説明

高周波多段能動回路

【課題】シャントの寄生キャパシタンス成分を相殺することができ、高域周波数帯における特性劣化を抑圧することができる高周波多段能動回路を得る。
【解決手段】高周波多段能動回路の段間インピーダンス整合回路20として、誘電体基板21上において一対の長さ1/4波長未満のくし型の導体電極パターンを対向して形成されるインターデジタルキャパシタを含み、かつこのインターデジタルキャパシタのくし型電極23a、23bの要部に誘導性スタブを接続し、かつこの誘導性スタブを介して能動デバイス10、30へのバイアス電圧を印加した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、高周波帯において用いられるインターデジタルキャパシタなどの直列キャパシタ素子で生じる地板間寄生キャパシタンスを抑圧し、その寄生キャパシタンスに起因する高域周波数帯での通過量劣化を抑圧する高周波多段能動回路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
多段能動回路において、その段間整合回路にはインピーダンス整合の機能のほか、前後段の能動デバイスへのバイアス電圧印加、および同バイアス電圧を分離するDCカットの機能が求められ、それらの機能を実現する素子として直列キャパシタが用いられる。高周波帯において直列のキャパシタを実現する手段の一つとして、誘電体基板上で一対のくし型の導体電極パターンを対向させたインターデジタルキャパシタがある(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
インターデジタルキャパシタについて図5を参照しながら説明する。図5は、インターデジタルキャパシタの構成を示す図である。同図(a)は上面、同図(b)は側面をそれぞれ示す。なお、以降では、各図中、同一符号は同一又は相当部分を示す。
【0004】
図5において、インターデジタルキャパシタは、誘電体基板21と、入出力端子22a、22bと、くし型電極23a、23bと、地板導体24とが設けられている。
【0005】
このインターデジタルキャパシタは、誘電体基板21上において一対の長さ1/4波長未満のくし型の導体電極パターン23a、23bが対向して形成される。入出力端子22a、22bは、高周波信号が入出力される。また、誘電体基板21の裏面には地板導体24が形成されており、入出力端子22a、22bは地板導体24と併せてマイクロストリップ線路を構成している。くし型電極23a、23bは、およそ数十μmの微小な距離で互いに対向、近接して配置されており、その間にキャパシタが形成され、それは入出力端子22a、22bからみると直列のキャパシタとなる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】B.C.Wadell著、“Transmission Line Design Handbook”、Artech House、1991年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述したインターデジタルキャパシタは、所望の直列キャパシタンス成分に加えて、くし型電極23a、23bと地板導体24の間にシャントのキャパシタンス成分が寄生的に生じる。このシャントのキャパシタンス成分は低域通過、高域遮断型の特性を呈するため、インターデジタルキャパシタを多段能動回路に適用した場合、その高域周波数帯において特性劣化が生じてしまうという問題点があった。
【0008】
本発明は、前記のような課題を解決するためになされたものであり、インターデジタルキャパシタに対してシャントにインダクタンスを接続することでキャパシタが有するシャントの寄生キャパシタンス成分を相殺することができ、高域周波数帯における特性劣化を抑圧することができる高周波多段能動回路を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る高周波多段能動回路は、前段能動デバイス及び後段能動デバイス間に接続された段間インピーダンス整合回路を備えた高周波多段能動回路であって、前記段間インピーダンス整合回路は、誘電体基板上に形成された一対のくし型電極から構成されるインターデジタルキャパシタと、前記くし型電極の高周波信号の伝送方向の入出力側に接続された誘導性スタブとを有し、前記誘導性スタブは、前段能動デバイス及び後段能動デバイスに前記誘導性スタブを介してバイアス電圧を印加するためのバイアス印加端子を含むものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る高周波多段能動回路によれば、インターデジタルキャパシタに対してシャントにインダクタンスを接続することでキャパシタが有するシャントの寄生キャパシタンス成分を相殺することができ、高域周波数帯における特性劣化を抑圧することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】この発明の実施の形態1に係る高周波多段能動回路の構成を示す図である。
【図2】この発明の実施の形態1に係る高周波多段能動回路の等価回路を示す図である。
【図3】この発明の実施の形態1に係る高周波多段能動回路の利得の周波数特性を示す図である。
【図4】この発明の実施の形態2に係る高周波多段能動回路の構成を示す図である。
【図5】インターデジタルキャパシタの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の高周波多段能動回路の好適な実施の形態につき図面を用いて説明する。
【0013】
実施の形態1.
