説明

高周波誘導加熱装置による板端部検出装置

【課題】 加熱器の板端部からの脱落を防止できるようにする。
【解決手段】 高周波誘導加熱装置の加熱器5の上側に誘導加熱コイルと同心状に配置して設けた磁場検出コイル16と、磁場検出コイル16の出力値を基に板端部検出信号21を発信する端部検出器17から高周波誘導加熱装置による板端部検出装置を形成する。加熱器5が曲げ対象鋼板6の板端部に近付くと、加熱器5の誘導加熱コイルで発生させる交番磁束8を有する磁場により曲げ対象鋼板6の表面付近に誘導されている渦電流19が、板端部の制限を受けることで円形から変形させられ、これに伴い磁場に変動が生じるため、磁場検出コイル16の出力値が増大するようになることから、端部検出器17にて、検出される磁場検出コイル16の出力値がしきい値を越えるときに板端部検出信号21を発信し、この板端部検出信号21に基いて加熱器5の移動を停止させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板上の所要位置を誘導加熱コイルを具備した加熱器で走査しながら該鋼板の走査線部分を高周波誘導加熱するようにしてある高周波誘導加熱装置における上記加熱器が鋼板端部より脱落しないように上記鋼板の板端部の位置を検出するための高周波誘導加熱装置による板端部検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、船舶、橋梁等に用いられる金属板の曲げ加工には、線状加熱による曲げ加工方法が採用されていることが多い。
【0003】
この線状加熱による曲げ加工は、金属板を所要の点熱源で線状に局所加熱すると周囲から拘束を受けて塑性歪を発生して変形する性質を利用し、金属板上に加熱個所を適当に配置することで対象金属板を目的曲面に曲げ加工する技術である。
【0004】
従来、線状加熱による金属板の曲げ加工は長い経験を経て修得する技能とされていて、熟練者が勘や技能により加熱位置、方向、加熱条件などを定めて行われていた。しかし、近年では、線状加熱を機械的に行う方法として、有限要素法(FEM)を応用して、曲げ加工すべき金属板表面を多数の領域に分割すると共に、該各分割領域毎に、目的形状に曲げ加工するために要する目的固有歪を求め、該目的固有歪の面内収縮歪成分と曲げ歪成分を与えるべく、たとえば、金属板(曲げ対象鋼板)の片面における上記分割領域に、曲線状の走査線(加熱線)を交差配置して、該走査線に沿って加熱源を移動させながら、主に該加熱源の移動速度(走査速度)を制御パラメータとして入熱量を変化させることで、上記金属板に設定された各走査線をそれぞれ所定の入熱量で局所加熱し、上記各分割領域を個々に目的形状に曲げることにより、金属板全体を目的曲面に曲げるようにする手法が採られるようになってきている。
【0005】
又、上記線状加熱を実施するための点熱源としては、高周波誘導加熱コイルを用いることが提案されてきており、この種の高周波誘導加熱コイルを加熱源として曲げ対象鋼板の線状加熱を行うための装置として、本出願人は、図5及び図6にその一例の概略を示す如き高周波誘導加熱装置を提案している。
【0006】
すなわち、上記高周波誘導加熱装置は、図5及び図6に示すように、ビーム2と該ビーム2を支持する脚柱3とからなるガントリー(門型の架構)1を、水平面内の一軸方向となる矢印X方向に走行可能に備え、且つ上記ビーム2に、上下方向(Z方向)に伸縮可能な加熱器昇降機(アーム)4を、水平面内で上記X方向と直交するY方向へ横行可能に設ける。更に、上記加熱器昇降機4の下端に、円盤状の加熱器5の中央部を、図示しない自在継手を介して任意の方向へ首振り(旋回)可能に取り付け、且つ該加熱器5の下面側には、上下方向に軸心を有する誘導加熱コイルとして、たとえば、同一平面内において螺旋状に巻いた形状(いわゆるパンケーキ型)の図示しない誘導加熱コイルを具備してなる構成としてある。
【0007】
