説明

高周波誘導加熱装置

【課題】長尺で幅の狭い薄板状被加熱物を効率よく加熱する高周波誘導加熱装置を提供する。
【解決手段】トランスバース型構造の高周波誘導加熱装置であって、薄板状被加熱物の幅より幅の広い中央に位置する第1の凸部に第1の誘導コイルが配設されたE字形状の第1の磁性部材と、第1の磁性部材と所定の間隙を開けて凹凸部が互いに対向するように配置され、薄板状被加熱物の幅より幅の広い中央に位置する第2の凸部に第2の誘導コイルが配設されたE字形状の第2の磁性部材と、第1の磁性部材と第2の磁性部材の両端に位置する凸部において第1の磁性部材と第2の磁性部材とを接合する第3の磁性部材とを有し、第1の凸部と第2の凸部とに挟まれて形成された空間内に長尺の薄板状被加熱物を第1の凸部および第2の凸部の幅方向に直交する方向に通過させるようにしたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波誘導加熱装置に関し、さらに詳細には、薄板状の形状を備えた金属の被加熱物(本明細書においては、「薄板状の形状を備えた金属の被加熱物」を単に「薄板状被加熱物」と適宜に称することとする。)を加熱する際に用いて好適な高周波誘導加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、各種の形状を備えた被加熱物、例えば、薄板状被加熱物を加熱するにあたっては、電気炉やガス炉などが使用されてきた。
【0003】
ところが、電気炉やガス炉を用いて長尺の薄板状被加熱物を加熱するには、薄板状被加熱物の長さに見合った長い炉が必要とされ、炉の機動および停止に長い時間が必要になるという問題点があった。
【0004】
このため、近年においては、起動および停止に長い時間を必要としない高周波による電磁誘導を利用した高周波誘導加熱装置により、長尺の薄板状被加熱物を加熱することが行われている。
【0005】
ここで、従来の高周波誘導加熱装置としては、例えば、トンネル状に形成された誘導コイルのトンネル内に薄板状被加熱物を通過させて加熱するタイプの高周波誘導加熱装置や、薄板状被加熱物の上下に誘導コイルを配置した構造(トランスバース型構造)を備えた高周波誘導加熱装置(トランスバース型構造を備えた高周波誘導加熱装置においては、薄板状被加熱物の上下に配置された誘導コイルが作る高周波磁束が当該薄板状被加熱物を貫通することにより、当該薄板状被加熱物に渦電流が誘導されて当該薄板状被加熱物が加熱されることになる。)などが知られている。
【0006】

しかしながら、上記したような従来の高周波誘導加熱装置により長尺で幅の狭い薄板状被加熱物を加熱する場合には、誘導コイルが作る高周波磁束を幅の狭い薄板状被加熱物に効率よく貫通させることが困難であり、長尺で幅の狭い薄板状被加熱物を効率よく加熱することができず、高周波発振器から発振される高周波エネルギーの多くを損失していたという問題点があった。
【0007】

なお、本願出願人が特許出願時に知っている先行技術は、上記において説明したようなものであって文献公知発明に係る発明ではないため、記載すべき先行技術情報はない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記したような従来の技術の有する種々の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、長尺で幅の狭い薄板状被加熱物を効率よく加熱することができるようにした高周波誘導加熱装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明による高周波誘導加熱装置は、薄板状被加熱物の幅よりも幅の広い凸部に挟まれて形成された空間内に、幅方向と直交する方向に薄板状被加熱物が通過するようにしたものである。
【0010】

