説明

高周波誘導加熱装置の加熱コイルの偏心駆動機構

【課題】高周波誘導加熱装置の加熱コイルの偏心量を正確に調整可能にすることである。
【解決手段】第1回転駆動手段9で回転駆動される第1カム6と、加熱コイル2を偏心回転させる第2カム7とを備え、第1カム6と第2カム7とが係合し、第2カム7と第1カム6の相対回転の許容と阻止とを切り替え可能とし、第2カム7と第1カム1の相対回転を許容した状態で、第1カム6の回転角度位置を変更することによって第2カム7の回転中心位置を変更する。誘導加熱時には、第1カム6を第2カム7と一体に回転させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カムシャフトのカム部のような、誘導加熱時にワークの焼入部位が偏心回転移動する場合に、誘導加熱コイルを焼入部位に追従させる高周波誘導加熱装置の加熱コイルの偏心駆動機構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カムシャフトを回転させると、カム部は回転軸を中心に偏心移動する。また、ワークを高周波焼入れする場合、誘導加熱コイルを焼入部位(カム部)に対向配置し、焼入部位の表面に高周波の誘導電流を生じさせる。ところで、カム部の周面を一様に誘導加熱するために、従来の高周波誘導加熱装置では、カム部の偏心移動に追従して誘導加熱コイルを偏心回転移動させている。
【0003】
しかし、ワークや加熱条件によって、誘導加熱コイルの偏心回転の偏心量を変更する必要がある。本件出願人は、既に誘導加熱コイルの偏心回転の偏心量を変更することができる偏心駆動装置を発明しており、その構成が特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3522636号公報
【0005】
特許文献1の偏心駆動装置は、加熱コイルの偏心回転の偏心量を所定の範囲で任意に設定可能であるが、偏心量の設定操作が直接的ではなく、偏心カムユニットによる偏心量の設定は無段階にできるものの、偏心量を正確に設定しにくいものであった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は、偏心量を正確に設定可能な高周波誘導加熱装置の加熱コイルの偏心機構を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための請求項1の発明は、誘導加熱対象物であるワークに対向配置され、該ワークの表面に高周波誘導電流を生じさせる加熱コイルを偏心回転駆動する高周波誘導加熱装置の加熱コイルの偏心駆動機構において、第1回転駆動手段で回転駆動される第1カムと、前記加熱コイルを偏心回転させる第2カムとを備え、前記第1カムと第2カムとが係合し、第2カムと第1カムの相対回転の許容と阻止とが切り替え可能であり、第2カムと第1カムの相対回転を許容した状態で、第1カムの回転角度位置を変更することによって第2カムの回転中心位置が変更可能であることを特徴とする高周波誘導加熱装置の加熱コイルの偏心駆動機構である。
【0008】
請求項1の発明では、第1回転駆動手段で回転駆動される第1カムと加熱コイルを偏心回転させる第2カムの相対回転の許容と阻止とが切り替え可能である。よって、両カムの相対回転を阻止すると両カムは一体に回転する。また、両カムの相対回転を許容し、さらに第1カムの回転角度位置を変更すると、第2カムの回転中心位置が変化する。その結果、第1カムの回転中心位置は、第2カムによって調整可能になり、加熱コイルの偏心回転の偏心量が所定の範囲で任意に設定可能になる。
【0009】
請求項2の発明は、第2カムに第1カムを入れる収容部を備えたことを特徴とする請求項1に記載の高周波誘導加熱装置の加熱コイルの偏心駆動機構である。
【0010】
請求項2の発明では、第2カムに第1カムを入れる収容部を備えたので、偏心駆動機構の省スペース化を図ることができる。これにより、複数の加熱コイルを近接配置し易くなり、レイアウトの自由度が高まる。よって、ワーク上に複数の焼入箇所がある場合、これらの複数の焼入箇所を同時に誘導加熱する高周波誘導加熱装置を構成し易くなる。
【0011】
請求項3の発明は、第2カムを第1カムと等角速度で回転させる第2回転駆動手段を設けたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の高周波誘導加熱装置の加熱コイルの偏心駆動機構である。
【0012】
