説明

高圧タンクの製造方法、高圧タンクの製造装置および高圧タンク

【課題】ライナへの巻き付け時等における繊維束の樹脂含有率の低下を抑制することができる高圧タンクの製造方法を提供する。
【解決手段】第一樹脂含浸繊維束26a,26bの両端側に第二樹脂含浸繊維束28a,28bが配置されるようにライナ16の外面に繊維束を巻き付けて繊維層を形成する繊維層形成工程と、マトリックス樹脂を硬化させる硬化工程と、を含み、繊維層形成工程において、(1)第一樹脂含浸繊維束26a,26bに含まれるマトリックス樹脂の硬化温度を、第二樹脂含浸繊維束28a,28bに含まれるマトリックス樹脂の硬化温度よりも高くする方法、および、(2)第一樹脂含浸繊維束26a,26bをライナ16の外面に巻き付ける際の繊維の張力を、第二樹脂含浸繊維束28a,28bをライナ16の外面に巻き付ける際の繊維の張力よりも低くする方法、のうちの少なくとも1つを用いる高圧タンクの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧タンクの製造方法、高圧タンクの製造装置および高圧タンクに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池自動車や天然ガス自動車等には、燃料ガスとしての水素ガスや天然ガス等を貯蔵する高圧タンクが搭載される。高圧タンクとして、樹脂製または金属製タンク(ライナ:内容器)の外面に単位密度当りの強度が非常に高い炭素繊維強化プラスチック材(CFRP材)等を巻き付けて補強した高圧タンクが知られている。このような高圧タンクを製造する際、例えばフィラメントワインディング法のように炭素繊維等の繊維束に未硬化のエポキシ樹脂等のマトリックス樹脂を含浸させた状態で樹脂製タンクの外面に巻き付けて繊維層を形成した後、樹脂を硬化させて補強層を形成する方法がある。このフィラメントワインディング法において、生産性等の観点から、炭素繊維等の繊維束に未硬化のエポキシ樹脂等のマトリックス樹脂を予め含浸させ、ボビン等に巻き付けたプリプレグを用いる場合がある。また、製造効率等の点から通常、複数本のプリプレグを用いてライナの外面に繊維束を巻き付ける。
【0003】
フィラメントワインディング法で高圧タンクを製造する場合、タンクの高い強度を確保するためには、炭素繊維等の繊維の密着性を高くすることが好ましい。
【0004】
通常、ライナに樹脂を含浸させた繊維束を何層も巻き付けて繊維層を形成し、加熱硬化して補強層を形成するが、巻き付け時または加熱硬化時に繊維束に含浸させた樹脂が染み出し、繊維束の樹脂含有率が低下することにより、繊維の密着性が低下して、高圧タンクの強度が低下する場合がある。そのため、高圧タンクに要求される性能を充分に満足できない可能性がある。
【0005】
特許文献1には、離型紙からの浮き上がりの少ない一方向炭素繊維プリプレグ材を得るために、複数本の炭素繊維束を一方向に互いに並行するように引き揃えてなる炭素繊維シートの上下両面に、少なくとも一方がマトリックス樹脂塗布離型紙である離型紙を重ね合わせ、重ね合わせ体を含浸ロールに通し、炭素繊維シートに離型紙上のマトリックス樹脂を転移、含浸して一方向炭素繊維プリプレグとした後、上側の離型紙を剥ぎ取り、一方向炭素繊維プリプレグを下側の離型紙ごとロール状に巻き取るに際し、炭素繊維束の張力Tf、含浸ロールに至る上側の離型紙の張力Tu、下側の離型紙の張力Ts、下側の離型紙の巻取張力Twと下側の離型紙の張力Tsとの比Tw/Tsを所定の範囲内に維持する一方向炭素繊維プリプレグ材の製造方法が記載されている。
【0006】