即ち、本発明のうち請求項1に記載の発明は、長尺の薄板状被加熱物を誘導加熱するトランスバース型構造の高周波誘導加熱装置であって、薄板状被加熱物の幅より幅の広い中央に位置する凸部に第1の誘導コイルが配設されたE字形状の第1の磁性部材と、上記第1の磁性部材と所定の間隙を開けて凹凸部が互いに対向するように配置され、薄板状被加熱物の幅より幅の広い中央に位置する凸部に第2の誘導コイルが配設されたE字形状の第2の磁性部材と、上記第1の磁性部材と上記第2の磁性部材とのそれぞれ両端に位置する凸部において上記第1の磁性部材と上記第2の磁性部材とを接合し、上記第1の凸部と上記第2の凸部とに挟まれて形成された空間内に長尺の薄板状被加熱物を上記第1の凸部および上記第2の凸部の幅方向に直交する方向に通過させるようにしたものである。
【0011】
従って、本発明のうち請求項1に記載の発明によれば、薄板状被加熱物が通過する際の入口と出口を除いてクローズされた磁気回路が構成されるため、高周波誘導加熱装置の外部へ漏れる漏れ磁束を大幅に減少することができる。
【0012】
また、本発明のうち請求項2に記載の発明は、本発明のうち請求項1に記載の発明において、上記第1の磁性部材と上記第2の磁性部材とは、上記第1の磁性部材と上記第2の磁性部材とのそれぞれ両端に位置する凸部において第3の磁性部材を介して接合されるようにしたものである。
【0013】
また、本発明のうち請求項3に記載の発明は、長尺の薄板状被加熱物を誘導加熱するトランスバース型構造の高周波誘導加熱装置であって、薄板状被加熱物の幅より幅の広い凸部の一方に第1の誘導コイルが配設されたU字形状の第1の磁性部材と、上記第1の磁性部材と所定の間隙を開けて凹凸部が互いに対向するように配置され、薄板状被加熱物の幅より幅の広い凸部の一方に第2の誘導コイルが配設されたU字形状の第2の磁性部材と、上記第1の磁性部材の他方の凸部と上記第2の磁性部材の他方の凸部とにおいて、上記第1の磁性部材と上記第2の磁性部材とを接合し、上記第1の磁性部材の一方の凸部と上記第2の磁性部材の一方の凸部とに挟まれて形成された空間に長尺の薄板状被加熱物を上記第1の磁性部材の一方の凸部および上記第2の磁性部材の一方の凸部の幅方向と直交する方向に通過させるようにしたものである。
【0014】
また、本発明のうち請求項4に記載の発明は、本発明のうち請求項3に記載の発明において、上記第1の磁性部材と上記第2の磁性部材とは、上記第1の磁性部材の他方の凸部と上記第2の磁性部材の他方の凸部において第3の磁性部材を介して接合されるようにしたものである。
【0015】
また、本発明のうち請求項5に記載の発明は、長尺の薄板状被加熱物を加熱するトランスバース型構造の高周波誘導加熱装置であって、薄板状被加熱物の幅より幅が広い複数の凸部に誘導コイルが配設された第1の磁性部材と、薄板状被加熱物の幅より幅が広い複数の凸部に誘導コイルが配設され、上記第1の磁性部材と所定の間隙を開けて凹凸部が互いに対向するように配置された第2の磁性部材と、上記間隙に前記複数の凸部の幅方向と直交するように配設された薄板状被加熱物を搬送する搬送ラインとを有し、上記搬送ラインにより長尺の薄板状被加熱物が搬送されるようにしたものである。
【0016】
また、本発明のうち請求項6に記載の発明は、本発明のうち請求項1、2、3、4または5のいずれか1項に記載の発明において、上記薄板状被加熱物の厚さは、0.3mm〜5mmであるようにしたものである。
【0017】
また、本発明のうち請求項7に記載の発明は、本発明のうち請求項1、2、3、4または5のいずれか1項に記載の発明において、上記薄板状被加熱物の厚さは、1mm〜5mmであるようにしたものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、以上説明したように構成されているので、長尺で幅の狭い薄板状被加熱物を効率よく加熱することができるという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明による高周波誘導加熱装置の実施の形態の一例を詳細に説明するものとする。
【0020】

まず、図1乃至図2(a)(b)を参照しながら、本発明による高周波誘導加熱装置の第1の実施の形態について説明する。
【0021】
即ち、図1には本発明の第1の実施の形態による高周波誘導加熱装置の概略構成斜視説明図が示されており、また、図2(a)には図1に示す高周波誘導加熱装置の右側面図が示されており、図2(b)には図1に示す高周波誘導加熱装置のA−A線による断面構成説明図が示されている。
