説明

高周波回路及びその制御方法

【課題】 簡易な構成により高周波信号伝送手段を備えた高周波回路における誘電体の誘電率を調節して周波数特性を制御すること。
【解決手段】 温度変化に応じて誘電率が変化する多孔質構造の誘電体11と導電体(信号伝送用の導電体10や接地導体12)とを備えた高周波信号伝送部1が設けられた高周波回路X1において,誘電体11の温度を調節する温度調節回路30を設け,誘電体11の温度調節によってその誘電率を調節し,これにより高周波信号伝送部1の周波数特性を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は誘電体と導電体とを備えた高周波信号伝送手段を具備する高周波回路及びその制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来,例えばミリ波帯等の高周波信号の伝送が必要な移相器(位相制御装置)やフィルタ装置,アンテナ装置等の回路を構成する高周波回路では,信号伝送手段として,ストリップ線路やマイクロストリップ線路,誘電体線路等,誘電体と導電体とを備えた高周波信号伝送手段が用いられている。
ここで,高周波信号伝送手段において,誘電体の誘電率は,特性インピーダンスや信号の実行波長(伝送可能な信号の波長)を定める重要なパラメータである。このため,高周波回路における高周波信号伝送手段には,目的とする仕様(伝送信号の周波数や位相等)に対応した一定の誘電率を有する誘電体が用いられる。
一方,複数の周波数帯や広範な周波数帯域の高周波信号を伝送する必要がある場合には,従来,PINダイオード等の半導体素子を用いて,各々異なる周波数特性を有する複数の線路(高周波信号伝送手段)の中から信号の伝送に用いる線路を切り替えることが行われていた。
また,特許文献1には,高周波信号伝送手段に,誘電率が電界依存特性を有する誘電体を用い,その誘電体に加える電圧を制御することによって信号伝送の周波数特性を制御するフィルタが示されている。
また,特許文献2には,誘電率に異方性がある液晶を誘電体とするマイクロストリップ線路に対し印加する電圧を制御することにより,液晶の誘電率を変化させて移相量を変化させる可変移相器が示されている。
また,特許文献3には,周波数制御電圧により誘電体の比誘電率を変化させて周波数特性を変化させるアンテナ装置(高周波回路の一例)が示されている。
【特許文献1】特開平11−284407号公報
【特許文献2】特開2000−315902号公報
【特許文献3】特開平11−154821号公報
【特許文献4】特開2004−266327号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら,PINダイオード等の半導体素子を用いた場合,許容できる高周波信号の電力が小さく高周波損失が大きいという問題点があった。さらに,半導体素子を動作させる複雑な回路が必要となり,回路の複雑化及び高コスト化を招くという問題点もあった。
また,特許文献1や特許文献2に示される技術では,電圧を印加するために誘電体を複数の電極で挟む等,構造が複雑となるという問題点があった。特に,特許文献2に示される技術では,基板に液晶を封入した層を設けたり,液晶を樹脂に均質に混ぜ込んだりする必要があり,その製造工程が特に複雑となるという問題点があった。
従って,本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり,その目的とするところは,簡易な構成により高周波信号伝送手段における誘電体の誘電率を調節して周波数特性を制御できる高周波回路及びその制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成するために本発明は,高周波回路或いはその制御方法として適用され,温度変化に応じて誘電率が変化する多孔質構造(エアロゲル状)の誘電体と導電体(信号伝送用の導電体や接地導電体)とを備えた高周波信号伝送手段が設けられた高周波回路について,前記誘電体の温度を調節することによって誘電率を調節するものであり,これにより高周波信号伝送手段の周波数特性を制御するものである。
ここで,前記誘電体としては,例えば,ナノ構造を有する多孔質シリカ(シリカエアロゲル)からなるもの等が考えられる。そのような材料の具体例としては,特許文献4に詳説されている。また,前記高周波信号伝送手段としては,板状の誘電体の一方の面に接地された板状の導電体が,他方の面に信号伝送用の導電体が設けられたマイクロストリップ線路型のものや,板状の誘電体の両面に接地された板状の導電体が,その誘電体の内層に信号伝送用の導電体が設けられたストリップ線路型のもの等が考えられる。