この発明の実施の形態1に係る高周波多段能動回路について図1から図3までを参照しながら説明する。図1は、この発明の実施の形態1に係る高周波多段能動回路の構成を示す図である。また、図2は、この発明の実施の形態1に係る高周波多段能動回路の等価回路を示す図である。なお、図1は、2段増幅器の段間部分のみを描いたものである。
【0014】
図1において、この発明の実施の形態1に係る高周波多段能動回路は、前段電界効果トランジスタ(FET)(前段能動デバイス)10と、段間インピーダンス整合回路20と、後段電界効果トランジスタ(FET)(後段能動デバイス)30とが設けられている。
【0015】
また、前段電界効果トランジスタ10と段間インピーダンス整合回路20の間、段間インピーダンス整合回路20と後段電界効果トランジスタ30の間は、導体ワイヤ4a、4bにより接続されている。なお、前段電界効果トランジスタ10の入力側、後段電界効果トランジスタ30の出力側にもインピーダンス整合回路が適宜接続されるものとする。
【0016】
段間インピーダンス整合回路20は、裏面に地板導体24が形成された誘電体基板21と、入出力端子22a、22bと、インターデジタルキャパシタを構成するくし型電極23a、23bと、トランジスタ10、30にバイアス電圧を印加するためのバイアス印加端子25a、25bと、マイクロストリップ線路26a、26bと、MIM(Metal-Insulator-Metal)キャパシタ27a、27bと、スルーホール28a、28bと、一部省略(22a−23a、22b−23b間)したマイクロストリップ線路とが設けられている。
【0017】
なお、図1中のマイクロストリップ線路26a、26bの線路長さdは、高周波多段能動回路の動作周波数において4分の1波長未満となっている。この線路長さdは、入出力端子22a(22b)とくし型電極23a(23b)の間のマイクロストリップ線路を構成する金属導体パターンの上端から、MIMキャパシタ27a(27b)の中心までの距離である。
【0018】
つぎに、この実施の形態1に係る高周波多段能動回路の動作について図面を参照しながら説明する。図3は、この発明の実施の形態1に係る高周波多段能動回路の利得の周波数特性を示す図である。
【0019】
まず、図1において、MIMキャパシタ27a、27bと、スルーホール28a、28bにより、多段増幅器である高周波多段能動回路の動作周波帯で電気的接地点が形成される。それにより、マイクロストリップ線路26a、26bは、その一端が電気的に接地された誘導性スタブとして機能する。
【0020】
なお、前述したように、くし型電極23a、23bからなるインターデジタルキャパシタは、直列キャパシタンス成分に加えて、シャントの寄生キャパシタンス成分を有する。このインターデジタルキャパシタは、サセプタンス素子としてインピーダンス整合回路の構成要素として機能していることに加えて、その直流阻止特性により前段電界効果トランジスタ10及び後段電界効果トランジスタ30の各々へのバイアス電圧の相互干渉を防ぐ、いわゆるDCカット素子としても機能している。
【0021】
一般に、多段増幅器においては段間のDCカット素子が必須となり、その容量値の設定においては単に増幅器の動作周波数でそのサセプタンスが十分大きくなるようその容量値を十分大きく取るが、ここでは適度な容量値として当該キャパシタ素子の物理寸法を小さく抑えると共に、DCカット兼インピーダンス整合素子として活用している。
【0022】
図2の等価回路中、Lpは誘導性スタブのインダクタンス、またCrfはMIMキャパシタ27a、27bのキャパシタンスで多段増幅器の動作周波数においてそのサセプタンスは十分大きいものとする。また図2中、CとCpは、それぞれインターデジタルキャパシタの直列キャパシタンスと、シャントのキャパシタンス成分を表している。
【0023】
