説明

高圧ガス充填システムと燃料電池搭載車両

【課題】高圧ガス充填に伴うレセプタクルとノズルの冷却に対する対処方策を提案する。
【解決手段】高圧水素ガス充填システム10は、燃料電池搭載車両20の水素ガスタンク110の水素ガス充填部300のガス充填元タンク310から高圧水素ガスを充填する。充填に際して、燃料電池搭載車両20の側のレセプタクル150は、水素ガス充填部300の側のノズル350に嵌合装着され、この状態でのレセプラクル温度Trが温度センサー154にて検出される。ガス充填の過程で高圧水素ガス通過に伴いレセプタクル・ノズルの冷却が進むと、ガス充填を停止するので、高圧ガス通過に伴うレセプタクル・ノズルの温度低下を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧ガス充填システムとこのシステムからの燃料ガス充填を受ける燃料電池搭載車両に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年になり、環境意識が高まり、水素ガスを燃料ガスとする燃料電池やこれを搭載した車両が実用化されつつある。燃料電池搭載車両の普及促進には、こうした車両への安定した水素ガス供給が不可欠なため、種々のシステムが提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−69327号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の特許文献で提案されたガス充填システムでは、車両側のレセプタクルとガス供給元たる水素供給ステーション側のノズルの嵌合装着を経たガス充填を行うに当たり、レセプタクル・ノズル間でのタンク規格等の情報伝達を行っている。ところが、レセプタクルとノズルを嵌合装着させて実際に水素ガスを充填供給を行う場合には、水素供給ステーションの側から高圧力で蓄圧された水素ガスが車両のタンクに充填される状況への対処が不十分であった。高圧力で蓄圧された水素ガスを車両のタンクに充填する際には、断熱膨張が起きるため嵌合装着済みのレセプタクル・ノズルを通過する水素ガスの温度は低下する。また、高圧力での蓄圧に備えて水素供給ステーションの蓄圧タンクを予冷却することもあるため、低温度のまま水素ガスが嵌合装着済みのレセプタクル・ノズルを通過することもある。このため、嵌合装着済みのレセプタクル・ノズルが冷やされてその周囲の水分が凍結し、レセプタクル・ノズルの取り外しに支障ができたり、嵌合装着済みのレセプタクル・ノズルの過冷却により情報伝達機器の機能低下を招きかねないことが指摘されるに至った。なお、こうした問題は、燃料電池搭載車両に特有ものもではなく、据え置き型の燃料電池システムにおける水素ガス貯留タンクに水素ガスを充填する場合にも起き得る。
【0005】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、高圧ガス充填に伴うレセプタクルとノズルの冷却に対する対処方策を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した目的の少なくとも一部を達成するために、本発明では、以下の構成を採用した。
【0007】
[適用1:高圧ガス充填システム]
高圧ガス充填システムであって、
高圧ガスの充填対象から延びた管路の先端に設置されたレセプタクルと、
高圧ガスの充填元から延びた管路の先端に設置され、前記レセプタクルに対する嵌合装着と取り外しとにより、前記レセプタクルの管路との連通と遮断とが可能なノズルと、
前記嵌合装着された前記レセプタクルまたは前記ノズルの少なくとも一方の温度を検出する温度検出手段と、
前記レセプタクルと前記ノズルとが嵌合装着された状況下において前記高圧ガスの充填元からの高圧ガス供給を実行しつつ、前記温度検出手段の検出温度が所定温度を超える状況下において前記高圧ガス供給を継続するガス供給手段とを備える
ことを要旨とする。
【0008】
上記構成を備える高圧ガス充填システムでは、レセプタクルとノズルとの嵌合装着状況下における高圧ガスの充填元からの高圧ガス供給を実行するに当たり、高圧ガス通過に伴ってレセプタクルとノズルの温度が低下しても、検出温度が所定温度を超える状況下においては高圧ガス供給を継続する。このため、高圧ガス通過に伴ってレセプタクルとノズルの温度が所定温度以下まで低下すると、それまで行っていたガス供給継続を従前と変えることができ他、検出温度の低下に伴う種々の対処を図るようにすることもできる。
【0009】