以上の構成としてある高周波誘導加熱装置によれば、上記ガントリー1のX方向の走行と、加熱器昇降機4のY方向への横行とをNC制御することで、上記加熱器昇降機4の下端部に取り付けてある加熱器5を、曲げ対象鋼板6の表面部に設定される走査線(図示せず)に沿わせて所望の移動速度で移動させるようにしてある。更に、この際、上記加熱器昇降機4を、上記加熱器5を介して曲げ対象鋼板6の表面より受ける反力が一定になるよう上下方向(Z方向)への伸縮作動を制御することで、上記曲げ対象鋼板6の表面部に設定してある走査線に沿わせて上記加熱器5を移動させる際、該加熱器5を、加熱によって常時連続的且つ複雑に変形する上記曲げ対象鋼板6表面の曲面形状に追従して昇降させて、曲げ対象鋼板6の表面に密着させたまま摺動させるようにしてあり、これにより、上記加熱器5の下面側に具備した上記図示しない誘導加熱コイルによる上記曲げ対象鋼板6の高周波誘導加熱を、良好な加熱効率で実施できるようにしてある(たとえば、特許文献1参照)。
【0008】
図7は上記構成としてある高周波誘導加熱装置の制御系の概要を示すもので、たとえば、上記図5及び図6に示したガントリー1のX方向への走行を行わせるための走行駆動装置8と、図5及び図6に示した加熱器昇降機4のY方向への横行を行わせるための横行駆動装置9からなる加熱器用の駆動装置7の動作(移動又は停止)、及び、加熱器5の動作(加熱のオン又はオフ)をそれぞれ決定するNCプログラム11の作成や、管理等を行うシステム管理端末10と、上記システム管理端末10より受け取るNCプログラム11に従って上記駆動装置7による加熱器5のX−Y方向の動作制御指令13を与えると共に、上記加熱器5へ加熱のオン又はオフの動作制御指令14を与えるNCコントローラ(制御盤)12とを備えてなる構成としてある。これにより、上記システム管理端末10よりNCプログラム11を受信したNCコントローラ12が、上記駆動装置7と加熱器5へそれぞれ動作制御指令13,14を与えることで、上記加熱器5の曲げ対象鋼板6(図5及び図6参照)に設定してある走査線に沿う所要の移動速度での移動と停止、及び、加熱のオンとオフとを適宜制御しながら線状加熱作業を行うようにしてあり、所定の作業が終了すると、上記NCコントローラ12からシステム管理端末10へ動作完了信号15が送信されるようにしてある。
【0009】
ところで、上記図5及び図6に示した高周波誘導加熱装置により曲げ対象鋼板6の線状加熱による曲げ加工を行う場合は、曲げ対象鋼板6上の各走査線を順次加熱することによって該曲げ対象鋼板6が常時連続的且つ複雑に変形するため、この変形される曲げ対象鋼板6上に設定してある各走査線の絶対位置は、初期形状の曲げ対象鋼板6上にて設定した各走査線の絶対位置より変位するようになる。そのために、上記システム管理端末10にて上記加熱器5のX−Y方向への移動に関するNCプログラム11を作成する場合は、通常は、上記曲げ対象鋼板6上に設定してある各走査線を所定の順序で順次加熱するときに、該曲げ対象鋼板6に連続的に生じる曲げ変形に伴う走査線の位置の変化を予め算出して、該算出された変位後の走査線の位置に対応させて加熱器を配置できるようなNCプログラムを作成するようにしてある。
【0010】
【特許文献1】特許第2666685号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところが、上記したように、高周波誘導加熱装置のシステム管理端末10では、曲げ対象鋼板6に生じる変形に伴う走査線の変位を考慮した上で、変位後の走査線に対応させて加熱器5を移動できるようにNCプログラム11を作成するようにしてあることから、通常、上記加熱器5のX−Y方向の移動範囲は、表面に走査線が設定してある曲げ対象鋼板6の平面形状の範囲内におさまるはずであるが、上記曲げ対象鋼板6の曲げ加工を行う過程で、加熱、冷却に伴う曲げ対象鋼板6の過度の収縮や、過度の曲がりが生じること等の要因により、加工途中の曲げ対象鋼板6の板端部位置が、上記システム管理端末10でNCプログラム11作成時に想定している板端部位置からずれると、上記システム管理端末10で作成するNCプログラム11に従って上記NCコントローラ12より駆動装置7に動作制御指令を与えて加熱器5のX−Y方向の移動を行わせるときに、該加熱器5が上記曲げ対象鋼板6の板端部を越えて移動してしまい、該曲げ対象鋼板6上より外側へ脱落する虞があるというのが実状である。