【0022】
この図1乃至図2(a)(b)に示す高周波誘導加熱装置10は、トランスバース型構造の高周波誘導加熱装置であって、金属製(例えば、アルミニウム製である。)の長尺で幅の狭い薄板状被加熱物12を通過させる所定の間隙g1を開けて対向して配設された一対の磁性部材たる断面E字形状のフェライトコア14およびフェライトコア16と、フェライトコア14とフェライトコア16の両端の凸部においてフェライトコア14とフェライトコア16とを接合するフェライトコア18と、高周波発振器(図示せず。)により発生された高周波電流を導通する線路たるフィーダー(図示せず。)を介して当該高周波発振器から高周波電流を給電される誘導コイル20および誘導コイル22を有して構成されている。
【0023】
なお、所定の間隙g1は、薄板状被加熱物12の厚さtや薄板状被加熱物12の上下の位置変動あるいは加熱効率により決定される。
【0024】

より詳細には、フェライトコア14とフェライトコア16とは、E字形状を構成する凹凸面を互いに対向させて配置され、その両端の凸部においてフェライトコア18により接合されている。
【0025】
また、誘導コイル20は、フェライトコア14が形成する凹所14a内において、フェライトコア14の中央に位置する凸部14bを囲うように配置されている。同様に、誘導コイル22は、フェライトコア16が形成する凹所16a内において、フェライトコア16の中央に位置する凸部16bを囲うように配置されている。
【0026】
ここで、フェライトコア14の中央に位置し誘導コイル20で囲まれた凸部14bとフェライトコア16の中央に位置し誘導コイル22で囲まれた凸部16bのそれぞれの幅W1は、薄板状被加熱物12の幅W2よりも大きくなるように設計されており、凸部14bと凸部16bとにより挟まれた空間S1内を薄板状被加熱物12は通過することになる。
【0027】
なお、薄板状被加熱物12は、所定の速度で後方から前方へ連続的に移動しているものとする。
【0028】

以上の構成において、トランスバース型構造の高周波誘導加熱装置10の誘導コイル20および誘導コイル22に高周波発振器からフィーダーを介して高周波電流が給電されると、誘導コイル20および誘導コイル22が作る磁束が空間S1を通過する薄板状被加熱物12を貫通することになり、これにより薄板状被加熱物12に渦電流が誘導されて薄板状被加熱物12が加熱されることになる。
【0029】

ここで、仮に、フェライトコア14の中央に位置する凸部14bとフェライトコア16の中央に位置する凸部16bとのそれぞれの幅W1が薄板状被加熱物12の幅W2より小さい場合では、薄板状被加熱物12は図3(a)に示すような温度分布となり、薄板状被加熱物12のエッジ12a、12bにおける温度は薄板状被加熱物12の中央部付近の温度より低くなる。これに対して、トランスバース型構造の高周波誘導加熱装置10のようにフェライトコア14の中央に位置する凸部14bとフェライトコア16の中央に位置する凸部16bとのそれぞれの幅W1が薄板状被加熱物12の幅W2より大きい場合では、薄板状被加熱物12は図3(b)に示すような温度分布となり、薄板状被加熱物12のエッジ12a、12bにおける温度が薄板状被加熱物12の中央部付近の温度より高くなる。
【0030】
従って、トランスバース型構造の高周波誘導加熱装置10においては、空間S1に生起される磁束中を薄板状被加熱物12が通過すると、薄板状被加熱物12に渦電流が誘導されて薄板状被加熱物12が加熱されることになるが、その際に、薄板状被加熱物12の表面全面に流れる渦電流は薄板状被加熱物12の幅W2方向における両方の端部たるエッジ12a、12bへ主に流れることになる。つまり、トランスバース型構造の高周波誘導加熱装置10では、フェライトコア14の中央に位置する凸部14bとフェライトコア16の中央に位置する凸部16bとのそれぞれの幅W1が薄板状被加熱物12の幅W2より大きくなるように設計されているので、フェライトコア14の中央に位置する凸部14bとフェライトコア16の中央に位置する凸部16bとにより挟まれた空間S1を通過する薄板状被加熱物12は図3(b)に示す温度分布を示し、薄板状被加熱物12のエッジ12a、12bにおける温度が薄板状被加熱物12の他の部位より上昇し、薄板状被加熱物12内においてエッジ12a、12bの温度のみが他の領域と比べて高くなる。なお、薄板状被加熱物の表面全面に流れる渦電流が薄板状被加熱物の幅方向における両方の端部たるエッジへ主に流れるようになり、当該エッジが加熱される効果をエッジ効果と称する。