例えば、検出温度が低下すると、温度低下の状態に応じて高圧ガス供給を制限するようにすれば、ガス供給制限として供給量を少なくしたり供給自体を制限でき、これにより、高圧ガス通過に伴うレセプタクルとノズルの温度低下を抑制できる。
【0010】
そして、ガス供給制限の一態様として、検出温度が所定温度以下となると高圧ガス供給を停止するようにすれば、より確実に高圧ガス通過に伴うレセプタクルとノズルの温度低下を抑制できる。この場合、前記嵌合装着された前記レセプタクルと前記ノズルとが付着水分の凍結により固着することが想定される温度まで前記検出温度が低下すると、前記高圧ガス供給を停止するようにできる。こうすれば、付着水分の凍結によるレセプタクルとノズルとの固着を抑制できるので、レセプタクルとノズルの取り外しに支障はなくなる。
【0011】
また、前記嵌合装着された前記レセプタクルと前記ノズルとの間で信号の送受信を行うよう前記レセプタクルと前記ノズルとに組み込まれた送受信機器の機能不全が想定される温度まで前記検出温度が低下すると、前記高圧ガス供給を停止するようにできる。こうすれば、送受信機器の機能不全を回避できる。
【0012】
また、前記レセプタクルまたは前記ノズルの少なくとも一方に装着された加熱手段を備えた上で、前記検出温度が前記所定温度以下にならないように前記加熱手段を制御するように構成することもできる。こうすれば、高圧ガス通過に伴うレセプタクルとノズルを昇温してその冷却を抑制できるので、付着水分の凍結によるレセプタクルとノズルとの固着回避や、レセプタクルとノズルとに組み込まれた送受信機器の機能不全の回避を図ることができる。しかも、こうした固着回避や機能不全回避を図りつつ、高圧ガスの充填を継続することができる。
【0013】
上記した高圧ガス充填システムにおいて、前記温度検出手段を前記レセプタクルに装着して該レセプタクル側の温度を検出する態様とすることができ、こうすれば次の利点がある。レセプタクルの側には高圧ガスの充填対象が含まれ、ノズルの側には高圧ガスの充填元が含まれ、充填元を含むノズルの側の方が機器構成の規模が大きくなる。よって、レセプタクルでは高圧ガス通過に伴う冷却が顕著となる。このため、温度検出手段をレセプタクルに装着すれば、速やかに温度低下を検知できるので、レセプタクルとノズルの冷却に伴う高圧ガス供給の停止やレセプタクルとノズルとの固着回避、送受信機器の機能不全回避を速やかに実行できると共に、レセプタクルとノズルを所定温度以下とならないよう速やかに昇温できる。
【0014】
また、燃料電池と該燃料電池での電気化学反応に供される燃料ガスを貯蔵するタンクとを搭載した燃料電池搭載車両に対して、上記の高圧ガス充填システムを燃料ガス供給ステーションとして構成できる。この場合には、高圧ガスの充填元として燃料ガスを高圧貯蔵する充填元タンクを備え、燃料電池搭載車両の搭載したタンク(車載タンク)をガス充填対象とする。こうすれば、燃料電池搭載車両は、タンク(車載タンク)から延びた管路の先端にレセプタクルを備えることになり、この燃料電池搭載車両のタンク(車載タンク)に、燃料ガス供給ステーションとしての高圧ガス充填システムから燃料ガスを充填供給できる。
【0015】
そして、燃料電池搭載車両のタンク(車載タンク)への燃料ガスの充填供給に際して、レセプタクルとノズルの冷却に伴う高圧ガス供給の停止やレセプタクルとノズルとの固着回避、送受信機器の機能不全回避を達成できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施例としての高圧水素ガス充填システム10の概要をその要部拡大部位と共に示す説明図である。
【図2】燃料電池搭載車両20の水素ガスタンク110へのガス充填処置の処理を示すフローチャートである。
【図3】他の実施例のレセプタクル150Aを模式的に示す説明図である。
【図4】ガス充填の際における昇温処置の処理を示すフローチャートである。
【図5】図2相当図であり他の実施例における水素ガスタンク110へのガス充填処置の処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、その実施例を図面に基づき説明する。図1は本発明の一実施例としての高圧水素ガス充填システム10の概要をその要部拡大部位と共に示す説明図である。
【0018】