【0012】
上記のようにして加熱器5が曲げ対象鋼板6の板端部より脱落すると、該加熱器5が破損したり、曲げ対象鋼板6の板端部に加熱による溶落ちが発生する虞が懸念されることから、該高周波誘導加熱装置の運転時には、作業者による監視が必要とされ、万一、上記加熱器5が曲げ対象鋼板6の板端部を越えそうになると、上記作業者が直ちに上記高周波誘導加熱装置の運転を停止させるようにするようにしていた。したがって、現状では、無監視放置運転で処理することが可能となるのは、たとえば、目的曲面が鞍型形状等、曲げ対象鋼板6の板端部付近の加熱を省略しても所望する目的曲面が得られるたぐいの形状である場合に限られており、そのため、高周波誘導加熱装置を用いた線状加熱による鋼板の曲げ加工の手離れ化を阻害する要因の1つとなっているというのが実状である。
【0013】
そこで、本発明は、高周波誘導加熱コイルを具備した加熱器を鋼板の表面に沿わせて移動させながら該鋼板の所要個所の加熱を行うようにしてある高周波誘導加熱装置にて、上記加熱器が鋼板の板端部に接近すると、その接近を自動的に検出することができるようにして、上記加熱器の鋼板端部からの脱落を未然に防止できるようにするための高周波誘導加熱装置による板端部検出装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、上記課題を解決するために、請求項1に対応して、誘導加熱コイルを具備した加熱器を鋼板の表面に沿って移動させながら該加熱器による鋼板の高周波誘導加熱を行うようにしてある高周波誘導加熱装置における上記加熱器に、上記誘導加熱コイルで発生させる交番磁束を備えた磁場を検出するための磁気センサを設け、更に、上記磁気センサの出力の変化を基に上記鋼板の板端部の検出を行う端部検出器を備えてなる構成とする。
【0015】
又、上記構成において、端部検出器を、加熱器の誘導加熱コイルにより発生させる磁場により鋼板の表面付近に誘導する渦電流の形が該鋼板の板端部による制限を受けて変形するときに上記磁場に生じる変動を磁気センサの出力の変化を基に検出することで、上記鋼板の板端部の検出を行う機能を有するものとした構成とする。
【0016】
更に、上記各構成において、磁気センサを、加熱器の誘導加熱コイルの配置面と垂直な軸心を有する磁場検出コイルとした構成とする。
【0017】
上述の各構成において、加熱器の上側に、磁場検出コイルを、該加熱器と同心状に配置して設けるようにした構成とする。
【0018】
同様に、上述の各構成において、加熱器の外周部の上側に、周方向所要間隔で複数の磁場検出コイルを設けるようにした構成とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の高周波誘導加熱装置による板端部検出装置によれば、以下のような優れた効果を発揮する。
(1)誘導加熱コイルを具備した加熱器を鋼板の表面に沿って移動させながら該加熱器による鋼板の高周波誘導加熱を行うようにしてある高周波誘導加熱装置における上記加熱器に、上記誘導加熱コイルで発生させる交番磁束を備えた磁場を検出するための磁気センサを設け、更に、上記磁気センサの出力の変化を基に上記鋼板の板端部の検出を行う端部検出器を備えてなる構成、より具体的には、端部検出器を、加熱器の誘導加熱コイルにより発生させる磁場により鋼板の表面付近に誘導する渦電流の形が該鋼板の板端部による制限を受けて変形するときに上記磁場に生じる変動を磁気センサの出力の変化を基に検出することで、上記鋼板の板端部の検出を行う機能を有するものとした構成としてあるので、高周波誘導加熱装置の加熱器の誘導加熱コイルで発生させる磁場により鋼板の表面付近に誘導する渦電流が、上記誘導加熱コイルと同心状の円形から、上記鋼板の板端部による制限を受けて変形することで生じる上記磁場の変動を、磁気センサで捉えることができるため、該磁気センサの出力を基に、端部検出器にて、上記高周波誘導加熱装置の加熱器が鋼板の板端部に接近していることを検出することができる。