ここで、シャントのキャパシタンスは、一般に低域通過型の素子であるため、インターデジタルキャパシタ単体の通過量は周波数の増加につれて減少することになる。よって、図2中のインダクタンスLpが無いとすると(Lp=∞)、多段増幅器の利得はCpによってその高域周波数端で低下してしまう。それに対して、本実施の形態1にあるようにインダクタンスLpを有する誘導性スタブを付加し、多段増幅器の動作周波数の高域端fHにおいて、次の式(1)の並列共振条件を満たすようにLpを与えることにより、fHにてキャパシタンスCpを流れる電流が0となるため、上述した高域周波数端fHにおける利得劣化を抑圧することが可能となる。
【0024】
(2πfH)=1/(LpCp) (1)
【0025】
図3には、Lp≠∞としてその値を式(1)により与えた本実施の形態1の場合Aと、Lp=∞とした場合Bにおける高周波多段能動回路の利得の周波数特性を示す。本実施の形態1により、高域周波数端における利得劣化を抑圧できることが分かる。
【0026】
また、図1において、FET10、30へのバイアス電圧は、誘導性スタブにより電気的短絡点を形成するMIMキャパシタ27a、27b及びスルーホール28a、28bの外部より印加される。この電気的短絡点は、高周波多段能動回路の動作周波数では十分にインピーダンスの小さな点となるため、その外部に電源回路を接続しても当該回路の高周波特性には影響を与えない。よって、本実施の形態1に含まれる誘導性スタブは、高周波多段能動回路のFET10、30へのバイアス印加端子としても機能するため、別途バイアス回路を設ける必要がなくなる。
【0027】
このように、段間インピーダンス整合用素子かつDCカット素子として、多段増幅器である高周波多段能動回路の段間インピーダンス整合回路に誘導性スタブを装荷したインターデジタルキャパシタを用いることにより、回路全体の小型化が図れると共に、同キャパシタの有する寄生的な地板間キャパシタンス成分を相殺して多段増幅器の高域周波数帯での利得低下を抑圧することが可能となる。
【0028】
実施の形態2.
この発明の実施の形態2に係る高周波多段能動回路について図4を参照しながら説明する。図4は、この発明の実施の形態2に係る高周波多段能動回路の構成を示す図である。
【0029】
図4において、この発明の実施の形態2に係る高周波多段能動回路は、前段電界効果トランジスタ(FET)(前段能動デバイス)10と、段間インピーダンス整合回路20Aと、後段電界効果トランジスタ(FET)(後段能動デバイス)30とが設けられている。
【0030】
また、前段電界効果トランジスタ10と段間インピーダンス整合回路20Aの間、段間インピーダンス整合回路20Aと後段電界効果トランジスタ30の間は、導体ワイヤ4a、4bにより接続されている。なお、前段電界効果トランジスタ10の入力側、後段電界効果トランジスタ30の出力側にもインピーダンス整合回路が適宜接続されるものとする。
【0031】
段間インピーダンス整合回路20Aは、裏面に地板導体24が形成された誘電体基板21と、入出力端子22a、22bと、インターデジタルキャパシタを構成するくし型電極23a、23bと、トランジスタ10、30にバイアス電圧を印加するためのバイアス印加端子25a、25bと、マイクロストリップ線路26a、26bと、MIM(Metal-Insulator-Metal)キャパシタ27a、27bと、スルーホール28a、28bと、入出力端子22a−くし型電極23a間、及び入出力端子22b−くし型電極23b間のマイクロストリップ線路とが設けられている。
【0032】
なお、図4中のマイクロストリップ線路26a、26bの線路長さdは、高周波多段能動回路の動作周波数において4分の1波長未満となっている。この線路長さdは、くし型電極23a、23bを構成する金属導体パターンの上端から、MIMキャパシタ27a、27bの中心までの距離である。
【0033】
つぎに、この実施の形態2に係る高周波多段能動回路の動作について図面を参照しながら説明する。
【0034】
段間インピーダンス整合回路20Aは、上記の実施の形態1と同様に、インターデジタルキャパシタと誘導性スタブを含む点で同一であるが、誘導性スタブがインターデジタルキャパシタに接続される位置が実施の形態1とは異なる。