【0031】

ここで、本願発明者が上記したトランスバース型構造の高周波誘導加熱装置10を用いて行った実験結果について説明する。
【0032】
この実験においては、フェライトコア14の中央に位置する凸部14bおよびフェライトコア16の中央に位置する凸部16bのそれぞれの幅W1を29mmとし、材質、幅W2および厚さtの異なった薄板状被加熱物12を用いて、各サイズにおける薄板状被加熱物12の誘導加熱効率を測定するようにした。この誘導加熱効率を測定する計算式としては次式を用いた。
【0033】
効率%=(PLoad−PNonload)/PLoad×100
なお、PLoadは負荷時の全電力とし、PNonloadは無負荷時の全電力とした。つまり、PLoad−PNonloadは実際に薄板状被加熱物12の温度を上昇させるために使用された電力(有効電力)とし、PNonloadは誘電加熱に使用するインバーターの変換効率もしくは加熱コイル損出などといった薄板状被加熱物12以外の温度を上昇させた電力(無効電力)とした。
【0034】
ここで、図4には、フェライトコア14の中央に位置する凸部14bおよびフェライトコア16の中央に位置する凸部16bのそれぞれの幅W1を一定とし、材質、幅W2および厚さtの異なったサンプルNo.1〜4の4種類の薄板状被加熱物12における誘導加熱効率を算出した結果を表で示しており、詳細には、幅W1が29mm、幅W2が16mm、厚さtが1mmのアルミ製チューブであるサンプルNo.1と、幅W1が29mm、幅W2が16mm、厚さtが5mmのアルミ製チューブであるサンプルNo.2と、幅W1が29mm、幅W2が25mm、厚さtが0.3mmの銅箔であるサンプルNo.3と、幅W1が29mm、幅W2が50mm、厚さtが0.3mmの銅箔であるサンプルNo.4との誘導加熱効率を測定した結果を示した。
【0035】
サンプルNo.3とサンプルNo.4とを比較すると、幅W2が幅W1より小さいサンプルNo.3では誘導加熱効率30%であるのに対し、幅W2が幅W1より大きいサンプルNo.4では誘導加熱効率は20%以下となっており、幅W2が幅W1より小さい方が誘導加熱効率が高いことが示されている。
【0036】
さらに、サンプルN0.1とサンプルNo.2を比較すると、厚さtが1mmのサンプルNo.1では誘導加熱効率が80%であるのに対し、厚さtが5mmのサンプルNo.2では誘導加熱効率が50%となっており、厚さtは小さい方が誘導加熱効率が高いことが示されている。
【0037】
しかし、サンプルNo.1およびサンプルNo.2とサンプルNo.3およびサンプルNo.4とを比較すると、材質に熱伝導性の高い銅を用い、厚さtが0.3mmのサンプルNo.3およびサンプルNo.4は誘電加熱効率がそれぞれ30%、20%以下であるのに対し、材質に熱伝導性が銅より低いアルミニウムを用い、厚さtが1mmのサンプルNo.1および厚さtが5mmのサンプルNo.2では誘導加熱効率がそれぞれ80%、50%となっており、厚さtが小さすぎると誘導加熱効率が低くなることが示されている。これは、薄板状加熱物が箔ほど薄くなってしまうと熱伝導性が低下し、エッジ効果により温度が高くなったエッジから薄板状被加熱物の中央部分へ均熱化されにくくなったためである。
【0038】
このように、トランスバース型構造の高周波誘導加熱装置10のフェライトコア14の中央に位置する凸部14bおよびフェライトコア16の中央に位置する凸部16bのそれぞれの幅W1は薄板状被加熱物12の幅W2より大きくなるように設計され、薄板状被加熱物12の厚さtを、例えば、0.3mm〜5mmすることにより効率的に誘導加熱を行うことができる。