したがって、上記のように加熱器の鋼板の板端部への接近が検出された時点で、上記高周波誘導加熱装置における加熱器の移動を停止させるようにすることで、該加熱器の鋼板の板端部からの脱落を未然に防止することができるようになるため、該加熱器の脱落に伴う破損や、鋼板端部の溶落ちを未然に防止することが可能になり、高周波誘導加熱装置の手離れ化を図ることができる。
(2)上記磁気センサで検出するのは、高周波誘導加熱の原理である誘導加熱コイルに高周波電流を流すことで形成させる磁場の変動であるため、複雑な装置構成を別に要することなく、非常にシンプルな構成で、上記加熱器の鋼板の板端部への接近を容易に且つ確実に検出する装置を実現することができる。
(3)磁気センサを、加熱器の誘導加熱コイルの配置面と垂直な軸心を有する磁場検出コイルとした構成とすることにより、上記加熱器の誘導加熱コイルで形成させる磁場の交番磁束を横切るように磁場検出コイルを配置できるため、該磁場検出コイルにより上記磁場の変動を効率よく検出することができる。
(4)加熱器の上側に、磁場検出コイルを、該加熱器と同心状に配置して設けるようにした構成とすることにより、加熱器が周方向のどの個所から鋼板の板端部に接近しても、その際に生じる加熱器の誘導加熱コイルで形成させる磁場の変動を1つの磁場検出コイルにより検出することができるため、シンプルな装置構成とするのに有利な構成とすることができる。
(5)加熱器の外周部の上側に、周方向所要間隔で複数の磁場検出コイルを設けるようにした構成とすることにより、加熱器の鋼板の板端部への接近を、該加熱器の周方向に複数設けた各磁場検出コイルでそれぞれ監視できるようになるため、加熱器が鋼板の板端部へ接近したことを、より高精度で検出することが可能になる。又、上記加熱器がいずれの方向より鋼板の板端部に接近しているかを検出することもできるようになることから、該加熱器が、上記鋼板のどこの部分の板端部に接近しているかを検出することも可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面を参照して説明する。
【0021】
図1(イ)(ロ)乃至図3は本発明の高周波誘導加熱装置による板端部検出装置の実施の一形態を示すもので、以下のようにしてある。
【0022】
すなわち、上記本発明の高周波誘導加熱装置による板端部検出装置は、図1(イ)(ロ)に示す如く、図5及び図6に示したと同様の構成としてある高周波誘導加熱装置における図示しない誘導加熱コイルを具備した加熱器5に、磁気センサとしての磁場検出コイル16を設け、且つ該磁場検出コイル16に、端部検出器17を接続した構成として、該端部検出器17にて、上記加熱器5が曲げ対象鋼板6の板端部に接近するときに生じる磁場の変化に伴う上記磁場検出コイル16の出力値20の変動を基に、曲げ対象鋼板6の板端部の判定、検出を行う構成とする。
【0023】
詳述すると、上記磁場検出コイル16は、一巻のコイルとして、上記加熱器5の上側に、該加熱器5の図示しない誘導加熱コイルの配置面と垂直な方向に該磁場検出コイル16の軸心方向が一致する姿勢となるように、該加熱器5に具備されているパンケーキ型の図示しない誘導加熱コイルと同心状に配置して取り付けてある。
【0024】
ここで、上記高周波誘導加熱装置の原理について述べると、該高周波誘導加熱装置にて、加熱器5に具備した図示しないパンケーキ型の誘導加熱コイルに高周波電流を流すと、該加熱器5の周辺に、図1(イ)に示すように上記図示しない誘導加熱コイルを軸心方向に貫通する方向の交番磁束18を有する強い磁場が形成され、上記交番磁束18が、上記加熱器5の下側近傍に配置されている曲げ対象鋼板6を貫通することで、該曲げ対象鋼板6の表面付近に、高密度の渦電流19が誘導され、該渦電流19が流れる際の電気抵抗に伴うジュール熱により、曲げ対象鋼板6が自己発熱によって加熱されるようになる。