図示するように、この高圧水素ガス充填システム10は、燃料電池搭載車両20に水素ガス充填部300から高圧水素ガスを充填供給するよう構成される。燃料電池搭載車両20は、燃料電池100と、水素ガスタンク110を含む水素ガス供給系120と、モータ駆動のコンプレッサ130を含む空気供給系140と、図示しない冷却系と、制御装置200とを備える。燃料電池100は、電解質膜の両側にアノードとカソードの両電極を接合させた図示しない膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly/MEA)を備える発電モジュールを積層して構成され、前輪FWと後輪RWの間において車両床下に位置する。そして、この燃料電池100は、後述の水素ガス供給系120と空気供給系140から供給された水素ガス中の水素と空気中の酸素との電気化学反応を起こして発電し、その発電電力にて前後輪の図示しない駆動用モータ等の負荷を駆動する。
【0019】
水素ガス供給系120は、水素ガスタンク110から燃料電池100に到る水素供給管路121と、当該管路の流量調整バルブ122と、水素供給管路121から分岐したガス充填用の充填管路123と、燃料電池100の手前の開閉バルブ124と、未消費の水素ガス(アノードオフガス)を大気放出する放出管路125と、当該管路の排出流量調整バルブ126とを備える。この水素ガス供給系120は、水素ガスタンク110からの水素ガスを、水素供給管路121の流量調整バルブ122にて流量調整した上で燃料電池100のアノードに供給しつつ、放出管路125の排出流量調整バルブ126で調整された流量で、カソードオフガスを後述の放出管路142から大気放出する。本実施例では、流量調整バルブ122は、ガス流量を流量ゼロから調整可能であり、流量ゼロとすることで水素供給管路121の閉塞を図る。
【0020】
また、水素ガス供給系120は、高圧水素ガス充填のためのレセプタクル150を備える。このレセプタクル150は、高圧水素ガスの充填対象である水素ガスタンク110から延びた充填管路123の先端に設置され、車両側方のガス充填箇所に位置する。このガス充填箇所は、既存のガソリン車両における燃料給油箇所に相当し、設置されたレセプタクル150を車両外板側カバーにて覆っている。レセプタクル150の構成については後述する。
【0021】
空気供給系140は、コンプレッサ130を経て燃料電池100に到る酸素供給管路141と、未消費の空気(カソードオフガス)を大気放出する放出管路142と、当該管路の排出流量調整バルブ143とを備える。この空気供給系140は、酸素供給管路141の開口端から取り込んだ空気を、コンプレッサ130にて流量調整した上で燃料電池100のカソードに供給しつつ、放出管路142の排出流量調整バルブ143で調整された流量でカソードオフガスを放出管路142を経て大気放出する。
【0022】
制御装置200は、論理演算を実行するCPUやROM、RAM等を備えたいわゆるマイクロコンピュータで構成され、アクセル等のセンサー入力やガス充填作業に伴うセンサー入力を受けて、バルブ制御を含む燃料電池100の種々の制御を司る。
【0023】
水素ガス充填部300は、水素ガスを高圧下で貯留するガス充填元タンク310と、開閉バルブ312を介在させて繋がった上流側管路314と下流側管路316と、下流側管路316の先端に設置されたノズル350と、ガス充填制御装置380とを備える。ノズル350は、燃料電池搭載車両20の側のレセプタクル150に対する嵌合装着と取り外しとにより、レセプタクル150の管路(詳しくは後述の逆止弁の管路)との連通と遮断とを行う。下流側管路316、或いは上流側管路314の両者は、ノズル350を用いたガス充填の便宜のため、耐高圧性のフレキシブルホースとされ、レセプタクル150へのノズル350の嵌合装着および取り外しに追従する。ガス充填制御装置380は、論理演算を実行するCPUやROM、RAM等を備えたいわゆるマイクロコンピュータで構成され、ガス充填・停止のためのノズル350の操作に伴うセンサー入力を受けて、バルブ制御を含むガス充填に関しての制御を司る。
【0024】
この水素ガス充填部300は、燃料電池搭載車両20の水素ガスタンク110への高圧水素ガス充填に供することから、既存のガソリン車両に対するガソリン給油ステーションに相当する。仮に、水素ガスタンク110と燃料電池100とが住居や店舗、工場などに設置される据え置き形態のものであれば、水素ガス充填部300は、トラックなどの車両に設置されてガス配送の形態のものとなる。
【0025】
次に、レセプタクル150とノズル350の構成とその機能について説明する。レセプタクル150は、逆止弁151を内蔵し、逆止弁内蔵側のケーシングをノズル350への嵌合装着部位とする。レセプタクル150は、逆止弁151の弁機能により、ガス非充填時においては管路を閉塞し、ノズル350に嵌合装着されると、図示しない凹所とノズル側のボールにより、嵌合装着状態を維持しつつ、逆止弁151による逆流防止を図る。ガス充填時には、逆止弁151がガス圧力を受けて管路解放側に作動するので、レセプタクル150は、この逆止弁作動をもってガス(高圧水素ガス)の充填に供される。
