説明

高品質3,3’,4,4’−テトラアミノビフェニルの調製方法

本出願は、純粋で、高品質の3,3’,4,4’−テトラアミノビフェニル(TAB)を高収率で製造する方法に関する。さらに詳細には、それは、3段階プロセスを要する3,3’,4,4’−テトラアミノビフェニル(TAB)製造方法に関し、(1)3,3’−ジクロロ−4,4’−ジアミノビフェニル(DCB)を50%H22水で酸化すること、(2)生じた3,3’−ジニトロ4,4’−ジニトロビフェニル(DCDNB)をアンモノリシスすることおよび(3)3,3’−ジアミノ−4,4’−ジニトロビフェニル(DADNB)を塩化第一スズと濃塩酸で還元することである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、式1の高品質3,3’,4,4’−テトラアミノビフェニル(TAB)の高収率調製方法に関する。
【0002】
【化1】

【背景技術】
【0003】
3,3’,4,4’−テトラアミノビフェニル(TAB)は、さまざまな領域で貴重な中間体および最終産物である。たとえば、TABは、良好な熱および機械的安定性を特徴とするポリベンズイミダゾール(PBI)ポリマー類の調製においてモノマーとして使用される。これらのPBIポリマー類は、燃料セル適用のための水素伝導物質として広く使用されている(米国特許2,895,948、3,174,947、5,317,078および6,187,231と比較)。TABはまた、抗酸化剤としておよびエポキサイドレジン類の安定化剤としても使用されている。
【0004】
先行技術においては、TABは、3種の公知方法によって調製されてきた。このようなひとつの公知方法は、NH3水溶液を用いて主にCu触媒類(銅塩類およびCu元素の両者)の存在下、3,3’−ジクロロベンジジン(DAB)のアンモノリシスである。たとえば、フランス国特許明細書1,475,631は、好適には150−210℃である高温でかつ不活性ガス圧上昇下でCuI塩および/またはCu2OおよびCaCl2の存在下におけるDCBのアンモノリシスを記載している。このようにして得られた粗TABは、強酸によるその塩形成により精製する(TAB収率は、理論値の約70%である)。その後、下記に記載のように粗TABからその高純粋形状でかつ高収率でTABを得るためにさまざまな試みがなされた。
【0005】
米国特許3,865,876は、DCBアンモノリシス用触媒として基本的にCuClのみを用いて上述のフランス国特許明細書に記載の方法の結果について、その向上を記載している。約75−82%の純度を有するTABの理論的収率は、約85乃至87%の間である。この生成物は、約3−6重量%のCu含量を有している。米国特許3,943,175のプロセス(CuClの他に、CuCl/Cu粉末もまた、触媒として使用できる)は、TABの精製を記載している(それを、硫酸によりその硫酸塩に変換し、この硫酸塩を単離し、塩基によりTABの形態でそこから放出させる)。このようにして放出されたTABを溶解させ、水溶液から再沈殿させるが、活性炭と珪藻土を添加すると有益である。しかし、TAB中に存在するCu含量は約0.6乃至0.9%であり、使用したDCBに対して理論値のせいぜい45.7%の収率である。
【0006】
ドイツ国特許(Ger.Offen.DE 3,111,470)は、活性炭とジチオン酸ナトリウムを含むH2Oで粗TAB(アンモノリシスプロセスにより得た)を沸騰させることにより、それを精製する(TAB収率は75.9%で、Cu含量は0.0005%以下)ことを開示している。日本国特許(JP60,158,146)はまた、粗TABを活性炭、FeCl3水溶液、およびヒドラチン水和物とともに還流させることによるTAB精製を記載している(TAB収率:83.2%で、10ppm以上のCuを含む)。さらに3個の特許(米国特許4,433,168、5,235,105および欧州特許出願EP 522,577)は、0−5重量%の活性炭および約1−2重量%の水溶性還元剤(アルカリ金属ジチオン酸塩またはアルカリ金属亜硫酸塩)の存在下、温度100−140℃においてN2雰囲気下それを水中で結晶化することにより、粗TAB(銅触媒によるDCBのアンモノリシスにより得た)の精製を記載している(TAB収率:理論値の88.2%で、Cu 10ppmしか含まない)。TAB製造の第2方法にはかなりの関心が寄せられ、出発物質がベンジジンであり、それを無水酢酸でアセチル化し、N,N−ジアセチルベンジジンを形成させる。後者の化合物をその後濃HNO3でニトロ化し、3,3’−ジニトロ−N,N−ジアセチルベンジジンを形成させ、これを塩基で加水分解し、3、3’−ジニトロベンジジンを形成させる。その後、これをさまざまな手段のいずれかにより還元し、TABを形成させる〔H.VogelおよびC.S.Marvel,J.Poly.Sci.Part A1,1531(1963)〕。