【0025】
したがって、上記加熱器5の上側に取り付けた磁場検出コイル16は、上記交番磁束18を有する強い磁場を横切るように配置されることになるため、該磁場検出コイル16の出力値20は、上記交番磁束18を有する磁場の変動に依存することとなる。
【0026】
ところで、図1(イ)に示すように、上記高周波誘導加熱装置の加熱器5が曲げ対象鋼板6の板端部より離反している個所の上側に配置されている場合は、上記加熱器5の図示しない誘導加熱コイルで発生させる磁場によって曲げ対象鋼板6の表面付近に誘導される渦電流19は、上記加熱器5の図示しない誘導加熱コイルと同心円状に流れるようになる。
【0027】
上記のように加熱器5が曲げ対象鋼板6の板端部より十分離反していて、上記曲げ対象鋼板6の表面付近に誘導される渦電流19が上記加熱器5の図示しない誘導加熱コイルと同心円状に流れる状態であれば、上記加熱器5が曲げ対象鋼板6上で移動しても、該加熱器によって形成される上記交番磁束18を有する磁場に、ほとんど乱れは生じないため、上記加熱器5上に設けた磁場検出コイル16の出力値20は、図2に領域Aで示すようにほとんど変動しない。
【0028】
これに対し、上記曲げ対象鋼板6の板端部付近の上側に上記加熱器5が配置されている場合は、加熱器5の図示しない誘導加熱コイルで発生させる磁場によって曲げ対象鋼板6の表面付近に誘導される渦電流19が、図1(ロ)に示すように、上記曲げ対象鋼板6の板端部による制限を受けることで、上記加熱器5の図示しない誘導加熱コイルと同心円状に流れることができなくなり、この渦電流19の形は、上記加熱器5が曲げ対象鋼板6の板端部に接近するにしたがって変形がより大きくなる。
【0029】
上記のようにして渦電流19に乱れが生じると、上記交番磁束18を有する磁場にも乱れが生じるようになるため、この磁場に乱れが生じることに伴い、該磁場中に配置されている上記磁場検出コイル16の出力値20も変動して、図2に領域Bで示すように、上記加熱器5が曲げ対象鋼板6の板端部に接近するにしたがって、上記磁場検出コイル16の出力値20の変動量が増大する。
【0030】
以上の点に鑑みて、本発明では、上記端部検出器17を、上記磁場検出コイル16の出力値20を常時監視する機能を有すると共に、加熱器5が曲げ対象鋼板6の板端部に接近する際に該加熱器5の中央が上記曲げ対象鋼板6の板端部に達する直前の時点における磁場検出コイル16の出力値20を、図2に線Cで示す如きしきい値として設定して、上記磁場検出コイル16の出力値20が、上記しきい値を超えると、上記加熱器5が曲げ対象鋼板6の板端部に接近していると判断して、板端部検出信号21を発信(出力)する機能を有するものとしてある。
【0031】
図3は、上記磁場検出コイル16と端部検出器17からなる本発明の高周波誘導加熱装置による板端部検出装置を、図7に示したと同様の高周波誘導加熱装置の制御系に組み込む場合の一例を示すもので、たとえば、図7に示したと同様の構成において、上記端部検出器17より発信する板端部検出信号21を、NCコントローラ12にて受信できるようにしてある。且つ該NCコントローラ12を、上記端部検出器17より発信される板端部検出信号21を受信すると、通常のNCプログラム11に代えて端部検出動作のサブプログラムを割り込み実行することで、加熱器5の駆動装置7に対して動作を停止させる動作制御指令13を直ちに発すると共に、加熱器5に対して加熱をオフにする動作制御指令14を直ちに発する機能を有するものとしてある。更に、上記NCコントローラ12には、上記端部検出器17からの板端部検出信号21が入力されると、システム管理端末10に対し、板端部検出時の日時や動作内容等の板端部検出情報22を送信する機能を備えてなるものとしてある。