これにより,前記誘電体の温度調節手段として,例えば,前記誘電体やこれと接する前記導電体に抵抗体等の加熱部(発熱部)を設け,この加熱部への供給電力の調節によって前記導電体の温度を調節するといった簡易な構成により,高周波信号伝送手段における誘電体の誘電率を調節して周波数特性を制御できる。
また,前記高周波信号伝送手段を構成する高周波信号伝送用の前記導電体が,電気的な抵抗体としての前記加熱部を兼ねるものであれば,構成が簡易であるメリットに加え,前記高周波信号伝送手段における周波数特性に直接的に影響を与える前記導電体の温度,即ち,信号伝送用の導電体の近傍の前記誘電体を効率的に加熱(温度調節)でき,精度の高い温度調節が可能となるとともに,制御遅れや無駄な電力消費を抑制できるというメリットもある。
その具体的構成としては,高周波信号伝送用の前記導電体に2つのキャパシタ(キャパシタンス素子)が直列に挿入され,その2つのキャパシタの間の前記導電体の部分である加熱部に,インダクタ(インダクタンス素子)を介して電力を供給する構成が考えられる。
【0005】
また,以上示した高周波回路の適用対象としては,前記誘電体の温度調節により前記高周波信号伝送手段の信号出力端における信号の位相を制御する位相制御回路(即ち,位相制御装置或いは移相器)や,前記誘電体の温度調節により前記高周波信号伝送手段により伝送される信号の周波数を動的に制御するフィルタ回路(即ち,フィルタ装置),前記誘電体の温度調節により前記高周波信号伝送手段を通じて受信や送信がされる電波の周波数を動的に制御するアンテナ回路(即ち,アンテナ装置)等が考えられる。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば,温度変化に応じて誘電率が変化する多孔質構造の誘電体と導電体とを備えた高周波信号伝送手段における前記誘電体の温度調節を行うものであるので,前記誘電体の温度調節手段として,例えば,前記誘電体やこれと接する前記導電体に抵抗体等の加熱部を設け,この加熱部への供給電力の調節によって前記導電体の温度を調節するといった簡易な構成により,高周波信号伝送手段における誘電体の誘電率を調節して高周波回路の周波数特性を制御できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下添付図面を参照しながら,本発明の実施の形態について説明し,本発明の理解に供する。尚,以下の実施の形態は,本発明を具体化した一例であって,本発明の技術的範囲を限定する性格のものではない。
ここに,図1は本発明の第1実施形態に係る高周波回路X1の概略構成を表す図,図2は本発明の実施形態に係る高周波回路が備える多孔質構造の誘電体における誘電率の温度依存特性を表すグラフ,図3は本発明の第2実施形態に係る高周波回路X2の概略構成を表す図,図4は本発明の実施形態に係る高周波回路X1,X2に適用される第1実施例に係る温度調節回路30aの概略構成を表す図,図5は本発明の実施形態に係る高周波回路X1,X2に適用される第2実施例に係る温度調節回路30bの概略構成を表す図,図6は本発明の実施形態に係る高周波回路X1,X2に適用される第3実施例に係る温度調節回路30cの概略構成を表す図,図7は高周波回路X1における回路パターンを1本の帯状に伸びるパターンとした例を表す平面図,図8は高周波回路X1における回路パターンをエッジカップルドフィルタを構成するパターンとした例を表す平面図,図9は高周波回路X1における回路パターンをパッチアンテナを構成するパターンとした例を表す平面図である。
【0008】
まず,図1を用いて本発明の第1実施形態に係る高周波回路X1について説明する。
高周波回路X1は,マイクロストリップ線路型の高周波信号伝送部1を備えた高周波回路であり,板状の誘電体11と,その一方の面(図1では下方の面)に接して設けられ接地された板状の導電体12(以下,接地導体12という)と,板状の前記誘電体11の他方の面(図1では上方の面)に接して設けられ,信号伝送用の回路パターンを形成する導電体10(以下,回路パターン10という)とを備えている。
さらに,高周波回路X1は,前記誘電体11の温度を調節する温度調節回路30を備えている。
本発明に係る高周波回路に用いられる誘電体11は,その温度変化に応じて誘電率が変化する多孔質構造の誘電体であり,例えば,ナノ構造を有する多孔質シリカ等である。このような誘電体11は誘電率が低く,これを用いた高周波信号伝送部1は,低損失で高周波信号を伝送できる。さらに,機械的強度の高い誘電体基板(高周波信号伝送部1)を構成できる。