【0039】

即ち、トランスバース型構造の高周波誘導加熱装置10によれば、フェライトコア14の中央に位置する凸部14bとフェライトコア16の中央に位置する凸部16bとにより挟まれた空間S1を通過する薄板状被加熱物12は図3(b)のような温度分布を示すエッジ効果によってエッジ12a、12bが集中的に加熱されることになるが、フェライトコア14の凸部14bおよびフェライトコア16の凸部16bのそれぞれの幅W1と薄板状被加熱物12の厚さtとは、凸部14bと凸部16bのそれぞれ幅W1が、例えば、29mmであるのに対し、薄板状被加熱物12はその厚さtが、例えば、0.3mm〜5mm、好ましくは、例えば、1mm〜5mmであって、薄板状被加熱物12の幅W2は狭いので、薄板状被加熱物12の中央部分はエッジ12a、12bからの熱伝導によってたちまち均熱化されることにより、薄板状被加熱物12全体が効率的に加熱されることになり、エッジ12a、12bのみが高温になるということがない。
【0040】
また、トランスバース型構造の高周波誘導加熱装置10によれば、フェライトコア18によりフェライトコア14とフェライトコア16とが接合されているため、薄板状被加熱物12が通過する高周波誘導加熱装置10の前方側および後方側を除いてクローズされた磁気回路が構成されるため、高周波誘導加熱装置10の外部へ漏れる漏れ磁束を大幅に減少することができる。
【0041】

次に、図5(a)(b)を参照しながら、本発明による高周波誘導加熱装置の第2の実施の形態について説明する。
【0042】
なお、以下の説明においては、図1乃至図2(a)(b)を参照しながら説明した本発明による高周波誘導加熱装置の第1の実施の形態と同一または相当する構成については、上記において用いた符号と同一の符号を用いることにより、その構成ならびに作用の詳細な説明は適宜に省略することとする。
【0043】
ここで、図5(a)には本発明による第2の実施の形態たる高周波誘導加熱装置30の右側面図が示されており、図4(b)には図4(a)のB−B線による断面構成説明図が示されている。
【0044】
図5(a)(b)に示す高周波誘導加熱装置30は、トランスバース型構造の高周波誘導加熱装置であって、薄板状被加熱物12を搬送する搬送ライン32の上下方向から対向するようにして配置された1対の磁性部材たる断面U字形状のフェライトコア34およびフェライトコア36と、高周波発振器(図示せず。)により発生させられた高周波電流を導通する線路たるフィーダー(図示せず。)とを介して当該高周波発振器から高周波電流を給電される誘導コイル38、誘導コイル40、誘導コイル42および誘導コイル44を有して構成されている。
【0045】
フェライトコア34とフェライトコア36とは、U字形状を構成する凹凸面を互いに対向させ、薄板状被加熱物12が搬送される搬送ライン32を上下方向から挟むようにして、フェライトコア34の凸部34a、34bとフェライトコア36の凸部36a、36bとを搬送ライン32上に位置するように配設されており、誘導コイル38と誘導コイル40とはフェライトコア34の凸部34a、34bにそれぞれ配設され、誘導コイル42と誘導コイル44とはフェライトコア36の凸部36a、36bにそれぞれ配設されている。
【0046】
ここで、フェライトコア34の凸部34a、34bとフェライトコア36の凸部36a、36bのそれぞれの幅W3は、薄板状被加熱物12の幅W2よりも広くなるように設計されており、凸部34a、34bと凸部36a、36bとにより挟まれた空間内を薄板状被加熱物12は通過することになる。
【0047】

以上の構成において、トランスバース型構造の高周波誘導加熱装置30の誘導コイル38、誘導コイル40、誘導コイル42および誘導コイル44に高周波発振器からフィーダーを介して高周波電流が給電されると、誘導コイル38と誘導コイル42および誘導コイル40と誘導コイル44とが作る磁束が搬送ライン32を通過する薄板状被加熱物12を貫通することになり、これにより薄板状被加熱物12に渦電流が誘導されて薄板状被加熱物12が加熱されることになる。
【0048】