しかし、特許文献1の技術では、ライナへの巻き付け時等における繊維束の樹脂含有率の低下を充分に抑制することができない場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−014600号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、ライナへの巻き付け時等における繊維束の樹脂含有率の低下を抑制することができる高圧タンクの製造方法、高圧タンクの製造装置および高圧タンクである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ライナと前記ライナの外面に繊維を巻き付けた繊維層を含んで構成された補強層とを有する高圧タンクを製造する高圧タンクの製造方法であって、繊維束にマトリックス樹脂を含浸させた少なくとも1つの第一樹脂含浸繊維束と、繊維束にマトリックス樹脂を含浸させた少なくとも2つの第二樹脂含浸繊維束とを同時に用いて、前記第一樹脂含浸繊維束の両端側に前記第二樹脂含浸繊維束を配置してライナの外面に繊維束を巻き付けて繊維層を形成する繊維層形成工程と、前記マトリックス樹脂を硬化させる硬化工程と、を含み、前記繊維層形成工程において、(1)前記第一樹脂含浸繊維束に含まれるマトリックス樹脂の硬化温度を、前記第二樹脂含浸繊維束に含まれるマトリックス樹脂の硬化温度よりも高くする方法、および、(2)前記第一樹脂含浸繊維束を前記ライナの外面に巻き付ける際の繊維の張力を、前記第二樹脂含浸繊維束を前記ライナの外面に巻き付ける際の繊維の張力よりも低くする方法、のうちの少なくとも1つを用いる高圧タンクの製造方法である。
【0010】
また、前記高圧タンクの製造方法において、前記第一樹脂含浸繊維束の両端側に前記第二樹脂含浸繊維束の一部が重なるように配置して前記ライナの外面に繊維束を巻き付けて繊維層を形成することが好ましい。
【0011】
また、本発明は、ライナと前記ライナの外面に繊維を巻き付けた繊維層を含んで構成された補強層とを有する高圧タンクを製造する高圧タンクの製造装置であって、繊維束にマトリックス樹脂を含浸させた第一樹脂含浸繊維束を供給する少なくとも1つの第一樹脂含浸繊維束供給手段と、繊維束にマトリックス樹脂を含浸させた第二樹脂含浸繊維束を供給する少なくとも2つの第二樹脂含浸繊維束供給手段と、前記第一樹脂含浸繊維束を前記ライナの外面に巻き付ける際の繊維の張力、および前記第二樹脂含浸繊維束を前記ライナの外面に巻き付ける際の繊維の張力を制御する張力制御手段と、を有する高圧タンクの製造装置である。
【0012】
また、前記高圧タンクの製造装置において、前記第一樹脂含浸繊維束に含まれるマトリックス樹脂の硬化温度が、前記第二樹脂含浸繊維束に含まれるマトリックス樹脂の硬化温度よりも高いことが好ましい。
【0013】
また、本発明は、ライナと、繊維束とマトリックス樹脂とを含む少なくとも1つの第一樹脂含浸繊維束の両端側に、繊維束とマトリックス樹脂とを含む少なくとも1つの第二樹脂含浸繊維束が配置されるように前記ライナの外面に巻き付けられた繊維層を含んで構成された補強層と、を有し、前記第一樹脂含浸繊維束に含まれるマトリックス樹脂の硬化温度が、前記第二樹脂含浸繊維束に含まれるマトリックス樹脂の硬化温度よりも高い高圧タンクである。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、第一樹脂含浸繊維束の両端側に第二樹脂含浸繊維束が配置されるようにライナの外面に繊維束を巻き付けて繊維層を形成する際に、第一樹脂含浸繊維束に含まれるマトリックス樹脂の硬化温度を第二樹脂含浸繊維束に含まれるマトリックス樹脂の硬化温度よりも高くする方法、および、第一樹脂含浸繊維束の繊維の張力が第二樹脂含浸繊維束の繊維の張力よりも低くする方法のうちの少なくとも1つを用いることにより、ライナへの巻き付け時等における繊維束の樹脂含有率の低下を抑制することができる高圧タンクの製造方法、高圧タンクの製造装置および高圧タンクを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態に係る高圧タンクの製造装置の一例の全体構成を示す概略図である。