【0009】
図2は,前記誘電体11における誘電率(ここでは,比誘電率で表す)の温度依存特性を表すグラフである。
図2のグラフからわかるように,前記誘電体11は,誘電率(比誘電率)が温度変化に応じて変化する特性を有し,昇温時と降温時との間のヒステリシスも小さい。従って,前記温度調節回路30によって前記誘電体11の温度を調節することにより,前記誘電体11の誘電率を制御でき,その結果,前記高周波信号伝送部1の周波数特性を制御できることがわかる。
この現象が生じる理由は,前記誘電体11は水分吸着力が強く,また,水分吸着量が温度に依存(温度変化に応じて変化する)ためである。即ち,温度変化に応じて水分吸着量が変化し,その結果,誘電率が変化するためである。
【0010】
次に,図3を用いて本発明の第2実施形態に係る高周波回路X2について説明する。
高周波回路X2は,ストリップ線路型の高周波信号伝送部2を備えた高周波回路であり,板状の前記誘電体11と,その両方の面各々に接して設けられ接地された板状の導電体12,13(接地導体12,13)と,板状の前記誘電体11の内層に設けられ,信号伝送用の回路パターンを形成する導電体10(回路パターン10)とを備えている。
さらに,高周波回路X2は,前記高周波回路X1と同様に,前記誘電体11の温度を調節する温度調節回路30を備えている。
このような構成の高周波回路X2においても,前記高周波回路X1と同様の作用効果が得られる。
【0011】
次に,前記高周波回路X1及びX2に共通する前記温度調節回路30について説明する。
前記温度調節回路30(温度調節手段)は,前記誘電体11又はこれと接する前記接地導体12(又は13)(導電体)に設けられた抵抗体等からなる加熱部(発熱部)への供給電力を調節する(即ち,加熱量(発熱量)を調節する)ことによって前記導電体11の温度を調節するものである。
以下,図4〜図6を用いて,本発明の実施形態に係る高周波回路X1,X2に適用される前記温度調節回路30の具体的な実施例について説明する。以下,前記温度調節回路Aの3つの実施例(第1実施例〜第3実施例)を,温度調節回路30a,30b,30cとして説明する。
【0012】
図4に概略構成が示される第1実施例に係る前記温度調節回路30aは,前記誘電体11の槽内或いは表面に平面回路として設けられた抵抗体等からなる加熱部21(電気エネルギーを熱エネルギーに変換する部分)と,その加熱部21に電力(電流)を供給するとともに,その加熱部21に対する印加電圧或いは電流を調節することにより供給電力を調節可能な可変電力供給回路20とを具備している。
そして,前記温度調節回路30aは,前記可変電力供給回路20による前記加熱部21への供給電力を調節することにより,前記誘電体11の温度を調節可能とするものである。前記温度調節回路30aは,前記可変電力供給回路20を制御する不図示の制御部を備え,前記可変電力供給回路20は,前記制御部をからの制御指令に従って前記加熱部21への供給電力を調節する。
また,前記制御部は,所望の誘電率或いは誘電率に対応する前記高周波回路X1,X2の周波数特性を表す指標を入力する機能を備え,前記誘電体11の誘電率が,入力された誘電率或いは入力された指標に対応する誘電率(以下,これらを総称して設定誘電率という)となるように,前記可変電力供給回路20による供給電力を制御する。
【0013】
ここで,前記制御部による前記可変電力供給回路20の制御方法は各種考えられる。
例えば,前記温度調節回路30aに前記誘電体11或いはその近傍の温度を検出するサーミスタ等の温度検出センサを設けるとともに,その温度検出センサの検出温度と前記誘電体11の誘電率との対応関係(図2に示すような対応関係)を表すデータテーブルや関係式を予め求めて記憶しておく。そして,前記制御部により,前記温度検出センサの検出温度を前記データテーブル等に適用して求まる誘電率が,前記設定誘電率と一致するように前記可変電力供給回路20をフィードバック制御する。
また,前記温度検出センサの代わりに,前記誘電体11の水分量や誘電率(比誘電率)を検出するセンサを設け,そのセンサの検出値に基づいて同様のフィードバック制御を行うことや,或いは前記高周波信号伝送部1,2の周波数特性を表す指標そのものを検出するセンサを設け,その検出結果が設定された周波数特性の指標と一致するようにフィードバック制御を行うこと等も考えられる。