このように搬送ライン32上で生起される磁束中に薄板状被加熱物12が通過すると、薄板状被加熱物12に渦電流が誘導されて薄板状被加熱物12が加熱されることになるが、その際に、薄板状被加熱物12の表面全面に流れる渦電流は薄板状被加熱物12の幅W2方向における両方の端部たるエッジ12a、12bへ主に流れることになり、薄板状被加熱物12のエッジ12a、12bが他の部位よりも温度上昇を示し、薄板状被加熱物12内においてエッジ12a、12bの温度のみが他の領域と比べて高くなる。
【0049】
即ち、トランスバース型構造の高周波誘導加熱装置30によれば、薄板状被加熱物12は上記したエッジ効果によりエッジ12a、12bが集中的に加熱されることになるが、フェライトコア34の凸部34a、34bおよびフェライトコア36の凸部36a、36bそれぞれの幅W3と薄板状被加熱物12の厚さtとは、凸部34a、34bおよび凸部36a、36bのそれぞれの幅W3が、例えば、29mmであるのに対し、薄板状被加熱物12はその厚さtが、例えば、0.3mm〜5mm、好ましくは、例えば、1mm〜5mmであって、薄板状被加熱物12の幅W2は狭いので、薄板状被加熱物12の中央部分はエッジ12a、12bからの熱伝導によってたちまち均熱化されることにより、薄板状被加熱物12全体が効率的に加熱されることになり、エッジ12a、12bのみが高温になるということがない。
【0050】

なお、上記した実施の形態は、以下の(1)乃至(4)に示すように変形することができるものである。
【0051】
(1)上記した実施の形態において、第1の実施の形態でE字形状のフェライトコアを用いるようにしたが、これに限られるものではないことは勿論であり、例えば、図6(a)(b)に示すように、U字形状のフェライトコアを用いるようにしてもよい。
【0052】
なお、以下の説明においては、上記した第2の実施の形態による高周波誘導加熱装置30の説明と同様に、図1乃至図2を参照しながら説明した本発明による高周波誘導加熱装置の第1の実施の形態と同一または相当する構成については、上記において用いた符号と同一の符号を用いることにより、その構成ならびに作用の詳細な説明は適宜に省略することとする。
【0053】
この図6(a)(b)に示す高周波誘導加熱装置50は、トランスバース型構造の高周波誘導加熱装置であって、薄板状被加熱物12を通過させる所定の間隙g2を開けて対向して配設された一対の磁性部材たる断面U字形状のフェライトコア54およびフェライトコア56と、フェライトコア54とフェライトコア56とのどちらか一方の凸部においてフェライトコア54とフェライトコア56とを接合するフェライトコア58と、高周波発振器(図示せず。)により発生された高周波電流を導通する線路たるフィーダー(図示せず。)を介して当該高周波発振器から高周波電流を給電される誘導コイル60と誘導コイル62とを有して構成されている。なお、所定の間隙g2は、薄板状被加熱物12の厚さtや薄板状被加熱物12の上下の位置変動あるいは加熱効率により決定される。
【0054】
フェライトコア54とフェライトコア56とは、U字形状を構成する凹凸面を互いに対向させ、どちらか一方の凸部においてフェライトコア58により接合され(図6(a)(b)においては、左側の凸部を接合した場合を示す。)、誘導コイル60はフェライトコア54のフェライトコア58で接合されていない他方の凸部54aを囲うように配置され、誘導コイル62はフェライトコア56のフェライトコア58で接合されていない他方の凸部56aを囲うように配置されている。
【0055】
また、フェライトコア54の誘導コイル60で囲まれた凸部54aとフェライトコア56の誘導コイル62で囲まれた凸部56aのそれぞれの幅W4は、薄板状被加熱物12の幅W2よりも広くなるように設計され、凸部54aと凸部56aとにより挟まれた空間S2を薄板状被加熱物12が通過することになる。
【0056】
従って、トランスバース型構造の高周波誘導加熱装置50によれば、誘導コイル60および誘導コイル62に高周波発振器からフィーダーを介して高周波電流が供給されると、誘導コイル60および誘導コイル62が作る磁束が空間S2を通過する薄板状被加熱物12を貫通することになり、これにより薄板状被加熱物12に渦電流が誘導されて薄板状被加熱物12が加熱されることになる。