【図2】本発明の実施形態に係る高圧タンクの製造装置における繊維の巻き付け部分の構成の一例を示す概略図である。
【図3】本発明の実施形態における高圧タンクの製造方法における高圧タンクの軸方向の断面を示す概略図である。
【図4】本発明の実施形態における繊維束の配向方向から見た第一樹脂含浸繊維束および第二樹脂含浸繊維束の配置の一例を示す概略断面図である。
【図5】本発明の実施形態における繊維束の配向方向から見た第一樹脂含浸繊維束および第二樹脂含浸繊維束の配置の他の例を示す概略断面図である。
【図6】本発明の実施形態に係る高圧タンクの製造装置の他の例の全体構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施の形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0017】
本発明の実施形態に係る高圧タンクの製造装置の一例の全体構成の概略を図1に示す。また、本実施形態に係る高圧タンクの製造装置における繊維の巻き付け部分の構成の一例の概略を図2に示す。
【0018】
図1に示すように、高圧タンクの製造装置1は、繊維巻き付け装置10を備える。繊維巻き付け装置10は、ライナ16を支持するための回転支持部12を有する。また、高圧タンクの製造装置1は、第一樹脂含浸繊維束供給手段として、炭素繊維等の繊維束に未硬化のエポキシ樹脂等の第一マトリックス樹脂を予め含浸させた第一樹脂含浸繊維束26aをボビン等に巻き付けた第一プリプレグ22a、および繊維束に未硬化の第一マトリックス樹脂を予め含浸させた第一樹脂含浸繊維束26bをボビン等に巻き付けた第一プリプレグ22bと、第二樹脂含浸繊維束供給手段として、炭素繊維等の繊維束に未硬化のエポキシ樹脂等の第二マトリックス樹脂を予め含浸させた第二樹脂含浸繊維束28aをボビン等に巻き付けた第二プリプレグ24a、および繊維束に未硬化の第二マトリックス樹脂を予め含浸させた第二樹脂含浸繊維束28bをボビン等に巻き付けた第二プリプレグ24bと、を備える。
【0019】
本実施形態に係る高圧タンクの製造方法および高圧タンクの製造装置1の動作について説明する。
【0020】
図1,2に示すように、ライナ16は、繊維巻き付け装置10の回転支持部12に設置される。例えば、略円柱状のライナ16は図3に示すようなライナ16の軸を通したシャフト20によって、図2に示すように回転支持部12に支持される。回転支持部12によってライナ16が回転され、第一プリプレグ22a,22bおよび第二プリプレグ24a,24bからそれぞれ繰り出された第一樹脂含浸繊維束26a,26bと第二樹脂含浸繊維束28a,28bとが、図4に繊維束の配向方向から見た断面図を示すように第一樹脂含浸繊維束26a,26bの両端側に第二樹脂含浸繊維束28a,28bが配置された繊維束32とされ、さらに図2のような繊維ガイド部34で角度調整されて、ライナ16の外面に巻き付けられる。こうして、ライナ16の外面に繊維束32が所定の厚みおよび所定の方向で巻き付けられ繊維層が形成される(繊維層形成工程)。
【0021】
ライナ16に繊維束32を巻き付ける前に、図1のように拡幅ローラ30等の拡幅手段を設けて、拡幅ローラ30等に第一樹脂含浸繊維束26a,26bおよび第二樹脂含浸繊維束28a,28bを押し付けて予め拡幅しておいてもよい。ここで、繊維束を拡幅するとは、例えば、繊維束を構成する繊維を拡げて繊維束を略扁平な状態にすることを意味する。
【0022】
プリプレグを用いずに、例えば、繊維巻き付け装置10の上流側で、繊維束を樹脂塗布槽等に浸漬する方法等によってエポキシ樹脂等の熱硬化性のマトリックス樹脂を繊維束に含浸してもよい。
【0023】
繊維束32の巻き付け工程後、高圧タンク14は、加熱炉等において熱処理される。高圧タンク14は、例えば130℃程度で、10〜15時間程度加熱される。この加熱により、熱硬化性樹脂等が含浸された繊維束32が熱硬化され(硬化工程)、図3に示すような補強層18が形成される。その後、高圧タンク14は冷却される。このようにして、ライナ16の外面に補強層18が形成された高圧タンク14が製造される。