【0035】
上記の実施の形態1では、誘導性スタブがくし型電極23a、23bの要(かなめ)の部分、つまり、くし型電極23a、23bの高周波信号の伝送方向の入出力側に接続されていたが、それに対して、この実施の形態2では、くし型電極23a、23bのコーナー部、つまり、くし型電極23a、23bの高周波信号の伝送方向と直交する上方の側(一方の片側)に接続されている。
【0036】
このような構成を採り、かつ式(1)に従い誘導性スタブのインダクタンスLpを与えることにより、実施の形態1と同様に、高域周波数帯での通過量の劣化を抑圧する効果を得つつ、さらに高周波信号の伝送方向の回路寸法、つまり図4上で横方向の回路寸法をより一層低減することが可能となる。しかし、誘導性スタブをくし型電極23a、23bのコーナー部に接続することにより、各々のくし間での電圧、電流分布の均一性が乱れる場合があるため、その具体設計における煩雑さは実施の形態1にある容量性回路に比べてやや増大してしまう。
【0037】
このように、インターデジタルキャパシタのくし型電極23a、23bのコーナー部に誘導性スタブを装荷することにより、回路寸法の増大を極力抑えつつ同キャパシタの有する寄生的な地板間キャパシタンス成分を相殺し、その高域周波数帯での通過量の低下を抑圧することが可能となる。
【0038】
上記の実施の形態1や、実施の形態2では、直列キャパシタとして、インターデジタルキャパシタを用いることを説明したが、このインターデジタルキャパシタに代えて、チップコンデンサ、MIM(Metal-Insulator-Metal)キャパシタ、あるいは一対の先端開放型の電極パターンを近接して構成されるギャップキャパシタを用いても良い。
【符号の説明】
【0039】
4a、4b 導体ワイヤ、10 前段電界効果トランジスタ、20 段間インピーダンス整合回路、20A 段間インピーダンス整合回路、21 誘電体基板、22a、22b 入出力端子、23a、23b くし型電極、24 地板導体、25a、25b バイアス印加端子、26a、26b マイクロストリップ線路、27a、27b MIMキャパシタ、28a、28b スルーホール、30 後段電界効果トランジスタ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前段能動デバイス及び後段能動デバイス間に接続された段間インピーダンス整合回路を備えた高周波多段能動回路であって、
前記段間インピーダンス整合回路は、
誘電体基板上に形成された一対のくし型電極から構成されるインターデジタルキャパシタと、
前記くし型電極の高周波信号の伝送方向の入出力側に接続された誘導性スタブとを有し、
前記誘導性スタブは、
前段能動デバイス及び後段能動デバイスに前記誘導性スタブを介してバイアス電圧を印加するためのバイアス印加端子を含む
ことを特徴とする高周波多段能動回路。
【請求項2】
前記段間インピーダンス整合回路は、
前記くし型電極の高周波信号の伝送方向の入出力側に接続された誘導性スタブに代えて、
前記くし型電極の高周波信号の伝送方向と直交する一方の片側に接続された誘導性スタブを有する
ことを特徴とする請求項1記載の高周波多段能動回路。
【請求項3】
前記インターデジタルキャパシタに代えて、チップコンデンサ、MIMキャパシタ、あるいは一対の先端開放型の電極パターンを近接して構成されるギャップキャパシタを用いる
ことを特徴とする請求項1又は2記載の高周波多段能動回路。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−15731(P2012−15731A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−149414(P2010−149414)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】