ここで,水分量の検出手段としては,電気抵抗により測定する一般的な水分計や,基板の水分に応じて変動する基板の質量を測定する質量(重量)センサ,筐体内の湿度を測定する湿度センサ等が考えられる。また,誘電率の検出手段としては,検出対象とする誘電体を挟んだ平板コンデンサを設け,そのコンデンサの容量を測定することによって誘電率を測定するもの等が考えられる。また,周波数特性の検出手段としては,検波ダイオードや位相比較器等が考えられる。
また,予め前記可変電力供給回路20の出力電圧或いは出力電流と前記誘電体11の誘電率との対応関係を表すデータテーブルや関係式を予め求めて記憶しておき,前記設定誘電率をそのデータテーブル等に適用することにより前記可変電力供給回路20の出力電圧或いは出力電流を設定するオープン制御を行うことも考えられる。
【0014】
図5に概略構成が示される第2実施例に係る前記温度調節回路30bは,前記接地導体12(又は13)の部分に平面回路として設けられた抵抗体等からなる前記加熱部21と,その加熱部21に電力(電流)を供給する前記可変電力供給回路20とを具備している。
図5に示す例では,前記温度調節回路30bは,前記接地導体12(又は13)を通じて接地され,前記接地導体12(又は13)が前記温度調節回路30bの一部を構成している。
この温度調節回路30bも不図示の前記制御部を備え,前記温度調節回路30aと同様の電力供給制御がなされる。
【0015】
図6に概略構成が示される第2実施例に係る前記温度調節回路30cは,前記高周波信号伝送部1,2を構成する高周波信号伝送用の前記回路パターン10(導電体)が,当該温度調節回路30c(温度調節手段)における前記加熱部21'を兼ねるものである。
より具体的には,前記回路パターン10(高周波信号伝送用の導電体)に2つのキャパシタ22(容量)が直列に挿入され,その2つのキャパシタンス22の間の前記回路パターン10の部分(導電体)が加熱部21'(抵抗体)となり,その加熱部21'に,インダクタ23を介して前記可変電力供給回路20により電力(電流)を供給するものである。
このような構成により,直列に挿入された前記キャパシタ22によって直流成分がカットされるとともに,前記インダクタ23によって高周波信号がカットされ,2つのキャパシタンス22の間の導電体部分が抵抗線となって前記回路パターン10(導電体)を前記加熱部21'として兼用できる。
また,このように前記回路パターン10を前記加熱部21'として兼用すれば,構成が簡易であるというメリットに加え,前記高周波信号伝送部1,2における周波数特性に直接的に影響を与える前記導電体11の温度,即ち,前記回路パターン10の近傍の前記誘電体11を効率的に加熱(温度調節)でき,精度の高い温度調節が可能となるとともに,制御遅れや無駄な電力消費を抑制できるというメリットもある。
また,図4〜図6に示される前記温度調節回路30a,30b,30cのように,前記加熱部21や前記可変電力供給回路20等を平面回路として前記誘電体11や前記接地導体12の基板に設けることにより,回路をパターンニングで製作可能となることから,量産に適した構成となる。この他,前記可変電力供給回路20を,前記誘電体11や前記接地導体12とは分離して設けた構成も考えられる。
【0016】
次に,図7を用いて,前記高周波回路X1,X2を,移相器に適用した場合の実施例,即ち,前記高周波回路X1,X2が,前記温度調節回路Aによる前記誘電体11の温度調節により,前記高周波信号伝送部1,2の信号出力端における信号の位相を制御する移相器(位相制御回路)として機能する場合の実施例について説明する。なお,図7は,前記高周波回路X1における前記回路パターン10を1本の帯状に伸びるパターンとした例を表す平面図を表す。
例えば,マイクロストリップ線路型の前記高周波伝送部1を用いた前記高周波回路X1の場合,伝送される高周波信号の自由空間での波長をλ0,前記誘電体11の実行比誘電率をεreffとすると,前記高周波伝送部1により伝送される高周波信号の実行波長λは,次の(1)式で表される。
λ=λ0×(εreff)-1/2 …(1)
ここで,図7に示すように長さL1の高周波線路(前記回路パターン10)を通過する信号の位相θ0は,次の(2)式で表される。
θ0=2π×L1/{λ0×(εreff)-1/2} …(2)
これに対し,実行比誘電率をある基準温度における実行比誘電率εreff0からΔεreffだけ変化させた場合のθは,次の(3)式で表される。
θ=2π×L1/{λ0×(εreff0+Δεreff)-1/2} …(3)
従って,前記高周波回路X1は,前記温度調節回路30による前記誘電体11の温度調節により,前記誘電体11の比誘電率をある基準温度における実行比誘電率εreff0からΔεreffだけ変化させると,長さL1の高周波線路(前記回路パターン10)の入力端(一方の端部)に入力される高周波信号の出力端(他方の端部)における位相は,(3)式に従って制御でき,前記高周波回路X1は,移相器(位相制御回路)として機能することになる。