【0024】
本実施形態では、第一樹脂含浸繊維束26a,26bに含まれる第一マトリックス樹脂の硬化温度を、第二樹脂含浸繊維束28a,28bに含まれる第二マトリックス樹脂の硬化温度よりも高くしてある。
【0025】
高圧タンクにおいて高い強度を確保するためには、炭素繊維等の繊維の密着性を高くすることが望ましい。フィラメントワインディング法において、繊維束の巻き付け時に繊維の張力により繊維束に含浸させた樹脂が染み出し、繊維束の樹脂含有率が低下することがある。また、硬化工程において、加熱硬化時に樹脂の粘度が急激に低下することより、樹脂垂れが発生して、繊維束に含浸させた樹脂が染み出し、繊維束の樹脂含有率が低下することがある。繊維の高張力化、硬化時の高温化により、樹脂の染み出し、樹脂垂れがより顕著になって樹脂含有率の低下の問題がより大きくなる。繊維束の樹脂含有率が低下することにより、繊維の密着性が低下して、高圧タンクの強度が低下し、高圧タンクに要求される性能を充分に満足できないことがある。本実施形態では、両端側と内側の繊維束に含浸した樹脂の硬化温度に差をつけ、両端側に低温硬化の樹脂を含浸した繊維束、内側に高温硬化の樹脂を含浸した繊維束を配置してライナに巻き付けることにより、硬化工程において両端側に配置した低温硬化の繊維が先に硬化し始めることで、樹脂の染み出しを抑制することができる。樹脂含有率の低下を抑制して、繊維束をライナに巻き付けることができるため、強度、品質、寸法の安定した高圧タンクを生産することができる。
【0026】
また、硬化時の樹脂垂れを防止できるため、樹脂のバリ発生を抑制することができ、バリの除去工程を省略することができる。
【0027】
第一樹脂含浸繊維束26a,26bに含まれる第一マトリックス樹脂の硬化温度は、第二樹脂含浸繊維束28a,28bに含まれる第二マトリックス樹脂の硬化温度よりも高ければよく、特に制限はない。両者の温度差は、例えば、30℃〜100℃の範囲であり、40℃〜50℃の範囲であることが好ましい。例えば、第一マトリックス樹脂の硬化温度を100℃〜120℃の範囲とすればよい。マトリックス樹脂の硬化温度が50℃より低いと、樹脂の貯蔵安定性が低下してしまう場合がある。
【0028】
なお、本明細書において「未硬化」とは、全く硬化が進行していない状態だけではなく、一部硬化が進行している状態も含む。
【0029】
本実施形態において、図5に繊維束の配向方向から見た断面図を示すように第一樹脂含浸繊維束26a,26bの両端側に第二樹脂含浸繊維束28a,28bの一部が重なるように配置して、ライナ16の外面に繊維束を巻き付けて繊維層を形成することが好ましい。これにより、両端側の繊維が樹脂の染み出しを押さえ、樹脂含有率の低下がより抑制される。
【0030】
繊維束の重なり幅は、段差をできるだけ小さくする等の点から、例えば、各繊維束の拡幅後の幅全体の10%〜30%程度の範囲とすればよい。各繊維束の拡幅後の幅が3〜4mm程度の場合、例えば、重なり幅を1mm程度とすればよい。
【0031】
本発明の実施形態に係る高圧タンクの製造装置の他の例の全体構成の概略を図6に示す。図6に示す高圧タンクの製造装置1は、第一樹脂含浸繊維束供給手段として、炭素繊維等の繊維束に未硬化のエポキシ樹脂等のマトリックス樹脂を予め含浸させた第一樹脂含浸繊維束40aをボビン等に巻き付けた第一プリプレグ36a、および繊維束に未硬化のマトリックス樹脂を予め含浸させた第一樹脂含浸繊維束40bをボビン等に巻き付けた第一プリプレグ36bと、第二樹脂含浸繊維束供給手段として、炭素繊維等の繊維束に未硬化のエポキシ樹脂等のマトリックス樹脂を予め含浸させた第二樹脂含浸繊維束42aをボビン等に巻き付けた第二プリプレグ38a、および繊維束に未硬化のマトリックス樹脂を予め含浸させた第二樹脂含浸繊維束42bをボビン等に巻き付けた第二プリプレグ38bと、を備える。なお、第一樹脂含浸繊維束40a,40bに含まれるマトリックス樹脂と、第二樹脂含浸繊維束42a,42bに含まれるマトリックス樹脂とは、同じものであっても、異なるものであってもよい。