【0026】
この他、レセプタクル150は、ケーシング鍔部に赤外線送信機152を備え、ケーシング壁には温度センサー154を備える。温度センサー154は、その検知部で検出した温度(レセプラクル温度Tr)を制御装置200に出力する。赤外線送信機152は、レセプタクル150とノズル350との嵌合装着が完了した状態において、ノズル350の赤外線受信機352と対向し、レセプタクル150とノズル350との間における情報送受信を可能とする。より具体的に説明すると、赤外線送信機152は、レセプタクル・ノズルの嵌合装着を経た後に、制御装置200から出力されるガス充填に必要な情報(水素ガスタンク110のガス充填圧やガス残容量等)を赤外線信号化して赤外線受信機352に送信する。赤外線受信機352は、その受信した情報を電気信号に変換した上で水素ガス充填部300のガス充填制御装置380に送信する。こうすることで、水素ガス充填部300のガス充填制御装置380と燃料電池搭載車両20の制御装置200とは、ガス充填に必要な情報を共有することができる。この場合、ノズル350の赤外線受信機352の側からレセプタクル150の赤外線送信機152に情報を送信するように構成することもできる。そして、赤外線送信機152と赤外線受信機352との間の赤外線通信が可能となると、燃料電池搭載車両20の制御装置200および水素ガス充填部300のガス充填制御装置380は、ノズル350へのレセプタクル150の嵌合装着が完了したことを認知する。
【0027】
ノズル350は、レセプタクル150が嵌合装着される有底の嵌合孔354を備える。そして、この嵌合孔354にレセプタクル150がその先端から嵌合されると、ノズル350は、孔周壁に等ピッチで備えた図示しない鋼球をレセプタクル150の図示しない凹所に入り込ませてレセプタクル150の嵌合装着を図る。この嵌合装着状態において、レセプタクル150の先端とノズル350における嵌合孔354の底面とは気密に接合すると共に、レセプタクル150のガス入口側管路は、ノズル350のガス通気管路延いてはこれに繋がる下流側管路316と連通する。レセプタクル150の取り外しに際しては、ノズル350は、図示しない鋼球ロック機構を解除して嵌合孔354の孔内からの鋼球を退避させるので、レセプタクル150は嵌合孔354から容易に取り外せる。この場合、ノズル350は、レセプタクル150が嵌合装着されていないガス非充填時においてノズル内のガス通気管路を閉鎖状態とし、レセプタクル150が嵌合装着されたガス充填時においてガス通気管路を解放するよう、構成されている。
【0028】
次に、上記したノズル350へのレセプタクル150の嵌合装着に伴うガス充填処置について説明する。図2は燃料電池搭載車両20の水素ガスタンク110へのガス充填処置の処理を示すフローチャートである。このフローチャートは、水素ガス充填部300のノズル350がガス充填のために使用者により操作されたタイミングで実行され、各処理は、水素ガス充填部300の側のガス充填制御装置380にてなされる。各処理の実行に際しては、まず、レセプタクル嵌合装着の完了状態を判定する(ステップS100)。この嵌合装着の完了判定は、既述したようにレセプタクル150の赤外線送信機152にノズル350の赤外線受信機352が近接して通信可能となることで下され、この完了判定があるまで待機する。そして、ガス充填制御装置380は、レセプタクルの嵌合装着完了に伴い、既述した赤外線送信機152と赤外線受信機352との間の情報通信により、水素ガス充填対象となる燃料電池搭載車両20の水素ガスタンク110の緒言(ガス充填圧やガス残容量等)のデータ送信を燃料電池搭載車両20の制御装置200の側から受ける。
【0029】
通常、燃料電池搭載車両20においてその水素ガスタンク110に高圧水素ガスを充填する場合、燃料電池搭載車両20の制御装置200は、燃料電池100を運転停止状態に置くべく、図1における水素供給管路121の流量調整バルブ122を流量ゼロにして管路閉鎖状態とすると共に、水素ガスタンク110の手前の開閉バルブ124を開弁状態とする。よって、燃料電池搭載車両20では、ノズル350へのレセプタクル150の嵌合装着を経たガス充填に備えて、水素ガスタンク110からレセプタクル150までの充填管路123が開放される。そして、レセプタクル150の嵌合装着に伴うガス充填がなされるまで(ガス非充填時)、レセプタクル150はその有する逆止弁151にて既述したようにガス逆流を防止する。