【0057】
このように、空間S2に生起される磁束中を薄板状被加熱物12が通過すると、薄板状被加熱物12に渦電流が誘導されて薄板状被加熱物12が加熱されることになるが、その際に、薄板状被加熱物12の表面全面に流れる渦電流は薄板状被加熱物12の幅W2方向における両方の端部たるエッジ12a、12bへ主に流れることになり、薄板状被加熱物12のエッジ12a、12bが他の部位よりも温度上昇を示し、薄板状被加熱物12内においてエッジ12a、12bの温度のみが他の領域と比べて高くなる。
【0058】
即ち、トランスバース型構造の高周波誘導加熱装置50によれば、薄板状被加熱物12は上記したエッジ効果によりエッジ12a、12bが集中的に加熱されることになるが、フェライトコア54の凸部54aおよびフェライトコア56の凸部56aのそれぞれの幅W4と薄板状被加熱物12の厚さtは、凸部54aおよび凸部56aのそれぞれの幅W4が、例えば、29mmであるのに対し、薄板状被加熱物12はその厚さtが、例えば、0.3mm〜5mm、好ましくは、例えば、1mm〜5mmであって、薄板状被加熱物12の幅W2は狭いので、薄板状被加熱物12の中央部分はエッジ12a、12bからの熱伝導によりたちまち均熱化されることにより、薄板状被加熱物12全体が効率的に加熱されることになり、エッジ12a、12bのみが高温になるということがない。
【0059】
(2)上記した第2の実施の形態において、図7に示すように、高周波誘導加熱装置30を並列に並べるようにしてもよい。
【0060】
このように高周波誘導加熱装置30を並列に並べる際には、各高周波誘導加熱装置30の磁界方向が同じ向きになるように配置する。
【0061】
こうした図5に示す構造を採用することにより、複数の薄板状被加熱物12を同時に加熱することが可能になり、しかも、各高周波誘導加熱装置30における磁束の拡散が防止され、加熱効率をさらに高めることができる。
【0062】
(3)上記した第1の実施の形態においては、対向して配置された2つのフェライトコアを当該フェライトコアとは別のフェライトコアを介して接合するようにしたが、これに限られるものではないことは勿論であり、対向して配設された2つのフェライトコアの接合対象の凸部を延長させ2つのフェライトコア同士が直接接合されるようにしてもよい。
【0063】
(4)上記した実施の形態ならびに上記した(1)乃至(3)に示す変形例は、適宜に組み合わせるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、焼鈍などの熱処理や表面処理における加熱手段や、洗浄または塗装後の乾燥工程における乾燥手段として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】図1は、本発明の第1の実施の形態による高周波誘導加熱装置の概略構成斜視説明図である。
【図2】図2(a)は、図1に示す高周波誘導加熱装置の右側面図であり、図2(b)は、図1に示す高周波誘導加熱装置のA−A線による断面構成説明図である。
【図3】図3(a)は、W2>W1における薄板状被加熱物12の温度分布を示したグラフであり、図3(b)は、W2<W1における薄板状被加熱物12の温度分布を示したグラフである。
【図4】図4は、高周波誘導加熱装置10を用い、各サイズの薄板状被加熱物12における誘導加熱効率を示した表である。
【図5】図5(a)は、本発明の第2の実施の形態による高周波誘導加熱装置の右側面図であり、図5(b)は、図5(a)に示す高周波誘導加熱装置のB−B線による断面構成説明図である。
【図6】図6(a)は、本発明の第1の実施の形態による高周波誘導加熱装置の変形例を示す概略構成斜視説明図であり、図6(b)は、図6(a)に示す高周波誘導加熱装置のC−C線による断面構成説明図である。
【図7】図7は、本発明による高周波誘導加熱装置の第2の実施の形態の変形例を示し、図5(b)に対応する断面構成説明図である。
【符号の説明】