【0032】
回転支持部12によってライナ16が回転され、第一プリプレグ36a,36bおよび第二プリプレグ38a,38bからそれぞれ繰り出された第一樹脂含浸繊維束40a,40bと第二樹脂含浸繊維束42a,42bとが、図4と同様に第一樹脂含浸繊維束40a,40bの両端側に第二樹脂含浸繊維束42a,42bが配置された繊維束44とされ、図2のような繊維ガイド部34で角度調整されて、ライナ16の外面に巻き付けられる。こうして、ライナ16の外面に繊維束44が所定の厚みおよび所定の方向で巻き付けられ繊維層が形成される(繊維層形成工程)。
【0033】
本実施形態では、第一樹脂含浸繊維束40a,40bをライナ16の外面に巻き付ける際の繊維の張力を、第二樹脂含浸繊維束42a,42bをライナ16の外面に巻き付ける際の繊維の張力よりも低くする。両端側と内側の繊維の張力に差をつけ、両端側の繊維を高張力、内側の繊維を低張力でライナ16に巻き付けることにより、両端側の繊維が樹脂の染み出しを抑制することができる。
【0034】
第一樹脂含浸繊維束40a,40bを巻き付ける際の繊維の張力は、第二樹脂含浸繊維束42a,42bを巻き付ける際の繊維の張力よりも低ければよく、特に制限はなない。両者の張力差は、例えば、50N〜150Nの範囲である。例えば、第一樹脂含浸繊維束40a,40bを巻き付ける際の繊維の張力を50N〜100Nの範囲として、第二樹脂含浸繊維束42a,42bを巻き付ける際の繊維の張力を150N〜200Nの範囲とすればよい。
【0035】
両端側と内側の繊維の張力に差をつける方法としては、特に制限はないが、例えば、給糸ガイド46にエンコーダ等を設定して、両端側と内側の繊維の張力に差をつければよい。
【0036】
本構成においても、図5と同様に第一樹脂含浸繊維束40a,40bの両端側に第二樹脂含浸繊維束42a,42bの一部が重なるように配置して、ライナ16の外面に繊維束を巻き付けて繊維層を形成することが好ましい。
【0037】
樹脂の染み出しを抑制する効果の点では、両端側と内側の繊維束に含浸した樹脂の硬化温度に差をつける構成の方が好ましく、コスト等の点からは、両端側と内側の繊維の張力に差をつける構成の方が好ましい。両端側と内側の繊維束に含浸した樹脂の硬化温度に差をつける構成と、両端側と内側の繊維の張力に差をつける構成とを組み合わせてもよい。
【0038】
高圧タンク14は、ライナ(内容器)16、補強層(外層)18を含んで構成されている。また、高圧タンク14は、ガス充填・放出口等を備えてもよい。
【0039】
ライナ16は、略円柱状等に形成されてなり、例えば高圧水素ガスなどの媒体をその内部に収容するためのものであり、水素ガス等のガスに直接接触する層である。ライナ16の形状、サイズ、厚みは使用目的、仕様等に応じたものを任意に選択することができる。ライナ16の厚みは、例えば、2mm〜4mmの範囲である。
【0040】
ライナ16は、樹脂材料、金属等を含んで構成される。ライナ16を構成する樹脂材料としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ABS樹脂、ポリスチレン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリイミド、フッ素樹脂等が挙げられ、熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂やポリウレタン等が挙げられる。ライナを構成する金属としては、アルミ合金等の金属が挙げられる。ライナの肉厚やライナを構成する材料の種類は、ライナ16に要求される強度、気密性、成形性等に応じて適宜選択することができる。これらのうち、強度や耐ガス透過性等の点からナイロン等のポリアミド樹脂が好ましい。
