膜は、前記導電体に面した側を高電気抵抗磁性膜で構成することを特徴とする高周波キャリア型薄膜磁界センサ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図5】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図5】
【図11】
【公開番号】特開2007−240289(P2007−240289A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−62002(P2006−62002)
【出願日】平成18年3月8日(2006.3.8)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年3月8日(2006.3.8)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]