【0030】
一方、ステップS100で肯定判定(装着完了判定)すると、ガス充填制御装置380は、図1における開閉バルブ312を開弁制御して、ガス充填元タンク310から燃料電池搭載車両20の水素ガスタンク110への高圧水素ガス充填を開始する(ステップS110)。これにより、高圧水素ガスは、水素ガス充填部300の側のノズル350とこれに嵌合装着済みの燃料電池搭載車両20の側のレセプタクル150を通過して、燃料電池搭載車両20の水素ガスタンク110に充填される。ガス充填制御装置380は、図示しないガス流量計や上流側管路314の圧力計からのガス流量推移や圧力推移を監視し、水素ガスタンク110へのガス充填状況を充填開始から把握する。そして、ガス充填制御装置380は、こうした充填状況を把握しつつ、燃料電池搭載車両20の側のレセプタクル150の温度センサー154が検出したレセプラクル温度Trを入力する(ステップS120)。このレセプラクル温度Trのガス充填制御装置380への入力は、燃料電池搭載車両20の制御装置200が取得した温度センサー154のレセプラクル温度Trを、赤外線送信機152を経て赤外線受信機352に送信することでなされる。
【0031】
ガス充填制御装置380は、入力したレセプラクル温度Trが所定温度α以下であるか否かを判定する(ステップS130)。ここで否定判定すれば、レセプタクル150およびノズル350が高圧水素ガスの通過に伴って冷却されてはいるものの、所定温度α以下にまでは冷却されてはおらず、レセプラクル温度Trは所定温度αを超えていることになる。よって、ステップS130での否定判定に続いて、ガス充填制御装置380は、高圧水素ガスの充填を継続し(ステップS140)、既述した充填状況把握に基づいてガス充填が完了したか否かを判定する(ステップS150)。ガス充填が未完了であれば、ステップS120に移行して、ガス充填が完了するまで充填を継続し、ステップS150にて充填完了と肯定判定すれば、本ルーチンを終了する。この場合、ガス充填制御装置380は、ガス充填完了に伴い、開閉バルブ312を閉弁制御するので、レセプタクル150の逆止弁151に掛かっていたガス圧は低下する。よって、レセプタクル150では、内蔵する逆止弁151がガス充填完了以降において管路を閉鎖して逆流回避を図る。また、ガス充填完了に伴いレセプタクル150は使用者(ガス充填作業者)によりノズル350から取り外される。
【0032】
その一方、ステップS130にて肯定判定すれば、レセプタクル150およびノズル350は、高圧水素ガスの通過に伴って所定温度α以下に冷却されていることになる。よって、この場合には、ガス充填制御装置380は、開閉バルブ312を閉弁制御してガス充填を停止し(ステップS170)、ステップS120に移行して、レセプラクル温度Trの読込(ステップS120)とこのレセプラクル温度Trと所定温度αとの比較(ステップS130)を行う。このため、レセプタクル150およびノズル350が高圧水素ガスの通過に伴って所定温度α以下に冷却されると、ステップS130にてレセプラクル温度Trが所定温度αを超えていると改めて判定されるまで、ガス充填は停止されることになる。
【0033】
以上説明したように、本実施例の高圧水素ガス充填システム10では、上記したようにガス充填の停止を定めるステップS130での比較温度である所定温度αを以下に説明する二つの形態のいずれかとした。
【0034】
第1の形態は、嵌合装着状態にあるレセプタクル150とノズル350の取り外しに支障がないようにすることを優先した形態であり、所定温度αを−5℃程度とする形態である。嵌合装着されたレセプタクル150とノズル350に水分が付着していると、その付着水分は、レセプタクル150とノズル350の温度(レセプラクル温度Tr)が−5℃以下となった場合に凍結して、この付着水分凍結によりレセプタクル・ノズルの固着が起きると想定される。よって、ステップS130での比較温度である所定温度αを−5℃程度とすることで、レセプラクル温度Trがこの−5℃以下となれば、その時点から高圧水素ガスの充填を停止する(ステップS170)。高圧水素ガス通過がなければ、レセプタクル150とノズル350のレセプラクル温度Trは外気温によって上昇するので、高圧水素ガス通過に伴うレセプタクル150とノズル350の温度低下を抑制でき、付着水分凍結によるレセプタクル・ノズルの固着についてもこれを高い実効性で回避できる。この結果、ノズル350からレセプタクル150を支障なく容易に取り外すことができる。この場合、レセプラクル温度Trが−5℃(所定温度α)を超えている限りにおいては、或いは−5℃以下の温度から−5℃を超える温度に戻った以降においては、ステップS140以降の処理により高圧水素ガスを水素ガスタンク110に充填できる。