なお,前記高周波回路X2も同様に移相器(位相制御回路)に適用できる。
【0017】
次に,図8を用いて,前記高周波回路X1,X2を,フィルタに適用した場合の実施例,即ち,前記高周波回路X1,X2が,前記温度調節回路Aによる前記誘電体11の温度調節により,前記高周波信号伝送部1,2により伝送される信号の周波数を動的に制御するフィルタ回路として機能する場合の実施例について説明する。なお,図8は,前記高周波回路X1における前記回路パターン10をエッジカップルドフィルタを構成するパターン10a,10b,10cとした例を表す平面図である。
例えば,マイクロストリップ線路型の前記高周波伝送部1を用いた前記高周波回路X1において,前記回路パターン10を図8に示すようなエッジカップルドフィルタを構成するパターン10a〜10cとした場合,伝送される高周波信号の実行波長はフィルタエレメントの長さL2の2倍となるため,その実行波長に対応する周波数の信号を選択的に伝送するフィルタとして動作する。ここで,前記誘電体11の実行比誘電率をεreffとすると,フィルタエレメントの長さL2と,伝送される高周波信号の実行波長λ及び自由空間での波長λ0の関係は,次の(4)式で表される。
λ=λ0×(εreff)-1/2=2×L2 …(4)
また,実行比誘電率をある基準温度における実行比誘電率εreff0からΔεreffだけ変化させた場合のフィルタの周波数f(伝送できる信号の周波数)は,次の(5)式で表される。なお,Cは光の速度である。
f=C/(2×L2)×(εreff+Δεreff)-1/2 …(5)
従って,前記高周波回路X1は,前記温度調節回路30による前記誘電体11の温度調節により,前記誘電体11の比誘電率をある基準温度における実行比誘電率εreff0からΔεreffだけ変化させると,エッジカップルドフィルタを構成する回路パターン10a〜10cにより伝送される信号の周波数を動的に調節可能なフィルタ装置(フィルタ回路)として機能することになる。
なお,前記高周波回路X2も同様にフィルタ装置(フィルタ回路)に適用できる。
【0018】
次に,図9を用いて,前記高周波回路X1,X2を,アンテナに適用した場合の実施例,即ち,前記高周波回路X1,X2が,前記温度調節回路Aによる前記誘電体11の温度調節により,前記高周波信号伝送部1,2を通じて受信や送信が行われる電波の周波数を動的に制御するアンテナ回路として機能する場合の実施例について説明する。なお,図9は,前記高周波回路X1における前記回路パターン10をパッチアンテナを構成するパターン10dとした例を表す平面図である。
例えば,マイクロストリップ線路型の前記高周波伝送部1を用いた前記高周波回路X1において,前記回路パターン10を図9に示すようパッチアンテナを構成するパターン10dとした場合,伝送される高周波信号の実行波長はパッチエレメントの長さL3の2倍となるため,その実行波長に対応する周波数の信号を選択的に送信或いは受信するアンテナとして動作する。ここで,前記誘電体11の実行比誘電率をεreffとすると,アンテナエレメントの長さL3と,伝送される高周波信号の実行波長λ及び自由空間での波長λ0の関係は,次の(6)式で表される。
λ=λ0×(εreff)-1/2=2×L3 …(6)
また,実行比誘電率をある基準温度における実行比誘電率εreff0からΔεreffだけ変化させた場合のアンテナの周波数f(送受信できる信号の周波数(共振周波数))は,次の(7)式で表される。なお,Cは光の速度である。
f=C/(2×L3)×(εreff+Δεreff)-1/2 …(7)
従って,前記高周波回路X1は,前記温度調節回路30による前記誘電体11の温度調節により,前記誘電体11の比誘電率をある基準温度における実行比誘電率εreff0からΔεreffだけ変化させると,パッチアンテナを構成する回路パターン10dにより送受信される信号の周波数を動的に調節可能なアンテナ装置(アンテナ回路)として機能することになる。
なお,前記高周波回路X2も同様にアンテナ装置(アンテナ回路)に適用できる。
【0019】