【0041】
樹脂材料から構成されるライナ16は、例えば、上記樹脂の射出成形により成形される。例えば、金型にポリアミド樹脂等の樹脂を流し込んで、略半円柱体を2つ成型し、それらをレーザ等により溶着して樹脂のライナ16が成形される。この射出成形により、厚みが略均一なライナ16が成形される。
【0042】
補強層18は、ライナ16の外側を覆うように設けられてライナ16を補強する層であり、例えば、繊維およびマトリックス樹脂を含んで構成される。補強層18を構成する繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、金属繊維等が挙げられる。
【0043】
また、補強層18を構成するマトリックス樹脂としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ABS樹脂、ポリスチレン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリイミド、フッ素樹脂等が挙げられ、熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂やポリウレタン等が挙げられる。これらのうち、強度、接着性、耐ガス透過性等の点からエポキシ樹脂が好ましい。
【0044】
補強層18は、例えば、繊維の繊維束にマトリックス樹脂溶液を含浸させた状態でライナ16の外面に巻き付けた後、樹脂を硬化させて形成することができる。
【0045】
補強層18の厚みは、巻き付ける繊維束32,44の層数等により調整することができ、例えば、20mm〜40mmの範囲である。繊維束32,44の層数は例えば、30層〜60層程度である。
【0046】
繊維束32,44は、例えば、上記繊維が10,000〜40,000本程度束ねられたものである。
【0047】
通常、繊維束32,44の巻き付け方向は、ライナ16の回転軸に対して略垂直方向、または斜め方向である。
【0048】
プリプレグ(第一プリプレグ22a,22b,36a,36b、第二プリプレグ24a,24b,38a,38b)は、例えば、炭素繊維等の繊維束に未硬化のエポキシ樹脂等のマトリックス樹脂を予め含浸させたものをボビン等に巻き付けたものであり、その形状、構成等に特に制限はない。
【0049】
用いるプリプレグは少なくとも3つである。用いるプリプレグが3つの場合は、内側に配置する繊維束用のプリプレグが1つ、両端側に配置する繊維束用のプリプレグが2つであり、用いるプリプレグが4つの場合は、内側に配置する繊維束用のプリプレグが2つ、両端側に配置する繊維束用のプリプレグが2つである。用いるプリプレグが6つの場合は、例えば、内側に配置する繊維束用のプリプレグが4つ、両端側に配置する繊維束用のプリプレグが2つであるが、目的の性能等に応じて適宜変更することができる。
【0050】
本実施形態に係る高圧タンク14は、例えば、移動体に搭載され、内部に高圧ガスを貯蔵する高圧タンクである。また、高圧タンク14は、据え置き型の高圧タンクであってもよい。
【0051】
ここで、移動体としては、二輪の車両、バスや乗用車等の四輪以上の自動車のほか、電車、船舶、航空機、ロボットなどが挙げられ、特に燃料電池車両である。高圧ガスとしては、水素ガスや圧縮天然ガスなどが挙げられる。
【0052】
本実施形態に係る高圧タンクの製造装置および高圧タンクの製造方法により得られる繊維束は、樹脂溶液を含浸させて硬化した繊維強化プラスチック材(FRP材)等として、各種素材の強化材等に用いることができる。例えば、炭素繊維の場合、炭素繊維の繊維束にエポキシ樹脂等の樹脂溶液を含浸させた炭素繊維強化プラスチック材(CFRP材)として、高圧タンク、自動車用シャフト、航空機の胴体、部品等の補強材として用いることができる。
【符号の説明】
【0053】