請求項3の発明では、第2カムを第1カムと等角速度で回転させる第2回転駆動手段を設けたので、第2カムを第1カムと等角速度で回転させると、両カムは一体に回転する。よって、第2回転駆動手段を設けることによって、第2カムと第1カムの相対回転の許容と阻止とを実現できる。すなわち、第1カムと第2カムの相対回転を阻止する際に、両カムを固定せずに済み、固定するための機構が不要になる。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、加熱コイルの偏心量が所定の範囲で任意且つ正確に設定可能である。その結果、本発明を実施すると、偏心量の調整が可能になるので、汎用性を有する高周波誘導加熱装置の加熱コイルの偏心駆動機構を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明を実施した加熱コイルの偏心駆動機構を備えた高周波誘導加熱装置の側面図である。
【図2】ワークに加熱コイルが対向している状態の正面図である。
【図3】図1において、ワークが180度偏心回転した状態の加熱コイルの偏心駆動機構を備えた高周波誘導加熱装置の側面図である。
【図4】本発明を実施した加熱コイルの偏心駆動機構の主要部の正面図であり、(a)〜(d)は第1カムと第2カムの回転中心が一致している状態で固定されて90度ずつ回転移動した状態を示す。
【図5】第1カムが第2カムに対して図2の状態から反時計回りに90度回転して固定された状態の加熱コイルの偏心駆動機構の主要部の正面図であり、(a)〜(d)は一体となった第1カムと第2カムとが90度ずつ回転移動した状態を示す。
【図6】第1カムが第2カムに対して図2の状態から180度回転して固定された状態の加熱コイルの偏心駆動機構の主要部の正面図であり、(a)〜(d)は一体となった第1カムと第2カムとが90度ずつ回転移動した状態を示す。
【図7】第1カムが第2カムに対して図2の状態から反時計回りに270度回転して固定された状態の加熱コイルの偏心駆動機構の主要部の正面図であり、(a)〜(d)は一体となった第1カムと第2カムとが90度ずつ回転移動した状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0015】
図1は、本発明を実施した加熱コイルの偏心駆動機構を備えた高周波誘導加熱装置の側面図であり、図3は、図1において、ワークが180度偏心回転した状態の加熱コイルの偏心駆動機構を備えた高周波誘導加熱装置の側面図である。また、図2は、ワークに加熱コイルが対向している状態の正面図である。
まず、図1〜図3を参照しながら加熱コイル2の偏心駆動機構4の構成を説明し、その後に偏心駆動機構4の動作を説明する。
【0016】
図2に示すように加熱コイル2は、ワークであるカムシャフト3のカム部3aの外周に配置可能な環状コイルである。加熱コイル2は、中空の導体で構成されており、加熱コイル2には、図示しない交流電源,高周波発振器等から構成される高周波電源から供給される高周波の交流電流の誘導電流が流れる。また、加熱コイル2の内部には冷却水が供給され、誘導加熱時に加熱コイル2自体が過熱焼損することを防止する。
【0017】
この加熱コイル2の上部は、絶縁素材からなる加熱コイル体5で被覆されている。また、加熱コイル体5は加熱コイル2の筐体として機能し、連結部材20を介して偏心駆動機構4(後述の支持部材8)と接続されている。偏心駆動機構4は、次のような構成を備えている。
【0018】
図1,図3に示すように偏心駆動機構4は、第1モータ9(第1回転駆動手段)で回転駆動される第1カム6,第2モータ10(第2回転駆動手段)で回転駆動される第2カム7を備えている。第2カム7には中空孔14が設けられており、中空孔14(収容部)にはすべり軸受13を介して第1カム6が嵌っている。また、第2カム7には外向きフランジ部18が設けられており、外向きフランジ部18には歯車の歯7aが形成されている。
【0019】
一方、第1カム6は、第1モータ9の軸9aで貫通されており、第1カム6は軸9aと共に回転する。第1モータ9は、床30上に配置された支持台17上に設置された支柱15と一体の載置台19上に載置されている。第1モータ9の軸9aは、支柱15に設けられた孔15aを貫通し、さらに第1カム6を貫通し、端部が支柱16によって支持されている。すなわち、支持台17上には支柱15の他に支柱16が設置されており、支柱16には軸9aを回転可能に支持する軸受(図示せず)が設けられている。
よって、第1カム6,第2カム7は、第1モータ9の軸9aを介して支柱15,16によって支持されている。
【0020】