【0066】
10、30、50 高周波誘導加熱装置
12 薄板状被加熱物
12a、12b エッジ
14、16、18、34、36、54、56、58 フェライトコア
20、22、38、40、42、44、60、62 誘導コイル
32 搬送ライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺の薄板状被加熱物を誘導加熱するトランスバース型構造の高周波誘導加熱装置であって、
薄板状被加熱物の幅より幅の広い中央に位置する凸部に第1の誘導コイルが配設されたE字形状の第1の磁性部材と、
前記第1の磁性部材と所定の間隙を開けて凹凸部が互いに対向するように配置され、薄板状被加熱物の幅より幅の広い中央に位置する凸部に第2の誘導コイルが配設されたE字形状の第2の磁性部材と、
前記第1の磁性部材と前記第2の磁性部材とのそれぞれ両端に位置する凸部において前記第1の磁性部材と前記第2の磁性部材とを接合し、
前記第1の凸部と前記第2の凸部とに挟まれて形成された空間内に長尺の薄板状被加熱物を前記第1の凸部および前記第2の凸部の幅方向に直交する方向に通過させる
ことを特徴とした高周波誘導加熱装置。
【請求項2】
請求項1に記載の高周波誘導加熱装置において、
前記第1の磁性部材と前記第2の磁性部材とは、前記第1の磁性部材と前記第2の磁性部材とのそれぞれ両端に位置する凸部において第3の磁性部材を介して接合される
ことを特徴とする高周波誘導加熱装置。
【請求項3】
長尺の薄板状被加熱物を誘導加熱するトランスバース型構造の高周波誘導加熱装置であって、
薄板状被加熱物の幅より幅の広い凸部の一方に第1の誘導コイルが配設されたU字形状の第1の磁性部材と、
前記第1の磁性部材と所定の間隙を開けて凹凸部が互いに対向するように配置され、薄板状被加熱物の幅より幅の広い凸部の一方に第2の誘導コイルが配設されたU字形状の第2の磁性部材と、
前記第1の磁性部材の他方の凸部と前記第2の磁性部材の他方の凸部とにおいて、前記第1の磁性部材と前記第2の磁性部材とを接合し、
前記第1の磁性部材の一方の凸部と前記第2の磁性部材の一方の凸部とに挟まれて形成された空間に長尺の薄板状被加熱物を前記第1の磁性部材の一方の凸部および前記第2の磁性部材の一方の凸部の幅方向と直交する方向に通過させる
ことを特徴とする高周波誘導加熱装置。
【請求項4】
請求項3に記載の高周波誘導加熱装置において、
前記第1の磁性部材と前記第2の磁性部材とは、前記第1の磁性部材の他方の凸部と前記第2の磁性部材の他方の凸部において第3の磁性部材を介して接合される
ことを特徴とする高周波誘導加熱装置。
【請求項5】
長尺の薄板状被加熱物を加熱するトランスバース型構造の高周波誘導加熱装置であって、
薄板状被加熱物の幅より幅が広い複数の凸部に誘導コイルが配設された第1の磁性部材と、
薄板状被加熱物の幅より幅が広い複数の凸部に誘導コイルが配設され、前記第1の磁性部材と所定の間隙を開けて凹凸部が互いに対向するように配置された第2の磁性部材と、
前記間隙に前記複数の凸部の幅方向と直交するように配設された薄板状被加熱物を搬送する搬送ラインと
を有し、
前記搬送ラインにより長尺の薄板状被加熱物が搬送される
ことを特徴とする高周波誘導加熱装置。
【請求項6】
請求項1、2、3、4または5のいずれか1項に記載の高周波誘導加熱装置において、
前記薄板状被加熱物の厚さは、0.3mm〜5mmである
ことを特徴とする高周波誘導加熱装置。
【請求項7】
請求項1、2、3、4または5のいずれか1項に記載の高周波誘導加熱装置において、
前記薄板状被加熱物の厚さは、1mm〜5mmである
ことを特徴とする高周波誘導加熱装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−243395(P2008−243395A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−78155(P2007−78155)
【出願日】平成19年3月26日(2007.3.26)
【出願人】(000219004)島田理化工業株式会社 (205)
【Fターム(参考)】