【0007】
第3の方法では、ビフェニルからのTAB製造を記載しており、下記の6段階を含む:(1)適当なフリーデル−クラフト触媒の存在下ビフェニルをアセチル化し、4,4’−ジアセチルビフェニル(DAcB)を得ること;(2)DAcBをオキシム化して、DacBジオキシムを形成させること;(3)このジオキシムを二重ベックマン転位に供して、N,N’−ジアセチルベンジジン(DiAcBz)を得ること;(4)このDiAcBzをニトロ化し、3,3’−ジニトロ−N,N’−ジアセチルベンジジン(DNAcBz)を得ること;(5)塩基性加水分解によりDNAcBzのアセチル基を除去して、3,3’−ジニトロベンジジン(DNB)を形成させることおよび(6)DNBのニトロ基を還元して、TABを形成させること(米国特許5,041,666)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記方法は全て、それに関連して下記の欠点を有している:
1.それらが、原材料のひとつとしてベンジジンを利用しており、これは、公知の発癌剤である。
2.銅塩類によって触媒されたDCBの直接アンモノリシスには、高温(200°−300℃)と圧力900−1000psigを必要とし、それは、安全という観点からこのプロセスを危険なものとしている。前記特許操作によりDCBの直接アンモノリシスについての我々独自の経験はTABを得るには非常に失望させるものであり、タール状物質が常にそれに付随してくるからである。
3.直接アンモノリシスにおいて、銅は、おそらくインサイチュでTABと安定な錯体を形成し、その結果、前記錯体からのTAB放出がゆっくりとなる。
4.直接アンモノリシスにおいて、銅は、おそらく対応するトリアミノビフェニルとおよび少量の銅と安定な錯体を形成し、その結果、これらの不純物をTABから分離するのがゆっくりとなる。
5.ジオキシム化方法において、多くの段階が高価なビフェニルから出発して必要となり、低収率である。
【0009】
上記方法の全てが、比較的高価な出発物質類を用いており、かつ、反応条件の実施が難しい。したがって、安全かつ取り扱いが容易で安価な原材料を用いてTABを製造する方法が、非常に望まれているであろう。
【0010】
本発明の主な目的は、純粋でかつ高品質の3,3’,4,4’−テトラアミノビフェニル(TAB)を製造する改良方法を提供することであり、この方法は、上述の欠点を回避している。
【0011】
本発明のもうひとつの目的は、DCB酸化用触媒として不均質Ti−スーパーオキサイドを用いて3,3’−ジクロロ−4,4’−ジニトロビフェニル(DCDNB)を得ることを明らかにすることである。DCDNBはアンモノリシスを支障なく受けて、3,3’−ジクロロ−4,4’ジニトロビフェニル(DADNB)を生じ、DADNBのニトロ基を還元して、高収率でTABを生じた。
【0012】
したがって、本発明の目的は、先行技術の欠点の1個以上を実質的に有していないTAB改良合成方法を提供することである。
【0013】
さらに別の目的は、これまで可能であったよりも高い純度のTAB合成のための新規方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本出願は、純粋でかつ高品質の3,3’,4,4’−テトラアミノビフェニル(TAB)を高収率で製造する方法に関する。
【0015】
さらに詳細には、それは、3段階プロセスを要する3,3’,4,4’−テトラアミノビフェニル(TAB)製造方法に関し、(1)3,3’−ジクロロ4,4’−ジアミノビフェニル(DCB)を50%H22水で酸化すること、(2)生じた3,3’−ジニトロ−4,4’ジニトロビフェニル(DCDNB)をアンモノリシスすることおよび(3)3,3’−ジアミノ−4,4’ジニトロビフェニル(DADNB)を塩化第一スズと濃塩酸で還元すること、を要する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
したがって、本発明は、式1の純粋で高品質の3,3’,4,4’−テトラアミノビフェニル(TAB)
【0017】
【化2】