【0035】
第2の形態は、レセプタクル150に設けた赤外線送信機152とノズル350に設けた赤外線受信機352の機能不全回避を優先した形態であり、所定温度αを−40℃程度とする形態である。赤外線送信機152や赤外線受信機352は、赤外線通信を行うという機能達成のために機器構成を備えるが、低温環境での機器の正常動作は、通常、−40℃程度までは担保されている。よって、ステップS130での比較温度である所定温度αを−40℃程度とすることで、レセプラクル温度Trがこの−40℃以下となれば、その時点から高圧水素ガスの充填を停止する(ステップS170)。高圧水素ガス通過がなければ、レセプタクル150とノズル350のレセプラクル温度Trは外気温によって上昇するので、高圧水素ガス通過に伴うレセプタクル150とノズル350の温度低下を抑制できる。この結果、レセプタクル150に設けた赤外線送信機152とノズル350に設けた赤外線受信機352を、その機能不全を招く−40℃以下という環境下に置かないようにできるので、これら送受信機器の機能不全を高い実効性で回避できる。この場合、レセプラクル温度Trが−40℃(所定温度α)を超えている限りにおいては、或いは−40℃以下の温度から−40℃を超える温度に戻った以降においては、ステップS140以降の処理により高圧水素ガスを水素ガスタンク110に充填できる。
【0036】
なお、上記した第1の形態では、充填停止を規定する温度が−5℃であることから、当然に、レセプタクル150に設けた赤外線送信機152とノズル350に設けた赤外線受信機352の正常動作は担保される。また、上記した第2の形態では、−5℃以下のレセプラクル温度Tr(>−40℃)の状況下でステップS140〜160によるガス充填が実行されることから、付着水分の凍結によるレセプタクル・ノズルの固着が起きレセプタクル・ノズルの取り外しに支障が出ることが有り得る。よって、この場合には、ガス充填制御装置380にてレセプラクル温度Trを監視して、レセプラクル温度Trがレセプタクル・ノズルの固着解消をもたらす温度(例えば−5℃〜0℃)になれば、図示しない報知機器(表示灯や音声報知器)にてガス充填作業者にレセプタクル・ノズルの取り外しが可能なことを報知するようにすることもできる。
【0037】
上記した本実施例の高圧水素ガス充填システム10では、温度センサー154をレセプタクル150に設けたので、次の利点がある。燃料電池搭載車両20の側ではガス充填に関与する機器として水素ガスタンク110とガス経路と当該経路のバルブ機器とが含まれ、水素ガス充填部300の側ではガス充填元タンク310とガス経路と当該経路のバルブ機器とが含まれる。この両者を対比した場合、ガス充填元タンク310を含む水素ガス充填部300の側の方が機器構成の規模が大きく燃料電池搭載車両20の側ではその規模が格段に小さい。よって、燃料電池搭載車両20の側であるレセプタクル150では高圧水素ガス通過に伴う冷却が顕著となるので、温度センサー154をレセプタクル150に設けることで、レセプラクル温度Trの温度低下を速やかに検知できる。このため、レセプタクル150とノズル350の冷却に伴う高圧水素ガスの充填停止(ステップS170)の速やかな実行を通して、レセプタクル・ノズルとの固着回避や送受信機器の機能不全回避を速やかに達成できる。
【0038】
上記した実施例では、ステップS130での肯定判定に続くステップ170にてガス充填を停止するようにしたが、充填ガス量を低減させるようにすることもできる。こうすれば、レセプタクル150とノズル350を通過する高圧水素ガス量が少なくなる分だけ、レセプタクル・ノズルの温度低下が抑制され、外気温によるレセプタクル・ノズルの昇温が期待できる。
【0039】
また、ガス充填の停止を規定する所定温度αについては、検出温度低下時と温度低下後の温度上昇時とにおいてヒステリシスを持たせるようにすることもできる。
【0040】
次に、他の実施例について説明する。図3は他の実施例のレセプタクル150Aを模式的に示す説明図である。図示するように、このレセプタクル150Aは、上記した赤外線送信機152や温度センサー154に加え、そのケーシングにヒーター156を備える。このヒーター156は、燃料電池搭載車両20の制御装置200により通電制御され、通電を受けて発熱してレセプタクル150、延いてはノズル350を昇温させる。