また、図1,図3に示すように第2カム7の外側には玉軸受12を介して支持部材8が装着されている。よって、支持部材8は玉軸受12によって第2カム7に対して回転可能である。この支持部材8には第2モータ10が設置されている。第2モータ10の回転軸10aには歯車11が装着されている。
【0021】
歯車11は、第2カム7の外向きフランジ部18に設けた歯7aと噛み合っている。よって、第2モータ10が駆動されると、歯車11が回転し、歯車11から第2カム7に回転動力が伝達され、第2カム7が回転駆動される。
【0022】
支持部材8には、連結部材20を介して加熱コイル体5が接続されている。すなわち、加熱コイル体5は、連結部材20,支持部材8,第1モータ9の軸9a等を介して支柱15,16で支持されている。なお、偏心駆動機構4は、図示しないリニアガイドに沿って上下方向及び水平方向(紙面の手前側から奥側に延びる方向)に移動可能になっている。
【0023】
次に、偏心駆動機構4の動作を説明する。
上述したように、第1カム6と第2カム7とはすべり軸受13を介して一体化されている。すなわち、第2カム7は、すべり軸受13によって第1カム6に対して回動が可能である。この第1カム6と第2カム7の関係について、図4〜図7を参照しながら説明する。図4は、本発明を実施した加熱コイルの偏心駆動機構の主要部の正面図であり、図4(a)〜(d)は第1カムと第2カムの回転中心が一致している状態で固定されて90度ずつ回転移動した状態を示す。
【0024】
まず、図4(a)に示すように第1カム6の偏心した回転中心6aが、第2カム7の中心7bと一致し、第1カム6と第2カム7とが一体に回転中心6aを中心に回転すると、第1カム6は偏心回転するが、第2カム7は偏心せずにその場で回転する。
すなわち、図4(a)〜(d)に示すように、第1カム6の回転中心6aと第2カム7の中心7bとを一致させ、両カムを一体に(すなわち、すべり軸受13で両カムを摺動させないで)回転させると、第2カム7は偏心回転しない。よって、両カムを一体に1回転させても、歯車11はその場で回転するだけである。
【0025】
次に、図5〜図7に示すように、第1カム6の回転中心6aと第2カム7の中心7bとが一致しない場合に、両カムを一体に(すなわち、すべり軸受13で両カムを摺動させないで)回転させると、第1カム6の回転中心6aと第2カム7の中心7bの距離に応じて第2カム7は偏心回転する。
【0026】
図5に示す例では、第1カム6の回転中心6aと第2カム7の中心7bとが距離L1だけ離れている。すなわち、第2カム7は距離L1だけ偏心している。この状態で両カムが一体に回転すると、第2カム7は第1カム6の回転中心6aを中心に偏心回転(すなわち公転)し、第2カム7に噛み合っている歯車11も同様に偏心回転する。
【0027】
同様に図6に示す例を見ると、図6では第1カム6の回転中心6aと図7の中心7bとが距離L2だけ離れている。距離L2は距離L1(図5)よりも大きいため、第2カム7及び歯車11の偏心回転の偏心量(公転半径)は大きくなる。図6では、図4の状態から第1カム6を第2カム7に対して180度回転させている。この図6が、第1カム6の回転中心6aから第2カム7の中心7bまでの距離が最大になる場合を示している。
【0028】
すなわち、第1カム6の第2カム7に対する回転角度が180度のときの回転中心6aから中心7bまでの距離L2が最大値である。また、図7に示すように、第1カム6を第2カム7に対して反時計回りに270度回転させると、90度回転させた場合と同様に回転中心6aから中心7bまでの距離はL1となる。
【0029】
このように第1カム6と第2カム7とを動作させる(すなわち、第2カム7の回転中心7bの偏心量を調整する)には、第2モータ10は停止させておき、第1モータ9のみを駆動し、第1カム6を第2カム7に対して回転させる。そして、第2カム7の偏心量をゼロから距離L2の範囲で調整し、第1モータ9を停止させる。すなわち、ワーク3のカム部3aの偏心回転に加熱コイル2が追従できるように、第2カム7の偏心量が適宜調整される。
【0030】
ここで、第2モータ10の停止中は歯車11及び第2カム7は回転できないように第2モータ10の軸が固定されており、第1モータ9を駆動すると、第1カム6だけが回転し、第1カム6と第2カム7は相対的に回転する。この状態で第2カム7の偏心量をゼロから距離L2の間で設定する。第2カム7の偏心量の設定が終わると、ワーク3のカム部3aの誘導加熱が可能となる。すなわち、第1カム6と第2カム7の相対回転の許容と阻止とが、第2モータ10の停止と駆動とで実現され、両カムを一体に偏心回転させたり、第2カム7の偏心量を調整することができるようになる。