【0032】
なお、図1(イ)(ロ)における符号4は加熱器昇降機を示す。その他、図3にて図7に示したものと同一のものには同一符号が付してある。
【0033】
以上の構成としてある本発明の高周波誘導加熱装置による板端部検出装置によれば、高周波誘導加熱装置の加熱器5を曲げ対象鋼板6上に設定された図示しない走査線に沿って走査させることで該曲げ対象鋼板6の線状加熱を行っているときに、上記加熱器5が曲げ対象鋼板6の板端部に接近すると、該加熱器5の中央が曲げ対象鋼板6の板端部に達する直前で、上記端部検出器17より板端部検出信号21が発信されるようになる。
【0034】
したがって、図3に示したように、上記端部検出器17より板端部検出信号21が発信されると、高周波誘導加熱装置の制御系におけるNCコントローラ12より、駆動装置7への動作を停止させる動作制御指令13と、加熱器5への加熱をオフにさせる動作制御指令14を発信させるようにすると、上記加熱器5が曲げ対象鋼板6の板端部に接近しても、該加熱器5の中央が上記曲げ対象鋼板6の板端部を越える直前で、該加熱器5の動作が自動的に停止されると共に、該加熱器5による加熱が自動でオフになるため、該加熱器5が曲げ対象鋼板6の板端部より脱落して破損したり、曲げ対象鋼板6の板端部の加熱による溶落ちが発生する虞を未然に防止することができる。よって、上記高周波誘導加熱装置の手離れ化を図ることができる。
【0035】
更に、本発明の高周波誘導加熱装置による板端部検出装置は、高周波誘導加熱装置の加熱器5に設ける磁場検出コイル16と、該磁場検出コイル16の出力値20が所定のしきい値を超えると板端部検出信号21を発信する端部検出器17とからなり、しかも、上記磁場検出コイル16の巻き数は、一巻でよく、更には、上記磁場検出コイル16で検出するのは、高周波誘導加熱の原理である誘導加熱コイルに高周波電流を流すことで形成させる交番磁束を有する磁場の変動であるため、上記加熱器5の曲げ対象鋼板6の板端部への接近を容易に且つ確実に検出する装置を、非常にシンプルな構成で実現することができる。
【0036】
次に、図4は本発明の実施の他の形態として、図1(イ)(ロ)及び図3の実施の形態の応用例を示すもので、図1(イ)(ロ)乃至図3に示したと同様の構成において、高周波誘導加熱装置の加熱器5の上側に、該加熱器5の図示しないパンケーキ型の誘導加熱コイルと同心状に配置した1つの磁場検出コイル16を設ける構成に代えて、上記加熱器5の外周部の上側に、周方向所要間隔で複数の磁場検出コイル16aを設けるようにしたものである。
【0037】
具体的には、たとえば、上記加熱器5の外周部にて曲げ対象鋼板6の4方の板端部にほぼ臨む配置となる周方向の90度間隔の4個所の上側に、上記図1(イ)(ロ)に示した磁場検出コイル16よりも小型の磁場検出コイル16aを、該各磁場検出コイル16aの軸心方向が加熱器5に具備されているパンケーキ型の図示しない誘導加熱コイルの軸心方向と平行となるように配置して、上記加熱器5に取り付けた構成としてある。これにより、上記加熱器5の外周部における上記曲げ対象鋼板6の4方の板端部にほぼ臨む配置となる周方向の4個所にて、該各個所を通る交番磁束による磁場の変動を検出することができるようにしてある。
【0038】
上記各磁場検出コイル16aは、上記図1(イ)(ロ)に示した磁場検出コイル16と同様に、一巻のコイルとしてあればよい。
【0039】
なお、図示してないが、上記各磁場検出コイル16aは、図1(イ)(ロ)に示した端部検出器17と同様の端部検出器にそれぞれ接続すると共に、該端部検出器にて、図2に示したと同様に、上記各磁場検出コイル16aの出力値を個別に監視して、該各磁場検出コイル16aのうち、いずれか1つの磁場検出コイル16aの出力値が所定のしきい値を越えた時点で、図3に示したものと同様に、上記端部検出器よりNCコントローラ12へ板端部検出信号21を発信させるようにしてある。
【0040】