1 高圧タンクの製造装置、10 繊維巻き付け装置、12 回転支持部、14 高圧タンク、16 ライナ(内容器)、18 補強層(外層)、20 シャフト、22a,22b,36a,36b 第一プリプレグ、24a,24b,38a,38b 第二プリプレグ、26a,26b,40a,40b 第一樹脂含浸繊維束、28a,28b,42a,42b 第二樹脂含浸繊維束、30 拡幅ローラ、32,44 繊維束、34 繊維ガイド部、46 給糸ガイド。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ライナと前記ライナの外面に繊維を巻き付けた繊維層を含んで構成された補強層とを有する高圧タンクを製造する高圧タンクの製造方法であって、
繊維束にマトリックス樹脂を含浸させた少なくとも1つの第一樹脂含浸繊維束と、繊維束にマトリックス樹脂を含浸させた少なくとも2つの第二樹脂含浸繊維束とを同時に用いて、前記第一樹脂含浸繊維束の両端側に前記第二樹脂含浸繊維束を配置してライナの外面に繊維束を巻き付けて繊維層を形成する繊維層形成工程と、
前記マトリックス樹脂を硬化させる硬化工程と、
を含み、
前記繊維層形成工程において、
(1)前記第一樹脂含浸繊維束に含まれるマトリックス樹脂の硬化温度を、前記第二樹脂含浸繊維束に含まれるマトリックス樹脂の硬化温度よりも高くする方法、および、
(2)前記第一樹脂含浸繊維束を前記ライナの外面に巻き付ける際の繊維の張力を、前記第二樹脂含浸繊維束を前記ライナの外面に巻き付ける際の繊維の張力よりも低くする方法、
のうちの少なくとも1つを用いることを特徴とする高圧タンクの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の高圧タンクの製造方法であって、
前記第一樹脂含浸繊維束の両端側に前記第二樹脂含浸繊維束の一部が重なるように配置して前記ライナの外面に繊維束を巻き付けて繊維層を形成することを特徴とする高圧タンクの製造方法。
【請求項3】
ライナと前記ライナの外面に繊維を巻き付けた繊維層を含んで構成された補強層とを有する高圧タンクを製造する高圧タンクの製造装置であって、
繊維束にマトリックス樹脂を含浸させた第一樹脂含浸繊維束を供給する少なくとも1つの第一樹脂含浸繊維束供給手段と、
繊維束にマトリックス樹脂を含浸させた第二樹脂含浸繊維束を供給する少なくとも2つの第二樹脂含浸繊維束供給手段と、
前記第一樹脂含浸繊維束を前記ライナの外面に巻き付ける際の繊維の張力、および前記第二樹脂含浸繊維束を前記ライナの外面に巻き付ける際の繊維の張力を制御する張力制御手段と、
を有することを特徴とする高圧タンクの製造装置。
【請求項4】
請求項3に記載の高圧タンクの製造装置であって、
前記第一樹脂含浸繊維束に含まれるマトリックス樹脂の硬化温度が、前記第二樹脂含浸繊維束に含まれるマトリックス樹脂の硬化温度よりも高いことを特徴とする高圧タンクの製造装置。
【請求項5】
ライナと、
繊維束とマトリックス樹脂とを含む少なくとも1つの第一樹脂含浸繊維束の両端側に、繊維束とマトリックス樹脂とを含む少なくとも1つの第二樹脂含浸繊維束が配置されるように前記ライナの外面に巻き付けられた繊維層を含んで構成された補強層と、
を有し、
前記第一樹脂含浸繊維束に含まれるマトリックス樹脂の硬化温度が、前記第二樹脂含浸繊維束に含まれるマトリックス樹脂の硬化温度よりも高いことを特徴とする高圧タンク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−236974(P2011−236974A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−109132(P2010−109132)
【出願日】平成22年5月11日(2010.5.11)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】