【0031】
加熱コイル2に通電し、ワーク3のカム部3aの誘導加熱を開始すると、図示しないモータによってワーク3は軸3bを中心に回転駆動され、カム部3aは軸3bを中心に偏心回転する。加熱コイル2がワーク3のカム部3aの周面を一様に誘導加熱するため、誘導加熱に先立って予め上述のように第2カム7の偏心量を設定しておく。
第2カム7の偏心量の設定が完了すると、加熱コイル2がワーク3のカム部3aの偏心回転移動に対応して移動可能になる。
【0032】
次に、ワーク3のカム部3aの誘導加熱を開始すると、ワーク3を回転駆動する図示しないモータと同期して第1モータ9と第2モータ10とを駆動する。ここで、第2モータ10が駆動されると、歯7aで歯車11と噛み合っている第2カム7が回転する。ところで、このとき第1カム6も回転しており、その結果、第1カム6と第2カム7とは一体に回転する。第2カム7は、第2モータ10を搭載した支持部材8に対して、玉軸受12を介して円滑に回転する。第2モータ10は、第1モータ9と同期して等角速度で回転する。
【0033】
カム部3aの偏心回転に対応して、例えば図5〜図7に示すように、第2カム7の中心7bが第1カム6の回転中心6aから偏心しており、支持部材8,連結部材20,加熱コイル体5,及び加熱コイル2が一体に偏心回転する。
【0034】
以上では、第1モータ9と第2モータ10とを使用する例を示したが、本発明はこれによらず、第1モータ9のみで第1カム6と第2カム7とを回転駆動できるようにしてもよい。その際には、第2カム7と第1モータ9とは動力の接続と遮断(すなわち、第1カム6と第2カム7の相対回転の許容と阻止)とを切り替えられるようにする。例えば、第1モータ9の軸9aにチャックを設け、このチャックで第2カム7を把持すると第2カム7と第1カム6とが同時に回転し、チャックによる第2カム7の把持を解除すると第1モータ9の動力は第1カム6のみに伝達されるようにすることができる。また、加熱コイル2は環状コイルであるが、誘導加熱するワークによっては半開放鞍型のコイルであっても本発明は支障なく実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、カムシャフトのカム部のような、誘導加熱時に偏心回転するワークを誘導加熱する高周波誘導加熱装置の加熱コイルの偏心量を調整する場合に利用可能である。
【符号の説明】
【0036】
1 高周波誘導加熱装置
2 加熱コイル
3 ワーク(カムシャフト)
3a カム部
4 偏心駆動機構
5 加熱コイル体
6 第1カム
7 第2カム
9 第1モータ(第1回転駆動手段)
10 第2モータ(第2回転駆動手段)
11 第2カムの歯車
12 玉軸受
13 すべり軸受

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘導加熱対象物であるワークに対向配置され、該ワークの表面に高周波誘導電流を生じさせる加熱コイルを偏心回転駆動する高周波誘導加熱装置の加熱コイルの偏心駆動機構において、
第1回転駆動手段で回転駆動される第1カムと、前記加熱コイルを偏心回転させる第2カムとを備え、前記第1カムは第2カムと係合しており、第2カムと第1カムの相対回転の許容と阻止とが切り替え可能であり、第2カムと第1カムの相対回転を許容した状態で、第1カムの回転角度位置を変更することによって第2カムの回転中心位置が変更可能であることを特徴とする高周波誘導加熱装置の加熱コイルの偏心駆動機構。
【請求項2】
第2カムに第1カムを入れる収容部を備えたことを特徴とする請求項1に記載の高周波誘導加熱装置の加熱コイルの偏心駆動機構。
【請求項3】
第2カムを第1カムと等角速度で回転させる第2回転駆動手段を設けたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の高周波誘導加熱装置の加熱コイルの偏心駆動機構。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2011−1978(P2011−1978A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−143596(P2009−143596)
【出願日】平成21年6月16日(2009.6.16)
【出願人】(390026088)富士電子工業株式会社 (48)
【Fターム(参考)】