本実施の形態によっても、上記図1(イ)(ロ)乃至図2の実施の形態と同様の効果を得ることができる。更に、高周波誘導加熱装置の加熱器5の外周部にそれぞれ設けた各磁場検出コイル16aにより、該各磁場検出コイル16aの設置個所を通る交番磁束による磁場の変動を検出できるようにしてあることから、上記高周波誘導加熱装置の加熱器5が曲げ対象鋼板6の板端部に接近するときには、該加熱器5の外周部における上記各磁場検出コイル16aが設置してある周方向4個所のうちのいずれか1個所が曲げ対象鋼板6の板端部に達した時点で、該個所に設置してある磁場検出コイル16aの出力値が、他の個所の各磁場検出コイル16aの出力値よりも高まるようになるため、上記加熱器5が曲げ対象鋼板6の板端部に接近したことをより高精度で検出することが可能になる。又、上記加熱器5がいずれの方向より曲げ対象鋼板6の板端部に接近しているかを検出することもできるようになるため、たとえば、該加熱器5が、上記曲げ対象鋼板6の4方の板端部のうちのいずれの板端部に接近しているかをも効率よく検出することが可能になる。
【0041】
なお、本発明は上記各実施の形態のみに限定されるものではなく、磁場検出コイル16,16aの巻き数は二巻き以上としてもよい。
【0042】
図4の実施の形態における加熱器5の外周部の上側に設ける磁場検出コイル16aは、曲げ対象鋼板6の4方の板端部を効率よく検出する観点からすると、該曲げ対象鋼板6の4方の板端部にそれぞれ臨む周方向90度間隔の4個所に設けることが望ましいが、磁場検出コイル16aの周方向の設置数は、加熱器5のサイズ等に応じて適宜増減してもよい。
【0043】
端部検出器17より発信される板端部検出信号21に基づく高周波誘導加熱装置の制御系の制御としては、上記端部検出器17より発信される板端部検出信号21をNCコントローラ12へ受信させて、該NCコントローラ12にて、加熱器5の駆動装置の動作の停止と、加熱器5による加熱のオフとを行わせるものとして示したが、少なくとも上記加熱器5が曲げ対象鋼板6の板端部に更に近接する方向の移動を停止させて、該加熱器5が曲げ対象鋼板6の板端部から脱落する虞を未然に回避することができるようにしてあれば、たとえば、上記端部検出器17より発信される板端部検出信号21に基づいて、NCコントローラ12により、加熱器5の移動を停止させる際に作業者に通報するためのアラームを発生させるようにしたり、曲げ対象鋼板6に設定してある次の走査線まで加熱器5を移動させて、該次の走査線に沿う個所の加熱器5による加熱を開始させる等、図4の実施の形態で示した以外の処理を行わせるようにしてもよい。
【0044】
加熱器5に設ける磁気センサとして、磁場検出コイル16,16aを例示したが、加熱器5の誘導加熱コイルで発生させる交番磁束18を有する磁場の変動を検出できるようにしてあれば、上記磁場検出コイル16,16a以外のいかなる形式の磁気センサを用いるようにしてもよい。
【0045】
本発明の高周波誘導加熱装置による板端部検出装置は、誘導加熱コイルを具備した加熱器5を、鋼板(金属板)の表面に沿わせて移動させるようにしてある形式の高周波誘導加熱装置であれば、線状加熱を行う高周波誘導加熱装置以外のいかなる高周波誘導加熱装置に適用してもよい。
【0046】
上記各実施の形態では、高周波誘導加熱装置の加熱器5の図示しない誘導加熱コイルがパンケーキ型の誘導加熱コイルであるとして、該加熱器5が曲げ対象鋼板6の板端部より離反している個所の上側に配置されている場合は、上記加熱器5の図示しない誘導加熱コイルで発生させる磁場によって曲げ対象鋼板6の表面付近に該加熱器5と同心円状の渦電流19が誘導されるものとして示したが、加熱器5を鋼板(金属板)の表面に沿わせて移動させることで該鋼板の加熱を行うことができるようにしてあれば、上記加熱器5に装備する誘導加熱コイルの形状は、パンケーキ型以外の任意の形状の誘導加熱コイルとして、加熱器5が鋼板の板端部より離反している個所の上側に配置されている場合に該鋼板に円形以外の任意の形状の渦電流を誘導するようにしてあってもよい。この場合、磁場検出コイル16,16aは、上記加熱器5の誘導加熱コイルにより鋼板に誘導される円形以外の任意の形状としてある渦電流の形が、加熱器5が鋼板の板端部より離反している個所の上側に配置されている状態から上記鋼板の板端部に接近することに伴い該板端部の制限を受けて変形することで生じる磁場の乱れによって出力値20に変動が生じるように設けてあればよい。