前述の温度調節回路30a〜30c(図4〜6)には,前記誘電体11の冷却手段について示しておらず,この場合,前記誘電体11の降温は,自然冷却(自然放熱)によることとなる。しかし,温度調節の応答性を高めるため,前記温度調節回路30a〜30cに,前記誘電体11をその降温時に強制的に冷却する冷却手段を設けることが望ましい。この冷却手段としては,例えば,送風機(ファン)や,コンプレッサ等により冷媒を循環させる周知の冷却サイクル(或いは冷凍サイクル)による冷却装置等が考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明は,高周波回路への利用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1実施形態に係る高周波回路X1の概略構成を表す図。
【図2】本発明の実施形態に係る高周波回路が備える多孔質構造の誘電体における誘電率の温度依存特性を表すグラフ。
【図3】本発明の第2実施形態に係る高周波回路X2の概略構成を表す図。
【図4】本発明の実施形態に係る高周波回路X1,X2に適用される第1実施例に係る温度調節回路30aの概略構成を表す図。
【図5】本発明の実施形態に係る高周波回路X1,X2に適用される第2実施例に係る温度調節回路30bの概略構成を表す図。
【図6】本発明の実施形態に係る高周波回路X1,X2に適用される第3実施例に係る温度調節回路30cの概略構成を表す図。
【図7】高周波回路X1における回路パターンを1本の帯状に伸びるパターンとした例を表す平面図。
【図8】高周波回路X1における回路パターンをエッジカップルドフィルタを構成するパターンとした例を表す平面図。
【図9】高周波回路X1における回路パターンをパッチアンテナを構成するパターンとした例を表す平面図。
【符号の説明】
【0022】
X1,X2…高周波回路
1,2…高周波信号伝送部(高周波信号伝送手段)
10,10a〜10d…回路パターン(信号伝送用の導電体)
11…誘電体
12,13…接地導体(導電体)
20…可変電力供給回路
21,21'…加熱部
22…キャパシタ
23…インダクタ
30,30a,30b,30c…温度調節回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度変化に応じて誘電率が変化する多孔質構造の誘電体と導電体とを備えた高周波信号伝送手段と,
前記誘電体の温度を調節する温度調節手段と,
を具備してなることを特徴とする高周波回路。
【請求項2】
前記温度調節手段が,前記誘電体又はこれと接する前記導電体に設けられた加熱部への供給電力の調節により前記導電体の温度を調節するものである請求項1に記載の高周波回路。
【請求項3】
前記高周波信号伝送手段を構成する高周波信号伝送用の前記導電体が,前記温度調節手段における前記加熱部を兼ねるものである請求項2に記載の高周波回路。
【請求項4】
前記温度調節手段が,前記高周波信号伝送用の前記導電体に直列に挿入された2つのキャパシタの間の前記導電体の部分である前記加熱部に,インダクタを介して電力を供給するものである請求項3に記載の高周波回路。
【請求項5】
前記高周波信号伝送手段が,マイクロストリップ線路型又はストリップ線路型の高周波信号の伝送手段である請求項1〜4のいずれかに記載の高周波回路。
【請求項6】
前記導電体が,ナノ構造を有する多孔質シリカからなる請求項1〜5のいずれかに記載の高周波回路。
【請求項7】
前記温度調節手段による前記誘電体の温度調節により前記高周波信号伝送手段の信号出力端における信号の位相を制御する位相制御回路として機能する請求項1〜6のいずれかに記載の高周波回路。
【請求項8】
前記温度調節手段による前記誘電体の温度調節により前記高周波信号伝送手段により伝送される信号の周波数を動的に制御するフィルタ回路として機能する請求項1〜6のいずれかに記載の高周波回路。
【請求項9】
前記温度調節手段による前記誘電体の温度調節により前記高周波信号伝送手段を通じて受信及び/又は送信される電波の周波数を動的に制御するアンテナ回路として機能する請求項1〜6のいずれかに記載の高周波回路。
【請求項10】
温度変化に応じて誘電率が変化する多孔質構造の誘電体と導電体とを備えた高周波信号伝送手段を具備する高周波回路の制御方法であって,
前記誘電体の温度を調節することにより前記高周波信号伝送手段の信号伝送特性を制御してなることを特徴とする高周波回路の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−140614(P2006−140614A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−326739(P2004−326739)
【出願日】平成16年11月10日(2004.11.10)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】