【0018】
を、式2
【0019】
【化3】

【0020】
の3,3’−ジクロロベンジジン(DCB)から製造する改良方法を提供し、これは、チタンスーパーオキサイド触媒存在下、溶媒存在下、酸化剤によりDCBを酸化し、式(3)
【0021】
【化4】

【0022】
の3,3’ジクロロ4,4’ジニトロビフェニル(DCDNB)を得ることを含む。
【0023】
溶媒存在下、アンモニア水を用いてDCDNBをアンモノリシスし、式(4)
【0024】
【化5】

【0025】
の3,3’,ジアミノ4,4’ジニトロビフェニル(DADNB)を得て、還元剤を用いてDADNBを還元しかつ生成した混合物をアルカリにより塩基性とし、3,3’,4,4’テトラアミノビフェニル(TAB)を得る。
【0026】
図(2)は、上述のプロセスの反応シークエンスを示している。
【0027】
態様のひとつにおいて、本発明不均質触媒として使用したチタンスーパーオキサイドは、刊行物〔Angew.Chem.Int.Ed.Engl.2001、40、405−408〕に示した操作ごとに調製される。
【0028】
別の態様において、前記酸化剤は、好適には、30〜50%v/vの濃度を有するH22であることができる。
【0029】
さらに別の態様において、前記使用した溶媒は、アセトニトリル、アセトンメタノール、酢酸および水のような有機溶媒類範囲から選択できるが、これらに限定されない。
【0030】
さらに別の態様において、アンモノリシスは、50−200℃範囲の温度で実施できる。
【0031】
さらに別の態様において、アンモノリシスのための好適な温度は、100℃である。
【0032】
さらに別の態様において、アンモノリシスは、100−500psigの圧力で実施できる。
【0033】
さらに別の態様において、アンモノリシスは、好適には、100psigにおいて実行される。
【0034】
さらに別の態様において、還元剤類は、SnCl2/濃HCl混合物から構成される群から選択される。
【0035】
さらに別の態様において、還元は、50−60℃の範囲の温度で実行する。
【0036】
本発明の製法は、実施例を参考に本文に記載してきたが、例示のためのみであり、いかなる意味でも本発明の範囲を限定するとはみなされない。本発明の性質とそれを実施する方法を十分に例示するため、下記の実施例を示した:
【実施例】
【0037】
(実施例1)
Ti−スーパーオキサイド触媒(1)の製造
添加漏斗、窒素入口および還流濃縮器を付属した2口丸底フラスコに入れた無水MeOH(50mL)中Ti(OiPr)4(5.0g、0.0175モル)の溶液に対して、50%H22(5.98g、0.175モル)をゆっくり40分かけて室温で攪拌しながら添加した。すぐに形成された黄色の沈殿物を焼結漏斗によりろ過し、無水メタノールで洗浄し室温(25℃)減圧下(3mmHg)で1時間乾燥した、収率:3.94g(98%)。EPRスペクトルは、9.76GHz、298Kで稼動するBruker EMXスペクトロメータに記録し、g値は、標準マーカー:α、α’−ジフェニル―β―ピクリルヒドラジル(DPPH,g=2.0036)を参考に、決定した。熱重力および差分熱分析(TG/DTA)は、30−400℃の範囲で温度プログラム10℃/分でTG/DTA22、TG/DTA32システム(Seiko Instruments Inc.)で行った。
【0038】
(実施例2)
3,3’−ジクロロ−4,4’−ジニトロビフェニル(DCDNB)の酸化操作による製造
窒素ガスバブラー、添加漏斗、水濃縮器および攪拌磁気棒を付属した2口丸底フラスコに、3,3’−ジクロロベンジジエン(5g、0.019モル)、Ti−スーパーオキサイド触媒(1)(2.5g、50wt%)および無水メタノール(30mL)を入れた。50%H22水(10.74g、0.158モル)をゆっくり攪拌しながら20分間、添加した。反応は発熱性で、黄色から赤茶色の変化が、H22添加時に観察された。この反応経過を、TLC〔酢酸エチル中〕によりモニタリングし、完了後、触媒1をろ過除去し、メタノールは、減圧下で蒸発させた。粗生成物の重量は、4.2g(66.28%)で、その純度をガスクロマトグラフィで分析した。
【0039】
(実施例3)
アンモノリシス操作による3,3’−ジアミノ−4,4’−ジニトロビフェニル(DADNB)の製造
メタノール(100mL)中3,3’−ジクロロ−4,4’−ジニトロビフェニル(5g、0.0197モル)および過剰のアンモニア溶液(100mL)の混合物を、オートクレーブに入れ、全混合物を100℃で3時間加熱した。反応完了後、メタノールを蒸留により除去し、アミノ生成物が沈殿した。次にそれをろ過し、H2Oで洗浄し、乾燥させた。収率3.82g(86.99%)融点226℃。
【0040】
(実施例4)
ニトロ基還元による3,3’−4,4’−テトラアミノビフェニル(TAB)の製造
3,3’−ジニトロベンジジン(2g、0.007モル)および塩化第一スズ(6.4g、0.034モル)の混合物を、エタノール(125mL)中0℃で攪拌し、濃HCl(30%)を30分かけて滴下した。この反応混合物を、10−12時間還流した。テトラミンの塩を沈殿させ、冷10%NaOH溶液により塩基性とし、固体をろ過し、水で洗浄し、真空中で乾燥させ、TABを収率80%(1.159g)で得た。
【0041】
本発明の利点は、下記のとおりである:
1.反応の全3段階において、生成物の単離が、簡便なろ過により行うことができる。
2.DCBのアンモノリシスは、いかなる金属触媒を使用することもなく、中等度の反応温度(100℃)でしかも内因性圧力(250psig)で行うことができる。
3.生成物TABは、銅やその塩類の夾雑もなく産生でき、従って、TAB純度が高まる。
4.副生物(銅塩類とTABのジアミン錯体類)はこの反応混合物中で全く産生されない。
5.酸化、アンモノリシスおよび還元の全3段階で定量的変換が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式1の純粋で、高品質の3,3’,4,4’−テトラアミノビフェニル(TAB)
【化1】