【0047】
その他本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々変更を加え得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の高周波誘導加熱装置による板端部検出装置の実施の一形態を示すもので、(イ)は高周波誘導加熱装置の加熱器が曲げ対象鋼板の板端部より離れた位置にあるときの状態を、(ロ)は加熱器が曲げ対象鋼板の板端部に接近した位置にあるときの状態をそれぞれ示す概要図である。
【図2】図1の装置の端部検出器にて、磁場検出コイルの出力値に基づく板端部の検出の判断基準を示す図である。
【図3】図1の装置を高周波誘導加熱装置の制御系に組み込む場合の一例を示す概要図である。
【図4】本発明の実施の他の形態の磁場検出コイル部分を示す概略斜視図である。
【図5】本出願人が以前提案している線状加熱を行うための高周波誘導加熱装置の一例の概略を示す正面図である。
【図6】図5の装置の概略切断側面図である。
【図7】図5の装置の制御系の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0049】
5 加熱器
6 曲げ対象鋼板(鋼板)
16,16a 磁場検出コイル(磁気センサ)
17 端部検出器
18 交番磁束
19 渦電流
20 出力値(出力)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘導加熱コイルを具備した加熱器を鋼板の表面に沿って移動させながら該加熱器による鋼板の高周波誘導加熱を行うようにしてある高周波誘導加熱装置における上記加熱器に、上記誘導加熱コイルで発生させる交番磁束を備えた磁場を検出するための磁気センサを設け、更に、上記磁気センサの出力の変化を基に上記鋼板の板端部の検出を行う端部検出器を備えてなる構成を有することを特徴とする高周波誘導加熱装置による板端部検出装置。
【請求項2】
端部検出器を、加熱器の誘導加熱コイルにより発生させる磁場により鋼板の表面付近に誘導する渦電流の形が該鋼板の板端部による制限を受けて変形するときに、該渦電流の形の変形に起因して上記磁場に生じる変動を磁気センサの出力の変化を基に検出することで、上記鋼板の板端部の検出を行う機能を有するものとした請求項1記載の高周波誘導加熱装置による板端部検出装置。
【請求項3】
磁気センサを、加熱器の誘導加熱コイルの配置面と垂直な軸心を有する磁場検出コイルとした請求項1又は2記載の高周波誘導加熱装置による板端部検出装置。
【請求項4】
加熱器の上側に、磁場検出コイルを、該加熱器と同心状に配置して設けるようにした請求項3記載の高周波誘導加熱装置による板端部検出装置。
【請求項5】
加熱器の外周部の上側に、周方向所要間隔で複数の磁場検出コイルを設けるようにした請求項3記載の高周波誘導加熱装置による板端部検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−114035(P2010−114035A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−287689(P2008−287689)
【出願日】平成20年11月10日(2008.11.10)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【出願人】(502422351)株式会社アイ・エイチ・アイ マリンユナイテッド (159)
【Fターム(参考)】