【0041】
次に、このレセプタクル150Aを用いた他の実施例でのガス充填について説明する。図4はガス充填の際における昇温処置の処理を示すフローチャート、図5は図2相当図であり他の実施例における水素ガスタンク110へのガス充填処置の処理を示すフローチャートである。これらフローチャートにあっても、水素ガス充填部300のノズル350がガス充填のために使用者により操作されたタイミングで実行され、図4の昇温処置は燃料電池搭載車両20の制御装置200でなされ、図5の充填処置は水素ガス充填部300の側のガス充填制御装置380にてなされる。
【0042】
図4の昇温処置では、レセプタクル嵌合装着の完了状態を判定し(ステップS200)、完了判定があるまで待機する。そして、制御装置200は、レセプタクルの嵌合装着完了に伴い、レセプタクル150の温度センサー154のレセプラクル温度Trを入力し(ステップS210)、入力したレセプラクル温度Trと既述した所定温度αとの対比を行う(ステップS220)。この場合、所定温度αは、既述した−5℃或いは−40℃のいずれかとされる。ステップS220で否定判定すれば、何の処理を行うことなく本ルーチンを終了し、肯定判定すれば、レセプタクル150およびノズル350が高圧水素ガスの通過に伴って所定温度α以下にまで冷却されているので、レセプタクル150とノズル350とを昇温すべく、ヒーター156を通電制御して(ステップS230)、本ルーチンを終了する。この際のヒーター通電制御は、読み込んだレセプラクル温度Trと所定温度αとの差分の温度に基づいて行われ、この差分をゼロ以上とするのに必要なレセプタクル150とノズル350の発熱が得られるようになされる。これにより、レセプタクル150とノズル350とは、ガス充填に備えて嵌合装着された状況下で、上記した所定温度αを超える温度に維持されることになる。
【0043】
図5のガス充填処置は、図2で説明したガス充填処置と代わるものではなく、図4の昇温処置にてなされるレセプタクル・ノズルの温度制御に関する処理が省かれている。つまり、図5のガス充填処置では、まず、レセプタクル嵌合装着の完了状態を判定し(ステップS100)、この完了判定があるまで待機する。そして、ガス充填制御装置380は、レセプタクルの嵌合装着完了に伴い、既述した赤外線送信機152と赤外線受信機352との間の情報通信により、水素ガス充填対象となる燃料電池搭載車両20の水素ガスタンク110の緒言(ガス充填圧やガス残容量等)のデータ送信を燃料電池搭載車両20の制御装置200の側から受ける。燃料電池搭載車両20におけるガス充填に備えたバルブ制御も同様である。
【0044】
ステップS100で装着完了を判定すると、ガス充填制御装置380は、図1における開閉バルブ312を開弁制御して、ガス充填元タンク310から燃料電池搭載車両20の水素ガスタンク110への高圧水素ガス充填を開始する(ステップS110)。これにより、高圧水素ガスは、水素ガス充填部300の側のノズル350とこれに嵌合装着済みの燃料電池搭載車両20の側のレセプタクル150を通過して、燃料電池搭載車両20の水素ガスタンク110に充填される。高圧水素ガスの充填が開始されると、通過する高圧水素ガスによりレセプタクル150とノズル350は冷却されるが、図4の昇温処置にて所定温度α以下にならないようにされているので、ガス充填制御装置380は、既述したようにガス充填状況を把握しつつ高圧水素ガスの充填を継続し、充填状況把握に基づいてガス充填が完了したか否かを判定する(ステップS150)。ガス充填が未完了であれば、ステップS110に移行して、ガス充填が完了するまで充填を継続し、ステップS150にて充填完了と肯定判定すれば、本ルーチンを終了する。
【0045】
以上説明したように、レセプタクル150Aを用いた実施例では、ヒーター156の通電制御により、レセプタクル150とノズル350とを所定温度α以下にならないようにした上で、高圧水素ガスを燃料電池搭載車両20の水素ガスタンク110に充填する。よって、レセプタクル150Aを用いた実施例によっても、既述した効果を奏することができる。