を製造するための改良方法であって、
a.式2の3,3’ジクロロベンジジンをチタンスーパーオキサイド触媒と溶媒の存在下、酸化剤により酸化し、式3の3,3’ジクロロ4,4’ジニトロビフェニルを得るステップと;
【化2】

【化3】

b.溶媒存在下、アンモニア溶液を用いて式3の3,3’ジクロロ4,4’ジニトロビフェニルをアンモノリシスし、式4の3,3’ジアミノ4,4’ジニトロビフェニルを得るステップと;
【化4】

c.還元剤を用いて式4の3,3’ジアミノ4,4’ジニトロビフェニルを還元するステップと;
d.生成した混合物をアルカリにより塩基性とし、式1の3,3’,4,4’テトラアミノビフェニルを得るステップと、
を含む方法。
【請求項2】
前記使用したチタンスーパーオキサイドは、不均質触媒である請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記酸化剤は、好適には、30〜50%v/vの濃度を有するH22である請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記溶媒は、アセトニトリル、アセトン、メタノール、酢酸および水を含む有機溶媒である請求項1記載の方法。
【請求項5】
アンモノリシスを、50−200℃の範囲の温度で実施する請求項1記載の方法。
【請求項6】
アンモノリシスを、好適には、100℃で実施する請求項1記載の方法。
【請求項7】
アンモノリシスを、100−500psigの範囲の圧力で実施する請求項1記載の方法。
【請求項8】
アンモノリシスを、好適には、100psigにおいて実施する請求項1記載の方法。
【請求項9】
還元剤が、SnCl2/濃HCl混合物を含む群から選択される請求項1記載の方法。
【請求項10】
還元が、50−60℃の範囲の温度で実施される請求項1記載の方法。

【公表番号】特表2007−527848(P2007−527848A)
【公表日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−512715(P2005−512715)
【出願日】平成15年12月29日(2003.12.29)
【国際出願番号】PCT/IN2003/000403
【国際公開番号】WO2005/063679
【国際公開日】平成17年7月14日(2005.7.14)
【出願人】(505185709)カウンシル オブ サイエンティフィック アンド インダストリアル リサーチ (35)
【Fターム(参考)】