【0046】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこのような実施の形態になんら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において種々なる態様での実施が可能である。例えば、温度センサー154をノズル350の側に設けたり、赤外線送信機152や赤外線受信機352に内蔵するように構成することもできる。また、ヒーター156を備えるレセプタクル150Aを、図2で示したガス充填処置において用いることもできる。例えば、ステップS130にてレセプラクル温度Trが所定温度α(−5℃或いは−40℃)以下となった場合に、ステップS170にてガス充填を停止している間においてヒーター156を通電制御することもできる。こうすれば、ヒーター156によるレセプタクル・ノズルの昇温が起きるので、レセプラクル温度Trは速やかに所定温度α(−5℃或いは−40℃)を超えることになって、ガス充填の停止期間を短くすることができる。
【符号の説明】
【0047】
10…高圧水素ガス充填システム
20…燃料電池搭載車両
100…燃料電池
110…水素ガスタンク
120…水素ガス供給系
121…水素供給管路
122…流量調整バルブ
123…充填管路
124…開閉バルブ
125…放出管路
126…排出流量調整バルブ
130…コンプレッサ
140…空気供給系
141…酸素供給管路
142…放出管路
143…排出流量調整バルブ
150…レセプタクル
150A…レセプタクル
151…逆止弁
152…赤外線送信機
154…温度センサー
156…ヒーター
200…制御装置
300…水素ガス充填部
310…ガス充填元タンク
312…開閉バルブ
314…上流側管路
316…下流側管路
350…ノズル
352…赤外線受信機
354…嵌合孔
380…ガス充填制御装置
FW…前輪
RW…後輪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高圧ガス充填システムであって、
高圧ガスの充填対象から延びた管路の先端に設置されたレセプタクルと、
高圧ガスの充填元から延びた管路の先端に設置され、前記レセプタクルに対する嵌合装着と取り外しとにより、前記レセプタクルの管路との連通と遮断とが可能なノズルと、
前記嵌合装着された前記レセプタクルまたは前記ノズルの少なくとも一方の温度を検出する温度検出手段と、
前記レセプタクルと前記ノズルとが嵌合装着された状況下において前記高圧ガスの充填元からの高圧ガス供給を実行しつつ、前記温度検出手段の検出温度が所定温度を超える状況下において前記高圧ガス供給を継続するガス供給手段とを備える
高圧ガス充填システム。
【請求項2】
前記ガス供給手段は、前記検出温度が低下すると、温度低下の状態に応じて前記高圧ガス供給を制限する供給制御部を備える請求項1に記載の高圧ガス充填システム。
【請求項3】
前記供給制御部は、前記検出温度が所定温度以下となると前記高圧ガス供給を停止する請求項2に記載の高圧ガス充填システム。
【請求項4】
前記供給制御部は、前記嵌合装着された前記レセプタクルと前記ノズルとが付着水分の凍結により固着することが想定される温度まで前記検出温度が低下すると、前記高圧ガス供給を停止する請求項3に記載の高圧ガス充填システム。
【請求項5】
前記供給制御部は、前記嵌合装着された前記レセプタクルと前記ノズルとの間で信号の送受信を行うよう前記レセプタクルと前記ノズルとに組み込まれた送受信機器の機能不全が想定される温度まで前記検出温度が低下すると、前記高圧ガス供給を停止する請求項3に記載の高圧ガス充填システム。
【請求項6】
請求項1に記載の高圧ガス充填システムであって、
前記レセプタクルまたは前記ノズルの少なくとも一方に装着された加熱手段を備え、
前記ガス供給手段は、前記検出温度が前記所定温度以下にならないように前記加熱手段を制御する供給制御部を備える
高圧ガス充填システム。
【請求項7】
前記温度検出手段は、前記レセプタクルに装着されて該レセプタクル側の温度を検出する請求項1ないし請求項6いずれかに記載の高圧ガス充填システム。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7いずれかに記載の高圧ガス充填システムであって、
燃料電池と該燃料電池での電気化学反応に供される燃料ガスを貯蔵するタンクとを搭載した燃料電池搭載車両の前記タンクを前記充填対象とし、
前記充填元として前記燃料ガスを高圧貯蔵する充填元タンクを備える
高圧ガス充填システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−47491(P2011−47491A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−197983(P2009−197983)
【出願日】平成21年8月28日(2009.8.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】